以下、本発明の実施の形態による斜板式液圧回転機を、可変容量型の斜板式油圧ポンプに適用した場合を例に挙げ、添付図面に従って詳細に説明する。
ここで、図1ないし図7は本発明の第1の実施の形態を示している。図中、1は本実施の形態で採用した可変容量型の斜板式油圧ポンプ(以下、油圧ポンプ1という)、2は該油圧ポンプ1の外殻を構成するケーシングで、該ケーシング2は、一側がフロント底部3Aとなった段付筒状のケーシング本体3と、該ケーシング本体3の他側を閉塞するようにケーシング本体3に固定して設けられたリヤケーシング4とにより構成されている。
そして、ケーシング2のケーシング本体3内には、フロント底部3A側に後述の斜板11を傾転可能に支持する斜板支持体10等が設けられている。また、リヤケーシング4側には、後述の弁板15、給排通路16,17等が設けられるものである。
5はケーシング2内に回転可能に設けられた回転軸を示し、該回転軸5は、軸方向の一側がケーシング本体3のフロント底部3A内に軸受等を介して回転可能に取付けられ、他側はリヤケーシング4に軸受等を介して回転可能に取付けられている。そして、回転軸5の一側は、ケーシング本体3のフロント底部3Aから外部に突出する突出端5Aとなっている。
ここで、回転軸5の突出端5A側には、例えば油圧ショベルの原動機となるエンジンが動力伝達機構(いずれも図示せず)等を介して連結される。そして、油圧ポンプ1は、前記エンジンで回転軸5を回転駆動することにより、後述の給排通路16から高圧油(圧油)を吐出させる所謂ポンプ作用を行うものである。
6はケーシング2内に位置して回転軸5の外周側に設けられたシリンダブロックで、該シリンダブロック6には、図1に示す如く周方向に離間して軸方向に延びる複数(例えば、合計9個)のシリンダ7,7,…が穿設されている。また、シリンダブロック6の一側には、後述の斜板11側に向けて軸方向に突出する筒状突部6Aが一体形成されている。そして、該筒状突部6Aの外周側には、後述の球状ガイド13が軸方向に相対変位可能に挿嵌されている。
また、シリンダブロック6の内周側には、回転軸5の外周側にスプライン結合される段付きの軸穴6Bが形成され、この軸穴6Bは、筒状突部6Aの内周側を軸方向に延びている。そして、シリンダブロック6は、軸穴6Bを介して回転軸5と一体に回転駆動され、このときに後述の球形ガイド13も回転軸5と一体に回転されるものである。また、シリンダブロック6の他側は、後述の弁板15に対して摺動可能に当接される凹湾曲状の摺動面6Cとなっている。
8,8,…はシリンダブロック6の各シリンダ7内に往復動可能に挿嵌されたピストンで、該各ピストン8は、図1、図2に示す如く円柱状のロッドとして形成され、各シリンダ7内に摺動可能に挿入されている。そして、ピストン8は、シリンダブロック6の回転に伴って夫々のシリンダ7内を往復動し、後述の弁板15側から各シリンダ7内に作動油を吸込みつつ、これを高圧の圧油として吐出させるものである。
即ち、これらのピストン8は、図1に例示するように回転軸5の上側となる位置でシリンダ7から大きく突出(伸長)した下死点位置となり、回転軸5の下側となる位置ではシリンダ7内へと縮小した上死点位置となる。そして、シリンダブロック6が1回転する間に、各ピストン8はシリンダ7内を上死点から下死点に向けて摺動変位する吸入行程と、下死点から上死点に向けて摺動変位する吐出行程とを繰返すことになる。
そして、シリンダブロック6の半回転分に相当するピストン8の吸入行程においては、後述の給排通路17側からシリンダ7内に作動油を吸込み、シリンダブロック6の残りの半回転分に相当するピストン8の吐出行程では、ピストン8が各シリンダ7内の油液を高圧の圧油として後述の給排通路16側から吐出配管(図示せず)に吐出させるものである。
また、ピストン8には、図2に示すように軸方向の一側(突出端側)に位置する球形凹部8Aと、当該ピストン8の軸方向他側から一側の球形凹部8A内に向けて軸方向に延びる内孔としての潤滑用油路8Bとが設けられている。そして、ピストン8の球形凹部8Aには、後述のシュー9が揺動可能に取付けられている。また、潤滑用油路8Bは、シリンダ7内に流入した油液の一部をシュー9側に向けて潤滑油として供給するものである。
9,9,…は各ピストン8の軸方向一側(突出端側)に揺動可能に設けられたシューで、該各シュー9は、図2に示すように後述するリテーナ12の挿通穴12Bよりも大径な円板状に形成され、斜板11の平滑面11A上を摺接する摺接部として円板状の台座部9Aと、該台座部9Aよりも小径となって該台座部9Aに一体形成され、リテーナ12の挿通穴12B内に挿入される円形の段差部9Bと、該段差部9Bと共に挿通穴12B内に挿通され、ピストン8の突出端側に揺動可能に取付けられる継手部としての球形部9C等とにより構成されている。
ここで、シュー9の台座部9A、段差部9Bおよび球形部9Cは、例えば機械構造用炭素鋼(S45C)またはクロム・モリブデン鋼(SCM435)等の鉄系金属材料からなる母材を用いて形成されている。そして、シュー9の台座部9Aには、斜板11の平滑面11A上を摺接する摺接面側に後述のシールランド部18と動圧パッド部19とが設けられている。
また、シュー9の段差部9Bは、球形部9Cを台座部9Aに一体化するための取付座を構成するものである。一方、シュー9内には、球形部9C側から台座部9Aに向けて略直線状に延びる油路としての油孔9Dが穿設され、この油孔9Dは、シリンダ7内に流入した油液の一部がピストン8の潤滑用油路8Bを介して導かれることにより、これを潤滑油としてシュー9の台座部9A(後述のシールランド部18、動圧パッド部19)と斜板11の平滑面11Aとの間に供給するものである。
この場合、シュー9の台座部9Aは、ピストン8からの押付力(油圧力)で後述のリテーナ12等を介して斜板11の平滑面11Aに押付けられた状態に保持される。そして、各シュー9は、この状態で回転軸5、シリンダブロック6およびピストン8と一緒に回転することにより、回転軸5を中心としたリング状軌跡を描くように後述の平滑面11A上を摺動するものである。
10はケーシング本体3のフロント底部3Aに設けられた斜板支持体で、該斜板支持体10は、図1に示す如く回転軸5の周囲に位置して斜板11の裏面側に配置され、ケーシング本体3のフロント底部3Aに固定されている。そして、斜板支持体10には、斜板11を傾転可能に支持する一対の傾転案内面10A(一方のみ図示)が凹湾曲面として形成され、該各傾転案内面10Aは回転軸5を挟んで左,右(または、上,下)に離間している。
11はケーシング2内に傾転可能に設けられた斜板で、該斜板11は、図1、図2に示すように各シュー9を摺動可能に案内する平滑面11Aが表面側に形成されている。また、斜板11の中央部には、回転軸5が隙間をもって挿通される軸挿通穴11Bが穿設されている。そして、斜板11は、その裏面(背面)側がケーシング本体3のフロント底部3A側に斜板支持体10を介して傾転可能に取付けられている。
ここで、斜板11は、シュー9の母材よりも硬質な金属材料である母材、例えば球状黒鉛鋳鉄(FCD材)または軸受鋼(SUJ2)等の鉄系金属材料からなる母材を用いて形成されている。そして、斜板11の平滑面11Aは、母材の表面側に硬化処理を含めた仕上げ加工を施すことにより平均表面粗さRaが、例えば0.1〜0.4の範囲内となる凹凸の少ない滑らかな滑面として形成されている。
また、斜板11は当該油圧ポンプ1の容量可変部を構成し、斜板11の裏面側は、斜板支持体10の各傾転案内面10Aに対して傾転可能に当接した状態に保持されるものである。そして、斜板11は、ケーシング2に設けられた傾転アクチュエータ(図示せず)によって、平滑面11Aと一緒に図1中の矢示A,B方向に傾転駆動されるものである。
12は各シュー9を斜板11の平滑面11A上で摺動可能に保持するリテーナで、該リテーナ12は、図1に示す如く環状板として形成され、その内周側は、後述の球状ガイド13(図1参照)が摺動可能に嵌合される断面円弧状の嵌合穴12Aとなっている。また、リテーナ12には、その周方向に間隔をもって例えば9個の挿通穴12Bが形成され、これらの挿通穴12Bには、それぞれシュー9の段差部9Bが挿通されるものである。
ここで、リテーナ12は、後述のスプリング14により球状ガイド13を介して斜板11(平滑面11A)に向けて付勢される。そして、リテーナ12は、挿通穴12B内に挿通された夫々のシュー9を平滑面11Aの表面に押付けた状態に保持し、これによって、各シュー9が斜板11の平滑面11A上でリング状軌跡を描くように摺動変位するのを補償するものである。
13はシリンダブロック6の筒状突部6Aとリテーナ12の嵌合穴12Aとの間に設けられた球状ガイドで、該球状ガイド13は、図1に示すように内周側が筒状突部6Aの外周側に摺動可能に挿嵌され、その外周面(球形面)側にはリテーナ12の嵌合穴12Aが揺動(摺動)可能に嵌合されている。また、球状ガイド13は、内周側が回転軸5にスプライン結合され、回転軸5と一体に回転するものである。
14はシリンダブロック6の筒状突部6Aと球状ガイド13との間に配設されたスプリングで、該スプリング14は、例えば複数枚の皿ばねを重合わせることにより構成され、回転軸5の外周側でシリンダブロック6と球状ガイド13とを互いに逆向きに付勢している。そして、スプリング14は、シリンダブロック6の摺動面6Cを後述の弁板15に押圧すると共に、球状ガイド13によりリテーナ12を介して各シュー9を斜板11の平滑面11Aに押圧するものである。
15はリヤケーシング4に固定して設けられた弁板を示し、該弁板15は、シリンダブロック6の端面に摺接する切換弁板を構成している。ここで、弁板15には、回転軸5の周囲を眉形状をなして延びる一対の給排ポート15A,15Bが形成されている。そして、これらの給排ポート15A,15Bのうち、例えば給排ポート15Aは高圧側の吐出ポートとなり、給排ポート15Bは低圧側の吸込ポートを構成するものである。
16,17はリヤケーシング4に形成された一対の給排通路で、該給排通路16,17のうち高圧側の給排通路16は、例えば高圧の吐出配管等に接続され、低圧側の給排通路17は、作動油タンク(図示せず)側に接続されるものである。また、高圧側の給排通路16は、弁板15の給排ポート15Aに連通し、低圧側の給排通路17は給排ポート15Bに連通している。
そして、ケーシング2内で回転軸5を回転駆動すると、シリンダブロック6の回転に伴って各シリンダ7内をピストン8が往復動する。これにより、これらのピストン8は、給排通路17側から弁板15の給排ポート15Aを介してシリンダ7内に作動油を吸込みつつ、弁板15の給排ポート15Bを介して給排通路16側に圧油を吐出するものである。
次に、18はシュー9の台座部9Aに設けられたシールランド部で、該シールランド部18は、図2〜図4に示すようにシュー9の台座部9Aのうち、斜板11の平滑面11A上を摺接する摺接面側に形成され、後述の動圧パッド部19を径方向外側から全周にわたって取囲むように環状に延びている。そして、シールランド部18は、前述の如き鉄系金属材料からなるシュー9の母材表面側に予め硬化処理を含めた仕上げ加工を施すことにより形成される。
そして、シールランド部18には、その表面側に前記仕上げ加工の後に、例えばショットピーニング等の微細な凹凸加工を施すことにより、図4、図5に示すような多数の微細な凹凸18A,18A,…が全面にわたって形成される。ここで、これらの凹凸18Aによりシールランド部18の平均表面粗さRaは、例えば0.5〜5.0の範囲内に設定され、斜板11の平滑面11Aとシュー9との間に形成される油膜に対し保油性(油膜保持性)が与えるものである。
また、シュー9の台座部9Aに形成したシールランド部18は、例えば図2、図6に示すように斜板11の平滑面11Aに静圧軸受となって摺接し、シュー9の油孔9D側から台座部9Aと平滑面11Aとの間に供給された油液を両者の間に封止する機能を有している。即ち、シールランド部18は、後述の動圧パッド部19を外周側から取囲むことにより、台座部9Aと平滑面11Aとの間に供給された油液が外部に漏出するのを抑えるものである。
19はシールランド部18の径方向内側に位置してシュー9の台座部9Aに設けられた動圧パッド部で、該動圧パッド部19は、図2〜図4に示すようにシュー9の台座部9Aのうち、斜板11の平滑面11A上を摺接する摺接面側に埋込むように一体形成され、シールランド部18の径方向内側に配設されている。そして、動圧パッド部19には、後述の静圧ポケット20と環状溝21との間を略C字状をなして延び、シールランド部18と同一の平面(高さ)位置まで***した平坦面部19Aと、静圧ポケット20と環状溝21との間を常時連通させるため平坦面部19Aに径方向の切込みを入れて形成された切込み部19Bとが設けられている。
ここで、動圧パッド部19は、シュー9の母材よりも軟質な材料(例えば、銅合金等)を用いて形成され、平坦面部19Aの内側には略円形の凹所からなる静圧ポケット20が設けられている。そして、静圧ポケット20は、シールランド部18および動圧パッド部19の中央部に位置し、その中心側にはシュー9の油孔9Dが開口している。これにより、静圧ポケット20内には、シュー9の油孔9D側から供給される油液が溜められるものである。
そして、動圧パッド部19は、シュー9の油孔9D側から静圧ポケット20内に供給される油液により、斜板11の平滑面11Aから離間する方向の油圧反力f(図6参照)をシュー9の台座部9A側に発生させ、平滑面11Aに対して摺接するシールランド部18の面圧を低減する機能を有するものである。
21はシールランド部18と動圧パッド部19との間に形成された環状溝で、この環状溝21は、シュー9の台座部9Aのうち平滑面11Aとの摺接面側に露出(開口)して配置され、その横断面形状は半円形またはU字状に形成されている。そして、環状溝21は、シールランド部18の内周側に位置して動圧パッド部19を外側から全周にわたって取囲み、動圧パッド部19の切込み部19Bを介して静圧ポケット20と常時連通する構成となっている。
ここで、シュー9の台座部9Aと斜板11の平滑面11Aとの間で静圧ポケット20内に供給された油液は、図6中に矢印Cで示すように、動圧パッド部19を介して環状溝21側に流出すると共に、その外側のシールランド部18側へと漏出しようとする。このため、斜板11の平滑面11Aと動圧パッド部19の平坦面部19Aとの間には油液のくさび膜効果(ラビリンス効果)が発生する。
また、このときにシュー9は、斜板11の平滑面11A上でリング状軌跡を描くように摺動変位するため、斜板11の平滑面11Aと動圧パッド部19の平坦面部19Aとの間には前記くさび膜効果による速度に依存した流体圧が発生し、この流体圧は前記油圧反力f(図6参照)となって、斜板11の平滑面11Aから離間する方向の油圧力(乖離力)をシュー9の台座部9A側に生じさせるものである。
本実施の形態による可変容量型斜板式の油圧ポンプ1は、上述の如き構成を有するもので、次にその作動について説明する。
まず、エンジン等の原動機によって回転軸5を回転駆動すると、ケーシング2内でシリンダブロック6が回転軸5と一体に回転される。これにより、斜板11の表面(平滑面11A)に沿って複数のシュー9がリング状軌跡を描くように摺動変位し、これに伴って夫々のピストン8がシリンダブロック6の各シリンダ7内で往復動を繰返すようになる。
このため、シリンダブロック6が1回転する間に、各ピストン8はシリンダ7内を上死点から下死点に向けて摺動変位する吸入行程と、下死点から上死点に向けて摺動変位する吐出行程とを繰返す。そして、ピストン8の吸入行程では、例えば給排通路17側からシリンダ7内に作動油を吸込み、ピストン8の吐出行程では、ピストン8が各シリンダ7内の油液を高圧の圧油として給排通路16側から吐出させる。
この場合、リテーナ12は、スプリング14により球状ガイド13を介して斜板11(平滑面11A)に向けて付勢され、挿通穴12B内に挿通された夫々のシュー9を平滑面11Aの表面に押付けた状態に保持すると共に、回転軸5の周囲でシュー9に追従して連れ回わされるように回転する。これによりリテーナ12は、各シュー9が斜板11の平滑面11A上でリング状軌跡を描くように円滑に摺動変位するのを補償するものである。
また、シリンダブロック6の各シリンダ7内を往復動する各ピストン8には、軸方向他側から一側の球形凹部8A内に向けて軸方向に延びる潤滑用油路8Bが設けられ、シュー9内には球形部9C側から台座部9Aに向けて略直線状に延びる油孔9Dが穿設されている。そして、この油孔9Dは、シリンダ7内に流入した油液の一部をピストン8の潤滑用油路8Bを介して流通させることにより、この油液をシュー9の台座部9A(シールランド部18、動圧パッド部19)と斜板11の平滑面11Aとの間に潤滑油として供給することができる。
ところで、シリンダブロック6の各シリンダ7内を往復動するピストン8は、その上死点位置と下死点位置とで運動方向が逆向きに変わるので、その瞬間ではピストン8の潤滑用油路8B(シュー9の油孔9D)内の圧力が零(0MPa)に近い圧力まで低下することがある。このため、シュー9の台座部9A(シールランド部18、動圧パッド部19)と斜板11の平滑面11Aとの間には、瞬間的に潤滑油が供給されない状態が発生し、これによって両者の摺動面間には一時的に油膜が消失される可能性がある。
そこで、本実施の形態では、シュー9の台座部9Aには、斜板11の平滑面11Aに静圧軸受となって摺接し潤滑用の油液を平滑面11Aとの間に封止する環状のシールランド部18と、該シールランド部18の径方向内側部位に銅合金を埋込むようにして形成され斜板11の平滑面11Aと各シュー9との間に前記油液による油圧反力を発生させる動圧パッド部19とを設け、シールランド部18の表面側には、前記油液によって平滑面11Aとの間に形成される油膜に対し保油性を与える多数の微細な凹凸18A,18A,…を設ける構成としている。
この場合、シュー9のシールランド部18の表面側には、例えばショットピーニング等の微細な凹凸加工を施すことにより、その平均表面粗さRaが、0.5〜5.0の範囲内となる微細な多数の凹凸18Aを全面にわたって形成する構成としている。また、斜板11の平滑面11Aは、母材の表面側に硬化処理を含めた仕上げ加工を施すことにより平均表面粗さRaが、例えば0.1〜0.4の範囲内となる凹凸の少ない滑らかな滑面として形成する構成としている。
これにより、斜板11の平滑面11A上を摺動する各シュー9のシールランド部18と平滑面11Aとの間には、微細な多数の凹凸18Aによる油膜を形成した状態で保油性を与えることができ、両者間の摺動面が固体接触となるのを防ぐことができる。このため、両者の間に仮に摩耗粉が侵入しても、両者の間に確保した油膜の油液により摩耗粉を外部に流出させるように除去することができる。そして、シュー9のシールランド部18と斜板11の平滑面11Aとの間で摩耗、焼き付き等が発生するのを防止でき、シュー9の動き、挙動を長期にわたって安定させることができる。
また、シュー9の台座部9Aのうち、斜板11の平滑面11A上を摺接する摺接面側には、シールランド部18の径方向内側に位置して銅合金からなる動圧パッド部19を埋込むように一体形成し、該動圧パッド部19とシールランド部18との間には環状溝21を形成すると共に、動圧パッド部19の内周側には略円形の凹所からなる静圧ポケット20を設け、シュー9の油孔9D側から供給される油液を静圧ポケット20と環状溝21とに溜める構成としている。
このため、動圧パッド部19は、シュー9の油孔9D側から静圧ポケット20内に供給される油液により、斜板11の平滑面11Aと動圧パッド部19との間で油液のくさび膜効果(ラビリンス効果)を発生できる。そして、斜板11の平滑面11A上で各シュー9がリング状軌跡を描くように摺動変位するときには、斜板11の平滑面11Aと動圧パッド部19の平坦面部19Aとの間に前記くさび膜効果による速度に依存した流体圧を発生でき、この流体圧は油圧反力f(図6参照)となって斜板11の平滑面11Aから離間する方向の油圧力(乖離力)をシュー9の台座部9A側に生じさせ、平滑面11Aに対して摺接するシールランド部18の面圧を低減することができる。
また、シュー9の母材を動圧パッド部19よりも硬質の金属材料を用いて形成し、斜板11はシュー9の母材よりも硬質の金属材料を用いて形成している。これにより、複数のシュー9が斜板11の平滑面11A上でリング状軌跡を描くように長期にわたり摺動し続けるときにも、この軌跡に沿った筋状の溝等が斜板11の平滑面11Aに形成されることはなく、例えば斜板11の傾転角を変更するとき等にも支障なく、斜板11を滑らかに傾転駆動することができる。
しかも、動圧パッド部19がシュー9の母材(台座部9A側)から剥離したり、脱落したりするのを長期にわたって抑えることができる。これにより、シュー9と斜板11との摺動面に焼き付き、かじり、摩耗等が発生するのを防止でき、その耐久性、寿命を向上することができる。
ここで、本発明者等は、公知の斜板式ピストンポンプ・モータにおけるピストン試験機を用いて、斜板11の平滑面11Aとシュー9との摺動面間から油液が漏洩するときの洩れ流量Q(L/min)を計測し、図7に示すような試験結果を得ることができた。なお、図7中の横軸は、計測の時間(秒/100)を、0〜16000(秒/100)にわたる時間、即ち0〜160秒にわたる時間として示している。
即ち、図7中に実線で示すジグザグ状の特性線22は、第1の実施の形態による斜板11の平滑面11Aとシュー9との摺動面間から漏洩した油液の洩れ量Qを順次計測した特性データを示している。この特性線22は、複数のピストン8における各シリンダ7内での油液の吐出行程を再現しているが、斜板11と摺接しながら回転するシュー9は姿勢が周期的に変化するため、これに伴って油液の洩れ量Qは、特性線22に示すように振り幅をもって変動するものと考えられる。
また、ピストン8の往復動に従ってシリンダ7内に発生する圧力は、図7中に点線で示す特性線23の如く、予め決められた時間毎に段階的(ステップ状)に上昇させるようにフィードバック制御し、夫々の設定圧毎に油液の洩れ量Qを特性線22の如く計測したものである。そして、図7中に実線で示す特性線22から分かるように、圧力の設定値を漸次上げるにつれて油液の洩れ量Qは相対的に減少している。
また、図7中に直線として示した上側の特性線24は、特性線22による振れ幅のピーク値を平均化して求めた最大流量Qmax の特性を表し、下側の特性線25は、振れ幅の最小値を平均化して求めた最小流量Qmin の特性を表している。そして、最大流量Qmax と最小流量Qmin との差である特性線24,25間の間隔(特性線22の振れ幅)が小さい程、斜板11の平滑面11A上で各シュー9の動きが安定しているため、油液の洩れ量Qの振り幅も小さくなっていると判断することができる。
これに対し、図8中に実線で示すジグザグ状の特性線26は、比較例による油液の洩れ量Qを順次計測した特性データを示している。そして、この比較例の場合には、シュー9のシールランド部18を従来品と同様に全面にわたって凹凸の小さい平滑な面により形成し、これ以外の点は第1の実施の形態によるシュー9と同様に構成したものである。
そして、比較例の場合でも、シリンダ7内に発生する圧力を図8中に点線で示す特性線23の如く、予め決められた時間毎に段階的に上昇させるようにフィードバック制御し、夫々の設定圧毎に油液の洩れ量Qを特性線26の如く計測している。また、図8中に直線として示した上側の特性線27は、特性線26による振れ幅のピーク値を平均化して求めた最大流量Qmax の特性を表し、下側の特性線28は、振れ幅の最小値を平均化して求めた最小流量Qmin の特性を表している。
そして、図8に示す比較例の場合には、最大流量Qmax と最小流量Qmin との差である特性線27,28間の間隔(特性線26の振れ幅)が、特に圧力が相対的に低い状態で非常に大きくなっており、斜板11の平滑面11A上で各シュー9が不安定な動き、挙動を繰返しているため、油液の洩れ量Qの振り幅も大きくなっていると判断することができる。
従って、本実施の形態によれば、図7中に示す特性線22,24,25からも明らかなように、斜板11の平滑面11A上を摺動変位する各シュー9の挙動を安定させることができ、シュー9と斜板11の平滑面11Aとの間の潤滑性能を向上できると共に、油液の漏洩を相対的に小さく抑えて機械的な効率を確保することができ、摩耗、焼き付き等の発生を防止することができる。
次に、図9および図10は本発明の第2の実施の形態を示し、本実施の形態の特徴は、斜板の平滑面に摺接するシューの摺接面側にシールランド部を設けると共に、該シールランド部の径方向内側と外側とに動圧パッド部をそれぞれ設ける構成としたことにある。なお、本実施の形態では、前述した第1の実施の形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
図中、31は第2の実施の形態で採用したシューを示し、該シュー31は、第1の実施の形態で述べたシュー9と同様に構成され、台座部31A、段差部31B、球形部31Cおよび油孔31Dを有している。しかし、この場合のシュー31には、台座部31Aの摺接面側に後述のシールランド部32と動圧パッド部33に加えて、他の動圧パッド部36が設けられている点で第1の実施の形態とは異なるものである。
32は第2の実施の形態で採用したシールランド部で、該シールランド部32は、第1の実施の形態で述べたシールランド部18と同様に構成され、その表面側には多数の微細な凹凸32A,32A,…が全面にわたって形成されている。しかし、この場合のシールランド部32は、その外周側に後述の動圧パッド部36が設けられている点で第1の実施の形態とは異なっている。
33はシールランド部32の径方向内側に位置してシュー31の台座部31Aに設けられた内側の動圧パッド部で、該動圧パッド部33は、第1の実施の形態で述べた動圧パッド部19と同様に構成され、平坦面部33Aと切込み部33Bとを有している。そして、動圧パッド部33には、平坦面部33Aの内側に略円形の凹所からなる静圧ポケット34が第1の実施の形態と同様に設けられ、シールランド部32と動圧パッド部33との間には、内側の環状溝35が第1の実施の形態で述べた環状溝21と同様に形成されている。
36はシールランド部32の径方向外側に位置してシュー31の台座部31Aに設けられた外側の動圧パッド部で、該動圧パッド部36は、第1の実施の形態で述べた動圧パッド部19と同様に銅合金等の軟質な材料を用いて形成され、シールランド部32および動圧パッド部33の平坦面部33Aと同一の平面(高さ位置)に配置されている。しかし、外側の動圧パッド部36は、シュー31のうち台座部31Aの径方向外側部位を縁取るように形成され、内側のシールランド部32との間には外側の環状溝37が形成されている。
また、外側の動圧パッド部36には、環状溝37から径方向外側に向けて延びる例えば4個の切込み溝36A,36A,…が設けられ、これらの切込み溝36Aは、外側の動圧パッド部36とシールランド部32との間の環状溝37内に油液を流入,出させる機能を有し、これにより環状溝37内にも油液が溜められるものである。
ここで、環状溝37は、シュー31の台座部31Aのうち平滑面11Aとの摺接面側に露出(開口)して配置され、その横断面形状は半円形またはU字状に形成されている。そして、シュー31の台座部31Aと斜板11の平滑面11Aとの間で環状溝37内に供給された油液は、動圧パッド部36の各切込み溝36Aを介して環状溝37の内,外に流出,入しようとする。
このため、斜板11の平滑面11Aと動圧パッド部36との間にも油液のくさび膜効果(ラビリンス効果)が発生し、シュー31が斜板11の平滑面11A上でリング状軌跡を描くように摺動変位するときには、斜板11の平滑面11Aと動圧パッド部33,36との間には前記くさび膜効果による速度に依存した流体圧が、前記油圧反力f(図6参照)と同様になって発生するものである。
かくして、このように構成される本実施の形態でも、前記第1の実施の形態とほぼ同様の効果を得ることができる。特に、本実施の形態では、斜板11の平滑面11Aに摺接するシュー31(台座部31A)の摺接面側にシールランド部32を設けると共に、該シールランド部32の径方向内側と外側とに動圧パッド部33,36を設ける構成としている。
このため、内側の動圧パッド部33と外側の動圧パッド部36とによって、前記くさび膜効果による速度に依存した流体圧をシュー31(台座部31A)と斜板11(平滑面11A)との間に発生することができると共に、斜板11の平滑面11Aから離間する方向の油圧力(乖離力)を生じさせることができ、平滑面11Aに対して摺接するシールランド部32の面圧を低減することができる。
次に、図11ないし図13は本発明の第3の実施の形態を示し、本実施の形態の特徴は、ピストンの突出端側に球形部を一体に形成し、シューの継手部を該球形部が装着される凹球面部として形成する構成としたことにある。なお、本実施の形態では、前述した第1の実施の形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
図中、41は本実施の形態で採用したピストンで、該ピストン41は、第1の実施の形態で述べたピストン8とほぼ同様に構成され、シリンダブロック6の各シリンダ7内に往復動可能に挿嵌されている。しかし、この場合のピストン41は、その一側(突出端側)に球形部41Aが一体に形成されている点で第1の実施の形態とは異なるものである。そして、ピストン41の球形部41Aは、後述するシュー42とピストン41とを揺動可能に連結する継手部を後述の凹球面部42Cと共に構成するものである。また、ピストン41には、軸方向他側から一側の球形部41Aに向けて軸方向に延びる内孔としての潤滑用油路41Bが設けられ、該潤滑用油路41Bは、シリンダ7内に流入した油液の一部をシュー42側に向けて潤滑油として供給するものである。
42はピストン41の突出端側に設けられたシューで、該シュー42は、第1の実施の形態で述べたシュー9とほぼ同様に構成され、斜板11の平滑面11A上を摺接する摺接部としての台座部42Aと、該台座部42Aに一体形成され台座部42Aよりも小径になった凸状部42B等とを有している。
しかし、この場合のシュー42は、凹球面部42Cが凸状部42Bに形成されている点で第1の実施の形態とは異なっている。そして、シュー42の凹球面部42Cは、ピストン41の球形部41Aが揺動可能に取付けられる継手部を、球形部41Aと共に構成するものである。また、シュー42内には、凹球面部42C側から台座部42Aに向けて略直線状に延びる油路としての油孔42Dが穿設され、この油孔42Dは、シリンダ7内に流入した油液の一部がピストン41の潤滑用油路41Bを介して導かれることにより、これを潤滑油としてシュー42の台座部42A(後述のシールランド部43、動圧パッド部44)と斜板11の平滑面11Aとの間に供給するものである。
43はシュー42の台座部42Aに形成した環状のシールランド部で、該シールランド部43は、第1の実施の形態で述べたシールランド部18と同様に構成され、その表面側には多数の微細な凹凸43A,43A,…が全面にわたって形成されている。
44はシールランド部43の径方向内側に位置してシュー42の台座部42Aに設けられた動圧パッド部で、該動圧パッド部44は、第1の実施の形態で述べた動圧パッド部19と同様に構成され、平坦面部44Aと切込み部44Bとを有している。そして、動圧パッド部44には、平坦面部44Aの内側に略円形の凹所からなる静圧ポケット45が第1の実施の形態と同様に設けられ、シールランド部43と動圧パッド部44との間には、環状溝46が第1の実施の形態で述べた環状溝21と同様に形成されている。
かくして、このように構成される本実施の形態でも、シュー42(台座部42A)の摺接面側にシールランド部43、動圧パッド部44等を設け、シールランド部43の表面側には多数の微細な凹凸43A,43A,…を全面にわたって形成することにより、シュー42と斜板11の平滑面11Aとの間の潤滑性能を向上できると共に、シュー42の挙動を安定させることができ、第1の実施の形態とほぼ同様の効果を得ることができる。
次に、図14および図15は本発明の第4の実施の形態を示し、本実施の形態の特徴は、斜板の平滑面に摺接するシューの摺接面側にシールランド部を設けると共に、該シールランド部の径方向内側と外側とに動圧パッド部をそれぞれ設ける構成としたことにある。なお、本実施の形態では、前述した第3の実施の形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
図中、51は第4の実施の形態で採用したシューを示し、該シュー51は、第3の実施の形態で述べたシュー42と同様に構成され、台座部51A、凸状部51B、凹球面部51Cおよび油孔51Dを有している。しかし、この場合のシュー51には、台座部51Aの摺接面側に後述のシールランド部52と動圧パッド部53に加えて、他の動圧パッド部56が設けられている点で第1の実施の形態とは異なるものである。
52は第2の実施の形態で採用したシールランド部で、該シールランド部52は、第3の実施の形態で述べたシールランド部43と同様に構成され、その表面側には多数の微細な凹凸52A,52A,…が全面にわたって形成されている。しかし、この場合のシールランド部52は、その外周側に後述の動圧パッド部56が設けられている点で第1の実施の形態とは異なっている。
53はシールランド部52の径方向内側に位置してシュー51の台座部51Aに設けられた内側の動圧パッド部で、該動圧パッド部53は、第3の実施の形態で述べた動圧パッド部44と同様に構成され、平坦面部53Aと切込み部53Bとを有している。そして、動圧パッド部53には、平坦面部53Aの内側に略円形の凹所からなる静圧ポケット54が第3の実施の形態と同様に設けられ、シールランド部52と動圧パッド部53との間には、内側の環状溝55が第3の実施の形態で述べた環状溝46と同様に形成されている。
56はシールランド部52の径方向外側に位置してシュー51の台座部51Aに設けられた外側の動圧パッド部で、該動圧パッド部56は、第1の実施の形態で述べた動圧パッド部19と同様に銅合金等の軟質な材料を用いて形成され、シールランド部52および動圧パッド部53の平坦面部53Aと同一の平面(高さ位置)に配置されている。しかし、外側の動圧パッド部56は、シュー51のうち台座部51Aの径方向外側部位を縁取るように形成され、内側のシールランド部52との間には外側の環状溝57が形成されている。
また、外側の動圧パッド部56には、環状溝57から径方向外側に向けて延びる例えば4個の切込み溝56A,56A,…が設けられ、これらの切込み溝56Aは、外側の動圧パッド部56とシールランド部52との間の環状溝57内に油液を流入,出させる機能を有し、これにより環状溝57内にも油液が溜められるものである。
ここで、環状溝57は、シュー51の台座部51Aのうち平滑面11Aとの摺接面側に露出(開口)して配置され、その横断面形状は半円形またはU字状に形成されている。そして、シュー51の台座部51Aと斜板11の平滑面11Aとの間で環状溝57内に供給された油液は、動圧パッド部56の各切込み溝56Aを介して環状溝57の内,外に流出,入しようとする。
このため、斜板11の平滑面11Aと動圧パッド部56との間にも油液のくさび膜効果(ラビリンス効果)が発生し、シュー51が斜板11の平滑面11A上でリング状軌跡を描くように摺動変位するときには、斜板11の平滑面11Aと動圧パッド部53,56との間には前記くさび膜効果による速度に依存した流体圧が発生するものである。
かくして、このように構成される本実施の形態でも、前記第3の実施の形態とほぼ同様の効果を得ることができる。特に、本実施の形態では、斜板11の平滑面11Aに摺接するシュー51(台座部51A)の摺接面側にシールランド部52を設けると共に、該シールランド部52の径方向内側と外側とに動圧パッド部53,56を設ける構成としている。
このため、内側の動圧パッド部53と外側の動圧パッド部56とによって、前記くさび膜効果による速度に依存した流体圧をシュー51(台座部51A)と斜板11(平滑面11A)との間に発生することができると共に、斜板11の平滑面11Aから離間する方向の油圧力(乖離力)を生じさせることができ、平滑面11Aに対して摺接するシールランド部52の面圧を低減することができる。
なお、前記各実施の形態では、斜板式液圧回転機を可変容量型の斜板式油圧ポンプ1に適用する場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限るものではなく、例えば可変容量型の斜板式油圧モータに適用してもよい。また、固定容量型の斜板式液圧回転機(例えば、斜板式油圧ポンプまたは油圧モータ)に適用してもよいものである。
また、前記第1の実施の形態では、シュー9のシールランド部18の摺接面側に対しショットピーニング等の微細加工を施すことにより多数の凹凸18Aを形成する場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限るものではなく、例えばエッチング等の化学的処理方法を用いて多数の微細な凹凸を形成する構成としてもよい。そして、この点は、第2〜第4の実施の形態についても同様である。