JP5042744B2 - エレクトロスラグ溶接方法 - Google Patents

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Description

本発明は、厚鋼板のエレクトロスラグ溶接方法に関し、特に建築鉄骨として使用される四面ボックス柱を構成するダイヤフラムとスキンプレートとの溶接に適用されるエレクトロスラグ溶接方法に関する。
一般に、エレクトロスラグ溶接法は、大入熱1パス溶接が可能なため、他の溶接法に比べて高能率な溶接が可能であり、建築および橋梁などの溶接構造物における鉄骨として使用される四面ボックス柱を構成するスキンプレートとダイヤフラム(補強財)とを立向溶接する場合に多く用いられている。その一方で、エレクトロスラグ溶接法は、溶接入熱が500kJ/cm程度以上と、一般のアーク溶接に比べて大きいため、溶接で形成される溶接金属の冷却速度が小さく、溶接金属の靭性確保が容易ではないという問題点がある。これは、溶接金属の冷却速度が遅いために、溶接金属が凝固した後の冷却過程でオーステナイト(以下、オーステナイトを略称でγということもある)粒界から粗大な初析フェライト(以下、略称でフェライトをαということもある)が生成し、また、粒内組織も粗大化し、これらが溶接金属の靭性低下の原因となっていると考えられている。
建築、橋梁などの溶接構造物では、地震時に脆性破壊による倒壊を回避するため、その溶接部の高靭性化の社会的要請が極めて大きい。この要請に対して、建築、橋梁などに適用される鋼材として溶接熱影響部(以下、HAZ(Heat Affected Zone)ということもある)の靭性として、0℃における2mmVノッチシャルピー衝撃試験の吸収エネルギーで70J以上を保証する高HAZ靭性鋼が開発されている。また、溶接構造物の安全性を高めるために、溶接金属についても鋼材と同等以上の靭性が要求され、従来から、エレクトロスラグ溶接により溶接部に形成された溶接金属の靭性を向上するための技術がいろいろと検討されている。
例えば、引張強度:500〜600MPa級の鋼を溶接入熱800kJ/cm以上のエレクトロスラグ溶接をする際に、溶接金属の靭性向上を目的として、C、Si、Mn、Mo、Ni、Ti、B、N及びOの含有量を適正化した大入熱エレクトロスラグ溶接用ワイヤが提案されている(例えば特許文献1、参照)。この特許文献1によれば、板厚50mmのダイアフラムと板厚80mmのスキンプレート、または、板厚85mmのダイアフラムと板厚85mmのスキンプレートとの溶接により0℃でのシャルピー吸収エネルギーで110J以上の溶接金属が得られたことが開示されている。
また、引張強度:400〜600MPa級の鋼を溶接入熱500kJ/cm以上のエレクトロスラグ溶接をする際に、溶接金属の靭性向上を目的として、C、Si、Mn、P、S、N及びOの含有量を適正化した大入熱エレクトロスラグ溶接用裏当金が提案されている(例えば特許文献2、参照)。この特許文献2によれば、板厚50mmのダイアフラムと板厚50mmのスキンプレートとの溶接により0℃でのシャルピー吸収エネルギーで70J以上の溶接金属が得られたことが開示されている。
しかしながら、エレクトロスラグ溶接は上述したように超大入熱溶接であり、鋼材(母材)や裏当金の溶接金属への溶け込み率(以下、単に希釈率ということがある)が大きいため、溶接ワイヤの化学組成だけでなく、ダイアフラム及びスキンプレートの鋼材や裏当金の希釈による化学組成の影響を強く受ける。また、エレクトロスラグ溶接では、上述したように溶接入熱量が大きいことに加え、溶接入熱量はダイアフラムの板厚に応じて変更されるため、ダイアフラムの板厚の条件により溶接金属の冷却速度は変動し、さらに、ダイアフラムの板厚が同じでも、スキンプレートの板厚が薄くなると、スキンプレートの熱容量が小さくなるため、溶接金属の冷却速度がより遅くなる。
このようにエレクトロスラグ溶接は、ダイアフラムの板厚に応じて変更される溶接入熱量や、ダイアフラムに対するスキンプレートの板厚比の条件により、鋼材(母材)や裏当金の溶接金属への溶け込み率、および、溶接金属の冷却速度は大きく変化するため、上記特許文献1または特許文献2で提案される溶接ワイヤまたは裏当金のみによる溶接金属の成分組成調整では、溶接金属の組織及び特性を制御することに限界があった。
また、上記特許文献1などにより提案される従来の大入熱エレクトロスラグ溶接用溶接ワイヤは、板厚50mm以上のダイアフラムの溶接入熱量が高く、溶接金属の冷却速度が遅い条件において、溶接金属の焼入性を高め、靭性に有害な粒界フェライトの生成を抑制することにより、溶接金属の靭性向上効果が得るものである。しかし、同じ溶接入熱条件(同じダイアフラム板厚条件)でも、ダイアフラムに対するスキンプレートの板厚比を変更した場合には、溶接金属の冷却速度が大きく変化するため、同じ溶接金属の靭性向上効果を確保するためには、ダイヤフラム厚、スキンプレート厚の組み合わせ毎に溶接ワイヤの化学成分を設計する必要がある。
すなわち、溶接後の溶接金属の冷却速度が小さくなる、ダイヤフラムの板厚が厚く溶接入熱が大きい上に、スキンプレートの板厚が薄い条件で、溶接金属の粒界フェライト生成を抑制しようとすれば、必然的に溶接ワイヤは高合金組成となる。しかし、この高合金組成の溶接ワイヤを用いて、溶接後の溶接金属の冷却速度が比較的大きくなる、板厚が薄いダイヤフラムと板厚が厚いスキンプレートとを溶接する場合には、溶接金属の焼入性は過大となり、硬質のベイナイト主体組織となるため、溶接金属の靭性は劣化する。
反対に、板厚が薄いダイヤフラムと板厚が厚いスキンプレート条件に適合する比較的焼入れ性の低い合金組成の溶接ワイヤを用いて、板厚が厚いダイヤフラムと薄スキンプレートを溶接する場合には、溶接金属の焼入性が大幅に不足し、溶接金属の粗大な粒界フェライト生成が抑制できず、靭性が劣化する。
また、上記特許文献2により提案される大入熱エレクトロスラグ溶接用裏当金は、板厚50mm以上のダイアフラムの溶接入熱量が高く、溶接金属の冷却速度が遅い条件において、裏当金から溶接金属への成分溶け込み(希釈)を考慮して裏当金の化学成分を設計し、溶接金属の焼入性を高め、靭性に有害な粒界フェライトの生成を抑制するものである。しかし、裏当金の希釈率は、たかだか10%程度であり、また、同じ溶接入熱条件(同じダイアフラム板厚条件)でも、ダイアフラムに対するスキンプレートの板厚比を変更した場合には、溶接金属の冷却速度が大きく変化するため、裏当金の化学成分を調整するだけでは、ダイヤフラムとスキンプレートの板厚の広い組み合わせにおいて、靭性向上効果を確保することは困難である。
以上のとおり、エレクトロスラグ溶接における、広い範囲のダイヤフラムとスキンプレートの板厚の組み合わせ、具体的には、ダイヤフラムの板厚が25mm〜100mm、スキンプレートの板厚が20mm〜100mm(但し、スキンプレートの板厚は、ダイヤフラムの板厚以下である)の様々な組み合わせにおいて、安定して良好な溶接金属の靭性を確保できる技術は確立されていないのが現状である。
特に、従来技術では、溶接入熱量が大きくなるダイヤフラムの板厚が50mm以上、さらには、スキンプレートの板厚がダイヤフラムの板厚の2/3以下の鋼板の組み合わせ条件では、溶接後の溶接金属の冷却速度がより遅くなるため、良好な溶接金属の靭性を確保することが困難であった。
特開2002−79396号公報 特開2004−216384号公報
本発明は、上記従来技術の現状に鑑みて、特に建築鉄骨として使用される四面ボックス柱を構成するダイヤフラムとスキンプレートとの溶接に適用されるエレクトロスラグ溶接であって、ダイヤフラムの板厚が50mm以上、さらには、スキンプレートの板厚が、ダイヤフラムの板厚の2/3以下である、溶接入熱量が高く、鋼板及び裏当金からの成分の希釈率が高く、かつ溶接金属の冷却速度が遅くなる鋼板の板厚の組み合わせ条件でも、引張強度が400〜780MPa、かつ靭性が0℃でのシャルピー吸収エネルギーvE0で70J以上の溶接金属を安定的に確保できる、エレクトロスラグ溶接方法を提供することを目的とする。
発明者らの検討によれば、従来の大入熱エレクトロスラグ溶接用ワイヤまたは裏当金を用いて、溶接金属のミクロ組織を、例えば、靭性に有害な粒界フェライトを抑制し、かつ粒内組織を靭性向上に好ましい微細アシキュラーフェライトあるいは微細ベイナイトとすることにより、溶接金属の靭性を確保できる冷却速度範囲は限られることを確認した。特に、ダイヤフラムの板厚が50mm以上、さらには、スキンプレートの板厚が、ダイヤフラムの板厚の2/3以下の条件では、溶接入熱量が高く、鋼板及び裏当金からの成分の希釈率が高く、かつ溶接金属の冷却速度が極端に遅くなるため、溶接ワイヤによる成分調整や裏当金からの成分希釈を考慮して0℃でのシャルピー吸収エネルギーvE0で70J以上の溶接金属の靭性を確保することは実用的に困難である。
本発明者らは、上記溶接ワイヤによる成分調整や裏当金からの成分希釈を考慮した溶接金属のミクロ組織制御では、広い範囲でのダイヤフラム及びスキンプレートの板厚の組み合わせ条件及び溶接金属の冷却速度に応じて、溶接ワイヤ及び裏当金の成分設計をする必要があり、実用性に欠けるため、ミクロ組織の依存性が小さい、溶接金属靭性の支配因子について実験などにより調査した。
その結果、溶接金属の基本成分組成が所定の範囲であれば、広い範囲でのダイヤフラム及びスキンプレートの板厚の組み合わせ条件で、冷却速度により溶接金属のミクロ組織の変化する場合であっても、溶接ワイヤ、鋼板(ダイヤフラム、スキンプレート)、および、裏当金の溶接金属への各寄与度(希釈率)を考慮し、それぞれのC量およびN量を最適化することで、0℃でのシャルピー吸収エネルギーvE0で70J以上の溶接金属の靭性を確保することが可能となることを知見した。
本発明は、これらの知見を基になされたものであり、その要旨は下記の通りである。
(1) 板厚が50mm以上の鋼板1の端面を、該鋼板1の板厚2/3以下の板厚を有する鋼板2の表面に間隙を隔てて突き合わせ、該間隙の両側に配置された裏当金とによって開先を形成し、該開先空間内に、フラックスを充填すると共に給電ノズルを介して溶接ワイヤを送給しながら、給電ノズルを鉛直方向に引き上げて溶接するエレクトロスラグ溶接方法において、
前記溶接ワイヤの化学成分として、質量%で、
C:0.005〜0.1%、
Si:0.01〜1%、
Mn:0.1〜2.5%、
P:0.02%以下、
S:0.01%以下、
Al:0.002〜0.1%、
Ti:0.002〜0.3%、
B:0.0003〜0.015%、
N:0.001〜0.015%を含有し、かつ、
O:0.01%以下に制限し、
残部が不可避的不純物およびFeからなる溶接ワイヤを用い、
前記裏当金の化学成分として、質量%で、
C:0.02〜0.25%、
Si:0.01〜1.5%、
Mn:0.1〜2.5%、
P:0.02%以下、
S:0.01%以下、
N:0.001〜0.015%を含有し、かつ、
O:0.01%以下に制限し、
残部が不可避不純物およびFeからなる裏当金を用いて、
前記鋼板1および鋼板2の化学成分として、質量%で、
C:0.02〜0.2%、
Si:0.01〜1%、
Mn:0.1〜2.5%、
P:0.02%以下、
S:0.01%以下、
Al:0.002〜0.1%、
N:0.001〜0.015%を含有し、かつ、
O:0.01%以下に制限し、
残部が不可避不純物およびFeからなる鋼板1および鋼板2を溶接し、
さらに、前記溶接ワイヤ、鋼板1、鋼板2、および、裏当金中にそれぞれ含有するCの質量%に基づいて下記(1)式により求められるX値が0.09以下であり、かつ、前記溶接ワイヤ、鋼板1、鋼板2、および、裏当金中にそれぞれ含有するNの質量%に基づいて下記(2)式により求められるY値が0.007以下とすることを特徴とするエレクトロスラグ溶接方法。
X=0.6×C+0.2×(CS1+CS2)+0.1×C ・・・(1)
ただし、上記C、CS1、CS2、および、Cはそれぞれ溶接ワイヤ、鋼板1、鋼板2、および、裏当金中に含有するCの質量%を示す。
Y=0.2×N+0.15×(NS1+NS2)+0.1×N ・・・(2)
ただし、上記N、NS1、NS2、および、Nはそれぞれ溶接ワイヤ、鋼板1、鋼板2、および、裏当金中に含有するNの質量%を示す。
)前記溶接ワイヤが、さらに、質量%で、
Mo:0.01〜2.5%、
Cr:0.01〜1.5%、
W:0.01〜1.5%、
Cu:0.01〜1.5%、
Ni:0.01〜6%、
Nb:0.002〜0.1%、
V:0.002〜0.5%、および、
Ta:0.002〜0.5%のうちの1種または2種以上を含有することを特徴とする前記(1)に記載のエレクトロスラグ溶接方法。
) 前記溶接ワイヤが、さらに、質量%で、
Ca:0.0002〜0.01%、
Mg:0.0002〜0.01%、および、
REM:0.0002〜0.01%のうちの1種または2種以上を含有することを特徴とする前記(1)または(2)に記載のエレクトロスラグ溶接方法。
)前記鋼板1および鋼板2が、さらに、質量%で、
Ti:0.002〜0.05%、
B:0.0003〜0.015%、
Mo:0.01〜1.5%、
Cr:0.01〜1.5%、
W:0.01〜1.5%、
Cu:0.01〜1.5%、
Ni:0.01〜6%、
Nb:0.002〜0.1%、
V:0.002〜0.5%、および、
Ta:0.002〜0.5%のうちの1種または2種以上を含有することを特徴とする前記(1)〜()のいずれかに記載のエレクトロスラグ溶接方法。
)前記鋼板1および鋼板2が、さらに、質量%で、
Ca:0.0002〜0.01%、
Mg:0.0002〜0.01%、および、
REM:0.0002〜0.01%のうちの1種または2種以上を含有することを特徴とする前記(1)〜()のいずれかに記載のエレクトロスラグ溶接方法。
)裏当金が、さらに、質量%で、
Al:0.002〜0.1%、
Ti:0.002〜0.05%、
B:0.0003〜0.015%、
Mo:0.01〜1.5%、
Cr:0.01〜1.5%、
W:0.01〜1.5%、
Cu:0.01〜1.5%、
Ni:0.01〜6%、
Nb:0.002〜0.1%、
V:0.002〜0.5%、および、
Ta:0.002〜0.5%のうちの1種または2種以上を含有することを特徴とする前記(1)〜()のいずれかに記載のエレクトロスラグ溶接方法。
)裏当金が、さらに、質量%で、
Ca:0.0002〜0.01%、
Mg:0.0002〜0.01%、および、
REM:0.0002〜0.01%のうちの1種または2種以上を含有することを特徴とする前記(1)〜()のいずれかに記載のエレクトロスラグ溶接方法。
本発明によれば、特に建築鉄骨として使用される四面ボックス柱を構成するダイヤフラムとスキンプレートとの溶接に適用されるエレクトロスラグ溶接であって、ダイヤフラムの板厚が50mm以上、さらには、スキンプレートの板厚が、ダイヤフラムの板厚の2/3以下である、溶接入熱量が高く、鋼板及び裏当金からの成分の希釈率が高く、かつ溶接金属の冷却速度が遅くなる鋼板の板厚の組み合わせ条件でも、引張強度が400〜780MPa、かつ靭性が0℃でのシャルピー吸収エネルギーvE0で70J以上の溶接金属を安定的に確保できる、エレクトロスラグ溶接方法を提供することができる。本発明の適用によって、溶接金属の基本成分組成が所定の範囲であれば、広い範囲でのダイヤフラム及びスキンプレートの板厚の組み合わせ条件で、冷却速度により溶接金属のミクロ組織の変化する場合であっても、溶接ワイヤ、鋼板(ダイヤフラム、スキンプレート)、および、裏当金の溶接金属への各寄与度(希釈率)を考慮し、それぞれのC量およびN量を最適化することで、溶接金属の靭性を安定的に確保することができるため、本発明による産業上の貢献は極めて大きい。
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明する。一般に、建築鉄骨におけるボックス柱をエレクトロスラグ溶接する方法は、概略以下のように行なわれる。ボックス柱は、4枚の溶接構造用厚鋼材からなるスキンプレートで構成されている。そして、ボックス柱の内側のスキンプレート表面に対して、補強材としてダイヤフラムの端面を前記スキンプレート表面との間に所定の間隙(開先幅)を隔てて突合せ、この間隙の両側に2枚の裏当金を前記スキンプレート表面及びダイヤフラム端面に当接し、配置する。溶接する際は、スキンプレート表面、ダイヤフラム端面、及び裏当金によって囲まれた開先空間内に、フラックスを充填すると共に給電ノズルを挿入し、この給電ノズル内にワイヤを送給しながら給電ノズルを垂直方向に引き上げつつ溶接する。
このボックス柱の非消耗ノズル式エレクトロスラグ溶接は、建築用途が大半であるため、スキンプレート及びダイヤフラムとして使用される鋼材としては、一般に、JIS規格で規定されている溶接構造用熱間圧延鋼(例えば、SM材490、SM520及びSM570等)が挙げられる。特に、靭性及び耐ラメラティア特性が要求される場合には、建築構造用圧延鋼(例えば、SN400、SN490及びSA440等)が使用される。また、溶接ワイヤとしては、溶接金属に対する強度及び靭性要求に応じて、例えば、JIS Z3353 YES52又はJIS Z3353 YES62相当品が用いられる。一方、裏当金は、構造部材ではないため、通常、鋼材の強度レベルに関わらず、490MPa級の平鋼(フラットバー)が用いられる場合が多いが、スキンプレート及びダイヤフラムと同等の鋼材が用いられる場合もあり得る。
本発明は、通常のエレクトロスラグ溶接方法において、ダイヤフラムに相当する鋼板1の板厚が50mm以上の端面を、この鋼板1の板厚以下の板厚を有するスキンプレートに相当する鋼板2の表面に間隙を隔てて突き合わせ、該間隙の両側に配置された裏当金とによって開先を形成し、該開先空間内に、フラックスを充填すると共に給電ノズルを介して溶接ワイヤを送給しながら、給電ノズルを鉛直方向に引き上げて溶接することを前提とする。通常のエレクトロスラグ溶接方法では、溶接入熱は、ダイヤフラムに相当する鋼板1の板厚に応じて設定され、鋼板1の板厚が50mm以上の場合には、溶接入熱が高くなり、溶接金属の冷却速度が遅くなるため、粒界フェライトの生成、粒内組織の粗大化により溶接金属の靭性が低下しやすい条件となる。
本発明は、鋼板1の板厚が50mm以上、さらには、鋼板2(スキンプレートに相当)が鋼板1の2/3以下の板厚の条件で、冷却速度の低下により溶接金属の靭性が低下しやすい条件において、以下に示すように、溶接ワイヤ、鋼板1(ダイヤフラムに相当)、鋼板2(スキンプレートに相当)、および、裏当金の基本成分を規定するととともに、特にミクロ組織に寄らず、溶接金属の靭性を大きく支配する溶接ワイヤ、鋼板1(ダイヤフラムに相当)、鋼板2(スキンプレートに相当)、および、裏当金のC量及びN量をそれぞれの溶接金属への寄与度(希釈率)を考慮し、最適化することを特徴要件とする。
先ず、本発明の第1の特徴要件であるミクロ組織に寄らず、溶接金属の靭性を大きく支配する溶接ワイヤ、鋼板1(ダイヤフラムに相当)、鋼板2(スキンプレートに相当)、および、裏当金のC量及びN量をそれぞれの溶接金属への寄与度(希釈率)を考慮し、最適化条件の限定について以下に説明する。
本発明者らは、種々の化学組成の溶接ワイヤ、鋼板、裏当金を用い、図1に示すT字継手である、補強材としてのダイヤフラムに相当する鋼板1と、4面ボックス柱のスキンプレートに相当する鋼板2との板厚の組み合わせも種々変化させてエレクトロスラグ溶接を行い、溶接ワイヤ、鋼板1、鋼板2、および、裏当金の各々の化学組成と溶接金属靭性との関係を調べた。その結果、溶接ワイヤ、鋼板1、鋼板2、および、裏当金の各々が本発明で規定するところの基本化学組成の範囲内であり、下記(1)式から求められる、溶接金属中のC量に関する指標であるX値が0.09以下、好ましくは0.08以下で、かつ、下記(2)式から求められる、溶接金属中のN量に関する指標であるY値が0.007以下の条件を満足する、溶接ワイヤ、鋼板1、鋼板2、および、裏当金を用いることにより、広い範囲のダイヤフラム及びスキンプレートの板厚の組み合わせで、冷却速度の低下により溶接金属のミクロ組織が変化する条件でも、引張強度が400〜780MPa、かつ靭性が0℃でのシャルピー吸収エネルギーvE0で70J以上の溶接金属を安定的に確保できることを見いだした。
X=0.6×C+0.2×(CS1+CS2)+0.1×C ・・・(1)
ただし、上記C、CS1、CS2、および、Cはそれぞれ溶接ワイヤ、鋼板1、鋼板2、および、裏当金中に含有するCの質量%を示す。
Y=0.2×N+0.15×(NS1+NS2)+0.1×N ・・・(2)
ただし、上記N、NS1、NS2、および、Nはそれぞれ溶接ワイヤ、鋼板1、鋼板2、および、裏当金中に含有するNの質量%を示す。
上記(1)式及び(2)式は、種々ダイヤフラム及びスキンプレートの板厚の組み合わせ条件において、エレクトロスラグ溶接を行い、溶接ワイヤ、鋼板1、鋼板2、および、裏当金の各々のC量及びN量と溶接金属靭性との関係を調べ、実験的な回帰式により、溶接金属靭性に及ぼす溶接ワイヤ、鋼板1、鋼板2、および、裏当金組成のそれぞれのC量及びN量の寄与率(希釈率や金属歩留)を求めることにより導かれるものである。
溶接ワイヤ、鋼板1、鋼板2、および、裏当金からの溶接金属へのC量及びN量の希釈率は、溶接継手形状や溶接条件等に影響を受けるが、溶接入熱を決めるダイヤフラムの板厚にほぼ支配されるため、上記(1)式及び(2)式も、ダイヤフラムの板厚により変わる。本発明では、本発明者らの実験結果から、従来技術では溶接金属の靭性確保が困難となる、鋼板1(ダイヤフラムに相当)の板厚が50mm以上、さらには、鋼板2(スキンプレートに相当)が鋼板1の2/3以下の板厚の条件で、エレクトロスラグ溶接が工業的に適用できる100m程度までの板厚範囲において上記(1)式及び(2)式を実験的に回帰式から導出するのが好ましい。この鋼板1(ダイヤフラムに相当)の板厚が50mm以上、100mm以下の条件では、溶接ワイヤ、鋼板1、鋼板2、および、裏当金から溶接金属への希釈率の変動は少なく、溶接金属の靭性との相関関係のばらつきが少なくなる。
図2は、それぞれ成分組成を変えた溶接ワイヤ、鋼板1、鋼板2、および、裏当金を用いてエレクトロスラグ溶接して得られた溶接金属中心の0℃における2mmVノッチシャルピー衝撃吸収エネルギー(vE)と、X値(溶接金属中のC量に関する指標)との関係を示す図である。なお、溶接金属のY値(溶接金属中のN量に関する指標)は、0.004〜0.007であった。
図3は、それぞれ成分組成を変えた溶接ワイヤ、鋼板1、鋼板2、および、裏当金を用いてエレクトロスラグ溶接して得られた溶接金属中心の0℃における2mmVノッチシャルピー衝撃吸収エネルギー(vE)と、および、Y値(溶接金属中のN量に関する指標)との関係を示す図である。なお、溶接金属のX値(溶接金属中のC量に関する指標)は、0.006〜0.009であった。
図2及び図3は何れも、鋼板1(ダイヤフラムに相当)の板厚が50mm及び60mmの2種類で、鋼板2(スキンプレートに相当)の板厚が、鋼板1と同一板厚である、50mm及び60mm、並びに、鋼板1の板厚の2/3以下となる、25mm及び35mmの4種類を用いて、鋼板1と鋼板2の板厚をそれぞれ組み合わせた8条件(=2×4)で行なったものである。
また、鋼板1、鋼板2は引張強度が490〜780MPa級の化学組成に調整し、溶接ワイヤも引張強度490〜780MPa級の溶接金属に相当する化学組成に調整し、それぞれの化学組成の範囲内で変化させた。また、裏当金も通常市販されているフラットバーや、上記引張強度が490〜780MPa級の鋼板1、鋼板2から切り出した鋼板等を用いて同様の化学組成の範囲内で変化させた。
また、溶接金属中心の0℃における2mmVノッチシャルピー衝撃試験片5の採取位置は図4に示すように溶接金属中心がノッチ6位置になるように採取した。
図2に示す、溶接金属のX値(溶接金属中のC量に関する指標)と靭性との関係グラフから、溶接金属のX値が小さいほど靭性は向上し、X値が0.09以下の条件で、0℃における2mmVノッチシャルピー衝撃吸収エネルギー(vE)が70J以上の高い靭性の溶接金属が得られることが分かる。
また、図3に示す、溶接金属のY値(溶接金属中のN量に関する指標)と靭性との関係グラフから、溶接金属のY値が小さいほど靭性は向上し、Y値が0.007以下の条件で、0℃における2mmVノッチシャルピー衝撃吸収エネルギー(vE)が70J以上の高い靭性が得られることが分かる。
なお、図2及び3で示した実験は、上記のとおり、鋼板1(ダイヤフラムに相当)の板厚が50mm以上で、この鋼板1と鋼板2(スキンプレートに相当)の板厚の組み合わせ条件も広い範囲のため、溶接金属の冷却速度も異なり、得られた溶接金属のミクロ組織は、靭性にとって好ましい低温で変態したベイナイト主体組織および全面アシキュラーフェライト組織から、靭性に有害な粒界フェライトが発達した、粒界フェライトとアシキュラーフェライトとの混合組織までを含んだものであった。このように、溶接金属の靭性に好ましくないマクロ組織が生成するような広い範囲での溶接金属組織の何れにおいても、溶接金属の靭性は、溶接金属のC量及びN量に強く支配され、溶接金属のC量に関する指標であるX値を0.09以下とし、かつ、溶接金属のN量に関する指標であるY値を0.007以下とすることにより、溶接金属の靭性を0℃における2mmVノッチシャルピー衝撃吸収エネルギー(vE)で70J以上に安定的に向上することが可能となる。
以上から、本発明では、鋼板1(ダイヤフラムに相当)の板厚が50mm以上、さらには、鋼板2(スキンプレートに相当)が鋼板1の2/3以下の板厚の条件で、冷却速度の低下により溶接金属の靭性が低下しやすい条件において、ミクロ組織に寄らず、溶接金属の靭性を大きく支配する溶接金属中のC量及びN量を最適に制御し、溶接金属の靭性を0℃における2mmVノッチシャルピー衝撃吸収エネルギー(vE)で70J以上に安定的に向上するために、上記(1)式で求められる溶接金属のC量に関する指標であるX値を0.09以下とし、かつ、上記(2)式で求められる溶接金属のN量に関する指標であるY値を0.007以下とする。
本発明は、以上の溶接金属のC量に関する指標であるX値、N量に関する指標であるYを満足するように、溶接ワイヤ、鋼板1、鋼板2、および、裏当金の成分組成を調整することを第1の特徴とするが、目的とする溶接金属の強度と靭性を得るためには、溶接ワイヤ、鋼板1、鋼板2、および、裏当金の化学組成を以下のように限定する必要がある。以下にその限定理由を説明する。なお、以下の説明において、「%」は特に説明がない限り「質量%」を意味するものである。
先ず、本発明における溶接ワイヤの成分組成の限定理由について説明する。
本発明において、溶接ワイヤの化学成分は、質量%で、C:0.005〜0.1%、Si:0.01〜1%、Mn:0.1〜2.5%、P:0.02%以下、S:0.01%以下、Al:0.002〜0.1%、Ti:0.002〜0.3%、B:0.0003〜0.015%、N:0.001〜0.015%を含有し、かつO:0.01%以下に制限し、必要に応じて、Mo:0.01〜2.5%、Cr:0.01〜1.5%、W:0.01〜1.5%、Cu:0.01〜1.5%、Ni:0.01〜6%、Nb:0.002〜0.1%、V:0.002〜0.5%、および、Ta:0.002〜0.5%のうちの1種または2種以上を含有し、さらに必要に応じて、Ca:0.0002〜0.01%、Mg:0.0002〜0.01%、および、REM:0.0002〜0.01%のうちの1種または2種以上を含有し、残部が不可避不純物ならびにFeからなることを特徴とする。
以下に溶接ワイヤの各化学成分の含有量の限定理由を説明する。
[溶接ワイヤ中のC]
溶接ワイヤのCは、溶接金属の強度を向上させるために必要な成分であり、引張強度780MPa級まで溶接金属の強度を確保しようとすると、溶接ワイヤ中には0.005%以上含有する必要がある。しかしながら、溶接ワイヤ中のCが0.1%を超えて含有されると、溶接金属中のC量も過剰となり、上記(1)式で求められる溶接金属中のC量に関する指標であるX値を0.09以下にすることが容易でなくなり、溶接金属の靭性を劣化させるため、好ましくない。従って、本発明においては溶接ワイヤ中のC量は0.005〜0.1%に限定する。なお、溶接金属中のC量は低い方が好ましいため、例えば、0℃におけるシャルピー衝撃試験の吸収エネルギーが100J以上の高靭性を得ようとする場合には溶接ワイヤのC含有量の上限を0.02%未満に制限することがより好ましい。
[溶接ワイヤのSi]
溶接ワイヤのSiは、脱酸元素として働き、溶接金属の不純物としての酸素量を減少させる成分であり、本発明では、0.01%以上含有させる必要がある。また、Siは固溶強化により溶接金属の強度を高める上で有効である。しかしながら、1%を超えてワイヤ中に含有すると溶接金属の硬さを過剰に高め、また靭性に有害な島状マルテンサイトの増加を促進して溶接金属の靭性を劣化させるため、その含有量の上限を1%とした。
[溶接ワイヤのMn]
溶接ワイヤのMnは、溶接金属の強度の向上及び脱酸作用を有するが、溶接ワイヤ中の含有量が0.1%を下回ると、十分な脱酸作用と溶接金属の十分な強度が得られず、また、溶接金属の酸素量が高くなるために、溶接金属の靭性を劣化させる。そのため、ワイヤ中の含有量の下限を0.1%とする。一方ワイヤ中のMn含有量が2.5%を超えると、溶接金属組織が粗大なベイナイト組織となって靭性が劣化する可能性が高くなるため、本発明においては、溶接ワイヤ中のMn含有量の上限を2.5%とする。
[溶接ワイヤのP]
溶接ワイヤのPは不純物元素であり、溶接金属中の含有量を低減するために溶接ワイヤ中の含有量も極力低減することが好ましいが、靭性確保の点から許容できる量として上限を0.02%とした。なお、Pによる溶接金属の靭性劣化を確実に抑制するためには溶接ワイヤにおけるP含有量を0.01%以下にすることがより好ましい。
[溶接ワイヤのS]
溶接ワイヤのSも不純物元素であり、溶接金属の延性、靭性をともに劣化させるため、溶接ワイヤ中の含有量も極力低減する必要がある。延性、靭性の劣化が大きくなく、実用的に許容できる上限として、その含有量を0.01%以下とする。なお、Sによる溶接金属の延性、靭性劣化を確実に抑制するためには溶接ワイヤにおけるS含有量を0.005%以下にすることがより好ましい。
[溶接ワイヤのAl]
溶接ワイヤのAlは、脱酸元素として働き、溶接金属中の酸素量制御に有効である。溶接金属の脱酸に有効に寄与するためには溶接ワイヤ中に0.002%以上含有させる必要がある。一方、溶接金属中にAlが過剰に含有されると、粗大な介在物が形成される可能性が高く、また、溶接金属においてアシキュラーフェライトの生成が抑制されて組織が粗大となるため、靭性が劣化する。これらの悪影響が生じないための溶接ワイヤ中のAlの上限は0.1%であるため、本発明においては溶接ワイヤ中のAlの範囲を0.002〜0.1%とする。
[溶接ワイヤのTi]
溶接ワイヤのTiは、Si、Alと同様、脱酸元素としての効果を有するとともに、Tiを含有する比較的微細な酸化物を形成して溶接金属におけるアシキュラーフェライト核として組織微細化に寄与するため、靭性向上に有効な元素である。該効果が明確に生じる下限として、溶接ワイヤ中に0.002%以上含有させる必要があるが、溶接ワイヤ中のTi量が0.3%を超えると、溶接金属中に脆性破壊の起点となるような粗大な酸化物や窒化物を形成して溶接金属の靭性を劣化させるため、本発明においては、溶接ワイヤ中のTi含有量は0.002〜0.3%とする。
[溶接ワイヤのB]
溶接ワイヤのBは、溶接金属中に適正量含有されると、焼入性を高めて粗大な粒界フェライトを抑制し、靭性向上に顕著な効果を発揮するため、本発明においても靭性発現の基本となる、一定以上の組織微細化を担保するために必須の元素である。溶接金属中に適正量のBを含有させるには、溶接金属組成への寄与の最も大きい溶接ワイヤに含有させることが最も有効であることから、本発明においては溶接ワイヤに適正量のBを含有させることを必須要件とする。溶接金属中にBを含有させて組織微細化効果を確実に発揮するためには、溶接ワイヤ中のB含有量は0.0003%以上必要である。一方、溶接ワイヤ中のB含有量が0.015%超になると、溶接金属中のBが過剰となって粗大な上部ベイナイト組織になりやすいため、靭性確保上好ましくない。また、溶接金属の高温割れを助長する場合もある。そこで、本発明においては、溶接ワイヤのB量含有量を0.0003〜0.015%とする。
[溶接ワイヤのN]
溶接ワイヤのNは、溶接金属においてNは基本的には不純物元素であるため、極力低減することが好ましいが、溶接ワイヤ中のNの含有量を0.001%未満とすることは工業的に困難がともなうことから、その下限を0.001%とする。溶接ワイヤのN含有量が0.015%を超えて多くなると、鋼板や裏当金のN量によっては、上記(2)式で求められる溶接金属中のN量に関する指標であるY値が本発明を満足できず、溶接金属中Nが固溶状態でフェライトマトリックスの靭性を劣化させ、さらにBを窒化物として固定してしまい、溶接金属におけるBのオーステナイト粒界での初析フェライト変態の抑止効果を低下させる。そこで、本発明では、その溶接ワイヤ中の含有量を0.001〜0.015%とする。
[溶接ワイヤのO]
溶接ワイヤのOは、ワイヤ中に多量に存在すると、溶接ワイヤの製造性を阻害するため、好ましくない。また、エレクトロスラグ溶接における溶接金属中ではOは基本的には不純物元素であり、溶接金属の延性、靭性を劣化させるため、好ましくない。そのため、溶接ワイヤ中のO量は極力低減することが好ましいが、本発明においては、溶接ワイヤの製造性、溶接金属の材質劣化を生じない範囲として、その含有量の上限を0.01%とする。
以上が、溶接ワイヤの化学組成における必須成分の限定理由であるが、溶接金属の材質の調整を目的として、さらにMo、Cr、W、Cu、Ni、Nb、V、および、Taのうちの1種または2種以上を含有させることができる。
[溶接ワイヤのMo]
Moは、焼入性を高めて溶接金属組織のベイナイトあるいはアシキュラーフェライトの微細化を通して靭性向上に有効な元素であり、かつ、固溶強化、析出強化により強度向上にも有効な元素である。この効果を得るために溶接ワイヤに含有させる場合は、0.01%以上含有させる必要がある。しかしながら、2.5%を超えて過剰に含有されると溶接金属を過剰に硬化させ、溶接金属の靭性を著しく劣化させるので、本発明ではその含有量の上限を2.5%とする。
[溶接ワイヤのCr]
CrもほぼMoと同様の効果を有するため、ワイヤ中に含有させる場合の下限は0.01%とするが、過剰に含有させたときの靭性劣化がMoよりも顕著であるため、ワイヤ中の含有量の上限は1.5%とする。
[溶接ワイヤのW]
WもほぼCrと同様の効果を有するため、溶接ワイヤとしての含有量を0.01〜1.5%とする。
[溶接ワイヤのCu]
Cuは、オーステナイト安定化元素であり、溶接金属の焼入性を高めることにより、組織微細化を介した強度・靭性向上に有効な元素である。Cuを溶接ワイヤに含有させる場合、溶接金属の焼入性を確実に高めるためには溶接ワイヤの含有量としては0.01%以上必要である。一方、溶接ワイヤ中の含有量が 1.5%超であると、高温割れを生じやすくなるため、溶接ワイヤの製造性が劣化するため、好ましくない。本発明においては溶接ワイヤの製造性を劣化させないための含有量からその上限を1.5%に限定する。なお、溶接ワイヤ表面にCuメッキを施す場合は、該メッキ分も含有量に含める。
[溶接ワイヤのNi]
Niは溶接金属中に一定以上含有させると、固溶靱化効果によって靭性を高め、かつ焼入性向上、固溶強化によって同時に強度も高めることが可能な非常に有用な元素である。溶接ワイヤ中にNiを含有させる場合、溶接金属において、このNiの効果を明確に発揮するためには、溶接ワイヤ中のNi含有量は0.01%以上とする必要がある。一方、溶接ワイヤ中のNi含有量が6%超になると溶接金属の降伏応力の低下が著しく、必要な強度の確保が困難になるため、好ましくない。従って、本発明において溶接ワイヤにNiを含有させる場合は、溶接ワイヤ中のNi含有量は0.01〜6%とする。
[溶接ワイヤのNb]
Nbは、溶接金属中に含有されると、焼入性向上効果、析出強化によって、溶接金属の強度向上に有効である。溶接ワイヤ中にNbを含有させる場合、この効果を確実に発揮するためには、溶接ワイヤ中のNb含有量は0.002%以上とする必要がある。一方、溶接ワイヤ中のNb量が0.1%を超えると、溶接金属の強度が過大となり、また、粗大なNb析出物が形成されるために、溶接金属の靭性劣化が著しくなるため、好ましくない。そのため、本発明においては、溶接ワイヤ中にNbを含有させる場合、Nb含有量の範囲を0.002〜0.1%に限定する。
[溶接ワイヤのV]
Vは溶接金属中に含有されると、析出強化によって、溶接金属の強度向上に有効である。溶接ワイヤ中にVを含有させる場合、この効果を確実に発揮するためには、溶接ワイヤ中のV含有量は0.002%以上とする必要がある。一方、溶接ワイヤ中のV含有量が0.5%を超えると、溶接金属の強度が過大となるために、溶接金属の靭性劣化が著しくなるため、好ましくない。そのため、本発明において溶接ワイヤ中にVを含有させる場合、溶接ワイヤにおけるV含有量の範囲を0.002〜0.5%に限定する。
[溶接ワイヤのTa]
TaもVと同様、溶接金属中に含有されると、析出強化によって、溶接金属の強度向上に有効である。溶接ワイヤ中にTaを含有させる場合、この効果を確実に発揮するためには、溶接ワイヤ中のTa含有量は0.002%以上とする必要がある。一方、溶接ワイヤ中のTa含有量が0.5%を超えると、溶接金属の強度が過大となるために、溶接金属の靭性劣化が著しくなるため、好ましくない。そのため、本発明において溶接ワイヤ中にTaを含有させる場合、溶接ワイヤにおけるTa含有量の範囲を0.002〜0.5%に限定する。
本発明においては、さらに溶接金属の延性、靭性を改善する必要がある場合には、必要に応じてさらに、Ca、Mg、および、REMのうちの1種または2種以上を溶接ワイヤに含有させることができる。
[溶接ワイヤのCa、Mg、および、REM]
Ca、Mg、および、REMはいずれも硫化物の構造を変化させ、また溶接金属中での硫化物、酸化物のサイズを微細化して延性及び靭性向上に有効である。溶接ワイヤ中にこれら元素を含有させる場合、その効果を発揮するための下限の含有量は、いずれも0.0002%である。一方、過剰に含有させると、硫化物や酸化物の粗大化を生じ、延性、靭性の劣化を招くため、また、溶接ビード形状の劣化、溶接性の劣化の可能性も生じるため、上限をいずれも0.01%とする。
次に、本発明における鋼板1(補強材としてのダイヤフラムに相当)と鋼板2(4面ボックス柱のスキンプレートに相当)の成分組成の限定理由について説明する。
本発明において、鋼板1(補強材としてのダイヤフラムに相当)と鋼板2(4面ボックス柱のスキンプレートに相当)の成分組成はいずれも、質量%で、C :0.02〜0.2%、Si:0.01〜1%、Mn:0.1〜2.5%、P:0.02%以下、S:0.01%以下、Al:0.002〜0.1%、N:0.001〜0.015%を含有し、O:0.01%以下に制限し、必要に応じて、Ti:0.002〜0.05%、B:0.0003〜0.015%、Mo:0.01〜1.5%、Cr:0.01〜1.5%、W:0.01〜1.5%、Cu:0.01〜1.5%、Ni:0.01〜6%、Nb:0.002〜0.1%、V:0.002〜0.5%、および、Ta:0.002〜0.5%のうちの1種または2種以上を含有し、さらに必要に応じて、Ca:0.0002〜0.01%、Mg:0.0002〜0.01%、および、REM:0.0002〜0.01%のうちの1種または2種以上を含有し、残部が不可避不純物ならびにFeからなることを特徴とする。
なお、通常のエレクトロスラグ溶接において、鋼板1(補強材としてのダイヤフラムに相当)と鋼板2(4面ボックス柱のスキンプレートに相当)から溶接金属への希釈率はほぼ同程度であるため、鋼板1と鋼板2の何れの成分組成も同一組成としても溶接金属の靭性に対する効果は同等に得られる。なお、鋼板1と鋼板2の何れの成分組成は、本発明で規定する化学成分組成の範囲内であれば、両者の化学成分組成が異なっても構わないことは言うまでもない。
以下に鋼板1ならびに鋼板2の各化学成分の含有量の限定理由を説明する。
[鋼板1及び鋼板2のC]
鋼板1ならびに鋼板2のCは、引張強度が400〜780MPa級において、鋼板の強度を確保する上で0.02%以上含有させる必要がある。一方、鋼板中に0.2%超含有させると、鋼板の靭性や溶接熱影響部靭性、さらには耐溶接割れ性の劣化が大きくなって構造用鋼としての安全性が損なわれることと、希釈によって溶接金属のC含有量が過大となって、溶接ワイヤ、裏当金組成によっては上記(1)式で求められる溶接金属のC量の指標であるX値が本発明範囲内を満足できなくなり、溶接金属の靭性を劣化させる懸念があるため、本発明においては鋼板1ならびに鋼板2のC含有量の上限を0.2%とする。
[鋼板1及び鋼板2のSi]
鋼板1ならびに鋼板2のSiは、脱酸元素として、また、鋼板の強度確保に有効な元素である。0.01%未満の含有では脱酸が不十分となり、また強度確保に不利である。逆に1%を超える過剰の含有は粗大な酸化物を形成して鋼板の延性や靭性劣化を招く。また、溶接金属中のSi含有量も過大となって靭性を損ねる恐れがある。そこで、鋼板におけるSi含有量の範囲は0.01〜1%とする。
[鋼板1及び鋼板2のMn]
鋼板1ならびに鋼板2のMnは、鋼板の焼入性を高めて強度、靭性の確保に必要な元素であり、最低限0.1%以上含有させる必要がある。しかし、2.5%を超える過剰な含有は、硬質相を生成するため、鋼板の靭性を著しく劣化させ、且つ、溶接熱影響部部の靭性、割れ性なども劣化させる。さらに溶接金属靭性にも悪影響を及ぼすようになるため、鋼板1ならびに鋼板2におけるMn含有量の上限を2.5%とする。
[鋼板1及び鋼板2のP]
鋼板1ならびに鋼板2のPは、不純物元素であり、鋼板の特性、溶接金属の特性に対してともに、極力低減することが好ましいが、靭性確保の点から許容できる量として上限を0.02%とした。
[鋼板1及び鋼板2のS]
鋼板1ならびに鋼板2のSも不純物元素であり、鋼板及び溶接金属の延性、靭性をともに劣化させるため、低減が必要である。延性、靭性の劣化が大きくなく、実用的に許容できる上限として、その含有量を0.01%以下とする。
[鋼板1及び鋼板2のAl]
鋼板1ならびに鋼板2のAlは、鋼板の脱酸、加熱オーステナイト粒径の微細化等に有効な元素であり、効果を発揮するためには鋼板中に0.002%以上含有する必要があるが、0.1%を超えて過剰に含有させると、粗大な酸化物を形成して鋼板の靭性、延性を極端に劣化させるため、また、溶接金属中のAl量が過大となって、靭性に有害な上部ベイナイトが形成されて溶接金属の靭性が劣化する恐れがあるため、本発明においては、鋼板1ならびに鋼板2におけるAl含有量を0.002%〜0.1%の範囲に限定する。
[鋼板1及び鋼板2のN]
鋼板1ならびに鋼板2のNは、のAlやTiと結びついてオーステナイト粒微細化に有効に働いて鋼板の靭性向上に寄与するが、その効果が明確になるためには0.001%以上含有させる必要がある一方、鋼板1ならびに鋼板2中のN含有量が0.015%を超えて多くなると、溶接ワイヤや裏当金のN量によっては上記(2)式で求められる溶接金属のN量に関する指標であるY値が本発明範囲内を満足できず、溶接金属中のNが固溶状態でフェライトマトリックスの靭性を大きく劣化させ、溶接金属中のさらにBを窒化物として固定してしまい、Bのオーステナイト粒界での初析フェライト変態の抑止効果を低下させ、靭性を劣化させる。そのため、本発明においては、鋼板1ならびに鋼板2中のN量は上限を0.015%とする。
[鋼板1及び鋼板2のO]
鋼板1ならびに鋼板2のOは、不純物元素であり、酸化物による悪影響で鋼板の延性、靭性に悪影響を与え、また、溶接金属のO量を高めて、同様に溶接金属の延性、靭性を劣化させるため、0.01%以下に制限する。
以上が、ダイヤフラムに相当する鋼板1ならびにスキンプレートに相当する鋼板2の化学組成における必須要件についての効果及び限定理由であるが、鋼板1ならびに鋼板2が必要とされる特性に応じて、さらに、Ti、B、Mo、Cr、W、Cu、Ni、Nb、V、および、Taのうちの1種または2種以上含有させることができる。該選択可能な元素においても、各々の組成範囲について、下記のように限定する必要がある。
[鋼板1及び鋼板2のTi]
鋼板1ならびに鋼板2のTiは、TiNの形成によりオーステナイト結晶粒を微細化して鋼板の靭性向上に有効な元素であるが、靭性向上を主たる目的として含有させる場合、効果を発揮できるためには0.002%以上の含有が必要である。一方、0.05%を超えると、粗大な酸化物や窒化物を形成して鋼板の靭性や延性を劣化させるため、上限を0.05%とする。
[鋼板1及び鋼板2のB]
鋼板1ならびに鋼板2のBは、極微量で焼入性を高める元素であり、鋼板の高強度化に有効な元素である。また、鋼板にBが適正量含有されていると、希釈によって溶接金属中にも含有されて溶接金属の粒界フェライト抑制に効果がある。必要に応じて鋼板1ならびに鋼板2にBを含有させる場合、これらの効果を明確に発揮させるためには、Bは鋼板中に0.0003%以上含有する必要がある。一方、0.015%を超えて鋼板中に含有させると、鋼片製造時や鋼板製造時の加熱段階で粗大な析出物を形成する場合が多いため、焼入性向上効果が不十分となり、かつ、鋼片の割れや析出物に起因した靭性劣化を生じる危険性も増加する。そのため、本発明において鋼板1ならびに鋼板2にBを含有させる場合は、鋼板1ならびに鋼板2におけるBの範囲を0.0003〜0.015%とする。
[鋼板1及び鋼板2のMo]
鋼板1ならびに鋼板2のMoは、焼入性向上と析出強化とによって鋼板の強度向上に有効な元素であるため、強度向上等で必要に応じて鋼板1ならびに鋼板2に含有させることができる。明瞭な効果を発揮するためには鋼板中に0.01%以上必要である。一方、Moが1.5%を超えて過剰に含有されると、強度が過度に高くなって鋼板の靭性を劣化させるため、本発明においては、鋼板1ならびに鋼板2にMoを含有させる場合は、鋼板1ならびに鋼板2におけるMoの含有量を0.01〜1.5%とする。
[鋼板1及び鋼板2のCr]
鋼板1ならびに鋼板2のCrもMoと同様の効果を有するため、Moと同様の理由により、鋼板1ならびに鋼板2におけるCr含有量は0.01〜1.5%に限定する。
[鋼板1及び鋼板2のW]
鋼板1ならびに鋼板2のWもMo、Wと同様の効果を有するため、同様の理由により、鋼板1ならびに鋼板2におけるW含有量は0.01〜1.5%に限定する。
[鋼板1及び鋼板2のCu]
鋼板1ならびに鋼板2のCuは、主として焼入性向上効果と固溶強化により鋼板の強度向上に有効な元素であるが、鋼板中に含有させる場合、効果を発揮するためには、0.01%以上含有させる必要がある。一方、鋼板中に1.5%超含有させると、熱間加工性に問題を生じるため、鋼板1ならびに鋼板2中のCu含有量は0.01〜1.5%に限定する。
[鋼板1及び鋼板2のNi]
鋼板1ならびに鋼板2のNiは、本質的に鋼板マトリクスの靭性を高めることが可能な元素であり、適正に用いればミクロ組織に大きく依存せず強度と靭性を同時に向上できるため、機械的性質向上には非常に有効な元素である。Niを鋼板に含有させる場合、効果を発揮するためには0.01%以上含有させる必要がある。鋼板中の含有量が多くなるにともなって強度−靭性バランスは向上するが、6%を超えて含有させても効果が飽和するため、経済性も考慮して、上限を6%とする。
[鋼板1及び鋼板2のNb]
鋼板1ならびに鋼板2のNbは、析出強化および変態強化により微量で鋼板の高強度化に有効な元素であり、また、加熱オーステナイト粒径微細化によって鋼板の靭性向上にも有効であるが、これらの効果を期待して鋼板1ならびに鋼板2にNbを含有させる場合、効果を発揮するためには、0.002%以上含有させる必要がある。ただし、0.1%を超えて過剰に含有させると、鋼板の靭性を劣化させ、かつ、希釈によって溶接金属中にも過剰なNbが含有されて溶接金属の靭性を劣化させる懸念も生じるため、本発明においては、鋼板1ならびに鋼板2のNb含有量は0.002〜0.1%の範囲に限定する。
[鋼板1及び鋼板2のV]
鋼板1ならびに鋼板2のVは、主として析出強化により微量で鋼板の高強度化に有効な元素であり、鋼板1ならびに鋼板2にVを含有させる場合、効果を発揮するためには、0.002%以上は必要である。ただし、0.5%を超えて過剰に含有させると、粗大な析出物を形成して鋼板の靭性を劣化させ、かつ、希釈によって溶接金属中にも過剰なVが含有されて溶接金属の靭性を劣化させる懸念も生じるため、本発明においては、鋼板1ならびに鋼板2のV含有量は0.002〜0.5%の範囲に限定する。
[鋼板1及び鋼板2のTa]
鋼板1ならびに鋼板2のTaも主として析出強化により微量で鋼板の高強度化に有効な元素であり、鋼板1ならびに鋼板2にTaを含有させる場合、効果を発揮するためには、0.002%以上は必要である。ただし、0.5%を超えて過剰に含有させると、粗大な析出物を形成して鋼板の靭性を劣化させ、かつ、希釈によって溶接金属中にも過剰なTaが含有されて溶接金属の靭性を劣化させる懸念も生じるため、本発明においては、鋼板1ならびに鋼板2のTa含有量は0.002〜0.5%の範囲に限定する。
本発明においては、さらに鋼板1ならびに鋼板2の延性、靭性を改善する必要がある場合には、必要に応じてさらに、Ca、Mg、および、REMの1種または2種以上を鋼板1ならびに鋼板2に含有させることができる。
[鋼板1及び鋼板2のCa、Mg、および、REM]
Ca、Mg、および、REMはいずれも硫化物の構造を変化させ、また鋼板中での硫化物、酸化物のサイズを微細化して鋼板の延性及び靭性向上に有効である。鋼板1ならびに鋼板2にこれら元素を含有させる場合、その効果を発揮するための下限の含有量は、いずれも0.0002%である。一方、過剰に含有させると、硫化物や酸化物の粗大化を生じ、延性、靭性の劣化を招くため、また、溶接ビード形状の劣化、溶接性の劣化の可能性も生じるため、上限をいずれも0.01%とする。
次に、本発明における裏当金の成分組成の限定理由について説明する。
裏当金は、希釈によって、溶接金属の強度、靭性に影響を及ぼすため、また、裏当金の材質確保や耐溶接割れの確保、等のために、その成分含有量を限定する必要がある。
すなわち、本発明において、裏当金の化学成分は、質量%で、C:0.02〜0.25%、Si:0.01〜1.5%、Mn:0.1〜2.5%、P:0.02%以下、S:0.01%以下、N:0.001〜0.015%を含有し、O:0.01%以下に制限し、必要に応じて、Al:0.002〜0.1%、Ti:0.002〜0.05%、B:0.0003〜0.015%、Mo:0.01〜1.5%、Cr:0.01〜1.5%、W:0.01〜1.5%、Cu:0.01〜1.5%、Ni:0.01〜6%、Nb:0.002〜0.1%、V:0.002〜0.5%、および、Ta:0.002〜0.5%のうちの1種または2種以上を含有し、さらに必要に応じて、Ca:0.0002〜0.01%、Mg:0.0002〜0.01%、および、REM:0.0002〜0.01%のうちの1種または2種以上を含有し、残部が不可避不純物ならびにFeからなることを特徴とする。
以下に裏当金の各化学成分の含有量の限定理由を説明する。
[裏当金のC]
裏当金のCは、希釈により溶接金属のC含有量を高めることにより溶接金属の焼入性を高めて組織を微細化し、それにより溶接金属の靭性を向上させる効果を有する。効果を発揮するためには、裏当材中にCを0.02%以上含有する必要がある。しかしながら、Cは溶接金属に過剰に含有すると、溶接ワイヤや鋼板のC含有量によっては上記(1)式で求められる溶接金属のC量に関する指標X値を本発明範囲内とすることが困難となる場合があり、その場合には、溶接金属の硬さが過剰となって溶接金属の靭性を劣化させ、また、裏当金の低温割れ感受性が高まって好ましくないため、裏当金のC含有量の上限は0.25%とする。
[裏当金のSi]
裏当金のSiは、希釈により溶接金属のSi含有量を高めることにより、溶接金属の脱酸や高強度化に有効である。これらの効果を発揮させるためには、裏当金中に0.01%以上含有させる必要があるが、1.5%を超えて裏当金中に含有すると溶接金属の硬さを過剰に高め、また靭性に有害な島状マルテンサイトの増加を促進して溶接金属の靭性を劣化させるため、さらに、裏当金の割れ感受性を高めるため、本発明においては、裏当金のSi含有量の範囲を0.01〜1.5%とする。
[裏当金のMn]
裏当金のMnも、希釈により溶接金属のMn含有量を高めることにより、溶接金属の脱酸や高強度化に有効である。裏当金における含有量が0.1%を下回ると効果が明確でなく、一方、2.5%を超えて裏当金中に含有すると、溶接金属の硬さを過剰に高め、溶接金属の靭性を劣化させる可能性が高いため、さらに、裏当金の割れ感受性を高めるため、本発明においては、裏当金の含有量の範囲を0.1〜2.5%とする。
[裏当金のP]
裏当金におけるPは不純物元素であり、希釈によって溶接金属中の含有量が増加すると溶接金属の靭性を劣化させるため、裏当金の含有量を極力低減して、希釈による溶接金属特性への悪影響を抑制すべき元素である。溶接金属への希釈率を考慮して、溶接金属靭性への悪影響が許容できる上限として、本発明においては、裏当金におけるP含有量を0.02%以下に限定する。
[裏当金のS]
裏当金におけるSも不純物元素であり、希釈によって溶接金属中の含有量が増加すると溶接金属の靭性や延性を劣化させるため、裏当金の含有量を極力低減して、希釈による溶接金属特性への悪影響を抑制すべき元素である。溶接金属への希釈率を考慮して、溶接金属靭性や延性への悪影響が許容できる上限として、本発明においては、裏当金におけるS含有量を0.01%以下に限定する。
[裏当金のN]
裏当金におけるNも不純物元素であり、溶接ワイヤや鋼板のN含有量によっては、上記(2)式で求められる溶接金属のN量に関する指標Y値が本発明範囲を逸脱して過大となる可能性があるため、裏当金における含有量を極力低減して、希釈による溶接金属特性への悪影響を抑制すべき元素である。溶接ワイヤ、鋼板のN含有量に対する制限が極端に厳しくならない上限として、また、裏当金自体への悪影響が許容できる上限として、本発明においては、裏当金におけるN含有量を0.015%以下とする。なお、裏当金におけるN含有量は低いほど好ましいが、工業的に低減できる量に限度があることから、本発明においては、裏当金におけるN含有量の範囲を0.001〜0.015%に限定する。
[裏当金のO]
裏当金におけるOも不純物元素であり、希釈によって溶接金属中の含有量が増加すると溶接金属の靭性や延性を劣化させるため、裏当金の含有量を極力低減して、希釈による溶接金属特性への悪影響を抑制すべき元素である。溶接金属への希釈率を考慮して、溶接金属靭性や延性への悪影響が許容できる上限として、本発明においては、裏当金におけるO含有量を0.01%以下に限定する。
以上が裏当金の化学組成における必須要件についての限定理由であるが、溶接金属の組織、特性制御のために、必要に応じて、Al、Ti、B、Mo、Cr、W、Cu、Ni、Nb、V、および、Taのうちの1種または2種以上を含有させることができる。
[裏当金のAl]
裏当金におけるAlは、希釈によって溶接金属に含有されると、溶接金属中で脱酸元素として働き、溶接金属の不純物としてのO量を減少させる有益な元素である。裏当金にAlを含有させる場合、効果を発揮させるためには、裏当金に0.002%以上含有させる必要がある。しかしながら、0.1%を超えて裏当中に含有すると、裏当金中に粗大な酸化物や窒化物が形成されて裏当金の材質に悪影響を及ぼす恐れがあるため、裏当金中の含有量の上限を0.1%とする。
[裏当金のTi]
裏当金におけるTiも、希釈によって溶接金属に含有されると、溶接金属中で脱酸元素として働き、溶接金属の不純物としてのO量を減少させる効果を有するとともに、溶接金属中で微細なアシキュラーフェライトの生成核となるTi酸化物等に寄与することで溶接金属の靭性向上に有効である。これらの効果を狙って裏当金にTiを含有させる場合、効果を明確に発揮させるためには裏当金中に0.002%以上含有する必要がある。しかしながら、0.05%を超えて裏当中に含有すると、裏当金中にTiの粗大な酸化物や窒化物が形成されて、裏当金の特性や、表面性状を劣化させて好ましくないため、本発明において、裏当金にTiを含有させる場合には、その含有量を0.002〜0.05%に制限する。
[裏当金のB]
裏当金におけるBは、希釈によって溶接金属に含有されると、溶接金属の焼入性向上を通じて、溶接金属の強度・靭性を向上させる効果を有する。裏当金にBを含有させる場合、その効果を十分得るためには、裏当金中にBは0.0003%以上含有する必要がある。しかしながら、0.015%を超えて裏当中にBが多量に含有されると、過剰なBが粗大な析出物を形成して溶接金属の靭性を劣化させるため、また、裏当金の製造性を阻害するため、その含有量の上限を0.015%とする。
[裏当金のMo]
裏当金におけるMoは、希釈によって溶接金属に含有されると、溶接金属の焼入性を高めて溶接金属組織のベイナイトあるいはアシキュラーフェライトの微細化を通じて、溶接金属の靭性向上に有効な元素であり、かつ、固溶強化、析出強化により強度向上にも有効な元素である。裏当金にMoを含有させてこの効果を得るためには、裏当金にMoは0.01%以上含有させる必要がある。しかしながら、裏当金に1.5%を超えて過剰に含有されると溶接金属を過剰に硬化させ、溶接金属の靭性を劣化させる恐れがあるため、また、裏当金の割れ感受性を高めるため、Mo含有量の上限を1.5%とする。従って、本発明においては、裏当金にMoを含有させる場合、その範囲を0.01〜1.5%に限定する。
[裏当金のCr]
裏当金のCrはMoと同様の効果を有するため、Moと同様の理由により、裏当金におけるCr含有量は0.01〜1.5%に限定する。
[裏当金のW]
裏当金のWはMoやWと同様の効果を有するため、Mo、Wと同様の理由により、裏当金におけるW含有量は0.01〜1.5%に限定する。
[裏当金のCu]
裏当金におけるCuは、希釈によって溶接金属に含有されると、溶接金属の焼入性を高めて組織を細粒化させる作用を有し、それにより溶接金属の靭性向上を図ることが可能である。裏当金にCuを含有させて該効果を発揮させるためには、裏当金中に0.01%以上含有する必要がある。しかしながら、1.5%を超えて裏当金中にCuを含有させると、溶接金属の硬さを過剰に上昇させ、靭性を劣化させるる恐れがあり、また、裏当金の製造性や耐溶接割れ性を劣化させるため、上限は1.5%とする。
[裏当金のNi]
裏当金におけるNiは、希釈によって溶接金属に含有されると、溶接金属の靭性向上に有効である。裏当金中にNiを含有させて該効果を確実に発揮するためには、裏当金中に0.01%以上含有させる必要がある。しかしながら、裏当金に6%を超えて含有させると、溶接金属の高温割れが助長される懸念が生じ、好ましくないため、また、裏当金の製造性や耐溶接割れ性を劣化させるため、上限は6%とする。
[裏当金のNb]
裏当金におけるNbは、希釈によって溶接金属に含有されると、溶接金属の焼入性を高めて粒界フェライトを抑制し、粒内アシキュラーフェライトを微細化することにより靭性向上に有効であり、また、変態強化、析出強化により強度調整元素としても有効である。裏当金中にNbを含有させてこれらの効果を発揮するためには、少なくとも0.002%以上、裏当金に含有させる必要がある。一方、0.1%を超えて過剰に裏当金中に含有させると、溶接金属の硬さが過大となって靭性劣化が著しくなるため、また、裏当金の耐溶接割れ性を劣化させるため、本発明においては、Nbを裏当金に含有させる場合の範囲を0.002〜0.1%に限定する。
[裏当金のV]
裏当金におけるVは、希釈によって溶接金属に含有されると、主として析出強化による強度調整元素として有効である。裏当金中にVを含有させて該効果を発揮するためには、少なくとも0.002%以上、裏当金に含有させる必要がある。一方、0.5%を超えて過剰に裏当金中に含有させると、溶接金属の硬さが過大となって靭性劣化が大きくなるため、また、裏当金の耐溶接割れ性を劣化させるため、本発明においては、Vを裏当金に含有させる場合の範囲を0.002〜0.5%に限定する。
[裏当金のTa]
裏当金におけるTaは、希釈によって溶接金属に含有されると、Vと同様、主として析出強化による強度調整元素として有効である。裏当金中にTaを含有させて該効果を発揮するためには、少なくとも0.002%以上、裏当金に含有させる必要がある。一方、0.5%を超えて過剰に裏当金中に含有させると、溶接金属の硬さが過大となって靭性劣化が大きくなるため、また、裏当金の耐溶接割れ性を劣化させるため、本発明においては、Taを裏当金に含有させる場合の範囲を0.002〜0.5%に限定する。
以上が裏当金の化学組成における溶接金属の組織、特性制御のために、必要に応じて裏当金に含有させることのできる、Al、Ti、B、Mo、Cr、W、Cu、Ni、Nb、V、および、Taのうちの1種または2種以上の限定理由であるが、本発明においては、溶接金属の組織、延性制御のために、あるいは、裏当金の製造性や材質確保のために、さらに必要に応じて、裏当金に、Ca、Mg、および、REMのうちの1種または2種以上を含有させることができる。
[裏当金のCa、Mg、および、REM]
Ca、Mg、および、REMは各々同様の効果を有し、溶接金属において脱酸元素として働き、不純物としての酸素の量を減少させるため、溶接金属の靭性、延性向上に有効である。また、裏当金の延性向上にも有効であり、特に裏当金のS量が多い場合にこれらの元素を適正量含有させると、延性確保に有効である。裏当金中にこれらの元素を含有させる場合、該効果を確実に得るためには、裏当金中に各々0.0002%以上含有する必要がある。しかしながら、0.01%を超えて裏当金中に含有すると、溶接金属中で粗大な酸化物を形成し、かえって靭性や延性を劣化させる恐れがあるため、本発明においてはCa、Mg、REMいずれも裏当金に含有させる場合には、その範囲を0.0002〜0.01%とする。
以下に、実施例により本発明の効果をさらに説明する。種々の化学組成の溶接ワイヤ、鋼板、裏当金を用い、図1に示すようなT字継手により溶接継手を作製し、開先中央の溶接金属の靭性を2mmVノッチシャルピー衝撃試験の0℃における吸収エネルギーで評価した。
表1は使用した溶接ワイヤの化学組成を示す。全て直径1.6mmmの試作ソリッドワイヤで、ワイヤ番号WA1〜WA7は本発明のワイヤの化学組成を満足しているものであり、ワイヤ番号WB1〜WB6は本発明の溶接ワイヤの化学組成に関わる要件を満足していない比較の溶接ワイヤである。
表2にスキンプレート相当の鋼板2として用いた鋼板の化学組成を示す。また、表3には、ダイヤフラム相当の鋼板1に用いた鋼板の化学組成を示す。表2、3の化学組成はインゴットまたはスラブの化学組成で該インゴットまたはスラブを用いて種々の板厚の鋼板を熱間圧延により製造して継手作製に供した。すなわち、種々の板厚の組み合わせにおける溶接金属の靭性変化を確認するため、各組成とも鋼板2は板厚を25mm、35mm、50mmの3種類とし、鋼板1は板厚50mm、60mmの2種類とした。
表2のうち、鋼板番号SA1〜SA8は本発明の鋼板2に関わる成分要件を満足しているものであり、鋼板番号SB1〜SB4は本発明の鋼板2に関わる成分要件を満足していない例である。
表3のうち、鋼板番号DA1〜DA8は本発明の鋼板1に関わる成分要件を満足しているものであり、鋼板番号DB1〜DB4は本発明の鋼板1に関わる成分要件を満足していない例である。
表4に継手作製に用いた裏当金の化学組成を示す。市販のフラットバーや厚鋼板を切断したものを用いた。表4のうち、裏当金番号BA1〜BA6は本発明の裏当金に関わる成分要件を満足している例であり、裏当金番号BB1〜BB4は本発明の裏当金に関わる成分要件を満足していない例である。
表1〜表4に示す材料を種々組み合わせて、図1のような継手を作製したが、その際の溶接条件はダイヤフラム相当の鋼板1の板厚ごとに表5のように設定した。すなわち、鋼板1の板厚が大きくなるほど、開先断面積が大きくなるため、それに応じて溶接入熱を大きくする必要がある。また、開先が長方形となっているため、溶接金属を開先内に行き渡らせる目的で溶接中に溶接ノズルを引き上げつつ、鋼板2の表面に沿ってオシレートさせているが、そのオシレート幅も鋼板1の板厚に応じて適正に調整している。
溶接後の継手において、図4に示す要領で、溶接金属中央から2mmVノッチシャルピー衝撃試験片を採取し、0℃において衝撃試験を実施し、2mmVノッチシャルピー衝撃試験の0℃における吸収エネルギーにより靭性を評価した。
表6に、各材料、鋼板板厚の組み合わせを種々変えたときのエレクトロスラグ溶接継手における溶接金属靭性を示す。各材料の組み合わせごとに、鋼板1と鋼板2の組み合わせを4種類変えて、各々の靭性レベルとともに各板厚組み合わせ間の靭性変化の大小を比較した。すなわち、鋼板1(ダイヤフラム)と鋼板2(スキンプレート)の板厚組み合わせは、(a)50mm×50mm、(b)60mm×50mm、(c)50mm×25mm、(d)60mm×35mmであり、入熱としては79.0〜93.0kJ/mmと大幅に変化しており、さらに、鋼板2の板厚が25mm、35mmと、ダイヤフラム相当の鋼板1の2/3より薄い場合は、鋼板2の板厚が鋼板1と同じかわずかに薄い50mmの場合よりも、溶接後の溶接金属の冷却速度は小さくなる。従って、従来は、同じ鋼板、ワイヤ、裏当金の組み合わせで、上記(a)〜(d)の条件全てで安定した溶接金属靭性を確保することは困難であった。すなわち、薄手材の溶接条件に合わせた材料を用いれば、条件(a)、(b)ですら靭性が低値となる場合や、あるいは(a)、(b)では靭性を確保できても、(c)、(d)で大幅な焼入性不足のため靭性が劣化する場合が生じ、逆に(c)、(d)に合わせた材料を用いれば、(a)、(b)の条件で焼入性過剰のために硬質のベイナイト相が生成して靭性が劣化する。また、(c)や(d)の条件では、従来の溶接金属組成を適正化して組織微細化する手段ではvE0≧70Jを達成することは非常に困難である。
表6に示す通り、本発明を満足する継手A1(鋼板の組み合わせにより継手A1−3、A1−4、以下同様)〜継手A10(継手A10−3、A10−4、)においては、全ての鋼板板厚組み合わせ条件で溶接金属の0℃シャルピー衝撃吸収エネルギー(vE0)が70J以上でかつ、各鋼板組み合わせ間の靭性差が小さく、本発明によれば、各板厚組み合わせごとに溶接ワイヤを変えることなく、安定して高靭性が得られることが明らかである。
なお、継手A1(鋼板の組み合わせにより継手A1−1、A1−2、以下同様)〜継手A10(継手A10−1〜A10−2)は、参考例である。
一方、表6における継手B1〜B8は本発明の要件を満足していないため、(a)〜(d)の鋼板板厚組み合わせの一部または全部において、溶接金属の靭性が本発明に比べて劣り、一つの材料組み合わせ(ワイヤ、鋼板、裏当金)で鋼板板厚によらず、高靭性用として必要なvE0≧70Jを得ることができないことが明らかである。
すなわち、比較例の継手B1(鋼板の組み合わせにより継手B1−1〜B1−4、以下同様)の場合は、溶接ワイヤのC量が過大であり、また、鋼板1、2のC量も過大であり、さらに、裏当金のC量も過大で、その結果、溶接金属のC量に関する指標であるX値が極めて過大であるため、何れの鋼板板厚組み合わせにおいても、靭性は極めて劣る。また、鋼板1、2のC量が過大であるため、鋼板の溶接熱影響部の靭性もvE0≧70Jを満足できないため、構造物全体の安全性の観点でも好ましくない。
比較例の継手B2は、溶接ワイヤ、鋼板1、2、裏当金全てのN量が本発明を逸脱して過大であるため、溶接金属のN量に関する指標であるY値が過大であるのはもちろん、個々の材料のC量は本発明を満足しているにも関わらず、溶接金属のC量に関する指標であるX値が過大であるため、溶接金属の靭性は鋼板板厚の組み合わせによらず全般的に劣位である。その中でも入熱の大きい溶接条件における溶接金属靭性はより劣っている。
比較例の継手B3は、溶接ワイヤはBが無添加であり、かつ、鋼板1、2はともにMnが過大であり、かつ、裏当金はPが過大であるため、溶接金属のC量に関する指標であるX値、溶接金属のN量に関する指標であるY値は本発明を満足しているが、溶接金属の靭性は鋼板板厚の組み合わせによらず全般的に劣位である。
比較例の継手B4は、溶接ワイヤはTiが無添加であり、かつ、鋼板1はPが過大であり、かつ、鋼板2と裏当金はともにSが過大であり、さらに、パ溶接金属のC量に関する指標であるX値も過大であるため、溶接金属の靭性は鋼板板厚の組み合わせによらず全般的に劣位である。その中でも入熱の大きい溶接条件における溶接金属靭性はより劣っている。
比較例の継手B5は、鋼板1、2と裏当金は本発明を満足するものの、溶接ワイヤのみが本発明を逸脱してOが過大となっている例である。溶接ワイヤのOが過大である上、溶接金属のC量に関する指標であるX値も過大であるため、特に鋼板2の板厚が大きい条件で溶接金属の靭性劣化が著しい。また、溶接ワイヤのO量が過大でるため、素材から溶接ワイヤに伸線加工する際、断線が頻発し、割れが生じ安い問題もあり、好ましくない。
比較例の継手B6は、鋼板1、2と裏当金は継手B6と同じで、本発明を満足しているが、溶接ワイヤのMn量が過大であり、かつ、溶接金属のC量に関する指標であるX値も過大であるため、溶接金属の靭性は全般的に劣る。溶接ワイヤのMn量が多いため、溶接金属が焼入性の高い化学組成となるため、どちらかというとね鋼板2の板厚が小さい、入熱の低い条件の溶接金属靭性がさらに低い。
比較例の継手B7は、溶接ワイヤ、鋼板1、2、裏当金、いずれも、各々の化学組成は本発明を満足しているが、組み合わせの結果、溶接金属のC量に関する指標であるX値が本発明を逸脱して過大となる例である。そのため、溶接金属の靭性は、鋼板2がより薄手の例えば25mmの場合は良好であると想定されるが、鋼板2の板厚が大きく、入熱が大きくなる場合や、鋼板2の板厚が大きく、かつ、鋼板1の板厚が小さい場合には大幅に劣化し、板厚の組み合わせに依存せずに良好な靭性を達成できていない。
比較例の継手B8は、溶接ワイヤの化学組成は本発明を満足しているが、鋼板1、2および裏当金が本発明を満足していないため、組み合わせの結果、溶接金属のN量に関する指標であるY値が本発明を逸脱して過大となる例である。そのため、溶接金属の靭性は、鋼板2がより薄手の例えば25mmの場合は良好であると想定されるが、鋼板2の板厚が大きく、入熱が大きくなる場合や、鋼板2の板厚が大きく、かつ、鋼板1の板厚が小さい場合には大幅に劣化し、板厚の組み合わせに依存せずに良好な靭性を達成できていない。
以上の実施例からも、本発明によれば、エレクトロスラグ溶接における、広い範囲のダイヤフラムとスキンプレートの板厚の組み合わせ、具体的には、ダイヤフラムの板厚が25mm〜100mm、スキンプレートの板厚が20mm〜100mm(但し、スキンプレートの板厚は、ダイヤフラムの板厚以下である)の様々な組み合わせにおいても、溶接ワイヤの化学組成を大きく変える成分設計をしなくても、一つの溶接ワイヤで全て、溶接金属の靭性を安定的にvE0≧70Jを確保できる。特に、従来技術ではこのような高靭性が達成できない、溶接後の溶接金属の冷却速度がより遅くなる、ダイヤフラム厚が50mm以上、さらには、スキンプレート厚がダイヤフラム厚の2/3以下の鋼板の組み合わせ条件で、良好な溶接金属の靭性を確保することができるものである。
Figure 0005042744
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図2、図3の実験及び実施例に用いた溶接継手の開先形状を示す断面図である。 パラメターXと溶接金属靭性との関係を示す図である。 パラメターYと溶接金属靭性との関係を示す図である。 図2、図3の実験及び実施例のおける2mmVノッチシャルピー衝撃試験片の採取要領を示す図である。
符号の説明
1 鋼板1(ダイヤフラム)
2 鋼板2(スキンプレート)
3 裏当金
4 開先幅
5 衝撃試験片
6 ノッチ

Claims (7)

  1. 板厚が50mm以上の鋼板1の端面を、該鋼板1の板厚の2/3以下の板厚を有する鋼板2の表面に間隙を隔てて突き合わせ、該間隙の両側に配置された裏当金とによって開先を形成し、該開先空間内に、フラックスを充填すると共に給電ノズルを介して溶接ワイヤを送給しながら、給電ノズルを鉛直方向に引き上げて溶接するエレクトロスラグ溶接方法において、
    前記溶接ワイヤの化学成分として、質量%で、
    C :0.005〜0.1%、
    Si:0.01〜1%、
    Mn:0.1〜2.5%、
    P:0.02%以下、
    S:0.01%以下、
    Al:0.002〜0.1%、
    Ti:0.002〜0.3%、
    B:0.0003〜0.015%、
    N:0.001〜0.015%を含有し、かつ、
    O:0.01%以下に制限し、
    残部が不可避的不純物およびFeからなる溶接ワイヤを用い、
    前記裏当金の化学成分として、質量%で、
    C :0.02〜0.25%、
    Si:0.01〜1.5%、
    Mn:0.1〜2.5%、
    P:0.02%以下、
    S:0.01%以下、
    N:0.001〜0.015%を含有し、かつ、
    O:0.01%以下に制限し、
    残部が不可避不純物およびFeからなる裏当金を用いて、
    前記鋼板1および鋼板2の化学成分として、質量%で、
    C :0.02〜0.2%、
    Si:0.01〜1%、
    Mn:0.1〜2.5%、
    P:0.02%以下、
    S:0.01%以下、
    Al:0.002〜0.1%、
    N:0.001〜0.015%を含有し、かつ、
    O:0.01%以下に制限し、
    残部が不可避不純物およびFeからなる鋼板1および鋼板2を溶接し、
    さらに、前記溶接ワイヤ、鋼板1、鋼板2、および、裏当金中にそれぞれ含有するCの質量%に基づいて下記(1)式により求められるX値が0.09以下であり、かつ、前記溶接ワイヤ、鋼板1、鋼板2、および、裏当金中にそれぞれ含有するNの質量%に基づいて下記(2)式により求められるY値が0.007以下とすることを特徴とするエレクトロスラグ溶接方法。
    X=0.6×C+0.2×(CS1+CS2)+0.1×C ・・・(1)
    ただし、上記C、CS1、CS2、および、Cはそれぞれ溶接ワイヤ、鋼板1、鋼板2、および、裏当金中に含有するCの質量%を示す。
    Y=0.2×N+0.15×(NS1+NS2)+0.1×N ・・・(2)
    ただし、上記N、NS1、NS2、および、Nはそれぞれ溶接ワイヤ、鋼板1、鋼板2、および、裏当金中に含有するNの質量%を示す。
  2. 前記溶接ワイヤが、さらに、質量%で、
    Mo:0.01〜2.5%、
    Cr:0.01〜1.5%、
    W:0.01〜1.5%、
    Cu:0.01〜1.5%、
    Ni:0.01〜6%、
    Nb:0.002〜0.1%、
    V:0.002〜0.5%、および、
    Ta:0.002〜0.5%のうちの1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載のエレクトロスラグ溶接方法。
  3. 前記溶接ワイヤが、さらに、質量%で、
    Ca:0.0002〜0.01%、
    Mg:0.0002〜0.01%、および、
    REM:0.0002〜0.01%のうちの1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1または2に記載のエレクトロスラグ溶接方法。
  4. 前記鋼板1および鋼板2が、さらに、質量%で、
    Ti:0.002〜0.05%、
    B:0.0003〜0.015%、
    Mo:0.01〜1.5%、
    Cr:0.01〜1.5%、
    W:0.01〜1.5%、
    Cu:0.01〜1.5%、
    Ni:0.01〜6%、
    Nb:0.002〜0.1%、
    V:0.002〜0.5%、および、
    Ta:0.002〜0.5%のうちの1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載のエレクトロスラグ溶接方法。
  5. 前記鋼板1および鋼板2が、さらに、質量%で、
    Ca:0.0002〜0.01%、
    Mg:0.0002〜0.01%、および、
    REM:0.0002〜0.01%のうちの1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載のエレクトロスラグ溶接方法。
  6. 裏当金が、さらに、質量%で、
    Al:0.002〜0.1%、
    Ti:0.002〜0.05%、
    B:0.0003〜0.015%、
    Mo:0.01〜1.5%、
    Cr:0.01〜1.5%、
    W:0.01〜1.5%、
    Cu:0.01〜1.5%、
    Ni:0.01〜6%、
    Nb:0.002〜0.1%、
    V:0.002〜0.5%、および、
    Ta:0.002〜0.5%のうちの1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載のエレクトロスラグ溶接方法。
  7. 裏当金が、さらに、質量%で、
    Ca:0.0002〜0.01%、
    Mg:0.0002〜0.01%、および、
    REM:0.0002〜0.01%のうちの1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載のエレクトロスラグ溶接方法。
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