JP5389474B2 - 硬質被膜を有する球状化黒鉛鋳鉄材、プレス用金型、及び硬質被膜を有する球状化黒鉛鋳鉄材の製造方法 - Google Patents

硬質被膜を有する球状化黒鉛鋳鉄材、プレス用金型、及び硬質被膜を有する球状化黒鉛鋳鉄材の製造方法 Download PDF

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本発明は高張力鋼板のような高強度の鋼板をプレス加工するための金型材として好ましく用いられうる硬質被膜を有する球状化黒鉛鋳鉄材に関する。
近年、自動車製造の分野において、安全性の向上や、車体の軽量化を目的として高張力鋼板が多用される傾向にある。
高張力鋼板は高張力、高強度を有する。そのために、従来用いられてきたプレス鋼板に比べて、プレス成形加工時に高い加圧力が必要となる。
ところで、従来から、高張力鋼板のプレス加工に用いられる金型には鋼材が広く用いられてきた。しかしながら、鋼材は切削抵抗が高く、また、金型加工に要する切削容積が大きく、さらに鋼材自身のコストが比較的高いという問題があった。そのために、鋼材から得られる金型は、トータルコストが高くなるという問題があった。
上述したような問題を解決するために、例えば、下記特許文献1に示すような、鋳鉄材から得られる金型が知られている。鋳鉄材から得られる金型母材は、予め、加熱して溶かした鋳鉄を型に流し込み、冷えて固まった後、型から取り出して得られる。そして、表面のみを切削加工することにより仕上げられる。従って、切削加工が比較的簡単で、また、材料コストも比較的安くなる点からトータルコストを下げることができる。しかしながら、鋳鉄材を母材とする金型は、耐摩耗性に乏しいという欠点があった。そのために、高張力鋼板を加工するような金型として鋳鉄材を母材とする金型を用いた場合には、摩耗が発生しやすく、金型寿命が短くなるという問題があった。
鋳鉄材の耐摩耗性を向上させる技術としては、例えば、鋳鉄材の表面にチタン系被膜等の硬質被膜を形成させる方法が知られている。例えば、下記特許文献2には、鋳鉄の少なくとも一部の表面層をチル化し、そのチル化層の表面を研磨仕上げした後、PVDもしくはCVD処理によりチル化層表面に硬質被膜を生成させる方法が開示されている。なお、チル化とは、レーデブライト層とパーライトからなる組織を有し、黒鉛を含まない鋳鉄表面を形成させる表面処理である。このような表面処理は、例えば、鋳鉄の表面にレーザーやプラズマアーク等の高密度エネルギーを照射することにより、その表層部を再溶融した後、急速際凝固させることにより行われる。
特開平9−111395号公報 特開昭63−60270号公報
上述した特許文献2に開示された方法によれば、表層部に黒鉛を含まないチル化層が形成される。そしてチル化された表面の硬度は高くなる。従って、このようなチル化された表面に硬質被膜を形成した場合には、その表面硬度は比較的高くなる。しかしながら、このような方法により得られる部材においては、表面に黒鉛が存在しないために、黒鉛の自己潤滑作用による摺動性(滑り性)が失われてしまう。そのために、このような方法により得られる部材は、高い表面硬度を有するが、表面の摩擦係数も高くなる。従って、このような部材を用いて得られた金型を鋼板のプレス加工に用いた場合には、プレス時における表面の離型抵抗が高くなるために、硬質被膜の密着力が低いという問題が生じる。また、チル化に際しては、母材表面に高密度エネルギーを照射させて溶融した後、急速に再凝固させるような煩雑な工程が必要であるために、大型の金型の製造に適用した場合には、その全面をチル化することは多大な労力を要する。
本発明は、上述した問題を解決し、各種鋼板、特に、高張力鋼板等をプレス加工するのに好ましく用いられうる、高い密着力を有する硬質被膜が表面に形成された硬質被膜を有する球状化黒鉛鋳鉄材を提供することを目的とする。
本発明の一局面の硬質被膜を有する球状化黒鉛鋳鉄材は、窒化処理された球状化黒鉛鋳鉄の表面にチタン系硬質被膜が形成されており、前記表面における球状黒鉛の平均粒子径が30μm以下であることを特徴とする。このような構成によれば、密着力が著しく高いチタン系硬質被膜を有する球状化黒鉛鋳鉄材が得られる。
また、前記チタン系硬質被膜は、前記表面からTiN層、前記TiN層表面に形成されるTi(CxNy)層(但し、x+y=1,x<1で、前記TiN層表面から遠ざかるにつれてxが1に近づくように徐々に増大する)、及び前記Ti(CxNy)層表面に形成されたTiC層からなることがさらに高い硬質被膜の密着力が得られる点から好ましい。
また、前記チタン系硬質被膜はPVD法、好ましくはアークイオンプレーティング法を用いて形成された被膜であることが好ましい。PVD法による被膜形成によれば、500℃以下のような低温で被膜形成することができる。低温で被膜形成することにより、被膜形成後の歪みや熱変形が小さいために、より密着力の高い被膜を形成することができる。また、被膜形成後の寸法修正等のために加工を要せずに、そのまま使用することができるという利点もある。
また、本発明の他の一局面は、上記何れかに記載の硬質被膜を有する球状化黒鉛鋳鉄材からなるプレス用金型である。
また、本発明の他の一局面は、球状化黒鉛鋳鉄からなる母材を窒化処理する窒化処理工程と、前記窒化処理された母材表面にPVD法によりチタン系被膜を形成する被膜形成工程とを備え、前記母材表面における、球状黒鉛の平均粒子径が30μm以下であることを特徴とする硬質被膜を有する球状化黒鉛鋳鉄材の製造方法である。このような方法によれば、密着力が著しく高い炭化チタン系硬質被膜を有する球状化黒鉛鋳鉄材が得られる。
また、前記被膜形成工程は、前記母材とチタン蒸発源が載置された真空チャンバ内に窒素ガスを供給し、前記チタン蒸発源にアーク放電することによりチタンを蒸発させてプラズマを発生させ、前記プラズマによりイオン化された窒素イオン及びチタンイオンをバイアス電圧により加速させて前記金型母材表面に窒素イオン及びチタンイオンを被着させてTiN膜を形成する工程と、前記窒素ガスの供給を徐々に減少させるとともに、炭化水素ガスを供給量を徐々に増加させながら供給することによりTiCN膜を形成する工程と、
前記窒素ガスの供給を止め、前記炭化水素ガスのみを供給することによりTiC層を形成する工程とを備えることが好ましい。このような方法によれば、さらに高い硬質被膜の密着力が得られる。
本発明によれば、各種鋼板、特に、高張力鋼板等をプレス加工するのに好ましく用いられうる、高い密着力を有する硬質被膜を有する球状化黒鉛鋳鉄材が得られる。
図1は、本発明の実施形態における、チタン系硬質被膜を有する球状化黒鉛鋳鉄材の構成を示す断面模式図である。 図2は、本発明の実施形態で用いたイオンプレーティング装置の概念図である。 図3は、ビード引抜き特性の試験金型の形状の説明図である。 図4は、ビード引抜き特性の評価方法の説明図である。 図5は、実施例1で得られたプレス用金型に形成されたチタン系被膜における、圧痕テストの結果を示す。 図6は、比較例2で得られたプレス用金型に形成されたチタン系被膜における、圧痕テストの結果を示す。 図7は、実施例及び比較例で得られたプレス用金型における、表面の球状化黒鉛粒子の平均粒子径とチタン系硬質被膜のスクラッチ密着力との関係をプロットしたグラフである。
本発明の好ましい実施形態を図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態の窒化処理された球状化黒鉛鋳鉄1の表面にチタン系硬質被膜2が形成されている構成を示す断面模式図である。球状化黒鉛鋳鉄1の表層は、窒化処理により形成された窒化層1aが形成されている。そして、球状化黒鉛鋳鉄1の表面における球状黒鉛の平均粒子径は30μm以下である。
球状化黒鉛鋳鉄は、黒鉛が球状化された鋳鉄であれば特に限定されない。その具体例としては、鉄鋼記号FCD等で表されるものが挙げられる。これらの中でも特に、FCD540、FCD600、FCD700等が強度に優れている点から好ましく用いられる。
本発明における球状化黒鉛鋳鉄1の表面における、球状黒鉛の平均粒子径は30μm以下であり、好ましくは、20〜30μmである。本発明においては、このような球状化黒鉛鋳鉄の表面にチタン系硬質被膜を形成させることにより、密着力に優れた炭化チタン系硬質被膜を有する球状化黒鉛鋳鉄が得られる。前記平均粒子径が30μmを超える場合には、チタン系硬質被膜の密着力が著しく低下する。また、球状黒鉛の平均粒子径が20μm以下のものは生産が困難になる傾向がある。なお、球状黒鉛の平均粒子径は、窒化処理された球状化黒鉛鋳鉄の表面を金属顕微鏡で100倍の倍率で観察し、任意に100個の球状化黒鉛を選び、その各球状化黒鉛の面積を求め、それを等価円に換算したときの直径の平均値である。
本発明で用いられる球状化黒鉛鋳鉄の表面は、窒化処理されている。このような窒化処理は球状化黒鉛鋳鉄の表面を硬質化させる。そしてこのように硬質化された表面により、バックアップ力が向上し、その表面に形成されるチタン系硬質被膜の硬度及び密着力を充分に高めることができる。
本実施形態における窒化処理方法は特に限定されず、従来から知られた、イオン窒化法、パルスプラズマ拡散(PPD)窒化処理、タフトライト処理、ガス窒化処理等が特に限定なく用いられる。これらの中ではイオン窒化法や、PPD窒化処理が、母材の変態点以下の温度である、約500〜550℃の温度で窒化処理できるために、窒化処理前後の寸法変化を抑制することができる点から好ましい。
窒化層の厚みとしては、被膜形成前の球状化黒鉛鋳鉄の表面からの深さが50〜300μm、さらには100〜200μmであることが好ましい。窒化層の深さが浅すぎる場合には表面硬度が充分に高くならない。一方、窒化層を深くしすぎても、球状化黒鉛鋳鉄の表面に対する表面硬度の向上によるバックアップ力は頭打ちになり、また、長時間の窒化処理が必要になるために経済的ではない。
また、窒化層の一部を構成する表層部の化合物層の厚みとしては5〜20μm、さらには10〜15μmであることが好ましい。
チタン系硬質被膜2が形成される球状化黒鉛鋳鉄1の表面の表面粗さ(Ra)としては、0.1μm以下、さらには0.05μm以下であることが好ましい。表面の粗さがこのような範囲の場合には滑り性に優れ、摩擦抵抗の低い表面が得られる。特に、PVD法によりチタン系硬質被膜を形成する場合においては、緻密で平滑性の高い被膜が得られるために、球状化黒鉛鋳鉄1の表面の表面状態が被膜に反映されやすくなる。
チタン系硬質被膜は、チタンを主成分とする被膜であり、その具体例としては、例えば、窒化チタン、炭化チタン、炭窒化チタン等が挙げられる。
このようなチタン系硬質被膜は、従来から知られた、アークイオンプレーティング法等のイオンプレーティング法や、マグネトロンスパッタリング法等の反応性スパッタリング法等の物理蒸着法(PVD法)、化学的蒸着法(CVD)等を用いて形成される。これらの中では、PVD法による被膜形成によれば、500℃以下のような低温で被膜形成することができる点から好ましい。低温で被膜形成することにより、被膜形成後の歪みや熱変形を小さくすることができるために、より密着力の高い被膜を形成することができる。
チタン系硬質被膜としては、球状化黒鉛鋳鉄1の表面から遠ざかるにつれて窒素濃度が徐々に低下し、一方、炭素濃度が徐々に増大するような被膜であることが、特に、好ましい。具体的には、球状化黒鉛鋳鉄1の窒化層1aの表面には、窒化層1aと密着力のよいTiN層が形成されており、そして、TiN層中の窒素原子を徐々に炭素に置換するように炭素濃度が徐々に増大するTi(C)層(但し、x+y=1,x<1で、前記TiN層表面から遠ざかるにつれてxが1に近づくように徐々に増大する)が形成されており、金型表面の最表層に硬度及び滑り性に優れたTiC層が形成されていることが好ましい。このようなチタン系硬質被膜、硬度、密着力、滑り性に特に優れている。
チタン系硬質被膜2の厚みは、特に限定されないが、1〜5μm、さらには、2〜4μm程度であることが、被膜の内部応力バランスを維持してより高い密着力を確保できる点から好ましい。
チタン系硬質被膜を形成する方法の一例として、アークイオンプレーティング法を用いて上述したような、球状化黒鉛鋳鉄1の表面から遠ざかるにつれて窒素濃度が徐々に低下し、一方、炭素濃度が徐々に増大するような被膜を形成する方法について、図2を参照して詳しく説明する。
図2はアークイオンプレーティング法によるアーク式真空成膜装置の一例を示す。
はじめに、真空チャンバ10内の回転テーブル11に窒化層1aが形成された球状化黒鉛鋳鉄1を載置する。そして、真空チャンバ10内を、250〜550℃に昇温し、さらに、10−2〜10−3Pa程度にまで減圧した後、ガス導入口12aからアルゴン(Ar)ガスを導入する。なお、チタン系硬質被膜の密着力を向上させるために、球状化黒鉛鋳鉄1は400〜500℃程度に加熱されていることが好ましい。そして、球状化黒鉛鋳鉄1にバイアス電源15によりバイアス電圧を印加することによりArイオンを衝突させ、球状化黒鉛鋳鉄1の表面を活性化させる。
そして、アーク電源13a、14a及び陽極13b、14bによりアーク放電を発生させ、チタン蒸発源13,14のチタンを蒸発させる。同時に、ガス導入口12aから、例えば、窒素ガスを窒素源として、供給する。そして、アーク放電により発生したプラズマ中で、窒素及びチタンをイオン化し、バイアス電圧によりイオンを加速させることにより、上記イオン化物を球状化黒鉛鋳鉄1表面に被着させ、TiN膜を形成する。次に、ガス導入口12aから、炭素源である炭化水素ガスを供給することにより、TiCN膜を形成する。このとき、徐々に窒素ガスの供給を減少させ、炭化水素ガスの供給を増加させていく。そして、最後は窒素ガスの供給を止め、炭化水素ガスのみを供給する。このように、系内に供給する原料ガスとして、初期には窒素ガスを多く供給し、徐々に、窒素ガスを炭化水素ガスに置き換えていくことにより、球状化黒鉛鋳鉄1表面にTiN膜を形成させ、次に、徐々に膜中の窒素量が減少し、また、炭素量が増大するようにTi(C)層を形成させ、最後に、最外層にTiC層を形成させる。このように、密着力に優れたTiN層を金型表面に接触するように形成し、徐々に、窒素を炭素に置き換えるように層厚方向の組成を変化させ、その表面に滑り性と摩耗性に優れたTiC層を形成することにより、耐久性に優れた硬質膜を球状化黒鉛鋳鉄1の表面に形成することができる。
このように形成される硬質被膜を有する球状化黒鉛鋳鉄材の表面硬度(ビッカース硬度)としては、3000〜3800HV程度であることが耐摩耗性が高い点から好ましい。
このようなチタン系硬質被膜が形成された球状化黒鉛鋳鉄材は、チタン系硬質被膜の密着力に優れ、また、滑り性にも優れたものになる。従って、このような球状化黒鉛鋳鉄材は、各種鋼板のプレス加工、特に、高張力鋼板のプレス加工用の金型に好ましく用いられる。
実施例により、本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は実施例により何ら限定されるものではない。
(実施例1)
C:3.5%、Si:2.3%、Mn:0.5%、P:<0.05%、S:<0.02%、Mg:0.05%、Cu:0.4%(何れも質量%)の配合物500kgを高周波誘導電気炉で溶融することにより溶湯とした。そして、上記溶湯を1350〜1450℃で、図3に示すような形状を得るための砂型内に流し込み、1150〜950℃の温度範囲を約350℃/分の冷却速度で冷却した後、自然放冷して鋳物を得た。そして、得られた鋳物の表面に切削加工を施すことにより、図3に示したようなオス側金型母材20a及びメス側金型母材21aを作製した。
次にオス側金型母材20a及びメス側金型母材21aにイオン窒化処理を行った。具体的には、温度550℃、圧力250Paに設定したイオン窒化炉内に、オス側金型母材20a及びメス側金型母材21aを載置した。そして、オス側金型母材20a及びメス側金型母材21aに−400Vの直流電圧を印加しながら、窒素ガス含量50%の空気と窒素の混合ガスを流量2L/分で流した。そしてこの処理を約20時間行うことにより深さ150μmの窒化層を形成した。このとき、窒化層の表層部の13μmは化合物層であった。そして、化合物層の表面の数μmをブラスト研磨することにより、表面粗さ(Ra)約0.05μmの鏡面仕上げされた表面を形成した。得られた表面を金属顕微鏡で観察したところ、各粒子の粒子径の範囲が23〜28μmで、平均粒子径が25μmの球状黒鉛が観察された。
次に、鏡面仕上げされたオス側金型母材20a及びメス側金型母材21aの表面に、図2に示したようなアーク式真空成膜装置を用いて、アークイオンプレーティング法により以下の手順でチタン系硬質被膜を形成した。
はじめに、回転テーブル11上に、オス側金型母材20a及びメス側金型母材21aを載置した。そして、真空チャンバ10内を3×10−3Paにまで減圧した。オス側金型母材20a及びメス側金型母材21aそれぞれの温度は図略のヒータにより450℃になるように制御した。次に、ガス導入口12aからArガスを供給する一方、排気口から排気することにより内圧を2.7Paに維持した。
次に、Arガスの供給を止めた後、窒素ガスを3000mL/minの流量で7分間供給した。このときも内圧を2.7Paに維持していた。また、同時に、チタン蒸発源13,14にアーク放電することにより、チタンを蒸発させた。アーク放電により発生したプラズマ中で、窒素及びチタンはイオン化され、オス側金型母材20a及びメス側金型母材21aにバイアス電源15により印加されたバイアス電圧によりイオンが加速されて、それぞれの表面にTiN膜が形成された。
次に、窒素ガスの供給とメタンガスの供給量において、徐々に窒素ガスの供給量が減少し、メタンガスの供給量が増加するように制御しながら、窒素ガス及びメタンガスを内圧を2.7Paに維持しながら20分間供給した。そして、最終的には、窒素ガスの供給を止め、メタンガスのみを20分間供給した。
上記のような方法により、オス側金型母材20a及びメス側金型母材21aそれぞれの表面に約1μmのTiN層と、前記TiN層表面に約2μmのTi(C)層と、前記Ti(CxNy)層表面に約1μmのTiC層を形成させた。
このようにして得られた、チタン系硬質被膜が形成されたオス側金型20及びメス側金型21表面のマイクロビッカース硬度、スクラッチ密着力、ロックウエル圧痕テスト、及びビード引抜き特性を評価した。
なお、密着力は、CSEM社製のスクラッチ試験機(Automatic Scratch Tester REVETEST)を用いたスクラッチ測定値により評価した。また、ロックウエル圧痕テスト及びビード引抜き特性は、以下の方法により、評価した。
[ロックウエル圧痕テスト]
ロックウェル圧痕試験(圧子:ロックウェルCスケール、押し付け荷重:1470N(150kgf))を行い、圧痕周辺部の皮膜の状態から、以下の基準で密着性を評価した。なお、このときの圧痕の光学顕微鏡写真を図5に示す。
優:試験箇所の圧痕周辺部に剥離等の欠陥が認められなかった
良:試験箇所の圧痕周辺部に1箇所の欠陥が認められた
劣:試験箇所の圧痕周辺部の少なくとも2箇所の剥離等の欠陥が認められた
[ビード引抜き特性]
図4に示すように、20×300×1.4mmの高張力鋼材CR980Y(100k級ハイテン)からなる鋼板30をオス側金型20及びメス側金型21に挟み込んだ。そして、鋼板30を挟み込んだオス側金型20及びメス側金型21からなるプレス用金型を固定された小型プレス機にセットした。そして、小型プレス機によりオス側金型20及びメス側金型21を徐々に加圧しながら、挟み込まれた鋼板30の一端を定速(500mm/min)で引っ張った。そして、鋼板30が破断したときの引抜荷重F及び小型プレス機の押付荷重Pを測定した。
そして、引張初期及び破断時の引抜荷重F及び押付荷重Pから、「摩擦係数μ=引抜荷重F/押付荷重P」の式より摩擦係数を測定した。
結果を表1に示す。
(実施例2)
実施例1において、オス側金型母材20a及びメス側金型母材21aの作成時の1150〜950℃の温度範囲の冷却速度を約290℃/分にした以外は実施例1と同様にして窒化層が形成された表面粗さ(Ra)約0.05μmのオス側金型母材20a及びメス側金型母材21aを得た。得られた表面を金属顕微鏡で観察したところ、各粒子の粒子径の範囲が28〜32μmで、平均粒子径が30μmの球状黒鉛が観察された。そして、実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
(比較例1)
実施例1において、オス側金型母材20a及びメス側金型母材21aの作成時の1150〜950℃の温度範囲の冷却速度を約160℃/分にした以外は実施例1と同様にして窒化層が形成された表面粗さ(Ra)約0.05μmのオス側金型母材20a及びメス側金型母材21aを得た。得られた表面を金属顕微鏡で観察したところ、各粒子の粒子径の範囲が38〜42μmで、平均粒子径が40μmの球状黒鉛が観察された。そして、実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。また、このとき得られた、ロックウェル圧痕テストにおける圧痕の光学顕微鏡写真を図5に示す。
(比較例2)
実施例1において、オス側金型母材20a及びメス側金型母材21aの作成時の1150〜950℃の温度範囲の冷却速度を約60℃/分にした以外は実施例1と同様にして窒化層が形成された表面粗さ(Ra)約0.05μmのオス側金型母材20a及びメス側金型母材21aを得た。得られた表面を金属顕微鏡で観察したところ、各粒子の粒子径の範囲が53〜58μmで、平均粒子径が55μmの球状黒鉛が観察された。そして、実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
(比較例3)
実施例1において、オス側金型母材20a及びメス側金型母材21aの作成時の冷却速度を約30℃/分にした以外は実施例1と同様にして窒化層が形成された表面粗さ(Ra)約0.05μmのオス側金型母材20a及びメス側金型母材21aを得た。得られた表面を金属顕微鏡で観察したところ、各粒子の粒子径の範囲が65〜73μmで、平均粒子径が70μmの球状黒鉛が観察された。そして、実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。また、実施例1及び2、比較例1〜3における密着力の評価結果をプロットしたグラフを図7に示す。
表1及び図7に示したように、本発明に係る、球状黒鉛の平均粒子径が30μm以下である、窒化処理された球状化黒鉛鋳鉄の表面にチタン系硬質被膜を形成した実施例1及び実施例2においては、著しく高いスクラッチ密着力を示した。また、ロックウエル圧痕テストにおいても、剥離が殆ど認められなかった。一方、球状黒鉛の平均粒子径が30μmを超える、40μmの比較例1、55μm以下の比較例2、70μm以下の比較例3においてはから密着力が急激に低下した。
以上の結果より、球状黒鉛の平均粒子径が30μm以下であるような窒化された球状化黒鉛鋳鉄の表面にチタン系硬質被膜を形成することにより、密着力に優れたチタン系硬質被膜が得られることが分かる。
また、ビード引抜特性評価においては、比較例1〜3の引抜荷重が14〜18kNであるのに対して、実施例1及び2では27kN以上と高く、実施例1及び2の球状化黒鉛鋳鉄材から得られたプレス用金型の表面に形成された硬質被膜は滑り性に優れているために、ビード引抜特性にも優れていることが分かる。さらに、ビード引抜特性評価において測定された、初期摩擦係数及び破断時摩擦係数のいずれにおいても、比較例のプレス用金型よりも実施例のプレス用金型の方が低く、滑り性にも優れていることが分かる。
1 球状化黒鉛鋳鉄
1a 窒化層
2 チタン系硬質被膜
10 真空チャンバ
11 回転テーブル
12a ガス導入口
12b ガス排気口
13,14 チタン蒸発源
13a,14a アーク電源
13b,14b 陽極
15 バイアス電源
20 オス側金型
20a オス側金型母材
21 メス側金型
21a メス側金型母材
30 鋼板

Claims (7)

  1. 窒化処理された球状化黒鉛鋳鉄の表面にチタン系硬質被膜が形成されており、
    前記表面における球状黒鉛の平均粒子径が30μm以下であることを特徴とする硬質被膜を有する球状化黒鉛鋳鉄材。
  2. 前記チタン系硬質被膜が前記表面からTiN層、前記TiN層表面に形成されるTi(CxNy)層(但し、x+y=1,x<1で、前記TiN層表面から遠ざかるにつれてxが1に近づくように徐々に増大する)、及び前記Ti(CxNy)層表面に形成されたTiC層からなる請求項1に記載の硬質被膜を有する球状化黒鉛鋳鉄材。
  3. 前記チタン系硬質被膜がPVD法を用いて形成された被膜である請求項1または2に記載の硬質被膜を有する球状化黒鉛鋳鉄材。
  4. 前記PVD法がアークイオンプレーティング法である請求項3に記載の硬質被膜を有する球状化黒鉛鋳鉄材。
  5. 請求項1〜4の何れか1項に記載の硬質被膜を有する球状化黒鉛鋳鉄材からなるプレス用金型。
  6. 球状化黒鉛鋳鉄からなる母材を窒化処理する窒化処理工程と、前記窒化処理された母材表面にPVD法によりチタン系被膜を形成する被膜形成工程とを備え、
    前記母材表面における、球状黒鉛の平均粒子径が30μm以下であることを特徴とする硬質被膜を有する球状化黒鉛鋳鉄材の製造方法。
  7. 前記被膜形成工程が、前記母材とチタン蒸発源が載置された真空チャンバ内に窒素ガスを供給し、前記チタン蒸発源にアーク放電することによりチタンを蒸発させてプラズマを発生させ、前記プラズマによりイオン化された窒素イオン及びチタンイオンをバイアス電圧により加速させて前記金型母材表面に窒素イオン及びチタンイオンを被着させてTiN膜を形成する工程と、
    前記窒素ガスの供給を徐々に減少させるとともに、炭化水素ガスを供給量を徐々に増加させながら供給することによりTiCN膜を形成する工程と、
    前記窒素ガスの供給を止め、前記炭化水素ガスのみを供給することによりTiC層を形成する工程とを備える請求項6に記載の硬質被膜を有する球状化黒鉛鋳鉄材の製造方法。
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