JP5298479B2 - 燃料電池および電子機器 - Google Patents
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Description
このように、燃料電池は大規模発電から小規模発電まで幅広い用途が考えられ、高効率な発電装置として多くの注目を集めている。しかしながら、燃料電池では、燃料として通常、天然ガス、石油、石炭などを改質器により水素ガスに変換して用いており、限りある資源を消費するとともに、高温に加熱する必要があったり、白金(Pt)などの高価な貴金属の触媒を必要としたりするなど、いろいろと問題点がある。また、水素ガスやメタノールを直接燃料として用いる場合でも、その取り扱いには注意を要する。
例えば、呼吸は、糖類、脂肪、タンパク質などの栄養素を微生物または細胞内に取り込み、これらの化学エネルギーを、数々の酵素反応ステップを有する解糖系およびクエン酸(TCA)回路を介して二酸化炭素(CO2 )を生成する過程でニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+ )を還元して還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)とすることで酸化還元エネルギー、すなわち電気エネルギーに変換し、さらに電子伝達系においてこれらのNADHの電気エネルギーをプロトン勾配の電気エネルギーに直接変換するとともに酸素を還元し、水を生成する機構である。ここで得られた電気エネルギーは、アデノシン三リン酸(ATP)合成酵素を介して、アデノシン二リン酸(ADP)からATPを生成し、このATPは微生物や細胞が生育するために必要な反応に利用される。このようなエネルギー変換は、細胞質ゾルおよびミトコンドリアで行われている。
上述のような生体代謝を燃料電池に利用する技術としては、微生物中で発生した電気エネルギーを電子メディエーターを介して微生物外に取り出し、この電子を電極に渡すことで電流を得る微生物電池が報告されている(例えば、特許文献1参照。)。
そこで、酵素を用いて所望の反応のみを行う燃料電池(バイオ燃料電池)が提案されている(例えば、特許文献2〜13参照。)。このバイオ燃料電池は、燃料を酵素により分解してプロトンと電子とに分離するもので、燃料としてメタノールやエタノールのようなアルコール類あるいはグルコースのような単糖類を用いたものが開発されている。
この発明が解決しようとする他の課題は、上記のような優れた燃料電池を用いた電子機器を提供することである。
正極と、
電解質層と、
上記電解質層を介して上記正極と対向した負極とを有し、
少なくとも上記正極に酵素が固定化されており、上記正極が内部に空隙を有する多孔質の材料からなり、
動作開始前から動作中に上記正極に含まれる水の体積が上記正極の空隙の体積の70%以下であり、
上記電解質層が、緩衝物質としてのイミダゾール環を有する化合物と塩酸とを含む緩衝液が接触したセロハンからなり、あるいは、上記電解質層が、緩衝物質としてのイミダゾール環を有する化合物と塩酸とを含む緩衝液を含み、かつ上記正極または上記正極と接触した層がフッ素系樹脂を用いたものである燃料電池である。
一つまたは複数の燃料電池を用い、
少なくとも一つの上記燃料電池が、
正極と、
電解質層と、
上記電解質層を介して上記正極と対向した負極とを有し、
少なくとも上記正極に酵素が固定化されており、上記正極が内部に空隙を有する多孔質の材料からなり、
動作開始前から動作中に上記正極に含まれる水の体積が上記正極の空隙の体積の70%以下であり、
上記電解質層が、緩衝物質としてのイミダゾール環を有する化合物と塩酸とを含む緩衝液が接触したセロハンからなり、あるいは、上記電解質層が、緩衝物質としてのイミダゾール環を有する化合物と塩酸とを含む緩衝液を含み、かつ上記正極または上記正極と接触した層がフッ素系樹脂を用いたものである電子機器である。
第1および第2の発明において、正極に用いられる空隙を有する材料としては、多孔質カーボン、カーボンペレット、カーボンフェルト、カーボンペーパーなどのカーボン系材料が多く用いられるが、他の材料を用いてもよい。負極の材料についても同様な材料を用いることができる。
正極に固定化される酵素は、典型的には酸素還元酵素を含む。この酸素還元酵素としては、例えば、ビリルビンオキシダーゼ、ラッカーゼ、アスコルビン酸オキシダーゼなどを用いることができる。この場合、正極には、好適には、酵素に加えて電子メディエーターも固定化される。電子メディエーターとしては、例えば、ヘキサシアノ鉄酸カリウム、フェリシアン化カリウム、オクタシアノタングステン酸カリウムなどを用いる。電子メディエーターは、好適には、十分に高濃度、例えば平均値で0.64×10-6mol/mm2 以上固定化する。
acid)などを用いてもよい。緩衝物質を含む電解質のpHは、好適には7付近であるが、一般的には1〜14のいずれであってもよい。必要に応じて、これらの緩衝物質も、上記の酵素や電子メディエーターの固定化膜に固定化してもよい。
この燃料電池は、およそ電力が必要なもの全てに用いることができ、大きさも問わないが、例えば、電子機器、移動体(自動車、二輪車、航空機、ロケット、宇宙船など)、動力装置、建設機械、工作機械、発電システム、コージェネレーションシステムなどに用いることができ、用途などによって出力、大きさ、形状、燃料の種類などが決められる。
電子機器は、基本的にはどのようなものであってもよく、携帯型のものと据え置き型のものとの双方を含むが、具体例を挙げると、携帯電話、モバイル機器、ロボット、パーソナルコンピュータ、ゲーム機器、車載機器、家庭電気製品、工業製品などである。
第2の発明においては、第1の発明に関連して説明したことが成立する。
図1はこの発明の第1の実施形態によるバイオ燃料電池を模式的に示す。このバイオ燃料電池では、燃料としてグルコースを用いるものとする。図2は、このバイオ燃料電池の負極の構成の詳細ならびにこの負極に固定化された酵素群の一例およびこの酵素群による電子の受け渡し反応を模式的に示す。
図1に示すように、このバイオ燃料電池は、負極1と正極2とがプロトンのみ伝導する電解質層3を介して対向した構造を有する。負極1は、燃料として供給されたグルコースを酵素により分解し電子を取り出すとともにプロトン(H+ )を発生する。正極2は、負極1から電解質層3を通って輸送されたプロトンと負極1から外部回路を通って送られた電子と例えば空気中の酸素とにより水を生成する。
さらに、このD−グルコノ−δ−ラクトンは、グルコノキナーゼとフォスフォグルコネートデヒドロゲナーゼ(PhGDH)との二つの酵素を存在させることにより、2−ケト−6−フォスフォ−D−グルコネートに分解することができる。すなわち、D−グルコノ−δ−ラクトンは、加水分解によりD−グルコネートになり、D−グルコネートは、グルコノキナーゼの存在下、アデノシン三リン酸(ATP)をアデノシン二リン酸(ADP)とリン酸とに加水分解することでリン酸化されて、6−フォスフォ−D−グルコネートになる。この6−フォスフォ−D−グルコネートは、酸化酵素PhGDHの作用により、2−ケト−6−フォスフォ−D−グルコネートに酸化される。
単糖類の分解プロセスにおける酸化反応は、補酵素の還元反応を伴って行われる。この補酵素は作用する酵素によってほぼ定まっており、GDHの場合、補酵素にはNAD+ が用いられる。すなわち、GDHの作用によりβ−D−グルコースがD−グルコノ−δ−ラクトンに酸化されると、NAD+ がNADHに還元され、H+ を発生する。
上記プロセスで生成された電子はジアホラーゼから電子メディエーターを介して電極11に渡され、H+ は電解質層3を通って正極2へ輸送される。
以上のように構成された燃料電池の動作時(使用時)において、負極1側にグルコースが供給されると、このグルコースが酸化酵素を含む分解酵素により分解される。この単糖類の分解プロセスで酸化酵素が関与することで、負極1側で電子とH+ とを生成することができ、負極1と正極2との間で電流を発生させることができる。
図7より、緩衝液22としてイミダゾール/塩酸緩衝液(pH7、1.0M)を用いた場合には、極めて良好なCV特性が得られていることが分かる。
以上のことから、測定系を変えても、イミダゾール緩衝液に優位性があることが確認された。
て約15倍も高い電流密度が得られている。また、図9より、電流の変化は電極表面上のpH変化とほぼ一致していることが分かる。これらの結果が得られる理由について図10および図11を参照して説明する。
図14および図15に、図12および図13に示す緩衝液を用いた場合の3600秒後の電流密度を緩衝物質の分子量およびpKa に対してプロットしたものを示す。
図16AおよびBに示すように、このバイオ燃料電池は、1cm2 のカーボンフェルトに既に述べた酵素や電子メディエーターを固定化材で固定化した酵素/電子メディエーター固定化カーボン電極からなる負極1と、1cm2 のカーボンフェルト上に既に述べた酵素や電子メディエーターを固定化材で固定化した酵素/電子メディエーター固定化カーボン電極からなる正極2とが、イミダゾール環を含む化合物あるいは2−アミノエタノール塩酸塩を緩衝物質として含む電解質層3を介して対向した構成を有している。この場合、正極2の下および負極1の上にそれぞれTi集電体41、42が置かれ、集電を容易に行うことができるようになっている。符号43、44は固定板を示す。これらの固定板43、44はねじ45により相互に締結され、それらの間に、正極2、負極1、電解質層3およびTi集電体41、42の全体が挟み込まれている。固定板43の一方の面(外側の面)には空気取り込み用の円形の凹部43aが設けられ、この凹部43aの底面に他方の面まで貫通した多数の穴43bが設けられている。これらの穴43bは正極2への空気の供給路となる。一方、固定板44の一方の面(外側の面)には燃料装填用の円形の凹部44aが設けられ、この凹部44aの底面に他方の面まで貫通した多数の穴44bが設けられている。これらの穴44bは負極1への燃料の供給路となる。この固定板44の他方の面の周辺部にはスペーサー46が設けられており、固定板43、44をねじ45により相互に締結したときにそれらの間隔が所定の間隔になるようになっている。
このバイオ燃料電池においては、電解質層3が、正極2および負極1に用いられる電子メディエーターの酸化体または還元体の電荷と同符号の電荷を有する。例えば、電解質層3の少なくとも正極2側の表面が負に帯電しており、負電荷を有する。具体的には、例えば、この電解質層3の少なくとも正極2側の部分の全部または一部に、負電荷を有するポリアニオンが含まれる。好適には、このポリアニオンとしては、含フッ素カーボンスルホン酸基を有するイオン交換樹脂であるナフィオン(商品名、米国デュポン社)が用いられる。
まず、市販のグラッシーカーボン(GC)電極(直径3mm)を2本用意し、ともに研磨・洗浄を行った。次に、一方のグラッシーカーボン電極にポリアニオンである市販のナフィオンのエマルジョン(20%)を5μl添加し、乾燥させた。次に、この2本のグラッシーカーボン電極を1mMのヘキサシアノ鉄酸イオン(多価アニオン)水溶液(50mM NaH2 PO4 /NaOH緩衝液、pH7)中に浸し、掃引速度20mVs-1にてサイクリックボルタンメトリー(CV)を行った。その結果を図18Aに示す。図18Bに、図18Aにおける、ナフィオンを添加したグラッシーカーボン電極を用いた場合のCV曲線を拡大して示す。図18AおよびBから分かるように、ナフィオンを添加したグラッシーカーボン電極では、添加していないグラッシーカーボン電極に対し、電子メディエーターであるヘキサシアノ鉄酸イオンに起因する酸化還元ピーク電流は20分の1以下になった。これは、負電荷を有するポリアニオンであるナフィオンに対し、このナフィオンと同じく負電荷を有する多価アニオンであるヘキサシアノ鉄酸イオンが拡散・透過していないことを示している。
図22A、BおよびCならびに図23はこのバイオ燃料電池を示し、図22A、BおよびCはこのバイオ燃料電池の上面図、断面図および裏面図、図23はこのバイオ燃料電池の各構成要素を分解して示す分解斜視図である。
このバイオ燃料電池の上記以外の構成は、その性質に反しない限り、第1の実施形態と同様である。
図24Aに示すように、まず、一端が開放した円筒形状の正極集電体51を用意する。この正極集電体51の底面の全面には複数の酸化剤供給口51bが形成されている。この正極集電体51の内部の底面の外周部の上にリング状の疎水性樹脂56bを載せ、この底面の中央部の上に、正極2、電解質層3および負極1を順次重ねる。
次に、燃料タンク57に蓋58を取り付け、この蓋58の燃料供給口58aより燃料および電解質を注入した後、この燃料供給口58aを密封シールを貼り付けたりすることにより閉じる。ただし、燃料および電解質は、図24Bに示す工程で燃料タンク57に注入してもよい。
また、現在実用化されている空気電池では燃料および電解質を製造時に添加する必要があり、製造後に添加することは困難であるのに対し、このバイオ燃料電池では、製造後に燃料および電解質を添加することが可能であるので、バイオ燃料電池は現在実用化されている空気電池に比べて製造が容易である。
図28に示すように、この第4の実施形態においては、第3の実施形態によるバイオ燃料電池から、負極集電体52に一体に設けられた燃料タンク57を取り除き、さらに正極集電体51および負極集電体52にそれぞれメッシュ電極71、72を形成したものを用い、開放系の燃料タンク57に入れられた燃料57aの上にこのバイオ燃料電池を負極1側が下に、正極2側が上になるようにして浮かべた状態で使用する。
この第4の実施形態の上記以外のことは、その性質に反しない限り、第1および第3の実施形態と同様である。
この第4の実施形態によれば、第1および第3の実施形態と同様な利点を得ることができる。
図29AおよびBならびに図30はこのバイオ燃料電池を示し、図29Aはこのバイオ燃料電池の正面図、図29Bはこのバイオ燃料電池の縦断面図、図30はこのバイオ燃料電池の各構成要素を分解して示す分解斜視図である。
この第5の実施形態の上記以外のことは、その性質に反しない限り、第1および第3の実施形態と同様である。
この第5の実施形態によれば、第1および第3の実施形態と同様な利点を得ることができる。
このバイオ燃料電池においては、燃料として、多糖類であるデンプンを用いる。また、デンプンを燃料に用いることに伴い、負極11にデンプンをグルコースに分解する分解酵素であるグルコアミラーゼも固定化する。
このバイオ燃料電池においては、負極1側に燃料としてデンプンが供給されると、このデンプンがグルコアミラーゼによりグルコースに加水分解され、さらにこのグルコースがグルコースデヒドロゲナーゼにより分解され、この分解プロセスにおける酸化反応に伴ってNAD+ が還元されてNADHが生成され、このNADHがジアホラーゼにより酸化されて2個の電子とNAD+ とH+ とに分離する。したがって、グルコース1分子につき1段階の酸化反応で2個の電子と2個のH+ とが生成される。2段階の酸化反応では合計4個の電子と4個のH+ とが生成される。こうして発生する電子は負極1の電極11に渡され、H+ は電解質層3を通って正極2まで移動する。正極2では、このH+ が、外部から供給された酸素および負極1から外部回路を通って送られた電子と反応してH2 Oを生成する。
上記以外のことは第1の実施形態によるバイオ燃料電池と同様である。
この第6の実施形態によれば、第1の実施形態と同様な利点を得ることができるほか、デンプンを燃料に用いていることにより、グルコースを燃料に用いる場合に比べて発電量を増加させることができるという利点を得ることができる。
例えば、上述の実施形態において挙げた数値、構造、構成、形状、材料などはあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれらと異なる数値、構造、構成、形状、材料などを用いてもよい。
Claims (11)
- 正極と、
電解質層と、
上記電解質層を介して上記正極と対向した負極とを有し、
少なくとも上記正極に酵素が固定化されており、上記正極が内部に空隙を有する多孔質の材料からなり、
動作開始前から動作中に上記正極に含まれる水の体積が上記正極の空隙の体積の70%以下であり、
上記電解質層が、緩衝物質としてのイミダゾール環を有する化合物と塩酸とを含む緩衝液が接触したセロハンからなり、あるいは、上記電解質層が、緩衝物質としてのイミダゾール環を有する化合物と塩酸とを含む緩衝液を含み、かつ上記正極または上記正極と接触した層がフッ素系樹脂を用いたものである燃料電池。 - 上記イミダゾール環を有する化合物がイミダゾールである請求項1記載の燃料電池。
- 上記フッ素系樹脂はナフィオン(登録商標)、ポリフッ化ビニリデンまたはポリテトラフルオロエチレンである請求項1記載の燃料電池。
- 上記正極に上記酵素に加えて電子メディエーターが固定化されている請求項1記載の燃料電池。
- 上記酵素が、上記正極に固定化された酸素還元酵素を含む請求項1記載の燃料電池。
- 上記酸素還元酵素がビリルビンオキシダーゼである請求項5記載の燃料電池。
- 上記負極に酵素が固定化されており、この酵素が、上記負極に固定化された、単糖類の酸化を促進し分解する酸化酵素を含む請求項1記載の燃料電池。
- 上記負極に固定化された酵素が、上記単糖類の酸化に伴って還元された補酵素を酸化体に戻すとともに電子メディエーターを介して電子を上記負極に渡す補酵素酸化酵素を含む請求項7記載の燃料電池。
- 上記補酵素の酸化体がNAD+であり、上記補酵素酸化酵素がジアホラーゼである請求項8記載の燃料電池。
- 上記酸化酵素がNAD+依存型グルコースデヒドロゲナーゼである請求項7記載の燃料電池。
- 一つまたは複数の燃料電池を用い、
少なくとも一つの上記燃料電池が、
正極と、
電解質層と、
上記電解質層を介して上記正極と対向した負極とを有し、
少なくとも上記正極に酵素が固定化されており、上記正極が内部に空隙を有する多孔質の材料からなり、
動作開始前から動作中に上記正極に含まれる水の体積が上記正極の空隙の体積の70%以下であり、
上記電解質層が、緩衝物質としてのイミダゾール環を有する化合物と塩酸とを含む緩衝液が接触したセロハンからなり、あるいは、上記電解質層が、緩衝物質としてのイミダゾール環を有する化合物と塩酸とを含む緩衝液を含み、かつ上記正極または上記正極と接触した層がフッ素系樹脂を用いたものである電子機器。
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