JP4884373B2 - 抗デルマタン硫酸抗体と機能性硫酸化オリゴ糖 - Google Patents
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Description
本発明は第1に、デルマタン硫酸を特異的に認識又は検出する抗体を提供するものである。特に、iD-ユニットを含むデルマタン硫酸を特異的に認識又は検出する抗体は、哺乳類の脳(特に出生後10日頃迄の新生期の脳)において発現する、iD-ユニットを含む機能的デルマタン硫酸エピトープの検出に有用である。ここで、iD-ユニットとは、[IdoUA(2S) α1-3GalNAc(6S)]、即ち、[イズロン酸(2-硫酸)α1−3N-アセチルガラクトサミン(6-硫酸)]の二糖構造を意味し、iD-ユニットを含むデルマタン硫酸とは、このような二糖構造を糖鎖内に1組又は複数組有するデルマタン硫酸を意味する。
本発明は第2に、iD-ユニットを含むデルマタン硫酸由来の機能性硫酸化オリゴ糖を提供するものである。本発明の機能性硫酸化オリゴ糖は、その糖鎖内にiD-ユニット構造を少なくとも1個有するものであればよいが、連続した又は不連続の複数のiD-ユニット構造を有するものであってもよい。また、糖鎖の長さは特に制限されるものではないが、十糖以上であることが好ましい。
(a)ΔD-iD-iD-iD-iC
(b)ΔD-iD-iD-iD-iD
[1]実験方法
[1-1]An-DSの調製
採取したホヤA. nigra (Chordata-Tunicata)からのGAGの単離は、J. Biol. Chem. 270, 31027-31036 (1995) 記載の方法を若干改変して行った。A. nigraの乾燥した体部 (100 g) をアクチナーゼEで消化し、ピリジニウム塩で沈殿させ、硫酸化GAGとして0.5%の収率を得た。GAG混合液を亜硝酸、pH 1.5で処理してHSを除き、得られたポリマーについて、Acell QMA Plusカートリッジを用いて陰イオン交換クロマトグラフィーを行った。0.5 M NaClを含む0.3 M リン酸バッファー、pH 6.0 でカートリッジを平衡化し、サンプルを添加後、0.5、1.0および1.5 M NaClを含むリン酸バッファーで段階的に溶出した。1.5 M NaCl溶出画分 (144 mg) の一部 (60 mg) について、同一の条件下で再度、陰イオン交換クロマトグラフィーを行った。その結果、同一画分に50.4 mgが回収された。このサンプルは2.4%のペプチドを含んでいたが、HPLC分析により調べたところ、HSおよびヒアルロン酸は検出されなかった。このサンプルをマウスに免疫した。C-18疎水クロマトグラフィーによりDS-ペプチド画分から遊離のペプチドを除いてから、抗体のスクリーニングと構造解析および機能解析に用いた。C-18カラムから水で溶出したDS-ペプチド画分をAn-DSとした。このAn-DSは完全にコンドロイチナーゼABCで分解されたので、高い純度をもつことを確認できた。
An-DS (各々2μgずつ) をコンドロイチナーゼABC (10 mIU)、AC-I (4 mIU) あるいはB (4 mIU) で37℃、1時間処理した。各々の分解物をセルロースアセテート膜にスポットし、30分間、100 Vの定圧下で電気泳動を行った。その後、膜をアルシアンブルー (0.1%酢酸中に0.1%の濃度) 溶液で10分間染色し、0.1%酢酸で20分間脱色した。
特に断りのない限り、実験は室温で行った。抗体のスクリーニングおよび基質特異性を調べるために、ストレプトアビジンでコートしたプレートを用いた。様々なGAGのサブタイプに対する抗体の反応性をELISAにより調べた。様々なGAGをビオチン化し、プレートに固相化した。それぞれのウェルについて、1%ウシ血清アルブミンでブロッキングを行い、抗体を含むハイブリドーマ上清あるいは腹水液と反応させた後に、アルカリホスファターゼを結合したヤギ抗マウスIgG (G+M) あるいはIgMと反応させた。その二次抗体をパラニトロフェニルリン酸を基質として、415 nmにおける吸光度で検出した。ネガティブコントロールとして、An-DSあるいは一次抗体を加えないものを用いた。一次抗体として用いたmAb 473HDあるいは市販の抗CS抗体であるCS-56およびMO-225は、50倍希釈して用いた。
A. nigraから得たDS-ペプチドを用いて、BALB/cA Jolマウスに免疫し、モノクローナル抗体を作製した。2週間ごとに 200μgをマウスの背中の皮下に注入した。3回注入後、その血清を用いて、高度に精製したAn-DSに対する反応性をもとにELISA法でスクリーニングした。融合ハイブリドーマ細胞を培養後、ビオチン化An-DSを用いて、その培養上清を用いてELISA法でスクリーニングした。4種類の陽性クローン (2A12、3G11、4B5および5F4) を選別した。各々のクローンの基質特異性を調べるために、マウスの腹腔にこれらのクローンを注射した。こうして得られた抗体の中で、mAb 2A12が高い特異性を示し、この抗体によるマウス脳の染色パターンがユニークだったので、この抗体の性質をさらに調べた。
P7および成体ddYマウスを麻酔し、脳を摘出し、直ちにドライアイスで凍結し、−80℃で保存した。摘出後2-4日以内に、凍結脳の切片を12μmの厚さで作製し、60℃で1時間熱して脱水し、−80℃で保存し、用いた。抗体の免疫組織化学染色をするために、脳切片をアセトン-メタノール (1 : 1) で固定し、蒸留水で再水和させた。その切片を以下の溶液で処理した。:(1)PBS (10 mM、pH 7.4) 中、2.5% 過酸化水素、30分間;(2)PBS中、1% BSA、4% 正常ヤギ血清、60分間;(3)1% BSA/PBS中、一次抗体 (2A12およびCS-56をそれぞれ、200倍および100倍希釈して用いた)、4℃、一昼夜;(4)1% BSA/PBS中、ビオチン化抗マウスIgM (μ鎖) (8 ng/ml)、60分間;(5)PBS中、ベクタステインABC溶液 (200倍希釈)、60分間;(6)トリス緩衝食塩水 (TBS、20 mM、pH 7.6) 中、0.06% ジアミノベンジヂン、0.01% 過酸化水素。最後に、切片を濃度の異なる一連のエタノール溶液で固定し、キシレンを含むマウント溶液でマウントした。コントロールとして、マウスIgMを一次抗体として用いた。抗体の染色特異性を確認するために、プロテアーゼを含まないコンドロイチナーゼABC (2 mIU/切片) で脳切片を処理し、CSおよびDSを取り除いた。それから、上述のように免疫組織化学染色を行った。
海馬細胞は、J. Cell Biol. 126, 783-799 (1994) 等に記載の方法に従い、15.5日 (E15.5) あるいは16.5日齢 (E16.5) の胎仔マウス脳を用いて培養した。海馬は顕微解剖によって得、数分間トリプシン処理して細胞を分離した。分離した細胞をN2サプリメントを含むイーグルの最少必須培地 (EMEM) で懸濁し、P-ORNコートしたカバースリップ上にまき、加湿した5% CO2の下、37℃で培養した。
E15.5齢のマウスの海馬の細胞を48時間培養後、PBSで1回洗浄し、4% パラホルムアルデヒドを含むPBSで30分間固定した。固定した細胞をPBSで3回洗浄後、1% BSA/4% 正常ヤギ血清を含むPBSでブロッキングし、PBSで3回洗浄後、0.2% トリトン-X100を含むPBSで30分間浸透し、抗-MAP2 (200倍希釈) および抗-NF (200倍希釈) を含む1% BSA/PBS溶液で4℃において、一昼夜反応させた。PBSで3回洗浄後、蛍光Alexa 568を結合したヤギ抗マウス IgG (200倍希釈) および蛍光Alexa 488を結合したヤギ抗マウス IgM (200倍希釈) を含む1% BSA/PBS溶液を細胞と1時間反応させた。細胞をPBSで3回洗浄後、マウントし、オリンパス社の共焦顕微鏡下で観察した。
E16.5マウス脳海馬ニューロンの神経突起伸長を、J. Cell Biol. 126, 783-799 (1994) 等に記載の方法を少し改変した方法を用いて測定した。分離した海馬の細胞をP-ORNでプレコートしたカバーグラス上に、10,000、25,000あるいは50,000細胞/cm2で播き、2時間培養した。前培養後、精製したmAb 2A12 (10-200μg/ml) を培養液に加えた。コントロールとして、マウスIgMを加えた。
オリゴ糖 (精製した十糖5〜10 pmolおよび未精製のオリゴ糖混合物30 pmol) を乾燥して、1-2μlの (Arg-Gly)15 (10 pmol) と混合し、そこに1μlのゲンチジン酸溶液 (1mg/ml) を混合した。(Arg-Gly)15 およびゲンチジン酸をコントロールとして、各々の混合溶液をMS解析用プレート上にスポットした。HCD1001法を使用し、ポジティブモードで解析した。MSスペクトルはVoyager DE-RP-Pro (PerSeptive Biosystems、Framingham、MA) でリニアモードで記録した。
An-DS (2 mg) を全量100μl、60 mM 酢酸ナトリウムを含む50 mM トリス-塩酸緩衝液、pH 8.0の中で、プロテアーゼを含まないコンドロイチナーゼABC (25 mIU) と37℃、32分間反応させた。100℃で1分間煮沸後、分解物を、Superdex Peptide (10 x 300 mm) カラムを用いたゲルろ過で、0.2 M 重炭酸アンモニウム溶液を溶媒として、流速0.3 ml/分で分画した。各々のピークを回収し、同一条件で再度ゲルろ過を行い、蒸発乾固を繰り返し行うことによって脱塩し、カルバゾール反応を利用して定量した。各々の画分のサイズは、上述したMS分析によって決定した。
十糖画分の分離および二糖組成はそれぞれ、CS-D由来の八糖の分離(J. Biol. Chem. 273, 3296-3307 (1998))および2-アミノベンズアミド (2AB)で誘導化した不飽和CS二糖の分離方法と同様に、アミン結合シリカPA-03カラム (YMC社) を用いて、流速1 ml/分、リン酸ナトリウムの濃度勾配による高速液体クロマトグラフィー (HPLC) で分析した。バクテリアのコンドロイチナーゼによって得られた不飽和二糖の同定と定量は、CSおよびDS鎖の標準不飽和二糖の溶出位置との比較で決定した。
Δ4,5HexUAα1-3GalNAc (ΔOユニット) はGlcUAβ1-3GalNAc (Oユニット)から産生される。
Δ4,5HexUAα1-3GalNAc(6S) (ΔCユニット) はGlcUAβ1-3GalNAc(6S) (Cユニット)あるいはIdoUAα1-3GalNAc(6S) (iCユニット)から産生される。
Δ4,5HexUAα1-3GalNAc(4S) (ΔAユニット) はGlcUAβ1-3GalNAc(4S) (Aユニット)あるいはIdoUAα1-3GalNAc(4S) (iAユニット)から産生される。
Δ4,5HexUA(2S)α1-3GalNAc(6S) (ΔDユニット) はGlcUA(2S)β1-3GalNAc(6S) (Dユニット)あるいはIdoUA(2S)α1-3GalNAc(6S) (iDユニット)から産生される。
Δ4,5HexUA(2S)α1-3GalNAc(4S) (ΔBユニット) はGlcUA(2S)β1-3GalNAc(4S) (Bユニット)あるいはIdoUA(2S)α1-3GalNAc(4S) (iBユニット)から産生される。
Δ4,5HexUAα1-3GalNAc(4S,6S) (ΔEユニット) はGlcUAβ1-3GalNAc(4S,6S) (Eユニット)あるいはIdoUAα1-3GalNAc(4S,6S) (iEユニット)から産生される。
Δ4,5HexUA(2S)α1-3GalNAc(4S,6S) (ΔTユニット)はGlcUA(2S)β1-3GalNAc(4S,6S) (Tユニット)あるいはIdoUA(2S)α1-3GalNAc(4S,6S) (iTユニット)から産生される。
二糖組成分析のため、多糖あるいはオリゴ糖 (二糖として100〜500 pmol) を5mIUのコンドロイチナーゼABCを用い、37℃、2時間処理した。その分解物を2-AB化し、過剰の2ABをクロロホルムで除去した。An-DSから精製した50 pmolの十糖 (An-DS 10-aおよび10-b) を様々なコンドロイチナーゼ、コンドロイチナーゼABC (1 mIU)、コンドロイチナーゼB (1 mIU) あるいはコンドロイチナーゼAC-I (0.5 mIU) とAC-II (0.5 mIU) の混合液で、それぞれ、37℃で1時間処理し、各々の酵素による分解能を調べた。その分解物の半量について、PA-03カラムを用いた陰イオン交換HPLCを行い、残りの半量については、さらにΔヘキスロン酸2-スルファターゼ (4μIU) を用いて、全量30μlの0.15% BSAを含む20 mM ナトリウム緩衝液、pH 6.5中で、37℃で30分間処理した。すべての酵素反応物を100℃、1分間煮沸し、反応を停止した。各々の分解物を2AB化するか、あるいはせずに、陰イオン交換HPLCで分析した。
固相化E-CS/DSと増殖因子や神経栄養因子との結合に対するAn-DS 10-a十糖および10-b十糖による阻害活性を、BIAcoreシステム (BIAcore AB、ウプサラ、スウェーデン) を用いて調べた。E-CS/DS-固定化センサーチップは、J. Biol. Chem. 279, 9765-9776 (2004) 記載のものと同じものを用いた。様々な増殖因子あるいは神経栄養因子 (100 ng/per time) を、多糖あるいはオリゴ糖 (1.5μg/ml) と混合し、センサーチップの表面上にインジェクトした。結合反応を2分間 (結合相) 行った後、そのセンサーを少なくとも2分間洗浄した (解離相)。レスポンスカーブを記録し、糖鎖がない時のレスポンスとある時のレスポンスとの相対的割合で阻害効果を表した。
[2-1]ホヤ (Ascidian nigra) 由来のDSの単離および構造的特徴の解析
A. nigraの成体から前記方法によりAn-DSを単離精製したところ、収率は乾燥重量で0.12%であった。その平均分子量を(J. Biol. Chem. 279, 50799-50809 (2004))記載の方法に従って、ゲルろ過によって算出したところ、6.3 x 104あった。二糖組成分析を行ったところ、下記表1に示すように、ΔD二糖 (76.6 mol%) が主要な二糖単位で、ΔO、ΔCおよびΔTユニットが微量な二糖単位であった。
この結果は、以前の報告(J. Biol. Chem. 270, 31027-31036 (1995))の結果と一致した。興味深いことに、An-DSはその全てもしくは大半がIdoUAを含む二糖から成るが、コンドロイチナーゼAC-IだけではなくコンドロイチナーゼBによっても全く分解されなかった (図1)。
マウスでAn-DSに対するモノクローナル抗体を作製し、4種類の抗体を選別した。なかでも2A12は、An-DSに対して特に高い特異性を示した (後述)。そこで本実施例では特にmAb 2A12について特徴を調べた。ビオチン化したGAGをストレプトアビジンコートしたプレート上に各々固相化し、様々なGAGの種類に対する2A12の反応性をELISA法を用いて解析した (図2A)。2A12はAn-DSに対して特異的に反応し、CS-A、CS-B、CS-C、CS-D、CS-E、CS-H、Hr-DS (iB-ユニットを主要二糖単位とするホヤH. roretzi由来DS) およびヘパリンなどの他のGAGには反応しなかった。2A12は、iD [IdoUA(2S)-GalNAc(6S)] を含むAn-DSを、D-ユニット [GlcUA(2S)-GalNAc(6S)] を多く有する (20-21%) CS-Dを含めた他の多硫酸化CSやDSと識別していることを示す結果である。この特異性は、ELISA法による阻害実験で、固定化したAn-DSと2A12との結合に対して可溶性のAn-DSが顕著に阻害することによっても確認した。2A12がインタクトなAn-DSの二糖繰り返し領域を認識しているのか、あるいはオリゴ糖とペプチドとの結合領域を認識しているのかどうかを調べるために、An-DSを様々なコンドロイチナーゼで処理し、二糖繰り返し領域よりも結合領域をより強く結合するNunc社Maxisorpプラスチックプレートを用いてELISA法を行った。図2Bに示すように、コンドロイチナーゼABCで処理したAn-DSに対する2A12の反応性は完全に消失した。これは、2A12がAn-DSの結合領域ではなく、二糖繰り返し領域中の構造を認識していることを示している。An-DSをコンドロイチナーゼAC-I、AC-IIあるいはB処理しても、2A12に対する反応性に変化はなかった。これは、An-DSがこれらのCS分解酵素によっては切断されないという上述の結果を支持する結果である (図1)。mAb 2A12は、ELISA実験で抗マウスIgGあるいはIgAとは結合せず、抗マウスIgMにのみ結合することから、IgMであると判定した。
脳の発達に伴う珍しい2A12エピトープの発現を調べるために、生後7日 (P7) と成体マウス脳の切片を用いて、2A12の免疫組織化学的染色を行った。P7と成体マウス脳の矢状切片における染色パターンを、図3に示した。以前の報告(J. Biol. Chem. 278, 35805-35811 (2003))の結果と同様に、CS-56エピトープはP7の脳で強く普遍的に発現しているが (図3、パネルB)、成体マウスの脳ではその発現が減少していた (図3、パネルF)。対照的に、2A12はP7の海馬と小脳を特異的に染色し (図3、パネルA)、成体マウスの海馬も同様に染色した (図3、パネルE)。2A12はP7の小脳において顆粒細胞層と白質を染色し、海馬においては歯状回とプルキンエ細胞層を染色した。P7の切片をコンドロイチナーゼABCで処理すると、その染色性が完全に消失した (図3、パネルC)。従って、その染色性はCS鎖又はDS鎖あるいはそれらの両方に対して特異的であることを示している。興味深いことに、コンドロイチナーゼBによってもP7の脳の染色性がほとんど消失した (図3、パネルD) ことから、2A12エピトープはDSあるいはCS/DSハイブリッド糖鎖のDSドメイン中に存在することを示唆している。CS分解酵素を利用して、同様に成体マウス脳についても行ったところ、同様の結果が得られた。これらの結果は、2A12エピトープの発現が、マウス脳において空間的または時間的に調節されていることを示している。
海馬における2A12の発現をさらに検証するために、胎仔マウス脳から海馬ニューロンを分離し、神経細胞のマーカーに対する抗体 (抗MAP2および抗NF) と2A12を用いて二重染色を行った。図4に示すように、培養海馬ニューロンは、2A12との反応が陽性であった。2A12は、細胞体とほとんどの神経突起を染色した。2A12エピトープの発現は、細胞体の他の領域よりも神経突起出芽領域で、特に高かった。
海馬ニューロンを分離し、E-CS/DSのサブポピュレーションとP-ORNを含む基質上で、10,000 細胞/cm2の密度で24時間培養すると、複数の神経突起が生成する。E-CS/DS鎖を除いた基質上と、E-CS/DS鎖を含む基質上とで細胞を増殖させ、ニューロンの神経突起の形成を比較すると、E-CS/DS鎖を除いた基質上では、より高密度 (2.5〜5倍) で、より長い培養期間 (2〜3倍) が必要であった (図5A)。そこで、海馬の神経細胞表面に存在する2A12エピトープが神経突起の形成と増殖に関与しているかどうかを調べるために、2A12を海馬ニューロンの培養液に加えた。P-ORNのみを加えた基質上でのニューロンの神経突起伸長を、2A12は有意に抑制した (図5B)。2A12は50μg/mlの濃度で、神経突起の形成を有意に阻害し (図5C)、1細胞あたりの神経突起の総長も減少させることを統計的にも確かめた (図5D)。コントロールとして200μg/mlの濃度のIgMを用いて、同様の実験を行ったところ、神経突起の形成および伸長に対する抑制活性は見られなかった (図5CおよびD)。対照的に、PTNを介したE-CS/DSの神経突起伸長メカニズムとは異なる未同定のメカニズムによると考えられているサメ軟骨由来CS-Eの神経突起伸長促進は、100μg/mlの濃度の2A12によっても影響を受けなかった。このことは、2A12抗体による阻害活性が特異的で、細胞毒性効果ではないことを示している。
2A12エピトープは海馬ニューロンで発現し、おそらく神経突起の形成と伸長に関与しているという結果から、次にこの抗体が認識するAn-DSの最小構造を調べた。インタクトなAn-DSをコンドロイチナーゼABCで部分的に分解し、その分解物をゲルろ過によって分画した。図6Aに示すように溶出画分を集め、MALDI-TOF MSによって各々の画分の分子量を決定した。2A12が認識する最小構造をどの画分が含んでいるかを決定するため、各々の画分を等量用いて、固相化したAn-DSと2A12との反応に対する阻害実験をELISA法で行った。図6Bに示すように、十糖とそれ以上の画分に阻害活性が検出され、分子量が増加するとともに阻害活性も増加した。このことは、An-DS由来の十糖画分に2A12によって認識される最小構造が含まれていることを示している。
a) MALDI-TOF-MS解析によって決定した分子量。
b) “+”および“-”は、それぞれの酵素処理に対する感受性を示す。
c) ΔCおよびΔD はそれぞれ、ΔHexUA-GalNAc(6S) およびΔHexUA(2S)-GalNAc(6S) を表す。
d) iCおよびiDはそれぞれ、IdoUA-GalNAc(6S) およびIdoUA(2S)-GalNAc(6S) を表す。
e) “+”は、固定化したAn-DSへのmAb 2A12の結合に対する阻害活性を、図2で示したようにELISAで調べた結果を示す。
増殖因子や神経栄養因子は、細胞運命の調節と神経突起の形成に重要な役割を果たしている。本発明者は最近、in vitroでE-CS/DS鎖のサブポピュレーションとPTNが協調して、海馬ニューロンの神経突起伸長促進活性を示すことを明らかにした(J. Biol. Chem. 280, 9180-9191 (2005))。E-CS/DS鎖の多硫酸化二糖単位とIdoUAを含む二糖単位はPTNと結合し、神経突起の伸長には必須である。本実施例では、2A12の神経突起伸長阻害のメカニズムを明らかにするため、固相化したE-CS/DSと増殖因子や神経栄養因子との相互作用に対するAn-DS 10-aおよび10-bによる阻害をBIAcoreシステムにより解析した。図8に示すように、増殖因子以外にも、神経栄養因子であるGDNF (トランスフォーミング成長因子-βスーパーファミリー) とBDNF (脳由来神経栄養因子ファミリーメンバー) もE-CS/DSに結合する。調べた全ての増殖因子と神経栄養因子のE-CS/DS鎖への結合に対して、An-DS 10-aおよび10-bは、インタクトなE-CS/DS鎖よりも強く阻害活性を示した (図8)。興味深いことに、An-DS 10-aおよび10-bは、還元末端側の構造のみが異なっているにもかかわらず、10-bのほうが10-aよりも、PTNあるいはMKとE-CS/DSとの結合をそれぞれ、5倍および3倍強く阻害した。このことは、これら2つの増殖因子に対するオリゴ糖の結合には、還元末端も重要であることを示唆している。これらの結果は、おそらく様々な増殖因子や神経栄養因子との機能的結合部位をmAb 2A12が直接マスクし、それによって調節因子のシグナルを阻害していることを示していると考えられる。
オスのAdult(8週齢)C57BL6マウスの皮膚の凍結切片を用いて、常法に従って、精製したmAb 2A12とAlexa Fluo 488 goat anti-mouse IgM抗体(抗マウスIgM)で順次処理して染色したところ、図9および図10に示すように、毛包(hair follicle)の外根鞘の細胞に2A12エピトープ(デルマタン硫酸)の強い発現が認められた。なお各図の右側は、DAPI(4’,6-ジアミノ-2-フェニルインドール)による細胞核の染色結果である。抗体2A12による染色結果については、コンドロイチナーゼABCによる前処理で染色が消失することから、染色の特異性が確認された。また、4%パラホルムアルデヒドで固定して作成したパラフィン包埋切片肝臓、脾臓、心臓、睾丸、骨格筋などでは興味ある染色性は観察されなかった。
以上の結果は、本発明の抗体およびそれによって認識される硫酸化オリゴ糖が、育毛の基礎研究および応用研究への利用可能性を有することを示すものである。
本実施例では、ホヤAscidian nigra由来のDSに対する抗体を作製し、マウス脳に存在するユニークな多硫酸化DSエピトープ構造を認識する新規なIgM 抗体 2A12の特徴が明らかにされた。2A12抗体はAn-DSに対して特異的に反応するが、その他の典型的なCS/DSバリアントあるいはヘパリンとは反応しないことがELISA法によって明らかになった (図2A)。これは、その必須残基が→4IdoUA(2S)α1→3GalNAc(6S)β1→および→3GalNAc(6S)β1→4IdoUA(2S)α1→という構造を構成している2-O-硫酸化α-IdoUAと6-O-硫酸化β-GalNAcであることを示している。An-DS十糖は、mAb 2A12とAn-DSとの結合阻害に必要な最小オリゴ糖サイズで、それより長いオリゴ糖はより強く阻害する (図6B)。これは、iD二糖ユニットだけではなく、糖鎖のサイズもまたこの抗体の認識に重要であることを示している。An-DSをコンドロイチナーゼABCによって部分分解して調製した2種類の十糖、ΔD-iD-iD-iD-iDおよびΔD-iD-iD-iD-iCは、固相化したAn-DSへの2A12の結合を、ELISA実験で阻害することがわかった。これは、mAb 2A12がiDに富んだ十糖を最小構造として認識することを示している。現在までに、哺乳動物組織でのiDユニットの存在は示唆されてきたが、少量なうえ、iDユニットとDユニットを識別する特異的な切断酵素が存在しないために、明確な証明がなされていなかった。従って、mAb 2A12はiDユニットとDユニットを区別し (図2Aおよび表2)、iDを含む構造分布の解析に有効なツールとなるものである。
Claims (17)
- デルマタン硫酸を特異的に認識・検出することを特徴とする抗体であって、
以下の(a)及び(b)の十糖構造を有する硫酸化オリゴ糖を特異的に認識・検出することを特徴とする抗体:
(a)ΔD−iD−iD−iD−iC
(b)ΔD−iD−iD−iD−iD
(ただし、iDは[イズロン酸(2-硫酸)α1−3N-アセチルガラクトサミン(6-硫酸)]([IdoUA(2S)α1-3GalNAc(6S)])であるiD−二糖ユニット、
iCは[イズロン酸α1−3N-アセチルガラクトサミン(6-硫酸)]([IdoUAα1-3GalNAc(6S)])であるiC−二糖ユニット、および
ΔDは[Δ 4,5 HexUA(2S)α1-3GalNAc(6S)](Δ 4,5 HexUAは、4-deoxy-L-threo-hex-4-enepyranosyluronic acidを表す。)をそれぞれ表す。)。 - ホヤ(Ascidian nigra)由来デルマタン硫酸を特異的に認識・検出することを特徴とする請求項1記載の抗体。
- 哺乳類の新生期の脳に発現するデルマタン硫酸を特異的に認識・検出することを特徴とする請求項1記載の抗体。
- 培養海馬ニューロンに発現するデルマタン硫酸を特異的に認識・検出することを特徴とする請求項1記載の抗体。
- 神経突起の形成又は伸長を阻害する活性を有する請求項1記載の抗体。
- 毛包(hair follicle)に発現するデルマタン硫酸を特異的に認識・検出することを特徴とする請求項1記載の抗体。
- 前記抗体がモノクローナル抗体である請求項1〜6のいずれか1項に記載の抗体。
- 前記モノクローナル抗体がマウスに免疫して作製されたものである請求項7記載の抗体。
- ホヤ(Ascidian nigra)由来のデルマタン硫酸を抗原として作製され、iD−ユニットを含むデルマタン硫酸を特異的に認識・検出するモノクローナル抗体であって、(1)ホヤ(Ascidian nigra)由来のデルマタン硫酸、(2)生後7日のマウス脳の海馬と小脳に現れるデルマタン硫酸および成体マウス脳の海馬に現れるデルマタン硫酸、および、(3)マウスの毛包(hair follicle)に発現するデルマタン硫酸を特異的に認識・検出し、かつ、神経突起の形成又は伸長を阻害する活性を有することを特徴とする請求項1記載の抗体。
- iD−ユニットを含むデルマタン硫酸を酵素処理することにより得られる硫酸化オリゴ糖であって、
以下の(a)又は(b)の十糖構造を有する硫酸化オリゴ糖:
(a)ΔD−iD−iD−iD−iC
(b)ΔD−iD−iD−iD−iD
(ただし、iDは[イズロン酸(2-硫酸)α1−3N-アセチルガラクトサミン(6-硫酸)]([IdoUA(2S)α1-3GalNAc(6S)])であるiD−二糖ユニット、
iCは[イズロン酸α1−3N-アセチルガラクトサミン(6-硫酸)]([IdoUAα1-3GalNAc(6S)])であるiC−二糖ユニット、および
ΔDは[Δ 4,5 HexUA(2S)α1-3GalNAc(6S)](Δ 4,5 HexUAは、4-deoxy-L-threo-hex-4-enepyranosyluronic acidを表す。)をそれぞれ表す。)。 - 増殖因子および/又は神経栄養因子の活性調節に関与する請求項10記載の硫酸化オリゴ糖。
- 繊維芽細胞増殖因子2(FGF2)、プレイオトロフィン(PTN)、ミッドカイン(MK)、グリア細胞由来神経栄養因子(GDNF)および脳由来神経栄養因子(BDNF)から選ばれる増殖因子又は神経栄養因子の活性を調節する請求項11記載の硫酸化オリゴ糖。
- 増殖因子および/又は神経栄養因子とE−CS/DS鎖との結合阻害活性を有する請求項10記載の硫酸化オリゴ糖(ただし、E−CS/DS鎖はブタ胎仔脳由来コンドロイチン硫酸/デルマタン硫酸鎖を示す。)。
- 繊維芽細胞増殖因子2(FGF2)、プレイオトロフィン(PTN)、ミッドカイン(MK)、グリア細胞由来神経栄養因子(GDNF)および脳由来神経栄養因子(BDNF)から選ばれる増殖因子又は神経栄養因子とE−CS/DS鎖との結合阻害活性を有する請求項12記載の硫酸化オリゴ糖(ただし、E−CS/DS鎖はブタ胎仔脳由来コンドロイチン硫酸/デルマタン硫酸鎖を示す。)。
- ホヤ(Ascidian nigra)由来デルマタン硫酸を酵素処理することにより得られる請求項10記載の硫酸化オリゴ糖。
- ホヤ(Ascidian nigra)由来デルマタン硫酸に対する抗体によって認識される請求項10記載の硫酸化オリゴ糖。
- ホヤ(Ascidian nigra)由来デルマタン硫酸に対する抗体とその抗原との結合阻害活性を有する請求項10記載の硫酸化オリゴ糖。
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