本発明の躯体移動工法及び構造物の第1実施形態を図面に基づき説明する。図1には、地盤11上に構築された構造物としての建物10が示されている。建物10は、地盤11に設けられた複数の支持部材12と、支持部材12上に設けられた躯体20と、支持部材12と躯体20の間に設けられた支持手段30としての支承材32とで構成されている。また、建物10に隣接する場所には、躯体20の構築場である仮設構台36が設けられている。
支持部材12は、地盤11に間隔をあけて埋設された杭部12Aと、杭部12Aの上側に立設された柱部12Bとで構成されており、不整形の地盤11上に非格子状に複数配置(図2参照)されている。そして、支持部材12(柱部12B)の上部には梁14及び小梁(図示省略)が架設されている。また、梁14の上面にはコンクリート打設によりスラブ16が形成されている。なお、梁14の下側で複数の支持部材12の間には、既存の鉄道Tが通っている。
躯体20は、支承材32上に立設された複数の柱18と、複数の柱18に架設された複数の梁22、26及び小梁(図示省略)と、複数の梁22の上面にコンクリート打設により形成されたスラブ24と、複数の梁26の上面にコンクリート打設により形成された天井部28とで構成されている。また、躯体20は、梁22、26の1スパン分を1ブロックとして、水平方向に第1ブロック20A、第2ブロック20B、第3ブロック20C、及び第4ブロック20Dで区分されている。なお、図1では躯体20の構成を分かり易くするために複数の支持部材12及び柱18の間隔を等間隔で表示しているが、実際の間隔は異なっている(実際は、図2の矢印Y方向から躯体20を見た状態となっている)。
図2には、躯体20を構成する第1ブロック20A、第2ブロック20B、第3ブロック20C、及び第4ブロック20Dを、仮設構台36から予め設定された支持部材12上へ矢印X方向に移動させるための複数のレール34の配置状態が示されている。レール34は、H形鋼からなる第1レール34A、第2レール34B、第3レール34C、第4レール34D、及び第5レール34Eで構成されており、仮設構台36から複数の支持部材12上面を通って、最も遠方の支持部材12上面まで架設されている。
レール34を構成する第1レール34A、第2レール34B、第3レール34C、第4レール34D、及び第5レール34Eは、躯体20の移動方向(矢印X方向)と交差する方向で、且つそれぞれ異なる方向に折れ曲がっており、不整形な(始点から終点まで一直線状ではない)移動経路となっている。なお、レール34は、支持部材12上に躯体20を移動後に取り外されるものであり、完成状態の建物10には含まれていない。
図3(a)には、躯体20を移動させるときの支持手段30の構成が示されている。複数の柱18の下部には、躯体20の一部を構成する本体鉄骨21が架設されている。支持手段30は、本体鉄骨21(躯体20)の下面に溶接等により固定された支承材32と、支持部材12の上面にボルト(図示省略)で固定されたレール34とで構成されており、支承材32がレール34上を滑る(摺動する)ようになっている。なお、支持手段30は躯体20の下面側に複数箇所設けられているが、いずれも同様の構成であるので、ここでは1箇所の支持手段30について説明する。
支承材32は、ゴムからなる板状の弾性部材の表面に摩擦係数の低いフッ素樹脂系のコーティングを施した構成となっている。また、支承材32の長さ方向(本体鉄骨21の延設方向)の両端部には、下側へ突出しレール34が抜け出すのを防ぐ防止壁32Aが設けられている。なお、両端部の防止壁32Aで挟まれレール34が自由に移動可能な支承材32の平板状の部位の長さ(幅)をL1とする。
ここで、図3(b)に示すように、支承材32の長さL1は、レール34の経路によって決まる躯体20の移動方向(矢印X方向)と交差する方向の移動量(長さW1)より長くなるように予め設定されている。長さW1は、仮設構台36上における支承材32の移動開始点P1を通って矢印X方向と平行な直線Aと、仮設構台36から最も遠方に設けられた支持部材12上における支承材32の移動終了点P2を通って矢印X方向と平行な直線Bとの間隔に等しい。なお、図2に示すように、レール34A〜34Eのそれぞれで必要とされる支承材32の長さは異なるが、レール34上の支承材32の滑り状態は同様であるので、以後の説明では1本のレール34上の支承材32の移動について説明する。
次に、建物10の施工手順について説明する。
図4(a)に示すように、まず、建物10の構築予定区域において、既存の鉄道Tを避けながら地盤11を掘削すると共にコンクリートを打って杭部12A(図1参照)を形成し、杭部12A上にプレキャスト製の柱部12B(図1参照)を設置して、地盤11上に複数の支持部材12を立設する。そして、複数の支持部材12間に図示しないクレーン等を用いてプレキャスト製の梁14を架設し、梁14の両端部を支持部材12に接合した後、梁14の上面に型枠を配置する等してコンクリートを打設してスラブ16を形成する。
続いて、建物10の構築予定区域に隣接する区域に鉄骨及びコンクリートを用いて仮設構台36を構築する。なお、仮設構台36の高さはスラブ16の上面と同じ高さとなっており、仮設構台36の幅は梁14の1スパン分程度の大きさとなっている。
続いて、図5(a)に示すように、複数の支持部材12を線で結ぶようにして仮設構台36の上面及びスラブ16の上面にレール34A、34B、34C、34D、及び34Eを配置し、ボルトで締結固定する。ここで、既存の鉄道T(図1参照)を避けるようにして支持部材12が配設されているため、レール34A〜34Eは、平面視にて折れ曲がった不整形状態となっている。なお、図5(a)ではスラブ16の図示を省略している。
続いて、図4(a)に示すように、仮設構台36上において、プレキャスト製の柱18を立設させて梁22、26を架設し、コンクリートを打設してスラブ24及び天井部28を形成し、躯体20の一部である第1ブロック20Aを構築する。そして、仮設構台36のレール34上に複数の支承材32を配置してから、第1ブロック20Aを図示しないクレーンで吊り上げて支承材32上に載置し、支承材32を柱18及び本体鉄骨21(図3(a)参照)の下面に溶接又はボルト締結により固定する。
続いて、図4(b)及び図5(b)に示すように、第1ブロック20Aを仮設構台36に設けられた図示しない油圧ジャッキを用いて矢印X方向に押し出すと、レール34上を支承材32が滑るように移動して、第1ブロック20Aが仮設構台36上から支持部材12及びスラブ16上のレール34へ移動する。なお、このときの第1ブロック20Aの移動量は1つの梁14のスパン分の量であり、第1ブロック20Aの移動位置は、支持部材12と柱18が直線上に配置される位置となっている。
続いて、仮設構台36上において、プレキャスト製の柱18を立設させて梁22、26を架設し、躯体20の一部である第2ブロック20Bを構築する。そして、仮設構台36のレール34上に複数の支承材32を配置してから、第2ブロック20Bを図示しないクレーンで吊り上げて支承材32上に載置し、支承材32を柱18及び本体鉄骨21(図3(a)参照)の下面に溶接又はボルト締結により固定する。
続いて、第1ブロック20Aの柱18に第2ブロック20Bの梁22、26の一方の端部を接合し、梁22、26上にコンクリートを打設してスラブ24及び天井部28を形成する。これにより、第1ブロック20Aと第2ブロック20Bが一体化される。
続いて、図4(c)、(d)及び図5(c)、(d)に示すように、第1ブロック20A、第2ブロック20Bの構築と同様の施工手順により、仮設構台36上で第3ブロック20Cを構築し第1ブロック20A及び第2ブロック20Bに接合して一体化させると共に矢印X方向へ移動させる。そして、仮設構台36上で第4ブロック20Dを構築し第1ブロック20A〜第3ブロック20Cに接合して一体化させると共に矢印X方向へ移動させて、支持部材12上に第1ブロック20A〜第4ブロック20D(躯体20)を配置する。
続いて、各柱18を図示しない油圧ジャッキを用いて上方へ押し上げた状態で、仮設構台36、支持部材12、及びスラブ16上のレール34(34A〜34E)を取り外す。そして、支承材32の両端部の防止壁32A(図3(a)参照)を取り除いた後、油圧ジャッキを下げて支持部材12上に支承材32(及び柱18)を載置すると共に、溶接又はボルト締結によって支承材32を支持部材12上に固定する。このようにして、既存の鉄道Tに影響を与えずに、図1に示す建物10が構築される。
次に、本発明の第1実施形態の作用について説明する。
図4(a)〜(d)及び図5(a)〜(d)に示したように躯体20が矢印X方向に移動するとき、移動開始時点では、図6(a)、(b)に示すように、支承材32のレール34との接触部Sは、躯体20の柱18から離れた位置となっている。そして、接触部Sは、躯体20の移動と共にレール34の架設方向に沿って矢印方向に移動する。
続いて、図6(c)、(d)に示すように、躯体20が矢印X方向に移動すると共に、支承材32が躯体20の移動方向と交差する方向の躯体20の支持位置(接触部Sの位置)を変えながら、不整形なレール34の経路に合わせて滑り、躯体20の柱18を支持部材12上へ移動させる。そして、支承材32の接触部Sは、矢印Y方向に相対的に移動して柱18との距離が短くなっていく。
続いて、図6(e)、(f)に示すように、躯体20の所定位置までの移動が終了したとき、支持部材12上に躯体20の柱18が配置される。このとき、支承材32の接触部Sの位置は、支持部材12及び柱18の位置と重なっているため、レール34を取り除いても支持部材12及び支承材32で躯体20が支持される。
以上説明したように、支持部材12が平面視で碁盤目状に整列配置されておらず(非格子状)、躯体20の移動経路であるレール34が不整形な経路となっていても、支承材32(支持手段30)が躯体20の移動方向と交差する方向の支持位置を変えながら、不整形なレール34に合わせて躯体20を支持部材12上へ移動させるので、支持部材12の地盤11での設置状態に関わらず、躯体20を目的位置まで移動させることができる。そして、建物10を構築することができる。
また、支承材32の長さL1が、レール34の経路によって決まる躯体20の移動方向と交差する方向の移動量W1より長いので、レール34の上面から外側へ支承材32が外れることがなくなる。これにより、躯体20の移動経路であるレール34が複数方向に折れ曲がった不整形状態であっても、躯体20を予め決められた移動方向に沿って目的位置まで移動させることができる。
さらに、支承材32の長さ方向の両端部には防止壁32Aが設けられているので、支承材32に対するレール34の位置が地震等によりずれることがあっても、防止壁32Aとレール34とが接触して、レール34と支承材32の接触状態が保持される。これにより、支承材32がレール34の上面から抜け出すのを防ぐことができる。
なお、レール34の設置状態、支承材32の接触部Sの移動方向、及びレール34の経路によって決まる躯体20の移動方向と交差する方向の接触部Sの移動量は、図3(b)に示した第1実施形態に限定されない。ここで、レール34の経路形状が異なるときの接触部Sの移動量である支承材32の最小必要幅(Wの符号で表示する)について、図7(a)〜(c)の模式図を用いて説明する。
図7(a)には、第1実施形態の支承材32(図3(a)参照)の最小必要幅W2を求めるための模式図が示されている。図7(a)において、支承材32の最小必要幅W2を求める場合、まず、支承材32のレール34との接触部Sをレール34の始端である移動開始点P1に配置する。なお、レール34の経路(形態)は予め決められており、躯体20の移動方向ベクトルAの方向は、図3(b)の矢印X方向と同じとなっている。
続いて、移動終了時の接触部Sの位置(移動終了点P2)に、躯体20の移動方向ベクトルAの終端とレール34の経路の終端を配置する。ここで、躯体20の移動方向ベクトルAの始端P3と移動開始点P1とを結んだ直線は、支承材32の長さ方向を表す直線Mとなる。
続いて、レール34の全ての経路を躯体20の移動方向ベクトルAに平行に直線M上に射影する。このとき、直線M上に射影された線分の長さが支承材32の最小必要幅W2となる。なお、図7(a)に示すレール34の経路形態では、移動開始点P1から始端P3までが支承材32における接触部Sの移動方向ベクトルBとなっており、この移動方向ベクトルBの長さは支承材32の最小必要幅W2である。
図7(b)には、レール34(図7(a)参照)の経路の曲がり角度が大きくなったレール35が示されている。この場合も同様に、支承材32のレール35との接触部Sをレール35の始端である移動開始点P1に配置する。なお、レール35の経路(形態)は予め決められており、躯体20の移動方向ベクトルCの方向は、図7(a)の移動方向ベクトルAよりも斜め方向となっている。
続いて、移動終了点P2に、躯体20の移動方向ベクトルCの終端とレール35の経路の終端を配置する。ここで、躯体20の移動方向ベクトルCの始端P3と移動開始点P1とを結んだ直線は、支承材32の長さ方向を表す直線Mとなる。
続いて、レール35の全ての経路を躯体20の移動方向ベクトルCに平行に直線M上に射影する。このとき、直線M上に射影された線分の長さが支承材32の最小必要幅W3となる。なお、図7(b)に示すレール35の経路形態では、移動開始点P1から始端P3までが支承材32における接触部Sの移動方向ベクトルDとなっており、この移動方向ベクトルDの長さは支承材32の最小必要幅W3である。
図7(c)には、レール34(図7(a)参照)が3箇所で折り返すジグザグ形状となったレール37が示されている。このような場合についても同様に、まず、支承材32のレール37との接触部Sをレール37の始端である移動開始点P1に配置する。なお、躯体20の移動方向ベクトルEの方向は、予め決められている。
続いて、移動終了点P2に、躯体20の移動方向ベクトルEの終端とレール37の経路の終端を配置する。ここで、躯体20の移動方向ベクトルEの始端P3と移動開始点P1とを結んだ直線は、支承材32の長さ方向を表す直線Mとなる。
続いて、レール37の全ての経路を躯体20の移動方向ベクトルEに平行に直線M上に射影する。このとき、直線M上に射影された線分の最大長さは、移動方向ベクトルEの始端P3から左側へ最も離れた位置に射影された左端P4と、始端P3から右側へ最も離れた位置に射影された右端P5との間の距離となり、この距離が、支承材32の最小必要幅W4となる。
なお、図7(c)に示すレール37の経路形態では、移動開始点P1から始端P3までが支承材32における接触部Sの移動方向ベクトルFとなっており、この移動方向ベクトルFの長さは支承材32の最小必要幅W4である。また、接触部Sは、躯体20の移動に伴い、直線M上をS1、S2、S3、S4の順で方向を変えながら移動することになる。このように、レール34の形態が異なる場合でも同様の手順を用いることにより、支承材32の長さ方向と、最小必要幅Wを求めることができる。
一方、図1に示す建物10において、支持部材12と躯体20の分割位置は、第1実施形態の分割位置(C1とする)に限定されない。一例として、図8には、建物10において、支持部材12と躯体20を分割設定可能な分割位置C1〜C8が、破線で表示されている。
分割位置C2は、梁14とスラブ16の間に設定されており、分割位置C3は、梁14の下側に設定されている。分割位置C4は、スラブ24の上側に設定されており、分割位置C5は、梁22とスラブ24の間、分割位置C6は、梁22の下側にそれぞれ設定されている。分割位置C7は、梁26と天井部28の間に設定されており、分割位置C8は、梁26の下側に設定されている。
ここで、図9(a)に示すように、分割位置C1で支持部材12と躯体20に分割した場合は、躯体20側に梁22、26、スラブ24、及び天井部28が設けられ、支持部材12側に梁14及びスラブ16が設けられることになる。
一方、図9(b)に示すように、分割位置C2で支持部材12と躯体40に分割した場合は、躯体40側に梁22、26、スラブ16、24、及び天井部28が設けられ、支持部材12側に梁14が設けられることになる。なお、躯体40では、スラブ16のみで強度不足となる場合が考えられるので、仮設梁44をスラブ16の上側に設けてもよい。
また、図9(c)に示すように、分割位置C3で支持部材12と躯体42に分割した場合は、躯体42側に梁14、22、26、スラブ16、24、及び天井部28が設けられ、支持部材12側に何も設けられていない状態となる。ここで、レール34を支持する部材が支持部材12のみとなるため、補強として仮設梁48を支持部材12の上部に架設してもよい。なお、分割位置C4〜C8での建物10の分割については、C1〜C3と同様に仮設梁48を用いる等して対応可能であるため、説明を省略する。
次に、本発明の躯体移動工法及び構造物の第2実施形態を図面に基づき説明する。なお、前述した第1実施形態と基本的に同一の部材には、前記第1実施形態と同一の符号を付与してその説明を省略する。
図12(f)に示すように、第2実施形態では、第1ブロック50A、第2ブロック50B、第3ブロック50C、第4ブロック50D、第5ブロック50E、第6ブロック50F、第7ブロック50G、及び第8ブロック50Hからなる躯体50と、支持部材12(図10参照)と、支持部材12と躯体50の間に設けられ躯体50を移動させる支持手段60(図10参照)と、を有する建物70を構築する場合について説明する。なお、第1ブロック50A〜第8ブロック50Hは、第1実施形態の第1ブロック20A〜第4ブロック20Dと同様に柱、梁、スラブ、天井部を有しているが、図示は省略する。
図10には、建物70(図12(f)参照)の構築途中において、支持手段60によって躯体50が移動する状態が示されている。躯体50は、支持部材12の配置状態に合わせて組み立てられた本体鉄骨52を有している。また、支持手段60は、支持部材12上に架設された複数のレール58と、本体鉄骨52の下面に固定された板状の支承材54とで構成されている。なお、支持手段60は躯体50の下面側に複数箇所設けられているが、いずれも同様の構成であるので、ここでは1箇所の支持手段60について説明する。
図11(a)に示すように、レール58は、矢印X方向を長さ方向として矢印Y方向に間隔をあけて複数配設された一直線状のレール55(55A〜55E)と、レール55と交差する方向に間隔をあけて複数配設された不整形のレール56(56A〜56E)とで構成されている。そして、躯体50(図10参照)は、矢印X方向に移動した後に矢印Y方向に移動して、即ち2方向移動により支持部材12上に配設されるようになっている。
図10に示すように、支承材54は、ゴムからなる板状の弾性部材の表面に摩擦係数の低いフッ素樹脂系のコーティングを施した構成となっている。ここで、レール55が整形(一直線状)となっているため、躯体50がレール55上を矢印X方向に移動するときの支承材54の矢印Y方向の最小必要幅は、レール55の幅L2よりも短くなっている。
一方、支承材54とレール58(55、56)の接触部Sがレール55とレール56の交点に位置したとき、躯体50は矢印Y方向に向けて移動が可能となる。そして、躯体50がレール56上を矢印Y方向に移動するときの支承材54の最小必要幅は、前述の支承材32(図3(b)参照)の長さW1と同様に模式図を用いて求めることができる。
まず、支承材54の接触部Sをレール56の始端である移動開始点P1に配置する。そして、移動終了点P2に、躯体50の移動方向ベクトルYの終端とレール56の経路の終端を配置する。続いて、レール56の全ての経路を移動方向ベクトルYに平行にレール55上に射影する。ここで、レール56はジグザグ形状となっていないため、移動開始点P1から移動方向ベクトルYの始端P3までの線分の長さが、支承材54の最小必要幅となる。このように、躯体50を2方向に移動させる場合は、各方向について支承材54の最小必要幅を求めることで支承材54の大きさ(水平方向の断面形状)が決定される。
なお、躯体50を移動させるとき、支承材54の躯体50の移動方向と交差する方向の両端部に、下側へ突出してレール55又はレール56が抜け出すのを防ぐ防止壁を設けてもよい。この場合の防止壁は、支承材54に着脱可能な構成とされ、支承材54がレール55上を移動するときはレール55を挟むようにして支承材54に取り付けられ、支承材54がレール56上を移動するときはレール56を挟むようにして支承材54に取り付けられる。
次に、本発明の第2実施形態の作用について説明する。
図12(a)に示すように、第1実施形態と同様の手順により、建物70(図12(f)参照)の構築予定区域において、地盤11上に複数の支持部材12を立設する。そして、複数の支持部材12間に梁(図示省略)を架設した後、コンクリートを打設してスラブ16を形成する。
続いて、建物70の構築予定区域に隣接する区域に鉄骨及びコンクリートを用いて仮設構台36を構築する。なお、仮設構台36の高さはスラブ16の上面と同じ高さとなっており、仮設構台36の幅は梁の1スパン分程度の大きさとなっている。そして、複数の支持部材12を線で結ぶようにして仮設構台36の上面及びスラブ16の上面にレール55、56を配置し、ボルトで締結固定する。ここで、レール55(55A〜55E)は一直線状の整形状態となっており、レール56(56A〜56E)は、平面視にて折れ曲がった不整形状態となっている。
続いて、仮設構台36上において、柱を立設させて梁を架設すると共にコンクリートを打設してスラブ及び天井部を形成し、躯体50の一部である第1ブロック50Aを構築する。そして、仮設構台36のレール55(55C〜55E)上に複数の支承材54(図10参照)を配置してから、第1ブロック50Aを図示しないクレーンで吊り上げて支承材54上に載置し、支承材54を柱18及び本体鉄骨52(図10参照)の下面に溶接又はボルト締結により固定する。
続いて、図12(b)、(c)に示すように、第1ブロック50Aを仮設構台36からスラブ16上のレール55へ移動すると共に、仮設構台36上で第2ブロック50Bを構築する。そして、仮設構台36のレール55上に支承材54を介して第2ブロック50Bを載置して、第1ブロック50Aと第2ブロック50Bを連結する。さらに、同様の手順により第3ブロック50C及び第4ブロック50Dを構築して、第1ブロック50A〜第4ブロック50Dを連結して一体化する。
続いて、図12(c)、(d)に示すように、連結した第1ブロック50A〜第4ブロック50Dを矢印Y方向に移動する。ここで、図10に示すように、支承材54が、躯体50の移動方向(矢印Y方向)と交差する方向の躯体50の支持位置(接触部Sの位置)を変えながら、不整形なレール56の経路に合わせて滑り、躯体50を支持部材12上へ移動させる。そして、躯体50の所定位置までの移動が終了したとき、支持部材12上に躯体50の柱18が配置される。
このように、躯体50を仮設構台36(図12参照)から2方向へ移動させる場合、一方の移動経路であるレール56が不整形な経路となっていても、支承材54が不整形なレール56上を移動し、躯体50を支持部材12上へ移動させるので、躯体50を目的位置まで移動させることができる。
また、支承材54の長さが、レール56の経路によって決まる躯体50の移動方向と交差する方向の移動量である最小必要幅より長いので、レール56の上面から外側へ支承材54が外れることがなくなる。これにより、躯体50の一方の移動経路であるレール56が複数方向に折れ曲がった不整形状態であっても、躯体50を予め決められた移動方向に沿って目的位置まで移動させることができる。
続いて、図12(d)に示すように、仮設構台36上において、柱を立設させて梁を架設すると共にコンクリートを打設してスラブ及び天井部を形成し、躯体50の一部である第5ブロック50Eを構築する。
続いて、図12(d)〜(f)に示すように、第1ブロック50A〜第4ブロック50Dの構築時と同様の手順により、第5ブロック50Eの移動、第6ブロック50Fの構築、第5ブロック50Eと第6ブロック50Fの連結及び移動、第7ブロック50Gの構築、第6ブロック50Fと第7ブロック50Gの連結及び移動、第8ブロック50Hの構築、第7ブロック50Gと第8ブロック50Hの連結及び移動を行う。
続いて、第1ブロック50A〜第8ブロック50Hを連結して一体化すると共に、これらを油圧ジャッキ(図示省略)で上げてスラブ16上からレール55、56を取り除く。そして、油圧ジャッキを下げて支持部材12上に支承材54を載置及び固定することで、既存の鉄道Tに影響を与えずに、建物70が構築される。
このように、一方が整形のレール55で他方が不整形のレール56であるレール58と、支承材54とからなる支持手段60を用いて、躯体50を2方向へ移動させることができるが、これに限らず、例えば、図11(b)に示すように、2方向とも不整形のレール64(64A〜64E)、66(66A〜66E)であるレール62を用いた場合でも、躯体を移動させることができる。この場合は、一方の幅がレール64の経路から得られる最小必要幅よりも長く、且つ他方の幅がレール66の経路から得られる最小必要幅よりも長い板状の支承材を用いればよい。なお、レール62の一方を整形レールにしたい場合は、支持部材12に架設された梁へ、仮設構台36から延設されたレール64D、64Eと平行となるように仮設梁68(及びレール)を設ければよい。
次に、本発明の躯体移動工法及び構造物の第3実施形態を図面に基づき説明する。なお、前述した第1、第2実施形態と基本的に同一の部材には、前記第1、第2実施形態と同一の符号を付与してその説明を省略する。
図13には、第2実施形態の支持手段60に換えて設けられた支持手段80の構成が示されている。支持手段80は、異なる方向に配置されたレール55、56と、レール55又はレール56上を滑る支承材84と、躯体50(本体鉄骨52)の下面に設けられレール55、56との間に支承材84を滑り可能に保持する保持部材82と、を有している。なお、支持手段80は躯体50の下面側に複数箇所設けられているが、いずれも同様の構成であるので、ここでは1箇所の支持手段80について説明する。
図13及び図14(a)に示すように、支承材84は、円柱状のゴムからなる弾性部84Aと、弾性部84Aの上面及び下面に接着されたフッ素樹脂からなる円板状の滑部84B、84Cとで構成されている。弾性部84A及び滑部84Cの水平方向の幅は、平面視にてレール55及びレール56の幅よりも小さくなっており、滑部84Bの水平方向の幅は、保持部材82の周壁部82B内に配置可能な幅となっている。
保持部材82は、本体鉄骨52の下面に固定される板状部82Aと、板状部82Aの周縁から下方側へ突出した周壁部82Bとで構成されている。板状部82Aの予め決められた位置には係合穴83が形成されており、板材からなるストッパー86が係合穴83に係合されるようになっている。また、板状部82Aの周壁部82Bで囲まれた領域の矢印X方向の幅L3は、レール56の経路によって決まる躯体50の移動方向と交差する方向の移動量(最小必要幅)より長い長さとなっている。なお、幅L3は、第2実施形態の支承材54(図10参照)の最小必要幅と同様の手順で求められるため説明を省略する。
レール56の上面には、レール56の長さ方向(矢印K方向)と交差する方向の両端部に一対の第2壁体としての防止壁57(57A、57B)が設けられている。なお、レール56は不整形であるため防止壁57を設けており、レール55は整形であるため防止壁57を設けていないが、レール55にも防止壁を設けてよい。
ここで、支承材84の滑部84Cがレール55上に載置され、滑部84Bが保持部材82の周壁部82B内で板状部82Aの下面と接触するように配置されることで、躯体50がレール55、56上で移動可能に支持されている。なお、レール55と滑部84Cとの接触面が第1接触面であり、滑部84Bと保持部材82の内壁との接触面が第2接触面である。
次に、本発明の第3実施形態の作用について説明する。
図14(a)に示すように、躯体50を矢印X方向に移動する前に保持部材82の係合穴83にストッパー86を係合させて支承材84を固定し、躯体50を矢印X方向に移動する。このとき、支承材84は、レール55の幅方向(矢印X方向と交差する方向)の移動が保持部材82の周壁部82Bにより抑制されており、且つ矢印X方向の移動がストッパー86で抑制されているので、レール55及び保持部材82から脱落することなくレール55上を滑る。これにより、躯体50を矢印X方向に移動することができる。
続いて、図14(b)に示すように、支承材84がレール55とレール56の交点に位置したときにストッパー86を取り外す。そして、躯体50を矢印X方向と交差する方向(図14の奥行き方向)に移動する。このとき、支承材84は、防止壁57に沿って不整形なレール56上を移動すると共に、保持部材82の板状部82A下面を矢印−X方向に滑り移動して、支持位置を変えながら躯体50を支持部材12(図10参照)上へ移動させる。これにより、支持部材12及びレール55、56の設置状態に関わらず、躯体50を矢印X方向と交差する方向へ移動させることができる。
このように、第3実施形態では、支持手段80を用いることによって、レール55、56と保持部材82の間に支承材84が介在しており、レール55、56、及び保持部材82よりも幅の狭い滑部84B、84Cが滑るので、板状の支承材とレールを接触させる場合に比べて、広い滑り面(接触面)が不要となる。また、支承材84では、滑部84B、84Cによって、支承材84とレール55、56との摩擦力、及び支承材84と保持部材82との摩擦力が低減されるので、躯体50の移動が容易となる。
さらに、保持部材82の長さ方向(矢印X方向)と交差する方向の両端部には、一対の第1壁体としての周壁部82Bが設けられており、レール56の長さ方向と交差する方向の両端部には、一対の第2壁体としての防止壁57が設けられているので、支承材84の上部は一対の周壁部82Bで矢印X方向と交差する方向の移動が抑制され、支承材84の下部は一対の防止壁57で矢印X方向の移動が抑制される。これにより、支承材84が保持部材82及びレール56から抜け出すのを防ぐことができる。
次に、本発明の躯体移動工法及び構造物の第4実施形態を図面に基づき説明する。なお、前述した第1〜第3実施形態と基本的に同一の部材には、前記第1〜第3実施形態と同一の符号を付与してその説明を省略する。
図15には、第4実施形態の支持手段80に換えて設けられた支持手段90の構成が示されている。支持手段90は、躯体50(本体鉄骨52)の下面から下方へ突出した板状の軸部92Aの両側面から水平方向に突出した凸部92Bを備えた凸部材92と、レール55、56と、凸部92Bを内包する凹部95が形成された支承材94とで構成されている。凸部材92は、矢印X方向(レール55の長さ方向)と交差する方向の断面が逆T字形状となっている。なお、支持手段90は躯体50の下面側に複数箇所設けられているが、いずれも同様の構成であるので、ここでは1箇所の支持手段90について説明する。
支承材94は、凹部95が形成された直方体状の弾性体(ゴム等)からなる本体部94Aと、本体部94Aの下面側に設けられた円柱状の滑部94Bとで構成されている。滑部94Bは、フッ素系の樹脂を円柱状に形成したもので、レール55の矢印X方向と交差する方向の幅よりも小さい幅となっており、レール55上に載置されている。また、凹部95は本体部94Aを矢印X方向に貫通している。
一方、凸部材92には、板材からなる一対のストッパー96A、96Bが着脱可能とされた図示しない係合穴が、矢印X方向に間隔をあけて形成されている。この間隔の大きさは、支承材94の本体部94Aの矢印X方向の幅よりも僅かに大きくなっている。ここで、ストッパー96A、96Bが係合穴に係合され支承材94の側面の外側に配置されると、支承材94の矢印X方向の移動が抑えられるようになっている。
また、凸部材92の矢印X方向の長さL4は、レール56の経路によって決まる躯体50の移動方向と交差する方向の移動量(最小必要幅)より長い長さとなっている。なお、長さL4は、第2実施形態の支承材54(図10参照)の最小必要幅と同様の手順で求められるため説明を省略する。
ここで、支承材94の滑部94Bがレール55上に載置され、凸部材92の凸部92Bに支承材94の凹部95が外挿されることで、躯体50がレール55、56上で移動可能に支持されている。
次に、本発明の第4実施形態の作用について説明する。
図15に示すように、躯体50を矢印X方向に移動する前に凸部材92の係合穴(図示省略)にストッパー96A、96Bを係合させて支承材94を固定し、躯体50を矢印X方向に移動する。このとき、支承材94はレール55の幅方向(矢印X方向と交差する方向)の移動が凸部材92との接触により抑制されており、且つ矢印X方向の移動がストッパー96A、96Bで抑制されているので、レール55及び凸部材92から脱落することなくレール55上を滑る。これにより、躯体50を矢印X方向に移動することができる。
続いて、支承材94がレール55とレール56の交点に位置したときにストッパー96A、96Bを取外す。そして、躯体50を矢印X方向と交差する方向(図15の奥行き方向)に移動する。このとき、支承材94は、防止壁57に沿って不整形なレール56上を移動すると共に、凸部材92の凸部92Bを矢印−X方向に滑り移動して、支持位置を変えながら躯体50を支持部材12(図10参照)上へ移動させる。これにより、支持部材12及びレール55、56の設置状態に関わらず、躯体50を矢印X方向と交差する方向へ移動させることができる。
このように、第4実施形態では、支持手段90を用いることによって、凸部材92に対する支承材94の位置が地震等によりずれることがあっても、凸部材92の凸部92Bに支承材94の凹部95の壁が接触して支承材94が保持されるので、支承材94の抜け出しを防ぐことができる。
次に、本発明の躯体移動工法及び構造物の第5実施形態を図面に基づき説明する。なお、前述した第1〜第4実施形態と基本的に同一の部材には、前記第1〜第4実施形態と同一の符号を付与してその説明を省略する。
図16(a)には、支持手段110を用いて、躯体100を仮設構台36から支持部材12上に移動させる状態が示されている。躯体100は、第1実施形態の躯体20(図1参照)における柱18の下端部に仮設梁102を架設したものである。また、躯体100は、梁22、26の1スパン毎に構築された第1ブロック100A、第2ブロック100B、及び第3ブロック100Cを連結した構成となっている。
図17(a)に示すように、支持手段110は、仮設梁102(躯体100)の下面に溶接等により固定された複数のレール112と、支持部材12の上面にボルト(図示省略)で固定された支承材114とで構成されており、躯体100の移動と共にレール112が支承材114上を滑る(摺動する)ようになっている。なお、支持手段110は躯体100の下面側に複数箇所設けられているが、いずれも同様の構成であるので、ここでは1箇所の支持手段110について説明する。
支承材114は、ゴムからなる板状の弾性部材の表面に摩擦係数の低いフッ素樹脂系のコーティングを施した板材114Aと、板材114Aの長さ方向の両端部に立設された防止壁114Bとで構成されている。なお、両端部の防止壁114Bで挟まれレール112が自由に移動可能な部位の長さを支承材114の長さL5とする。
一方、図17(b)に示すように、レール112は、躯体100の第1ブロック100Aの下面に設けられたレール112Aと、第2ブロック100Bの下面に設けられたレール112Bと、第3ブロック100Cの下面に設けられたレール112Cとで構成されている。なお、躯体へのレール112の設置箇所は、構築される建物の分割位置に合わせて変更可能であり、例えば、図16(b)に示すように、躯体40の下面にレール112を設置してもよく、あるいは、図16(c)に示すように、躯体42の下面にレール112を設置してもよい。
ここで、図17(a)、(b)に示すように、支承材114の長さL5は、レール112の経路によって決まる躯体100の移動方向(矢印X方向)と交差する方向の移動量である長さW5よりも長くなるように予め設定されている。なお、長さW5は、仮設構台36に最も近接して設けられた支持部材12上の移動開始点P1を通って矢印X方向と平行な直線(破線)Qと、仮設構台36から最も遠方に設けられた支持部材12上の移動終了点P2を通って矢印X方向と平行な直線(破線)Rとの間隔に等しい。
次に、本発明の第5実施形態の作用について説明する。
図16(a)に示すように、仮設構台36上で第1ブロック100Aを構築すると共に矢印X方向へ移動させ、同様に第2ブロック100B、第3ブロック100Cを順次構築及び移動させて、躯体100を支持部材12上に構築する。
ここで、図17(b)に示すように、各支持部材12上には、最小必要幅である長さW5よりも長い長さL5の支承材114が設けられているため、躯体100の移動方向である矢印X方向と平行ではないレール112A、112Bが移動しても、支承材114上から外れることがなくなる。これにより、支持部材12の設置状態に関わらず、躯体100を目的位置まで移動させることができる。
また、各支持部材12上に支承材114を設けることにより、複数の支持部材12間にレール112を架設する必要が無いので、支持部材12が点在していてレール112を架設することが困難な場所であっても、躯体100を移動させることができる。
次に、本発明の躯体移動工法及び構造物の第6実施形態を図面に基づき説明する。なお、前述した第1〜第5実施形態と基本的に同一の部材には、前記第1〜第5実施形態と同一の符号を付与してその説明を省略する。
図18(a)には、躯体100の下面側に支持手段120を設けた状態が示されている。なお、支持手段120は、躯体100の下面側に複数箇所設けられているが、いずれも同様の構成であるので、ここでは1箇所の支持手段120について説明する。また、躯体100の移動方向は、矢印X方向と矢印Y方向(図18(c)参照)の2方向に設定されている。
支持手段120は、仮設梁102の下面に溶接等により固定された第1支持手段122と、支持部材12(図17(a)参照)に架設されたH形鋼からなるレール基台124上に設けられた第2支持手段126とで構成されている。
第1支持手段122は、仮設梁102の幅よりも狭い幅のステンレス板からなる第1レール部材122Aと、2枚の第1レール部材122Aで前後を挟まれると共に直列配置され、第1レール部材122Aと同じ幅の第1支承材122Bと、を有している。
第1支承材122Bは、ゴムからなる板状の弾性部材の表面に摩擦係数の低いフッ素樹脂系のコーティングを施した板材で構成されている。また、第1支承材122Bの長さL6は、第2支持手段126の経路によって決まる躯体100の移動方向(矢印Y方向)と交差する方向の移動量よりも長くなるように予め設定されている。この移動量は、レール基台124上の第1支持手段122の移動開始点を通って矢印Y方向と平行な直線と、レール基台124上の移動終了点を通って矢印Y方向と平行な直線との間隔に等しい。
一方、図18(a)、(b)に示すように、第2支持手段126は、第1レール部材122A及び第1支承材122Bと同等もしくは僅かに広い幅を有する第2支承材126Aと、第2支承材126Aに連続して設けられたステンレス板からなる第2レール部材126Bと、を有している。第2支承材126Aは、ゴムからなる板状の弾性部材の表面に摩擦係数の低いフッ素樹脂系のコーティングを施した板材で構成されている。ここで、躯体100の矢印X方向の移動が終了したとき、第2支承材126A上に第1支承材122Bが配置されるように設定されている。
次に、本発明の第6実施形態の作用について説明する。
図18(a)、(b)に示すように、躯体100が矢印X方向に移動するとき、第2支承材126A上を第1レール部材122Aが滑りながら移動する。そして、躯体100の移動が終了したとき、第2支承材126A上には第1支承材122Bが配置される。
続いて、図18(c)に示すように、躯体100が矢印Y方向に移動するとき、第1支承材122Bは、第2支承材126A上から第2レール部材126B上へ移動する。ここで、第1支承材122Bの長さL6は、移動のための最小必要幅よりも長くなっているため、第2レール部材126B上から外れることがなく、躯体100を目的位置まで移動させることができる。
このように、支持手段120では、躯体100の矢印X方向の移動において、上側に第1レール部材122A、下側に第2支承材126Aとなるように配置しており、矢印Y方向の移動において、上側に第1支承材122B、下側に第2レール部材126Bとなるように配置していることで、躯体100の矢印X、Y方向への移動を可能としている。
次に、本発明の躯体移動工法及び構造物の第7実施形態を図面に基づき説明する。なお、前述した第1〜第6実施形態と基本的に同一の部材には、前記第1〜第5実施形態と同一の符号を付与してその説明を省略する。
図19(a)には、躯体100の下面側に支持手段130を設けた状態が示されている。なお、支持手段130は、躯体100の下面側に複数箇所設けられているが、いずれも同様の構成であるので、ここでは1箇所の支持手段130について説明する。また、躯体100の移動方向は、矢印X方向と矢印Y方向(図19(c)参照)の2方向に設定されている。
支持手段130は、仮設梁102の下面に溶接等により固定された第3レール部材132と、レール基台124上に設けられた第4レール部材134と、第3レール部材132及び第4レール部材134で挟持された支承材84とで構成されている。
第3レール部材132は、仮設梁102の幅よりも狭い幅のステンレス板からなるレール132Aと、レール132AのY方向の両端部から下側へ突設された防止壁132Bとを有しており、支承材84の滑部84Bの上面がレール132A下面と接触している。
一方、第4レール部材134は、レール基台124の幅よりも狭い幅のステンレス板からなるレール134Aと、レール134Aの矢印X方向の両端部から上側へ突設された防止壁134Bとを有しており、支承材84の滑部84Cの下面がレール134A上面と接触している。なお、レール134Aは、上方を第3レール132が移動する予め決められた位置に、一組の板材からなるストッパー136(図19(b)参照)が支承材84を挟んで取り付け又は取り外し可能となっている。
第3レール部材132の長さは、第4レール部材134の経路によって決まる躯体100の移動方向(ここでは矢印Y方向)と交差する方向の移動量(長さL7)よりも長くなっている。この移動量(長さL7)は、レール基台124上の第4レール部材134の移動開始点を通って矢印Y方向と平行な直線と、レール基台124上の移動終了点を通って矢印Y方向と平行な直線との間隔に等しい。
次に、本発明の第7実施形態の作用について説明する。
図19(b)に示すように、躯体100が矢印X方向に移動する前に第4レール部材134にストッパー136を取り付ける。これにより、支承材84は、第4レール部材134上において、矢印X方向の移動が防止壁134Bで抑制され、矢印Y方向の移動がストッパー136で抑制される。また、支承材84は、第3レール部材132において、矢印Y方向の移動が防止壁132Bによって抑制されているが、矢印X方向の移動は可能となっている。このため、躯体100が矢印X方向に移動すると、第3レール部材132が支承材84上を滑りながら矢印X方向に移動する。
続いて、図19(c)に示すように、躯体100の矢印X方向の移動が終了して矢印Y方向に移動するとき、第4レール部材134からストッパー136を取り外す。これにより、支承材84は、第4レール部材134上において矢印Y方向の移動が可能となる。また、支承材84は、第3レール部材132において矢印X方向の移動が可能となっている。このため、躯体100が矢印Y方向に移動すると、支承材84は、第4レール部材134に沿って矢印Y方向に移動すると共に、第3レール部材132に対しては矢印X方向と反対方向(−X方向)に移動することになる。
ここで、第3レール部材132の長さが移動のための最小必要幅である移動量L7よりも長くなっているため、支承材84が第4レール部材134に沿って移動しても、第3レール部材132の移動を抑制することがない。このため、躯体100を目的位置まで移動させることができる。
なお、本発明は上記の実施形態に限定されない。
支承材32は、テフロン(登録商標)板であってもよく、レール34は、上側フランジ部分の上面にステンレス板を貼り付けたものであってもよい。また、建物10、70における躯体の分割は4分割又は8分割に限らず、支持部材12の配置状態に合わせて2以上の複数分割で設定してもよい。さらに、躯体50、100の移動では、仮設構台36の設置位置に合わせて先に矢印Y方向に移動させてから、矢印X方向に移動させるようにしてもよい。