次に、本願発明に係るナノファイバ製造装置、ナノファイバ製造方法を、図面を参照しつつ説明する。
(実施の形態1)
図1は、ナノファイバ製造装置の外観を示す斜示図である。
図2は、ナノファイバ製造装置をチャンバの一部を省略して示す斜示図である。
これらの図に示すように、ナノファイバ製造装置100は、製造空間190において、原料液300を電気的に延伸させてナノファイバ301を製造する装置であって、チャンバ108と、流出体101と、第一送風手段105と、排気手段106と、吸気手段107と、帯電手段102とを備えている。さらに、ナノファイバ製造装置100は、収集手段103と、供給手段104とを備えている。
図3は、流出体を切り欠いて示す斜示図である。
流出体101は、原料液300を空間中に一方向に流出させる複数の流出孔118を備え、流出孔118の先端に存在する開口部119が細長い帯状の仮想的な二次元範囲である配列範囲内に配列される部材であり、原料液300の圧力(重力も含む場合がある)により原料液300を空間中に流出させるものである。
ここで、「配列範囲」の語は、前述した通り、流出孔118の先端にある開口部119が配置され得る帯状の仮想的な2次元範囲の意味であり、本願明細書、および、特許請求の範囲全体において同様の意味で使用している。例えば図4において、配列範囲は、先端部116(後述)に該当する範囲となる。上記のように、配列範囲は、帯状の仮想的な2次元範囲であるが、図4のように、物理的な形状から示される領域(先端部116)と一致する場合がある。しかし、本願発明において、仮想的な配列範囲と物理的な領域とが一致する必要は無い。
また、流出体101は、流出する原料液300に電荷を供給する電極としても機能しており、原料液300と接触する部分の少なくとも一部は導電性を備えた部材で形成される。本実施の形態の場合、流出体101全体が金属で形成されており、さらに、先端部116と、側面部117と、貯留槽113とを備えている。
流出孔118は、原料液300を一方向(図3において、Z軸方向下向き)に向かって空間中に流出させる孔であり、先端にある開口部119は、流出体101の一部を占める領域である細い帯状の配列範囲内に複数個設けられている。本実施の形態の場合、流出孔118は、相互に平行となるようにY軸方向に一直線上に並べて配置されており、流出孔118の先端にある開口部119は、所定の間隔で一列に並んで配置されている。
流出孔118の孔長や孔径は、特に限定されるものではなく、原料液300の粘度などにより適した形状を選定すれば良い。具体的には、孔長は、1mm以上、5mm以下の範囲から選定されるのが好ましい。孔径は、0.1mm以上、2mm以下の範囲から選定されるのが好ましい。また、流出孔118の形状は、円筒形状に限定されるわけではなく、任意の形状を選定しうる。特に開口部119の形状は、円形に限定されるわけではなく、三角形や四角形などの多角形、星形など内側に突出する部分のある形状などでもかまわない。
また、開口部119が並べられる間隔は、全てを等間隔としてもよく、また、流出体101の端部における開口部119の間隔は、流出体101の中央部における開口部119の間隔よりも広く、または、狭くするなど任意に定めることができる。現在得られている知見において、開口部119の孔径が0.3mmの場合、開口部119のピッチは、2.5mm以上が好ましい。2.5mm未満の場合、隣接して流出する原料液が合体する可能性が高まるからである。なお、これら孔径やピッチなどは、原料液300の粘度など他の条件により変化することが考えられる。
また、開口部119は、同一直線上に配置されるばかりでなく、細い帯状の配列範囲内であればどのように配置されも良い。例えば開口部119は、ジグザグに配置されてもよく、サインカーブなどの波を描くように配置されてもよい。
先端部116は、流出孔118の開口部119が配置される流出体101の部分であり、所定の間隔で配置される開口部119の間を滑らかな面で接続する部分である。本実施の形態の場合、先端部116は、細長い矩形の平面を表面に備え、その幅は、対応する開口部119の径よりも広くなるように設定されている。
なお、先端部116の形状が、図4のような帯状でない場合、例えば、先端部116の形状が、曲面形状の場合や、切り立った形状であっても、また、針状のノズルが並んだような先端部116が無い場合であっても、「配列範囲」は、開口部119が配列されうる帯状領域として仮想的に設定できるものであることは変わりない。
図4は、流出体から原料液が流出している状態を流出体の先端部側から示す斜示図である。
同図に示すように、開口部119の周囲の全てにわたって表面が滑らかな面(本実施の形態の場合、平面)の先端部116が存在することにより、開口部119の周りに液溜まり303(いわゆるテーラーコーン)が発生する。この液溜まり303は、原料液300の粘性により発生すると考えられ、開口部119よりも大きな円形の底面を備える円錐形状となっている。液溜まり303は、開口部119を覆うように流出体101の先端部116に付着する。そして、円錐状の液溜まり303から原料液300が空間中に細く流出するものとなっている。これにより開口部119が空気と直接接触しないので、開口部119から発生するイオン風を抑制することが可能となる。
以上のように、先端部116は、複数存在する開口部119の間を滑らかな面でつなげているため、複数のノズルを並べたときに発生する電界干渉を抑制することが可能となる。また、開口部119と開口部119との間の領域で発生するイオン風を抑制することができる。従って、開口部119の間隔を狭めた状態で配置しても、良好にナノファイバ301を製造することができるため、単位時間、単位面積あたりのナノファイバ301の生産量を向上させることが可能となる。
また、先端部116により液溜まり303を良好な状態で保持することが可能であるため、イオン風の発生を抑制し、ナノファイバ301の品質向上や生産効率の向上が図れると考えられる。
側面部117は、図3に示すように、流出孔118を挟むように配置される二つの面であり、先端部116から延設され、起立状態で配置される流出体101の部分である。また、側面部117は、配列範囲の長手方向(Y軸方向)に延びた状態で設けられており、全ての流出孔118を二つの側面部117で挟むように設けられている。また、側面部117は、図3に示すように、先端部116から離れるに従い相互の間隔が広がるように配置されている。
流出体101は、上記側面部117を備えることで、イオン風の発生を抑制し、また、イオン風が発生したとしても、空間中に流出する原料液300と交差しない方向にイオン風を飛ばせることができるため、イオン風が影響を及ぼすことなく安定した状態でナノファイバ301を製造することが可能となる。
また、側面部117は先端部116に向かって徐々に細くなるように配置されているため、先端部116に電荷が集中させやすく、原料液300に効率的に電荷を供給することができる。
さらに、開口部119の周囲の空間を広く開放することができるため、側面部117の側方に第一送風手段105によって発生する気体流によって効率よく溶媒蒸気を排出できると考えられる。
貯留槽113は、図3に示すように、流出体101の内部に形成され、供給手段104(図1参照)から供給される原料液300を貯留するタンクである。また、貯留槽113は、複数の流出孔118に接続され、流出孔118に同時に原料液300を供給するものとなっている。本実施の形態の場合、貯留槽113は、流出体101に一つ設けられており、流出体101の一端部から他端部にわたって広く設けられ、全ての流出孔118と接続されている。
以上のように貯留槽113は、原料液300を流出孔118の近傍で一時的に貯留し、複数の流出孔118に均等な圧力で原料液300を供給する機能を備えており、これにより、各流出孔118から均等な状態で原料液300を流出させることが可能となる。従って、製造されるナノファイバ301の品質の空間的なムラを抑制することが可能となる。
なお、本実施の形態では、流出体101は、細く長い先端部116を備え、かつ、先端部から徐々に広がるように配置される側面部117を備えるものとして説明したが、本願発明はこれに限定されるものでは無い。例えば、流出孔118の開口部119が細長い帯状の仮想的な二次元範囲である配列範囲内に配列されるものであれば、円形のパイプの周壁に流出孔118を設けたものや、矩形で箱形の流出体101の底面に行列状に流出孔118を並べるもの、一つの流出孔118が軸方向に沿って設けられる針状のノズルを複数個並べるものなどを他の形態として例示できる。
供給手段104は、図1、図2に示すように、流出体101に原料液300を供給する装置であり、原料液300を大量に貯留するタンクと、当該タンクから原料液300を圧送するポンプと、圧送される原料液300を案内するパイプとを備えている。
帯電手段102は、流出体101から流出する原料液300に電荷を付与して帯電させる装置である。本実施の形態の場合、帯電手段102は、帯電電極121と、帯電電源122とを備えている。また、流出体101も帯電手段102を構成する要素として機能している。
帯電電極121は、流出体101と所定の間隔を隔てて配置され、自身が流出体101に対し高い電圧もしくは低い電圧となることで、流出体101に電荷を誘導するための導電性を備える部材である。本実施の形態の場合、帯電電極121は、ナノファイバ301を収集手段103に誘引する誘引手段としても機能している。帯電電極121は、流出体101の先端部116と対向する位置に配置されており、帯電電源122を介して接地されている。一方、流出体101は、接地されている。従って、帯電電極121に正の電圧が印加されると流出体101には負の電荷が誘導され、原料液300は負に帯電する。一方、帯電電極121に負の電圧が印加されると流出体101には正の電荷が誘導され、原料液300は正に帯電する。
帯電電源122は、流出体101と帯電電極121との間に高電圧を印加して原料液300を所望の電荷密度に帯電させることのできる電源である。帯電電源122は、一般には、直流電源が好ましいが交流電源の採用を妨げるものでは無い。
なお、流出体101に帯電電源122を接続して流出体101を帯電電極121に対し高い電圧もしくは低い電圧としてもかまわない。また、帯電電極121と流出体101とのいずれも接地しないような接続状態とし、帯電電源122の両極をそれぞれ帯電電極121と流出体101に接続してもかまわない。
収集手段103は、静電延伸現象により製造空間190中で製造されるナノファイバ301を収集する装置である。収集手段103は、被堆積部材131と、被堆積部材131を移送することのできる移送手段132とを備えている。
被堆積部材131は、配列範囲の長手方向全体に広がり、空間中で製造されたナノファイバ301を堆積状態で収集する部材である。本実施の形態の場合、被堆積部材131は、配列範囲の長手方向を幅とする薄い帯状の長尺の部材でありロール133に巻き付けられた状態で供給されている。また、被堆積部材131は、表面に堆積したナノファイバ301と分離が容易なように、表面処理が施されている。
移送手段132は、流出体101と被堆積部材131とをY軸方向と交差する方向(X軸方向)に相対的に移送する装置である。本実施の形態の場合、流出体101は固定されており、被堆積部材131のみを流出体101に対して移送するものとなっている。移送手段132は、長尺の被堆積部材131を巻き取りながらロール133から引き出し、堆積するナノファイバ301と共に被堆積部材131を移送して巻き取るものとなっている。
なお、移送手段132は、被堆積部材131を移動させるばかりではなく、流出体101を収集手段103に対して移動させるものでもかまわない。また、移送手段132は、被堆積部材131を一定方向に移送し、流出体101を被堆積部材131の移送方向と交差する方向に往復動させるもの等でもよい。また、開口部119の並び方向と直交する方向に収集手段103を移動させているが、それに限定するものではなく、開口部119の並び方向に被堆積部材131を移動させ、流出体101を開口部119の並び方向と直交する方向に往復動させるものであってもかまわない。
チャンバ108は、帯電した原料液300が流出し、静電延伸現象によって原料液300からナノファイバ301が製造される空間である製造空間190を略気密状態で覆うことのできる部材である。
本実施の形態の場合、チャンバ108は、帯電電極121と共に、製造空間190の六面全てを囲む箱状の部材である。
ここで、略気密状態の語は、完全な気密状態ではなく、ある程度の気体の流出入を許容する意味を含むものとして用いている。本実施の形態の場合、例えば、帯電電極121とチャンバ108との間に被堆積部材131が配置されており、被堆積部材131や堆積したナノファイバ301が通過する部分(搬入口、搬出口)に対応するチャンバ108には隙間が設けられている。従って、当該隙間においては気体の流出入が避けられない。当該意味においてチャンバ108は、製造空間190を略気密状態で覆っている。さらに、チャンバ108には排気口161(後述)や吸気口171(後述)等の開口部が設けられており、当該部分では積極的に気体が排気され、また、吸気されているが、当該状態も「略気密状態」の語が示す範囲に含まれている。
第一送風手段105は、チャンバ108で囲われた製造空間190中の雰囲気を流出体101から原料液300が流出する方向である流出方向(Z軸方向)と同じ方向で原料液300の近傍を原料液300の流れに沿って流れる気体流として発生させる装置である。
本実施の形態の場合、流出体101に設けられる流出孔118の開口部119は、細長い帯状の二次元範囲である配列範囲の長手方向(Y軸方向)全体に広がって配置されており、第一送風手段105は、前記配列範囲の長手方向全体にわたって広がる幕状の気体流を発生させるものとなっている。
第一送風手段105は、いわゆるエアーカーテンを発生させる装置であり、Y軸方向に延びる長尺のシロッコファン(図示せず)と、チャンバ108の外方に配置され前記ファンを駆動させるモータ等の駆動源151(図1参照)と、チャンバ108を貫通し、駆動源151の駆動力を前記ファンに伝達する軸体である伝達部材152(図2参照)とを備えている。そして、第一送風手段105は、駆動源151により前記ファンを回転させることによりチャンバ108の内方にある気体を吸い込み、Y軸方向に延びるスリット状の送風口から気体を吐出することにより幕状の気体流をZ軸方向の下向きに発生させる。
これによれば、原料液300の流れに沿って原料液300の飛翔経路の近傍に強制的に気体流を略均一に流すことができ、原料液300やナノファイバ301の飛翔に悪影響をおよぼすことなく飛翔経路の近傍に溶媒蒸気が局所的に対流することを効果的に抑止することが可能となる。
図5は、ナノファイバ製造装置の一部を切り欠いて示す側面図である。
排気手段106は、第一送風手段105により発生した気体流Aの一部を分岐させてチャンバ108の外に排気する装置であり、排気する気体の排気量を設定可能な装置である。
本実施の形態の場合、排気手段106は、チャンバ108に設けられた排気口161と、チャンバ108の内方から吸気した気体(気体流Aの一部)をチャンバ108の外方に送る第二送風手段162とを備えている。
このように、第二送風手段162を設けることで、気体流Aの循環経路の途中において気体流Aの一部を強制的に排気することができる。また、第二送風手段162の種類を選定することにより、容易に排気量を設定することが可能となる。さらに、第二送風手段162が送風能力を調整できるものとすれば、任意に排気量を調整することも可能となる。
なお、第二送風手段162としては、軸流ファンやシロッコファンを備える送風機などを例示することができる。また、第二送風手段162の送風能力の調整方法としては、ファンを駆動する駆動源の能力を調整する方法や、ダンパを備えてダンパの開閉状態により送風能力を調整する方法を例示することができる。
吸気手段107は、排気手段106によりチャンバ108の外方に排気された気体の排気量と略等量の気体をチャンバ108の外方から内方に吸気する装置である。
本実施の形態の場合、吸気手段107は、チャンバ108に設けられた吸気口171と、吸気口171につながるパイプ172とを備えている。
以上の構成により、排気手段106によってチャンバ108の外方に排気された気体の排気量に対応して、チャンバ108の外方からチャンバ108の内方に吸気手段107の吸気口171を通して前記排気量と略等量の吸気量の気体が吸気される。
ここで、チャンバ108は、略気密状態を創出する部材であり、排気口161や吸気口171意外にも隙間や開口が存在する。しかし、吸気手段107の配管抵抗を含む吸気抵抗は、他の隙間や開口(排気口161を除く)よりも十分に低いため、吸気手段107に基づく吸気量は、排気手段106に基づく排気量に対して略等量である。つまり、略等量の語は、排気量と完全に一致する場合も含め、ある程度の誤差を許容する意味で用いている。
なお、本実施の形態の場合、吸気手段107は、チャンバ108の外方の気体を単にチャンバ108の内方に導入するものであったが、本願発明はこれに限定されるものではない。例えば、吸気手段107は、チャンバ108外から気体をチャンバ108内に導入する際に、気体の温度や湿度などを調整する機能を備えていてもかまわない。つまり吸気手段107に加温装置や除湿装置、加湿装置、ほこりなどを採るためのフィルタなどを設けてもかまわない。また、吸気手段107は、大気をチャンバ108内に導入するばかりでなく、窒素を含む不活性ガスなど、任意に設定されたガスを導入するものでもかまわない。これによって、製造されるナノファイバ301の品質を向上させることができ、また、ナノファイバ製造装置100の安全性を向上させることが可能となる。
原料液300は、ナノファイバ301を製造するための液状の原料であり、ナノファイバ301を構成する樹脂を溶質とし、当該溶質を溶解、または、分散する溶媒とを備えている。
前記溶質は、具体的には、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ−m−フェニレンテレフタレート、ポリ−p−フェニレンイソフタレート、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン−アクリレート共重合体、ポリアクリロニトリル、ポリアクリロニトリル−メタクリレート共重合体、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエステルカーボネート、ポリアミド、アラミド、ポリイミド、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリヒドロキシ酪酸、ポリ酢酸ビニル、ポリペプチド等およびこれらの共重合体等の高分子物質を例示できる。これらは、溶質として採用される樹脂の例示であり、本願発明は上記樹脂に限定されるものではない。
なお、原料液300は、上記より選ばれる溶質を一種類のみ含んでいてもよく、また、複数種類を混在して含んでいてもかまわない。
前記溶媒は、前記溶質を溶解、または、分散できる揮発性のある有機溶剤などであり、原料液300として採用される上記樹脂に対応して選定される。前記溶媒は、具体的には、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、ヘキサフルオロイソプロパノール、テトラエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジベンジルアルコール、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチル−n−ヘキシルケトン、メチル−n−プロピルケトン、ジイソプロピルケトン、ジイソブチルケトン、アセトン、ヘキサフルオロアセトン、フェノール、ギ酸、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジプロピル、塩化メチル、塩化エチル、塩化メチレン、クロロホルム、o−クロロトルエン、p−クロロトルエン、クロロホルム、四塩化炭素、1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエタン、トリクロロエタン、ジクロロプロパン、ジブロモエタン、ジブロモプロパン、臭化メチル、臭化エチル、臭化プロピル、酢酸、ベンゼン、トルエン、ヘキサン、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、シクロペンタン、o−キシレン、p−キシレン、m−キシレン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホオキシド、ピリジン、水等を挙示することができる。これらは溶質として採用される溶剤の例示であり、本願発明は、上記溶剤に限定されるものではない。
なお、原料液300は、上記より選ばれる溶媒を一種類のみ含んでいてもよく、また、複数種類を混在して含んでいてもかまわない。
さらに、原料液300は、他の無機物質や有機物質を含んでいてもかまわない。例えば、無機物質としては、酸化物、炭化物、窒化物、ホウ化物、珪化物、弗化物、硫化物等を挙げることができる。特に、原料液300に酸化物を添加することで製造されるナノファイバの耐熱性、加工性などを向上させることが可能であるとの知見を得ている。具体的に当該酸化物としては、Al2O3、SiO2、TiO2、Li2O、Na2O、MgO、CaO、SrO、BaO、B2O3、P2O5、SnO2、ZrO2、K2O、Cs2O、ZnO、Sb2O3、As2O3、CeO2、V2O5、Cr2O3、MnO、Fe2O3、CoO、NiO、Y2O3、Lu2O3、Yb2O3、HfO2、Nb2O5等を例示することができる。これらは、原料液300が含む他の物質の例示であり、本願発明は、原料液300が他の物質を含むか否かで限定されるものではない。
原料液300は、上記より選ばれる一種類のみを他の物質として含んでもよく、また、複数種類を含んでもかまわない。
原料液における溶媒と溶質との混合比率は、選定される溶媒の種類と溶質の種類とにより異なるが、溶媒量は、約60重量%から98重量%の間が望ましい。好適には溶質が5〜30重量%となる。
次に、上記構成のナノファイバ製造装置100を用いたナノファイバ301の製造方法を説明する。
まず、供給手段104により流出体101に原料液300を供給する(供給工程)。以上により、流出体101の貯留槽113に原料液300が満たされる。
次に、帯電電源122により帯電電極121を正または負の高電圧とする。帯電電極121と対向する流出体101の先端部116に電荷が集中し、当該電荷が流出孔118を通過して空間中に流出する原料液300に転移し、原料液300が帯電する(帯電工程)。
前記帯電工程と供給工程とは同時期に実施することにより、流出体101の開口部119から帯電した原料液300が流出する(流出工程)。
また、第一送風手段105により、チャンバ108内方の雰囲気を吸引し、原料液300の流れに沿った気体流Aを送風口から吐出する(第一送風工程)。
ここで、開口部119から流出する原料液300は、開口部119を覆い先端部116から垂れ下がる液溜まり303を形成する。この液溜まり303は、複数ある開口部119毎に形成され、その先端から原料液300が糸状に垂れ下がる(図4参照)。このように液溜まり303が形成されることで、イオン風の発生を抑制し、製造されるナノファイバ301の品質を高めることが可能となる。
また、気体流Aは、液溜まり303に大きな影響を与えることなく、液溜まり303近傍も含めて溶媒蒸気を下方に搬送する。
次にある程度空間中を飛行した原料液300に静電延伸現象が作用することによりナノファイバ301が製造される(ナノファイバ製造工程)。ここで、原料液300は、イオン風に影響されることなく強い帯電状態(高い電荷密度)で流出し、また、各開口部119から飛行する原料液300がまとまることなく細い状態で流出する。これにより、原料液300のほとんどがナノファイバ301に変化していく。また、原料液300は、強い帯電状態(高い電荷密度)で流出しているため、静電延伸が何次にもわたって発生し、線径の細いナノファイバ301が大量に製造される。
この状態において、被堆積部材131の背方に配置される帯電電極121と流出体101との間に発生する電界により、ナノファイバ301が被堆積部材131に誘引される(誘引工程)。
そして、被堆積部材131にナノファイバ301が堆積して収集される(収集工程)。被堆積部材131は、移送手段132によりゆっくり移送されているため、ナノファイバ301も移送方向に延びた長尺の帯状部材として回収される。
一方、気体流Aは、堆積したナノファイバ301の上方近傍に達した後、被堆積部材131に沿って壁面に向かって流れ、その後、チャンバ108の内壁面に沿って上昇し、天井面に沿って第一送風手段105に戻る(循環行程)。
また、循環している気体流Aは、排気手段106によって一部分岐され、所定の排気量だけチャンバ108の外方に排気される(排気行程)。また、排気行程に伴って、チャンバ108の外方から吸気手段107を介して気体が導入される(吸気行程)。
以上のような構成のナノファイバ製造装置100を用い、以上のナノファイバ製造方法を実施することによって、チャンバ108の外方から取り込む空気の量を減少させることができる。従って、取り込む外気を適正な温度にすることや、適正な湿度にすることが容易に行え、取り込む外気の状態を制御するために必要なエネルギーを減少させることが可能となる。
また、チャンバ108内の雰囲気でチャンバ108内方を循環する気体流Aを発生させ、原料液300の飛翔経路近傍を通過させることで、溶媒蒸気が局所的に滞留することを抑制することが可能となる。従って、溶媒の蒸発を一定に維持して製造されるナノファイバ301の品質を安定させることが可能となる。
一方、循環する気体流Aの一部をチャンバ108の外方に排気し、等量の外気をチャンバ108内方に導入することで、チャンバ108内方の溶媒蒸気の濃度を所定の規定値以下に維持することが可能となる。例えば、前記規定値を爆発限界濃度の10分の1程度とすることで、ナノファイバ製造装置100の防爆対策とすることが可能となる。
ここで所定の排気量とは、使用する原料液300の溶媒の種類や目的とするナノファイバ301の品質によって異なるが、防爆対策として一般に規定されている溶媒の濃度以下にチャンバの内方が維持できる排気量が好ましい。
具体的には、流出体101からの流出する原料液300からチャンバ108内に放出される溶媒蒸気をvm3/minとし、溶媒濃度の規定値をkとし、排気量をS2(m3/min)とした場合、S2≧v/kを満足する値から選定される排気量が所定の排気量となる。つまり、チャンバ108内方から排出する気体の排気量は、S2(m3/min)であり、この排気量はS2(m3/min)はチャンバ108内方に吸気される吸気量とほぼ一致する。一方、チャンバ108内方では毎分vm3の溶媒蒸気が発生する。従って、チャンバ108内方は、毎分S2m3で気体が流れ、当該気流にvm3の溶媒蒸気が加わることとなるため、チャンバ108内の溶媒濃度は、v/S2となると考えられる。そしてこの溶媒濃度を、製造されるナノファイバの品質や、防爆などの安全性などに基づき規定値k以下にする必要がある。つまり、k ≧ v/S2を満足する必要があり、前記式から排気量は、S2 ≧ v/kを満足する値から選定することとなる。
例えば、v=0.00084m3/min、k=2000ppm(爆発限界濃度の1/10)とすると、S2≧0.42m3/minを満足する値を所定の排気量とすればよい。
一方、排気量の上限は、気体流Aの流量をS1(m3/min)(例えば、50(m3/min))とした場合、S2=S1となるが、この場合、チャンバ108の外方から取り込む空気の量を減少させるという所期の目的を達成できない。従って、選定される排気量の上限は、S1/2(例えば、25m3/min)が好ましく、更に、選定される排気量の上限をS1/4(例えば12.5m3/min)とすることが好適である。これにより、装置外から取り込む気体を適正な温度、湿度に制御するための使用エネルギーを大幅に削減することができる。
なお、ナノファイバ製造装置100は、上記全ての特徴を備える必要はなく、チャンバ108の内方に導入する外気の量を減少しうる特徴を備えることで足る。
また、溶媒濃度の規定値kを爆発限界濃度の1/10に設定したが、規定値kはナノファイバが適正に製造できる範囲において任意に設定可能である。例えば、溶媒が水の場合、爆発の可能性がないため、規定値kは要求されるナノファイバの品質によって決定される。
(実施の形態2)
次に本願発明に係る他の実施の形態を説明する。
図6は、他の実施の形態に係るナノファイバ製造装置の一部を切り欠いて示す側面図である。
これらの図に示すように、ナノファイバ製造装置100は、製造空間190において、原料液300を電気的に延伸させてナノファイバ301を製造する装置である点は、前記実施の形態1とかわりが無い。また、ナノファイバ製造装置100は、チャンバ108と、流出体101と、第一送風手段105と、排気手段106と、吸気手段107と、帯電手段102と、収集手段103と、供給手段104とを備えている点も前記実施の形態1と共通する。本実施の形態に係るナノファイバ製造装置100はさらに、第三送風手段153と、ダクト109を形成するための仕切部材191とを備えている。
以下、実施の形態1と共通する部分は、説明を省略し、相違点を説明する。
ダクト109は、第一送風手段105により発生した気体流を再び第一送風手段105に戻す部材である。つまり、ダクト109は、気体流Aの循環経路の戻り部分において、気体流Aを案内する機能を備える部材である。本実施の形態の場合、ダクト109は、チャンバ108の一部と、チャンバ108の内方に設けられる仕切部材191とにより形成された管状の部分である。具体的にはチャンバ108の側壁、および、天井と平行に板状の仕切部材191が配置されており、これらが管状に囲む空間が気体流Aを第一送風手段105に戻す経路となっている。
なお、本発明にかかるダクト109は、本実施の形態にのみ限定されるものではなく、第一送風手段105へ気体流Aを戻す管路であれば、チャンバ108内もしくはチャンバ108外に設けた管路であってもかまわない。
第三送風手段153は、気体流Aを吸引し、第一送風手段105に戻るように吸引した気体流Aを排出する装置である。本実施の形態の場合、第三送風手段153は、吸引した気体流Aをダクト109に排出し、ダクト109を介して気体流Aを第一送風手段105に戻すものとなっている。従って、第三送風手段153は、ダクト109の端部に取り付けられている。
図6に示すように、第三送風手段153は、第一送風手段105がY軸方向全体に広がってZ軸方向の下向きに幕状に発生させた気体流AをY軸方向に広がった状態で略均一に吸気するものとなっている。また、第三送風手段153は、空間中を飛翔する原料液300やナノファイバ301に対し、第一送風手段105の送風口と反対側に配置されている。
第三送風手段153は、第一送風手段105と同じように、Y軸方向に延びる長尺のシロッコファンを駆動源により回転(第一送風手段105とは逆向き)させてY軸方向に延びるスリット状の吸気口から気体流Aを吸気するものを例示できる。
以上の様に、幕状の気体流Aの全体を第三送風手段153が吸気するものとし、吸気した気体流Aをダクト109に排出するものとすれば、原料液300やナノファイバ301が飛翔する空間に乱流が発生することを可及的に抑制できる。従って、製造されるナノファイバ301の品質を高い状態で維持しつつ溶媒蒸気を効率的に飛翔空間から排出することが可能となる。
また、第三送風手段153によって、気体流Aの方向を変更し原料液300やナノファイバ301と気体流Aとを交差させることができるため、原料液300やナノファイバ301の飛翔経路を曲げ、飛翔経路を長くすることが可能となる。従って、溶媒の蒸発時間を稼ぐことができ、品質の高いナノファイバを製造することが可能となる。
なお、第三送風手段153は、シロッコファンを備えるものに限定される訳ではない。第三送風手段153は、複数の軸流ファンをY軸方向に並べたものでもかまわない。また、駆動源をチャンバ108の外方に配置し、伝達手段により第三送風手段153のファンを回転させるものでも良い。
本実施の形態の場合、排気手段106は、ダクト109を形成するチャンバ108の部分に設けられた排気口161と、ダクト109内に配置され気体流Aの一部を排気口161に導く分岐板163とを備えている。
このように、分岐板163を設けることで、気体流Aの循環経路を形成するダクト109の途中において気体流Aの一部を分岐することができる。また、分岐板163の大きさや取り付け位置、ダクト109に対する角度を調整することで排気量を設定することも可能となる。さらに、分岐板163を可動式にすることで、任意に排気量を調整することも可能となる。例えば、分岐板163の位置がチャンバ108の内壁に近い程排気流路の断面積が小さくなるので排気量が少なくなり、逆に、分岐板163の位置が仕切部材191に近い程排気流路の断面積が大きくなるので排気量が多くなる。
以上の様に実施の形態2の構成によれば、上記実施の形態1と同様の作用効果を得ることができる。さらに、ダクト109を設けて気体流Aの戻り経路を案内することで、チャンバ108内方に発生する乱流を抑止することが可能となる。
また、第三送風手段153により、気体流Aを原料液300やナノファイバ301の飛翔経路と強制的に交差させることで、前記飛翔経路を延長してより品質の高いナノファイバを製造することが可能となる。
なお、本願発明は、上記実施の形態に限定されるものではない。例えば、本明細書において記載した構成要素を任意に組み合わせて、また、構成要素のいくつかを除外して実現される別の実施の形態を本願発明の実施の形態としてもよい。また、上記実施の形態に対して本願発明の主旨、すなわち、特許請求の範囲に記載される文言が示す意味を逸脱しない範囲で当業者が思いつく各種変形を施して得られる変形例も本願発明に含まれる。
例えば、図7に示すように、流出体101を複数個(図中は2個)備え、第一送風手段105を流出体101の間に配置してもかまわない。さらに、第三送風手段153を複数備えて気体流Aを二方向から吸引して二つの循環経路を創出してもかまわない。
なお、上記流出体101の説明においても記載したとおり、同図において流出体101のいずれか一方、または、両方を針状のノズルを並べた流出体101に置き換えたナノファイバ製造装置100も本願発明に含まれる。
これによれば、狭い空間に流出孔118を多数備えた場合でも、流出孔118の間を流れる気体流Aによって、効率的に溶媒蒸気を排出することが可能となる。従って、品質の高いナノファイバ301を生産効率の高い状態で生産することが可能となる。
また、図8に示すように、流出体101の両脇に複数の第一送風手段105を配置し、複数の気体流Aで飛翔する原料液300やナノファイバ301を挟むような複数の循環経路を備えてもかまわない。
これによれば、溶媒蒸気の局所的な滞留をより効果的に除去することができ、製造されるナノファイバの品質の向上を図ることが可能となる。
また、排気手段106は、気体流Aの一部を分岐させてチャンバ108外に排気する排気量を設定可能であれば、どのような態様が採用されても本願発明に含まれる。例えば、排気手段106は、分岐版163に代えて第二送風手段162を備えるものでもかまわない。つまり、ナノファイバ製造装置100は、第二送風手段162と第三送風手段153との両方を備えるものでも構わない。これによれば、例えば、第三送風手段153の送風量に対する第二送風手段162の送風量の比率により排気量が設定される場合や、第二送風手段162の送風量(能力)のみに排気量が設定される場合がある。さらに、第一送風手段105と第二送風手段162と第三送風手段153との送風量の調整によって設定される場合もある。
また、ナノファイバ製造装置100がダクト109を備える場合に、排気手段106として、分岐板163に代えて第二送風手段162を備えるが、ナノファイバ製造装置100は、第三送風手段153を備えないものであってもかまわない。これによれば、第一送風手段105によるダクト109を介した吸引により気流Aがダクト109に流入し、第一送風手段153の送風量に対する第二送風手段162の送風量の比率により排気量が設定される。
また、排気手段106は、分岐板163を備えず、単に、ダクト109の途中で装置外へ排気する排気口161を備えるものであっても構わない。これによれば、例えば、排気口161の大きさにより排気量が設定される。
なお、第三送風手段153は、第一送風手段105と同様、排気手段106の排気量に影響を与えるが、第三送風手段153の主たる機能(目的)は、気体流Aを第一送風手段105に戻すことである。従って、本願発明において、第三送風手段153と排気手段106とは独立した構成であり、第三送風手段153の有無が発明の構成としての排気手段106に影響を与えるものではない。
また、上記実施の形態1および実施の形態2において記載していないが、ナノファイバ製造装置100は、排気手段106による排気中から溶媒を除去、回収するためのフィルタや冷却装置などの溶媒回収装置を備えていても構わない。これによれば、ナノファイバ製造装置100の外部に排出する溶媒の量を可及的に低く抑えることができ、ナノファイバ製造装置100が設置される場所の環境を良い状態で維持することができる。また、使用可能な溶剤の種類を増加させることができ、製造可能なナノファイバのバリエーションを増加させることが可能となる。特に、排気手段106によって排気される気体の排気量は、気体流Aの一部であるため、溶媒の回収が容易である。なお、本願発明は、チャンバ108(ダクト109内を含む)内を循環する気体流Aから溶媒を回収しない。これは、排気手段106により溶媒蒸気を含む気体流Aの一部を排気することで、チャンバ108(ダクト109含む)内で溶媒の除去をしなくても、チャンバ108内の溶媒量が許容量を超えないようにすることができるためである。
さらに、ナノファイバ製造装置100は、チャンバ108内やダクト109内において、第一送風手段105まで戻す気体流Aの温度や湿度などを適正に維持する状態維持手段を備えるものであっても構わない。これにより、チャンバ108内やダクト109内を循環中の気体流Aの温度や湿度などが適正状態から外れることを防止することができる。また、当該状態維持手段を吸気手段107の上流や下流に設けてもかまわない。
さらに、上記実施の形態1や実施の形態2では、気体流Aは、被堆積部材131や、堆積したナノファイバ301の上方を流通するように記載したが、気体流Aを被堆積部材131や堆積したナノファイバ301を通過させ、通過した気体流Aの一部を排気手段106を用いてチャンバ108外への排気し、残りを第一送風手段105へ戻すものとしてもかまわない。