1.第一の実施形態
まず、本発明の第一の実施形態について図面に基づいて説明する。図1は、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置Hの構成を示すスケルトン図であるが、この図では中心軸に対称な下半分の構成を省略して示している。また、図2に示すハイブリッド駆動装置Hのシステム構成を示す模式図では、実線の矢印は各種情報の伝達経路を示し、破線は電力の伝達経路を示し、白抜きの矢印は油圧の伝達経路を示している。
図1に示すように、このハイブリッド駆動装置Hは、エンジンEに駆動連結される入力軸Iと、車輪W(図2参照)に駆動連結される出力軸Oと、第一回転電機MG1と、第二回転電機MG2と、差動歯車装置Gと、を備えている。本実施形態においては、差動歯車装置Gは、第一差動歯車装置G1と第二差動歯車装置G2とを備えている。第二回転電機MG2は、差動歯車装置Gを介さずに出力軸Oに駆動連結されている。また、本実施形態においては、第一差動歯車装置G1は、第二遊星歯車機構PG2と第三遊星歯車機構PG3とを組み合わせて構成されており、第二差動歯車装置G2は第一遊星歯車機構PG1により構成されている。これらのハイブリッド駆動装置Hの各構成は、車両に固定される非回転部材としてのケースDc内に収納されている。そして、このハイブリッド駆動装置Hは、トルク分配機構として動作する差動歯車装置における第一回転電機MG1からのトルクが伝達される回転要素を異ならせることで、入力軸Iから伝達される入力トルクTEが出力軸Oに伝達される際のトルク変換比が互いに異なる第一無段変速モードと第二無段変速モードとの2つのモードが実行可能に備えている。なお、本実施形態においては、入力軸Iが本発明における「入力部材」に相当し、出力軸Oが本発明における「出力部材」に相当する。以下、このハイブリッド駆動装置Hの各部の構成について詳細に説明する。
1−1.ハイブリッド駆動装置の機械的構成
まず、ハイブリッド駆動装置Hの各部の機械的構成について説明する。図1に示すように、入力軸Iは、エンジンEに駆動連結される。ここで、エンジンEは、燃料の燃焼により駆動される内燃機関であり、例えば、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの公知の各種エンジンを用いることができる。本例では、入力軸Iは、エンジンEのクランクシャフト等の出力回転軸と一体回転するように駆動連結されている。なお、入力軸Iが、エンジンEの出力回転軸に対して、ダンパ、クラッチ、トルクコンバータ等の他の部材を介して駆動連結された構成としても好適である。本実施形態においては、入力軸IはエンジンEの出力回転軸と一体的に回転するため、入力軸Iの回転はエンジンEの回転と同じであり、エンジンEのトルクが入力軸Iのトルクとなる。
出力軸Oは、図2に示すように、出力用差動歯車装置DFを介して車輪W(駆動輪)に駆動連結されている。本実施形態においては、出力軸Oは、入力軸Iと同軸上に配置されている。更には、このハイブリッド駆動装置Hは、エンジンE、第一回転電機MG1、第二回転電機MG2、第一差動歯車装置G1、及び第二差動歯車装置G2が、入力軸Iと同軸上に配置されており、全体が同軸配置された一軸構成とされている。
図1に示すように、第一回転電機MG1は、ケースDcに固定されたステータSt1と、このステータSt1の径方向内側に回転自在に支持されたロータRo1と、を有している。第一回転電機MG1のロータRo1は、第二差動歯車装置G2を構成する第一遊星歯車機構PG1の第一サンギヤs1と一体回転するように駆動連結されている。また、第二回転電機MG2は、ケースDcに固定されたステータSt2と、このステータSt2の径方向内側に回転自在に支持されたロータRo2と、を有している。第二回転電機MG2のロータRo2は、出力軸Oと一体回転するように駆動連結されているとともに、第一差動歯車装置G1を構成する第三遊星歯車機構PG3の第三サンギヤs3と一体回転するように駆動連結されている。
図2に示すように、第一回転電機MG1は第一インバータ22を介して、第二回転電機MG2は第二インバータ23を介して、それぞれバッテリ21に電気的に接続されている。そして、第一回転電機MG1及び第二回転電機MG2は、それぞれ電力の供給を受けて動力を発生するモータ(電動機)としての機能と、動力の供給を受けて電力を発生するジェネレータ(発電機)としての機能を果すことが可能とされている。後述するように、第一回転電機MG1及び第二回転電機MG2は、それぞれ回転方向とトルクの向きとの関係に応じてモータ又はジェネレータとして機能する。そして、第一回転電機MG1及び第二回転電機MG2は、ジェネレータとして機能する場合には、発電した電力をバッテリ21に供給して充電し、或いは当該電力をモータとして機能する他方の回転電機MG1、MG2に供給して力行させる。また、第一回転電機MG1及び第二回転電機MG2は、モータとして機能する場合には、バッテリ21に充電され、或いはジェネレータとして機能する他方の回転電機MG1、MG2により発電された電力の供給を受けて力行する。そして、第一回転電機MG1の動作制御は、主制御ユニット31からの制御指令に従って第一回転電機制御ユニット33及び第一インバータ22を介して行われ、第二回転電機MG2の動作制御は、主制御ユニット31からの制御指令に従って第二回転電機制御ユニット34及び第二インバータ23を介して行われる。なお、バッテリ21は、蓄電装置の一例であり、キャパシタなどの他の蓄電装置を用い、或いは複数種類の蓄電装置を併用することも可能である。
本実施形態においては、ハイブリッド駆動装置Hは、第一差動歯車装置G1及び第二差動歯車装置G2の2つの差動歯車装置を備えている。第一差動歯車装置G1は第二遊星歯車機構PG2と第三遊星歯車機構PG3とを組み合わせて構成され、4つの回転要素を備えている。そして、第一差動歯車装置G1は、第一無段変速モードでは、第二差動歯車装置G2と一体的に動作するとともに、入力軸Iから伝達される入力トルクTEを第一回転電機MG1と出力軸Oとに分配し、第一回転電機MG1のMG1トルクT1を反力として入力トルクTEに対して所定のトルク変換比で減衰したトルクを出力回転要素Eo(出力軸O)に伝達するトルク分配機構として機能する。また、第一差動歯車装置G1は、第二無段変速モードでは、単独で、第二差動歯車装置G2により増幅された後の第一回転電機MG1のMG1トルクT1を反力として、入力トルクTEに対して所定のトルク変換比で減衰したトルクを出力軸Oに伝達するトルク分配機構として機能する。また、第二差動歯車装置G2は第一遊星歯車機構PG1により構成され、3つの回転要素を備えている。そして、第二差動歯車装置G2は、第一無段変速モードでは、上記のように第一差動歯車装置G1と一体的に動作し、トルク分配機構の一部として機能する。また、第二差動歯車装置G2は、第二無段変速モードでは、第一回転電機MG1の反力トルク(MG1トルクT1)を増幅して中間トルクTMを生成し、当該中間トルクTMをトルク分配機構として機能する第一差動歯車装置G1に伝達するトルク増幅機構として機能する。なお、本実施形態においては、第二回転電機MG2は、第一差動歯車装置G1及び第二差動歯車装置G2の双方を介することなく出力軸Oに駆動連結されている。なお、第二回転電機MG2が増速機や減速機等の変速機を介して出力軸Oに駆動連結されている構成としても好適である。以下、各差動歯車装置G1、G2を構成する各遊星歯車機構PG1〜PG3のそれぞれの構成について図1に基づいて詳細に説明する。
第一差動歯車装置G1を構成する第二遊星歯車機構PG2は、3つの回転要素を備えたシングルピニオン型の遊星歯車機構である。すなわち、第二遊星歯車機構PG2は、複数のピニオンギヤを支持する第二キャリヤca2と、前記ピニオンギヤにそれぞれ噛み合う第二サンギヤs2及び第二リングギヤr2とを回転要素として有している。第二サンギヤs2は、入力軸Iと一体回転するように駆動連結されているとともに、第三遊星歯車機構PG3の第三リングギヤr3と一体回転するように駆動連結されている。第二キャリヤca2は、第一遊星歯車機構PG1の第一リングギヤr1と一体回転するように駆動連結されているとともに、第三遊星歯車機構PG3の第三キャリヤca3と一体回転するように駆動連結されている。第二リングギヤr2は、クラッチCを介して第一遊星歯車機構PG1の第一キャリヤca1と選択的に駆動連結される。
第一差動歯車装置G1を構成する第三遊星歯車機構PG3は、3つの回転要素を備えたダブルピニオン型の遊星歯車機構である。すなわち、第三遊星歯車機構PG3は、複数対のピニオンギヤを支持する第三キャリヤca3と、一対のピニオンギヤの一方に噛み合う第三サンギヤs3と、一対のピニオンギヤの他方に噛み合う第三リングギヤr3とを回転要素として有している。第三サンギヤs3は、出力軸Oと一体回転するように駆動連結されているとともに、第二回転電機MG2のロータRo2と一体回転するように駆動連結されている。第三リングギヤr3は、入力軸Iと一体回転するように駆動連結されているとともに、第二遊星歯車機構PG2の第二サンギヤs2と一体回転するように駆動連結されている。第三キャリヤca3は、第二遊星歯車機構PG2の第二キャリヤca2と一体回転するように駆動連結されているとともに、第一遊星歯車機構PG1の第一リングギヤr1と一体回転するように駆動連結されている。
第一差動歯車装置G1は、第二遊星歯車機構PG2及び第三遊星歯車機構PG3がそれぞれの有する3つの回転要素のうち、2つずつを互いに一体回転するように接続することにより、全体として4つの回転要素を備えて一体的に動作するように構成されている。これら4つの回転要素を、回転速度の順に第一回転要素e1、第二回転要素e2、第三回転要素e3、及び第四回転要素e4とする。本実施形態においては、第三サンギヤs3が第一回転要素e1に相当し、互いに一体回転する第二サンギヤs2及び第三リングギヤr3が第二回転要素e2に相当し、互いに一体回転する第二キャリヤca2及び第三キャリヤca3が第三回転要素e3に相当し、第二リングギヤr2が第四回転要素e4に相当する。また、第二回転要素e2としての第二サンギヤs2及び第三リングギヤr3が入力軸Iに駆動連結された入力回転要素Eiとなっている。そして、第一回転要素e1としての第三サンギヤs3が出力軸O及び第二回転電機MG2に駆動連結された出力回転要素Eoとなっている。
第二差動歯車装置G2としての第一遊星歯車機構PG1は、3つの回転要素を備えたシングルピニオン型の遊星歯車機構である。すなわち、第一遊星歯車機構PG1は、複数のピニオンギヤを支持する第一キャリヤca1と、前記ピニオンギヤにそれぞれ噛み合う第一サンギヤs1及び第一リングギヤr1とを回転要素として有している。第一サンギヤs1は、第一回転電機MG1のロータRo1と一体回転するように駆動連結されている。第一キャリヤca1は、クラッチCを介して第二遊星歯車機構PG2の第二リングギヤr2と選択的に駆動連結されるとともに、ブレーキBにより非回転部材としてのケースDcに選択的に固定される。第一リングギヤr1は、第二遊星歯車機構PG2の第二キャリヤca2と一体回転するように駆動連結されているとともに、第三遊星歯車機構PG1の第三キャリヤca3と一体回転するように駆動連結されている。これらの第一遊星歯車機構PG1の3つの回転要素は、回転速度の順に、第一リングギヤr1、第一キャリヤca1、第一サンギヤs1となっている。従って、本実施形態においては、第一リングギヤr1、第一キャリヤca1、第一サンギヤs1が、それぞれ第二差動歯車装置G2の第一回転要素e1、第二回転要素e2、第三回転要素e3となっている。なお、詳細は後述するが、ブレーキBによる第一キャリヤca1(第二差動歯車装置G2の第二回転要素e2)の固定状態で、第一サンギヤs1(第二差動歯車装置G2の第三回転要素e3)の回転速度が減速されて第一リングギヤr1(第二差動歯車装置G2の第一回転要素e1)に伝達されるように、第二差動歯車装置G2が構成されている。すなわち、本実施形態においては、第二差動歯車装置G2は、第二無段変速モードで、第一回転電機MG1の回転速度の向きを反転するとともに、第一回転電機MG1の回転速度を減速して第一回転電機MG1のMG1トルクT1を増幅するための差動歯車装置として機能する。
以上のように、本実施形態では、第一差動歯車装置G1の第一回転要素e1に出力軸O及び第二回転電機MG2が駆動連結され、第一差動歯車装置G1の第二回転要素e2に入力軸Iが駆動連結され、第一差動歯車装置G1の第三回転要素e3が第二差動歯車装置G2の第一回転要素e1に駆動連結され、第一差動歯車装置G1の第四回転要素e4が第二差動歯車装置G2の第二回転要素e2にクラッチCを介して選択的に駆動連結される構成となっている。また、第二差動歯車装置G2の第二回転要素e2はブレーキBにより非回転部材としてのケースDcに選択的に固定され、第二差動歯車装置G2の第三回転要素e3に第一回転電機MG1が駆動連結されている。
また、上記のとおり、このハイブリッド駆動装置Hは、係合要素として、クラッチC及びブレーキBを備えている。これらの係合要素としては、いずれも油圧により動作する多板式クラッチや多板式ブレーキ等の摩擦係合要素を用いることができる。図2に示すように、これらの係合要素C、Bへは、主制御ユニット31からの制御指令により動作する油圧制御装置35から油圧が供給され、当該油圧により各係合要素C、Bの係合又は解放が制御される。この油圧制御装置35へは、図示しないオイルポンプにより発生した油圧が供給される。
1−2.ハイブリッド駆動装置の制御システムの構成
図2に示すように、ハイブリッド駆動装置Hは、装置の各部を制御するための主制御ユニット31を備えている。主制御ユニット31は、エンジン制御ユニット32、第一回転電機制御ユニット33、第二回転電機制御ユニット34、及び油圧制御装置35との間で、相互に情報伝達が可能な状態で接続されている。エンジン制御ユニット32は、エンジンEの各部を制御することにより、エンジンEが所望の回転速度やトルクを出力するように制御する。第一回転電機制御ユニット33は、第一インバータ22を制御することにより、第一回転電機MG1が所望の回転速度やトルクを出力するように制御する。第二回転電機制御ユニット34は、第二インバータ23を制御することにより、第二回転電機MG2が所望の回転速度やトルクを出力するように制御する。油圧制御装置35は、図示しないオイルポンプから供給される油圧を調整し、各係合要素C、Bに分配供給することにより、各係合要素の係合又は解放を制御する。このような各係合要素の係合又は解放は、主制御ユニット31からの制御指令に基づいて行われる。
また、主制御ユニット31は、ハイブリッド駆動装置Hを搭載する車両の各部の情報を取得するために、車両の各部に設けられたセンサ等からの情報を取得可能に構成されている。図示の例では、主制御ユニット31は、バッテリ状態検出センサSe1、車速センサSe2、アクセル操作検出センサSe3、及びブレーキ操作検出センサSe4からの情報を取得可能に構成されている。バッテリ状態検出センサSe1は、バッテリ21の充電量等の状態を検出するためのセンサであり、例えば電圧センサや電流センサ等により構成される。車速センサSe2は、車速を検出するために出力軸Oの回転速度を検出するためのセンサである。アクセル操作検出センサSe3は、アクセルペダル24の操作量を検出するためのセンサである。ブレーキ操作検出センサSe4は、図示しないホイールブレーキに連動するブレーキペダル25の操作量を検出するためのセンサである。
主制御ユニット31は、各センサSe1〜Se4で取得される情報を用いて、後述する複数の動作モードの選択を行う。そして、主制御ユニット31は、油圧制御装置35を介して、クラッチC及びブレーキBの係合状態を制御することにより、動作モードの切り替えを行う。また、主制御ユニット31は、エンジン制御ユニット32、第一回転電機制御ユニット33、及び第二回転電機制御ユニット34を介して、エンジンE、第一回転電機MG1、第二回転電機MG2の動作状態を協調制御することにより、選択された動作モードに応じて適切な車両の走行が行われるようにする。
本実施形態では、主制御ユニット31は、各種制御を実行するための機能部として、バッテリ状態検出部41、モード選択部42、切替制御部43を備えている。主制御ユニット31が備えるこれらの各手段は、CPU等の演算処理装置を中核部材として、入力されたデータに対して種々の処理を行うための機能部がハードウエア又はソフトウエア(プログラム)或いはその両方により実装されて構成されている。また、主制御ユニット31は、記憶部44を備えており、この記憶部44内には、車速及び要求駆動力に応じて動作モードを決定するために用いられる制御マップ45が格納されている。
バッテリ状態検出部41は、バッテリ状態検出センサSe1から出力される電圧値や電流値等の情報に基づいて、バッテリ21の充電量等のバッテリ状態を推定して検出する。ここで、バッテリ充電量は、一般にSOC(state of charge:充電状態)と呼ばれるものであり、例えば、バッテリ21の充電容量に対する充電残量の比率として求められる。
モード選択部42は、車両の各部の状態に応じて、所定の制御マップに従い適切な動作モードの選択を行う。本実施形態においては、モード選択部42は、車速及び要求駆動力などの走行条件に応じて、後述する3つの動作モードの中から適切な動作モードを選択する。各動作モードの内容については、後で詳細に説明する。ここで、要求駆動力は、運転者が車両に対して要求する駆動力を表す値であり、アクセル操作検出センサSe3及びブレーキ操作検出センサSe4からの出力に基づいて、モード選択部42が演算して取得する。車速は、車速センサSe2により検出する。なお、モード選択の際に参照される走行条件としては、車速及び要求駆動力の他にも、バッテリ充電量、冷却水温度、油温等の各種条件を用いても好適である。
切替制御部43は、モード選択部42により選択された動作モードに応じて油圧制御装置35の動作を制御することにより、クラッチC及びブレーキBのそれぞれの係合又は解放を行う。これにより、切替制御部43は、ハイブリッド駆動装置Hの動作モードを切り替える制御を行う。
1−3.切り替え可能に備えられる複数のモード
次に、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置Hにより実現可能なモードについて説明する。図3は、各モードでの各係合要素C、Bの作動状態を示す作動表である。この図において、「○」は各係合要素が係合状態にあることを示しており、「無印」は、各係合要素が解放(係合解除)状態にあることを示している。図3に示すように、このハイブリッド駆動装置Hは、第一無段変速モード、固定変速比モード、及び第二無段変速モードの3つのモードを切り替え可能に備えた構成となっている。また、本実施形態では、第一無段変速モードと第二無段変速モードとの間の切り替えが、固定変速比モードを介して行われるように構成されているとともに、第一無段変速モード、固定変速比モード、及び第二無段変速モードの間で同期切替が可能に構成されている。なお、第一無段変速モードと第二無段変速モードとの間の切り替えが、固定変速比モードを介さずに行われるように構成しても良い。
図4〜図8は、各モードでの第一差動歯車装置G1及び第二差動歯車装置G2の動作状態を表す速度線図である。これらの速度線図において、縦軸は、各回転要素の回転速度に対応している。すなわち、縦軸に対応して記載している「0」は回転速度がゼロであることを示しており、上側が正回転(回転速度が正)、下側が負回転(回転速度が負)である。また、並列配置された複数本の縦線のそれぞれが、第一差動歯車装置G1を構成する第二遊星歯車機構PG2及び第三遊星歯車機構PG3、並びに第二差動歯車装置G2を構成する第一遊星歯車機構PG1の各回転要素に対応している。そして、これらの図において、実線で示される直線が第二遊星歯車機構PG2の動作状態を示し、一点鎖線で示される直線が第三遊星歯車機構PG3の動作状態を示す。すなわち、実線で示される直線と一点鎖線で示される直線とにより第一差動歯車装置G1の動作状態が示されている。また、破線で示される直線が第一遊星歯車機構PG1の動作状態を示す。すなわち、破線で示される直線により第二差動歯車装置G2の動作状態が示されている。これらの速度線図上において、「○」は第一回転電機MG1の回転速度、「△」は入力軸I(エンジンE)の回転速度、「☆」は出力軸O及び第二回転電機MG2の回転速度、「×」はブレーキBによるケースDcへの固定状態をそれぞれ示している。なお、各縦線の上側に記載されている四角形で囲まれた「Em」、「Ei」、「Eo」は、それぞれ、各モードにおける反力伝達要素Em、入力回転要素Ei、出力回転要素Eoを示している。
図4〜図8において、各回転要素の回転速度を示す点に隣接配置された矢印は、各動作モードでの通常の走行時に各回転要素に作用するトルクの向きを示しており、上向き矢印が正方向のトルクを表し、下向き矢印が負方向のトルクを表している。そして、「TE」はエンジンEから入力軸Iを介して入力回転要素Eiとしての第二サンギヤs2及び第三リングギヤr3に伝達される入力トルクTE、「T1」は第一回転電機MG1から第一サンギヤs1に伝達されるMG1トルクT1、「T2」は第二回転電機MG2から出力軸Oに伝達されるMG2トルクT2、「TO」は車輪W側から出力軸Oに伝達される走行抵抗TOを示している。また、「TM」は、第二無段変速モードにおいて、第一回転電機MG1のMG1トルクT1により第二差動歯車装置G2を介して反力伝達要素Emに作用する中間トルクTMを示している。後述するように、この中間トルクTMは、第一回転電機MG1のMG1トルクT1に対して増幅されたものとなっている。
第一無段変速モード及び第二無段変速モードは、いずれも、第一回転電機MG1のトルクを反力として入力軸I(エンジンE)のトルク(入力トルクTE)を出力軸Oに伝達しつつ、反力受けとなる第一回転電機MG1の回転速度を変化させることにより入力軸Iの回転速度を無段階に変速して出力軸Oに伝達する電気的無段変速モードである。これらの電気的無段変速モードでは、入力トルクTEは、差動歯車装置Gを介して出力軸Oと反力受けとなる第一回転電機MG1とに分配される。そして、第一無段変速モードと第二無段変速モードとは、電気的無段変速モードを実現するためのトルク分配機構の構成が異なる。具体的には、トルク分配機構として動作する差動歯車装置における第一回転電機MG1の反力トルクが伝達される回転要素(以下単に「反力伝達要素Em」という。)が異なる。
図4及び図5に示すように、第一無段変速モードでは、第一差動歯車装置G1及び第二差動歯車装置G2がそれぞれ有する回転要素のうち、2つずつを互いに一体回転するように駆動連結することにより、差動歯車装置Gが全体として5つの回転要素を備えて一体的にトルク分配機構として動作する。具体的には、第一差動歯車装置G1の第三回転要素e3と第二差動歯車装置G2の第一回転要素e1とが駆動連結されるとともに、第一差動歯車装置G1の第四回転要素e4と第二差動歯車装置G2の第二回転要素e2とが駆動連結される。そして、入力軸Iは第一差動歯車装置G1の第二回転要素e2に駆動連結され、出力軸O及び第二回転電機MG2が第一差動歯車装置G1の第一回転要素e1に駆動連結され、第一回転電機MG1が第二差動歯車装置G2の第三回転要素e3に駆動連結されている。よって、このモードでは、第二差動歯車装置G2の第三回転要素e3(第一サンギヤs1)が反力伝達要素Emとなっている。
一方、図7及び図8に示すように、第二無段変速モードでは、第一差動歯車装置G1と第二差動歯車装置G2とは、それぞれの一つの回転要素同士のみが一体回転するように駆動連結され、互いに独立に動作する。具体的には、第一差動歯車装置G1の第三回転要素e3と第二差動歯車装置G2の第一回転要素e1とが駆動連結されるのみで、その他の回転要素同士は駆動連結されない。この状態では、第一差動歯車装置G1はトルク分配機構として動作し、第二差動歯車装置G2はトルク増幅機構として動作する。そして、入力軸Iが第一差動歯車装置G1の第二回転要素e2に駆動連結され、出力軸O及び第二回転電機MG2が第一差動歯車装置G1の第一回転要素e1に駆動連結されている点では上記の第一無段変速モードと同様であるが、第二無段変速モードでは、第一回転電機MG1は第二差動歯車装置G2を介して第一差動歯車装置G1の第三回転要素e3に駆動連結されている。よって、このモードでは、第一差動歯車装置G1の第三回転要素e3(第二キャリヤca2及び第三キャリヤca3)が反力伝達要素Emとなっている。
上記のように、第一無段変速モードと第二無段変速モードとでは、トルク分配機構を構成する差動歯車装置における反力伝達要素Emが異なるため、入力軸Iのトルクが出力軸Oに伝達される際のトルク変換比が互いに異なる。ここで、トルク変換比とは、入力軸Iのトルクを分母とし、入力軸Iのトルクのうちで出力軸Oに伝達されるトルク(以下単に「出力軸Oのトルク」という。)を分子とするトルクの比である(トルク変換比=〔出力軸Oのトルク〕/〔入力軸Iのトルク〕)。詳細は後述するが、具体的には、第二無段変速モードが、第一無段変速モードに対してトルク変換比がトルク減衰側の値に設定されている。
固定変速比モードは、図6に示すように、入力軸Iの回転速度を一定の変速比で変速して出力軸Oに正方向のトルクを伝達可能なモードである。この固定変速比モードでは、入力軸Iの回転速度に比例して、出力軸O、第一回転電機MG1、及び第二回転電機MG2の回転速度が定まる。そして、第一無段変速モード、第二無段変速モード、及び固定変速比モードのいずれのモードにおいても、第二回転電機MG2は、出力軸Oと一体回転するように駆動連結されており、出力軸OにMG2トルクT2を常時伝達可能に構成されている。この第二回転電機MG2は、基本的には、第一差動歯車装置G1側から出力軸Oへ伝達されるトルクを補助する補助回転電機として機能する。また、車両の減速時には第二回転電機MG2は回生制動を行うが、出力軸Oと一体回転するように駆動連結されているので、当該回生制動も効率的に行うことができる。
図4〜図8において、各回転要素に対応する縦線の間隔は、第一遊星歯車機構PG1、第二遊星歯車機構PG2、及び第三遊星歯車機構PG3のそれぞれの歯数比に対応している。ここで、第一遊星歯車機構PG1の第一サンギヤs1と第一リングギヤr1との歯数比(=〔第一サンギヤs1の歯数〕/〔第一リングギヤr1の歯数〕)をλ1、第二遊星歯車機構PG2の第二サンギヤs2と第二リングギヤr2との歯数比(=〔第二サンギヤs2の歯数〕/〔第二リングギヤr2の歯数〕)をλ2、第三遊星歯車機構PG3の第三サンギヤs3と第三リングギヤr3との歯数比(=〔第三サンギヤs3の歯数〕/〔第三リングギヤr3の歯数〕)をλ3とする。なお、これらの歯数比λ1、λ2、λ3は、エンジンE、第一回転電機MG1、及び第二回転電機MG2の特性や車両重量等を考慮して適宜設定される。
ところで、上記のとおり、第一無段変速モードでは、第一差動歯車装置G1及び第二差動歯車装置G2が一体的に動作し、全体として5つの回転要素を備えたトルク分配機構として機能する。また、第二無段変速モードでは、第一差動歯車装置G1と第二差動歯車装置G2とが別々に動作するように構成される。この状態では、上記の通り、第一差動歯車装置G1はトルク分配機構として機能し、第二差動歯車装置G2はトルク増幅機構として機能する。そこで、図4〜図8の下部には、これらの機能を実現するための差動歯車装置Gの歯数比として、第一無段変速モード用歯数比λs、第二無段変速モード用歯数比λt、並びにトルク増幅用歯数比λuを示している。なお、これらの歯数比λs、λt、λuは、後述するように上記の歯数比λ1、λ2、λ3に応じて定まる。
第一無段変速モード用歯数比λsは、第一無段変速モードを実現した状態で、トルク分配機構として機能する差動歯車装置Gにおいて入力トルクTEが出力軸Oに伝達される際のトルク変換比(以下単に「第一トルク変換比Rt1」という。)を決定する歯数比である。この第一トルク変換比Rt1は、速度線図上における、第一差動歯車装置G1の第一回転要素e1(第三サンギヤs3)と第一差動歯車装置G1の第二回転要素e2(第二サンギヤs2及び第三リングギヤr3)との間の距離、及び第一差動歯車装置G1の第二回転要素e2(第二サンギヤs2及び第三リングギヤr3)と第二差動歯車装置G2の第三回転要素e3(第一サンギヤs1)との間の距離に応じて定まる。本例では、第一無段変速モード用歯数比λsは、第一遊星歯車機構PG1の歯数比λ1、第二遊星歯車機構PG2の歯数比λ2、及び第三遊星歯車機構PG3の歯数比λ3を用いて、以下の式(1)で表される。
λs={λ1・(1−λ3)}/{λ3・(λ1+λ2+λ1・λ2)}
・・・(1)
第二無段変速モード用歯数比λtは、第二無段変速モードを実現した状態で、トルク分配機構として機能する第一差動歯車装置G1において入力トルクTEが出力軸Oに伝達される際のトルク変換比(以下単に「第二トルク変換比Rt2」という。)を決定する歯数比である。この第二トルク変換比Rt2は、速度線図上における、第一差動歯車装置G1の第一回転要素e1(第三サンギヤs3)と第一差動歯車装置G1の第二回転要素e2(第二サンギヤs2及び第三リングギヤr3)との間の距離、及び第一差動歯車装置G1の第二回転要素e2(第二サンギヤs2及び第三リングギヤr3)と第一差動歯車装置G1の第三回転要素e3(第二キャリヤca2及び第三キャリヤca3)との間の距離に応じて定まる。本例では、第二無段変速モード用歯数比λtは、第三遊星歯車機構PG3の歯数比λ3を用いて、以下の式(2)で表される。
λt=(1−λ3)/λ3・・・(2)
トルク増幅用歯数比λuは、第二無段変速モードを実現した状態で、トルク増幅機構として機能する第二差動歯車装置G2において第一回転電機MG1のMG1トルクT1が増幅される際の増幅率Aを決定する歯数比である。この増幅率Aは、速度線図上における、第二差動歯車装置G2の第一回転要素e1(第一リングギヤr1)と第二差動歯車装置G2の第二回転要素e2(第一キャリヤca1)との間の距離、及び第二差動歯車装置G2の第二回転要素e2(第一キャリヤca1)と第二差動歯車装置G2の第三回転要素e3(第一サンギヤs1)との間の距離に応じて定まる。本例では、トルク増幅用歯数比λuは、第一遊星歯車機構PG1の歯数比λ1と等しい値となる。そして、増幅率Aは、トルク増幅用歯数比λuの逆数として表される。
これらの歯数比は、上述した3つのモードを適切に実現できるように、各モードを実現した状態で所定のトルク変換比を実現するように設定される。本実施形態では、一例として、第一遊星歯車機構PG1、第二遊星歯車機構PG2、及び第三遊星歯車機構PG3の歯数比λ1、λ2、λ3は、λ1=0.5、λ2=0.67、λ3=0.5に設定されている。このとき、第一無段変速モード用歯数比λs、第二無段変速モード用歯数比λt、及びトルク増幅用歯数比λuは、λs=0.33、λt=1.0、λu=0.5となる。
ここで、第一差動歯車装置G1と第二差動歯車装置G2とを一体的に動作させ、第一無段変速モードを実現した状態における、入力トルクTEが出力軸Oに伝達される際のトルク変換比である第一トルク変換比Rt1は、トルク分配機構として機能する差動歯車装置Gにおいて、反力伝達要素Emである第一サンギヤs1(第二差動歯車装置G2の第三回転要素e3)を支点とし、入力回転要素Eiとしての第二サンギヤs2及び第三リングギヤr3(第一差動歯車装置G1の第二回転要素e2)に伝達された入力トルクTEが、出力軸Oと一体回転する出力回転要素Eoとしての第三サンギヤs3(第一差動歯車装置G1の第一回転要素e1)に伝達される際のトルク変換比である。図4及び図5に示す速度線図から明らかなように、このとき入力トルクTEは、1/(1+λs)倍されて出力回転要素Eoとしての第三サンギヤs3に伝達される。従って、第一トルク変換比Rt1は、
Rt1=1/(1+λs)・・・(3)
となる。
また、第一差動歯車装置G1と第二差動歯車装置G2とを別々に動作させ、第二無段変速モードを実現した状態における、入力トルクTEが出力軸Oに伝達される際のトルク変換比である第二トルク変換比Rt2は、トルク分配機構として機能する第一差動歯車装置G1において、反力伝達要素Emである第二キャリヤca2及び第三キャリヤca3(第一差動歯車装置G1の第三回転要素e3)を支点とし、入力回転要素Eiとしての第二サンギヤs2及び第三リングギヤr3(第一差動歯車装置G1の第二回転要素e2)に伝達された入力トルクTEが、出力軸Oと一体回転する出力回転要素Eoとしての第三サンギヤs3(第一差動歯車装置G1の第一回転要素e1)に伝達される際のトルク変換比である。図7及び図8に示す速度線図から明らかなように、このとき入力トルクTEは、1/(1+λt)倍されて出力回転要素Eoとしての第三サンギヤs3に伝達される。従って、第二トルク変換比Rt2は、
Rt2=1/(1+λt)・・・(4)
となる。
以下、各モードでのハイブリッド駆動装置Hの動作状態について詳細に説明する。
1−4.第一無段変速モード
第一無段変速モードは、第一回転電機MG1のトルクを反力として入力軸I(エンジンE)のトルクを出力軸Oに伝達しつつ、反力受けとなる第一回転電機MG1の回転速度を変化させることにより入力軸Iの回転速度を無段階に変速して出力軸Oに正方向のトルクを伝達するモードである。図3に示すように、第一無段変速モードは、クラッチCを係合状態とすると共にブレーキBを解放状態とすることにより実現される。この第一無段変速モードでは、クラッチCが係合状態とされることにより第一差動歯車装置G1の第四回転要素e4(第二リングギヤr2)と第二差動歯車装置の第二回転要素e2(第一キャリヤca1)とが一体回転するように駆動連結される。これにより、第一差動歯車装置G1及び第二差動歯車装置G2が一体的に動作する状態となり、図4及び図5に示すように、速度線図上の全ての第一遊星歯車機構PG1、第二遊星歯車機構PG2、及び第三遊星歯車機構PG3を表す線が同一直線状となる。そして、この第一無段変速モードでは、第一回転電機MG1は全域において負方向のMG1トルクT1を反力トルクとして出力する。一方、第二回転電機MG2は、出力軸Oへ伝達される入力軸I(エンジンE)のトルクを補助する補助回転電機として機能する。この第一無段変速モードでは、後述する第二無段変速モードよりも大きいトルク変換比(第一トルク変換比Rt1)で入力軸Iのトルクを出力軸Oに伝達する。
第一無段変速モードでは、図4及び図5に示すように、速度線図上で第一遊星歯車機構PG1、第二遊星歯車機構PG2、及び第三遊星歯車機構PG3のそれぞれを表す線が同一直線状となり、差動歯車装置Gを構成する全ての遊星歯車機構PG1〜PG3が一体的にトルク分配機構として動作する状態となる。従って、差動歯車装置Gは、全部で5つの回転要素を有する状態となる。但し、第一無段変速モードでは、差動歯車装置Gの5つの回転要素のうち、実質的に、第一差動歯車装置G1の第一回転要素e1、第一差動歯車装置G1の第二回転要素e2、及び第二差動歯車装置G2の第三回転要素e3の3つの回転要素のみを用いて当該モードを実現している。そして、これら3つの回転要素のうち、回転速度の順で中間となる第二サンギヤs2及び第三リングギヤr3(第一差動歯車装置G1の第二回転要素e2)が入力軸Iに駆動連結された入力回転要素Eiとなっている。更に、この入力回転要素Eiに対して、回転速度の順で一方側となる第三サンギヤs3(第一差動歯車装置G1の第一回転要素e1)が出力軸O及び第二回転電機MG2に駆動連結された出力回転要素Eoとなり、回転速度の順で他方側となる第一サンギヤs1(第二差動歯車装置G2の第三回転要素e3)が第一回転電機MG1に駆動連結された反力伝達要素Emとなっている。なお、第一無段変速モードでは、第一回転電機MG1と反力伝達要素Emである第一サンギヤs1とは一体回転するように駆動連結されているため、第一回転電機MG1の回転速度及びトルクはそのまま反力伝達要素Emに伝達される。そして、この際、エンジンEは、効率が高く排ガスの少ない状態に(一般に最適燃費特性に沿うように)維持されるよう制御されつつ要求駆動力に応じた正方向のトルクを出力し、このエンジントルクが入力軸Iを介して入力トルクTEとして入力回転要素Eiに伝達される。また、第一回転電機MG1は、第一無段変速モードの全域で負方向のMG1トルクT1を発生させ、入力トルクTEの反力受けとして機能する。これにより、差動歯車装置Gは、入力トルクTEを出力回転要素Eoと第一回転電機MG1とに分配し、MG1トルクT1を反力として入力トルクTEに対して減衰したトルクを出力回転要素Eoに伝達する。
第一無段変速モードでは、第一回転電機MG1は、負方向のMG1トルクT1を常に出力する。そして、図4に示すように、出力軸Oの回転速度がゼロの状態(車両の発進時)を含む低速走行時には、第一回転電機MG1の回転速度が正となっている。その後、出力軸Oの回転速度(車速)が次第に上昇するに従って、第一回転電機MG1の回転速度は下降する。そして、第一回転電機MG1の回転速度がゼロとなる点を通過した後、図5に示すように、第一回転電機MG1の回転速度が負となる。第一回転電機MG1は、回転速度が正の状態ではジェネレータとして機能して発電を行い、回転速度が負の状態ではモータとして機能して力行する。なお、第一回転電機MG1の回転速度がゼロとなる点は、入力軸I(エンジンE)の仕事が電力に変換されない、すなわち電気変換が行われない点となっている。よって、本実施形態では、この点を便宜上「無電気変換点」という。
一方、第二回転電機MG2は、出力軸Oと一体回転するように駆動連結されており、基本的に正方向のトルク(MG2トルクT2)を出力することにより、出力軸Oに伝達される入力軸I(エンジンE)のトルクに対するアシストを行う。但し、後述するように、第二回転電機MG2は、第一回転電機MG1の動作状態に応じて負方向のMG2トルクT2を出力する場合もある。また、第二回転電機MG2が出力軸Oに一体回転するように駆動連結されているため、車両の減速時にも回生制動を効率的に行うことができる。
第一無段変速モードでは、第二回転電機MG2の回転速度は常に正となる。そして、第二回転電機MG2は、第一回転電機MG1の動作状態に応じた向きのトルク(MG2トルクT2)を出力する。すなわち、図4に示すように、第一回転電機MG1の回転速度が正であって第一回転電機MG1が発電しているときには、第二回転電機MG2は当該第一回転電機MG1により発電された電力を消費してモータとして機能して力行し、正方向のトルクを出力する。一方、図5に示すように、第一回転電機MG1の回転速度が負であって第一回転電機MG1が力行しているときには、第二回転電機MG2は当該第一回転電機MG1により消費する電力を生成するためにジェネレータとして機能して発電を行い、負方向のトルクを出力する。また、図示は省略するが、第一回転電機MG1の回転速度がゼロとなる無電気変換点では、第二回転電機MG2が出力するMG2トルクT2をゼロとする。これにより、第一無段変速モードにおけるハイブリッド制御装置Hの全体での電力収支を基本的にゼロとすることができる。よって、蓄電装置としてのバッテリ21の充電状態が大きく変動しない状態とすることができるので、長時間にわたって第一無段変速モードを実行することが可能となる。上記のとおり、出力軸Oの回転速度が次第に上昇する際には、第一回転電機MG1の回転速度は正からゼロを経て負に変化する。そして、第二回転電機MG2は、正方向のトルクを出力する状態からトルクゼロの状態を経て負方向のトルクを出力する状態に変化する。
上記のとおり、第一無段変速モードにおいて、第一差動歯車装置G1は、入力トルクTEを1/(1+λs)倍(=第一トルク変換比Rt1)に減衰して出力回転要素Eoに伝達する。そして、本実施形態ではλs=0.33であるため、入力軸Iの入力トルクTEは、約0.75倍されて出力軸Oに伝達される。また、出力軸Oには、第二回転電機MG2が出力するMG2トルクT2も伝達される。
また、反力受けとして機能する第一回転電機MG1が出力するMG1トルクT1の入力トルクTEに対する比(=〔MG1トルクT1〕/〔入力トルクTE〕)を反力トルク比とすると、第一無段変速モードにおける反力トルク比(以下、単に「第一反力トルク比Rr1」という。)は、第一トルク変換比Rt1と同様、第一無段変速モード用歯数比λsにより次式のように表される。すなわち、第一反力トルク比Rr1は、
Rr1=λs/(1+λs)・・・(5)
となる。本実施形態ではλs=0.33であるため、第一反力トルク比Rr1は「0.25」となる。
以上に説明したように、第一無段変速モードは、入力軸I(エンジンE)から入力回転要素Eiに伝達される入力トルクTEを第一トルク変換比Rt1で減衰させて出力軸Oに伝達するモードである。そして、第一トルク変換比Rt1は、後述する第二無段変速モードにおけるトルク変換比(第二トルク変換比Rt2)より大きな値となっている。よって、第一無段変速モードは、車速が最も低い領域で使用される低速用のモードとして適している。本実施形態では、第一無段変速モードは、出力軸Oの回転速度がゼロの状態(車両の発進時)から、ブレーキBにより非回転部材としてのケースDcに選択的に固定されるように構成されている第二差動歯車装置G2の第二回転要素e2(第一キャリヤca1)の回転速度がゼロの状態となるまでの間で使用される。具体的には、第一無段変速モードでは、エンジンEの回転速度を一定とした場合、出力軸Oの回転速度がゼロの状態から、第一回転電機MG1の回転速度を低下させることにより、出力軸O及び第二回転電機MG2の回転速度を次第に上昇させて車両を発進させる。そして、出力軸Oの回転速度が上昇し、第二差動歯車装置G2の第二回転要素e2(第一キャリヤca1)の回転速度がゼロに一致した際にブレーキBを係合すれば、第一無段変速モードから固定変速比モードに切り替えられる。また、ブレーキBの係合と同時にクラッチCの解放を行えば、第一無段変速モードから第二無段変速モードに切り替えられる。これらのモード切り替えは、この際に係合するブレーキBの両側の係合部材の回転速度が同じ状態で係合される同期切替となっている。すなわち、本実施形態では、第一回転電機MG1は、第一無段変速モードで、出力軸Oの回転速度がゼロの状態から上昇するのに伴い回転速度が正の状態からゼロの状態を経て負の状態になり、第一無段変速モードと第二無段変速モードとの同期切替点が、第一回転電機MG1の回転速度が負となる動作状態に設定されている。なお、第二差動歯車装置G2の第二回転要素e2(第一キャリヤca1)の回転速度がゼロと一致しない状態でブレーキBを係合してモード切り替えを行うことも可能である。
1−5.固定変速比モード
固定変速比モードは、入力軸Iの回転速度を一定の変速比で変速して出力軸Oに正方向のトルクを伝達可能なモードである。図3に示すように、固定変速比モードは、ブレーキB及びクラッチCの双方を係合状態とすることにより実現される。この固定変速比モードでは、クラッチCが係合状態とされることにより、第一差動歯車装置G1の第四回転要素e4(第二リングギヤr2)と第二差動歯車装置の第二回転要素e2(第一キャリヤca1)とが一体回転するように駆動連結される。これにより、第一差動歯車装置G1及び第二差動歯車装置G2が一体的に動作する状態となり、図6に示すように、速度線図上の全ての第一遊星歯車機構PG1、第二遊星歯車機構PG2、及び第三遊星歯車機構PG3を表す線が同一直線状となる。そして、ブレーキBが係合状態とされることにより、第一キャリヤca1及び第二リングギヤr2がケースDcに固定される。これにより、固定変速比モードでは、入力軸Iの回転速度に比例して、出力軸O、第一回転電機MG1、及び第二回転電機MG2の回転速度が定まる状態となる。従って、固定変速比モードでは、第一回転電機MG1及び第二回転電機MG2の一方又は双方を動作させずに、入力軸I(エンジンE)のトルクを出力軸Oに伝達して走行することが可能となる。なお、ここでは、入力軸Iの回転速度は増速して出力軸Oに伝達される。また、このモードにおけるトルク変換比は、第一トルク変換比Rt1と第二トルク変換比Rt2の間の値となる。
この際、エンジンEは、車速及び要求駆動力に応じて、適切な回転速度及びトルク(入力トルクTE)を出力するように制御される。また、第一回転電機MG1及び第二回転電機MG2は、基本的には、入力軸I(エンジンE)の回転速度に応じて定まる回転速度で回転しつつ、トルクを出力しない状態に制御される。すなわち、この固定変速比モードでは、第一回転電機MG1及び第二回転電機MG2は、基本的には、モータ及びジェネレータのいずれとしても機能せず、力行も発電も行わない。但し、要求駆動力に対して、エンジンEのトルクが不足する場合などには、第一回転電機MG1及び第二回転電機MG2の一方又は双方をモータとして力行させることも可能である。また、バッテリ21の充電量が不足した場合などには、第一回転電機MG1及び第二回転電機MG2の一方又は双方をジェネレータとして発電させることも可能である。或いは、第一回転電機MG1及び第二回転電機MG2の一方をジェネレータとして発電させ、当該発電により得た電力を用いて他方をモータとして力行させることも可能である。
以上に説明したように、固定変速比モードは、差動歯車装置Gを構成する全ての遊星歯車機構PG1〜PG3が一体的に動作することにより、入力軸Iの回転速度に比例して、出力軸O、第一回転電機MG1、及び第二回転電機MG2の回転速度が定まる状態になるとともに、入力軸I(エンジンE)の回転速度が増速されて出力軸Oに伝達されるモードである。このため、固定変速比モードでは、第一回転電機MG1及び第二回転電機MG2を動作させずに入力軸I(エンジンE)のトルクを出力軸Oに伝達して走行することができる。従って、出力軸Oに作用する車輪Wからの負荷が大きい場合に、第一回転電機MG1及び第二回転電機MG2の発熱が大きくなることを抑制できるので、登坂時や牽引時等に適したモードとなっている。また、入力軸I(エンジンE)の仕事を回転電機によって電力に変換すること(電気変換)による損失を抑制することができるので、要求駆動力の変化が少ない一定車速での巡航時等にも適したモードとなっている。また、この固定変速比モードは、クラッチCが係合状態とされて実現される第一無段変速モードから更にブレーキBを係合状態とすることにより、或いはブレーキBが係合状態とされて実現される第二無段変速モードから更にクラッチCを係合することにより実現される。従って、この固定変速比モードは、第一無段変速モードから第二無段変速モードへの切り替え、又は第二無段変速モードから第一無段変速モードへの切り替えに際しての同期切り替えの際に一時的に実行される中間のモードとしても用いられる。
1−6.第二無段変速モード
第二無段変速モードは、第一回転電機MG1のトルクを反力として入力軸I(エンジンE)のトルクを出力軸Oに伝達しつつ、反力受けとなる第一回転電機MG1の回転速度を変化させることにより入力軸Iの回転速度を無段階に変速して出力軸Oに正方向のトルクを伝達するモードである。図3に示すように、第二無段変速モードは、ブレーキBを係合状態とすると共にクラッチCを解放状態とすることにより実現される。この第二無段変速モードでは、ブレーキBが係合状態とされることにより第二差動歯車装置G2の第二回転要素e2(第一キャリヤca1)がケースDcに固定される。一方、クラッチCは解放状態とされるため、上記の第一無段変速モードや固定変速比モードとは異なり、第一差動歯車装置G1と第二差動歯車装置G2とは別々に動作する状態となる。よって、図7及び図8に示すように、速度線図上の第一差動歯車装置G1(第二遊星歯車機構PG2及び第三遊星歯車機構PG3)を表す線と、第二差動歯車装置G2(第一遊星歯車機構PG1)を表す線とは基本的に同一直線状とはならない。そして、この第二無段変速モードでは、第一回転電機MG1は全域において正方向のMG1トルクT1を反力トルクとして出力する。一方、第二回転電機MG2は、出力軸Oへ伝達される入力軸I(エンジンE)のトルクを補助する補助回転電機として機能する。この第二無段変速モードでは、第一無段変速モードよりも小さいトルク変換比(第二トルク変換比Rt2)で入力軸Iのトルクを出力軸Oに伝達する。
第二無段変速モードでは、第一差動歯車装置G1は、図7及び図8に直線G1として示すように、第二遊星歯車機構PG2と第三遊星歯車機構PG3とが一体的にトルク分配機構として動作する状態となる。そして、回転速度の順で中間となる第二サンギヤs2及び第三リングギヤr3(第一差動歯車装置G1の第二回転要素e2)が入力軸Iに駆動連結された入力回転要素Eiとなっている。更に、この入力回転要素Eiに対して、回転速度の順で一方側となる第三サンギヤs3(第一差動歯車装置G1の第一回転要素e1)が出力軸O及び第二回転電機MG2に駆動連結された出力回転要素Eoとなり、回転速度の順で他方側となる第二キャリヤca2及び第三キャリヤca3(第一差動歯車装置G1の第三回転要素e3)が第一回転電機MG1のMG1トルクT1が第二差動歯車装置G2を介して伝達される反力伝達要素Emとなっている。このように、第二無段変速モードでは、反力受けとして機能する反力伝達要素Emが、第一無段変速モードの場合と異なる回転要素となっている。言い換えれば、第二無段変速モードにおいてトルク分配機構として機能する差動歯車装置(第一差動歯車装置G1)は、少なくとも4つの回転要素(本例では4つ)を有する差動歯車装置である。一方、第一無段変速モードにおいてトルク分配機構として機能する差動歯車装置(差動歯車装置G)も、少なくとも4つ(本例では5つ)の回転要素を有する差動歯車装置である。そして、これらの第一無段変速モード及び第二無段変速モードにおける差動歯車装置(トルク分配機構として機能する差動歯車装置)を比較すると、入力回転要素Eiと出力回転要素Eoは同一の回転要素であるが、第一回転電機MG1からのトルクを伝達する回転要素(反力伝達要素Em)は、互いに異なっている。
この際、エンジンEは、効率が高く排ガスの少ない状態に(一般に最適燃費特性に沿うように)維持されるよう制御されつつ要求駆動力に応じた正方向のトルクを出力し、このエンジントルクが入力軸Iを介して入力トルクTEとして入力回転要素Eiに伝達される。また、第一回転電機MG1は、第二無段変速モードの全域で正方向のMG1トルクT1を発生させ、入力トルクTEの反力受けとして機能する。これにより、差動歯車装置Gは、入力トルクTEを出力回転要素Eoと第一回転電機MG1とに分配し、MG1トルクT1を反力として入力トルクTEに対して減衰したトルクを出力回転要素Eoに伝達する。
また、第二無段変速モードでは、第二差動歯車装置G2は、第一回転電機MG1のトルクの向きを反転させるとともに第一回転電機MG1のトルクを増幅して第一差動歯車装置G1の第三回転要素e3(第二キャリヤca2及び第三キャリヤca3)に伝達する。すなわち、第二差動歯車装置G2は、トルク増幅機構として動作する。上記のように、第一回転電機MG1は正方向のトルク(MG1トルクT1)を出力するため、第二キャリヤca2及び第三キャリヤca3には負方向のトルクが伝達される。図7及び図8に直線PG1(G2)として示すように、第二差動歯車装置G2は、回転速度の順で中間となる第一キャリヤca1がブレーキBによりケースDcに固定され、一方端となる第一サンギヤs1に第一回転電機MG1が駆動連結されている。このため、回転速度の順で他方端となる第一リングギヤr1に、向きが反転されたMG1トルクT1が伝達される。すなわち、第一リングギヤr1と一体回転する第一差動歯車装置G1の第三回転要素e3(第二キャリヤca2及び第三キャリヤca3)には、第一回転電機MG1のMG1トルクT1により生成された負方向の中間トルクTMが伝達されることになり、この中間トルクTMが入力軸Iのトルクに対する反力となる。本実施形態では、第二差動歯車装置G2は、第一回転電機MG1の回転速度を減速するとともに第一回転電機MG1のトルクを増幅して第二キャリヤca2及び第三キャリヤca3に伝達するように構成されている。具体的には、上記の増幅率Aを用いて、MG1トルクT1はA倍に増幅されて、第二キャリヤca2及び第三キャリヤca3に伝達される。上記のように、本実施形態ではλu=0.5であるため、増幅率Aは「2」となる。よって、第一回転電機MG1のMG1トルクT1は2倍に増幅され第二キャリヤca2及び第三キャリヤca3に伝達される。すなわち、本実施形態では、中間トルクTMは、MG1トルクT1の2倍の大きさを有する負方向のトルクとなっている。
第二無段変速モードでは、第一回転電機MG1は、正方向のMG1トルクT1を常に出力する。そして、出力軸Oの回転速度が比較的低速の状態では、図7に示すように、第一回転電機MG1の回転速度が負となっている。その後、出力軸Oの回転速度(車速)が次第に上昇するに従って、第一回転電機MG1の回転速度は上昇する。そして、第一回転電機MG1の回転速度がゼロとなる点を通過した後、図8に示すように、第一回転電機MG1の回転速度が正となる。第一回転電機MG1は、回転速度が負の状態ではジェネレータとして機能して発電を行い、回転速度が正の状態ではモータとして機能して力行する。なお、第一回転電機MG1の回転速度がゼロとなる点は、第一無段変速モードと同様、電気変換が行われない無電気変換点である。
ところで、上記のように第一無段変速モードでは、出力軸Oの回転速度の上昇に伴い、第一回転電機MG1の回転速度は正の状態からゼロの状態を経て負の状態となる。また第二無段変速モードでは、出力軸Oの回転速度の上昇に伴い、第一回転電機MG1の回転速度は負の状態からゼロの状態を経て正の状態となる。このように、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置Hは、第一無段変速モード及び第二無段変速モードの双方において、第一回転電機MG1の回転速度がゼロとなる無電気変換点を通過するように構成されているとともに、第一無段変速モードと第二無段変速モードとで、出力軸Oの回転速度の上昇に伴う第一回転電機MG1の回転速度の変化の方向が反転している。これにより、反力受けとして機能する第一回転電機MG1の回転速度の絶対値が大きくなることが抑制されている。よって、入力軸I(エンジンE)の仕事を電力に変換する際の損失が少なく抑えられ、ハイブリッド駆動装置Hのエネルギ効率を高めることが可能となっている。
一方、第二回転電機MG2は、出力軸Oと一体回転するように駆動連結されており、基本的に正方向のトルク(MG2トルクT2)を出力することにより、出力軸Oに伝達される入力軸I(エンジンE)のトルクに対するアシストを行う。但し、後述するように、第二回転電機MG2は、第一回転電機MG1の動作状態に応じて負方向のMG2トルクT2を出力する場合もある。また、第二回転電機MG2が出力軸Oに一体回転するように駆動連結されているため、車両の減速時にも回生制動を効率的に行うことができる。
第二無段変速モードでは、第二回転電機MG2の回転速度は常に正となる。そして、第二回転電機MG2は、第一回転電機MG1の動作状態に応じた向きのトルク(MG2トルクT2)を出力する。すなわち、図7に示すように、第一回転電機MG1の回転速度が負であって第一回転電機MG1が発電しているときには、第二回転電機MG2は当該第一回転電機MG1により発電された電力を消費してモータとして機能して力行し、正方向のトルクを出力する。一方、図8に示すように、第一回転電機MG1の回転速度が正であって第一回転電機MG1が力行しているときには、第二回転電機MG2は当該第一回転電機MG1により消費する電力を生成するためにジェネレータとして機能して発電を行い、負方向のトルクを出力する。また、図示は省略するが、第一回転電機MG1の回転速度がゼロとなる無電気変換点では、第二回転電機MG2が出力するMG2トルクT2をゼロとする。これにより、第一無段変速モードにおけるハイブリッド制御装置Hの全体での電力収支を基本的にゼロとすることができる。よって、蓄電装置としてのバッテリ21の充電状態が大きく変動しない状態とすることができるので、長時間にわたって第二無段変速モードを実行することが可能となる。上記のとおり、出力軸Oの回転速度が次第に上昇する際には、第一回転電機MG1の回転速度は負からゼロを経て正に変化する。そして、第二回転電機MG2は、正方向のトルクを出力する状態からトルクゼロの状態を経て負方向のトルクを出力する状態に変化する。
上記のとおり、第二無段変速モードにおいて、第一差動歯車装置G1は、入力トルクTEを1/(1+λt)倍(=第二トルク変換比Rt2)に減衰して出力回転要素Eoに伝達する。本実施形態ではλt=1.0であるため、入力軸Iの入力トルクTEは、約0.5倍されて出力軸Oに伝達される。また、出力軸Oには、第二回転電機MG2が出力するMG2トルクT2も伝達される。
ここで、第二無段変速モードにおける反力トルク比(以下単に「第二反力トルク比Rr2」という。)について述べる。第二差動歯車装置G2によりMG1トルクT1が増幅されたトルクである中間トルクTMの入力トルクTEに対する比は、上記の第二無段変速モード用歯数比λtを用いると、λt/(1+λt)となる。また、中間トルクTMは、上記の増幅率Aを用いると、第一回転電機MG1のMG1トルクT1をA倍したものである。なお、上記のように、増幅率Aは、トルク増幅用歯数比λuの逆数である。よって、第二反力トルク比Rr2は、
Rr2=λt/{A・(1+λt)}=λt・λu/(1+λt)・・・(6)
となる。上記のように、本実施形態ではλt=1.0、λu=0.5であり、第二反力トルク比Rr2は「0.25」となる。
上記のように、本実施形態では、第一反力トルク比Rr1も「0.25」である。つまり、本実施形態においては、第一反力トルク比Rr1と第二反力トルク比Rr2とが略同一の値となるように、第一無段変速モード用歯数比λs、第二無段変速モード用歯数比λt、及びトルク増幅用歯数比λuが設定されている。言い換えれば、本実施形態では、第一無段変速モードにおいて第一回転電機MG1が入力トルクTEに対する反力トルクとして出力するMG1トルクT1の大きさと当該入力トルクTEの大きさとの比と、第二無段変速モードにおいて第一回転電機MG1が入力トルクTEに対する反力トルクとして出力するMG1トルクT1の大きさと当該入力トルクTEの大きさとの比とが互いに等しくなるように構成されている。よって、第一無段変速モードにおいて必要となる反力トルク及び第二無段変速モードにおいて必要となる反力トルクのいずれか大きい方の反力トルクに合わせて第一回転電機MG1を設定する必要がないので、第一回転電機MG1の体格の大型化が抑制されている。
ところで、上記のように、第一反力トルク比Rr1は式(5)で表される。一方、第二反力トルク比Rr2は式(6)で表される。これらの式より、第一反力トルク比Rr1と第二反力トルク比Rr2とを同一にするためには、第一無段変速モード用歯数比λs、第二無段変速モード用歯数比λt、及びトルク増幅用歯数比λuを、下記の関係式を満たすように設定すればよいことが分かる。
λu={λs・(1+λt)}/{λt・(1+λs)}・・・(7)
本実施形態では式(7)の関係を満たす第一無段変速モード用歯数比λs、第二無段変速モード用歯数比λt、及びトルク増幅用歯数比λuの一例として、λs=0.33、λt=1.0、λu=0.5とされている。
以上に説明したように、第二無段変速モードは、入力軸I(エンジンE)から入力回転要素Eiに伝達される入力トルクTEを第二トルク変換比Rt2で減衰させて出力軸Oに伝達するモードである。そして、第二トルク変換比Rt2は、第一無段変速モードにおけるトルク変換比(第一トルク変換比Rt1)より小さな値となっている。よって、第二無段変速モードは、車速が比較的高い領域で使用される高速用のモードとして適している。本実施形態では、第二無段変速モードは、第一無段変速モードにおいて、出力軸Oの回転速度を次第に上昇させるように第一回転電機MG1の回転速度が下降し、第一差動歯車装置G1の第四回転要素e4である第二リングギヤr2の回転速度がゼロと一致した状態よりも出力軸Oの回転速度が高い状態で使用される。具体的には、第二無段変速モードでは、エンジンEの回転速度を一定とした場合、第二リングギヤr2の回転速度がゼロに一致した状態から、第一回転電機MG1の回転速度を上昇させることにより、出力軸O及び第二回転電機MG2の回転速度を上昇させることで車両を加速させる。また、入力軸I(エンジンE)の回転速度を上昇させ、或いは出力軸O及び第二回転電機MG2の回転速度を下降させることにより、第二リングギヤr2の回転速度をゼロとしてクラッチCを係合すれば、第二無段変速モードから固定変速比モードに切り替えられる。また、クラッチCの係合と同時にブレーキBの解放を行えば、第二無段変速モードから第一無段変速モードに切り替えられる。これらのモード切り替えは、この際に係合するクラッチCの両側の係合部材の回転速度が同じ状態で係合される同期切替となっている。なお、第一差動歯車装置G1の第四回転要素e4(第二リングギヤr2)の回転速度がゼロと一致しない状態でクラッチCを係合してモード切り替えを行うことも可能である。
1−7.ハイブリッド駆動装置の理論伝達効率について
次に、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置Hにおける理論伝達効率について説明する。図9は、このハイブリッド駆動装置Hにおける理論伝達効率(縦軸)と入出力回転速度比(横軸)との関係を示したグラフである。入出力回転速度比は、出力軸Oの回転速度と入力軸Iの回転速度との比であり、ここでは、入力軸Iの回転速度を出力軸Oの回転速度で除算した値としている。なお、図9の横軸に記載した入出力回転速度比の値は一例である。上述したように、本実施形態では、λs=0.33、λt=1.0、λu=0.5であり、第一トルク変換比Rt1が約「0.75」、第二トルク変換比Rt2が約「0.5」となっている。ここで、理論伝達効率は、エンジンE(入力軸I)の出力(仕事率)が出力軸Oに伝達されるまでの伝達効率に関し、歯車等の機械的な伝動部材を介して機械的に伝達される際の伝達効率を100%と仮定し、第一回転電機MG1及び第二回転電機MG2により一旦電力に変換されて伝達される際の伝達効率を90%と仮定して計算した伝達効率としている。従って、入力トルクTEに対する反力受けとして機能する第一回転電機MG1の回転速度がゼロとなり、電気変換が行われない無電気変換点において、理論伝達効率は100%となる。そして、第一回転電機MG1又は第二回転電機MG2の回転速度の絶対値が大きくなり、エンジンE(入力軸I)の出力(仕事率)が電力に変換される割合が高くなるに従って理論伝達効率は低くなる。
そして、図9に示される山形の2つの線が各モードの理論伝達効率を表しており、実線が第一無段変速モード、破線が第二無段変速モードを表している。また、この図において、各モードの理論伝達効率を表す線の内、太線部分が使用される領域であり、細線部分は他のモードに切り替えられて使用されない領域である。この図に示すように、本実施形態では、入出力回転速度比の値に応じて複数(本例では2つ)のモードの中で最も理論伝達効率が高いモードを選択して使用する。各モードが隣接する他のモードに切り替えられる切替点の入出力回転速度比は、上記のとおり、当該モード切替の際に係合する係合要素(クラッチC又はブレーキB)の両側の係合部材の回転速度が同じ状態で係合される同期切替点に対応している。
上記のとおり、このハイブリッド駆動装置Hでは、入力軸Iの回転速度に対する出力軸Oの回転速度の上昇(入出力回転速度比の下降)に伴って第一無段変速モードから第二無段変速モードにモードを切り替えた際に、第一回転電機MG1のMG1トルクT1の向きは負方向から正方向に切り替えられ、それによって第一回転電機MG1の回転速度の変化方向は下降から上昇に切り替わる。これにより、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置Hは、切り替え可能に備えられる第一無段変速モードと第二無段変速モードの双方について、隣接する他のモードとの切替点(同期切替点)までの間に、第一回転電機MG1の回転速度がゼロとなる無電気変換点を通過するように構成されている。これにより、図9に示すように、切り替え可能に備えられる第一無段変速モードと第二無段変速モードの双方において、車両を加速又は減速させる(入出力回転速度比を変化させる)過程において、必ず一度は理論伝達効率が100%となる点を通過することになる。これにより、入力トルクTEに対する反力受けとなる第一回転電機MG1の回転速度の絶対値を相対的に低く抑えることが可能となるので、入力軸I(エンジンE)の仕事を電力を変換する際の損失を少なく抑え、ハイブリッド駆動装置Hのエネルギ効率を高めることができる。
2.第二の実施形態
次に、本発明の第二の実施形態について説明する。図10は、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置Hの構成を示すスケルトン図であり、図1と同様に、中心軸に対称な下半分の構成を省略して示している。このハイブリッド駆動装置Hは、第一無段変速モード、第二無段変速モード、及び固定変速比モードの3つのモードを切り替え可能に備える点、並びに各モードにおける第一回転電機MG1及び第二回転電機MG2の動作に関する点で、上記第一の実施形態と同様であるが、これらの各モードを実現可能とするための装置の具体的構成が異なっている。以下では、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置Hについて、上記第一の実施形態との相違点を中心として説明する。なお、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置Hのシステム構成は図2と同様であるのでその点についての説明は省略する。また、その他の構成についても、特に説明しない点については、上記第一の実施形態と同様とする。
2−1.ハイブリッド駆動装置の機械的構成
図10に示すように、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置Hは、差動歯車装置Gを構成する第一差動歯車装置G1及び第二差動歯車装置G2の具体的構成が上記第一の実施形態と異なっている。以下、第一差動歯車装置G1及び第二差動歯車装置G2のそれぞれの構成について詳細に説明する。
本実施形態においては、上記第一の実施形態と同様、ハイブリッド駆動装置Hは、第一差動歯車装置G1及び第二差動歯車装置G2の2つの差動歯車装置を備えている。第一差動歯車装置G1は第二遊星歯車機構PG2と第三遊星歯車機構PG3とを組み合わせて構成され、4つの回転要素を備えている。そして、第一差動歯車装置G1は、第一無段変速モードでは、第二差動歯車装置G2と一体的に動作するとともに、入力軸Iから伝達される入力トルクTEを第一回転電機MG1と出力軸Oとに分配し、第一回転電機MG1のMG1トルクT1を反力として入力トルクTEに対して所定のトルク変換比で減衰したトルクを出力回転要素Eo(出力軸O)に伝達するトルク分配機構として機能する。また、第一差動歯車装置G1は、第二無段変速モードでは、単独で、第二差動歯車装置G2により増幅された後の第一回転電機MG1のMG1トルクT1を反力として、入力トルクTEに対して所定のトルク変換比で減衰したトルクを出力軸Oに伝達するトルク分配機構として機能する。また、第二差動歯車装置G2は第一遊星歯車機構PG1により構成され、3つの回転要素を備えている。そして、第二差動歯車装置G2は、第一無段変速モードでは、上記のように第一差動歯車装置G1と一体的に動作し、トルク分配機構の一部として機能する。また、第二差動歯車装置G2は、第二無段変速モードでは、第一回転電機MG1の反力トルク(MG1トルクT1)を増幅して中間トルクTMを生成し、当該中間トルクTMをトルク分配機構として機能する第一差動歯車装置G1に伝達するトルク増幅機構として機能する。なお、本実施形態においては、第二回転電機MG2は、第一差動歯車装置G1及び第二差動歯車装置G2の双方を介することなく出力軸Oに駆動連結されている。なお、第二回転電機MG2が増速機や減速機等の変速機を介して出力軸Oに駆動連結されている構成としても好適である。以下、各差動歯車装置G1、G2を構成する各遊星歯車機構PG1〜PG3のそれぞれの構成について図10に基づいて詳細に説明する。
第一差動歯車装置G1を構成する第二遊星歯車機構PG2は、3つの回転要素を備えたシングルピニオン型の遊星歯車機構である。すなわち、第二遊星歯車機構PG2は、複数のピニオンギヤを支持する第二キャリヤca2と、前記ピニオンギヤにそれぞれ噛み合う第二サンギヤs2及び第二リングギヤr2とを回転要素として有している。第二サンギヤs2は、第三遊星歯車機構PG3の第三サンギヤs3と一体回転するように駆動連結されているとともに、クラッチCを介して第一遊星歯車機構PG1の第一サンギヤs1と選択的に駆動連結される。第二キャリヤca2は、第一遊星歯車機構PG1の第一リングギヤr1と一体回転するように駆動連結されている。第二リングギヤr2は、入力軸Iと一体回転するように駆動連結されているとともに、第三遊星歯車機構PG3の第三キャリヤca3と一体回転するように駆動連結されている。
第一差動歯車装置G1を構成する第三遊星歯車機構PG3は、3つの回転要素を備えたシングルピニオン型の遊星歯車機構である。すなわち、第三遊星歯車機構PG3は、複数のピニオンギヤを支持する第三キャリヤca3と、前記ピニオンギヤにそれぞれ噛み合う第三サンギヤs3及び第三リングギヤr3とを回転要素として有している。第三サンギヤs3は、第二遊星歯車機構PG2の第二サンギヤs2と一体回転するように駆動連結されているとともに、クラッチCを介して第一遊星歯車機構PG1の第一サンギヤs1と選択的に駆動連結される。第三キャリヤca3は、入力軸Iと一体回転するように駆動連結されているとともに、第二遊星歯車機構PG2の第二リングギヤr2と一体回転するように駆動連結されている。第三リングギヤr3は、出力軸Oと一体回転するように駆動連結されているとともに、第二回転電機MG2のロータRo2と一体回転するように駆動連結されている。
第一差動歯車装置G1は、第二遊星歯車機構PG2及び第三遊星歯車機構PG3がそれぞれの有する3つの回転要素のうち、2つずつを互いに一体回転するように接続することにより、全体として4つの回転要素を備えて一体的に動作するように構成されている。これら4つの回転要素を、回転速度の順に第一回転要素e1、第二回転要素e2、第三回転要素e3、及び第四回転要素e4とする。本実施形態においては、第三リングギヤr3が第一回転要素e1に相当し、互いに一体回転する第二リングギヤr2及び第三キャリヤca3が第二回転要素e2に相当し、第二キャリヤca2が第三回転要素e3に相当し、互いに一体回転する第二サンギヤs2及び第三サンギヤs3が第四回転要素e4に相当する。また、第二回転要素e2としての第二リングギヤr2及び第三キャリヤca3が入力軸Iに駆動連結された入力回転要素Eiとなっている。そして、第一回転要素e1としての第三リングギヤr3が出力軸O及び第二回転電機MG2に駆動連結された出力回転要素Eoとなっている。
第二差動歯車装置G2としての第一遊星歯車機構PG1は、3つの回転要素を備えたシングルピニオン型の遊星歯車機構である。すなわち、第一遊星歯車機構PG1は、複数のピニオンギヤを支持する第一キャリヤca1と、前記ピニオンギヤにそれぞれ噛み合う第一サンギヤs1及び第一リングギヤr1とを回転要素として有している。第一サンギヤs1は、第一回転電機MG1のロータRo1と一体回転するように駆動連結されているとともに、クラッチCを介して第二遊星歯車機構PG2の第二サンギヤs2及び第三遊星歯車機構PG3の第三サンギヤs3と選択的に駆動連結される。第一キャリヤca1は、ブレーキBにより非回転部材としてのケースDcに選択的に固定される。第一リングギヤr1は、第二遊星歯車機構PG2の第二キャリヤca2と一体回転するように駆動連結されている。これらの第一遊星歯車機構PG1の3つの回転要素は、回転速度の順に、第一リングギヤr1、第一キャリヤca1、第一サンギヤs1となっている。従って、本実施形態においては、第一リングギヤr1、第一キャリヤca1、第一サンギヤs1が、それぞれ第二差動歯車装置G2の第一回転要素e1、第二回転要素e2、第三回転要素e3となっている。なお、詳細は後述するが、ブレーキBによる第一キャリヤca1(第二差動歯車装置G2の第二回転要素e2)の固定状態で、第一サンギヤs1(第二差動歯車装置G2の第三回転要素e3)の回転速度が減速されて第一リングギヤr1(第二差動歯車装置G2の第一回転要素e1)に伝達されるように、第二差動歯車装置G2が構成されている。すなわち、本実施形態においては、第二差動歯車装置G2は、第二無段変速モードで、第一回転電機MG1の回転速度の向きを反転するとともに、第一回転電機MG1の回転速度を減速して第一回転電機MG1のMG1トルクT1を増幅するための差動歯車装置として機能する。
以上のように、本実施形態では、第一差動歯車装置G1の第一回転要素e1に出力軸O及び第二回転電機MG2が駆動連結され、第一差動歯車装置G1の第二回転要素e2に入力軸Iが駆動連結され、第一差動歯車装置G1の第三回転要素e3が第二差動歯車装置G2の第一回転要素e1に駆動連結されている点では上記第一の実施形態と同様であるが、第一差動歯車装置G1の第四回転要素e4が第二差動歯車装置G2の第三回転要素e3にクラッチCを介して選択的に駆動連結される構成となっている点で上記第一の実施形態と異なる。また、上記第一の実施形態と同様、第二差動歯車装置G2の第二回転要素e2はブレーキBにより非回転部材としてのケースDcに選択的に固定され、第二差動歯車装置G2の第三回転要素e3に第一回転電機MG1が駆動連結されている。
2−2.切り替え可能に備えられる複数のモード
次に、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置Hにより実現可能なモードについて説明する。このハイブリッド駆動装置Hにおける、各モードでのクラッチC及びブレーキBの作動状態を示す作動表は、図3と同一であるためこれを援用する。図11〜図15は、各モードでの第一差動歯車装置G1及び第二差動歯車装置G2の動作状態を表す速度線図である。これらの速度線図の記載方式は、上記第一の実施形態に係る図4〜図8と同様である。
図11及び図12に示すように、第一無段変速モードでは、第一差動歯車装置G1及び第二差動歯車装置G2がそれぞれ有する回転要素のうち、2つずつを互いに一体回転するように接続することにより、差動歯車装置Gが全体として5つの回転要素を備えて一体的にトルク分配機構として動作する。具体的には、第一差動歯車装置G1の第三回転要素e3と第二差動歯車装置G2の第一回転要素e1とが駆動連結されるとともに、第一差動歯車装置G1の第四回転要素e4と第二差動歯車装置G2の第三回転要素e3とが駆動連結される。そして、入力軸Iは第一差動歯車装置G1の第二回転要素e2に駆動連結され、出力軸O及び第二回転電機MG2が第一差動歯車装置G1の第一回転要素e1に駆動連結され、第一回転電機MG1が第二差動歯車装置G2の第三回転要素e3及び第一差動歯車装置G1の第四回転要素e4に駆動連結されている。よって、このモードでは、第二差動歯車装置G2の第三回転要素e3(第一サンギヤs1)及び第一差動歯車装置G1の第四回転要素e4(第二サンギヤs2及び第三サンギヤs3)が反力伝達要素Emとなっている。
一方、図14及び図15に示すように、第二無段変速モードでは、第一差動歯車装置G1と第二差動歯車装置G2とは、それぞれの一つの回転要素同士のみが一体回転するように連結され、互いに独立に動作する。具体的には、第一差動歯車装置G1の第三回転要素e3と第二差動歯車装置G2の第一回転要素e1とが駆動連結されるのみで、その他の回転要素同士は駆動連結されない。この状態では、第一差動歯車装置G1はトルク分配機構として動作し、第二差動歯車装置G2はトルク増幅機構として動作する。そして、入力軸Iが第一差動歯車装置G1の第二回転要素e2に駆動連結され、出力軸O及び第二回転電機MG2が第一差動歯車装置G1の第一回転要素e1に駆動連結されている点では上記の第一無段変速モードと同様であるが、第二無段変速モードでは、第一回転電機MG1は第二差動歯車装置G2を介して第一差動歯車装置G1の第三回転要素e3に駆動連結されている。よって、このモードでは、第一差動歯車装置G1の第三回転要素e3(第二キャリヤca2)が反力伝達要素Emとなっている。
固定変速比モードは、図13に示すように、入力軸Iの回転速度を一定の変速比で変速して出力軸Oに正方向のトルクを伝達可能なモードである。この固定変速比モードでは、入力軸Iの回転速度に比例して、出力軸O、第一回転電機MG1、及び第二回転電機MG2の回転速度が定まる。そして、第一無段変速モード、第二無段変速モード、及び固定変速比モードのいずれのモードにおいても、第二回転電機MG2は、出力軸Oと一体回転するように駆動連結されており、出力軸OにMG2トルクT2を常時伝達可能に構成されている。この第二回転電機MG2は、基本的には、第一差動歯車装置G1側から出力軸Oへ伝達されるトルクを補助する補助回転電機として機能する。また、車両の減速時には第二回転電機MG2は回生制動を行うが、出力軸Oと一体回転するように駆動連結されているので、当該回生制動も効率的に行うことができる。
図11〜図15において、各回転要素に対応する縦線の間隔は、第一遊星歯車機構PG1、第二遊星歯車機構PG2、及び第三遊星歯車機構PG3のそれぞれの歯数比に対応している。ここで、第一遊星歯車機構PG1の第一サンギヤs1と第一リングギヤr1との歯数比(=〔第一サンギヤs1の歯数〕/〔第一リングギヤr1の歯数〕)をλ1、第二遊星歯車機構PG2の第二サンギヤs2と第二リングギヤr2との歯数比(=〔第二サンギヤs2の歯数〕/〔第二リングギヤr2の歯数〕)をλ2、第三遊星歯車機構PG3の第三サンギヤs3と第三リングギヤr3との歯数比(=〔第三サンギヤs3の歯数〕/〔第三リングギヤr3の歯数〕)をλ3とする。なお、これらの歯数比λ1、λ2、λ3は、エンジンE、第一回転電機MG1、及び第二回転電機MG2の特性や車両重量等を考慮して適宜設定される。
ところで、上記のとおり、第一無段変速モードでは、第一差動歯車装置G1及び第二差動歯車装置G2が一体的に動作し、全体として5つの回転要素を備えたトルク分配機構として機能する。また、第二無段変速モードでは、第一差動歯車装置G1と第二差動歯車装置G2とが別々に動作するように構成される。この状態では、上記の通り、第一差動歯車装置G1はトルク分配機構として機能し、第二差動歯車装置G2はトルク増幅機構として機能する。そこで、図11〜図15の下部には、これらの機能を実現するための差動歯車装置Gの歯数比として、第一無段変速モード用歯数比λs、第二無段変速モード用歯数比λt、並びにトルク増幅用歯数比λuを示している。なお、これらの歯数比λs、λt、λuは、後述するように上記の歯数比λ1、λ2、λ3に応じて定まる。
第一無段変速モード用歯数比λsは、第一無段変速モードを実現した状態で、トルク分配機構として機能する差動歯車装置Gにおいて入力トルクTEが出力軸Oに伝達される際のトルク変換比(第一トルク変換比Rt1)を決定する歯数比である。この第一トルク変換比Rt1は、速度線図上における、第一差動歯車装置G1の第一回転要素e1(第三リングギヤr3)と第一差動歯車装置G1の第二回転要素e2(第二リングギヤr2及び第三キャリヤca3)との間の距離、及び第一差動歯車装置G1の第二回転要素e2(第二リングギヤr2及び第三キャリヤca3)と第一差動歯車装置G1の第四回転要素e4(第二サンギヤs1及び第三サンギヤs3)との間の距離に応じて定まる。本例では、第一無段変速モード用歯数比λsは、第三遊星歯車機構PG3の歯数比λ3と等しい値となる。
第二無段変速モード用歯数比λtは、第二無段変速モードを実現した状態で、トルク分配機構として機能する第一差動歯車装置G1において入力トルクTEが出力軸Oに伝達される際のトルク変換比(第二トルク変換比Rt2)を決定する歯数比である。この第二トルク変換比Rt2は、速度線図上における、第一差動歯車装置G1の第一回転要素e1(第三リングギヤr3)と第一差動歯車装置G1の第二回転要素e2(第二リングギヤr2及び第三キャリヤca3)との間の距離、及び第一差動歯車装置G1の第二回転要素e2(第二リングギヤr2及び第三キャリヤca3)と第一差動歯車装置G1の第三回転要素e3(第二キャリヤca2)との間の距離に応じて定まる。本例では、第二無段変速モード用歯数比λtは、第一遊星歯車機構PG1の歯数比λ1、第二遊星歯車機構PG2の歯数比λ2、及び第三遊星歯車機構PG3の歯数比λ3を用いて、以下の式(8)で表される。
λt={λ3・(1+λ1+λ2+λ1・λ2)}/{λ2・(1+λ1)}
・・・(8)
トルク増幅用歯数比λuは、第二無段変速モードを実現した状態で、トルク増幅機構として機能する第二差動歯車装置G2において第一回転電機MG1のMG1トルクT1が増幅される際の増幅率Aを決定する歯数比である。この増幅率Aは、速度線図上における、第二差動歯車装置G2の第一回転要素e1(第一リングギヤr1)と第二差動歯車装置G2の第二回転要素e2(第一キャリヤca1)との間の距離、及び第二差動歯車装置G2の第二回転要素e2(第一キャリヤca1)と第二差動歯車装置G2の第三回転要素e3(第一サンギヤs1)との間の距離に応じて定まる。本例では、トルク増幅用歯数比λuは、第一遊星歯車機構PG1の歯数比λ1と等しい値となる。そして、増幅率Aは、トルク増幅用歯数比λuの逆数として表される。
これらの歯数比は、上述した3つのモードを適切に実現できるように、各モードを実現した状態で所定のトルク変換比を実現するように設定される。本実施形態では、一例として、第一遊星歯車機構PG1、第二遊星歯車機構PG2、及び第三遊星歯車機構PG3の歯数比λ1、λ2、λ3は、λ1=0.5、λ2=0.5、λ3=0.33に設定されている。このとき、第一無段変速モード用歯数比λs、第二無段変速モード用歯数比λt、及びトルク増幅用歯数比λuは、λs=0.33、λt=1.0、λu=0.5となる。すなわち、λs、λt、λuは、上記第一の実施形態と同じ値に設定されている。そのため、本実施形態においても、第一トルク変換比Rt1及び第二トルク変換比Rt2が、それぞれ、上記第一の実施形態における第一トルク変換比Rt1及び第二トルク変換比Rt2と同様の値となる。また、本実施形態においても、第一反力トルク比Rr1と第二反力トルク比Rr2とが略同一の値となるように構成されている。そのため、以下の各モードの説明においては、トルク変換比や反力トルク比に関する説明は省略している。
2−3.第一無段変速モード
第一無段変速モードは、第一回転電機MG1のトルクを反力として入力軸I(エンジンE)のトルクを出力軸Oに伝達しつつ、反力受けとなる第一回転電機MG1の回転速度を変化させることにより入力軸Iの回転速度を無段階に変速して出力軸Oに正方向のトルクを伝達するモードである。図3に示すように、第一無段変速モードは、クラッチCを係合状態とすると共にブレーキBを解放状態とすることにより実現される。この第一無段変速モードでは、クラッチCが係合状態とされることにより第一差動歯車装置G1の第四回転要素e4(第二サンギヤs2及び第三サンギヤs3)と第二差動歯車装置の第三回転要素e3(第一サンギヤs1)とが一体回転するように駆動連結される。これにより、第一差動歯車装置G1及び第二差動歯車装置G2が一体的に動作する状態となり、図11及び図12に示すように、速度線図上の全ての第一遊星歯車機構PG1、第二遊星歯車機構PG2、及び第三遊星歯車機構PG3を表す線が同一直線状となる。そして、この第一無段変速モードでは、第一回転電機MG1は全域において負方向のMG1トルクT1を反力トルクとして出力する。一方、第二回転電機MG2は、出力軸Oへ伝達される入力軸I(エンジンE)のトルクを補助する補助回転電機として機能する。この第一無段変速モードでは、後述する第二無段変速モードよりも大きいトルク変換比(第一トルク変換比Rt1)で入力軸Iのトルクを出力軸Oに伝達する。
第一無段変速モードでは、図11及び図12に示すように、速度線図上で第一遊星歯車機構PG1、第二遊星歯車機構PG2、及び第三遊星歯車機構PG3のそれぞれを表す線が同一直線状となり、差動歯車装置Gを構成する全ての遊星歯車機構PG1〜PG3が一体的にトルク分配機構として動作する状態となる。従って、差動歯車装置Gは、全部で5つの回転要素を有する状態となる。但し、第一無段変速モードでは、差動歯車装置Gの5つの回転要素のうち、実質的に、第一差動歯車装置G1の第一回転要素e1、第一差動歯車装置G1の第二回転要素e2、及び第一差動歯車装置G1の第四回転要素e4(第二差動歯車装置G2の第三回転要素e3)の3つの回転要素のみを用いて当該モードを実現している。そして、これら3つの回転要素のうち、回転速度の順で中間となる第二リングギヤr2及び第三キャリヤca3(第一差動歯車装置G1の第二回転要素e2)が入力軸Iに駆動連結された入力回転要素Eiとなっている。更に、この入力回転要素Eiに対して、回転速度の順で一方側となる第三リングギヤr3(第一差動歯車装置G1の第一回転要素e1)が出力軸O及び第二回転電機MG2に駆動連結された出力回転要素Eoとなり、回転速度の順で他方側となる第一サンギヤs1、第二サンギヤs2、及び第三サンギヤs3(第一差動歯車装置G1の第四回転要素e4及び第二差動歯車装置G2の第三回転要素e3)が第一回転電機MG1に駆動連結された反力伝達要素Emとなっている。なお、第一無段変速モードでは、第一回転電機MG1と、反力伝達要素Emである第一サンギヤs1、第二サンギヤs2、及び第三サンギヤs3とは一体回転するように駆動連結されているため、第一回転電機MG1の回転速度及びトルクはそのまま反力伝達要素Emに伝達される。そして、この際、エンジンEは、効率が高く排ガスの少ない状態に(一般に最適燃費特性に沿うように)維持されるよう制御されつつ要求駆動力に応じた正方向のトルクを出力し、このエンジントルクが入力軸Iを介して入力トルクTEとして入力回転要素Eiに伝達される。また、第一回転電機MG1は、第一無段変速モードの全域で負方向のMG1トルクT1を発生させ、入力トルクTEの反力受けとして機能する。これにより、差動歯車装置Gは、入力トルクTEを出力回転要素Eoと第一回転電機MG1とに分配し、MG1トルクT1を反力として入力トルクTEに対して減衰したトルクを出力回転要素Eoに伝達する。
第一無段変速モードでは、第一回転電機MG1は、負方向のMG1トルクT1を常に出力する。そして、図11に示すように、出力軸Oの回転速度がゼロの状態(車両の発進時)を含む低速走行時には、第一回転電機MG1の回転速度が正となっている。その後、出力軸Oの回転速度(車速)が次第に上昇するに従って、第一回転電機MG1の回転速度は下降する。そして、第一回転電機MG1の回転速度がゼロとなる点を通過した後、図12に示すように、第一回転電機MG1の回転速度が負となる。第一回転電機MG1は、回転速度が正の状態ではジェネレータとして機能して発電を行い、回転速度が負の状態ではモータとして機能して力行する。なお、第一回転電機MG1の回転速度がゼロとなる点は、入力軸I(エンジンE)の仕事が電力に変換されない、すなわち電気変換が行われない点となっている。よって、本実施形態では、この点を便宜上「無電気変換点」という。
一方、第二回転電機MG2は、出力軸Oと一体回転するように駆動連結されており、基本的に正方向のトルク(MG2トルクT2)を出力することにより、出力軸Oに伝達される入力軸I(エンジンE)のトルクに対するアシストを行う。但し、後述するように、第二回転電機MG2は、第一回転電機MG1の動作状態に応じて負方向のMG2トルクT2を出力する場合もある。また、第二回転電機MG2が出力軸Oに一体回転するように駆動連結されているため、車両の減速時にも回生制動を効率的に行うことができる。
第一無段変速モードでは、第二回転電機MG2の回転速度は常に正となる。そして、第二回転電機MG2は、第一回転電機MG1の動作状態に応じた向きのトルク(MG2トルクT2)を出力する。すなわち、図11に示すように、第一回転電機MG1の回転速度が正であって第一回転電機MG1が発電しているときには、第二回転電機MG2は当該第一回転電機MG1により発電された電力を消費してモータとして機能して力行し、正方向のトルクを出力する。一方、図12に示すように、第一回転電機MG1の回転速度が負であって第一回転電機MG1が力行しているときには、第二回転電機MG2は当該第一回転電機MG1により消費する電力を生成するためにジェネレータとして機能して発電を行い、負方向のトルクを出力する。また、図示は省略するが、第一回転電機MG1の回転速度がゼロとなる無電気変換点では、第二回転電機MG2が出力するMG2トルクT2をゼロとする。これにより、第一無段変速モードにおけるハイブリッド制御装置Hの全体での電力収支を基本的にゼロとすることができる。よって、蓄電装置としてのバッテリ21の充電状態が大きく変動しない状態とすることができるので、長時間にわたって第一無段変速モードを実行することが可能となる。上記のとおり、出力軸Oの回転速度が次第に上昇する際には、第一回転電機MG1の回転速度は正からゼロを経て負に変化する。そして、第二回転電機MG2は、正方向のトルクを出力する状態からトルクゼロの状態を経て負方向のトルクを出力する状態に変化する。
以上に説明したように、第一無段変速モードは、入力軸I(エンジンE)から入力回転要素Eiに伝達される入力トルクTEを第一トルク変換比Rt1で減衰させて出力軸Oに伝達するモードである。そして、第一トルク変換比Rt1は、後述する第二無段変速モードにおけるトルク変換比(第二トルク変換比Rt2)より大きな値となっている。よって、第一無段変速モードは、車速が最も低い領域で使用される低速用のモードとして適している。本実施形態では、第一無段変速モードは、出力軸Oの回転速度がゼロの状態(車両の発進時)から、ブレーキBにより非回転部材としてのケースDcに選択的に固定されるように構成されている第二差動歯車装置G2の第二回転要素e2(第一キャリヤca1)の回転速度がゼロの状態となるまでの間で使用される。具体的には、第一無段変速モードでは、エンジンEの回転速度を一定とした場合、出力軸Oの回転速度がゼロの状態から、第一回転電機MG1の回転速度を低下させることにより、出力軸O及び第二回転電機MG2の回転速度を次第に上昇させて車両を発進させる。そして、出力軸Oの回転速度が上昇し、第二差動歯車装置G2の第二回転要素e2(第一キャリヤca1)の回転速度がゼロに一致した際にブレーキBを係合すれば、第一無段変速モードから固定変速比モードに切り替えられる。また、ブレーキBの係合と同時にクラッチCの解放を行えば、第一無段変速モードから第二無段変速モードに切り替えられる。これらのモード切り替えは、この際に係合するブレーキBの両側の係合部材の回転速度が同じ状態で係合される同期切替となっている。すなわち、本実施形態では、第一回転電機MG1は、第一無段変速モードで、出力軸Oの回転速度がゼロの状態から上昇するのに伴い回転速度が正の状態からゼロの状態を経て負の状態になり、第一無段変速モードと第二無段変速モードとの同期切替点が、第一回転電機MG1の回転速度が負となる動作状態に設定されている。なお、第二差動歯車装置G2の第二回転要素e2(第一キャリヤca1)の回転速度がゼロと一致しない状態でブレーキBを係合してモード切り替えを行うことも可能である。
2−4.固定変速比モード
固定変速比モードは、入力軸Iの回転速度を一定の変速比で変速して出力軸Oに正方向のトルクを伝達可能なモードである。図3に示すように、固定変速比モードは、ブレーキB及びクラッチCの双方を係合状態とすることにより実現される。この固定変速比モードでは、クラッチCが係合状態とされることにより、第一差動歯車装置G1の第四回転要素e4(第二サンギヤs2及び第三サンギヤs3)と第二差動歯車装置の第三回転要素e3(第一サンギヤs1)とが一体回転するように駆動連結される。これにより、第一差動歯車装置G1及び第二差動歯車装置G2が一体的に動作する状態となり、図13に示すように、速度線図上の全ての第一遊星歯車機構PG1、第二遊星歯車機構PG2、及び第三遊星歯車機構PG3を表す線が同一直線状となる。そして、ブレーキBが係合状態とされることにより、第一キャリヤca1がケースDcに固定される。これにより、固定変速比モードでは、入力軸Iの回転速度に比例して、出力軸O、第一回転電機MG1、及び第二回転電機MG2の回転速度が定まる状態となる。従って、固定変速比モードでは、第一回転電機MG1及び第二回転電機MG2の一方又は双方を動作させずに、入力軸I(エンジンE)のトルクを出力軸Oに伝達して走行することが可能となる。なお、ここでは、入力軸Iの回転速度は増速して出力軸Oに伝達される。また、このモードにおけるトルク変換比は、第一トルク変換比Rt1と第二トルク変換比Rt2の間の値となる。
この際、エンジンEは、車速及び要求駆動力に応じて、適切な回転速度及びトルク(入力トルクTE)を出力するように制御される。また、第一回転電機MG1及び第二回転電機MG2は、基本的には、入力軸I(エンジンE)の回転速度に応じて定まる回転速度で回転しつつ、トルクを出力しない状態に制御される。すなわち、この固定変速比モードでは、第一回転電機MG1及び第二回転電機MG2は、基本的には、モータ及びジェネレータのいずれとしても機能せず、力行も発電も行わない。但し、要求駆動力に対して、エンジンEのトルクが不足する場合などには、第一回転電機MG1及び第二回転電機MG2の一方又は双方をモータとして力行させることも可能である。また、バッテリ21の充電量が不足した場合などには、第一回転電機MG1及び第二回転電機MG2の一方又は双方をジェネレータとして発電させることも可能である。或いは、第一回転電機MG1及び第二回転電機MG2の一方をジェネレータとして発電させ、当該発電により得た電力を用いて他方をモータとして力行させることも可能である。
以上に説明したように、固定変速比モードは、差動歯車装置Gを構成する全ての遊星歯車機構PG1〜PG3が一体的に動作することにより、入力軸Iの回転速度に比例して、出力軸O、第一回転電機MG1、及び第二回転電機MG2の回転速度が定まる状態になるとともに、入力軸I(エンジンE)の回転速度が増速されて出力軸Oに伝達されるモードである。このため、固定変速比モードでは、第一回転電機MG1及び第二回転電機MG2を動作させずに入力軸I(エンジンE)のトルクを出力軸Oに伝達して走行することができる。従って、出力軸Oに作用する車輪Wからの負荷が大きい場合に、第一回転電機MG1及び第二回転電機MG2の発熱が大きくなることを抑制できるので、登坂時や牽引時等に適したモードとなっている。また、入力軸I(エンジンE)の仕事を回転電機によって電力に変換すること(電気変換)による損失を抑制することができるので、要求駆動力の変化が少ない一定車速での巡航時等にも適したモードとなっている。また、この固定変速比モードは、クラッチCが係合状態とされて実現される第一無段変速モードから更にブレーキBを係合状態とすることにより、或いはブレーキBが係合状態とされて実現される第二無段変速モードから更にクラッチCを係合することにより実現される。従って、この固定変速比モードは、第一無段変速モードから第二無段変速モードへの切り替え、又は第二無段変速モードから第一無段変速モードへの切り替えに際しての同期切り替えの際に一時的に実行される中間のモードとしても用いられる。
2−5.第二無段変速モード
第二無段変速モードは、第一回転電機MG1のトルクを反力として入力軸I(エンジンE)のトルクを出力軸Oに伝達しつつ、反力受けとなる第一回転電機MG1の回転速度を変化させることにより入力軸Iの回転速度を無段階に変速して出力軸Oに正方向のトルクを伝達するモードである。図3に示すように、第二無段変速モードは、ブレーキBを係合状態とすると共にクラッチCを解放状態とすることにより実現される。この第二無段変速モードでは、ブレーキBが係合状態とされることにより第二差動歯車装置G2の第二回転要素e2(第一キャリヤca1)がケースDcに固定される。一方、クラッチCは解放状態とされるため、上記の第一無段変速モードや固定変速比モードとは異なり、第一差動歯車装置G1と第二差動歯車装置G2とは別々に動作する状態となる。よって、図14及び図15に示すように、速度線図上の第一差動歯車装置G1(第二遊星歯車機構PG2及び第三遊星歯車機構PG3)を表す線と、第二差動歯車装置G2(第一遊星歯車機構PG1)を表す線とは基本的に同一直線状とはならない。そして、この第二無段変速モードでは、第一回転電機MG1は全域において正方向のMG1トルクT1を反力トルクとして出力する。一方、第二回転電機MG2は、出力軸Oへ伝達される入力軸I(エンジンE)のトルクを補助する補助回転電機として機能する。この第二無段変速モードでは、第一無段変速モードよりも小さいトルク変換比(第二トルク変換比Rt2)で入力軸Iのトルクを出力軸Oに伝達する。
第二無段変速モードでは、第一差動歯車装置G1は、図14及び図15に直線G1として示すように、第二遊星歯車機構PG2と第三遊星歯車機構PG3とが一体的にトルク分配機構として動作する状態となる。そして、回転速度の順で中間となる第二リングギヤr2及び第三キャリヤca3(第一差動歯車装置G1の第二回転要素e2)が入力軸Iに駆動連結された入力回転要素Eiとなっている。更に、この入力回転要素Eiに対して、回転速度の順で一方側となる第三リングギヤr3(第一差動歯車装置G1の第一回転要素e1)が出力軸O及び第二回転電機MG2に駆動連結された出力回転要素Eoとなり、回転速度の順で他方側となる第二キャリヤca2(第一差動歯車装置G1の第三回転要素e3)が第一回転電機MG1のMG1トルクT1が第二差動歯車装置G2を介して伝達される反力伝達要素Emとなっている。このように、第二無段変速モードでは、反力受けとして機能する反力伝達要素Emが、第一無段変速モードの場合と異なる回転要素となっている。言い換えれば、第二無段変速モードにおいてトルク分配機構として機能する差動歯車装置(第一差動歯車装置G1)は、少なくとも4つ(本例では4つ)の回転要素を有する差動歯車装置である。一方、第一無段変速モードにおいてトルク分配機構として機能する差動歯車装置(差動歯車装置G)も、少なくとも4つ(本例では5つ)の回転要素を有する差動歯車装置である。そして、これらの第一無段変速モード及び第二無段変速モードにおける差動歯車装置(トルク分配機構として機能する差動歯車装置)を比較すると、入力回転要素Eiと出力回転要素Eoは同一の回転要素であるが、第一回転電機MG1からのトルクを伝達する回転要素(反力伝達要素Em)は、互いに異なっている。
この際、エンジンEは、効率が高く排ガスの少ない状態に(一般に最適燃費特性に沿うように)維持されるよう制御されつつ要求駆動力に応じた正方向のトルクを出力し、このエンジントルクが入力軸Iを介して入力トルクTEとして入力回転要素Eiに伝達される。また、第一回転電機MG1は、第二無段変速モードの全域で正方向のMG1トルクT1を発生させ、入力トルクTEの反力受けとして機能する。これにより、差動歯車装置Gは、入力トルクTEを出力回転要素Eoと第一回転電機MG1とに分配し、MG1トルクT1を反力として入力トルクTEに対して減衰したトルクを出力回転要素Eoに伝達する。
また、第二無段変速モードでは、第二差動歯車装置G2は、第一回転電機MG1のトルクの向きを反転させるとともに第一回転電機MG1のトルクを増幅して第一差動歯車装置G1の第三回転要素e3(第二キャリヤca2)に伝達する。すなわち、第二差動歯車装置G2は、トルク増幅機構として動作する。上記のように、第一回転電機MG1は正方向のトルク(MG1トルクT1)を出力するため、第二キャリヤca2には負方向のトルクが伝達される。図14及び15に直線PG1(G2)として示すように、第二差動歯車装置G2は、回転速度の順で中間となる第一キャリヤca1がブレーキBによりケースDcに固定され、一方端となる第一サンギヤs1に第一回転電機MG1が駆動連結されている。このため、回転速度の順で他方端となる第一リングギヤr1に、向きが反転されたMG1トルクT1が伝達される。すなわち、第一リングギヤr1と一体回転する第一差動歯車装置G1の第三回転要素e3(第二キャリヤca2)には、第一回転電機MG1のMG1トルクT1により生成された負方向の中間トルクTMが伝達されることになり、この中間トルクTMが入力軸Iのトルクに対する反力となる。本実施形態では、第二差動歯車装置G2は、第一回転電機MG1の回転速度を減速するとともに第一回転電機MG1のトルクを増幅して第二キャリヤca2に伝達するように構成されている。具体的には、上記の増幅率Aを用いて、MG1トルクT1はA倍に増幅されて、第二キャリヤca2に伝達される。上記のように、本実施形態ではλu=0.5であるため、増幅率Aは「2」となる。よって、第一回転電機MG1のMG1トルクT1は2倍に増幅され第二キャリヤca2に伝達される。すなわち、本実施形態では、中間トルクTMは、MG1トルクT1の2倍の大きさを有する負方向のトルクとなっている。
第二無段変速モードでは、第一回転電機MG1は、正方向のMG1トルクT1を常に出力する。そして、出力軸Oの回転速度が比較的低速の状態では、図14に示すように、第一回転電機MG1の回転速度が負となっている。その後、出力軸Oの回転速度(車速)が次第に上昇するに従って、第一回転電機MG1の回転速度は上昇する。そして、第一回転電機MG1の回転速度がゼロとなる点を通過した後、図15に示すように、第一回転電機MG1の回転速度が正となる。第一回転電機MG1は、回転速度が負の状態ではジェネレータとして機能して発電を行い、回転速度が正の状態ではモータとして機能して力行する。なお、第一回転電機MG1の回転速度がゼロとなる点は、第一無段変速モードと同様、電気変換が行われない無電気変換点である。
ところで、上記のように第一無段変速モードでは、出力軸Oの回転速度の上昇に伴い、第一回転電機MG1の回転速度は正の状態からゼロの状態を経て負の状態となる。また第二無段変速モードでは、出力軸Oの回転速度の上昇に伴い、第一回転電機MG1の回転速度は負の状態からゼロの状態を経て正の状態となる。このように、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置Hは、第一無段変速モード及び第二無段変速モードの双方において、第一回転電機MG1の回転速度がゼロとなる無電気変換点を通過するように構成されているとともに、第一無段変速モードと第二無段変速モードとで、出力軸Oの回転速度の上昇に伴う第一回転電機MG1の回転速度の変化の方向が反転している。これにより、反力受けとして機能する第一回転電機MG1の回転速度の絶対値が大きくなることが抑制されている。よって、入力軸I(エンジンE)の仕事を電力に変換する際の損失が少なく抑えられ、ハイブリッド駆動装置Hのエネルギ効率を高めることが可能となっている。
一方、第二回転電機MG2は、出力軸Oと一体回転するように駆動連結されており、基本的に正方向のトルク(MG2トルクT2)を出力することにより、出力軸Oに伝達される入力軸I(エンジンE)のトルクに対するアシストを行う。但し、後述するように、第二回転電機MG2は、第一回転電機MG1の動作状態に応じて負方向のMG2トルクT2を出力する場合もある。また、第二回転電機MG2が出力軸Oに一体回転するように駆動連結されているため、車両の減速時にも回生制動を効率的に行うことができる。
第二無段変速モードでは、第二回転電機MG2の回転速度は常に正となる。そして、第二回転電機MG2は、第一回転電機MG1の動作状態に応じた向きのトルク(MG2トルクT2)を出力する。すなわち、図14に示すように、第一回転電機MG1の回転速度が負であって第一回転電機MG1が発電しているときには、第二回転電機MG2は当該第一回転電機MG1により発電された電力を消費してモータとして機能して力行し、正方向のトルクを出力する。一方、図15に示すように、第一回転電機MG1の回転速度が正であって第一回転電機MG1が力行しているときには、第二回転電機MG2は当該第一回転電機MG1により消費する電力を生成するためにジェネレータとして機能して発電を行い、負方向のトルクを出力する。また、図示は省略するが、第一回転電機MG1の回転速度がゼロとなる無電気変換点では、第二回転電機MG2が出力するMG2トルクT2をゼロとする。これにより、第一無段変速モードにおけるハイブリッド制御装置Hの全体での電力収支を基本的にゼロとすることができる。よって、蓄電装置としてのバッテリ21の充電状態が大きく変動しない状態とすることができるので、長時間にわたって第二無段変速モードを実行することが可能となる。上記のとおり、出力軸Oの回転速度が次第に上昇する際には、第一回転電機MG1の回転速度は負からゼロを経て正に変化する。そして、第二回転電機MG2は、正方向のトルクを出力する状態からトルクゼロの状態を経て負方向のトルクを出力する状態に変化する。
以上に説明したように、第二無段変速モードは、入力軸I(エンジンE)から入力回転要素Eiに伝達される入力トルクTEを第二トルク変換比Rt2で減衰させて出力軸Oに伝達するモードである。そして、第二トルク変換比Rt2は、第一無段変速モードにおけるトルク変換比(第一トルク変換比Rt1)より小さな値となっている。よって、第二無段変速モードは、車速が比較的高い領域で使用される高速用のモードとして適している。本実施形態では、第二無段変速モードは、第一無段変速モードにおいて、出力軸Oの回転速度を次第に上昇させるように第一回転電機MG1の回転速度が下降し、第二差動歯車装置G2の第二回転要素e2である第一キャリヤca1の回転速度がゼロと一致した状態よりも出力軸Oの回転速度が高い状態で使用される。具体的には、第二無段変速モードでは、エンジンEの回転速度を一定とした場合、第一キャリヤca1の回転速度がゼロに一致した状態から、第一回転電機MG1の回転速度を上昇させることにより、出力軸O及び第二回転電機MG2の回転速度を上昇させることで車両を加速させる。また、入力軸I(エンジンE)の回転速度を上昇させ、或いは出力軸O及び第二回転電機MG2の回転速度を下降させることにより、第一差動歯車装置G1の第四回転要素e4(第二サンギヤs2及び第三サンギヤs3)の回転速度と、第二差動歯車装置G2の第三回転要素e3(第一サンギヤs1)との回転速度とを一致させてクラッチCを係合すれば、第二無段変速モードから固定変速比モードに切り替えられる。また、クラッチCの係合と同時にブレーキBの解放を行えば、第二無段変速モードから第一無段変速モードに切り替えられる。これらのモード切り替えは、この際に係合するクラッチCの両側の係合部材の回転速度が同じ状態で係合される同期切替となっている。なお、第一差動歯車装置G1の第四回転要素e4(第二サンギヤs2及び第三サンギヤs3)の回転速度と、第二差動歯車装置G2の第三回転要素e3(第一サンギヤs1)との回転速度とが一致しない状態でクラッチCを係合してモード切り替えを行うことも可能である。
3.その他の実施形態
(1)上記の実施形態においては、ハイブリッド駆動装置Hが、第一無段変速モード、第二無段変速モード、及び固定変速比モードの3つのモードを切り替え可能に備える場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではなく、前記3つのモードに加えて、更に他のモードを切り替え可能に備えた構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。また、ハイブリッド駆動装置Hが、固定変速比モードを備えず、第一無段変速モード及び第二無段変速モードの2つを切り替え可能に備えた構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。
(2)上記の実施形態においては、第一無段変速モードにおいて第一回転電機MG1が入力トルクTEに対する反力トルクとして出力するトルクの大きさと当該入力トルクTEの大きさとの比(第一反力トルク比Rr1)と、第二無段変速モードにおいて第一回転電機MG1が入力トルクTEに対する反力トルクとして出力するトルクの大きさと当該入力トルクTEの大きさとの比(第二反力トルク比Rr2)とが互いに等しくなるように構成されている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではなく、第一反力トルク比Rr1と第二反力トルク比Rr2とが互いに異なる値となるように差動歯車装置Gの各歯数比が設定されている構成としても良い。この場合においても、第一無段変速モードと第二無段変速モードとで第一回転電機の反力トルクの大きさの差を小さくすることができ、第一回転電機の体格の大型化を抑制することができる。
(3)また、上記の各実施形態において説明した差動歯車装置G(第一差動歯車装置G1及び第二差動歯車装置G2)、これらを構成する第一遊星歯車機構PG1、第二遊星歯車機構PG2、及び第三遊星歯車機構PG3の構成、並びにこれらの各回転要素に対する係合要素の配置構成は単なる例示であり、上記以外の構成によっても本発明の構成を実現することが可能な全ての構成が、本発明の範囲に含まれる。例えば、上記の第一の実施形態において、第一差動歯車装置G1を構成する第三遊星歯車機構PG3をシングルピニオン型の遊星歯車機構とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。