以下に図面を用いて本発明に係る実施の形態につき、詳細に説明する。以下では、電動回転機として、ハイブリッド車両に搭載されるものを説明するが、一般的に、電動回転機のコイルを用いてコンデンサを放電する構成をとるシステムに備えられる電動回転機であれば、ハイブリッド車両用でなくてもよく、また、車両用でなくてもよい。
また、以下では、電動回転機として、蓄電装置から電力の供給を受けるときはモータとして機能して負荷を回転し、一方で負荷から制動を受けるときは発電機として機能して回生エネルギを回収して蓄電装置を充電するモータ・ジェネレータを説明するが、単にモータの機能のみを有する場合であってもよい。また、発電機として用いられるものであってもよい。また、以下では、電動回転機が1台の場合について説明するが、複数の電動回転機を備えるシステムであってもよい。この場合には、各電動回転機ごとに設けられるインバータ回路について、それぞれ同様の制御を行うことで本発明が実施できる。
また、蓄電装置として、リチウムイオン組電池またはニッケル水素組電池を用いた2次電池を説明するが、それ以外に、例えば、キャパシタのような充放電可能な蓄電装置であってもよい。
なお、以下では、電動回転機の構造を、永久磁石型同期電動機として説明するが、それ以外の同期電動機、例えば、リラクタンス型電動回転機の構造を有するものであってもよい。
図1は、電動回転機の電源制御装置10の構成を示す図である。ここでは、電動回転機の電源制御装置10の構成要素ではないが、これに接続される電動回転機としてモータ・ジェネレータ8が示されている。電動回転機の電源制御装置10は、2次電池からモータ・ジェネレータ8に電力を供給してモータとして機能させて回転駆動する制御を行い、またモータ・ジェネレータ8が発電機として機能するときは回生エネルギを受けとって2次電池を充電する制御を行う。そして、特にここでは、モータ・ジェネレータ8のコイルを放電抵抗として利用し、コンデンサの残留電荷を放電させる制御を行う機能を有する。
モータ・ジェネレータ8は、3相同期型の電動回転機である。これに対応し、電動回転機の電源制御装置10は、以下の構成を有する。すなわち、2次電池12と、システムメインリレー(SMR)14と、電圧変換器16と、両端電圧を電圧検出部18によって検出される平滑用のコンデンサ20と、インバータ回路30と、3相制御回路22と、制御CPU50と記憶部52とを含んで構成される。
2次電池12は、リチウムイオン単電池を複数組み合わせ、またはニッケル水素単電池を複数組み合わせて、200Vから400V程度、例えば、約288Vの高電圧バッテリとした組電池である。
システムメインリレー(SMR)14は、高電圧の2次電池12側において高電圧電力ラインのオン・オフを行うためのリレーであり、正極母線側と負極母線側にそれぞれ1つずつのリレーが設けられる。また、いずれか側の母線に、電流制限抵抗を接続したもう1つのリレーが設けられる。この電流制限抵抗付きリレーは、これをオンして充電を徐々に行う機能を有する。
電圧変換器16は、2次電池12側の電圧から異なる電圧を作り出す回路で、たとえば、2次電池12の電圧を昇圧してさらに高圧とし、インバータ回路30に供給する機能を有する。例えば、インバータ回路30及びモータ・ジェネレータ8を約600Vの高圧で作動させるものとするときは、電圧変換器16は、2次電池12の例えば約288Vの電圧と、この約600Vの電圧との間の電圧変換を行う機能を有する。
図1では、電圧変換器16が、2次電池12とインバータ回路30との間における電圧変換をするものとして示されているが、このほかに、2次電池12の高電圧と低電圧バッテリとの間における電圧変換を行うものを設けるものとできる。例えば、約14Vの低圧で作動する補機に対し低圧電力を供給する低電圧バッテリのために、2次電池12の約288Vの電圧と、この約14Vの電圧との間の電圧変換を行う機能を有するDC/DCコンバータを設けるものとできる。
平滑用のコンデンサ20は、電圧変換後の正極母線、負極母線の間の電圧変動を吸収し、直流電力として脈動を抑制する機能を有する大容量コンデンサである。コンデンサ20の両端の電圧は、電圧検出部18によって検出され、そのデータは制御CPU50に伝送される。
インバータ回路30は、電圧変換器16によって電圧変換され、コンデンサ20によって平滑化された直流電力を、スイッチング素子を用いて、3相駆動信号に変換する機能を有する回路である。なお、モータ・ジェネレータ8が発電機として機能するときは、モータ・ジェネレータ8からの3相回生電力を、スイッチング素子を用いて直流電力に変換する機能を有する。
図2は、インバータ回路30の構成について、コンデンサ20とモータ・ジェネレータ8との接続関係を説明する図である。インバータ回路30は、高電圧ラインの正極母線と負極母線との間に配置され、直列に接続された2つのスイッチング素子と、各スイッチング素子にそれぞれ並列に接続された2つの整流器で構成されたものを1組とし、モータ・ジェネレータ8の各相のコイル、すなわちU相コイル2、V相コイル3、W相コイル4のそれぞれに対応して1組ずつ、合計3組を含んで構成される。正極母線側に接続されるスイッチング素子と整流器は上アーム32と呼ばれ、負極母線側に接続されるスイッチング素子と整流器は下アーム34と呼ばれる。スイッチング素子としては、例えばIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)といった高電圧大電力用スイッチング素子を用いることができ、整流器としては大電力用ダイオードを用いることができる。
図2に示されるように、モータ・ジェネレータ8のU相コイル2、V相コイル3、W相コイル4の一方端はそれぞれ共通に接続される。この共通接続点が中性点である。また、例えば、W相コイル4の他方端は、W相コイル4用の上アーム32と下アーム34との接続点に接続される。同様に、U相コイル2の他方端は、U相コイル2用の上アーム32と下アーム34との接続点に接続される。同様に、V相コイル3の他方端は、V相コイル3用の上アーム32と下アーム34との接続点に接続される。
再び図1に戻り、3相制御回路22は、制御CPU50からの指令に応じ、インバータ回路30の各上アーム32、各下アーム34のそれぞれのスイッチング素子に対する制御信号を生成する機能を有する回路である。例えば、制御CPU50からトルク指令が与えられると、トルク指令に応じたd軸電流idの指令値及びq軸電流iqの指令値をマップ等の参照手段から求め、求められた決定されたidの指令値及びiqの指令値から3相駆動電圧VU、VV、VWをマップ等から求め、求められた3相駆動電圧VU、VV、VWに対応するオン・オフデューティをPWM技術によって求め、これを対応する各スイッチング素子に供給する。なお、マップの参照処理に代えて計算式に基づく演算処理を実行することで、各スイッチング素子に対する制御信号を生成することもできる。これらのマップ、計算式等の参照手段は、記憶部52に記憶させておき、必要に応じて読み出すものとできる。
制御CPU50から、放電処理の指令が出されるときは、q軸電流iqの指令値=0で、d軸電流idの指令値が指定されるので、この条件の下で、3相駆動電圧VU、VV、VWをマップ等から求め、求められた3相駆動電圧VU、VV、VWに対応するオン・オフデューティをPWM技術によって求め、これを対応する各スイッチング素子に供給することになる。
図3は、PWM技術によって、各スイッチング素子に与えられるオン・オフデューティが生成される様子を説明する図である。図3は横軸に時間をとり、縦軸に電圧をとり、時間軸を揃えて、キャリア信号70と、駆動電圧信号72として、例えばU相用の駆動電圧VUと、U相用の上アーム32のスイッチング素子に与えられるパルス信号74とが示されている。キャリア信号70は、PWM技術において、各相用の駆動電圧信号72の大きさに応じ、これを、一定電圧振幅を有するパルス信号74のオン・オフデューティに変換するために用いられる信号である。キャリア信号70は、一般的には、図3に示されるように三角波信号が用いられる。三角波の周波数は、人間の可聴周波数域を避けて、例えば、約5kHzから約10kHzの範囲に設定されることが好ましい。
この三角波のキャリア信号70の電圧の高さと、駆動電圧信号72の電圧の高さを比較し、例えば、前者が高いときにパルス信号74をハイレベルとし、後者が高いときにローレベルとすることで、駆動電圧信号72の電圧の高さを、パルス信号74のオン・オフデューティの大きさに変換することができる。
したがって、スイッチング素子を常時オンのままとすることも、常時オフのままとすることも、駆動電圧の高さを制御することで実現できる。これを放電制御のときの3相制御回路22の機能について言い換えると、制御CPU50からのq軸電流iqの指令値=0で、d軸電流idの指令値が指定された条件の下で、各スイッチング素子のオン・オフデューティを生成することができる。
制御CPU50は、電動回転機の電源制御装置10の各構成要素の作動を統合的に制御する機能を有する。かかる制御CPU50は、車両搭載用のコンピュータで構成することができる。なお、制御CPU50を独立のコンピュータとして構成することもでき、また、車両に別のコンピュータが搭載されているときは、制御CPU50の機能を、そのコンピュータの機能に含ませるものとすることもできる。例えば、ハイブリッドCPUが別に搭載されるときは、制御CPU50の機能を、ハイブリッドCPUの機能に含ませることができる。
制御CPU50は、モータ・ジェネレータ8の駆動及び回生を制御する駆動・回生制御部54と、モータ・ジェネレータ8のコイルを用いてコンデンサ20を放電させる制御を行う放電制御部60とを含んで構成される。駆動・回生制御部54は、モータ・ジェネレータ8をモータして作動させるときに、例えばトルク指令を3相制御回路22に与え、インバータ回路30を構成する各スイッチング素子の制御信号を生成させる機能を有する。モータ・ジェネレータ8が発電機として作動させるときは、制動トルクに相当するトルク指令を与えることで、インバータ回路30を構成する各スイッチング素子の制御信号を生成させる機能を有する。
放電制御部60は、d軸電流idを所定の反転周期で反転させることでインバータ回路30の上アームと下アームとを周期的に交互にオン・オフ制御するid反転モジュール62と、コンデンサ20の残留電圧の高さに応じてd軸電流idの反転周期を可変制御する反転周期可変モジュール64と、コンデンサ20の残留電圧の高さに応じて、d軸電流idの大きさを可変制御する電流値可変モジュール66を含んで構成される。
駆動・回生制御部54、放電制御部60の各機能は、ソフトウェアで実現でき、具体的には、電動回転機の電源制御プログラムを実行することで実現できる。これらの機能の一部をハードウェアで実現することもできる。以下では、図1から図3までの符号を用いて説明する。
制御CPU50に接続される記憶部52は、電動回転機の電源制御プログラムを記憶する他、3相制御回路22の機能の実行に必要な各種マップあるいは計算式等を記憶する。特に、後述する放電制御に用いられるマップ、たとえば、d軸電流を流せる許容時間Tと残存電圧Vとの関係マップ等を記憶する機能を有する。
以下に、上記構成の作用、特に制御CPU50の放電制御部60の各機能につき、以下に説明する。最初に、放電制御におけるd軸電流の流れ方について図4、図5を用いて説明し、その後、放電制御部60の各機能についてフローチャートおよび関連図面を用いて説明する。
放電制御においては、q軸電流iqをゼロとし、d軸電流idをゼロでないある値とする。ここで、q軸電流iq、d軸電流idというのは、同期電動機におけるベクトル制御で用いられるもので、q軸電流iqがトルク発生に用いられる電流で、d軸電流idが回転磁界を生成するための電流に相当する。q軸電流iqをゼロとし、d軸電流idをゼロでないある値とすることは、モータ・ジェネレータ8にトルクを発生させることなく、コイルに電流を流すことを意味する。典型的な例は、モータ・ジェネレータ8のロータ磁石のちょうどその磁極の位置に回転磁界を一致させることで、トルクを発生させず、コイルに電流を流すことができる。ロータ磁石と回転磁界との位相関係は、適当なセンサを用いて検出できる。例えば、レゾルバ等の位相検出手段を用いることができる。
図4は、従来技術による放電制御を説明するものである。図4は、モータ・ジェネレータ8のU相コイル2に電流を流し込み、その電流を中性点からV相コイル3とW相コイル4から流れ出すようにした場合である。このように各コイルに電流を流すことで形成される磁界のベクトル的位置が、ちょうどロータ磁石のベクトル的位置と一致するようにすれば、トルク発生をゼロにして、各コイルに電流を流し、コンデンサ20の電荷を放電させることができる。具体的には、インバータ回路30のU相用の上アーム32をオンさせ、V相用の下アーム34と、W相用の下アーム34とを共にオンさせる。
このように、インバータ回路30の各スイッチング素子のオン・オフを制御することで、コンデンサ20の残留電荷は、正極母線からU相用の上アーム32を通ってU相コイル2に流れ込み、流れ込んだ電流はV相コイル3とW相コイル4とに分流して、それぞれU相用の下アーム34、W相用の下アーム34を通って負極母線に流れる。これによって、コンデンサ20の残留電荷が、モータ・ジェネレータ8のコイルを放電抵抗として利用して放電される。
図4の例では、U相コイル2に流れる電流は、V相コイル3、W相コイル4にそれぞれ流れる電流の2倍となる。同様に、インバータ回路30において、U相用上アーム32のスイッチング素子に流れる電流は、V相用下アーム34のスイッチング素子、W相用下アーム34のスイッチング素子にそれぞれ流れる電流の2倍である。つまり、他の相に比べU相に電流集中が生じる。V相コイル3に電流が流れ込み、これをU相コイル2とW相コイル4とに分流する場合、あるいは、W相コイル4に電流が流れ込み、これをU相コイル2とV相コイル3とに分流する場合においても、同様に、特定の相に電流集中が生じる。
これにより、インバータ回路30における特定の素子が特に発熱し、これによってインバータ回路30の特性が制限され、あるいは場合によって破損する恐れがある。これが従来技術の問題点であった。この発熱による損傷を避けるため、インバータ回路30が損傷しない程度の電流で放電すると、放電時間が長時間に及ぶことになる。車両においては、コンデンサ20の放電制御は、車両が運行していないときに行われるので、放電制御のために長時間にわたり、車両の制御部が作動しているのは好ましくない。また、放電を速くするために、キャリア信号の周波数を低下させることが考えられるが、上記のように、キャリア信号の周波数は人間の可聴周波数を避けるように設定されているので、周波数を変更すると、人間の可聴周波数に入ることがあり、車両が運行停止中にも関らず、異音を発生することになり、好ましくない。
そこで、インバータ回路30における特定の素子に電流が集中することを避ける方法として、放電電流の流れる方向を周期的に変更することがよい。図5は、図4に対し、電流の流れる方向を逆にするときの様子を示す図である。ここでは、V相コイル3とW相コイル4から流れ込んだ電流が、合流してU相コイル2に流れ込む。このとき、インバータ回路30においては、U相用下アーム34と、V相用上アーム32と、W相用上アーム32とに電流が流れる。つまり、電流が流れる素子は、図4において電流が流れていない素子である。したがって、図4の状態と図5の状態とを交互に繰り返せば、インバータ回路30を構成する各素子に分散して電流が流れ、いずれか一方の状態を継続することに比べ、各素子に流れる電流が平均として低下する。したがって、インバータ回路30の全体としては、放電電流の大きさを大きく設定しても、特定の素子に電流が集中しないので、発熱を抑制することができる。
次に、制御CPU50の放電制御部60の各機能について、フローチャートおよび関連図面を用いて説明する。以下では、図1から図5の符号を用いて説明する。図6は、放電制御部60の基本的な作用を説明するフローチャートである。図6のフローチャートは、放電制御の手順を示すもので、各手順の内容は、電動回転機の電源制御プログラムの放電制御部分の各処理手順に対応する。図6の各手順は、制御CPU50の放電制御部60のid反転モジュール62の機能によって実行される。
図6において、放電制御を実行しようとするときは、q軸電流iqがゼロ、d軸電流idがゼロでない所定の値に設定される(S10)。d軸電流idの値は、図4、図5から分かるように、放電電流の大きさに対応する。設定された条件は、3相制御回路22に与えられ、上記で説明したように、インバータ回路30の各スイッチング素子に対するオン・オフデューティが求められて、インバータ回路30の動作が制御される。図4、図5の例では、ロータ磁石とコイルの位置が一致しているものとして説明したが、一致していない場合には、3つのコイルによって形成される磁界がロータ磁石の位置に一致するように、各スイッチング素子のオン・オフデューティが計算され、指示されることになる。
次に、S10の設定からの経過時間が、所定の時間T0を超えるか否かが判断される(S12)。ここで、所定の時間T0とは、インバータ回路30において、特定の素子に電流集中が生じても、特性に影響なく、特に損傷の恐れがない連続放電時間である。例えば、S10において、図4の状態に設定が行われたとすると、U相用上アーム32のスイッチング素子に他のスイッチング素子の2倍の電流が流れ、ここで最も発熱する。この状態を継続すると、インバータ回路30の全体の特性に影響が生じることが考えられるが、その影響が生じない放電時間である。換言すれば、図4の状態を継続して、インバータ回路30の特性に影響を与えない限度の時間がT0である。もちろん、適当な余裕度を持たせてT0を設定できる。したがって、所定の時間T0を、同一状態を連続的に維持できる許容時間、あるいは単に許容時間と呼ぶことができる。
許容時間は、素子に流れる電流が多ければ短くなる。すなわち、コンデンサ20の残存電圧Vが高いほど、許容時間は短くなる。許容時間を一般的にTとして示すと、残存電圧Vと許容時間Tの関係は、インバータ回路30の放熱構造および放熱特性が定まれば、予め求めておくことができる。図7は、残存電圧Vと許容時間Tの関係の一例を示す図である。この関係は、マップあるいは計算式にして、記憶部52に記憶しておくことができる。例えば、検索キーを「id反転」とし、次に、残存電圧Vを検索キーとすることで、その条件での許容時間Tを読み出せるものとすることができる。なお、残存電圧Vは、図1における電圧検出部18によって検出され、制御CPU50に伝送されるので、これを取得して用いることができる。
経過時間がT0を超えない間は、残存電圧Vが監視され、所定の規定値未満に到達するか否かが判断される(S16)。所定の規定値とは、コンデンサ20が十分に放電したと判断される電圧である。所定の規定値未満に到達すれば、ここで放電処理は終了する。S16の判断が否定されると、S10にもどり、放電制御がそのままの状態で継続される。
経過時間がT0を超えたと判断されるとS14に進み、id反転が実行される(S14)。具体的には、S10で設定されたidの絶対値をそのままにして、符号を反転して、3相制御回路22に指示が与えられる。上記の例で言えば、図4の状態から図5の状態に切り換えられる。そして、反転された状態で、再びS12の判断が行われる。ここでは、経過時間は、S14から起算される。そして、再び経過時間がT0を超えると判断されると、またidが反転される。上記の例で言えば、図4の状態に再び戻る。S16において判断が肯定とならない限り、これらの手順が繰り返される。上記の例で言えば、図4の状態−図5の状態−図4の状態−図5の状態−と、順次繰り返される。そして、コンデンサ20の残存電荷は、モータ・ジェネレータ8のコイルを放電抵抗として、次第に少なくなり、残存電圧が低下する。そして、S16の判断が肯定となったところで、放電制御が終了する。
上記手順の進行の様子と、残存電圧Vの経過の様子を図8に示す。図8(a)は、横軸に時間、縦軸に残存電圧Vをとって、放電制御の進展に伴って残存電圧Vがどのように低下するか、を示したもので、初期値がV1、所定の規定値がV0で示されている。図8(b)は、(a)と時間軸を共通にして横軸にとり、縦軸にd軸電流idをとったもので、図7に示す特性図に従い、初期残存電圧V1に対応する許容時間T0の反転周期で、d軸電流idが反転される様子が示されている。そして、残存電圧Vが規定値V0に到達した時点で、d軸電流id=0とされ、ここで放電制御が終了することが示されている。
このように、d軸電流idを所定の反転周期で反転させ、インバータ回路30の上アームと下アームとを周期的に交互にオン・オフ制御することで、インバータ回路30の発熱を全体として抑制することができる。
図6のフローチャートの例では、d軸電流idの反転周期を固定としたが、放電が進行して残存電圧Vが低下すると、インバータ回路30における発熱も少なくなるので、許容時間を長く取ることが可能となる。図9は、コンデンサの残留電圧の高さに応じてd軸電流の反転周期を可変して放電制御を行うものとしたフローチャートである。以下では、図1から図8までの符号を用いて説明する。このフローチャートの手順は、制御CPU50の放電制御部60の反転周期可変モジュール64の機能によって実行される。
図9において用いられる許容時間は、図10に示されている。すなわち、残存電圧Vが、初期値V1のときは、許容時間T1を用い、許容時間T1を用いて放電が進行し、残存電圧VがV2となると、許容時間T2を用いる。V2がV1より小さくなるので、T2はT1より長くできる。そして、許容時間T2を用いて放電が進行し、残存電圧VがV3となると、許容時間T3を用いる。V3がV2より小さくなるので、T3はT2よりさらに長くできる。このように、残存電圧Vに応じて、許容時間が変更されて設定される。
反転周期可変による放電制御の図9のフローチャートにおいては、まず残存電圧が入力され、これが取得される(S20)。残存電圧は、上記のように、電圧検出部18によって検出され、制御CPU50に入力されるので、これを取得することができる。次に、残存電圧Viに応じて許容時間Tiが設定される(S22)。具体的には、図10のマップまたはこれに相当する参照手段を記憶部52から読み出し、いまの場合、残存電圧の初期値V1に対応する許容時間T1が設定される。
S22の後は、S24の工程が行われる。この工程は、図6におけるS10と同様の内容で、q軸電流iqがゼロ、d軸電流idがゼロでない所定の値の放電電流値に設定される。そして、経過時間が許容時間Tiを超えるか否かが判断される(S26)。いまの場合、Tiは、T1であるので、図6のS12と同じ内容である。経過時間がTiを超えない間は、残存電圧Vが監視され、所定の規定値未満に到達するか否かが判断される(S36)。この工程の内容も図6のS16と同じ内容である。S36の判断が否定されると、S24にもどり、放電制御がそのままの状態で継続される。
経過時間がTiを超えたと判断されると、id反転が実行される(S28)。そして、経過時間が許容時間Tiを超えるか否かが判断される(S30)。この内容は、idが反転されていることを除けば、S26と同じ内容である。そして経過時間がTiを超えない間は、残存電圧Vが監視され、所定の規定値未満に到達するか否かが判断される(S32)。この工程の内容もidが反転されていることを除けば、S36と同じ内容である。S32の判断が否定されると、S30にもどり、放電制御がそのままの状態で継続される。つまり、id反転の状態が維持される。
S30において判断が肯定されると、すなわち、いまの場合、id反転状態でT1が経過すると、再びidが反転される(S34)。図4の状態と図5の状態を利用して説明すると、図4の状態でT1が経過して、図5の状態となり、さらにT1が経過して、図4の状態に戻る。いま、図4の状態を負の値の放電、図5の状態を正の値の放電と仮に呼ぶことにすれば、d軸電流が反転するまでの許容時間Tを反転周期Tと呼ぶことにして、反転周期T1で、idが負の値の放電と正の値の放電をそれぞれ1回ずつ行ったことになる。
この状態で、S20に戻り、残存電圧が入力され、取得される(S20)。ここでは、反転周期T1で、idが負の値の放電と正の値の放電をそれぞれ1回ずつ行った後の残存電圧が取得される。図10の例では、V2が入力され取得されることになる。そして、残存電圧Viに応じて許容時間Tiが設定される(S22)。いまの場合、残存電圧V2に応じて、許容時間T2が設定される。以後、S24以降の手順が実行される。
S36の判断が肯定されず、また、S32の判断が肯定されない限り、上記で述べた手順が繰り返されるので、id反転状態でT2が経過すると、再びidが反転される。そしてさらにT2が経過して、つまり、反転周期T2で、idが負の値の放電と正の値の放電をそれぞれ1回ずつ行われると、再びS20に戻り、残存電圧が入力される。図10に従えばいまの場合、V3が入力され、S22において、許容時間T3が設定される。
このように、idが負の値の放電と正の値の放電をそれぞれ1回ずつ行われるたびに、残存電圧が検出され、その残存電圧に応じて許容時間が新しく設定される。このようにして、放電を繰り返すと、次第に残存電圧が低くなり、S32またはS36の判断が肯定される。そこで、放電制御が終了する。
その様子を図11に示す。図11の横軸、縦軸は、図8(b)と同様である。このように、idが負の値の放電と正の値の放電をそれぞれ1回ずつ行われるたびに、idの反転周期が変更され、次第に長くなってくる。このようにして、インバータ回路30の全体的な発熱を抑制しながら、放電制御を行うことができる。図6の例の場合は、反転周期が一定であったが、図11の場合は、放電の進展に合わせて反転周期の長さを長くできる。したがって、インバータ回路30の発熱に合わせて、反転周期を次第に長くでき、効率よく放電を行わせることができる。
なお、上記の例では、idが負の値の放電と正の値の放電をそれぞれ1回ずつ行われるたびに、idの反転周期が変更されるものとしたが、idが負の値の放電と正の値の放電をそれぞれ複数回ずつ行った後にidの反転周期が変更されるものとしてもよい。
図9の例において、idが負の値の放電と正の値の放電をそれぞれ1回ずつ、あるいはn回行われるたびに、idの反転周期を変更するものとしたが、idの反転周期の変更に代えて、あるいはidの反転周期の変更に合わせて、放電に用いられるd軸電流の大きさを可変するものとできる。放電に用いられるd軸電流の大きさは、放電制御において、iq=0とし、idを放電電流として設定されるゼロでない値として、3相制御回路22に指令を出す際に、id電流の大きさを、コンデンサの残留電圧の高さに応じて、変更するものとして、実行することができる。具体的には、図9において、S22の内容を、コンデンサにおける残存電圧Viに応じてd軸電流idiを設定するものとして、その他の手順を、図9で説明したものと同様な様な内容で実行することで実現できる。
実際には、残存電圧Viに応じてd軸電流idiを設定することになると、d軸電流idiの大きさによって許容時間Tが異なってくる。したがって、残存電圧Viに応じてd軸電流idiを設定するとともに、許容時間Tiを設定することになる。その様子を図12に示す。残存電圧Viとd軸電流idiの対応関係は、インバータ回路30の放熱特性等に基づいて予め求めておき、記憶部52に記憶するものとできる。
図12に示されるように、放電の始期である最初の残存電圧V1のときに、最も大きな値のd軸電流id1を設定する。そしてd軸電流id1に対応する残存電圧Vと許容時間Tとの対応関係を記憶部52から読み出し、残存電圧V1に対応する許容時間T1を求める。こうして、残存電圧V1においてd軸電流id1と、許容時間T1の設定が行われる。この設定に基づいて、図9のS24以下が実行されることになる。
そして、d軸電流id1での放電が行われ許容時間T1が経過すると、図9のS28におけると同様に、id反転が行われる。そして、電流値の絶対値がid1のままで、コイルに流れる方向を逆にして放電が行われ再び許容時間T1が経過すると、図9のS34におけると同様に、次のid反転が行われる。
そして、残存電圧が測定される。残存電圧をV2として、残存電圧V2に応じたd軸電流id2が設定される。d軸電流の設定は、上記のように記憶部52に記憶された残存電圧とd軸電流の対応関係を読み出し、その対応関係に測定された残存電圧を適用することで行われる。その様子は図12に示される通りで、残存電圧V2に応じたd軸電流id2は、残存電圧V1に応じて設定されたd軸電流id1よりも小さい。
このようにして、残存電圧V2に応じてd軸電流id2が設定されると、d軸電流id2に対応する残存電圧Vと許容時間Tとの対応関係を記憶部52から読み出し、残存電圧V2に対応する許容時間T2を求める。この様子も図12に示されている。こうして、残存電圧V2においてd軸電流id2と、許容時間T2の設定が行われる。この設定に基づいて、図9のS24以下が再び実行されることになる。
その様子が図13に示される。図13の横軸、縦軸は、図11と同様である。このように、idが負の値の放電と正の値の放電をそれぞれ1回ずつ行われるたびに、idの大きさと、反転周期とが変更され、放電電流が次第に小さく、反転周期が次第に長くなってくる。このようにして、インバータ回路30の全体的な発熱を抑制しながら、放電制御を行うことができる。図6、図11の例の場合は、d軸電流の絶対値の大きさが一定であったが、図13の場合は、放電の進展に合わせてd軸電流の大きさを小さくできる。したがって、インバータ回路30の発熱に合わせて、d軸電流を次第に小さくでき、効率よく放電を行わせることができる。
なお、上記の例では、idが負の値の放電と正の値の放電をそれぞれ1回ずつ行われるたびに、d軸電流の大きさと、idの反転周期とが変更されるものとしたが、idが負の値の放電と正の値の放電をそれぞれ複数回ずつ行った後にidの反転周期が変更されるものとしてもよい。
2 U相コイル、3 V相コイル、4 W相コイル、8 モータ・ジェネレータ、10 電動回転機の電源制御装置、12 2次電池、14 SMR、16 電圧変換器、18 電圧検出部、20 コンデンサ、22 3相制御回路、30 インバータ回路、32 上アーム、34 下アーム、50 制御CPU、52 記憶部、54 駆動・回生制御部、60 放電制御部、62 id反転モジュール、64 反転周期可変モジュール、66 電流値可変モジュール、70 キャリア信号、72 駆動電圧信号、74 パルス信号。