JP5114642B2 - 酸化物超電導体およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、酸化物超電導体およびその製造方法に関し、特に、バルクマグネット、磁気軸受け、電流リード、磁気シールド、限流機などに使用されるRE系の酸化物超電導体およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、RE化合物、Ba化合物およびCu化合物を含む原料混合体を、この原料混合体の融点以上の温度で加熱溶融した後に、温度勾配を加えながら徐冷工程を行って結晶を成長させることにより、RE−Ba−Cu−O系酸化物超電導体を製造する方法として、前駆体を板状に成形し、この前駆体を溶融した後、結晶化直前の温度で種結晶を前駆体の上部に設置して、その後、温度を保持または徐冷することによって、種結晶を反映した平板状の配向結晶を作製する方法が知られている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上記の従来の方法では、例えば、径方向の支持力が強い円筒状の磁気軸受けを形成するためには、平板状の材料を、円筒を分割した円弧状に湾曲した形状に加工しなければならず、研削加工量が大きくなり、劣化や歩留の低下などの問題があった。
【0004】
また、適度なギャップを維持しながら希土類系永久磁石との磁気反発および引力を十分に発生させるためには、1T程度の捕捉磁場特性が必要とされるが、従来の材料を使用して、表面を曲率半径80mm以下に湾曲させるように加工した場合には、マイクロクラックなどの発生により、0.5T程度の捕捉磁場特性しか得られないという問題があった。
【0005】
したがって、本発明は、このような従来の問題点に鑑み、電気特性、磁気特性、機械強度に優れた湾曲した酸化物超電導体およびこのような酸化物超電導体を歩留まり良く低コストで製造できる酸化物超電導体の製造方法を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を達成するに鋭意研究した結果、RE化合物(REはYを含む1種または2種以上の希土類金属元素)とBa化合物とCu化合物とを含む原料混合体を、この原料混合体の融点より高い温度で加熱溶融した後に、徐冷して結晶を成長させることによりRE−Ba−Cu−O系の酸化物超電導体を製造する方法において、原料混合体を板状に成形して成形体を作製し、上面の高さが不均一になるように基板上に配置された介在物を介して、成形体を基板上に載置し、成形体を加熱溶融して湾曲させた後に、徐冷して結晶成長させることにより、電気特性、磁気特性、機械強度に優れた湾曲したRE−Ba−Cu−O系酸化物超電導体を歩留まり良く低コストで製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明による酸化物超電導体の製造方法は、 RE化合物(REはYを含む1種または2種以上の希土類金属元素)とBa化合物とCu化合物とを含む原料混合体を、この原料混合体の融点より高い温度で加熱溶融した後に、徐冷して結晶を成長させることによりRE−Ba−Cu−O系の酸化物超電導体を製造する方法において、原料混合体を板状に成形して成形体を作製し、上面の高さが不均一になるように基板上に配置された介在物を介して、成形体を基板上に載置し、成形体を加熱溶融して湾曲させた後に、徐冷して結晶成長させることを特徴とする。
【0008】
この酸化物超電導体の製造方法において、基板として平板状の基板または上面が湾曲した形状の基板を使用することができる。平板状の基板を使用する場合には、介在物としてRE化合物とBa化合物とCu化合物のうちの1種以上の化合物を含む敷き板を使用し、上面が湾曲した形状の基板を使用する場合には、介在物としてRE化合物とBa化合物とCu化合物のうちの1種以上の化合物を含む敷き板または粉末を使用するのが好ましい。
【0009】
また、酸化物超電導体の製造方法において、成形体を加熱溶融して湾曲させた後に、成形体に種結晶を設置して、その後、徐冷して結晶成長させるようにしてもよい。あるいは、成形体を加熱溶融して湾曲させた後に、成形体の上部が低温側になるように成形体の上下に1乃至30℃/cmの温度勾配を加えた後、種結晶を設置して、その後、成形体を徐冷して結晶成長させるようにしてもよい。
【0010】
さらに、この酸化物超電導体の製造方法において、成形体を加熱溶融する温度を、成形体がRE2+rBa1+s(Cu1−dAgd)O5−y相およびRE4+rBa2+s( Cu1−dAgd )2O10−y相(−0.2≦r≦0.2、−0.2≦s≦0.2、0≦d≦0.05、−0.2≦y≦0.2)の少なくとも一方の相と液相になる温度にするのが好ましい。
【0011】
また、本発明による酸化物超電導体は、RE1+pBa2+q(Cu1−bAgb)3O7−x(REは1種または2種以上の希土類金属元素、−0.2≦p≦0.2、−0.2≦q≦0.2、0≦b≦0.05、−0.2≦x≦0.6)相中に、RE2+rBa1+s(Cu1−dAgd)O5−y相およびRE4+rBa2+s( Cu1−dAgd )2O10−y相(−0.2≦r≦0.2、−0.2≦s≦0.2、0≦d≦0.05、−0.2≦y≦0.2)の少なくとも一方の相が微細に分散した酸化物超電導体において、この酸化物超電導体の表面の少なくとも一部が80mm以下の曲率半径になるように湾曲し、且つ1T以上の捕捉磁場特性を有することを特徴とする。
【0012】
この酸化物超電導体において、酸化物超電導体が、8wt%乃至60wt%のAgを含むのが好ましい。また、酸化物超電導体が、Pt、Pd、Ru、Rh、Ir、Os、Re、Ceの金属およびこれらの金属の化合物から選ばれる1種以上を0.05wt%乃至5wt%(化合物の場合はその金属のみの元素重量で示す)含むのが好ましい。さらに、REがNd、Sm、Gd、Dyから選ばれる1種または2種以上の元素を少なくとも50%以上含むのが好ましい。
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明による酸化物超電導体の製造方法の実施の形態では、RE化合物(REはYを含む1種または2種以上の希土類金属元素)とBa化合物とCu化合物とを含む原料混合体を、この原料混合体の融点より高い温度で加熱溶融した後に、徐冷して結晶を成長させることによりRE−Ba−Cu−O系の酸化物超電導体を製造する方法において、原料混合体を板状に成形して成形体を作製し、RE化合物とBa化合物とCu化合物のうちの1種以上の化合物を含み且つ上面の高さが不均一になるように基板上に配置された敷き板を介して、成形体を基板上に載置し、この成形体がRE2+rBa1+s(Cu1−dAgd)O5−y相およびRE4+rBa2+s( Cu1−dAgd )2O10−y相(−0.2≦r≦0.2、−0.2≦s≦0.2、0≦d≦0.05、−0.2≦y≦0.2)の少なくとも一方の相と液相になる温度Tm以上(好ましくはTm+50℃からTm+200℃の範囲)で成形体を溶融し、敷き板の段差に沿って成形体を湾曲させ、その後、これらの相の包晶反応によりRE1+pBa2+q(Cu1−bAgb)3O7−x相が晶出する温度Tmの直前(好ましくはTm+20℃からTm+0℃)まで徐冷し、成形体の上部が低温側になるように成形体の上下に温度勾配を加えた後、成形体の上部に種結晶を設置して、その後、RE1+pBa2+q(Cu1−bAgb)3O7−x相が晶出する温度よりやや低い温度(好ましくはTm−2℃からTm−20℃)まで降温して温度保持することにより、湾曲した成形体の上部を水平方向に結晶成長させ、その後、徐冷することにより成形体を上から下に結晶成長させる。
【0014】
敷き板としてRE化合物とBa化合物とCu化合物のうちの1種以上の化合物を含む敷き板を使用すると、基板側から成形体に不純物元素が侵入したり、成形体の組成ズレを抑制することができる。
【0015】
成形体を載置する基板として、所定の曲率で湾曲した基板を使用すると、製造する酸化物超電導体の曲率を精密に制御することができる。この場合、敷き板の代わりに、RE化合物とBa化合物とCu化合物のうちの1種以上の化合物を含む粉末を使用することもできる。また、この基板として、アルミナ、マグネシア、ジルコニアなどのセラミックス基板や、成形体よりも融点が高い金属からなる基板などを使用することができる。また、RE化合物とBa化合物とCu化合物を原料とし、必要に応じてAgやPtを添加して所定の組成に調整した原料混合体を溶融結晶化して作製した材料を使用すれば、基板からの不純物の侵入を抑制するとともに、湾曲した表面における電磁気特性を高めることができる。
【0016】
また、上面が凹状の材料の上面の中心に種結晶を設置し、所定の過冷却度および温度勾配を与えて温度保持を行うことにより、上面が凹状の材料においても結晶性の良い材料を得ることができる。
【0017】
また、成形体がRE2+rBa1+s(Cu1−dAgd)O5−y相およびRE4+rBa2+s( Cu1−dAgd )2O10−y相の少なくとも一方の相と液相になる温度Tm(溶融状態から降温した場合のRE1+pBa2+q(Cu1−bAgb)3O7−x相の結晶化温度と同じ)は、各希土類元素を使用した場合には、図1に示すような温度であり、さらにAgを添加した場合には、各温度を基準にして、Agの添加量とともに図2に示すように変化する。なお、希土類元素を複数混合した場合には、図1に示す温度に各希土類元素のモル比率を掛けて加えた値になる。
【0018】
このような手法によると、研削などの加工による劣化や歩留まりの低下を生じることなく、電磁気特性に優れ且つ所定の曲率を有する湾曲した酸化物超電導体を製造することが可能となる。また、表面の一部が80mm以下の曲率半径になるように湾曲した場合でも、その曲率を有する表面における最大捕捉磁束密度特性が1T以上の酸化物超電導体を得ることが可能になる。
【0019】
また、RE−Ba−Cu−O系の酸化物超電導体において、REがNd、Sm、Gd、Dyから選ばれる1種または2種以上の元素を少なくとも50%以上含む場合や、RE1+pBa2+q(Cu1−bAgb)3O7−x相中に分散するRE2+rBa1+s(Cu1−dAgd)O5−y相およびRE4+rBa2+s( Cu1−dAgd )2O10−y相のRE2+rBa1+s(Cu1−dAgd)O5−y相およびRE4+rBa2+s( Cu1−dAgd )2O10−y相に対するモル比率が1:0.3より少ない場合には、高磁場における臨界電流密度特性を高め、厚さ方向の結晶性も均一にすることができる。
【0020】
さらに、5wt%以上のAgを含有させると、AgがRE1+pBa2+q(Cu1−bAgb)3O7−x相中に微細に分散して機械強度が向上するとともに、上下方向の組成ズレが抑制されて、より大型で結晶欠陥の少ない酸化物超電導体を製造することができる。特に、Agの添加量が15wt%±5wt%程度の場合には、結晶成長温度が安定し、最も高特性の材料を得ることができる。一方、60wt%以上のAgを含むようにすると、超電導体の体積分率が低すぎて、臨界電流密度などの特性が低くなる。
【0021】
さらに、上記の酸化物超電導体が、Pt、Pd、Ru、Rh、Ir、Os、Re、Ceの金属およびこれらの金属の化合物から選ばれる1種以上を0.05〜5wt%(化合物の場合はその金属のみの元素重量で示す)含むようにすると、RE2+rBa1+s(Cu1−dAgd)O5−y相やRE4+rBa2+s( Cu1−dAgd )2O10−y相を微細にする効果がある。
【0022】
【実施例】
以下、実施例に基づいて本発明による酸化物超電導体およびその製造方法について詳細に説明する。
【0023】
[実施例1]
Sm2O3、BaCO3、CuOの各原料粉末をSm:Ba:Cu=1.4:2.2:3.2になるように秤量した後、BaCO3とCuOのみを880℃で30時間焼成して、BaCuO2とCuOの仮焼粉を得た(モル比でBaCuO2:CuO=2.2:1.0)。次に、この仮焼粉に、予め秤量しておいたSm2O3とPt粉末(平均粒径0.01μm)およびAg2O粉末(平均粒径13.8μm)を、Pt含有量が0.42wt%、Ag含有量が15wt%になるように加えて混合して、大気中900℃で10時間焼成した。この仮焼粉をライカイ機で粉砕して、平均粒径約2μmとした。
【0024】
得られた仮焼粉の組成分析を行ったところ、図3に示すような値であった。また、得られた仮焼粉を粉末X線回折により分析したところ、Sm1+pBa2+q(Cu1−bAgb)3O7−x相およびSm2+rBa1+s(Cu1−dAgd)O5−r相が確認された。ここで、Tmは、図1および図2から計算すると、1060−40=1020℃である。
【0025】
このようにして作製された合成粉を縦60mm、横39mm、厚さ25mmの平板状にプレス成形して成形体11を作製した。次に、図4に示すように、アルミナ基板12上に、成形体11と同一組成の原料を使用して後述する成形体11の溶融結晶化工程と同様の工程により予め作製しておいた縦39mm、横13mm、厚さ2mm程度の複数のペレット片13を、所定の間隔だけ離間して略平行に且つ略同じ高さになるように積み上げるとともに、これらの間の略中間に略平行に且つ高さが低くなるように敷いた。次いで、両側に積み上げられたペレット片13の上に成形体11を載置して、成形体11の底面の長手方向(縦方向)両側の部分が両側に積み上げられた略同じ高さのペレット片13に支持されるようにし、2ゾーン型の炉体内に設置して以下の工程を行った。
【0026】
まず、室温から70時間で1100℃まで昇温させ、この温度で20分間保持して、Sm2+rBa1+s(Cu1−dAgd)O5−y相と液相が存在する半溶融状態にすることにより、成形体11の長手方向の略中央部分が高さの低いペレット片13に支持されるようにして、成形体11の上面が凹状で下面が凸状になるように成形体11を湾曲させた。その後、成形体11の上部が低温側になるように成形体11の上下に10℃/cmの温度勾配を加えて、成形体11の上部の温度が1025℃になるまで0.4℃/minで降温させた。次いで、予め溶融法で作製しておいたPtを0.5wt%含み且つAgを含まない縦横2mm、厚さ1mmのNd1.8Ba2.4Cu3.4Ox組成の種結晶14(図5を参照)を、成長方向がc軸と平行になるように、上面が凹状になるように湾曲した成形体11の上面の中心に接触させ、1025℃から1℃/hrの速度で1015℃まで降温させた。この温度で60時間保持した後、945℃まで70時間かけて徐冷し、その後、上下の温度勾配が0℃/cmになるように成形体11の下部を20時間で945℃になるように冷却し、その後、室温まで100時間かけて徐冷して結晶化を行った。
【0027】
このようにして結晶化した材料をガス置換可能な別の炉の中に設置し、以下のようにアニール処理を行った。まず、ロータリーポンプで0.1Torr(約13.3Pa)まで炉内を排気した後、炉内に酸素ガスを流し込んで、酸素分圧が99%以上である大気圧の雰囲気にした。その後も0.5L/minの流量で酸素ガスを炉内に流しながら、室温から450℃まで10時間で昇温させ、450℃から250℃まで200時間かけて徐冷し、250℃から室温まで10時間で降温させた。その後、同様のアニール処理をもう一回行った。
【0028】
このアニール処理の後、図5に示すように上面が凹状で下面が凸状になるように湾曲した成形体11は、焼き縮みのため、縦50mm、横33mm、厚さ20mmになり、上面の曲率半径は約60mm、下面の曲率半径は約80mmであった。この成形体11を上下方向の中心付近で切断して断面をEPMAで観察したところ、Sm1+pBa2+q(Cu1−bAgb)3O7−x相中に0.1〜30μm程度のSm2+rBa1+s(Cu1−dAgd)O5−y相が微細に分散していた。ここで、p、q、r、s、yはそれぞれ−0.2〜0.2の値であり、xは−0.2〜0.6の値であった。また、b、dは0.0〜0.05の値であり、平均的には0.008程度であった。さらに、試料全体にわたって0.1〜100μm程度のAgが微細に分散していた。また、粒径5〜200μm程度の空孔が分散して存在していた。また、材料全体が種結晶を反映して、図5に示すように、中心の厚さ方向がc軸と平行になるように均一に配向し、隣接する結晶間の方位のずれが3°以下であり、実質的に単結晶状の超電導材料が得られた。
【0029】
次に、中心の厚さ方向と平行に外部磁場2T(テスラ)を加えながら室温から温度77Kまで冷却した後、磁場を取り去って超電導体中に捕捉される磁束密度を測定した。この測定は、ホール素子をXYステージに取り付けて超電導体表面から約1mmの距離で超電導体の凹状の表面に沿って移動させ、中心の厚さ方向に対して垂直な成分の磁束密度分布を測定することによって行った。その結果、図6に示すように、均一な磁場分布を示し、最大捕捉磁場は1.2Tであり、高い捕捉磁束密度特性を示した。
【0030】
次に、この材料の中心付近から2.5×2.5×2mmの試料を切り出して、SQUID磁束計により磁化率を測定した。得られた磁化率曲線よりBeanモデルを適用して、温度77Kにおける臨界電流密度Jcを見積もったところ、図7に示すように高い臨界電流密度を示した。
【0031】
[実施例2]
Gd2O3、BaCO3、CuOの各原料粉末をGd:Ba:Cu=1:2:3になるように秤量した後、混合し、920℃で30時間焼成した。次いで、この焼成した粉をポットミルを使用して平均粒径3μmに粉砕し、再び930℃で30時間焼成した後、ライカイ機により平均粒径10μmに粉砕して、Gd1Ba2Cu3O7−xの粉末を作製した。また、上記の各原料粉末をGd:Ba:Cu=2:1:1になるように秤量した後、混合し、890℃で20時間焼成した。次いで、この焼成した粉をポットミルを使用して平均粒径0.7μmに粉砕し、再び890℃で20時間焼成した後、この焼成した粉をポットミルを使用して平均粒径0.5μmに粉砕して、Gd2BaCuO5の粉末を作製した。次に、これらの仮焼粉をGd1Ba2Cu3O7−x:Gd2BaCuO5=1:0.4になるように秤量し、さらにPt粉末(平均粒径0.01μm)およびAg2O粉末(平均粒径13.8μm)をPt含有量が0.42wt%、Ag含有量が15wt%になるように加えて混合した。ここで、Tmは、図1および図2から計算すると、1030−40=990℃である。
【0032】
このようにして作製された合成粉を縦60mm、横39mm、厚さ25mmの平板状にプレス成形して成形体21を作製した。次に、図8に示すように、縦60mm、横40mm、厚さ15mmのアルミナブロックの上面を長手方向(縦方向)に湾曲(曲率半径60mm)させるように研削して作製した上面が凹状のアルミナ基板22上に、成形体21と同一組成の原料を使用して後述する成形体21の溶融結晶化工程と同様の工程により予め作製しておいた縦39mm、横6mm、厚さ2mm程度の複数のペレット片23を、上面が凹状のアルミナ基板22上に敷き詰め、その上に成形体21を載置して、成形体21の底面の長手方向(縦方向)両側の部分がペレット片23に支持されるようにし、2ゾーン型の炉体内に設置して以下の工程を行った。
【0033】
まず、室温から70時間で1100℃まで昇温させ、この温度で20分間保持して半溶融状態にし、ペレット片23を介してアルミナ基板22の凹状の表面に沿って成形体21の上面が凹状で下面が凸状になるように成形体21を湾曲させた。次に、成形体21の上部が低温側になるように成形体21の上下に10℃/cmの温度勾配を加えて、成形体21の上部の温度が995℃になるまで0.4℃/minで降温させた。次いで、予め溶融法で作製しておいたPtを0.5wt%含み且つAgを含まない縦横2mm、厚さ1mmのNd1.8Ba2.4Cu3.4Ox組成の(図示しない)種結晶を、成長方向がc軸と平行になるように成形体21の上面の中心に接触させ、995℃から1℃/hrの速度で985℃まで降温させた。この温度で80時間保持した後、915℃まで70時間かけて徐冷し、その後、上下の温度勾配が0℃/cmになるように成形体21の下部を20時間で915℃になるように冷却し、その後、室温まで100時間かけて徐冷して結晶化を行った。
【0034】
このようにして結晶化した材料をガス置換可能な別の炉の中に設置し、以下のようにアニール処理を行った。まず、ロータリーポンプで0.1Torr(約13.3Pa)まで炉内を排気した後、炉内に酸素ガスを流し込んで、酸素分圧が99%以上である大気圧の雰囲気にした。その後も0.5L/minの流量で酸素ガスを炉内に流しながら、室温から450℃まで10時間で昇温させ、450℃から250℃まで200時間かけて徐冷し、250℃から室温まで10時間で降温させた。その後、同様のアニール処理をもう一回行った。
【0035】
このアニール処理の後、上面が凹状で下面が凸状になるように湾曲した成形体21は、焼き縮みのため、縦50mm、横33mm、厚さ20mmになり、上面の曲率半径は約60mm、下面の曲率半径は約80mmであった。この成形体21を上下方向の中心付近で切断して断面をEPMAで観察したところ、Gd1+pBa2+q(Cu1−bAgb)3O7−x相中に0.1〜30μm程度のGd2+rBa1+s(Cu1−dAgd)O5−y相が微細に分散していた。ここで、p、q、r、s、yはそれぞれ−0.2〜0.2の値であり、xは−0.2〜0.6の値であった。また、b、dは0.0〜0.05の値であり、平均的には0.008程度であった。さらに、試料全体にわたって0.1〜100μm程度のAgが微細に分散していた。また、粒径5〜200μm程度の空孔が分散して存在していた。また、材料全体が種結晶を反映して中心の厚さ方向がc軸と平行になるように均一に配向し、隣接する結晶間の方位のずれが3°以下であり、実質的に単結晶状の超電導材料が得られた。
【0036】
次に、中心の厚さ方向に平行に外部磁場2Tを加えながら室温から温度77Kまで冷却した後、磁場を取り去って超電導体中に捕捉される磁束密度を測定した。この測定は、ホール素子をXYステージに取り付けて超電導体表面から約1mmの距離で超電導体の凹状の表面に沿って移動させ、中心の厚さ方向に対して垂直な成分の磁束密度分布を測定することによって行った。その結果、均一な磁場分布を示し、最大捕捉磁場は1.2Tであり、高い捕捉磁束密度特性を示した。
【0037】
次に、この材料の中心付近から2.5×2.5×2mmの試料を切り出して、振動試料型磁力計により磁化率を測定した。得られた磁化率曲線よりBeanモデルを適用して、温度77Kにおける臨界電流密度Jcを見積もったところ、図9に示すように高い臨界電流密度を示した。
【0038】
[実施例3]
実施例1と同様にして作製した合成粉を縦60mm、横39mm、厚さ25mmの平板状にプレス成形して成形体31を作製した。次に、図10に示すように、アルミナ基板32上に、成形体11と同一組成の原料を使用して実施例1と同様の溶融結晶化工程により予め作製しておいた縦39mm、横13mm、厚さ2mm程度の複数のペレット片33を、所定の高さに積み上げるとともに、この積み上げたペレット片33の両側に所定の間隔だけ離間して略平行に且つ中央に積み上げたペレット片33よりも低くなるように敷いた。次いで、中央に積み上げられたペレット片33の上に成形体31を載置して、実施例1と同様に溶融結晶化およびアニール処理を行った。
【0039】
このアニール処理の後、図11に示すように上面が凸状で下面が凹状になるように湾曲した成形体31は、焼き縮みのため、縦50mm、横33mm、厚さ20mmになり、上面の曲率半径は約80mm、下面の曲率半径は約60mmであった。この成形体31を上下方向の中心付近で切断して断面をEPMAで観察したところ、実施例1とほぼ同様の組織であった。また、材料全体が種結晶を反映して中心の厚さ方向がc軸と平行になるように均一に配向し、隣接する結晶間の方位のずれが3°以下であり、実質的に単結晶状の超電導材料が得られた。
【0040】
次に、中心の厚さ方向に平行に外部磁場2Tを加えながら室温から温度77Kまで冷却した後、磁場を取り去って超電導体中に捕捉される磁束密度を測定した。この測定は、ホール素子をXYステージに取り付けて超電導体表面から約1mmの距離で超電導体の凸状の表面に沿って移動させ、中心の厚さ方向に対して垂直な成分の磁束密度分布を測定することによって行った。その結果、均一な磁場分布を示し、最大捕捉磁場は1.2Tであり、高い捕捉磁束密度特性を示した。
【0041】
次に、この材料の中心付近から2.5×2.5×2mmの試料を切り出して、SQUID磁束計により磁化率を測定した。得られた磁化率曲線よりBeanモデルを適用して、温度77Kにおける臨界電流密度Jcを見積もったところ、実施例1と同程度に高い臨界電流密度を示した。
【0042】
[比較例]
実施例1と同様の方法により作製された合成粉を縦60mm、横39mm、厚さ33mmの平板状にプレス成形して成形体を作製した。次に、アルミナ基板上に、この成形体と同一組成の原料を使用して実施例1と同様の溶融結晶化工程により予め作製しておいた縦39mm、横13mm、厚さ2mm程度の複数のペレット片を平らに敷き詰めて、その上に成形体を載置し、2ゾーン型の炉体内に設置して以下の工程を行った。
【0043】
まず、室温から70時間で1100℃まで昇温させ、この温度で20分間保持してSm2+rBa1+s(Cu1−dAgd)O5−y相と液相が存在する半溶融状態にした。その後、成形体の上部が低温側になるように成形体の上下に10℃/cmの温度勾配を加えて、成形体の上部の温度が1025℃になるまで0.4℃/minで降温させた。次いで、予め溶融法で作製しておいたPtを0.5wt%含み且つAgを含まない縦横2mm、厚さ1mmのNd1.8Ba2.4Cu3.4Ox組成の種結晶を、成長方向がc軸と平行になるように成形体の上面の中心に接触させ、1025℃から1℃/hrの速度で1015℃まで降温させた。この温度で60時間保持した後、945℃まで70時間かけて徐冷し、その後、上下の温度勾配が0℃/cmになるように成形体の下部を20時間で945℃になるように冷却し、その後、室温まで100時間かけて徐冷して結晶化を行った。
【0044】
このようにして結晶化した材料をガス置換可能な別の炉の中に設置し、以下のようにアニール処理を行った。まず、ロータリーポンプで0.1Torr(約13.3Pa)まで炉内を排気した後、炉内に酸素ガスを流し込んで、酸素分圧が99%以上である大気圧の雰囲気にした。その後も0.5L/minの流量で酸素ガスを炉内に流しながら、室温から450℃まで10時間で昇温させ、450℃から250℃まで200時間かけて徐冷し、250℃から室温まで10時間で降温させた。その後、同様のアニール処理をもう一回行った。
【0045】
このアニール処理の後、成形体は焼き縮みのため、縦50mm、横33mm、厚さ26mmになっていた。
【0046】
この成形体を上下方向の中心付近で切断して断面をEPMAで観察したところ、実施例1とほぼ同様の組織であった。また、材料全体が種結晶を反映して厚さ方向がc軸と平行になるように均一に配向し、隣接する結晶間の方位のずれが3°以下であり、実質的に単結晶状の超電導材料が得られた。
【0047】
次に、この平板上の材料を研削加工により縦50mm、横33mm、厚さ20mm、上面の曲率半径を60mm、下面の曲率半径を80mmになるように加工して、実施例1と同様に超電導体中に捕捉される磁束密度を測定した。その結果、研削加工による劣化のため、最大捕捉磁場が0.5Tと低くなっていた。
【0048】
【発明の効果】
以上詳述したように、本発明によれば、所定の形状に段差を設けて配置された介在物を介して基板上に成形体を載置し、あるいは介在物を介して所定の形状に湾曲した基板上に成形体を載置し、成形体を溶融結晶化させることにより、研削加工などによる歩留まりの低下や劣化を生じることなく、電気特性、磁気特性、機械強度に優れた湾曲した酸化物超電導体を低コストで製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】REとして各希土類金属元素を使用した場合のRE1+pBa2+q(Cu1−bAgb)3O7−x相の融点(結晶化温度)Tmを示す図。
【図2】Agの添加量とRE1+pBa2+q(Cu1−bAgb)3O7−x相の融点(結晶化温度)Tmの補正値との関係を示す図。
【図3】実施例1で製造した成形体の組成を示す図。
【図4】実施例1の成形体を載置する手法を示す斜視図。
【図5】実施例1の結晶化後の成形体を示す斜視図。
【図6】実施例1で製造した酸化物超電導体の捕捉磁束密度分布特性を示す図。
【図7】実施例1で製造した酸化物超電導体の臨界電流密度の磁場依存性を示す図。
【図8】実施例2の成形体を載置する手法を示す斜視図。
【図9】実施例2で製造した酸化物超電導体の臨界電流密度の磁場依存性を示す図。
【図10】実施例3の成形体を載置する手法を示す斜視図。
【図11】実施例3の結晶化後の成形体を示す斜視図。
【符号の説明】
11、21、31 成形体
12、22、32 アルミナ基板
13、23、33 ペレット片
14、34 種結晶
15、35 結晶のab面に沿った面を示す線
Claims (4)
- RE1+pBa2+q(Cu1−bAgb)3O7−x(REは1種または2種以上の希土類金属元素、−0.2≦p≦0.2、−0.2≦q≦0.2、0≦b≦0.05、−0.2≦x≦0.6)相中に、RE2+rBa1+s(Cu1−dAgd)O5−y相(−0.2≦r≦0.2、−0.2≦s≦0.2、0≦d≦0.05、−0.2≦y≦0.2)が微細に分散した酸化物超電導体において、この酸化物超電導体の上面および下面の一方が凸状で他方が凹状になり、その曲率半径が80mm以下になるように湾曲し、且つ1T以上の捕捉磁場特性を有することを特徴とする酸化物超電導体。
- 前記酸化物超電導体が、8wt%乃至60wt%のAgを含むことを特徴とする、請求項1に記載の酸化物超電導体。
- 前記酸化物超電導体が、Pt、Pd、Ru、Rh、Ir、Os、Re、Ceの金属およびこれらの金属の化合物から選ばれる1種以上を0.05wt%乃至5wt%(化合物の場合はその金属のみの元素重量で示す)含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の酸化物超電導体。
- 前記REがNd、Sm、Gd、Dyから選ばれる1種または2種以上の元素を少なくとも50%以上含むことを特徴とする、請求項1乃至3のいずれかに記載の酸化物超電導体。
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