以下、図面を参照して、本発明による実施形態の型および型の製造方法を説明するが、本発明は例示する実施形態に限定されない。なお、本発明による型の製造方法は、例えばモスアイ構造を有する反射防止膜を形成するために好適に用いられるロール状の型を製造する方法である。
以下、図1(a)〜(d)を参照して、本発明による実施形態の型の製造方法を説明する。図1(a)〜(d)は、本発明による実施形態の型の製造方法を説明するための模式的な断面図である。
まず、図1(a)に示すように、円筒状の支持体12を用意する。支持体12としては、円筒状の金属管を用いることができる。支持体12としては、メタルスリーブを用いることもできる。なお、以下では、支持体12として、円筒状の金属管を用いる場合を例に説明する。
本明細書において、円筒状の金属管は、厚さが1.0mm以上である金属製の円筒をいうものとする。円筒状の金属管としては、例えば、アルミニウム製の管やステンレス鋼(例えば、JIS規格SUS304)製の管を用いることができる。また、メタルスリーブは、厚さが0.02mm以上1.0mm以下である金属製の円筒をいうものとする。メタルスリーブとしては、例えば、ニッケル、ステンレス鋼、チタンのいずれか、またはこれらのうちの少なくとも1つを含む合金で形成されたメタルスリーブを用いることができる。
ロール状の型を用いて、ロール・ツー・ロール方式により凹凸構造を転写するときは、ある程度の剛性が必要である。金属管は比較的剛性が高いので、支持体12として金属管を用いて作製された型は、剛性が比較的高くそのままロール・ツー・ロール方式に用いることができるという利点がある。一方、支持体12として可撓性を有するメタルスリーブを用いて作製された型は、剛性が比較的低いので、後述するように、例えば、メタルスリーブの内部にコア材を挿入した状態でロール・ツー・ロール方式に用いることができる。なお、本発明において、メタルスリーブが可撓性を有するとは、メタルスリーブの外周面上の一部に力が加えられたときに容易に湾曲させることができる程度にメタルスリーブが柔らかいことを意味する。なお、剛性の観点から、金属管の厚さは6mm以上であることが好ましく、10mm以上であることがさらに好ましい。
次に、図1(b)に示すように、支持体12の外周面上に絶縁層16を形成する。絶縁層16は、例えば有機絶縁層である。有機絶縁層の材料としては、例えば樹脂を用いることができる。例えば、支持体12の外周面上に、硬化性樹脂を付与することによって硬化性樹脂層を形成し、その後、硬化性樹脂を硬化させることにより、支持体12の外周面上に有機絶縁層を形成する。
硬化性樹脂層は、例えば、電着法により形成することができる。電着法としては、例えば、公知の電着塗装方法を用いることができる。例えば、まず、支持体12を洗浄する。次に、支持体12を、電着樹脂を含む電着液が貯留された電着槽に浸漬する。電着槽には、電極が設置されている。カチオン電着により硬化性樹脂層を形成するときは、支持体12を陰極とし、電着槽内に設置された電極を陽極として、支持体12と陽極との間に電流を流し、支持体12の外周面上に電着樹脂を析出させることによって、硬化性樹脂層を形成する。アニオン電着により硬化性樹脂層を形成するときは、支持体12を陽極とし、電着槽内に設置された電極を陰極として電流を流すことにより硬化性樹脂層を形成する。その後、洗浄工程、焼付工程等を行うことにより、有機絶縁層が形成される。電着樹脂としては、例えば、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、またはこれらの混合物を用いることができる。
硬化性樹脂層を形成する方法としては、電着法以外に、例えば、吹き付け塗装を用いることができる。例えば、ウレタン系の樹脂やポリアミック酸を用いて、スプレーコート法や静電塗装法により、支持体12の外周面上に硬化性樹脂層を形成する。ウレタン系の樹脂としては、例えば、日本ペイント株式会社製のウレトップを用いることができる。
上記以外にも、ディップコート法やロールコート法を用いてもよい。例えば、硬化性樹脂として、熱硬化性のポリアミック酸を用いたときは、ポリアミック酸をディップコート法により塗布して硬化性樹脂層を形成した後、ポリアミック酸を300℃程度に加熱することにより、有機絶縁層を形成してもよい。ポリアミック酸は、例えば日立化成工業株式会社から入手できる。
支持体12の外周面上に絶縁層16を設けることにより、支持体12と、絶縁層16の上に形成されるアルミニウム膜(図1(c)に示すアルミニウム膜18)との間で絶縁される。
支持体12とアルミニウム膜18との間の絶縁が不十分であると、後述する、陽極酸化工程とエッチング工程とを繰り返すモスアイ用型の製造工程において、エッチングを行ったときに、支持体12とアルミニウム膜18との間に局所電池反応が生じることにより、アルミニウム膜18に直径1μm程度の窪みが形成されることがあった。このような比較的大きい窪みが形成されたモスアイ用型を用いると、所望のモスアイ構造が形成された反射防止膜を作製できない。
また、支持体12とアルミニウム膜18との間の絶縁が不十分であると、後述する陽極酸化工程において、支持体12にも電流が流れることがある。支持体12に電流が流れると、支持体12およびアルミニウム膜18を含む基材全体として過剰な電流が流れることとなるので、安全性の観点から好ましくない。
実施例を示して後述するように、絶縁層16(例えば、電着樹脂を硬化させた層、ウレタン系の樹脂を硬化させた層、ポリアミック酸を硬化させた層)を形成した後、アルミニウムの堆積および陽極酸化を行うことにより作製した型は、アルミニウム膜18と支持体12との間を十分に絶縁することができる。絶縁層16を設けることにより、上記のようなエッチング工程における局所電池反応の発生、および陽極酸化工程における過剰な電流を抑制できる。
実施例を示して後述するように、電着樹脂を硬化させた層と、吹き付け塗装により付与したウレタン系樹脂を硬化させた層と、ディップコート法により付与したポリアミック酸を硬化させた層とを比較すると、電着樹脂を硬化させた層>ウレタン系樹脂を硬化させた層>ポリアミック酸を硬化させた層の順に、後に形成されるアルミニウム膜18の密着性が高かった。
絶縁層16は、無機絶縁層であってもよい。無機絶縁層の材料としては、例えばSiO2またはTa2O5を用いることができる。無機絶縁層は、段差被覆性が比較的低いので、支持体の表面に凹凸が存在すると、支持体とアルミニウム膜とが導通することがある。例えば、参考例を示して後述するように、支持体の表面に異物(例えば、支持体表面の加工に用いられた砥粒の残留物)が存在すると、異物を介して支持体とアルミニウム膜とが導通することがある。また、支持体の表面の鏡面性が低く凹凸形状が存在すると、導通しやすい。なお、無機絶縁層として、SiO2層およびTa2O5層を設けたところ、無機絶縁層に対する、アルミニウム膜18の密着性は十分得られた。
実施例および参考例を示して後述するように、有機絶縁層は、無機絶縁層に比べ、絶縁層上に形成されるアルミニウム膜18の表面の鏡面性を高くすることができる。参考例を示して後述するように、支持体の外周面上に無機絶縁層を形成したところ、無機絶縁層の表面に、支持体の表面の凹凸形状に対応する凹凸形状が形成された。その結果、無機絶縁層の表面にアルミニウム膜を形成すると、アルミニウム膜の表面の鏡面性が低くなった。一方、実施例を示して後述するように、有機絶縁層上に形成したアルミニウム膜18の表面の鏡面性は、支持体12の表面の凹凸形状に拘らず高かった。なお、無機絶縁層を設ける場合でも、支持体12の表面の鏡面性を高くしておくことにより、無機絶縁層上に形成されるアルミニウム膜18の表面の鏡面性を高くすることができる。
後述する実施例において、電着樹脂を硬化させた層、吹き付け塗装により付与したウレタン系樹脂を硬化させた層、およびディップコート法により付与したポリアミック酸を硬化させた層について、絶縁層16上に形成されるアルミニウム膜18の表面の鏡面性を比較すると、ウレタン系樹脂を硬化させた層>電着樹脂を硬化させた層>ポリアミック酸を硬化させた層の順にアルミニウム膜18の表面の鏡面性が高かった。
絶縁層16上に形成されるアルミニウム膜18の表面の鏡面性が高いと、後に形成されるポーラスアルミナ層(図1(d)に示すポーラスアルミナ層14)の表面の平坦性が高くなる。ポーラスアルミナ層14の表面の平坦性が高いモスアイ用型は、例えば、クリアタイプの反射防止構造を形成するためのモスアイ用型の作製に好適に用いられる。なお、クリアタイプの反射防止構造とは、防眩作用を有しない反射防止構造をいう。
次に、図1(c)に示すように、絶縁層16の上にアルミニウムを堆積することにより、アルミニウム膜18を形成する。アルミニウム膜18は、例えば、図1(c)に示すように、絶縁層16の表面全体に形成する。アルミニウム膜18は、例えば、外周面上に絶縁層16が形成された支持体12を回転させながら、アルミニウムを蒸着させることにより形成することができる。なお、以下では、図1(c)に示すように、支持体12と、支持体12の外周面上に形成された絶縁層16と、絶縁層16の上に形成されたアルミニウム膜18とを有する基材を型基材10と称することにする。
続いて、図1(d)に示すように、アルミニウム膜18の表面を陽極酸化することによって、表面に複数の微細な凹部(細孔)を有するポーラスアルミナ層14を形成する。こうして、表面にポーラスアルミナ層14を有する型100が得られる。
型100のポーラスアルミナ層14は、支持体12の外周面上に形成された絶縁層16の上に形成されたアルミニウム膜18の表面を陽極酸化して形成されるので、ポーラスアルミナ層14の表面には継ぎ目が無い。従って、型100の表面には継ぎ目が無いので、ポーラスアルミナ層14の複数の細孔が反転された形状を、継ぎ目無く転写することができる。
なお、高分子フィルムを円筒状の支持体の外周面上に、高分子フィルムの一端と他端とに隙間が空くように固定した後、隙間に樹脂を付与して樹脂層を形成することにより隙間を埋め、次に、高分子フィルムおよび樹脂層の上にアルミニウムを堆積することによりアルミニウム膜を形成した後、アルミニウム膜の表面を陽極酸化することによって、ポーラスアルミナ層を形成することによっても、継ぎ目の無いポーラスアルミナ層が形成されたロール状の型を得ることができる。しかしながら、このロール状の型は、樹脂層の近傍において応力集中が生じることにより、高分子フィルムが剥離する可能性がある。また、樹脂層は、転写工程において、転写圧力により剥がれやすく、剥がれた樹脂が被転写物に付着し、被転写物の表面に傷を発生させる可能性がある。本発明による実施形態の製造方法により作製されたロール状の型100には、支持体12の外周面上に絶縁層16が形成されるので、上記のような隙間や樹脂層が無く、これらの問題が生じない。
本発明による実施形態の型の製造方法は、後に詳述するように、ロール状のモスアイ用型の製造に用いることができる。図1(d)を参照して説明したようにアルミニウム膜18の陽極酸化を行った後、エッチングおよび陽極酸化を繰り返すことにより、モスアイ用型を作製できる。
このモスアイ用型の製造方法は、円筒状のアルミニウム管を用いて陽極酸化およびエッチングする場合に比べ、以下のような利点がある。アルミニウム管を用いて陽極酸化およびエッチングを行うと、エッチング工程において、アルミニウム管の内部に含まれる不純物元素とその周辺のアルミニウムとの間に局所電池反応が生じることにより、直径1μm程度の窪みが形成されることがあった。本発明による実施形態の型の製造方法において、アルミニウム膜18は、絶縁層16の上にアルミニウムを堆積することにより形成される。従って、純度の高いアルミニウム膜18を形成することができる。このとき、上記のエッチング工程においては、局所電池反応の発生を抑制できるので、上記の窪みの発生を抑制できる。
また、アルミニウム管を用いて陽極酸化およびエッチングする場合にも、純度を高くすると、局所電池反応の発生を抑制できるが、アルミニウム管の剛性が低下してしまうことがある。剛性を高くするには不純物を添加すればよいが、不純物が存在すると、上記のようにエッチング工程において、不純物と、不純物の周辺のアルミニウムとの間で発生する局所電池反応に起因する窪みが発生することがある。本発明による実施形態の型の製造方法によれば、支持体12として不純物が含まれているアルミニウム管を用いても、支持体12とアルミニウム膜18とは絶縁層16により絶縁されており、アルミニウム膜18において、アルミニウム管の内部の不純物に起因する局所電池反応は発生しないので、支持体12を所望の純度とし、所望の剛性とすることができる。
上記では支持体12としてアルミニウムやステンレス鋼製の円筒状の管を用いる場合を例に説明したが、例えば、メタルスリーブを用いるときにも、電着法により有機絶縁層を形成した後、アルミニウム膜の成膜工程および陽極酸化工程を行うことにより型を製造してもよい。また、メタルスリーブを用いるときにも、メタルスリーブの外周面上に、硬化性樹脂(例えばポリアミック酸やウレタン系の樹脂)を、吹きつけ塗装やディップコート法を用いて付与することにより硬化性樹脂層を形成し、その後、硬化性樹脂を硬化させることにより、絶縁層16を形成してもよい。また、メタルスリーブを用いるときも、メタルスリーブの外周面上に絶縁層16として無機絶縁層を形成してもよい。
支持体12は、円筒状であるので、例えば、円柱状の支持体に比べ軽い。従って、支持体12を用いて作製された型100や型基材10は、取り扱いが容易であるという利点がある。例えば、上記の陽極酸化や、後述するモスアイ用型の製造工程における陽極酸化工程およびエッチング工程を繰り返す作業を比較的簡単に行うことができる。特に、大面積の反射防止膜の製造に用いるためのロール状のモスアイ用型を製造するときは、型または型基材が大きくなるので有利である。
また、図1を参照して説明したように電着法により有機絶縁層を形成するときは、電着液中に浸漬する工程のほか、前処理としての洗浄工程や、電着工程後の洗浄工程、焼付工程を必要に応じて行うところ、支持体12は軽いので、これらの工程も比較的簡単に行うことができる。
また、円柱状の支持体を用いて作製された型を用いて転写を行うと、型に熱が溜まってしまうことがある。円筒状の支持体を用いて作製された型は、転写工程における熱の蓄積を抑制できるという利点もある。
上記のように、支持体12としては、円筒状の金属管やメタルスリーブを用いることができる。メタルスリーブは、円筒状の金属管に比べ軽いという利点がある。
一方、円筒状の金属管は、例えば可撓性を有するメタルスリーブに比べ剛性が高い。従って、支持体12として、金属管を用いて作製された型は、上記のように、そのままロール・ツー・ロール方式に用いることができるという利点がある。ここで、支持体12として可撓性を有するメタルスリーブを用いて作製された型は、例えば、メタルスリーブの内部にコア材を挿入した状態でロール・ツー・ロール方式に用いることができる。金属管を用いて作製された型は、可撓性を有するメタルスリーブを用いて作製された型のように、内部にコア材を挿入する工程が不要であるという利点がある。
絶縁層16として有機絶縁層を設けるときは、有機絶縁層の厚さは、絶縁性の観点からは、例えば7μm以上であることが好ましい。本発明者が、電着工程において、印加電圧を変化させることにより、有機絶縁層の厚さが異なる複数の型基材を作製し、絶縁性を調べたところ、厚さ7μm以上の有機絶縁層を設けた型基材において、特に、十分な絶縁性を得ることができた。
絶縁層16として有機絶縁層を設けるときは、有機絶縁層とアルミニウム膜18との間には、例えば、無機酸化物の無機下地層を形成することが好ましい。無機下地層を設けることにより、有機絶縁層とアルミニウム膜18との密着性を向上させることができる。無機酸化物の層としては、例えば、酸化シリコン層または酸化チタン層を形成することが好ましい。無機下地層としては、無機窒化物の層を形成してもよい。無機窒化物の層としては、例えば、窒化シリコン層が好ましい。
無機下地層の上には、アルミニウムを含有する緩衝層を形成することが好ましい。緩衝層は、無機下地層とアルミニウム膜18との密着性を向上させるように作用する。また、緩衝層は、無機下地層を酸から保護する。
緩衝層は、アルミニウムと、酸素または窒素とを含むことが好ましい。酸素または窒素の含有率は一定であってもよいが、特に、アルミニウムの含有率が無機下地層側よりもアルミニウム膜18側において高いプロファイルを有することが好ましい。熱膨張係数などの物性値の整合に優れるからである。
緩衝層内のアルミニウムの含有率の厚さ方向におけるプロファイルは、段階的に変化してもよいし、連続的に変化してもよい。例えば、緩衝層をアルミニウムと酸素とで形成する場合、アルミニウム膜18に近い層ほど酸素含有率が漸次低下するように複数の酸化アルミニウム層を形成し、最上層の上にアルミニウム膜18を形成する。言い換えると、アルミニウムの含有率が、無機下地層側よりもアルミニウム膜18側で高いプロファイルを有するように、複数の酸化アルミニウム層を形成する。
アルミニウム膜18に近い層ほど酸素含有率が漸次低下するように複数の酸化アルミニウム層を形成することにより、アルミニウム膜18に近い層ほど熱膨張係数を高くすることができ、アルミニウム膜18の熱膨張係数に近付けることができる。その結果、比較的低温の陽極酸化と比較的高温のエッチングを繰り返すことで生じる熱応力に強く、密着性の高いアルミニウム膜18を形成することができる。
例えば、緩衝層を2つの酸化アルミニウム層で構成する場合、無機下地層(例えばSiO2層)側の酸化アルミニウム層の酸素含有率は30at%以上60at%以下、アルミニウム膜18側の酸化アルミニウム層の酸素含有率は5at%以上30at%以下で、かつ、2つの酸化アルミニウム層の酸素含有率が上記の関係を満足する構成としてもよい。
緩衝層を3つの酸化アルミニウム層で構成する場合、例えば、無機下地層側の酸化アルミニウム層の酸素含有率は35at%以上60at%以下、中間の酸化アルミニウム層の酸素含有率は20at%以上35at%以下、アルミニウム膜18側の酸化アルミニウム層の酸素含有率は5at%以上20at%以下で、かつ、3つの酸化アルミニウム層の酸素含有率が上記の関係を満足する構成としてもよい。もちろん、緩衝層を4つ以上の酸化アルミニウム層で構成してもよい。なお、酸素含有率は、例えばX線光電子分光法(ESCA)によって求めることができる。
緩衝層は、例えば、以下の(1)−(3)の3つの方法を用いて形成することができる。
(1)ArガスとO2ガスとの混合ガスと、酸素元素を含むAlターゲットとを用いて、反応性スパッタリング法によって成膜する。このとき、ターゲット中の酸素含有率は1at%以上40at%以下の範囲内にあることが好ましい。ターゲット中の酸素含有率が1at%未満であるとターゲットに酸素を含有させた効果が無く、40at%を超えるとO2ガスを用いる必要が無い。
(2)スパッタガスとして純Arガスと、酸素元素を含むAlターゲットとを用いて反応性スパッタリング法によって成膜する。このとき、ターゲット中の酸素含有率は5at%以上60at%以下の範囲内にあることが好ましい。ターゲット中の酸素含有率が5at%未満であると成膜する酸化アルミニウム層に十分な量の酸素を含有させることができないことがあり、60at%を超えると成膜する酸化アルミニウム層に含まれる酸素元素の含有率が高くなり過ぎることがある。無機下地層側の酸化アルミニウム層に含まれる酸素元素の含有率が60at%を超えると、無機下地層(SiO2)と酸化アルミニウム層との密着性が低下することがある。
(3)純Alターゲットを用いて反応性スパッタリング法によって成膜する。このとき、スパッタリングに用いる混合ガスのArガスとO2ガスとの流量比を2:0超2:1以下程度とする。ArガスとO2ガスとの流量比が2:1を超えると、成膜する酸化アルミニウム層に含まれる酸素元素の含有率が高くなり過ぎることがある。
なお、単一の酸化アルミニウム層から構成される緩衝層を用いてもよい。また、アルミニウムと窒素とを含む緩衝層も上記と同様に形成することができる。また、緩衝層の厚さは、生産性の観点から、1μm以下であることが好ましい。
上記のように、無機下地層を無機酸化物または無機窒化物で形成するときは、無機酸化物または無機窒化物に不純物を添加することによって、無機下地層の熱膨張係数を、隣接する有機絶縁層や緩衝層の熱膨張係数と整合させることが好ましい。例えば、無機下地層として酸化シリコン層を形成する場合には、ゲルマニウム(Ge)、リン(P)またはボロン(B)を添加することによって、熱膨張係数を増大させることができる。酸化シリコンに、例えば5質量%のGeを添加すると、熱膨張係数は約2.8×10-6/℃となり、Geを添加しない場合の約3倍に増大する。
無機下地層は、上述したようにスパッタリング法で作製することができる。例えば、DCリアクティブスパッタ法やRFスパッタ法で作製することができる。
無機下地層の厚さは、500nm以下であることが好ましく、300nm以下であることがさらに好ましい。無機下地層が厚いと、無機下地層の形成時間が不必要に長くなる。また、無機下地層の厚さが500nm超であると、無機下地層とアルミニウム膜18との間の熱膨張係数の違いに起因する熱応力(剪断応力)によって、アルミニウム膜18の密着性が低下することがある。
アルミニウム膜18の密着性の観点から、無機下地層の厚さは50nm以上であることが好ましい。スパッタリング法で成膜するとき、膜内にピンホールが一定量以上発生すると密着性が低下すると考えられるので、ピンホールは少ないことが好ましい。ピンホールの発生を抑制するという観点からは、無機下地層の厚さは70nm以上であることが好ましい。例えば、RFスパッタ法により15nm、30nm、50nm、70nm、100nm、150nm、および300nmの7通りのSiO2層を形成したところ、50nm以上で密着性は問題なく、厚さ70nm以上でピンホールの発生を抑制することができた。
また、絶縁層16として有機絶縁層を設けるときは、有機絶縁層の表面のプラズマアッシングを行うことが好ましい。プラズマアッシングを行うことにより、有機絶縁層と、有機絶縁層の上に形成されるアルミニウム膜18との密着性を向上させることができる。
以下、アルミニウム膜の成膜条件が異なる複数の型基材(図1(c)に示す型基材10)を作製し、成膜条件の違いによるアルミニウム膜の密着性への影響を調べた実験結果を示す。
以下のように、6通りの成膜条件で型基材を作製した。なお、以下では、6通りの成膜条件で形成した型基材を、型基材30A、30B、30C、30D、30E、および30Fと称することとする。
まず、ステンレス鋼製の基板(5cm×10cm)を用意した。
次に、基板の表面に電着法により、厚さ15μmの有機絶縁層を形成した。電着樹脂として、アクリルメラミン樹脂を用いた。
次に、以下のように、成膜条件を変えてアルミニウム膜を形成した。
型基材30Aは、有機絶縁層(厚さ15μmのアクリルメラミン層)の表面に直接、厚さ1μmのアルミニウム膜を形成した。
型基材30Bは、有機絶縁層の表面に対しプラズマアッシングを行った後、厚さ100nmの無機下地層(SiO2層)、緩衝層(AlO層(厚さ150nm)、およびアルミニウム膜に近づくほど酸素含有率が漸次低下するように形成された酸化アルミニウム層(厚さ150nm))、1μmのアルミニウム膜をこの順に、スパッタリング法により形成した。
型基材30Cは、プラズマアッシングを行った後、厚さ100nmのSiO2層、緩衝層(AlO層(厚さ200nm)、およびアルミニウム膜に近づくほど酸素含有率が漸次低下するように形成された酸化アルミニウム層(厚さ200nm))、1μmのアルミニウム膜をこの順に形成した。
型基材30Dおよび30Eは、プラズマアッシングを行った後、型基材30Cと同じ厚さのSiO2層、型基材30Cの緩衝層と同じ構成を有し厚さが同じである緩衝層を形成した。型基材30Cと、型基材30Dおよび30Eとは、アルミニウム膜のスパッタリングのパワーが異なる。型基材30Dおよび30Eは、型基材30Bおよび30Cに比べ、アルミニウム膜を形成する際のスパッタリングのパワーを低くした。また、型基材30Eは、AlO層を形成する際のスパッタリングのパワーを型基材30B、30Cおよび30Dに比べ高くした。
型基材30Fは、プラズマアッシングを行った後、厚さ100nmのSiO2層、緩衝層(AlO層(厚さ400nm)、およびアルミニウム膜に近づくほど酸素含有率が漸次低下するように形成された酸化アルミニウム層(厚さ400nm))、1μmのアルミニウム膜をこの順に形成した。アルミニウム膜およびAlO層のスパッタリングのパワーは型基材30Eと同じとした。
型基材30A〜30Fのアルミニウムの密着性を、剥離試験により以下のように評価した。
有機絶縁層上に形成されたアルミニウム膜に、カッターナイフを用いて1升が1cm×1cmの正方形の格子を5×5個形成した。なお、切れ目は有機絶縁層の表面に到達させた。切れ目を入れた領域のアルミニウム膜に粘着テープ(パーマセル株式会社製のカプトンテープ)を密着させた後、粘着テープを剥がし、粘着テープとともに剥がれた升目の数でアルミニウム膜の密着性を評価した。剥離升目数が5枚以下であれば、密着性が十分であると判断した。結果を表1に示す。
また、リン酸水溶液に100分間浸漬し、アルミニウム膜の密着性を調べた。リン酸水溶液は後述するモスアイ用型の製造工程のエッチング液として用いられる。従って、型基材をリン酸水溶液に浸漬したときに、アルミニウム膜の剥離が発生すると、型基材を用いてモスアイ用型の製造工程を行う際にアルミニウム膜が剥離し、所望のモスアイ用型を作製できない可能性がある。リン酸水溶液に浸漬したときのアルミニウム膜の密着性については、水溶液の白濁の有無を目視で調べた。表1の「リン酸水溶液浸漬後の水溶液の白濁」については、◎:白濁ほぼ無し、○:少し白濁、△:白濁、を示す。
さらに、型基材30A〜30Fを用いて、陽極酸化およびエッチングを繰り返すことにより、モスアイ用型を作製した。モスアイ用型は、陽極酸化工程とエッチング工程とを交互に5回(陽極酸化を5回、エッチングを4回)行うことにより作製した。陽極酸化工程は、シュウ酸水溶液(濃度0.3wt%、液温18℃)を用いて、80V印加して37秒間行い、エッチング工程は、燐酸水溶液(濃度1mol/l、液温30℃)を用いて29分間行った。得られたモスアイ用型について、上記と同様の剥離試験を行った。結果を表1に示す。
表1に示すように、型基材30A〜30Fの剥離升目数は、いずれも0枚であり、アルミニウム膜の密着性が高かった。
リン酸水溶液に型基材を100分間浸漬したところ、型基材30B、30C、および30Dについて、リン酸水溶液の液面が白濁した。リン酸水溶液が白濁したのは、アルミニウム膜の一部がリン酸水溶液中に溶解し、水溶液中においてアルミニウム膜の小片で外光が散乱されることにより、白濁して見えたと考えられる。型基材30Eを浸漬したリン酸水溶液には、少しだけ白濁が視認され、型基材30Fを浸漬したリン酸水溶液には、白濁がほとんど見られなかった。なお、型基材30Aについては、アルミニウム膜が全て剥離した。
型基材30Aおよび30Bを用いて作製されたモスアイ用型は、剥離試験を行ったところ、アルミニウム膜およびポーラスアルミナ層が全て剥離した。型基材30C、30D、30Eおよび30Fを用いて作製されたモスアイ用型については、いずれも剥離升目数が5枚以下であり、密着性が高かった。型基材30Eおよび30Fを用いて作製されたモスアイ用型の剥離升目数は特に少なく、型基材30Fを用いて作製されたモスアイ用型の剥離升目数が最も少なく0枚であった。
上記のように、有機絶縁層の表面に直接アルミニウム膜を堆積した型基材30Aに比べ、有機絶縁層の表面にプラズマアッシングを施した後、無機下地層(SiO2層)および緩衝層を設けた型基材30B、30C、30D、30Eおよび30Fのアルミニウム膜の密着性を高くすることができた。従って、プラズマアッシングを施した後、無機下地層および緩衝層を設けることにより、アルミニウム膜の密着性を向上することができることが確かめられた。
型基材30Dと30Eとを比較すると、緩衝層のAlO層を形成する際のスパッタリングのパワーを高くした型基材30Eの密着性が高かった。
密着性の違いは、緩衝層のスパッタリングのパワーの違いによる緩衝層の膜質の違いに起因すると考えられる。スパッタ法により緩衝層を形成すると、緩衝層の内部に空隙が形成されることがある。型基材をリン酸水溶液に浸漬すると、アルミニウム膜に存在する空隙から侵入したリン酸水溶液に緩衝層が接触することにより、緩衝層の一部が溶解する。さらに、緩衝層の内部に空隙が存在すると、緩衝層の空隙にエッチング液が侵入し、緩衝層が溶解しやすくなる。その結果、緩衝層の空隙が比較的多いと、緩衝層上のアルミニウム膜の一部が剥離しやすくなると考えられる。
断面を見るために、ステンレス鋼製の基板および有機絶縁層に代えて、高分子フィルム上に、型基材30Dと同じ条件で100nmのSiO2層、緩衝層(200nmのAlO層、および厚さ方向に酸素含有率が変化する厚さ200nmの酸化アルミニウム層)、およびアルミニウム膜をこの順に形成した型基材をリン酸水溶液に100分間浸漬し、リン酸水溶液に対する耐性を調べた。図2に、この型基材の、リン酸水溶液に浸漬後の断面の走査型電子顕微鏡(SEM)像を示す。
図2に示すように、表面から数百nm程度内側の部分(すなわち、緩衝層)に欠落が発生している。アルミニウム膜に空隙が存在し、アルミニウム膜の空隙から侵入したリン酸水溶液により緩衝層の一部が溶解したと考えられる。また、緩衝層内の空隙が存在する部分に侵入したリン酸水溶液によって緩衝層が溶解したと考えられる。
また、図2に示すように、表面に、直径が数百nm程度のアルミニウム膜の欠落箇所が複数存在する。欠落箇所は、アルミニウム膜の溶解によるもの以外に、緩衝層が溶解した部分で、緩衝層上に形成されたアルミニウム膜が剥離しやすくなったことによるものと考えられる。
型基材30Dのアルミニウム膜の密着性が比較的低かったのは、型基材30Dにおいて、図2と同様の緩衝層の溶解が発生しやすかったことに起因すると考えられる。緩衝層を形成する際のスパッタリングのパワーが低かった型基材30Dでは、緩衝層に多くの空隙が存在し、緩衝層がリン酸水溶液に溶解しやすかったと考えられる。一方、型基材30Eにおいては、比較的緻密な膜を形成することができたので、緩衝層が溶解しにくく、アルミニウム膜の密着性が高かったと考えられる。
なお、緩衝層とポーラスアルミナ層とを比較すると、ポーラスアルミナ層のほうがリン酸水溶液に溶解しにくい。例えば、シュウ酸を用いて陽極酸化を行うことにより作製されたポーラスアルミナ層には、アルミニウムとシュウ酸とを含む錯体が形成されており(例えば、佐藤敏彦、神長京子、新・アルマイト理論、(1997年)、カロス出版)、比較的緻密な膜である。従って、ポーラスアルミナ層は、例えばリン酸水溶液に浸漬したときに、比較的溶解しにくい。型基材30Dおよび30Eは、アルミニウム膜のスパッタリングのパワーおよびアルミニウム膜の厚さは同じであるが、型基材30Eの陽極酸化およびエッチング後の剥離升目数が型基材30Dより少なかったのは、型基材30Eにおいて、リン酸水溶液に溶解しやすい緩衝層の膜質を向上させたからであると考えられる。型基材30Dをリン酸水溶液に浸漬した後の水溶液は白濁して見えたのに対し、型基材30Eを浸漬したリン酸水溶液には白濁が少ししか視認されなかったのも、同様の理由であると考えられる。
型基材30Cと30Dとを比較すると、アルミニウム膜を成膜する際にスパッタリングのパワーを低くした型基材30Dのほうが、密着性が高かった。アルミニウム膜のスパッタリングのパワーを低くすることにより、結晶粒の成長を抑制でき、比較的緻密なアルミニウム膜を形成できたと考えられる。
型基材30Bと30Cとを比較すると、緩衝層を厚くした型基材30Cの密着性が高かった。緩衝層を厚くするほうが、緻密な膜を形成することができ、密着性を向上することができたと考えられる。型基材30Eおよび30Fは、いずれもアルミニウム膜の密着性は高かったが、型基材30Fは特に高かった。型基材30Fのほうが緩衝層を厚くしたことにより、緻密な膜を形成できたと考えられる。
次に、図3(a)〜(d)を参照して、本発明による他の実施形態の型の製造方法を詳細に説明する。図3(a)〜(d)は、本発明による他の実施形態の型の製造方法を説明するための模式的な断面図である。
まず、図3(a)に示すように、ロール状の支持体72と、筒状樹脂フィルム76とを用意する。
支持体72としては、上記支持体12(図1(a))と同様の円筒状の支持体(例えば、金属管やメタルスリーブ)を用いることができる。また、支持体72としては、円柱状の支持体を用いることもできる。円柱状の支持体としては、金属製の円柱(例えば円柱状のステンレス鋼材やアルミニウム材)を用いることができる。支持体72として、可撓性を有するメタルスリーブを用いると、後述するように、メタルスリーブの外周面に筒状樹脂フィルム76を密着させる工程を容易に行うことができるという利点がある。
筒状樹脂フィルム76としては、例えばポリイミドのシームレスフィルムを用いることができる。ポリイミドのシームレスフィルムは、例えば、日東電工株式会社、グンゼ株式会社から入手することができる。
次に、図3(b)に示すように、支持体72の外周面上に筒状樹脂フィルム76を密着させる。例えば、支持体72として、可撓性を有するメタルスリーブを用いたときは、メタルスリーブを撓ませた状態で筒状樹脂フィルム76に挿入した後、メタルスリーブの撓みを元に戻すことにより、メタルスリーブの外周面上に筒状樹脂フィルム76を密着させることができる。支持体72の外周面上に筒状樹脂フィルム76を密着させる方法の例は後述する。
次に、図3(c)に示すように、筒状樹脂フィルム76の上にアルミニウムを堆積することにより、アルミニウム膜18を形成する。こうして、型基材10aが得られる。
続いて、図3(d)に示すように、アルミニウム膜18の表面を陽極酸化することによって、複数の微細な凹部(細孔)を有するポーラスアルミナ層14を形成する。こうして、表面にポーラスアルミナ層14を有する型100aが得られる。
以下、筒状樹脂フィルム76を支持体72の外周面上に密着させる方法の例を説明する。
まず、図4および図5を参照して、支持体72として可撓性を有するメタルスリーブを用いたときの密着方法を説明する。以下に説明する方法は、撓ませた状態のメタルスリーブ72mを筒状樹脂フィルム76に挿入した後、メタルスリーブ72mの撓みを元に戻すことにより、メタルスリーブ72mの外周面上に筒状樹脂フィルム76を密着させる点に1つの特徴がある。図4(a)〜(f)は、メタルスリーブ72mを用いた型の製造方法の模式的な断面図である。なお、図4(a)〜(f)は、軸方向に垂直な断面図である。
まず、図4(a)に示すように、メタルスリーブ72mと、筒状樹脂フィルム76(不図示)とを用意する。
次に、図4(b)に示すように、メタルスリーブ72mを撓ませる。このとき、図4(b)に示すように、径方向内側に撓ませる。
図5を参照して、この工程を詳細に説明する。図5は、ニッケル(Ni)で形成されたメタルスリーブ(直径:253mm、厚さ:200μm、長さ(軸方向における長さ):300mm)の軸方向から見た光学像であり、図5(a)は撓ませていない状態を示し、図5(b)は、撓ませた状態を示す。図5(b)は、メタルスリーブより長い長尺状の部材をメタルスリーブの軸方向に平行となるようにメタルスリーブの外周面上に置き、長尺状の部材の両端を手で押し下げて均等に力をかけることにより撓ませた状態を示す。図4(b)に示すメタルスリーブ72mを撓ませる工程では、上記のように、メタルスリーブ72mの外周面上の一部に力をかけることにより撓ませる。
次に、図4(c)に示すように、メタルスリーブ72mを撓ませた状態で、筒状樹脂フィルム76にメタルスリーブ72mを挿入する。メタルスリーブ72mは、撓ませた状態であり、通常の状態に比べ外径が小さいような状態にあるので、筒状樹脂フィルム76に容易に挿入することができる。
次に、図4(d)に示すように、メタルスリーブ72mの撓みを戻すことにより、メタルスリーブ72mの外周面上に筒状樹脂フィルム76を密着させる。
続いて、図4(e)に示すように、筒状樹脂フィルム76の上にアルミニウムを堆積することにより、アルミニウム膜18を形成する。こうして、型基材10bが得られる。
続いて、図4(f)に示すように、アルミニウム膜18の表面を陽極酸化することによって、複数の微細な凹部(細孔)14pを有するポーラスアルミナ層14を形成する。こうして、型100bが得られる。
上記の方法によれば、メタルスリーブ72mの外周面上に筒状樹脂フィルム76を容易に密着させることができる。支持体72として、例えば、円筒状のアルミニウム管や、円筒状のステンレス鋼管、円柱状のアルミニウム材、円柱状のステンレス鋼材のように、可撓性のメタルスリーブ72mのように撓ませることができないものを用いる場合に比べ有利である。
筒状樹脂フィルム76としては、例えば、上記のように、ポリイミドのシームレスフィルムを用いることができる。このとき、フィルムのイミド化率は、99%以下であってもよい。例えば、イミド化率が80%程度のポリイミドフィルム内にメタルスリーブ72mを配置し、その後、イミド化率が99%程度となるまでイミド化してポリイミドフィルムを収縮させることにより、メタルスリーブ72mの外周面上にポリイミドフィルムを密着させてもよい。ポリイミドフィルムは、熱的にイミド化してもよいし、化学的にイミド化してもよい。
イミド化率が99%以下であるポリイミドフィルムを用いるときは、イミド化させることによりポリイミドフィルムが収縮するので、メタルスリーブ72mに対する筒状樹脂フィルム76の密着性および接着性を向上させることができるという利点がある。
なお、イミド化率を求める方法としては、例えば、特開2008−045054号公報に記載の方法がある。まず、イミド化率が100%のポリイミドフィルムと、測定対象のポリイミドフィルムとの、1350cm-1と1470cm-1の吸光度を、例えばフーリエ赤外分光光度計FT−IRスペクトルワン(パーキンエルマー社製)を用いて測定する。次に、得られた吸光度を用いて、下記式(1)からイミド化率を算出することができる(特開2008−045054号公報参照)。
イミド化率(%)=[(A1/B1)/(A0/B0)]X100 (1)
A1:測定対象のポリイミドフィルムの1470cm-1の吸光度
B1:測定対象のポリイミドフィルムの1350cm-1の吸光度
A0:イミド化率が100%のポリイミドフィルムの1470cm-1の吸光度
B0:イミド化率が100%のポリイミドフィルムの1350cm-1の吸光度
上記のイミド化率が100%のポリイミドフィルムは、例えば、測定対象のポリイミドフィルムを、真空下、表面温度360℃で、1時間熱処理して調製したものである。尚、1350cm-1の赤外吸収はイミド環の特性吸収を示し、1470cm-1の赤外吸収は、脂環式化合物の特性吸収を示す。
上記では、支持体72として可撓性を有するメタルスリーブ72mを用いる場合を例に説明したが、支持体72として、円筒状の金属管や金属円柱を用いるときも、筒状樹脂フィルム76としては、ポリイミドのシームレスフィルムを用いることができる。なお、例えばイミド化率が99%以下であるポリイミドのシームレスフィルムは、例えばイミド化率が99%超であるポリイミドのシームレスフィルムに比べ、内周面の直径が大きい。従って、支持体72として、金属管や金属円柱を用いるときは、メタルスリーブ72mのように撓ませることができないが、上記のように、イミド化率が99%以下であるポリイミドのシームレスフィルムを用いて、シームレスフィルムに支持体72を挿入した後、イミド化して収縮させることにより、筒状樹脂フィルム76を比較的容易に密着させることができる。
支持体72に筒状樹脂フィルム76を密着させる他の方法としては、例えば、支持体72を冷却することにより支持体72を収縮させた状態で、筒状樹脂フィルム76に挿入した後、支持体72を常温にして元の大きさに戻すことにより、支持体72の外周面上に筒状樹脂フィルム76を密着させてもよい。
また、以下に説明するように、常温で支持体72を筒状樹脂フィルム76に挿入した後、支持体72と筒状樹脂フィルム76とを加熱し、その後常温に戻すことにより、支持体72と筒状樹脂フィルム76とを密着させることもできる。
まず、支持体72と筒状樹脂フィルム76とを用意する。このとき、支持体72として、外周面の直径が筒状樹脂フィルム76の内周面の直径より小さい支持体を用意する。
次に、支持体72を筒状樹脂フィルム76に挿入する。
続いて、支持体72と筒状樹脂フィルム76とを加熱する。例えば、筒状樹脂フィルム76としてポリイミドのシームレスフィルムを用いたときは、300℃程度に加熱する。加熱すると、ポリイミドのシームレスフィルムのイミド化率が高くなり収縮するので、シームレスフィルムの内周面の直径と支持体72の外周面の直径との差が小さくなっていく。従って、支持体72と筒状樹脂フィルム76とを密着させることができる。
その後、支持体72と筒状樹脂フィルム76とを常温に戻す。
このとき、筒状樹脂フィルム76として、線膨張係数が支持体72の線膨張係数より大きいフィルムを選択することにより、常温にしたときの両者の密着性を向上させることができる。上記のように加熱した後、常温に戻すまでの間に、支持体72および筒状樹脂フィルム76は収縮することになる。筒状樹脂フィルム76の線膨張係数が支持体72の線膨張係数より大きいと、常温に戻すまでの間の筒状樹脂フィルム76の収縮率が比較的大きいので、支持体72に対する筒状樹脂フィルム76の密着性を向上させることができる。
なお、ポリイミド樹脂の線膨張係数は5〜40ppm/℃である。また、例えば、アルミニウムの線膨張係数は23.6ppm/℃程度、鉄の線膨張係数は11.7ppm/℃程度、ニッケルの線膨張係数は12.8ppm/℃程度、JIS規格SUS304のステンレス鋼の線膨張係数は17.3ppm/℃程度、JIS規格SUS430のステンレス鋼の線膨張係数は10.4ppm/℃程度である。ポリイミドフィルムの線膨張係数は、ポリイミドの種類により異なる。上記のように、常温で支持体72を筒状樹脂フィルム76に挿入した後、加熱し、その後常温に戻すことにより、支持体72と筒状フィルム76とを密着させる場合、筒状樹脂フィルム76としてポリイミドフィルムを用いるときは、線膨張係数が、支持体72の線膨張係数より大きくなるように、フィルムを選択することが好ましい。なお、特に、線膨張係数が10〜40ppm/℃のポリイミドフィルムは、比較的容易に入手でき、低コストであるという利点がある。
支持体72として円筒状の金属管や金属円柱を用いて、上記の方法により筒状樹脂フィルム76を密着させるときは、支持体72の外周面上に密着させる前に、支持体72が筒状樹脂フィルム76に挿入される。従って、支持体72を筒状樹脂フィルム76に挿入する段階では、筒状樹脂フィルム76の内径(内周面の直径)は、支持体72の外径(外周面の直径)より大きいことが好ましい。本発明者の検討によると、例えば、支持体72として、外径が150mmである支持体を用いた場合に、ポリイミドのシームレスフィルムを密着させるときは、支持体72を挿入する段階での支持体72の外径と筒状樹脂フィルム76の内径との差が600μm以上であると、支持体72を筒状樹脂フィルム76に挿入しやすい。
支持体72として可撓性のメタルスリーブ72mを用いるときは、上記のように、メタルスリーブ72mを撓ませた状態で筒状樹脂フィルム76内に挿入するので、支持体72として円筒状の金属管や金属円柱を用いる場合に比べ、メタルスリーブ72mの外径と筒状樹脂フィルム76の内径との差が小さくてもよく、また、同程度であってもよい。従って、金属管や金属円柱を用いる場合に比べ、メタルスリーブ72mと筒状樹脂フィルム76との密着性を得やすいという利点がある。
次に、図6を参照して、メタルスリーブ72mを用いた、他の型の製造方法を説明する。上述した製造方法では、メタルスリーブ72mに予め作製した筒状樹脂フィルム76を密着させたが、以下に示す方法では、メタルスリーブ72mの外周面上に硬化性樹脂を付与することにより、メタルスリーブ72mの外周面上で筒状樹脂フィルムを形成する。
まず、図6(a)に示すように、メタルスリーブ72mと、硬化性樹脂(不図示)とを用意する。
次に、図6(b)に示すように、メタルスリーブ72mの外周面上に硬化性樹脂を付与することにより硬化性樹脂層26’を形成する。硬化性樹脂としては、例えば、ポリアミック酸を含む樹脂を用いることができる。
次に、硬化性樹脂層26’を硬化させることにより、図6(c)に示すように、メタルスリーブ72mの外周面上に筒状樹脂フィルム26を形成する。例えば、硬化性樹脂として、熱硬化性のポリアミック酸を用いたときは、300℃程度に加熱することにより、筒状のポリイミドフィルムを形成する。
次に図6(d)に示すように、筒状樹脂フィルム26の上にアルミニウムを堆積することにより、アルミニウム膜18を形成する。
続いて、図6(e)に示すように、アルミニウム膜18の表面を陽極酸化することによって、複数の微細な凹部を有するポーラスアルミナ層14を形成することにより、型100cが得られる。
上記の方法において、硬化性樹脂層26’を硬化するために比較的高温にするときは、メタルスリーブ72mとして、耐熱性に優れたものを用いることが好ましい。上記のように、硬化性樹脂としてポリアミック酸を用いる場合において、熱的にイミド化するときは、300℃程度に加熱する必要があり、例えば、ステンレス鋼等の耐熱性の高い金属で形成されたメタルスリーブを用いることが好ましい。
支持体72として円筒状の金属管や金属円柱を用いたときも、図6を参照して説明したのと同様に、支持体72の外周面上に硬化性樹脂を付与して硬化性樹脂層を形成した後、硬化性樹脂を硬化することにより筒状樹脂フィルム26を形成してもよい。
また、シュリンクフィルムを支持体72の外周面を覆うように配置し、シュリンクフィルムを加熱して収縮させることにより、筒状樹脂フィルム76を密着させてもよい。シュリンクフィルムとしては、例えば、PET系、ポリオレフィン系、ポリスチレン系、塩化ビニル系等のフィルムを用いることができる。例えば、郡是高分子株式会社製のGチューブを用いることができる。
なお、上記のいずれの方法を用いた場合においても、筒状樹脂フィルム26、76と支持体72との間に接着剤を付与して、筒状樹脂フィルム26、76を支持体72の外周面上に固定してもよい。
上記のように、支持体72としては、円筒状の支持体や円柱状の支持体を用いることができる。支持体72として円筒状の支持体を用いて形成された型基材10a(図3(c))は、円柱状の支持体を用いて形成された型基材に比べ軽いので、取り扱いが容易であるという利点がある。また、上述したように、円筒状の支持体を用いれば、転写工程において、熱の蓄積が抑制できるという利点がある。
円筒状の支持体としては、円筒状の金属管やメタルスリーブを用いることができる。メタルスリーブは金属管に比べ軽いという利点がある。一方、円筒状の金属管は、例えば可撓性を有するメタルスリーブに比べ剛性が高い。従って、円筒状の支持体として、金属管を用いると、可撓性を有するメタルスリーブ72mを用いて作製された型100b(図4(f))のように、撓むことがないので、メタルスリーブ72mを用いて作製された型100bに比べ、容易に取り扱うことができるという利点がある。
本発明による実施形態の製造方法により得られるロール状の型100a、100bおよび100cのポーラスアルミナ層14は、上記のように、筒状樹脂フィルム76の上に形成されたアルミニウム膜18の表面を陽極酸化して形成されているので、継ぎ目が無い。従って、型100(図1(d))と同様に、型100a、100bおよび100cの表面には継ぎ目が無い。
また、型100aには支持体72とアルミニウム膜18との間に筒状樹脂フィルム76が設けられているので、支持体72とアルミニウム膜18とが絶縁されている。従って、型100(図1(d))と同様に、エッチング時に支持体72内のアルミニウム以外の異種金属とアルミニウム膜18との間で発生し得る局所電池反応の発生を抑制できる。従って、支持体72としては所望の純度のものを用いることができるので、所望の強度の型を作製できるという利点がある。同様に、型100bおよび100cには、メタルスリーブ72mとアルミニウム膜18との間に、それぞれ、筒状樹脂フィルム76および26が設けられており、メタルスリーブ72mとアルミニウム膜18とが絶縁されているので、メタルスリーブ72m内の異種金属とアルミニウム膜18との間で発生し得る局所電池反応の発生を抑制できるという利点がある。
なお、図1を参照して説明した、支持体12の外周面上に絶縁層16を形成する工程を含む型の製造方法と同様に、筒状樹脂フィルム76の表面をプラズマアッシングする、無機下地層を形成する、および/または緩衝層を形成することにより、筒状樹脂フィルム76とアルミニウム膜18との密着性を向上させることができる。
次に実施例および参考例を示し、本発明による実施形態の型の製造方法をより詳細に説明する。
(実施例1〜5)
実施例1〜5では、絶縁層として、電着法により有機絶縁層を形成した。実施例1〜5では、以下に示すように、図1を参照して説明した方法により、電着法を用いて、厚さおよび/または電着樹脂の種類が異なる有機絶縁層が形成された5つの型基材10(図1(c))および型100(図1(d))を作製した。なお、実施例1〜5では、簡単のため、支持体12に代えて、ステンレス鋼製の基板を用いた。
実施例1〜5では、まず、ステンレス鋼製の基板を用いて、型基材を作製した。
次に、得られた型基材のアルミニウム膜と支持体との間の絶縁性を調べた。型基材のアルミニウム膜の表面とステンレス鋼製の基板の裏面との間の導通の有無を調べた。導通した場合でも、有機絶縁層の抵抗値が5.0×105Ω以上であれば絶縁性が十分であると判断した。
なお、上述したように、有機絶縁層の絶縁性が不十分であると、陽極酸化を行った際に、支持体にも電流が流れることがあり、このとき、過剰な電流が流れるので、安全性の観点から好ましくない。また、有機絶縁層の絶縁性が不十分であると、陽極酸化およびエッチングを繰り返すモスアイ用型の製造工程のエッチングの際に、支持体とアルミニウム膜との間に局所電池反応が生じることにより、アルミニウム膜に直径1μm程度の窪みが形成されることがある。
また、型基材の有機絶縁層の耐電圧性を以下のように調べた。
ステンレス鋼製の基板の裏面に耐電圧試験器の低圧側端子に接続したリードの一端を接触させ、基板上のアルミニウム膜の表面に、高圧側端子に接続したリードの一端を接触させた。なお、ステンレス鋼製の基板に有機絶縁層を形成する際に、基板の両面に有機絶縁層が形成されたので、基板の裏面の有機絶縁層を一部剥離し、上記のリードの一端を接触させた。
印加電圧を0Vから上昇させていき、流れる電流の大きさを調べた。印加電圧を200Vとするまでに電流が流れた場合、耐電圧性が不十分であると判断した。
なお、有機絶縁層の耐電圧性が低いと、陽極酸化工程において、有機絶縁層に絶縁破壊が生じてしまうことがある。このとき、例えば、有機絶縁層が焼けてしまうので、支持体(ここではステンレス鋼製の基板)とアルミニウム膜との間で導通してしまうことがある。また、ステンレス鋼製の基板とアルミニウム膜との間で導通すると、エッチング工程において、局所電池反応が発生してしまうことがある。
また、実施例1〜5の方法により作製した型基材を用いて、例えば上記特許文献3および4に記載されている方法により、陽極酸化およびエッチングを行うことにより、モスアイ用型を作製した。モスアイ用型は、陽極酸化工程とエッチング工程とを交互に5回(陽極酸化を5回、エッチングを4回)行うことにより作製した。陽極酸化工程は、シュウ酸水溶液(濃度0.3wt%、液温18℃)を用いて、80V印加して37秒間行い、エッチング工程は、燐酸水溶液(濃度1mol/l、液温30℃)を用いて29分間行った。
以下、実施例1〜5の型基材の形成方法を説明する。
実施例1〜5では、まず、ステンレス鋼製の基板(5cm×10cm)を用意した。
次に、基板の表面に電着法により有機絶縁層を形成した。実施例1では、電着樹脂としてポリイミド樹脂を用いて厚さ15μmの有機絶縁層を形成した。実施例2では、アクリルエポキシ樹脂を用いて厚さ15μmの有機絶縁層を形成した。実施例3ではアクリルエポキシ樹脂を用いて厚さ30μmの有機絶縁層を形成した。実施例4ではアクリルメラミン樹脂を用いて厚さ15μmの有機絶縁層を形成した。実施例5ではアクリルウレタン樹脂を用いて厚さ15μmの有機絶縁層を形成した。
次に、有機絶縁層の表面にプラズマアッシングを施した。
次に、有機絶縁層の表面に無機下地層として、厚さ100nmのSiO2層を形成した。SiO2層は、スパッタリング法で形成した。
次に、SiO2層の上に、厚さ400nmの緩衝層を形成した。緩衝層としては、酸素含有率が異なる複数の酸化アルミニウム層をスパッタリング法で形成した。まず、厚さ200nmのAlO層を形成した。AlO層の上に、酸化アルミニウム層の酸素含有率が、AlO層に近い層ほど高いプロファイルを有するように、言い換えると、アルミニウムの含有率がAlO層側よりもアルミニウム膜側で高いプロファイルを有するように、複数の酸化アルミニウム層をスパッタリング法で形成した。
次に、緩衝層の表面にスパッタ法によりアルミニウム膜を厚さ1μm堆積した。こうして、型基材を作製した。
実施例1〜5の型基材について、テスターを用いてステンレス鋼製の基板とアルミニウム膜との間の導通の有無を調べたところ、実施例1〜5では、いずれも、導通しなかった。実施例1〜5の有機絶縁層は、十分な絶縁性を有することがわかった。
また、実施例1〜5の型基材について、有機絶縁層の耐電圧性を調べた。実施例1〜5の有機絶縁層は、200Vまで昇圧しても電流が流れなかった。すなわち、実施例1〜5の型基材の有機絶縁層は、十分な耐電圧性を有していた。
図7(a)〜(e)に、実施例1〜5の型基材を用いて作製したモスアイ用型の表面のSEM像を示す。図7(a)〜(e)は、それぞれ、実施例1〜5により作製した型基材を用いて作製されたモスアイ用型の表面のSEM像を示す図である。
図7(a)〜(e)からわかるように、いずれのモスアイ用型の表面にも、複数の微細な凹部を、全面にほぼ均一に形成することができた。複数の微細な凹部の、表面の法線方向から見たときの2次元的な大きさは180nm程度であった。実施例1〜5のいずれにおいても、陽極酸化工程およびエッチング工程を繰り返しても、有機絶縁層の導通は発生せず、また、アルミニウム膜における局所電池反応が発生することはなく、陽極酸化工程およびエッチング工程を行うことにより所望の凹凸構造を形成することができた。
次に、実施例1〜5の型基材、および実施例1〜5の型基材を用いて作製されたモスアイ用型の密着性の評価結果を示す。
モスアイ用型において、アルミニウム膜18(アルミニウム膜を完全に陽極酸化したときは、ポーラスアルミナ層14)の密着性が低いと、モスアイ用型を反射防止膜の製造に用いた場合、モスアイ用型から被転写物を分離する際に、アルミニウム膜およびアルミニウム膜上のポーラスアルミナ層が、被転写物と共に剥離してしまうことがある。実施例1〜5の型基材のアルミニウム膜の密着性を、上記と同様の剥離試験により、以下のように評価した。
有機絶縁層上に形成されたアルミニウム膜に、カッターナイフを用いて1升が1cm×1cmの正方形の格子を5×5個形成した。切れ目を入れた領域のアルミニウム膜に粘着テープを密着させた後、粘着テープを剥がし、粘着テープとともに剥がれた升目の数でアルミニウム膜の密着性を評価した。剥離升目数が5枚以下であれば、密着性が十分であると判断した。
実施例1〜5の型基材の剥離試験結果(アルミニウム膜の剥離升目数)を表2に示す。また、実施例1〜5の型基材を用いて作製されたモスアイ用型についても、上記と同様に剥離試験を行った。表2に、モスアイ用型の剥離升目数も併せて示す。
表2に示すように、実施例1〜5のアルミニウム膜の型基材の剥離升目数は、いずれも5枚以下であり、十分な密着性を有していた。特に、実施例1(有機絶縁層:厚さ15μmのポリイミド層)、実施例2(有機絶縁層:厚さ15μmのアクリルエポキシ層)、および実施例4(有機絶縁層:厚さ15μmのアクリルメラミン層)の型基材のアルミニウム膜の剥離升目数は0枚であり、密着性が高かった。
表2に示すように、型基材を用いて作製されたモスアイ用型については、実施例4の型基材を用いて作製されたモスアイ用型のアルミニウム膜の剥離升目数が最も少なかった。なお、実施例1〜5では、いずれも、型基材の剥離升目数に比べ、モスアイ用型の剥離升目数が多かった。例えば、エッチング工程において、リン酸水溶液により、アルミニウム膜と無機下地層との間の緩衝層の一部が溶解したことが、アルミニウム膜の密着性の低下の一因となっていると考えられる。
表2からわかるように、実施例3および5の型基材を用いて作製されたモスアイ用型のアルミニウム膜の剥離升目数は5枚超であった。なお、アルミニウム膜の密着性は、実験結果を示して上述したように、例えば、緩衝層の成膜条件を調整することにより改善できる。例えば、緩衝層を厚くすることにより、密着性は改善される。
実施例1〜5の型基材について、アルミニウム膜の表面の鏡面性を目視で調べたところ、実施例4の型基材のアルミニウム膜の表面の鏡面性が最も高かった。
(実施例6)
実施例6は、実施例1〜5と同じステンレス鋼製の基板の表面に、日本ペイント株式会社製のウレトップを用いてスプレーコート法により有機絶縁層を形成した。
実施例1〜5と同様に、テスターを用いてステンレス鋼製の基板とアルミニウム膜との間の導通の有無を調べたところ、導通はなく、十分な絶縁性を有していた。また、実施例1〜5と同様に耐電圧性を調べたところ、200Vまで昇圧しても電流が流れず、十分な耐電圧性を有していた。
実施例6の型基材を用いて、実施例1〜5と同様の条件で陽極酸化工程およびエッチング工程を交互に5回(陽極酸化を5回、エッチングを4回)行うことによりモスアイ用型を作製した。図7(f)に、実施例6のモスアイ用型の表面のSEM像を示す。図7(f)からわかるように、実施例1〜5(図7(a)〜(e))と同様に、複数の微細な凹部を全面にほぼ均一に形成することができた。
なお、実施例6の型基材のアルミニウム膜の密着性は比較的低かった。なお、密着性については、上記のように、有機絶縁層の表面のプラズマアッシング、および/または無機下地層、緩衝層を設けることにより改善できる。
電着法により有機絶縁層を形成した実施例1〜5と、吹き付け塗装により有機絶縁層を形成した実施例6とを比較すると、アルミニウム膜の密着性は、実施例1〜5のほうが高かった。一方、アルミニウム膜の表面の鏡面性は、実施例1〜5より実施例6のほうが高かった。
ステンレス鋼製の基板の表面上に、ディップコート法により付与したポリアミック酸をイミド化させて有機絶縁層を形成した型基材を作製し、基板とアルミニウム膜との間の絶縁性、耐電圧性およびアルミニウム膜の密着性を調べたところ、絶縁性および耐電圧性は十分得られたが、密着性が不十分であった。なお、アルミニウム膜の密着性は、上述したように、例えば、絶縁層の表面に対してプラズマアッシングを施した後、SiO2層および緩衝層を設けることにより向上することができる。実施例1〜5と、実施例6と、ポリアミック酸を硬化させた層を形成した型基材とを比較すると、実施例1〜5>実施例6>ポリアミック酸を硬化させた層を形成した型基材の順に、アルミニウム膜の密着性が高かった。
(実施例7および8)
実施例7および8では、金属製の管を用いた点以外は、上記実施例1〜5と同様の方法により、型基材およびモスアイ用型を以下のように作製した。
まず、金属製の管を用意した。実施例7では、ステンレス鋼製の管(直径150mm、長さ500mm)を用意した。実施例8では、Ni製の管(直径140mm、長さ540mm)を用意した。
実施例7および8では、有機絶縁層として、電着法により、厚さ15μmのアクリルメラミン層を形成した。
次に、実施例1〜5と同様に、有機絶縁層の表面にプラズマアッシングを施した。
次に、有機絶縁層の表面に無機下地層として、厚さ100nmのSiO2層を形成した。SiO2層は、スパッタリング法で形成した。
次に、SiO2層の上に、厚さ400nmの緩衝層を形成した。緩衝層としては、酸素含有率が異なる複数の酸化アルミニウム層をスパッタリング法で形成した。まず、厚さ200nmのAlO層を形成した。AlO層の上に、酸化アルミニウム層の酸素含有率が、AlO層に近い層ほど高いプロファイルを有するように複数の酸化アルミニウム層をスパッタリング法で形成した。
次に、緩衝層の表面にスパッタ法によりアルミニウム膜を厚さ1μm堆積した。こうして、型基材(図1(c)に示す型基材10)を作製した。
実施例7および8の型基材の有機絶縁層について、絶縁性および耐電圧性を調べたところ、いずれも、十分な絶縁性および耐電圧性を有していた。また、アルミニウム膜の剥離試験を行ったところ、剥離升目数は5枚以下であり、十分な密着性を有していた。
実施例7および8の型基材を用いて、実施例1〜5の型基材と同様に、陽極酸化およびエッチングを交互に5回行ったところ、反転されたモスアイ構造が外周面に均一に形成されたロール状のモスアイ用型が得られた。
(参考例1〜6)
参考例1〜6では、以下に示すように、無機絶縁層を形成した。
参考例1〜4では、まず、直径150mm、長さ400mmのステンレス鋼製の管を用意した。
次に、ステンレス鋼製の管の外周面上にスパッタ法により、無機絶縁層を形成した。参考例1では、ステンレス鋼製の管の外周面上に厚さ100nmのSiO2層を形成した。参考例2では、厚さ300nmのTa2O5層を形成した。参考例3では、厚さ500nmのTa2O5層を形成した。参考例4では、厚さ1μmのTa2O5層を形成した。その後、実施例1〜5と同様に、アルミニウム膜を形成した。
参考例5および6では、まず、10cm角のステンレス鋼製の板を用意した。
次に、参考例5では、厚さ300nmのTa2O5層を形成した。参考例6では、厚さ500nmのTa2O5層を形成した。その後、アルミニウム膜を形成した。
実施例1〜5と同様に、参考例1〜6の無機絶縁層の絶縁性およびアルミニウム膜の密着性を評価した。結果を表3に示す。
表3からわかるように、参考例1〜6では、剥離升目数がいずれも0枚であり、アルミニウム膜の密着性はいずれも良好であった。
絶縁性については、参考例5および6では導通しなかった。一方、参考例1〜4はステンレス鋼製の管とアルミニウム膜との間で導通した。また、参考例1、2、3および4を比較するとわかるように、無機絶縁層が厚いほど、無機絶縁層の抵抗値が高かった。
参考例4〜6について、耐電圧性を調べた。シュウ酸水溶液(0.3wt%、液温18℃)に浸漬し、印加電圧を0Vから上昇させていった。
参考例4では、80Vを印加したとき、100Aの電流が流れた。上記実施例1〜8において、印加電圧80Vで陽極酸化を行ったところ、電流値は20A程度であった。すなわち、参考例4の型基材では通常より大きな電流が流れており、耐電圧性が不十分であった。
参考例5については、60Vで3Aの電流が流れた。本発明者の検討によると、実施例1〜8の型基材と同様の型基材を用いて、印加電圧を60Vとして陽極酸化を行ったときの電流値は0.3A程度であった。すなわち、参考例5では通常より大きな電流が流れた。
一方、参考例6については、100Vまで昇圧しても、大きな電流が流れず、耐電圧性が十分であった。
参考例1〜4において絶縁性が得られなかったのは、無機絶縁層の段差被覆性が比較的低いからであると考えられる。無機絶縁層の段差被覆性が低いので、例えば、無機絶縁層を形成する前に支持体の外周面上に存在する汚れや異物(例えば、支持体表面の加工に用いられた砥粒の残留物)を介して、支持体とアルミニウム膜との間が導通しやすくなったと考えられる。ステンレス鋼製の板を用いた参考例5および6に比べ、管を用いた参考例1〜4は、表面積が大きいので、上記の汚れや異物が比較的多く存在し、導通しやすかったと考えられる。
無機絶縁層の材料および支持体を同じとした参考例2〜4を比較すると、無機絶縁層が厚いほど、無機絶縁層の抵抗値が高くなった。無機絶縁層を厚くすることにより、段差被覆性を向上することができたからであると考えられる。
なお、無機絶縁層を厚くしなくても、例えば、無機絶縁層を形成する前に支持体表面を洗浄し、支持体表面の異物を除去しておくことにより、無機絶縁層上に形成されるアルミニウム膜と支持体とを導通しにくくすることができる。また、例えば、支持体として、砥粒を用いない表面加工を施した支持体を用いると、支持体表面には残留砥粒が存在しないので、無機絶縁層上に形成されるアルミニウム膜と支持体とを導通しにくくすることができる。
有機絶縁層は、無機絶縁層に比べ段差被覆性が高いので、支持体上に有機絶縁層およびアルミニウム膜を形成した型基材は、無機絶縁層を形成した型基材に比べ、支持体とアルミニウム膜とが導通しにくい。従って、有機絶縁層を形成する場合には、例えば、上記のような洗浄工程を行わなくても支持体とアルミニウム膜とは導通しにくい。また、例えば、砥粒を用いない加工以外の加工を施した支持体を用いて、支持体上に有機絶縁層およびアルミニウム膜を形成しても、支持体とアルミニウム膜とが導通しにくい。
また、アルミニウム膜の成膜工程において無機絶縁層中に侵入したアルミニウムイオンを介して、支持体とアルミニウム膜との間が導通しやすくなることがわかった。参考例1〜4では、無機絶縁層が比較的薄かったので、無機絶縁層中のアルミニウムイオンを介して、導通が発生しやすかったと考えられる。例えば、アルミニウム膜の成膜工程のスパッタ電力を小さくすることにより、アルミニウムイオンの無機絶縁層への侵入を抑制できる。
また、参考例2〜4においては、Ta2O5層の表面に、直径が数百nm程度であるTaの粒子が存在し、このTaの粒子を介して導通が発生したと考えられる。図8に、参考例2のTa2O5層の表面(無機絶縁層:厚さ300nmのTa2O5層の表面)のSEM像を示す。図8に示すように、参考例2のTa2O5層の表面には、直径が数百nm程度の粒子が存在した。エネルギー分散型X線分析法(EDS)を用いて元素分析を行ったところ、直径が数百nm程度である粒子はTaの粒子であった。また、図8からはわかりにくいが、参考例2のTa2O5層の表面において、Taの粒子が存在する部分以外の部分には、直径が数十nm程度の粒子が存在した。直径が数十nm程度の粒子は、Ta2O5の結晶粒であった。参考例2では、Taの粒子が存在する部分において、アルミニウム膜と支持体との間で導通し得たと考えられる。なお、上記のようなTaの粒子は、成膜工程(スパッタ)において、ターゲットとしたTa板の一部が局所的に溶融し、溶融したTaが飛散して被蒸着物表面(ステンレス鋼製の管の表面)に付着したものであると考えられる(「スプラッシュ」と呼ばれる。)。Ta2O5層の成膜工程における酸素導入量を増加させ、Taを十分に酸化させることにより、上記のようなTaの粒子の発生を抑制できる。また、成膜工程におけるスパッタの電力を小さくすることにより、Ta板の局所的な溶融を抑制できる。
また、図8に示すように、参考例2のTa2O5層の表面には、筋状の模様が存在する。ステンレス鋼製の管の表面を調べたところ、Ta2O5層の表面と同様の筋状の模様が存在した。参考例2では、Ta2O5層の表面に、ステンレス鋼管の表面の凹凸に対応する凹凸形状が形成された。このように、参考例2では、ステンレス鋼管の表面状態の影響により、Ta2O5層の表面には凹凸形状が形成されたので、Ta2O5層上に形成されるアルミニウム膜の表面の鏡面性が低かった。他の参考例においても同様に、無機絶縁層上に形成されるアルミニウム膜の表面の鏡面性が低かった。なお、無機絶縁層の表面は、支持体として鏡面性の高い支持体を用いることにより、平坦化することができる。また、例えばバイト研削のように砥粒を用いない表面処理を施した支持体を用いた場合には、支持体表面に砥粒が存在することがないので、無機絶縁層を比較的平坦化しやすい。
本発明による実施形態の型の製造方法は、ロール状のモスアイ用型の製造に用いることができる。図9を参照して、ロール状のモスアイ用型の製造工程を説明する。図9(a)〜(e)は、本発明による実施形態のロール状のモスアイ用型の製造方法を説明するための、軸方向に垂直な方向から見た模式的な断面図である。なお、図9では、簡単のため、絶縁層16の一部およびアルミニウム膜18の一部のみを示す。
まず、図9(a)に示すように、型基材10を用意する。型基材10は、図1(a)〜(c)を参照して説明した工程により作製されたものであり、支持体12(不図示)と、絶縁層16と、絶縁層16上に堆積されたアルミニウム膜18とを有する。
次に、図9(b)に示すように、基材10の表面(アルミニウム膜18の表面18s)を陽極酸化することによって複数の細孔14p(微細な凹部)を有するポーラスアルミナ層14を形成する。ポーラスアルミナ層14は、細孔14pを有するポーラス層と、バリア層とを有している。ポーラスアルミナ層14は、例えば、酸性の電解液中で表面18sを陽極酸化することによって形成される。ポーラスアルミナ層14を形成する工程で用いられる電解液は、例えば、蓚酸、酒石酸、燐酸、クロム酸、クエン酸、リンゴ酸からなる群から選択される酸を含む水溶液である。例えば、アルミニウム膜18の表面18sを、蓚酸水溶液(濃度0.3wt%、液温18℃)を用いて、印加電圧80Vで37秒間陽極酸化を行うことにより、ポーラスアルミナ層14を形成する。陽極酸化条件(例えば、電解液の種類、印加電圧)を調整することにより、細孔間隔、細孔の深さ、細孔の形状等を調節できる。なお、ポーラスアルミナ層の厚さは適宜変更され得る。アルミニウム膜18を完全に陽極酸化してもよい。
次に、図9(c)に示すように、ポーラスアルミナ層14をアルミナのエッチャントに接触させることによって所定の量だけエッチングすることにより細孔14pの孔径を拡大する。ここで、ウェットエッチングを採用することによって、細孔壁およびバリア層をほぼ等方的にエッチングすることができる。エッチング液の種類・濃度、およびエッチング時間を調整することによって、エッチング量(すなわち、細孔14pの大きさおよび深さ)を制御することができる。エッチング液としては、例えば10質量%の燐酸や、蟻酸、酢酸、クエン酸などの有機酸の水溶液やクロム燐酸混合水溶液を用いることができる。例えば、燐酸(濃度1mol/L、液温30℃)を用いて29分間エッチングを行うことにより、細孔14pを拡大する。
次に、図9(d)に示すように、再び、アルミニウム膜18を部分的に陽極酸化することにより、細孔14pを深さ方向に成長させるとともにポーラスアルミナ層14を厚くする。ここで細孔14pの成長は、既に形成されている細孔14pの底部から始まるので、細孔14pの側面は階段状になる。
さらにこの後、必要に応じて、ポーラスアルミナ層14をアルミナのエッチャントに接触させることによってさらにエッチングすることにより細孔14pの孔径をさらに拡大する。エッチング液としては、ここでも上述したエッチング液を用いることが好ましく、現実的には、同じエッチング浴を用いればよい。
このように、上述した陽極酸化工程およびエッチング工程を繰り返すことによって、図9(e)に示すように、所望の凹凸形状を有するポーラスアルミナ層14を有するモスアイ用型100Aが得られる。
図10に、軸方向から見た、モスアイ用型100Aの模式的な断面図を示す。図10に示すように、モスアイ用型100Aは、支持体12と、絶縁層16と、アルミニウム膜18と、ポーラスアルミナ層14とを有する。なお、図10は、アルミニウム膜18を完全にはアルミナ化しなかった場合を示すが、アルミニウム膜18を完全にアルミナ化してもよい。
図11に、ロール状のモスアイ用型100Aの断面SEM像を示す。図11に示すように、モスアイ用型100Aの表面には、細孔間隔が180nm程度の複数の細孔が形成された。なお、図11に示すモスアイ用型100Aは、陽極酸化工程とエッチング工程とを交互に5回(陽極酸化を5回、エッチングを4回)行うことにより作製した。陽極酸化工程は、シュウ酸水溶液(濃度0.3wt%、液温18℃)を用いて、80V印加して37秒間行い、エッチング工程は、燐酸水溶液(濃度1mol/L、液温30℃)を用いて29分間行った。
なお、反射防止性能の優れた反射防止膜を形成するためには、細孔14pは、表面の法線方向から見たときの2次元的な大きさが10nm以上500nm未満であることが好ましく(上記特許文献1、2および4)、50nm以上500nm未満であることがさらに好ましい。なお、2次元的な大きさは、円の直径で近似的に表され得る。
本発明による実施形態のモスアイ用型の製造方法は、上述したように、絶縁層16により支持体12とアルミニウム膜18とが絶縁されているので、アルミニウム管を用いて陽極酸化およびエッチングした場合にエッチング工程において発生し得る局所電池反応の発生を抑制できるという利点がある。また、型基材10a(図3(c))を用いてエッチングを行ったときも、上記のように、筒状樹脂フィルム76により支持体72とアルミニウム膜18とが絶縁されているので、局所電池反応の発生を抑制できるという利点がある。
次に、本発明による実施形態の反射防止膜の製造方法を説明する。なお、以下では、支持体12として、剛性や真円度が高い金属管を用いて作製されたロール状の型を用いる場合を示す。すなわち、そのままロール・ツー・ロール方式に用いることができる場合を例示する。
なお、上述したように、支持体12を用いて作製された型100は、剛性や真円度が低いことがある。この場合には、支持体12の内部にコア材を挿入した状態で、ロール・ツー・ロール方式に用いることができる。例えば、支持体12として、可撓性を有するメタルスリーブを用いて作製された型は、メタルスリーブの内部にコア材を挿入した状態でロール・ツー・ロール方式に用いることができる。可撓性のメタルスリーブを用いて作製された型を用いる場合については後述する。なお、支持体72として円柱状のアルミニウム材やステンレス鋼材を用いて作製された型のように、真円度や剛性が高い支持体72を用いて作製された型も、そのままロール・ツー・ロール方式に用いることができる。なお、例えば、円柱状のステンレス鋼材は円柱状のアルミニウム材に比べ剛性や真円度を高くしやすいという利点がある。一方、アルミニウム材は軽いので取り扱いが比較的容易であるという利点がある。
以下、図12を参照して、本発明による実施形態の反射防止膜の製造方法を説明する。図12は、ロール・ツー・ロール方式により反射防止膜を製造する方法を説明するための模式的な断面図である。
まず、図10に示したロール状のモスアイ用型100Aを用意する。
次に、図12に示すように、紫外線硬化樹脂32’が表面に付与された被加工物42を、モスアイ用型100Aに押し付けた状態で、紫外線硬化樹脂32’に紫外線(UV)を照射することによって紫外線硬化樹脂32’を硬化する。紫外線硬化樹脂32’としては、例えばアクリル系樹脂を用いることができる。被加工物42は、例えば、TAC(トリアセチルセルロース)フィルムである。被加工物42は、図示しない巻き出しローラから巻き出され、その後、表面に、例えばスリットコータ等により紫外線硬化樹脂32’が付与される。被加工物42は、図12に示すように、支持ローラ62および64によって支持されている。支持ローラ62および64は、回転機構を有し、被加工物42を搬送する。また、ロール状のモスアイ用型100Aは、被加工物42の搬送速度に対応する回転速度で、図12に矢印で示す方向に回転される。
その後、被加工物42からモスアイ用型100Aを分離することによって、モスアイ用型100Aの凹凸構造(反転されたモスアイ構造)が転写された硬化物層32が被加工物42の表面に形成される。表面に硬化物層32が形成された被加工物42は、図示しない巻き取りローラにより巻き取られる。
次に、可撓性を有するメタルスリーブ72mを用いて作製された型100bを用いて、転写(例えば反射防止膜の作製)する場合を説明する。
まず、図13(a)に示すように、メタルスリーブ72mを用いて作製された型100bと、ロール状のコア材50とを用意する。ロール状のコア材50は、例えば円柱状のステンレス鋼材である。
次に、図13(b)に示すように、型100bのメタルスリーブ72mの内側にコア材50を挿入する。このとき、例えば、コア材50として、エアスライド機能を有するものを用いてもよい。例えば、中空のコア材であって、外周面を貫通する複数の小孔が形成されており、小孔を介して中空部分から圧縮空気を排出できる構造を有するものを用いてもよい。圧縮空気を排出することにより、コア材50の外周面の摩擦を小さくすることができるので、メタルスリーブ72m内にコア材を挿入しやすい(特開2004−031804号公報参照)。
また、例えば、コア材50を冷却することにより収縮させた状態で、コア材50をメタルスリーブ72mに挿入した後、コア材50を常温にして元の大きさに戻すことにより、型100bのメタルスリーブ72mの内側にコア材50を挿入してもよい。
その後、図12を参照して説明した方法と同様の方法により、反射防止膜を作製することができる。
メタルスリーブ72mが可撓性を有していると、転写する際に型が撓み、被加工物表面に型が押し付けられない部分が生じることにより、型の表面の凹凸構造が転写されないことがある。コア材50を挿入することにより、転写する際の型の撓みを抑制できる。
なお、上記では、支持体72として可撓性を有するメタルスリーブ72mを用いて作製された型100bを例に説明したが、支持体12として可撓性を有するメタルスリーブを用いて作製された型100(図1)を用いるときも、図12を参照して説明した方法により反射防止膜を作製することができる。
アルミニウムやステンレス鋼製の管のように、剛性や真円度が比較的高い支持体12を用いて作製された型100を用いて反射防止膜を製造するときは、例えば、支持体12の中空部分に回転軸を挿入して固定し、回転軸を回転させることにより型100を回転させてもよい。
以下、図14を参照して、支持体12の中空部分に回転軸を固定する方法を説明する。なお、図14では、簡単のため、型100については支持体12のみを示し、絶縁層16、ポーラスアルミナ層14は省略する。
図14(a)は、支持体12として金属管を用いて作製されたロール状のモスアイ用型100を反射防止膜の製造に用いる際の模式的な断面図である。図14(a)に示すように、フランジ部材62および64により、支持体12の両端に回転軸60が固定される。フランジ部材62および64は、いずれも、外径が支持体12の外径と同程度である円盤状の形状を有している。フランジ部材62および64の中心には、回転軸60が挿入される穴が形成されている。例えば、回転軸60とフランジ部材62とは一体に形成されている。例えば、支持体12の一端にフランジ部材62を固定した後、フランジ部材64の中心の穴に回転軸60が挿入されるように、支持体12の他端にフランジ部材64を固定することにより、回転軸60を固定する。
フランジ部材62と支持体12とは、例えば、ボルト締めにより固定してもよいし、溶接により固定してもよい。図14(b)を参照して、フランジ部材62と支持体12とをボルト締めにより固定する場合を説明する。図14(b)は、フランジ部材62と支持体12とをボルト締めで固定する場合を説明するための模式的な断面図である。図14(b)に示すように、支持体12とフランジ部材62とは、支持体12端部に軸方向に平行に形成されたボルト穴にボルト68を締めることにより、固定される。なお、図14(b)に示すように、支持体12の端部およびフランジ部材62の端部は、互いに嵌め合わされるようにインロー加工が施されていてもよい。インロー加工が施されていることにより、フランジ部材62の支持体12に対する位置決めを容易に行うことができる。一方、フランジ部材62と支持体12とを溶接により固定する場合は、例えば図14(c)に示すように、支持体12とフランジ部材62とを嵌め合わせた後、図14(c)に矢印で示す繋ぎ目部分を溶接する。フランジ部材64も、フランジ部材62と同様に、例えばボルト締めまたは溶接により固定することができる。
ボルト締めで固定する場合に、例えば、支持体12として、直径150mm、長さ400mmのステンレス鋼管を用いるときは、ステンレス鋼管の厚さt(図14(b)に示す。)は20mm以上であることが好ましい。一方、溶接で固定するときは、支持体12の厚さは6mm以上あればよい。
回転軸60の中心が、支持体12の中心とずれているときは、回転軸60の外周面に例えばめっき加工を施して回転軸60を太くした後、めっきした部分の一部を削ることにより、回転軸60の中心と支持体12の中心とを一致させてもよい。この方法により、例えば、厚さが20mmの管を用いた場合に、回転軸60の中心と支持体12の中心とを40μmの精度で一致させることができる。なお、回転軸60としては、例えば、直径が150mmの支持体12を用いるときは、直径が75mm程度の軸を用いる。
支持体12として円筒状の金属管を用いて作製された型100は、剛性や真円度が高いので、メタルスリーブ72mを用いて作製された型100bのように、コア材50(図13)を挿入する工程を行わなくてよいという利点がある。
本発明による実施形態の型100を用いて転写を繰り返すうちに、ポーラスアルミナ層14が磨耗することがある。本発明による実施形態の型100(図1(d))は、絶縁層16として、例えば有機絶縁層が形成されているときは、以下に説明するように容易にリワークすることができる。例えば、型100を水酸化ナトリウム水溶液(例えば、濃度20%、液温25℃)に60秒間浸漬し、ポーラスアルミナ層14を溶解することにより除去した後、図1を参照して説明した方法と同様の方法により、アルミニウム膜を形成する工程と、陽極酸化工程とを行うことにより、リワークすることができる。なお、水酸化ナトリウム水溶液以外には、例えば、水酸化カリウム水溶液を用いてポーラスアルミナ層を溶解することができる。
例えば、支持体12として金属管を用いて作製された型100を用いて、上記のように、支持体12の両端に回転軸を固定して転写に用いた場合にリワークするときは、回転軸を型100からはずしてから、NaOH水溶液に浸漬することによって、ポーラスアルミナ層14を溶解する。このとき、回転軸がボルト締めで固定されている場合は、溶接で固定されている場合に比べ、回転軸をはずしやすいのでリワークしやすいという利点がある。
他のリワークの方法としては、例えば、ポーラスアルミナ層14の表面に、硬化性樹脂を付与して硬化性樹脂層を形成し、硬化性樹脂を硬化させることにより、新たな有機絶縁層を形成し、その後アルミニウム膜を形成する工程と、陽極酸化工程とを行うことによりリワークすることができる。
また、本発明による実施形態の型100a(図3(d))は、筒状樹脂フィルム76を用いて作製されているので、容易にリワークできる。例えば、支持体72の外周面上に密着した筒状樹脂フィルム76を、軸方向と平行な方向に切れ目を入れて切断し、支持体72から剥離した後、図3を参照して説明した方法と同様の方法により、新しい筒状樹脂フィルムを支持体72の外周面上に密着させる工程と、アルミニウム膜を形成する工程と、陽極酸化工程とを行うことによって、リワークすることができる。
他のリワークの方法としては、上記と同様に、例えば、ポーラスアルミナ層14の表面に、硬化性樹脂を付与して硬化性樹脂層を形成し、硬化性樹脂を硬化させることにより新たな筒状樹脂フィルムを形成し、その後アルミニウム膜を形成する工程と、陽極酸化工程とを行うことによりリワークすることができる。例えば、支持体72を用いて作製された型100aにおいて、支持体72に対する筒状樹脂フィルム76の接着性や密着性が高いときは、上記のように、ポーラスアルミナ層14の表面に、硬化性樹脂を付与して硬化性樹脂層を形成し、硬化性樹脂層を硬化させることにより、新たな筒状樹脂フィルムを形成し、その後アルミニウム膜を形成する工程と、陽極酸化工程とを行うことにより、筒状樹脂フィルム76を剥離することなくリワークしてもよい。
例えば、円筒状のアルミニウム管やアルミニウム円柱の表面を直接陽極酸化することにより作製されたロール状の型は、ポーラスアルミナ層が磨耗したときは、ロール状の型全体を交換することとなるが、上記のいずれの方法においても、円筒状の支持体12やロール状の支持体72は交換する必要がなく、低コストである。
支持体72として、メタルスリーブ72mを用いて作製された型100bや型100cは、支持体72として円柱状の支持体を用いて作製された型に比べリワークが容易である。メタルスリーブ72mを用いて作製された型(型100b(図4(f)および型100c(図6(e))は、支持体72として円柱状の支持体を用いた型に比べ軽いので、取り扱いが容易である。従って上記のリワーク方法において、フィルムを剥離する工程や、硬化性樹脂層を形成する工程を比較的容易に行うことができる。また、筒状樹脂フィルム76とメタルスリーブ72mとの密着性や接着性が高いときは、メタルスリーブ72mを含む型全体を交換すればよい。円柱状の支持体を用いて作製されたロール状の型のように、そのまま反射防止膜の作製に用いる場合において型全体を交換するときに比べ、低コストである。円筒状の支持体12としてメタルスリーブを用いて作製された型も同様に、リワーク工程を比較的容易に行うことができる。
また、ロール状の支持体72として、アルミニウムやステンレス鋼製の管を用いて作製された型100aや、円筒状の支持体12としてアルミニウムやステンレス鋼製の管を用いて作製された型100も、円柱状の支持体を用いて作製された型に比べ軽いので、リワーク工程を比較的容易に行うことができるという利点がある。
本発明による実施形態の型の製造方法は、モスアイ用型以外の型の作製にも用いることができる。例えば、フォトニック結晶を形成する型の作製に用いることができる。