JP5088532B2 - 軟化特性および表面仕上げ特性に優れた高強度工具ならびに、その製造方法 - Google Patents

軟化特性および表面仕上げ特性に優れた高強度工具ならびに、その製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、プレス金型、ダイカスト金型、押出し工具、切削工具、パンチおよびダイスといった多種の工具に最適な、高強度で、軟化特性および表面仕上げ特性に優れた工具であり、特に、光学用ガラス成形分野、金属MEMS加工マイクロ金型分野や超精密加工分野の工具に関するものである。
従来、温熱間工具や切削工具等の分野には、JIS鋼種であるSKD61系の合金工具鋼やSKH2系の高速度鋼が用いられていた。通常、このような工具部材は、その工具鋼素材を焼きなまし(低硬度)状態で製品形状に機械加工し、その後に焼入れ焼戻しして硬さ調整が行なわれ、仕上げ加工を経て製品工具にされる。(プリハードン鋼の場合は焼入れ焼戻し状態で製品形状に機械加工・仕上げ加工を経て製品工具にされる。)
そして、このような部材において、例えば高速度鋼の機械的性質を改善する手法が提案されている(特許文献1参照)。この提案は炭化物径および結晶粒径を微細化して室温強度を上昇させるという点で優れたものである。
また、この従来の技術に対して、本発明者等は、強度を担う炭化物が高温で成長し強度を維持できなくなるという問題を解決して、さらに結晶粒を微細化して強度(高温強度含む)を向上させた工具部材およびその製造方法を提案している(特許文献2参照)。この提案は強度を担う粒子として高温でも安定であまり成長しない酸化物を微細に分散させることにより、結晶粒を微細化して強度(高温強度含む)を向上させる点で優れたものである。
特開2002−105513号公報 特開2004−360062号公報
上述した特許文献1に開示される手法は、室温強度を上昇させる点では有利であるものの、高温強度の点では、強度を担う炭化物が高温で成長し強度を維持できなくなることが懸念される。工具を用いて製造する製品のコストを低減するためには、使用する工具の長寿命化を達成し、高負荷化に耐える工具部材を開発する必要があり、その上で上記の高温強度の向上は大きな課題となる。
また、上述した特許文献2に開示される手法は、強度を担う粒子として高温でも安定であまり成長しない酸化物を微細に分散させることによって、炭化物量を減少させても強度(高温強度含む)および靭性を大きく改善できるという点で優れたものである。しかし、グローバル競争力強化および環境負荷低減を背景として、この手法では工具の製造コスト低減が困難であり、さらにリサイクル化による省資源化への対応にも課題がある。
本発明の目的は、従来の技術に対し、工具製造コスト低減やリサイクル化による省資源化を実現して、高強度かつ軟化特性および表面仕上げ特性を飛躍的に改善させた工具を提供することである。
本発明者等は、強度を担う粒子として主に導入されていた炭化物が高温で成長し強度を維持できなくなるという問題を検討し、高温でも安定であまり成長しない酸化物を微細に分散させることを採用した。そして、最適組成および製造方法を鋭意研究することによって、機能が必要な部位のみに上記の技術思想を適用できることを見いだした。そして、これによって工具製造コスト低減やリサイクル化による省資源化を満足して、高強度かつ軟化特性および表面仕上げ特性を飛躍的に改善した工具となり、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、作業面が、工具基体の表面に形成した焼入れ焼戻し後の被覆層よりなる工具であって、該被覆層は、質量%でC:0.1〜3.0%、Cr:1.0〜18.0%を含む成分組成の工具鋼が焼入れ焼戻しされてなるマルテンサイト組織からなり、組織中には粒径25nm以下の酸化物が1μmあたり750個以上分散しかつ、旧オーステナイト粒界による結晶粒径が最大10μm以下であることを特徴とする高強度で、軟化特性および表面仕上げ特性に優れた工具である。好ましくは、被覆層の組織中に分散する酸化物の粒径は最大で25nm以下である。
そして、本発明は、質量%でC:0.1〜3.0%、Cr:1.0〜18.0%かつ、酸化物が0.3〜5.0体積%になるように混合され、焼入れ焼戻しできる成分組成を有した工具鋼粉末と酸化物粉末の混合粉末をメカニカルミリングした後、工具基体の表面に固化成形し被覆接合して作業面とし、焼入れ焼戻しして、作業面をマルテンサイト組織の被覆層とすることを特徴とする、軟化特性および表面仕上げ特性に優れた高強度工具の製造方法である。また、必要に応じて、焼入れ焼戻しの前には、機械加工することができ、所定の工具形状(作業面形状)に加工するものである。
本発明によれば、機能が必要な工具部位を選択して、その部位の結晶粒を非常に微細化でき、高強度かつ軟化特性および表面仕上げ特性を飛躍的に改善した工具とすることができる。よって、製品コスト低減のための、工具製造コストの低減、使用する工具の長寿命化・高負荷化に耐える工具の実用化およびリサイクル化による省資源化にとって欠くことのできない技術となる。
上述したように、本発明の重要な特徴の一つは、機能が必要な部位を選択して、工具基体の表面に被覆層を形成させる手法を採用したことにある。
工具基体の表面に被覆層を形成させる理由について説明する。本発明の適用分野である冷間加工分野、熱間加工分野、光学用ガラス成形分野、金属MEMS加工マイクロ金型分野や超精密加工分野の工具では、作業面で機能付与が必要な領域は断面深さで表すと約5mm以下であることを鋭意研究することによって見出した。つまり、作業面において工具基体の表面にある程度の厚さの被覆層を形成させれば、高機能を有する工具の性能を満足するのである。そして、工具基体の表面に形成させた被覆層に高機能を発現させることによって、工具基体が安価な材料で代替でき、またニアネットシェイプも可能で工具の製造コストを効果的に低減することができる。さらに、このような分野の工具損傷は表面で発生するので、損傷した被覆層のみ再生すれば工具基体がリサイクルでき、リサイクル化による省資源化へも貢献できる。
そして、本発明の重要な特徴のもう一つは、工具基体の表面に形成した被覆層の強度、とりわけ軟化特性および表面仕上げ特性の向上手段として、その組織中に酸化物を微細に分散させる手法を採用したことにある。
酸化物を微細に分散させる理由について説明する。酸化物を微細に分散させることによって、被覆層の結晶粒成長を効果的に抑制することができる。結晶粒を微細に維持することで、結晶粒微細化強化を利用することができ、従来材で強度を担っていた炭化物による析出強化を代替することができる。析出強化を利用して強度を上昇させると靭性が劣化する傾向にあるのに対して、本発明の結晶粒微細化強化では靭性をあまり損なわないかまたは改善できる作用があるため、工具基体の表面に形成した被覆層の靭性改善にとっては有効である。
さらに、被覆層中に形成した、イットリウム系(Y)やチタン系(TiO)、アルミ系(Al)といった酸化物は、通常、同被覆層中に形成される炭化物に比べて、その高温での熱処理中や使用中でもあまり成長しないことから、従来材では炭化物の成長が起こって析出強化量が著しく減少するような高温域でも、結晶粒微細化強化を利用でき、飛躍的に高温強度を高めることができる。
よって、上述の効果を有効に利用するためには、被覆層組織中に分散させる酸化物の大きさおよび個数密度を同時に調整することが重要となる。本発明の工具基体の表面に形成した被覆層の場合、その酸化物の分散状態は粒径25nm以下の酸化物を1μmあたり750個以上分散させるものであり、好ましくは酸化物自体の最大径が25nm以下となるようにする。特に好ましくは、酸化物の最大径が15nm以下で1μm中に20000個以上となるようにする。
なお、酸化物の分散状態の評価は、透過型電子顕微鏡を用いた薄膜観察の結果から行なえば良い。該手段によって組織中に酸化物が分散していることが確認でき、例えば40万倍の暗視野像(図1)および元素分布マッピングを行ないFeの透過電子線のみで結像したエレメントイメージ(図2)をそれぞれ1視野用いることで、酸化物の大きさ(最大径)および個数密度を得ることができる。Feのエレメントイメージを用いることで酸化物の個数を精度良く観察できる。
すなわち、暗視野像中の酸化物の最長方向の長さを計り、ASTMの切断法から公称粒径を求めてそれを粒径とすれば良く、最も大きな酸化物の最長方向の長さについてその公称粒径を最大径とすれば良い。また、図2の例では、明確に確認のできる、Feのエレメントイメージ中の直径2mm以上に写っている酸化物の個数を数えて、それを観察体積(観察面積×薄膜試料厚さ)で割って酸化物の個数密度とすれば良い。なお、図1,2の電子像は、後の実施例1で評価した供試材Aからなる被覆層(作業面)の、550℃で焼戻したときのものである。
以下に、本発明の効果を最大限に活用するのに好ましい、上記被覆層の成分や結晶粒径を限定した理由について詳細に説明する。
被覆層中のCやCrは、それ自身の焼入れ性を高める元素であり、本発明の、最終的には全体が焼入れ焼戻しされる工具を製造する上で非常に重要である。よって、このような焼入れ性を高める元素は、本発明の工具基体の表面に形成した焼入れ焼戻し後の被覆層がマルテンサイト組織を有するものとして成立させるために、必ず十分な焼入れ性が確保できるように成分調整される必要がある。
・C:0.1〜3.0質量%
Cは、一部が基地中に固溶して強度を付与し、一部は炭化物を形成することで耐摩耗性や耐焼付き性を高める重要な元素であることから、本発明の対象を温熱間工具や切削工具といった工具とする場合には、特に本発明の有用性を向上させる。また、固溶した侵入型原子であるCは、CrなどのCと親和性の大きい置換型原子と共添加した場合、I(侵入型原子)−S(置換型原子)効果;溶質原子の引きずり抵抗として作用し高強度化する作用も期待される。ただし、含有量が0.1質量%未満では工具基体の表面に形成した被覆層として十分な硬さ、耐摩耗性を確保できなくなる。他方、過度の添加は靭性や熱間強度の低下を招くため上限を3.0質量%とする。
・Cr:1.0〜18.0質量%
Crは焼入れ性を高めて、また、炭化物を形成して基地の強化や耐摩耗性を向上させる効果を有することから、本発明の対象を温熱間工具や切削工具といった工具とする場合には、特に本発明の有用性を向上させる元素であり、少なくとも1.0質量%添加する必要がある。ただし、過度の添加は焼入れ性や熱間強度の低下を招くため、上限を18.0質量%とする。
なお、本発明の工具基体の表面に形成した被覆層の成分組成は、質量%でC:0.1〜3.0%、Cr:1.0〜18.0%を含む以外には、例えば必要に応じてMo,W,V,Ni,Coなどを添加することができ、JISに記載されるような工具鋼組成の適用が可能である。そして、積極的に導入した上記の粒径25nm以下の微細酸化物以外には、不可避的に混入あるいは発生し含まれる、例えばアルミナといった酸化物が、25nmの粒径を超える粗大粒子であっても、本発明の作用効果を害するものではない。これについては、本発明の好ましい条件である、微細酸化物自体の最大径を25nm以下、更には15nm以下に限定する場合であっても同様であり、下記の微細酸化物の混合工程などで積極的に導入した微細酸化物以外には、25nmの粒径を超える粗大粒子が不可避的に含まれてもよい。
・旧オーステナイト粒界による結晶粒径が最大10μm以下
全体が焼入れ焼戻しされて使用される工具にとって、本発明の酸化物の導入による被覆層中の結晶粒微細化効果は、その焼入れ焼戻し後の“旧オーステナイト粒界による結晶粒径”に反映されている。通常の工具鋼製品の場合、その旧オーステナイト粒界による結晶粒径は小さくても20μm程度であるが、結晶粒微細化による強化量が大きくなるのは平均結晶粒径10μm以下の領域である。本発明の工具基体の表面に形成した被覆層は、この結晶粒微細化強化を利用して強化を図るため、結晶粒径は最大10μm以下とする。好ましくは5μm以下、さらに好ましくは1μm以下とする。
なお、本発明の旧オーステナイト粒界による結晶粒径の評価は、透過型電子顕微鏡を用いた薄膜観察の結果(例えば4万倍の暗視野像を4視野)から行えばよい。すなわち、暗視野像中の最も大きな結晶粒の最長方向の長さを計り、ASTMの切断法から公称粒径を求めて、それを最大粒径とすればよい。図3に示す暗視野像は、後の実施例1で評価した供試材Aからなる被覆層(作業面)の、550℃で焼戻した時のものである。
次に、本発明の工具の製造方法について述べる。
本発明の工具の場合、その基体の表面に形成した被覆層を微細な結晶粒組織とするためには、例えばメカニカルミリング法で作製した粉末を基体上に固化成形して、接合し、被覆層とする手法が適用できる。これは最終的には全体が焼入れ焼戻しされることで結晶粒の成長が起こり得る工具の製造方法に好ましい手法である。すなわち、質量%でC:0.1〜3.0%、Cr:1.0〜18.0%かつ、酸化物が0.3〜5.0体積%になるように混合され、焼入れ焼戻しできる成分組成を有した工具鋼粉末と酸化物粉末の混合粉末をメカニカルミリングした後、工具基体の表面に固化成形し、被覆接合して作業面とし、焼入れ焼戻しして、作業面をマルテンサイト組織の被覆層とする工具の製造方法である。必要に応じては、その焼入れ焼戻しの前に機械加工することで、所定の工具形状(作業面形状)とすることができる。
従来、アトライタやボールミル等の装置によるメカニカルミリング法は、そのミリングに供される原料粉末の結晶粒径を微細にできる手段として使用されており、工具鋼の分野でも提案されている(特許文献1参照)。本発明も、このメカニカルミリング法による処理後粉末を固化成形するものであるが、ここで本発明の場合、メカニカルミリング前の原料粉末としてさらに酸化物粉末を混ぜた混合粉末とし、原子レベルまで機械的に混合することで、高温でも安定した酸化物粒子による結晶粒微細化強化と分散強化を達成できる。
・酸化物:0.3〜5.0体積%
酸化物は高温でも熱的に安定なため、工具基体の表面に形成した被覆層(作業面)の熱処理時や高温での使用時の結晶粒成長を効果的に抑制する上で重要な物質であり、微細粒組織を維持するために最低0.3体積%は必要である。しかし酸化物の量が多すぎると固化成形時の成形性が悪くなることに加えて、工具基体の表面に形成した被覆層の靭性劣化を招くため、上限を5.0体積%とする。
次に、メカニカルミリング法によって処理された粉末は、工具基体の表面に固化成形することで接合し、被覆層とするが、粉末を固化成形し、後工程では工具全体を焼入れ焼戻しする際の熱処理によって、被覆層組織の結晶粒は成長する。つまり、本発明によって作製される被覆層の結晶粒径を微細にするためには、その原料となるメカニカルミリング法で作製した粉末の結晶粒径は微細であることが望ましい。そのため、メカニカルミリング法による粉末の結晶粒の超微細化は好ましくは平均で100nm以下、さらに好ましくは50nm以下である。
なお、基体表面への固化成形手段には、例えば焼結やHIP(熱間静水圧プレス)、温熱間圧延、温熱間押出し等の高温固化が適用でき、HIPや温熱間圧延、温熱間押出しが完全に緻密な材料を得易い点で好ましい。さらに、固相拡散接合法や液相拡散接合法等で接合して、工具基体の表面に形成した被覆層を作業面に有する工具に仕上げることができる。そして、その固化成形されたままの、被覆層付きの素材については、後は必要であれば通常の鍛造・圧延工程、焼きなまし状態での機械加工を適用し、焼入れ焼戻しして工具形状(作業面形状)に仕上げる。
また、被覆層形成手段として上記の他には、例えば基体表面への高速フレーム溶射、減圧プラズマ溶射、コールドスプレー,レーザー粉末積層等が適用できる。軟化特性が重要視される用途では、低温で形成できる高速フレーム溶射やコールドスプレーが好ましい手法である。
本発明の工具基体の表面に形成した被覆層が、焼入れ焼戻しのできる素材(組成)であることは、高温強度特性に優れた工具を製造する上でも非常に重要である。すなわち、高合金系の工具や、体積寸法が大きい工具を効率的に製造するためには、上記被覆層の固化成形時の温度は高いほど良い。しかし、900℃を超えるような高温域では、鉄系の材料では殆どの成分系で相変態(拡散変態)が起こり、結晶粒が成長してしまう。しかも、昇温時と降温時の二回の相変態が起こることによって、極端に大きな結晶粒サイズになってしまう。この点、被覆層が焼入れできる素材からなる場合、その焼入れ降温時は無拡散のマルテンサイトに変態する素材であるから、結晶粒成長が起こる相変態は昇温時の一回のみとなり、降温時に結晶粒成長は起こらないことから微細な結晶粒サイズを維持でき、結晶粒微細化強化を利用できる。
工具基体は、適用分野によって必要な強度を有していれば限定する必要はなく、例えばJISの熱間工具鋼(SKD61,SKD7,SKD8等)、冷間金型用合金工具鋼(SKD11,SKS3,SKS93等)、高速度工具鋼(SKH51,SKH40等)や、それらの改良鋼、そして製造メーカーからの多種多様なニーズに応えるために工具鋼メーカーが独自に開発したブランド鋼種であるマトリックスハイスや粉末高速度鋼が使用できる。
表1に示した供試材Aは、ガスアトマイズ法で作製した合金粉末と市販のY酸化物粉末の混合粉末を遊星型ボールミル装置を用いて回転数2300rpmで100時間のメカニカルミリング処理によって作製した粉末である。組成はSKD61に相当し、これにY酸化物が全体積の3%になるよう添加された、焼入れの可能なものである。
メカニカルミリングの条件は、その処理後粉末の平均結晶粒径が100nm以下になるよう装置因子を調整しており、透過型電子顕微鏡を用いた観察(10万倍の暗視野像を1視野)およびX線回折法による半価幅を利用して算出した供試材Aの処理後粉末の平均結晶粒径は約30nmであった。
つぎに、軟鋼製のHIP容器に、まずSKD61の粉末を充填し、つづいて供試材Aの上記処理後粉末を充填して、脱気後封止した。なお、供試材Aの粉末は、その充填前において、粉末粒径1.64〜124.50μm、標準偏差15.50に分級している。つぎに、1150℃で101.3MPaの条件でHIP処理を施し固化成形し、両材を接合した。このSKD61からなる工具基体の表面には、供試材Aからなる厚さ5.23mmの被覆層が接合されており、この試料に、SKD61の標準的な焼入れ焼戻し温度である1020℃での焼入れ処理と、550℃での焼戻しを行った。焼入れ焼戻し後の、接合部のミクロ組織を図4に示す。
そして、その焼入れ焼戻し後の被覆層においての、旧オーステナイト粒径の最大結晶粒径、粒径25nm以下の酸化物については、その最大径および単位体積当たりの個数、そして焼入れ状態および焼戻し後の硬さを測定した。結晶粒径の評価は透過型電子顕微鏡を用いた薄膜観察の結果(4万倍を4視野)から行った。酸化物の評価は透過型電子顕微鏡を用いた薄膜観察の結果(最大径:40万倍の暗視野像を1視野、単位体積あたりの個数:40万倍のFeのエレメントイメージを1視野)から行った。硬度測定はマイクロビッカース硬度計を用いて測定した。結果を表2に示す。
供試材Aからなる被覆層の焼戻し組織は、焼戻し温度に関わらず、およそ0.1〜3μmのサイズの旧オーステナイト結晶粒からなっており、その測定による最大の結晶粒径は3μmであった。通常、溶製法で作製したSKD61の焼戻し組織も、焼戻し温度に関わらず、旧オーステナイト粒径は一般的な粒径である約20μmであり、これと比較して本発明の被覆層の結晶粒径は極めて微細である。また、供試材Aからなる被覆層の、550℃焼戻し組織中の酸化物の最大径は15.8nmで、1μm当り119225個存在した。なお、供試材Aからなる被覆層の組織中には、粒径25nmを越える酸化物は確認されなかった。
そして、供試材Aからなる被覆層を有した本発明試料(工具)は、その被覆層(作業面)が、結晶粒微細化に起因して焼入れ硬さが非常に高く、さらに温熱間工具がよく使用される温度域でもある550℃で焼戻しても硬さはほぼ維持されており、高硬度かつ高温強度に優れている。本発明試料の場合、その焼入れ時の被覆層組織も調べたところ、およそ0.1〜3μmのサイズの結晶粒(大角粒)であった。酸化物が非常に微細かつ多数存在することによって、高温での固化成形および焼入れ過程での結晶粒の成長抑制に加えて、焼戻し過程(使用過程)での結晶粒の成長も抑制できていた。
表3に示した供試材Bは、ガスアトマイズ法で作製した合金粉末と市販のY酸化物粉末の混合粉末を遊星型ボールミル装置を用いて回転数2300rpmで100時間のメカニカルミリング処理によって作製した粉末である。組成は一次炭化物をほとんど含まない高速度鋼(以下マトリクス高速度鋼と記す)に相当し、これにY酸化物が全体積の3%になるよう添加された、焼入れの可能なものである。メカニカルミリングの条件設定は実施例1に従うものであり、透過型電子顕微鏡を用いた観察(10万倍の暗視野像を1視野)およびX線回折法による半価幅を利用して算出した供試材Bの処理後粉末の平均結晶粒径は約20nmであった。
つぎに、供試材Bの上記処理後粉末を、粉末粒径2.75〜31.11μm、標準偏差3.92に分級した。そして、その分級後の粉末を、SKD61焼鈍材の工具基材表面へ減圧プラズマ溶射によって被覆形成し、接合した。形成した被覆層の厚さは0.56mmであり、その接合部のミクロ組織を図5に示す。
次いで、この試料には、該マトリクス高速度鋼の標準的な焼入れ焼戻し温度である1140℃での焼入れ処理と、550℃での焼戻しを行った。そして、実施例1に同様に、その焼入れ焼戻し後の被覆層における、旧オーステナイト粒径の最大の結晶粒径、粒径25nm以下の酸化物については、その最大径および単位体積当たりの個数と、焼入れ状態および焼戻し後の硬さを測定した。結果を表4に示す。
供試材Bからなる被覆層の焼戻し組織は、焼戻し温度に関わらず、およそ0.1〜3.2μmのサイズの旧オーステナイト結晶粒からなっており、その測定による最大の結晶粒径は3.2μmであった。通常、溶製法で作製したマトリクス高速度鋼の焼戻し組織も、焼戻し温度に関わらず、旧オーステナイト粒径は一般的な粒径である約20μmであり、これと比較して本発明の被覆層の結晶粒径は極めて微細である。また、供試材Bからなる被覆層の550℃焼戻し組織中の酸化物の最大径は14.2nmで、1μm当り113546個存在した。なお、供試材Bからなる被覆層の組織中には、粒径25nmを越える酸化物は確認されなかった。
そして、供試材Bからなる被覆層を有した本発明試料(工具)は、その被覆層(作業面)が、結晶粒微細化に起因して焼入れ硬さが非常に高く、さらに温熱間工具がよく使用される温度域でもある550℃で焼戻しても硬さはほぼ維持されており、高硬度かつ高温強度に優れている。なお、供試材Bからなる被覆層の場合も、その焼入れ時の組織はおよそ0.1〜3.2μmのサイズの結晶粒(大角粒)からなっていた。
実施例2で作製した供試材Bの前記メカニカルミリング処理後粉末を用いて、これをSKD61焼鈍材の工具基材表面へ高速フレーム溶射により被覆形成し、接合した。この時の供試材Bの粉末は、その被覆前において、粉末粒径11.00〜74.00μm、標準偏差7.54に分級している。形成した被覆層の厚さは0.62mmであり、その接合部のミクロ組織を図6に示す。そして同様に、この接合後の試料に1140℃での焼入れ処理と550℃での焼戻しを行うことで、その焼入れ焼戻し後の被覆層における、旧オーステナイト粒径の最大の結晶粒径、粒径25nm以下の酸化物については、その最大径および単位体積当たりの個数と、焼入れ状態および焼戻し後の硬さを測定した。結果を表5に示す。
実施例3による被覆層の焼戻し組織は、焼戻し温度に関わらず、およそ0.1〜3.4μmのサイズの旧オーステナイト結晶粒からなっており、その測定による最大の結晶粒径は3.4μmであった。溶製法で作製したマトリクス高速度鋼の一般的な同旧オーステナイト粒径は約20μmであるが、これと比較して本発明の被覆層の結晶粒径は極めて微細である。また、実施例3による被覆層の550℃焼戻し組織中の酸化物の最大径は14.8nmで、1μm当り110264個存在した。なお、この被覆層の組織中にも粒径25nmを越える酸化物は確認されなかった。
そして、実施例3で作製した本発明試料(工具)の、その被覆層(作業面)は、結晶粒微細化に起因して焼入れ硬さが非常に高く、さらに温熱間工具がよく使用される温度域でもある550℃で焼戻しても硬さはほぼ維持されており、高硬度かつ高温強度に優れている。なお、実施例3の被覆層の場合も、その焼入れ時の組織はおよそ0.1〜3.4μmのサイズの結晶粒(大角粒)からなっていた。
本発明の工具の、作業面の組織を示す、透過型電子顕微鏡写真(暗視野像)である。 本発明の工具の、作業面の組織を示す、透過型電子顕微鏡写真(Feのエレメントイメージ)である。 本発明の工具の、作業面の組織を示す、透過型電子顕微鏡写真(暗視野像)である。 HIPで被覆層(作業面)を形成した本発明の工具の、基体と作業面の接合部の組織を示す顕微鏡写真である。 減圧プラズマ溶射で被覆層(作業面)を形成した本発明の工具の、基体と作業面の接合部の組織を示す顕微鏡写真である。 高速フレーム溶射で被覆層(作業面)を形成した本発明の工具の、基体と作業面の接合部の組織を示す顕微鏡写真である。

Claims (4)

  1. 作業面が、工具基体の表面に形成した焼入れ焼戻し後の被覆層よりなる工具であって、該被覆層は、質量%でC:0.1〜3.0%、Cr:1.0〜18.0%を含む成分組成の工具鋼が焼入れ焼戻しされてなるマルテンサイト組織からなり、組織中には粒径25nm以下の酸化物が1μmあたり750個以上分散しかつ、旧オーステナイト粒界による結晶粒径が最大10μm以下であることを特徴とする軟化特性および表面仕上げ特性に優れた高強度工具。
  2. 被覆層は、焼入れ焼戻しされてなるマルテンサイト組織中に分散する酸化物の粒径が最大で25nm以下であることを特徴とする請求項1に記載の軟化特性および表面仕上げ特性に優れた高強度工具。
  3. 質量%でC:0.1〜3.0%、Cr:1.0〜18.0%かつ、酸化物が0.3〜5.0体積%になるように混合され、焼入れ焼戻しできる成分組成を有した工具鋼粉末と酸化物粉末の混合粉末をメカニカルミリングした後、工具基体の表面に固化成形し被覆接合して作業面とし、焼入れ焼戻しして、作業面をマルテンサイト組織の被覆層とすることを特徴とする軟化特性および表面仕上げ特性に優れた高強度工具の製造方法。
  4. 被覆接合した作業面を機械加工して、焼入れ焼戻しして、作業面をマルテンサイト組織の被覆層とすることを特徴とする請求項3に記載の軟化特性および表面仕上げ特性に優れた高強度工具の製造方法。
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