以下、本発明の溶融液晶性ポリエステル繊維の製造方法について詳細に説明する。
本発明で用いられる溶融液晶性ポリエステルとは、加熱して溶融した際に光学的異方性(溶融液晶性)を示すポリマーを指す。この特性は例えば、溶融液晶性ポリエステルからなる試料をホットステージにのせ、窒素雰囲気下で昇温加熱し、試料の透過光を偏光下で観察することにより確認できる。
本発明に用いる溶融液晶性ポリエステルとしては、例えばa.芳香族オキシカルボン酸の重合物、b.芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオール、脂肪族ジオールの重合物、c.aとbとの共重合物などが挙げられる。ここで、芳香族オキシカルボン酸としては、ヒドロキシ安息香酸、ヒドロキシナフトエ酸など、または上記芳香族オキシカルボン酸のアルキル、アルコキシ、ハロゲン置換体などが挙げられる。また、芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、ジフェニルジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、ジフェニルエタンジカルボン酸など、または上記芳香族ジカルボン酸のアルキル、アルコキシ、ハロゲン置換体などが挙げられる。さらに、芳香族ジオールとしては、ハイドロキノン、レゾルシン、ジオキシジフェニール、ナフタレンジオールなど、または上記芳香族ジオールのアルキル、アルコキシ、ハロゲン置換体などが挙げられ、脂肪族ジオールとしてはエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコールなどが挙げられる。
本発明に用いる溶融液晶性ポリエステルの好ましい例としては、p−ヒドロキシ安息香酸成分と4,4’−ジヒドロキシビフェニル成分とハイドロキノン成分とテレフタル酸成分および/またはイソフタル酸成分とが共重合されたもの、p−ヒドロキシ安息香酸成分と6−ヒドロキシ2−ナフトエ酸成分とが共重合されたもの、p−ヒドロキシ安息香酸成分と6−ヒドロキシ2−ナフトエ酸成分とハイドロキノン成分とテレフタル酸成分とが共重合されたもの、などが挙げられる。
本発明では特に、下記構造単位(I)、(II)、(III)、(IV)および(V)からなる溶融液晶性ポリエステルであることが好ましい。なお、本発明において構造単位とはポリマーの主鎖における繰り返し構造を構成し得る単位を指す。
この組み合わせにより分子鎖は適切な結晶性と非直線性すなわち溶融紡糸可能な融点を有するようになる。したがって、ポリマーの融点が過度に高くならないために良好な製糸性を有するようになり長手方向に均一な繊維が得られ、かつ適度な結晶性を有するため繊維の強度、弾性率を高めることができる。また、このような溶融液晶性ポリエステルを用いることにより延伸時の走行安定性が向上する。さらに本発明においては、上記した構造単位(II)、(III)のような嵩高くなく、直線性の高いジオールからなる成分を組み合わせることが重要である。この成分を組み合わせることにより繊維中で分子鎖は秩序だった乱れの少ない構造を取ると共に、結晶性が過度に高まらず繊維軸垂直方向の相互作用も維持できる。これにより高い強度、弾性率に加えて優れた耐摩耗性も得られるのである。
また、上記した構造単位(I)は、構造単位(I)、(II)および(III)の合計に対して40〜85モル%が好ましく、より好ましくは65〜80モル%、さらに好ましくは68〜75モル%である。このような範囲とすることで結晶性を適切な範囲とすることができ高い強度、弾性率が得られ、かつ融点も溶融紡糸可能な範囲となる。
上記した構造単位(II)は、構造単位(II)および(III)の合計に対して60〜90モル%であることが好ましく、より好ましくは60〜80モル%、さらに好ましくは65〜75モル%である。このような範囲とすることで結晶性が過度に高まらず繊維軸垂直方向の相互作用も維持できるため耐摩耗性を高めることができる。
上記した構造単位(IV)は、構造単位(IV)および(V)の合計に対して40〜95モル%であることが好ましく、より好ましくは50〜90モル%、さらに好ましくは60〜85モル%である。このような範囲とすることでポリマーの融点が過度に高くならないために良好な製糸性を有するようになり単繊維繊度が細く、長手方向に均一な繊維が得られる。
本発明に用いる溶融液晶性ポリエステルの各構造単位の好ましい範囲は以下のとおりである。この範囲の中で上記した条件を満たすよう組成を調整することで本発明の溶融液晶性ポリエステル繊維が好適に得られる。
構造単位(I): 45〜65モル%
構造単位(II): 12〜18モル%
構造単位(III): 3〜10モル%
構造単位(IV): 5〜20モル%
構造単位(V): 2〜15モル%
本発明に用いる溶融液晶性ポリエステルポリマーの融点は、溶融紡糸可能な温度範囲を広くするため好ましくは260〜380℃であり、より好ましくは280〜350℃であり、さらに好ましくは300〜340℃である。なお溶融液晶性ポリエステルポリマーの融点は実施例記載の方法で測定される値を指す。
なお、本発明で用いる溶融液晶性ポリエステルには上記した構造単位(I)〜(V)以外に3,3’−ジフェニルジカルボン酸、2,2’−ジフェニルジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸などの脂肪族ジカルボン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸などの脂環式ジカルボン酸、クロロハイドロキノン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン等の芳香族ジオールおよびp−アミノフェノールなどを本発明の効果を損なわない5モル%程度以下の範囲で共重合させても良い。
また、本発明で用いる溶融液晶性ポリエステルには、本発明の効果を損なわない5重量%程度以下の範囲で他のポリマーを添加、併用することができる。添加、併用とはポリマー同士を混合する場合や、2成分以上の複合紡糸において一方の成分ないしは複数の成分に他のポリマーを部分的に混合使用すること、あるいは全面的に使用することをいう。他のポリマーとしては、ポリエステル、ポリオレフィンやポリスチレンなどのビニル系重合体、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンオキシド、ポリスルホン、芳香族ポリケトン、脂肪族ポリケトン、半芳香族ポリエステルアミド、ポリエーテルエーテルケトン、フッ素樹脂などのポリマーを添加しても良く、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルエーテルケトン、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46、ナイロン6T、ナイロン9T、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリシクロヘキサンジメタノールテレフタレート、ポリエステル99Mなどが好適な例として挙げられる。なおこれらのポリマーを添加する場合、その融点は溶融液晶性ポリエステルの融点±30℃以内にすることが製糸性を損なわないために好ましい。
さらに本発明の効果を損なわない範囲内で、各種金属酸化物、カオリン、シリカなどの無機物や、着色剤、艶消剤、難燃剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、結晶核剤、蛍光増白剤、末端基封止剤、相溶化剤等の各種添加剤を少量含有しても良い。
本発明で用いる溶融液晶性ポリエステルポリマーの溶融粘度は1〜100Pa・sが好ましく、また紡糸後の固相重合で分子量を増加させやすくし、かつ紡糸性を高めるためには10〜50Pa・sがより好ましい。なお、この溶融粘度は、ポリマーの融点+10℃の条件で、ずり速度1,000(1/s)の条件下で高化式フローテスターによって測定した値である。
本発明に用いる溶融液晶性ポリエステルのポリスチレン換算の重量平均分子量(以下、分子量と記載)は3.0万以上が好ましく、5.0万以上がより好ましい。分子量を3.0万以上とすることで紡糸温度において適切な粘度を持ち製糸性を高めることができ、分子量が高いほど得られる繊維の強度、伸度、弾性率は高まる。また分子量が高すぎると粘度が高くなり流動性が悪くなり、ついには流動しなくなるため分子量は25.0万未満が好ましい。
本発明の溶融液晶性ポリエステル未延伸繊維は、上記溶融液晶性ポリエステルを溶融紡糸することにより得る。溶融液晶性ポリエステルの溶融押出は公知の手法を用いることができるが、重合時に生成する秩序構造をなくすためにエクストルーダー型の押出機を用いることが好ましい。押し出されたポリマーは配管を経由しギアーポンプなど公知の計量装置により計量され、異物除去のフィルターを通過した後、口金へと導かれる。このときポリマー配管から口金までの温度(紡糸温度)は溶融液晶性ポリエステルポリマーの融点以上、500℃以下とすることが好ましく、溶融液晶性ポリエステルポリマーの融点+10℃以上、400℃以下とすることがより好ましく、溶融液晶性ポリエステルポリマーの融点+20℃以上、370℃以下とすることがさらに好ましい。なお、ポリマー配管から口金までの温度をそれぞれ独立して調整することも可能である。この場合、口金に近い部位の温度をその上流側の温度より高くすることで吐出が安定する。
また、単繊維繊度を小さくするためには、吐出時の安定性、細化挙動の安定性を高める必要があり、工業的な溶融紡糸ではエネルギーコストの低減、生産性向上のため1つの口金に多数の口金孔を穿孔するため、それぞれの孔の吐出、細化を安定させる必要がある。これを達成するためには口金孔の孔径を小さくするとともに、ランド長(口金孔の孔径と同一の直管部の長さ)を長くすることが重要である。ただし、孔径が過度に小さいと孔の詰まりが発生しやすくなるため口金孔の直径は0.03mm以上0.30mm以下が好ましく、0.05mm以上0.25mm以下がより好ましく、0.08mm以上0.20mm以下がさらに好ましい。ランド長は過度に長いと圧力損失が高くなるため、ランド長Lを孔径Dで除した商で定義されるL/Dが0.5以上3.0以下が好ましく、0.8以上2.5以下がより好ましく、1.0以上2.0以下がさらに好ましい。また、均一性を維持するために1つの口金の孔数は50孔以下が好ましく、30孔以下がより好ましく、10孔以下がさらに好ましく、下限は1孔が好ましい。なお、口金孔の直上に位置する導入孔は直径が口金孔径の5倍以上のストレート孔とすることが圧力損失を高めない点で好ましい。導入孔と口金孔の接続部分はテーパーとすることが異常滞留を抑制する上で好ましいが、テーパー部分の長さはランド長の2倍以下とすることが圧力損失を高めず、流線を安定させる上で好ましい。
口金孔より吐出されたポリマーは保温、冷却領域を通過させ固化させた後、一定速度で回転するローラー(ゴデットローラー)により引き取られる。保温領域は過度に長いと製糸性が悪くなるため口金面から200mmまでとすることが好ましく、100mmまでとすることがより好ましい。保温領域の下限は特に限定されないが、本発明で達しえる下限としては1mm程度である。保温領域は加熱手段を用いて雰囲気温度を高めることも可能であり、その温度範囲は100℃以上500℃以下が好ましく、200℃以上400℃以下がより好ましい。冷却は不活性ガス、空気、水蒸気等を用いることができるが、取り扱い性や環境負荷を低くする点から空気が好ましい。冷却気体の温度は、冷却効率の観点から冷却風速とのバランスで決定すればよいが、線径均一性の点から50℃以下であることが好ましい。冷却気体の温度の下限は、0℃以上が管理上好ましい。また、冷却気体を糸条にほぼ垂直方向に流すことにより糸条を冷却できるが、線径均一性の観点から環状に噴き出す気流を用いることが好ましい。冷却風の速度は冷却効率および線径均一性の点から5m/分以上が好ましく、製糸性の点から50m/分以下が好ましい。
引き取り速度(紡糸速度)は生産性、単糸繊度の低減のため300m/分以上が好ましく、500m/分以上がより好ましく、800m/分以上がさらに好ましい。上限は特に制限されないが、溶融液晶性ポリエステルの曳糸性の点から2000m/分程度となる。
引き取り速度を吐出線速度で除した商で定義される紡糸ドラフトは分子配向を高め、また単糸繊度を小さくするため1以上500以下とすることが好ましく、5以上200以下とすることがより好ましく、12以上100以下とすることがさらに好ましい。
溶融紡糸においてはポリマーの冷却固化から巻き取りまでの間に油剤を付与することが繊維の取り扱い性を向上させる上で好ましい。油剤は公知のものを使用できるが、高温での固相重合に耐え得るポリシロキサン系のシリコーンオイルなどを主体とした油剤を用いることがより好ましい。
巻き取りは公知の巻き取り機を用いパーン、チーズ、コーンなどの形態のパッケージとすることができるが、巻き取り時にパッケージ表面にローラーが接触しないパーン巻きとすることが繊維に摩擦力を与えずフィブリル化させない点で好ましい。
次に、溶融紡糸で得られた未延伸繊維は固相重合されることが好ましい。固相重合はパッケージ状、カセ状、トウ状(例えば、金属網等にのせて行う)、あるいはローラー間で連続的に糸条として処理することも可能であるが、設備が簡素化でき、生産性も向上できる点からパッケージ状で行うことが好ましい。
本発明に用いる溶融液晶性ポリエステルは、分子量および強度が高いほうがより延伸性が高いことから、本発明では固相重合での最高到達温度が重要であり、固相重合温度は、固相重合に供する溶融液晶性ポリエステル繊維の50℃から20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(融点)をTm1(℃)とした場合、最高到達温度がTm1−80℃以上であることが好ましい。このような融点近傍の高温とすることで固相重合が速やかに進行し、分子量が増加し、繊維の強度を向上させることができる。なお、ここで言うTm1は実施例記載の測定方法により求められた値を指す。また、最高到達温度はTm1(℃)未満とすることが融着防止のために好ましい。また、固相重合の進行と共に溶融液晶性ポリエステル繊維の融点は上昇するため、固相重合温度は、固相重合に供する溶融液晶性ポリエステル繊維の融点+100℃程度まで高めることができる。固相重合後の繊維のTm1−80(℃)以上、Tm1−30℃以下とすることが固相重合速度を高めかつ融着を抑制できる点からより好ましく、Tm1−70(℃)以上、Tm1−40℃以下がさらに好ましい。なお固相重合温度を時間に対し段階的にあるいは連続的に高めることは、融着を防ぐと共に固相重合の時間効率を高めることができ、より好ましい。
固相重合時間は、分子量を増加させ、繊維の強度、弾性率、融点を十分に高くするためには最高到達温度で5時間以上とすることが好ましく、10時間以上がより好ましく、15時間以上がさらに好ましい。上限は特に制限されないが分子量、強度、弾性率、融点増加の効果は経過時間と共に飽和するため100時間程度で十分であり、生産性を高めるためには短時間が好ましく、50時間程度で十分である。
本発明においては、このようにして得られた溶融液晶性ポリエステル未延伸繊維を該繊維の示差熱量測定において、50℃から20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm1)+120℃以上の温度にて加熱延伸することで細繊度化を行う。なお、ここで言うTm1は実施例記載の測定方法により求められた値を指す。背景技術にも上げたように溶融液晶性ポリエステル繊維は、剛直な分子鎖を持つため、伸度が低く、延伸することが非常に困難であった。そこで本発明者らは、溶融液晶性ポリエステル繊維に適した延伸技術を検討し、溶融液晶性ポリエステル未延伸繊維はTm1+120℃以上の温度に加熱することで10%以上の延伸ができることを見出した。
溶融液晶性ポリエステル繊維は、剛直な分子鎖を持つため融点以下の温度で加熱してもほとんど変形できないが、融点以上の温度で加熱し、溶融状態とすることで破断伸度以上の延伸が可能となる。一方、熱可塑性合成繊維においては融点以上の高温では、特に単繊維繊度が小さい場合には、溶断しやすいため十分な延伸を行うことができず、また延伸糸を得られたとしても結晶性低下、配向緩和により強度、弾性率は大幅に低下し、さらに線径均一性にも劣る。溶融液晶性ポリエステルでもこのような挙動は見られるが、本発明者らは分子量の高い溶融液晶性ポリエステル繊維は溶融粘度が高くなっているため、融点以上の高温でも溶断せず、また緩和時間は非常に長くなっているため分子運動性が低く、短時間であれば分子鎖の配向を維持したままであるため、強度、弾性率の低下が小さいことを見出した。
さらに本発明では、熱延伸により細繊度化できると同時に、Tm1+120℃以上の高温にして溶融状態にするため、結晶性が低下し耐摩耗性を向上させることができる。
これらのことから特に単糸繊度が小さい溶融液晶性ポリエステル繊維に対し、熱延伸条件を検討したところTm1+120℃以上の高温で延伸することで、溶融液晶性ポリエステル繊維の強度、弾性率、耐熱性を大きく損なうことなく細繊度化し、さらに耐摩耗性を向上できることを見出したのである。
熱延伸温度はTm1+120℃以上とすることで10%以上の延伸を安定して行うことができる。Tm1+120℃未満では、溶融液晶性ポリエステル未延伸繊維の結晶性が十分に低下せず溶け残った結晶が多い場合には、溶融した部分のみが変形をするために、糸切れが発生する、もしくは延伸できたとしても線径均一性に劣る。また温度が高いほど溶融粘度が低下し延伸性が向上し均一な延伸が可能となるため、処理温度はTm1+150℃以上が好ましく、Tm1+170℃以上がより好ましく、Tm1+200℃以上がさらに好ましい。温度の上限は繊維が溶断する温度であり、速度、単繊維繊度、処理長、延伸倍率で異なるがTm1+300℃程度である。
なお、従来でも溶融液晶性ポリエステル未延伸繊維の熱延伸の技術は知られているが、従来の熱延伸は融点以下の温度、もしくは融点以上でも結晶性をできるだけ低下させない温度範囲で繊維を延伸させるものであり、そのため耐摩耗性を向上させつつ、延伸倍率を大きくすることができなかった。また、得られた延伸糸の繊維構造は分子鎖の配向が高く、結晶化度は維持したまま、すなわちTm1における融解熱量ΔHm1は高いままであり、耐摩耗性に劣る繊維構造となり、本発明のように細繊度化しつつ結晶性を低下させて耐摩耗性を向上させることはできなかった。
加熱方法は雰囲気を加熱し熱伝達により繊維を非接触で加熱する方法が好ましく、ブロックまたはプレートヒーターを用いたスリットヒーターによる加熱は雰囲気加熱、輻射加熱の両方の効果を併せ持ち、処理の安定性が高めるためより好ましい。
パッケージ状で固相重合した溶融液晶性ポリエステル繊維を用いる場合には、パッケージから繊維を解舒しつつ連続処理しても良く、その際には解舒による固相重合パッケージの崩れを防ぎ、さらに軽微な融着を剥がす際のフィブリル化を抑制するために固相重合パッケージを回転させながら、回転軸と垂直方向(繊維周回方向)に糸を解舒する、いわゆる横取りにより解舒することが好ましい。なお熱延伸は解舒した繊維を一旦巻き取った後、再度解舒しつつ行っても良い。
加熱時間は熱延伸温度にもよるが短すぎると溶融状態にならず延伸ができないため、0.01秒以上が好ましく、0.1秒以上がより好ましい。加熱時間が長いと溶融粘度が下がりすぎて溶断するため、5.0秒以下が好ましく、より好ましくは2.0秒以下である。
本発明の熱延伸は、固相重合した後の溶融液晶性ポリエステル繊維が高い溶融粘度を持つために、融点以上の高温にしても短時間であれば繊維形態を維持できることから、溶融状態で行うため、張力は低くなる。張力が高くなる場合には、十分に溶融していないために均一な延伸ができず、また延伸倍率も大きくできないため、0.5cN/dtex以下が好ましく、0.3cN/dtex以下がより好ましく、0.2cN/dtex以下がさらに好ましい。また張力が低すぎると繊維の走行が不安定となり延伸が不均一になることから、0.001cN/dtex以上が好ましく、0.01cN/dtex以上がより好ましく、0.05cN/dtex以上がさらに好ましい。
延伸操作は1対のローラー間で延伸倍率を付与することが好ましい。本発明の延伸では、ローラー間の走行糸が低張力となり、第1ローラーの糸離れが悪いと糸揺れが大きくなり延伸ムラが起こりやすくなること、また糸切れの発生も多くなることから、第1ローラーへの速度固定は、ローラーにセパレートローラーを付属させ、ローラーに周回させて速度固定させるのが好ましい。
また、本発明ではヒーターやヒーター前のローラーを共用することにより、複数の繊維を同時に延伸することができる。複数とすることで、装置コスト、エネルギーコスト低減できるため好ましい。
延伸倍率は10%以上とすることで細繊度化することができ、さらに細繊度化するためには30%以上が好ましく、50%以上がより好ましく、70%以上がさらに好ましく、100%以上が特に好ましい。延伸倍率は高いほど細繊度化できるため、できるだけ高いほうが好ましく、上限は特に制限されないが、高くしすぎると線径均一性の悪化や糸切れなどを起こしやすくなるため、400%程度である。
延伸速度は高速であるほど生産性が高まる他、熱延伸後に繊維が急速に冷却され、非晶状態を凍結できるため耐摩耗向上効果が高まることから10m/分以上が好ましく、より好ましくは50m/分以上、さらに好ましくは150m/分以上、特に好ましくは200m/分以上である。延伸速度の上限は繊維の走行安定性から1000m/分程度である。
熱処理長は加熱方法にもよるが、ブロック、プレートヒーターを用いた非接触加熱の場合には繊維の温度を高い状態で保ち、均一な処理を行うためには長い方が好ましく、100mm以上が好ましく、200mm以上がより好ましく、500mm以上がさらに好ましい。しかし処理長が過度に長いとヒーター内部での糸揺れにより繊維が溶断し易くなるため3000mm以下が好ましく、2000mm以下がより好ましく、1000mm以下がさらに好ましい。
熱延伸を施した後に工程油剤を追油することは望ましい実施形態である。熱延伸工程において、熱延伸を施した後に次工程以降の工程通過性、さらには織機での製織性を向上させるための油分を付着させることが生産性向上のため好ましい。
熱延伸に供する溶融液晶性ポリエステル未延伸繊維は、Tm1が300℃以上400℃以下が好ましく、320℃以上350℃以下がより好ましい。このような高い融点を有することで延伸温度を高めても安定な処理が可能となり生産性が向上できる。またTm1における融解熱量△Hm1は6.0J/g以上が好ましく、7.0J/g以上がより好ましい。△Hm1の上限は特に限定されないが、本発明で達しえる溶融液晶性ポリエステル未延伸繊維の△Hm1の上限としては15.0J/g程度である。さらにTm1におけるピーク半値幅は15℃未満が好ましい。ΔHm1が大きいほど結晶化度が高く、またTm1おけるピーク半値幅が小さいほど結晶の完全性が高く強度、弾性率が高いため熱延伸後の繊維においても高い強度、弾性率を維持することができる。
熱延伸に供する溶融液晶性ポリエステル未延伸繊維の強度は14.0cN/dtex以上が好ましく、18.0cN/dtex以上がより好ましく、20.0cN/dtex以上がさらに好ましい。強度の上限は特に限定されないが、本発明で達しえる溶融液晶性ポリエステル未延伸繊維の強度の上限としては30.0cN/dtex程度である。また弾性率は600cN/dtexが好ましく、700cN/dtex以上がより好ましく、800cN/dtex以上がさらに好ましい。弾性率の上限は特に限定されないが、1200cN/dtex程度である。なおここで言う強度とはJISL1013:1999記載の引張強さを指し、弾性率とは初期引張抵抗度のことを指す。強度、弾性率が高いことにより熱延伸後の繊維においても高い強度、弾性率を維持することができる。
また、熱延伸に供する溶融液晶性ポリエステル未延伸繊維の伸度は1.0%以上が好ましく、1.5%以上がより好ましく、2.0%以上がさらに好ましい。伸度の上限は特に限定されないが、本発明で達しえる溶融液晶性ポリエステル未延伸繊維の伸度の上限としては10.0%程度である。なおここで言う伸度とはJISL1013:1999記載の伸び率を指す。伸度が高いことにより延伸性が向上し、また熱延伸後の繊維においても高い伸度を維持することができる。
さらに熱延伸に供する溶融液晶性ポリエステル未延伸繊維の繊度変動率は30%以下が好ましく、より好ましくは20%以下、さらに好ましくは10%以下である。また強力変動率は20%以下が好ましく、15%以下がより好ましい。なおここで言う強力とはJISL1013:1999記載の引張強さの測定における切断時の強さを指し、繊度変動率、強力変動率とは実施例記載の手法により測定された値を指す。繊度変動率、強力変動率が小さい繊維を用いることで延伸ムラ、溶断が軽減され、延伸性が向上する。
また、熱延伸に供する溶融液晶性ポリエステル未延伸繊維のU%(Normal)は5.0以下が好ましく、4.0以下がより好ましく、3.0以下がさらに好ましい。U%が小さい繊維を用いることで延伸ムラ、溶断が軽減され、延伸性が向上する。
さらに、熱延伸に供する溶融液晶性ポリエステル未延伸繊維のポリスチレン換算の分子量は25.0万以上が好ましく、40.0万以上がより好ましく、50.0万以上がさらに好ましい。分子量を25.0万以上とすることで熱延伸において適切な溶融粘度を持ち延伸性を高めることができ、分子量が高いほど配向緩和しにくく、溶融状態でも繊維形状を維持しやすくなるため、延伸倍率を高くすることができる。また配向緩和しにくくなるため、熱延伸後の繊維においても高い強度、弾性率を維持することができる。分子量が高すぎると溶融粘度が高くなり流動性が悪くなり、延伸できなくなるため分子量は150.0万以下が好ましい。
また、熱延伸に供する溶融液晶性ポリエステル未延伸繊維は、単繊維繊度が18.0dtex以下であることが好ましい。単繊維繊度が18.0dtexを超える場合には、繊維の内層まで均一に加熱されず、延伸ムラが発生し線径均一性に劣ることから、18.0dtex以下とすることが好ましい。より好ましくは10.0dtex以下、さらに好ましくは7.0dtex以下である。なお、単繊維繊度の下限は特に限定されないが、本発明で達しえる溶融液晶性ポリエステル未延伸繊維の単繊維繊度の下限としては1.0dtex程度である。なおフィラメント数については、フィラメント間の処理の均一性を高めるために50以下が好ましく、20以下がより好ましい。特にフィラメント数が1であるモノフィラメントは均一な処理が可能となり本発明が特に好適に用いることができる。
また、本発明で得られる溶融液晶性ポリエステル繊維は、その強度が12.0cN/dtex以上となることが好ましく、14.0cN/dtex以上がより好ましく、16.0cN/dtex以上がさらに好ましく、18.0cN/dtex以上が特に好ましい。また弾性率は500cN/dtex以上となることが好ましく、600cN/dtex以上がより好ましく、700cN/dtex以上がさらに好ましい。強度、弾性率の上限は特に限定されないが、本発明で達し得る上限としては強度30.0cN/dtex程度、弾性率1200cN/dtex程度である。熱延伸後においても高強度、高弾性率であることで工程中での断糸などによるトラブルが軽減される。
さらに、本発明で得られる溶融液晶性ポリエステル繊維は、繊度変動率が30%以下となることが好ましく、20%以下がより好ましく、10%以下がさらに好ましい。また強力変動率は20%以下となることが好ましく、15%以下がより好ましい。繊度変動率、強力変動率が小さい繊維が得られることで高次工程での工程通過性が高まる。
また、本発明で得られる溶融液晶性ポリエステル繊維は、U%(Normal)が5.0以下となることが好ましく、4.0以下がより好ましく、3.0以下がさらに好ましい。U%が小さい繊維が得られることで高次工程での工程通過性が高まる。
本発明で得られる溶融液晶性ポリエステル繊維は、伸度が1.5%以上となることが好ましく、2.0%以上がより好ましい。伸度が1.5%以上あることで繊維の衝撃吸収性が高まり、高次加工工程での工程通過性、取扱性に優れる。伸度の上限は特に限定されないが本発明で達し得る上限としては10.0%程度である。繊維の複屈折率(△n)は0.250以上0.450以下となることが好ましく、0.300以上0.400以下がより好ましい。△nがこの範囲であれば繊維軸方向の分子配向は十分に高く、高い強度、弾性率が得られる。
本発明で得られる溶融液晶性ポリエステル繊維は、単繊維繊度が18.0dtex以下となることが好ましい。単繊維繊度を18.0dtex以下と細くすることで、繊維のしなやかさが向上し繊維の加工性が向上する、表面積が増加するため接着剤などの薬液との密着性が高まると言う繊維としての長所を有することに加え、モノフィラメントからなる紗とする場合は厚みを薄くできる、織密度を高くできるという利点を持つ。単繊維繊度はより好ましくは10.0dtex以下、さらに好ましくは7.0dtex以下である。なお単繊維繊度の下限は特に限定されないが、本発明で達しえる下限としては1.0dtex程度である。
さらに、本発明で得られる繊維は、金属素材との擦過に対する強さの指標となる耐摩耗性Mが10秒以上となることが好ましく、15秒以上がより好ましく、20秒以上がさらに好ましく、30秒以上が特に好ましい。耐摩耗性Mの上限は特に限定されないが、本発明で達しえる上限としては1000秒程度である。本発明で言う耐摩耗性Mとは実施例記載の手法により測定された値を指す。耐摩耗性が10秒以上であることで溶融液晶性ポリエステル繊維の高次加工工程、特に製織工程での筬との擦過によるフィブリル化が抑制でき、工程通過性が向上できる他、ガイド類へのフィブリルの堆積が減ずることから洗浄、交換周期を長くできる。
また、本発明で得られる溶融液晶性ポリエステル繊維は、Tm1が290℃以上となることが好ましく、300℃以上がより好ましく、310℃以上がさらに好ましい。Tm1の上限は特に限定されないが、本発明で達しえる上限としては500℃程度である。熱処理後においても高い融点を有することで走行安定性が高まり生産性が向上できる。またTm1における融解熱量△Hm1は3.0J/g以下となることが好ましく、2.0J/g以下がより好ましく、1.0J/g以下がさらに好ましい。ΔHm1の下限は特に限定されないが、本発明で達しえる下限としては0.1J/g程度である。ΔHm1が3.0J/g以下となるように熱延伸することにより、延伸倍率を高めることができ、線径均一性も向上することができる。さらに、ΔHm1が3.0J/g以下となるように結晶化度を低下させることで耐摩耗性を高めることができ、熱延伸および高次工程での工程通過性を高めることができる。
また、本発明で得られる溶融液晶性ポリエステル繊維は、熱延伸前後で強度、弾性率を増加させないことが好ましい。強度、弾性率を増加させない場合、結晶化度が増加せず、または剛直な分子鎖が繊維軸方向へさらに配向せず、繊維軸垂直方向に強く、フィブリル化しにくく耐摩耗性に優れる繊維構造となる傾向にある。
さらに本発明で得られる溶融液晶性ポリエステル繊維は、熱延伸に供する前の繊維のΔHm1と熱延伸により得られた繊維のΔHm1より計算された融解熱量低下率が30%以上であることが好ましく、35%以上がより好ましく、40%以上がさらに好ましく、50%以上が特に好ましい。融解熱量低下率の上限は特に限定されないが、本発明で達しえる下限としては99%程度である。なおここで言う融解熱量低下率とは実施例記載の手法により測定された値を指す。
本発明で得られる溶融液晶性ポリエステル繊維は高強度・高弾性率の特徴を保持しながら、細繊度化した繊維であり、さらに従来の溶融液晶性ポリエステル繊維に比べ耐摩耗性が改善されたものであり、一般産業用資材、土木・建築資材、スポーツ用途、防護衣、ゴム補強資材、電気材料(特に、テンションメンバーとして)、音響材料、一般衣料等の分野で広く用いられる。有効な用途としては、スクリーン紗、コンピューターリボン、プリント基板用基布、抄紙用のカンバス、エアーバッグ、飛行船、ドーム用等の基布、ライダースーツ、釣糸、各種ライン(ヨット、パラグライダー、気球、凧糸)、ブラインドコード、網戸用支持コード、自動車や航空機内各種コード、電気製品やロボットの力伝達コード等が挙げられ、特に有効な用途として工業資材用織物等に用いるモノフィラメントが挙げられる。
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれにより何ら限定されるものではない。なお、本発明の各種特性の評価は次の方法で行った。
(1)ポリスチレン換算の重量平均分子量(分子量)
溶媒としてペンタフルオロフェノール/クロロホルム=35/65(重量比)の混合溶媒を用い、溶融液晶性ポリエステルの濃度が0.04〜0.08重量/体積%となるように溶解させGPC測定用試料とした。なお、室温24時間の放置でも不溶物がある場合は、さらに24時間静置し、上澄み液を試料とした。これを、Waters社製GPC測定装置を用いて測定し、ポリスチレン換算により重量平均分子量(Mw)を求めた。
カラム:ShodexK−806M 2本、K−802 1本
検出器:示差屈折率検出器RI(2414型)
温度 :23±2℃
流速 :0.8mL/分
注入量:200μL
(2)単繊維繊度および繊度変動率
検尺機にて繊維を10mカセ取りし、その重量(g)を1000倍し、1水準当たり10回の測定を行い平均値を繊度(dtex)とした。これをフィラメント数で除した商を単繊維繊度(dtex)とした。繊度変動率は繊度の10回の平均値からの最大もしくは最小値の差の絶対値のうち、いずれか大きい方の値を用いて下式により算出した。
繊度変動率(%)=((|最大値もしくは最小値−平均値|/平均値)×100)
(3)強度、伸度、弾性率および強力変動率
JIS L1013:1999記載の方法に準じて、試料長100mm、引張速度50mm/分の条件で、オリエンテック社製テンシロンUCT−100を用い1水準当たり10回の測定を行い、平均値を強力(cN)、強度(cN/dtex)、伸度(%)、弾性率(cN/dtex)とした。強力変動率は強力の10回の平均値からの最大値もしくは最小値の差の絶対値のうち、いずれか大きい方の値を用いて下式により算出した。
強力変動率(%)=((|最大値もしくは最小値−平均値|/平均値)×100)
(4)U%(Normal)
Zellweger Uster社製 USTER TESTER 4を使用し、200m/分の速度で糸を給糸しながらノーマルモードで測定した。
(5)溶融液晶性ポリエステル繊維のTm1、Tm1におけるピーク半値幅、ΔHm1、融解熱量低下率、溶融液晶性ポリエステルポリマーの融点
TA instruments社製DSC2920により示差熱量測定を行い、50℃から20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピークの温度をTm1(℃)とし、Tm1におけるピーク半値幅(℃)、融解熱量(ΔHm1)(J/g)を測定した。融解熱量低下率は熱延伸に供する前の繊維のΔHm1と熱延伸により得られた繊維のΔHm1を用いて下式により算出した。
融解熱量低下率(%)=
((熱処理前後の繊維のΔHm1の差/熱処理前の繊維のΔHm1)×100)
なお、参考例に示した溶融液晶性ポリエステルポリマーについてはTm1の観測後、Tm1+20℃の温度で5分間保持した後、20℃/分の降温条件で50℃まで一旦冷却し、再度20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピークをTm2とし、Tm2をもって溶融液晶性ポリエステルポリマーの融点とした。
(6)複屈折率(△n)
偏光顕微鏡(OLYMPUS社製BH−2)を用いコンペンセーター法により試料1水準当たり5回の測定を行い、平均値として求めた。
(7)金属素材に対する耐摩耗性M
2.45cN/dtexの荷重をかけた繊維を垂直に垂らし、繊維に対して垂直になるように直径3.8mmの硬質クロム梨地加工金属棒ガイド(湯浅糸道工業(株)製棒ガイド)を接触角2.7°で押し付け、ストローク長30mm、ストローク速度600回/分で繊維を繊維軸方向に擦過させ、棒ガイド上もしくは繊維表面上に白粉またはフィブリルの発生が確認されるまでの時間を測定し、7回の測定のうち最大値および最小値を除いた5回の平均値を求め耐摩耗性とした。なお耐摩耗性評価はマルチフィラメントでも同様の試験法で行った。
(8)油分付着量
100mg以上の繊維を採取し、60℃にて10分間乾燥させた後の重量を測定し(W0)、繊維重量に対し100倍以上の水にドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを繊維重量に対し2.0重量%添加した溶液に繊維を浸漬させ、室温にて20分超音波洗浄し、洗浄後の繊維を水洗し、60℃にて10分間乾燥させた後の重量を測定し(W1)、次式により油分付着量を算出した。
(油分付着量(重量%))=(W0−W1)×100/W1
(9)走行張力、走行応力
東レ・エンジニアリング社製テンションメーター(MODEL TTM−101)を用いて測定した。また、極低張力用には上記テンションメーターを改造したフルスケール5g、精度0.01g測定可能な張力計を用いた。計測した走行張力は単位を換算し、処理後繊維の繊度で除してcN/dtexの単位として走行応力とした。
(10)走行安定性
熱処理装置入口、出口での繊維の走行状態を目視で判定し、糸揺れが小さい場合を○、糸揺れが大きい場合を△、糸切れおよび繊維の溶断が発生した場合を×とした。
参考例1
攪拌翼、留出管を備えた5Lの反応容器にp−ヒドロキシ安息香酸870重量部、4,4’−ジヒドロキシビフェニル327重量部、ハイドロキノン89重量部、テレフタル酸292重量部、イソフタル酸157重量部および無水酢酸1460重量部(フェノール性水酸基合計の1.10当量)を仕込み、窒素ガス雰囲気下で攪拌しながら室温から145℃まで30分で昇温した後、145℃で2時間反応させた。その後、335℃まで4時間で昇温した。
重合温度を335℃に保持し、1.5時間で133Paに減圧し、更に40分間反応を続け、トルクが28kg・cmに到達したところで重縮合を完了させた。次に反応容器内を0.1MPaに加圧し、直径10mmの円形吐出口を1ケ持つ口金を経由してポリマーをストランド状物に吐出し、カッターによりペレタイズした。
参考例2
攪拌翼、留出管を備えた5Lの反応容器に p−ヒドロキシ安息香酸907重量部と6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸457重量部及び無水酢酸946重量部(フェノール性水酸基合計の1.03モル当量)を攪拌翼、留出管を備えた反応容器に仕込み、窒素ガス雰囲気下で攪拌しながら室温から145℃まで30分で昇温した後、145℃で2時間反応させた。その後、325℃まで4時間で昇温した。
重合温度を325℃に保持し、1.5時間で133Paに減圧し、更に20分間反応を続け、トルクが15kg・cmに到達したところで重縮合を完了させた。次に反応容器内を0.1MPaに加圧し、直径10mmの円形吐出口を1ケ持つ口金を経由してポリマーをストランド状物に吐出し、カッターによりペレタイズした。
実施例1
参考例1の溶融液晶性ポリエステルを用い、160℃、12時間の真空乾燥を行った後、大阪精機工作株式会社製φ15mm単軸エクストルーダーにて(ヒーター温度290〜345℃)溶融押し出しし、ギアーポンプで計量しつつ紡糸パックにポリマーを供給した。このときのエクストルーダー出から紡糸パックまでの紡糸温度は350℃とした。紡糸パックでは金属不織布フィルター(渡辺義一製作所社製WLF−10)を用いてポリマーを濾過し、孔径0.13mm、ランド長0.26mmの孔を5個有する口金より吐出量6.0g/分(単孔あたり1.2g/分)でポリマーを吐出した。
吐出したポリマーは40mmの保温領域を通過させた後、環状冷却風により糸条の外側から冷却し固化させ、その後、ポリジメチルシロキサンを主成分とする油剤を付与し5フィラメントともに1200m/分の第1ゴデットロールに引き取った。このときの紡糸ドラフトは16である。これを同じ速度である第2ゴデットロールを介した後、5フィラメント中の4本はサクションガンにて吸引し、残り1本をダンサーアームを介しパーンワインダー(巻取パッケージに接触するコンタクトロール無し)を用いてパーンの形状に巻き取った。約100分の巻取時間中、糸切れは発生せず製糸性は良好であった。なお油分付着量は1.0重量%であった。
この紡糸繊維パッケージから繊維を縦方向(繊維周回方向に対し垂直方向)に解舒し、調速ローラーを介さず、速度を一定とした巻取機(神津製作所社製ET−68S調速巻取機)にて巻き返しを行った。なお、巻き返しの心材にはステンレス製の穴あきボビンにケブラーフェルト(目付280g/m2、厚み1.5mm)を巻いたものを用い、巻き返し時の張力は0.05cN/dtexとし、巻き量は2万mとした。さらにパッケージ形態はテーパー角20°のテーパーエンド巻きとし、テーパー幅調整機構の改造によりトラバース幅を常に揺動させるようにした。このようにして巻き上がったパッケージの巻密度は0.06g/cm3であった。
これを密閉型オーブンを用い、室温から240℃までは約30分で昇温し、240℃にて3時間保持した後、4℃/時間で295℃まで昇温し、さらに295℃で15時間保持する条件にて固相重合を行った。なお雰囲気は除湿窒素を流量25NL/分にて供給し、庫内が加圧にならないよう排気口より排気させた。
こうして得られた固相重合パッケージをインバーターモーターにより回転できる送り出し装置に取り付け、繊維を横方向(繊維周回方向)に給糸速度約100m/分で送り出しつつ巻取機(神津製作所社製ET型調速巻取機)にて巻き取った。得られた溶融液晶性ポリエステル未延伸繊維の物性を表2に示す。なお、この溶融液晶性ポリエステル未延伸繊維の複屈折率△nは0.36であり高い配向を有していた。
この未延伸繊維を縦方向(繊維周回方向に対し垂直方向)に解舒し、テンサーを介して第1ローラーとの間で糸に緊張を与えた後、セパレートローラーを付属した第1ローラーに6周回させ、スリット幅5.6mmのスリットヒーターを用い、ヒーターと非接触として走行させ、続いて第2ローラーに6周回させて、第1、第2ローラーの間で任意の延伸倍率を付与して熱延伸を行った後、巻取機(神津製作所社製ET型調速巻取機)にて巻き取った。
延伸倍率、延伸温度、延伸速度の条件および得られた溶融液晶性ポリエステル繊維の物性を表3に示すが、繊維のTm1+120℃以上の条件で高温熱延伸を施すことで、糸揺れもなく安定した延伸を行うことが可能となり、高い強度、弾性率、U%(Normal)、耐熱性(高融点)と優れた耐摩耗性を有する溶融液晶性ポリエステル繊維が得られることが分かる。またこの得られた延伸後の溶融液晶性ポリエステル繊維の繊度は、延伸倍率より計算される繊度になっており、延伸されていることが分かる。なお、この得られた延伸後の溶融液晶性ポリエステル繊維の複屈折率△nは0.36であり、延伸前と変わらない高い配向を有していた。
実施例2〜8
実施例1で得られた固相重合後の未延伸繊維を用い、延伸倍率、延伸温度、延伸速度を表3に示す条件としたこと以外は実施例1と同様の方法で熱延伸を行った。延伸倍率が高い場合(実施例2)、延伸温度が高い場合(実施例5)では糸揺れが大きくなったものの糸切れは発生せず走行は安定していた。得られた繊維物性を表3に合わせて示す。繊維のTm1+120℃以上の条件で高温熱延伸を施すことで、延伸を行うことが可能となり、高い強度、弾性率、U%(Normal)、耐熱性(高融点)と優れた耐摩耗性を有する溶融液晶性ポリエステル繊維が得られることが分かる。
比較例1、2
実施例1で得られた固相重合後の未延伸繊維を用い、延伸倍率、延伸温度、延伸速度を表3に示す条件としたこと以外は実施例1と同様の方法で熱延伸を行った。延伸温度が繊維のTm1+120℃を下回り、延伸倍率が5%の場合(比較例1)には走行応力が高くなり糸揺れが大きくなったものの糸切れは発生せず延伸は可能であった。得られた繊維物性を表3に合わせて示す。また、延伸倍率が10%の場合(比較例2)にはすぐに糸切れが発生し延伸できなかった。
実施例9,10
吐出量、口金孔径、ランド長、紡糸速度を表2に示した条件とすること以外は実施例1と同様の方法で溶融紡糸を行った。これを実施例1と同様の方法で巻き返し、固相重合および解舒を行った。さらに延伸倍率、延伸温度、延伸速度を表4に示した条件とすること以外は実施例1と同様の方法で熱延伸を行った。糸揺れは小さく走行は安定していた。
得られた繊維物性も表4に記載しているが、異なる単繊維繊度の繊維であってもTm1+120℃以上の条件で高温熱延伸を施すことで、延伸を行うことが可能となり、高い強度、弾性率、U%(Normal)、耐熱性(高融点)と優れた耐摩耗性を有する溶融液晶性ポリエステル繊維が得られることが分かる。
実施例11
吐出量、口金孔数を表2に示す条件としたこと以外は実施例1と同様の条件で溶融紡糸を行い、10フィラメントをまとめて巻き取り、紡糸繊維を得た。これを実施例1と同様の方法で巻き返し、固相重合、解舒を行った。さらに延伸倍率、延伸温度、延伸速度を表4に示した条件とすること以外は実施例1と同様の方法で熱延伸を行った。繊維物性を表4に示すがマルチフィラメントであってもTm1+120℃以上の条件で高温熱延伸を施すことで、延伸を行うことが可能となり、高い強度、弾性率、U%(Normal)、耐熱性(高融点)と優れた耐摩耗性を有する溶融液晶性ポリエステル繊維が得られることが分かる。
実施例12
参考例2の溶融液晶性ポリエステルを用い、紡糸温度を表2に示す条件とすること以外は実施例1と同様の方法で溶融紡糸、巻き返しを行った。これを実施例1と同様の方法で巻き返し、固相重合、解舒を行った。さらに延伸倍率、延伸温度、延伸速度を表4に示した条件とすること以外は実施例1と同様の方法で熱延伸を行った。繊維物性を表4に示すが参考例2の溶融液晶性ポリエステルを用いてもTm1+120℃以上の条件で高温熱延伸を施すことで、糸揺れは大きくなったものの、延伸を行うことが可能であり、高い強度、弾性率、U%(Normal)、耐熱性(高融点)と優れた耐摩耗性を有する溶融液晶性ポリエステル繊維が得られることが分かる。