以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
先ず、図1には、本発明に従う構造とされた固体高分子型燃料電池(PEFC)10の概略斜視図が示されている。かかる固体高分子型燃料電池10は、本発明に従う構造とされた燃料電池セルとしての単セル12を積層状態で多数組み付けることによって構成されている。なお、図1に示された固体高分子型燃料電池10は、図示された状態下での上下方向および左右方向が、鉛直方向および水平方向となるように設置されることとなる。以下の説明中、上下,左右方向および鉛直,水平方向は、原則として、この図1に示された設置状態下でのことを言うこととする。
より詳細には、かかる固体高分子型燃料電池10を構成する単セル12は、図2に示されているように、固体のイオン交換膜等の固体高分子電解質膜としての固体高分子膜14を電解質として、その両面に一対の触媒電極としての燃料電極16aおよび酸化電極16bを重ね合わせて接合一体化した構造の膜/電極接合体(MEA)18を備えている。なお、本実施形態において、固体高分子膜14と燃料電極16a及び酸化電極16bは、何れも矩形平板形状であって、固体高分子膜14が燃料電極16a及び酸化電極16bに比して、正面視での面積が大きくされており、それらが重ね合わせられた膜/電極接合体18において、固体高分子膜14が全周に亘って燃料電極16a及び酸化電極16bよりも外方に延び出している。具体的には、例えば、固体高分子膜14が正面視で82mm×82mmの正方形とされていると共に、燃料電極16a及び酸化電極16bが78mm×78mmの正方形とされており、全周にわたって固体高分子膜14が電極16a,16bの外方に2mm延び出すように重ね合わせられて固着される。
なお、燃料電極16aおよび酸化電極16bは、公知のように触媒としての白金を有しており、例えばカーボン等の導電性材料によって、ガスを透過する多孔質構造等をもって形成されている。しかし、固体高分子膜14の材質等を含めて、燃料電極16aと酸化電極16bを含んで構成される膜/電極接合体(MEA)18の材料やミクロ領域での構造等は、本発明において特徴的部分ではなく、従来から公知の技術が何れも適用可能であることから、ここでは、詳細な説明を省略する。
また、膜/電極接合体18には、挟み込むように一組のセパレータ20,22が重ね合わせられている。なお、本実施形態では、燃料電極16a側に重ね合わせられるセパレータを第一セパレータ20とすると共に、酸化電極16b側に重ね合わせられるセパレータを第二セパレータ22とする。また、本実施形態では、第一セパレータ20および第二セパレータ22として、図3〜図5に示されている如き、同一の金属製セパレータ24が採用されている。
この金属製セパレータ24は、良好な導電性に加えて、有効な剛性と酸化雰囲気下における耐蝕性を備えた金属材料によって形成されたものであり、例えばステンレス鋼を基本材料として、必要に応じて、表面処理を施したり、カーボン等との複合材料とすることによって、要求特性を高度に達成し得るようにしたもの等が、好適に採用される。この金属製セパレータ24は、要求される剛性と加工精度を満足し得るように、略一定の厚さ寸法(例えば、0.1mm〜0.5mm程度の厚さ寸法)を有する平板形状の金属プレートを用いて、プレス加工によって成形されている。特に本実施形態では、金属製セパレータ24が、厚さ寸法:0.3mmとされた金属プレートを用いて成形されている。
具体的には、金属製セパレータ24には、単セル12を構成する場合に同じ側に位置せしめられる第一辺縁部26と第二辺縁部28に位置して、各同一数(本実施形態では、各3個)の貫通孔30a,30b,30c,30d,30e,30fが打抜形成されている。これら第一辺縁部26における3個の貫通孔30a,30e,30dと、第二辺縁部28における3個の貫通孔30c,30f,30bは、互いに対称的な形状と位置をもって形成されている。即ち、金属製セパレータ24の高さ方向中央を水平に延びる水平中心軸と、幅方向中央を鉛直に延びる鉛直中心軸との、何れの中心軸回りで金属製セパレータ24を表裏反転した場合でも、左右両側の辺縁部の同じ位置に合計6個の貫通孔30a〜fが位置せしめられるようになっている。なお、第一辺縁部26には、上から順に貫通孔30a,30e,30dが形成されている一方、第二辺縁部28には、上から順に貫通孔30c,30f,30bが形成されている。
これにより、2枚の金属製セパレータ24,24を、表裏反転して重ね合わせた場合に、左右両端縁部に形成された各3個の貫通孔が、何れも、重ね合わせ方向で相互に連通せしめられるようになっている。なお、本実施形態では、第一セパレータ20において、図3,図4における各貫通孔30a,30b,30c,30d,30e,30fがそれぞれ燃料ガス供給孔30a,燃料ガス排出孔30b,酸化ガス供給孔30c,酸化ガス排出孔30d,冷却水供給孔30e,冷却水排出孔30fとされている。
さらに、金属製セパレータ24において、燃料電極16aに重ね合わせられる主面34には、図3及び図4に示されているように、第一辺縁部26の左上部に形成された燃料ガス供給孔30aの近くから第二辺縁部28に向かって水平方向に延び出し、第二辺縁部28の近くで鉛直下方に屈曲して僅かに下方に延び、更にUターンして第一辺縁部26に向かって水平方向に延び出し、第一辺縁部26の近くで鉛直下方に屈曲して僅かに下方に延び、再びUターンして第二辺縁部28に向かって水平方向に延び出して、第二辺縁部28の右下部に形成された燃料ガス排出孔30bに至る葛折状の屈曲したガス流通用の凹溝32が、形成されている。この凹溝32は、一つの貫通孔30を、略対角方向で対向位置する別の貫通孔30に接続するものであり、特に本実施形態では、互いに略平行に延びるようにして複数本(本実施形態では5本)形成されている。特に、かかる凹溝32は、水平方向に延びる各直線部分が、主面34の上下方向で略一定の間隔で位置するように形成されることが望ましい。
特に本実施形態において、凹溝32は、底面に向かって次第に溝幅が狭くなる略等脚台形形状の断面形状を有しており、全長に亘って略一定の断面形状とされている。なお、凹溝32は、好適には、溝幅が開口部で1.0mmから3.0mm、底部で0.5mmから1.5mmとされると共に、溝深さが0.5mmから1.5mmとされ、より望ましくは、開口部の溝幅が2.0mm、底部の溝幅が1.0mmとされると共に、溝深さが1.0mmとされる。また、複数条形成される凹溝32において、隣り合う凹溝32の間隔は、好適には、開口部において0.5mmから1.5mmとされ、より好適には、1.0mmとされるのが望ましい。
また、金属製セパレータ24の主面34において、凹溝32の各貫通孔30a〜dとの接続部分を除く部分を形成された領域が、膜/電極接合体18と重ね合わせられる、ガス拡散領域36とされている。かかるガス拡散領域36の周囲には、図4に示されているように、ガス拡散領域36を囲むようにして主面シールゴム層38が加硫成形されて被着されており、組付け状態下においてガス拡散領域36のシールが実現されている。
更に、金属製セパレータ24の主面34において、凹溝32の一部でガス拡散領域36の外部に形成された部分、即ち、凹溝32の各貫通孔30a,30b,30c,30dへの接続部分である接続部には、その開口部を覆蓋するように、金属製の板材によって形成された蓋板金具42が橋渡し状に組み付けられている。換言すれば、凹溝32の貫通孔30a〜dへの接続部分である接続部は、蓋板金具42によって凹溝32の開口が覆蓋されることにより、略トンネル状の構造とされている。なお、蓋板金具42に対しても主面シールゴム層38が被着形成されている。
一方、金属製セパレータ24において、凹溝32が開口する主面34と反対側の副面46には、図5に示すように、凹状通路48が形成されている。凹状通路48は、主面34に形成された複数条の凹溝32の間で、副面46において形成されて、燃料ガス供給孔30aの近くから燃料ガス排出孔30bの近くまで延びている。即ち、第一セパレータ20において、主面34における凹溝32間の凸部を、その反対側の副面46において凹状通路48として利用しており、酸化ガス供給孔30c及び酸化ガス排出孔30dの手前まで凹溝32に沿って延びている。なお、本実施形態における凹状通路48は、燃料ガス供給孔30a及び燃料ガス排出孔30b付近において、その両端部分がシールゴムで充填されており、凹状通路48が燃料ガス供給孔30aと燃料ガス排出孔30bに接続されないようになっている。
また、冷却水供給孔30e及び冷却水排出孔30fの近くには、接続凹所50が形成されている。接続凹所50は、一方の端部が冷却水供給孔30e又は冷却水排出孔30fに接続されている一方、他方の端部が燃料ガス供給孔30a又は燃料ガス排出孔30bの近くまで延びている。
そして、図5に示されているように、副面46において、金属製セパレータ24の外周部付近および組付け状態において凹溝32の底部同士が直接当接せしめられる部分を除く略全面には、副面シールゴム層52が形成されている。また、副面シールゴム層52は、好適には、凹状通路48の内面にも被着形成されており、凹状通路48内が略全長に亘って外部から電気的に絶縁されている。
更に、図6に示すように、主面シールゴム層38の外側、即ち金属製セパレータ24の外周縁部には、位置決め部58が略全周に亘って形成されている。位置決め部58は、樹脂によって形成されており、隣り合う金属製セパレータ24にそれぞれ形成された位置決め部58同士が、互いに係合する凹凸形状を有するように形成されており、多数の金属製セパレータ24を積層状態とすることによって形成される固体高分子型燃料電池10において、各金属製セパレータ24を容易に位置合わせすることが可能とされている。
また、図6に示されているように、位置決め部58が被着形成されている金属製セパレータ24の外周縁部は、実質的に全周に亘って、凹溝32が開口形成された主面34側に開口する凹溝形状とされている。これにより、金属製セパレータ24の強度を増すと共に、位置決め部58を一層強固に固定することが可能となっている。
そして、かかる金属製セパレータ24を用いた第一セパレータ20と第二セパレータ22によって膜/電極接合体18が挟み込まれて、膜/電極接合体18に対して第一セパレータ20及び第二セパレータ22の各主面34,34が重ね合わせられることにより、単セル12が形成される。また、第一セパレータ20に形成されたガス流通用の凹溝32の開口が燃料電極16aによって覆蓋されることにより、トンネル状とされて、燃料(水素)を供給する燃料ガス流路60が形成されている。更に、第二セパレータ22に形成されたガス流通用の凹溝32の開口が酸化電極16bによって覆蓋されることにより、トンネル状とされて、酸素(空気)を供給する酸化ガス流路62が形成されている。更にまた、重ね合わされることによってセルスタックを構成する、隣接する二つの単セル12,12の間には、一方の単セル12の第一セパレータ20と他方の単セル12の第二セパレータ22の重ね合わせ面間において、冷却水を流通せしめる冷却水流路64が形成されている。なお、第一セパレータ20と第二セパレータ22が、互いに表裏反対となるように重ね合わせられた同一の金属製セパレータ24で構成されていることにより、第一セパレータ20においては、凹溝32によって燃料ガス供給孔30aと燃料ガス排出孔30bが接続されるようになっている一方、第二セパレータ22においては、凹溝32によって酸化ガス供給孔30cと酸化ガス排出孔30dが接続されるようになっている。
また、各単セル12には、固体高分子型燃料電池10の設置状態下において水平方向で対向位置する第一辺縁部26と第二辺縁部28の各上部と下部に位置して、燃料ガス供給孔30a,燃料ガス排出孔30b,酸化ガス供給孔30c,酸化ガス排出孔30dが、それぞれ、積層方向に貫通して形成されている。特に、燃料ガス供給孔30aと燃料ガス排出孔30bが、一つの対角方向で略対向位置して形成されていると共に、他方の対角方向で略対向位置するように、酸化ガス供給孔30cと酸化ガス排出孔30dが形成されている。
また、各単セル12における第一辺縁部26と第二辺縁部28の各中央部分には、冷却水供給孔30eと冷却水排出孔30fが、水平方向で対向位置して、それぞれ、積層方向に貫通して形成されている。
なお、上述の如き供給孔30a,30c,30eや排出孔30b,30d,30fは、例えば、第一辺縁部26又は第二辺縁部28から18mm以内の範囲に形成されており、特に本実施形態では、14mm以内の部分に形成されている。
さらに、各単セル12では、膜/電極接合体18が、第一及び第二セパレータ20,22よりも一回り小さな矩形プレート形状とされている。具体的には、例えば、第一セパレータ20と第二セパレータ22が正面視で118mm×114mmの略長方形とされていると共に、固体高分子膜14が正面視で82mm×82mmの正方形とされている。
これにより、燃料ガス,酸化ガス,冷却水の各給排孔30a〜fは、膜/電極接合体18を外周側に外れた位置において、第一及び第二セパレータ20,22の各対応する部分にそれぞれ貫通孔として形成されている。そして、固体高分子型燃料電池10において、積層された複数枚の単セル12間でも相互に連通せしめられており、全体として、固体高分子型燃料電池10の主体を為すセルスタックを積層方向に貫通する形態をもって、それら燃料ガス,酸化ガス,冷却水の各給排孔30a〜fが形成されている。
なお、図面上に明示はされていないが、例えば特許文献1(特開2002−83610号公報)等に記載されているように、固体高分子型燃料電池10において、積層された複数の単セル12のうち、積層方向で一方の端部に位置せしめられた単セル12の第一セパレータ20と、積層方向で他方の端部に位置せしめられた単セル12の第二セパレータ22には、陽極側集電板と陰極側集電板が重ねられて、直列接続された複数枚の単セル12の総電力が、これら両集電板から外部に取り出されるようになっている。更に、陽極側集電板と陰極側集電板の各外面には、適当な絶縁スペーサ(図示せず)を介して、陽極側押え板66と陰極側押え板68が重ね合わされている。そして、図面上に明示はされていないが、これら複数の単セル12と両極の集電板や押え板66,68を含む全体が、四隅等において挿通された締付ボルトによって積層方向に締め付けられて一体的に固定されることにより、固体高分子型燃料電池10とされている。
また、かかる固体高分子型燃料電池10において、陽極側押え板66と陰極側押え板68には、燃料ガス供給用ポート70a,燃料ガス排出用ポート70b,酸化ガス供給用ポート70c,酸化ガス排出用ポート70d,冷却水供給用ポート70e,冷却水排出用ポート70fの合計6個のポート70a〜fが形成されている。更に、これらそれぞれのポート70a〜fが、積層された複数の単セル12において相互に連通形成された上述の燃料ガス,酸化ガス,冷却水の各給排孔30a〜fの各対応する孔に対して接続されている。そして、各ポート70a〜fに対して図示しない外部管路が接続されることにより、燃料ガス,酸化ガス,冷却水の各給排孔30a〜fに対して、燃料ガス,酸化ガス,冷却水の給排が行われるようになっている。
そして、これら各供給用ポート70a,70c,70eを通じて各供給孔30a,30c,30eに供給された燃料ガス,酸化ガス,冷却水が、上述の単セル12内に形成された燃料ガス流路60および酸化ガス流路62と、単セル12,12間に形成された冷却水流路64を流通せしめられた後、各排出孔30b,30d,30fを経て、各排出用ポート70b,70d,70fを通じて排出されるようになっているのである。
これにより、公知の如く、固体高分子膜14の第一セパレータ20側に配設された燃料電極16aにおいて、供給される燃料ガスが触媒作用でイオン化して電子を供給する一方、固体高分子膜14の第二セパレータ22側に配設された酸化電極16bにおいて、固体高分子膜14を通じて送られた水素イオンが外部から供給される酸化ガス(空気)および外部の電気回路を経て帰還した電子と反応して水蒸気を生成することとなり、全体として発電作用を発揮する電池として機能する。
ここにおいて、目的とする発電作用を効率的に発揮させるには、各単セル12に対して連続的に供給される燃料ガス及び酸化ガスをガス拡散領域36から外部に漏らすことなく反応せしめて発電作用を得ると共に、各単セル12に対して連続的に供給される冷却水を漏出せしめることなく循環させて、単セル12の温度管理を安定して実現する必要がある。
そこで、本実施形態においては、上述の如く、金属製セパレータ24の主面34側に対して、ガス拡散領域36及び貫通孔30を取り囲むように形成された主面シールゴム層38が被着形成されていると共に、金属製セパレータ24の副面46側に対して、冷却水流路64を取り囲むように副面シールゴム層52が被着形成されている。
主面シールゴム層38は、ガス拡散領域36及び貫通孔30をそれぞれ全周に亘って取り囲むように形成された略シート状のゴム層であって、第一セパレータ20被着形成された主面シールゴム層38aに対して、ガス拡散領域36(膜/電極接合体18)と貫通孔30をそれぞれ全周に亘って取り囲むようにシール凸条72が形成されている一方、第二セパレータ22に被着された主面シールゴム層38bに対して、第一セパレータ20との重ね合わせ状態下でシール凸条72に対応する位置にシール凹溝74が形成されている。なお、主面シールゴム層38aの厚さ寸法は、主面シールゴム層38bの厚さ寸法の50%以上且つ125%以下とされていることが望ましく、特に本実施形態では、主面シールゴム層38aと主面シールゴム層38bが略等しい厚さ寸法で形成されている。
シール凸条72は、図7,8に示されているように、略一定の台形断面形状とされている。特に本実施形態では、シール凸条72は、その断面形状が、突出先端側に向かって次第に狭幅せしめられた略等脚台形状となっており、左右対称な形状を有している。また、シール凸条72の幅方向両側の傾斜面の傾斜角度は20度以上且つ70度以下であることが望ましい。なお、シール凸条72において角が形成される部位に対しては、破損などを回避するために、適宜に面取り加工を施されることが望ましい。
一方、シール凹溝74は、図7,8に示されているように、略一定の台形断面形状とされている。特に本実施形態では、シール凹溝74は、開口部側に向かって次第に拡幅せしめられており、シール凹溝74の両側壁面が傾斜面で構成されている。また、図8にも示されているように、シール凹溝74の断面形状が左右対称な形状を有している。なお、シール凸条72と同様に、シール凹溝74において角が形成される部位に対しても、破損などを回避するために、適宜に面取り加工を施されることが望ましい。また、シール凹溝74の底面が主面シールゴム層38bと一体的に形成されたゴム弾性体で構成されて、第二セパレータ22がシール凹溝74の底面においてもゴム弾性体で覆われていることが望ましい。これにより、シール凸条72の第二セパレータ22への接触による破損等の不具合を有効に回避することが出来る。
また、シール凸条72とシール凹溝74の幅方向両側面の傾斜角度の差は、±10度以下であることが望ましく、本実施形態では、シール凸条72の側壁面と凹溝32の側壁面の傾斜角度が略等しくされている。また、シール凸条72の突出先端部の幅寸法:B1 が凹溝32の底部の幅寸法:W1 よりも大きくされていると共に、シール凸条72の基端部の幅寸法:B2 が凹溝32の開口部の幅寸法:W2 よりも大きくされている一方、シール凸条72の突出先端部の幅寸法:B1 が凹溝32の開口部の幅寸法:W2 よりも小さくされている。
なお、シール凸条72は、その突出先端部の幅寸法:B1 が、0.1mm≦B1 ≦0.4mmとされていることが望ましく、より好適には、0.2mm≦B1 ≦0.3mmとされている。また、シール凸条72の基端部の幅寸法:B2 は、0.2mm≦B2 ≦0.6mmとされていることが望ましく、より好適には、0.3mm≦B2 ≦0.5mmとされている。更に、シール凸条72の突出高さ寸法:Hは、第二セパレータ22に被着された主面シールゴム層38bの厚さ寸法に対して50%以上125%以下とされていることが望ましい。また、より好適には、シール凸条72の突出高さ寸法:Hは、第二セパレータ22に被着された主面シールゴム層38bの厚さ寸法に対して75%以上125%以下とされており、更に好適には、シール凸条72の突出高さ寸法:Hが主面シールゴム層38bの厚さ寸法と略等しくされている。特に本実施形態におけるシール凸条72は、突出先端部の幅寸法:B1 =0.25mm、基端部の幅寸法:B2 =0.4mm、突出高さ寸法:H=0.25mmとされている。
一方、シール凹溝74は、その底部の幅寸法:W1 が0.05mm≦W1 ≦0.3mmとされていることが望ましく、より好適には、0.1mm≦W1 ≦0.2mmとされている。また、シール凹溝74の開口部の幅寸法:W2 は、0.1mm≦W2 ≦0.5mmとされていることが望ましく、より好適には、0.2mm≦W2 ≦0.4mmとされている。更に、シール凹溝74の深さ寸法:Dは、第二セパレータ22に被着形成された主面シールゴム層38bの厚さ寸法の80%以上とされていることが望ましい。特に本実施形態におけるシール凹溝74は、底部の幅寸法:W1 =0.162mm、開口部の幅寸法:W2 =0.3mm、深さ寸法:D=0.2mmとされている。
そして、これらシール凸条72とシール凹溝74は、単セル12において、第一セパレータ20と第二セパレータ22の重ね合わせ面間でシール凸条72がシール凹溝74に嵌め入れられてシール効果が発揮されるようになっている。即ち、シール凸条72の側壁面とシール凹溝74の側壁面の傾斜角度が略同一とされていると共に、シール凸条72の突出先端部の幅寸法:B1 がシール凹溝74の底部の幅寸法:W1 よりも大きくされていることにより、シール凸条72の両側傾斜面がシール凹溝74の両側傾斜面に対して圧接せしめられることとなって、シール凸条72とシール凹溝74の係合によるシール効果が有効に発揮されるシール機構が構成されているのである。なお、本実施形態では、固体高分子膜14の外周部分が主面シールゴム層38a,38b間に挟み込まれており、固体高分子膜14が主面シールゴム層38a,38bの間に挟圧保持されることによっても有効にシール効果を得ることができるようになっている。
このようなシール機構によれば、第一セパレータ20と第二セパレータ22との重ね合わせ方向で作用せしめられる組付力の分力がシール凸条72とシール凹溝74の幅方向両側面である傾斜面がシール力として作用する。かかる分力は組付力に比して小さく、それに伴ってシール力のばらつきを小さくすることが出来る。また、シール凸条72とシール凹溝74の幅方向両側面である傾斜面においてシール凸条72がシール凹溝74に押圧されていることから、シール凸条72及びシール凹溝74が圧縮変形とともに、せん断変形を生じる。それ故、第一セパレータ20と第二セパレータ22の対向面間距離が異なる場合であっても、シール凸条72とシール凹溝74の幅方向両側面間に生じるシール力が安定して発揮される。
なお、シール効果を十分に得るためには、縦断面における圧縮代の面積:S1 +S2 は、縦断面における台形ADHEの面積:S3 に対して10%以上且つ40%以下とされていることが望ましい。特に、シール性能を有利に発揮せしめるためには、略25%とされていることが望ましい。蓋し、通常のゴムシールで一方をシールゴム、他方が剛体とされている場合の圧縮代は、ゴムシールの厚さ方向で25%が望ましいが、本実施形態では、発生するシール応力(押付力)によって金属製セパレータ24が変形する等の影響を受けることを回避するために、圧縮代を半分の12.5%に設定した。但し、本実施形態では、シール凸条72とシール凹溝74が何れもゴム弾性体で形成されていることから、図8に示された縦断面において、設計時の寸法でシール凸条72とシール凹溝74の重なり合う部分の面積(S1 +S2 )を略25%とすることにより、シール凸条72とシール凹溝74がそれぞれ略12.5%ずつ圧縮されるようになっている。
また、図8に示された本実施形態にかかるシール機構の断面図において、圧縮代である台形ABFEの面積:S1 と台形CDHGの面積:S2 の和は、台形ADHEの面積:S3 と台形BCGFの面積:S4 の差によって求めることが出来る。
(1)台形ADHEの面積:S3
S3 ={(AD+HE)/2}×(0.25−0.05)
=[ {(0.075/0.25)×0.2×2+0.25}/2] ×0.2
=0.0620
(2)台形BCGFの面積:S4
S4 ={(BC+GF)/2}×(0.25−0.05)
=[ {0.30+{(0.025/0.225)×0.069×2+0.162}}/2] ×0.2
≒0.0477
(3)台形ABFEの面積:S1 と台形CDHGの面積:S2 の和
S1 +S2 =(S3 −S4 )≒0.0620−0.0477=0.0143
また、上記のS1 ,S2 ,S3 の数値から、本実施形態における圧縮代の面積:S1 +S2 の台形ADHEの面積:S3 に対する割合:{(S1 +S2 )/S3 }×100(%)を求めることが出来る。
すなわち、本実施形態における圧縮代の面積は、
(4)圧縮代の面積:S1 +S2 の台形ADHEの面積:S3 に対する割合
{(S1 +S2 )/S3 }×100≒(0.0143/0.0620)×100
≒23.1(%)
とされている。
また、本実施形態では、シール凸条72の突出先端部の幅寸法:B1 がシール凹溝74の開口部の幅寸法:W2 よりも小さくされていることにより、シール凸条72が容易にシール凹溝74に挿入されるようになっている。
ところで、本実施形態では、金属製セパレータ24の主面34側に固着された主面シールゴム層38に対してシール凸条72やシール凹溝74が形成されて、シール機構が構成されている一方、図5において太線で示されているように、副面46側に固着された副面シールゴム層52に対しては、第一セパレータ20に固着された副面シールゴム層52aに対してシール凹溝76が形成されていると共に、第二セパレータ22に固着された副面シールゴム層52bに対してシール凸条78が形成されており、冷却水の漏れ出しを防ぐためのシール機構が構成されている。
かかる副面46側に形成されたシール凸条78とシール凹溝76は、副面46に形成された冷却水流路64や貫通孔30a〜fの周囲をそれぞれ囲むように延びて形成されている。なお、副面シールゴム層52と一体的に形成されたシール凸条78とシール凹溝76は、上述した主面シールゴム層38と一体的に形成されたシール凸条72及びシール凹溝74と、その断面形状や寸法等において略同一の構造を有しており、組付け状態においてシール効果が発揮される原理等についても同一であることから、冗長な記載を避けるために詳細な説明を省略する。
このような本実施形態に従う構造とされた固体高分子型燃料電池10においては、第一セパレータ20と第二セパレータ22との重ね合わせ面間において主面シールゴム層38aと主面シールゴム層38bが重ね合わせられて、主面シールゴム層38aに形成されたシール凸条72が、主面シールゴム層38bに形成されたシール凹溝74に圧入されることにより、主面シールゴム層38aと主面シールゴム層38bの対向面間が流体密にシールされている一方、副面シールゴム層52aと副面シールゴム層52bが重ね合わせられて、副面シールゴム層52bに形成されたシール凸条78が、副面シールゴム層52aに形成されたシール凹溝76に圧入されることにより、副面シールゴム層52aと副面シールゴム層52bの対向面間が流体密にシールされている。これにより、燃料ガスや酸化ガスや、冷却水の漏れ出しによる発電効率の低下などの不具合を有利に回避することが出来て、固体高分子型燃料電池10の性能向上を実現することが出来る。
特に、本実施形態に従う構造とされた固体高分子型燃料電池10では、多数の単セル12が積層された状態で積層方向に組付け力を作用せしめる場合に問題となり易い、第一セパレータ20と第二セパレータ22の対向面間距離のばらつきによるシール性能の差が比較的小さくされている。即ち、シール凸条72(78)の幅方向両側面が何れも略同一の傾斜角度で傾斜せしめられた傾斜面とされていると共に、シール凹溝74(76)の幅方向両側面が何れもシール凸条72(78)の幅方向両側面と略同一の傾斜角度で傾斜せしめられた傾斜面とされていることから、重ね合わせ方向で作用せしめられる圧縮力の分力によってシール性能が発揮せしめられるようになっており、組付力が直接的に作用せしめられてシール効果が発揮される場合に比して、作用する組付力の大きさが異なる場合におけるシール性能の差が小さく抑えられているのである。
また、第一セパレータ20に固着された主面シールゴム層38aと第二セパレータ22に固着された主面シールゴム層38bの間に固体高分子膜14が挟みこまれていることにより、主面シールゴム層38a,38b間に隙間が生じて、図8に示されているように、シール凸条72の突出先端面とシール凹溝74の底面が離隔して位置せしめられる。それ故、シール凸条72のシール凹溝74に対する圧入によってシール凸条72及びシール凹溝74が弾性変形せしめられた場合に、シール凸条72の基端部分とシール凹溝74の開口部分が弾性変形せしめられて主面シールゴム層38a,38bの対向面間に挟み込まれると共に、シール凸条72の突出先端面とシール凹溝74の底面の対向面間のスペースが膨出変形せしめられたゴム弾性体によって充填されることとなって、シール凸条72とシール凹溝74の幅方向両側壁面において均一なシール面が形成されて主面34側におけるシール性能を一層有利に得ることが出来る。
また、図9には、本発明の第二の実施形態としての固体高分子型燃料電池の要部であるシール機構(組付け状態におけるシール凸条82及びシール凹溝84)の断面図が示されている。なお、以下の説明において、前記第一の実施形態と実質的に同一の部材乃至は部位については、図中に同一の符号を付すことにより、詳細な説明を省略する。
本実施形態における固体高分子型燃料電池においては、主面シールゴム層76aに略半円形状の一定断面で延びるシール凸条82が形成されている。より詳細には、シール凸条82は、前記第一の実施形態と略同様に、ガス拡散領域36と貫通孔30をそれぞれ囲むように形成されている。なお、シール凸条82は、その断面における直径が0.3mm以上0.6mm以下であることが望ましく、本実施形態では、直径0.45mmの略半円形状とされている。また、本実施形態におけるシール凸条82においては、半円形状とされた部分が、0.05mmの高さを有して主面シールゴム層76aから突出せしめられた段差と一体的に形成されている。また、該段差の両側面には、半径0.05mmのフィレットアールが全長に亘って形成されており、シール凸条82が主面シールゴム層76aに対して滑らかに接続されている。これにより、本実施形態におけるシール凸条82は、その高さ寸法が0.23mmとされている。また、シール凸条82は、その基端部の幅寸法が、後述するシール凹溝(84)の開口部の幅寸法よりも大きくされていることが望ましく、特に本実施形態では0.45mmとされている。なお、本実施形態におけるシール凸条82は、略半円形の断面形状を有していることからも明らかなように、幅方向両側面を含む表面が、外方に凸となる略湾曲傾斜面を有して構成されている。
また、本実施形態における固体高分子型燃料電池では、主面シールゴム層76bにシール凹溝84が形成されている。シール凹溝84は、台形状の断面形状で延びて形成されており、開口側に向かって次第に拡開する形状とされている。また、本実施形態におけるシール凹溝84の底面は、第二セパレータ22によって構成されている。要するに、本実施形態におけるシール凹溝84では、底面に主面シールゴム層76bが形成されていない。なお、特に本実施形態におけるシール凹溝84では、底面の溝幅寸法が0.20mmとされていると共に、開口部における溝幅寸法が0.40mmとされている。また、第二セパレータ22の金属腐食等を避けるために、第二セパレータ22を耐食材料で構成したり、腐食防止のための耐食皮膜加工を施したりすることが望ましい。
ここにおいて、第一セパレータ20の主面34と第二セパレータ22の主面34が膜/電極接合体18を挟んで重ね合わせられると、第一セパレータ20に固着された主面シールゴム層76aと一体形成されたシール凸条82が第二セパレータ22に固着された主面シールゴム層76bに形成されたシール凹溝84に対して圧入される。特に本実施形態では、シール凸条82が略半円形断面で形成されているとともに、シール凹溝84が略等脚台形断面を有する溝形状とされていることにより、シール凸条82がシール凹溝84に容易に挿入されると共に、ある程度まで挿入された後には、シール凸条82の表面の一部とシール凹溝84の側壁面が圧接せしめられることとなり、かかる圧接点において、シール効果が有効に発揮せしめられることとなる。
特に本実施形態では、シール凸条82の基端部の幅寸法が、シール凹溝84の開口部の幅寸法よりも大きくされている。それ故、シール凸条82をシール凹溝84に圧入して、確実にシール効果を発揮せしめることが出来る。
以上、本発明の幾つかの実施形態について説明してきたが、これはあくまでも例示であって、本発明は、かかる実施形態における具体的な記載によって、何等、限定的に解釈されるものではない。
例えば、前記第一の実施形態において等脚台形断面を有するシール凸条72を示すと共に、前記第二の実施形態において略半円形断面を有するシール凸条82を示し、それらが圧入されるシール凹溝74,84を等脚台形断面形状とした例を示したが、シール凸条は、これらの実施形態における具体的な記載によって何等限定されるものではない。具体的には、例えば、図10に示されているシール凸条86とそれに対応する断面形状とされたシール凹溝87のように、シール凸条及びシール凹溝の幅方向両側面が互いに異なる傾斜角度を有する傾斜面で構成されていても良い。
また、前記第一,第二の実施形態では、シール凹溝74,78,84が何れも台形断面を有する溝形状とされていたが、シール凹溝の形状は前記第一,第二の実施形態における具体的な記載によって何等限定されるものではない。具体的には、例えば、略半円形断面の溝形状等であっても良い。
また、前記第一,第二の実施形態におけるシール凸条72,76,82やシール凹溝74,78,84等の具体的な寸法については、好適な数値であって、何等限定的に解釈されるものではない。
また、前記第一, 第二の実施形態では、ガス拡散領域36と貫通孔30がそれぞれ一条のシール凸条72(82)(シール凹溝74(84))によって取り囲まれていたが、かかるシール凸条72(82)やシール凹溝74(84)は、何れも複数条が形成されていても良い。このように複数条のシール凸条72,72・・・やシール凹溝74,74・・・を形成することにより、より確実なシール効果を得ることが出来て、発電効率の低下を有効に防ぐことが出来る。勿論、副面46側に形成されるシール凸条78やシール凹溝76が複数条形成されていても良い。
また、前記第一,第二の実施形態では、第一セパレータ20に固着された主面シールゴム層38aにシール凸条72が形成されていると共に、第二セパレータ22に固着された主面シールゴム層38bにシール凹溝74が形成されている例を示したが、酸化ガス流路62を形成する第二セパレータ22側にシール凸条を形成すると共に、燃料ガス流路60を形成する第一セパレータ20にシール凹溝74が形成されていても良い。また、副面46側に形成されるシール凸条78とシール凹溝76も、何れが第一セパレータ20に形成されていても良い。また、一方のセパレータにシール凸条72又はシール凹溝74の何れか一方のみが形成されている必要はなく、例えば、一つの金属製セパレータ24に固着された主面シールゴム層38に対して、ガス拡散領域36を取り囲むようにシール凸条72が形成されていると共に、貫通孔30を取り囲むようにシール凹溝74が形成されていても良い。
また、前記第一,第二の実施形態では、主面34側に形成されたシール凸条72(82)と副面46側に形成されたシール凸条78が略同一の断面形状とされていると共に、主面34側に形成されたシール凹溝74(84)と副面46側に形成されたシール凹溝76が略同一の断面形状とされている例を示したが、必ずしも主面34側のシール凸条72(82)やシール凹溝74(84)と副面46側のシール凸条78やシール凹溝76が同一形状とされている必要はなく、例えば、要求されるシール性能に応じて、断面形状を異ならせたり、寸法を異ならせたりすることも可能である。
また、金属製セパレータ24に形成される凹溝32は、前記第一,第二の実施形態に示されているように葛折状に延びていることが望ましいが、必ずしもそのような形状である必要はない。更に、凹溝32の断面形状も実施形態に記載の形状に何等限定されない。具体的には、例えば、矩形断面を有する凹溝も採用され得る。
さらに、前記第一,第二の実施形態では、第一セパレータ20と第二セパレータ22が同一の金属製セパレータ24によって構成されていたが、第一セパレータ20と第二セパレータ22は、必ずしも同一の金属製セパレータ24で構成されている必要はなく、異なる形状等を有するセパレータで構成されていても良い。また、セパレータは、必ずしも金属製である必要はなく、ガスの不透過性や導電性、耐食性等の要求性能を満たす材料であればよい。具体的には、例えば、カーボン製や導電性樹脂製等の各種セパレータが採用可能である。
また、前記実施形態では、冷却水流路64を凹溝32によって金属製セパレータ24の副面46に形成される凹凸を利用して形成したが、冷却水流路64は必ずしもそのような凹凸を利用して形成する必要はない。更に、略一定の断面積で延びる流路である必要もなく、副面46上で冷却水供給孔30eと冷却水排出孔30fを接続して、冷却水を流すことが出来ればよい。
また、凹溝32が接続される燃料ガス供給孔30aと燃料ガス排出孔b、或いは、凹状通路48が接続される冷却水供給孔30eと冷却水排出孔30fは、必ずしも各一つである必要はない。即ち、複数の各供給孔及び各排出孔が開口形成されていても良く、その場合には、それら各孔を接続するように複数の流路が形成されることとなる。勿論、酸化ガス供給孔30c及び酸化ガス排出孔30dについても同様であることは言うまでもない。
その他、一々列挙はしないが、本発明は、当業者の知識に基づいて種々なる変更,修正,改良等を加えた態様において実施され得るものであり、また、そのような実施態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限り、何れも、本発明の範囲内に含まれるものであることは、言うまでもない。
次に、このような本発明の一実施例として、シミュレーション結果のデータを示し、本発明を更に具体的に明らかにすることとする。なお、本発明が以下に示す実施例の記載によって何等の制約をも受けるものでないことは、言うまでもない。また、本発明には、以下に記載の実施例の他にも、更には、上記の実施形態の記載以外にも、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて種々なる変更、修正、改良等を加え得るものであることが、理解されるべきである。
先ず、第一セパレータ20に固着される主面シールゴム層38aと第二セパレータ22に固着されるを主面シールゴム層38bを形成するために用いるゴム材料としては、本実施形態においては、HS=70とされたエチレン−プロピレンゴム(EPDM)を採用した場合を想定してシミュレーションを実施した。また、かかるゴム材料のヤング率:Eが5.096Mpaであると共に、ゴム材料のポアソン比:νが0.495とされている。なお、本実施例におけるシミュレーションには、ゴム材料用の非線形計算を行うことが出来るシミュレーションソフトを使用した。
かかるゴム材料を用いて、本発明に従う構造とされたシール凸条72及びシール凹溝74を有する主面シールゴム層38と、比較対象としての従来構造のシール構造を有する主面シールゴム層88,90をそれぞれ構築した。なお、本発明に従う構造とされた主面シールゴム層38は、前記実施形態において示した構造を有しており、その形状及び寸法なども前記実施形態において示されている形状や寸法に順ずる。また、従来のシール構造を有する主面シールゴム層88は、図11に示されているように、第一セパレータ20に固着された主面シールゴム層88aに略半円形の断面形状を有するシール凸条92が形成されている一方、第二セパレータ22に固着された主面シールゴム層88bが略平坦面とされている。特に本実施例では、シール凸条92が直径0.3mmの略半円形断面を有している。更に、従来のシール構造を有する主面シールゴム層90は、図12に示されているように、第一セパレータ20に固着された主面シールゴム層90aに突出先端部分が略半円形の断面形状を有すると共に、基端部分が略台形の断面形状を有するシール凸条94が形成されていると共に、かかるシール凸条94を挟んだ両側にシール凸条94に沿って延びる凹溝が形成されている一方、第二セパレータ22に固着された主面シールゴム層90bが略平坦面とされている。特に本実施例では、シール凸条94の突出高さ寸法が0.15mmとされており、突出先端部分が直径0.2mmの半円形の断面形状とされている。また、シール凸条94を挟んだ両側に形成された凹溝は、深さ寸法が0.1mmとされており、底部の幅寸法が0.05mmとされている。
そして、組付状態において、各主面シールゴム層38の全体の厚さ寸法がそれぞれT1 ,T2 ,T3 とされた三つの状態でそれぞれ主面シールゴム層38内部の応力分布を実測した。即ち、主面シールゴム層38aと主面シールゴム層38bとの対向面間距離を異ならせることにより、
条件(A):厚さ寸法:T1 =0.550mm
条件(B):厚さ寸法:T2 =T1 −0.025mm=0.525mm
条件(C):厚さ寸法:T3 =T1 +0.025mm=0.575mm
とされた三つの条件下における応力分布を測定した。なお、条件(A),条件(B),条件(C)における応力分布の実測データをそれぞれ図13,14,15に示す。
また、主面シールゴム層88a,88b及び主面シールゴム層90a,90bにおいても、同様に厚さ寸法:Tの異なる三つの状態において主面シールゴム層88a,88b及び主面シールゴム層90a,90bの応力分布を実測した。なお、図16,17,18に、条件(A),条件(B),条件(C)における主面シールゴム層88a,84の応力分布の実測データを示すと共に、図19,20,21には、条件(A),条件(B),条件(C)における主面シールゴム層90a,90bの応力分布の実測データを示す。
図13,14,15によれば、本発明に従う主面シールゴム層38a,38bでは、シール凸条72とシール凹溝74の側壁面の一部、即ち、矢印で示されたシール凸条72の突出先端部分において、応力の最大値が計測された。具体的には、図13に示されているように、条件(A)においては、シール凸条72の突出先端付近で応力の最大値として1.47MPaの応力値が計測された。また、図14に示されているように、条件(B)においては、シール凸条72の突出先端付近で応力の最大値として1.56MPaの応力値が計測された。更に、図15に示されているように、条件(C)においては、シール凸条72の突出先端付近で応力の最大値として1.17MPaの応力値が計測された。
一方、図16,17,18によれば、従来構造の主面シールゴム層88a,84では、シール凸条92が押し付けられる主面シールゴム層88bの内部において応力の最大値が計測された。具体的には、図16に示されているように、条件(A)においては、主面シールゴム層88bの内部で応力の最大値として1.55MPaの応力値が計測された。また、図17に示されているように、条件(B)においては、主面シールゴム層88bの内部で応力の最大値として2.08MPaの応力値が計測された。更に、図18に示されているように、条件(C)においては、主面シールゴム層88bの内部で応力の最大値として1.13MPaの応力値が計測された。
更にまた、図19,20,21によれば、従来構造の主面シールゴム層90a,90bでは、シール凸条94の内部において応力の最大値が計測された。具体的には、図19に示されているように、条件(A)においては、シール凸条94の内部で応力の最大値として1.74MPaの応力値が計測された。また、図20に示されているように、条件(B)においては、シール凸条94の内部で応力の最大値として2.26MPaの応力値が計測された。更に、図21に示されているように、条件(C)においては、シール凸条94の内部で応力の最大値として1.30MPaの応力値が計測された。
以上の応力分布の実測データによって、本発明に従う構造とされた主面シールゴム層38a,38bでは、主面シールゴム層間の離隔距離が異なる場合における応力のばらつきが最も小さくなることが証明された。
すなわち、本発明に従う構造とされた主面シールゴム層38では、条件(A)における応力の最大値と条件(B)における応力の最大値との差が0.09MPaとなっている。また、条件(A)における応力の最大値:と条件(C)における応力の最大値の差が0.30MPaとなっている。
一方、従来構造のシール機構を有する主面シールゴム層88では、条件(A)における応力の最大値と条件(B)における応力の最大値の差が0.53MPaとなっている。また、条件(A)における応力の最大値:と条件(C)における応力の最大値の差が0.42MPaとなっている。
また一方、従来構造のシール機構を有する主面シールゴム層90では、条件(A)における応力の最大値と条件(B)における応力の最大値の差が0.52MPaとなっている。また、条件(A)における応力の最大値:と条件(C)における応力の最大値の差が0.44MPaとなっている。
以上より明らかなように、主面シールゴム層の対向面間距離が基準となるT1 とされた条件(A)と、条件(A)に対して一対の主面シールゴム層の対向面間距離が25μmだけ接近せしめられた場合である条件(B)と、条件(A)に対して一対の主面シールゴム層の対向面間距離が25μmだけ離隔せしめられた場合である条件(C)の3つの条件下でのシミュレーションにおいて、本発明に従う構造とされた主面シールゴム層38は、各条件間における応力の最大値の差が最も小さい。即ち、本発明に従う構造を有する主面シールゴム層38(シール機構)では、重ね合わせられる一対の主面シールゴム層38a,38bの対向面間距離が異なる場合であっても、安定して所期のシール性能を発揮できることがシミュレーションによっても証明されたのである。
しかも、従来構造のシール機構のシミュレーション結果を示した図16〜図21によれば、最大の応力がシール面(シール凸条と主面シールゴム層の圧接部分)ではなく、主面シールゴム層88b又は主面シールゴム層90aに形成されたシール凸条94の内部において生じており、生じる応力をシール効果に巧く利用することが出来ないと共に、十分なシール効果を得るためには、過大な内部応力が生じることとなり、かかる内部応力による耐久性の低下などの悪影響が生じるおそれがある。一方、図13〜15に示されたシミュレーションの結果によれば、本発明に従う構造とされたシール機構においては、シール面(シール凸条72の幅方向両側面とシール凹溝74の幅方向両側面)において最大の応力が計測されており、シール構造において発揮される最大の応力を巧くシール効果の発現に利用していることが明らかである。従って、かかるシール機構を有する本発明に従う構造とされた固体高分子型燃料電池10においては、重ね合わせ方向で作用せしめられる圧縮力が比較的小さい場合においても十分なシール効果を発揮することが出来ると共に、優れた耐久性を実現することも出来得るのである。