以下に、本発明にかかる零相電流差動リレーの実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
実施の形態1.
図1〜図5を用いてこの発明の実施の形態1を説明する。図1は、この発明における零相電流差動リレーが適用される電力用システムの構成を示す図である。図1において、電力用システムは、電源E1と電源E2とが電力用送電線1で接続されており、電力用送電線1の両端に変流器2(2−1,2−2を示す)が配置され、変流器2の2次電流を取り込んで電力用送電線1上の故障の発生の有無を検出し、検出結果に基づいて電力用送電線1の両端に設置された遮断器(図示せず)を制御して電力用送電線1を保護する零相電流差動リレー3(3−1,3−2を示す)とを備えている。図1においては、電源E1側に変流器2−1が配置され、電源E2側に変流器2−2が配置され、零相電流差動リレー3−1が変流器2−1の2次電流を取り込み、零相電流差動リレー3−2が変流器2−2の2次電流を取り込む構成となっている。
零相電流差動リレー3は、自端側の変流器2(零相電流差動リレー3−1の場合は変流器2−1であり、零相電流差動リレー3−2の場合は変流器2−2)からの電流を取り込み、取り込んだ電流の電流値を電流情報として相手端側の零相電流差動リレー3(零相電流差動リレー3−1の場合は零相電流差動リレー3−2であり、零相電流差動リレー3−2の場合は零相電流差動リレー3−1)に送信する通信機能を備えている。零相電流差動リレー3は、自端側の変流器2からの電流と、相手端側の零相電流差動リレー3から受信した電流情報とに基づいて電力用送電線1上の故障の発生の有無を検出する比率差動演算を行い、比率差動演算結果に基づいて遮断器を制御する制御信号を出力する。
図2は、図1に示した零相電流差動リレー3の構成を示すブロック図である。なお、零相電流差動リレーは、電力用送電線1上の故障を検出する送電線保護リレー要素の一つとしての構成要素であるが、ここでは、本発明の本旨である零相電流差動リレー要素とその単相動作に関する構成のみを説明する。
図2において、零相電流差動リレー3は、入力電流変換部4(4A,4B,4Cを示す)、送信部17、受信部5、受信電流変換部6(6A,6B,6Cを示す)、電流時刻同期部7、合成部8(8A,8B,8Cを示す)、正相合成部11、逆相合成部12、自端零相合成部9、相手端零相合成部10、両端零相合成部13、零相電流差動リレー要素部14、故障相判定部15、およびAND回路16(16A,16B,16C,16BC,16CA,16ABを示す)を備えている。
入力電流変換部4Aは、自端側の変流器2から入力される3相入力のうちA相の自端電流IAに変換処理を施して得られたA相の自端電流データI1Aを送信部17と電流時刻同期部7に出力する。入力電流変換部4Bは、自端側の変流器2から入力される3相入力のうちB相の自端電流IBに変換処理を施して得られたB相の自端電流データI1Aを送信部17と電流時刻同期部7に出力する。入力電流変換部4Cは、自端側の変流器2から入力される3相入力のうちC相の自端電流ICに変換処理を施して得られたC相の自端電流データI1Cを送信部17と電流時刻同期部7に出力する。変換処理は、自端側の変流器2からの当該相の自端電流I(IA,IB,ICを示す)を零相電流差動リレー3内に取り込んで零相電流差動リレー3で扱う電流データに変換する処理である。具体的には、当該電流Iを取り込んで変流器2の2次側と絶縁し、取り込んだ電流の高調波を除去し、高調波を除去した自端電流Iをデジタル信号の自端電流データI1(I1A.I1B,I1Cを示す)に変換する。
送信部17は、相手端側の零相電流差動リレー3との通信インタフェースを有し、入力電流変換部4から入力される電流データI1を電流情報として相手端零相電流差動リレー3に送信する。通信インタフェースとしては、たとえば、PCM(Pulse Code Modulation)伝送を用いる。
受信部5は、相手端側の零相電流差動リレー3との通信インタフェースを有し、相手端側の零相電流差動リレー3の送信部17からの電流情報を受信する。受信部5は、受信した電流情報を受信電流変換部6に出力するとともに、電流情報を受信した旨を電流時刻同期部7に通知する。
受信電流変換部6Aは、受信部5から入力される電流情報から相手端の零相電流差動リレー3のA相の自端電流データI1Aを抽出してA相の相手端電流データIR1Aとして合成部8Aと相手端零相合成部10とに出力する。受信電流変換部6Bは、受信部5から入力される電流情報から相手端の零相電流差動リレー3のB相の自端電流データI1Bを抽出してB相の相手端電流データIR1Bとして合成部8Bと相手端零相合成部10とに出力する。受信電流変換部6Cは、受信部5から入力される電流情報から相手端の零相電流差動リレー3のC相の自端電流データI1Cを抽出してC相の相手端電流データIR1Cとして合成部8Cと相手端零相合成部10とに出力する。
電流時刻同期部7は、受信部5からの電流情報を受信した旨の通知に基づいて相手端の零相電流差動リレー3の電流の伝搬遅延時間を補正して、受信電流変換部6が出力する相手端電流データIR1(IR1A,IR1B,IR1Cを示す)と、入力電流変換部4が出力する自端電流データI1との時刻関係を同期させ、同期させた自端電流データI2(I2A,I2B,I2Cを示す)を合成部8と自端零相合成部9とに出力する。
合成部8は、電流時刻同期部7から入力される各相毎の自端電流データI2と、受信電流変換部6から入力される各相毎の相手端電流データIR1とのベクトル和を求め、求めたベクトル和を当該相の合成電流データIS(IAS,IBS,ICSを示す)として正相合成部11と逆相合成部12とに出力する。合成部8Aは、A相の自端電流データI2AとA相の相手端電流データIR1Aとのベクトル和をA相の合成電流IASとして正相合成部11と逆相合成部12とに出力する。合成部8Bは、B相の自端電流データI2BとB相の相手端電流データIR1Bとのベクトル和をB相の合成電流IBSとして正相合成部11と逆相合成部12とに出力する。合成部8Cは、C相の自端電流データI2CとC相の相手端電流データIR1Cとのベクトル和をC相の合成電流ICSとして正相合成部11と逆相合成部12とに出力する。
正相合成部11は、合成部8から入力される各相毎の合成電流データISに基づいて、各相を基準相として正相電流を合成した各相の正相電流データI1S(I1SA,I1SB,I1SCを示す)を求める。ここで、A相の合成電流データをIASとし、B相の合成電流データをIBSとし、C相の合成電流データをICSとすると、A相を基準相とする合成電流の正相電流データI1SAは、
I1SA=(IAS+IBS∠120°+ICS∠240°)/3 … (式1)
で表すことができる。
また、B相を基準相とする合成電流の正相電流データI1SBは、
I1SB=(IAS∠240°+IBS+ICS∠120°)/3 … (式2)
で表すことができる。
また、C相を基準相とする合成電流の正相電流データI1SCは、
I1SC=(IAS∠120°+IBS∠240°+ICS)/3 … (式3)
で表すことができる。
正相合成部11は、上記(式1)〜(式3)を用いて各相を基準とした正相電流データI1Sを求め、求めた正相電流データI1Sを故障相判定部15に出力する。
逆相合成部12は、合成部8から入力される各相毎の合成電流データISに基づいて、各相を基準相として逆相電流を合成した各相の逆相電流データI2S(I2SA,I2SB,I2SCを示す)を求める。ここで、A相の合成電流データをIASとし、B相の合成電流データをIBSとし、C相の合成電流をICSとすると、A相を基準相とする合成電流の逆相電流データI2SAは、
I2SA=(IAS+IBS∠240°+ICS∠120°)/3 … (式4)
で表すことができる。
また、B相を基準相とする合成電流の逆相電流データI2SBは、
I2SB=(IAS∠120°+IBS+ICS∠240°)/3 … (式5)
で表すことができる。
また、C相を基準相とする合成電流の逆相電流データI2SCは、
I2SC=(IAS∠240°+IBS∠120°+ICS)/3 … (式6)
で表すことができる。
逆相合成部12は、上記(式4)〜(式6)を用いて各相を基準とした逆相電流データI2Sを求め、求めた逆相電流データI2Sを故障相判定部15に出力する。
自端零相合成部9は、電流時刻同期部7から入力される同期された自端電流データI2の零相電流を合成する。自端零相合成部9は合成した電流を自端合成零相電流データI0Lとして両端零相合成部13と零相電流差動リレー要素部14とに出力する。
相手端零相合成部10は、受信電流変換部6から入力される相手端電流データIR1の零相電流を合成する。相手端零相合成部10は、合成した電流を相手端合成零相電流データI0Rとして両端零相合成部13と零相電流差動リレー要素部14とに出力する。
両端零相合成部13は、自端零相合成部9から入力される自端合成零相電流データI0Lと相手端零相合成部10から入力される相手端合成零相電流データI0Rとを合成する。両端零相合成部13は、合成した電流データを合成零相電流データI0Sとして故障相判定部15に出力する。
零相電流差動リレー要素部14は、自端零相合成部9から入力される自端合成零相電流データI0L、および相手端零相合成部10から入力される相手端合成零相電流データI0Rに基づいて差動演算を行い、差動演算結果をAND回路16に出力するとともに、零相電流差動リレー要素出力として外部に出力する。
故障相判定部15は、正相合成部11から入力される各相毎の正相電流データI1S、逆相合成部12から入力される各相毎の逆相電流データI2S、および両端零相合成部13から入力される合成零相電流データI0Sに基づいて、電力用送電線1上の故障の発生の有無、および故障が発生している場合の故障相を判定する。故障相判定部15は、A相の1相地絡故障であると判定した場合には判定出力OAを有効(「有効」とは制御動作を行わせる信号を出力するという意味で使用、以下同じ)にし、その他の判定出力OB,OC,OBC,OCA,OABを無効(「無効」とは制御動作を行わせる信号を出力しないという意味で使用、以下同じ)にする。故障相判定部15は、B相の1相地絡故障であると判定した場合には判定出力OBを有効にし、その他の判定出力OA,OC,OBC,OCA,OABを無効にする。故障相判定部15は、C相の1相地絡故障であると判定した場合には判定出力OCを有効にし、その他の判定出力OA,OB,OBC,OCA,OABを無効にする。
また、故障相判定部15は、BC相の2相地絡故障であると判定した場合は、判定出力OBCを有効にし、その他の判定出力OA,OB,OC,OCA,OABを無効にする。故障相判定部15は、CA相の2相地絡故障であると判定した場合は、判定出力OCAを有効にし、その他の判定出力OA,OB,OC,OBC,OABを無効にする。故障相判定部15は、AB相の2相地絡故障であると判定した場合は、判定出力OABを有効にし、その他の判定出力OA,OB,OC,OBC,OCAを無効にする。
AND回路16は、故障相判定部15から入力される各相の判定結果を示す判定出力O(OA,OB,OC,OBC,OCA,OABを示す)と、零相電流差動リレー要素部14から入力される零相電流要素出力との論理積を各相の動作判定結果AΦT,BΦT,CΦT,BCΦT,CAΦT,ABΦTとして出力する。なお、上述した故障相判定部15およびAND回路16は、本発明における判定部の機能を提供する。
つぎに、この実施の形態1の零相電流差動リレー3の動作について説明する。入力電流変換部4は、自端側の変流器2から入力される3相入力のうちの当該相の電流Iに変換処理を施す。当該相の電流Iに変換処理を施して得られた自端電流データI1を送信部17と電流時刻同期部7とに出力する。送信部17は、入力電流変換部4から入力された自端電流データI1を電流情報として相手端側の零相電流差動リレー3に送信する。
一方、受信部5は、相手端側の零相電流差動リレー3の送信部17が送信した電流情報を受信し、受信した電流情報を受信電流変換部6に出力するとともに、電流情報を受信した旨を電流時刻同期部7に通知する。受信電流変換部6は、電流情報から相手端側の零相電流差動リレー3の当該相における相手端電流データを抽出し、抽出した相手端電流データを相手端電流データIR1として当該相に対応する合成部8と相手端零相合成部10とに出力する。
電流時刻同期部7は、受信部5からの電流情報を受信した旨の通知に基づいて相手端の零相電流差動リレー3の電流の伝搬遅延時間を補正して、相手端電流データIR1と自端電流データI1との時刻関係を同期させ、同期させた自端電流データI2を当該相に対応する合成部8と自端零相合成部9とに出力する。
合成部8は、当該相の自端電流データI2と当該相の相手端電流データIR1とのベクトル和を求め、求めたベクトル和を当該相の合成電流データISとして正相合成部11と逆相合成部12とに出力する。
正相合成部11は、各相毎の合成電流データISを用いて上記(式1)〜(式3)によって各相を基準相とする合成電流の正相電流データI1Sを求めて故障相判定部15に出力する。逆相合成部12は、各相毎の合成電流データISを用いて上記(式4)〜(式6)によって各相を基準相とする合成電流の逆相電流データI2Sを求めて故障相判定部15に出力する。
自端零相合成部9は、電流時刻同期部7から入力される各相の自端電流データI2の零相電流を合成して得られた自端合成零相電流データI0Lを両端零相合成部13と零相電流差動リレー要素部14とに出力する。相手端零相合成部10は、受信電流変換部6から入力される各相の相手端電流データIR1の零相電流を合成して得られた相手端合成零相電流データI0Rを両端零相合成部13と零相電流差動リレー要素部14とに出力する。
両端零相合成部13は、自端合成零相電流データI0Lと合成零相電流データI0Rとを合成して得られた合成零相電流データI0Sを故障相判定部15に出力する。零相電流差動リレー要素部14は、自端合成零相電流データI0Lおよび相手端合成零相電流データI0Rに基づいて差動演算を行い、差動演算結果をAND回路16に出力するとともに、零相電流差動リレー要素出力として外部に出力する。
故障相判定部15は、各相毎の正相電流データI1S、各相毎の逆相電流データI2S、および合成零相電流データI0Sに基づいて、電力用送電線1上の故障の発生の有無、および故障が発生している場合の故障相を判定する。
図3のフローチャートを参照して、故障相判定部15の判定処理動作を詳細に説明する。故障相判定部15は、合成零相電流データI0Sが予め定められた閾値ε1より大きいか否かを判定する(ステップS100)。ここで、閾値ε1は、零相電流差動リレー要素部14の零相差電流リレー要素感度と同等の感度を示す値、または零相電流差動リレー要素部14の零相差電流リレー要素感度以上とする。
合成零相電流データI0Sが閾値ε1より大きい場合(ステップS100,Yes)、故障相判定部15は、合成零相電流データI0SとA相を基準相とした合成電流に対する逆相電流データI2SAとの位相差が動作領域の範囲内であるか否かを判定する。合成零相電流データI0SとA相を基準相とした合成電流に対する逆相電流データI2SAとの位相差が動作領域の範囲内ではないと判定した場合(ステップS101,No)、故障相判定部15は、合成零相電流データI0SとB相を基準相とした合成電流に対する逆相電流データI2SBとの位相差が動作領域の範囲内であるか否かを判定する(ステップS102)。
合成零相電流データI0SとB相を基準相とした合成電流に対する逆相電流データI2SBとの位相差が動作領域の範囲内ではないと判定した場合(ステップS102,No)、故障相判定部15は、合成零相電流データI0SとC相を基準相とした合成電流に対する逆相電流データI2SCとの位相差が動作領域の範囲内であるか否かを判定する(ステップS103)。
合成零相電流データI0SとC相を基準相とした合成電流に対する逆相電流データI2SCとの位相差が動作領域の範囲内であると判定した場合(ステップS103,Yes)、故障相判定部15は、C相を基準相とした合成電流に対する逆相電流データI2SCとC相を基準相とした合成電流に対する正相電流データI1SCとの位相差が動作領域の範囲内であるか否かを判定する(ステップS104)。
C相を基準相とした合成電流に対する逆相電流データI2SCとC相を基準相とした合成電流に対する正相電流データI1SCとの位相差が動作領域の範囲内であると判定した場合(ステップS104,Yes)、故障相判定部15は、C相の1相地絡故障判定を示す判定出力OCのみを有効にし、その他の判定出力OA,OB,OBC,OCA,OABを無効にする(ステップS105)。
C相を基準相とした合成電流に対する逆相電流データI2SCとC相を基準相とした合成電流に対する正相電流データI1SCとの位相差が動作領域の範囲内ではないと判定した場合(ステップS104,No)、故障相判定部15は、AB相の2相地絡故障判定を示す判定出力OABのみを有効にし、その他の判定出力OA,OB,OC,OBC,OCAを無効にする(ステップS106)。
一方、合成零相電流データI0Sが閾値ε1より以下の場合(ステップS100,No)、または合成零相電流データI0SとC相を基準相とした合成電流に対する逆相電流データI2SCとの位相差が動作領域の範囲内ではないと判定した場合(ステップS103,No)、故障相判定部15は、電力用送電線1上に地絡故障が発生していないと判定して、すべての判定出力OA,OB,OC,OBC,OCA,OABを無効にする(ステップS107)。
一方、合成零相電流データI0SとB相を基準相とした合成電流に対する逆相電流データI2SBとの位相差が動作領域の範囲内であると判定した場合(ステップS102,Yes)、故障相判定部15は、B相を基準相とした合成電流に対する逆相電流データI2SBとB相を基準相とした合成電流に対する正相電流データI1SBとの位相差が動作領域の範囲内であるか否かを判定する(ステップS108)。
B相を基準相とした合成電流に対する逆相電流データI2SBとB相を基準相とした合成電流に対する正相電流データI1SBとの位相差が動作領域の範囲内であると判定した場合(ステップS108,Yes)、故障相判定部15は、B相の1相地絡故障判定を示す判定出力OBのみを有効にし、その他の判定出力OA,OC,OBC,OCA,OABを無効にする(ステップS109)。
B相を基準相とした合成電流に対する逆相電流データI2SBとB相を基準相とした合成電流に対する正相電流データI1SBとの位相差が動作領域の範囲内ではないと判定した場合(ステップS108,No)、故障相判定部15は、CA相の2相地絡故障判定を示す判定出力OCAのみを有効にし、その他の判定出力OA,OB,OC,OBC,OABを無効にする(ステップS110)。
一方、合成零相電流データI0SとA相を基準相とした合成電流に対する逆相電流データI2SAとの位相差が動作領域の範囲内であると判定した場合(ステップS101,Yes)、故障相判定部15は、A相を基準相とした合成電流に対する逆相電流データI2SAとA相を基準相とした合成電流に対する正相電流データI1SAとの位相差が動作領域の範囲内であるか否かを判定する(ステップS111)。
A相を基準相とした合成電流に対する逆相電流データI2SAとA相を基準相とした合成電流に対する正相電流データI1SAとの位相差が動作領域の範囲内であると判定した場合(ステップS111,Yes)、故障相判定部15は、A相の1相地絡故障判定を示す判定出力OAのみを有効にし、その他の判定出力OB,OC,OBC,OCA,OABを無効にする(ステップS112)。
A相を基準相とした合成電流に対する逆相電流データI2SAとA相を基準相とした合成電流に対する正相電流データI1SAとの位相差が動作領域の範囲内ではないと判定した場合(ステップS111,No)、故障相判定部15は、BC相の2相地絡故障判定を示す判定出力OBCのみを有効にし、その他の判定出力OA,OB,OC,OCA,OABを無効にする(ステップS113)。
このように、故障相判定部15は、合成零相電流データI0Sが閾値ε1以上の場合に、合成零相電流データI0Sに対してA相を基準相にした合成電流の逆相電流データI2SA、B相を基準相にした合成電流の逆相電流データI2SB、C相を基準相にした合成電流の逆相電流データI2SCのどの基準相で演算した逆相電流データI2Sが動作領域に入るかを判定し、動作領域に入った逆相電流データI2Sと当該相の正相電流データI1Sの位相差が動作領域に入るかどうかを判定する。この当該相基準におけるI1SとI2Sとの比較において、故障相判定部15は、当該相の逆相電流データI2Sに対して当該相の正相電流データI1Sが±90度未満、すなわち同位相のほうが逆相より近い関係にある場合を動作と判定する。そして、この判定結果が動作出力の場合には、故障相判定部15は、1相地絡故障として当該相を故障相と判定して出力する。一方、当該判定結果が動作出力ではない場合には、当該相が健全相に相当するため、2相地絡故障として当該相以外の2相を故障相と判定して出力する。なお、動作領域は、A相、B相、C相の基準相のいずれかの相が動作領域の範囲内となるような値を設定する。
AND回路16Aは、零相電流差動リレー要素出力と故障相判定部15の判定出力OAとの論理積を出力AΦTとして出力し、AND回路16Bは、零相電流差動リレー要素出力と故障相判定部15の判定出力OBとの論理積を出力BΦTとして出力し、AND回路16Cは、零相電流差動リレー要素出力と故障相判定部15の判定出力OCとの論理積を出力CΦTとして出力し、AND回路16BCは、零相電流差動リレー要素出力と故障相判定部15の判定出力OBCとの論理積を出力BCΦTとして出力し、AND回路16CAは、零相電流差動リレー要素出力と故障相判定部15の判定出力OCAとの論理積を出力CAΦTとして出力し、AND回路16ABは、零相電流差動リレー要素出力と故障相判定部15の判定出力OABとの論理積を出力ABΦTとして出力する。
つぎに、図4および図5を参照して、上述した零相電流差動リレー3の動作の正当性を説明する。図4は、A相の1相地絡故障(A相地絡故障)の場合における対称座標法での等価回路を示している。また、図5は、BC相の2相地絡故障(BC相地絡故障)の場合における対称座標法での等価回路を示している。図4に示されるように、A相地絡故障の場合には、電流I1,I2,I0には、ほぼ同相電流が流れる。一方、図5に示されるように、BC相地絡故障の場合には、電流I2と電流I0とは同相であるが、電流I2と電流I1とは逆位相の電流が流れる。また、送電線内部故障発生時には、両端の電源位相がほぼ等しい場合には、両端においてCTの極性が逆極性に接続されるので、電流I1、I2、I0の位相はそれぞれほぼ等しくなる。そのため、両端の合成電流に対してもA相地絡故障の場合には、正相電流データI1SAが示す電流、逆相電流データI2SAが示す電流、合成零相電流データI0Sが示す電流には、ほぼ同相電流が流れるという条件が成立する。一方、BC相地絡故障の場合には、逆相電流データI2SAが示す電流と合成零相電流データI0Sが示す電流は同相であるが、逆相電流データI2Sが示す電流と正相電流データI1Sが示す電流とは、逆位相の電流が流れるという条件が成立する。
以上説明したように、この実施の形態1においては、自端の変流器から得られる自端側3相電流の零相電流と、相手端の変流器から得られる相手端側3相電流の零相電流とに基づく差動演算結果に基づいて電力線用送電線における地絡故障が検出された場合に、自端側3相電流と相手端側3相電流の同一相の電流を合成して得られた各相毎の合成電流(自端と相手端との同一相のベクトル和電流)に基づく各相を基準相とする正相電流と、自端側3相電流と相手端側3相電流の同一相の電流を合成して得られた各相毎の合成電流に基づく各相を基準相とする逆相電流と、自端側3相電流の零相電流と相手端側3相電流の零相電流とを合成した合成零相電流と、に基づいて、電力用送電線上に発生した地絡故障が1相地絡故障であるか否かの切り分けを行い、故障相判定を行うようにしているので、自端側の故障電流が小さい場合であっても、従来の故障相判定のように電圧入力を用いることなく、電力用送電線に発生した地絡故障が故障相判定と共に、1相地絡故障であるか否かの切り分けを確実に行うことができる。また、この実施の形態1においては、零相電流の位相とほぼ一致する逆相電流の基準相と、その基準相の正相電流との位相差が動作領域の範囲内である場合に、当該相の1相地絡故障であると判定するようにしているので、従来の故障相判定のように電圧入力を用いることなく、自端側の故障電流が極めて小さい場合であっても、電力用送電線上の故障相を確実に検出することができる。
なお、先の図3のフローチャートを参照して説明した故障判定処理部の判定処理動作において、合成零相電流データI0Sと予め定められた閾値ε1とを比較するようにしたが、合成零相電流データI0Sと予め定められた閾値ε1とを比較するのではなく、零相電流差動リレー要素部14の出力である零相電流差動リレー要素出力の有効/無効を判定するようにしてもよい。この場合、「零相電流差動リレー要素出力が有効」である場合が、「合成零相電流データI0Sが閾値ε1より大きい」場合に相当し、「零相電流差動リレー要素出力が無効」の場合が、「合成零相電流データI0Sが閾値ε1以下」の場合に相当する。
実施の形態2.
図6〜図9を用いて、この発明の実施の形態2を説明する。先の実施の形態1では、対称座標法による正相、逆相、および零相演算に基づいて位相判定を行ったが、この実施の形態2では、クラーク座標法によるα電流、β電流、および零相電流に基づいた位相判定を行う。
この実施の形態2の零相電流差動リレーが適用される電力用システムの構成は、先の図1に示した実施の形態1の電力用システムと同じであり、零相電流差動リレー3−1,3−2の代わりに、零相電流差動リレー3a−1,3a−2を用いる。
図6は、この実施の形態2の零相電流差動リレー3a(3a−1,3a−2を示す)の構成を示すブロック図である。図6に示したこの実施の形態2の零相電流差動リレー3aは、先の図2に示した実施の形態1の零相電流差動リレー3の正相合成部11、逆相合成部12、および故障相判定部15の代わりに、α電流演算部18、β電流演算部19、および故障相判定部15aを備えている。先の図2に示した実施の形態1の零相電流差動リレー3と同じ機能を持つ構成部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
α電流演算部18は、合成部8から入力される各相毎の合成電流データISに基づいて各相毎のα電流データを求める。A相の合成電流データをIASとし、B相の合成電流データをIBSとし、C相の合成電流データをICSとすると、A相を基準相としたα電流データIαSAは、
IαSA=(2×IAS−IBS−ICS)/3 … (式7)
で表すことができる。また、B相を基準相としたα電流データIαSBは、
IαSB=(−IAS+2×IBS−ICS)/3 … (式8)
で表すことができる。またC相を基準相としたα電流データIαSCは、
IαSC=(−IAS−IBS+2×ICS)/3 … (式9)
で表すことができる。α電流演算部18は、上記(式7)〜(式9)を用いて各相毎のα電流データIαS(IαSA,IαSB,IαSCを示す)を求める。α電流演算部18は、各相毎のα電流データIαSを故障相判定部15aに出力する。
β電流演算部19は、合成部8から入力される各相毎の合成電流データISに基づいて各相毎のβ電流データを求める。A相の合成電流データをIASとし、B相の合成電流データをIBSとし、C相の合成電流データをICSとすると、A相を基準相としたβ電流データIβSAは、
IβSA=(IBS−ICS)×(√3/3) … (式10)
で表すことができる。また、B相を基準相としたβ電流データIβSBは、
IβSB=(ICS−IAS)×(√3/3) … (式11)
で表すことができる。また、C相を基準相としたβ電流データIβSCは、
IβSC=(IAS−IBS)×(√3/3) … (式12)
で表すことができる。β電流演算部19は、上記(式10)〜(式12)を用いて各相毎のβ電流データIβS(IβSA,IβSB,IβSCを示す)を求める。β電流演算部19は、各相毎のβ電流データIβSを故障相判定部15aに出力する。
故障相判定部15aは、α電流演算部18から入力される各相毎のα電流データIαS、β電流演算部19から入力される各相毎のβ電流データIβS、および両端零相合成部13から入力される合成零相電流データI0Sに基づいて、電力用送電線1上の故障の発生の有無、および故障が発生している場合の故障相を判定する。故障相判定部15aは、A相の1相地絡故障であると判定した場合には判定出力OAを有効にし、その他の判定出力OB,OC,OBC,OCA,OABを無効にする。故障相判定部15aは、B相の1相地絡故障であると判定した場合には判定出力OBを有効にし、その他の判定出力OA,OC,OBC,OCA,OABを無効にする。故障相判定部15aは、C相の1相地絡故障であると判定した場合には判定出力OCを有効にし、その他の判定出力OA,OB,OBC,OCA,OABを無効にする。
また、故障相判定部15aは、BC相の2相地絡故障であると判定した場合は、判定出力OBCを有効にし、その他の判定出力OA,OB,OC,OCA,OABを無効にする。故障相判定部15aは、CA相の2相地絡故障であると判定した場合は、判定出力OCAを有効にし、その他の判定出力OA,OB,OC,OBC,OABを無効にする。故障相判定部15aは、AB相の2相地絡故障であると判定した場合は、判定出力OABを有効にし、その他の判定出力OA,OB,OC,OBC,OCAを無効にする。
つぎに、この実施の形態2の零相電流差動リレー3aの動作について説明する。この実施の形態2の零相電流差動リレー3aと、先の実施の形態1の零相電流差動リレー3との相違点は、先の実施の形態1の零相電流差動リレー3では、対称座標法による正相、逆相、および零相演算に基づいて位相判定を行うのに対して、この実施の形態2の零相電流差動リレー3aは、クラーク座標法によるα電流、β電流、および零相電流に基づいた位相判定を行うことであり、その他の動作については、先の実施の形態1の零相電流差動リレー3と同じであるので、ここでは、相違点のみを説明する。
α電流演算部18は、合成部8から入力される各相毎の合成電流データISを用いて上記(式7)〜(式9)によって各相のα電流データIαSを求めて故障相判定部15aに出力する。β電流演算部19は、合成部8から入力される各相毎の合成電流データISを用いて上記(式10)〜(式12)によって各相のβ電流データIβSを求めて故障相判定部15aに出力する。両端零相合成部13は、自端合成零相電流データI0Lと合成零相電流データI0Rとを合成して得られた合成零相電流データI0Sを故障相判定部15aに出力する。故障相判定部15aは、各相毎のα電流データIαS、各相毎のβ電流データIβS、および合成零相電流データI0Sに基づいて、電力用送電線1上の地絡故障の発生の有無、および地絡故障が発生している場合の故障相を判定する。
図7のフローチャートを参照して、故障相判定部15aの判定処理動作を詳細に説明する。合成零相電流データI0Sが予め定められた閾値ε1より大きいか否かを判定する(ステップS200)。ここで、閾値ε1は、零相電流差動リレー要素部14の零相差電流リレー要素感度と同等の感度を示す値、または零相電流差動リレー要素部14の零相差電流リレー要素感度以上とする。
合成零相電流データI0Sが閾値ε1より大きい場合(ステップ200,Yes)、故障相判定部15aは、A相を基準相としたβ電流データIβSAが予め定められた閾値ε2より小さいか否かを判定する(ステップS201)。A相を基準相としたβ電流データIβSAが予め定められた閾値ε2より小さいと判定した場合(ステップS201,Yes)、故障相判定部15aは、合成零相電流データI0SとA相を基準相としたα電流データIαSAとの位相差が動作領域の範囲内であるか否かを判定する(ステップS202)。すなわち、合成零相電流データI0Sの電流位相に対してA相を基準相としたα電流の基準相で演算したα電流が動作領域の範囲内であるか否かを判定する。
合成零相電流データI0SとA相を基準相としたα電流データIαSAとの位相差が動作領域の範囲内であると判定した場合(ステップS202,Yes)、故障相判定部15aは、A相の1相地絡故障判定を示す判定出力OAのみを有効にし、その他の判定出力OB,OC,OBC,OCA,OABを無効にする(ステップS203)。
一方、A相を基準相としたβ電流データIβSAが予め定められた閾値ε2以上であると判定した場合(ステップS201,No)、故障相判定部15aは、合成零相電流データI0Sの逆位相の電流データとA相を基準相としたα電流データIαSAとの位相差が動作領域の範囲内であるか否かを判定する(ステップS204)。すなわち、合成零相電流データI0Sの逆位相の電流に対してA相を基準相として演算したα電流データIαSAが動作領域の範囲内であるか否かを判定する。
合成零相電流データI0Sの逆相のデータとA相を基準相としたα電流データIαSAとの位相差が動作領域の範囲内であると判定した場合(ステップS204,Yes)、故障相判定部15aは、BC相の2相地絡故障判定を示す判定出力OBCのみを有効にし、その他の判定出力OA,OB,OC,OCA,OABを無効にする(ステップS205)。
合成零相電流データI0Sの逆相のデータとA相を基準相としたα電流データIαSAとの位相差が動作領域の範囲内ではないと判定した場合(ステップS204,No)、または、合成零相電流データI0SとA相を基準相としたα電流データIαSAとの位相差が動作領域の範囲内ではないと判定した場合(ステップS202,No)、故障相判定部15aは、B相を基準相としたβ電流データIβSBが予め定められた閾値ε2より小さいか否かを判定する(ステップS206)。B相を基準相としたβ電流データIβSBが予め定められた閾値ε2より小さいと判定した場合(ステップS206,Yes)、故障相判定部15aは、合成零相電流データI0SとB相を基準相としたα電流データIαSBとの位相差が動作領域の範囲内であるか否かを判定する(ステップS207)。すなわち、合成零相電流データI0Sの電流位相に対してB相を基準相としたα電流の基準相で演算したα電流が動作領域の範囲内であるか否かを判定する。
合成零相電流データI0SとB相を基準相としたα電流データIαSBとの位相差が動作領域の範囲内であると判定した場合(ステップS207,Yes)、故障相判定部15aは、B相の1相地絡故障判定を示す判定出力OBのみを有効にし、その他の判定出力OA,OC,OBC,OCA,OABを無効にする(ステップS208)。
一方、B相を基準相としたβ電流データIβSBが予め定められた閾値ε2以上であると判定した場合(ステップS206,No)、故障相判定部15aは、合成零相電流データI0Sの逆位相の電流データとB相を基準相としたα電流データIαSBとの位相差が動作領域の範囲内であるか否かを判定する(ステップS209)。すなわち、合成零相電流データI0Sの逆位相の電流に対してB相を基準相として演算したα電流データIαSBが動作領域の範囲内であるか否かを判定する。
合成零相電流データI0Sの逆相のデータとB相を基準相としたα電流データIαSBとの位相差が動作領域の範囲内であると判定した場合(ステップS209,Yes)、故障相判定部15aは、CA相の2相地絡故障判定を示す判定出力OCAのみを有効にし、その他の判定出力OA,OB,OC,OBC,OABを無効にする(ステップS210)。
合成零相電流データI0Sの逆相のデータとB相を基準相としたα電流データIαSBとの位相差が動作領域の範囲内ではないと判定した場合(ステップS209,No)、または、合成零相電流データI0SとB相を基準相としたα電流データIαSBとの位相差が動作領域の範囲内ではないと判定した場合(ステップS207,No)、故障相判定部15aは、C相を基準相としたβ電流データIβSCが予め定められた閾値ε2より小さいか否かを判定する(ステップS211)。C相を基準相としたβ電流データIβSCが予め定められた閾値ε2より小さいと判定した場合(ステップS211,Yes)、故障相判定部15aは、合成零相電流データI0SとC相を基準相としたα電流データIαSCとの位相差が動作領域の範囲内であるか否かを判定する(ステップS212)。すなわち、合成零相電流データI0Sの電流位相に対してC相を基準相としたα電流の基準相で演算したα電流が動作領域の範囲内であるか否かを判定する。
合成零相電流データI0SとC相を基準相としたα電流データIαSCとの位相差が動作領域の範囲内であると判定した場合(ステップS212,Yes)、故障相判定部15aは、C相の1相地絡故障判定を示す判定出力OCのみを有効にし、その他の判定出力OA,OB,OBC,OCA,OABを無効にする(ステップS213)。
一方、C相を基準相としたβ電流データIβSCが予め定められた閾値ε2以上であると判定した場合(ステップS211,No)、故障相判定部15aは、合成零相電流データI0Sの逆位相の電流データとC相を基準相としたα電流データIαSCとの位相差が動作領域の範囲内であるか否かを判定する(ステップS214)。すなわち、合成零相電流データI0Sの逆位相の電流に対してC相を基準相として演算したα電流データIαSCが動作領域の範囲内であるか否かを判定する。
合成零相電流データI0Sの逆相のデータとC相を基準相としたα電流データIαSCとの位相差が動作領域の範囲内であると判定した場合(ステップS214,Yes)、故障相判定部15aは、AB相の2相地絡故障判定を示す判定出力OABのみを有効にし、その他の判定出力OA,OB,OC,OBC,OCAを無効にする(ステップS215)。
一方、合成零相電流データI0Sの逆相のデータとC相を基準相としたα電流データIαSCとの位相差が動作領域の範囲内ではないと判定した場合(ステップS214,No)、合成零相電流データI0SとC相を基準相としたα電流データIαSCとの位相差が動作領域の範囲内ではないと判定した場合(ステップS212,No)、または、合成零相電流データI0Sが閾値ε1以下の場合(ステップS200,No)、故障相判定部15aは、電力用送電線1上に故障が発生していないと判定して、すべての判定出力OA,OB,OC,OBC,OCA,OABを無効にする(ステップS216)。
このように、故障相判定部15aは、合成零相電流データI0Sが閾値ε1以上の場合に、A相、B相、またはC相を基準相としたβ電流データIβSが、閾値ε2以下であって、当該相を基準相としたα電流データIαSと合成零相電流データI0Sとの位相差が動作領域の範囲内の場合(当該相を基準相としたα電流データIαSが同相に近い場合)には、当該相が1相地絡故障における故障相であると判定し、A相、B相、またはC相を基準相としたβ電流データIβSが、閾値ε2より大きく、かつ当該相を基準としたα電流データIαSと合成零相電流データI0Sの逆相との位相差が動作領域の範囲内の場合(当該相を基準相としたα電流データIαSが逆相に近い場合)には当該相が2地絡故障における健全相であると判定し、健全相以外の2相を故障相と判断する。なお、動作領域は、A相、B相、C相の基準相のいずれかの相が動作領域の範囲内となるような値を設定する。
つぎに、図8および図9を参照して、上述した零相電流差動リレー3aの動作の正当性を説明する。図8は、A相の1相地絡故障(A相地絡故障)の場合におけるクラーク座標法での等価回路を示している。また、図9は、BC相の2相地絡故障(BC相地絡故障)の場合におけるクラーク座標法での等価回路を示している。図8に示されるようにA相地絡故障の場合には、β電流Iβには電流が流れず、α電流データIαと電流データI0とには、ほぼ同相電流が流れる。一方、図9に示されるようにBC相地絡故障の場合には、β電流データIβには電流が流れ、α電流データIαと電流データI0とは、ほぼ逆位相となる。また、送電線内部故障の発生時において、両端の電源位相がほぼ等しい場合には、両端におけるα電流データIα、β電流データIβ、および電流データI0の位相はそれぞれほぼ等しくなる。そのため、両端の合成電流に対してもA相地絡故障の場合には、β電流データIβには電流が流れず、α電流データIαと電流データI0とには、ほぼ同相電流が流れる。一方、BC相地絡故障の場合には、β電流データIβには電流が流れ、α電流データIαと電流データI0とが、ほぼ逆位相であるという条件が成立する。
以上説明したように、この実施の形態2においては、自端の変流器から得られる自端側3相電流の零相電流と相手端の変流器から得られる相手端側3相電流の零相電流とに基づく差動演算結果に基づいて電力線用送電線における地絡故障が検出された場合に、自端側3相電流の零相電流と相手端側3相電流の零相電流とを合成した合成零相電流と、自端側3相電流と相手端側3相電流の同一相の電流を合成して得られた各相毎の合成電流(自端と相手端との同一相のベクトル和電流)に基づく各相毎のα電流と、この合成電流に基づく各相毎のβ電流と、に基づいて、電力用送電線上に発生した地絡故障が1相地絡故障であるか否かの切り分けを行うようにしているので、自端側の故障電流が小さい場合であっても、従来の故障相判定のように電圧入力を用いることなく、電力用送電線に発生した地絡故障が1相地絡故障であるか否かの切り分けを確実に行い、故障相判定を行うことができる。また、この実施の形態2においては、β電流が零付近であって、零相電流の位相とほぼ一致するα電流の基準相を1相地絡故障の故障相と判定するようにしているので、従来の故障相判定のように電圧入力を用いることなく、自端側の故障電流が極めて小さい場合であっても、電力用送電線上の故障相を確実に検出することができる。
なお、先の図7のフローチャートを参照して説明した故障判定処理部の判定処理動作において、合成零相電流データI0Sと予め定められた閾値ε1とを比較するようにしたが、合成零相電流データI0Sと予め定められた閾値ε1とを比較するのではなく、零相電流差動リレー要素部14の出力である零相電流差動リレー要素出力の有効/無効を判定するようにしてもよい。この場合、「零相電流差動リレー要素出力が有効」である場合が、「合成零相電流データI0Sが閾値ε1より大きい」場合に相当し、「零相電流差動リレー要素出力が無効」の場合が、「合成零相電流データI0Sが閾値ε1以下」の場合に相当する。
実施の形態3.
図10および図11を用いて、この発明の実施の形態3を説明する。先の実施の形態2では、各相を基準相としたα電流データIαS、各相を基準相としたβ電流データIβS、および合成零相電流I0Sを用いて電力用送電線1上の地絡故障発生の有無、およびその故障相を特定した。この実施の形態3では、各相を基準相としたα電流データIαSを用いることなく、各相を基準相としたβ電流データIβS、および合成零相電流I0Sを用いて電力用送電線1上の地絡故障発生の有無、およびその故障相を特定するものである。
この実施の形態3の零相電流差動リレーが適用される電力用システムの構成は、先の図1に示した実施の形態1の電力用システムと同じであり、零相電流差動リレー3−1,3−2の代わりに、零相電流差動リレー3b−1、3b−2を用いる。
図10は、この実施の形態3の零相電流差動リレー3b(3b−1,3b−2を示す)の構成を示すブロック図である。図10に示したこの実施の形態3の零相電流差動リレー3bは、先の図6に示した実施の形態2の零相電流差動リレー3aからα電流演算部18が削除され、故障相判定部15aの代わりに故障相判定部15bを備えている。先の図6に示した実施の形態2の零相電流差動リレー3aと同じ機能を持つ構成部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
故障相判定部15bは、β電流演算部19から入力される各相毎のβ電流データIβS、および両端零相合成部13から入力される合成零相電流データI0Sに基づいて、電力用送電線1上の故障の発生の有無を判定する。故障相判定部15bは、A相の1相地絡故障であると判定した場合には判定出力OAを有効にし、その他の判定出力OB,OC,OBC,OCA,OABを無効にする。故障相判定部15bは、B相の1相地絡故障であると判定した場合には判定出力OBを有効にし、その他の判定出力OA,OC,OBC,OCA,OABを無効にする。故障相判定部15bは、C相の1相地絡故障であると判定した場合には判定出力OCを有効にし、その他の判定出力OA,OB,OBC,OCA,OABを無効にする。
また、故障相判定部15bは、BC相の2相地絡故障であると判定した場合は、判定出力OBCを有効にし、その他の判定出力OA,OB,OC,OCA,OABを無効にする。故障相判定部15bは、CA相の2相地絡故障であると判定した場合は、判定出力OCAを有効にし、その他の判定出力OA,OB,OC,OBC,OABを無効にする。故障相判定部15bは、AB相の2相地絡故障であると判定した場合は、判定出力OABを有効にし、その他の判定出力OA,OB,OC,OBC,OCAを無効にする。
つぎに、この実施の形態3の零相電流差動リレー3bの動作について説明する。この実施の形態3の零相電流差動リレー3bと、先の実施の形態2の零相電流差動リレー3aとの相違点は、先の実施の形態2の零相電流差動リレー3aでは、各相を基準相としたα電流データIαS、各相を基準相としたβ電流データIβS、および合成零相電流I0Sを用いて電力用送電線1上の故障発生の有無およびその故障相を特定するのに対し、この実施の形態3では、各相を基準相としたα電流データIαSを用いることなく、各相を基準相としたβ電流データIβS、および合成零相電流I0Sを用いて電力用送電線1上の故障発生の有無、およびその故障相を特定する点であり、その他の動作については、先の実施の形態2の零相電流差動リレー3aと同じであるので、ここでは、相違点である故障相判定処理を行なう故障相判定部15bの動作のみを説明する。
図11のフローチャートを参照して、この発明の実施の形態3の零相電流差動リレー3bの故障相判定部15bの動作を説明する。故障相判定部15bは、合成零相電流データI0Sが予め定められた閾値ε1より大きいか否かを判定する(ステップS300)。ここで、閾値ε1は、零相電流差動リレー要素部14の零相差電流リレー要素感度と同等の感度を示す値、または零相電流差動リレー要素部14の零相差電流リレー要素感度以上とする。
合成零相電流データI0Sが閾値ε1以下の場合(ステップ300,No)、故障相判定部15bは、電力用送電線1上に故障が発生していないと判定して、すべての判定出力OA,OB,OC,OBC,OCA,OABを無効にする(ステップS301)。合成零相電流データI0Sが閾値ε1より大きい場合(ステップ300,Yes)、A相に1相地絡故障が発生しているか否か、すなわちA相を基準相としたβ電流データIβSAが予め定められた閾値ε2より小さく、かつB相を基準相としたβ電流データIβSBおよびC相を基準相としたβ電流データIβSCがともに予め定められた閾値ε3より大きいか否かを判定する(ステップS302)。なお、閾値ε2,ε3の値については後述する。
A相を基準相としたβ電流データIβSAが閾値ε2より小さく、かつB相を基準相としたβ電流データIβSBおよびC相を基準相としたβ電流データIβSCがともに閾値ε3より大きい場合(ステップS302,Yes)、故障相判定部15bは、A相に1相地絡故障が発生していると判定し、A相の1相地絡故障判定を示す判定出力OAのみを有効にし、その他の判定出力OB,OC,OBC,OCA,OABを無効にする(ステップS303)。
A相を基準相としたβ電流データIβSAが予め定められた閾値ε2以上である場合、またはB相を基準相としたβ電流データIβSBおよびC相を基準相としたβ電流データIβSCの少なくとも1つが閾値ε3以下の場合(ステップS302,No)、故障相判定部15bは、B相に1相地絡故障が発生しているか否か、すなわちB相を基準相としたβ電流データIβSBが閾値ε2より小さく、かつA相を基準相としたβ電流データIβSAおよびC相を基準相としたβ電流データIβSCがともに閾値ε3より大きいか否かを判定する(ステップS304)。
B相を基準相としたβ電流データIβSBが閾値ε2より小さく、かつA相を基準相としたβ電流データIβSAおよびC相を基準相としたβ電流データIβSCがともに閾値ε3より大きい場合(ステップS304,Yes)、故障相判定部15bは、B相に1相地絡故障が発生していると判定し、B相の1相地絡故障判定を示す判定出力OBのみを有効にし、その他の判定出力OA,OC,OBC,OCA,OABを無効にする(ステップS305)。
B相を基準相としたβ電流データIβSBが予め定められた閾値ε2以上である場合、またはA相を基準相としたβ電流データIβSAおよびC相を基準相としたβ電流データIβSCの少なくとも1つが閾値ε3以下の場合(ステップS304,No)、故障相判定部15bは、C相に1相地絡故障が発生しているか否か、すなわちC相を基準相としたβ電流データIβSCが閾値ε2より小さく、かつA相を基準相としたβ電流データIβSAおよびB相を基準相としたβ電流データIβSBがともに閾値ε3より大きいか否かを判定する(ステップS306)。
C相を基準相としたβ電流データIβSCが閾値ε2より小さく、かつA相を基準相としたβ電流データIβSAおよびB相を基準相としたβ電流データIβSBがともに閾値ε3より大きい場合(ステップS306,Yes)、故障相判定部15bは、C相に1相地絡故障が発生していると判定し、C相の1相地絡故障判定を示す判定出力OCのみを有効にし、その他の判定出力OA,OB,OBC,OCA,OABを無効にする(ステップS307)。
C相を基準相としたβ電流データIβSCが予め定められた閾値ε2以上である場合、またはA相を基準相としたβ電流データIβSAおよびB相を基準相としたβ電流データIβSBの少なくとも1つが閾値ε3以下の場合(ステップS306,No)、故障相判定部15bは、A相を基準相としたβ電流データIβSA、B相を基準相としたβ電流データIβSB、およびC相を基準相としたβ電流データIβSCの中の最大値がA相を基準としたβ電流データIβSAであるか否かを判定する(ステップS308)。
A相を基準相としたβ電流データIβSA、B相を基準相としたβ電流データIβSB、およびC相を基準相としたβ電流データIβSCの中の最大値がA相を基準としたβ電流データIβSAであると判定した場合(ステップS308,Yes)、故障相判定部15bは、A相が健全相でありBC相に2相地絡故障が発生したと判定し、BC相の2相地絡故障判定を示す判定出力OBCのみを有効にし、その他の判定出力OA,OB,OC,OCA,OABを無効にする(ステップS309)。
A相を基準相としたβ電流データIβSA、B相を基準相としたβ電流データIβSB、およびC相を基準相としたβ電流データIβSCの中の最大値がA相を基準としたβ電流データIβSAではないと判定した場合(ステップS308,No)、故障相判定部15bは、A相を基準相としたβ電流データIβSA、B相を基準相としたβ電流データIβSB、およびC相を基準相としたβ電流データIβSCの中の最大値がB相を基準としたβ電流データIβSBであるか否かを判定する(ステップS310)。
A相を基準相としたβ電流データIβSA、B相を基準相としたβ電流データIβSB、およびC相を基準相としたβ電流データIβSCの中の最大値がB相を基準としたβ電流データIβSBであると判定した場合(ステップS310,Yes)、故障相判定部15bは、B相が健全相でありCA相に2相地絡故障が発生したと判定し、CA相の2相地絡故障判定を示す判定出力OCAのみを有効にし、その他の判定出力OA,OB,OC,OBC,OABを無効にする(ステップS311)。
A相を基準相としたβ電流データIβSA、B相を基準相としたβ電流データIβSB、およびC相を基準相としたβ電流データIβSCの中の最大値がB相を基準としたβ電流データIβSBではないと判定した場合(ステップS310,No)、すなわち相を基準相としたβ電流データIβSA、B相を基準相としたβ電流データIβSB、およびC相を基準相としたβ電流データIβSCの中の最大値がC相を基準としたβ電流データIβSCであると判定した場合、故障相判定部15bは、C相が健全相でありAB相に2相地絡故障が発生したと判定し、AB相の2相地絡故障判定を示す判定出力OABのみを有効にし、その他の判定出力OA,OB,OC,OBC,OCAを無効にする(ステップS312)。
つぎに、上述した故障相判定部15bの故障判定処理の正当性を説明する。まず、A相の1相地絡故障(A相地絡故障)の場合について説明する。A相地絡故障の場合、零相電流差動リレー3bに入力されるA相の自端電流IAには故障電流が流れ、B相およびC相の自端電流IB,ICには負荷電流が流れる。両端の合成電流を取るため、負荷電流のように両端で貫通する場合の合成電流には故障電流のみが残り、下記の(式13)および((式14)が成り立つ。
IAS=If … (式13)
IBS=ICS=0 … (式14)
なお、IASはA相の合成電流データであり、IBSはB相の合成電流データであり、ICSはC相の合成電流データであり、Ifは両端の故障電流の和である。
すなわち、上記(式10)〜(式12)(式13)、(式14)により、A相を基準相としたβ電流データIβSA、B相を基準相としたβ電流データIβSB、およびC相を基準相としたβ電流データIβSCは、
IβSA=(IBS−ICS)×(√3/3)=0
IβSB=(ICS−IAS)×(√3/3)=−If(√3/3)
IβSC=(IAS−IBS)×(√3/3)=If(√3/3)
となって、故障相を基準相とするβ電流データIβSは「0」となり、β電流の健全相には故障電流が流れる。したがって、「IβSA<ε2」、「IβSB>ε3」、「IβSC>ε3」の3つの条件が成立する。ここで、閾値ε3は、電力用送電線1の内部故障によって零相電流差動リレー要素出力が動作する(有効となる)電流で検出可能な値である。また、閾値ε2は、変流器の誤差による誤検出が生じない値であり、閾値ε3より小さい値と明確に区別できる値とする。
また、1相地絡故障の条件である、「IβSA<ε2」、「IβSB>ε3」、「IβSC>ε3」の3つの条件、「IβSB<ε2」、「IβSA>ε3」、「IβSC>ε3」の3つの条件、「IβSC<ε2」、「IβSA>ε3」、「IβSB>ε3」の3つの条件の何れの条件も成立しない場合には2相地絡故障となる。たとえば、BC相の2相地絡故障(BC相地絡故障)の場合には、A相の自端電流IAには負荷電流が流れ、B相およびC相の自端電流IB,ICには故障電流が流れる。両端の合成電流を取るため、負荷電流のように両端で貫通する場合の合成電流には故障電流のみが残り、下記の(式15)が成り立つ。
IAS=0 … (式15)
なお、IASはA相の合成電流データである。上記(式10)〜(式12)、(式15)より、B相とC相間に流れる電流の電流データをIBCSとすると、A相を基準相としたβ電流データIβSA、B相を基準相としたβ電流データIβSB、およびC相を基準相としたβ電流データIβSCは、
IβSA=(IBS−ICS)×(√3/3)=IBCS(√3/3)
IβSB=(ICS−IAS)×(√3/3)=ICS(√3/3)
IβSC=(IAS−IBS)×(√3/3)=−IBS(√3/3)
ここで、「IBCSの実効値>IBSの実効値=ICSの実効値」の関係が成り立つので、A相を基準相としたβ電流データIβA、B相を基準相としたβ電流データIβB、C相を基準相としたβ電流データIβCの3つの電流データに対して、最大電流データを示す基準相が2相地絡故障の健全相となる。このように、故障相判定処理を各相毎のβ電流データIβSの実効値判定で実行することが可能となる。
以上説明したように、この実施の形態3においては、自端の変流器から得られる自端側3相電流の零相電流と相手端の変流器から得られる相手端側3相電流の零相電流とに基づく差動演算結果に基づいて電力線用送電線における地絡故障が検出された場合に、自端側3相電流の零相電流と相手端側3相電流の零相電流とを合成した合成零相電流と、自端側3相電流と相手端側3相電流の同一相の電流を合成して得られた各相毎の合成電流(自端と相手端との同一相のベクトル和電流)に基づく各相毎のβ電流と、に基づいて、電力用送電線上に発生した地絡故障が1相地絡故障であるか否かの切り分けと故障相判定を行うようにしているので、自端側の故障電流が小さい場合であっても、従来の故障相判定のように電圧入力を用いることなく、電力用送電線に発生した地絡故障が1相地絡故障であるか否かの切り分けと故障相判定を確実に行うことができる。また、この実施の形態3においては、各相毎のβ電流の実効値のレベルによって1相地絡故障の故障相を判定し、各相毎のβ電流の最大値によって2相地絡故障の故障相を判定するようにしているので、従来の故障相判定のように電圧入力を用いることなく、自端側の故障電流が極めて小さい場合であっても、電力用送電線上の故障相を確実に検出することができる。また、クラーク座標を用いることで、対称座標の正相電流、逆相電流の演算に必要な位相シフト演算が不要となり、処理を簡易化することができる。
なお、先の図11のフローチャートを参照して説明した故障判定処理部の判定処理動作において、合成零相電流データI0Sと予め定められた閾値ε1とを比較するようにしたが、合成零相電流データI0Sと予め定められた閾値ε1とを比較するのではなく、零相電流差動リレー要素部14の出力である零相電流差動リレー要素出力の有効/無効を判定するようにしてもよい。この場合、「零相電流差動リレー要素出力が有効」である場合が、「合成零相電流データI0Sが閾値ε1より大きい」場合に相当し、「零相電流差動リレー要素出力が無効」の場合が、「合成零相電流データI0Sが閾値ε以下」の場合に相当する。
実施の形態4.
図12および図13を用いてこの発明の実施の形態4を説明する。先の実施の形態1〜3では、電力用送電線1上の1相地絡故障または2相地絡故障の発生の有無および故障が発生した相を特定したが、この実施の形態4では、電力用送電線1上の1相地絡故障または2相地絡故障の発生の有無および1相地絡故障が発生した相のみを特定するものである。
この実施の形態4の零相電流差動リレーが適用される電力用システムの構成は、先の図1に示した実施の形態1の電力用システムと同じであり、零相電流差動リレー3−1,3−2の代わりに、零相電流差動リレー3c−1、3c−2を用いる。
図12は、この実施の形態4の零相電流差動リレー3c(3c−1,3c−2を示す)の構成を示すブロック図である。図12に示したこの実施の形態4の零相電流差動リレー3cは、先の図10に示した実施の形態3の零相電流差動リレー3bからAND回路16BC,16CA,16ABが削除され、AND回路163が追加され、故障相判定部15bの代わりに故障相判定部15cを備えている。先の図10に示した実施の形態3の零相電流差動リレー3bと同じ機能を持つ構成部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
故障相判定部15cは、β電流演算部19から入力される各相毎のβ電流データIβS、および両端零相合成部13から入力される合成零相電流データI0Sに基づいて、電力用送電線1上の故障の発生の有無を判定する。故障相判定部15cは、A相の1相地絡故障であると判定した場合には判定出力OAを有効にし、その他の判定出力OB,OC,O3Φを無効にする。故障相判定部15cは、B相の1相地絡故障であると判定した場合には判定出力OBを有効にし、その他の判定出力OA,OC,O3Φを無効にする。故障相判定部15cは、C相の1相地絡故障であると判定した場合には判定出力OCを有効にし、その他の判定出力OA,OB,O3Φを無効にする。また、故障相判定部15cは、1相地絡故障以外の故障が発生していると判定した場合には、判定出力O3Φを有効にし、その他の判定出力OA,OB,OCを無効にする。
AND回路163は、故障相判定部15cから入力される3相動作を示す判定出力O3Φと、零相電流差動リレー要素部14から入力される零相電流要素出力との論理積を3相動作判定結果3ΦTとして出力する。
つぎに、この発明の実施の形態4の零相電流差動リレー3cと、先の実施の形態3の零相電流差動リレー3bとの相違点は、先の実施の形態3の零相電流差動リレー3bが2相地絡故障における故障相を特定するのに対して、この実施の形態4の零相電流差動リレー3cでは、2相地絡故障における故障相を特定することなく、3相動作の有無を出力することであり、その他の動作については先の実施の形態3の零相電流差動リレー3bと同じであるので、ここでは、相違点である故障相判定処理を行う故障相判定部15cの動作のみを説明する。
図13のフローチャートを参照して、この発明の実施の形態4の零相電流差動リレー3cの故障相判定部15cの動作を説明する。故障相判定部15cは、合成零相電流データI0Sが予め定められた閾値ε1より大きいか否かを判定し(ステップS400)、合成零相電流データI0Sが閾値ε1以下の場合(ステップS400,No)、故障相判定部15cは、電力用送電線1上に故障が発生していないと判定して、すべての判定出力OA,OB,OC,O3Φを無効にする(ステップS401)。
合成零相電流データI0Sが閾値ε1より大きい場合(ステップ400,Yes)、故障相判定部15cは、A相を基準相としたβ電流データIβSAが予め定められた閾値ε2より小さく、かつB相を基準相としたβ電流データIβSBおよびC相を基準相としたβ電流データIβSCがともに予め定められた閾値ε3より大きいか否かを判定し(ステップS402)、A相を基準相としたβ電流データIβSAが閾値ε2より小さく、かつB相を基準相としたβ電流データIβSBおよびC相を基準相としたβ電流データIβSCがともに閾値ε3より大きい場合(ステップS402,Yes)、故障相判定部15cは、A相に1相地絡故障が発生していると判定し、A相の1相地絡故障判定を示す判定出力OAのみを有効にし、その他の判定出力OB,OC,O3Φを無効にする(ステップS403)。
A相を基準相としたβ電流データIβSAが予め定められた閾値ε2以上である場合、またはB相を基準相としたβ電流データIβSBおよびC相を基準相としたβ電流データIβSCの少なくとも1つが閾値ε3以下の場合(ステップS402,No)、故障相判定部15cは、B相を基準相としたβ電流データIβSBが閾値ε2より小さく、かつA相を基準相としたβ電流データIβSAおよびC相を基準相としたβ電流データIβSCがともに閾値ε3より大きいか否かを判定し(ステップS404)、B相を基準相としたβ電流データIβSBが閾値ε2より小さく、かつA相を基準相としたβ電流データIβSAおよびC相を基準相としたβ電流データIβSCがともに閾値ε3より大きい場合(ステップS404,Yes)、故障相判定部15cは、B相に1相地絡故障が発生していると判定し、B相の1相地絡故障判定を示す判定出力OBのみを有効にし、その他の判定出力OA,OC,O3Φを無効にする(ステップS405)。
B相を基準相としたβ電流データIβSBが予め定められた閾値ε2以上である場合、またはA相を基準相としたβ電流データIβSAおよびC相を基準相としたβ電流データIβSCの少なくとも1つが閾値ε3以下の場合(ステップS404,No)、故障相判定部15cは、C相を基準相としたβ電流データIβSCが閾値ε2より小さく、かつA相を基準相としたβ電流データIβSAおよびB相を基準相としたβ電流データIβSBがともに閾値ε3より大きいか否かを判定し(ステップS406)、C相を基準相としたβ電流データIβSCが閾値ε2より小さく、かつA相を基準相としたβ電流データIβSAおよびB相を基準相としたβ電流データIβSBがともに閾値ε3より大きい場合(ステップS406,Yes)、故障相判定部15cは、C相に1相地絡故障が発生していると判定し、C相の1相地絡故障判定を示す判定出力OCのみを有効にし、その他の判定出力OA,OB,O3Φを無効にする(ステップS407)。
C相を基準相としたβ電流データIβSCが予め定められた閾値ε2以上である場合、またはA相を基準相としたβ電流データIβSAおよびB相を基準相としたβ電流データIβSBの少なくとも1つが閾値ε3以下の場合(ステップS406,No)、故障相判定部15cは、1相地絡故障以外の故障が発生していると判定し、3相動作を示す判定出力O3Φを有効にし、その他の判定出力OA,OB,OCを無効にする(ステップS408)。
このように、故障相判定部15cは、先の実施の形態3の故障相判定部15bの2相地絡故障の判定処理を省略し、合成零相電流データI0Sが閾値ε1より大きい場合には電力用送電線1に故障が発生していないと判定し、発生している故障がA相、B相、C相の1相地絡故障の何れの故障でもない場合には故障相を特定することなく、故障が発生していることのみを出力する。
以上説明したように、この実施の形態4においては、自端の変流器から得られる自端側3相電流の零相電流と相手端の変流器から得られる相手端側3相電流の零相電流とに基づく差動演算結果に基づいて電力線用送電線における地絡故障が検出された場合に、自端側3相電流の零相電流と相手端側3相電流の零相電流とを合成した合成零相電流と、自端側3相電流と相手端側3相電流の同一相の電流を合成して得られた各相毎の合成電流(自端と相手端との同一相のベクトル和電流)に基づく各相毎のβ電流と、に基づいて、電力用送電線上に発生した地絡故障が1相地絡故障であるか否かの切り分けと故障相判定を行うようにしているので、自端側の故障電流が小さい場合であっても、従来の故障相判定のように電圧入力を用いることなく、電力用送電線に発生した地絡故障が1相地絡故障であるか否かの切り分けと故障相判定を確実に行うことができる。また、この実施の形態4においては、各相毎のβ電流の実効値のレベルによって1相地絡故障の故障相を判定するようにしているので、従来の故障相判定のように電圧入力を用いることなく、自端側の故障電流が極めて小さい場合であっても、電力用送電線上の故障相を確実に検出することができる。
また、1相地絡故障においては故障相を特定した各相動作とし、2相地絡故障の場合には故障相を特定することなく3相動作とするようにしているため、β電流における各相の実効値のレベル判定のみとなり、処理を簡易化することができる。
なお、先の図13のフローチャートを参照して説明した故障判定処理部の判定処理動作において、合成零相電流データI0Sと予め定められた閾値ε1とを比較するようにしたが、合成零相電流データI0Sと予め定められた閾値ε1とを比較するのではなく、零相電流差動リレー要素部14の出力である零相電流差動リレー要素出力の有効/無効を判定するようにしてもよい。この場合、「零相電流差動リレー要素出力が有効」の場合が、「合成零相電流データI0Sが閾値ε1より大きい」場合に相当し、「零相電流差動リレー要素出力が無効」の場合が、「合成零相電流データI0Sが閾値ε以下」の場合に相当する。