以下、本発明の一実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係るバイオセンサシステム1を示す。バイオセンサシステム1は、バイオセンサ30、バイオセンサ30を着脱自在に装着する測定装置10を有している。バイオセンサ30の先端に位置する試料点着部30aに点着された試料中に含まれる基質の量が測定装置10によって定量されるようになっている。
測定装置10は、例えば、バイオセンサ30を着脱自在に装着する支持部2、バイオセンサ30の試料点着部30aに点着された試料液中に含まれる基質の定量結果を表示する表示部11を有している。
本バイオセンサシステム1を用いて、試料液中の基質含有量を定量するには、まず、ユーザはバイオセンサ30を測定装置10に挿入後、後述するバイオセンサ30の電極に測定装置10によって一定電圧が印加された状態で、試料液を試料点着部30aに供給する。点着された試料液がバイオセンサ30の内部に吸引されて試薬層の溶解が始まる。測定装置10は、バイオセンサ30の電極間に生じる電気的変化を検知して定量動作を開始するようになっている。
ここで、本実施の形態に係るバイオセンサシステム1は、とりわけ、試料液として人体の血液、また、基質として、血液中に含まれるグルコース、乳酸、コレステロールの含有量を定量することに適している。人体の体液中に含まれる基質の定量は、特定の生理的異常の診断や治療において非常に重要である。特に、糖尿病患者にとって、血液中のグルコース濃度を頻繁に把握する必要がある。
なお、以下の説明では、人体の血液中に含まれるグルコースの定量に関して開示をするが、本実施の形態におけるバイオセンサシステム1を、適切な酵素を選択することによって、乳酸、コレステロールその他基質を定量することも可能である。
次に、バイオセンサ30を構成する部材について、図2を用いて説明する。図2はバイオセンサ30の分解斜視図である。31はポリエチレンテレフタレート等からなる絶縁性の基板(以下、単に「基板」とする。)であって、基板31の表面には、例えば金やパラジウムなどの貴金属やカーボン等の電気伝導性物質からなる導電性層が、スクリーン印刷法やスパッタリング蒸着法によって形成されている。導電性層は基板31全面または少なくとも一部に形成されていればよい。32は中央部に空気孔33が設けられた絶縁性の基板であって、切欠部を有するスペーサ34を基板31との間に挟み込んで、基板31と一体に配置される。
基板31上には、複数のスリットによって導電性層が分割されて対電極37、測定電極38及び検知電極39が形成されている。詳細には、対電極37上に形成された略円弧状のスリット40、基板31側面に垂直方向に形成された41a、41cおよび基板31に平行方向に形成されたスリット41b、41d、41f並びにV字型の形状を有するスリット41eによって導電性層が分割されて、対電極37、測定電極38および検知電極39が形成されている。なお、各電極は基板31の少なくとも一部に形成されていればよく、また、測定装置10と各電極との接続はリード線であってもよい。
スペーサ34は基板31上の対電極37、測定電極38および検知電極39を覆うように配置され、スペーサ34の前縁部中央に設けられた長方形の切欠部によって試料供給路35が形成される。また、30aは試料供給路の入口であり、入口30aに点着された試料液は、毛細管現象によって略水平方向(図2中の矢印AR方向)に空気孔33に向かって吸引される。
36はスペーサ34の切欠部から露出している対電極37、測定電極38および検知電極39に、酵素、電子受容体、アミノ酸及び糖アルコール等を含有する試薬を塗布することで形成された試薬層である。
ここで、酵素としては、グルコースオキシターゼ、ラクテートオキシターゼ、コレステロールオキシターゼ、コレステロールエステラーゼ、ウリカーゼ、アスコルビン酸オキシターゼ、ビリルビンオキシターゼ、グルコースデヒドロゲナーゼ、ラクテートデヒドロゲナーゼ、ラクテートデヒドロゲナーゼなどを用いることができる。
電子受容体としては、フェリシアン化カリウムが好ましいが、フェリシアン化カリウム以外にもp−ベンゾキノン及びその誘導体、フェナジンメトルサルフェート、メチレンブルー、フェロセン及びその誘導体などを用いることができる。
本実施の形態に係るバイオセンサシステム1の場合、人体の血液中のグルコース濃度を測定するため、試薬層36に担持されている酸化還元酵素としてグルコースオキシターゼが、電子受容体としてフェリシアン化カリウムが用いられる。この酸化還元酵素と電子受容体が試料供給路に吸引された試料液(本実施の形態の場合、人体から摂取された血液)に溶解し、試料液中の基質であるグルコースとの間で酵素反応が進行し電子受容体が還元されてフェロシアン化物(本実施の形態の場合、フェロシアン化カリウム)が生成される。反応終了後、この還元された電子受容体を電気化学的に酸化し、このとき得られる電流から試料液中のグルコース濃度が測定される。このような一連の反応は、主に、スリット40からスリット41eを介して検知電極39までのエリアで進行し、対電極37、測定電極38及び検知電極39によって電気化学的変化に伴う電流が読み取られることになる。
また、42はバイオセンサ30の種別や製造ロット毎の出力特性の違いを測定装置10によって識別するための識別部である。対電極37、検知電極39の識別部42に該当する部分に、図2のようなスリット41g、41hの組み合わせを形成することによって、測定装置10によって電気的に出力特性の差異を識別できるようになる。
図3は、スリット41g、41hの形成有無によるバイオセンサ30の識別部42の組み合わせを示す。図3には、一例として、7種類の組み合わせが示されている。
例えば、図3(a)はコレステロールを定量対象とする場合のバイオセンサ30の識別部42である。この場合、スリット41g、41hは設けられていない。
図3(b)、(c)、(d)は乳酸を定量対象とする場合のバイオセンサ30の識別部42である。図3(b)では対電極37にのみスリット41hが設けられて、補正部43が形成されている。図3(c)では検知電極39にのみスリット41gが設けられて、補正部44が形成されている。図3(d)では対電極37、検知電極39それぞれにスリット41h、41gが設けられて、補正部43、44が形成されている。更に、図3(e)、(f)、(g)はグルコースを定量対象とする場合のバイオセンサ30の識別部42である。図3(e)では、検知電極39にのみスリット41gが設けられるとともにスリット41dがスリット41gまでのみ形成されている。そのため補正部44と測定電極38とが一体に形成されている。図3(f)では、図3(e)の状態に更にスリット41hが形成されて補正部43が形成されている。図3(g)では、図3(f)の状態にスリット41fがスリット41hまでのみ形成されている。そのため補正部43、44及び測定電極38とが一体に形成されている。
このように識別部42のスリットのパターンを変化させることによって、各電極との導通部分の面積を可変することができるようになる。よって、バイオセンサ30の出力特性(グルコース、コレステロール、乳酸濃度)の違い、製造ロットによる製造誤差を測定装置10によって識別し、基質濃度測定に適したデータ、制御プログラムを切り替えることによって正確な測定値を求めることができるようになる。従来のように、ユーザが補正チップ等を用いて補正データを入力する必要がなくなるので、煩わしさがなくなって操作ミスを防ぐことができるようになる。なお、本実施の形態では電極が3つあるバイオセンサについて開示しているが、電極の数はそれ以外の場合でも適宜変更可能であって、少なくとも一対の電極を有していればよい。また、スリットの形成パターンは、図3に記載したパターン以外のパターンも用いてもよい。
次に、測定装置10の構成の詳細について説明する。図4は、バイオセンサ30(上面図)と測定装置10の構成を示す。バイオセンサ30においては、試料供給路35に沿って、試料点着部30aから試料の流れる方向に向かって、対電極37、測定電極38及び検知電極39のうち検知電極39が最も下流側に形成されている。なお、対電極37、測定電極38の配置順序は入れ替わってもよい。また、スリット41c、41eを介して測定電極38と検知電極39との間に所定の距離を設けることによって、基質の電気的変化に伴う電流の変化の具合によって、試料液が確実にかつ充分な量が吸引されたか否か判別されるようになっている。
また、測定装置10においては、12、13、14、15、16、17は、バイオセンサ30の識別部42を6つに区分けしたエリアA、B、C、D、E、Fにそれぞれ対応して接続されるコネクタである。エリアA、B、C、D、E、Fは、スリット41d、fおよびスリット41g、hに対応するように区分けされている。エリアAは測定電極38に対応し、エリアCは検知電極39に対応し、エリアEは対電極37に対応する。エリアBはエリアAと一体で形成されており、エリアD、Fはそれぞれ、図3における補正部43、44に対応する。また、18、19、20、21、22は、各コネクタ13、14、15、16、17とグランド(定電位を意味し、必ずしも「0」でなくてもよい。以下本明細書において同様である。)間に設けられたスイッチである。このグランドにおいて、各電極に印加する電圧を可変制御することができる。各コネクタ13、14、15、16、17はグランドに並列に接続されており、各スイッチ18〜22のオン・オフ制御によってコネクタ13〜17から必要なコネクタを選択して測定時に用いられるようになる。
23はコネクタ12に接続され、測定電極38とその他の電極間に流れる電流を電圧に変換して出力する電流/電圧変換回路、24は電流/電圧変換回路23に接続され、電流/電圧変換回路23からの電圧値をパルスに変換するA/D変換回路、25は各スイッチオン・オフを制御したり、A/D変換回路24からのパルスに基づいて試料液の基質の含有量を算出するCPU、11はCPU25により算出された測定値を表示するLCD(液晶表示器:出力部)である。また、26、28は測定装置10内の温度を測定する温度測定部である。各温度測定部26、28は一方がグランドに、他方がスイッチ27、29を介してコネクタ12と電流/電圧変換回路23との間に並列的に接続されている。
本実施の形態に係る測定装置10では、バイオセンサ30の各電極間に流れる電流が電流/電圧変換回路23によって変換された電圧値(mv)を用いて、各電極間の電流の変化が検知される。すなわち、電圧値は各電極間の電流の大きさを示す指標となる。
以下、本発明の実施の形態に係るバイオセンサ30を用いた定量方法により試料液の基質の含有量を定量する際のバイオセンサ30及び測定装置10の動作について、図5〜7を用いて説明する。
まず、バイオセンサ30が測定装置10の支持部2に確実に挿入されたか否か判別される(ステップS1)。具体的には、図4のコネクタ内のスイッチ(図示せず)によってバイオセンサ30が挿入されたか否かが判別される。バイオセンサ30が挿入された場合(ステップS1;Yes)、次に、エリアA、B間(測定電極38)の導通検知が行われる(ステップS2)。図3で示した通り、測定電極38にはスリット41h、gのように一つの電極間を絶縁するようなスリットは設けられていない。測定電極38には、エリアA、Bそれぞれにコネクタ12、13が接続されているので、バイオセンサ30の導電性層が正規の方向に位置するような向き(所定の方向)でバイオセンサ30が測定装置10に挿入された場合、必ずエリアAB間で導通するようになる。
そこで、スイッチ18をオン制御させて、エリアAB間での導通の有無を確認することによってバイオセンサ30の表裏判別が可能となる。エリアAB間で導通が検知できなければ(ステップS2;No)、バイオセンサ30が表裏が逆に挿入されたと認識され、表裏判別エラーとして測定処理が終了される(ステップS3)。表裏判別エラーが検知された場合、表示部11でのエラー表示、警告音をスピーカから発音する等によってユーザに警告することが好ましい。これによって、表裏逆にバイオセンサ30を挿入した状態で、ユーザが誤って血液をバイオセンサ30に点着することが容易に回避できるようになる。
エリアAB間で導通が検知できれば(ステップS2;Yes)、エリアAとエリアC・Eとの間で検知される電圧値が5(mv)より大きいか否かが判別される(ステップS4)。スイッチ19、21が共にオンとなるようにスイッチ切替制御がされてエリアAと電気的に一体とみなされたエリアC・Eとの間で、電圧値が検知されることによって、ステップS1で挿入検知されたバイオセンサ30が既に使用済であるか否かが判別される。バイオセンサ30が使用済であれば、試薬層36と血液中のグルコースとの反応が既に進行しており、検知される電圧値が大きくなる傾向があるからである。
エリアAとエリアC・Eとの間で検知される電圧値が5(mv)より大きいと判別された場合(ステップS4;Yes)は、使用済のバイオセンサ30が挿入されたと認識され、使用済エラーとして測定処理が終了される(ステップS5)。使用済エラーが検知された場合、表示部11でのエラー表示、警告音をスピーカから発音する等によってユーザに警告することが好ましい。これによって、使用済のバイオセンサ30を挿入した状態で、ユーザが誤って血液をバイオセンサ30に点着することが容易に回避できるようになる。
次に、エリアAとエリアC・Eとの間で検知される電圧値が5(mv)以下と判別された場合(ステップS4;No)、ステップS1で挿入検知されたバイオセンサ30の識別部42のスリットのパターンを識別することによって、その識別結果によって出力特性に適したデータやプログラムがCPU25によって切り替えられる(ステップS6〜10)。本実施の形態の場合、グルコース濃度を測定する血糖値センサには、図3の例では図3(e)(f)(g)のスリットのパターン3種類ある。具体的には、まず、エリアAD間での導通検知が行われる(ステップS6)。スイッチ20がオンとなるようにスイッチ切替制御がされてエリアAとエリアDとの間で導通検知が実行されることによって、乳酸やコレステロール用のセンサではなく、血糖値センサに対応したバイオセンサ30であるか否かが判別できるようになる。
エリアAD間での導通が確認されなければ(ステップS6:No)、血糖値センサ用のバイオセンサ30としては互換性がないと判断されて、表示部11でのエラー表示、警告音をスピーカから発音する等によってユーザに警告されて測定処理が終了される(ステップS7)。これによって、ユーザが誤って定量し、その定量結果をグルコース濃度として誤信することを事前に回避できる。
エリアAD間での導通が確認されれば(ステップS6:Yes)、エリアAF間での導通検知が行われる(ステップS8)。スイッチ22がオンとなるようにスイッチ切替制御がされてエリアAとエリアFとの間で導通検知が実行されることによって、血糖値センサに対応したバイオセンサ30の中で、更に、製造ロットによる出力特性の差異を識別することが可能となる。ユーザが補正チップを使用することなく、製造ロットによる出力特性を予め考慮されたデータやプログラムがCPU25によって自動的に切り替えられる。
よって、操作性が向上するだけでなく、測定精度の高精度化が実現できる。エリアAF間での導通検知がある場合(ステップS8;Yes)は、バイオセンサ30の種別が図3(g)であるとして結果記録“I”が図示しないメモリに記憶される(ステップS9)。エリアAF間での導通検知がない場合(ステップS8;No)は、バイオセンサ30の種別が図3(e)または図3(f)であるとして結果記録“II”が図示しないメモリに記憶される(ステップS10)。
バイオセンサ30の種別の確認が完了した後、エリアAとエリアC・Eとの間で検知される電圧値が5(mv)より大きいか否かが再び判別される(ステップS11)。スイッチ19、21が共にオンとなるようにスイッチ切替制御がされてエリアAとエリアC・Eとの間で電流が検知されることによって、測定装置10側で定量準備が整う前にユーザによって試料液が点着されたか否かが判別される。これにより、使用済のバイオセンサ30の使用を確実に回避するだけでなく、測定装置10側で定量準備が整う前のユーザによる試料液の点着を検出できるようになる。
エリアAとエリアC・Eとの間で検知される電圧値が5(mv)より大きいと判別された場合(ステップS11;Yes)は、測定準備が整う前に試料液が点着されたと判別され、点着エラーとして測定処理が終了される(ステップS12)。点着エラーが検知された場合、表示部11でのエラー表示、警告音をスピーカからの発音、LED表示(図示せず)等によってユーザに警告することが好ましい。これによって、測定精度に影響を及ぼすようなユーザの操作ミスを確実に回避でき、測定精度を高精度に維持することができる。
エリアAとエリアC・Eとの間で検知される電圧値が5(mv)以下と判別された場合(ステップS11;No)は、定量準備が整う前にユーザによって試料液が点着されなかったと判別され、ユーザに対して定量準備が完了した旨がLED表示などによって通知される(ステップS13)。使用済エラーが検知された場合、LED表示以外にも、表示部11での表示、アラーム音をスピーカからの発音する等によってユーザに通知することが好ましい。この通知を確認したユーザは、自己の人体から試料液として血液を採取し、測定装置10に挿入されたバイオセンサ30の試料点着部30aに採取された血液を点着する。
次に、試料点着部30aから試料供給路をつたって、試料液が確実に、かつ十分な量が吸引されたか否かが判別される(ステップS14〜20)。バイオセンサ30では、試料供給路35に沿って、試料点着部30aから試料の流れる方向に向かって、対電極37、測定電極38及び検知電極39が形成され、検知電極39が最も下流側に形成されている。そこで、対電極37および測定電極38との組、測定電極38と検知電極39との組いずれかを一定の周期毎に選択し、選択された組の各電極に電圧を印加させることによって、測定に必要な充分な量の試料液が供給されたか否かが判別される。従来のように、測定電極38と検知電極39間の電流の変化の識別だけでは、試料液が試料供給路に注入されたにもかかわらず測定が開始されないのか、あるいは測定に必要かつ充分な量に対して試料液の注入量が不足して測定されないのか原因を特定することが困難であった。
具体的には、対電極37および測定電極38との組の場合は、エリアAE間に電位差が発生されるようにスイッチ19をオフにしてスイッチ21をオンとする。また、測定電極38と検知電極39との組の場合は、エリアAC間にエリアAC間に電位差が発生されるようにスイッチ19をオンにしてスイッチ21をオフとする。このようにスイッチ19、21をそれぞれオン・オフ制御することによって、対電極37および測定電極38との組または測定電極38と検知電極39との組いずれかを容易に選択して切り替えることが可能となる。なお、説明の便宜上、以下の説明では、対電極37および測定電極38との組に電位差を発生させる場合を、エリアAE間に電位差を発生させる、測定電極38と検知電極39との組に電位差を発生させる場合を、エリアAC間に電位差を発生させるという。
更に、本実施の形態の場合、一例として、エリアAE、AC間の切替制御は0.2(秒)毎に行われ、それぞれ0.2Vが印加されるようになっている。エリアAE、AC間で測定される電圧値が10(mv)(所定のしきい値)に達したか否かが検知されるようになっている。これらの数値に関しては、バイオセンサの種別に合わせて適宜変更可能である。
図6のフローチャートに戻り、説明を続ける。まず、試料供給路の上流側に位置するエリアAE間に0.2Vの電位差が発生され、エリアAE間で測定される電圧値が10mv以上に達したか否かが判定される(ステップS14)。エリアAE間で測定される電圧値が10mv以上に達しなければ(ステップS14;No)、下流側のエリアAC間に0.2Vの電位差が発生され、エリアAE間で測定される電圧値が10mv以上に達したか否かが判定される(ステップS15)。
エリアAC間で測定される電圧値が10mv以上に達しなければ(ステップS15;No)、ステップS14でエリアAE間に電位差が発生されてから3分が経過したか否かが判断される(ステップS16)。3分に達していなければ(ステップS16;No)、再びステップS14からの処理が繰り返される。エリアAE間、AC間ともに3分間電圧値が10mvに達しなければ(ステップS16;Yes)、測定処理が終了される。
エリアAE間で電圧値が10mvに達したと判定された場合(ステップS14;Yes)、エリアAC間で電圧値が10mvに達したか否かが判定される(ステップS17)。エリアAC間で測定される電圧値が10mvに達しなければ(ステップS17;No)、エリアAE間で電圧値が10mvに達したと判定されてから2秒(所定の期間)経過したか否かが判定される(ステップS18)。10秒経過していなければステップS17、18の処理が繰り返され、10秒経過するまでの間、エリアAC間で測定される電圧値が10mvに達するまで(ステップS18;Noの間)測定処理が一時待機状態となる。この場合、点着された試料液が不足している蓋然性が高いので、ユーザに対して試料液が不足していること及び試料液を追い足すことを促すため、表示部11等にそのエラーメッセージを表示したり、警告音を発音することが好ましい。10秒経過してもエリアAC間で測定される電圧値が10mvに達しなければ(ステップS18;Yes)、検体不足エラーとして測定処理が終了される(ステップS19)。
ここで、ステップS14でエリアAE間の電圧値が10mvに達したと判定されてから10秒経過する間に、ユーザが試料液を追い足した場合に最終的な測定精度が悪くなることを本発明の発明者らは見出した。詳細には、ユーザによって追い足しがなされる間、先に点着された試料液中の基質と試薬層36中の酵素との間で酵素反応が進行されているので測定開始前から還元体が既に発生している。その後、追い足しされた試料液がエリアAC間に達した後に基質の定量がなされた際には、既に発生されていた還元体の影響を受けるので、見かけ上、電圧値が大きくなる傾向にある。すなわち、ステップS14でエリアAE間の電圧値が10mvに達したと判定されたときから経過時間が大きくなるにしたがって、測定精度に及ぼす影響は大きくなる。
試料液の追い足しによる測定誤差を解消するために、本実施形態の測定装置10では、ステップS14でエリアAE間の電圧値が10mvに達したと判定されたときからステップS17でエリアAC間の電圧値が10mvに達したと判定されるまでの経過時間(以下、遅れ時間)にしたがって、測定された電圧値に対応した基質量が補正されるようになっている。
図8は、測定された基質量に補正をかける割合を示す補正率と、遅れ時間との関係を示す感度補正テーブルである。縦軸に補正率、横軸に遅れ時間が示されている。例えば、遅れ時間5秒の場合には、測定された基質量に対して10%低めの補正がなされ、結果として測定された基質量の90%が補正後の基質量となる。このような感度補正テーブルが、測定装置10のメモリ(図示せず)に記憶されており、最終的な基質量が算出される際に参照される。
また、図2に示すバイオセンサ30において、基板31上に形成されたスリット41fをスリット41c方向に延長させて完全にスリット41bに接続するように対電極37を形成すれば、試料液が誤って空気孔33に点着されるような点着位置エラーを検出可能になる。図6のフローチャートにおいて、エリアAE間ではなく、先にエリアAC間で電圧値が10mv以上に達したと判定された場合(ステップS15;Yes)、その後0.2秒の間にエリアAE間で電圧値が10mv以上に達しているか否かが判定される(ステップS20)。エリアAE間で電圧値が10mv以上に達していない場合、試料液の誤った位置に試料液が点着されたと判定されて測定処理が終了される(ステップS50)。
正常通り、試料点着部30aに点着された試料液は、試料供給路35に沿って、対電極37、測定電極38、検知電極39の順に浸すように空気孔33に向かって吸引される。しかし、エリアAC間だけの電圧値が大きく変化するような場合、ユーザが空気孔33に誤って試料液を点着した蓋然性が高くなる。このような場合、正確な測定を実行することは困難であると判断され、点着位置エラーとして測定処理が強制終了されるようになっている。これにより、ユーザの誤操作による測定誤差を確実に除くことが可能になる。
また、エリアAC間で電圧値が10mvに達したと判定された場合(ステップS17;Yes)またはエリアAE間で電圧値が10mv以上に達したと判定された場合(ステップS20;Yes)、試料液が十分な量だけ検出されたことになり、基質を定量するための予備測定処理が開始されるとともに、測定装置10のタイマ(図示せず)によって時間がカウントされる(ステップS21)。
次に、エリアAF間での導通検知が行われる(ステップS22)。スイッチ22がオンとなるようにスイッチ切替制御がされてエリアAとエリアFとの間で導通検知が実行される。エリアAF間で導通の検知がある場合(ステップS22;Yes)、ステップS9において、バイオセンサ30の種別である結果記録“I”がメモリに記憶されているか判定される(ステップS23)。バイオセンサ30の種別である結果記録“I”が記憶されている場合(ステップS23;Yes)、バイオセンサ30の種別が図3(g)であると判別し、還元された電子受容体を電気化学的に酸化する場合に得られる電圧値から試料液中のグルコース濃度を特定するための検量線データとして検量線F7が設定される(ステップS24)。
一方、結果記録“II”が記憶されている場合(ステップS23;No)、バイオセンサ30の種別が図3(e)であると判別し、検量線データとして検量線F5が設定される(ステップS25)。エリアAF間で導通検知がない場合(ステップS22;No)、バイオセンサ30の種別が図3(f)であると判別し、検量線データとして検量線F6が設定される(ステップS26)。
このようにバイオセンサ30の識別部42のスリットに応じて、バイオセンサ30の出力特性の差異が自動で認識され、その特性に適した検量線データが自動で選択されてセットされる。ユーザが補正チップを使用することなく、製造ロットによる出力特性を予め考慮された検量線データがCPU25によって自動的に切り替えられる。よって、ユーザによる誤ったデータを用いた誤測定が回避でき、測定精度の高精度化が維持できる。
ステップS24〜S26において検量線がセットされた後、予備測定処理が開始される(ステップS27〜S29)。まず、この予備測定処理について図9を用いて説明する。図9は、本実施の形態における予備測定処理のプロファイルを示す。
図9におけるプロファイルにおいて、時刻t0において本予備処理が開始される。具体的には、測定装置10のタイマ(図示せず)によって時間のカウントが開始された時刻を示す。本予備処理のプロファイルには三つの連続期間からなり、例えば、時刻t0からt1の第1電位期間、時刻t1からt2の待機期間、時刻t2からt3の第2電位期間からなる。
第1電位期間には電位V1がエリアA、C及びEに印加されて酵素反応が進行するため、生成されたフェロシアン化物を電気化学的に酸化させて得られる電圧値が指数関数的に増加していく。次に、待機期間には、第1電位期間で印加された電位V1がゼロに設定される。この間、フェロシアン化物を電気化学的に酸化されず、酵素反応が進行し続けフェロシアン化物の量が蓄積されていく。そして、第2電位期間には電位V2がエリアA、C及びEに印加されて、待機期間中に蓄積されたフェロシアン化物が一気に酸化されて放出される電子量が多くなるので時刻t2において高い応答値が示される。高い応答値を示した電圧値は時間経過とともに低下していき、最終的に時刻t3において、安定化された電圧値i3が測定される。本予備測定処理においては、測定装置10においてスイッチ19、21が共にオン制御されることにより対電極37、検知電極39が一体として電位が印加されるようになる。
ここで、近年のバイオセンサに要求されるスペックとして、測定時間の短縮化が望まれていた。バイオセンサによって高速に基質の定量を行う場合、試料液の粘性がその測定精度に大きな影響を及ぼすことを本発明の発明者らは見出した。特に、人体の血液を試料液とする場合、粘性の高い(Hctが高い:以下、高粘性)血液の場合は測定感度が低下し、粘性の低い(Hctが低い:以下、低粘性)血液の場合は測定感度が高くなる。この現象は反応試薬層と血液との溶解速度に由来しており、高粘性血液では溶解が遅く、低粘性血液では溶解が速くなるため、バイオセンサによる測定感度に影響が及ぼされる。
図10は、血液の粘性、反応試薬層と血液との反応時間および測定感度の関係を示す図である。図10のデータは従来の測定手法によって測定されたものである。従来の手法というのは、図9における第2電位期間に該当する期間のみに電位が印加され、その電圧値を測定する手法である。図10から明らかなように、反応時間を短くすればするほど、粘性(血液の場合、Hct)の差異による測定感度の影響が大きくなることが分かる。とりわけ、反応時間が5秒程度の間には低粘性血液と高粘性血液との測定感度に大きな差分が生じている。
そのため、従来のような測定方法では、血液の粘性による測定誤差が顕著になってしまう傾向があった。
そこで、本予備測定処理の第1電位期間では、試薬層36との溶解初期に生じる反応生成物が、電位V1が印加されることによって強制的に消費される。第1電位期間では、低粘性血液の方が高粘性血液よりも酵素反応速度が速いのでより多くの反応生成物が生成されるとともに、より多くの反応生成物が消費されることになる。しかし、あまりに長時間電位をかけ過ぎると反応生成物が消費過多となり、第2電位期間で検知される電圧値の応答性が悪くなる可能性がある。そこで、効果的な第1電位期間の長さt1−t0は、3〜13秒にすることができるが、印加する電位を更に上げることで印加時間を2〜10秒にすることが好ましい。また、電位V1としては、0.1V〜0.8Vが好ましい。
次に、待機時間では、再び酵素反応が進行し、第1電位期間で消費された低粘性血液からの生成物も迅速に回復し、高粘性血液とほぼ同量蓄積される。しかし、待機時間の長さが長すぎても短すぎても最終的な測定感度に及ぼす影響が異なる。
待機時間が短かすぎる場合、時刻t3において測定される電圧値i3の応答値が低くなり過ぎて、測定誤差が大きくなる。また、待機時間が長すぎる場合、低粘性血液と高粘性血液とにおける酵素反応速度の差が更に広がってしまう可能性がある。そこで、低粘性血液と高粘性血液との酵素反応速度の差がより広がらないように待機時間の長さが決定される。そこで、待機期間の長さt2−t1は、1〜10秒にすることができるが、2〜10秒にすることがより好ましい。
第2電位期間では、電位V2の印加が開始される時刻t2直後は電圧値が安定せず、電圧値が安定化するための経過時間が必要となる。更に、第1電位期間と同程度の電位を印加する必要もなく、第1電位期間の電位V1よりも低い電位が好ましい。フェロシアン化カリウムを酸化させるのに充分に低い電圧であればよい。そこで、第2電位期間の長さt3−t2は2〜10秒が好ましい。また、電位V2としては、0.05〜0.6Vが好ましい。最終的に時刻t3におけるエリアA、C及びE間の電圧値i3を読み取り、読み取られた電圧値i3から試料液中の基質(グルコース)の量が計算される。
なお、このような時間設定は、パラジウムなどの貴金属電極を用いたバイオセンサであって、試薬処方がグルコースオキシダーゼまたは/およびグルコースデヒドロゲナーゼ及びフェリシアン化カリウムだけでなく、アミノ酸および糖アルコールを含むバイオセンサを用いた定量測定にとりわけ好適である。また、有機酸を含む場合に好適である。
また、試料液が試料供給路35に供給された後に、試料液と試薬層36との反応をある時間培養してから基質を定量するに際して、ステップS14でエリアAE間で測定される電圧値がしきい値(10mv以上)を超えたことを検知してからステップS17でエリアAC間で測定される電圧値が所定のしきい値(10mv)を超えるまでの経過時間にしたがって、培養時間を変化させるようにしてもよい。
図11は、ヘマトクリット(以下、Hct)が25%、45%、65%の血液を用いて、従来の手法と本予備測定処理とのグルコース濃度(mg/dl)の測定結果を示す図である。図11中のRは本予備処理による測定結果であり、その他に従来手法を用い反応時間が15秒、30秒の場合の測定結果が示されている。なお、本予備処理では、第1電位期間の長さ6秒、電位V1が0.5V、待機時間の長さ6秒、第2電位期間の長さ3秒、電位V2が0.2Vとなっている。Hct45%、グルコース濃度100mg/dlを基準として測定した場合に、Hct25%の低粘性血液、Hct65%の高粘性血液になれば測定結果に大きなばらつきが発生し、血液の粘性が低いほど高めに、血液の粘性が高いほど低めに応答値がばらつく。
更に、反応時間が短いほどばらつきが大きくなる。反応時間15秒の場合は、10%高め(Hct25%の低粘性血液)、10%低め(Hct65%の低粘性血液)にばらつきが発生している。反応時間30秒の場合は、5%高め(Hct25%の低粘性血液)、5%低め(Hct65%の低粘性血液)にばらつきが発生している。本予備処理では、3%高め(Hct25%の低粘性血液)、3%低め(Hct65%の低粘性血液)のばらつきが発生している。反応時間15秒の測定結果に対して、トータルの反応時間は等しいにもかかわらず、Hctによるばらつきを低減することが可能になる。
再び、図7に戻り、測定処理の説明を続ける。予備測定処理が開始され、第1電位期間としてエリアA、C及びE間に電位0.5Vが6秒間印加される(ステップS27)。そして第1電位期間終了後、6秒間の待機状態となり、その間電位は取り除かれる(ステップS28)。待機期間終了後、第2電位期間として、エリアA、C及びE間に電位0.2Vが3秒間印加され(ステップS29)、3秒間経過後、そのときの電圧値i3が読み取られる(ステップS30)。
ステップS30で電圧値i3が読み取られた後、測定装置10に配置された温度測定部26及びそのスイッチ27、並びに温度測定部28及びスイッチ29を制御することによって、測定装置10内の温度測定が実施される。具体的には、スイッチ27がオン制御されて温度測定部26によって温度が測定される(ステップS31)。続いて、スイッチ27がオフ制御、スイッチ29がオン制御されて温度測定部28によって温度が測定される(ステップS32)。
温度測定部26、温度測定部28それぞれで測定された2つの温度測定結果が比較され、その差分が所定のしきい値内にあるか否か判定される(ステップS33)。差分がしきい値範囲内にない場合は、温度測定部26、28いずれかが故障しているものとして測定処理が終了される(ステップS33;No)。測定装置10内に温度測定部26、28の複数の温度測定部を設置し、その測定結果を比較させて故障検知を正確かつ容易にできるようになる。これにより、イレギュラーな温度測定による測定誤差を回避できるようになる。温度を測定するタイミングはステップS30で電圧値が読み取られて直後になっているが、例えば、ステップS21で予備測定処理が開始されるタイミングで温度測定を実施してもよい。
2つの温度測定結果の差分が所定のしきい値内にある場合(ステップS33;Yes)、温度測定結果がメモリ(図示せず)に一時記憶される。この際、温度測定部26、28いずれかを選択して記憶してもいいし、2つの測定温度の平均値を記憶してもよい。そして、ステップS30で測定された電圧値i3を参照すべき検量線が特定される(ステップS34)。ステップS24、25、26において設定された検量線が参照され、ステップS24に対応するバイオセンサ30の場合は検量線F7が参照される(ステップS35)。同様に、ステップS25に対応するバイオセンサ30の場合は検量線F5が参照される(ステップS36)。また、ステップS26に対応するバイオセンサ37の場合は検量線F6が参照される(ステップS37)。
図12は、ステップS34、35、36で測定される検量線データCAの一例を示す。検量線CAには、ステップS30で測定される電圧値と試料液中に含まれる基質の濃度(mg/dl)がバイオセンサ30の出力特性F1〜F7ごとに定義されている。例えば、測定された電圧値が25(mv)の場合、検量線F5に対応するバイオセンサであれば、基質の濃度として14(mg/dl)がメモリに記憶される。
次に、ステップS35、S36またはS37で抽出された基質の濃度が、ステップS14、S17で求められメモリに記憶されている遅れ時間に対応する補正率にしたがって補正される(ステップS38)。具体的には、以下の式(1)で補正される。
D1=(抽出された基質の濃度)×{(100−感度補正率)/100}
ここで、D1は補正後の基質の濃度を示す。これにより、ユーザによる試料液の追い足し動作に伴う測定誤差は確実に解消される。
次に、ステップS31〜S33で測定された温度にしたがって、ステップS38で補正された基質の濃度が補正される(ステップS39)。具体的には、ステップS33でメモリに蓄積された温度(以下、測定温度)が読み出されて、図13に示す温度補正テーブルを参照することによって、基質濃度D1に対する温度補正率が決定される。
図13は、温度補正テーブルの一例を示す図である。図13には、一例として、T10は測定温度が10℃における温度補正テーブルを示す。以下、同様に、T15は測定温度が15℃における温度補正テーブルを、T20は測定温度が20℃における温度補正テーブルをそれぞれ示す。各温度補正テーブルには、試料液中の基質濃度D1と温度補正率との関係が規定されている。温度補正率は、温度25℃における基質濃度を基準として設定されて、対応する基質濃度に補正する割合を示す。具体的には、以下の式(2)にしたがって温度補正が実行される。
D2=D1×(100―Co)/100
ここで、D2は温度補正後の基質濃度、D1はステップ38で算出された基質濃度、Coは温度補正テーブルを参照して特定された温度補正率を示す。
また、本発明の発明者らは、測定精度が、測定温度と基質濃度との組み合わせによって影響されることを実験から見出した。測定精度に及ぼす影響について、具体的に説明する。図14は、測定温度と測定バラツキ(bias)との関係を、基質濃度としてグルコース濃度ごとに示した図である。図13における測定バラツキとは、測定温度25℃で測定されたグルコース濃度が測定温度の変化に伴って変化する割合を示す。図14(a)は、25℃においてグルコース濃度50mg/dlの場合の測定バラツキと測定温度との関係を示す図である。以下、同様に、図14(b)は25℃においてグルコース濃度100mg/dlの場合、図14(c)は25℃においてグルコース濃度200mg/dlの場合、図14(d)は25℃においてグルコース濃度300mg/dlの場合、図14(e)は25℃においてグルコース濃度420mg/dlの場合、図14(f)は25℃においてグルコース濃度550mg/dlの場合におけるそれぞれの測定バラツキと測定温度との関係を示す。
これらの実験データから以下の2点の傾向が明確である。まず第1に、同一グルコース濃度の関係において、基準温度25℃から測定温度の差が大きくなるほど測定バラツキが大きくなることがわかる。詳細には、測定温度が基準温度より低いほど測定バラツキがマイナス方向に大きく、測定温度が基準温度より高いほど測定バラツキがプラス方向に大きくなる傾向がある。第2に、グルコース濃度を大きくしても、グルコース濃度が300mg/dlの場合を境界として、測定バラツキが収束することがわかる。具体的には、例えば、図14(a)において、測定温度40℃における測定バラツキは約28%であり、図14(c)においては約50%、図14(d)においては約60%、図14(f)においては約50%という推移となる。測定温度10℃のような低温度域においても同様な傾向がある。
そこで、このような傾向が図13に示す温度測定テーブルに反映されている。具体的には、同一グルコース濃度の関係において、基準温度25℃から測定温度の差が大きくなるほど測定バラツキが大きくなること、かつグルコース濃度を大きくしても、グルコース濃度が300mg/dlの場合を境界として、測定バラツキが収束することを考慮されたテーブルになっている。測定温度と基質濃度との組み合わせにしたがった温度補正テーブルを参照して補正をすることにより、単に測定温度にしたがって補正をするより測定精度が飛躍的に向上されることになる。
なお、バイオセンサ30の使用温度範囲(本実施の形態では、一例として、10℃〜40℃)において1℃単位の温度補正テーブルを有してもいいし、所定の温度幅(例えば、5℃)で規定してしてもよい。所定の温度幅の中間に位置する測定温度が検出された場合、検出された測定温度を挟む温度補正テーブルを用いて、一次直線補間することによって温度補正率を算出すればよい。
図7のフローチャートに戻り、このような温度補正が実施された後の基質濃度D2が、最終的な基質濃度として測定装置10の表示部11に出力される(ステップS40)。このように、追い足し時間、測定温度、測定温度と基質濃度との組み合わせの影響またはHctの試料液の粘性が考慮されて基質量が定量されるので、従来に比べて格段に測定精度の向上が図れるようになる。
また、温度による測定誤差を更に抑えるために以下のような手法も可能である。バイオセンサ30が測定装置10に未挿入の状態で事前に温度測定を継続的に実施し、その測定された温度を蓄積しておく。バイオセンサ30が挿入された後、ステップS31〜S32で測定される測定温度と事前に蓄積された温度との比較を行うようにすればよい。事前に蓄積された温度とステップS31〜S32で測定される測定温度との間に大きな差分がある場合、測定誤差に影響を及ぼす程度の温度変化があったとして、測定処理を強制的に終了させることができるようになる。
本実施の形態のような携帯型のバイオセンサシステムは、持ち運びが容易なため、外界環境によって様々な温度変化にさらされる。例えば、ユーザの手の温度、ユーザが屋外から屋内に移動した場合の環境温度の急激な変化などが伴うケースがある。環境温度の変化が急激である一方、測定装置10における温度変化が安定するには相当な時間を要する。
例えば、図15は、測定装置10において温度変化を示す図である。図15に示す図では、測定装置10が温度10℃から温度25℃に移動された場合および温度40℃から温度25℃に移動された場合の測定装置10内の温度変化が示されている。図15から使用温度10℃〜40℃において一旦生じた温度が安定するのに約30分要することがわかる。温度が変化している途中に温度補正が実行されると、正確な温度補正ができない場合が発生する。
そこで、事前に蓄積された温度とステップS31〜S32で測定される測定温度との間に大きな差分がある場合、測定誤差に影響を及ぼす程度の温度変化があったとして、測定処理を強制的に終了させる必要性がでてくる。これにより、測定装置10における温度補正の精度を更に向上させることができるようになる。なお、バイオセンサ30が測定装置10に未挿入の状態での温度の事前測定は、所定の時間(例えば、5分)周期で行ってもよく、連続して実行してもよい。また、温度変化の度合いを判断して、温度変化大きい場合は、ユーザが測定を実施しようとしても測定処理が実行されないようにしてもよい。