以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
先ず、図1には、本発明の第一の実施形態としての機械的インピーダンスの調節装置に係る調節装置10が設けられた駆動機構12を概略的に示す。駆動機構12は、例えばロボット等の可動部分を構成するものであり、駆動部材としての板状のアーム部材14が回転軸16を中心に回動可能に設けられている。アーム部材14は、コイルスプリング18によって回転方向の一方向(本実施形態においては、図1中の反時計回り)に付勢されている。
さらに、アーム部材14には、ワイヤ20の一方の端部が連結されており、かかるワイヤ20の他方の端部が、駆動源としての電動モータ22の出力軸に設けられたプーリ24に取り付けられている。そして、電動モータ22が駆動せしめられて、ワイヤ20がプーリ24で巻き上げられることによって、アーム部材14に対して、コイルスプリング18からの引張力に抗して、コイルスプリング18からの引張方向と反対方向(本実施形態においては、図1中の時計回り)の引張力が及ぼされる。これにより、アーム部材14が、回転軸16回りにコイルスプリング18からの引張方向と反対方向(本実施形態においては、図1中の時計回り)に回動せしめられるようになっている。このように、本実施形態においては、ワイヤ20を介して電動モータ22の駆動力がアーム部材14に伝達されるようになっており、ワイヤ20によって動力伝達経路が構成されている。
そして、ワイヤ20上に、調節装置10が設けられている。即ち、本実施形態におけるワイヤ20は、一方の端部がアーム部材14に連結された第一ワイヤ20aと、一方の端部がプーリ24に連結された第二ワイヤ20bの二本のワイヤによって構成されており、これら第一および第二ワイヤ20a,20bそれぞれの他方の端部が調節装置10に連結されることによって、調節装置10が第一および第二ワイヤ20a,20bによって構成されたワイヤ20上に配設されている。
図2に、調節装置10を概略的に示す。調節装置10は、複数の筒型誘電体素子26を備えている。筒型誘電体素子26は、図3に概略的に示すように、誘電体シート28が筒状に丸められた構造とされている。誘電体シート28は、図4に概略的に示すように、誘電膜30の両面に電極層32a,32bが形成されると共に、電極層32a,32bの何れか一方(本実施形態においては、電極層32a)における誘電膜30と反対側の面に絶縁層34が形成された構造とされている。なお、図3、図4、および後述する図12、図18、図19においては、誘電体シート28の積層構造の理解を容易とするために、誘電膜30(262)、電極層32a,32b(264)、絶縁層34の厚さ寸法や変形量等を誇張して示す。
誘電膜30は、誘電体エラストマーによって形成された矩形薄膜形状を有している。誘電体エラストマーとしては、例えば、シリコンエラストマー、アクリルエラストマー、ポリウレタン、ニトリル系ゴム、水素添加ニトリル系ゴム、天然ゴム、エチレン−プロピレンゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム、イソプレンゴム、スチレンブタジエンゴム、熱可塑性エラストマー、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)を含んだ共重合体、フルオロエラストマー、シリコン成分およびアクリル成分を含む共重合体、シリコンエラストマーおよびアクリルエラストマーを含んだポリマーブレンド等が適宜に採用可能である。なお、誘電膜30は、高い電圧が印加されることから、絶縁破壊強度の大きいものを採用することが望ましい。本実施形態においては、誘電膜30は、シリコーンゴムから形成されている。また、誘電膜30の厚さは特に限定されるものではなく、要求される伸縮量等に応じて適宜に決定され得る。例えば、筒型誘電体素子26の小型化、低電位駆動化、および変形量を大きくする等の観点からは誘電膜30の厚さ寸法は小さい方が好ましく、この場合には、絶縁破壊強度等をも考慮して、誘電膜30の厚さは、好適には1μm以上1000μm(1mm)以下、より好適には、5μm以上200μm以下とされる。
電極層32a,32bは、後述する誘電膜30の伸縮に応じて伸縮可能であることが望ましい。電極層32a,32bとしては、例えば、カーボンブラック、カーボンナノチューブ等の導電性カーボンに、バインダーとしてオイルやエラストマーを混合したペーストまたは塗料から電極を形成することが好ましい。バインダーとなるエラストマーとしては、例えば、シリコーンゴム、アクリルゴム、エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体(EPDM)、天然ゴム(NR)、ブチルゴム(IIR)、イソプレンゴム(IR)、アクリロニトリル−ブタジエン共重合ゴム(NBR)、水素化ニトリルゴム(H−NBR)、ヒドリン系ゴム、クロロプレンゴム(CR)、ウレタンゴム等の柔軟なものが好適に採用され得る。また、誘電膜30の伸縮性をより有利に確保するために、カーボンブラック、カーボンナノチューブ等の導電性微粉体を、誘電膜30の表面に直接付着させて電極を形成しても良い。本実施形態においては、電極層32a,32bは、カーボンブラックパウダーを誘電膜30の両面の略全体に塗布することによって形成されている。
さらに、一方の電極層32aにおける誘電膜30と反対側の面には、絶縁層34が設けられている。絶縁層34としては、誘電体シート28が巻回された状態で、径方向で互いに隣接せしめられる電極層32aと電極層32b間の導通を防止し得るものであれば何等限定されるものではないが、電極層32a,32bの伸縮に応じて伸縮可能であるものが好適に採用される。例えば、シリコーンゴム、アクリルゴム、エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体(EPDM)、天然ゴム(NR)、ブチルゴム(IIR)、イソプレンゴム(IR)、アクリロニトリル−ブタジエン共重合ゴム(NBR)、水素化ニトリルゴム(H−NBR)、ヒドリン系ゴム、クロロプレンゴム(CR)、ウレタンゴム等の柔軟なものが好適に採用される。更に、絶縁層34を、誘電膜30と同じ材質で形成すれば、より大きな駆動力を得ることが出来る。本実施形態においては、絶縁層34は誘電膜30と同じシリコーンゴムから形成されている。但し、絶縁層34を誘電膜30と異なる材質で形成して、例えば絶縁層34を誘電膜30よりも誘電率や導電率の低い材料で形成することによって、より大きな絶縁性を得る等することも勿論可能である。
このような構造とされた誘電体シート28は、電極層32a,32bが直流電源36およびスイッチ38と電気的に接続される。そして、図4(a)に示す電圧印加前の状態から、図4(b)に示すように、電極層32a,32bに直流電圧(以下、単に電圧とする)を印加すると、両電極層32a,32b間の静電引力によって、誘電膜30が膜厚方向(図4中、上下方向)に圧縮される。これにより、誘電膜30の膜厚が小さくなる。そして、膜厚が小さくなるのに応じて、誘電膜30の面が広くなる。従って、誘電膜30が電極層32a,32b,絶縁層34と共に伸張せしめられて、誘電体シート28が面の広がり方向に伸張せしめられる。
一方、図4(a)に示すように、電極層32a,32bへの印加電圧を除去すると、誘電膜30の膜厚方向に作用せしめられていた圧縮力が解除される。これにより、誘電膜30自身の復元力によって、誘電膜30の膜厚が大きくなる。そして、膜厚が大きくなるのに応じて、誘電膜30の面が小さくなる。従って、誘電膜30が電極層32a,32b,絶縁層34と共に収縮せしめられて、誘電体シート28が面の広がり方向で収縮せしめられることとなる。
このような構造とされた誘電体シート28によって筒型誘電体素子26が構成されている。特に本実施形態においては、誘電体シート28は、図5および図6に示すピン40に渦巻状に所定回数だけ巻回されることによって、筒形状が形成されている。
ピン40は例えばアクリル樹脂などによって形成された略ロッド形状とされている。ピン40の軸方向中央部分には、全周に亘って径方向外方に突出する係止部42が形成されており、係止部42を挟んだ一方の側が挿通部44とされている一方、他方の側が挿通部44よりも小径の巻回部46とされている。挿通部44の軸方向端部側には、所定寸法に亘るネジ48が形成されている。一方、巻回部46は、軸方向先端部分が凸状の球面形状とされていると共に、軸方向の適当な位置に、全周に亘って径方向外方に僅かに突出する一対の被着部50が形成されている。
そして、このような構造とされたピン40の一対が、巻回部46を互いに向き合わせた状態で、それぞれの被着部50に誘電体シート28が渦巻状に所定回数に亘って巻回せしめられて接着等で固定されることによって、筒型誘電体素子26が構成されている。なお、図3はあくまでも概略図であり、誘電体シート28の巻回数は何等限定されるものではない。また、図3に示したように、誘電体シート28は、ピン40への巻回状態において、絶縁層34が、電極層32aと電極層32bの間に介在せしめられるようになっている。このようにして、誘電体シート28が筒形状に丸められており、電極層32a,32bへの電圧印加によって、誘電体シート28の面寸法の変化が、筒型誘電体素子26の軸方向の伸縮として発現せしめられるようになっている。従って、筒型誘電体素子26は、電極層32a,32bへの電圧印加によって軸方向に伸張せしめられる一方、電圧印加を解除することによって、軸方向に収縮せしめられるようになっている。
そして、図7に概略的に示すように、複数の筒型誘電体素子26が、一対のディスク52の間に固定される。なお、図7には、理解を容易とするために、調節装置10を構成する複数の筒型誘電体素子26の内、2つのみ図示する。ディスク52は、図8に示すように、全体として円板形状とされており、その厚さ寸法は、ピン40の挿通部44においてネジ48が形成されていない部分の軸方向長さ寸法と等しくされている。更に、ディスク52には、ピン40の挿通部44と等しい径寸法の挿通孔54が複数形成されている。
特に本実施形態においては、挿通孔54は、ディスク52と中心を等しくする2つの同心円上で、周方向に所定間隔をもって形成されており、ディスク52の中心に近い同心円上に4つ、ディスク52の中心から遠い同心円上に8つ形成されている。これにより、ディスク52の中心から遠い同心円上に形成されて、周方向で隣接する挿通孔54,54それぞれの中心とディスク52の中心とを結ぶ直線が形成する角度:α=45°、ディスク52の中心から遠い同心円上に形成された挿通孔54およびそれと周方向で隣接するディスク52の中心に近い同心円上に形成された挿通孔54それぞれの中心とディスク52の中心とを結ぶ直線が形成する角度:β=22.5°とされている。また、ディスク52の中央には、厚さ方向に貫通するネジ孔56が形成されている。
そして、図7に示すように、筒型誘電体素子26を軸方向両側から一対のディスク52で挟んで、ピン40の挿通部44を、係止部42で係止されるまでディスク52の各挿通孔54に挿し通す。これにより、ピン40のネジ48がディスク52から突出せしめられて、かかるネジ48がナット58で固定される。このように、筒型誘電体素子26の軸方向両端部に設けられたピン40,40がそれぞれディスク52に固定されることによって、筒型誘電体素子26が一対のディスク52,52間に配設されることとなる。そして、本実施形態においては、1つのディスク52に12個の挿通孔54が形成されていることから、最大で12個の筒型誘電体素子26がディスク52間に固定されることとなる。ここにおいて、ディスク52に固定された各筒型誘電体素子26の軸方向は、ディスク52の径方向に直交する方向に全て揃えられる。なお、詳細な図示は省略するが、各筒型誘電体素子26の電極層32a,32bは電源36と電気的に接続されている。
また、それぞれのディスク52の中央に貫設されたネジ孔56には、連結ロッド60が固定される。連結ロッド60は、ロッド状に延びる軸部62の一方の端部に、円環状の連結部64が形成される一方、他方の端部にネジ66が形成された構造とされている。そして、連結ロッド60のネジ66が、ディスク52のネジ孔56に筒型誘電体素子26と反対側から螺合されることによって、連結ロッド60がディスク52の中央から調節装置10の外方に突出するように設けられる。
このような構造とされた調節装置10は、図2に示すように、一方の連結ロッド60の連結部64に、一方の端部がアーム部材14に連結された第一ワイヤ20aの他方の端部が連結されると共に、他方の連結ロッド60の連結部64に、一方の端部がプーリ24に連結された第二ワイヤ20bの他方の端部が連結される。なお、本実施形態においては、第一及び第二ワイヤ20a,20bは、その端部が連結部64に挿通されてかしめ金具68でかしめられることによって、連結部64と連結されるようになっている。これにより、調節装置10がワイヤ20上に設けられることとなる。
かかる調節装置10のワイヤ20上への配設状態において、各筒型誘電体素子26の軸方向はワイヤ20の延出方向と等しくされており、複数の筒型誘電体素子26が、ワイヤ20の延出方向に並設状態で配設される。更に、各筒型誘電体素子26が、ディスク52の中心に対する同心円上で周方向に等間隔に配設されていることによって、図1に示すように、各筒型誘電体素子26によって合成された調節装置10の弾性中心:Pが、ワイヤ20の延出方向上に位置せしめられるようになっている。
このような構造とされた調節装置10は、例えば図1(a)に示すように、定常状態下では筒型誘電体素子26に電圧が印加されることのない状態でワイヤ20上に配設されている。そして、例えば図1(b)に示すように、アーム部材14が外力などの作用でプーリ24から離隔する方向に過大に変位せしめられた場合には、各筒型誘電体素子26に電圧を印加することによって、各筒型誘電体素子26を軸方向に伸張せしめる。これにより、アーム部材14の過大変位を調節装置10の伸張によって吸収することが出来る。従って、プーリ24に及ぼされる引張力を調節装置10の伸張によって解消乃至は軽減することが出来て、電動モータ22に過大な負荷が及ぼされることを回避乃至は軽減することが出来る。
また、筒型誘電体素子26への印加電圧を調節することによって、調節装置10の伸張量を調節することが出来る。これにより、駆動機構12の機械的インピーダンスを調節することが可能とされる。その結果、例えばアーム部材14が障害物等に衝突する直前に、調節装置10に電圧を印加して伸張せしめれば、駆動機構12のコンプライアンス性を高めることで、アーム部材14の障害物等への衝突の衝撃を緩衝することが出来て、調節装置10によって緩衝装置としての機能を発揮させることが可能である。また、コンプライアンス性を与えられることから、例えばアーム部材14がロボットの手指等の場合には、把持しようとする対象物に当接する直前に調節装置10を伸張せしめることによって、アーム部材14の駆動速度を低下せしめて対象物を柔らかく掴むことが出来ると共に、手指と対象物の位置ずれを吸収することも出来る。
さらに、特に本実施形態における調節装置10は、その弾性中心:Pがワイヤ20の延出方向上に位置せしめられていることから、調節装置10の伸縮に際して調節装置10にモーメントが生ぜしめられて、調節装置10の回転によりワイヤ20に不要な振れを及ぼすようなことも軽減されており、アーム部材14の作動を阻害するおそれも軽減されている。
加えて、本実施形態における調節装置10は、筒型誘電体素子26の複数が纏められた簡易な構成とされていることから、コンパクト化及び軽量化が有利に実現され得て、ロボットの可動部分等にも有利に適用される。更に、調節装置10の伸縮は、筒型誘電体素子26における誘電体シート28の伸縮変形によって行われることから作動音が生じることも殆どなく、優れた静粛性を得ることも出来るのである。
このように、本実施形態における調節装置10を用いれば、調節装置10の伸張量を調節することによって、駆動機構12の機械的インピーダンスを調節することが出来る。そこにおいて、調節装置10の伸張量の調節は、全ての筒型誘電体素子26に等しい電圧を印加して、かかる印加電圧の大きさを増減せしめることによって、全ての筒型誘電体素子26を同時に伸縮せしめても良いし、或いは、各筒型誘電体素子26の電極層32a,32bへの印加電圧を各別に制御して、デューティ制御等によって伸張せしめる筒型誘電体素子26の本数を増減せしめる等しても良い。
また、電極層32a,32bに印加する電圧の変化スピードを調節すれば、調節装置10の伸張スピード、延いては機械的インピーダンスの変化スピードを調節することが出来る。これにより、例えば、障害物への衝突時乃至はその直前には印加電圧値を速やかに増大せしめて、大きなコンプライアンス性を速やかに発現せしめる一方、物を掴む場合には印加電圧値を緩やかに増大せしめて、コンプライアンス性をより長い時間をかけて緩やかに発揮せしめること等も出来る。
また、本実施形態においては、定常状態においては調節装置10は電圧が印加されていないことによって、消費電力の軽減が図られているが、定常状態においても或る程度の電圧を印加せしめておいて、必要に応じて調節装置10への印加電圧を増減せしめるなどしても良い。このようにすれば、定常状態において調節装置10が或る程度の伸張状態とされることから、例えば、調節装置10への印加電圧を低減せしめることによって、機械的インピーダンスを高くすることも出来る。
次に、図9に、本発明の機械的インピーダンス調節装置に係る第二の実施形態としての調節装置80を概略的に示す。なお、以下の説明において、前述の第一の実施形態と同様な構造とされた部材及び部位については、それぞれ、図中に、第一の実施形態と同一の符号を付することにより、それらの詳細な説明を省略する。
本実施形態における調節装置80は、前述の第一の実施形態における調節装置10と同様に、アーム部材14とプーリ24を繋ぐワイヤ20上に配設される。調節装置80は、前述の如き誘電膜30、電極層32a,32bを備えた矩形薄膜形状を有する誘電体シート82の複数が、厚さ方向に積層されて構成されている。特に本実施形態においては、電極層32a、誘電膜30、電極層32b、誘電膜30、電極層32aの順で厚さ方向に積層されており、積層方向で隣り合う誘電体シート82,82の間で、電極層32a乃至は電極層32bが共通して用いられている。なお、図示は省略するが、これら電極層32a,32bは、前述の筒型誘電体素子26と同様に、電源と電気的に接続されている。このように、本実施形態においては、薄膜形状の誘電体シート82によって板型誘電体素子が構成されており、誘電体シート82の複数が積層されることによって調節装置80が構成されている。
ここにおいて、誘電体シート82は、前述の誘電体シート28と同様に、図4に示したように、両電極層32a,32bへの印加電圧を増大せしめると、両電極層32a,32b間の静電引力によって厚さ寸法が減少せしめられると共に面の広がり方向に伸張せしめられる。一方、両電極層32a,32bの印加電圧を除去すると、誘電膜30自身の復元力によって、厚さ寸法が増大せしめられると共に面の広がり方向で収縮せしめられる。これにより、本実施形態における調節装置80は、印加電圧を増大することによって厚さ寸法が減少せしめられて面の広がり方向に伸張せしめられる一方、印加電圧を減少することによって厚さ寸法が増大せしめられて面の広がり方向で収縮せしめられる。
このような構造とされた調節装置80は、例えば、適当な連結具を用いる等することによってワイヤ20a,20bの端部に連結されるようになっており、二本のワイヤ20a,20bによって構成されるワイヤ20上に配設される。図9にも示すように、特に本実施形態における調節装置80は、厚さ方向、即ち、誘電体シート82の積層方向が、ワイヤ20の延出方向と直交せしめられるようにワイヤ20上に配設されるようになっており、複数の各誘電体シート82が、ワイヤ20上に並設状態で配設されている。更に、調節装置80のワイヤ20への組み付け状態において、調節装置80の中心がワイヤ20上に位置せしめられており、複数の誘電体シート82によって合成される弾性中心が、ワイヤ20上に位置せしめられるようになっている。
このような調節装置80は、例えばアーム部材14がワイヤ20の引張方向と逆方向(図1における反時計回り方向)に過大に変位せしめられた場合には、電極層32a,32bに電圧を印加せしめることによって、面の広がり方向、即ち、ワイヤ20の延出方向に伸張せしめることが出来る。これにより、アーム部材14の過大変位を調節装置80の伸張で吸収することが出来て、ワイヤ20を介して電動モータ22に過大な負荷が及ぼされるおそれを回避乃至は軽減することが出来る。そこにおいて、本実施形態においては、誘電体シート82の面の広がり方向の伸張を利用することから、調節装置80の変形量を有利に確保することが出来る。また、調節装置80の弾性中心がワイヤ20上に位置せしめられていることから、調節装置80の伸縮に際して調節装置80に不要なモーメントが及ぼされることも回避されており、ワイヤ20の動力伝達効率を阻害するおそれも軽減されている。
なお、本実施形態における調節装置80の伸縮量の調節は、前述の第一の実施形態における調節装置10と同様に、全ての誘電体シート82に等しい電圧を印加して、かかる印加電圧を増減せしめても良いし、予め設定した所定の電圧を印加する誘電体シート82の枚数を調節する等しても良いし、更には、それらを組み合わせて、誘電体シート82に印加する電圧を各別に制御しても良い。
また、本実施形態においては、積層方向で隣接する誘電体シート82,82間で電極層32a乃至は32bが共通して用いられていたが、例えば、前述の第一の実施形態における誘電体シート28を厚さ方向で積層して、積層方向で隣接する誘電体シート間に絶縁層34を介在せしめた構造等も採用可能である。
また、図10,11に、本発明の第一の参考例としての立ち上がり補助椅子110(以下、補助椅子110と称する場合がある)を示す。補助椅子110は、駆動部材としての座部112と、フレーム114と、補助機構116とを、含んで構成されている。なお、以下の説明において、特に説明がない限り、上下方向とは鉛直上下方向となる図10中の上下方向を、前後方向とは図10中の右左方向を、左右方向および幅方向とは図10中の紙面直交方向を、それぞれ言うものとする。
座部112は、使用者が着座する座面を備えた略矩形板形状の部材であって、幅方向の中央部分に第一の係止金具118が取り付けられている。第一の係止金具118は、鉄等の金属で形成された略板形状の部材であって、板厚方向が幅方向に一致するように座部112の下面に固定されている。また、第一の係止金具118の下端部には、後方に向かって突出する第一の係止爪120が一体形成されている。この第一の係止爪120は、上端面が座部112と略平行をなしていると共に、下端面が後方に向かって次第に上方に傾斜しており、後方に向かって次第に上下方向で狭幅となっている。
また、座部112には、運動変換部材122が取り付けられている。運動変換部材122は、鉄等の金属で形成された略板形状を有する部材の一対を、第一の係止金具118を幅方向両側から挟み込むように重ね合わせた構造を有しており、座部112に対して下方に突出するように固定されている。また、運動変換部材122は、座部112に固定される取付部124と、取付部124から下方に向かって延び出す連結部126と、連結部126の下端に一体形成された弓形プーリ128とを、有している。取付部124は、座部112の前端部分に固定されて、第一の係止金具118に対して幅方向で重ね合わされている。その取付部124の後端には、連結部126が一体形成されて下方に延び出しており、更に連結部126の下端には、円弧状の下端面を有する弓形プーリ128が一体形成されている。
また、座部112には、フレーム114が取り付けられている。フレーム114は、座部112を支持する脚部130を有している。脚部130は、鉛直上下方向に延びて、一対の前方脚部130a,130aが座部112の前部左右両端に配設されていると共に、一対の後方脚部130b,130bが座部112の後部左右両端に配設されており、座部112の四隅が脚部130で支持されている。また、一対の後方脚部130b,130bは、座部112よりも上方に延び出しており、かかる座部112よりも上方に延び出す部分の間に架け渡された榻背板132によって背凭れが形成されている。
また、前後の脚部130a,130bは、座部112の下側において前後方向に延びる上側補強部材134で相互に連結されていると共に、その下端部において前後方向に延びる下側補強部材136で相互に連結されている。更に、上側補強部材134には、一対の後方脚部130b,130bの中間部分を座部112の下側において相互に連結する左右補強部材138が上方から重ね合わされており、左右補強部材138の左右両端部が一対の後方脚部130b,130bに固定されている。更にまた、下側補強部材136には、一対の後方脚部130b,130bの下端部を相互に連結する支持板140が下方から重ね合わされており、支持板140の左右両端部が一対の後方脚部130b,130bに固定されている。なお、図中には明示されていないが、上側補強部材134の前端部上面には、左右補強部材138と上下寸法を略同じとされたスペーサが重ね合わされている。
そして、かくの如き構造とされたフレーム114に対して、座部112が取り付けられている。即ち、座部112の前端がスペーサを介して上側補強部材134に重ね合わされていると共に、座部112の後端が左右補強部材138を介して上側補強部材134に重ね合わされている。
そこにおいて、上側補強部材134の前端部には、左右方向に延びるロッド形状の第一の軸部材142が固設されている。そして、フレーム114に固定された第一の軸部材142が、運動変換部材122の取付部124に形成された貫通孔に挿通されることにより、運動変換部材122に固定された座部112が、フレーム114に取り付けられていると共に、フレーム114に対して第一の軸部材142を中心とする相対的な揺動変位を許容されている。
また、上側補強部材134の前後方向中間には、左右方向に延びるロッド形状の第二の軸部材144が固設されている。なお、本実施形態では、第一の軸部材142と第二の軸部材144が、前後方向に延びる板形状の連結金具145によって相互に連結されている。
この第二の軸部材144には、第二の係止金具146が取り付けられている。第二の係止金具146は、金属板で形成されており、第二の軸部材144を中心として揺動可能に配設されている。また、第二の係止金具146の上端部には、前方に向かって突出する第二の係止爪148が一体形成されている。この第二の係止爪148は、下端面が座部112に平行に広がっていると共に、上端面が前方に向かって下傾する傾斜面とされており、前方側に向かって上下方向で狭幅となっている。そして、第一の係止爪120の上面と第二の係止爪148の下面が互いに重ね合わされて、それら第一,第二の係止爪120,148が係止されることにより、座部112のフレーム114に対する揺動変位が規制されるようになっており、それら第一,第二の係止金具118,146によって、座部112のロック機構が構成されている。
また、第二の軸部材144には、略円板形状の円形プーリ150が取り付けられている。この円形プーリ150は、第二の軸部材144を中心とする回転を許容されている。更に、円形プーリ150には、動力伝達経路を構成するワイヤ152が巻き掛けられており、その一方の端部が弓形プーリ128に対して取り付けられている。
そこにおいて、ワイヤ152の他方の端部は、アクチュエータ154に取り付けられている。アクチュエータ154は、図12の(a)に示すように、略円板形状を有する板型誘電体素子としての誘電体シート156の一対を厚さ方向で重ね合わせて、それら誘電体シート156,156の外周縁部を外周連結部材158で相互に連結すると共に、各誘電体シート156の径方向中央部分に内周連結部材160を取り付けた構造を有している。そして、図12の(b)に示すように、各誘電体シート156に取り付けられた内周連結部材160に対して、軸方向で相互に離隔するように外力が及ぼされて、各誘電体シート156がテーパ形状に変形せしめられている。これにより、誘電体シート156は、予め径方向で延伸せしめられている。なお、誘電体シート156は、前記第一の実施形態の誘電体シート28と同様に、誘電体エラストマーで形成された誘電膜30と、誘電膜30の両面に形成された電極層32a,32bとを、含んで形成されている。また、誘電体シート156がテーパ形状に変形せしめられることにより、電極層32a,32bの対向方向が、誘電体シート156の中心軸方向に対して斜交せしめられている。
本参考例では、図10,11に示すように、上述の如き構造とされたアクチュエータ154が、軸方向に二つ重ね合わされて連結されている。即ち、誘電体シート156の径方向中央に取り付けられた内周連結部材160を重ね合わせて、相互に固定することにより、アクチュエータ154,154が上下方向で直列的に配設されている。
そして、アクチュエータ154,154は、支持板140に載置されて、下端に位置する内周連結部材160が支持板140に固定されることにより、フレーム114に対して装着されている。また、アクチュエータ154,154の上端に位置する内周連結部材160には、ワイヤ152の他方の端部が取り付けられており、アクチュエータ154,154がワイヤ152を介して座部112に取り付けられている。なお、本参考例では、ワイヤ152の張力によって誘電体シート156が初期状態で面方向に延伸されており、ワイヤ152の延出方向である図10中の上下方向が本参考例における動力伝達経路方向とされている。また、本参考例では、弓形プーリ128と、円形プーリ150と、ワイヤ152と、アクチュエータ154,154とによって、補助機構116が構成されている。
このような構造とされた立ち上がり補助椅子110では、使用者が容易に腰掛けることが出来ると共に、座した状態から立ち上がる際に、座部112をフレーム114に対してアクチュエータ154,154で揺動変位させて、使用者の立ち上がりを補助出来るようになっている。以下、図13に沿って補助椅子110の作動を説明する。
先ず、補助椅子110の座部112に使用者が着座していない初期状態では、図11に示すように、第一,第二の係止金具118,146の係止が解除されており、アクチュエータ154,154を構成する誘電膜30の弾性に基づくワイヤ152の張力によって、座部112が後部を上方に持ち上げられた傾斜状態に保持されている。この状態では、誘電体シート156には電圧が印加されておらず、不要な電力消費が防止されている。
次に、ステップ(以下、Sと称する)1において、アクチュエータ154の誘電体シート156(電極層32a,32b)に対して電圧が印加される。これにより、誘電体シート156を構成する誘電膜30のバネ定数が小さくされて、誘電膜30が弾性変形を生じ易くされる。その結果、誘電膜30の弾性による抵抗を抑えて、座部112の揺動変位が小さな力で容易に生ぜしめられるようになる。
また、S2において、座部112に使用者が腰掛けて、座部112に対して使用者の体重が作用する。これにより、図10に示すように、座部112が略水平に広がる着座状態まで揺動変位せしめられる。同時に、座部112に固定された弓形プーリ128が前方に揺動変位せしめられて、ワイヤ152が弓形プーリ128によって引かれる。これにより、アクチュエータ154,154に対して軸方向への引張力が及ぼされる。本参考例では、使用者の着座によって座部112が駆動されるようになっており、使用者の質量(体重)を利用して駆動源が実現されている。要するに、本参考例に係る補助椅子110においては、座部112に外力を及ぼす質量体が駆動源とされている。なお、S1における電圧の印加と、S2における着座開始は、同時であることが、消費電力の低減等の観点から望ましく、着座開始後に電圧が印加される(S1とS2の順序が入れ替わる)ようになっていても良い。
また、ワイヤ152が弓形プーリ128によって引かれることにより、第二の係止金具146は、上方に突出するように揺動変位される。そして、使用者の着座完了によって、S3において、第二の係止金具146の第二の係止爪148が、第一の係止金具118の第一の係止爪120に係止されて、座部112がフレーム114に対して揺動変位不能にロックされる。
次に、使用者の着座完了後に、S4において、誘電体シート156への電圧印加を停止する。これにより、誘電膜30の弾性が増大して、アクチュエータ154,154が軸方向に収縮する作用が大きくなる。その結果、ワイヤ152に及ぼされる張力が大きくなって、座部112に対して後部を上方に持ち上げる力が大きく作用する。一方、ロック機構によって、座部112がフレーム114に対してロックされていることから、誘電体シート156への電圧印加解除によって誘電膜30の弾性が増大しても、座部112は水平方向に広がる着座状態に保持される。
次に、S5において、使用者が、着座状態からの立ち上がりを開始すると、座部112に作用する使用者の体重が低減される。更に、S5において使用者が立ち上がりを開始するのと同時に、S6において、ロック機構を解除する。即ち、図示しないモータによって第二の係止金具146を揺動変位させることで傾斜させて、第一,第二の係止金具118,146の係止による座部112のロックを解除する。なお、第二の係止金具146は、例えば、座面に作用する重さを感知するセンサを配設して、重量センサの検出結果に基づいて揺動変位せしめられる。
座部112のロックが解除されると、アクチュエータ154,154が、貯蔵された力学的エネルギー(アクチュエータ154を構成する誘電膜30の弾性力)によって軸方向に収縮せしめられる。そこにおいて、S4で予めアクチュエータ154,154への電圧印加を停止していることから、各誘電膜30のバネ定数が、伸張時に比べて増大せしめられており、アクチュエータ154,154において発揮される収縮方向の力が、大きく得られるようになっている。
そして、弓形プーリ128が、アクチュエータ154,154の収縮によって、ワイヤ152を介して後方に引かれて揺動変位される。これにより、弓形プーリ128に固定された座部112は、後部を上方に持ち上げるように揺動変位せしめられる。
その結果、使用者は、座部112によって斜め前方に押し上げられて、立ち上がり初期に必要な力の一部をアクチュエータ154,154からの出力によって補助されるようになっている。以上の説明からも明らかなように、本参考例におけるアクチュエータ154は、外力の作用に対して力学的なエネルギーを貯蔵すると共に、貯蔵したエネルギーを放出することで仕事をする、蓄力手段としての機能を備えている。
その後、S7において、使用者が立ち上がりを完了して、座部112から離脱することにより、補助椅子110は、作動前の非着座状態(初期状態)に復帰する。
このように、本発明に係る機械的インピーダンスの調節装置に類似のものからなるアクチュエータ154に適用して、誘電体シート156への電圧印加を制御することにより、アクチュエータ154における力学的エネルギーの蓄積と放出を、効率的に実現することが出来る。即ち、外部からアクチュエータ154へのエネルギー入力時には、誘電体シート156の電極層32a,32bに電圧を印加することで、誘電膜30を変形し易くして、小さな外力から効率的にエネルギーを蓄積する。一方、アクチュエータ154から外部へのエネルギー出力時には、電極層32a,32bへの電圧の印加を停止することで、誘電膜30の弾性力を大きくして、蓄積したエネルギーから大きな力を座部112に作用させる。これらによって、本参考例に従う構造とされた立ち上がり補助椅子110では、着座時の座部112のスムーズな揺動変位と、立ち上がり時の充分な補助(使用者に対する大きな力の作用)を、両立して実現することが出来るのである。
次に、図14には、本発明の第二の参考例としての揺動アームに係る腕部170を備えた人型ロボット172を概略的に示す。人型ロボット172は、胴部174と、胴部174の上方に取り付けられた頭部176と、胴部174の下端部分に取り付けられて胴部174を支持する脚部178と、胴部174の上端部分に取り付けられた腕部170とを、備えている。なお、人型ロボット172の詳細な構造は、本参考例の要点ではないことから、ここでは説明を省略する。また、以下の説明において、上下方向とは図14中の上下方向を、前後方向とは図14中の左右方向を、それぞれ言うものとする。
また、胴部174の下端部と、脚部178の上端部との連結部分には、駆動源としての腰部モータ180が配設されており、腰部モータ180の駆動によって、胴部174が脚部178に対して前後方向に傾動可能とされている。
また、腕部170は、基端部としての上腕部182と、揺動部としての前腕部184とを有しており、上腕部182の一方の端部と前腕部184の他方の端部が連結された構造とされている。また、上腕部182と前腕部184の連結部分が関節部としての肘関節とされて、少なくとも一方の側に屈曲可能とされている。更に、腕部170は、上腕部182の他方の端部が胴部174の上端部に対して揺動可能に取り付けられて、取付部分が肩関節とされている。なお、前腕部184の一方の端部(先端部)には、ハンド部が取り付けられているが、ここでは説明および図示を省略する。
ここにおいて、上腕部182と前腕部184には、前腕部184を上腕部182に対して相対的に傾動(屈曲)させる駆動機構186が装着されている。駆動機構186は、上腕部182の一方の端部に固設された第一の取付部材188と、前腕部184の一方の端部に固設された第二の取付部材190を有している。また、それら第一,第二の取付部材188,190の間には、アクチュエータ192が配設されており、ワイヤ194によって第一,第二の取付部材188,190に取り付けられている。要するに、アクチュエータ192は、その出力方向の両端部が、第一,第二の取付部材188,190を介して、上腕部182と前腕部184に取り付けられている。
アクチュエータ192は、前記第一,第二の実施形態に示された調節装置10,80や筒型誘電体素子26、或いは第一の参考例に示されたアクチュエータ154等、本発明に係る機械的インピーダンスの調節装置と類似のもので構成されている。そして、アクチュエータ192の初期状態において、腕部170が屈曲状態(本参考例では、上腕部182と前腕部184が略直角をなす状態)に保持されている。
このような構造を有する人型ロボット172では、アクチュエータ192への印加電圧を調節することにより、前腕部184が上腕部182に対して揺動されるようになっており、前腕部184によって対象物196を持ち上げることが出来る。以下、人型ロボット172による対象物196の持上げ作動について、図15を参照しつつ説明する。
先ず、図14の(a)に示すように、腰部モータ180を駆動させて、胴部174を脚部178に対して所定角度:θ1 だけ前傾させる。そして、S11において、腕部170の先端にあるハンド部に対して対象物196を載置或いは把持させる。この際、アクチュエータ192の長さは、l1 とされている。
次に、S12において、アクチュエータ192の電極層32a,32bに電圧を印加する。これにより、アクチュエータ192を構成する誘電膜30のバネ定数が小さくなって、弾性変形し易くなる。
次に、S13において、腰部モータ180を駆動して、胴部174と脚部178の成す角度を小さくしていく。これにより、第一の取付部材188と第二の取付部材190の離隔距離が大きくなって、アクチュエータ192が引き伸ばされ、アクチュエータ192の長さがl2 (l2 >l1 )に変化する。そして、アクチュエータ192には、収縮方向に作用する力学的エネルギーが蓄積される。
次に、図14の(b)に示すように、胴部174と脚部178の成す角度がθ1 に比べて充分に小さい所定角度:θ2 になった時点で、S14において、アクチュエータ192の電極層32a,32bへの電圧印加を停止する。これにより、アクチュエータ192を構成する誘電膜30のバネ定数が大きくなって、収縮方向への復元力が増大する。
そして、S15において、図14の(c)に示すように、アクチュエータ192が対象物196の質量に抗して収縮されて、アクチュエータ192の長さがl3(l2 >l3 )に変化する。その結果、アクチュエータ192によって前腕部184が上腕部182に対して上方へ揺動されて、対象物196が上方に持ち上げられる。
このように、本参考例に示された人型ロボット172では、腰部モータ180による上体(胴部174)の駆動時に、アクチュエータ192への電圧の印加することで、アクチュエータ192に対してエネルギーを効率的に蓄積することが出来ると共に、腕部170の屈曲時には、アクチュエータ192への電圧の印加を停止することで、アクチュエータ192において蓄積されたエネルギーを効率的に放出することが出来る。なお、このことからも明らかなように、本参考例におけるアクチュエータ192は、蓄力手段としての機能を有している。
しかも、図14の(b)に示すように、対象物196を持ち上げる前に人型ロボット172の胴部174を充分に起き上がらせて、脚部178に対する傾斜を小さくしている。それ故、対象物196を持ち上げる際に、人型ロボット172の重心が前傾姿勢の場合(図14の(a))よりも後方に位置せしめられて、胴部174の前方において対象物196を持ち上げることによる転倒を回避することが出来る。
また、本参考例に示された人型ロボット172の腕部170では、腕部170の関節にモータを設けることなく、上腕部182と前腕部184の相対的な揺動を実現することが出来る。それ故、腕部170の小型化と軽量化を実現することが出来て、腕部170の駆動による人型ロボット172の重量バランスの変化を抑えることが出来ると共に、腕部170の駆動に必要な力を小さく抑えることが出来る。しかも、胴部174を揺動させる大出力の腰部モータ180の駆動力を、腕部170の駆動に利用することで、質量の大きな対象物196の腕部170による持上げを、特別なモータ等を設けることなく実現することが出来る。
次に、図16には、本発明の第三の参考例としての揺動アームに係る腕部200の要部を概略的に示す。腕部200は、前腕部184が上腕部182に対して揺動可能に連結された構造を有している。
また、前腕部184の先端部分には、上方に突出する第一の支持部材202と、下方に突出する第二の支持部材204が固設されている。更に、第一の支持部材202には、電気モータ206が取り付けられており、電気モータ206の回転軸に第一のプーリ208が取り付けられている。一方、第二の支持部材204には、第二のプーリ210が回転可能に取り付けられている。
一方、上腕部182の前腕部184側の端部には、上方に突出する第一の取付部材212と、下方に突出する第二の取付部材214が固設されている。更に、第一の取付部材212には、連結部材216が第一のプーリ208に向かって突出して揺動可能に取り付けられている。更にまた、連結部材216の第一のプーリ208側端部には、略有底円筒形状のケース218が取り付けられている。更に、ケース218の開口部は、略円板形状の蓋部材220によって閉塞されている。なお、図16中では、ケース218および蓋部材220が断面で描かれている。
また、ケース218には、アクチュエータ222が配設されている。アクチュエータ222は、全体として略円筒形状乃至は略円柱形状を有しており、前記第一の参考例に示されているアクチュエータを採用出来ることから、ここでは詳細な説明を省略するが、誘電膜30と電極層32a,32bを備えて、電極層32a,32b印加される電圧を制御することで、バネ定数を変化させることが可能とされている。更に、アクチュエータ222は、軸方向一方の端面がケース218の底壁部に重ね合わされて固定されていると共に、他方の端面が蓋部材220に対して所定距離を隔てて対向せしめられている。
また、第二の取付部材214とアクチュエータ222の間には、ワイヤ224が架け渡されている。ワイヤ224は、一方の端部が第二の取付部材214に取り付けられていると共に、第一,第二のプーリ208,210に巻き掛けられている。更に、ワイヤ224の他方の端部が、蓋部材220を貫通してアクチュエータ222の軸方向他方の端部に固定されている。なお、アクチュエータ222には、ワイヤ224によって軸方向の引張力が及ぼされており、アクチュエータ222が外力の作用しない初期状態で軸方向に伸長されている。
ここにおいて、比較的に質量の小さい軽量物を持ち上げる場合には、電気モータ206への通電によるワイヤ224の巻取りを制御することにより、前腕部184が上腕部182に対して揺動変位せしめられる。これにより、前腕部184を精密に制御することが出来て、軽量物を繊細に取り扱うことが可能になる。なお、アクチュエータ222に初期延伸が施されて軸方向での伸びが制限されており、軽量物の持ち上げ時には、図16の(a)に示すように、アクチュエータ222が初期の長さに保持される。
一方、比較的に質量の大きい重量物を持ち上げる場合には、電気モータ206への通電を停止して、アクチュエータ222によって腕部200が駆動されるようになっている。即ち、前腕部184の先端に設けられた図示しないハンド部に対して重量物が載置或いは把持された状態で、上腕部182を上方に移動させると、図16の(b)に示すように、前腕部184が先端側に向かって下傾する。これにより、第一の取付部材212と第一のプーリ208との離隔距離が長くなる。その結果、アクチュエータ222に対して軸方向外側への引張力が及ぼされて、アクチュエータ222が初期状態に対してΔlだけ伸長される。
そこにおいて、上腕部182の上方への移動時に、アクチュエータ222の電極層32a,32bに対して電圧を印加することにより、アクチュエータ222のバネ定数が小さくされて、アクチュエータ222が軸方向に伸張変形を生じ易くされる。これにより、外力の作用によるアクチュエータ222の伸び:Δlが、大きく確保される。
次に、アクチュエータ222の電極層32a,32bに対する電圧の印加を停止することにより、アクチュエータ222のバネ定数を大きくする。これにより、アクチュエータ222の収縮方向への復元力が大きくなって、ワイヤ224がアクチュエータ222によって大きな力で引き込まれる。そして、前腕部184が揺動変位されて、前腕部184の先端側が上方に変位せしめられる。その結果、前腕部184の先端に設けられたハンド部で支持された重量物が、上方に持ち上げられるようになっている。特に本参考例では、アクチュエータ222に初期延伸が施されていることにより、復元力がより大きく発揮されて、重量物の持上げを有利に実現出来る。
このように、アクチュエータ222のバネ定数を調節することで、エネルギーの貯蔵と放出を効果的に行うことが出来て、大質量の対象物を持ち上げる大きな駆動力を前腕部184に及ぼすことが出来る。なお、本参考例におけるアクチュエータ222も、前記参考例におけるアクチュエータ154,192と同様に、蓄力手段としての機能を有している。
なお、本参考例に係る腕部200は、前記第二の参考例に示されているような人型ロボットの腕部として好適に採用される。このように、腕部200を人型ロボット172に適用する場合には、上述した重量物を持ち上げる際の上腕部182の変位が、腰部モータ180による胴部174の起立によって実現され得る。
次に、図17には、本発明の第四の参考例としてのアクチュエータ230が設けられた動力伝達機構232を概略的に示す。動力伝達機構232は、例えば自動車のタイミングベルトのような機構であって、円形とされた主動側プーリ234および従動側プーリ236に対して、環状のベルト238を巻き掛けた構造を有している。
また、主動側プーリ234と従動側プーリ236の間には、テンショナ240が配設されている。このテンショナ240は、ベルト238において主動側プーリ234と従動側プーリ236の間に架け渡された部位に対して、ベルト238の外周側から押し付けられている。
また、テンショナ240は、支持部材242によって回転可能に支持されている。この支持部材242は、長手板形状を有しており、一方の端部に貫設された第一の軸部材244によってテンショナ240が回転可能に支持されていると共に、他方の端部に貫設された第二の軸部材246によって図示しないベースに対して揺動可能に取り付けられている。
また、支持部材242の長手方向中間部分には、アクチュエータ230の一方の端部が取り付けられている。また、アクチュエータ230の他方の端部は、図示しないベースに固定されている。
ここにおいて、本参考例に係る動力伝達機構232では、アクチュエータ230への印加電圧を調節して、アクチュエータ230のバネ定数を変更設定することにより、テンショナ240の位置を支持部材242の揺動によって変化させることが出来て、ベルト238の弛みを解消することが出来る。それ故、アクチュエータ230への電圧印加を停止することにより、テンショナ240をベルト238に押し付けて、主動側プーリ234と従動側プーリ236の間でベルト238によって動力を伝達させることが出来る一方、アクチュエータ230に電圧を印加することにより、テンショナ240を上方に変位させて、ベルト238によるプーリ234,236間での動力伝達を解除することが出来る。
このように、テンショナ240を駆動させるアクチュエータ230として本発明に係る機械的インピーダンス調節装置に類似のものを利用することにより、動力伝達のON/OFF切替えを簡単な構成で実現することが出来る。しかも、電圧印加時に動力伝達が解除されることから、通電時間を短くすることが出来て、省電力化や、発熱低下による耐久性向上を、実現することも出来得る。
以上、本発明の幾つかの実施形態について詳述してきたが、これらはあくまでも例示であって、本発明は、かかる実施形態における具体的な記載によって、何等、限定的に解釈されるものではない。
例えば、前述の第一の実施形態における筒型誘電体素子26の更に異なる態様として、図18に概略的に示す筒型誘電体素子250を用いる等しても良い。筒型誘電体素子250は、芯材としてのコイルスプリング252に誘電体シート28が渦巻状に巻回された構造とされている。なお、図示は省略するが、本実施形態における筒型誘電体素子250においても、前述の第一の実施形態における筒型誘電体素子26と同様に、軸方向(図18中、上下方向)両端部にピン40が設けられている。
より詳細には、筒型誘電体素子250は、コイルスプリング252が予圧縮せしめられた状態で、誘電体シート28が渦巻状に巻回されることによって構成されている。なお、コイルスプリング252と誘電体シート28との固定は、渦巻状に巻回された誘電体シート28の内周面をコイルスプリング252の外周面と接着等すれば良い。
このような構造とされた筒型誘電体素子250は、誘電体シート28に電圧が印加されていない状態では、予圧縮が及ぼされたコイルスプリング252が誘電体シート28で拘束されることによって、圧縮状態に保持される。そして、誘電体シート28に電圧が印加されると、誘電体シート28が軸方向に伸張せしめられる。これにより、コイルスプリング252の弾性復元力による軸方向の伸張が許容されて、筒型誘電体素子250が軸方向に伸張せしめられる。一方、軸方向に伸張された筒型誘電体素子250の誘電体シート28への印加電圧を除去すると、誘電体シート28が軸方向に収縮せしめられることによって、コイルスプリング252が軸方向に圧縮変形せしめられる。これにより、筒型誘電体素子250が軸方向で収縮せしめられることとなる。
このような筒型誘電体素子250を用いれば、芯材の弾性変形によって、伸縮方向を軸方向により安定して発現せしめることが出来る。また、特に伸張変形時において、コイルスプリング252の弾性復元力を利用することによって、より速やかな作動を行なうことも出来る。
なお、芯材としては、軸方向に弾性変形可能な部材であれば何等限定されるものではなく、例えば、棒状の弾性部材を用いて芯材を構成しても良い。そのような弾性部材としては、例えば、シリコーンゴム、アクリルゴム、エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体(EPDM)、天然ゴム(NR)、ブチルゴム(IIR)、イソプレンゴム(IR)、アクリロニトリル−ブタジエン共重合ゴム(NBR)、水素化ニトリルゴム(H−NBR)、ヒドリン系ゴム、クロロプレンゴム(CR)、フッ素ゴム、ウレタンゴム等のエラストマーが好適に採用され得る。
また、上記筒型誘電体素子250において、芯材を予め伸張せしめた状態で、誘電体シート28を巻回せしめて、誘電体シート28の軸方向両端部を接着やかしめ等で芯材に固定する等しても良い。ここにおいて、好適には、上記エラストマー製の棒状の芯材が用いられる。本態様においては、芯材が予め伸張せしめられた状態で誘電体シート28に拘束される。そして、誘電体シート28に電圧が印加せしめられると、誘電体シート28の厚さ寸法が小さくされることによって、芯材への拘束力が低減せしめられる。従って、芯材の弾性復元力による収縮が許容されて、筒型誘電体素子が軸方向で収縮せしめられる。一方、誘電体シート28への印加電圧が除去されると、誘電体シート28の厚さ寸法が大きくされることによって、芯材への拘束力が増大せしめられて、芯材が周方向から絞られる。従って、芯材が軸方向に伸張せしめられて、筒型誘電体素子が軸方向に伸張せしめられる。このようにすれば、上記筒型誘電体素子250とは逆に、特に収縮変形時において、コイルスプリング252の弾性復元力を利用することによって、より速やかな作動を行なうことが出来る。
更にまた、上記筒型誘電体素子26,250においては、1枚の誘電体シート28が渦巻状に丸められることによって筒形状が形成されていたが、図19に概略的に示す異なる態様の筒型誘電体素子としての筒型誘電体素子260のように、全周に亘って連続する円筒形状の誘電膜262と電極層264を径方向で交互に積層する等しても良い。なお、このような周方向に連続する誘電膜262と電極層264は、例えば、電極層264を形成するための電極材溶液、誘電膜262を形成するための誘電材溶液中に、芯材を交互に浸漬せしめて形成したり、或いは、芯材に電極材溶液、誘電材溶液を交互にスプレーして形成する等しても良い。
また、前記第二の実施形態には、複数の誘電体シート82の積層方向を、動力伝達経路方向に対して直交せしめた構造の調節装置80を示したが、図20に概略的に示すように、複数の誘電体シート82を動力伝達経路方向(ワイヤ20の延出方向)に積層させた構造の調節装置270も採用され得る。かくの如き構造とされた調節装置270では、印加電圧を増大することによって面の広がり方向に伸張せしめられて厚さ寸法が減少せしめられる一方、印加電圧を減少することによって面の広がり方向に収縮せしめられて厚さ寸法が増大せしめられる。これにより、コンプライアンス性の調節や、バネ定数の変化を利用した蓄力等を実現することが出来る。
特に、調節装置80と調節装置270は、印加電圧の増減によって、動力伝達経路方向で伸縮変形が逆位相で生ぜしめられる構造となっている。それ故、例えば、それら調節装置80と調節装置270を組み合わせることにより、単一の印加電圧制御によって、特定部位或いは特定方向での伸張と、他の特定部位或いは他の特定方向での収縮を、同時に生ぜしめることも可能となる。
また、前記各実施形態における誘電体シート28,82の枚数や大きさ、具体的な形状、積層数等は、配設箇所の状況や目的とする機械的インピーダンス特性等を考慮して適宜に設定され得るものであって、何等限定されるものではないことは、言うまでもない。
さらに、前記各実施形態においては、電歪膜の表面の略全体に電極層が形成されていたが、電極層は、電歪膜の表面の一部に設ける等しても良い。また、電極層の具体的な形状も何等限定されるものではなく、例えば、電歪膜の表面にメッシュ状に形成する等しても良い。このようにすれば、電歪膜の変形が電極層で拘束されるおそれを軽減することが出来て、電歪膜の変形量をより大きく確保し得る。
また、本発明に係る機械的インピーダンスの調節装置を、1つの伝達経路上に複数設けることも勿論可能である。このようにすれば、より広い範囲に亘る機械的インピーダンスの調節効果を得ることが出来る。
更に、前記実施形態においては、本発明に係る機械的インピーダンスの調節装置をワイヤ20を含んで構成されるワイヤ駆動機構上に配設した態様を例示したが、本発明に係る機械的インピーダンスの調節装置が配設される動力伝達経路は必ずしもワイヤに限定されるものではなく、従来公知の動力伝達機構上に適宜に配設して用いることが可能である。例えば、動力伝達機構として油圧シリンダや空気シリンダが用いられた駆動機構において、シリンダと駆動部材との連結部分に本発明に係る調節機構を設けることによって、これらシリンダの実質的な長さ寸法を変化せしめて機械的インピーダンスを変化せしめること等も可能である。
また、前記第一の参考例では、アクチュエータ154の上端部が座部112に対してワイヤ152および弓形プーリ128を介して間接的に取り付けられていると共に、下端部がフレーム114に直接取り付けられているが、アクチュエータ154の座部112およびフレーム114への取付態様は、前記参考例のものに限定されない。具体的には、例えば、特開平10−52332号公報に示されているように、リンクロッドを介して座部とフレームが連結されている場合には、リンクロッドに対して本発明に係る機械的インピーダンスの調節装置を利用したアクチュエータが取り付けられて、リンクロッドがアクチュエータによって伸縮されることにより、座部がフレームに対して駆動変位されるようになっていても良い。
また、前記第一の参考例に示されたアクチュエータ154の具体的な構造は、特に限定されるものではなく、例えば、前記第一の実施形態や第二の実施形態に示した調節装置10や調節装置80、筒型誘電体素子26等に類似のものを採用することも出来る。なお、第一の実施形態に示された駆動機構12の筒型誘電体素子26に代えて、或いは加えて、前記第一の参考例に示されたダイヤフラム型アクチュエータ154を採用することも可能である。
また、前記実施形態では、ワイヤの経路上にワイヤの弛みを解消するワイヤテンションを設けても良い。これにより、機械的インピーダンスの調節装置が伸縮することによって動力伝達経路の長さが実質的に変化した場合にも、動力伝達経路を所期の巻掛け状態や架渡し状態に安定して保持することが出来る。
また、前記第一の参考例では、使用者の着座による座部112への体重の作用を利用して駆動源を実現したが、例えば、座部112を揺動させる電気モータ等を設けて、着座時には該電気モータの出力によって座部112が着座状態に移行されるようになっていても良い。一方、前記第二,第三の参考例では、腰部モータ180等を利用した上腕部182の移動によって、前腕部が駆動されるようにしたが、例えば、前腕部(ハンド部)に対して持上げ対象物の質量を及ぼすことで前腕部が揺動されて、アクチュエータにエネルギーが貯蔵されるようになっていても良い。