JP4895458B2 - 経皮吸収促進剤およびその使用 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、経皮吸収促進剤およびその使用に関し、詳しくは、安全性および薬物の経皮吸収性に優れた、分子型医薬化合物の経皮吸収促進剤ならびにそれを使用した経皮投与用基材および製剤に関する。ここで、分子型医薬化合物とは、その90%以上が分子型で適用されることを意味する。
【0002】
【従来の技術】
経皮投与は、経口投与や注射に比べて投与が簡単であり、コンプライアンスの改善、肝初回通過効果の回避、消化管内での分解の回避などの利点がある。また、投与方法も簡便であり、効力の持続性、副作用発現の軽減などの利点も考えられる。
【0003】
しかしながら、皮膚は、角質層などバリヤー能が優れているため、薬物の透過速度が制限され、この経路で投与できる薬物は限られている。このため、薬物の皮膚透過性を上げるために様々なタイプの促進剤が提案されている。その中で、親水性の高いショ糖脂肪酸エステルは、優れた生分解性をもち、皮膚に対しての刺激が少ない非イオン性界面活性剤であるため、好ましい透過促進剤として従来より知られている。
【0004】
例えば、塩酸ジルチアゼム等の陽イオン性水溶性薬物について、基材中に吸収助剤としてショ糖脂肪酸エステルを含む各種の界面活性剤を配合した皮膚外用剤が提案されている(特開昭61−268631号、同62−61929号、同62−132828号の各公報)。
【0005】
また、広範囲の薬物の透過促進剤として、特にスクロースモノラウレートが有用であること、拡散セルテストによる皮膚に対してのインビトロ透過測定によって容易にその効果を評価できることが報告されている(特開昭63−227521号公報;欧州特許第280413号明細書)。
【0006】
更に、ショ糖脂肪酸エステル0.5〜10重量%、多価アルコール5〜90重量%、油分5〜90重量%を配合した経皮吸収用ゲル基剤およびこれに水相を添加することにより得られるO/Wエマルジョン基剤が、薬物の経皮吸収効果が大きく、水溶性薬物、油溶性薬物のどちらでも配合することが可能であり、しかも、べたつかずに良好な使用感を有する基剤として、提案されている(特開平01−301617号公報)。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであり、その目的は、優れた生分解性をもち、皮膚に対しての刺激が少ないといわれている非イオン性界面活性剤であるショ糖脂肪酸エステルを使用し、かつ、分子型医薬化合物の経皮吸収性に優れた、経皮吸収促進剤ならびにそれを用いた経皮投与用基材および経皮投与製剤を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
すなわち、本発明の第1の要旨は、ポリエステルの含有量が50重量%以上であるショ糖ラウリン酸エステルを有効成分とすることを特徴とする、第3級アミノ基を持つ塩基性薬物である分子型医薬化合物の経皮吸収促進剤に存する。そして、本発明の第2の要旨は、上記の経皮吸収促進剤を含有することを特徴とする経皮投与用基材に存し、本発明の第3の要旨は、上記の経皮投与用基材に第3級アミノ基を持つ塩基性薬物である分子型医薬化合物を配合したことを特徴とする経皮投与製剤に存する。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0010】
先ず、本発明に係る分子型医薬化合物の経皮吸収促進剤について説明する。本発明に係る分子型医薬化合物の経皮吸収促進剤は特定のショ糖脂肪酸エステルを有効成分とする。すなわち、ショ糖脂肪酸エステルは、脂肪酸の種類とエステル化度の違いによって種々の特性を持った銘柄がある。本発明に係る分子型医薬化合物の経皮吸収促進剤は、構成脂肪酸の炭素数が8〜22であり、ジ、トリエステル等のポリエステルの含有量が50重量%以上のショ糖脂肪酸エステルを有効成分とする。構成脂肪酸の炭素数は、好ましくは10〜14である。特に好ましいのは、ポリエステルの含有量が50〜90重量%でジエステルの含有量が30〜60重量%のものである。
【0011】
次に、本発明の経皮投与用基材について説明する。本発明の経皮投与用基材は、上記の経皮吸収促進剤を含有することを特徴とする。経皮投与用基材には、皮膚外用剤に一般に使用される水性または非水性の各種の媒体を使用することが出来る。具体的には、水、植物油、硬化油などの油脂類、セタノール、ステアリルアルコール等の脂肪酸高級アルコール類、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸などの高級脂肪酸類、ミツロウ、鯨ロウ、ミリスチン酸イソプロピル、ジアセチン等の脂肪酸エステル類、ワセリン、パラフィン、スクワレン等の炭化水素類、ラノリン、コレステロール、シリコン油などが挙げられる。
【0012】
これらの中では、分子型医薬化合物の経皮吸収促進の点から非水系媒体を主成分とする基材が好ましい。好ましい非水系媒体としては、低級脂肪族アルコール、例えば、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等の1価アルコール、プロピレングリコール等の2価アルコール、グリセリン等の3価アルコール等が挙げられ、特にプロピレングリコールが好ましい。
【0013】
経皮投与用基材中の経皮吸収促進剤(前記のショ糖脂肪酸エステル)の含有量は、特に限定されないが、基材容量100mL当たり、通常0.1〜5g、好ましくは0.5〜2gである。
【0014】
次に、本発明の経皮投与製剤について説明する。本発明の経皮投与製剤は、上記の経皮投与用基材に医薬化合物を配合したことを特徴とする。医薬品化合物としては、身体表面を通して作用する広い範囲の化合物に採用し得るが、好ましくは、経皮投与が可能であり、全身または局所作用が期待される医薬化合物が使用される。
【0015】
上記の医薬品化合物の例としては、リドカイン等の局所麻酔薬、アスピリン、ジクロフェナック、イブプロフェン、インドメタシン、ケトプロフェン等の非ステロイド系抗炎症薬、クレンチアゼム、ジルチアゼム、ニフェジピン等のCa拮抗剤、イミダプリル、エナラプリル、カプトプリル等のACE阻害剤、フマル酸ビソプロロール、デノパミン、プロプラノロール、塩酸イソプロテレノール等のアドレナリンβレセプター遮断薬、クロニジン等の降圧剤、ニトログリセリン、硝酸イソソルピット、モルシドミン等の冠血管拡張剤、ジコキシン等の強心配糖体、ニセルゴリン等の心臓、血管系薬剤、ジアゼパム、イミプラミン等の向神経薬、サリチル酸などの解熱・鎮痛薬、ジフェンヒドラミン等の鎮うん剤、dl−塩酸メチルエフェドリン等の自律神経作用薬、フィゾスチグミン等の脳神経系薬剤、エピネフリン等の呼吸系薬剤、マレイン酸トリメブチン等の消化器系薬剤、ビタミンA,ビタミンD,ビタミンE,ビタミンK等のビタミン剤などが挙げられる。
【0016】
本発明の経皮投与製剤においては、上記の医薬品化合物は分子型で適用される。例えば、第3級アミノ基を持つ塩基性薬物であるリドカイン(pKa≒8)の場合、pKa値よりも高いpHとすることにより解離していない脂溶性分子の割合が多くなるので、実質的に分子型が主体であるpH9(約90%が分子型)以上、好ましくはpH10以上で使用される。また、非水系媒体を主成分とする基材中に医薬品化合物を配合することにより分子型として投与することが出来る。
【0017】
経皮投与製剤中の医薬品化合物の量は、特に限定されないが、通常、経皮吸収促進剤であるショ糖脂肪酸エステルに対する医薬品化合物の割合(重量比)として、通常0.01〜100、好ましくは0.1〜10の範囲である。
【0018】
本発明の経皮投与製剤は、色素、顔料、不活性充填剤、賦形剤、他の透過促進剤などの経皮投与製剤に使用される成分を配合することが出来る。また、軟膏、ゲル、クリーム、エアゾール、水性型のパップ剤(ガーゼ、不織布型)、油性型のプラスター剤(粘着テープ型)等の任意の剤形として、皮膚に適用することが出来る。
【0019】
【実施例】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下の諸例では、経皮吸収促進剤として表1に示すショ糖脂肪酸エステルを使用し、次に示す方法により透過試験を行い評価した。
【0020】
<透過試験>
透過試験は、ヘアレスマウス摘出皮膚を装着したフロースルー型拡散セル(有効面積1cm2)を使用し、ドナー相(開放系)に所定のリドカイン溶液を入れ、37℃の恒温槽中で行った。レセプター相はpH7.4のリン酸緩衝液(PBS)を流速5mL/hrで流し、1時間毎にサンプリングした。試験は全て6時間行い、リドカインの定量はHPLCで行った。
【0021】
【表1】
【0022】
参考例1
ドナー相にpH調節したリドカイン水溶液(0.05w/v%)を0.5mL充填し、リドカインの透過試験を行った。6時間での透過リドカイン量(積算値:mg)を表2に示す。なお、リドカイン水溶液のpH調節は次の(1)〜(3)に示す方法で行った。
【0023】
(1)pH6:0.01Mのクエン酸水溶液にNaOH水溶液を加えてpHを6.0とした。
(2)pH8:0.01MのTRIS(トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン)水溶液に塩酸を加えてpHを8.0とした。
(3)pH10:0.01Mグリシン水溶液にNaOH水溶液を加えてpHを10.0とした。
【0024】
【表2】
【0025】
参考例2
レセプター相を流したままにして、ドナー相に所定濃度のJ−1216のアセトン/エタノール(60/40)溶液0.1mLを充填した後、2時間放置してドナー相中のアセトンとエタノールを蒸発させ、ショ糖脂肪酸エステルを皮膚に移行させた。その後、参考例1と同様にして、pH6(リドカイン濃度0.2w/v%)及びpH10(リドカイン濃度0.05w/v%)でのリドカインの透過試験(0.5mL適用)を行った。6時間での透過リドカイン量(積算値:mg)を表3に示す。なお、J−1216を含まないアセトン/エタノール(60/40)溶液で処理した結果をコントロールとした。
【0026】
【表3】
【0027】
参考例1及び2の結果から、ショ糖脂肪酸エステルの効果は、基材(水)中でのリドカインとの相互作用によるものではなく、皮膚に移行したショ糖脂肪酸エステルによる効果であると考えられる。
【0028】
実施例1および比較例1
J−1205の0.25W/V%アセトン/エタノール溶液を使用した他は、参考例2と同様にして、リドカイン(pH10ではリドカイン濃度0.2w/v%,pH6ではリドカイン濃度0.2w/v%)の透過試験を行った。6時間での透過リドカイン量(積算値:mg)を表4に示す。
【0029】
【表4】
【0030】
実施例2及び比較例2〜3
ドナー相として、J−1205(実施例2)又はJ−1216(比較例2)をそれぞれ1.5W/V%添加したリドカイン5重量%プロピレングリコール溶液を使用し、コントロールとしてショ糖脂肪酸エステル無添加(比較例3)のリドカイン5重量%プロピレングリコール溶液を使用した他は、参考例1と同様にして、リドカインの透過試験を行った。6時間での透過リドカイン量(積算値:mg)を表5に示す。
【0031】
【表5】
【0032】
【作用】
上記の結果から、本発明の経皮吸収促進剤(ポリエステル含有量が30重量%以上のショ糖脂肪酸エステル)は、解離型よりも分子型の薬物への効果が高く、また、親水性の高い(モノエステル含有量が多い)ショ糖脂肪酸エステルは解離型の薬物への効果が高く皮膚の中の親水性部分(解離型薬物の透過経路)に影響するのに対し、本発明の経皮吸収促進剤は皮膚の中の親油性部分(分子型薬物の透過経路)に作用するものと推測される。
【0033】
【発明の効果】
以上述べた様に、本発明によって、優れた生分解性をもち、皮膚に対しての刺激が少ないといわれている非イオン性界面活性剤であるショ糖脂肪酸エステルを使用し、かつ、分子型医薬化合物の経皮吸収性に優れた、経皮吸収促進剤ならびにそれを用いた経皮投与用基材および経皮投与製剤を提供することが出来る。
Claims (7)
- ポリエステルの含有量が50重量%以上であるショ糖ラウリン酸エステルを有効成分とすることを特徴とする、第3級アミノ基を持つ塩基性薬物である分子型医薬化合物の経皮吸収促進剤。
- ポリエステルの含有量が50〜90重量%でジエステルの含有量が30〜60重量%である請求項1に記載の経皮吸収促進剤。
- 請求項1又は2に記載の経皮吸収促進剤を含有することを特徴とする経皮投与用基材。
- 基材が非水系媒体を主成分とするものである請求項3に記載の経皮投与用基材。
- 非水系媒体が多価アルコールである請求項4に記載の経皮投与用基材。
- 多価アルコールがプロピレングリコールである請求項5に記載の経皮投与用基材。
- 請求項3〜6の何れかに記載の経皮投与用基材に第3級アミノ基を持つ塩基性薬物である分子型医薬化合物を配合したことを特徴とする経皮投与製剤。
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