JP4984321B2 - 被削性および靭性に優れたプリハードン鋼およびその製造方法 - Google Patents

被削性および靭性に優れたプリハードン鋼およびその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、極めて優れた被削性を有し、さらに靭性と硬さを兼ね備えた新しいプリハードンタイプの、主としてプラスチック成形に使用される金型用鋼およびその製造方法に関するものである。
主として、プラスチック成形用金型として使用されるプリハードン鋼は、金型等の製作期間の短縮と使用寿命の向上の観点から、被削性と同時に、強度、耐摩耗性に優れ適度の靭性が必要とされるものである。しかし、これらの要求特性は相反する性質であり、どの特性も十分に満足のいく鋼は得られているとは言えない。
上記の要求に対しては、例えば、低C−Mn−Ni−Mo(W)−Cu−Al系合金に対して、結晶粒度を粒度番号4〜6の範囲とすることによって被削性および靭性を兼ね備えるという提案がなされている(特許文献1を参照)。この鋼の組織は、主にCを低く規定することによって均一な上部ベイナイト組織に調整されており、この上部ベイナイト組織により被削性を確保するものである。一方で、本願出願人は、主にMn量を適正化し、均一な下部ベイナイト組織に調整することによって、被削性および靭性を兼ね備えた低C−Mn−Ni−Mo(W)−高Cu−Al系合金を提案している(特許文献2を参照)。
特開平05−070887号公報 特開平07−278737号公報
上述した提案はそれぞれ、プラスチック成形用プリハードン鋼の性能向上に貢献する一つの手段を提供しているものである。しかし、特許文献1の上部ベイナイト組織は被削性には優れているものの、靭性が十分であるとは言えない。一方、特許文献2の下部ベイナイト組織は靭性には優れているものの、被削性が若干劣っており、やはり十分とは言えない。この通り、従来の金型用鋼材では、金型制作期間の短縮および使用寿命の向上の要求を十分満足することにおいては、特性の改善に余地のあるものであった。本発明の目的は、上述した要求に鑑み、金型の制作期間の短縮および使用寿命の向上を共に達成できることで、特にはプラスチック成形用金型に供して最適な、プリハードン鋼およびその製造方法を提供することである。
本発明者は、低C−Mn−Ni−(Mo,W)−Cu−Al系合金や、低C−Mn−Ni−(Mo,W)−高Cu−Al系合金の組成および組織と被削性および靭性との関係を詳細に検討したところ、被削性を向上するために必須の組織と考えられていた上部ベイナイト組織や下部ベイナイト組織ではなく、上部ベイナイトと下部ベイナイトの混合組織に調製することによって、さらに被削性を向上させ、優れた被削性と靭性を兼ね備えたプリハードン鋼を見出した。
すなわち本発明は、質量%で、C:0.05〜0.17%、Si:0.6%以下、Mn:0.5〜2.0%、Ni:2.5〜3.5%、Cr:2.0%以下、WおよびMoの1種または2種を(1/2W+Mo):0.7%以下、Al:0.5〜1.5%、Cu:0.7〜1.8%を含む工具鋼であり、組織が上部ベイナイトと下部ベイナイトの混合組織であることを特徴とする被削性および靭性に優れたプリハードン鋼である。
好ましくは、質量%で、C:0.05〜0.17%、Si:0.6%以下、Mn:0.5〜2.0%、Ni:2.5〜3.5%、Cr:0.3〜0.8%、WおよびMoの1種または2種を(1/2W+Mo):0.7%以下、Al:0.5〜1.5%、Cu:1.2〜1.8%、残部Feおよび不可避的不純物よりなる組成を有し、組織が上部ベイナイトと下部ベイナイトの混合組織であることを特徴とする被削性および靭性に優れたプリハードン鋼である。
また、本発明の他の発明は、上記鋼のいずれかを基本組成としてFeの一部をS:0.3%以下で置換し、組織を上部ベイナイトと下部ベイナイトの混合組織としたことを特徴とする被削性および靭性に優れたプリハードン鋼である。
本発明の上記鋼に好ましくは、その上部ベイナイトと下部ベイナイトの混合組織は、面積%にて、下部ベイナイトが20〜80%であることを特徴とする被削性および靭性に優れたプリハードン鋼である。あるいはさらに、硬さが34〜45HRCであることを特徴とする被削性および靭性に優れたプリハードン鋼である。
そして、本発明の製造方法は、質量%で、C:0.05〜0.17%、Si:0.6%以下、Mn:0.5〜2.0%、Ni:2.5〜3.5%、Cr:2.0%以下、WおよびMoの1種または2種を(1/2W+Mo):0.7%以下、Al:0.5〜1.5%、Cu:0.7〜1.8%を含む工具鋼を、オーステナイト領域まで加熱した後、上部ベイナイトと下部ベイナイトの混合領域へ冷却する上部・下部混合ベイナイト生成熱処理を行うことを特徴とする被削性および靭性に優れたプリハードン鋼の製造方法である。Feの一部をS:0.3%以下で置換してもよい。上部・下部混合ベイナイト生成熱処理を行った後には、34〜45HRCの硬さに焼戻すことが望ましい。
本発明鋼は、従来のプリハードン鋼にはない高いレベルで、優れた被削性および靭性を兼備することを達成している。したがって、他の特性を大きく劣化させず、例えばプラスチック成形用の工具寿命の延長化が達成でき極めて有効である。また本発明鋼は靭性が高いため、金型などの加工に伴う熱応力によっても割れが発生しにくく、より精密な金型加工を行うのに特に適したものとなる。
本発明の根幹をなす特徴の一つは、低C−Mn−Ni−(Mo,W)−Cu−Al系や低C−Mn−Ni−(Mo,W)−高Cu−Al系のプリハードン鋼において、組織を上部ベイナイトと下部ベイナイトの混合組織としたことである。
上述したように、従来の低C−Mn−Ni−(Mo,W)−Cu−Al系合金や低C−Mn−Ni−(Mo,W)−高Cu−Al系をプリハードン鋼として使用する場合には、その被削性を確保するために、上部ベイナイト組織や下部ベイナイト組織の単相組織を狙って調製されていた。しかし、上部ベイナイト組織は、被削性の優れた組織ではあるが、反面靭性の低い組織であり、また、下部ベイナイト組織は、逆に靭性の優れた組織ではあるが、被削性が若干劣る組織であった。
そこで、本発明者は、従来の上部ベイナイト組織や下部ベイナイト組織でなる単相組織を、上部ベイナイトと下部ベイナイトの混合組織に変えることによって、さらにはその最適な混合バランスに調整することによって、上部ベイナイト組織よりも優れた被削性を得ると共に、下部ベイナイト組織と同等の靭性を得ることができ、金型の製作期間の短縮と使用寿命の向上を共に達成できることを見出したものである。
さらに、本発明で規定する上部ベイナイトと下部ベイナイトの混合組織は、鋼組成を決めるだけで得られるものではなく、焼入れ時の冷却速度によっても大きく左右されるものである。しかしながら、本発明鋼は、特にCu、Crの両元素量を最適化することによって十分調整されているため、狙いである上部ベイナイトと下部ベイナイトの混合組織を達成するための熱処理工程は、その管理は困難なものではない。例えば、オーステナイト領域まで加熱した後、熱処理歪の少ない空冷を行うことによっても、上部ベイナイトと下部ベイナイトの混合組織を得ることができる。さらに、熱間加工後の冷却速度が空冷以上の直接焼入れであっても、上部ベイナイトと下部ベイナイトの混合組織を得ることは可能である。
なお一般的に、鋼組織におけるベイナイトとは、オーステナイトを冷却した時に生ずる変態生成物の一つであり、パーライト生成温度とマルテンサイト生成温度との中間の温度範囲で生ずるものを言う。そして、顕微鏡的には、パーライト変態温度近くで生じたものは羽毛状(塊状)、マルテンサイト生成温度近くで生じたものは針状を示し、前者を上部ベイナイト、後者を下部ベイナイトと言っている。本発明で規定する上部ベイナイトと下部ベイナイトの混合組織は、具体的に示すと、例えば図1に示す組織(上部ベイナイト30面積%、下部ベイナイト70面積%)や、図2に示す組織(上部ベイナイト40面積%、下部ベイナイト60面積%)である。そして、比較のために、従来鋼の上部ベイナイト組織(図3)、および下部ベイナイト組織(図4)を示しておく。
このような本発明鋼の上部ベイナイトと下部ベイナイトの混合組織は、好ましくは、面積%(以下、単に%で表記)にて、下部ベイナイトが20〜80%であることを特徴としている。被削性に優れた上部ベイナイト組織に、異なった組織である下部ベイナイトを20〜80%混合し、切削時に適度に脆化させることによって、均一な上部ベイナイト組織よりも優れた被削性を得ることができる。しかし、下部ベイナイトが20%未満であると靭性が不十分であり、80%を超えると被削性が若干劣るため、20〜80%とした。なお、上部ベイナイトが主体であると靭性が若干劣るため、より好ましくは下部ベイナイトを60%以上とする。一方で、より好ましい下部ベイナイトの上限は70%である。
また、本発明鋼の望ましい組成の特徴は、Cu,Cr量の適正化により、適度にベイナイト組織を微細化させ、組織を望ましい上部ベイナイトと下部ベイナイトの混合組織に調整できるところにある。つまり、硬さと被削性を兼備させた低C−Mn−Ni−(Mo,W)−Cu−Al系や低C−Mn−Ni−(Mo,W)−高Cu−Al系のプリハードン鋼においては、焼入れの熱処理工程時に管理が比較的容易な冷却速度範囲でも、極めて優れた被削性と靭性を兼備させることができる。
以下、本発明で規定する鋼組成の規定理由について述べる。
Cは、低C−Mn−Ni−Mo(W)−Cu−Al系や、低C−Mn−Ni−(Mo,W)−高Cu−Al系のプリハードン鋼の焼入れ組織をベイナイト組織に保ち、かつ焼戻しにおけるCu−Fe固溶体、Ni−Al金属間化合物やMo、W炭化物の析出に基づく析出硬化をもたらすための基質を与えるための基本的添加元素である。多すぎると基地をマルテンサイト組織化して被削性を減じ、また過度の炭化物を形成して被削性を低下させる。そのため本発明においては0.05〜0.17質量%に規定した(以下、単に%で表記)。好ましくは0.08%以上とする。最も好ましくは0.10%以上および/または0.14%以下である。
Siは、鋼製品として使用時の雰囲気に対する耐食性を高める元素である。多すぎるとフェライトの生成をまねき、また被削性を低下させるので0.6%以下とする。Siを低減すると異方性が低減され、また縞状偏析が低減され、優れた鏡面加工性が得られるため、好ましくは0.4%以下である。好ましい下限は0.1%である。
Mnは、本発明の、靭性の高い混合組織、好ましくは下部ベイナイト組織を20〜80%含む基地とした混合組織のプリハードン鋼にとって、最も重要な元素のうちの一つである。Mnは基本的には基地の靭性を高める元素であり、0.5%以上必要である。またMnはベイナイト焼入れ性を高め、本発明の望ましい組織の特徴である20〜80%の下部ベイナイト組織を得やすくする元素である。そのため好ましくは1.0%以上、さらに望ましくは1.25%以上添加する。またMnはフェライトの生成を抑制し、適度の焼入れ焼戻し(時効)硬さを与えるという効果もある。しかしながら、Mnは多すぎると靭性が高くなりすぎ、優れた被削性を保つことができなくなるため、2.0%以下に規定する。好ましくは1.6%以下である。
Niは、ベイナイト焼入性を高め、またフェライトの生成を抑制し、さらに焼戻し(時効)の際、Ni−Al金属間化合物を析出させ、所要の硬さを得るとともに延性を適度に低下させ、被削性の向上を得るために添加される。多すぎるとベイナイト変態温度を低下させ、ベイナイト組織を過度に微細化させ、さらにマルテンサイト変態化に働き、また基地の粘さを上げて被削性を低下させるので3.5%以下とし、低すぎると上記添加の効果が得られないので2.5%以上とする。好ましくは2.6%以上である。最も好ましくは2.8%以上および/または3.2%以下である。
Crは、本発明の混合組織、さらにはその望ましい上部ベイナイトと下部ベイナイトの混合比率を得るために最も重要な元素のうちの一つであり、焼入れの熱処理工程時における管理が比較的容易な冷却速度範囲であっても、適度にベイナイト組織を微細化させる効果がある。また、耐食性を高め、窒化する場合の硬さを高め、さらに研磨加工時あるいは製品保管時の発錆を抑制する効果もある。しかし、多すぎるとベイナイト組織を過度に微細化し、さらにマルテンサイト変態化にも働いて被削性を劣化するため、2.0%以下とする必要がある。好ましくは、1.0%以下であり、さらに好ましくは、0.3%以上および/または0.8%以下である。これは、特に被削性が要求されるプラスチック成形用の金型鋼として有効である。
W、Moは、本発明鋼の焼戻し(時効)処理、特には500℃を越える高温焼戻し(時効)処理において、微細炭化物を析出し、析出(時効)硬化をもたらし、また製品使用時の雰囲気に対する耐食性を高める作用を有する元素である。本発明の場合、多量の添加は必要なく、多すぎると被削性の低下をまねくので、WおよびMoの1種または2種を(1/2W+Mo)で0.7%以下とする。上記添加の効果を特に得ようとする場合には、好ましくは(1/2W+Mo)で0.1%以上とする。最も好ましくは0.2%以上および/または0.4%以下である。なお、上記の効果においてWおよびMoは同等に扱えるものの、WはMoに比べて拡散速度が遅いことから、Wを多く添加した場合は熱間加工時や焼入れ時に未固溶炭化物が残留する可能性が高くなる。よって、この点においては、本発明はMoのみを採用することが好ましい。
Alは、焼戻し(時効)処理においてNi−Al金属間化合物の微細析出による析出(時効)硬化をもたらし、本発明の優れた被削性を形成させる重要な元素の一つである。またAlは、所要硬さを得るための添加元素でもあり、窒化を行うとなればその時の窒化硬さを上昇させる効果をもたらすものである。多すぎるとアルミナ系介在物の生成量が増加し、鏡面仕上性を低下させ、また耐孔食性を低下させ、さらに延性の過度の低下をまねくので1.5%以下とし、低すぎると被削性が低下するため0.5%以上とする。好ましくは、特に20〜80%の下部ベイナイト組織としたときの被削性をより高めるため0.8%以上とする。最も好ましくは0.95%以上および/または1.2%以下である。
Cuは、上記Crと同様に、本発明の混合組織、さらにはその望ましい上部ベイナイトと下部ベイナイトの混合比率を得るために最も重要な元素のうちの一つであり、焼入れの熱処理工程時における管理が比較的容易な冷却速度範囲であっても、適度にベイナイトを微細化させる効果がある。また、焼戻し(時効)処理において、Fe−Cu固溶体の微細析出による析出(時効)硬化をもたらし、本発明鋼の基本的な被削性を付与するための、また所要の硬さを得るための元素であり、さらに、優れた耐食性をもたらすものである。しかし、多すぎると熱間加工性を低下させ、またベイナイトを過度に微細化させ、さらにマルテンサイト変態化にも働いて、かえって被削性を低下させるので1.8%以下とし、低すぎると上記添加の効果が得られないので0.7%以上とする。好ましくは1.2%以上である。
また、本発明において特に被削性を高めるためには、0.3%以下のSを添加してもよい。好ましくは0.002%以上である。Sの添加は被削性の向上には極めて有効であるが、添加によって鏡面加工性が劣化するため、鏡面性が特に要求される場合は、その利用を0.005%以下に低減することが望ましい。
その他、4A、5A族の元素であるV,Nb,Ta,Ti,Zr,Hfより選ばれる少なくとも1種の元素は、結晶粒を微細化し、靭性を高めるという点で同様の作用を有する元素である。多量の添加は、溶体化硬さおよび時効硬さを必要以上に高めて、被削性や靭性を低下することになるため、不純物として管理する時に加えて、添加する場合であっても、それぞれ0.5%以下にすることが望ましい。なお、Vにおいては、焼戻し軟化抵抗を高める効果もある反面、硬質のV炭化物が形成されると、これは特に鏡面加工性に悪影響を及ぼすことから、4A、5A族の元素の中では個別かつ特別に管理することが好ましい。鏡面加工性を重視すれば、Vは0.1%以下に規制することが望ましい。より望ましくは0.03%未満、更には望ましくは0.02%未満である。
BeおよびBから選ばれる少なくとも1種の元素は、大型の製品の場合における焼入れ性を改善する元素として同様の作用を有する元素である。これらの元素は、多量に添加しても効果は少なく、返って加工性を劣化させるため、不純物として管理する時に加え、添加する場合であっても、Be:0.5%以下およびB:0.01%以下とすることが望ましい。また、Pb,Bi,Se,Teから選ばれる少なくとも1種の元素は、被削性を改善する元素として同様の作用を有する。しかし、これらの元素の多量の添加は靭性を劣化するため、やはり不純物として管理する時に加えては、添加する場合であっても、総量で0.5%以下とすることが好ましい。
本発明鋼は、例えば34〜45HRCの硬さのプリハードン状態で供給され、そのまま製品形状に加工、金型であれば型彫加工の後、研磨加工、さらに高度な鏡面仕上げやシボ加工等を施して使用されるものである。34HRC未満であると使用時(金型としての成形時)に摩耗等の損傷の問題が起こり、また、45HRCを超えると被削性に悪影響を及ぼすため、望ましい硬さは34〜45HRCとした。
そして、本発明のプリハードン鋼に求められる靱性は、割れおよび折れを防止するために必要な特性である。そのための靱性値としては、JIS−Z−2242(2005)の金属材料シャルピー衝撃試験方法に準じた2mmUノッチ試験片による衝撃値で、より具体的には後述の実施例の条件で評価して、望ましくは24J/cm以上、さらに望ましくは25J/cm以上である。本発明の優れた靱性は、鋼の成分組成を基本にした上でのベイナイト組織の制御により達成することができるが、望ましくは上記の硬さ値とのバランスをも考慮することが、優れた被削性との相互達成を可能にする。
プリハードン鋼の供給形態は、通常、既に所定の硬さに調質された中間素材が素材メーカより出荷され、その中間素材を加工メーカが必要寸法に切断および6面を切削加工仕上げし、更に必要に応じて研削加工仕上げして、それがエンドユーザである金型メーカに卸される流通経路である。そして、特に最近においては、エンドユーザ側での加工効率を高めるために、中間の加工メーカは、エンドユーザの求めに応じた予め高精度の仕上げ寸法に調整されたプリハードン鋼を「プレート」として供給する傾向にある。プレート形状で供給されるプリハードン鋼には、特に正面フライス加工性、すなわち正面フライス切削において切削チップの摩耗が少なく高効率な切削緒元で加工が出来て、なおかつその切削肌は平滑な面粗さが得られることが求められる。そこで、ベイナイト組織制御による本発明のプリハードン鋼であれば、特に正面フライス加工性に優れるので、このようなプレートに適用してこそ、最大の作用効果を発揮するものである。
表1に示す化学成分の残部Feおよび不可避的不純物からなる試料1を熱間圧延した後、880℃のオーステナイト領域まで加熱し、半冷5分、半冷15分、半冷30分、半冷70分の冷却条件によりベイナイト生成熱処理(ベイナイト焼入れ)を施し、500〜550℃の温度範囲で焼戻しを行い、硬さを38〜40HRCに調製した。組織は、上記冷却条件により、それぞれ下部ベイナイト組織、上部ベイナイト20%と下部ベイナイト80%の混合組織、上部ベイナイト40%と下部ベイナイト60%の混合組織、上部ベイナイト組織に調製されている。なお、半冷(時間)とは、焼入れ温度から、(焼入れ温度+室温)/2の温度まで冷却するのに要する時間である。
被削性の評価は、Φ80mmのフェースミル加工を実施した。すなわち、サーメット製の切削チップを用い、切削速度が116m/min、送りが0.09mm/刃、切り込みが1mmの加工条件において、工具摩耗量を測定し、0.2mmの摩耗が進行するまでの切削距離として評価した。
靭性の評価は、JIS−Z−2242(2005)にある金属材料シャルピー衝撃試験方法に準じて、2mmUノッチ試験片を用いてシャルピー試験を実施し、室温でのシャルピー衝撃値を測定した。試験片は、その長さが試料の圧延方向(L方向)となる位置で3本を採取し、これら各試験片の結果値を平均したものを衝撃値として評価した。以上の結果を表2に示す。
表2に示すように、上部ベイナイトと下部ベイナイトの混合組織に調製した本発明鋼は、上部ベイナイト組織や下部ベイナイト組織の単相組織に調製した比較鋼に比べて被削性が大幅に優れることが分かる。さらに、上部ベイナイト40%と下部ベイナイト60%の混合組織においては、より大幅に優れることが分かる。また、靭性についても、下部ベイナイト組織100%よりは若干劣るものの、上部ベイナイト組織100%よりは明らかに優れていることが分かる。
表3に示す化学成分の残部Feおよび不可避的不純物からなる試料2〜6を熱間圧延した後、880℃のオーステナイト領域まで加熱後、空冷を行い、500〜590℃の温度範囲で焼戻しを行った供試材を用い、被削性および靭性の評価を行った。ただし、試料2〜5の空冷は半冷30分、試料6の空冷は半冷10分の冷却条件に相当する。
被削性の評価は、ドリル加工、Φ125mmの正面フライス加工を実施した。ドリル加工の評価は、高速度鋼製のΦ2mmドリルで、切削速度が15m/min、送り速度が120mm/min、加工深さが20mmの加工条件において、50個の孔を加工した後での、工具摩耗量を測定した。正面フライス加工の評価は、サーメット製の切削チップを用い、切削速度が150m/min、送り速度が0.13mm/刃、切りこみが2(深さ)×100(幅)mm、切刃数が1枚の加工条件において、49.7分間切削した時の工具摩耗量を測定した。靭性の評価は実施例1と同様に行った。以上の結果を表4に示す。
表4より、試料2〜5のどの組成においても、本発明である、上部ベイナイトと下部ベイナイトの混合組織(下部ベイナイトが20%〜80%)に調製することで、優れた被削性と靭性を兼備できることが分かる(試料2については、Cuが1%と若干少ないため、靭性が低くなっているが、実施例1より、上部ベイナイト組織100%よりは、明らかに優れている)。また、試料6においては、若干マルテンサイトになっている組織であり、靭性は優れているが、被削性は若干劣ることが分かる。
表5に示す化学成分の残部Feおよび不可避的不純物からなる試料7〜9を熱間圧延した後、880℃のオーステナイト領域まで加熱し、半冷40分相当の空冷で冷却し、530〜590℃の温度範囲で焼戻しを行い、硬さを36〜38HRCに調製した。組織は、上記冷却条件により、上部ベイナイト30%と下部ベイナイト70%の混合組織に調製されている。
被削性の評価は、Φ160mmの正面フライス加工を実施した。すなわち、サーメット製の切削チップを用い、切削速度が115m/min、送り速度が0.12mm/刃、切り込みが2(厚み)×90(幅)mm、切刃数が1枚の加工条件において、60分間切削した時の工具摩耗量を測定したものである。結果を表6に示す。
表6より、Sを添加していない試料7と微量添加している試料8,9を比較すると、Sは微量でも被削性を向上させるのに有効であることが分かる。Sは組織におけるMnSの形成等により鏡面性に悪影響を及ぼすため、鏡面性を重視する場合は、微量添加が好ましい。
被削性および靭性に優れた本発明のプリハードン鋼は、例えばプラスチック成形に使用される金型用鋼に最適である他には、射出成形機スクリュー等硬さが必要で切削性も重視される機械部品等にも適用が可能である。
本発明の金属ミクロ組織(×400倍)の一例を示す写真である。 本発明の金属ミクロ組織(×400倍)の一例を示す写真である。 比較例の金属ミクロ組織(×400倍)の一例を示す写真である。 比較例の金属ミクロ組織(×400倍)の一例を示す写真である。

Claims (8)

  1. 質量%で、C:0.05〜0.17%、Si:0.6%以下、Mn:0.5〜2.0%、Ni:2.5〜3.5%、Cr:2.0%以下、WおよびMoの1種または2種を(1/2W+Mo):0.7%以下、Al:0.5〜1.5%、Cu:0.7〜1.8%を含む工具鋼であり、組織が上部ベイナイトと下部ベイナイトの混合組織であることを特徴とする被削性および靭性に優れたプリハードン鋼。
  2. 質量%で、C:0.05〜0.17%、Si:0.6%以下、Mn:0.5〜2.0%、Ni:2.5〜3.5%、Cr:0.3〜0.8%、WおよびMoの1種または2種を(1/2W+Mo):0.7%以下、Al:0.5〜1.5%、Cu:1.2〜1.8%、残部Feおよび不可避的不純物よりなる組成を有し、組織が上部ベイナイトと下部ベイナイトの混合組織であることを特徴とする被削性および靭性に優れたプリハードン鋼。
  3. 質量%で、Feの一部を、S:0.3%以下で置換したことを特徴とする請求項1または2に記載の被削性および靭性に優れたプリハードン鋼。
  4. 上部ベイナイトと下部ベイナイトの混合組織は、面積%にて、下部ベイナイトが20〜80%であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の被削性および靭性に優れたプリハードン鋼。
  5. 硬さが34〜45HRCであることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の被削性および靭性に優れたプリハードン鋼。
  6. 質量%で、C:0.05〜0.17%、Si:0.6%以下、Mn:0.5〜2.0%、Ni:2.5〜3.5%、Cr:2.0%以下、WおよびMoの1種または2種を(1/2W+Mo):0.7%以下、Al:0.5〜1.5%、Cu:0.7〜1.8%を含む工具鋼を、オーステナイト領域まで加熱した後、上部ベイナイトと下部ベイナイトの混合領域へ冷却する上部・下部混合ベイナイト生成熱処理を行うことを特徴とする被削性および靭性に優れたプリハードン鋼の製造方法。
  7. 質量%で、Feの一部を、S:0.3%以下で置換したことを特徴とする請求項6に記載の被削性および靭性に優れたプリハードン鋼の製造方法。
  8. 上部・下部混合ベイナイト生成熱処理を行った後、34〜45HRCの硬さに焼戻すことを特徴とする請求項6または7に記載の被削性および靭性に優れたプリハードン鋼の製造方法。
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