JP5469274B1 - 表面改質処理方法及び表面改質処理装置 - Google Patents

表面改質処理方法及び表面改質処理装置 Download PDF

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Abstract

【課題】浸炭炉に用いられる浸炭炉用部材を構成する鉄合金母材に、低いコストで耐浸炭性を付与することができる表面改質処理方法、表面改質処理装置及び浸炭炉用部材を提供する。
【解決手段】ニッケルを含有する鉄合金母材1を溶融アルミニウムめっきして、その鉄合金母材1にアルミニウムめっき膜2を形成するアルミナイズ工程と、アルミニウムめっき膜2を加熱溶融させ、溶融したアルミニウムめっき膜2の余剰部を除去する余剰アルミニウム除去工程と、アルミニウムめっき膜2の余剰部が除去された鉄合金母材1を余剰アルミニウム除去工程での加熱温度よりも高い温度で加熱して、鉄合金母材1の構成元素とアルミニウムめっき膜2に含まれるアルミニウムとを相互に拡散させて拡散層3を形成する拡散層形成工程とを有する表面改質処理方法によって上記課題を解決する。
【選択図】図1

Description

本発明は、拡散浸透による表面改質処理方法、表面改質処理装置及び浸炭炉用部材に関する。さらに詳しくは、浸炭処理する際に用いるトレイやグリッド等の部材、又は浸炭炉に用いる部材等(以下、浸炭炉用部材ともいう。)を構成する鉄合金母材の耐浸炭性を改善することができる表面改質処理方法、表面改質処理装置及び浸炭炉用部材に関する。
金属の表面硬化処理の一つとして浸炭処理が知られている。浸炭処理は、高温下で、浸炭剤から生成した一酸化炭素(CO)ガスと鋼材とを接触させることによって、鋼材に炭素を侵入、拡散させて表面層(浸炭層)を形成する処理である。特に、炭素含有量の少ない低炭素鋼等の鋼材は、浸炭処理を施した後に焼入れと焼戻しを行なうと表面層だけが硬化する。その結果、得られた製品は、耐摩耗性のある表面層と靱性に富む心部とで構成されている。こうした浸炭処理は、低炭素鋼及びその他の鋼材に適用することができ、鋼材の表面を硬くして耐摩耗性を高めるための処理として広い分野で用いられている。
浸炭処理は、浸炭剤の種類により、ガス浸炭法、液体浸炭法、固体浸炭法に大別される。このうち、ガス浸炭法は、一般的に多く行なわれており、例えばアセチレン、プロパン等の炭化水素ガスと空気との混合ガスを、ニッケル触媒中で加熱して浸炭性ガス(一酸化炭素と水素と窒素とを主体とする変成ガス)を生成し、この浸炭性ガスを浸炭炉内に供給し、鋼材と反応させることによって浸炭層を形成する方法である。
また、浸炭層には、より高く安定な耐摩耗性を有することが求められている。このような要求に応える浸炭処理として、真空浸炭法が多く行われている。真空浸炭法は、減圧状態に保持された浸炭炉内に、プロパンやアセチレン等の炭化水素ガスを供給し、鋼材と反応させることによって浸炭層を形成する方法である。この真空浸炭法は、処理条件が安定しており、比較的厚い浸炭層を形成することができる。
浸炭処理では、被処理材である鋼材を載せるためのトレイやグリッド等の部材(浸炭炉用部材)が用いられている。こうした浸炭炉用部材は、800〜1000℃の浸炭炉内で浸炭性ガスに長時間晒される。また、浸炭炉用部材は、繰り返し使用されるので、高温下で浸炭性ガスに繰り返し晒される。さらに、浸炭炉は、一般に加熱、冷却が繰り返し行われるので、浸炭炉用部材は、こうした極めて厳しい温度環境におかれている。
このため、浸炭炉用部材には、一般に、高温強度や耐高温酸化性に優れるオーステナイト系ステンレス鋼又は耐熱鋳鋼が使用されている。しかし、浸炭炉用部材は、これらの鋼材で構成したとしても、浸炭処理が繰り返されることにより割れや変形等を起こし易く、寿命が短い。
浸炭炉用部材の割れや変形等は、主に二つの原因によって発生する。一つ目の原因は、浸炭処理が繰り返し行われることによって、クロムカーバイド又はセメンタイトを含む硬くて脆い浸炭層が、浸炭炉用部材を構成する鋼材に厚く形成されることである。厚い浸炭層が形成された浸炭炉用部材は、加熱、冷却に伴う、膨脹、収縮の応力によって容易にクラックが発生する。クラックが発生した浸炭炉用部材は、最終的には破断して使用できなくなることがある。
二つ目の原因は、浸炭処理がさらに繰り返されることによって、浸炭炉用部材に厚く形成された浸炭層の全体に亘ってクロムカーバイド又はセメンタイトが成長し、浸炭層の体積が膨脹することである。浸炭炉用部材は、浸炭層の体積が膨張することによって全体形状が変形する。そして、著しく変形した浸炭炉用部材は、使用できなくなることがあり、その変形を矯正しようとすると浸炭層が脆化しているために破断してしまうことがある。
また、浸炭炉には、ラジアントチューブ、炉内ファン等の部材が用いられる。これらの部材も、前述したような高温の浸炭性ガスに繰り返し晒され、さらに加熱、冷却が繰り返し行われる厳しい温度環境におかれるため、同様の原因によって割れや変形等を起こし易い。このため、浸炭炉では、部材の交換にかかるメンテナンスコストが増大したり、部材の割れ等によるトラブルによって浸炭処理した製品の生産効率が低下したりすることが問題になっている。
こうした問題に対し、特許文献1では、高温強度と耐食性に優れ、浸炭、酸化が繰り返される熱分解環境下においても優れた耐浸炭性と耐コーキング性を有する耐熱合金が提案されている。具体的には、C:0.10%以下、Si:1.0%を超えて5.0%まで、Mn:0.2%以下、Cr:5%を超えて18%まで、Al:4.5〜12%を含有し、さらに、B:0.001〜0.03%、Zr:0.01〜0.3%、Hf:0.05〜1.0%、Ti:0.05〜1.0%およびMg:0.001〜0.02%の1種以上を含み、残部はNiまたはNiと5%以下のFeおよび不可避的不純物から成る耐熱合金が提案されている。
また、特許文献2には、熱衝撃の厳しい環境下にあるガス浸炭炉に長期間安定して用いうる部材乃至治具を提供することを目的としたカロライジング処理が提案されている。このカロライジング処理は、アルミニウム濃度10〜60重量%の鉄アルミニウム合金粉若しくはアルミニウム粉5〜95重量%とアルミナ粉5〜95重量%及び浸透促進剤たる塩化アンモニウム粉0.1〜2重量%を混合してなる浸透剤と被処理物を半密閉容器内に充填し、容器内をアルゴン、窒素、水素等の不活性ガスあるいは還元性ガス雰囲気に維持したまま、加熱炉内にて600〜1100℃の温度に5〜20時間加熱保持することによって行われる。このカロライジング処理は、カロライジング処理を受けた部材又は治具は耐浸炭性が向上し、厳しい環境下にあるガス浸炭炉に長期間用いても殆ど浸炭することなく安定であり、その寿命を著しく延長することができるというものである。
特開平5−033092号公報 特開平10−168555号公報
しかしながら、特許文献1に記載のニッケル基耐熱合金は、そのほとんどが高価なニッケルによって構成されているため、これをトレイやグリッド等の浸炭炉用部材の材料として用いると、浸炭炉用部材自体が高価になってしまう。また、このニッケル基耐熱合金は、構成元素の組成比が前述の範囲内に制限されるため、浸炭炉用部材の特性を自由に制御することが難しいという問題もある。
また、特許文献2に記載のカロライジング処理は、処理に用いる浸透剤が極めて高価であり、また、加熱炉も、粉末状の浸透剤を保持するための容器等、特殊な構成を備えた密閉式にする必要があるために高価になってしまう。このため、カロライジング処理を用いてアルミニウム拡散浸透層を形成する方法は、浸炭処理用部材の製造コストを著しく増大させてしまう。
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、浸炭炉に用いる浸炭炉用部材を構成する鉄合金母材に、低いコストで優れた耐浸炭性を付与することができる表面改質処理方法、表面改質処理装置及び浸炭炉用部材を提供することにある。
上記課題を解決するための本発明に係る表面改質処理方法は、ニッケルを含有する鉄合金母材を溶融アルミニウムめっきして、該鉄合金母材にアルミニウムめっき膜を形成するアルミナイズ工程と、前記アルミニウムめっき膜を加熱溶融させ、溶融したアルミニウムめっき膜の余剰部を除去する余剰アルミニウム除去工程と、前記アルミニウムめっき膜の余剰部が除去された前記鉄合金母材を前記余剰アルミニウム除去工程での加熱温度よりも高い温度で加熱して、前記鉄合金母材の構成元素と前記アルミニウムめっき膜に含まれるアルミニウムとを相互に拡散させて拡散層を形成する拡散層形成工程と、を有することを特徴とする。
この発明によれば、ニッケルを含有する鉄合金母材にアルミナイズ工程、余剰アルミニウム除去工程及び拡散層形成工程を順次行うので、鉄合金母材の表面付近に、鉄合金母材の構成元素とアルミニウムめっき膜に含まれるアルミニウムとが相互に拡散浸透した拡散層が形成される。拡散層が形成された鉄合金母材(以下「処理済み材」ともいう。)は、浸炭性ガスに晒されたとき、拡散層が炭素を効率よく吸収する。したがって、拡散層が、それよりも深部にある鉄合金母材へ炭素が浸透することを抑制する遮蔽層として機能する。この表面改質処理方法によって表面改質処理が行われた処理済み材は、浸炭性ガスに長期間晒されたり、浸炭性ガスに繰り返し晒されたりしても、優れた耐浸炭性を得ることができる。また、この表面改質処理方法は、溶融アルミニウムめっき(アルミナイズ工程)と、余剰アルミニウム除去工程及び拡散層形成工程で行う加熱(2段階の加熱)とによって鉄合金母材に拡散層を形成するので、高価な浸透剤や特殊な加熱炉が不要である。したがって、この表面改質処理方法は、鉄合金母材に、低いコストで耐浸炭性を付与することができる。
本発明に係る表面改質処理方法において、前記鉄合金母材が、オーステナイト系ステンレス鋼、オーステナイト系ステンレス鋳鋼及び耐熱鋳鋼から選ばれる鋼で構成されていることが好ましい。
この発明によれば、高温強度及び耐高温酸化性の高い鉄合金母材を、耐浸炭性に優れた鉄合金母材にすることができる。
本発明に係る表面改質処理方法において、前記拡散層形成工程で形成する拡散層の厚さが30μm以上150μm以下であることが好ましい。
この発明によれば、拡散層の厚さが上記範囲内であるので、より優れた耐浸炭性を鉄合金母材に付与することができる。
上記課題を解決するための本発明に係る表面改質処理装置は、ニッケルを含有する鉄合金母材を溶融アルミニウムめっきして、該鉄合金母材にアルミニウムめっき膜を形成する溶融アルミニウムめっき槽と、前記アルミニウムめっき膜を加熱溶融させ、溶融したアルミニウムめっき膜の余剰部を除去する第1加熱手段と、前記アルミニウムめっき膜の余剰部が除去された前記鉄合金母材を前記第1加熱手段の加熱温度よりも高い温度で加熱して、前記鉄合金母材の構成元素と前記アルミニウムめっき膜に含まれるアルミニウムとを相互に拡散させて拡散層を形成する第2加熱手段とを有することを特徴とする。
この発明によれば、溶融アルミニウムめっき槽、第1加熱手段及び第2加熱手段を有するので、鉄合金母材の表面付近に、鉄合金母材の構成元素とアルミニウムめっき膜に含まれるアルミニウムとが相互に拡散浸透した拡散層が形成される。拡散層が形成された処理済み材は、上記した表面改質処理方法で拡散層が形成された処理済み材と同様の作用を奏し、この表面改質処理装置は、上記表面改質処理方法と同様の作用を奏する。
上記課題を解決するための本発明に係る浸炭炉用部材は、本発明に係る表面改質処理方法によって表面改質処理が施されていることを特徴とする。
この発明によれば、浸炭炉用部材は上記本発明に係る表面改質処理方法によって表面改質処理が施されているので、優れた耐浸炭性を有する。このため、この浸炭炉用部材は、浸炭性ガスに長期間晒されたり、浸炭性ガスに繰り返し晒されたりしても、割れや変形等が生じ難く、長期間使用することができる。また、適用される表面改質処理方法は、低いコストで耐浸炭性を付与することができるので、この浸炭炉用部材は、従来の表面改質処理方法によって表面改質処理が行われた浸炭炉用部材に比べて、その製造コストを大幅に削減することができる。
本発明に係る表面改質処理方法及び表面改質処理装置によれば、浸炭炉に用いる浸炭炉用部材(トレイやグリッド等の部材)を構成する鉄合金母材に、低いコストで優れた耐浸炭性を付与することができる。
また、本発明に係る浸炭炉用部材によれば、優れた耐浸炭性を有するため、浸炭性ガスに長期間晒されたり、浸炭性ガスに繰り返し晒されたりしても、割れや変形等を生じ難く、長期間使用することができる。これにより、浸炭炉用部材の割れ等によって浸炭炉にトラブルが発生することを回避することができ、また浸炭炉のメンテナンスコストを削減することができる。
本発明に係る表面改質処理方法の各工程で処理された鉄合金母材を示す模式的な縦断面図である。 本発明に係る表面改質処理方法によって形成された拡散層に含まれる化合物の結晶構造を示し、(a)はL1型(Fe、Ni)Al化合物の結晶構造を示す模式図であり、(b)はL1型化合物に炭素が侵入したE2型(Fe、Ni)AlC化合物の結晶構造を示す模式図である。 本発明に係る表面改質処理方法で処理された処理済み材の一例を示す模式的な縦断面図である。 余剰アルミニウム除去工程を800℃で10分間行った後に、700〜1100℃の範囲内で加熱したときの加熱時間と拡散層の厚さの関係を示すグラフである。 本発明に係る表面改質処理装置の一例を示す模式図である。 本発明に係る浸炭炉用部材を適用した浸炭装置の一例を示す模式図である。 図6に示す浸炭装置に適用した浸炭炉用部材を示す斜視図である。 (a)は真空浸炭処理に供する前の実施例1のグリッドの切断面を500倍の倍率で観察した金属組織写真であり、(b)は真空浸炭処理に供した後の実施例1のグリッドの切断面を500倍の倍率で観察した金属組織写真である。 真空浸炭処理に供した後の実施例1のグリッドの切断面を2000倍の倍率で観察した金属組織のSEM写真である。 真空浸炭処理に供する前の実施例3及び実施例4のグリッドの切断面を500倍の倍率で観察した金属組織のSEM写真である。
以下、本発明に係る表面改質処理方法、表面改質装置及び浸炭炉用部材について、図面を参照しつつ説明する。なお、本発明は、下記の実施形態に限定されるものではない。
<表面改質処理方法>
本発明に係る表面改質処理方法は、アルミナイズ工程と、余剰アルミニウム除去工程と、拡散層形成工程とを有する。詳しくは、ニッケルを含有する鉄合金母材1を溶融アルミニウムめっきして、その鉄合金母材1にアルミニウムめっき膜2を形成するアルミナイズ工程と、アルミニウムめっき膜2を加熱溶融させ、溶融したアルミニウムめっき膜2の余剰部を除去する余剰アルミニウム除去工程と、アルミニウムめっき膜2の余剰部が除去された鉄合金母材1を余剰アルミニウム除去工程での加熱温度よりも高い温度で加熱して、鉄合金母材1の構成元素とアルミニウムめっき膜2に含まれるアルミニウムとを相互に拡散させて拡散層3を形成する拡散層形成工程とを有する。
この表面改質処理方法は、前記した各工程を順次行うことによって鉄合金母材1に拡散層3を形成して耐浸炭性を付与する。この表面改質処理方法を浸炭炉用部材の製造工程で行った場合には、耐浸炭性に優れた浸炭炉用部材を製造することができる。この場合、この表面改質処理方法は、言い換えれば耐浸炭性に優れた浸炭炉用部材の製造方法ということができる。
以下、各工程について詳しく説明する。なお、以下の説明では、この表面改質処理方法を行う前の鉄合金母材1を「被処理材」、この表面改質処理方法を行った後の鉄合金母材(拡散層3が形成された鉄合金母材1)を「処理済み材4」ということがある。
(鉄合金母材)
鉄合金母材1は、本発明に係る表面改質処理方法の被処理材として用いられるものであり、ニッケルを含有する鉄合金母材1である。鉄合金母材1を構成する鉄合金としては、具体的には、オーステナイト系ステンレス鋼、オーステナイト系ステンレス鋳鋼、耐熱鋳鋼等のニッケルを含有する鋼材を挙げることができる。これらの鋼材は、高温強度及び耐高温酸化性に優れる。さらに、これらの鋼材は、後工程で行う拡散層形成工程で、L1型の(Fe、Ni)Al化合物を含有する拡散層3が形成され、優れた耐浸炭性を得ることができる。鉄合金母材1に耐浸炭性が付与される作用機構は、後に詳述する。
鉄合金母材1中の鉄含有量は、1原子%以上、80原子%以下であることが好ましく、20原子%以上、80原子%以下であることがより好ましい。鉄含有量をこの範囲内にすることにより、鉄合金母材1の強度を確保でき、鉄合金母材1の脆化を抑えることができる。
鉄合金母材1中のニッケル含有量は、2原子%以上、65原子%以下であることが好ましい。ニッケル含有量をこの範囲内にすることにより、鉄合金母材1の耐浸炭性が十分に改善され、鉄合金母材1を用いる製品の製造コストが過度に増大することを抑えることができる。
鉄合金母材1は、クロムを含有することが好ましい。鉄合金母材1がクロムを含有する場合、クロム含有量は、13原子%以上、54原子%以下であることが好ましい。クロム含有量をこの範囲内にすることにより、鉄合金母材1の防錆性が改善され、鉄合金母材1の脆化を抑えることができる。
なお、鉄合金母材1は、上記以外の元素も必要に応じて含んでいてもよいし、一般的な鋼材に含まれている不可避不純物を含んでいてもよい。
鉄合金母材1は、その表面に付着した汚れや酸化被膜等を除去する前処理が行われていることが好ましい。前処理としては、めっきの前処理として通常行われる処理、例えばショットブラスト処理、脱脂、酸洗い、水洗、湯洗等を挙げることができる。
ショットブラスト処理は、圧縮空気等を用いてショット材を鉄合金母材1の表面に叩きつけて酸化物等のスケールを除去する方法である。処理後の鉄合金母材1は、その表面が均質になるとともに、表面が清浄な状態になる。こうしたショットブラスト処理は、鉄合金母材1の表面に凹凸を形成して表面積を増大させることができ、その結果、次工程で行うアルミナイズ工程において、アルミニウムめっき膜2を容易に形成することができる。ショット材としては、例えば、切削性のある砂、セラミック粒子、粉砕ガラス粒子等を挙げることができる。
脱脂は、界面活性剤を含有するアルカリ性溶液に鉄合金母材1を浸漬して、鉄合金母材1の表面に付着した油分を浮かせて除去する処理である。アルカリ性溶液としては、水酸化ナトリウム溶液等を挙げることができる。
酸洗いは、酸性溶液を用いて鉄合金母材1を洗浄して、鉄合金母材1の表面に生成した酸化被膜や水酸化被膜を除去する処理である。酸性溶液としては、硫酸溶液、塩酸溶液、硝酸溶液等の無機酸溶液、又はこれら無機酸溶液を2種類以上混合した混酸溶液等を挙げることができる。
これらの前処理を行う場合、一般的には、ショットブラスト処理、脱脂及び酸洗いを、各処理の間に水洗を挟んで順次行い、その後、水洗及び湯洗を行う。
(アルミナイズ工程)
アルミナイズ工程は、ニッケルを含有する鉄合金母材1を溶融アルミニウムめっきして、図1(a)に示すように、該鉄合金母材1にアルミニウムめっき膜2を形成する工程である。鉄合金母材1に溶融アルミニウムめっきする方法は、鉄合金母材1に溶融アルミニウムを接触させればよい。接触手段は、特に限定されず、鉄合金母材1を溶融アルミニウムに浸漬する浸漬方法であってもよいし、鉄合金母材1に溶融アルミニウムを吹き付ける吹付方法であってもよい。
溶融アルミニウムは、アルミニウム又はアルミニウム合金を加熱溶融させた溶融液である。アルミニウム合金は、アルミニウムを80質量%以上含有するアルミニウム合金であることが好ましく、具体的にはAl−Si系合金、Al−Si−Mg系合金、Al−Si−Be系合金、Al−Si−Mg−Be系合金、Al−Si−Mn系合金及びAl−Si−Mg−Mn系合金等から選ばれる1種又は2種以上を組み合わせた複合物等を挙げることができる。
溶融アルミニウムの温度は、使用するアルミニウム又はその合金によっても異なるが、通常、その融点よりも若干高い温度に設定される。具体的には、溶融アルミニウムの温度は、650℃以上、750℃以下であることが好ましい。溶融アルミニウムの温度を650℃以上にすることにより、鉄合金母材1の表面に、溶融アルミニウムを十分に濡れ広がらせて、均一なアルミニウムめっき膜2を形成することができる。また、溶融アルミニウムの温度を750℃以下にすることにより、ドロスの発生をより抑えることができ、さらに鉄合金母材1がクロムを含むステンレス鋼である場合には、クロム炭化物が粗大化して鉄合金母材1の耐食性や靱性等が低下するのをより抑えることができる。
浸漬方法によってアルミニウムめっき膜2を形成する場合、鉄合金母材1の浸漬時間は、鉄合金母材1の表面が高温になって活性化し、溶融アルミニウムの温度に到達するまでの時間以上であることが必要である。浸漬時間は、鉄合金母材1の質量によって異なるが、通常、2秒以上、1200秒以下である。浸漬時間をこの範囲内にすることにより、鉄合金母材1に溶融アルミニウムを十分に付着させることができる。
溶融アルミニウムに浸漬した鉄合金母材1は、溶融アルミニウムから取り出した後に例えば空冷や湯洗を行い、乾燥させる。これにより、鉄合金母材1に付着した溶融アルミニウムが固化し、アルミニウムめっき膜2が形成される。形成されたアルミニウムめっき膜2の厚さtは、後工程で行う拡散層形成工程で十分な厚さとアルミニウム濃度とを有した拡散層3を形成する点から50μm以上、200μm以下であることが好ましい。
アルミナイズ工程では、フラックスを使用してもよい。フラックスの使用は、鉄合金母材1の表面に付着した酸化膜の除去や、鉄合金母材1の酸化の抑制に有利である。フラックスは、溶融アルミニウムと同じ槽に貯留させ、フラックスの層と溶融アルミニウムの層との2層を形成する1浴法を用いてもよいし、フラックス溶融アルミニウム別々のに貯留する2浴法を用いてもよい。なお、フラックスは、鉄合金母材1を1浴又は2浴に浸漬した後、酸溶液等で洗浄して除去される。
フラックスとしては、塩化カリウム、塩化ナトリウム、塩化リチウム、塩化亜鉛、塩化カルシウム、フッ化ナトリウム及びフッ化アルミニウム等から選ばれる1種又は2種以上を含有する溶液等を挙げることができる。
(余剰アルミニウム除去工程)
余剰アルミニウム除去工程は、アルミニウムめっき膜2を加熱溶融させ、図1(b)に示すように、アルミニウムめっき膜2の余剰部を除去する工程である。
鉄合金母材1に形成されたアルミニウムめっき膜2を加熱すると、アルミニウムめっき膜2が溶融し、溶融したアルミニウムめっき膜2の余剰部が流れ落ちて除去される。余剰部が除去されて残った溶融アルミニウムめっき膜は、濡れ広がって均一な厚さとなる。これにより、鉄合金母材1の外形から大きくはみ出た余分なアルミニウムめっき膜2が除去され、最終的に、鉄合金母材1の外形形状と同様の外形形状を有する処理済み材4を得ることができる。例えば、鉄合金母材1が、格子状やメッシュ状やその他の複雑な形状である場合、アルミナイズ工程が行われたままだと、アルミニウムめっき膜が孔を塞いだり、複雑な形状を覆ったり、コーナー部が厚くなったりして、製品になったときに所定の機能が得られないことがある。これに対して、アルミナイズ工程の後に余剰アルミニウム除去工程を行うことにより、こうした不都合を回避することができる。
余剰アルミニウム除去工程を行った後のアルミニウムめっき膜2の厚さtは、50μm以上、100μm以下であることが好ましい。アルミニウムめっき膜2の厚さtをこの範囲内にすることにより、次工程で行う拡散層形成工程で、拡散層3を十分な厚さで形成することができ、さらにアルミニウムめっき膜2が製品の外形形状に大きく影響して製品の機能を損なうことを回避することができる。
「余剰」のアルミニウムとは、アルミニウムめっき膜2の厚さが上記範囲内を超える部分のアルミニウムの意味であり、こうした余剰のアルミニウムが設けられている「余剰部」は、孔、複雑な形状部、コーナー部等で生じ易い。この余剰アルミニウム除去工程では、こうした余剰部での余剰のアルミニウムを除去して、全域でのアルミニウムめっき膜の厚さを上記した好ましい範囲内にすることが望ましい。
余剰アルミニウム除去工程での加熱温度は、アルミニウムめっき膜2の溶融温度以上であることが必要である。この余剰アルミニウム除去工程での加熱温度は、使用するアルミニウム又はその合金によっても異なるが、通常、アルミニウムめっき膜2が溶融し、後述する吹き飛ばし等の除去手段で除去できる程度の温度に設定される。具体的には、余剰アルミニウム除去工程での加熱温度は、600℃以上、800℃以下であることが好ましい。加熱温度をこの範囲内にすることにより、余分なアルミニウムめっき膜2を十分に除去することができ、さらにアルミニウムめっき膜2の溶融が過度に進行することが抑えられ、アルミニウムめっき膜2の厚さを精度よく制御することができる。
余剰アルミニウム除去工程での加熱時間は、加熱温度やアルミニウムめっき膜2の組成によっても異なり、任意に設定することができる。例えば、この加熱時間は、60秒以上、900秒以下であることが好ましい。加熱時間を60秒以上にすることにより、余分なアルミニウムめっき膜2を十分に除去することができる。また、加熱時間を900秒以下とすることにより、この工程で、鉄合金母材1の構成元素(ニッケルや鉄等)とアルミニウムめっき膜2に含まれるアルミニウムとの拡散が進行し過ぎることを抑えることができ、次工程で行う拡散層形成工程で、設定した厚さ及び組成、又は、これに近い厚さ及び組成を有する拡散層3を確実に形成することができる。
余剰アルミニウム除去工程は、種々の手段でアルミニウムめっき膜2を溶融した状態にした上で、余剰のアルミニウムを除去する。この溶融した状態の余剰アルミニウムの除去は、大気中で行ってもよいし、不活性ガス雰囲気で行ってもよい。不活性ガス雰囲気で余剰アルミニウム除去工程を行った場合には、アルミニウムめっき膜2や鉄合金母材1の酸化を抑えることができ、品質の高い処理済み材4を得ることができる。不活性ガスとしては、アルゴンガス、ヘリウムガス又はこれらの混合ガス等を挙げることができる。
余剰部の除去手段は、上記した加熱温度と加熱時間の範囲内で、空気や不活性ガスを吹き付けることにより行ってもよい。空気や不活性ガスを吹き付けることにより、溶融したアルミニウムのうち余剰のアルミニウムを容易に除去することができる。吹き付けの際の噴射圧等は、鉄合金母材の外形形状、加熱温度、加熱時間等の各種の要因に影響されるが、それらを考慮して任意に選択される。こうした除余手段により、アルミニウムめっき膜が孔を塞いだり、複雑な形状を覆ったり、コーナー部が厚くなったりした状態を無くして、所定の機能を有する製品にすることができる。
(拡散層形成工程)
拡散層形成工程は、アルミニウムめっき膜2の余剰部が除去された鉄合金母材1を、余剰アルミニウム除去工程での加熱温度よりも高い温度で加熱し、図1(c)に示すように、鉄合金母材1の構成元素とアルミニウムめっき膜2に含まれるアルミニウムとを相互に拡散させて拡散層3を形成する工程である。
アルミニウムめっき膜2の余剰部が除去された鉄合金母材1、すなわちアルミニウムめっき膜2が適度な厚さで形成された鉄合金母材1を加熱すると、鉄合金母材1の構成元素とアルミニウムめっき膜2に含まれるアルミニウムとが相互に拡散浸透する。この拡散浸透により、鉄合金母材1とアルミニウムめっき膜2との境界に、鉄合金母材1の構成元素とアルミニウムとを含む拡散層3が形成される。形成された拡散層3は、最終的に得られる処理済み材4が浸炭処理で用いられる浸炭性ガスに晒されたとき、炭素を効率よく吸収することができる。したがって、この拡散層3は、その拡散層3よりも深部にある鉄合金母材1に炭素が浸透することを抑制する遮蔽層として機能する。これは、以下の機構によるものと考えられる。
すなわち、形成された拡散層は、図2(a)に示すように、鉄合金母材に由来する鉄元素及びニッケル元素(符号11)と、アルミニウム元素12とが規則的に配列したL1型(Fe、Ni)Al化合物を含有する。このような拡散層3が形成された処理済み材4は、浸炭性ガスに晒されたとき、図2(b)に示すように、拡散層3に含まれるL1型化合物の中心に炭素13が侵入し、この化合物がE2型(Fe、Ni)AlC化合物に変態する。これにより、拡散層3は、炭素を効率よく吸収するものと考えられる。
したがって、この表面改質処理方法によって表面改質処理が行われた処理済み材4は、浸炭性ガスに長期間晒されても、鉄合金母材1でのクロムカーバイドやセメンタイトの生成が抑えられる。その結果、これらの生成に起因する割れや変形等が抑えられ、優れた耐浸炭性を得ることができる。
拡散層3は、鉄合金母材1の構成元素である鉄元素やニッケル元素とアルミニウム元素との組成比が均一な単一相によって構成されていてもよいし、図3に示すように、各元素の組成比が異なる複数の相3a、3bによって構成されていてもよい。なお、図3に示す拡散層3は、鉄合金母材1側に、ニッケル組成比よりも鉄組成比が大きい第1の合金相3aが偏在し、アルミニウムめっき膜2側には、鉄組成比よりもニッケル組成比が大きい第2の合金相3bが偏在している。また、第1の合金相3a及び第2の合金相3bは、それぞれ他方の相3b、3aが入り込むようにして散在している。
拡散層3の最表面でのアルミニウム濃度は、20原子%以上、50原子%以下であることが好ましい。最表面でのアルミニウム濃度が20原子%以上の拡散層3は、L1型化合物を十分に含有しており、処理済み材4に優れた耐浸炭性を付与することができる。また、拡散層3のアルミニウム濃度を50原子%以下にすることにより、この処理済み材4を浸炭炉用部材として使用したとき、過剰に存在するアルミニウムが蒸散し、浸炭処理された浸炭炉用部材の特性に悪影響を及ぼすことを回避することができる。
拡散層3の厚さは、30μm以上、150μm以下の範囲内であり、40μm以上、144μm以下であることが好ましい。拡散層3の厚さをこの範囲内にすることにより、処理済み材4が浸炭性ガスに晒されたとき、拡散層3が浸炭性ガス由来の炭素を効率よく吸収し、優れた耐浸炭性を得ることができる。また、150μmを超える拡散層3は、この拡散層3が形成された処理済み品を浸炭炉用部材として使用したときに、拡散層3が浸炭雰囲気中の炭素を過度に吸ってしまい、被浸炭処理品の各部で浸炭の程度が不均一になることがある。
拡散層3のアルミニウム濃度及び厚さは、余剰アルミニウム除去工程及び拡散層形成工程での加熱温度及び加熱時間を変えることによって、調整することができる。また、その後に必要に応じて施される後述のブラスト処理による処理時間を変えることによっても調整することができる。
次に、拡散層形成工程での加熱温度及び加熱時間について、実験結果に基づいて説明する。図4に、余剰アルミニウム除去工程での加熱を800℃で10分間行った後に、700℃〜1100℃の範囲内で加熱した場合の加熱時間と拡散層3の厚さとの関係を示す。
図4で示されるように、加熱温度が700℃(曲線a)又は800℃(曲線b)の場合、拡散層3は形成されるものの30μm以上の厚さの拡散層3を形成することはできなかった。これに対して、加熱温度を1000℃(曲線c)にすると、10時間加熱することによって約30μmの拡散層3を形成することができた。さらに、加熱温度を1100℃(曲線d)にすると、拡散層3の形成効率が急激に上がり、2時間程度で約35μmの拡散層を形成することができた。このことから、拡散層形成工程での加熱温度は、1000℃以上が好ましく、1100℃以上がより好ましいことがわかった。ただし、1200℃を超える加熱は、耐熱性の極めて高い加熱設備が必要になる等、実用的ではない。したがって、拡散層形成工程での加熱温度は、1000℃以上、1200℃以下であることが好ましい。
拡散層形成工程での加熱時間は、必要な拡散層3の厚さや加熱温度によっても異なるが、例えば、加熱温度が1000℃以上、1200℃以下である場合には、およそ1時間以上、10時間以下であることが好ましい。これにより、実用的な加熱時間の範囲内で、十分な厚さの拡散層3を形成することができる。
拡散層形成工程は、大気中で行ってもよいし、不活性ガス雰囲気で行ってもよい。不活性ガス雰囲気で行う拡散層形成工程は、拡散層3や鉄合金母材1の酸化を抑えることができ、品質の高い処理済み材4を得ることができる。不活性ガスとしては、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス又はこれらの混合ガス等を挙げることができる。
こうした拡散層3は、鉄合金母材1の表面付近に形成されている。なお、「表面付近」とは、表面に付着した酸化アルミニウムや、表面に残留したアルミニウムめっき膜の下に、という意味であり、通常、それらが存在する最表面から10μm以上、30μm以下の位置Pから深さ方向に、上記した拡散層3の厚さ範囲で形成されている。
拡散層3が形成された処理済み材4は、その後に必要に応じて、表面に付着した酸化アルミニウムや、表面に残留したアルミニウムめっき膜を除去してもよい。こうした除去は、ブラスト処理等によって行うことができ、処理済み材4の形状及び寸法を調整することができる。また、こうした除去により、処理済み材4を浸炭炉用部材として使用したとき、浸炭炉用部材からアルミニウムが蒸散して被処理品の特性に悪影響を及ぼすことを回避することができる。
以上のように、本発明に係る表面改質処理方法によれば、鉄合金母材1に優れた耐浸炭性を付与することができる。また、この表面改質処理方法は、溶融アルミニウムよるめっき(アルミナイズ工程)と、余剰アルミニウム除去工程及び拡散層形成工程で行う加熱(2段階の加熱)とによって鉄合金母材1に拡散層3を形成するので、高価な浸透剤や特殊な加熱炉が不要である。したがって、鉄合金母材1に、低いコストで耐浸炭性を付与することができる。
<表面改質処理装置>
本発明に係る表面改質処理装置31は、図5に示すように、溶融アルミニウムめっき槽32と、第1加熱手段33と、第2加熱手段34とを有する。詳しくは、ニッケルを含有する鉄合金母材1を溶融アルミニウムめっきして、その鉄合金母材1にアルミニウムめっき膜2を形成する溶融アルミニウムめっき槽32と、アルミニウムめっき膜2を加熱溶融させ、溶融したアルミニウムめっき膜2の余剰部を除去する第1加熱手段33と、アルミニウムめっき膜2の余剰部が除去された鉄合金母材1を第1加熱手段33の加熱温度よりも高い温度で加熱して、鉄合金母材1の構成元素とアルミニウムめっき膜2に含まれるアルミニウムとを相互に拡散させて拡散層3を形成する第2加熱手段34と、を有する。この表面改質処理装置31は、本発明に係る表面改質処理方法を行うために用いることができ、これにより、鉄合金母材1に拡散層3を形成して耐浸炭性を付与することができる。
以下、各構成について詳しく説明する。
(溶融アルミニウムめっき槽)
溶融アルミニウムめっき槽32は、鉄合金母材1が浸漬され、鉄合金母材1にアルミニウムめっき膜2を形成するものである。すなわち、この溶融アルミニウムめっき槽32は、前記アルミナイズ工程を行うものである。
この溶融アルミニウムめっき槽32は、前述の表面改質処理方法の欄で例示したアルミニウム又はアルミニウム合金を加熱溶融させた溶融液と、その溶融液が貯留された槽と、アルミニウム又はアルミニウム合金を加熱溶融させて設定温度に保持する加熱手段とを有する。槽としては、耐熱性に優れ、溶融アルミニウムに対して耐食性を有するものが用いられる。
(第1加熱手段)
第1加熱手段33は、アルミニウムめっき膜2を加熱溶融させ、溶融したアルミニウムめっき膜2の余剰部を除去するものである。すなわち、この第1加熱手段33は、前記余剰アルミニウム除去工程を行うものである。
第1加熱手段33としては、アルミニウムめっき膜2を溶融する温度に加熱できるものであればよく、例えば加熱炉、ホットプレート、熱風送風機等を挙げることができる。これらの加熱手段は、単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。また、このうち第1加熱手段33として熱風送風機を用いることにより、溶融したアルミニウムめっき膜2を吹き飛ばして除去することができるため、アルミニウムめっき2膜の余剰部を効率よく除去することができる。
なお、アルミニウムめっき膜2の余剰部の吹き飛ばしは、空気、窒素ガス、不活性ガス等をノズルの先端から噴射させて行ってもよいし、それ以外の方法で行ってもよい。また、こうしたアルミニウムめっき膜2の余剰部の吹き飛ばしは、上記のように大気中で行ってもよいし、不活性ガス雰囲気で行ってもよい。不活性ガス雰囲気で余剰部の吹き飛ばしを行った場合には、アルミニウムめっき膜2や鉄合金母材1の酸化を抑えることができ、品質の高い処理済み材4を得ることができる。
第1加熱手段33が加熱炉である場合、加熱炉は、耐熱材によって構成された加熱室と、加熱手段と、加熱室の天井部に取り付けられた炉ファンと、加熱室の底部に設置されたハースローラー等とを有する。加熱炉の加熱手段は、電気加熱方式、重油や灯油の燃焼方式等のいずれであってもよい。
(第2加熱手段)
第2加熱手段34は、アルミニウムめっき膜2の余剰部が除去された鉄合金母材1を第1加熱手段33の加熱温度よりも高い温度で加熱して、鉄合金母材1の構成元素とアルミニウムめっき膜2に含まれるアルミニウムとを相互に拡散させて拡散層3を形成するものである。すなわち、この第2加熱手段34は、前記した拡散層形成工程を行うものである。
第2加熱手段34は、鉄合金母材1とアルミニウムめっき膜2とを、鉄合金母材1の構成元素とアルミニウムめっき膜2に含まれるアルミニウムとが相互に拡散するような温度に加熱できるものであればよい。そうした第2加熱手段34としては、例えば、第1加熱手段33として例示したものと同様のものを挙げることができる。
(冷却室)
表面改質処理装置31は、溶融アルミニウムめっき槽32と第1加熱手段33との間、第1加熱手段33と第2加熱手段34との間、第2加熱手段34の第1加熱手段33側と反対側に、それぞれ冷却室を有していてもよい。溶融アルミニウムめっき槽32と第1加熱手段33との間の冷却室は、鉄合金母材1にコーティングされた溶融アルミニウムを空冷して固化させる室であり、その他の冷却室は、第1加熱手段33又は第2加熱手段34で加熱された鉄合金母材1を空冷する室である。
(搬送手段)
表面改質処理装置31は、被処理材である鉄合金母材1を、溶融アルミニウムめっき槽32、冷却室、第1加熱手段33、冷却室、第2加熱手段34、及び冷却室の順に搬送する搬送手段を有していてもよい。搬送手段としては、特に限定されないが、例えば搬送ベルトやローラーコンベヤ等を挙げることができる。
以上のように構成された本発明に係る表面改質処理装置31は、鉄合金母材1を、溶融アルミニウムめっき槽32、第1加熱手段33、第2加熱手段34の順に搬送して本発明に係る表面改質処理方法を行い、鉄合金母材1の表面付近に、鉄合金母材1の構成元素とアルミニウムめっき膜2に含まれるアルミニウムとが相互に拡散した拡散層3を形成する。アルミナイズ工程、余剰アルミニウム除去工程及び拡散層形成工程で用いる材料及び条件は、前記表面改質処理方法で説明したものと同じである。
拡散層3が形成された処理済み材4は、上記表面改質処理方法で拡散層3が形成された処理済み材4と同様の作用を奏し、この表面改質処理装置は、上記表面改質処理方法と同様の作用を奏する。
<浸炭炉用部材>
本発明に係る浸炭炉用部材は、浸炭処理に用いる部材や、浸炭炉に用いる部材である。浸炭処理に用いる部材は、ニッケルを含有する鉄合金を母材とするものであればよく、特に限定されない。具体的には、浸炭炉に用いる部材としては、トレイ、グリッド、バスケット、ホルダー、金網、立棒、横掛け棒、振れ止め等の、被処理材を浸炭炉内に搬入したり搬出したりするために用いられる各種の部材等を挙げることができる。
また、浸炭炉に用いる部材としては、各種のラジアントチューブ、電気ヒーターチューブ、炉内ファン、メッシュベルト、ハースローラー、プッシャー、レトルト、マッフル、チェーンガイドレール、スキッドレール、コロ、熱電対保護管、ヒーター、ガスサンプリング管、スタッドボルトナット等の各種の部材を挙げることができる。
こうした浸炭炉用部材は、本発明に係る表面改質処理方法による表面改質処理が施されている点に特徴がある。すなわち、この浸炭炉用部材は、アルミナイズ工程、余剰アルミニウム除去工程及び拡散層形成工程によって形成された拡散層を有しており、優れた耐浸炭性を有する。そのため、この浸炭炉用部材は、浸炭性ガスに長期間晒されたり、浸炭性ガスに繰り返し晒されたりしても、割れや変形、さらには減肉等を生じ難く、長期間使用することができる。
また、適用される表面改質処理方法は、低いコストで耐浸炭性を付与することができるため、処理された浸炭炉用部材は、従来の表面改質処理方法によって表面改質処理が行われた浸炭炉用部材に比べて、その製造コストを大幅に削減することができる。
<浸炭装置>
本発明に係る浸炭炉用部材を適用した浸炭装置について説明する。図6は、浸炭装置20の一例である。
図6に示す浸炭装置20は、浸炭炉21と、浸炭処理が施される被浸炭処理品30a及び浸炭処理が施された浸炭処理済み品30bを往復方向に搬送するローラーコンベヤ22と、ローラーコンベヤ22上のトレイ35と、トレイ35上で被処理材30a及び処理済み材30bを保持させるグリッド23と、を有している。
浸炭炉21は、加熱室24と、加熱室24内に浸炭性ガスを供給する浸炭性ガス供給手段25と、加熱室24内を加熱する複数のヒーター26と、加熱室24内で被浸炭処理品を移送するハースローラー27とを有している。
加熱室24は、耐火材と鉄皮によって構成された室であり、浸炭処理を行う空間を外部から隔離する機能を有する。この加熱室24の一側壁には、被浸炭処理品を加熱室24内に装入するための開閉扉を有する装入口28が設けられている。また、加熱室24の天井部には、炉内ファン29が取り付けられている。炉内ファン29は、加熱室24内を攪拌して、加熱室24内の温度や各種ガスの分布を均一にするものである。
浸炭性ガス供給手段25は、カーボンポテンシャルの低い弱浸炭性ガスを加熱室24内に供給する弱浸炭性ガス供給手段25aと、カーボンポテンシャルの高い強浸炭性ガスを加熱室24内に供給する強浸炭性ガスを供給する強浸炭性ガス供給手段25bと、を有する。
弱浸炭性ガス供給手段25a及び強浸炭性ガス供給手段25bは、それぞれ、図示しない変成炉と、変成炉及び加熱室にそれぞれ接続された浸炭性ガス供給管25cと、加熱室24への浸炭性ガスの供給量を制御するバルブ25d等を有している。変成炉は、プロパンガス、ブタンガス等の炭化水素系ガスと空気とを混合した混合ガスを、ニッケル触媒中で加熱して変成ガス(一酸化炭素と水素と窒素とを主体とするガス)を生成する。弱浸炭性ガス供給手段25aの変成炉で発生した弱浸炭性ガス及び強浸炭性ガス供給手段25bの変成炉で発生した強浸炭性ガスは、それぞれ、浸炭性ガス供給管25cを通って加熱室24内に供給される。
複数のヒーター26は、それぞれ、柱状のヒーターチューブ内に、電気ヒーターエレメントが収容されて構成されている。各ヒーター26は、加熱室24の底部に固定され、加熱室24の左右の内側壁(被浸炭処理品30a及び浸炭処理済み品30bの搬送方向x,xに沿う一対の内側壁)に沿うように、等間隔に並んで配列されている。
ハースローラー27は、加熱室24の底部に設置されている。このハースローラー27は複数のローラー27aを有し、各ローラー27aが、回転軸同士が平行となるように加熱室24内の奥行き方向(被浸炭処理品30a及び浸炭処理済み品30bの搬送方向x、x)に並んで配列されている。このハースローラー27は、各ローラー27aが図6中時計回りに回転することにより、各ローラー27a上のトレイ35に載置されたグリッド23と被浸炭処理品30aを加熱室24の奥行方向に移送し、各ローラー27aが図6中反時計回りに回転することにより、各ローラー27a上のトレイ35に載置されたグリッド23と浸炭処理済み品30bを加熱室24の装入口方向に移送する。
ローラーコンベヤ22は、ハースローラー27に連続して設けられている。ローラーコンベヤ22は、複数のローラー22aを有し、各ローラー22aが、回転軸同士が平行となるように搬送方向x、xに並んで配列されている。このローラーコンベヤ22では、浸炭炉21側と反対側の端部が、被浸炭処理品をローラーコンベヤ22上にセットする被浸炭処理品セット部22bとされている。また、このローラーコンベヤ22の途中には、浸炭処理済み品30bをローラーコンベヤ22から排出する浸炭処理済み品排出部22cが設けられている。このローラーコンベヤ22は、各ローラー22aが図6中時計回りに回転することにより、各ローラー22a上に載置された被浸炭処理品30aを浸炭炉方向xの搬送し、各ローラー22aが図6中反時計回りに回転することにより、各ローラー22a上のトレイ35に載置されたグリッド23と浸炭処理済み品30bを被浸炭処理品セット部22bの方向xに搬送する。
[グリッド]
グリッド23は、ローラーコンベヤ22及びハースローラー27の上のトレイ35に載置されて、被浸炭処理品30a及び浸炭処理済み品30bを保持しておくものである。グリッド23は、図7に示すように、枠体23aと、枠体23aに立てて設けられた支柱部23b及び受け部23cとを有している。そして、図7に示す実施形態では、グリッド23が、本発明に係る浸炭炉用部材によって構成されている。すなわち、グリッド23は、グリッドの外形形状に成形された鉄合金母材1に、本発明に係る表面改質処理を施したものであり、鉄合金母材の表面付近に形成された拡散層3を有している。
以上のように構成された浸炭装置20によって浸炭処理を行うには、ヒーター26によって加熱室24内を900℃〜1000℃に加熱し、弱浸炭性ガス供給手段25aによって加熱室24内に弱浸炭性ガスを供給する。この弱浸炭性ガスの供給により、炉24内が常に正圧状態に保たれる。
次に、グリッド23に保持された被浸炭処理品30aを、ローラーコンベヤ22上のトレイ35にセットする。ローラーコンベヤ22上のトレイ35にセットされたグリッド23と被浸炭処理品30aは、加熱室24の装入口28に搬送され、開閉扉が開いた後、加熱室24内に装入される。
開閉扉を閉じた後、強浸炭性ガス供給手段25bによって加熱室24内に強浸炭性ガスを供給する。これにより、グリッド23に保持された被浸炭処理品30aと浸炭性ガスとが反応し、被浸炭処理品30aの表面付近に浸炭層が形成される。こうした浸炭処理を、所定時間施した後、強浸炭性ガスの供給を停止し、開閉扉を開いて浸炭処理済み品30bを装入口28から搬出し、その後、開閉扉を閉じる。搬出された浸炭処理済み品30bは、処理済み品排出部22cに搬送され、この処理済み品配排出部22cでローラーコンベヤ22から排出される。
こうした浸炭装置20では、被浸炭処理品30aが浸炭性ガスに晒されるのと同時に、グリッド23も浸炭性ガスに晒される。しかし、グリッド23は、本発明に係る表面改質処理方法によって形成された拡散層3を有しているため、この拡散層3が、浸炭性ガスに由来する炭素を効率よく吸収し、拡散層3よりも深部にある鉄合金母材1でクロムカーバイトやセメンタイトが生成することが抑えられる。このため、このグリッド23は、こうした浸炭装置20で繰り返し使用されても、割れや変形、さらには減肉等を生じ難く、長期間使用することができる。これにより、グリッド23の割れ等によって加熱設備にトラブルが発生することを回避することができ、また浸炭炉21のメンテナンスコストを削減することができる。
以上、本発明に係る表面改質処理方法、表面改質処理装置及び浸炭炉用部材について説明したが、本発明の構成はこれに限るものではなく、本発明を逸脱しない範囲内で適宜変更が可能である。
例えば、本実施形態では、本発明に係る浸炭炉用部材を適用する浸炭炉が、ガス浸炭炉である場合を例にして説明したが、浸炭炉は、真空浸炭法による浸炭炉であってもよい。真空浸炭法による浸炭炉は、前述の加熱室24に真空ポンプが接続され、弱浸炭性ガス供給手段25a及び強浸炭性ガス供給手段25bの代わりに、炭化水素ガスを供給する炭化水素ガス供給手段が加熱室24に接続される。この真空浸炭炉では、高温の減圧雰囲気とされた浸炭炉内で被浸炭処理品が炭化水素ガスと直接反応することによって該被浸炭処理品に浸炭層が形成される。
また、本発明に係る浸炭炉用部材は、浸炭炉の後の焼入れ炉や焼戻し炉等の加熱炉で共用することができる。これにより、部材の共有化を図ることができ、浸炭炉の他、焼入れ炉や焼戻し炉等のメンテナンスコストを削減することができる。
以下、実施例と比較例により本発明をさらに詳しく説明する。
[実施例1]
被処理材として、図7に示すグリッド状に形成された鉄合金母材を用意した。この鉄合金母材は、JISに規定されるSCH24(耐熱鋳鋼)であり、その組成比は、C:0.35〜0.75質量%、Si:0〜2質量%、Mn:0〜2質量%、P:0〜0.04質量%、S:0〜0.04質量%、Ni:33〜37質量%、Cr:24〜28質量%、Mo:0〜0.5質量%、Fe:残部である。
この鉄合金母材に、ショットブラスト処理、脱脂、酸洗い、水洗及び湯洗を順に行って、鉄合金母材の表面を清浄な状態にした。次に、その鉄合金母材を、純アルミニウムインゴットを700℃に溶融した溶融アルミニウムめっき浴に600秒間浸漬した。その後、空冷及び湯洗を行ってアルミニウムめっき膜を形成した(アルミナイズ工程)。
次に、アルミニウムめっき膜が形成された鉄合金母材を加熱して、700℃で300秒間保持してアルミニウムめっき膜を溶融させ、溶融したアルミニウムめっき膜の余剰部を除去した(余剰アルミニウム除去工程)。この余剰アルミニウム除去工程後のアルミニウムめっき膜の厚さは、75μmであった。余剰部は、コーナーの角部等にあり、その部分のアルミニウムめっき膜は50μm以上の厚さで設けられていた。
次に、アルミニウムめっき膜の余剰部を除去した鉄合金母材を、1100℃で2時間加熱して拡散層を形成した(拡散層形成工程)。続いてブラスト処理を行い、最表面に残留した酸化アルミニウム及び残留めっき層を除去した。以上の工程により、グリッド(浸炭炉用部材)を作製した。
[実施例2]
余剰アルミニウム除去工程において、800℃で120秒間保持したこと以外は、前記実施例1と同様にしてグリッドを作製した。
[実施例3]
拡散層形成工程での加熱を、1000℃で10時間行った以外は、前記実施例1と同様にしてグリッドを作製した。
[実施例4]
拡散層形成工程での加熱を、1200℃で8時間行った以外は、前記実施例1と同様にしてグリッドを作製した。
[比較例1]
余剰アルミニウム除去工程を行わないこと以外は、前記実施例1と同様にしてグリッドを作製した。
[評価]
(金属組織と拡散層厚さ)
作製したグリッドから縦10mm×横5mm×厚さ10mmの試料を切り出し、走査型電子顕微鏡(倍率500倍)を用いて試料切断面の金属組織を観察した。代表として、実施例1の試料切断面の金属組織写真を図8(a)に示す。
また、同様にして作製したグリッドを用いて真空浸炭処理を行った。真空浸炭処理は、炭化水素ガスとしてプロパンガスを用い、温度950℃、炉内圧力950Paの条件で4時間行った。この真空浸炭処理に供したグリッドから、縦10mm×横5mm×厚さ10mmの試料を切り出した。そして、金属顕微鏡(倍率500倍)及び走査型電子顕微鏡(2000倍)を用いて、試料の切断面の金属組織を観察するとともにX線解析装置(エネルギー分散型X線分析装置、型名:JED−2201、日本電子株式会社製)による成分分析を行った。代表として、実施例1の試料切断面を500倍の倍率で観察した金属組織写真を図8(b)に示し、2000倍の倍率で観察した金属組織のSEM写真を図9に示す。
図8及び図9の金属組織写真から、試料の表面側から順に、アルミニウムめっき膜、拡散層、鉄合金母材の3層が観察された。また、実施例2〜4の試料についても、同様に、金属組織写真からアルミニウムめっき膜、拡散層、鉄合金母材の3層を確認することができた。
拡散層の厚さについては、実施例1では、図8(a)(b)に示すように約50〜70μmの厚さの拡散層が確認でき、実施例3では、図10(a)に示すように約40μmの厚さの拡散層が確認でき、実施例4では、図10(b)に示すように約108μm〜144μmの厚さの拡散層が確認できた。
また、アルミナイズ工程及び拡散層形成工程は行ったが、余剰アルミニウム除去工程を行っていない比較例1のグリッドは、支柱部や受け部の下部にアルミニウムめっき膜が厚く残存していた。また、比較例1の金属組織写真から、拡散層は確認できるものの、拡散層の厚さが不均一であった。さらに、浸炭処理後に、このグリッドに保持した浸炭処理品を目視で観察したところ、その表面にアルミニウムの付着が認められた。これは、浸炭処理中に、グリッドのアルミニウムめっき膜からアルミニウムが蒸散したからと考えられる。
(グリッド形状)
実施例1〜実施例4で作製したグリッドの形状を目視で観察したところ、いずれもグリッドとして良好な形状を有していた。
(成分分析)
実施例1のグリッドを上記真空浸炭処理し、試料の表面側から順に、アルミニウムめっき膜、拡散層、鉄合金母材の各部についてX線解析装置で成分分析を行った。その結果を表1に示す。
表1に示すように、例えば実施例1の試料では、表面から約20μm程度の表面層領域は、ニッケルと鉄とを合計した濃度が約50原子%、アルミニウム濃度が約20原子%、炭素濃度が約20原子%であった。表面から約20μm〜100μm程度の拡散層領域は、鉄が約50原子%、ニッケル及び炭素がそれぞれ約10原子%、アルミニウムが3原子%の化合物からなる相3a(図3及び図9参照)と、ニッケルが約40原子%、鉄及び炭素がそれぞれ約10原子%、アルミニウムが約20原子%の化合物からなる相3b(図3及び図9参照)が混在した合金層であることがわかった。この拡散層領域は、全体として約10原子%〜20原子%の炭素を含有していた。また、この拡散層領域は、炭素が不飽和な状態であり、炭素をまだ取り込むことが可能な領域であると考えられた。一方、表面から約100μmよりも深部にある鉄合金母材領域には、SCH24に元々含まれる炭素含有量を超えるような炭素含有量は確認されなかった。
実施例1の結果と同様、実施例2〜4の試料も、拡散層形成工程で形成した拡散層には約10〜20原子%の炭素が含まれているものの、その拡散層よりも深部にある鉄合金母材にはSCH24に元々含まれる炭素含有量を超えるような炭素含有量は確認されないか、確認されても僅かであった。
以上の結果から、本発明に係る表面改質処理方法により、鉄合金母材に約30μm〜150μmの拡散層を形成することができ、この拡散層によって鉄合金母材への炭素の侵入が効果的に抑えられることが確認できた。また、得られた処理済み品は、グリッドとして良好な形状を有しており、浸炭炉用部材として好適に使用できることがわかった。
1 鉄合金母材
2 アルミニウムめっき膜
3 拡散層
3a 第1の合金相
3b 第2の合金相
4 処理済み材
11 鉄元素又はニッケル元素
12 アルミニウム元素
13 炭素元素
20 浸炭装置
21 浸炭炉
22 ローラーコンベヤ
22a ローラー
23 グリッド
23a 枠体
23b 支柱部
23c 受け部
24 加熱室
25 浸炭性ガス供給手段
25a 弱浸炭性ガス供給手段
25b 強浸炭性ガス供給手段
25c 浸炭性ガス供給管
25d バルブ
26 ヒーター
27 ハースローラー
27a ローラー
28 装入口
29 炉内ファン
30a 被浸炭処理品
30b 浸炭処理済み品
31 表面改質処理装置
32 溶融アルミニウムめっき槽
33 第1加熱手段
34 第2加熱手段
35 トレイ



Claims (4)

  1. ニッケルを含有する鋼材で構成された鉄合金母材を溶融アルミニウムめっき又は溶融アルミニウム合金めっきして、該鉄合金母材にアルミニウムめっき膜又はアルミニウム合金めっき膜を形成するアルミナイズ工程と、
    前記アルミニウムめっき膜又は前記アルミニウム合金めっき膜を加熱溶融させ、溶融したアルミニウムめっき膜又はアルミニウム合金めっき膜の余剰部を除去する余剰アルミニウム除去工程と、
    前記アルミニウムめっき膜又は前記アルミニウム合金めっき膜の余剰部が除去された前記鉄合金母材を前記余剰アルミニウム除去工程での加熱温度よりも高い温度で加熱して、前記鉄合金母材の構成元素と前記アルミニウムめっき膜又は前記アルミニウム合金めっき膜に含まれるアルミニウムとを相互に拡散させて拡散層を形成する拡散層形成工程と、を有することを特徴とする表面改質処理方法
  2. 前記鋼材は、オーステナイト系ステンレス鋼、オーステナイト系ステンレス鋳鋼、及び耐熱鋳鋼から選ばれる鋼で構成されている、請求項1に記載の表面改質処理方法。
  3. 前記拡散層形成工程で形成する拡散層の厚さが30μm以上150μm以下である、請求項1又は2に記載の表面改質処理方法。
  4. ニッケルを含有する鋼材で構成された鉄合金母材を溶融アルミニウムめっき又は溶融アルミニウム合金めっきして、該鉄合金母材にアルミニウムめっき膜又はアルミニウム合金めっき膜を形成する溶融アルミニウムめっき槽又は溶融アルミニウム合金めっき槽と、
    前記アルミニウムめっき膜又は前記アルミニウム合金めっき膜を加熱溶融させ、溶融したアルミニウムめっき膜又はアルミニウム合金めっき膜の余剰部を除去する第1加熱手段と、
    前記アルミニウムめっき膜又は前記アルミニウム合金めっき膜の余剰部が除去された前記鉄合金母材を前記第1加熱手段の加熱温度よりも高い温度で加熱して、前記鉄合金母材の構成元素と前記アルミニウムめっき膜又は前記アルミニウム合金めっき膜に含まれるアルミニウムとを相互に拡散させて拡散層を形成する第2加熱手段と、を有することを特徴とする表面改質処理装置。
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