図16に示す非特許文献1の構成では、信号Xから信号Zへの入出力特性は、ゼロ周波数付近において1次のハイパスフィルタ(HPF)の特性を示す。通常、このHPFのカットオフ周波数は100Hz〜1kHzと、低く設定する。ASPC310がゲインGを有する増幅回路であり、キャパシタ302の容量をCextとし、トランスコンダクタンス段301のトランスコンダクタンスをGmとすると、カットオフ周波数fcおよび入出力特性Z/Xは、それぞれ以下の式(1)および式(2)で表される。
通常、ゲインGの最大値は30dB程度と大きいため、カットオフ周波数fcを500Hz程度と低くするためには、トランスコンダクタンスGm値を小さくする必要がある。トランスコンダクタンスGm値を1mSにする場合、容量Cextの値は10uFと非常に大きくなり、DCオフセット除去回路300を集積化できない。このとき、外付けキャパシタをLSI内部回路と接続するために多くの端子が必要となる。さらに、外付けキャパシタを用いる場合でも、容量が大きいため、大きいサイズのキャパシタが必要となり、該LSIを搭載するモジュールのサイズ、高さを小さくできない。
さらに、小さいトランスコンダクタンスを実現するとき、トランスコンダクタンス段301を構成するトランジスタサイズを小さくする必要がある。そのため、トランスコンダクタンス段301の入力換算オフセット電圧が大きくなり、また、そのオフセット電圧が出力Zに現れてしまい、DCオフセット除去性能が劣化する。さらに、図16に示すDCオフセット除去回路300を図15に示すDCオフセット除去回路244および254に適用した構成では、ADCから発生するオフセットを除去できず、ADC出力に大きな残留DCオフセットが残ってしまう。
以上のように、図16に示す非特許文献1の構成では、低いカットオフ周波数を有するハイパスフィルタを実現するために、大きな容量を有するキャパシタが必要になり、DCオフセット除去回路を実現するアナログ回路の性能に依存して、DCオフセット除去性能も劣化してしまうという問題を生じる。
また、図17に示す特許文献1の構成では、信号処理回路410の出力信号Zはデジタル信号である。しかしながら、図15に示す無線受信機200では、信号処理回路242がアナログ信号処理回路であるため、DCオフセットを除去するべき信号は、ミキサ241・251の出力からAD変換器243・253の出力信号までであり、AD変換器243・253を除くと、全てアナログ信号の処理が必要となる。したがって、図17に示す特許文献1のDCオフセット除去回路400は、図15に示す無線受信機200にそのまま適用できないという問題を生じる。
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、アナログ信号の処理回路に適用でき、回路規模が小さく高精度にDCオフセット成分を除去できるDCオフセット除去回路を実現することにある。
本発明に係るDCオフセット除去回路は、上記課題を解決するために、アナログ入力信号に対して信号処理を行なう信号処理回路のデジタル出力信号に混入するDCオフセット成分を除去するDCオフセット除去回路であって、上記デジタル出力信号を量子化するための第1量子化回路と、上記第1量子化回路の出力信号を積分するデジタル積分回路と、上記デジタル積分回路の出力信号をシェーピングする第1ノイズシェーピング回路と、上記第1ノイズシェーピング回路の出力信号をアナログ信号に変換するDA変換回路と、上記DA変換回路の出力信号を上記アナログ入力信号にフィードバックするフィードバック回路とを備え、上記第1量子化回路は、ノイズシェーピングを行う第2ノイズシェーピング回路であることを特徴としている。
上記の構成によれば、従来のアナログ回路を用いたDCオフセット除去回路と異なり、デジタル回路にて積分回路を構成できるため、積分回路のために容量の大きなキャパシタは不要となる。また、アナログ積分器に比べて、デジタル積分器では、ビット数を増やすことで、高精度な積分器を容易に実現できるため、DCオフセット除去性能を高くしやすいので、回路規模を小さくでき、高精度にDCオフセットを除去できる。また、アナログ信号の処理回路に適用でき、回路規模が小さく高精度にDCオフセット成分を除去できるDCオフセット除去回路を実現できるという効果を奏する。さらに、DC付近での解像度を劣化させることなく第1ノイズシェーピング回路の出力ビット数を低く設定できるため、DA変換回路の解像度を低く抑えることが可能であり、DA変換回路の回路面積を削減できると共に、DA変換回路の設計が容易になる。
本発明に係るDCオフセット除去回路では、上記第1量子化回路の出力信号のビット数は、上記デジタル出力信号のビット数よりも小さいことが好ましい。
上記の構成によれば、第1量子化回路において信号のビット数が減少するので、第1量子化回路以降に設けられるデジタル積分回路等の回路規模および消費電力を削減できる。
本発明に係るDCオフセット除去回路では、上記DA変換回路と上記フィードバック回路との間に、ローパスフィルタを備えることが好ましい。
上記の構成によれば、第1ノイズシェーピング回路によりシェーピングされた量子化ノイズをフィルタリングして入力アナログ信号にフィードバックできるため、シェーピング動作に起因したノイズおよびスプリアスを低減できる。
本発明に係るDCオフセット除去回路では、上記フィードバック回路は、上記DA変換回路の出力信号を上記アナログ入力信号から減算する減算回路であることが好ましい。
本発明に係るDCオフセット除去回路は、アナログ入力信号に対して信号処理を行なう信号処理回路のデジタル出力信号に混入するDCオフセット成分を除去するDCオフセット除去回路であって、上記デジタル出力信号を量子化するための第1量子化回路と、上記第1量子化回路の出力信号を積分するデジタル積分回路と、上記デジタル積分回路の出力信号を量子化する第2量子化回路と、上記第2量子化回路の入力信号と出力信号との差分をシェーピングする第1ノイズシェーピング回路と、上記第2量子化回路の出力信号をアナログ信号に変換する第1DA変換回路と、上記第1ノイズシェーピング回路の出力信号をアナログ信号に変換する第2DA変換回路と、上記第1DA変換回路の出力信号と上記第2DA変換回路の出力信号とを上記アナログ入力信号にフィードバックするフィードバック回路とを備えることを特徴としている。
上記の構成によれば、回路規模が小さく高精度にDCオフセット成分を除去できるだけでなく、さらなる低ノイズ化と回路面積削減を図ることのできるDCオフセット除去回路を実現できる。
本発明に係るDCオフセット除去回路では、上記第2DA変換回路と上記フィードバック回路との間に、ローパスフィルタを備えることが好ましい。
上記の構成によれば、第1ノイズシェーピング回路によりシェーピングされた量子化ノイズをフィルタリングして入力アナログ信号にフィードバックできるため、シェーピング動作に起因したノイズおよびスプリアスを低減できる。
本発明に係るDCオフセット除去回路では、上記フィードバック回路は、上記第1DA変換回路の出力信号と上記第2DA変換回路の出力信号とを加算する加算回路と、上記加算回路の出力信号を上記アナログ入力信号から減算する減算器とから構成されることが好ましい。
本発明に係るDCオフセット除去回路では、上記第2DA変換回路は、出力レベル数が2〜5値であることが好ましい。
上記の構成によれば、DA変換回路は、ビット数が小さい方が、回路が簡単となるので、第2DA変換回路の回路規模を削減できる。
本発明に係るDCオフセット除去回路では、上記第2DA変換回路は、同一サイズの1ビットDA変換回路を複数備え、上記1ビットDA変換回路は、互いに並列に接続されていることが好ましい。
上記の構成によれば、高速動作する第2DA変換回路のスイッチング動作に起因するグリッチ、スプリアス等を低減することができる。
本発明に係るDCオフセット除去回路では、上記第2DA変換回路は、入力されるデジタル信号を電流に変換するカレントステアリング型DA変換回路と、上記電流を電圧に変換する第1MOSトランジスタと、上記第1MOSトランジスタと共にカレントミラー回路を構成し、上記電圧を上記第2DA変換回路の出力電流に変換する第2MOSトランジスタとを備え、上記ローパスフィルタは、上記第1MOSトランジスタのゲートと上記第2MOSトランジスタのゲートとの間に設けられることが好ましい。
上記の構成によれば、第2DA変換回路とローパスフィルタとを、簡単でコンパクトに実装することができる。
本発明に係るDCオフセット除去回路では、上記第1ノイズシェーピング回路の次数が1次であることが好ましい。
上記の構成によれば、第1ノイズシェーピング回路の回路規模を小さくすることができる。また、1次のシェーピングで十分なDCオフセット除去性能が得られる。
本発明に係るDCオフセット除去回路では、上記第1ノイズシェーピング回路は第1擬似ランダム雑音発生回路を有することが好ましい。
上記の構成によれば、第1ノイズシェーピング回路内の周期性を低減することができ、第1ノイズシェーピング回路が発生するスプリアスを低減でき、DCオフセット除去回路の高精度化を図ることができる。
本発明に係るDCオフセット除去回路では、上記第2量子化回路はヒステリシス特性を有することが好ましい。
上記の構成によれば、第2量子化回路の出力信号レベルが第2量子化回路の隣接する2つの出力閾値の中間値となる場合に、第2量子化回路の出力レベルが該2つの出力閾値レベル間へ高速に変動する現象を回避することができ、該現象によるDCオフセット除去回路の性能劣化を回避することができる。
本発明に係るDCオフセット除去回路では、上記第2量子化回路は、ミッドライズ型量子化器とミッドトレッド型量子化器とを備え、1ビットの状態に応じて、上記ミッドライズ型量子化器の出力と上記ミッドトレッド型量子化器の出力とを切り替えることにより、上記ヒステリシス特性を有することが好ましい。
上記の構成によれば、ヒステリシス特性を簡単に実現することができる。
本発明に係るDCオフセット除去回路では、上記第1量子化回路は、ノイズシェーピングを行う第2ノイズシェーピング回路であることが好ましい。
上記の構成によれば、DCオフセット除去回路の出力信号に含まれるDCオフセット成分を高いダイナミックレンジで量子化することができ、DCオフセット除去性能を高めることができる。また、シェーピング動作により、第1量子化回路の出力ビット数を減らすことができ、第1量子化回路以降の回路やデジタル積分回路の回路規模、消費電力を削減することができる。
本発明に係るDCオフセット除去回路では、上記第2ノイズシェーピング回路は、ビット数が1ビットであり、次数が1次であることが好ましい。
上記の構成によれば、第1量子化回路の構成を簡単化することができると同時に、第1量子化回路の出力ビット数を1ビットにすることができるため、第1量子化回路以降の回路やデジタル積分回路の回路規模、消費電力を削減することができる。
本発明に係るDCオフセット除去回路では、上記第2ノイズシェーピング回路は第2擬似ランダム雑音発生回路を有することが好ましい。
上記の構成によれば、DCオフセット除去回路のハイパス特性のカットオフ周波数を入力アナログ信号の信号レベルに依存せず、所望の値に設定することができる。
本発明に係るDCオフセット除去回路では、上記第1量子化回路と上記デジタル積分回路との間、または、上記デジタル積分回路と上記第1ノイズシェーピング回路との間に配置される可変ゲイン段と、上記信号処理回路内のいずれかの回路の出力が飽和したことを検出する飽和状態検出回路とを備え、上記可変ゲイン段は、飽和状態検出回路の検出結果に応じてゲインが制御されることが好ましい。
上記の構成によれば、DCオフセット除去回路内の回路が飽和した場合に、DCオフセット変動に対する追従速度が劣化するのを回避できるので、短時間で飽和状態から回復可能である。
本発明に係るDCオフセット除去回路では、上記飽和状態検出回路は、上記出力の飽和頻度を検出する飽和頻度検出回路をさらに備え、上記可変ゲイン段は、上記飽和頻度に応じて上記ゲインが制御されることが好ましい。
上記の構成によれば、飽和状態検出回路の構成を簡単にできる。また、飽和時の時定数が飽和していない通常動作のときの時定数と近似的に等しくできる。
本発明に係るDCオフセット除去回路では、上記第1量子化回路は、第1のLSIに配置され、上記DCオフセット除去回路の上記第1量子化回路以外の回路は、第2のLSIに配置されることが好ましい。
上記の構成によれば、第1量子化回路のビット数が小さいので、DCオフセット除去回路が2つのLSIに分割されて搭載される場合においても、LSI間のインターフェスを簡単化することができ、LSIのピン数、I/Oの消費電力、PCBの面積を削減することができる。
本発明に係るDCオフセット除去回路では、上記第1量子化回路のビット数が1ビットであることが好ましい。
上記の構成によれば、LSIのピン数、I/Oの消費電力、PCBの面積をさらに削減することができる。
本発明に係るDCオフセット除去回路は、アナログ入力信号に対して信号処理を行なう信号処理回路のデジタル出力信号に混入するDCオフセット成分を除去するDCオフセット除去回路であって、上記デジタル出力信号を積分するデジタル積分回路と、上記デジタル積分回路の出力信号を量子化する第2量子化回路と、上記第2量子化回路の入力信号と出力信号との差である量子化ノイズをシェーピングする第1ノイズシェーピング回路と、上記第2量子化回路の出力信号をアナログ信号に変換する第1DA変換回路と、上記第1ノイズシェーピング回路の出力信号をアナログ信号に変換する第2DA変換回路と、上記第1DA変換回路の出力信号と上記第2DA変換回路の出力信号とを上記アナログ入力信号にフィードバックするフィードバック回路とを備えることを特徴としている。
上記の構成によれば、積分回路に入力される信号のビット数が大きくなるが、積分回路をデジタル積分回路で構成でき、量子化回路を不要とすることができるので、回路規模を小さくできる。
本発明に係る受信機は、ミキサの出力信号を処理するベースバンドアナログ回路と、該ベースバンドアナログ回路の出力信号をデジタル信号に変換するAD変換回路とを備える信号パスを少なくとも1つ有する受信機において、上記のDCオフセット除去回路を、上記信号パスの出力信号に混入するDCオフセット成分を除去するDCオフセット除去回路として備えることを特徴としている。
上記の構成によれば、信号パスのDCオフセット成分を簡単な構成で高精度に除去できる受信機を実現できる。
本発明に係るDCオフセット除去回路は、以上のように、アナログ入力信号に対して信号処理を行なう信号処理回路のデジタル出力信号に混入するDCオフセット成分を除去するDCオフセット除去回路であって、上記デジタル出力信号を量子化するための第1量子化回路と、上記第1量子化回路の出力信号を積分するデジタル積分回路と、上記デジタル積分回路の出力信号をシェーピングする第1ノイズシェーピング回路と、上記第1ノイズシェーピング回路の出力信号をアナログ信号に変換するDA変換回路と、上記DA変換回路の出力信号を上記アナログ入力信号にフィードバックするフィードバック回路とを備え、上記第1量子化回路は、ノイズシェーピングを行う第2ノイズシェーピング回路であるので、アナログ信号の処理回路に適用でき、回路規模が小さく高精度にDCオフセット成分を除去できるDCオフセット除去回路を実現できるという効果を奏する。
〔実施形態1〕
本発明の第1の実施形態について図1に基づいて説明すると以下の通りである。本実施形態では、アナログ入力信号を処理してデジタル信号を出力する信号処理回路に、DCオフセット除去回路を適用する場合について説明する。
図1は、本実施形態に係るDCオフセット除去回路100の構成を示すブロック図である。DCオフセット除去回路100は、信号処理回路110の出力信号Zに混入するDCオフセット成分を除去する回路であり、量子化器1、ゲイン段2、デジタル積分器3、ノイズシェーピング回路4、DA変換器5、ローパスフィルタ6および減算器7を備えている。信号処理回路110は、アナログ信号処理回路111、AD変換器112およびデジタルフィルタ113を備えている。アナログ信号処理回路111は、減算器7からの出力信号Y0に対しフィルタリングや増幅処理等を行い、信号Y1を出力する。AD変換器112は、アナログ信号処理回路111からの出力信号Y1をデジタル信号Y2に変換する。デジタルフィルタ113は、デジタル信号Y2にフィルタリング処理を行い、Mビットのデジタル信号Zを信号処理回路110の出力信号として出力する。
量子化器1は、信号Zを量子化してNビット(N<M)の信号ZQを出力する。ゲイン段2は、信号ZQを増幅または減衰させて信号ZIを出力する。なお、ゲイン段2を設けなくても、DCオフセット除去の機能を果たすことは可能であるが、ゲイン段2は、DCオフセット除去のカットオフ周波数を調整するため、通常のオフセット除去回路では設けられる。また、ゲイン段2をデジタル積分器3とノイズシェーピング回路4との間に配置してもよい。
デジタル積分器3は、図17に示すデジタル積分回路401と略同一であり、ゲイン段2の出力信号ZIを積分して、信号ZOを出力する。信号ZOは、ノイズシェーピング回路4によってノイズシェーピングされる。DA変換器5は、ノイズシェーピング回路4からのデジタル出力信号をアナログ信号に変換し、ローパスフィルタ6は、DA変換器5からの出力信号に含まれるDC成分以外の不要信号を減衰させて、DCオフセット信号X_DCを減算器7にフィードバックする。減算器7は、以上のように出力信号Zから算出したDCオフセット信号X_DCをアナログ入力信号Xから減算して、信号Y0をアナログ信号処理回路111に出力する。
ここで、ノイズシェーピング回路4は、一般的によく知られた回路であり、加算器4A、量子化器4B、減算器4Cおよび1クロック遅延器4Dを備えている。加算器4Aは、デジタル積分器3からの信号ZOと1クロック遅延器4Dからのフィードバック信号とを加算する。量子化器4Bは、加算器4Aの出力を量子化する。減算器4Cは、量子化器4Bの入力信号と出力信号との差を計算する。減算器4Cからの差分は、1クロック遅延器4Dを介して加算器4Aにフィードバック信号として出力される。また、ローパスフィルタ6は、抵抗6Aとキャパシタ6Bとを備えている。なお、ローパスフィルタ6は、抵抗6Aとキャパシタ6Bとに接続されるバッファを備えていてもよい。
DCオフセット除去回路100は、従来のアナログ回路を用いたDCオフセット除去回路と異なり、デジタル回路にて積分器を構成できるため、積分器用に容量の大きなキャパシタは不要となる。また、アナログ積分器に比べて、デジタル積分器では、ビット数を増やすことで、高精度な積分器を容易に実現できるため、DCオフセット除去性能を高くしやすい。
信号処理回路110の出力信号Zは通常10〜16ビットと、解像度の高いデジタル信号である。しかしながら、出力信号ZのDC成分のみ抽出できればよいため、DCオフセット除去回路100のフィードバック信号として、高い解像度は不要な場合が多い。その場合には、量子化器1において、ビット数をMビットからNビット(N<M)に減らすことで、ゲイン段2やデジタル積分器3の回路規模および消費電力を削減できる。
但し、DCオフセット除去回路100は、出力信号Zに含まれるDCオフセット成分を除去(すなわち、ゼロに)する回路であるため、量子化器1において、ビット切捨て等の処理により、出力信号ZにDC成分が混入しないように注意する必要がある。また、ビット切捨てではなく、丸め処理を行ったとしても、DCオフセット除去回路100の出力信号の特性によっては、出力信号ZにDCオフセット成分が混入してしまう可能性がある。すなわち、量子化器1は非線形素子であるため、例えば、2次歪み等により、出力信号ZのDC以外の周波数成分からZQに不要なDC成分を発生してしまう可能性がある。従って、量子化器1に入力される信号Zに十分な擬似ノイズを入力し量子化を行う方法や、後述の実施形態2にて説明する1ビットノイズシェーピング回路を用いることが好ましい。
また、量子化器1より混入する量子化ノイズは、ゲインがほぼ1倍であり、DCオフセット除去回路100のカットオフ周波数と同じカットオフ周波数を有するローパスフィルタによりフィルタリングされたノイズが出力信号Zに現れる。量子化ビット数等の選定時にこの出力信号Zに現れる量子化器1の量子化ノイズ成分を考慮する必要がある。
ここで、量子化器1の出力信号を量子化ノイズQと入力信号との和で表し、デジタル積分器3をZ−1/(1−Z−1)〜1/(s・Ts)とし、ゲイン段2のゲインをkとし、ノイズシェーピング回路4、DAC5およびローパスフィルタ6を低周波においてゲイン1の周波数特性のない回路とし、アナログ信号処理回路111をゲインがGIFVGAで周波数特性がないとし、AD変換器112およびデジタルフィルタ113もゲイン1の周波数特性のない回路と仮定すると、DCオフセット除去回路の入力信号Xおよび量子化ノイズQに対するフィルタ特性は、周波数がゼロ付近であることを用いて、各ブロックを簡単化した場合、
と表される。ここでTsはDCオフセット除去回路の動作周期である。この式(3)から、低周波において、入力信号Xから出力信号Zへの周波数特性はハイパス特性を有し、また、そのカットオフ周波数fcはゲイン段2とアナログ信号処理回路111のゲインに依存することが分かる(fc=k・GIFVGA/(2πTs))。また、量子化器1に混入する量子化ノイズQから出力信号Zへの周波数特性は、ローパス特性を有することが分かる。
図1に示すDCオフセット除去回路100をダイレクトコンバージョン無線受信器用ベースバンド回路に適用する場合、アナログ信号処理回路111の最大ゲインは40〜50dBと大きいため、DCオフセット信号X_DCに含まれるスプリアスがアナログ信号処理回路111により増幅され出力信号Zに現れる。このとき、ノイズシェーピング回路4やローパスフィルタ6を使わず、デジタル積分器3の出力をそのままDA変換器5にてアナログ信号に変換し、減算器7へフィードバックする場合、該スプリアス成分を十分小さくする必要があるため、DA変換器5に12〜14ビット程度の高い分解能が必要とされる。しかしながら、このような高性能DA変換器の設計には多くの時間が必要であり、また、回路面積も増大する。
一方、図1のように、デジタル積分器3の出力をノイズシェーピング回路4により、低ビットに変換することで、DA変換器5に必要なビット数を大幅に減らすことができる(7ビット程度)。DA変換器5の出力には、デジタル積分器3の出力成分に加えて、ノイズシェーピング回路4のノイズシェーピング動作により、量子化器4Bで発生した量子化ノイズがH(z)=1−Z−1の特性でシェーピングされたノイズ成分が含まれる。このノイズ成分はDC付近では小さいが、高周波(ノイズシェーピング回路4の動作周波数fs)になるにつれて、大きくなる特性を有する。
このノイズ成分を除去するためにローパスフィルタ6が配置される。このローパスフィルタ6は、抵抗6AとキャパシタBを備える1次フィルタであり、そのカットオフ周波数は、該シェーピングされたノイズ成分を十分に減衰できるように低周波に設定すればよい。該カットオフ周波数は、図16に示す従来のDCオフセット除去回路300のハイパス特性のカットオフ周波数fcに比べ大きく設定できるため、ローパスフィルタ6を構成するキャパシタ6Bの大きさを小さくできる。従って、図1に示すDCオフセット除去回路100の構成を用いることで、必要とされるキャパシタサイズが小さく、DA変換器5の構成も簡単であるので、回路面積が小さく高精度なDCオフセット除去回路を実現できる。
なお、図1では、説明の簡略化のために、ノイズシェーピング回路4の次数およびローパスフィルタ6の次数として1次を選んだが、高次でもよい。
また、図1では、ノイズシェーピング回路4によりシェーピングされた高周波の量子化ノイズを除去するために、ローパスフィルタ6を配置したが、該量子化ノイズが入力されても入力信号Xに含まれる所望の信号を劣化させない場合や、アナログ信号処理回路111においてローパスフィルタ6の役割を兼用できる場合には、ローパスフィルタ6を配置する必要はない。
また、本実施形態では、減算器7がDCオフセット信号X_DCを入力信号Xから減算することでフィードバックしていたが、これに限定されない。例えば、DCオフセット除去回路内に、ゲインが−1のゲイン段を設け、減算器7の代わりに加算器を設けることにより、DCオフセット信号X_DCを入力信号Xにフィードバックしてもよい。
〔実施形態2〕
本発明の第2の実施形態について図2ないし図11を用いて説明すれば以下の通りである。
図2は、本実施の形態に係るDCオフセット除去回路120の構成を示すブロック図である。DCオフセット除去回路120は、量子化器11、ゲイン段12、デジタル積分器3、ノイズシェーピング回路14、DA変換器15、ローパスフィルタ16および減算器7を備えている。すなわち、図1に示すDCオフセット除去回路100において、量子化器1、ゲイン段2、ノイズシェーピング回路4、DA変換器5およびローパスフィルタ6の代わりに、量子化器11、ゲイン段12、ノイズシェーピング回路14、DA変換器15およびローパスフィルタ16を設けた構成である。量子化器11は、後述するように、1ビット1次のノイズシェーピング回路で構成されることが好ましい。
信号処理回路110は、図1に示す信号処理回路110と略同一の構成であり、アナログ信号処理回路111、AD変換器112およびデジタルフィルタ113を備えている。アナログ信号処理回路111は、例えば、アナログ入力信号Y0から所望の周波数成分のみを抽出するためのアナログフィルタ111Aと、フィルタ出力を増幅するための可変ゲイン段111Bを備えており、減算器7からの出力信号Y0にフィルタリングや増幅処理等を行う。
図2のDCオフセット除去回路120をダイレクトコンバージョン無線受信器用ベースバンド回路に適用する場合、可変ゲイン段111Bの最大ゲインは30〜40dB、ゲインレンジは30dBと広いレンジが必要となる。また、ゲイン段12のゲインは入力信号Xの振幅に応じて制御されるため、DCオフセット除去回路120のフィードバックループとは独立に制御される。従って、可変ゲイン段111Bのゲイン変化がDCオフセット除去回路120のフィルタ特性に影響を与えてしまう。
この影響を小さくするため、ゲイン段12はループの時定数を決定するためのゲイン段12Aと、可変ゲイン段111Bのゲイン変化を補正するゲイン段12Bとを有する。ゲイン段111BのゲインをGIFVGAとすると、ゲイン段12Bのゲインは1/GIFVGAになるように制御される。なお、図2では図示していないが、ゲイン段12Aには、ゲイン段12Aのゲインを制御するための飽和状態検出回路が接続されている。飽和状態検出回路については、図8において詳述する。
ノイズシェーピング回路14、DA変換器15およびローパスフィルタ16の構成は、実施形態1のDCオフセット除去回路100におけるノイズシェーピング回路4、DA変換器5およびローパスフィルタ6のように簡単な構成を用いてもよい。しかしながら、実施形態1の構成では、減算器7に出力される抵抗6Aの熱ノイズが問題となる。抵抗6Aの抵抗値を下げずに熱ノイズを低減するためには、ローパスフィルタ6の出力を減衰させて減算器にフィードバックする方法がある。しかし、この方法では入力信号Xに含まれるDCオフセット成分の除去可能な範囲を決めるDCオフセット信号X_DCの振幅レンジが小さくなる。このX_DCの振幅レンジを犠牲にせずに抵抗6Aの熱ノイズの影響を小さくするためには、抵抗6Aの抵抗値を小さく設定しなければならない。このとき、ローパスフィルタ6のキャパシタを大きくする必要があり、キャパシタ面積が増大する。
これに対し、本実施形態では、DA変換器を2つのDA変換器に分割することで、この問題を回避している。
図3は、図2に示すDA変換器15およびローパスフィルタ16の詳細な構成を示すブロック図である。DA変換器15は、MSB側DA変換器15AとLSB側DA変換器15Bとに分割されている。ノイズシェーピング回路14の出力Pビットを、MSB側LビットとLSB側P−Lビットとに分割し、MSB側LビットをMSB側DA変換器15Aに入力し、LSB側P−LビットをLSB側DA変換器15Bに入力する。ローパスフィルタ16は、抵抗16、キャパシタ16Bおよびゲインが1/2Lであるゲイン段16Cを備えている。ローパスフィルタ16と減算器7との間には、加算器17が設けられており、加算器17は、MSB側DA変換器15Aの出力とローパスフィルタ16の出力とを加算する。
MSB側DA変換器15Aの出力は、ローパスフィルタ16を経由せずに、ローパスフィルタ16と減算器7との間に設けられる加算器17に出力される。これにより、MSB側DA変換器15Aの出力は、入力信号Xへ直接フィードバックされる。一方、LSB側DA変換器15Bの出力は、ローパスフィルタ16を経由して加算器17に出力される。すなわち、LSB側DA変換器15Bの出力は、ローパスフィルタ16を経由して入力信号へフィードバックされる。
DCオフセット信号X_DCの振幅レンジは、MSB側DA変換器15Aの出力レンジにより設定される。一方、ローパスフィルタ16の出力レンジは、DCオフセット信号X_DCの振幅レンジに比べて1/2Lに小さくすることができる。この構成を用いることで、ローパスフィルタ16を構成する抵抗16Aの熱ノイズはゲイン段16Cにより1/2Lに減衰されるため、該熱ノイズの影響を小さくすることができる。従って、ローパスフィルタ16の抵抗16Aの抵抗値を大きい値に設定することができ、キャパシタ16Bのサイズを小さくすることができる。
なお、図3の構成は、熱ノイズの問題(ローパスフィルタ16のキャパシタサイズの問題)が回避できるということを簡単に説明するための概念図であるので、より現実的な回路構成を、ノイズシェーピング回路14も含めて、図4に基づいて以下に説明する。
図4は、図2に示すノイズシェーピング回路14およびDA変換器15の詳細な構成を示すブロック図である。ノイズシェーピング回路14は、量子化器14A、MSB側量子化器14B、減算器14C、ゲイン段14D、加算器14E、LSB側量子化器14F、減算器14Gおよび1クロック遅延素子14Hを備えている。
量子化器14Aは、図2に示す積分器3の出力24ビットを15ビットに量子化する。MSB側量子化器14Bは、量子化器14Aの15ビット量子化出力を7ビット(dac_msb[6:0])に量子化してMSB側DA変換器15Aに出力する。減算器14Cは、量子化器14Aの出力とMSB側量子化器14Bによる量子化後の出力との差を出力する。ゲイン段14Dは、減算器14Cの出力を増幅する。加算器14E・LSB側量子化器14F・減算器14G・1クロック遅延素子14Hは、1ビットノイズシェーピング回路を構成しており、ゲイン段14Dの出力を4値出力(3ビット幅、dac_lsb[2:0])にてノイズシェーピングする。
なお、量子化器14Aを設けず、積分器3の出力をMSB側量子化器14Bに入力してもよい。ただし、この場合、減算器14Cの出力ビット数が大きくなるので、ゲイン段14D以降の回路規模を大きくする必要がある。
LSB側DA変換器15Bは、ノイズシェーピングされた4値出力(dac_lsb[2:0])をDA変換し、MSB側DA変換器15Aは、MSB側量子化器14Bの出力(dac_msb[6:0])をDA変換する。ローパスフィルタ16は、LSB側DA変換器15Bの出力をローパスフィルタリングし、MSB側DA変換器15Aの出力とローパスフィルタ16の出力とが、加算器17によって加算される。
MSB側DA変換器15Aの入力信号は、ノイズシェーピングされた信号ではなく、積分器3の出力の上位ビットによって決まる値である。一方、LSB側DA変換器15Bの入力信号は、MSB側量子化器14Bの残差がノイズシェーピングされた信号である。LSB側量子化器14Fの出力は、4値をとりうるサーモメータコードに変換され、LSB側DA変換器15Bに入力される(dac_lsb[2:0]=”000” or “001” or “011” or “111”)。なお、該サーモメータコードは、2、4または5値であってもよい。MSB側DA変換器15Aの出力は、DCオフセット除去回路120のフィードバックループが安定になるまではゆっくりと変化するが、安定後は変化しないため、MSB側DA変換器15Aの出力にローパスフィルタは不要である。
なお、フィードバックループが安定後、MSB側量子化器14Bの量子化閾値を超えて入力信号が変化しないと仮定すると、MSB側量子化器14Bの出力および、MSB側DA変換器15Aの出力が変化しない。したがって、フィードバックループが安定後、MSB側量子化器14Bの出力が変化しない程度に、MSB側量子化器14Bの量子化ビット数を低く設定するのが好ましい。
一方、LSB側DA変換器15Bは、フィードバックループが安定になる前でも後でも常時高速に動作し、LSB側DA変換器15Bの出力にはシェーピングされたLSB側量子化器14Fの量子化ノイズが含まれる。該量子化ノイズを低減するためにローパスフィルタ16が必要となる。また、LSB側DA変換器15Bとしては、LSB側DA変換器15Bのスプリアス成分を減らしやすいサーモメータコードを入力とするDA変換器を用いる方がよい。この場合、バイナリウェイト型DA変換器よりもサーモメータコード型DA変換器の方が高速動作時のスプリアス特性がよい。
図4の構成を用いる場合、DCオフセット信号X_DCに含まれるDC成分がMSB側DA変換器15Aの隣接する2出力レベルの中間値になると、MSB側DA変換器15Aの出力、つまり、MSB側量子化器14Bの出力が該2出力レベルに相当するデジタル値間で高速に変動し、DCオフセット信号X_DCに多くのスプリアスが発生してしまう。これを回避するために、MSB側量子化器14Bにヒステリシス特性をもたせると該変動を回避できる。以下、図5に基づいて、MSB側量子化器14Bにヒステリシス特性をもたせるための実現方法を簡単に説明する。なお、図4のMSB側量子化器14Bの出力ビット数は7ビットであり、出力値のとりうる値は27=128レベルであるが、ここでは説明を簡単化するためにMSB側量子化器14Bの出力値のとりうる値を7レベルとする。
MSB側量子化器14Bは、図5(a)および(b)に示すように、出力の変化する閾値が異なる2つの量子化特性、ミッドライズ(Mid−rise)型とミッドトレッド(Mid−tread)型の量子化器が並列に組み合わさって構成される。図5(a)は、ミッドライズ型量子化器の入力INPUTと出力OUTPUTとの関係を示すグラフであり、図5(b)は、ミッドトレッド型量子化器の入力INPUTと出力OUTPUTとの関係を示すグラフである。
ミッドライズ型量子化器のとりうる出力値は−3、−1、1、3の4レベルである。一方、ミッドトレッド型量子化器のとりうる出力値は、−2、0、2の3レベルである。2つの量子化器を合わせると合計で7レベルを有する。ミッドライズ型量子化器とミッドトレッド型量子化器との一方の量子化器のみが有効であり、そのとき他方の量子化器の出力はゼロである。ミッドライズ型量子化器を使うか、ミッドトレッド型量子化器を使うかは、以下のようにして決める。
MSB側量子化器14Bは1ビットの状態(state)を有する。MSB側量子化器14Bは、以下の(1)〜(3)の処理を行う。
(1)state=0のときミッドライズ型量子化器を使い、state=1のときミッドトレッド型量子化器を使い、入力信号を量子化し、出力する。
(2)MSB側量子化器14Bの出力値が変化したときは、図5(c)の量子化器14Bの入力値INPUTとstate値との対応関係を示すグラフに応じて、次のstateに更新する。量子化器14Bの出力が変化しない場合は現在のstate値を維持する。
(3)次のクロックでは上記(1)に戻って同じ処理を繰り返す。
この動作により、ヒステリシス特性を実現することができ、上述のようなデジタル値間で高速変動することがなくなり、スプリアス発生も起こらない。なお、上述のヒステリシス特性の実現方法は一例であり、この方法に限定されるものではない。
ここで図4において、加算器14E・LSB側量子化器14F・減算器14G・1クロック遅延素子14Hで構成される1ビットノイズシェーピング回路は、1次のノイズシェーピングを仮定したが、高次のノイズシェーピング回路を用いてもよい。また、擬似ランダム雑音を発生する擬似ランダム雑音発生器を設け、量子化器14Fの入力部等に擬似ランダム雑音を加算し、該1ビットノイズシェーピング回路の周期性に起因するスプリアスを低減ことがより好ましい。このスプリアス成分は図4のLSB側DA変換器15B・ローパスフィルタ16、図2のアナログ信号処理回路111、AD変換器112およびデジタルフィルタ113を通して、DCオフセット除去回路120の出力Zに現れる。なお、上記の擬似ランダム雑音発生器は、特許請求の範囲に記載の第1擬似ランダム雑音発生器に相当する。
また、図4に示す加算器14E・LSB側量子化器14F・減算器14G・1クロック遅延素子14Hで構成されるノイズシェーピング回路および量子化器14BをDCオフセット除去回路120に用いる構成は、入力信号Xがアナログ信号ではなくデジタル信号であって、図2に示すDCオフセット除去回路120が全てデジタル信号を用いて構成される場合にも有効である。ただし、この場合には、DA変換器15は不要であり、また、ローパスフィルタ16はデジタル回路で実現される。
続いて、MSB側DA変換器15Aの具体的な構成について説明する。
図6は、フル差動型のMSB側DA変換器15Aの具体的構成例を示す回路図である。図6の構成は、一般的によく知られたカレントステアリング型DA変換器であり、電流源M1・M4・M5および、差動対M2・M3を備えている。電流源M1は、Nチャネル型MOSトランジスタで実現されており、2のI乗で重み付けされている。差動対M2及びM3は、電流源M1の電流を差動出力端子voutpまたは差動出力端子voutmのどちらに流すかを決定する。電流源M4及びM5はそれぞれ、電源VDD側から一定の電流を差動出力端子voutp及び差動出力端子voutmに流す。また、電流源M1及び電流源M4・M5のゲートには、電流源電流値を所望の値に設定するためのバイアス電圧vb1_msb及びバイアス電圧vb2_msbがそれぞれ印加される。なお、MSB側DA変換器15Aの構成はこの方法に限定されるものではない。
続いて、図4に示すLSB側DA変換器15Bおよびローパスフィルタ16の具体的な構成について説明する。
図7は、フル差動型のLSB側DA変換器15Bおよびローパスフィルタ16の具体的構成例を示す回路図である。図7に示すLSB側DA変換器15Bは、図6のMSB側DA変換器15Aと同様に、カレントステアリング型DA変換器である。また、LSB側DA変換器15Bは、左右対称なフル差動構成である。
LSB側DA変換器15Bは、同一サイズの1ビットDA変換回路が複数並列に接続された構成であり、電流源M11、差動対M12・M13、2つのPチャネルMOSトランジスタM16、2つのPチャネルMOSトランジスタM17および2つの電流源M18を備えている。ローパスフィルタ16は、抵抗16Aおよびキャパシタ16Bを備えている。
電流源M11は、3個のNチャネルMOSトランジスタから構成されており、各電流源M11は同じサイズである。差動対M12・M13は、電流源M11の電流を切り換えて、2つのPチャネルMOSトランジスタM16の一方側に流す。PチャネルMOSトランジスタM16は、ゲートとドレインとが接続されており(ダイオード接続)、各差動対M2・M3の出力電流を加算し、電圧に変換する。
抵抗16Aおよびキャパシタ16Bは、PチャネルMOSトランジスタM16の出力電圧をローパスフィルタリングして出力する。PチャネルMOSトランジスタM17は、該ローパスフィルタリングされた電圧を電流として取り出し、電流源M18は、差動出力端子voutp及び差動出力端子voutmからGND側へ一定の電流を引き抜く。
LSB側DA変換器15Bの電流出力範囲は、MSB側DA変換器15Aに比べて小さくできるため(LSB側DA変換器が7ビットの場合、1/25程度)、抵抗16Aの熱ノイズの影響を無視できる程度に小さくすることができる。
以上のように、MSB側DA変換器15AおよびLSB側DA変換器15Bを共にカレントステアリング型DA変換器として構成し、図6に示す差動出力端子voutpおよび図7に示す差動出力端子voutp並びに図6に示す差動出力端子voutmおよび図7に示す差動出力端子voutmを、それぞれ互いに接続することで、図4に示す加算器17を実現できる。但し、出力信号が電流信号であるため、差動出力端子voutp・voutmに接続される減算器7またはアナログ信号処理回路111の入力インピーダンスを低くする必要がある。
なお、MSB側DA変換器15AおよびLSB側DA変換器15Bの一例としてカレントステアリング型DA変換器の構成例を示したが、複数の抵抗ラダーおよびバッファから構成されるような電圧出力のDA変換器でもよい。この場合には、差動出力端子voutp・voutmに接続される減算器7またはアナログ信号処理回路111の入力インピーダンスを高く設定する方が好ましい。
次に、図2のゲイン段12Aの構成例について説明する。DCオフセット除去回路120において信号飽和がなく、ループの時定数を一定に保ちたい場合には、ゲイン段12Aは常に一定のゲインに設定すればよい。また、出力信号Zに含まれるDCオフセット成分が大きい場合には、ゲイン段12Aのゲインを大きく設定し、DCオフセット成分が小さい場合には、ゲイン段12Aのゲインを小さく設定する、というように、出力信号ZのDCオフセット量に応じてゲイン段12Aのゲインを変更してもよい。このような設定を行うことで、大きなDCオフセットが発生しても、短時間でDCオフセットを低減することができ、出力信号ZへのDCオフセット起因の歪みを低減することができる。なお、このようなゲイン設定は容易に発想できるため、ここではこれ以上の詳細な説明は省略する。
次に、信号処理回路110において信号飽和(クリッピング)が発生する場合について説明する。AD変換器112の入力レンジは有限であり、入力信号Xに突然大きなDCオフセットが発生したり、可変ゲイン段111Bのゲインが大きく変化し、大きなDCオフセットが発生すると、AD変換器112は飽和する。特に可変ゲイン段111Bのゲインが大きく設定されるとき、この信号飽和が発生しやすい。AD変換器112が飽和している間、出力信号Zには大きな歪みが発生する。このとき、AD変換器112の飽和により、AD変換器112の出力値は信号飽和がないと仮定した場合に得られる出力値に比べ小さくなり、DCオフセット除去ループの1部である信号処理回路110のゲインが著しく小さくなる。このような状態は、電源投入時にも発生すると考えられる。これは、電源投入時の各回路の内部状態は不定であり、AD変換器112等は飽和状態にある可能性が高いためである。このとき、DCオフセット除去に対するセトリングが極端に遅くなり、出力信号Zが歪んだ状態が長く続く可能性がある。
この課題を解決するため、本実施形態では、例えば、デジタル信号Y2や出力信号Zが飽和する頻度に応じて、ゲイン段12Aのゲインを変更する。つまり、フィードバックループに配置された回路、例えば、AD変換器112が飽和しているときには、ゲイン段12Aのゲインを高く設定し、飽和していないときは、所望のループ時定数になるゲインに設定することで、フィードバックループに配置されたAD変換器112が飽和した場合にでも、すぐに飽和状態から復帰でき、出力信号Zの飽和状態を減らすことができる。このような制御を行うためのゲイン段12Aおよび飽和状態検出回路8の構成例を、図8に基づいて説明する。
図8は、ゲイン段12Aおよび飽和状態検出回路8の具体的な構成例を示すブロック図である。ゲイン段12Aは、飽和状態検出回路8からの出力に基づいてゲインが制御される可変ゲイン段である。飽和状態検出回路8は、ルックアップテーブル8A、カウンター8B、比較器8Cおよび絶対値回路8Dを備えている。絶対値回路8Dは、飽和しているかどうかを確認したい信号の絶対値をとる回路であり、ここでは飽和検知する信号を信号処理回路110の出力信号Zとする。比較器8Cは、絶対値回路8Dの出力をある閾値THRESHOLDと比較する。カウンター8Bは、比較器8Cの出力をカウントし、出力信号Zが飽和している頻度をカウントする。ルックアップテーブル8Aは、カウンター8Bの出力値に対応するゲイン設定を保持しており、ゲイン段12Aは、ルックアップテーブル8Aに応じてゲインが変更される。
ここで、カウンター8Bは、ある一定期間毎にリセットされ、リセット直前のカウント値をルックアップテーブル8Aに出力することで、出力信号Zの飽和頻度を得ることができる。
図9(a)は、ルックアップテーブル8Aに保持されるデータの一例を示すグラフである。横軸は信号Zの飽和頻度であり、縦軸は飽和しないと仮定したときの信号Zの振幅と、ある飽和頻度で飽和させたときの信号Zの振幅との振幅比の平均値である。
ここで、三角波の場合を例に、該飽和頻度と振幅比の平均値との関係について、図9(b)を用いて説明する。
図9(b)は、三角波がクリッピングされている状態における回路の出力波形を示すグラフである。このように、三角波が連続して出力されている場合、回路によって、ある飽和レベルで三角波がクリッピングされる。破線は、本来出力されるべき波形を示しており、破線で示されている信号がクリッピングされて飽和レベルになる。飽和頻度とは、三角波がクリッピングされる時間的割合であり、D/Cで表される。一方、振幅比の平均値は、(領域Aの面積+領域Bの面積)/領域Aの面積で表される。ここで、領域Aは飽和レベルより下側に形成される台形を指し、領域Bは飽和レベルより上側の三角形を指す。
図9(a)において、一点鎖線は、ある信号Zが正弦波である場合のルックアップテーブル特性を示しており、破線は、ある信号Zがランダム信号である場合のルックアップテーブル特性を示している。この正弦波やランダム信号の特性に近い特性を有するルックアップテーブルを用意することで、フィードバックループに配置された回路が飽和している場合でも、飽和しない場合と同様のセトリング特性を近似的に実現することができる。
また、図9(a)において実線で示すルックアップテーブル特性は、上述の正弦波やランダム信号の場合の特性に近い特性になるように近似したものである。この特性は、飽和頻度の閾値が0.5、0.5*(1+1/2)、0.5*(1+1/2+1/4)、…となっており、ルックアップテーブルをプライオリティエンコーダを用いてコンパクトに実現できる。
次に、図2に示す量子化器11の好適な例について、図10および図11を用いて説明する。量子化器11はDCオフセットのみを高い分解能で量子化できればよいため、1ビット1次のノイズシェーピング回路が好ましい。
図10は、1ビット1次のノイズシェーピング回路で構成される量子化器11を示す回路図である。量子化器11は、加算器11A、遅延器11B、LFSR(Linear Feedback Shift Register)11C、ゲイン段11D、加算器11E、量子化器11Fおよび減算器11Gを備えている。加算器11Aは、信号Zと減算器11Gからのフィードバック信号とを加算する。遅延器11Bは、加算器11Aの出力を1クロック遅延する。LFSR11Cは、擬似ランダム雑音を発生する回路である。ゲイン段11Dは、LFSR11Cの出力を増幅または減衰する。加算器11Eは、遅延器11Bとゲイン段11Dの出力とを加算する。量子化器11Fは、加算器11Eの出力を1ビット量子化し、減算器11Gは、遅延器11Bの出力と量子化器11Fの出力との差を計算する。なお、LFSR11Cは、特許請求の範囲に記載の第2擬似ランダム雑音発生回路に相当する。
ここで、擬似ランダム雑音をノイズシェーピング回路で用いることの重要性を、図11を用いて説明する。
図11は、図2に示す信号処理回路110にDCオフセット除去回路120を適用した場合の出力信号ZのFFTスペクトルを示すグラフであり、(a)は、量子化器11において、ゲイン段11Dのゲインをゼロにした場合、つまり擬似ランダム雑音を入力しない場合を示しており、(b)は、ゲイン段11Dのゲインを所望の値にした場合を示している。ここで、入力信号Xに、1MHzの正弦波と回路ノイズに対応する適当なレベルの雑音とを入力した。また、AD変換器112以降のデジタル回路の動作周波数は20MHzに設定した。さらに、DCオフセット除去回路120のハイパスフィルタ特性のカットオフ周波数が2.8kHz付近になるようにゲイン段12Aのゲインを設定した。
これにより、図11(a)および(b)のグラフで、入力信号Xに入力された1MHzの正弦波出力が観測された。また、8MHz付近からノイズフロアが上昇しているのは、図2のAD変換器112としてΔΣ型AD変換器を用いたため、AD変換器112の量子化ノイズが高周波へシェーピングされるためである。10kHz以下の周波数では、入力された擬似ランダム雑音がDCオフセット除去回路120のハイパス特性に従って減衰される。
図11(a)に示すように、擬似ランダム雑音を入力しない場合、ハイパス特性のカットオフ周波数が8kHz程度になる。一方、図11(b)に示すように、擬似ランダム雑音を入力する場合、ハイパス特性のカットオフ周波数は、2.5kHz付近であり、当初の設定値2.8kHzに近い値となる。擬似ランダム雑音を入力しない場合のハイパス特性のカットオフ周波数のズレは、出力ZQにおける信号成分が小さい場合に顕著に現れる。これは、図10に示す1ビット量子化器である量子化器11の特性に起因している。具体的には、量子化器11が、擬似ランダム雑音を入力せず、かつ、信号Zのレベルが小さい場合、信号Zから出力ZQへのゲインが所望の値である1よりも大きくなるために、上記のカットオフ周波数のズレが発生すると考えられる。
また、ノイズシェーピング回路である図10の量子化器11において、擬似ランダム雑音を入力せず、かつ、信号Zのレベルが小さい場合、量子化器11の内部状態に周期性が表れ、その周期性に応じて、信号Zから出力ZQへのゲインが時間的に変動する。このゲイン変動により、該周期性に応じてハイパスフィルタのカットオフ周波数が時間的に変動する。このようなカットオフ周波数の変動が生じないように、図10に示す1ビット量子化器において、擬似ランダム雑音を入力することが好ましい。
また、量子化器11は、ノイズシェーピング機能を持たない1ビット量子化器である場合、大きな量子化ノイズが帯域内に混入し、出力信号Zに現れる。しかしながら、この量子化ノイズが問題とならないのであれば、量子化器11がノイズシェーピング機能を持たない1ビット量子化器であってもよい。
〔実施形態3〕
本発明の第3の実施形態について図12を用いて説明すれば以下の通りである。実施形態2に係るDCオフセット除去回路120では、信号処理回路の入力信号はアナログ信号、出力信号はデジタル信号を仮定したが、信号処理回路の出力信号がアナログ信号でもよい。本実施形態では、信号処理回路の出力信号がアナログ信号である場合について説明する。
図12は、本実施形態に係るDCオフセット除去回路130の構成を示すブロック図である。DCオフセット除去回路130は、量子化器21、ゲイン段12、デジタル積分器3、ノイズシェーピング回路14、DA変換器15、ローパスフィルタ16および減算器7を備えており、アナログ信号処理回路111の出力信号に混入するDCオフセット成分を除去する回路である。すなわち、DCオフセット除去回路130は、図2に示すDCオフセット除去回路120において、量子化器11の代わりに量子化器21を設ける構成である。
AD変換器112およびデジタルフィルタ113を設けていないため、出力信号Zはアナログ信号である。量子化器21としては、出力ビット数が1ビットであるΔΣ型AD変換器が好適に用いられ、量子化器21は、出力信号Zをデジタル信号ZQに変換する。量子化器21の出力ビット数が1ビットであることから、量子化器21以降のゲイン段12、デジタル積分器3の回路規模を小さくできる。また、ΔΣAD変換器は設計が容易である。
なお、量子化器21として、ΔΣ型ではなくナイキスト型AD変換器を用いてもよい。この場合、該AD変換器の出力ビット数は、1〜12ビットであることが望ましい。
ここで、量子化器21が発生したDCオフセット成分は除去できないため、高精度にDCオフセット成分を除去したい場合には、量子化器21にDCオフセット成分を除去するための何らかの機能を加えることが好ましい。例えば、当該機能を実現する技術として、オートゼロ技術、チョッピング技術等が挙げられる。これらの技術は一般に知られた技術であるため、ここでは説明を省略する。
なお、実施形態2に係るDCオフセット除去回路120および本実施形態に係るDCオフセット除去回路130において、ローパスフィルタ16は、ノイズシェーピング回路14が発生する不要な高周波信号を除去すると同時に、DA変換器15の波形を滑らかにするために設けている。一方、そのような処理がなくても問題がない場合や、ローパスフィルタ16の機能をアナログ信号処理回路111内のアナログフィルタ111Aで代用することができる場合には、ローパスフィルタ16を設けなくてもよい。
〔実施形態4〕
本発明の第4の実施形態について図13を用いて説明すれば以下の通りである。本実施形態では、実施形態3に係るDCオフセット除去回路130をさらにできるだけアナログ回路で構成した場合について説明する。
図13は、本実施形態に係るDCオフセット除去回路140の構成を示すブロック図である。DCオフセット除去回路140は、アナログゲイン段22、アナログ積分器13、ノイズシェーピング型AD変換回路24、DA変換器15、ローパスフィルタ16および減算器7を備えている。すなわち、DCオフセット除去回路140は、図12に示すDCオフセット除去回路130において、量子化器21を設けず、ゲイン段12、デジタル積分器3およびノイズシェーピング回路14の代わりに、アナログゲイン段22、アナログ積分器13およびノイズシェーピング型AD変換回路24を設けた構成である。量子化器21を設けていないため、アナログゲイン段22からノイズシェーピング型AD変換回路24までの各回路は、アナログ信号を処理可能に構成されている。これにより、量子化器21を不要とすることができる。
また、図1および図2に示す信号処理回路110のように、出力信号Zがデジタル信号である場合も、量子化器を設けずに、信号Zをゲイン段2またはゲイン段12に出力してもよい。この場合でも、積分器をデジタル積分器で構成できるので、回路規模を小さくできる。
〔実施形態5〕
本発明の第5の実施形態について図14を用いて説明すれば以下の通りである。特に信号処理回路が無線機のミキサからの出力信号を処理するために用いられる場合、入力信号Xは、外乱ノイズの影響を非常に受けやすい。このため、信号処理回路のうち、アナログ信号処理を処理する部分とデジタル信号を処理する部分とを別のチップに搭載することが好ましい。そこで、本実施形態では、DCオフセット除去回路が集積化される場合に、DCオフセット除去回路および信号処理回路を2つの集積回路に分割して搭載する構成について説明する。
図14は、本実施形態に係るDCオフセット除去回路150、信号処理回路110およびDSP復調回路260の構成を示すブロック図である。信号処理回路110およびDSP復調回路260は、図2に示す信号処理回路110および図15に示すDSP復調回路260とそれぞれ略同一である。
信号処理回路110を構成する回路のうち、アナログ信号処理回路111が集積回路LSI1に搭載され、AD変換器112およびデジタルフィルタ113が集積回路LSI2に搭載されている。なお、AD変換器112は、集積回路LSI1に搭載してもよい。
DCオフセット除去回路150は、図2に示すDCオフセット除去回路120において、量子化器11の代わりに図12に示す量子化器21を設けた構成である。DCオフセット除去回路150を構成する回路のうち、量子化器21のみ集積回路LSI1に搭載され、ゲイン段12、デジタル積分器3、ノイズシェーピング回路14、DA変換器15、ローパスフィルタ16および減算器7は、集積回路LSI2に搭載されている。これにより、DCオフセット除去回路150では、量子化器21の出力信号ZQが、集積回路LSI1と集積回路LSI2と間のインターフェスとして用いられる。このように、量子化器として1ビットノイズシェーピング回路を用いることにより、出力信号ZQが1ビット信号となるため、LSI間のインターフェス数、すなわちLSIのピン数、PCB(プリント回路基板)の配線数を大幅に減らすことができる。これにより、LSIのコンパクト化、PCBの面積節約が可能となる。
〔実施形態の総括〕
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。