JP5109986B2 - 溶融紡糸方法 - Google Patents

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Description

本発明は、熱可塑性ポリマーに樹状ポリエステルを添加する溶融紡糸方法に関するものである。
ポリエステルやポリアミドなどの熱可塑性ポリマーを用いた繊維は幅広く利用されており、産業上の価値は極めて高い。そして、これらの製造方法は、ポリマーを融解した後、細い口金孔から押し出す溶融紡糸が採用されている。この時、溶融紡糸における紡糸温度はポリマーの融点や溶融粘度により決定される。しかしながら、融点が同じであっても高分子量ポリマーは低分子量ポリマーと比較して、高い溶融粘度を有する。このため、高分子量ポリマーの紡糸の際には、低分子量ポリマーと同等の紡糸性を確保するために、低分子量ポリマーの場合と比較して紡糸温度を10〜20℃高く設定し、溶融粘度を低下させる必要がある。しかしながら、耐熱性に関しては、分子構造に依存する部分が大きく、分子量を上げても融点が変わらないのと同様に耐熱性は変化しない。このため、前記のように紡糸温度を高温にすると、ポリマー熱分解が促進され、高分子量ポリマーを用いても、口金から吐出されるポリマーは大きく分子量が低下してしまい、溶融紡糸機に投入するポリマーを高分子量化した効果が大きく損なわれることとなる。
また、耐熱性が低いポリマーなどは、紡糸温度を精密に管理しても、熱分解により物性が低下したり、分解ガスの発生によって口金が汚れたりして、生産性が大きく低下する場合があった。このため、高分子量ポリマーや耐熱性の低いポリマーを紡糸する場合に於いてはポリマーの流動性を向上させて、紡糸温度を低下させる技術が望まれていた。
紡糸温度の低下を可能とする手段としては、ひとつに減粘剤を添加することによって、紡糸温度を上げずに溶融粘度を低下させることが考えられる。しかしながら、一般に減粘剤と呼ばれるものは低分子量物を添加することによりポリマーブレンド全体の溶融粘度を低下させるものである。この減粘剤自体の耐熱性が低いものである場合が多く、溶融混練中などに揮発することにより減粘効果が大きく低減するものであったり、減粘剤の分解物が繊維の特性を大きく損なわせたりすること等から現在まで溶融紡糸に適用したもので成功した例は少ない。
一方、樹状ポリマーを熱可塑性ポリマーに添加して、ポリマーの流動性を向上することが提案されている(特許文献1)。樹状ポリマーは分岐モノマーを介して、低分子量の主鎖を連結することで超分岐構造を有し、その樹状ポリマー全体では高分子量体となるため、低粘度成分添加の減粘効果を有しつつも、耐熱性が向上することとなる。特許文献1では、熱可塑性ポリマーと非反応性の樹状ポリマーを添加することで、流動性が向上することが開示されている。しなしながら、特許文献1に用いられる樹状ポリマーの主鎖部分は脂肪族系ポリマーで構成されており、脂肪族系ポリマーはその分子構造から、溶融下においての主鎖部の柔軟性が高く、樹状ポリマーと熱可塑性ポリマーが非反応性であるとしても、樹状ポリマー主鎖部分と熱可塑性ポリマーの主鎖部分で分子鎖どうしの絡み合いが多く発生してしまう場合があった。これは、樹脂の押出加工(射出成形等)では変形量が小さく、さらに剪断変形が支配的であるため大きな問題とはならないが、紡糸などの大きな伸長変形を伴う場合には深刻な問題を引き起こしてしまう場合があった。すなわち、分子鎖の絡み合いの程度が大きくなることで、熱可塑性ポリマーの分子鎖がスムーズな伸長変形することを阻害され、紡糸性を著しく損ない、場合よってはポリマーブレンドの弾性的性質が強くなり過ぎ、口金直下での吐出ポリマーの膨れ(バラス)が大きくなったり、ポリマーが糸として繋がらない五月雨現象が発生したりして、紡糸不能に陥る場合があった。
前記した樹状ポリマーとの絡み合いを抑制する方法としては、樹状ポリマーの主鎖に剛直成分を組み込み溶融下での柔軟性を低下させ、熱可塑性ポリマーとの主鎖との絡み合いを抑制する方法が提案されている(特許文献2)。しかしながら、特許文献2に記載される樹状ポリマーは分子末端がカルボン酸基であり、分子末端構造について考慮されていないことが課題として残る。このカルボン酸基は、溶融下においては自己触媒反応により、熱可塑性ポリマーの加水分解を起こし、添加した熱可塑性ポリマーの分子量低下を招く場合があった。この現象は溶融滞留時間の短い樹脂の押出加工(射出成形等)では大きな問題とならないが、複雑に入り組んだ配管やパック口金構造を有する溶融紡糸機では、滞留時間が長いものとなったり、異常滞留部ができやすいため、熱可塑性ポリマーの分子量低下が顕著化し、紡糸性や繊維の力学物性に大きな影響を与える場合があった。
特表2005−513186号公報(第1、2頁) 特開2008−69339号公報(第1頁)
本発明は、熱可塑性ポリマーに樹状ポリエステルを添加する溶融紡糸方法に関するものであり、末端カルボン酸基を処理した樹状ポリマーを添加することにより熱可塑性ポリマーの流動性を向上することができるため、熱可塑性ポリマーの融点+30℃以下と未添加の場合と比較して紡糸温度の低下を可能とし、さらに高分子量ポリマーや耐熱性の低いポリマーを溶融した際の分子量低下を大きく抑制し、優れた特性を有した繊維を長時間安定して生産可能とする繊維の製造方法を提供するものである。
前記した従来技術の課題について鋭意検討した結果、分子末端を制御した樹状ポリエステルを熱可塑性ポリマーに溶融混練することにより解決されることを見出し、本発明に到達したものである。
すなわち、本発明は、
(1)芳香族オキシカルボニル単位(P)、芳香族および/または脂肪族ジオキシ単位(Q)、および、芳香族ジカルボニル単位(R)から選ばれる少なくとも1種の構造単位と3官能の有機残基(B)から構成され、かつ前記P、Q、R、およびBの含有量の合計に対してBの含有量が7.5〜50モル%であり、末端のカルボン酸基量が1×10−4当量/g以下である樹状ポリエステルを、熱可塑性ポリマーへ含有率0.1〜10wt%となるようにブレンドし、次いで熱可塑性ポリマーの融点+30℃以下の紡糸温度で溶融紡糸することを特徴とする溶融紡糸方法、
(2)樹状ポリエステルがカルボン酸反応性単官能化合物残基を含有することを特徴とする(1)に記載の溶融紡糸方法、
(3)カルボン酸反応性単官能化合物が、オルトエステル、オキサゾリン、エポキシドから選ばれる少なくとも1種の化合物である(2)に記載の溶融紡糸方法。
(4)溶融紡糸するに際して、単孔吐出量が5.0×10−3〜5.0g/分であることを特徴とする(1)〜(3)いずれかに記載の溶融紡糸方法、
(5)熱可塑性ポリマーがポリエステルであることを特徴とする(1)〜(4)いずれかに記載の溶融紡糸方法、である。
本発明の溶融紡糸方法であれば、高分子量ポリマーや耐熱性の低いポリマーをほとんど分子量低下させることなく溶融紡糸できるため、用いたポリマーのポテンシャルを十分に利用することができる。また、熱可塑性ポリマーの融点+30℃以下と低い紡糸温度で溶融紡糸できるため、分解ガスの発生が抑制され、例えば口金汚れなどが抑制され、長時間の安定した製造が可能となる。さらに本発明においては熱可塑性繊維の製造に必要とする消費電力を削減できるため、省エネ、温暖効果ガス発生の抑制にも貢献できる。
紡糸温度と紡糸パック圧力の関係を示す図である。 紡糸温度と吐出ポリマーIVの関係を示す図である。 溶融紡糸装置を示す図である。
本発明の溶融紡糸方法に用いる樹状ポリエステルは、芳香族オキシカルボニル単位(P)、芳香族および/または脂肪族ジオキシ単位(Q)、および、芳香族ジカルボニル単位(R)から選ばれる少なくとも1種の構造単位と3官能の有機残基(B)とを含み、かつ、前記P、Q、RおよびBの含有量の合計に対してBの含有量が7.5〜50モル%の範囲にあり、末端のカルボン酸量が1×10−4当量/g以下である樹状ポリエステルとする必要がある。
ここで、芳香族オキシカルボニル単位(P)、芳香族および/または脂肪族ジオキシ単位(Q)、および、芳香族ジカルボニル単位(R)は、それぞれ下式で表される構造単位である。
Figure 0005109986
ここで、R1およびR3は、それぞれ芳香族残基である。R2は、芳香族残基または脂肪族残基である。R1、R2、およびR3は、それぞれ複数の構造単位を含んでも良い。
前記の芳香族残基としては、置換または非置換のフェニレン基、ナフチレン基、ビフェニレン基などが挙げられ、脂肪族残基としてはエチレン、プロピレン、ブチレンなどが挙げられる。R1、R2およびR3は、好ましくは、それぞれ下式で表される構造単位から選ばれる少なくとも1種以上の構造単位である。
Figure 0005109986
ただし、式中Yは、水素原子、ハロゲン原子およびアルキル基から選ばれる少なくとも1種である。式中nは2〜8の整数である。ここで好ましいアルキル基としては、炭素数1〜4が好ましい。
本発明の樹状ポリエステルは、3官能の有機残基(B)が、互いにエステル結合および/またはアミド結合により直接、あるいは、枝構造部分(P)、(Q)または(R)を介して結合した、3分岐の分岐構造を基本骨格としている。分岐構造は、3分岐など単一の基本骨格で形成されていてもよいし、3分岐と4分岐、3分岐と5分岐など複数の基本骨格が共存していてもよい。ポリマーの全てが該基本骨格からなる必要はなく、例えば末端封鎖のために末端に他の構造が含まれても良い。また、樹状ポリエステル中には、Bの3つの官能基が全て反応している構造、2つだけが反応している構造、および1つだけが反応している構造が混在していてもよい。好ましくは(B)の3つの官能基が全て反応した構造が、(B)全体に対して15モル%以上であることが好ましく、より好ましくは20モル%以上であり、さらに好ましくは30モル%以上である。前記3分岐の基本骨格を模式的に示すと、下式で示される。
Figure 0005109986
3官能の有機残基(B)の含有量は、前記(P)、(Q)、(R)、および(B)の含有量の合計に対して7.5モル%以上であれば、得られた樹状ポリエステルは樹状構造に起因する効果を十分得ることができる。Bの含有量が50モル%以下であれば、剪断応答性の低下や流動性向上効果が低下することもなく、ゲル化反応の抑制が可能となる。また、この範囲内であれば、熱可塑性ポリマー中での樹状ポリエステル分散径を縮小できるため、熱可塑性ポリマーと配合して得られる樹状ポリエステルの流動性向上効果が向上することとなる。Bの含有量は、好ましくは10〜40モル%であり、高い剪断応答性と、熱可塑性ポリマーに配合した際の流動性向上効果や樹状ポリエステルの分散径が小さくなるという点から15〜35モル%とすることがさらに好ましい。
ここで、(B)の含有量は樹状ポリエステルの枝構造および分岐構造を構成する構造単位に対しての値であり、末端構造を構成する残基は含まない。ここで、枝構造とは、樹状ポリエステル中での(P)、(Q)、(R)のいずれかを含有してなる直鎖ポリエステル構造を意味しており、分岐構造とは、(B)由来の構造を意味している。
本発明に用いる樹状ポリエステルは、溶融液晶性を示すことが好ましい。ここで溶融液晶性を示すとは、室温から昇温していった際に、ある温度域で液晶状態を示すことである。液晶状態とは、剪断下において光学的異方性を示す状態である。
溶融液晶性を示すために、基本骨格は、下式で示されるように、有機残基(B)が、枝構造部分(P)、(Q)または(R)により構成される構造単位(D)を介して結合していることが好ましい。
Figure 0005109986
3官能の有機残基(B)としては、カルボン酸基、ヒドロキシル基、アミノ基を含有する化合物の残基であることが好ましく、例えば、フロログルシノール、トリメシン酸、トリメリット酸、無水トリメリット酸、α−レゾルシル酸、4−ヒドロキシ−1,2−ベンゼンジカルボン酸、5−ヒドロキシイソフタル酸などの残基が好ましく、さらに好ましくは、トリメシン酸、α−レゾルシル酸の残基であり、最も好ましくはトリメシン酸の残基である。
また、樹状ポリエステルの芳香族オキシカルボニル単位(P)、芳香族および/または脂肪族ジオキシ単位(Q)、芳香族ジカルボニル単位(R)は、樹状ポリエステルの分岐間の枝構造部分を構成する単位である。p、qおよびrはそれぞれ構造単位(P)、(Q)および(R)の平均含有率(モル比)であり、このp、qおよびrの値は、樹状ポリエステルをペンタフルオロフェノール50重量%:重クロロホルム50重量%の混合溶媒に溶解し、40℃でプロトン核の核磁気共鳴スペクトル分析を行い、それぞれの構造単位に由来するピーク強度比から求めることができる。各構造単位のピーク面積強度比から、平均含有率を算出し、小数点3桁は四捨五入する。
pとqの比率およびpとrの比率(p/q、p/r)は、いずれも5/95〜95/5の範囲が好ましく、より好ましくは10/90〜90/10であり、さらに好ましくは20/80〜80/20である。この範囲であれば、液晶性が発現しやすく好ましい。p/qおよびp/rの比率を95/5以下とすることで、樹状ポリエステルの融点を適当な範囲とすることができるため好ましい。また、p/qおよびp/rを5/95以上とすることで樹状ポリエステルの溶融液晶性を発現することができるため好ましい。
R1は芳香族オキシカルボニル単位由来の構造単位であり、具体例としては、p−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸から生成した構造単位などが挙げられる。好ましくはp−ヒドロキシ安息香酸由来の構造単位であり、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸由来の構造単位部併用することも可能である。また本発明の効果を損なわない範囲でグリコール酸、乳酸、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸などの脂肪族ヒドロキシカルボン酸由来の構造単位を含有しても良い。
R2は芳香族および/または脂肪族ジオキシ単位由来の構造単位であり、例えば、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジヒドロキシビフェニル、t−ブチルハイドロキノン、フェニルハイドロキノン、メチルハイドロキノン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンおよび4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、エチレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオールなど由来の構造単位が挙げられる。好ましくは、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、およびエチレングリコール由来の構造単位であり、4,4’−ジヒドロキシビフェニルとハイドロキノンもしくは4,4’−ジヒドロキシビフェニルとエチレングリコール由来の構造単位が含まれることが液晶性の制御の点から好ましい。
R3は芳香族ジカルボニル単位由来の構造単位であり、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、1,2−ビス(フェノキシ)エタン−4,4’−ジカルボン酸、1,2−ビス(2−クロロフェノキシ)エタン−4,4’−ジカルボン酸および4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸など由来の構造単位が挙げられる。好ましくはテレフタル酸またはイソフタル酸由来の構造単位であり、特に両者を併用した場合に融点調節がしやすく好ましい。セバシン酸やアジピン酸などの脂肪族ジカルボン酸由来の構造単位が一部含まれることもある。
本発明の樹状ポリエステルの枝構造部分は、主としてポリエステル骨格からなることが好ましいが、カーボネート構造やアミド構造、ウレタン構造などを、特性に大きな影響を与えない程度に導入することも可能である。中でもアミド構造を導入することが好ましい。このような別の結合を導入することで、多種多様な熱可塑性ポリマーに対する相溶性を調整することが可能であり、好ましい。アミド結合の導入の方法としては、p−アミノ安息香酸、m−アミノ安息香酸、p−アミノフェノール、m−アミノフェノール、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、テトラメチレンジアミンペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、2−メチルペンタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4−/2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、5−メチルノナメチレンジアミン、m−キシリレンジアミン、p−キシリレンジアミン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1−アミノ−3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(3−メチル−4−アミノシクロヘキシル)メタン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノプロピル)ピペラジン、アミノエチルピペラジンなどの脂肪族、脂環族、あるいは芳香族のアミン化合物などを共重合することが好ましい。中でもp−アミノフェノールまたはp−アミノ安息香酸の共重合が好ましい。
樹状ポリエステルの枝構造部分の具体例としては、p−ヒドロキシ安息香酸および6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸由来の構造単位からなるもの、p−ヒドロキシ安息香酸由来の構造単位、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸由来の構造単位、4,4’−ジヒドロキシビフェニル由来の構造単位およびテレフタル酸由来の構造単位からなるもの、p−ヒドロキシ安息香酸由来の構造単位、4,4’−ジヒドロキシビフェニル由来の構造単位、テレフタル酸由来の構造単位およびイソフタル酸由来の構造単位からなるもの、p−ヒドロキシ安息香酸由来の構造単位、4,4’−ジヒドロキシビフェニル由来の構造単位、ハイドロキノン由来の構造単位、テレフタル酸由来の構造単位およびイソフタル酸由来の構造単位からなるもの、p−ヒドロキシ安息香酸由来の構造単位、エチレングリコール由来の構造単位およびテレフタル酸由来の構造単位からなるもの、p−ヒドロキシ安息香酸由来の構造単位、エチレングリコール由来の構造単位、4,4’−ジヒドロキシビフェニル由来の構造単位およびテレフタル酸由来の構造単位からなるもの、p−ヒドロキシ安息香酸由来の構造単位、ハイドロキノン由来の構造単位、4,4’−ジヒドロキシビフェニル由来の構造単位、テレフタル酸由来の構造単位および2,6−ナフタレンジカルボン酸由来の構造単位からなるもの、p−ヒドロキシ安息香酸由来の構造単位、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸由来の構造単位、ハイドロキノン由来の構造単位およびテレフタル酸由来の構造単位からなるものなどが挙げられる。
特に好ましいのは、枝構造部分が、下式に記載した構造単位(P−I)、(Q−II)、(Q−III)、(R−IV)および(R−V)から構成されること、
Figure 0005109986
もしくは、下式に記載した構造単位(P−I)、(Q−II)、(R−IV)および(R−VI)から構成されることである。
Figure 0005109986
枝構造部分が、前記構造単位(P−I)、(Q−II)、(Q−III)、(R−IV)および(R−V)から構成される場合には、構造単位(P−I)の含有量pは、各構造単位の合計p+q+rに対して30〜70モル%が好ましく、より好ましくは45〜60モル%である。
また、構造単位(Q−II)の含有量qは、構造単位(Q−II)および(Q−III)の合計含有量qに対して60〜75モル%が好ましく、より好ましくは65〜73モル%である。また、構造単位(R−IV)の含有量rは、構造単位(R−IV)および(R−V)の合計含有量rに対して60〜92モル%が好ましく、より好ましくは60〜70モル%、さらに好ましくは62〜68モル%である。
このような場合には、本発明の効果である、せん断応答性や熱可塑性ポリマーへの添加効果が顕著に発現するため好ましい。
前記のように、構造単位(Q−II)および(Q−III)の合計含有量qと(R−IV)および(R−V)の合計含有量rは実質的に等モルであることが好ましいが、いずれかの成分を過剰に加えてもよい。
枝構造部分が、前記構造単位(P−I)、(Q−II)、(R−IV)および(R−VI)から構成される場合には、前記構造単位(P−I)の含有量pは、p+q+rに対して30〜90モル%が好ましく、40〜80モル%がより好ましい。
また、有機残基(B)の含有量は、樹状ポリエステルを構成する全単量体の含有量に対して7.5モル%以上であり、10モル%以上がより好ましく、さらに好ましくは15モル%以上である。このような場合に、枝構造部分の連鎖長が、樹状ポリエステルが樹状の形態をとるのに適した長さとなるため好ましい。有機残基Bの含有量の上限としては、50モル%以下であり、40モル%以下が好ましく、35モル%以下がより好ましい。
また本発明の樹状ポリエステルは特性に影響が出ない範囲で、部分的に架橋構造を有していてもよい。
本発明において、樹状ポリエステルの製造方法は、公知のポリエステルの重縮合法に準じて製造できる。前記R1で表される構造単位から選ばれる少なくとも1種の構造単位を含む単量体、R2で表される構造単位から選ばれる少なくとも1種の構造単位を含む単量体およびR3で表される構造単位から選ばれる少なくとも1種の構造単位を含む単量体、および、3官能の多官能単量体を反応させる方法であって、該多官能単量体の添加量(モル)が、樹状ポリエステルを構成する全単量体(モル)に対して7.5モル%以上として製造する方法が好ましい。多官能単量体の添加量は、より好ましくは10モル%以上、さらに好ましくは15モル%以上である。また、添加量の上限としては、50モル%以下が好ましく、より好ましくは35モル%以下である。
また、前記反応に際して、R1、R2およびR3で表される構造単位から選ばれる少なくとも1種の構造単位を含む単量体をアシル化した後、3官能の多官能単量体を反応させる態様も好ましい。また、R1、R2およびR3で表される構造単位から選ばれる少なくとも1種の構造単位を含む単量体、および、3官能の多官能単量体をアシル化した後、重合反応させる態様も好ましい。
前記構造単位(P−I)、(Q−II)、(Q−III)、(R−IV)および(R−V)とトリメシン酸残基から構成される樹状ポリエステルを製造する場合を例に挙げて、好ましい製造方法を説明する。
(1)p−アセトキシ安息香酸、4,4’−ジアセトキシビフェニル、ジアセトキシベンゼン、テレフタル酸およびイソフタル酸から脱酢酸縮重合反応によって液晶性ポリエステルオリゴマーを合成した後、トリメシン酸を加えて脱酢酸重合反応させて製造する方法。
(2)p−アセトキシ安息香酸、4,4’−ジアセトキシビフェニル、ジアセトキシベンゼン、テレフタル酸、イソフタル酸およびトリメシン酸から脱酢酸縮重合反応によって製造する方法。
(3)p−ヒドロキシ安息香酸、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノンとテレフタル酸およびイソフタル酸に無水酢酸を反応させて、フェノール性水酸基をアシル化した後、脱酢酸重縮合反応によって液晶性ポリエステルオリゴマーを合成し、さらにトリメシン酸を加えて脱酢酸重合反応させて製造する方法。
(4)p−ヒドロキシ安息香酸、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノンとテレフタル酸、イソフタル酸およびトリメシン酸に無水酢酸を反応させて、フェノール性水酸基をアシル化した後、脱酢酸重縮合反応によって製造する方法。
(5)p−ヒドロキシ安息香酸のフェニルエステル、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、テレフタル酸ジフェニルエステルおよびイソフタル酸ジフェニルエステルから脱フェノール重縮合反応により液晶性ポリエステルオリゴマーを合成した後、トリメシン酸を加えて脱フェノール重縮合反応によって製造する方法。
(6)p−ヒドロキシ安息香酸のフェニルエステル、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、テレフタル酸ジフェニルエステル、イソフタル酸ジフェニルエステルおよびトリメシン酸のフェニルエステルから脱フェノール重縮合反応によって製造する方法。
(7)p−ヒドロキシ安息香酸、テレフタル酸、イソフタル酸、トリメシン酸にジフェニルカーボネートを反応させて、それぞれフェニルエステルとした後、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノンを加え、脱フェノール重縮合反応によって製造する方法。
なかでも(1)〜(5)の製造方法が好ましく、(3)および(4)の方法がより好ましく、鎖長制御と立体規制の点から(4)の製造方法が最も好ましい。
(4)の製造方法において、無水酢酸の使用量は、鎖長制御の点からフェノール性水酸基の合計の0.95当量以上1.10当量以下であることが好ましく、1.00当量以上1.08当量以下であることがより好ましく、最も好ましくは1.02当量以上1.05当量以下である。無水酢酸量を制御すること、ジヒドロキシモノマーおよびジカルボン酸モノマーのいずれかを過剰に添加すること等により、末端基を制御することが可能である。
分子量を上げるためには、トリメシン酸のカルボン酸量に相当する分だけ、ハイドロキノンや4,4’−ジヒドロキシビフェニルなどのジヒドロキシモノマーを、ジカルボン酸モノマーに対して過剰に加え、全単量体におけるカルボン酸と水酸基当量を合わせることが好ましい。
脱酢酸重縮合反応を行う場合には、樹状ポリエステルが溶融する温度で、場合によっては減圧下で反応させ、所定量の酢酸を留出させ、重縮合反応を完了させる溶融重合法が好ましい。例えば、所定量のp−ヒドロキシ安息香酸、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、テレフタル酸、イソフタル酸、トリメシン酸および無水酢酸を、攪拌翼および留出管を備え、下部に吐出口を備えた反応容器中に仕込む。混合物を、窒素ガス雰囲気下で攪拌しながら加熱して、水酸基をアセチル化させた後、200〜350℃まで昇温して脱酢酸重縮合反応を行い、酢酸を留出させる。理論留出量の91%まで酢酸を留出させ、反応を完了させる。
アセチル化させる条件としては、実際の製造工程を考慮すると反応温度は、130〜170℃の範囲が好ましく、反応時間は、0.5〜6時間が好ましい。
重縮合させる温度は、樹状ポリエステルが溶融する温度であり、好ましくは樹状ポリエステルの融点+10℃以上の温度である。具体的には、200〜350℃の範囲が好ましい。重縮合させるときの雰囲気は、常圧窒素下でも問題ないが、減圧すると反応が早く進み、系内の残留酢酸が少なくなるため好ましい。減圧度は、0.1mmHg(13.3Pa)〜200mmHg(26600Pa)が好ましく、より好ましくは10mmHg(1330Pa)〜100mmHg(13300Pa)である。なお、アセチル化と重縮合は同一の反応容器で連続して行っても良いし、アセチル化と重縮合を異なる反応容器で行っても良い。
重縮合反応が完了した後、反応容器内を樹状ポリエステルが溶融する温度に保ち、例えば、0.01〜1.0kg/cm(0.001〜0.1MPa)に加圧し、反応容器下部に設けられた吐出口より、樹状ポリエステルをストランド状に吐出する。吐出口には断続的に開閉する機構を設け、液滴状に吐出することも可能である。吐出した樹状ポリエステルは、空気中もしくは水中を通過して冷却された後、必要に応じて、カッティングもしくは粉砕される。
得られたペレット状、粒状または粉状の樹状ポリエステルは、さらに必要に応じて、熱乾燥や真空乾燥により水、酢酸などを除く。また、重合度の微調整、あるいは、さらに重合度を上げるために、固相重合をすることも可能である。固相重合は、例えば、前記により得られた樹状ポリエステルを、窒素気流下、または、減圧下、樹状ポリエステルの融点−5℃〜融点−50℃(例えば、200〜300℃)の温度範囲で1〜50時間加熱する方法が挙げられる。
樹状ポリエステルの重縮合反応は無触媒でも進行するが、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸カリウムおよび酢酸ナトリウム、三酸化アンチモン、金属マグネシウムなどの金属化合物を使用することもできる。
本発明の樹状ポリエステルは、数平均分子量は1,000〜40,000であることが好ましく、より好ましくは1,000〜20,000、さらに好ましくは1,000〜10,000であり、最も好ましくは1,000〜5,000の範囲である。なお、この数平均分子量は、樹状ポリエステルが可溶な溶媒、例えばペンタフルオロフェノール/クロロホルム(体積混合比75/25)混合溶媒を溶離液として用いたGPC−LS(ゲル浸透クロマトグラフ−光散乱)法により絶対分子量として測定した値である。
本発明では、分子量を制御するために単官能カルボン酸を重合系中に添加することができる。単官能カルボン酸を添加することにより、過剰な重合反応を抑制し、ゲル化などの副反応の発生を抑制することができる。単官能カルボン酸は、反応性、耐熱性やハンドリング性の観点から、安息香酸またはその誘導体であることが好ましい。具体的には、安息香酸、4−tert−ブチル安息香酸、3−tert−ブチル安息香酸、4−クロロ安息香酸、3−クロロ安息香酸、4−メチル安息香酸、3−メチル安息香酸、2−メチル安息香酸、3,5−ジメチル安息香酸、3,4−ジメチル安息香酸、2,3−ジメチル安息香酸、2,4−ジメチル安息香酸、2,5−ジメチル安息香酸、2,6−ジメチル安息香酸、4−エチル安息香酸などを添加することが可能である。添加方法は、樹状ポリエステルの重合反応開始前に添加する方法、重合反応途中に添加する方法のいずれかを選択できる。
樹状ポリエステルのカルボン酸末端とカルボン酸反応性単官能化合物との反応方法としては、樹状ポリエステルの重合反応途中に添加する方法、樹状ポリエステルの重合反応後に、再溶融または溶媒中に溶解せしめた樹状ポリエステルとカルボン酸反応性単官能化合物とを反応させる方法のいずれかを選択できるが、樹状ポリエステルとの反応性や安全性の観点から、樹状ポリエステルの重合反応後に、再溶融または溶媒中に溶解せしめた樹状ポリエステルとカルボン酸反応性単官能化合物とを反応させる方法を用いることが好ましい。また、熱可塑性ポリマーや充填剤に樹状ポリエステルを配合し、成形加工する際にカルボン酸反応性単官能化合物を同時に配合する方法を用いても良い。
こうして得られた樹状ポリエステルは優れた溶融液晶性を示し、熱可塑性ポリマーに配合することにより、熱可塑性ポリマーの流動性を改良することができるが、本発明の溶融紡糸方法の要点は、用いる樹状ポリエステルの分子末端に存在するカルボン酸基の量を1×10−4当量/g以下としたことである。一般にカルボン酸基はプロトンが電離することにより自己触媒反応を起こし、加水分解を引き起こすことが知られている。また、加水分解により生成したカルボン酸基が更に自己触媒反応を起こすため、ポリエステルは大きく分子量を低下させることとなるが、本発明の溶融紡糸方法に用いる樹状ポリエステルに関しても、同様である。また、他の熱可塑性ポリマーと溶融混練した場合には、樹状ポリエステルが元々有するカルボン酸基に加え、加水分解による発生したカルボン酸基が熱可塑性ポリマーの分子鎖を攻撃することとなるため、吐出されたポリマーの分子量は大きく低下してしまう。また、樹状ポリエステルに官能基が多く存在することにより、熱可塑性ポリマーによってはエステル交換反応などにより分子構造が変化し、特性を変化させてしまう場合がある。このような現象は滞留時間が短い押出加工(例えば射出成形など)では大きな問題とならないものの、滞留時間が長い溶融紡糸においては無視できない問題となる場合がある。後述する参考例7に記載の通り、樹状ポリエステルは分子末端を未制御のままでは8.95×10−4当量/gと非常に多くのカルボン酸基を有する構造である。本発明者では樹状ポリエステルの流動性向上の効果を溶融紡糸に適用すべく鋭意検討した結果、樹状ポリエステルの分子末端に存在するカルボン酸基量を1×10−4当量/g以下することで熱可塑性ポリマーの加水分解を抑制できることを見出し、これを満足する樹状ポリエステルであれば、流動性を向上する効果が大きく、紡糸温度を低下することにより、溶融混練時などの樹状ポリエステルおよび熱可塑性ポリマーの加水分解が抑制される。よって樹状ポリエステルを添加することによる悪影響は全く考慮する必要がなくなり、単純に紡糸温度を低下させた分熱分解が抑制され、吐出されるポリマーの分子量は向上することとなる。また、熱分解が抑制されることにより、分解ガスの発生が低下するため、口金汚れが大きく抑制され、長時間安定した紡糸を可能とする。
樹状ポリエステルの分子末端に存在するカルボン酸基量の定量は、中和滴定法によって行うことができる。樹状ポリエステル0.5gをo−クロロフェノールまたはo−クレゾール10mLに90℃に加熱しながら溶解させ、冷却した後、クロロホルム4mLを加える。ブロモフェノールブルー−エタノール溶液(0.2重量%)を数滴加えた後、滴定試薬(0.04M水酸化カリウム−メタノール溶液)をビュレットにて滴下し、中和点に達するまでに滴下した滴定試薬量から樹状ポリエステルの末端カルボン酸量を計算できる。
本発明の溶融紡糸方法に用いる樹状ポリエステルの分子末端カルボン酸基量は、カルボン酸反応性単官能化合物を反応せしめることにより低下させることが可能であり、該単官能化合物であれば樹状ポリエステルの流動性向上の効果を損なうことなく、分子末端のカルボン酸基を低下させることができる。ここで、カルボン酸反応性単官能化合物とは、常温または加熱時にカルボン酸と反応し、エステル、アミド、ウレタン、ウレア結合を形成しうる官能基を分子内に1つ有する化合物をいう。樹状ポリエステルの分子末端に存在するカルボン酸基に、カルボン酸反応性単官能化合物を反応させ、分子末端に単官能化合物を導入することにより、樹状ポリエステルの滞留安定性や耐加水分解性を向上させ、さらに他の熱可塑性ポリマーと溶融混練した際には、熱可塑性ポリマーの分解を抑制できる。
本発明の樹状ポリエステルに用いることのできるカルボン酸反応性単官能化合物としては、オルトエステル、オキサゾリン、エポキシド、イソシアネート、カルボジイミド、ジアゾ化合物から選ばれる1種類以上の化合物である。カルボン酸との反応性およびハンドリング性の観点から、オルトエステル、オキサゾリン、エポキシド、イソシアネートが好ましく、中でも樹状ポリエステルの融点を高く維持できるという観点からオルトエステルが特に好ましい。カルボン酸反応性単官能化合物は、単独で使用または2種類以上のカルボン酸反応性単官能化合物を併用しても構わないことは言うまでもない。
前記したオルトエステル化合物としては、例えば、オルト酢酸トリメチル、オルト酢酸トリエチル、オルト酢酸トリプロピル、オルト酢酸トリブチル、オルト酢酸トリベンジル、オルト蟻酸トリメチル、オルト蟻酸トリエチル、オルト蟻酸トリプロピル、オルト蟻酸トリブチル、オルト蟻酸トリベンジル、オルトプロピオン酸トリメチル、オルトプロピオン酸トリエチル、オルトプロピオン酸トリプロピル、オルトプロピオン酸トリブチル、オルトプロピオン酸トリベンジル、オルト安息香酸トリメチル、オルト安息香酸トリエチル、オルト安息香酸トリプロピル、オルト安息香酸トリブチル、オルト安息香酸トリベンジルなどが挙げられる。このうち、樹状ポリエステルとの反応性や親和性およびハンドリング性の観点から、オルト酢酸トリメチル、オルト酢酸トリエチル、オルト蟻酸トリメチル、オルト蟻酸トリエチルが好ましく、熱可塑性繊維の特性への影響を予防するとい観点からオルト酢酸トリメチルまたはオルト酢酸トリエチルが特に好ましい。
その他のカルボン酸反応性単官能化合物としては、オキサゾリン化合物としては、例えば、2−メチル−2−オキサゾリン、2−エチル−2−オキサゾリン、2−プロピル−2−オキサゾリン、2−ブチル−2−オキサゾリン、2−イソプロピル−2−オキサゾリン、2−イソブチル−2−オキサゾリン、2−sec−ブチル−2−オキサゾリン、2−tert−ブチル−2−オキサゾリン、2−フェニル−2−オキサゾリン、2−ビフェニル−2−オキサゾリンが挙げられ、エポキシ化合物としては、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、安息香酸グリシジルエステルが挙げられる。
理論的には、前記カルボン酸末端の封鎖に用いるカルボン酸反応性単官能化合物を、封鎖したい末端基に相当する量添加することで末端封鎖が可能である。封鎖したい末端基相当量に対して、末端封鎖に用いる有機化合物を、1.005倍当量以上用いることが好ましく、より好ましくは1.008倍当量以上である。また、末端封鎖に用いる有機化合物の添加量は2.5倍当量以下であることが好ましい。かかる範囲であれば、樹状ポリエステルの末端封鎖が充分行われ、かつ、カルボン酸基が系中に残存して、ガスを発生したりすることもない。
本発明の溶融紡糸方法において、樹状ポリエステルを添加する熱可塑性ポリマーは、例えば、ポリエステル、ポリアミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリエステルカーボネート、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフッ化ビニリデンなどを挙げることができる。中でも、汎用性が高いポリエステル、ポリアミドや、耐熱性・薬品性に優れるポリフェニレンスルフィドが好ましい。特に、耐加水分解性が低いポリエステルにおいては樹状ポリエステルの分子末端を制御した効果がより顕著なものとなる。また、極限粘度が1.0dL/g以上の高分子量ポリエステルの融点はそれほど高くないものの超高粘度のため、紡糸温度を衣料用ポリエステルの場合に比べ10〜20℃程度高くする場合も有り、加水分解や熱分解抑制による高分子量保持の観点から有用である。また、ポリアミドの場合には前記した流動性向上による紡糸温度の低下の効果に加え、疎水性の樹状ポリエステルが微分散することにより、驚くことに吸湿性を低下させることができるのである。ポリアミドは、その親水性から分子鎖に存在するアミド基周辺に水を吸着し、吸水結晶化を起こす。この吸湿結晶化は紡糸線上や巻取り後、または延伸糸とした後にも発生し、糸が繊維軸方向に伸長する現象(縦膨潤)を発生させる。このポリアミドの縦膨潤は、ポリアミド未延伸糸の巻取りパッケージを崩すため、紡糸条件(特に紡糸速度、巻き取り雰囲気)に大きな制限が必要になったり、スチームコンディショナーなどの特別な装置が必要になったりする。また、延伸糸としても寸法安定性を悪化させるため、織編物などの繊維構造体の目ずれなどを起こし、特に湿潤雰囲気下での力学特性低下など産業用途においては無視できない特性である。本発明の溶融紡糸方法に関しては、ポリアミド内に疎水性である樹状ポリエステルが超微分散されているため、アミド基周辺に配置されることで縦膨潤を大きく抑制するというような特異的な効果が発現したと考える。
前記したポリマーのほかにも、汎用的ではないが、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリフッ化ビニリデンなど通常、紡糸温度がかなりの高温になるポリマー種も流動性向上効果により紡糸温度を低下させる効果からすると、好ましいポリマーである。特にポリフッ化ビニリデンなど腐食性物質や有害物質が発生しやすいポリマーでは、紡糸温度低下効果は有用である。また、分子量が10万以上の高分子量ポリマーの場合には、分子鎖の絡み合い抑制効果は有用である。特に、ポリ乳酸のように高分子量であるが熱分解温度が低いポリマーの場合には、紡糸温度を低下させることができると、加水分解や熱分解による分子量低下を押さえられるだけでなく、分解ガスの発生を抑制できるため非常に有用である。また、紡糸温度が高くなり熱分解しやすい、重量平均分子量15万以上のポリ乳酸、また融点が向上したステレオコンプレックスポリ乳酸を熱可塑性ポリマーとすることも有用性が高い。
本発明に用いる熱可塑性ポリマーには、熱安定性を保持するために、フェノール系およびリン系化合物の中から選ばれた1種以上の耐熱剤をあらかじめ添加することもできる。かかる耐熱剤の添加量は、耐熱改良効果の点から、0.01wt%以上が好ましく、特に0.02wt%以上であることが好ましい。得られる繊維への力学特性変化を予防するためには、添加量は、5wt%以下が好ましく、特に1wt%以下であることが好ましい。また、フェノール系およびリン系化合物を併用して使用することは、特に耐熱性、熱安定性および流動性保持効果が大きく好ましい。
フェノール系化合物としては、ヒンダードフェノール系化合物が好ましく用いられ、中でも、N、N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナミド)、テトラキス[メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンなどが好ましく用いられる。
リン系化合物としては、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト、ビス(2,4−ジ−クミルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4’−ビスフェニレンホスファイト、ジ−ステアリルペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト、トリフェニルホスファイト、3,5−ジーブチル−4−ヒドロキシベンジルホスフォネートジエチルエステルなどが挙げられる。中でも、熱可塑性繊維の製造工程において耐熱剤が揮発や分解することを少なくするために、融点が高いものが好ましく用いられる。
さらに、紫外線吸収剤(例えばレゾルシノール、サリシレート)、着色防止剤(亜リン酸塩、次亜リン酸塩など)、滑剤および離型剤(ステアリン酸、モンタン酸およびその金属塩など)、着色剤、導電剤あるいは着色剤としてのカーボンブラック、結晶核剤、可塑剤および帯電防止剤などの通常の添加剤、もしくは、熱可塑性ポリマー以外の重合体を配合することができる。
本発明の溶融紡糸方法では、前記した樹状ポリエステルを熱可塑性ポリマーに添加する必要がある。この添加方法としては、公知の混練方法を用いることができ、例えば、樹状ポリエステルおよび熱可塑性ポリマーを乾燥し、これらを混合したものを単軸もしくは二軸押出機などによって、熱可塑性ポリマーの融点+30℃以下で混練し、ポリマーブレンドを得ることができる。
ここで言う乾燥とはポリマーを真空ポンプなどによって、真空にした密閉容器中で加熱し、ポリマー中の水分量を減少させることをいい、例えば、公知の真空乾燥機やタンブラー型真空乾燥機を用いることができる。ここで、樹状ポリエステルおよび熱可塑性ポリマーの水分率は500ppm以下、好ましくは300ppm以下としておくことが目安となる。かかる範囲であれば溶融混練の際に持ち込まれる水分が低下するため、本発明による紡糸温度低下による熱分解抑制の効果が加算され、投入したポリマーの分子量に対して分子量低下がほとんど起こすことなく、吐出することができる。ポリマーの水分率は公知のカールフィッシャー型水分率計によって測定することができる。
乾燥された樹状ポリエステルおよび熱可塑性ポリマーは、1)熱可塑性ポリマーおよび樹状ポリエステルを目的とする添加量で混合し、混練機能を有した押出機に挿入して溶融混練した後直接紡糸する方法、2)まず混練機能を有した押出機によって熱可塑性ポリマーに樹状ポリエステルを高濃度に含むように添加量を調整して、溶融混練して、マスターペレットを作成する。次いで規定の濃度になるように該マスターペレットを熱可塑性ポリマーによって希釈する方法(マスターペレット法)など用いることができる。省力化のためには前者の混練直結紡糸が好ましいが、後者の樹状ポリエステルを熱可塑性ポリマーにブレンドしておくマスターペレット法は、添加量の均一性の向上などの生産安定性を考えれば、好ましい方法といえる。
熱可塑性ポリマーに樹状ポリエステルを添加する方法は、予め別々に計量したものを押出機に仕込む前にブレンド(ドライブレンド)しても良いし、フィーダーによって別々に計量して、直接押出機に挿入する方法もよい。また、二軸押し出し混練機では一軸押し出し混練機の場合とは異なり、混練機中で誘起された発泡が仕込み側に抜け難いため、発泡が繊維にまで混入し糸切れが頻発する場合がある。このため、特に高分子量ポリマーなど高粘度のポリマーを用いる場合には、二軸押し出し混練機の吐出側でベントを行い、泡を抜く操作を行うことが好ましい。なお、マスターペレット化場合にもガット切れが頻発する時はベントを行うことが好ましい。樹状ポリエステルブレンドでマスターペレット化した場合には、紡糸過程においてバージンポリマーで希釈されるわけであるが、この時も二軸押し出し混練機を用いる方がブンレンドの均一性の観点から好ましい。というのは、本発明では樹状ポリエステルブレンド率で良流動化効果の程度が異なるため、ポリマーブレンド中でブレンドが不均一であるとスクリュートルクや先端圧、濾圧、口金背面圧、ひいては紡糸応力などの斑が発生し、安定した紡糸が不能となる場合があるからである。やむを得ず一軸押し出し混練機を用いる場合には、ダルメージなどの混練機能を付加するとともに、一軸押し出し混練機吐出付近や紡糸機あるいは紡糸パック内に静止混練器を設け、充分にブレンドを均一化することが好ましい。
ここで、ポリマーブレンドにおける樹状ポリエステルの添加量は、0.1〜10wt%とすることが重要である。0.1wt%以上であれば樹状ポリマーの流動性向上効果による紡糸温度低下の効果が認められるようになる。樹状ポリエステルは口金孔内などの高せん断領域において粘度が低下するため、添加量が多いとポリマーブレンドの表面にブリードアウトする場合がある。この結果、低粘度の樹状ポリマーが吐出されると同時に液滴状に溜まり、口金孔周辺を汚すことにより固化前のポリマーの伸長変形を乱したり、溜まった劣化物が落下することで糸切れを助長したりする場合がある。但し、10wt%以下であれば、樹状ポリエステルがブリードアウトすることがなく、均一に分散されているため、口金孔周辺を汚すこともないし、得られる繊維の力学特性や表面特性を変化させることがない。また、熱可塑性ポリマーと樹状ポリエステルの粒度や摩擦係数を考慮しなくても、ホッパー中にいずれかが溜まることなく目的とする添加量が確保される範囲として、2.0wt%以下が好ましい。
なお、ここで言うポリマーブレンドには樹脂加工の場合にはガラス繊維などの無機フィラーを多量に混合させることで機械的特性(弾性率向上など)やガスバリア性を向上させることも多いが、繊維化の場合に無機フィラーを混合させると紡糸機内のフィルターで詰まりが発生し濾圧が急上昇したり、また紡糸口金孔に無機フィラーが詰まり紡糸不能に陥る場合がある。また、紡糸不能に至らずとも、紡糸口金孔からのポリマーの吐出が安定せず糸切れの頻発や糸斑の悪化などの問題が発生する場合がある。このため、繊維化の場合には樹脂加工とは異なり、無機フィラーは混合しない方が良く、混合したとしてもポリマーブレンド全体に対し0.5wt%未満である。ここで言う無機フィラーとは、80wt%以上が無機物から構成され、円換算の平均直径が10nm以上かつ平均長さが100nm以上のものである。
本発明に用いる紡糸口金に関しては、公知のものが使用でき、丸孔をはじめに、Y孔、C孔など異形孔の口金も使用することができる。本発明に用いる口金の吐出孔径は、単孔吐出量および紡糸速度の関係から、紡糸が可能となる紡糸ドラフト(=引取速度/吐出線速度)考えて決定すればよいが、一般に丸孔の場合0.1〜5.0mmφが目安となる。
細繊度の繊維を得る場合や低粘度ポリマーを用いる場合には、0.1〜0.4mmφ、高粘度ポリマーの場合には0.5〜5.0mmφが好適に用いられる。また、計量性を考えれば、吐出孔径2.0mmφ以上の場合は吐出孔の上に孔径を縮小した計量孔を具備していることが好ましい。吐出孔および計量孔のL/D(=孔長/孔径)は用いる熱可塑性ポリマーにもよるが、0.1〜5.0とすることが目安となり、計量性を考えると、0.5〜3.0が好適に用いられる。吐出孔のホール数は、同心円配列、千鳥配列や直線配列として口金面内に入るホール数を設定することができるが、ホール数が多すぎる場合には単糸間で冷却ムラができる場合や単糸どうしが干渉してしまい紡糸性を悪化してしまう場合があるので、例えば100mmφの口金であれば、1〜200ホールとすることが好ましい。
本発明の溶融紡糸方法における紡糸温度は樹状ポリエステルを添加する熱可塑性ポリマーの融点+30℃以下とする必要がある。熱可塑性ポリマーは融点以上の温度で溶融し、流動性が発生するものであるが、一般には融点は温度に対して幅を持ったプロフィールをとるため、一般に溶融紡糸可能な流動性を確保するためには融点から30℃以上高い紡糸温度に設定する必要があった。しかしながら、過度に紡糸温度を高めると、熱分解が大きく進行するために、投入した熱可塑性ポリマーの分子量を大きく低下させ、期待した力学特性を得ることができない等の問題があった。一方、本発明の溶融紡糸方法においては請求項1に記載した樹状ポリエステルを添加しているために、流動性向上の効果により、紡糸温度を低く設定しても、紡糸が可能となるのである。ここで言う紡糸温度とは、図3記載のように溶融ポリマーを吐出する紡糸ヘッドの温度のことを意味し、ここに含まれる紡糸パックおよび口金も同等の温度に制御されていることは言うまでもない。また、紡糸ヘッドに導かれるまでの押出装置の温度も分子量保持という観点から低く設定することが好ましく、本発明の溶融紡糸方法であれば、融点+30℃以下であれば、問題なく溶融紡糸することができる。本発明の溶融紡糸方法に用いる樹状ポリエステルは熱可塑性ポリマーの融点降下等への影響はないため、紡糸温度の実施可能な下限値は熱可塑性ポリマーの融点であり、熱可塑性ポリマーの融点+10℃であれば、問題なく溶融紡糸することができる。
本発明の溶融紡糸方法において紡糸温度の基準となる熱可塑性ポリマーの融点とは、示差走査熱量測定(DSC)で観測される融解ピークのピークトップ温度を意味し、具体的な測定方法としては、以下のようにして行うことができる。すなわち、サンプルとして熱可塑性ポリマーを10mg計量し、アルミパンに封入後、TA Instruments社製DSC2920 Modulated DSCに設置して、昇温速度16℃/分で測定を行う。そして、2nd runにおいてそのポリマーの融解ピークのピークトップ温度をそのポリマーの融点として求めたものである。
本発明における引き取り速度は熱可塑性ポリマーの物性や繊維の目的によって異なるが、500〜6000m/分程度とし、特に、高分子量ポリマーを用いる場合には、一般に低配向として未延伸糸を引き取る方が良いため、500〜1500m/分とすることが好ましく、この場合単孔吐出量としては、5×10−3〜5.0g/分と設定するとよく、実質的な吐出計量性を考えれば、単孔吐出量は0.01〜5.0g/分とすることが好ましい。
以上ように溶融混練された熱可塑性ポリマーと樹状ポリエステルのポリマーブレンドは公知の溶融紡糸方法のように細い口金孔を通して吐出され、冷却固化されて引取ローラによって引き取られる。引き取りあるいは巻き取られた繊維は、実用に耐えうる物性を付与するために延伸工程や繊維構造体とするために後加工工程を通過することとなるが、ここでの工程通過性を考えると、繊維の単糸繊度は0.1〜50dtexとするとよい。また、このような範囲の単糸繊度の繊維の製造に本発明の効果は下記のように有効に働くものである。
単糸繊度0.1〜2dtexという非常に細い単糸繊度の場合には、人工皮革やスエード調編織物に加工することができる。これらの繊維の紡糸では、巻き取り性といった紡糸性が低いため、引取速度は1000〜2000m/分が採用されるため、単孔吐出量としては、0.5g/分以下というような非常に低い単孔吐出量で紡糸をするため、一般の衣料用繊維が単孔吐出量2g/分程度であることを考えれば、4倍以上の滞留時間なる。この滞留時間の増加に伴って、吐出ポリマーの分子量は低下することとなるため、粘度が低下し、吐出孔付近にポリマーが液滴に溜まるドリップが起きやすく、この範囲の単糸繊度の紡糸を困難にしている要因のひとつとなっている。また、言うまでもないが、得られる繊維の強伸度特性は低く、人工皮革等の耐摩耗性の低下が問題となる場合がある。一方、本発明の溶融紡糸方法においては、紡糸温度を低下させることができるため、前記した分子量低下は抑制され、ドリップは起きにくく、すぐれた力学特性の細繊度繊維を得ることが可能である。さらに吐出されるポリマーが高分子量化される効果により紡糸性を高めることができ、3000m/分以上の高い引取速度においても紡糸することが可能となるため、生産性を向上させることにも貢献することができる。
本発明の溶融紡糸方法において、単糸繊度0.1〜2dtexの繊維を得るためには、単孔吐出量は、0.05〜2.0g/分の範囲で吐出することができ、実質的な吐出計量性を考えれば、単孔吐出量は0.01〜1.0g/分とすることが好ましい。細い繊度を得る場合にはマルチフィラメントとしての強力が低いために、紡糸張力は低くすることがよく、これに大きく影響する紡糸ドラフト(=引取速度/吐出線速度)を考えれば、使用する口金の孔径は0.1〜0.4mmφとすることが好ましい。また、単孔吐出量が低いために、吐出量の計量性を考えれば、孔径は0.1〜0.25mmφとすることが好ましい。このようにして吐出されたポリマーは冷却することにより、固化される。
本発明の溶融紡糸方法においては、熱可塑性ポリマーの融点+10℃以上の紡糸温度にすれば安定した吐出が確保されるため、通常紡糸よりも10〜20℃紡糸温度を低く設定できる。このため、口金から吐出した糸の温度も通常より低いため、糸の冷却がより効果的になる。このため、糸の効果的冷却が安定紡糸のために重要である細繊度紡糸において、樹状ポリエステルの添加は非常に好ましいのである。冷却装置としては、公知のユニフロー型冷却装置があれば、問題なく紡糸できるが、公知の環状チムニーなどによって吐出直後から積極的に冷却することも繊維径の均一性をさらに向上できるという点から好ましい。固化後油剤を付与された繊維は目的とする繊度や力学物性に応じて1000〜5000m/分の引取速度で引き取ることができる。引き取られた繊維は、一旦巻き取るか引き続いて後記する延伸条件において延伸することでさらに繊度を小さくしたり、力学特性を向上させたりしても良いし、そのまま使用してもよい。
単糸繊度2〜30dtexの繊維に関しては、衣料用途だけでなく、タイヤコード、ロープおよび工業用編織物などの産業用途と幅広く適用することができる。衣料用途の場合は、引取速度2000〜6000m/分で引き取り、一旦巻き取るか引き続いてガラス転移温度以上に加熱したローラ1.1〜3.0倍の延伸を施し、最終的には単糸繊度1〜10dtex程度の延伸糸とする。産業用途の場合は、一般に引取速度を3000m/分以下として引取り、一旦巻き取るか引き続いてガラス転移温度以上に加熱されたローラにて延伸を施し、最終的には単糸繊度3〜15dtex程度の延伸糸とする。本発明の溶融紡糸方法において、これらの繊維を紡糸する場合、後述する実施例2のように用いるポリマーが非常に高分子量の場合でも紡糸温度を低く設定でき、力学特性の向上に効果がある。このため、過酷な条件で使用される産業用途はもとより、衣料用途では編織物に同じ強力を付与するための繊度あるいは繊維の本数を少なくできるため、薄物織物などには有効である。また、後述する実施例17と比較例7の比較により明らかなように、本発明の溶融紡糸方法においては、紡糸温度を低下させることができるため、口金汚れが抑制することができる。口金が汚れると、口金清掃またはパック交換を行う必要があり、生産を中断することとなる。この間、ポリマー吐出や紡糸機の加熱などを停止することはできず、生産屑の発生量の抑制や省エネという観点から口金汚れを可能な限り抑制することが好ましく、この抑制に有効であるという点も本発明の注目すべき効果として挙げることができる。
本発明の溶融紡糸方法において、単糸繊度2〜30dtexの繊維を得るためには、単孔吐出量は、0.5〜5.0g/分の範囲で吐出することができ、紡糸の安定性を考えれば、0.5〜3.0g/分とすることが好ましい。口金孔径に関しては、0.1〜5.0mmφのものを使用できるが、用いる熱可塑性ポリマーに応じた紡糸ドラフト(=引取速度/吐出線速度)とすることで安定した紡糸性を確保することが好ましく、例えば、熱可塑性ポリマーが衣料用グレードのポリマーであれば口金の孔径は0.1〜0.5mmφ、引取速度が1000〜6000m/分とすれば良く、産業用グレードなどの高分子量ポリマーの場合は、紡糸速度を500〜3000m/分とすることが一般であり、この時口金孔径は0.3〜1.0mmφとすると良い。特にタイヤコードなどに用いるには、引取速度を1000m/分以上として未延伸糸段階で予め微結晶を形成させておけば、延伸糸の熱収縮率を低下させることができる。紡糸温度に関しては、熱可塑性ポリマーの融点+10℃以上の紡糸温度にすれば安定した吐出が確保される。引き取られた繊維は、一旦巻き取るか引き続いて後記する延伸条件を調整することにより目的とする力学特性を付与させることができる。
単糸繊度20〜50dtexの繊維に関しては、例えば、スクリーン紗用モノフィラメントのための原糸として使用することができる。この用途では高弾性率および細繊度とするために500〜1500m/分の引取速度として低配向未延伸糸とし、一旦巻き取るか引き続いてガラス転移温度以上に加熱したローラにて3.0倍以上の高倍率延伸を施し、最終的には単糸繊度4〜15dtexの延伸糸とする。これらの紡糸においては、力学物性のために高分子量ポリマーを用いることとなり、衣料用グレードのポリマーを紡糸する場合と比較して、紡糸温度が高く設定する必要がある。さらに、単孔吐出量としては多く設定することができるものの、モノフィラメントとして巻き取るために使用する口金については10ホール以下の場合が多く、この場合でも滞留時間は長くなってしまう。この場合、高い紡糸温度と長い滞留時間の効果から吐出ポリマーの分子量低下は言うまでもないが、ポリマーの劣化物を起因としたゲル状物が吐出ポリマーに混在してしまう場合がある。このゲル状物が混在すると、延伸性の悪化から高精細印刷に必要となる細繊度・高弾性率化は困難であることに加え、このモノフィラメントを紗織りして印刷に使用すると、ゲル状物の存在する箇所が印刷欠点となるために、製品として全く使用できない等の無視できない問題を引き起こす場合がある。本発明の溶融紡糸方法においては、高分子量ポリマーであっても紡糸温度を低下させることができるため、このゲル状物の発生を抑制するためにも有効に作用する。
本発明の溶融紡糸方法は、流動性向上の効果から大吐出量の紡糸により50dtex以上の太繊度の繊維を採取することもできるが、この場合、引取ローラまでに冷却が完了せず、糸揺れから繊維の長手方向に繊維径ムラが発生する等の問題を発生させる場合があるため、単糸繊度は50dtex以下としておくことが良い。
ここで言う単糸繊度とはマルチフィラメントまたはモノフィラメントとして引き取った後採取した繊維を検尺機によって100mの小カセとし、その重量を100倍することにより、総繊度とする。この総繊度をフィラメント数で割ることで、単糸繊度として算出した値である。
実用に適した繊維物性および繊度とするために延伸を行うことが好ましいが、本発明においては、引き取られた繊維を一旦巻き取った後別工程で延伸しても良いし、引取後に連続して延伸を行っても良い。但し、延伸に際しては、特に予熱温度を適切に設定することが好ましい。というのは本発明で用いる樹状ポリエステルはガラス転移温度などの軟化温度が熱可塑性ポリマーよりも高い場合があり、例えばPET(ガラス転移温度:70℃)の通常の予熱温度である85〜95℃程度では、樹状ポリエステルが延伸過程で異物として振る舞い結果として延伸糸のタフネスの低下を招く場合がある。この影響は、特に高倍率延伸時ほど顕著に現れる。このため、樹状ポリエステルの添加量が微量であっても予熱温度は樹状ポリエステルのガラス転移温度や軟化温度以上に設定することが好ましい。予熱温度の上限としては、予熱過程で繊維の自発伸長により糸道乱れが発生しない温度とすることが好ましい。この延伸時の予熱温度設定は繊維径斑を低減や繊維の長手方向の物性の安定性に寄与することができる。
前記したように、樹状ポリエステルを添加したことによる良流動化効果のため、未添加の場合に比べ混練機温度を低温化できるのであるが、紡糸機についても設定温度を低下させることが可能であり、高粘度ポリマーほど効果的である。例えば高分子量ポリマーによる高粘度のため通常では紡糸温度を融点より大幅に高温化せざるを得ない場合であっても、樹状ポリエステル添加により熱可塑性ポリマーの融点+10℃以上であれば問題なく紡糸が可能である。一般に高分子量PETの場合にはPETの融点が260℃であるのに対し、製糸可能な紡糸温度は295℃と融点+35℃に設定することを考えれば、樹状ポリエステルを添加することにより大幅に紡糸温度を低下させることができることがわかる。また、樹状ポリエステルを添加する効果は単に紡糸温度を低下させることだけでなく、樹状ポリエステルの有するスリップ効果によって、口金孔内の壁面とのせん断応力が増大することにより発生するメルトフラクチャーなどの現象が抑制され、紡糸口金孔からのポリマーの吐出が安定して良好な繊維を得ることができる。以上のように本発明の溶融紡糸方法における紡糸温度は、樹状ポリエステルによる流動性向上の効果により、熱可塑性ポリマーの融点以上であれば、紡糸可能であるが、吐出安定性を考えれば、融点+10℃以上が好ましく、この範囲であれば吐出後の伸長変形にも問題なく紡糸することができる。比較例1では用いた熱可塑性ポリマーが1.59dL/gであるのに対し、吐出されるポリマーのIVは0.89dL/gとIVドロップは0.70dL/gと非常に大きいものであるが、実施例2に示したように紡糸温度を30℃低下させた場合には吐出されるポリマーのIVが1.20dL/gとこの場合のIVドロップは0.39dL/gと比較例1に対して55%もIVドロップが抑制されていることがわかる。このように本発明の溶融紡糸方法においては大幅に熱分解が抑制され、高分子量ポリマーを適用した場合には、熱劣化による分子量低下なく、高分子量が維持され吐出されることとなる。
また、本発明においては樹状ポリエステル添加による良流動化効果により、未添加の場合に比べ同一温度であればせん断応力が小さくなり、混練時のせん断発熱が軽減されるため、未添加の場合と比較して、高分子量の繊維を得ることが可能となる。この効果は、可能な範囲で混練温度の低温化と組み合わせることによってより大きな効果を得ることができる。この効果としては、例えば、ポリマーの熱分解や熱変性、また加水分解などを抑制することができ、熱可塑性ポリマーが本来持っていた高分子量や易加工性などを利用し易くできるのである。
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明する。なお、実施例中の測定方法は以下の方法を用いた。
A.樹状ポリエステルの絶対分子量
樹状ポリエステルの絶対分子量は樹状ポリエステルが可溶な溶媒であるペンタフルオロフェノールを使用して、GPC−MALLS(ゲル浸透クロマトグラフ(ShodexGPC−101)−光散乱検出器(Wyatt製DAWN HELEOS))により、試料濃度0.04%、測定温度23℃で測定した。
B.樹状ポリエステルの化学組成比
樹状ポリエステルの化学組成比は核磁気共鳴装置(日本電子製JNM−AL400)を用いて、ペンタフルオロフェノール/重水素化クロロホルム(50/50)混合溶媒に溶解して、40℃で1H−NMR測定を行い、ピーク強度比から各成分の化学組成比を算出した。
C.樹状ポリエステルの融点
樹状ポリエステルの融点(Tm)は、樹状ポリエステルを、示差熱量測定において、室温から20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm1)の観測後、Tm1+20℃の温度で5分間保持し、20℃/分の降温条件で室温まで一旦冷却し、再度20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm)とした。
D.樹状ポリエステルの分子末端カルボン酸基量測定
分子末端カルボン酸基量測定は、中和滴定法によって行った。樹状ポリエステル0.5gをo−クロロフェノール10mLに90℃で加熱しながら溶解させ、冷却した後、クロロホルム4mLを加えた。ブロモフェノールブルー−エタノール溶液(0.2重量%)を数滴加えた後、滴定試薬(0.04M水酸化カリウム−メタノール溶液)をビュレットを用いて滴下し、中和点に達するまでに滴下した滴定試薬量から樹状ポリエステルの末端カルボン酸量を計算した。
E.ポリエステルの極限粘度(IV)(熱可塑性ポリマーおよび吐出ポリマー)
ポリエステルの極限粘度はo−クロロフェノールに溶解してオストワルド式粘度計を用いて25℃で測定した。
F.ナイロンの相対粘度(ηr)(熱可塑性ポリマーおよび吐出ポリマー)
98%硫酸水溶液にナイロンを溶解し0.01g/mLの濃度に調整した後、オストワルド式粘度計を用いて25℃で測定した。
G.熱可塑性ポリマーの融点
TA Instruments社製DSC2920 Modulated DSCを用いて、2nd runでポリマーの融解を示すピークトップ温度をポリマーの融点とした。この時の昇温速度は16℃/分、サンプル量は10mgとした。
H.繊維の単糸繊度
繊維を検尺機によって100mの小綛とし、その重量を100倍することにより、総繊度とした。総繊度をフィラメント数で割ることで、単糸繊度を算出した。
I.繊維の力学特性(強度、伸度、タフネス)
室温(25℃)で、初期試料長=200mm、引っ張り速度=200mm/分とし、JIS L1013に示される条件で荷重−伸長曲線を求めた。次に破断時の荷重値を初期の繊度で割り、それを強度とし、破断時の伸びを初期試料長で割り伸度として強伸度曲線を求めた。また、下記式に従い、強度および伸度からタフネスを算出した。
(タフネス)=(強度)×√(伸度) (cN/dtex・%1/2) 。
参考例1(樹状ポリエステルA−1の合成)
攪拌翼および留出管を備えた500mLの反応容器にp−ヒドロキシ安息香酸66.3g(0.48モル)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル8.38g(0.045モル)、テレフタル酸7.48g(0.045モル)、固有粘度が約0.6dl/gのポリエチレンテレフタレ−ト14.41g(0.075モル)、トリメシン酸31.52g(0.15モル)を加えておよび無水酢酸62.48g(フェノール性水酸基合計の1.00当量)を仕込み、窒素ガス雰囲気下で攪拌しながら145℃で2時間反応させた。その後、280℃まで昇温し、3時間攪拌し、理論留出量の91%の酢酸が留出したところで加熱および攪拌を停止し、内容物を冷水中に吐出した。
得られた樹状ポリエステルを、乾燥機を用いて110℃で5時間乾燥した後、ブレンダーを用いて粉砕し、得られた樹状ポリエステル粉末を、真空加熱乾燥機を用いて100℃で12時間加熱真空乾燥した。
乾燥後の樹状ポリエステル粉末70gと、カルボン酸反応性単官能化合物としてオルト酢酸エチル31.4g(0.19モル)を、撹拌翼を備えた500mLの反応容器に仕込み、200℃に昇温した。200℃で20分撹拌した後、内容物を冷水中に吐出した。
得られた樹状ポリエステル(A−1)について、核磁気共鳴スペクトル分析を行った結果、トリメシン酸残基に対して、p−オキシベンゾエート単位の含量pが2.66(53.2モル%)、4,4’−ジオキシビフェニル単位とエチレンオキシド単位の含量qが0.66(13.2モル%)、テレフタレート単位の含量rが0.66(13.2モル%)であり、p+q+r=4であった。
得られた樹状ポリエステル(A−1)の融点Tmは172℃、数平均分子量2100であった。
また、得られた樹状ポリエステル(A−1)の分子末端カルボン酸基量は、0.23×10−6当量/gであった。
参考例2(樹状ポリエステルA−2の合成)
カルボン酸反応性単官能化合物をオルト酢酸エチル20.9g(0.13モル)である以外は参考例1と同様にして、樹状ポリエステル(A−2)を得た。得られた樹状ポリエステルの評価結果を表1に示す。
参考例3(樹状ポリエステルA−3の合成)
カルボン酸反応性単官能化合物を2−フェニル−2−オキサゾリン28.5g(0.19モル)である以外は参考例1と同様にして、樹状ポリエステル(A−3)を得た。得られた樹状ポリエステルの評価結果を表1に示す。
参考例4(樹状ポリエステルA−4の合成)
カルボン酸反応性単官能化合物を2−オクチル−2−オキサゾリン28.5g(0.19モル)である以外は参考例1と同様にして、樹状ポリエステル(A−4)を得た。得られた樹状ポリエステルの評価結果を表1に示す。
参考例5(樹状ポリエステルA−5の合成)
カルボン酸反応性単官能化合物を安息香酸グリシジルエステル34.4g(0.19モル)である以外は参考例1と同様にして、樹状ポリエステル(A−5)を得た。得られた樹状ポリエステルの評価結果を表1に示す。
参考例6(樹状ポリエステルA−6の合成)
カルボン酸反応性単官能化合物をネオデカン酸グリシジルエステル43.0g(0.19モル)である以外は参考例1と同様にして、樹状ポリエステル(A−6)を得た。得られた樹状ポリエステルの評価結果を表1に示す。
参考例7(樹状ポリエステルB−1の合成)
攪拌翼および留出管を備えた500mLの反応容器にp−ヒドロキシ安息香酸66.3g(0.48モル)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル8.38g(0.045モル)、テレフタル酸7.48g(0.045モル)、固有粘度が約0.6dl/gのポリエチレンテレフタレ−ト14.41g(0.075モル)、トリメシン酸31.52g(0.15モル)を加えておよび無水酢酸62.48g(フェノール性水酸基合計の1.00当量)を仕込み、窒素ガス雰囲気下で攪拌しながら145℃で2時間反応させた。その後、280℃まで昇温し、3時間攪拌し、理論留出量の91%の酢酸が留出したところで加熱および攪拌を停止し、内容物を冷水中に吐出し、分子末端を封鎖していない樹状ポリエステル(B−1)を得た。樹状ポリエステルB−1の評価結果を表1に示す。
参考例8(樹状ポリエステルB−2の合成)
カルボン酸反応性単官能化合物をオルト酢酸エチル7.85g(0.05モル)である以外は参考例1と同様にして、分子末端の封鎖を不十分とした樹状ポリエステル(B−2)を得た。樹状ポリエステルB−2の評価結果を表1に示す。
Figure 0005109986
実施例1〜4、比較例1〜6
参考例1で合成した樹状ポリエステルA−1と、IV1.59dL/gの高分子量ポリエチレンテレフタレート(PET 融点260℃)を乾燥した後、別々に計量し、独立に二軸混練機(15mmφ、L/D=15)に仕込んだ。この時、樹状ポリエステルの添加量は、1wt%とした。二軸押出混練機の温度は290℃、スクリュー回転数は100rpmとし、二軸押出混練機の吐出側でベントを行い、泡を消した。紡糸温度は290℃とし、絶対濾過径10μの金属不織布で濾過した後、丸孔10ホール(φ=0.6mm L/D=1.5)の口金から単孔吐出量は2.0g/分で吐出し、ユニフローの冷却風帯域(チムニー)を通過させた後給油し、速度600m/分としたローラによって巻き取った(実施例1)。また、比較として樹状ポリエステルを添加しない場合(比較例1)、参考例7で合成した分子末端を封鎖していない樹状ポリエステルB−1(比較例3)および参考例8で合成した分子末端の封鎖を不十分とした樹状ポリエステルB−2(比較例4)を添加した場合を表2に記載の条件で行った。また、参考までにそれぞれの場合について、本発明の溶融紡糸方法の効果を見るため、混練機温度および紡糸温度について、表2に示すように段階的に変更し、スクリュートルク(押出負荷電流値)およびパック圧変化を調べるとともに、吐出ポリマーIVおよび繊維の力学特性について評価した。
実施例1,2と比較例1の比較から明らかなように、樹状ポリエステルを添加することで顕著なパック圧力の低下が起こり、流動性が高分子量PETの流動性が向上していることが確かめられた(図1)。また、吐出ポリマーIVを評価すると、混練温度および紡糸温度の低下に伴って増加し、280℃に設定した実施例2については1.20dL/gという非常に高分子量のPET繊維が得られていることがわかった(図2)。この押流IVの向上の効果は繊維の力学特性に好適であり、吐出ポリマーIVの増加に伴ってタフネスが向上した未延伸糸が得られていることがわかる。未添加のまま混練機温度を低下させた比較例2においては、負荷電流値が制御値(13A)を越え、溶融ポリマーの押出さえも満足にできない状況であった。また、樹状ポリエステルの効果を明確にするため、参考データとして樹状ポリエステルA−1を添加し、紡糸温度のみ310℃と変更した場合を調べ、図1に記載した。比較例1と同紡糸温度で大きくパック圧が低下しており、請求項1記載の樹状ポリエステルの効果の高さがわかった。
樹状ポリエステルのカルボン酸基量の影響を見るため、実施例1,2と比較例3〜6の結果を比較すると、樹状ポリエステルの添加により良流動性の効果を発現し、比較例1と比較して、スクリュートルクおよびパック圧は低下することが確認されるが、カルボン酸基量に伴って押流IVが若干低下し、実施例1,2と比較して、力学特性が低下したものとなり、樹状ポリエステルを添加する溶融紡糸方法において、樹状ポリエステルの末端構造を制御する必要性がわかった。結果を表2、図1および図2に示す。
Figure 0005109986
実施例3,4
樹状ポリエステルA−1の添加量を0.1および10wt%としたこと以外は実施例1に従って、実施した。
添加量を0.1wt%とした実施例3においても比較例1と比較して紡糸温度を低下させているにも関わらずスクリュートルクおよびパック圧が低下しており、樹状ポリエステルの良流動性の効果が得られていることがわかる。また、添加量を10wt%とした実施例4では大幅なパック圧低下が見られ、かつ紡糸性についても問題なく、繊維を採取できることがわかった。結果を表3に示す。
実施例5〜7
樹状ポリエステルを参考例2で合成したA−2とし、表3に示す紡糸条件に基づいて実施した。
実施例5から樹状ポリエステルがA−2となった場合においても、添加による良流動性の効果が得られていることがわかり、添加量を0.1wt%とした実施例6においてもこの効果が得られることがわかる。さらに混練温度および紡糸温度を低下させた実施例7においては吐出ポリマーIV1.09dL/gの高分子量PET繊維が得られていることがわかった。結果を表3に示す。
Figure 0005109986
実施例8〜11
樹状ポリエステルを参考例3で合成したA−3、参考例4で合成したA−4、参考例5で合成したA−5および参考例6で合成したA−6とし、表4に示した条件で紡糸を行った。
カルボン酸反応性単官能化合物が、オキサゾリン(実施例8,9)またはエポキシド(実施例10,11)とした場合においても紡糸性には問題なく、樹状ポリエステルを添加したことによる良流動性の効果から比較例1と比較して、スクリュートルクおよびパック圧が低下することがわかった。結果を表4に示す。
Figure 0005109986
実施例12
参考例1で合成した樹状ポリエステルA−1を用い、PET(融点260℃)のIVを1.10dL/gとして、表5に示す条件において紡糸を行った。
PETの分子量を低下させた場合にも樹状ポリエステルを添加したことによる良流動性の効果から紡糸温度を280℃まで低下させることができ、この温度条件においても問題なく紡糸することが可能であることがわかった。結果を表5に示す。
実施例13,14
参考例1で合成した樹状ポリエステルA−1を用い、IVを0.65dL/gの衣料用グレードPET(融点255℃)のとして、表5に示すように単孔吐出量を低下させ紡糸を行った。
実施例1と比較して極限粘度を低下させた実施例15においても、樹状ポリエステルの添加の効果が顕著に見られ、275℃という通常PET紡糸を参照すると低温に温度設定した紡糸においても問題なく、紡糸できることがわかった。さらに、一般に単孔吐出量を低下させることで紡糸性は悪化するが、樹状ポリエステル添加による良流動性の効果および紡糸温度の低下による強制冷却から、低吐出量に設定した紡糸においても安定した紡糸性を維持できることがわかった。結果を表5に示す。
Figure 0005109986
実施例15〜17、比較例7〜9
PET以外のポリエステルに添加した場合の効果を見るため、熱可塑性ポリマーをIV1.51dL/gのポリトリメチレンテレフタレート(3GT 融点230℃)として、表6に示す条件において紡糸を行った。
熱可塑性ポリマーを3GTとした場合においても、樹状ポリエステルを添加することによる良流動性の効果は発現し、比較例7と比較してパック圧が低下することがわかった。また、紡糸温度低下させるに伴い、吐出ポリマーIVは増加し、力学特性が大きく向上することがわかった。樹状ポリエステルB−1を添加した比較例8および樹状ポリエステルB−2を添加した比較例9においてもパック圧の低下は見られるものの、比較例7と比較して吐出ポリマーIVが低下してしまうことがわかった。
また、比較例7においては紡糸温度が高いため、8時間紡糸後の口金面を見ると、分解ガスの発生により24ホール中10ホールで吐出孔付近に白濁した分解物が付着しているのに対し、実施例19や20においては24ホール中1ホールに微細な付着物が見られる程度であり、本発明の溶融紡糸方法においては口金汚れを抑制する効果に優れたものであることがわかった。結果を表6に示す。
実施例18、比較例10
熱可塑性ポリマーをIVが0.85dL/gのポリブチレンテレフタレート(PBT 融点225℃)として、表6に示す条件によって紡糸を行った。
比較例10と比較して、実施例21では紡糸温度を10℃低下させてもパック圧がほぼ同等であり、吐出ポリマーIVについては向上していることがわかった。また、吐出ポリマーIVの増加にともなって繊維の力学特性も向上していることが確認された。結果を表6に示す。
Figure 0005109986
実施例19,20、比較例11,12
ポリエステル以外のポリマーへの効果を確認するため、熱可塑性ポリマーをηr3.5のナイロン66(N66 融点260℃)として、表8に示すように紡糸温度および紡糸速度を変更して紡糸を行った。巻き取り雰囲気は25℃ 60%RHであった。
パック圧について樹状ポリエステルの添加および未添加の場合を比較すると(実施例19と比較例11)、紡糸温度を15℃低下させてもパック圧の値はほぼ同等であり、紡糸温度の低下が可能であることがわかった。結果を表7に示す。また、樹状ポリエステルを添加しない比較例11では、紡糸速度600m/分と低紡糸速度であるにも係わらず、縦膨潤の影響により巻き取りパッケージがみるみる膨れ上がり、5分以上の巻取りが困難であるのに対し、樹状ポリエステルを添加した実施例19に関しては、巻取りパッケージが崩れることなく、30分以上の巻取りが可能であった。紡糸速度を増加させた比較例12に関しては、3分以上の巻き取りはできず、巻き取った後のパッケージは大きく崩れたものであった。それに対して樹状ポリエステルを添加した実施例20については、30分以上の巻取りが可能であった。参考までに、実施例19,20および比較例11,12の紡糸条件において、糸掛して15秒でサンプリングを中止し、直後に糸を2m測定して採取し、25℃ 60%RHの雰囲気下において30分間放置した。放置30分時点でのサンプル長を測定して、その放置前後のサンプル長から縦膨潤率を下式にもとづき算出した。樹状ポリエステル未添加のN66繊維はそれぞれ紡糸速度600m/分(比較例11)の縦膨潤率が6.2%、紡糸速度1500m/分(比較例12)の縦膨潤率が9.1%であるのに対し、樹状ポリエステルを添加したN66繊維では紡糸速度600m/分(実施例19)で縦膨潤率が0.9%、紡糸速度1500m/分(実施例20)で縦膨潤率が1.0%と大幅に抑制されていることがわかった。
<縦膨潤率>
Figure 0005109986
Figure 0005109986
実施例21、比較例13
熱可塑性ポリマーをηr2.6のN66(融点260℃)として、表8に示したように紡糸温度を変化させて紡糸を行った。巻き取り雰囲気は25℃ 60%RHであった。
樹状ポリエステルを添加しない比較例13と比較して、紡糸温度を15℃低下させた場合でもパック圧は同等であり、樹状ポリエステルの添加によって紡糸温度を低下できる可能性があることがわかった。また、実施例19と同様に樹状ポリエステルを添加した場合は30分以上安定した巻取りができるのに対し、樹状ポリエステルを添加しない比較例13に関しては、5分以上の巻き取りはできなかった。実施例19に記載の方法において、縦膨潤率を測定したところ、樹状ポリエステルを添加しない比較例13に関しては、縦膨潤率が12%と大きく縦膨潤するのに対して、樹状ポリエステルを添加した実施例21においては縦膨潤率が2.1%と大きく抑制されていることがわかった。
実施例22、比較例14
熱可塑性ポリマーをηr2.5のナイロン6(N6 融点220℃)として、表8に示す条件に示したように紡糸温度を変化させて紡糸を行った。巻き取り雰囲気は25℃ 60%RHであった。
実施例22は比較例14と比較して、紡糸温度を20℃低下した場合でもパック圧が同等であり、N6に添加した場合でも効果が高く、紡糸温度低下が可能であることがわかった。結果を表8に示す。また、比較例14では縦膨潤の影響により、5分以上のサンプリングが困難であったのに対して、樹状ポリエステルを添加した実施例22では、パッケージの変化もなく、30分以上安定した巻取りが可能であった。また、実施例22と同様に縦膨潤率を測定したところ、樹状ポリエステル未添加のN6繊維(比較例14)は縦膨潤率が11.5%であるのに対し、樹状ポリエステルを添加したN6繊維(実施例22)では縦膨潤率が2.5%と大幅に抑制されていることがわかった。
Figure 0005109986
1:ホッパー
2:計量装置
3:押出混練機
4:紡糸ヘッド
5:紡糸パック
6:紡糸口金
7:糸条
8:チムニー
9:集束給油ガイド
10:第1引き取りローラ
11:第2引き取りローラ
12:巻き取り糸

Claims (5)

  1. 芳香族オキシカルボニル単位(P)、芳香族および/または脂肪族ジオキシ単位(Q)、および、芳香族ジカルボニル単位(R)から選ばれる少なくとも1種の構造単位と3官能の有機残基(B)から構成され、かつ前記P、Q、R、およびBの含有量の合計に対してBの含有量が7.5〜50モル%であり、末端のカルボン酸基量が1×10−4当量/g以下である樹状ポリエステルを、熱可塑性ポリマーへ含有率0.1〜10wt%となるようにブレンドし、次いで熱可塑性ポリマーの融点+30℃以下の紡糸温度で溶融紡糸することを特徴とする溶融紡糸方法。
  2. 樹状ポリエステルがカルボン酸反応性単官能化合物残基を含有することを特徴とする請求項1に記載の溶融紡糸方法。
  3. カルボン酸反応性単官能化合物が、オルトエステル、オキサゾリン、エポキシドから選ばれる少なくとも1種の化合物である請求項2に記載の溶融紡糸方法。
  4. 溶融紡糸するに際して、単孔吐出量が5.0×10−3〜5.0g/分であることを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載の溶融紡糸方法。
  5. 熱可塑性ポリマーがポリエステルであることを特徴とする請求項1〜4いずれかに記載の溶融紡糸方法。
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