本発明は、グロー放電プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)法により基体上に堆積膜を形成する堆積膜形成装置、特に電子写真感光体の製造装置に関する。
従来、電子写真感光体に用いられる素子部材を、セレン、硫化カドミニウム、酸化亜鉛、フタロシアニン、アモルファスシリコン(以下「a−Si」と記す)等の様々な材料から製造する技術が提案されている。a−Siに代表される珪素(シリコン)原子を主成分として含む非単結晶質堆積膜、例えば水素および/またはハロゲン(例えばフッ素、塩素等)で補償されたa−Si等のアモルファス堆積膜は、高性能、高耐久性、かつ無公害な感光体である。このような非単結晶質堆積膜のいくつかは実用化されている。堆積膜の形成法としては、従来、スパッタリング法、熱により原料ガスを分解する熱CVD法、光により原料ガスを分解する光CVD法、プラズマにより原料ガスを分解するプラズマCVD法等、多数の方法が知られている。中でも、プラズマCVD法は、電子写真用a−Si堆積膜の形成方法として現在実用化が非常に進んでおり、プラズマCVD法のための装置が各種提案されている。具体的には、原料ガスを直流または高周波(RF、VHF)やマイクロ波などのグロー放電等によって分解し、ガラス、石英、耐熱性合成樹脂フィルム、ステンレス、アルミニウム等の導電性基体上に薄膜状の堆積膜を形成している。例えば、シリコン原子を主体とし、水素原子またはハロゲン原子の少なくとも一方を含むアモルファス材料で構成された光導電層の上に非光導電性のアモルファス材料で構成された表面保護層が設けられた光導電部材が知られている。この表面保護層は、シリコン原子および炭素原子を母体にして水素原子を含む非光導電性のアモルファス材料で構成されたものである。
このような従来の技術によりa−Si等の堆積膜を形成する方法は、例えば次のように行われる。
図5は、電子写真感光体を作製するために用いられる、13.56MHzの高周波電源を用いたRFプラズマCVD法のための堆積膜形成装置の一例を模式的に示した図である(特許文献1参照)。この堆積膜形成装置は、反応容器600と、反応容器600内を減圧するための排気装置(不図示)とから構成されている。反応容器600内には、接地された導電性受け軸605と、基体加熱ヒーター608と、ガス導入管606が設けられており、導電性受け軸605に円筒状基体607が取り付けられる。また、導電性材料からなる円筒状の放電電極601が配置されている。この放電電極601は、ベースプレート602および上蓋603とともに反応容器600を形成するものであり、ベースプレート602および上蓋603は碍子604によって放電電極601と絶縁されている。放電電極601には、13.56MHzの高周波電源609がマッチングボックス610を介して接続されている。
不図示のガス供給装置は、ガス導入バルブ619を介して反応容器600内のガス導入管606に接続されている。また、不図示の排気装置はメインバルブ615を介して反応容器600に接続されており、その接続経路の途中に真空計611が設けられている。
以下、図5の堆積膜形成装置を用いて電子写真感光体を製造する方法の一例について説明する。
まず、例えばアルミシリンダーの表面に旋盤を用いて鏡面加工を施してなる円筒状基体607を、反応容器600内において、基体加熱ヒーター608を取り囲むようにして導電性受け軸605に取り付ける。
次に、メインバルブ615を開いて、排気装置(不図示)によって反応容器600内およびガス導入管606内を排気する。真空計611が0.67Pa以下の圧力になったことを検知した時点でガス導入バルブ619を開き、加熱用の不活性ガス(例えばアルゴン)をガス導入管606から反応容器600内に導入する。そして、反応容器600内が所望の圧力になるように、加熱用の不活性ガスの流量と、メインバルブ615の開口あるいは排気装置の排気速度を調整する。その後、不図示の温度コントローラーを作動させて、基体加熱ヒーター608により円筒状基体607を加熱し、円筒状基体607の温度を20℃〜500℃の所望の温度に制御する。円筒状基体607が所望の温度に加熱されたところで、不活性ガスの導入を徐々に止める。それと同時に、成膜用の原料ガス、例えば、SiH4、Si2H6、CH4、C2H6などの材料ガスを、不図示のガス供給装置によりB2H6、PH3などのドーピングガスと混合した上で、反応容器600内に徐々に導入する。次に、不図示のマスフローコントローラーによって、各原料ガスが所定の流量になるように調整する。その際に、反応容器600内を0.1Paから数百Paまでの所望の圧力に維持するように、真空計611を監視しながらメインバルブ615の開口あるいは排気装置(不図示)の排気速度を調整する。
以上の手順によって成膜準備を完了した後、円筒状基体607上への堆積膜の形成を開始する。まず、反応容器600内の圧力が安定したのを確認してから、高周波電源609を所望の電力に設定して、高周波電力を放電電極601に供給し高周波グロー放電を生起させる。このとき、マッチングボックス610を調整して、反射波が最小になるようにし、高周波の入射電力から反射電力を差し引いた値が所望の値になるようにする。この高周波グロー放電の放電エネルギーによって、反応容器600内に導入されている各原料ガスが分解され、円筒状基体607の表面上に付着して所定の堆積膜が形成される。なお、膜形成を行っている間、円筒状基体607を駆動装置(不図示)によって所定の速度で回転させてもよい。
所望の厚さの堆積膜が形成された後、高周波電力の供給を止め、反応容器600への各原料ガスの流入を止めて、反応容器600内を一旦高真空にし、成膜工程を終える。このような成膜工程を繰り返し行うことによって、電子写真感光体が形成される。
この技術により、電気的特性、光学的特性、および光導電率的特性が向上した電子写真感光体を製造することができ、この電子写真感光体を用いて画像形成することにより画像品位の向上が可能である。
特開平10−63024号公報
前記した従来の堆積膜形成装置により、ある程度実用的な特性と均一性を持つ感光体を得ることが可能になった。特に、プラズマCVD法による成膜方法の中でも、高周波電力としてRF帯を用いるRFプラズマCVD法は、良好な特性の膜を容易に得られるため、a−Siを用いた電子写真感光体の製造などに広く用いられている。
しかし、近年、市場にて要求される電子写真装置のスペックが年々厳しくなり、さらなる高画質化、高速化、高耐久性、および高機能化はもとより、価格やランニングコストに関する競争も激化している。これに伴って、a−Siを用いた電子写真感光体にも、従来のような電気特性の向上や画像品質の向上に寄与するのみならず、よりコストの低い安価な部材が要求されるようになってきた。
ところが、a−Siを用いた電子写真感光体は、a−Siの持つ誘電率の高さゆえに、十分な帯電能を得るためにはどうしても厚膜にならざるを得ず、場合によっては10μm〜100μmもの厚さの堆積膜を形成しなければならない。従って、RFプラズマCVD法を用いた製造方法では、成膜時間に長時間を要し、生産コストが上昇しがちであった。
また、従来のプラズマCVD装置は、図5に示すような同軸型の堆積膜形成装置が多い。その場合、円筒状基体607の周囲の環境が対称であり、均一な膜厚および膜質が得られる反面、成膜炉(堆積膜形成装置)1つ当たり1本の電子写真感光体しか製造することができず、生産効率がどうしても低くならざるを得なかった。
その一方で、成膜炉1つ当たりの生産量を増やす1つの試みとして、堆積速度の向上が従来から検討されてきた。しかし、堆積速度を速くすると、どうしても堆積膜の膜質が低下して電子写真感光体としての特性が低下する傾向がある。すなわち、生産効率と電子写真感光体としての特性とがトレードオフの関係になり、十分に満足する結果が得られない場合があった。
本発明の目的は、上述した従来の諸問題を解決し、電気的な特性を悪くすることなく、製造コストを下げ、歩留まりよく安定して製造し得る堆積膜形成装置を提供することにある。
本発明は、排気部とガス導入部を備え、内部に複数の円筒状基体を配置可能であり、かつ真空気密可能な反応容器と、反応容器の側壁を構成し、複数の円筒状基体が配置される位置を取り囲むように設けられた放電電極とを有し、複数の円筒状基体の表面上に堆積膜を形成する堆積膜形成装置において、堆積膜形成装置が、複数の円筒状基体の各々の表面同士が互いに直接対向することがないように、複数の円筒状基体が配置される位置同士の間に設けられ、かつ放電電極と電気的に接続された仕切板をさらに有しており、仕切板が、排気部の一部を構成する排気口が設けられている円筒部分と、円筒部分を中心として円筒部分に接合された板部分とを有していることを特徴とする。
本発明の堆積膜形成装置は、円筒状基体の堆積膜形成面同士が互いに直接対向することがないように、円筒状基体同士の間に、放電電極と電気的に接続された仕切板が設けられ、仕切板は排気部の一部を構成しているため、良好な堆積膜を形成できる。それによって、良好な特性の電子写真感光体を安価に生産性よく製造することが可能である。
以下、図面を用いて本発明の堆積膜形成装置の実施の形態について詳細に説明する。
まず、本発明を想到するに至った経緯について説明する。本発明者らは、製造コストを下げ、効率よく電子写真感光体を製造するために、1回の成膜工程で多数の電子写真感光体を製造できる堆積膜形成装置を用いることを考えた。すなわち、図5に示すような従来の同軸型の堆積膜形成装置に替えて、図6に示すように、複数の円筒状基体607を単一の反応容器600内に配置可能な堆積膜形成装置を用いた。図6(a)はその堆積膜形成装置の概略縦断面図、図6(b)は図6(a)の切断線X−Xに沿う概略横断面図である。なお、図5に示す堆積膜形成装置と同様な部分については同一の符号を付与して説明を省略する。
図6に示す堆積膜形成装置において、複数の円筒状基体607は、基体加熱ヒーターを内蔵し接地された導電性受け軸である回転軸508に取り付けられることによって、同一円周上に等間隔に配置される。回転軸508は不図示の駆動機構によって回転可能である。これらの円筒状基体607を取り囲むように、放電電極601が設置されている。反応容器600は、排気配管505を介して不図示の排気装置に接続されている。放電電極601の近傍には、周方向に均等に間隔をおいて原料ガス導入管(原料ガス導入部)606が配置されている。
この堆積膜形成装置によると、装置1台当たりの感光体の製造数量が大幅に増加するため、結果的に大幅なコストダウンが見込める。
ところが、実際に実験を行ってみると、得られた電子写真感光体の電気特性は何れも、図5に示す同軸型の1本取り炉(1回の成膜工程で1つの電子写真感光体のみが製造できる装置)と比べて良好とは言えないものであった。すなわち、図6に示す堆積膜形成装置では、図5に示す同軸型の1本取り炉より狭い処方範囲でしか、1本取り炉で製造された電子写真感光体と同等の特性が得られず、処方の選択可能範囲が狭いため生産性は必ずしも十分に良好ではなかった。
この原因を探るために、図6に示す堆積膜形成装置において、円筒状基体607を回転させず静止させた状態で、同軸型の1本取り炉に比べて十分な特性とはならなかった処方で成膜を行い、その周方向の特性のムラを調べた。その結果、円筒状基体607の側面の、反応容器600の側壁(放電電極601)側に向いた部分(図6(b)のA部分)、すなわち放電電極601と近接対向する部分の堆積膜の特性は、同軸型の1本取り炉の場合と同等かそれ以上の良好な結果が得られた。しかし、それ以外の部分では、同軸型の1本取り炉の場合に比べて特性が劣っていることが判明した。特に、円筒状基体607の側面同士が近接対向している部分(図6(b)のB部分およびC部分)の堆積膜の特性は、同軸型の1本取り炉の場合に比べてかなり劣っていることが判明した。
本発明者らは、この原因について以下のように考えた。図6に示す堆積膜形成装置の場合には、放電電極601に高周波電力を印加しており、放電電極601の対向電極として機能しているのは、内部に複数配置されている接地された円筒状基体607である。つまり、円筒状基体607の周方向において、放電電極601と近接対向する部分(A部分)には十分な高周波電界が働いており、良好な膜質の堆積膜が形成される。しかし、円筒状基体607の側面同士が近接対向する部分(B部分およびC部分)、すなわち接地面同士が向き合う領域には、放電電極601からの高周波電力が十分に働いておらず、弱電界になる。そのため、原料ガスの分解および励起が不十分になり、堆積膜の膜特性が悪化したものと想像される。
本発明者らは、この問題を解決する方法として、円筒状基体607の側面同士が近接対向する位置に仕切板を設けて、いわゆる目隠しをすればよいのではないかと考えた。そこで、図7に示す堆積膜形成装置を作製した。図7(a)はこの堆積膜形成装置の概略縦断面図、図7(b)は図7(a)の切断線X−Xに沿う概略横断面図である。なお、図5,6に示す堆積膜形成装置と同様な部分については同一の符号を付与して説明を省略する。
この堆積膜形成装置は、反応容器600内に仕切板411が設けられた構成である。具体的には、図7に示す堆積膜形成装置の反応容器600には、仕切板411により仕切られたエリアに円筒状基体607がそれぞれ1本ずつ配置される。各円筒状基体607は、基体加熱用ヒーターを内蔵し接地された回転軸508によってそれぞれ保持される。反応容器600の中心部に設けられた排気配管405は、排気装置(不図示)に接続され、反応容器600を排気することができる。仕切板411は、放電電極601と電気的に導通するように接触している。
この堆積膜形成装置では、仕切板411によって、円筒状基体607同士が互いに直接向かい合わないようになっている。仕切板411は、放電電極601と接触して電気的に導通しているので、円筒状基体607の仕切板411と向き合う部分(図6に示す装置では円筒状基体607同士が直接向かい合う部分であるB部分およびC部分)にも効果的に高周波電界を印加できる。すなわち、円筒状基体607の周囲を見渡したときに万遍なく高周波電力が印加されており、接地面が存在しない構成になる。その結果、円筒状基体607の全周に亘って、図5に示す同軸型の堆積膜形成装置(1本取り炉)の場合と何ら見劣りしない特性が得られることが判明した。
このように、仕切板411を用いることにより円筒状基体607の周方向の特性は全周にわたってほぼ均一な特性が得られた。しかし、円筒状基体607の軸方向の特性のばらつきがやや大きくなってしまった。これは、仕切板411が放電電極として機能することにより、実質的に円筒状基体607と放電電極との距離が近くなったことに起因していると考えられる。放電電極と円筒状基体607の距離が近くなると、ガスの流れによる影響が堆積膜のムラに影響しやすいためと考えられる。
また、別の問題として、仕切板411を用いることによって反応容器600内の、ポリシランと呼ばれる副生成物の形成量が多くなることがわかった。電子写真感光体の製造を繰り返し行う場合、製造工程が終わり次の製造工程を開始する前に反応容器600内のポリシランを除去する必要がある。たとえば、反応容器600内にポリシラン等の不要物が残った状態で次の製造を行うと、堆積膜形成前に不要物が円筒状基体607に付着する可能性が増大する。こうした付着物は、堆積膜の欠陥の原因となってしまい、電子写真感光体の画像欠陥を引き起こす要因となってしまう。
また、電子写真感光体の製造後の反応容器600内のポリシラン量が多くなると、必然的にポリシランを処理(除去)する時間が長くなってしまい、コストアップの要因となってしまう。
さらに、ポリシランが多く発生すると、堆積膜形成工程にも悪影響を及ぼす可能性がある。例えば、堆積膜形成中にポリシランが反応容器600内の壁から剥離し、円筒状基体607に付着する可能性が増加し、堆積膜欠陥の原因となり、電子写真感光体の画像欠陥を引き起こす要因となってしまう。
本発明者らは、感光体の製造工程後の反応容器600内を詳しく観察したところ、ポリシランは、仕切板411の端部および接合部付近(図7(b)に示すD部分やE部分等)に多く溜まっていることを発見した。この部分に特にポリシランが多く発生する原因は、以下のように推測される。
ガス導入管606より導入される原料ガスは、図7(b)中の矢印のような流れを示す。そうすると、ガスはD部分およびE部分で仕切板411にぶつかり、ガスの流れが一時的にさえぎられ、その結果、D部分およびE部分にポリシランが発生しやすい状態となるのではないかと考えられる。
こうした問題を解決すべく、本発明者らはさらに検討を重ねた。その結果、図1,2,4に示すように、仕切板111に排気口113を設けて反応容器100の概略中央部に排気部を設置することで、軸方向のガスの流れを均一にすることが可能になり、軸方向の特性ムラが改善することを突き止めた。さらに、ポリシランが多量に発生していた図7(b)のE部分からガスが排気されるので、E部分付近のポリシランの発生は非常に少なくなることが判った。さらに、図1,2に示すように、仕切板111にガス導入孔112を設けてガス導入部としての機能を持たせた。特に、ガス導入孔112を放電電極101の近傍に配置することにより、ガスの流れが仕切板111とぶつかる、図7(b)のD部分のポリシランの発生量を抑えることを見出した。
以上の検討および考察に基づいて作製された本発明の堆積膜形成装置の一例が図1に示されている。この堆積膜形成装置は、複数の電子写真用感光体を同時に形成できる生産性の極めて高い装置であり、図1(a)はその概略縦断面図、図1(b)は図1(a)の切断線X−Xに沿う概略横断面図である。
この堆積膜形成装置の構成の概略についてまず説明する。この堆積膜形成装置は、真空気密可能な反応容器100と、円筒状の放電電極101とを有している。反応容器100は、排気部とガス導入部を備え、内部に複数の円筒状基体107を配置可能である。そして、放電電極101は、複数の円筒状基体107が配置される位置を取り囲むように設けられている。この放電電極101に高周波電力を印加し、反応容器100内にグロー放電を発生させることにより、反応容器100内に導入された原料ガスを分解して、複数の円筒状基体107上に堆積膜を形成することができる。円筒状基体107は、回転軸108を介して接地される。さらに、円筒状基体107の堆積膜形成面同士が互いに直接対向せず、接地された部分と対向することがないように、円筒状基体107が配置される位置同士の間に、放電電極101と電気的に接続された仕切板111が設けられている。仕切板11は、排気部とガス導入部を兼ねるものである。すなわち、排気部の一部を構成する排気口113が、仕切板111の、円筒状の放電電極101の中心位置の近傍に配置され、ガス導入部の一部を構成するガス導入孔112が、仕切板111の、放電電極101の近傍に位置している。排気部は円筒状の放電電極101の中心線上に位置している。
この構成において、放電電極101は反応炉壁を兼ねており、ベースプレート102および上蓋103とともに反応容器100を形成している。ベースプレート102および上蓋103は碍子104によって放電電極101と絶縁されている。
反応容器100には、仕切板111により仕切られたエリアに円筒状基体107がそれぞれ1本ずつ配置される。各円筒状基体107は、基体加熱用ヒーターを内蔵し接地された回転軸108によって各々保持される。回転軸108は不図示の駆動装置により回転可能になっている。
排気配管105は、排気装置(不図示)に接続され、反応容器100を排気することができるものであり、ベースプレート102において排気部と接続されている。仕切板111の排気口113がこの排気部の一部を構成している。また、仕切板111には、ガス導入部の一部を構成するガス導入孔112が設けられている。このガス導入部によって、原料ガスを反応容器100内に導入することができる。放電電極101には、マッチングボックス110を介して高周波電源109が接続され、反応容器100内に高周波電力を供給可能である。
図2は、本実施形態の仕切板111の一例を示す概略図である。図2に示すように、この仕切板111は、4つの板部分111aが、それらの中心に位置する円筒部分111bに接合された構成である。円筒部分111bは、排気口113が設けられて排気部の一部を構成しており、接続管114を介して排気配管105に接続されている。板部分111aは中空であり、ガス導入装置(不図示)に接続され、ガス導入孔112より反応容器100内にガスを導入するガス導入部として機能する。板部分111aは、放電電極101と電気的に接続され、高周波が印加される。仕切板111の材質は、導電性材料であれば何でもよい。このように、本実施形態の仕切板111は、円筒状基体107の側面同士を直接対向させない仕切板として機能するのみならず、排気口113を有する排気部としても機能し、ガス導入孔112を有する原料ガス導入部としても機能する。仕切板111の、放電電極101から遠い位置に排気口113が設けられ、放電電極101に近い位置にガス導入孔112が設けられている。
さらに、本実施形態において、仕切板111の排気部と、ベースプレート102に接続された排気配管105を接続する接続管114は絶縁体で構成されている。仕切板111は、実質的に円筒状基体107の周囲にグロー放電を生起させる放電電極として機能する。そのため、仕切板111と、ベースプレート102に設置された円筒状基体107は電気的に絶縁される。
本実施形態において、図1に示す放電電極101、仕切板111、ベースプレート102、および上蓋103は導電性材料からなる。導電性材料であれば何でも使用できるが、アルミニウム、鉄、ステンレス、金、銀、銅、ニッケル、クロム、チタンなどの金属材料は、加工が容易で耐久性が高く、再利用の利便性などの点でも好ましい。また、これらの材料中の2種以上からなる複合材料も好適に用いられる。
本実施形態において用いられる高周波電力はいかなる周波数帯であってもよいが、良好な電子写真特性が得られやすいのは1〜20MHzのRF帯、代表的には13.56MHzであった。これは、分解種として良好な膜質を得やすいSiH3が安定的に得られることや、プラズマの均一性や安定性と関係しているのであろうと推測される。また、高周波電源109は、この堆積膜形成装置に適した高周波電力を発生することができればいかなるものであっても好適に使用できる。高周波電源109の出力変動率には特に制限は無い。
本実施形態で使用されるマッチングボックス110は、高周波電源109と負荷の整合を取ることができるものであれば、いかなる構成のものであっても好適に使用できる。整合を取る方法としては、自動的に調整されるものが、製造時の煩雑さを避けるために好適であるが、手動で調整されるものであっても本発明の効果に全く影響は無い。また、マッチングボックス110は、整合が取れる範囲においてどこに配置してもなんら問題はない。ただし、マッチングボックス110から放電電極101までの配線のインダクタンスをできるだけ小さくするような配置にすると、広い負荷条件で整合を取ることが可能になるため好ましい。
本実施形態において用いられる円筒状基体107は、使用目的に応じた材質を有するものであればよい。円筒状基体107の材質としては、銅、アルミニウム、金、銀、白金、鉛、ニッケル、コバルト、鉄、クロム、モリブデン、チタン等の金属、およびこれらの合金、例えばステンレス等であると、電気伝導が良好であるため好適である。さらに、これらの材料中の2種以上からなる複合材料も、耐熱性が向上するために好ましい。
次に、図1に示す堆積膜形成装置を用いて電子写真感光体を製造する方法の概略を説明する。
まず、反応容器100内の仕切板111で区切られた各エリアに円筒状基体107をそれぞれ設置し、反応容器100内を排気した後、円筒状基体107を、内部の加熱用ヒーター(不図示)により所定の温度に加熱する。円筒状基体107は、電子写真感光体の製造時には、150℃〜350℃に維持することが好ましい。
次に、原料ガス(例えばシラン等)を原料ガス導入孔112より反応容器100内に導入し、高周波電源109からの高周波電力をマッチングボックス110により調整した上で放電電極101に印加する。このとき、仕切板111にも高周波電力が印加される。この高周波電力の印加によって、グロー放電が生じ、原料ガスが分解されて円筒状基体107の表面に堆積膜が形成される。円筒状基体107は、駆動機構(不図示)に接続された回転軸108により自転することによって、周方向に均一な堆積膜が形成される。所望の厚さの堆積膜が形成された後、高周波電力の印加を止めるとともに、ガス導入部から反応容器100内へのガスの流入を止め、堆積膜の形成を終える。
所望の堆積膜特性を得ることを目的として、円筒状基体107の表面上に、複数の層からなる堆積膜を形成する場合には、上記の操作を繰り返す。
本発明の堆積膜形成装置を用いることにより、例えば図3に示すようなa−Si系電子写真用光受容部材が形成可能である。
図3は本発明により作製される電子写真用感光体700の一般的な層構成を示した図である。この電子写真用感光体700は、円筒状基体107の上に、アモルファスシリコン系の下部阻止層702と、a−Si:(H,X)からなる光導電層703と、アモルファスシリコン系(またはアモルファス炭素系)の表面層704が設けられた構成である。
なお、詳述しないが、本実施形態において、図5に示す従来の装置と同様なガス導入バルブ619、メインバルブ615、真空計610を設け、前記した従来の方法と同様にこれらを用いてもよい。
以下、本発明の実施例とその効果について具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
本実施例では、図4に示す、プラズマCVD法を用いる本発明の堆積膜形成装置を用いた。なお、図1に示す堆積膜形成装置と同様な構成については同一の符号を付与し説明を省略する。
円筒状基体107として、外径30mm、長さ358mmの円筒状アルミニウムシリンダーを4本用意し、反応容器100内の回転軸108に取り付けた。そして、円筒状基体107を5rpmで回転させながら、表1に示す条件下で、円筒状基体107上に、下部阻止層702、光導電層703、および表面層704を積層して、電子写真感光体700を4本形成した。本実施例の高周波電源109は、周波数13.56MHzの高周波電力を放電電極101に印加するRF電源である。
なお、本実施例の仕切板211はガス導入部を兼ねておらず、ガス導入孔112が設けられていないので、別途、反応容器100内には、回転軸108および円筒状基体107の近傍にガス導入管206が設けられている。
(比較例1)
本比較例では、図6に示す、プラズマCVD法を用いる前記した堆積膜形成装置を用いた。
円筒状基体607として、外径30mm、長さ358mmの円筒状アルミニウムシリンダーを4本用意し、反応容器600内の回転軸508に取り付けた。そして、円筒状基体607を5rpmで回転させながら、表1に示す条件下で、円筒状基体607上に、下部阻止層702、光導電層703、および表面層704を積層して、電子写真感光体700を4本形成した。本比較例の高周波電源609は、周波数13.56MHzの高周波電力を放電電極601に印加するRF電源である。本比較例の堆積膜形成装置には仕切板が設けられていない。
(実施例2)
本実施例では、図1に示す、プラズマCVD法を用いる本発明の堆積膜形成装置を用いた。
円筒状基体107として、外径30mm、長さ358mmの円筒状アルミニウムシリンダーを4本用意し、反応容器100内の回転軸108に取り付けた。そして、円筒状基体107を5rpmで回転させながら、表1に示す条件下で、円筒状基体107上に、下部阻止層702、光導電層703、および表面層704を積層して、電子写真感光体700を4本形成した。本実施例の高周波電源109は、周波数13.56MHzの高周波電力を放電電極101に印加するRF電源である。
なお、実施例1とは異なり、本実施例の仕切板111はガス導入部を兼ねており、ガス導入孔112が設けられている。
(比較例2)
本比較例では、図7に示す、プラズマCVD法を用いる前記した堆積膜形成装置を用いた。
円筒状基体607として、外径30mm、長さ358mmの円筒状アルミニウムシリンダーを4本用意し、反応容器600内の回転軸508に取り付けた。そして、円筒状基体607を5rpmで回転させながら、表1に示す条件下で、円筒状基体607上に、下部阻止層702、光導電層703、および表面層704を積層して、電子写真感光体700を4本形成した。本比較例の高周波電源609は、周波数13.56MHzの高周波電力を放電電極601に印加するRF電源である。
なお、本比較例の仕切板411はガス導入部を兼ねておらずガス導入孔が設けられていないので、別途、反応容器600内には、回転軸508および円筒状基体607の近傍にガス導入管606が設けられている。また、本比較例の仕切板411は排気部を兼ねておらず、排気口が設けられていない。
(評価方法)
次に、本発明の各実施例および各比較例によって作製した電子写真感光体700の評価方法について説明する。
(帯電能)
製造された電子写真感光体700を電子写真装置にセットし、主帯電器に一定の電流(例えば700μA)を流し、現像器位置にセットした表面電位計の電位センサーにより暗部電位を測定した。したがって、暗部電位が大きいほど帯電能が良好である。ここでは、電子写真装置として、キヤノン株式会社製複写機GP55(商品名)を実験用に改造したものを用い、表面電位計として、米国のトレック・インコーポレーテッド社製Model344(商品名)を用いた。帯電能測定は電子写真感光体700の母線方向中央部で行った。
同時に製造した4本の電子写真感光体700についてそれぞれ前記した測定を行い、その平均値を用いて帯電能を評価した。帯電能の評価結果は、比較例1の結果を基準として、下記のようにランク付けした。
◎ … 20%以上の良化
○〜◎ … 15%以上20%未満の良化
○ … 10%以上15%未満の良化
△〜○ … 5%以上10%未満の良化
△ … 比較例と同等
× … 悪化
(帯電能の軸方向ムラ)
前記した帯電能の測定を、電子写真感光体700の母線方向に2cm刻みで位置を変えながら行い、帯電能の最大値と最小値の差を平均値で割ることによって、その電子写真感光体700の帯電能の軸方向ムラを算出した。
同時に製造した4本の電子写真感光体700についてそれぞれ前記した測定を行い、その平均値を用いて帯電能の軸方向ムラを評価した。軸方向ムラの評価結果は、比較例1の結果を基準(100%)として、それに対する割合(百分率)によって下記のようにランク付けした。比較例1(100%)に対する割合が小さいほど良好な結果である。なお、実施例2、比較例2では、帯電能の軸方向ムラの測定は行っていない。
◎ … 30%未満
○〜◎ … 30%以上50%未満
○ … 50%以上70%未満
△〜○ … 70%以上90%未満
△ … 比較例と同等(90%以上110%未満)
× … 悪化(110%以上)
(感度)
前記した電子写真装置において、現像器位置での暗部電位が一定値(本発明では450V)となるように主帯電器への電流を調整した後に、原稿として反射濃度0.1以下の所定の白紙を用いて感度を求めた。具体的には、現像器位置での明部電位が所定の値(本発明では50V)となるように、波長655nmの半導体レーザーによる像露光を調整した際の像露光量によって感度を評価した。したがって、像露光量が少ないほど感度が良好である。感度測定は電子写真感光体700の母線方向の中央部で行った。
なお、同時に製造した4本の電子写真感光体700についてそれぞれ前記した測定を行い、その平均値を用いて感度を評価した。感度の評価結果は、比較例1の結果を基準として、下記のようにランク付けした。
◎ … 40%以上の良化
○〜◎ … 30%以上40%未満の良化
○ … 20%以上30%未満の良化
△〜○ … 10%以上20%未満の良化
△ … 比較例と同等
× … 悪化
(画像欠陥)
製造した電子写真感光体700を、帯電能の測定に用いたのと同じ複写機(キヤノン株式会社製複写機GP55(商品名)を実験用に改造したもの)に設置した。そして、全面黒チャートを原稿台に置いてコピーしたときに得られたコピー画像の、同一面積内にある直径0.2mm以上の白点(白ぽち)の数を数えた。
なお、同時に製造した4本の電子写真感光体700についてそれぞれ前記した計測を行い、その平均値を用いて画像欠陥数を評価した。画像欠陥の評価結果は、比較例2の結果を基準として白点の減少率で表し、下記のようにランク付けした。なお、比較例1では、画像欠陥の測定は行っていない。
◎ … 50%以上の減少
○〜◎ … 40%以上50%未満の減少
○ … 30%以上40%未満の減少
△〜○ … 20%以上30%未満の減少
△ … 比較例と同等(20%未満の減少)
× … 増加
(各実施例と各比較例の評価結果の比較)
各実施例と各比較例の評価結果を表2に示す。
表2から分かるように、帯電能と感度に関しては、仕切板411を有する比較例2が比較例1よりも良好な結果が得られたが、仕切板111,211に排気口112が設けられている実施例1,2によると、比較例2よりもさらに改善されている。また、帯電能の軸方向ムラに関しては、実施例1では比較例1よりも改善が見られることが判明した。さらに、画像欠陥(白ぽち)に関しては、実施例1では比較例2よりも良好な結果が得られたが、実施例2では実施例1よりもさらに良好な結果が得られた。
これらの結果を総合すると、実施例2によって最も良好な結果が得られ、実施例1では、画像欠陥の数が実施例2よりも多いものの、概ね良好な結果が得られた。そして、比較例2は、帯電能、感度、画像欠陥の全てにおいて実施例1よりも劣っており、比較例1は、比較例よりもさらに全体的に劣った結果が得られた。
(ドライエッチング)
前記した実施例1,2および比較例2の堆積膜形成装置において、電子写真感光体700を作製した後に反応容器100,600内のポリシランを除去するためにドライエッチングを行った。
ドライエッチングの手順は以下の通りである。図示しないが、電子写真感光体700を製造した後に、ドライエッチング用のダミーシリンダー(アノード電極)を円筒状基体107,607の代わりに設置し、反応容器100,600内を排気する。反応容器100,600内を十分に排気してから、エッチングガスを反応容器100,600内に導入して所定の圧力に調整した後に、放電電極101,601に高周波電力を印加してプラズマを生成する。それから、表3に示す条件で、それぞれの反応容器100,600のドライエッチングを行った。
ドライエッチング後1時間経過する毎に、反応容器100,600内のポリシラン量を測定した。反応容器100,600内のポリシラン量によって、ポリシランの処理速度を以下の通り評価した。その結果を表4に示す。
◎ … ポリシランは残っていない。
○ … わずかにポリシランは残っている。
△ … 少しポリシランは残っている。
× … かなりポリシランは残っている。
表4によると、実施例2、実施例1、比較例2の順に、反応容器100,600内のポリシランの処理が短時間で終了することが判る。従って、実施例1,2によると、比較例2に比べてポリシランの発生量が抑えられ、ポリシランの処理にかかるコストを抑えることができることが判る。
(a)は本発明の堆積膜形成装置の一例を示す模式的正面断面図、(b)はそのX−X線断面図である。
図1に示す堆積膜形成装置の仕切板の構造を示す概略斜視図である。
電子写真感光体の一例の要部拡大断面図である。
(a)は本発明の堆積膜形成装置の他の例を示す模式的正面断面図、(b)はそのX−X線断面図である。
従来の堆積膜形成装置の一例を示す模式的正面断面図である。
(a)は本発明の比較例1の堆積膜形成装置を示す模式的正面断面図、(b)はそのX−X線断面図である。
(a)は本発明の比較例2の堆積膜形成装置を示す模式的正面断面図、(b)はそのX−X線断面図である。
符号の説明
100,600 反応容器
101,601 放電電極
105,405,505 排気配管(排気部)
206,606 ガス導入管(ガス導入部)
107,607 円筒状基体
108,508 回転軸
109,609 高周波電源
111,211,411 仕切板
112 ガス導入孔(ガス導入部)
113 排気口(排気部)
700 電子写真感光体