以下、本発明による内燃機関の燃料供給制御装置の一つの実施例を、図1〜図19を参照して説明する。
まず、図1を参照して本実施例による燃料供給制御装置を適用される筒内噴射式内燃機関(エンジン)の全体構成について説明する。
エンジン10は、シリンダブロック12とピストン14によって複数個の燃焼室16を画定している。エンジン10は、たとえば、4個の燃焼室16を有する4気筒エンジンである。
エンジン10の燃焼室16に導入される吸入空気は、エアクリーナ18から取り入れられ、空気流量計(エアフロセンサ)20を通り、吸気流量を制御する電制スロットル弁22を収容されたスロットルボディ24を通ってコレクタ26に入る。電制スロットル弁22は、電動モータ28によって駆動され、モータ駆動でスロットル開度を定量的に設定される。
エアフロセンサ20は、吸気流量を表すセンサ信号をコントロールユニット200に出力する。スロットルボディ24には、電制スロットル弁22の開度(スロットル開度)を検出するスロットルセンサ30が取り付けられている。スロットルセンサ30は、電制スロットル弁22のスロットル開度を表すセンサ信号をコントロールユニット200に出力する。
コレクタ26に吸入された空気は、シリンダブロック12に接続されている吸気管32によって各燃焼室16に分配供給される。
ガソリン等の燃料は、燃料タンク50から燃料ポンプ52により一次加圧されてプレッシャレギュレータ54により一定の圧力に調圧され、高圧燃料ポンプ56によって高い圧力に二次加圧されてコモンレール58へ圧送される。コモンレール58の高圧燃料は、各燃焼室16毎に設けられている燃料噴射弁(インジェクタ)60によって燃焼室16内に直接噴射される。コモンレール58には高圧燃料の圧力を検出する燃料圧力センサ62が取り付けられている。燃料圧力センサ62は高圧燃料の圧力を表すセンサ信号をコントロールユニット200に出力する。
シリンダブロック12には各燃焼室16毎に点火プラグ64が取り付けられている。燃焼室16に噴射された燃料は、点火コイル66によって高電圧化された点火信号により点火プラグ64によって着火される。
エンジン10のクランク軸68にはクランク角センサ(以下、ポジションセンサと呼ぶ)70が取り付けられている。ポジションセンサ70は、クランク軸68の回転位置を表すセンサ信号をコントロールユニット200に出力する。また、排気弁72の開閉タイミングを可変にする機構を備えたカム軸74に取り付けられたクランク角センサ(以下、フェーズセンサと呼ぶ)76は、カム軸74の回転位置を表すセンサ信号をコントロールユニット200に出力する。なお、フェーズセンサ76は、吸気弁78側のカム軸80に取り付けられてもよい。
排気管82には三元触媒89が設けられている。三元触媒89の上流側にはリニア空燃比センサ86が取り付けられている。リニア空燃比センサ86は、排気ガス中の酸素を定量的に検出し、その検出信号をコントロールユニット200に出力する。
シリンダブロック12にはエンジン10の冷却水温度を検出する水温センサ88が取り付けられている。水温センサ88は冷却水温度を表すセンサ信号をコントロールユニット200に出力する。
図2は、高圧燃料ポンプ56を備えた筒内筒内噴射用の燃料供給システムの全体構成図を示している。
高圧燃料ポンプ56は、燃料タンク50からの燃料を加圧してコモンレール58に高圧の燃料を圧送するものであり、燃料吸入通路91、燃料吐出通路92、加圧室93を有する。加圧室93には加圧部材であるプランジャ93が往復動可能に設けられている。プランジャ93はカム軸74に設けられたカム94によって駆動される。燃料吐出通路92には高圧燃料を加圧室93に逆流させないための逆止弁95が設けられている。
燃料吸入通路91には燃料吸入を制御する電磁弁96が設けられている。電磁弁96は、ノーマルクローズ型の電磁弁であり、非通電時に閉弁し、通電時には開弁する。
燃料は、燃料タンク50から低圧ポンプ52によって汲み上げられてプレッシャレギュレータ54によって一定の圧力に調圧(一次加圧)され、高圧燃料ポンプ56の燃料吸入通路91へ送られる。一次加圧された燃料は、高圧燃料ポンプ56によって二次加圧されて燃料吐出通路92よりコモンレール58に圧送される。コモンレール58には圧力調整弁(リリーフ弁)63が取り付けられている。リリーフ弁63は、コモンレール58内の燃料圧力が所定値を超えた際に開弁し、高圧配管系の破損を防止する。
インジェクタ60はエンジン10の気筒数に合わせた個数だけコモンレール58に装着されている。インジェクタ60は、図3に示されているように、筒状のケーシング101に取り付けられた弁座部材102と、ケーシング101内に設けられたニードル弁103と、電磁コイル104と、閉弁ばね105とを有する。弁座部材102には噴孔106とシート面(弁座面)107とが形成されている。
ニードル弁103は、閉弁ばね105のばね力によってシート面107に着座する方向に付勢されており、シート面107に着座することにより噴孔106を閉じ、閉弁ばね104のばね力に抗して弁座面105より離間することによりケーシング101内燃機関に導かれている高圧燃料を噴孔106より外部へ噴射する。電磁コイル104は、駆動電流を通電されることによりニードル弁103を閉弁ばね105のばね力に抗してシート面107より引き離す方向、つまり開弁方向に駆動する。
噴孔106は燃料の流量を計量する絞り部として機能する。よつて、ニードル弁103の開弁時間に比例した量の燃料がエンジン100の燃焼室16に噴射供給される。
インジェクタ60の基本機能は、目標の燃料量を正確に供給することであり、目標燃料量は少量から多量まで幅広いレンジを要求される。これは、インジェクタ60にとって、様々な環境下において、所定のシート面開口状態を、短い時間から長い時間まで、駆動信号(駆動電流)に応じて正確に実現できることを要求されることになる。
前述のとおり、シート面107の開口状態は、ニードル弁103の運動状態によって定まり、ニードル弁103の運動状態は、電磁コイル104が発生する電磁力により定まり、電磁コイル104が発生する電磁力は電磁コイル104を流れる電流により定まる。よって、電磁コイル104の電流状態を緻密に制御することによって、正確な量の燃料を広レンジをもって供給することができる。
コントロールユニット200は、マイクロコンピュータを含む電子制御式のものであり、各種センサから得られるエンジン状態量(例えば、クランク回転角、スロットル開度、エンジン回転数、燃料圧力等)に基づいて適切な噴射燃料量、燃料圧力等を演算し、高圧燃料ポンプ56にソレノイド駆動信号を出力すると共に、インジェクタ60の駆動電流を制御する。
インジェクタ60の駆動電流波形の一例を図4に示す。図4に示されているように、駆動パルス信号Tiを所定の時間オンし、駆動オンの初期段階で、高電圧を印加し、高い目標電流値Ipを早く得るようにする。これにより、高圧燃料の圧力による閉弁方向の付勢に打ち勝ってニードル弁103を強い電磁力で開弁状態に引き上げて、シート面107(噴孔106)の完全開口状態を可能な限り早期に実現するようにしている。
シート面107が開口状態になれば、ニードル弁103を開口位置に保持すればよく、ニードル弁103に高圧燃料の圧力が閉弁方向に作用しないので、もはや、高い目標電流値Ipを維持する必要はなく、閉弁ばね105に逆らってニードル弁103を開弁保持するに必要なだけの電流値とすればよい。よって、高電圧を印加する必要はなく、低い電圧を供給し、低い電流値Ihを与えるようにする。ここで、電流値が細かく増減しているのは、目標の電流値Ihを得るために、電流供給をスイッチング制御しているためである。
このようなインジェクタ駆動の電流制御を行う電気回路の一実施例を、図5を参照して説明する。
コントロールユニット200のマイクロコンピュータ201は、エンジン10の運転状態に応じて適切な通電時間、噴射開始タイミングの演算を行い、通信線202を通じてインジェクタ駆動IC(制御回路)203に通電時間に相当する駆動パルス信号Tiを送信する。駆動パルス信号Tiを受信したインジェクタ駆動IC203は、高圧側スイッチング素子204、低圧側スイッチング素子205、接地側スイッチング素子206のオン・オフを切り替えて燃料噴射弁60の電磁コイル104へ励磁電流の供給を制御する。
高圧側スイッチング素子204は、高電圧源VHと電磁コイル104の高電圧側端子の間に接続されている。高電圧源VHの電圧は、例えば、60Vであり、車載のバッテリの電圧をDC/DCコンバータ等により昇圧することで生成される。
低圧側スイッチング素子205は、低電圧源VLと電磁コイル104の高電圧側端子の間に接続されている。低電圧源VLは、例えば、車載のバッテリ電圧に相当する12Vである。
接地側スイッチング素子206は、電磁コイル104の低電圧側端子と接地電位の間に接続されている。
インジェクタ駆動IC203は、電流検出抵抗素子207により電磁コイル104に流れている電流値Iinjを検出しており、高圧側スイッチング素子204、低圧側スイッチング素子205、接地側スイッチング素子206のオン・オフを切り替えることにより、目標とする電流値を保持して電磁コイル104に通電することができる。
図4に示されているように、駆動パルス信号Tiがオフからオンに変化し、インジェクタ駆動の初期に高電圧源VHから電流供給するときは、高圧側スイッチング素子204と接地側スイッチング素子206とをオンする。これにより電磁コイル104に、高電圧源VHからグランドに向けて電流が流れる。その挙動は、図4に示されているように、電磁コイル104のインダクタンスにより定常値へ向け遅れながら立ち上がる。
電磁コイル104を流れる電流値Iinjは、電流検出抵抗素子207の上下流に生じる電位差としてインジェクタ駆動IC203に取り入れられ、インジェクタ駆動IC203で認識することが行われる。これにより、インジェクタ駆動IC203は、電磁コイル104を流れる電流値が開弁目標電流値Ipに達したかを認識することができ、電流値Iinjが開弁目標電流値Ipに到達した時点で高圧側スイッチング素子204をオフとする。
これにより、電流値Iinjは、図4に示されているように、電磁コイル104のインダクタンスに応じて遅れながら低下し、ニードル弁103を開状態で保持するのに必要な電流値の保持目標電流値Ihに至る。
インジェクタ駆動IC203は電流値Iinjを認識することができるから、電流値Iinjが保持目標電流値Ihにまで低下した時点で低圧側スイッチング素子205をオンする。すると、電磁コイル104に低電圧源VLの電圧が印加されるから、電流値Iinjが増加に動き、保持目標電流値Ihを超える。よって低圧側スイッチング素子205をオフする。以降、この動作を繰り返す。このスイッチング動作により、平均の電流値を保持目標電流値Ihに極めて近い値に制御することができる。
駆動パルス信号Tiがオンからオフに変化した時点では、インジェクタ駆動を停止(閉弁)すべく、全てのスイッチング素子204、205、206をオフする。
以上の説明では、インジェクタ60の各駆動フェーズでの目標電流値Ip、Ihは予め定められているごとくであったが、望ましい電流状態は、インジェクタ60の状態や、周辺の環境により異なることが種々考えられ、インジェクタ上流の燃料圧力によりニードル弁103の引き上げに必要な力が異なることから、その対応として必要な電磁力が得られるように目標電流値Ip、Ihが定められてよい。かかる対応は、具体的には、図4に、符号a、b、cにより示されているように、開弁目標電流値Ipを各種条件に応じて使い分ければよい。これは、制御処理ではインジェクタ駆動IC203における駆動初期の開弁目標電流値Ipを各種条件に応じて使い分けることで実現できる。
マイクロコンピュータ201は、エンジン10を所望の状態で運転するように種々の演算判定処理をソフトウェアにより実行するものであり、インジェクタ駆動IC203と種々の通信手段によって通信可能に接続されている。マイクロコンピュータ201は、一般に、エンジン10の運転状態やその周囲の環境条件、例えば、エンジン回転数や外気温度、外気の気圧、インジェクタ上流の燃料圧力、インジェクタ下流の圧力などの状態を把握している。よって、前述のインジェクタ60の目標電流値Ip、Ihの演算は、マイクロコンピュータ201によって行うことが好適である。
スイッチング素子204、205、206のスイッチング操作は、判定処理の規模は小さいが、判定処理の速度は速く、応答時間ばらつきが小さい応答が求められる。かかる処理は、規模が大きい処理が必要なマイクロコンピュータ201には向いておらず、比較的小規模の論理回路群による制御回路、例えば、インジェクタ駆動IC203により実現するのが好適である。
このことにより、マイクロコンピュータ201が演算した目標電流値Ip、Ih、一般的には目標電流状態を、通信線202によってインジェクタ駆動IC203に伝達し、インジェクタ駆動ICは受領した目標電流状態となるように、スイッチング素子204、205、206をオン・オフ制御するように構成するのがよい。
マイクロコンピュータ201とインジェクタ駆動IC203との間の通信形態は、通信情報量、速度、情報の種類により適宜選定すればよく、電流状態の各目標電流値などはシリアル通信やCANによる通信が好適であろうし、アクチュエータであるインジェクタ60のオン・オフ駆動信号は、オン時間、オン・オフのタイミングが重要である場合にはシリアル通信やCAN通信よりHILOの信号が好適であろう。
さらに詳細な構成の一例として、図6に示されているようなコントロールユニットがある。なお、図6においては、図5に示されているスイッチング素子204、205、206を含むスイッチング回路を符号210によって総括的に示している。
マイクロコンピュータ201は、目標電流値演算部211においてインジェクタ60を駆動する目標の電流値を演算し、指令値としてSPI通信部215に引き渡す。SPI通信部215は、インジェクタ駆動IC203のSPI通信部221との通信により、前記指令値をインジェクタ駆動IC203に引き渡す。
インジェクタ駆動IC203に構成されている処理ロジック部222は、SPI通信部221から前記指令値を所定の時間を要しつつ引取り、もって当該指令値による制御を実行するように、前述のスイッチング操作によってインジェクタ60の電磁コイル104に対する通電を制御する。
マイクロコンピュータ201の噴射パルス幅演算部212は、要求燃料量に対応するインジェクタ60の噴射パルス幅を物理量として演算し、噴射パルス出力部213によりオン・オフの駆動信号として出力する。
ここで、本実施例では、エンジン10の各気筒毎に独立したオン・オフ駆動信号を出力するようにし、さらに各気筒毎に、1回の駆動中の目標電流値の切替タイミングも、駆動オン・オフ信号とは別にオン・オフ信号として出力するようにしている。かかる制御は、目標電流値の要求切替タイミングが運転条件によって無段階的に算出され、マイクロコンピュータ201がその算出場所として適している場合などに有効である。
さらに通信においては、SPI通信部221はインジェクタ駆動IC203が有するインジェクタ駆動の自己診断結果をSPI通信部215へ送信する。例えば、所定時間内に目標電流値へ実電流値を制御できないなどの診断結果である。SPI通信部215が受信した診断結果は、自己診断部214において、自己診断の最終的な故障判定結果として判定され、運転者への故障警告の通知、しかるべきフェイルセーフ処理の起動などを行う。かかるフィルセーフ処理には、例えば、高圧電源系の故障なども含まれ、その場合には高圧電圧の付加禁止というフェイルセーフを施す場合がある。具体的には、前述の噴射パルス出力部213において、高電圧を付加しないような目標電流値の切替信号指令とする。
もちろん、以上説明したような構成は一例であり、本構成のみに本発明が限定されるものではない。
以上説明したように、図5、図6に示されているインジェクタ駆動回路を用いれば、インジェクタ60をオン駆動中に高い自由度で電流状態を制御することができる。これによにより、インジェクタ60の性能、例えば、シート面107の開口状態を種々の環境条件に応じて正確に制御することが可能になり、正確な量の燃料を供給できると云った性能を確保することができる。
インジェクタ60は、基本的には電磁コイル104のオン駆動時間を指示する噴射パルス幅に対応した燃料量を噴射する機能を有する。図7は、横軸に噴射パルス幅を、縦軸に燃料噴射量をとって、インジェクタ60の特性を示したものである。特性Aにおいて、図中の左端付近の小さい噴射パルス幅のときは、ニードル弁103が変位せず、よって燃料噴射量が0となる。そこから徐々に噴射パルス幅が大きくなると、ニードル弁103が変位を開始する領域となる。しかし、変位開始から安定した開位置に到達する前に駆動を終了すると、不安定な変位状態での駆動となるため、不規則な噴射量特性を示す。よって、かかる領域で燃料供給を意図しても、正確な燃料量の供給は期し得えい。このため、かかる領域でのインジェクタ駆動は行わないようにしている。
かかる領域より大きい噴射パルス幅のときは、ニードル弁103が開位置に安定して静定する領域となり、噴射パルス幅と燃料噴射量は、所定の傾きと切片を有する比例関係の領域となる。インジェクタ60は、かかる領域を用いて駆動される。
かかる特性のインジェクタ60において、図4の各特性a、b、cの初期電流を与えたときの特性は、それぞれ図7のA、B、Cとなる。すなわち、駆動初期に与える電流値を大きくすると、より強くニードル弁103を吸引するため短い噴射パルス幅から燃料供給が可能となり、逆に駆動初期に与える電流値を小さくすると、より弱くニードル弁103を吸引するため長い噴射パルス幅により燃料供給が可能となる。
以上説明した特性から理解されるように、所定の燃料量を噴射するに必要な噴射パルス幅は、インジェクタ駆動の電流状態により異なる。よって要求する燃料噴射量を実現するには、所定の駆動電流状態を前提として噴射パルス幅を求める必要がある。
前述の制御装置では、噴射パルス幅の演算、出力と目標電流値の演算と指示はマイクロコンピュータ201により行い、インジェクタ60の駆動電流制御はインジェクタ駆動IC203により行うものであるから、インジェクタ60をオン駆動する際に、マイクロコンピュータ60が指示した目標電流値と、インジェクタ駆動IC203が制御する電流値が一致している必要がある。
インジェクタ駆動IC203に与えられる目標電流値が、インジェクタ駆動中に変化した場合の現象を、図8、図9を参照して説明する。
図8は、タイミングt1において、駆動初期の開弁目標電流値がTp1からTp2に変化した場合を示している。インジェクタ駆動IC203は、タイミングt1において、目標電流値が低くなった瞬間に、目標電流値Tp2に至ったと判定するために高電圧供給を停止し、もって電流状態は符号dにより示されている状態となる。かかる場合の燃料噴射特性は、図7のBでもCでもない。よって所定の噴射パルス幅における燃料噴射量をマイクロコンピュータ201は認識できない。
図9は、タイミングt2において、ニードル弁保持の目標電流値がTh1からTh2に変化した場合を示している。インジェクタ駆動IC203は、タイミングt2から変化した高い目標電流値Th2への制御を開始する。これにより、電流値Iinjは符号eに示す状態となる。符号eで示す連流状態は目標電流値が変化しなかった場合の挙動であり、電流状態eと比較すると、電流状態eのほうが電流値が0となるタイミングが遅く、ニードル弁103が閉位置に到達する時刻が遅くなる。これは、インジェクタ60がより長い開弁時間となることを意味し、燃料噴射量を増大することになる。この場合も、所定の噴射パルス幅における燃料噴射量をマイクロコンピュータ201は認識できない。
上述した噴射パルス幅に対応する燃料噴射量が得られない状態を回避する制御方法の一実施例を、図10を参照して説明する。本実施例の前提は、マイクロコンピュータ201からインジェクタ駆動IC203への目標電流値の指示をシリアル通信で行う場合である。図10の上段にはインジェクタ60の駆動パルス信号を示している。インジェクタ60の燃料噴射は、エンジン10のクランク軸回転に同期して所定のクランク角位相からオン駆動を開始するのが一般的である。よって本図のごとく、所定の周期でオン・オフを連続するように駆動している。
図10の下段は、シリアル通信の状態を示している。本実施例においては、マイクロコンピュータ201を通信の起動タイミング規定側としており、マイクロコンピュータ201が通信開始をインジェクタ駆動IC203に要求すると、インジェクタ駆動IC203がこれに応答して所定プロトコルでの通信を開始する。そして、規定の内容の通信を送受信終了すると、通信を終了するようにしている。
インジェクタ駆動IC203では、受信した目標電流値の情報に基づいて自己の回路内の電流制御機能部分に目標電流値をセットする。図10では、タイミングt3が以上述べたインジェクタ駆動IC203における目標電流値セット終了を示している。
この通信は、異なる2つの電子回路間での動作であるため、その所要時間が正確には規定し難い。例えば、電気的ノイズにより通信内容が本来の送受信内容から変化した場合、それを検出し、再度通信を試みる機能を有する場合が多く、かかる場合には、通信の所要時間は再度通信試行の回数によって変わる。
すなわち、マイクロコンピュータ201が目標電流値の指示を開始してからインジェクタ駆動IC203が指示に基づく制御が可能となるまでには不定の時間が必要であり、タイミングt3以降では、通信により指示した目標電流値でのインジェクタ駆動が可能である。
よってインジェクタ駆動開始、終了のタイミング、通信の開始、終了タイミングの関係から理解されるとおり、インジェクタ60の駆動開始に先立って目標の電流値を指示するに最も時間的に有利なのは、図10に示すような前回のインジェクタ駆動終了のタイミングにおける通信の開始である。
インジェクタ60の駆動周期は前述のとおりエンジン回転数依存であるから、インジェクタ60の駆動間隔はエンジン回転数が高いと短くなる。このため、目標電流の指示は、可能な限り早く行うことが望ましく、インジェクタ60の駆動終了タイミングt4を起点として行うのがよい。
最も理想的にはインジェクタ60の駆動終了と当時に通信を開始するとよいが、マイクロコンピュータ60の処理優先順位などの制約条件により、適宜インジェクタ60の駆動終了からの所定時間遅れを有しても本思想は適用できる。
図9で説明したような、ニードル弁103の保持時の目標電流値が切り替わるようなケースにおいて、燃料噴射量への影響が無視できるようなインジェクタ特性である場合には、より早いタイミングでの目標電流値指示が可能である。その場合のタイミングを図11に示す。図11における時間間隔t5の間は、ニードル弁103を開弁させる高電流値での駆動が支配的な領域である。よって時間間隔t5の間に目標電流値を切り替えると、燃料噴射量への無視できない影響が生じる。このようなことから、時間間隔tの間に目標電圧の切替を生じさせることは避けたい。
このことに対して、時間間隔t5後のタイミングt6から通信を開始するのがよい。時間間隔t5が予め十分な精度で認識できている場合には、かかる操作は、インジェクタ60の駆動開始を起点として、所定の時間経過後に通信を開始するようにするのがよい。
図10に示されている場合と、図11に示されている場合とも、広くは、目標の電流状態の指示を、インジェクタ駆動のタイミングと同期して行うことと云える。
以上の説明では、インジェクタ60を例として用いたが、高圧燃料ポンプ56の電磁弁96等のアクチュエータにおいても現象は同一であり、電気信号をオン・オフして駆動するアクチュエータ、前記アクチュエータのオン駆動中の電流状態を目標状態へと制御する制御回路、前記制御回路に目標の電流状態を指示する手段を有する自動車用のアクチュエータ制御装置において、前記目標の電流状態の指示をインジェクタ駆動のタイミングと同期して行うことにより、電流状態の変更に伴うアクチュエータの性能変化を防止することができると云える。
以上の説明では、駆動中の電流状態を一例での説明であったが、他の電流状態の例を図12に示す。インジェクタ60においても、装備する電磁コイル104の仕様、磁路とニードル弁103の関係、ストロークの大小など無数とも云える特性に対する影響因子があるため、望ましい電流パターンは様々であり、またそれぞれの電流状態が燃料噴射量特性に与える影響の大きさ、傾向も様々である。
このため、図12(a)〜(d)に図示するように、維持したい電流値、その長さ、その順序、異なる電流値に移行するときの電流の変化速度などが、まちまちの要求となる。したがって、通信開始のタイミングは、各特性に応じて最適に定めればよい。
図13は、4ストローク4気筒エンジンにおける各気筒の行程と、筒内燃料噴射の噴射実施のタイミングの一例を示しており、各気筒とも吸気行程において1回の燃料噴射Fを図示の長さで行っている。
かかる場合においては、或る気筒の噴射終了から次の気筒の噴射開始までは比較的長い時間が確保できている。
図14は、図13に示されている状態に対し、インジェクタ60の駆動パルス幅が長くなっている状態を表している。かかる現状の原因は、エンジンの吸入空気量が増加し、必要な燃料供給量が増加した、前述のインジェクタ上流の燃料圧力が低下し、同一の燃料量を供給するのに必要な噴射パルス幅が長くなったなどが考えられる。
かかる場合には、或る気筒の噴射終了から、次の気筒の噴射開始までの時間が短くなっていることが分る。よって、かかる場合には、或る気筒の噴射終了から目標電流値の指示のための通信を開始しても、インジェクタ駆動IC203による目標電流値の指示に応じた電流制御が行われない可能性がある。
図15は、1燃焼あたりに必要な燃料を圧縮行程、膨張行程それぞれに1回づつ、計2回の燃料噴射を行っている状態から、吸気行程1回の燃料噴射を行う状態へと遷移した例を示している。
かかる場合においては、まず2回の燃料噴射を行う状態において、或る気筒の噴射終了から目標電流値の指示のための通信を開始しても、インジェクタ駆動IC203による目標電流値の指示に応じた電流制御が行われない可能性が1回の燃料噴射を行う場合より高くなっていることが理解できる。さらに、2回の燃料噴射から1回の燃料噴射に移行するタイミングにおいては、或る気筒の噴射終了から目標電流値の指示のための通信を開始しても、インジェクタ駆動IC203による目標電流値の指示に応じた電流制御が行われない可能性が高くなっていることが理解できる。
また、図示していないが、エンジン回転数が高くなると、燃料噴射の間隔が小さくなり、或る気筒の噴射終了から目標電流値の指示のための通信を開始しても、インジェクタ駆動IC203による目標電流値の指示に応じた電流制御が行われない可能性が高くなることは容易に理解される。
このことに対してマイクロコンピュータ201は、かかる状態が発生するか否かを所定の確率で推定することは可能である。すなわち、図10または図11の状態を時間軸での大小関係で判定することは可能である。インジェクタ60の駆動周期はエンジン回転数から定まり、駆動パルス幅はインジェクタ60の状態および要求燃料噴射量で定まり、通信の所要時間は、前述のとおり正確には推定不可能であるが、予測最大値を予め規定することは可能であり、上の状態数はマイクロコンピュータ201により認識可能である。
したがって、マイクロコンピュータ201で、それぞれ認識した状態数を演算し、目標電流値の指示に応じた電流制御が行われるか否かを推定することは可能である。
このことを実施する制御装置の一実施例を、図16を参照して説明する。燃料噴射量演算部301は、エンジン10の種々の運転条件から燃料噴射量を演算し、燃料噴射量を表す情報を噴射信号時間演算部303に引き渡す。目標電流仕様演算部302は、インジェクタ60およびその周辺環境に基づいて目標の電流仕様、例えば高電圧系の目標電流値(開弁目標電流値Ip)と保持用低電圧系の目標電流値(保持目標電流値Ih)などを算出するものである。噴射信号時間演算部303は、燃料噴射量、目標電流仕様、インジェクタ上流の実燃圧などから、インジェクタ60の噴射信号時間、すなわち駆動パルス幅を演算する。具体的な内容は、例えば、図7に示されているような噴射量特性を、電流仕様とインジェクタ上流の実燃圧に応じて適宜選定、補正するものである。
インジェクタ駆動に関しては、このようにして求められた駆動パルス幅と、噴射開始時期演算部305で求められた燃料の噴射開始時期演算結果から、いずれの行程タイミングで、どれだけの時間、インジェクタ60を駆動するかの情報を取得し、噴射パルスセット部306において、各値に基づいて噴射パルスをセットし、インジェクタ60を駆動するオン・オフ信号(駆動パルス信号Ti)を出力する。
目標電流仕様指示部307は、目標電流仕様指示の通信機能を担うものであり、噴射パルスセット部306よりの起動タイミングトリガを受け、目標電流仕様演算部302で求められた目標電流仕様を通信によってインジェクタ駆動IC203へ送信する。
る。
噴射パルスセット部306からの起動タイミングトリガは、図10に示す噴射駆動の終了の時点t4のタイミングによるもの、あるいは図11を用いて説明した通り、インジェクタ駆動開始から所定時間t5が経過した時点t5のタイミングによるものであってよい。
切替完了可否判定部304は、上述したインジェクタ駆動および目標電流仕様指示の中の駆動パルス幅、予め規定した通信、制御回路による目標電流値の認識終了の所要時間最大値、エンジン回転数から、前述の目標電流仕様切替完了の可否を判定するものである。
この可否判定は、エンジン回転数から求めたインジェクタの駆動周期と、噴射パルス幅、通信制御回路による目標電流値認識終了の所要時間最大値の和との大小関係の判定であり、インジェクタ60の駆動周期が大であれば、切替完了は可、インジェクタ60の駆動周期が小であれば、切替完了は不可と判定する。
この処理により、目標の電流状態の指示がインジェクタ駆動IC203において実行されるタイミングが、インジェクタ60のオン駆動中であるか、さらには、例えば駆動初期の所定タイミングであるか否かを判定することができる。
切替完了は不可と判定した場合に、電流仕様の指示の通信が行われると、インジェクタ駆動IC203の電流仕様実行が間に合わない可能性があることを示しているため、本実施例では、目標電流仕様演算部302に、前回の前記判定結果を入力し、切替完了は不可と判定した場合には、目標の電流仕様の変更を禁止し、前回と同じ目標の電流仕様を出力する。
この処理により、例えば、エンジン回転数が高くなったり、噴射パルス幅が長くなったりといった、目標電流仕様切替に不利な状況となったときに、目標電流仕様の更新を禁止することができる。
よって、かかる処理により、例えば、エンジン10の吸入空気量が増加して必要な燃料供給量が増加したり、前述のインジェクタ上流の燃料圧力が低下して同一の燃料量を供給するのに必要な噴射パルス幅が長くなったり、エンジン回転数が高くなったなどの状態において、目標電流値の切替を至急実行する必要がない場合に、目標電流仕様切替による燃料噴射量の変化が生じない運転状態まで、目標電流仕様切替を行わないようにでき、目標電流仕様切替による燃料噴射量の変化を防止することができる。
次に、インジェクタ駆動中に目標の電流仕様を切り替えた場合に、そのときの燃料噴射量特性が予め予想できる場合の実施例を、図17を参照して説明する。なお、図17において、図16に対応する部分は、図16に付した符号と同一の符号を付けて、その説明を省略する。
本実施例では、インジェクタ駆動中に目標の電流仕様を切り替えた場合に、そのときの燃料噴射量特性が予め予想できるため、切替完了可否判定部304の判定結果をもって、所望の燃料噴射量を得るための駆動パルス幅を求めることができ、その処理を噴射信号時間補正演算部312が行う。
このようにして求められた修正駆動パルス幅と、噴射開始時期演算部305による噴射開始時期を、噴射パルスとして噴射パルスセット部306においてセットし、インジェクタ60を駆動するオン・オフ信号を出力する。目標電流仕様指示の通信については、図示していないが、図16と同様の手法である。
この処理により、例えば、エンジン10の吸入空気量が増加し、必要な燃料供給量が増加した、前述のインジェクタ上流の燃料圧力が低下し、同一の燃料量を供給するのに必要な噴射パルス幅が長くなったり、エンジン回転数が高くなったなどの状態において、目標の電流仕様をインジェクタ駆動の最中に切り替えた場合にも、その電流仕様に応じて目標燃料噴射量に応じた駆動パルス幅でインジェクタ60を駆動でき、目標電流仕様切替による燃料噴射量の変化を防止することができる。
図18は6気筒エンジンでの燃料噴射パターンを示している。6気筒エンジンは、単位クランク角回転あたりに作動する気筒数が4気筒エンジンより多いから、当然、燃料噴射の間隔は狭くなり、4気筒エンジンより目標電流切替指示実行が駆動パルス駆動中と重なり易くなる。
かかる場合の対応として、図19に示されているように、インジェクタ駆動ICを203A、203Bと云うように、2系統独立に設ける方法が考えられる。本図は、図5のインジェクタ駆動IC以下の1系統の部分を2系統化したものである。マイクロコンピュータ201は、個別の通信線202A、202Bをもってインジェクタ駆動IC203Aと203Bと個別に通信を行う。
インジェクタ60は、記述上、インジェクタ駆動IC203Aと203Bの各々に対して1個だけ記述されているが、実際には、6気筒エンジンの場合には、インジェクタ駆動IC203Aと203Bの各々に対して3個のインジェクタ60が接続される。そして、インジェクタ駆動IC203Aと203Bは、行程順序が互い違いとなる気筒を担当するように配置するのがよい。
これにより、一つのインジェクタ駆動IC203A、203Bにとって、インジェクタ60の駆動周期が2倍になり、目標電流切替指示実行が駆動パルス駆動中と重なり易くなることを回避できる。インジェクタ駆動IC203A、203Bは集積化してチップとし、可能な限り広い仕様で共用したいから、前述の例で、4気筒用の制御回路を作成すれば、6気筒エンジンに適用するときには、図19のような構成とし、一つのインジェクタ駆動ICが3個の気筒を担当するように配置すればよい。
これにより、1仕様の制御回路(インジェクタ駆動IC)によって、4気筒エンジンで1個制御回路適用、6気筒エンジンおよび8気筒エンジンで2個制御回路適用することにより1仕様の制御回路で4、6、8気筒エンジンに対応できる。
以上の説明では、アクチュエータがインジェクタ60である場合の例で説明したが、本発明は、オン・オフ駆動で、駆動中の電流状態を制御するアクチュエータであれば、適用が可能である。
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱することなく設計において種々の変更ができるものである。