本発明は、光学機器や電子機器等に使用可能な光源に関する。より詳細には、波長掃引した光を利用したイメージングに使用可能な波長掃引光源に関する。
光学機器を使ったイメージング技術は、カメラやプリンタ、ファクシミリなどの民生用の電子機器だけでなく、医療分野にも広がっている。生体内部の断層を非侵襲的にイメージングするために、既に、X線を使用したX線撮影や超音波を使用した診断が広く利用されている。X線を使用した方法は、被爆の問題のため使用頻度や使用部位に大幅な制限があり、また、その分解能はフィルムの等倍撮影の分解能に制限される。超音波を使用した方法は、被爆の問題がないためX線のような使用の制限は無いが、分解能は通常1cm程度に過ぎない。したがって、細胞レベルサイズでのイメージングは不可能である。
医療現場では、生体表皮下の断層イメージをミクロンオーダーの分解能で生成することのできる新たな技術が望まれていた。これを実現する技術として、1990年代から開発が進められてきた光コヒーレントトモグラフィー(Optical Coherence Tomography:以下OCTと呼ぶ)が知られている。
OCTは、マイケルソン干渉計の原理を利用しており、低コヒーレンスな光を光源として使用して、この低コヒーレンス光を生体へ照射する。参照光と生体からの反射光との干渉光に基づいて、生体表皮下のイメージが得られる。OCTは、網膜の診断のために眼科の必須の診断機器として実用化されている。
図5は、OCTの基本原理を説明する図である(非特許文献1)。以下、簡単に基本原理の概要のみを述べる。低コヒーレンス光源1からは、コヒーレンス長ΔlCを持つ低コヒーレンスな光が、生体4への入射光として供給される。光源1からの出射光6は、ビームスプリッタ2に入射して2等分される。2等分された光の一方の光7は可動ミラー3へ進み、可動ミラー3において反射して、再び参照光8としてビームスプリッタ2へ向かう。2等分された光のもう一方の光9は、生体4の内部の異なる深さの反射面A、BまたはCにおいて反射を受け、それぞれ信号光11a、11b、11cが得られる。各信号光は、ビームスプリッタ2を経て、参照光10と干渉する。この干渉によって、生体中の余分な散乱によって波面が歪んだ反射光は取り除かれ、元の平面波を維持した反射光のみが選択的に検出される。
ここで、反射面Aで反射する光が干渉を生じるのは可動ミラー3がA´の位置にある場合である。このときビームスプリッタ2の中心と可動ミラー3との距離をLR、ビームスプリッタ2の中心と反射面Aとの距離をLSとすると、次式の関係を満たすときに、参照光と信号光とが干渉して、光検出器5から電気信号が得られる。
|LR―LS|<ΔlC 式(1)
上式は、反射面Aおよび可動ミラーの位置A´、反射面Bおよび可動ミラーの位置B´、反射面Cおよび可動ミラーの位置C´に、それぞれ一対一に対応して成り立つ。従って、可動ミラー3を連続的に一定速度vで移動させることによって、生体4内の光軸(z軸)方向に沿った生体表皮下の反射光強度分布を、ΔlCの空間分解能で測定することができる。スキャンミラーなどによって生体への入射光をx方向にスキャンすることによって、x−z面内の生体表皮下の反射光強度分布が得られ、これが最終的なOCTイメージとなる。図5におけるマイケルソン干渉計の構成は、光ファイバカップラーを利用することができるため、臨床現場にも十分利用可能な検査機器が実現されている。
図5に示した構成のOCTでは、可動ミラーを移動させてイメージデータを時系列に取得するため、時間領域(Time Domain:TD)OCT(以下TD−OCT)と呼ばれる。TD−OCTでは、質量を持つ可動ミラーを移動する必要があるため、スキャン速度に限界がある。ところが、検査の状況によって生体自体を完全に固定するのが難しいことが多く、できるだけ短時間でスキャンを行なって必要なイメージデータを得るのが好ましい。また、生体内で血管が存在する深さの部分までスキャンを行うと、血管内を移動する赤血球による散乱のためにイメージ取得に困難が生じる。このため、OCTでは、できるだけ速く深さ方向の情報を取得したい要請があった。
そこで、干渉信号をフーリエ変換して光軸に沿った反射光強度を求めるフーリエ領域(Fourier Domain:FD)−OCT(以下FD−OCT)が提案された。FD−OCTでは、図5の光検出器5の前に、生体からの信号光を各波長の光に分解する分光器を配置して、干渉スペクトルを光検出器の検出器要素アレイで検出する。すなわち各波長に対応した、多数の検出器要素素子が配置された並列ディテクタによって、干渉スペクトルを求める。並列ディテクタで検出したスペクトルをフーリエ変換して、光軸に沿った反射光強度部分布が得られる。しかしながら、FD−OCTにおいては、多数の検出器要素素子を持った並列ディテクタが必要となる。多い場合には1000個を越える検出器要素素子において、同時に、各波長の信号を検出する必要がある。このような並列ディテクタは、1.1μm以下の波長帯域でシリコンCCDまたはCMOSによるものが実現されているだけであって、より長い波長においては並列ディテクタの入手が難しい。
従って現時点でFD−OCTは、可視光が利用可能な網膜診断などには適用可能であるが、より長波長領域での動作を必要とする皮膚等の組織に対するOCTには適用できない。また、血管の断層イメージングなどに適用するにあたっては、赤血球のヘモグロビンによる散乱のために1.3μm程度まで長波長側の光を使用しないと、ヘモグロビンによる吸収が無視できない。一方で、光源の波長が1.5μm近傍にまで至ると、今度は水による吸収が顕著となる。1.6μmを越えると、光検出器の入手に困難が生じる。これらの理由のため、皮膚等に対してOCTを利用するためには、1.3μm帯の光源を使用したい要請があった。
そこで新たに注目されているのが、FD−OCTを変形して、光源の周波数の掃引を行う掃引光源(Swept Source:SS)―OCT(以下SS−OCT)である。SS−OCTでは、FD−OCTのように低コヒーレンス光源からの光を生体に照射して得られた信号光を分光器によって分光して、一度に多数に波長の信号を生成するのでなく、光源波長を規則正しく掃引する。光源からの光の波長掃引を行うことによって、1つの検出器を使用して、時分割で各波長の信号を検出できる。すなわち、FD−OCTでは分光器によって空間的な位置によって波長分割していたのに対して、SS−OCTでは時間によって波長分割を行って、検出器を1つで済ませることができる。多数の検出器要素素子を持った並列ディテクタが不要となり、検出器の選択の制限が無くなるため、1.3μm帯域の光源も使用できる。
図6は、SS−OCTの原理を説明するための模式的に示した図である(非特許文献1)。SS−OCTでは、生体24に対して、光周波数(波長)掃引光源21から、時間に対して直線的にその光周波数を掃引した光信号26を供給する。光周波数掃引光源21は、例えば、波長可変レーザが使用される。図6に示したSS−OCTにおいては、ミラー23はその位置を固定されている。ビームスプリッタ22の中心とミラー23の距離をLR、ビームスプリッタ22の中心と生体表面31との距離をLSとすると、LR=LSとなるように各要素が配置されている。
このとき、参照光28と、生体内の反射面32および反射面33からのそれぞれの反射光29b、29cとの光周波数の差は、時間に関係なく一定となる。これらの光周波数の差をf2およびf3とすれば、参照光28と反射光29b、29cとの干渉によって、反射面32および反射面33に対応したビート周波数f2、f3が混在した信号光が得られる。この信号光をフーリエ変換すると、ビート周波数f2、f3における反射光強度が得られる。光源21からの光周波数が直線的に掃引されれば、ビート周波数f2、f3と、深さd2、深さd3は正比例する。生体内では、各所から反射光が生じるため、干渉光をフーリエ変換することによって、光軸(z軸)方向に沿った、反射光強度の分布を得ることができる。x軸方向にもビームスキャンを行えば、x−z面内でのOCTイメージが得られる。
SS−OCTでは、光検出器25は、異なるビート周波数の干渉光が混在した信号光を単一の検出素子で検出すれば良いので、従来のFD−OCTのように並列ディテクタが不要となる。皮膚等の診断に好適な1.3μm帯域の掃引光源を使用することが可能となる。SS−OCTは、光ファイバカプラを使用した安定な構成、可動ミラーが不要なことによる高速イメージ取得、および多様な光検出器の利用容易性から、眼科診療以外の領域においてもさらに実用化が進められている。
上述のSS−OCTにおいては掃引、光波長掃引光源が重要な構成要素の一つとなる。従来技術における光波長掃引光源としては、例えば、ポリゴンミラーを用いたものが用いられていた。
図7は、従来技術のポリゴンミラーを用いた波長掃引光源の構成を示した図である。この波長掃引光源100は、ポリゴンミラー120と、リトロー構成で配置された回折格子106および利得媒質101などからなるレーザ発振器とから構成される。レーザ発振器は、利得媒質101の両端に集光レンズ102、111を備え、出力結合鏡112から出力光113が得られる。利得媒質101からの入射光はポリゴンミラー120の反射面Aにおいて反射して、次の回折格子方程式の条件を満たす入射角θ(110)で回折格子106に入射する。
2Λsinθ=mλ 式(2)
上式で、Λは回折格子のピッチであり、λは発振波長、mは回折次数である。
発振光は、回折格子106において入射角と同じ出射角θで回折して、回折格子106と出力結合鏡112との間の光路を往復する。ポリゴンミラー120は、一定速度で方向121の向きに回転するため、ポリゴンミラー120の反射面Aにおける発振光の入射・反射角が回転と共に周期的に変化する。従って、回折格子106への入射角θによって、回転とともに、式(2)によって決まる発振波長λが変化する。ポリゴンミラー120は、一定回転速度で回転するため、回折格子106への入射(反射)角θは、等速に変化する。従って、波長掃引光源100の発振波長λは時間に対して概ね直線的に変化する。
図8は、ポリゴンミラーを用いた従来技術の波長掃引光源によって得られる発振波長の時間変化を示した図である。実線40で示したように発振波長は、横軸の時間tに対してやや上に凸であって概ね線形的(直線的)に変化している。しかしながら、SS−OCTに対して求められる波長の時間変化のプロファイルは、ポリゴンミラーを用いた波長掃引光源によって得られるような、発振波長が線形に変化するような時間変化とは異なるものであった。
ここで、再び図5で説明したOCTの基本原理を参照する。OCTにおいては、生体内部を光軸(z軸)方向に直線性良く線形的にスキャンするためには、参照光7、8の遅延時間が線形的に変化する必要がある。言い換えると、可動ミラー3の位置が、可動範囲の全域においてA´からC´に向かって等速に移動することによって、生体内も等速にスキャンされる。このような動作が、OCTイメージの線形性の観点から、最も理想的となる。ミラーが等速に移動しないと、結果として得られるOCTイメージは、光軸(z軸)方向について非線形で歪曲したものとなる。
さらに、上記の可動ミラーの等速移動の理想動作を、図6のSS−OCTの構成へ適合する場合を考える。ミラーの位置をフーリエ変換すると、位置の逆数となる。位置の逆数は、すなわち波数に相当する。したがって、時間とともに、波数(波長の逆数)が直線的に変化するように、波長が変化するような波長掃引光源が理想的となる。そうでないと、生体内の一つの反射面に対応するビート周波数が単一でなくなり、その結果、OCTイメージの尖鋭度が損なわれる。
図8には、波数が時間に対して直線的に変化する場合の波長変化を、破線41によって、望ましい波長変化として同時に示してある。ポリゴンミラーを用いた従来技術の波長掃引光源の場合の波長変化と見比べて、下に凸に湾曲し、発振波長が長波長側(図8の縦軸の上方側)となるほど変化率が増えるような波長変化プロファイルが適切である。
しかしながら、ポリゴンミラーを用いている場合、ポリゴンミラーは大きな慣性モーメントを持っているため、一定回転速度以外の方法で回転速度を制御することは極めて困難である。また、図8に示したポリゴンミラーを使用した従来技術による、上に凸であって概ね直線状の波長変化は、式(2)の回折格子方程式のsin項に由来する形状であって、通常の手段を用いてもこの湾曲の向きを変えることは出来ない。
上述のように、従来技術の波長掃引光源では、SS−OCTに適合した波長変化を実現することができず、尖鋭なOCTイメージが得られない問題があった。
本発明は、上述のような問題に鑑みてなされたもので、OCTイメージの深さ方向の線形性のひずみを排除し、尖鋭なOCTイメージを得ることが可能であって、SS−OCTに適用可能な波長掃引光源を提供することを目的とする。
請求項1に係る発明は、時間的に出力波長が周期的に変化する光源において、電気光学偏向器を含む発振器部と、光路長の間に差を設けた2つの光路に前記発振器部からの発振出力光の一部を伝搬させて、前記光路長差および前記発振出力光の波数の変化率に比例する周波数の交流成分を含む干渉光強度を表す電気信号を出力する干渉計、前記電気信号の前記交流成分の周波数を一定に保つためのフィードバック信号を発生する誤差信号発生回路、およびランプ電圧信号に対する利得に前記フィードバック信号を作用させて、前記電気光学偏向器へ供給する補正された制御電圧を生成する制御電圧発生回路を有するフィードバック制御部とを備えたことを特徴とする波長掃引光源である。
電気光学偏向器としては、タンタル酸ニオブ酸カリウム(KTa1−x NbxO3 (0<x<1):KTN)や、さらにリチウムをドープした(K1−yLiyTa1−xNbxO3(0<x<1、0<y<1))を利用するのが好ましい。
請求項2に係る発明は、請求項1の波長掃引光源であって、前記誤差信号発生回路は、前記電気信号が入力され、前記電気信号の前記周波数の所定の周波数からの偏倚量に比例した前記フィードバック信号を出力する位相ロックループ回路であり、前記制御電圧発生回路は、前記フィードバック信号が利得制御信号として印加され、前記ランプ電圧信号を増幅する高電圧増幅器であることを特徴とする。
請求項3に係る発明は、請求項1または2の波長掃引光源であって、前記発振器部は、利得媒質と、前記利得媒質の一端からの光が入射する回折格子と、前記回折格子への前記入射光の回折光が直入射する端面鏡とを含み、前記回折格子を介して、前記利得媒質と前記端面鏡とが光学的に接続された共振器から構成され、前記電気光学偏向器は、前記利得媒質と前記回折格子との間であって、前記共振器により形成される光路上に配置されていることを特徴とする。
請求項4に係る発明は、請求項1または2の波長掃引光源であって、前記発振器部は、利得媒質と、前記利得媒質の一端からの光が入射する回折格子とを含み、前記利得媒質と前記回折格子とが光学的に接続された共振器から構成され、前記電気光学偏向器は、前記利得媒質と前記回折格子との間であって、前記共振器により形成される光路上に配置されていることを特徴とする。
以上説明したように、発明により、SS−OCTに適合した波長変化を実現した波長掃引光源を提供することができる。発振出力光の一部を、2つの光路長の間に差を設けた干渉計に入射し、得られる電気信号の交流成分周波数を一定に保つフィードバック制御部の動作により、波長変化が波数について直線的に変化する波長掃引電圧が生成・印加され、OCTイメージの線形性を大幅に改善し尖鋭なOCTイメージを得ることができる。
本発明は、KTNなどを含む電気光学偏向器を利用した波長掃引光源において、発振出力の一部を2つの光路長の間に差を設けた干渉計に入射し、生成された干渉光の強度の交流成分を電気信号に変換する。この電気信号に基づいて位相ロックループの引き込み動作時の電圧制御発振器(VCO)入力信号を、高電圧増幅器のゲインに帰還させる。後述する回折格子方程式に由来する非線形性や電気光学偏向器自体の偏向制御特性の不安定性があっても、波数が時間に対して直線的に変化する波長掃引を実現できる。本発明の波長掃引光源は、電気光学偏向器を構成する材料の不均一性、温度変化または個体ばらつきにより偏向角度の制御電圧に対する非線形性がある場合でも、波数が時間に対して直線的に変化するように発振波長を掃引することができる。
以下、最初に本発明の波長掃引光源の発振器部の構成について説明する。次に、電気光学偏向器の構成および動作について説明する。さらに、電気光学偏向器への制御電圧を供給するフィードバック制御部の構成と動作について詳細に説明する。
図1は、本発明の波長掃引光源の第1の構成を示す図である。波長掃引光源200は、発振器部200aおよびフィードバック制御部200bから構成される。発振器部200aは、回折格子106と端面鏡110とがリトマン配置された構成のレーザ発振器である。利得媒質101は、第1の集光レンズ111および第2の集光レンズ102の間に配置される。利得媒質101は、第2の集光レンズ102を経て、電気光学偏向器103、回折格子106および直入射する端面鏡110から構成される波長フィルタに結合されている。回折格子106を介して、利得媒質101および端面鏡110が光学的に接続され、共振器が構成される。さらに、第1の集光レンズ111は、出力結合鏡112に相対し、全体で、出力結合鏡112と端面鏡110とを両端とする光共振器が構成される。出力結合鏡112からは、この光共振器によるレーザ作用による出力光113が得られる。電気光学偏向器103は、利得媒質101と回折格子106との間であって、共振器により形成される光路上に配置されている。
本発明の波長掃引光源において、回折格子106への集光レンズ102に面する側からの入射角θと、端面鏡110に面する側からの入射角φとの間に特段の制限は無い。しかし、より強いフィルタ効果を得る観点からは、上述の波長フィルタにおいて、回折格子106への集光レンズ102に面する側からの入射角θは、端面鏡110に面する側からの入射角φと比較して、絶対値が大きく設定されるのが好ましい。その結果、回折格子106への回折格子入射光束107に比して、回折格子出射光束108が伸張され、太く広がり角の小さい光束として端面鏡110で反射される。したがって、波長フィルタの選択波長幅を狭窄化することができる。発振波長の掃引は、フィードバック制御部200bから供給され電気光学偏向器103に印加される制御電圧源104を通じ、回折格子入射光束107を偏向することにより行われる。
すなわち、電気光学偏向器103による偏向によって、回折格子106への入射角θを変化させる。フィードバック制御部200bから供給され電気光学偏向器103に印加する電圧104を変えることによって、可動部の介在なしに高速に波長を掃引することができる。フィードバック制御部200bの動作の詳細については後述し、次に、本発明の波長可変光源に使用するのに好適な電気光学偏向器について説明する。
最近、特定の電気光学効果結晶において、新たな現象が見出された。この電気光学効果結晶では、電圧印加による電界に伴って、結晶に電荷の注入が行なわれる。その結果、結晶内に、その注入電荷の形成する空間電荷分布、または、注入電荷がさらに電気光学結晶中に捕捉されて生成されるトラップ電荷分布が生じる。そして、この電荷分布による非一様な電界分布が屈折率の勾配を惹起し、この勾配に直交する光線の進路を屈曲させる現象が生じる。
この現象の発生には、屈折率変化または電界の二乗に比例して生じる2次の電気光学効果が必要である。さらに、この効果を示す結晶が、大きい誘電率および小さい易動度を有して初めて、現実的な値の印加電圧や電流に伴って、この偏向現象が発現する。この種の結晶の代表的な例として、タンタル酸ニオブ酸カリウム(KTa1−x NbxO3 (0<x<1):KTN)や、さらにリチウムをドープした(K1−yLiyTa1−xNbxO3(0<x<1、0<y<1))が知られている。
このような結晶においては、結晶内のすべての部分が偏向作用を担う。光線の伝搬経路上の各部分での作用が累積された偏向を受けて、光線は結晶から出射する。即ち、得られる偏向量は結晶内の光の伝搬長に比例する。この点において、従来用いられていたプリズム型の光偏向器と比べて、その動作機序を全く異にしている。その特有の偏向機序の結果、偏向動作が高速であって、かつ、偏向角範囲が大きく取れるという特徴を有する。このような電気光学偏向器は、特許文献1に詳細が開示されている。
図2は、本発明の波長掃引光源に使用される電気光学偏向器の構成および動作を説明する図である。図2は、偏向器の偏向面内を見た、基本的な構成および動作を説明している。電気光学結晶301の対向面には、それぞれ電極302および接地電極303が形成される。入射光305は、これら2つの電極の中間を通る中心光軸308に沿って伝搬する。ここで、制御電圧源304によって電極302に電圧を印加すると、結晶内の光線は負極(正電圧印加時を示す図3では、接地電極303)側に屈曲した偏向光路307を辿り、偏向した出射光306として結晶301から出射する。
偏向光路307を出射端面Aの「結晶側(内部)」において観察すると、あたかも結晶中心に位置する偏光中心310から、光線が発しているように見える。すなわち、偏向作用によって光線が、この偏光中心310の周りに回転するように見える。これを結晶の「外部」の出射光306について観察すると、今度は、あたかも偏向作用によって射出中心309の周りに回転するように見える。このような射出中心309は、出射端面Aにおける屈折作用によって出射端面側に近づき、結晶長をLとすると、出射端面AからL/(2n)の場所に位置する。ここでnは結晶の屈折率である。
電気光学偏向器において得られる上述の偏向量は結晶長に比例する。しかしながら、結晶を長くしようとすると、結晶の均一性の確保がより困難となる。また、結晶を長くすると、静電容量が大きくなるため制御電圧源304に要求される皮相電力が増加する。この結果、電気光学偏向器の高速駆動に障害を来す。このような種類の電気光学偏向器では、実際に必要な長さの結晶を用いる替わりに、内部反射による光路の折り返しを利用することによって、結晶長を増したのと等価な効果を得ることもできる。
上述のようにKTNなどを利用した電気光学偏向器では、偏向動作が高速で、かつ、偏向角範囲が大きく取れるという特徴を有する。一方で、結晶材料の均一性の問題や、個体ばらつき、2つの電極の電化注入特性のばらつき、さらにトラップ電荷の不均一のために、制御電圧に対する偏向角の変化には非線形性が残る問題がある。こうした非線形性は、結晶の個体、また印加電圧や掃引周波数にも依存して変化するため、オープンループでの補正は一般的に困難である。
本発明の波長掃引光源では、最小発振波長から最大発振波長までの一定の発振波長幅で掃引するために、電気光学偏向器へ供給する制御電圧をフィードバック制御部から供給する。
一般に、KTNなどを利用した電気光学偏向器では、δを電気光学偏向器によって受ける回折格子への入射角変化量とすると、電気光学偏向器内の光路が図1のy軸の下方側に偏向してδが負となるとき、制御電圧は正の電圧となる。簡単のため、制御電圧104とδの関係が線形であるとして、所望の制御電圧を説明する。すなわち、制御電圧104とδとは正比例の関係にあるものとする。
図1に示した構成の場合では、δが正の値となるに従ってδの変化率が大きくなるような制御電圧104をKTNに印加することによって、発振波長の時間変化が下に凸となるような波長掃引プロファイルを得ることができる。言い換えると、制御電圧が、発振波長が長波長側に掃引されるほど、発振波長の変化率が大きくなるように制御されれば良い。本発明では、フィードバック制御部200bにおいて、発振出力光の一部から生成した干渉光から波数の変化率を検出し、この変化率情報に基づいてランプ信号を逐次補正して所望の制御電圧に補正を行う。フィードバック制御部200bの作用により、発振波長が長波長側となるほど、発振波長がより速く変化して、発振波長の時間変化は、下に凸の形状となる。このとき、本発明の波長掃引光源では、時間軸上で波数が線形的に変化するように掃引波長が制御される。しかも電気光学偏向器を含むフィードバックループによる制御を行うことにより、上述した対電圧の偏向角の非線形性も補正されるのである。したがって、本発明をSS−OCTに適用すれば、対象物の生体の深さ方向について線形性が良く、尖鋭なOCTイメージが得られる。
図3は、本発明の波長掃引光源のフィードバック制御部200bの構成を示すブロック図である。図1に示した発振出力光113の一部は、光ビームタップ121によって取り出されてフィードバック制御部200bに与えられる。フィードバック制御部200bは、2つの光路長の間に差を設けた光干渉計部と、それ以外の電気信号処理部から構成される。
光干渉計部は、半透鏡201、第1の反射鏡202、第2の反射鏡203、第1の光検出器204および第2の光検出器205から構成される。各反射鏡は、直交する2つの反射面を有しており、図2に示すように、入射光に平行で逆向き方向に反射光を出射する。
光干渉計部において、光ビームタップ121からの結合光は、まず半透鏡201のa点で2方向に分岐し、それぞれ第1の反射鏡202および第2の反射鏡203に向かう。第1の反射鏡202を経由する第1の光路を進む光は、半透鏡201のb点でさらに分岐して、それぞれ第1の光検出器204および第2の光検出器205で検出される。第2の反射鏡203を経由する第2の光路を進む光も、同様に半透鏡201のb点で分岐して、それぞれ第1の光検出器204および第2の光検出器205で検出される。したがって、第1の検出器204では、第1の光路および第2の光路の2つの光路をそれぞれ辿った光の干渉光の強度レベルを表す電気信号が得られる。これら2つの電気信号は、常に互いに逆相の関係にある。同様に、第2の検出器205でも、第1の光路および第2の光路の2つの光路をそれぞれ辿った光の干渉光の強度レベルを表す電気信号が得られる。
ここで、第1の光路と第2の光路との間には、図3に示すようにTの遅延時間に相当する光路長差が設定されている。第2の反射鏡203を経由する第2の光路は、第1の光路と比べて、図3のx軸方向に半透鏡201からT/2遅延時間に相当する距離(光速×T/2)だけ伸びている。
2つの光検出器から出力される干渉光の強度を表す電気信号は、いずれも、利得媒質のゲイン波長依存性などによる発振光強度の変化に対応したDC変動成分と、遅延時間Tに相当する光路長差に対応した交流信号とを含む信号となる。しかし、2つの電気信号の交流成分の位相はお互いにπだけずれており、一方の電気信号の交流成分の瞬時振幅の最大値は他方の電気信号の交流成分の瞬時振幅の最小値に対応している。したがって、2つの光検出器からの各電気信号は、減算回路206に入力されて、DC成分が除去されるとともに振幅が倍となった交流成分のみを持つ電気信号が得られる。この交流信号の周波数は、光路長差に依存しており、光路長差が大きい程、周波数は大きくなる。
ここで、光検出器で得られる干渉光の強度を表す電気信号の交流成分の周波数が、発振器部における発振波長λの逆数である波数kの変化率を表していることについて、以下簡単に説明する。光検出器で得られる干渉光の強度は、次式で表される。
S(t) ∝ I(t)+ I(t)cos(2πν(t)T + φ) 式(3)
ここで、I(t)は光強度である。φは、半透鏡で受ける位相変化であって、これには、2つの光検出器でそれぞれ検出される干渉光の間で、必ずπの差がある。したがって、2つの光検出器の間の差信号は次式で表され、DC成分が除去されたものとなる。
ΔS(t) ∝ 2I(t) cos(2π ν(t)T + φ) 式(4)
式(4)中で、ν(t)は、波長掃引光源の出力する時間的に変化する光周波数を表し、光周波数と波長との関係を用いて、次のように書き換えられる。
2πν(t)=2πc/λ(t) = ck(t) 式(5)
ここで、cは光速であり、k(t)=2π/λ(t)は波数に他ならない。
時間的に振動するΔS(t)の周波数は、(dν/dt) T=(c/2π)(dk/dt)Tである。ここで、dν/dtは光周波数の変化率、dk/dtは波数の変化率である。これら変化率が一定であれば、ν(t)およびk(t)が時間とともに直線的に変化する。すなわち、ΔS(t)の周波数が一定であることが、波数が時間に対して直線的に変化するために、必要にして十分な条件である。
したがって、ランプ電圧信号を電気光学偏向器に印加して概ね線形的に発振波長の掃引を行っているときに、光検出器から得られる電気信号の交流成分の周波数を検出し、この交流成分の周波数を一定に保つ動作を行うことによって、波数が時間に対して直線的に変化する波長掃引を実現できる。交流成分の周波数を一定に保つ動作は、以下に述べる電気信号処理部によって行われる。
再び図3を参照すれば、減算回路206からの出力電気信号ΔS(t)は、交流信号成分の周波数を一定に保つため、位相ロックループ(PLL)回路207に入力される。PLL回路207は、マスタクロック発振器および電圧制御発振器(VCO)とともに使用される発振器周波数の同期の用途などで一般によく知られている。一般には、発振周波数に同期する交流信号が入力され、この交流信号の変動を反映した制御電圧をVCOへ供給して、所定の発振周波数を維持するよう動作する。
本発明においては、光干渉計部からの干渉光強度の交流成分がPLL回路207に入力され、交流成分の周波数変化に比例した出力信号(VCO入力信号:VCOin)を、電気光学偏向器を駆動する高電圧増幅器211のゲイン制御電圧(Gain)として印加する。既に述べたようにKTNなどを用いた電気光学偏向器は、偏向のために数百V程度の駆動電圧を必要とする。このため、波長掃引のためのランプ電圧を生成するランプ信号発生器210からの駆動信号は、高電圧増幅器211で所要電圧レベルまで増幅されて電気光学偏向器104へ印加される。本発明では、PLL回路207回路からの出力電圧(VCOin)は減算器208で基準電圧209から減じられた上で、高電圧増幅器211のゲイン制御入力(Gain)へ印加される。基準電圧209を適切に設定して、所望の波数変化率が得られるように、高電圧増幅器211の平均ゲインを設定する。
ランプ信号発生器210からのランプ電圧そのままで電気光学偏向器を駆動する場合は、波長が概ね線形的に変化する。つまり、波数が時間に対して線形的に変化するようなSS−OCTに適合した波長変化を実現することはできない。したがって、ランプ電圧は、近似的な掃引電圧にしかなり得ない。本発明では、発振出力からの結合光に基づいて干渉光を生じさせ、PLL回路207によって干渉光の強度信号の交流成分周波数を一定に保つような引き込み動作を行う。PLL回路207からは、交流成分の周波数変化に比例した制御電圧(VCOin)が得られる。このPLL回路207からの制御電圧(VCOin)を高電圧増幅器211のゲイン制御電圧(Gain)に帰還することで、ランプ電圧が補正されて波数が時間に対して線型的に変化するように波長掃引が行われる。フィードバック制御部200bは、PLL回路207の出力を高電圧増幅器211におけるランプ信号の増幅率に帰還することにより、単純な鋸歯状波のランプ電圧の掃引電圧に対して、波数が時間に対して線形的に変化するような発振波長掃引プロファイルとなるように刻々と電圧補正を行っていることになる。
より具体的には、波長が短い側から長い側に掃引される場合、電気光学偏向器による偏向角δは,負から正へと単調に増す変化を行う。KTN電気光学偏向器の場合、このために印加する制御電圧としては、正から負へと単調に減じる鋸歯状波が求められる。
一定負勾配のランプ電圧を印加する場合、掃引初期の短波長端近傍では、電圧の変化率(の大きさ)が過大であり、それゆえΔS(t)の周波数が高く、VCOinが基準電圧209を上回る。その結果、減算器208から負の補正信号が高電圧増幅器211のゲイン制御入力(Gain)に与えられ、それにより、電圧の変化率(の大きさ)を低減しΔS(t)の周波数を低める方向に作用する。
他方、掃引末期の長波長端近傍では、電圧の変化率(の大きさ)が過小であり、それゆえΔS(t)の周波数は低く、VCOinが基準電圧209を下回る。その結果、減算器208からは正の補正信号が高電圧増幅器211のゲイン制御入力(Gain)に与えられ、それにより、電圧の変化率(の大きさ)を増大しΔS(t)の周波数を高める方向に作用するのである。
図1に示した構成のリトマン配置された構成のレーザ発振器においては、発振波長λは、次の回折格子方程式によって決定される。
Λ(sin(θ+δ)+sinφ)=mλ 式(6)
ここで、Λは回折格子のピッチであり、λは発振波長、mは回折次数である。θおよびφは、図1に示したように回折格子への入射角および出射角である。δは、電気光学偏向器によって受ける回折格子への入射角変化量である。式(2)とともに従来技術の場合について説明したように、図1の本発明の波長掃引光源でも波長λの変化の形状は、式(6)左辺のδを含むsin項の影響を受ける。したがって、式(6)で、δを一定速度で変化させても、図8において破線41で示したような、波数が時間に対して直線的に変化する所望の波長変化は実現できない。
その上に、すでに述べたように、KTNなどを利用した電気光学偏向器では、結晶材料の均一性の問題や、個体ばらつき、2つの電極の電化注入特性のばらつき、さらにトラップ電荷の不均一のために、制御電圧に対する偏向角の変化には非線形性が残る。したがって、上式(6)のδに対する波長λの変化にはさらに別箇の非線形成分が含まれ、また、印加電圧に対するδの変化は温度によっても変動し、一定に保ち難い。
しかしながら、本発明のフィードバック制御部200bによる制御によれば、式(6)のsin項に由来する発振波長の変化を、波数が時間に対して線型的に変化する発振波長の変化に是正する。さらには、KTNなどに内在する結晶材料の均一性の問題や、個体ばらつき、等による偏向角δの変化に伴う非線形性や不安定性も同時に解消することができる。
図4は、本発明の波長掃引光源の第2の構成を示す図である。図4の波長掃引光源400は、図1における発振器部の構成をリトマン構成の200aからリトロー構成400aへ置き換えた点で相違しているだけである。利得媒質101からの入射光107は、回折格子109へ入射し、同じ角度方向に回折して利得媒質101へ戻る。すなわち、発振器部400aは、利得媒質101と、回折格子109を一方の端とする共振器から構成されている。他のフィードバック制御部200bの構成は、図1と全く同様で良い。本発明のフィードバック制御部200bの動作は、上述の図1の場合と同じであるので、説明は省略する。
以下、より具体的な実施例について述べる。
図1に示した本発明の波長掃引光源の第1の構成において、回折格子は600l/mmの線刻密度を持ち、入射角θを52.31°、入射角φを0.04°に設定したところ、中心波長1.32μmで動作した。光干渉計部の光路長差は3mm、すなわち遅延時間T=10psに相当する値に設定した。掃引動作の繰返し周波数は100kHzとし、2つの光検出器の差信号ΔS(t)の周波数が17.2MHzになるように、フィードバック制御部を構成した。すなわち、PLL回路内のVCOの周波数の入力電圧感度10MHz/Vに対応して、基準電圧を1.72Vに設定した。
この結果、波長1.35μmを中心として、幅100nmの範囲において、発振出力光の波数の変化率が安定化され、理想的な波長変化が得られた。この時、掃引中の光周波数の変化率は1.72THz/μs、波数の変化率は2π×57.4cm−1/μsの、何れも一定値に保たれた。
図4に示した本発明の波長掃引光源の第2の構成において、回折格子は300l/mmの線刻密度を持ち、入射角θを11.7°に設定したところ、中心波長1.35μmで動作した。上述した実施例1同様に、光干渉計部の光路長差は3mm、すなわち遅延時間T=10psに相当する値に設定し、掃引動作の繰返し周波数は100kHzとした。この場合、2つの光検出器の差信号ΔS(t)の周波数が16.5MHzになるように、フィードバック制御部を構成した。すなわち、PLL回路内のVCOの周波数の入力電圧感度10MHz/Vに対応して、基準電圧を1.65Vに設定した。
この結果、波長1.35μmを中心として、幅100nmの範囲において、発振出力光の波数の変化率が安定化され、理想的な波長変化が得られた。この時、掃引中の光周波数の変化率は1.65THz/μs、波数の変化率は2π×54.9cm−1/μsの、何れも一定値に保たれた。
以上詳細に述べたように、本発明により、SS−OCTに適合した波長変化を実現した波長掃引光源を提供することができる。出力発振光の一部を、2つの光路長の間に差を設けた干渉計に入射し、得られる電気信号の交流成分周波数を一定に保つフィードバック制御部の動作により、発振波長が波数について直線的に変化するような波長掃引電圧が生成・印加され、OCTイメージの線形性を大幅に改善し尖鋭なOCTイメージを得ることができる。