JP5316394B2 - ハードコート層を有する樹脂基板の製造方法 - Google Patents

ハードコート層を有する樹脂基板の製造方法 Download PDF

Info

Publication number
JP5316394B2
JP5316394B2 JP2009283949A JP2009283949A JP5316394B2 JP 5316394 B2 JP5316394 B2 JP 5316394B2 JP 2009283949 A JP2009283949 A JP 2009283949A JP 2009283949 A JP2009283949 A JP 2009283949A JP 5316394 B2 JP5316394 B2 JP 5316394B2
Authority
JP
Japan
Prior art keywords
hard coat
resin substrate
group
coat layer
condensation
Prior art date
Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
Expired - Fee Related
Application number
JP2009283949A
Other languages
English (en)
Other versions
JP2011125764A (ja
Inventor
今日子 山本
崇 澁谷
Current Assignee (The listed assignees may be inaccurate. Google has not performed a legal analysis and makes no representation or warranty as to the accuracy of the list.)
AGC Inc
Original Assignee
Asahi Glass Co Ltd
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Application filed by Asahi Glass Co Ltd filed Critical Asahi Glass Co Ltd
Priority to JP2009283949A priority Critical patent/JP5316394B2/ja
Publication of JP2011125764A publication Critical patent/JP2011125764A/ja
Application granted granted Critical
Publication of JP5316394B2 publication Critical patent/JP5316394B2/ja
Expired - Fee Related legal-status Critical Current
Anticipated expiration legal-status Critical

Links

Landscapes

  • Application Of Or Painting With Fluid Materials (AREA)
  • Laminated Bodies (AREA)
  • Paints Or Removers (AREA)

Description

本発明は、ハードコート剤の硬化時間を短縮させることで生産効率の向上を可能とするハードコート層を有する樹脂基板の製造方法に関する。
近年、自動車等の車両用の窓ガラスや家屋、ビル等の建物に取り付けられる建材用の窓ガラスとして、これまでの無機ガラス板に代わって透明樹脂板の需要が高まっている。特に、自動車等の車両では軽量化のために、窓材に透明樹脂板を用いることが提案されており、とりわけ芳香族ポリカーボネート系の透明樹脂板は、耐破壊性、透明性、軽量性、易加工性などに優れるため、有望な車両用窓材としてその使用が検討されている。しかしながら、このような透明樹脂板は、無機ガラス板の代わりに使用するには耐擦傷性や耐候性の点で問題があった。そこで、透明樹脂板の耐擦傷性および耐候性を向上させる目的で、種々のハードコート剤、特にシリコーン系ハードコート剤を用いて透明樹脂板の表面に被膜を形成することが提案されている。
しかしながら、シリコーン系ハードコート剤においては、高硬度で高耐候性の被膜を形成させるために、耐候性に優れるシロキサン結合を形成することのできるシラノール基の縮合反応を硬化システムとして採用しているが、この縮合反応には通常長時間の加熱が必要とされるため、生産効率の改善が求められ、各種提案がなされるようになった。
このような提案の例として、特許文献1には、(メタ)アクリル官能性置換基とシラノール基を有するオルガノポリシロキサン樹脂を含有するコーティング剤組成物の技術が記載されている。特許文献1には、高エネルギー照射による(メタ)アクリル官能性置換基の重合反応とシラノール基の縮合反応を組み合わせることで、高硬度の被膜を短時間に形成することが可能であると記載されているが、ここで得られる被膜は高硬度、耐候性に優れるシロキサン結合以外の結合を有する被膜である。
硬化方法としては、マイクロ波照射を利用することも考えられる。マイクロ波を利用すると乾燥時間が短縮されるとともに作業効率が大幅に向上するなどの効果があるものの、反応が急速に起こるため塗料構成材料を適切に選択しないと発泡したりする。塗料分野においてマイクロ波照射を利用している例は、酸硬化型アミノアルキッド樹脂塗料、ポリエステル−ポリウレタン塗料、エポキシ樹脂塗料系の一部に実用例が示されているにすぎなく、メラミン樹脂塗料系では基材樹脂が部分的に損傷を受けてマイクロ波照射が適用できない例も示されている(特許文献2参照)。
このように、各種窓材、特に車両用窓材として有望なポリカーボネート系樹脂等からなる透明樹脂基材に十分な耐擦傷性および耐候性を付与し、透明性や耐破壊性といったその優れた特性を長期にわたって維持することを可能とするシリコーン系ハードコート層を、シリコーン系ハードコート剤の硬化時間を短縮する等により、生産性よく樹脂基板上に製造する方法が求められていた。
特開平10−30068号公報 特開2002−20453公報
本発明は、上記の従来技術が有する問題を解消すべくなされたものであって、ハードコート剤の硬化時間を短縮させることで、生産効率の向上を可能とするハードコート層を有する樹脂基板の製造方法を提供することを目的とする。
本発明のハードコート層を有する樹脂基板の製造方法は、樹脂基板の少なくとも一方の面上にオルガノポリシロキサンを含むハードコート剤組成物の硬化物からなるハードコート層を有する樹脂基板の製造方法であって、
水酸基を有するオルガノポリシロキサンを含むハードコート剤組成物を前記樹脂基板の少なくとも一方の面上に塗布し前記組成物からなる塗膜を形成する塗膜形成工程と、
前記塗膜に熱処理を施すことにより前記オルガノポリシロキサンを縮合硬化させおよびマイクロ波照射処理を施すことにより前記オルガノポリシロキサンを縮合硬化させてハードコート層とする縮合硬化工程と、
を有することを特徴とする。
本発明の製造方法によれば、耐擦傷性、耐候性にすぐれたハードコート層を有する樹脂基板の製造において、ハードコート剤の硬化時間を短縮することで、生産効率の向上に寄与することが可能である。
本発明の実施の形態を以下に説明する。
本発明の製造方法が対象とするハードコート層を有する樹脂基板は、樹脂基板の少なくとも一方の面上にオルガノポリシロキサンを含むハードコート剤組成物の硬化物からなるハードコート層を有する樹脂基板である。なお、本明細書において「樹脂基板の面上にハードコート層を有する」とは、樹脂基板の面上に直接ハードコート層を有する場合に加えて、樹脂基板の面上に後述するプライマー層のような機能層を介してハードコート層を有する場合も含むものである。すなわち、樹脂基板上に、プライマー層等の機能層、ハードコート層が順に積層された構成のハードコート層を有する樹脂基板も本発明の製造方法が適用可能である。
このようなハードコート層を有する樹脂基板の製造において、本発明の製造方法は、以下に説明する(1)塗膜形成工程および(2)縮合硬化工程を有することを特徴とする。
(1)塗膜形成工程
本発明の製造方法における塗膜形成工程は、水酸基を有するオルガノポリシロキサンを含むハードコート剤組成物を樹脂基板の少なくとも一方の面上に塗布し前記組成物からなる塗膜を形成する工程である。
(1−1)樹脂基板
本発明に用いる樹脂基板の材料である樹脂としては、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、芳香族ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアリレート樹脂、ハロゲン化ビスフェノールAとエチレングリコールとの重縮合物、アクリルウレタン樹脂、ハロゲン化アリール基含有アクリル樹脂等が挙げられる。
これらのなかでも芳香族系ポリカーボネート樹脂等のポリカーボネート樹脂やポリメチルメタクリレート系アクリル樹脂等のアクリル樹脂が好ましく、ポリカーボネート樹脂がより好ましい。さらに、ポリカーボネート樹脂のなかでも特にビスフェノールA系ポリカーボネート樹脂が好ましい。なお、樹脂基板は、上記のような熱可塑性樹脂を2種以上含んでもよいし、これらの樹脂を用いて、2層以上積層された積層基板であってもよい。また、樹脂基板の形状は、特に限定されず、平板であってもよいし、湾曲していてもよい。さらに、樹脂基板の色調は無色透明または着色透明であることが好ましい。
(1−2)ハードコート剤組成物の調製
本発明の製造方法に用いるハードコート剤組成物は、必須成分として水酸基を有するオルガノポリシロキサンを含有し、さらに必要に応じて添加される任意成分を本発明の効果を損なわない範囲で含有する。なお、後述の(2)縮合硬化工程におけるマイクロ波照射処理によるオルガノポリシロキサンの縮合硬化を効果的に行うために、任意成分として、アルコールおよび水を含有することが好ましい。また、同様にマイクロ波照射処理の観点から、任意成分として、マイクロ波の照射により放電現象を起こす金属粉や昇温により突沸する危険性のある溶剤を多量に含むことは好ましくない。以下、ハードコート剤組成物が含有する各成分について説明する。
(オルガノポリシロキサン)
本発明の製造方法に用いるハードコート剤組成物が含むオルガノポリシロキサンとしては、水酸基を有する硬化性のオルガノポリシロキサンであれば、特に制限なく用いることができる。なお、本発明の製造方法においては、オルガノポリシロキサンの有する水酸基が後述のマイクロ波照射処理により脱水縮合されて、その縮合硬化が著しく促進される。
オルガノポリシロキサンはM単位、D単位、T単位、Q単位と呼ばれる含ケイ素結合単位から構成される。この内、硬化性のオルガノポリシロキサンは主としてT単位またはQ単位から構成されるオリゴマー状のポリマーであり、T単位のみから構成されるポリマー、Q単位のみから構成されるポリマー、T単位とQ単位から構成されるポリマーがある。またそれらポリマーはさらに少量のM単位やD単位を含むこともある。
硬化性のオルガノポリシロキサンにおいて、T単位は、1個のケイ素原子を有し、そのケイ素原子に結合した1個の水素原子または1価の有機基と、他のケイ素原子に結合した酸素原子(または他のケイ素原子に結合できる官能基)3個とを有する単位である。ケイ素原子に結合した1価の有機基はケイ素原子に結合する原子が炭素原子である1価の有機基である。他のケイ素原子に結合できる官能基は水酸基または加水分解により水酸基となる基(以下加水分解性基という)である。他のケイ素原子に結合した酸素原子と他のケイ素原子に結合できる官能基の合計は3個であり、他のケイ素原子に結合した酸素原子と他のケイ素原子に結合できる官能基の数の違いにより、T単位はT1、T2、T3と呼ばれる3種の単位に分類される。T1は他のケイ素原子に結合した酸素原子の数が1個、T2はその酸素原子の数が2個、T3はその酸素原子の数が3個である。本明細書等においては、他のケイ素原子に結合した酸素原子をOで表し、他のケイ素原子に結合できる1価の官能基をZで表す。
なお、他のケイ素原子に結合した酸素原子を表すOは、2個のケイ素原子間を結合する酸素原子であり、Si−O−Siで表される結合中の酸素原子である。したがって、Oは、2つの含ケイ素結合単位のケイ素原子間に1個存在する。言い換えれば、Oは、2つの含ケイ素結合単位の2つのケイ素原子に共有される酸素原子を表す。後述含ケイ素結合単位の化学式において、1つのケイ素原子にOが結合している様に表現するが、このOは他の含ケイ素結合単位のケイ素原子と共有している酸素原子であり、2つの含ケイ素結合単位がSi−O−O−Siで表される結合で結合することを意味するものではない。
前記M単位は上記有機基3個とO1個を有する単位、D単位は上記有機基2個とO2個(またはO1個とZ基1個)を有する単位、Q単位は上記有機基0個とO4個(またはO1〜3個とZ基3〜1個の計4個)を有する単位である。それぞれの含ケイ素結合単位は、他のケイ素原子に結合した酸素原子(O)を有しない(Z基のみを有する)化合物(以下モノマーともいう)から形成される。T単位を形成するモノマーを以下Tモノマーという。M単位、D単位、Q単位を形成するモノマーも同様にMモノマー、Dモノマー、Qモノマーという。
モノマーは、(R’−)Si(−Z)4−aで表される。ただし、aは0〜3の整数、R’は水素原子または1価の有機基、Zは水酸基または他のケイ素原子に結合できる1価の官能基を表す。この化学式において、a=3の化合物がMモノマー、a=2の化合物がDモノマー、a=1の化合物がTモノマー、a=0の化合物がQモノマーである。モノマーにおいて、Z基は通常加水分解性基である。また、R’が2または3個存在する場合(aが2または3の場合)、複数のR’は異なっていてもよい。R’としては、後述の好ましいRと同じ範疇のものが好ましい。
硬化性オルガノポリシロキサンは、モノマーのZ基の一部をOに変換する反応により得られる。オルガノポリシロキサンが2種以上の含ケイ素結合単位を含むコポリマーの場合、通常、これらコポリマーはそれぞれ対応するモノマーの混合物から得られる。モノマーのZ基が加水分解性基の場合、Z基は加水分解反応により水酸基に変換され、次いで別々のケイ素原子に結合した2個の水酸基の間における脱水縮合反応により、2個のケイ素原子が酸素原子(O)を介して結合する。硬化性オルガノポリシロキサン中には水酸基(または加水分解しなかったZ基)が残存し、硬化性オルガノポリシロキサンの硬化の際にこれら水酸基やZ基が上記と同様に反応して硬化する。硬化性オルガノポリシロキサンの硬化物は3次元的に架橋したポリマーであり、T単位やQ単位の多い硬化性オルガノポリシロキサンの硬化物は架橋密度の高い硬化物となる。硬化の際、硬化性オルガノポリシロキサンのZ基がOに変換されるが、Z基(特に水酸基)の一部は残存し、水酸基を有する硬化物となると考えられる。硬化性オルガノポリシロキサンを高温で硬化させた場合は水酸基がほとんど残存しない硬化物となることもある。
モノマーのZ基が加水分解性基である場合、そのZ基としては、アルコキシ基、塩素原子、アシルオキシ基、イソシアネート基等が挙げられる。多くの場合、モノマーとしてはZ基がアルコキシ基のモノマーが使用される。アルコキシ基は塩素原子などと比較すると反応性の比較的低い加水分解性基であり、Z基がアルコキシ基であるモノマーを使用して得られる硬化性オルガノポリシロキサン中にはZ基として水酸基とともに未反応のアルコキシ基が存在することが多い。モノマーのZ基が反応性の比較的高い加水分解性基(例えば塩素原子)の場合、そのモノマーを使用して得られる硬化性オルガノポリシロキサン中のZ基はそのほとんどが水酸基となる。したがって、通常の硬化性オルガノポリシロキサンにおいては、それを構成する各単位におけるZ基は、水酸基からなるかまたは水酸基とアルコキシ基からなることが多い。
上述のように、本発明に用いる硬化性オルガノポリシロキサンは、マイクロ波照射による縮合硬化の促進を可能とするために水酸基を含有する。
本発明の製造方法においては、オルガノポリシロキサンの有する水酸基がマイクロ波照射処理により脱水縮合されて、その縮合硬化が著しく促進される。硬化性オルガノポリシロキサンの質量平均分子量にもよるが、硬化収縮による初期クラックが発生しない範囲で、硬化性オルガノポリシロキサンの水酸基含有量は多いほうがよい。さらに、Zがアルコキシ基である場合、硬化性オルガノポリシロキサン中に含まれる反応性の比較的低いアルコキシ基は加水分解反応により水酸基に変換され、その後のマイクロ波照射処理により脱水縮合し、縮合硬化が起こる。しかしながら、未反応で残った場合、ハードコート層の耐擦傷性の低下をまねくおそれがあり、後硬化が進行すればマイクロクラックの原因ともなるため、アルコキシ基に比べて水酸基の割合が多いほどよい。一般的に硬化性オルガノポリシロキサンで構成されるハードコート剤組成物は塗工液の貯蔵安定性の観点からpHを3.0〜6.0に調整しているため、Z基はアルコキシ基としてほぼ存在せず、水酸基として存在することが多い。
また、本発明においては、これら硬化性のオルガノポリシロキサンのうちでも、T単位を主な含ケイ素結合単位として構成される硬化性のオルガノポリシロキサンが好ましく用いられる。以下、特に言及しない限り、硬化性のオルガノポリシロキサンを単にオルガノポリシロキサンという。ここで、本明細書において、T単位を主な構成単位とするオルガノポリシロキサン(以下、必要に応じて「オルガノポリシロキサン(T)」という。)とは、M単位、D単位、T単位およびQ単位の合計数に対するT単位数の割合が50〜100%のオルガノポリシロキサンをいうが、本発明においてより好ましくは、該T単位数の割合が70〜100%のオルガノポリシロキサンを、特に好ましくは該T単位数の割合が90〜100%のオルガノポリシロキサンを用いるものである。また、T単位以外に少量含まれる他の単位としてはD単位とQ単位が好ましく、特にQ単位が好ましい。
すなわち、本発明においては、これら硬化性のオルガノポリシロキサンのうちでも、T単位とQ単位のみで構成され、その個数の割合がT:Q=90〜100:10〜0であるオルガノポリシロキサンが特に好ましく用いられる。
なお、オルガノポリシロキサンにおけるM単位、D単位、T単位、Q単位の数の割合は、29Si−NMRによるピーク面積比の値から計算できる。
本発明に用いるオルガノポリシロキサン(T)の質量平均分子量は、500〜10000であることが好ましく、500〜8000であることがより好ましい。オルガノポリシロキサンの質量平均分子量がこの範囲にあることで、硬化収縮による収縮応力による初期クラックが発生しにくい。
オルガノポリシロキサン(T)は、R−Si(−OY)で表されるTモノマーの少なくとも1種から製造されることが好ましい。この式において、Rは前記のRと同一であり、Yは炭素数1〜6のアルキル基を表す。Yは非置換のアルキル基以外に、アルコキシ置換アルキル基などの置換アルキル基であってもよい。1分子中の3個のYは異なっていてもよい。しかし、通常は3個のYは同一のアルキル基である。Yは、炭素数1〜4のアルキル基であることが好ましく、炭素数1または2であることがより好ましい。具体的なYとしては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、2−メトキシエチル基などが挙げられる。
Rは水素原子または炭素数が1〜10の置換または非置換の1価の有機基である。有機基とは、前記のようにケイ素原子に結合する原子が炭素原子である有機基をいう。
非置換の1価の有機基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、アリール基、アルアルキル基などの炭化水素基が挙げられる。これら炭化水素基としては、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数2〜10のアルケニル基やアルキニル基、炭素数5または6のシクロアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数7〜10のアルアルキル基が好ましい。具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ビニル基、アリル基、シクロヘキシル基、フェニル基、ベンジル基、フェネチル基等が挙げられる。
置換の1価の有機基としては、シクロアルキル基、アリール基、アルアルキル基などの環の水素原子がアルキル基で置換された炭化水素基、前記炭化水素基の水素原子がハロゲン原子、官能基、官能基含有有機基などで置換された置換有機基などがある。官能基としては水酸基、メルカプト基、カルボキシル基、エポキシ基、アミノ基、シアノ基などが好ましい。ハロゲン原子置換有機基としては、クロロアルキル基、ポリフルオロアルキル基などの塩素原子またはフッ素原子を有するアルキル基が好ましい。官能基含有有機基としては、アルコキシ基、アシル基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニル基、グリシジル基、エポキシシクロヘキシル基、アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アリールアミノ基、N−アミノアルキル置換アミノアルキル基などが好ましい。特に、塩素原子、メルカプト基、エポキシ基、アミノ基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、グリシジル基、アルキルアミノ基、N−アミノアルキル置換アミノアルキル基などが好ましい。官能基や官能基含有有機基などで置換された置換有機基を有するTモノマーはシランカップリング剤と呼ばれる範疇の化合物を含む。
置換有機基の具体例としては、以下の有機基が挙げられる。3−クロロプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、3−メルカプトプロピル基、p−メルカプトメチルフェニルエチル基、3−アクリロイルオキシプロピル基、3−メタクリロイルオキシプロピル基、3−グリシドキシプロピル基、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル基、3−アミノプロピル基、N−フェニル−3−アミノプロピル基、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピル基、2−シアノエチル基。
上記Rとして特に好ましい1価有機基は、炭素数1〜4のアルキル基である。オルガノポリシロキサン(T)としては、炭素数1〜4のアルキル基を有するTモノマーの単独またはその2種以上を使用して得られるオルガノポリシロキサンが好ましい。また、オルガノポリシロキサン(T)として炭素数1〜4のアルキル基を有するTモノマーの1種以上と少量の他のTモノマーを使用して得られるオルガノポリシロキサンもまた好ましい。他のTモノマーの割合はTモノマー全量に対し30モル%以下、特に15モル%以下が好ましい。他のTモノマーとしては、シランカップリング剤と呼ばれる範疇の、官能基や官能基含有有機基などで置換された置換有機基を有するTモノマーが好ましい。
炭素数1〜4のアルキル基を有するTモノマーの具体例としては、例えば、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシランが挙げられる。特に、メチルトリメトキシシランとエチルトリメトキシシランが好ましい。置換有機基等を有するTモノマーの具体例としては、例えば、下記の化合物が挙げられる。
ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3,3,3−トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、3−アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−シアノエチルトリメトキシシラン。
R−Si(−OY)で表されるTモノマー以外の(R’−)Si(−Z)4−aで表されるTモノマー(a=3)としては、例えば、メチルトリクロロシラン、エチルトリクロロシラン、フェニルトリクロロシラン、3−グリシドキシプロピルトリクロロシラン、メチルトリアセトキシシラン、エチルトリアセトキシシランなどが挙げられる。
(R’−)Si(−Z)4−aで表されるDモノマー(a=2)において、2個のR’は同一であっても、異なっていてもよい。同一の場合は、炭素数1〜4のアルキル基が好ましい。異なる場合は、一方のR’が炭素数1〜4のアルキル基であり、他方のR’が前記官能基や官能基含有有機基などで置換された置換有機基であることが好ましい。また、Z基としては、炭素数1〜4のアルコキシ基、アセトキシ基等が好ましい。Dモノマーとしては、例えば、下記の化合物が挙げられる。
ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、フェニルメチルジメトキシシラン、フェニルメチルジアセトキシシラン、3−クロロプロピルメチルジメトキシシラン、3,3,3−トリフルオロプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジエトキシシラン、3−アクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−シアノエチルメチルジメトキシシラン。
(R’−)Si(−Z)4−aで表されるQモノマー(a=0)において、4個のZ基は異なっていてもよいが、通常は同一である。Z基としては、炭素数1〜4のアルコキシ基が好ましく、特にメトキシ基またはエトキシ基であることが好ましい。Qモノマーとしては、例えば、下記の化合物が挙げられる。
テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラn−プロポキシシラン、テトラn−ブトキシシラン、テトラsec−ブトキシシラン、テトラt−ブトキシシラン。
本発明に用いるオルガノポリシロキサン(T)は、上記Tモノマー等を部分加水分解縮合させることによって得られる。通常、Tモノマー等と水とを溶媒中で加熱することによりこの反応を行う。反応系には触媒を存在させることが好ましい。モノマーの種類、水の量、加熱温度、触媒の種類や量、反応時間等の反応条件を調節して目的のオルガノポリシロキサンを製造することができる。また、場合によっては市販のオルガノポリシロキサンをそのまま目的のオルガノポリシロキサンとして使用することや、市販のオルガノポリシロキサンを使用して目的とするオルガノポリシロキサンを製造することも可能である。
上記触媒としては、酸触媒が好ましい。酸触媒としては、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、亜硝酸、過塩素酸、スルファミン酸等の無機酸;ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、シュウ酸、コハク酸、マレイン酸、乳酸、p−トルエンスルホン酸等の有機酸が挙げられる。特に、酢酸が好ましい。上記溶媒としては親水性の有機溶媒が好ましく、特にアルコール系溶媒が好ましい。アルコール系溶媒としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、2−エトキシエタノール、4−メチル−2−ペンタノール、2−ブトキシエタノール等が挙げられる。反応温度は、触媒が存在する場合室温で反応させることができる。通常は、20〜80℃の反応温度から目的に応じて適切な温度を採用する。
加水分解縮合反応は、Tモノマー(2個のケイ素原子を結合する酸素原子(O)を有しない、−OXのみを3個有するT単位。以下、「T0」ということもある)からT1が生成し、T1からT2が生成し、T2からT3が生成する反応である。加水分解性基の1個以上が水酸基変換されたT0からT1が生成する縮合反応、2個の−OXの少なくとも一方が水酸基であるT1からT2が生成する縮合反応、−OXが水酸基であるT2からT3が生成する縮合反応、の反応速度はこの順に遅くなると考えられる。加水分解性基の加水分解反応を考慮しても、反応が進むにしたがって各単位の存在量のピークはT0からT3へ移動していくと考えられる。反応条件が比較的温和である場合には存在量のピークの移動は比較的整然と進行すると考えられる。一方、反応条件が比較的激しい場合には反応がランダムに進行し各単位の存在量の分布は平板なものになり、T2やT3の存在量に対しT0やT1の存在量が多くなりやすい。
上記縮合反応の反応性はRによって変化し、Rが異なると水酸基の反応性も変化する。通常Rが小さいほど(例えば、Rがアルキル基の場合、アルキル基の炭素数が少ないほど)、水酸基の反応性は高い。したがって、加水分解性基の反応性と水酸基の反応性の関係を考慮して、Tモノマーを選択することが好ましい。
さらに、加水分解性基の水酸基への加水分解反応の速度は、加水分解性基の種類により変化し、縮合反応の速度との関係を考慮することが好ましい。例えば、T2のOX基がアルコキシ基である場合、その加水分解反応の速度が遅すぎると、OX基が水酸基であるT2が少なくなる。同様に、加水分解反応の速度が遅すぎるとOX基が水酸基であるT1が少なくなる。このため、オルガノポリシロキサン中のアルコキシ基に対する水酸基の存在量の比が高いものを得ることが困難となる。このため、OX基であるアルコキシ基は反応性の高いアルコキシ基、すなわち炭素数の低いアルコキシ基が好ましく、メトキシ基がもっとも好ましい。加水分解性基の反応性が充分高い場合、加水分解性基の割合の高いオルガノポリシロキサンから、縮合反応をあまり進めることなく、水酸基の割合の高いオルガノポリシロキサンを得ることができる。
本発明に用いるハードコート剤組成物は、上記水酸基を有する硬化性のオルガノポリシロキサン、好ましくはオルガノポリシロキサン(T)を含有する。ハードコート剤組成物におけるオルガノポリシロキサンの含有量は、溶媒を除く組成物(以下、必要に応じて「不揮発成分」という)全量に対して、50〜100質量%であることが好ましく、60〜95質量%であることがより好ましい。本発明において、不揮発成分の量は、150℃で45分間放置した後のハードコート剤組成物の質量変化に基づいて測定している。
(任意成分)
本発明に用いるハードコート剤組成物には、上記オルガノポリシロキサンの他に、種々の添加剤が含まれていてもよい。たとえば、本発明のハードコート層を有する樹脂基板のハードコート層の耐擦傷性をさらに向上させるためには、シリカ微粒子が含まれるハードコート剤組成物が好ましい。このために、ハードコート剤組成物にコロイダルシリカを配合することが好ましい。なお、コロイダルシリカとは、シリカ微粒子が、水またはメタノール、エタノール、イソブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル等の有機溶媒中に分散されたものをいう。
また、シリカ微粒子は、上記オルガノポリシロキサンの製造過程で、原料のモノマーに配合することもできる。コロイダルシリカを含む反応系中でオルガノポリシロキサンを製造することにより、シリカ微粒子を含むオルガノポリシロキサンが得られる。例えば、コロイダルシリカにTモノマーと必要により水や酸触媒を添加し、コロイダルシリカの分散媒中で前記のようにオルガノポリシロキサンを製造することができる。このようにして得られたオルガノポリシロキサンを使用して、シリカ微粒子を含む本発明に用いるハードコート剤組成物を製造することができる。
本発明に係るハードコート剤組成物に用いる上記シリカ微粒子は、平均粒径(BET法)が1〜100nmであることが好ましい。平均粒径が100nmを超えると、粒子が光を乱反射するため、得られるハードコート層の曇価の値が大きくなり、光学品質上好ましくない場合がある。さらに、平均粒径は5〜40nmであることが特に好ましい。これは、ハードコート層に耐擦傷性を付与しつつ、かつハードコート層の透明性を保持するためである。また、コロイダルシリカは水分散型および有機溶剤分散型のどちらも使用でき、水分散型を使用することが好ましい。さらには、酸性水溶液中で分散させたコロイダルシリカを用いることが特に好ましい。さらに、コロイダルシリカには、アルミナゾル、チタンゾル、セリアゾル等のシリカ微粒子以外の無機質微粒子を含有させることもできる。
本発明に用いるハードコート剤組成物におけるシリカ微粒子の含有量としては、溶媒を除く組成物(不揮発成分)全量に対して、1〜50質量%となる量が好ましく、5〜40質量%となる量がより好ましい。本発明に用いるハードコート剤組成物における不揮発成分中のシリカ微粒子の含有量が1質量%未満では、得られるハードコート層において十分な耐擦傷性を確保できないことがあり、前記含有量が50質量%を越えると、不揮発成分中の、オルガノポリシロキサンの割合が低くなりすぎて、オルガノポリシロキサンの熱硬化によるハードコート層形成が困難になる、得られるハードコート層にクラックが発生する、シリカ微粒子同士の凝集が起こってハードコート層の透明性が低下するなどのおそれがある。
本発明に用いるハードコート剤組成物はさらに、塗工性向上の目的で、消泡剤や粘性調整剤等の添加剤を含んでいてもよく、プライマー層への密着性向上の目的で密着性付与剤等の添加剤を含んでいてもよく、また、塗工性および得られる塗膜の平滑性を向上させる目的でレベリング剤を添加剤として含んでいてもよい。これらの添加剤の配合量は、オルガノポリシロキサン100質量部に対して、各添加剤成分毎に0.01〜2質量部となる量が好ましい。また、本発明に用いるハードコート剤組成物は、本発明の目的を損なわない範囲で、染料、顔料、フィラーなどを含んでいてもよい。
本発明に用いるハードコート剤組成物は、さらに硬化触媒を含有してもよい。硬化触媒としては、脂肪族カルボン酸(ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、乳酸、酒石酸、コハク酸等)のリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;ベンジルトリメチルアンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩等の四級アンモニウム塩;アルミニウム、チタン、セリウム等の金属アルコキシドやキレート;過塩素酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸ナトリウム、イミダゾール類及びその塩、トリフルオロメチルスルホン酸アンモニウム、ビス(トルフルオルメチルスルホニル)ブロモメチルアンモニウム等が挙げられる。また、硬化触媒の配合量は、オルガノポリシロキサン100質量部に対して、好ましくは0.01〜10質量部であり、より好ましくは0.1〜5質量部である。硬化触媒の含有量が0.01質量部より少ないと十分な硬化速度が得られにくく、10質量部より多いとハードコート剤組成物の保存安定性が低下したり、沈殿物を生じたりすることがある。
また、本発明に用いるハードコート剤組成物は、樹脂基板の黄変を抑制するために、さらに紫外線吸収剤を含むことが好ましい。紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾイミダゾール系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、サリシレート系紫外線吸収剤、ベンジリデンマロネート系紫外線吸収剤、トリアジン系紫外線吸収剤等が挙げられる。これらの紫外線吸収剤は、1種を使用してもよく2種以上を併用してもよい。また、ハードコート層からの上記紫外線吸収剤のブリードアウトを抑制するために、トリアルコキシシリル基を有する紫外線吸収剤を用いてもよい。トリアルコキシシリル基を有する紫外線吸収剤は、オルガノポリシロキサンの熱硬化によるハードコート層形成の際に、加水分解反応により水酸基に変換され、次いで脱水縮合反応によりハードコート層中に組み込まれ、紫外線吸収剤のハードコート層からのブリードアウトを抑制することができるものである。このようなトリアルコキシシリル基として、具体的には、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基等が挙げられる。ハードコート剤組成物中の紫外線吸収剤の含有量は、オルガノポリシロキサン100質量部に対して、0.1〜50質量部であることが好ましく、0.1〜30質量部であることが特に好ましい。
さらに、本発明においては、常温でのハードコート剤組成物のゲル化を防止し、保存安定性を増すために、ハードコート剤組成物のpHを3.0〜6.0に調整することが好ましく、4.0〜5.5に調整することがより好ましい。pHが2.0以下あるいは7.0以上の条件下では、ケイ素原子に結合した水酸基が極めて不安定であるため保存に適さない。pH調整の手法としては、酸の添加、硬化触媒の含有量の調整等が挙げられる。酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、亜硝酸、過塩素酸、スルファミン酸等の無機酸;ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、シュウ酸、コハク酸、マレイン酸、乳酸、p−トルエンスルホン酸等の有機酸が挙げられる。
本発明に用いるハードコート剤組成物は、通常、必須成分であるオルガノポリシロキサン、および任意成分である種々の添加剤等が溶媒中に溶解、分散した形態で調製される。前記ハードコート剤組成物中の全不揮発成分が溶媒に安定に溶解、分散することが必要であり、そのために溶媒は、好ましくはハードコート剤組成物全量に対して33〜97質量%、より好ましくは60〜95質量%のアルコールを含有する。また、本発明に用いるハードコート剤組成物は、オルガノポリシロキサンが溶媒に安定に溶解、分散する範囲で溶媒に水を含んでいてもよい。本発明の製造方法において、ハードコート剤組成物にアルコールと水を配合することにより、後述のマイクロ波照射処理に際して、まず誘電率の高いアルコールと水が選択的に加熱され、オルガノポリシロキサンの縮合硬化をより促進させることが可能となる。
このような溶媒に用いるアルコールとしては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、1−メトキシ−2−プロパノール、2−エトキシエタノール、4−メチル−2−ペンタノール、および2−ブトキシエタノール等が好ましく、これらのうちでも、オルガノポリシロキサンの溶解性が良好な点、塗工性が良好な点から、沸点が80〜160℃のアルコールが好ましい。具体的には、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、1−メトキシ−2−プロパノール、2−エトキシエタノール、4−メチル−2−ペンタノール、および2−ブトキシエタノールが好ましい。
また、本発明に係るハードコート剤組成物に用いる溶媒としては、オルガノポリシロキサンを製造する際に、原料モノマー、例えばアルキルトリアルコキシシランを加水分解することに伴って発生する低級アルコール等や、水分散型コロイダルシリカ中の水で加水分解反応に関与しない水分、有機溶媒分散系のコロイダルシリカを使用した場合にはその分散有機溶媒も含まれる。
さらに、本発明に用いるハードコート剤組成物においては、上記以外の溶媒として、水/アルコールと混和することができるアルコール以外の他の溶媒を併用してもよく、このような溶媒としては、アセトン、アセチルアセトン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸イソブチル等のエステル類;プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジイソプロピルエーテル等のエーテル類が挙げられる。
本発明に係るハードコート剤組成物において用いる溶媒の量は、ハードコート剤組成物中の全不揮発成分100質量部に対して、50〜3000質量部であることが好ましく、150〜2000質量部であることがより好ましい。
本発明に用いるハードコート剤組成物は、上記説明した各種成分を通常の方法で、均一に混合することで得られる。
(1−3)塗布
本発明の製造方法の(1)塗膜形成工程においては、上記のようにして調製したハードコート剤組成物を上記の樹脂基板上に塗布してハードコート剤組成物の塗膜を形成する。なお、ハードコート層を有する樹脂基板が、樹脂基板とハードコート層の間にプライマー層等の各種機能層を有する場合は、プライマー層等の上にハードコート剤組成物を塗布する。
ハードコート剤組成物を塗布する方法としては、特に限定されないが、スプレーコート法、ディップコート法、フローコート法等の通常の塗工方法が挙げられる。塗工方法によってハードコート剤組成物の粘度、固形分濃度等を適宜調整することが好ましい。
ハードコート剤組成物を樹脂基板等の表面に塗布して形成される塗膜の厚さは(硬化前の厚さ)は、組成物における固形分濃度による。硬化後の膜厚が所定の範囲内になるように、固形分濃度を勘案する等して、適宜調整することが好ましい。
なお、樹脂基板上に施されるハードコート層の膜厚は、硬化後の状態で、0.1μm以上20μm以下であることが好ましく、1μm以上10μm以下であることがさらに好ましく、2μm以上10μm以下であることが特に好ましい。ハードコート層の膜厚が小さすぎると、本発明の製造方法によるものであっても、十分な耐擦傷性を確保することは困難である。一方、ハードコート層の膜厚が大きすぎると、クラックや剥離が発生しやすくなるおそれがある。よって、十分な耐擦傷性を確保しつつ、クラックや剥離の発生を抑制するためには、ハードコート層の膜厚は、0.1μm以上20μm以下であることが好ましい。
(2)縮合硬化工程
縮合硬化工程は、上記樹脂基板上に形成されたハードコート剤組成物の塗膜に熱処理およびマイクロ波照射処理を施すことにより上記オルガノポリシロキサンを縮合硬化させてハードコート層とする工程である。なお、本明細書において、「ハードコート剤組成物が縮合硬化する」という場合があるが、これはハードコート剤組成物に含まれるオルガノポリシロキサンが縮合硬化することをいう。以下に(2−1)熱処理と(2−2)マイクロ波照射処理を具体的に説明するが、本発明の製造方法において、これらの両処理が施される限りにおいて、両処理の順番は問われず、どちらの処理を先に行ってもよい。また、これらの処理に先立って、必要に応じて乾燥の操作を設けてもよい。
(2−0)乾燥
上記(1)塗膜形成工程において樹脂基板上に形成されたハードコート剤組成物塗膜は、以下の熱処理およびマイクロ波照射処理(以下、両処理を合わせて「縮合硬化処理」ということもある)の前に、通常、常温〜樹脂基板の熱変形温度未満の温度条件下で乾燥することで、溶媒の除去が行われる。本発明においては、塗膜中の水およびアルコールの存在は、以下のマイクロ波照射処理においては有利に作用するため、乾燥を行わずに縮合硬化処理を行う方法をとってもよい。
(2−1)熱処理
上記(1)塗膜形成工程で得られた塗膜に対して行う熱処理は、樹脂基板の耐熱性に問題がない範囲において高い温度で行う方がより早く硬化を完了させることができ好ましい。しかし、例えば、1価の有機基としてメチル基を有するオルガノポリシロキサンを用いた場合、加熱硬化時の温度が250℃以上では、熱分解によりメチル基が脱離するため、好ましくない。よって、硬化温度としては、50〜200℃が好ましく、80〜160℃が特に好ましく、100℃〜140℃がとりわけ好ましい。また、加熱手段としては、自然対流型恒温器、定温型乾燥器、熱風循環式乾燥器、送風型乾燥器、真空乾燥装置で加熱する方法等が挙げられる。また、電気炉等も使用できる。さらに赤外線ランプを用いた加熱手段も適宜用いることが可能である。これらの加熱手段は、1種を使用してもよく2種以上を適宜組み合わせて使用してもよい。
本発明の製造方法における熱処理にかかる時間は、縮合硬化をマイクロ波照射処理と組み合わせていることから、熱処理のみでハードコート剤組成物塗膜の縮合硬化を完了させる時間より短く設定することが可能であり、具体的には、熱処理の温度にもよるが、5分間〜30分間に設定することが好ましい。この熱処理は、以下のマイクロ波照射処理の後に行われてもよく、マイクロ波照射処理の前に行われてもよい。
ここで、本発明の製造方法において、上記塗膜に対して行う熱処理は、主に塗膜表面付近のハードコート剤組成物を縮合硬化させることで、最終的に得られるハードコート層に良好な耐擦傷性を付与するための処理である。塗膜内部のハードコート剤組成物を均一に縮合硬化させるのは、主に以下のマイクロ波照射処理による。したがって、本熱処理においては、処理時間は塗膜表面の縮合硬化を十分に行う時間を選択すればよい。このような観点から、本発明の製造方法においては、上記5分間〜30分間が好ましい熱処理時間となる。
(2−2)マイクロ波照射処理
本縮合硬化工程においては、上記(1)塗膜形成工程で得られた塗膜に対して、上記熱処理のほかにマイクロ波照射処理が行われる。マイクロ波照射処理は上記熱処理の後に行われてもよく、熱処理の前に行われてもよい。
マイクロ波とは、周波数が300MHz〜300GHzの電磁波を指す。通常、溶液または固体等のマイクロ波吸収帯は10GHz以下の領域にある。したがって、本発明で使用するマイクロ波の周波数も、原理的には300MHz〜10GHzの範囲であればよいが、実際上、周波数が2.45GHzのマイクロ波が用いられる。これは、電波法により、ISMバンドと呼ばれる通信以外の目的で電波を利用する用途のために周波数帯が、例えば433.92(±0.87)MHz、896(±10)MHz、915(±13)MHz、2375(±50)MHz、2450(±50)MHz、5800(±75)MHz、24125(±125)MHz等に定められていることによる。この周波数帯のマイクロ波であれば、2.45GHzに限らず、被照射物に応じて適宜選択されて使用することが可能である。
マイクロ波の発振出力は、樹脂基材、ハードコート剤組成物塗膜の厚さ等に応じて、適宜調節することが好ましい。典型的には、0.05kW〜20kWであり、特に0.1kW〜1kWが好ましい。照射するマイクロ波はパルス波あるいは連続波のどちらの形態でも利用できる。本発明の製造方法におけるマイクロ波照射処理時間は、照射するマイクロ波の周波数、出力にもよるが、1分間〜30分間に設定することが好ましく、2分間〜15分間がより好ましく、2分間〜10分間が特に好ましい。
マイクロ波照射処理により、ハードコート剤組成物中のオルガノポリシロキサンの水酸基や、水・アルコールの水酸基が振動し発熱して温度上昇が起こる。これにより主に塗膜内部のハードコート剤組成物の縮合硬化を均一に行うことができる。
上記のように本マイクロ波照射処理は、主に上記熱処理で達成されない塗膜内部のハードコート剤組成物の縮合硬化を十分に行うことで、最終的に得られるハードコート層に十分な膜強度(機械的強度)を与えて耐擦傷性・耐候性を持たせるための処理であり、処理時間はこの縮合硬化が十分に行われる時間が選択される。ただし、マイクロ波の照射時間が長時間におよぶと、樹脂基板や任意で設けられるプライマー層が高温加熱され、光学ひずみが生じ、ハードコート層を有する樹脂基板として透明窓材の使用に耐えない外観となる場合がある。耐熱性の低い樹脂基板を用いる場合、その樹脂基板の温度管理を行いながらパルス波で照射してもよい。このような観点から本発明の製造方法においては、例えば2.54GHz、720Wの連続波の場合、上記5分間〜10分間が好ましいマイクロ波照射処理時間となる。
本発明の製造方法においては、オルガノポリシロキサンの縮合硬化を、上記熱処理とマイクロ波照射処理を併用することにより、熱処理のみで行われる縮合硬化に比べて、短時間で完了させることを可能としたものである。なお、得られる硬化被膜すなわちハードコート層は、本発明の方法によるものと熱処理のみで縮合硬化して得られるものに構造および物性の点で差がなく、耐候性および耐擦傷性に優れるものである。
ここで、本発明の製造方法においては、ハードコート剤組成物中のオルガノポリシロキサンの縮合硬化状態を判断する指標として、下記式(1)で算出される縮合度(%)を用いた。すなわち、用いる原料オルガノポリシロキサンの120℃、120分間の熱処理後の縮合度を100%として、各種条件で縮合硬化された検体の縮合度を計算した。
Figure 0005316394
(ただし、式(1)中、Rはオルガノポリシロキサンにおける所定量中の、縮合に関与しない基準の基(以下、基準基ともいう)に対する縮合に関与する基(以下、縮合基ともいう)の個数比(縮合基の個数/基準基の個数)を表し、R初期は縮合硬化処理前における値を、R120℃,120minは120℃、120分間の熱処理後における値を、R検体は縮合硬化工程後における値を、それぞれ示す。)
なお、上記R(縮合基の個数/基準基の個数)は、例えば、縮合に関与する基が水酸基のみであって、縮合に関与しない基準の基をメチル基とした場合、以下の式(2)で示されるように、FT−IRで測定される910cm−1付近に現れるSi−OHに由来する吸収の面積(ASi−OH,910cm−1)を、1270cm−1付近に現れるSi−CHに由来する吸収の面積(ASi−CH3,1270cm−1)で除することにより得ることができる。また、例えば、用いるオルガノポリシロキサンにおいて、上記縮合基や基準基が別の基であっても、その基が有する特定の吸収から同様にしてRの値を算出することが可能である。
Figure 0005316394
上記式(1)で示される縮合度は、原料オルガノポリシロキサンに含まれる縮合に関与する基が初期の状態から、縮合反応によりどれだけ消費され減少したかをみることで、縮合の度合いを判断するものである。つまり、ある温度で熱処理することにより、縮合反応に伴ってSi−OHに由来する吸収の面積の減少が起こることを表している。120℃で熱処理を行い、熱処理の時間とSi−OHに由来する吸収の面積の減少が停止する時間の関係を調査したところ、120分間熱処理したものは、これ以上熱処理時間を長くしても、Si−OHに由来する吸収の面積は減少しないことがわかった。そこで、本発明の製造方法においては、120℃、120分間の熱処理後のオルガノポリシロキサンの硬化縮合状態を縮合度100%として採用した。これは、120℃で縮合に関与する基が、全て縮合反応で消費された場合を100%とすることと、同等である。
なお、上記式(1)で算出される縮合度が93%以上であると、その検体(ハードコート層を有する樹脂基板)においては、ハードコート剤組成物中のオルガノポリシロキサンは、ほぼ完全に縮合硬化して、強固なシロキサン結合のネットワークが形成されており、したがって形成されたハードコート層は、概ね使用に耐える機械的強度を有し、耐擦傷性と耐候性等を備えるものといえる。また、より好ましい縮合度は94%以上である。
ここで、本発明の製造方法が対象とするハードコート層を有する樹脂基板のような薄膜材料の「硬さ」、すなわち、耐擦傷性といった機械的強度、を求める場合、一般的には微小硬度測定試験を用いて評価を行うことができる。微小硬度測定試験は、侵入深さから硬さを算出するこの試験方法であり、これにより、引っかき硬さに対応するマルテンス硬さHM(N/mm)と、押込み硬さに相当する押込み弾性率Eiη(GPa)を知ることができる。これらの硬さは耐擦傷性を表す指針となり、マルテンス硬さと押込み弾性率の比(HM/Eiη)を求めることで、耐擦傷性との相関を評価できる。
なお、本発明の製造方法が対象とするハードコート層を有する樹脂基板のハードコート層においては、このようにして評価される、マルテンス硬さと、押込み硬さから求められる押込み弾性率の比(HM/Eiη)が、測定条件:負荷速度F=0.5mN/5s、クリープC=5s、除荷速度F=0.5mN/5sにおいて、0.06〜0.1であることが好ましく、0.06〜0.08であることがより好ましい。
本発明の製造方法においては、(2)縮合硬化工程後におけるハードコート剤組成物中のオルガノポリシロキサンの上記縮合度が93%以上となるように(2)縮合硬化工程の条件を設定することが好ましく、94%以上となるように設定することがより好ましい。縮合度が93%未満となるような条件では、得られるハードコート層の耐候性や耐擦傷性が十分とはいえない場合がある。
具体的には、熱処理により縮合度を好ましくは50〜90%程度、より好ましくは60〜90%とした後、マイクロ波照射処理により縮合度を好ましくは93%以上、より好ましくは94%以上とする方法、マイクロ波照射処理により縮合度を好ましくは、50〜90%程度、より好ましくは60〜90%とした後、熱処理により縮合度を好ましくは93%以上、より好ましくは94%以上とする方法等が挙げられる。
ここで、熱処理による縮合硬化では、上記好ましい温度条件において時間を長く処理することでのハードコート層を有する樹脂基板の物性に与える弊害は殆どない。すなわち、本発明の製造方法において、熱処理の操作においては、処理温度が一定であれば処理時間と縮合度の関係を把握しておくことで、上記縮合度を指標として処理時間の管理を行うことが可能である。
一方、マイクロ波照射処理においては、縮合硬化がある程度促進されると、誘電率が高いシラノール基および溶剤であるアルコールや水が消費され、誘電率および誘電正接が低いシロキサン結合構造がハードコート剤組成物の塗膜の多くの部分を占めるようになり、樹脂基板や任意に設けられたプライマー層に対してマイクロ波照射が弊害を与える場合がある。
また、マイクロ波照射においては、長時間の照射に伴って樹脂基板自身に熱による光学歪みを生じることがある。例えばポリプロピレン樹脂、アクリル樹脂のような耐熱性の低い樹脂は顕著であり、本発明のポリカーボネート樹脂のような耐熱性の高い樹脂を用いても樹脂基板に含まれる微量の水が選択的に誘電加熱され、その結果熱により光学歪みを生じることもある。
上記の通りハードコート剤組成物の塗膜中の水およびアルコールの存在は、マイクロ波照射処理においては有利に作用するが、この塗膜中の水が樹脂基板に移行して樹脂基板の水の含有量を上げている場合がある。縮合硬化工程において、熱処理を先に行うと樹脂基板中の水の量が減少し、その後行われるマイクロ波照射処理において、マイクロ波照射処理を先に行う場合に比べて、樹脂基板に含まれる水に起因する光学歪みの発生なしに、長時間のマイクロ波照射が可能となる。一方、マイクロ波照射処理を先に行う場合には、熱処理を先に行う場合に比べて、通常、樹脂基板に含まれる水の量が多いことから、マイクロ波照射時間と水に起因する樹脂基板における光学歪みの発生の関係に留意が必要となることもある。
したがって、マイクロ波照射においては、その操作の特性、具体的には、熱処理との順番の関係等で変化する樹脂基板に含まれる水の量、これに関連して発生する光学歪みについて考慮しながら、照射時間との関係を把握しておくことで、上記縮合度を指標として処理時間の管理を行うことが可能である。
ここで、ハードコート剤組成物塗膜が十分な縮合度を示すまでに要する縮合硬化時間についていえば、熱処理のみの場合は、初期において一気に硬化が進むが一定レベル以降は硬化の進行は非常に遅くなり漸次進行する。したがって上記93%の縮合度に到達するまでに長時間を要する。これは熱処理による縮合硬化処理では、塗膜表面の縮合硬化は一気に進むが、塗膜内部の縮合硬化については表面から内部に進行する程時間を要するためと考えられる。本発明の製造方法により、熱処理とマイクロ波処理を組み合わせると、例えば、熱処理で一気に硬化が進むレベルまでは熱処理を行って塗膜表面を縮合硬化させ、以降縮合度が93%に達するまでマイクロ波処理を行い塗膜内部を迅速に縮合硬化させる等で、硬化時間を極端に短縮することが可能となる。
上記本発明の製造方法により得られるハードコート層を有する樹脂基板は、熱処理とマイクロ波照射処理を組合せることによりハードコート剤組成物の縮合硬化に要する時間が短縮されているにもかかわらず、長時間の熱処理によりハードコート剤組成物が縮合硬化して得られるハードコート層を有する樹脂基板とハードコート層の縮合のレベルを同等としたものであり、よって優れた耐候性、耐擦傷性を有するものである。
具体的には、本発明の製造方法により得られるハードコート層を有する樹脂基板のハードコート層は、マルテンス硬さと、押込み硬さから求められる押込み弾性率の比(HM/Eiη)が0.06〜0.1の範囲を概ね満足できるものである。
また、本発明の製造方法においては、このようにして得られるハードコート層を有する樹脂基板にさらなる耐擦傷性や膜強度を付与することを目的として、上記ハードコート層を有する樹脂基板のハードコート層の上に、主成分がSiOとなるトップコート層を施してもよい。主成分がSiOとなるトップコート層の形成方法としては、上記ハードコート層上にポリ(パーヒドロ)シラザンを塗工し硬化する手法や、蒸着、スパッタなどの手法を適用することが好ましい。
(プライマー層の形成)
本発明の製造方法が適用されるハードコート層を有する樹脂基板においては、樹脂基板と上記ハードコート層の間にプライマー層を有していてもよく、樹脂基板とハードコート層との密着性向上のためには、プライマー層を有していることが好ましい。プライマー層は、特に限定されないが、本発明においては、アクリル系ポリマー、紫外線吸収剤、および溶媒を含むプライマー組成物を樹脂基板上に塗布し乾燥させることによって形成することが好ましい。
このようなアクリル系ポリマーとしては、アルキル基の炭素数が6以下のアルキル基を有するアクリル酸エステルやメタクリル酸エステルから選ばれる少なくとも1種を「主なモノマー」(具体的には、原料モノマー全体に対して90〜100モル%、以下同様)とするホモポリマーやそれらモノマー同士のコポリマーが好ましい。また、上記主なモノマーと、それ以外のアクリル酸エステルやメタクリル酸エステルの少なくとも1種とのコポリマーも好ましい。前記それ以外のモノマーとしては炭素数7以上のアルキル基や炭素数12以下のシクロアルキル基を有するアクリル酸エステルやメタクリル酸エステルが挙げられる。また、これらモノマーとともに、官能基含有アルキル基(例えば、ヒドロキシアルキル基)を有するアクリル酸エステルやメタクリル酸エステルを少量共重合させて得られるコポリマーも使用できる。上記シクロアルキル基としては、シクロヘキシル基、4−メチルシクロヘキシル基、4−t−ブチルシクロヘキシル基、イソボルニル基、ジシクロペンタニル基、ジシクロペンテニルオキシエチル基などが挙げられる。
これらの中でも、本発明に用いるアクリル系ポリマーとしては、メタクリル酸アルキルエステルから選ばれる1種または2種以上を主なモノマー単位として重合して得られるポリマーが好ましい。さらに、メタクリル酸メチル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸tert−ブチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソブチル等から選ばれるアルキル基の炭素数が6以下のメタクリル酸アルキルエステルの1種または2種以上を主なモノマーとして重合して得られるホモポリマーまたはコポリマーが好ましく、メタクリル酸メチル、メタクリル酸tert−ブチル、メタクリル酸エチル等のホモポリマー、メタクリル酸メチルと、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソブチルから選ばれる1種または2種以上とのコポリマーがより好ましい。
その他に、加水分解性シリル基及び/又はSiOH基がC−Si結合を介して結合したアクリル系単量体から選ばれる1種以上を重合/共重合して得られるアクリル系ポリマーも採用できる。
前記アクリル系単量体としては、3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルジメチルメトキシシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン等が挙げられる。
また、プライマー層形成に用いられるこれらのアクリル系ポリマーは、質量平均分子量が20,000以上であることが好ましく、50,000以上がより好ましく、1百万以下のものが好ましく使用される。質量平均分子量がこの範囲にあるアクリル系ポリマーは、プライマー層としての密着性や強度の性能が十分に発揮され好ましい。
プライマー層には、樹脂基板の黄変を抑制するために、紫外線吸収剤が含まれていてもよい。紫外線吸収剤としては、上記本発明のハードコート剤組成物に含まれる紫外線吸収剤と同様のものを用いることができる。これらは1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。プライマー層中の紫外線吸収剤の含有量は、アクリル系ポリマー等の樹脂成分100質量部に対して、1〜50質量部であることが好ましく、1〜30質量部が特に好ましい。
プライマー層は、さらに光安定剤等を含んでもよい。光安定剤としては、ヒンダードアミン類、;ニッケルビス(オクチルフェニル)サルファイド、ニッケルコンプレクス−3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルリン酸モノエチラート、ニッケルジブチルジチオカーバメート等のニッケル錯体が挙げられる。これらは2種以上を併用してもよい。プライマー層中の光安定剤の含有量は、アクリル系ポリマー等の樹脂成分100質量部に対して、0.1〜50質量部であることが好ましく、0.1〜10質量部が特に好ましい。
プライマー層形成に用いるプライマー組成物には、通常、溶媒が含まれる。溶媒としては、前記アクリル系ポリマーを安定に溶解することが可能な溶媒であれば、特に限定されない。具体的には、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン等のエーテル類;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸メトキシエチル等のエステル類;メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、2−メトキシエタノール、4−メチル−2−ペンタノール、2−ブトキシエタノール、1−メトキシ−2−プロパノール、ジアセトンアルコール等のアルコール類;n−ヘキサン、n−ヘプタン、イソクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、ガソリン、軽油、灯油等の炭化水素類;アセトニトリル、ニトロメタン、水等が挙げられる。これらは2種以上を併用してもよい。
溶媒の量は、アクリル系ポリマー等の樹脂成分100質量部に対して、50〜10000質量部であることが好ましく、100〜10000質量部が特に好ましい。なお、プライマー組成物中の不揮発成分(固形分)の含有量は、組成物全量に対して0.5〜75質量%であることが好ましく、1〜40質量%であることが特に好ましい。
上記プライマー組成物は、レベリング剤、消泡剤、粘性調整剤等の添加剤をさらに含んでいてもよい。
プライマー組成物を樹脂基板上に塗布する方法としては、特に限定されないが、スプレーコート法、ディップコート法、フローコート法等が挙げられる。また、乾燥のための加熱条件は、特に限定されないが、50〜140℃で5分間〜3時間であることが好ましい。
上記プライマー組成物を用いて樹脂基板上に形成されるプライマー層は、プライマー層の膜厚が小さすぎると、樹脂基板とハードコート層との密着性を向上させる効果が不十分となることがあるため、樹脂基板とハードコート層とを十分に接着し、前記添加剤の必要量を保持するのに必要な膜厚であればよい。このようなプライマー層の厚さとしては、0.1μm以上10μm以下であることが好ましく、2μm以上8μm以下であることが特に好ましい。
なお、本発明の製造方法の対象となるハードコート層を有する樹脂基板が、上記プライマー層を有する場合には、このようにして形成されたプライマー層上に上で述べたのと同様にしてハードコート層を形成することで、本発明によりハードコート層を有する樹脂基板を製造することができる。
以下に実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。なお、例1〜例4は実施例であり、例5、例6は参考例、例7〜例11は比較例である。
(1)ハードコート剤組成物のケイ素原子の結合状態の解析
ハードコート剤組成物のケイ素原子の結合状態、具体的には、M単位、D単位、T単位、Q単位の存在の割合、およびT0〜T3の存在比を、核磁気共鳴分析装置(29Si−NMR:日本電子株式会社製、ECP400)を用いて、29Si−NMRのピーク面積比からそれぞれ求めた。測定条件はポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製10mmφ試料管使用、プローブ:T10、共鳴周波数79.42MHz、パルス幅10μsec、待ち時間20sec、積算回数1500回、緩和試薬:Cr(acac)を0.1質量%、外部標準試料:テトラメチルシランである。また、各構造に由来する29Si−NMRの化学シフトは、メチル系オルガノポリシロキサンの場合、以下のとおりである。
(M単位〜Q単位)
M単位:15〜5ppm、
D単位:−15〜−25ppm、
T単位:−35〜−75ppm、
Q単位:−90〜−130ppm。
(T0〜T3)
T0:−40〜−41ppm、
T1:−49〜−50ppm、
T2:−57〜−59ppm、
T3:−66〜−70ppm。
(2)数平均分子量Mn、質量平均分子量Mw、および分散度Mw/Mn
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC、Waters社製のWaters2695、RI検出、カラム:Styragel ガードカラム+HR1+HR4+HR5E、溶離液:クロロホルム)によって求めた。
[1]オルガノポリシロキサンの合成
1リットルのフラスコに、約15nmの平均粒子径をもつ水分散コロイダルシリカ(pH3.1,固形分35質量%)200gと酢酸0.2gを仕込み、メチルトリメトキシシラン138gを添加した。1時間撹拌した後、組成物のpHは4.5で安定化した。この組成物を25℃で4日間熟成してシリカ・メタノール−水分散液中で部分加水分解縮合を確実に形成させた。この組成物は不揮発成分が40質量%(150℃、45分)で、得られたオルガノポリシロキサンはT単位を主とした結合構造(T単位の個数:M単位とD単位とQ単位のそれぞれの個数の総量=100:0)をもち、29Si−NMRの化学シフトから求めたT体の存在比は、T0:T1:T2:T3=ND:2:54:44であった。数平均分子量はMn=400、質量平均分子量Mw=670、分散度Mw/Mn=1.68であった。得られたオルガノポリシロキサンには、モノマー状のT0体[R−Si(OH)](Rは1価有機基)がほぼ存在せず、原料のメチルトリメトキシシランはオリゴマー状シリコーン化合物にほぼ完全に転換されていることが確認された。
[2]ハードコート剤組成物の調製
上記[1]で得られたオルガノポリシロキサン100質量部に、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤4質量部を加え、25℃で24時間以上熟成した。希釈溶媒として1−ブタノール、イソプロパノールを用いて、不揮発成分が25質量%(150℃、45分)、粘度が4.4mPa・sのハードコート剤組成物であるオルガノポリシロキサン組成物溶液PSi−1(PSi−1濃度:16.8質量%)を調製した。
[3]ハードコート層を有する樹脂基板サンプルの作製
上記[2]で得られたハードコート剤組成物を用いて、以下のようにして各例のハードコート層を有する樹脂基板サンプルを作製した。ハードコート剤組成物の硬化手段として、加熱手段は、熱風循環式乾燥器(三洋電機社製、CONVECTION OVEN、 MOV−202F)を使用した。マイクロ波照射手段は、電子レンジ(シャープ社製、電子レンジ、RE−TD1−W5P)を使用して、ハードコート層を有する樹脂基板サンプルを作製した。
[例1]
厚さ3mmのポリカーボネート板(カーボグラス(登録商標)ポリッシュ クリヤー(商品名、旭硝子社製))に、プライマーSHP470(商品名、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製、固形分10質量%溶液)をディップ方式で、乾燥後の膜厚が4〜5μmになるように塗工し、120℃に設定した熱風循環式乾燥器を用いて30分間の加熱乾燥を行いプライマー層を形成させた。。つぎに、得られたプライマー層上に、上記[2]で調整したハードコート剤組成物PSi−1をディップ方式でコーティングし、25℃で20分間保持後、120℃に設定した熱風循環式乾燥器を用いて15分間の熱処理をした後、周波数2.45GHz、発振出力750Wに設定した電子レンジで、5分間のマイクロ波照射処理を行い、ハードコート層を有する樹脂基板のサンプルを作製した。ハードコート層の膜厚は4〜5μmであった。このサンプルは、ポリカーボネート板の両面にプライマー層とハードコート層が形成されたものである。
[例2]
例1と同様にプライマー層を形成させたポリカーボネート板に、上記[2]で調製したハードコート剤組成物PSi−1をディップ方式でコーティングし、25℃で20分間保持後、120℃で15分間の熱処理を施した、さらにその後、周波数2.45GHz、出力750Wに設定した電子レンジで10分間のマイクロ波照射処理を行い、ハードコート層を有する樹脂基板のサンプルを作製した。ハードコート層の膜厚は4〜5μmであった。
[例3]
例1と同様にプライマー層を形成させたポリカーボネート板に、上記[2]で調製したハードコート剤組成物PSi−1をディップ方式でコーティングし、25℃で20分間保持後、120℃で5分間の熱処理を施し、さらにその後、周波数2.45GHz、出力750Wに設定した電子レンジで5分間のマイクロ波照射処理を行い、ハードコート層を有する樹脂基板のサンプルを作製した。ハードコート層の膜厚は4〜5μmであった。
[例4]
例1と同様にプライマー層を形成させたポリカーボネート板に、上記[2]で調製したハードコート剤組成物PSi−1をディップ方式でコーティングし、25℃で20分間保持後、周波数2.45GHz、出力750Wに設定した電子レンジで5分間のマイクロ波照射処理を行い、さらにその後、120℃で15分間の熱処理を施して、ハードコート層を有する樹脂基板のサンプルを作製した。ハードコート層の膜厚は4〜5μmであった。
[例5]
例1と同様にプライマー層を形成させたポリカーボネート板に、上記[2]で調製したハードコート剤組成物PSi−1をディップ方式でコーティングし、120℃で60分間の熱処理を施して、ハードコート層を有する樹脂基板のサンプルを作製した。ハードコート層の膜厚は4〜5μmであった。
[例6]
後述のハードコート剤組成物の縮合度の算出のために、硬化条件を120℃、120分間の熱処理としてハードコート層を有する樹脂基板のサンプルを作製した。すなわち例1と同様にプライマー層を形成させたポリカーボネート板に、上記[2]で調製したハードコート剤組成物PSi−1をディップ方式でコーティングし、120℃で120分間の熱処理を施して、ハードコート層を有する樹脂基板のサンプルを作製した。ハードコート層の膜厚は4〜5μmであった。
[例7〜9]
例1と同様にプライマー層を形成させたポリカーボネート板に、上記[2]で調製したハードコート剤組成物PSi−1をディップ方式でコーティングし、120℃、5分間の熱処理(例7)、120℃、15分間の熱処理(例8)、120℃、30分間の熱処理(例9)を行い、ハードコート層を有する樹脂基板のサンプルを作製した。ハードコート層の膜厚は4〜5μmであった。
[例10〜11]
例1と同様にプライマー層を形成させたポリカーボネート板に、上記[2]で調製したハードコート剤組成物PSi−1をディップ方式でコーティングし、熱硬化は併用せずに、周波数2.45GHz、出力750Wの電子レンジでマイクロ波照射時間を5分間(例10)、10分間(例11)としてマイクロ波照射を行い、ハードコート剤組成物PSi−1を硬化させてハードコート層を有する樹脂基板のサンプルを作製した。ハードコート層の膜厚は4〜5μmであった。
[4]ハードコート層を有する樹脂基板サンプルの評価
上記[3]の各例で得られたハードコート層を有する樹脂基板サンプルについて、下記項目の評価を行った。
<1>ハードコート剤組成物の縮合度
硬化に伴うオルガノポリシロキサン(ハードコート剤組成物)の縮合度については、硬化前の溶媒をほぼ除去した膜、上記[3]の各例において種々の条件で硬化させたハードコート層のそれぞれについて、Si−OHの量とSi−CHの量を、赤外吸光分析装置(FT−IR、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製、型式:Avatar/Nicolet FT−IR360)、測定方法は全反射法(ATR法)を用いて測定して以下の式(2)より両者の量比を算出し、これを式(1)に挿入して求めたものである。
Figure 0005316394
ここで、式(1)中、R初期、R検体およびR120℃,120minは、それぞれ硬化前の溶媒をほぼ除去した膜、種々の条件で硬化させたハードコート層(検体)および120℃で120分間の熱処理で硬化させたときのハードコート層における、下式(2)で求められるSi−OHとSi−CHの量比である。
Figure 0005316394
式(2)中、ASi−OH,910cm−1は、FT−IRで測定された910cm−1付近に現れるSi−OHに由来する吸収の面積を、ASi−CH3,1270cm−1は、同様に1270cm−1付近に現れるSi−CHに由来する吸収の面積を示す。
<2>初期評価
<2−1>初期外観
上記[3]で得られた初期の状態のハードコート層を目視で観察し、異常の有無を判定した。
○:異常なし
×:ハードコート層にクラックあり
<2−2>膜厚
各サンプルにおけるハードコート層の膜厚を干渉膜厚測定装置(スペクトラ・コープ社製、Solid Lambda Thickness)を用いて測定した。このとき、屈折率はn=1.46の値を用いた。
<2−3>耐擦傷性
JIS K5600(5.9)に準拠し、テーバー磨耗試験機(東洋精機製作所社製、型式:ROTARY ABRASION TESTER)に磨耗輪 CALIBRASE(登録商標)CS−10F(TABER社製)を装着し、荷重500g下での500回転後のヘーズ(曇価)を測定し、試験後と試験前の曇価差ΔH500を耐擦傷性とした。ヘーズはJIS K7105(6.4)に準拠し、ヘーズメーター(スガ試験機株式会社製、型式:HGM−2)にて測定した。ΔH500≦10であれば合格とし、「○」と表記した。一方、ΔH500>10であれば不合格とし、「×」と表記した。
<2−4>微小硬度測定
微小硬さ試験機(フィッシャーインスツルメンツ社製、ピコデンター HM500)にビッカース角錐圧子を装着し、負荷−除荷試験を行い、荷重/進入深さ曲線を測定した。ここで、負荷速度F=0.5mN/5s、クリープC=5s、除荷速度F=0.5mN/5sである。測定データはWIN−HCU(フィッシャーインスツルメンツ社製)により処理され、引っかき硬さであるマルテンス硬さHM(N/mm)および押込み硬さから求めた押込み弾性率Eiη(GPa)を測定した。さらにHM/Eiηの値を求めた。
<3>耐候性評価
<3−1>耐候性試験
光源にメタルハライドランプを用いた促進耐候性試験機(ダイプラ・ウインテス製;ダイプラ・メタルウェザー KU−R4)を用い、光の照射、結露、暗黒の3条件を連続で負荷した後、目視により492時間経過後のクラックの有無および剥離について評価した。なお、前記光の照射の条件は、照度90mW/cm、ブラックパネル温度63℃、相対湿度70%の条件下で4時間光を照射するものであり、前記結露の条件は、光を照射せずに相対湿度98%の条件下でブラックパネル温度を70℃から30℃に自然冷却させて4時間保持するものであり、前記暗黒の条件は光を照射せずにブラックパネル温度70℃、相対湿度90%の条件下で4時間保持するものである。
<3−2>耐候クラック性
上記耐候性試験後のハードコート層の外観を下記基準で目視で観察し、異常の有無を判定した。
○:異常なし
×:ハードコート層にクラックまたは剥離あり
<4>総合評価
上記<2−1>初期外観、<2−3>耐擦傷性、および<3−2>耐候クラック性での判定のうち全ての判定で合格であれば、総合評価において合格とし、「○」と表記した。一方、全ての判定で合格でない場合は、総合評価において不合格とし、「×」と表記した。
上記で得られたハードコート剤組成物の縮合度、初期外観、耐擦傷性、微小硬度、および耐候性試験の評価結果を表1に示す。
Figure 0005316394
参考例である例5により、ハードコート剤組成物の硬化によるハードコート層を有する樹脂基板は120℃、60分間の熱処理により耐擦傷性、耐候性が付与されることがわかる。
縮合硬化工程の条件が本発明の範囲外(比較例)である例7〜9では、縮合度が91%以下であるため耐擦傷性判定が「×」となり、不合格である。熱硬化のみ短時間硬化では、耐擦傷性付与が困難であることが分かる。同様に比較例である例10では、耐擦傷性判定および耐候クラック性試験が「×」となり、不合格である。マイクロ波照射のみの硬化では、耐擦傷性付与が困難であることが分かる。また、同様に比較例である例11では、ポリカーボネート板が変形してしまい、初期外観が「×」となり、不合格である。熱処理を行う前に、一定時間以上マイクロ波を照射すると基板が変形してしまうことが分かる。
実施例である例1〜4は、熱硬化法とマイクロ波照射法の併用により、耐擦傷性を付与するために必要な縮合度(93%以上)になる時間が、熱硬化のみ(例5(参考例)、60分)と比較して35〜50分(58〜83%)短縮された。例1〜4は、熱処理法とマイクロ波照射処理法の併用により、初期の外観、耐擦傷性、耐候性試験判定で「○」であり、短時間硬化においても物性が損なわれなかった。耐擦傷性、耐候性はいずれも、例7〜11より優れることから、本発明のハードコート剤組成物の硬化方法ならびにハードコート層を有する樹脂基板の優位性が示されている。
本発明の製造方法によれば、ハードコート剤の硬化時間を短縮させることで、自動車や各種交通機関に取り付けられる車両用の窓ガラス、家屋、ビル等の建物に取り付けられる建材用の窓ガラス、として使用できる、ハードコート層を有する樹脂基板の生産効率を向上させることができる。

Claims (11)

  1. 樹脂基板の少なくとも一方の面上にオルガノポリシロキサンを含むハードコート剤組成物の硬化物からなるハードコート層を有する樹脂基板の製造方法であって、
    水酸基を有するオルガノポリシロキサンを含むハードコート剤組成物を前記樹脂基板の少なくとも一方の面上に塗布し前記組成物からなる塗膜を形成する塗膜形成工程と、
    前記塗膜に熱処理を施すことにより前記オルガノポリシロキサンを縮合硬化させおよびマイクロ波照射処理を施すことにより前記オルガノポリシロキサンを縮合硬化させてハードコート層とする縮合硬化工程と、
    を有することを特徴とする、ハードコート層を有する樹脂基板の製造方法。
  2. 前記縮合硬化工程において、前記塗膜に対して熱処理を施した後にマイクロ波照射処理を行う、請求項1に記載のハードコート層を有する樹脂基板の製造方法。
  3. 前記縮合硬化工程において、前記塗膜に対してマイクロ波照射処理を施した後に熱処理を行う、請求項1に記載の製造方法。
  4. 前記熱処理が、50〜200℃の温度に前記塗膜を5〜30分間保持する処理である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のハードコート層を有する樹脂基板の製造方法。
  5. 前記マイクロ波照射処理が、周波数300MHz〜300GHz、発振出力0.05〜20kWのマイクロ波を前記塗膜に5〜30分間照射する処理である、請求項1〜4のいずれか1項に記載のハードコート層を有する樹脂基板の製造方法。
  6. 下記式(1)で示される、前記オルガノポリシロキサンの120℃、120分間の熱処理後の縮合度を100%とした際の、前記縮合硬化工程後のハードコート層における前記オルガノポリシロキサンの縮合度が93%以上である、請求項1〜5のいずれか1項に記載のハードコート層を有する樹脂基板の製造方法。
    Figure 0005316394
    (ただし、式(1)中、Rは前記オルガノポリシロキサンにおける所定量中の、縮合に関与しない基準の基(以下、基準基ともいう)に対する縮合に関与する基(以下、縮合基ともいう)の個数比(縮合基の個数/基準基の個数)を表し、R初期は縮合硬化処理前における値を、R120℃,120minは120℃、120分間の熱処理後における値を、R検体は前記縮合硬化工程後における値を、それぞれ示す。)
  7. 前記縮合硬化工程後のハードコート層について、測定条件:負荷速度F=0.5mN/5s、クリープC=5s、除荷速度F=0.5mN/5sにおける、マルテンス硬さHM(N/mm)と押込み硬さから求めた押込み弾性率Eiη(GPa)との比(HM/Eiη)が、0.06〜0.1である、請求項1〜6のいずれか1項に記載のハードコート層を有する樹脂基板の製造方法。
  8. 前記オルガノポリシロキサンが、T単位とQ単位のみで構成されその個数の割合がT:Q=90〜100:10〜0である、請求項1〜7のいずれか1項に記載のハードコート層を有する樹脂基板の製造方法。
  9. 前記ハードコート剤組成物がアルコールおよび水を含有する請求項1〜8のいずれか1項に記載のハードコート層を有する樹脂基板の製造方法。
  10. 前記塗膜形成工程の前に、さらに、プライマー組成物を前記樹脂基板の少なくとも一方の面上に塗布し乾燥させてプライマー層を形成する工程を有し、前記塗膜形成工程において前記ハードコート剤組成物を前記プライマー層上に塗布する、請求項1〜9のいずれか1項に記載のハードコート層を有する樹脂基板の製造方法。
  11. 前記樹脂基板の材料がポリカーボネート樹脂である請求項1〜10のいずれか1項に記載のハードコート層を有する樹脂基板の製造方法。
JP2009283949A 2009-12-15 2009-12-15 ハードコート層を有する樹脂基板の製造方法 Expired - Fee Related JP5316394B2 (ja)

Priority Applications (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2009283949A JP5316394B2 (ja) 2009-12-15 2009-12-15 ハードコート層を有する樹脂基板の製造方法

Applications Claiming Priority (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2009283949A JP5316394B2 (ja) 2009-12-15 2009-12-15 ハードコート層を有する樹脂基板の製造方法

Publications (2)

Publication Number Publication Date
JP2011125764A JP2011125764A (ja) 2011-06-30
JP5316394B2 true JP5316394B2 (ja) 2013-10-16

Family

ID=44288953

Family Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
JP2009283949A Expired - Fee Related JP5316394B2 (ja) 2009-12-15 2009-12-15 ハードコート層を有する樹脂基板の製造方法

Country Status (1)

Country Link
JP (1) JP5316394B2 (ja)

Families Citing this family (1)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP7027851B2 (ja) * 2017-12-05 2022-03-02 凸版印刷株式会社 樹脂硬化層付き基板およびその製造方法

Family Cites Families (4)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JPS59184226A (ja) * 1983-04-05 1984-10-19 Hitachi Ltd 耐熱性重合体前駆体の硬化方法
JPH02107638A (ja) * 1988-10-17 1990-04-19 Shin Etsu Chem Co Ltd ラダー型オルガノポリシロキサンの製造方法
JPH05271548A (ja) * 1992-03-27 1993-10-19 Shin Etsu Chem Co Ltd オルガノポリシロキサン組成物及びその硬化物の形成方法
JP4041966B2 (ja) * 2002-06-18 2008-02-06 信越化学工業株式会社 ハードコート剤及びハードコート膜が形成された物品

Also Published As

Publication number Publication date
JP2011125764A (ja) 2011-06-30

Similar Documents

Publication Publication Date Title
JP5821634B2 (ja) ハードコート剤組成物およびハードコート層を有する樹脂基板
JP5772598B2 (ja) ハードコート被膜付き樹脂基板およびその製造方法
JP5708499B2 (ja) ハードコート層を有する樹脂基板の製造方法
JP5923235B2 (ja) フレキシブルな熱硬化型シリコーンハードコート
JP6421760B2 (ja) ハードコート被膜付き樹脂基板の製造方法およびハードコート被膜付き樹脂基板
WO2012099125A1 (ja) ハードコート被膜付き樹脂基板およびその製造方法
JPWO2012086659A1 (ja) ハードコート被膜付き樹脂基板およびその製造方法
JPWO2012086656A1 (ja) ハードコート被膜を有する樹脂基板およびハードコート被膜を有する樹脂基板の製造方法
WO2012046784A1 (ja) ハードコート被膜付き樹脂基板およびその製造方法
WO2011105382A1 (ja) ハードコート層を有する樹脂基板
JP2016030392A (ja) ハードコート層付き樹脂基板およびハードコート層付き樹脂基板の製造方法
JP5316394B2 (ja) ハードコート層を有する樹脂基板の製造方法
JP2016016338A (ja) ハードコート層付き樹脂基板の製造方法
JP2014171974A (ja) ハードコート被膜付き樹脂基板の製造方法およびハードコート被膜付き樹脂基板
JP2014162087A (ja) ハードコート被膜付き樹脂基板の製造方法およびハードコート被膜付き樹脂基板
JP2010241051A (ja) ハードコート付き樹脂基材

Legal Events

Date Code Title Description
A621 Written request for application examination

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A621

Effective date: 20120803

A977 Report on retrieval

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A971007

Effective date: 20130311

A131 Notification of reasons for refusal

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131

Effective date: 20130319

A521 Written amendment

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523

Effective date: 20130509

TRDD Decision of grant or rejection written
A521 Written amendment

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A821

Effective date: 20130509

A01 Written decision to grant a patent or to grant a registration (utility model)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A01

Effective date: 20130611

A61 First payment of annual fees (during grant procedure)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A61

Effective date: 20130624

LAPS Cancellation because of no payment of annual fees