しかしながら、現状では、窒化物系III−V族化合物半導体を用いた半導体レーザにおいては、通電中の動作電流の増加が観測される。この通電中の動作電流の増加は半導体レーザの寿命を決定する重要な要因の一つであり、その抑制が望まれるものである。
したがって、この発明が解決しようとする課題は、通電中の動作電流の増加が極めて少なく、長寿命で経時変化も極めて少ない、窒化物系III−V族化合物半導体を用いた半導体レーザを容易に製造することができる半導体レーザの製造方法を提供することにある。
この発明が解決しようとする他の課題は、通電中の動作電流の増加が極めて少なく、長寿命で経時変化も極めて少ない、窒化物系III−V族化合物半導体を用いた半導体レーザおよびその製造方法を提供することにある。
より一般的には、この発明が解決しようとする課題は、通電中の動作電流の増加が極めて少なく、長寿命で経時変化も極めて少ない、III−V族化合物半導体やその他の半導体を用いた半導体レーザおよびその製造方法を提供することにある。
さらに一般的には、この発明が解決しようとする課題は、窒化物系III−V族化合物半導体を加工することにより形成される端面の改善を図ることができるとともに、この端面に端面コーティングを施す場合にその密着性の向上を図ることができる半導体装置の製造方法を提供することにある。
この発明が解決しようとする他の課題は、窒化物系III−V族化合物半導体を加工することにより形成される端面の改善を図ることができるとともに、この端面に端面コーティングを施す場合にその密着性の向上を図ることができる半導体装置およびその製造方法を提供することにある。
この発明が解決しようとする他の課題は、III−V族化合物半導体やその他の半導体を加工することにより形成される端面の改善を図ることができるとともに、この端面に端面コーティングを施す場合にその密着性の向上を図ることができる半導体装置およびその製造方法を提供することにある。
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を行った。その概要について説明すると、次のとおりである。
すなわち、本発明者は、種々実験を行って検討を行った結果、窒化物系III−V族化合物半導体を用いた半導体レーザにおける通電中の動作電流の上昇は、共振器の端面付近が破壊される、いわゆる端面劣化が最大の要因であることを見い出した。ここで、窒化物系III−V族化合物半導体を用いた半導体レーザにおいては、端面劣化あるいは光学損傷(COD;catastrophic optical damage)については、これまでほとんど報告されていないのが実情である。
この端面劣化の抑制については、他の材料系の半導体レーザにおいては、共振器端面付近の結晶の酸化を防止するため、端面コーティングを施すことにより解決を図っている。例えば、AlGaAs系半導体レーザにおいては、共振器端面にSiO2 、Si3 N4 、Al2 O3 などをコートしている(例えば、J.Appl.Phys.50(1979)p.5150、Appl.Phys.Lett.30(1977)p.87)。
ところが、本発明者の知見によれば、窒化物系III−V族化合物半導体を用いた半導体レーザにおいて、共振器端面を安定化させるために端面コート材を成膜し、共振器端面を保護したものについて寿命試験を行ったところ、予想に反して、ほとんど全ての素子で動作電流の急激な増加が確認された。本発明者は、その原因の究明を進めた結果、共振器端面付近の劣化が支配的要因であることを見い出した。言い換えれば、窒化物系III−V族化合物半導体を用いた半導体レーザにおいては、AlGaAs系半導体レーザなどで端面劣化の抑制に有効と考えられていた端面コーティングを単に施すだけでは、端面劣化を防止することは困難であるという結論に至った。
そこで、本発明者は、動作電流の急激な増加の問題の根本的な解決方法について種々検討を行った結果、共振器端面形成後に、共振器端面を不活性ガスのプラズマ雰囲気に暴露したり、あるいは、これに加熱処理を組み合わせたりすることが有効であることを見い出し、さらにそれらの条件などについて種々検討を行った。
その後さらに検討を行った結果、端面劣化の要因の一つが、共振器端面に対する端面コート膜自身の密着性が良好でないことにあることを確認した。そこで、本発明者は、共振器端面に対する端面コート膜の密着性の向上を図るために、密着層を介して端面コート膜を形成することを考えた。そして、この密着層として最適な材料の探索を行った結果、レーザ特性に悪影響を与えない程度の十分に薄い、Alなどの金属やAlなどの金属と酸素などとを含む物質が好適なものであることを見い出した。このうち、Alなどの金属を共振器端面、取り分け発光部を含む領域に形成することは、レーザ特性に悪影響を及ぼすなどの理由によりこれまでの常識では考えられなかったことであるが、レーザ特性に悪影響を及ぼすことなく、共振器端面に対する端面コート膜の密着性の向上を図ることが可能であることが分かった。
以上は半導体レーザについてであるが、上記の手法は、窒化物系III−V族化合物半導体を劈開やドライエッチングなどで加工することにより端面を形成する半導体装置において、この端面を改善し、その安定化を図ったり、この端面に端面コーティングを施す場合にその密着性の向上を図ったりする場合にも同様に有効である。また、共振器端面に密着層を介して端面コート膜を形成する手法については、窒化物系III−V族化合物半導体以外のIII−V族化合物半導体やその他の半導体を用いた半導体レーザにも有効であり、さらには、窒化物系III−V族化合物半導体以外のIII−V族化合物半導体やその他の半導体を劈開やドライエッチングなどで加工することにより端面を形成する半導体装置において、この端面に端面コーティングを施す場合にその密着性の向上を図ったりする場合にも有効である。
この発明は、本発明者による以上の検討に基づいてさらに検討を行った結果、案出されたものである。
すなわち、上記課題を解決するために、この発明の第1の発明は、
窒化物系III−V族化合物半導体を用いた半導体レーザの製造方法において、
半導体レーザの共振器端面を形成した後、この共振器端面を不活性ガスのプラズマ雰囲気に暴露するようにした
ことを特徴とするものである。
この発明の第2の発明は、
窒化物系III−V族化合物半導体を用いた半導体レーザの製造方法において、
半導体レーザの共振器端面を形成した後、真空中または不活性ガス雰囲気中において30℃以上700℃以下の温度で加熱を行う工程と、
半導体レーザの共振器端面を形成した後、この共振器端面を不活性ガスのプラズマ雰囲気に暴露する工程とを有する
ことを特徴とするものである。
ここで、これらの工程はいずれを先に行っても良いが、共振器端面の清浄化などの表面処理をより完全に行う観点からは、好適には加熱の工程を先に行う。さらに、場合によっては、不活性ガスのプラズマ雰囲気に暴露する工程の前後に加熱の工程を行っても良い。
この発明の第3の発明は、
窒化物系III−V族化合物半導体を用いた半導体レーザの製造方法において、
半導体レーザの共振器端面を形成した後、この共振器端面を30℃以上700℃以下の温度で不活性ガスのプラズマ雰囲気に暴露するようにした
ことを特徴とするものである。
この発明の第4の発明は、
窒化物系III−V族化合物半導体を用いた半導体レーザの製造方法において、
窒化物系III−V族化合物半導体を用いた半導体レーザ構造が形成された基板をバー状に加工して共振器端面を形成した後、この共振器端面を不活性ガスのプラズマ雰囲気に暴露するようにした
ことを特徴とするものである。
この発明の第5の発明は、
窒化物系III−V族化合物半導体を用いた半導体レーザの製造方法において、
窒化物系III−V族化合物半導体を用いた半導体レーザ構造が形成された基板をバー状に加工して共振器端面を形成した後、真空中または不活性ガス雰囲気中において30℃以上700℃以下の温度で加熱を行う工程と、
窒化物系III−V族化合物半導体を用いた半導体レーザ構造が形成された基板をバー状に加工して共振器端面を形成した後、この共振器端面を不活性ガスのプラズマ雰囲気に暴露する工程とを有する
ことを特徴とするものである。
ここで、これらの工程はいずれを先に行っても良いが、共振器端面の清浄化などの表面処理をより完全に行う観点からは、好適には加熱の工程を先に行う。さらに、場合によっては、不活性ガスのプラズマ雰囲気に暴露する工程の前後に加熱の工程を行っても良い。
この発明の第6の発明は、
窒化物系III−V族化合物半導体を用いた半導体レーザの製造方法において、
窒化物系III−V族化合物半導体を用いた半導体レーザ構造が形成された基板をバー状に加工して共振器端面を形成した後、この共振器端面を30℃以上700℃以下の温度で不活性ガスのプラズマ雰囲気に暴露するようにした
ことを特徴とするものである。
この発明の第7の発明は、
窒化物系III−V族化合物半導体を加工することにより形成された端面を有する半導体装置の製造方法において、
端面を形成した後、この端面を不活性ガスのプラズマ雰囲気に暴露するようにした
ことを特徴とするものである。
この発明の第8の発明は、
窒化物系III−V族化合物半導体を加工することにより形成された端面を有する半導体装置の製造方法において、
端面を形成した後、真空中または不活性ガス雰囲気中において30℃以上700℃以下の温度で加熱を行う工程と、
端面を形成した後、この端面を不活性ガスのプラズマ雰囲気に暴露する工程とを有する
ことを特徴とするものである。
ここで、これらの工程はいずれを先に行っても良いが、端面の清浄化などの表面処理をより完全に行う観点からは、好適には加熱の工程を先に行う。さらに、場合によっては、不活性ガスのプラズマ雰囲気に暴露する工程の前後に加熱の工程を行っても良い。
この発明の第9の発明は、
窒化物系III−V族化合物半導体を加工することにより形成された端面を有する半導体装置の製造方法において、
端面を形成した後、この端面を30℃以上700℃以下の温度で不活性ガスのプラズマ雰囲気に暴露するようにした
ことを特徴とするものである。
この発明の第10の発明は、
窒化物系III−V族化合物半導体を用いた半導体レーザにおいて、
共振器端面に密着層を介して端面コート膜が形成されている
ことを特徴とするものである。
この発明の第11の発明は、
窒化物系III−V族化合物半導体を用いた半導体レーザの製造方法において、
半導体レーザの共振器端面を形成した後、この共振器端面に密着層を介して端面コーティングを施すようにした
ことを特徴とするものである。
この発明の第12の発明は、
窒化物系III−V族化合物半導体を用いた半導体レーザの製造方法において、
窒化物系III−V族化合物半導体を用いた半導体レーザ構造が形成された基板をバー状に加工して共振器端面を形成した後、この共振器端面に密着層を介して端面コーティングを施すようにした
ことを特徴とするものである。
この発明の第13の発明は、
窒化物系III−V族化合物半導体を加工することにより形成された端面を有する半導体装置において、
端面に密着層を介して端面コート膜が形成されている
ことを特徴とするものである。
この発明の第14の発明は、
窒化物系III−V族化合物半導体を加工することにより形成された端面を有する半導体装置の製造方法において、
端面を形成した後、この端面に密着層を介して端面コーティングを施すようにした
ことを特徴とするものである。
この発明の第1〜第14の発明において、窒化物系III−V族化合物半導体は、Ga、Al、InおよびBからなる群より選ばれた少なくとも一種類のIII族元素と、少なくともNを含み、場合によってさらにAsやPを含むV族元素とからなる。この窒化物系III−V族化合物半導体の具体例を挙げると、GaN、AlGaN、AlN、GaInN、AlGaInN、InNなどである。
この発明の第1〜第9の発明においては、典型的には、不活性ガスのプラズマ雰囲気への暴露などを行った後、半導体レーザにおける共振器端面あるいは半導体装置における端面を大気にさらすことなく、この共振器端面あるいは端面に端面コーティングを施す。具体的には、例えば、プラズマ処理および成膜が可能な装置を用い、その処理室内で不活性ガスのプラズマ雰囲気への暴露と端面コーティングとを連続して行ったり、プラズマ処理装置で不活性ガスのプラズマ雰囲気への暴露を行った後、被処理物を成膜装置に真空または不活性ガス雰囲気にある搬送路を通して搬送し、端面コーティングを施す。
プラズマを発生させる不活性ガスあるいは加熱時の雰囲気ガスに用いる不活性ガスとしては、希ガス、窒素ガスあるいはこれらの混合ガスのいずれを用いてもよく、ほぼ同様な効果を得ることができる。希ガスとしては、共振器端面あるいは端面の平坦化や清浄化などの表面処理を効率的に行う観点から、好適には、アルゴンガスあるいはキセノンガスが用いられる。
プラズマのエネルギー、すなわちプラズマ出力×処理時間は、共振器端面あるいは端面の平坦化や清浄化などの表面処理効果を必要最小限得る観点からは好適には0.5キロワット秒(例えば、50ワット×10秒)以上とし、プラズマによる共振器端面あるいは端面のダメージを抑える観点からは好適には900キロワット秒(例えば、500ワット×1800秒)以下とし、より好適には100キロワット秒以上500キロワット秒以下とする。また、この場合、プラズマの出力は、共振器端面あるいは端面の平坦化や清浄化などの表面処理効果を十分に得る観点から、好適には50ワット以上、より好適には100ワット以上とし、プラズマによる共振器端面あるいは端面のダメージを抑える観点から、好適には1000ワット以下、より好適には800ワット以下、さらに好適には500ワット以下とする。また、不活性ガスのプラズマ雰囲気への暴露時間は、共振器端面あるいは端面の平坦化や清浄化などの表面処理効果を十分かつ安定的に得る観点から、好適には10秒間以上、より好適には1分間以上、より好適には5分間以上、さらに好適には10分間以上とする。不活性ガスのプラズマ雰囲気を形成する前の処理室の圧力は、プラズマ雰囲気を安定に形成する観点から、好適には1×10-4Pa以下とする。また、不活性ガスのプラズマ雰囲気を形成した後の処理室の圧力は、プラズマ雰囲気を安定に保持し、共振器端面あるいは端面の平坦化や清浄化などの表面処理効果を十分かつ安定的に得る観点から、好適には0.8×10-2Pa以上1.2×10-2Pa以下、特に1×10-2Pa程度とする。さらに、共振器端面あるいは端面の処理を行う被処理物は、プラズマによる共振器端面あるいは端面のダメージを抑える観点から、好適にはその保持部に電圧を印加せず、自己バイアス(セルフバイアス)状態に保持する。
不活性ガスのプラズマ雰囲気への暴露前および/または暴露後あるいは不活性ガスのプラズマ雰囲気への暴露時に行う加熱の温度は、共振器端面あるいは端面の清浄化などの表面処理効果を十分に確保し、あるいは、処理後の共振器端面あるいは端面の安定化を図る観点から、好適には50℃以上、より好適には100℃以上とし、また、窒化物系III−V族化合物半導体の成長層、特に活性層などの劣化を防止する観点からは好適には700℃以下とし、電極、特にp側電極の劣化を防止する観点からは好適には400℃以下とする。加熱温度は、必要に応じて、これらの下限および上限の任意の組み合わせの範囲内の温度に設定することができる。加熱を真空中で行う場合、共振器端面あるいは端面の平坦化や清浄化を図る観点から、好適にはその圧力を1×10-4Pa以下とする。
この発明の第10〜第12の発明において、密着層は、好適には、共振器端面における少なくとも発光部を含む領域、すなわち端面コート膜の密着性が最も必要な領域上に形成され、典型的には、共振器端面の全面に形成される。密着層は連続膜からなるもの、微粒子からなるもののいずれであってもよく、さらには連続膜とその上の微粒子とからなるものであってもよい。
密着層として連続膜を用いる場合、その厚さは使用材料などとの兼ね合いで適宜選ばれるが、使用材料が特に金属である場合には、あまり厚いと光の吸収が多くなるので、光の吸収を抑える観点より、好適には10nm以下、より好適には5nm以下、さらに好適には2nm以下に選ばれる。密着層の厚さの下限は一原子層あるいは一分子層に相当する厚さである。また、この連続膜は、使用材料が導電性を有するものである場合には、共振器端面上におけるpn接合のショートを確実に防止するために、好適には、半導体レーザ構造を形成するn型層とp型層とにまたがらないように形成される。
一方、密着層として微粒子からなるものを用いる場合には、この微粒子が大きすぎると、この微粒子が形成された共振器端面のエネルギー反射率が大きくなりすぎて半導体レーザの動作電流の増加などを招き、好ましくないことから、この微粒子の大きさは、共振器端面のエネルギー反射率が所定値以下になるように設定する必要がある。具体的には、共振器端面が平坦なときのエネルギー反射率をR0 、共振器端面に微粒子からなる密着層が形成されているときのエネルギー反射率をRs 、発振波長をλ、微粒子の屈折率をn、微粒子の平均高さをσとすると、
Rs =R0 exp[−(4πn(σ/λ))2 ]
と表されることから(吉田貞史、矢島弘義著「薄膜・光デバイス」東京大学出版会)、σはこの式から求められるRs が所定値以下になるように設定される。具体例を挙げると、フロント側の共振器端面を想定してR0 =0.10、λ=400nm、微粒子がAlからなる場合にはλ=400nmに対してn(Al)=3.90あるいは微粒子がAlNからなる場合にはλ=400nmに対してn(AlN)=2.224として、σ/λによるRs の変化を上式を用いて計算で求めると、図1に示すようになる。また、σ/λによるRs の変化量=(Rs −0.1)×100(%)を計算で求めると、図2に示すようになる。いま、Rs ≦0.6にする場合を考えると、このためには、
微粒子がAlからなる場合 σ/λ≦0.028
微粒子がAlNからなる場合 σ/λ≦0.048
にならなければならない。λ=400nmであるから、この場合、
微粒子がAlからなる場合 σ≦11.2nm
微粒子がAlNからなる場合 σ≦19.2nm
でなければならない。また、共振器端面上に形成された微粒子に表面張力が働いていてその高さと幅とが同一であると仮定すると、微粒子がAlからなる場合におけるその幅は11.2nm以下、微粒子がAlNからなる場合におけるその幅は19.2nm以下となる。
密着層の材料は必要に応じて選ばれるが、典型的には、Al、Ti、Zr、Hf、Ta、ZnおよびSiからなる群より選ばれた少なくとも一種の元素からなるもの、あるいは、Al、Ti、Zr、Hf、Ta、ZnおよびSiからなる群より選ばれた少なくとも一種の元素と酸素および/または窒素とを含む物質である。また、密着層の形成には、スパッタリング法や真空蒸着法(例えば、電子ビーム蒸着法)などの各種の成膜法を用いることができる。
端面コート膜は、典型的には、単層または多層の誘電体膜(誘電体多層膜)からなる。この場合、典型的には、密着層およびこの密着層に接した誘電体膜は、Al、Ti、Zr、Hf、Ta、ZnおよびSiからなる群より選ばれた少なくとも一種の元素を含むか、あるいは、Al、Ti、Zr、Hf、Ta、ZnおよびSiからなる群より選ばれた少なくとも一種の同一の元素を含む。具体的には、例えば、密着層に接した誘電体膜はAl2 O3 からなり、密着層はAlとOとからなる物質、例えばAlとAl2 O3 との中間組成を有する物質、すなわちAlOx (ただし、0<x<1.5)である。この密着層は、少なくともAlとOとを主成分とする物質、例えばAlOx を主成分とする物質であってもよい。あるいは、密着層に接した誘電体膜はAlNからなり、密着層はAlとNとからなる物質、例えばAlとAlNとの中間組成を有する物質、すなわちAlNx (ただし、0<x<1)であることもある。
この発明の第13および第14の発明において、密着層および端面コート膜については、基本的には、この発明の第10〜第12の発明に関して述べたことがそのまま成り立つが、半導体レーザに固有な制約は存在しない。
この発明の第10〜第14の発明においては、好適には、共振器端面あるいは端面を形成した後、この共振器端面あるいは端面を不活性ガスのプラズマ雰囲気に暴露した後または暴露しながら、この共振器端面あるいは端面に密着層を形成する。このときの不活性ガスのプラズマ処理の条件は、基本的には上記と同様である。密着層を形成した後には、好適には、共振器端面あるいは端面を大気にさらすことなく、この共振器端面あるいは端面に端面コーティングを施す。
窒化物系III−V族化合物半導体層を成長させる基板としては、種々のものを用いることができ、具体的には、サファイア基板、SiC基板、Si基板、GaAs基板、GaP基板、InP基板、スピネル基板、酸化シリコン基板などのほか、厚いGaN層などの窒化物系III−V族化合物半導体層からなる基板を用いてもよい。
窒化物系III−V族化合物半導体の成長方法としては、例えば、有機金属化学気相成長(MOCVD)、ハイドライド気相エピタキシャル成長またはハライド気相エピタキシャル成長(HVPE)などを用いることができる。
半導体装置は、窒化物系III−V族化合物半導体を劈開やドライエッチングなどで加工することにより素子部の端面(半導体チップ端面やエッチングにより窒化物系III−V族化合物半導体層に形成するメサ部の端面など)を形成するものであれば、基本的にはどのようなものであってもよいが、具体的には、例えば、半導体レーザのほかに、発光ダイオードあるいはFETやヘテロ接合バイポーラトランジスタなどの電子走行素子である。
以上の第1〜第14の発明は、窒化物系III−V族化合物半導体を用いた半導体レーザまたは半導体装置に関するものであるが、これらのうち第10〜第14の発明と同様な手法は、基本的には、窒化物系III−V族化合物半導体以外の、AlGaAs系半導体やAlGaInP系半導体などを含む各種のIII−V族化合物半導体を用いた半導体レーザまたは半導体装置にも適用することが可能であり、さらには、III−V族化合物半導体のほか、II−VI族化合物半導体などを含む各種の半導体を用いた半導体レーザまたは半導体装置にも適用することが可能である。
すなわち、この発明の第15の発明は、
III−V族化合物半導体を用いた半導体レーザにおいて、
共振器端面に密着層を介して端面コート膜が形成されている
ことを特徴とするものである。
この発明の第16の発明は、
III−V族化合物半導体を用いた半導体レーザの製造方法において、
半導体レーザの共振器端面を形成した後、この共振器端面に密着層を介して端面コーティングを施すようにした
ことを特徴とするものである。
この発明の第17の発明は、
III−V族化合物半導体を用いた半導体レーザの製造方法において、
III−V族化合物半導体を用いた半導体レーザ構造が形成された基板をバー状に加工して共振器端面を形成した後、この共振器端面に密着層を介して端面コーティングを施すようにした
ことを特徴とするものである。
この発明の第18の発明は、
III−V族化合物半導体を加工することにより形成された端面を有する半導体装置において、
端面に密着層を介して端面コート膜が形成されている
ことを特徴とするものである。
この発明の第19の発明は、
III−V族化合物半導体を加工することにより形成された端面を有する半導体装置の製造方法において、
端面を形成した後、この端面に密着層を介して端面コーティングを施すようにした
ことを特徴とするものである。
この発明の第20の発明は、
共振器端面に密着層を介して端面コート膜が形成されている
ことを特徴とする半導体レーザである。
この発明の第21の発明は、
共振器端面を形成した後、この共振器端面に密着層を介して端面コーティングを施すようにした
ことを特徴とする半導体レーザの製造方法である。
この発明の第22の発明は、
半導体レーザ構造が形成された基板をバー状に加工して共振器端面を形成した後、この共振器端面に密着層を介して端面コーティングを施すようにした
ことを特徴とする半導体レーザの製造方法である。
この発明の第23の発明は、
半導体を加工することにより形成された端面を有する半導体装置において、
端面に密着層を介して端面コート膜が形成されている
ことを特徴とするものである。
この発明の第24の発明は、
半導体を加工することにより形成された端面を有する半導体装置の製造方法において、
端面を形成した後、この端面に密着層を介して端面コーティングを施すようにした
ことを特徴とするものである。
この発明の第15〜第24の発明において、密着層および端面コート膜については、この発明の第10〜第12の発明に関して述べたことが基本的には成り立つ。
上述のように構成されたこの発明の第1〜第9の発明によれば、半導体レーザの共振器端面あるいは半導体装置の端面を形成した後、この共振器端面あるいは端面を不活性ガスのプラズマ雰囲気に暴露し、あるいは、真空中または不活性ガス雰囲気中における30℃以上700℃以下の温度での加熱および共振器端面あるいは端面の不活性ガスのプラズマ雰囲気への暴露、あるいは、30℃以上700℃以下の温度での共振器端面あるいは端面の不活性ガスのプラズマ雰囲気への暴露を行うようにしていることにより、共振器端面あるいは端面に存在する微小な凹凸や酸化物や汚染物質などを除去し、平坦化あるいは清浄化することができる。そして、共振器端面あるいは端面に対するコーティング材料の親和性の向上を図り、ひいては密着性の向上を図ることができる。また、特に、半導体レーザにおいては、共振器端面が清浄化されることにより、共振器端面の界面準位を大幅に減少させることができ、共振器端面での非発光再結合を大幅に減少させることができるとともに、コート膜への不純物の混入を抑えることができ、それに起因する光劣化を抑えることができる。
また、この発明の第10〜第24の発明によれば、半導体レーザの共振器端面あるいは半導体装置の端面を形成した後、この共振器端面あるいは端面に密着層を介して端面コート膜を形成するようにすることにより、端面コート膜の密着性を大幅に向上させることができる。
この発明によれば、半導体レーザの共振器端面を形成した後、この共振器端面を不活性ガスのプラズマ雰囲気に暴露し、あるいは、真空中または不活性ガス雰囲気中における30℃以上700℃以下の温度での加熱および共振器端面の不活性ガスのプラズマ雰囲気への暴露、あるいは、30℃以上700℃以下の温度での共振器端面の不活性ガスのプラズマ雰囲気への暴露を行うようにしていることにより、通電中の動作電流の増加が極めて少なく、長寿命で経時変化も極めて少ない、窒化物系III−V族化合物半導体を用いた半導体レーザを容易に製造することができる。
また、この発明によれば、半導体装置の端面を形成した後、この端面を不活性ガスのプラズマ雰囲気に暴露し、あるいは、真空中または不活性ガス雰囲気中における30℃以上700℃以下の温度での加熱および端面の不活性ガスのプラズマ雰囲気への暴露、あるいは、30℃以上700℃以下の温度での端面の不活性ガスのプラズマ雰囲気への暴露を行うようにしていることにより、窒化物系III−V族化合物半導体を加工することにより形成される端面の改善を図ることができるとともに、この端面に端面コーティングを施す場合にその密着性の向上を図ることができる。
さらに、この発明によれば、半導体レーザの共振器端面あるいは半導体装置の端面を形成した後、この共振器端面あるいは端面に密着層を介して端面コーティングを行うようにしていることにより、端面コート膜の密着性の向上を図ることができ、通電中の動作電流の増加が極めて少なく、長寿命で経時変化も極めて少ない、窒化物系III−V族化合物半導体やその他の半導体を用いた半導体レーザを容易に製造することができ、あるいは、信頼性の高い半導体装置を実現することができる。
以下、この発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
説明の便宜上、最初に、以下の実施形態により製造するGaN系半導体レーザの構造について説明する。
図3および図4はこのGaN系半導体レーザを示す。ここで、図3は共振器長方向に垂直な断面図、図4は共振器長方向に平行な断面図である。このGaN系半導体レーザは、リッジ構造およびSCH(Separate Confinement Heterostructure)構造を有するものである。
図3および図4に示すように、このGaN系半導体レーザにおいては、c面サファイア基板1上に、低温成長によるアンドープGaNバッファ層2を介して、ELO(Epitaxial Lateral Overgrowth)などの横方向結晶成長技術を用いて成長されたアンドープGaN層3、n型GaNコンタクト層4、n型AlGaNクラッド層5、n型GaN光導波層6、例えばアンドープのInx Ga1-x N/Iny Ga1-y N多重量子井戸構造の活性層7、n型のアンドープInGaN劣化防止層8、p型AlGaNキャップ層9、p型GaN光導波層10、p型AlGaNクラッド層11およびp型GaNコンタクト層12が順次積層されている。
ここで、アンドープGaNバッファ層2は厚さが例えば30nmである。アンドープGaN層3は厚さが例えば0.5μmである。n型GaNコンタクト層4は厚さが例えば4μmであり、n型不純物として例えばシリコン(Si)がドープされている。n型AlGaNクラッド層5は厚さが例えば1.0μmであり、n型不純物として例えばSiがドープされ、Al組成は例えば0.07である。n型GaN光導波層6は厚さが例えば0.1μmであり、n型不純物として例えばSiがドープされている。また、アンドープInx Ga1-x N/Iny Ga1-y N多重量子井戸構造の活性層7は、例えば、井戸層としてのInx Ga1-x N層の厚さが3.5nmでx=0.08、障壁層としてのIny Ga1-y N層の厚さが7nmでy=0.02、井戸数が3である。
アンドープInGaN劣化防止層8は、活性層7に接している面から、p型AlGaNキャップ層9に接している面に向かってIn組成が徐々に単調減少するグレーディッド構造を有し、活性層7に接している面におけるIn組成は活性層7の障壁層としてのIny Ga1-y N層のIn組成yと一致しており、p型AlGaNキャップ層9に接している面におけるIn組成は0となっている。このアンドープInGaN劣化防止層8の厚さは例えば20nmである。
p型AlGaNキャップ層9は厚さが例えば10nmであり、p型不純物として例えばマグネシウム(Mg)がドープされている。このp型AlGaNキャップ層9のAl組成は例えば0.2である。このp型AlGaNキャップ層9は、p型GaN光導波層10、p型AlGaNクラッド層11およびp型GaNコンタクト層12の成長時に活性層7からInが脱離して劣化するのを防止するとともに、活性層9からのキャリア(電子)のオーバーフローを防止するためのものである。p型GaN光導波層10は厚さが例えば0.1μmであり、p型不純物として例えばMgがドープされている。p型AlGaNクラッド層11は厚さが例えば0.5μmであり、p型不純物として例えばMgがドープされ、Al組成は例えば0.07である。p型GaNコンタクト層12は厚さが例えば0.1μmであり、p型不純物として例えばMgがドープされている。
n型GaNコンタクト層4の上層部、n型AlGaNクラッド層5、n型GaN光導波層6、活性層7、アンドープInGaN劣化防止層8、p型AlGaNキャップ層9、p型GaN光導波層10およびp型AlGaNクラッド層11は所定幅のメサ形状を有する。このメサ部におけるp型AlGaNクラッド層11の上層部およびp型GaNコンタクト層13には、例えば〈1−100〉方向あるいは〈11−20〉方向に延在するリッジ13が形成されている。このリッジ13の幅は例えば1.6μmである。
上記のメサ部の全体を覆うように例えば厚さが0.3μmのSiO2 膜のような絶縁膜14が設けられている。この絶縁膜14は、電気絶縁および表面保護のためのものである。この絶縁膜14のうちのリッジ13の上の部分には開口14aが設けられており、この開口14aを通じてp型GaNコンタクト層13にp側電極15が接触している。このp側電極15は、Pd膜、Pt膜およびAu膜を順次積層した構造を有し、Pd膜、Pt膜およびAu膜の厚さは例えばそれぞれ10nm、100nmおよび300nmである。一方、絶縁膜14のうちのメサ部に隣接する所定部分には開口14bが設けられており、この開口14bを通じてn型GaNコンタクト層4にn側電極16が接触している。このn側電極16は、Ti膜、Pt膜およびAu膜を順次積層した構造を有し、Ti膜、Pt膜およびAu膜の厚さは例えばそれぞれ10nm、50nmおよび100nmである。
図4に示すように、フロント側の共振器端面17およびリア側の共振器端面18にはそれぞれ端面コート膜19、20が形成されている。ここで、フロント側の端面コート膜19は例えば単層のAl2 O3 膜からなり、フロント側端面反射率が例えば10%になるようにその厚さは例えば3λ/4n(ただし、λはレーザ発振波長、nは屈折率)付近に設定されている。リア側の端面コート膜20は例えばAl2 O3 /TiO2 の多層膜からなり、リア側端面反射率が例えば95%になるようにその厚さは例えばλ/4nの4周期相当に設定されている。
次に、この発明の第1の実施形態によるGaN系半導体レーザの製造方法について説明する。
まず、あらかじめサーマルクリーニングなどにより表面を清浄化したc面サファイア基板1上に有機金属化学気相成長(MOCVD)法により例えば500℃程度の温度でアンドープGaNバッファ層2を成長させた後、例えばELOなどの横方向結晶成長技術を用いて例えば1000℃の成長温度で、アンドープGaN層3を成長させる。
引き続いて、アンドープGaN層3上に、MOCVD法により、n型GaNコンタクト層4、n型AlGaNクラッド層5、n型GaN光導波層6、アンドープのGa1-x Inx N/Ga1-y Iny N多重量子井戸構造の活性層7、アンドープInGaN劣化防止層8、p型AlGaNキャップ層9、p型GaN光導波層10、p型AlGaNクラッド層11およびp型GaNコンタクト層12を順次成長させる。ここで、Inを含まない層であるn型GaNコンタクト層4、n型AlGaNクラッド層5、n型GaN光導波層6、p型AlGaNキャップ層9、p型GaN光導波層10、p型AlGaNクラッド層11およびp型GaNコンタクト層12の成長温度は例えば1000℃程度とし、Inを含む層であるGa1-x Inx N/Ga1-y Iny N多重量子井戸構造の活性層7の成長温度は例えば700〜800℃、例えば730℃とする。アンドープInGaN劣化防止層8の成長温度は、成長開始時点は活性層7の成長温度と同じく例えば730℃に設定し、その後例えば直線的に上昇させ、成長終了時点でp型AlGaNキャップ層9の成長温度と同じく例えば835℃になるようにする。
これらのGaN系半導体層の成長原料は、例えば、Gaの原料としてはトリメチルガリウム((CH3 )3 Ga、TMG)、Alの原料としてはトリメチルアルミニウム((CH3 )3 Al、TMA)、Inの原料としてはトリメチルインジウム((CH3 )3 In、TMI)を、Nの原料としてはNH3 を用いる。また、キャリアガスとしては、例えば、H2 を用いる。ドーパントについては、n型ドーパントとしては例えばシラン(SiH4 )を、p型ドーパントとしては例えばビス=メチルシクロペンタジエニルマグネシウム((CH3 C5 H4 )2 Mg)あるいはビス=シクロペンタジエニルマグネシウム((C5 H5 )2 Mg)を用いる。
次に、上述のようにしてGaN系半導体層を成長させたc面サファイア基板1をMOCVD装置から取り出す。そして、p型GaNコンタクト層12の全面に例えばCVD法、真空蒸着法、スパッタリング法などにより例えば厚さが0.1μmのSiO2 膜(図示せず)を形成した後、このSiO2 膜上にリソグラフィーによりメサ部の形状に対応した所定形状のレジストパターン(図示せず)を形成し、このレジストパターンをマスクとして、例えばフッ酸系のエッチング液を用いたウエットエッチング、または、CF4 やCHF3 などのフッ素を含むエッチングガスを用いたRIE法によりSiO2 膜をエッチングし、パターニングする。次に、この所定形状のSiO2 膜をマスクとして例えばRIE法によりn型GaNコンタクト層4に達するまでエッチングを行う。このRIEのエッチングガスとしては例えば塩素系ガスを用いる。このエッチングにより、n型GaNコンタクト層4の上層部、n型AlGaNクラッド層5、n型GaN光導波層6、活性層7、アンドープInGaN劣化防止層8、p型AlGaNキャップ層9、p型GaN光導波層10、p型AlGaNクラッド層11およびp型GaNコンタクト層12がメサ形状にパターニングされる。
次に、エッチングマスクとして用いたSiO2 膜をエッチング除去した後、再び基板全面に例えばCVD法、真空蒸着法、スパッタリング法などにより例えば厚さが0.2μmのSiO2 膜(図示せず)を形成した後、このSiO2 膜上にリソグラフィーによりリッジ部に対応する所定形状のレジストパターン(図示せず)を形成し、このレジストパターンをマスクとして、例えばフッ酸系のエッチング液を用いたウエットエッチング、または、CF4 やCHF3 などのフッ素を含むエッチングガスを用いたRIE法によりSiO2 膜をエッチングし、リッジ部に対応する形状とする。
次に、このSiO2 膜をマスクとしてRIE法によりp型AlGaNクラッド層11の厚さ方向の所定の深さまでエッチングを行うことによりリッジ13を形成する。このRIEのエッチングガスとしては例えば塩素系ガスを用いる。
次に、エッチングマスクとして用いたSiO2 膜をエッチング除去した後、基板全面に例えばCVD法、真空蒸着法、スパッタリング法などにより例えば厚さが0.3μmのSiO2 膜のような絶縁膜14を成膜する。
次に、リソグラフィーによりn側電極形成領域を除いた領域の絶縁膜14の表面を覆うレジストパターン(図示せず)を形成する。
次に、このレジストパターンをマスクとして絶縁膜14をエッチングすることにより、開口14bを形成する。
次に、レジストパターンを残したままの状態で基板全面に例えば真空蒸着法によりTi膜、Pt膜およびAu膜を順次形成した後、レジストパターンをその上に形成されたTi膜、Pt膜およびAu膜とともに除去する(リフトオフ)。これによって、絶縁膜14の開口14bを通じてn型GaNコンタクト層4にコンタクトしたn側電極16が形成される。ここで、このn側電極16を構成するTi膜、Pt膜およびAu膜の厚さは例えばそれぞれ10nm、50nmおよび100nmである。次に、n側電極16をオーミック接触させるためのアロイ処理を行う。
次に、同様なプロセスで、リッジ13の上の部分の絶縁膜14をエッチング除去して開口14aを形成した後、n側電極16と同様にして、この開口14aを通じてp型GaNコンタクト層12にコンタクトしたPd/Pt/Au構造のp側電極15を形成する。次に、p側電極15をオーミック接触させるためのアロイ処理を行う。
次に、上述のようにしてレーザ構造および電極が形成された基板を図5に示すようにバー状に劈開することにより、図6および図7に示すように、共振器端面17、18を形成する。
次に、このようにして得られたバーをプラズマを発生させることができる装置の処理室に導入する。ここでは、プラズマ処理を行うことができるほか、AlターゲットおよびTiターゲットを備えていてスパッタリング法による成膜を行うことも可能な電子サイクロトロン共鳴(ECR)プラズマ装置を用いるものとする。
次に、ECRプラズマ装置の処理室内を高真空、具体的には例えば1×10-4Pa以下の圧力になるまで十分に真空排気し、プラズマが発生しやすい状態にする。この高真空中でまず、好適には100℃以上、より好適には200℃以上400℃以下の温度でバーを加熱し、共振器端面17、18に付着している水分や汚染物質などを可能な限り除去しておく。次に、処理室内に不活性ガス、例えばアルゴン(Ar)ガスを導入し、Arプラズマを生成する。このArプラズマが生成された状態における処理室内の圧力は、好適には例えば1×10-2Pa程度になるようにする。また、プラズマ自身は、窒化物系III−V族化合物半導体を用いた半導体レーザに対してダメージを与えるので、好適にはバーを保持している部分には電圧を印加しないようにする。言い換えれば、プラズマ生成により自然に生じるセルフバイアスのみとする。プラズマのエネルギーは、好適には100kW・s以上500kW・s以下とする。また、このときのプラズマ出力は好適には1kW以下、より好適には800W以下、さらに好適には500W以下とし、好適には50W以上にする。また、暴露時間は好適には1分間以上、より好適には5分間以上、さらに好適には10分間以上とする。このArプラズマ処理は、バーをヒータなどにより加熱しないで行う。このArプラズマ処理は、好適には、フロント側の共振器端面17およびリア側の共振器端面18の両者に対して行うが、最低限、光が取り出されるフロント側の共振器端面17のみ行うことにより端面劣化をかなりの程度防止することができる。
上述のようにして共振器端面17、18をArプラズマにより処理した後、共振器端面17、18の保護のために端面コート材を共振器端面17、18に成膜する。具体的には、図4に示すように、フロント側の共振器端面17には上記の材料および厚さの端面コート膜19を形成し、リア側の共振器端面18には上記の材料および厚さの端面コート膜20を形成する。これらの端面コート膜19、20の形成は、好適には、ECRプラズマ装置の処理室内で上述のArプラズマ処理に続いて、真空状態のまま、ECRプラズマスパッタリングにより行う。
次に、このようにして端面コート膜19、20を形成したバーを装置外に取り出し、このバーをペレタイズすることにより、図3および図4に示すようにレーザチップを作製する。
この後、このレーザチップのパッケージングを行って、目的とするリッジ構造およびSCH構造を有するGaN系半導体レーザが製造される。
図8に、共振器端面17、18を形成した後、真空中において200℃で20分間加熱を行い、引き続いてArプラズマ処理を500Wで10分間行ったGaN系半導体レーザの寿命試験の結果を示す。比較のため、共振器端面17、18にこれらの処理を行っていないGaN系半導体レーザの寿命試験の結果を図9に示す。ただし、寿命試験は60℃、30mWの条件で行った。図8および図9を比較すると明らかなように、加熱処理およびArプラズマ処理を行っていないGaN系半導体レーザ(図9)では、通電を始めてから短時間で動作電流の増加が観測され、破壊に至るが、加熱処理およびArプラズマ処理を行ったGaN系半導体レーザ(図8)では、通電中に動作電流の増加はほとんど生じておらず、寿命も格段に伸びていることが分かる。
図10に、共振器端面17、18を形成した後、真空中において200℃で20分間加熱を行い、引き続いてArプラズマ処理を500Wで10分間行ったGaN系半導体レーザの60℃、30mWの条件下で140時間通電後の光出力(L)−電流(I)特性の測定結果を示す。比較のため、共振器端面17、18にこれらの処理を行っていないGaN系半導体レーザの同様なL−I特性の測定結果を図11に示す。ただし、測定は25℃、連続発振の条件で行った。図10および図11を比較すると明らかなように、加熱処理およびArプラズマ処理を行っていないGaN系半導体レーザ(図11)では、通電前はほぼ理想的なL−I特性を有していたが、140時間通電後にはL−I特性が大幅に悪化し、キンクレベルの低下、動作電流の増加、外部量子効率の低下、熱飽和レベルの低下などが発生するが、加熱処理およびArプラズマ処理を行ったGaN系半導体レーザ(図10)では、140時間通電後においても、L−I特性は通電前とほとんど変化しておらず、キンクレベルの低下、動作電流の増加、外部量子効率の低下、熱飽和レベルの低下などのいずれも生じていない。
共振器端面17、18を形成した後、真空中において200℃で20分間加熱を行い、引き続いてArプラズマ処理を500Wで10分間行ったGaN系半導体レーザの寿命試験(60℃、30mW)を行った後の共振器端面17、18の端面コート膜19、20の断面を透過型電子顕微鏡により観察したところ、端面コート膜19、20のはがれは観測されず、良好な密着性が得られていることが確認された。一方、加熱処理およびArプラズマ処理を行っていないGaN系半導体レーザについて寿命試験(60℃、30mW)を行った後に同様な観察を行ったところ、端面コート膜19、20のはがれが観測され、密着性が悪いことが確認された。
上記のように加熱処理およびArプラズマ処理を行ったGaN系半導体レーザにおいて端面コート膜19、20の密着性が良好な理由については、現状では完全には解明されていないが、一つのモデルとして次のようなものが考えられる。すなわち、図12Aに示すように、劈開により形成された共振器端面17、18には、nmオーダの大きさの凹凸(以下「ナノ・ラフネス」という。)が存在する。この共振器端面17、18にArプラズマ処理を施すと、図12Bに示すように、Arイオンの衝突によるスパッタ効果によりナノ・ラフネスが軽減され、あるいはほとんどなくなり、共振器端面17、18の平坦性が向上する。このため、この平坦性が良好となった共振器端面17、18に端面コート膜19、20を形成した場合、良好な密着性が得られるものと考えられる。
以上のように、この第1の実施形態によれば、共振器端面17、18を形成した後に真空中において加熱処理を行って可能な限り清浄化を行った上でこの共振器端面17、18にArプラズマ処理を施してより完全な清浄化を行い、その後に途中で大気にさらすことなくこの共振器端面17、18に端面コート膜19、20を形成しているので、これらの端面コート膜19、20の密着性の大幅な向上を図ることができる。このため、共振器端面17、18の端面劣化を効果的に抑制することができ、通電中の動作電流の増加を抑制することができ、GaN系半導体レーザの寿命の大幅な向上を図ることができる。また、GaN系半導体レーザの歩留まりの向上を図ることもできる。また、L−I特性の経時変化も効果的に抑制することができ、GaN系半導体レーザの信頼性の向上を図ることができる。さらに、動作電流の増加が少なくなることにより、通電中の相対雑音強度(RIN)の増加を抑えることができる。
次に、この発明の第2の実施形態によるGaN系半導体レーザの製造方法について説明する。
第1の実施形態においては、共振器端面17、18を形成した後、この共振器端面17、18にArプラズマ処理を施す前に真空中において加熱処理を行っているが、この第2の実施形態においてはこの加熱処理を行わない。すなわち、共振器端面17、18を形成した後、この共振器端面17、18に直ちにArプラズマ処理を行う。このArプラズマ処理の条件は第1の実施形態と同様である。その他のことは、第1の実施形態と同様である。
この第2の実施形態によっても、第1の実施形態と同様の利点を得ることができる。
次に、この発明の第3の実施形態によるGaN系半導体レーザの製造方法について説明する。
この第3の実施形態においては、共振器端面17、18を形成した後、この共振器端面17、18にArプラズマ処理を施すが、この際にバーを好適には100℃以上、より好適には200℃以上、好適には400℃以下の温度に加熱しておく。その他のことは、第1の実施形態と同様である。
この第3の実施形態によっても、第1の実施形態と同様の利点を得ることができる。
次に、この発明の第4の実施形態によるGaN系半導体レーザの製造方法について説明する。
この第4の実施形態においては、第1の実施形態と同様に、レーザ構造および電極が形成された基板をバー状に劈開することにより共振器端面17、18を形成する。
次に、このようにして得られたバーを真空中で端面コーティングを行うことができる装置の処理室に導入する。ここでは、AlターゲットおよびTiターゲットを備えていてスパッタリング法による成膜が可能なECRプラズマ装置を用いるものとする。
次に、ECRプラズマ装置の処理室内を高真空、具体的には例えば1×10-4Pa以下の圧力になるまで十分に真空排気し、プラズマが発生しやすい状態にする。この高真空中でまず、好適には100℃以上、より好適には200℃以上400℃以下の温度でバーを加熱し、共振器端面17、18に付着している水分や汚染物質などを可能な限り除去しておく。次に、処理室内に例えばArガスおよびO2 ガスを導入し、Arプラズマおよび酸素プラズマを生成する。そして、Alターゲットを用いてECRプラズマスパッタリングを行うことにより、図13に示すように、共振器端面17、18上に密着層となるAlOx 膜21(ただし、0<x<1.5)を成膜する。ここでは、共振器端面17、18の両方にAlOx 膜21を成膜するが、このAlOx 膜21の成膜は、少なくともフロント側の共振器端面17に行うだけでも実用上十分な効果を得ることができる。このAlOx 膜21は、連続膜であっても、島(アイランド)状の微粒子からなるものであってもよい。このAlOx 膜21が連続膜の場合、特にxの値が小さいときは、半導体レーザの動作時にこのAlOx 膜21による光の吸収を十分に低く抑えるために、好適には5nm以下、より好適には2nm以下に選ばれる。一方、このAlOx 膜21が微粒子からなる場合には、xの値にもよるが、この微粒子の高さは例えば10nm以下に選ばれる。なお、AlOx 膜21を連続膜とするか、微粒子状とするかは、成膜条件(温度、厚さなど)により容易に制御することが可能である。
上述のようにして共振器端面17、18上にAlOx 膜21を成膜した後、第1の実施形態と同様にして、図14に示すように、フロント側の共振器端面17にはAlOx 膜21を介して端面コート膜19を形成し、リア側の共振器端面18にはAlOx 膜21を介して端面コート膜20を形成する。これらの端面コート膜19、20の形成は、好適には、ECRプラズマ装置の処理室内で上述のAlOx 膜21の成膜に続いて、真空状態のまま、ECRプラズマスパッタリングにより行う。
次に、このようにして端面コート膜19、20を形成したバーをペレタイズすることによりレーザチップを作製し、このレーザチップのパッケージングを行って、目的とするリッジ構造およびSCH構造を有するGaN系半導体レーザが製造される。
共振器端面17、18を形成した後、真空中において200℃で20分間加熱を行い、引き続いて共振器端面17、18にAlOx 膜21を密着層として形成し、その上に端面コート膜19、20を形成したGaN系半導体レーザの寿命試験を行ったところ、図8と同様な結果が得られ、通電中に動作電流の増加はほとんど生じておらず、寿命も格段に伸びていることが分かった。
また、共振器端面17、18を形成した後、真空中において200℃で20分間加熱を行い、引き続いて共振器端面17、18にAlOx 膜21を密着層として形成し、その上に端面コート膜19、20を形成したGaN系半導体レーザの60℃、30mWの条件下で140時間通電後の光出力(L)−電流(I)特性を測定したところ、図10と同様な結果が得られ、140時間通電後においても、L−I特性は通電前とほとんど変化しておらず、キンクレベルの低下、動作電流の増加、外部量子効率の低下、熱飽和レベルの低下などのいずれも生じていないことが分かった。
共振器端面17、18を形成した後、真空中において200℃で20分間加熱を行い、引き続いて共振器端面17、18にAlOx 膜21を密着層として形成し、その上に端面コート膜19、20を形成したGaN系半導体レーザの寿命試験(60℃、30mW)を行った後の共振器端面17、18の端面コート膜19、20の断面を透過型電子顕微鏡により観察したところ、端面コート膜19、20のはがれは観測されず、良好な密着性が得られていることが確認された。一方、加熱処理および共振器端面17、18へのAlOx 膜21を介した端面コート膜19、20の形成を行っていないGaN系半導体レーザについて寿命試験(60℃、30mW)を行った後に同様な観察を行ったところ、端面コート膜19、20のはがれが観測され、密着性が悪いことが確認された。
また、端面コート膜19、20のはがれが観測されなかった上記のGaN系半導体レーザについて、共振器端面17、18から端面コート膜19、20の最下層のAl2 O3 膜の部分の断面構造を透過型電子顕微鏡により観察したところ、共振器端面17、18とこのAl2 O3 膜との間には、一種の遷移層が存在することが分かった。そこで、この遷移層の組成を電子エネルギー損失分光(EELS)により調べたところ、AlとAl2 O3 との中間的な組成を有するAlOx 膜21であることが分かった。この結果から考えると、このAlOx 膜21の存在が端面コート膜19、20の密着性を向上させる役割を果たしていると考えることができる。
上記のように加熱処理および共振器端面17、18へのAlOx 膜21を介した端面コート膜19、20の形成を行ったGaN系半導体レーザにおいて端面コート膜19、20の密着性が良好な理由を説明する一つのモデルとして、次のようなものが考えられる。すなわち、図15Aに示すように、劈開により形成された共振器端面17、18にはナノ・ラフネスが存在することは、すでに述べたとおりである。この共振器端面17、18へのAlOx 膜21の形成を開始すると、図15Bに示すように、Arイオンの衝突によるスパッタ効果によりナノ・ラフネスが軽減され、あるいはほとんどなくなって共振器端面17、18の平坦性が向上するとともに、共振器端面17、18にAlとOとによりAlOx 膜21が形成される。そして、これらの共振器端面17、18の平坦性の向上およびAlOx 膜21の存在により、端面コート膜19、20の良好な密着性が得られるものと考えられる。
以上のように、この第4の実施形態によれば、共振器端面17、18を形成した後に真空中において加熱処理を行って可能な限り清浄化を行った上でこの共振器端面17、18にArガスおよびO2 ガスを用いるECRプラズマスパッタリングによりAlOx 膜21を形成し、その後に途中で大気にさらすことなくこの共振器端面17、18に端面コート膜19、20を形成しているので、これらの端面コート膜19、20の密着性の大幅な向上を図ることができる。このため、共振器端面17、18の端面劣化を効果的に抑制することができ、通電中の動作電流の増加を抑制することができ、GaN系半導体レーザの寿命の大幅な向上を図ることができる。また、GaN系半導体レーザの歩留まりの向上を図ることもできる。また、L−I特性の経時変化も効果的に抑制することができ、GaN系半導体レーザの信頼性の向上を図ることができる。さらに、動作電流の増加が少なくなることにより、通電中のRINの増加を抑えることができる。
次に、この発明の第5の実施形態によるGaN系半導体レーザの製造方法について説明する。
この第5の実施形態においては、第1の実施形態と同様に、レーザ構造および電極が形成された基板をバー状に劈開することにより共振器端面17、18を形成した後、このバーをプラズマ処理装置の処理室に移し、この処理室内で共振器端面17、18のArプラズマ処理を行う。次に、このArプラズマ処理を行ったバーをプラズマ処理装置の処理室から成膜装置の成膜室に真空搬送した後、この成膜室内で例えばスパッタリング法により共振器端面17、18にAlOx 膜21を成膜し、引き続いてその上に端面コート膜19、20を形成する。
その他のことは、第1の実施形態および第4の実施形態と同様であるので、説明を省略する。
この第5の実施形態によっても、第4の実施形態と同様な利点を得ることができる。
以上、この発明の実施形態について具体的に説明したが、この発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、この発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。
例えば、上述の第1〜第5の実施形態において挙げた数値、構造、基板、原料、プロセスなどはあくまでも例に過ぎず、必要に応じて、これらと異なる数値、構造、基板、原料、プロセスなどを用いてもよい。
具体的には、例えば、上述の第1〜第5の実施形態においては、プラズマ処理にECRプラズマ装置を用いているが、必要に応じて、これと異なるプラズマ装置を用いてもよい。また、端面コート膜19、20の形成には、ECRプラズマスパッタリング以外の方法を用いても良い。
具体的には、例えば、上述の第1〜第5の実施形態においては、レーザ構造を形成するn型層を基板上に最初に積層し、その上にp型層を積層しているが、これと積層順序を逆にし、基板上に最初にp型層を積層し、その上にn型層を積層した構造としてもよい。
また、上述の第1〜第5の実施形態においては、c面サファイア基板を用いているが、必要に応じて、SiC基板、Si基板、スピネル基板、厚いGaN層からなる基板などを用いてもよい。また、GaNバッファ層の代わりに、AlNバッファ層やAlGaNバッファ層を用いてもよい。
また、上述の第1〜第5の実施形態においては、この発明をSCH構造のGaN系半導体レーザの製造に適用した場合について説明したが、この発明は、例えば、DH(Double Heterostructure)構造のGaN系半導体レーザの製造に適用してもよいことはもちろん、GaN系発光ダイオードの製造に適用してもよく、さらにはGaN系FETやGaN系ヘテロ接合バイポーラトランジスタ(HBT)などの窒化物系III−V族化合物半導体を用いた電子走行素子に適用してもよい。
さらに、上述の第1〜第5の実施形態においては、MOCVD法により成長を行う際のキャリアガスとしてH2 ガスを用いているが、必要に応じて、他のキャリアガス、例えばH2 とN2 あるいはHe、Arガスなどとの混合ガスを用いてもよい。
1・・・c面サファイア基板、4・・・n型GaNコンタクト層、5・・・n型AlGaNクラッド層、6・・・n型GaN光導波層、7・・・活性層、8・・・アンドープInGaN劣化防止層、9・・・p型AlGaNキャップ層、10・・・p型GaN光導波層、11・・・p型AlGaNクラッド層、12・・・p型GaNコンタクト層、13・・・リッジ、14・・・絶縁膜、15・・・p側電極、16・・・n側電極、17、18・・・共振器端面、19、20・・・端面コート膜、21・・・AlOx 膜