JP4856317B2 - 芳香族ポリカーボネートの製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本願発明は、芳香族ポリカーボネートの製造方法に関する。さらに詳しくは、溶融重縮合法により、色相安定性、熱安定性等に優れるとともに、色相、透明性に優れた芳香族ポリカーボネートを効率よく製造することができる製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
芳香族ポリカーボネート樹脂は、耐衝撃性、透明性等に優れた特性を有するため、非常に有用な樹脂として広く一般に知られている。この芳香族ポリカーボネート樹脂を製造する方法としては、芳香族ジヒドロキシ化合物とホスゲンとを、有機溶媒およびアルカリ水溶液の混合液中で反応させる界面法と、芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとを、触媒の存在下、高温・減圧下において反応させ、発生するフェノールを系外に除去する溶融重縮合法とがある。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
上記の溶融重縮合法においては、反応混合物は高温の溶融状態で反応装置間を移動し、もしくは反応装置から排出させられる。このような反応装置からの移送のためには、通常はギアポンプが用いられる。この目的に使用されるギアポンプは、高い耐熱性と、優れた真空シール性とが要求されるため、移送する反応混合物の一部を軸シールに使用することにより、反応混合物と接する可能性がある部分にグランドシールやメカニカルシールを有しない、所謂自己潤滑型ギヤポンプが一般に使用される。
【0004】
しかしながら、このタイプのギアポンプの内部において、軸潤滑に使用された反応混合物は、熱劣化を引き起こし易く、異物を発生することがあり、製造する芳香族ポリカーボネートの透明性等の特性を損なうと言う問題を有していた。特に、コンパクトディスクのような光学用途に用いられる芳香族ポリカーボネートにおいては、高純度のポリカーボネートが求められるため、着色、異物の発生は製品品質上深刻な問題となる。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本願発明は、以下のとおりである。
1. 芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとを主として含む混合物を、触媒の存在下に連続的に溶融重縮合して芳香族ポリカーボネートを製造するに際し、溶融した反応混合物を反応装置から移送するために設置した自己潤滑型ギアポンプにおいて、当該ギアポンプの軸封部に連続的に供給する反応混合物の流量をQ(cm3/秒)、軸封部に反応混合物を供給するために設置した流路の断面積をS(cm2)とした場合、Q/S≧0.1(cm/秒)を満足する量の反応混合物を、軸封部に供給することを特徴とする、芳香族ポリカーボネートの製造方法。
【0006】
2.溶融した反応混合物の粘度平均分子量が、1000以上であることを特徴とする、上記1記載の芳香族ポリカーボネートの製造方法。
【0007】
3.当該ギアポンプの軸封部に連続的に供給した反応混合物を外部に排出するか、もしくは当該ギアポンプの反応混合物吸引側に戻すことを特徴とする、上記1または2記載の芳香族ポリカーボネートの製造方法。
【0008】
なお、ここで、本願明細書において、「反応混合物」とは、芳香族ジヒドロキシ化合物と芳香族炭酸ジエステルとを主として含む混合物を、含窒素塩基性化合物とアルカリ金属化合物および/またはアルカリ土類金属化合物とよりなるエステル交換触媒等の存在下、溶融重縮合反応させ、芳香族ポリカーボネートを得る工程における、その重縮合反応を開始しまたは進行しつつある混合物のことを意味し、その重合度がある程度進んだものは、一般的化学用語で言えば「プレポリマー」の状態にあるものであり、さらに進んだものは、一般的化学用語で言えば「ポリマー」の状態にあるものである。
【0009】
本願発明は、芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとを、触媒の存在下に連続的に溶融重縮合して芳香族ポリカーボネートを製造するに際し、溶融した反応混合物を反応装置から移送するために設置したギアポンプにおいて、当該ギアポンプの軸封部を、反応混合物の一部を用いてポリマーシールした場合に、シールするポリマーを常に更新し、かつ、ギアポンプ内部におけるシール用反応混合物の滞留箇所をなくすることにより、シール用反応混合物の劣化を防止し、得られるポリカーボネートの品質を向上させることを特徴としている。
【0010】
本願発明に関わる芳香族ポリカーボネートの製造方法によれば、溶融した反応混合物を反応装置から移送するために設置したギアポンプの内部において、反応混合物の滞留が防止されるため、芳香族ポリカーボネート製造時に、ギアポンプ内部での品質劣化がなく、色相に優れ、異物の少ない芳香族ポリカーボネートを製造することができる。
【0011】
以下、本願発明にかかる芳香族ポリカーボネートの製造方法について、具体的に説明する。
【0012】
本願発明で言う、芳香族ポリカーボネートとは主たる成分である芳香族ジオール化合物と、炭酸ジエステルとを塩基性窒素化合物とアルカリ金属化合物および/またはアルカリ土類金属化合物よりなるエステル交換触媒等の存在下、溶融重縮合させた芳香族ポリカーボネートである。
【0013】
このような芳香族ジオール化合物としては例えば、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、4,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジクロロフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)オキサイド、ビス(3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシフェニル)オキサイド、p,p’−ジヒドロキシジフェニル、3,3’−ジクロロ−4,4’−ジヒドロキシジフェニル、ビス(ヒドロキシフェニル)スルホン、レゾルシノール、ハイドロキノン、1,4−ジヒドロキシ−2,5−ジクロロベンゼン、1,4−ジヒドロキシ−3−メチルベンゼン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホキシド等が挙げられるが、特に2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンが好ましい。
【0014】
本願発明に用いられる炭酸ジエステル化合物としては、例えばジフェニルカーボネート、ジトリールカーボネート、ビス(クロロフェニル)カーボネート、m−クレジルカーボネート、ジナフチルカーボネート、ビス(ジフェニル)カーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネート、ジシクロヘキシルカーボネートなどが用いられる。これらのうち特にジフェニルカーボネートが好ましい。
【0015】
本願発明に用いられる2種類の原料の使用比率は、炭酸ジエステル化合物の使用モル数を芳香族ジヒドロキシ化合物の使用モル数で除した値であらわした原料モル比において、1.00から1.10の範囲の中から選択することが好ましい。
【0016】
さらに、本願発明の芳香族ポリカーボネートは、必要に応じて、脂肪族ジオールとして、例えば、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,10−デカンジオール等を、ジカルボン酸類として、例えば、コハク酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、シクロヘキサンカルボン酸、テレフタル酸等;オキシ酸類例えば、乳酸、P−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸等を含有していても良い。
【0017】
本願発明に用いられる触媒は特に限定されないが、塩基性窒素化合物とアルカリ金属化合物および/またはアルカリ土類金属化合物とよりなるエステル交換触媒を使用することができる。
【0018】
本願発明で使用されるアルカリ金属および/またはアルカリ土類金属化合物についても、得られる芳香族ポリカーボネートの色相を低下させるものでなければ特に制限はなく種々の公知のものを使用することができる。
【0019】
触媒として用いられるアルカリ金属化合物としては、例えばアルカリ金属の水酸化物、炭酸水素化物、炭酸塩、酢酸塩、硝酸塩、亜硝酸塩、亜硫酸塩、シアン酸塩、チオシアン酸塩、ステアリン酸塩、水素化ホウ素塩、安息香酸塩、リン酸水素化物、ビスフェノール、フェノールの塩等が挙げられる。
【0020】
具体例としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸リチウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸リチウム、亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カリウム、亜硝酸リチウム、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸リチウム、シアン酸ナトリウム、シアン酸カリウム、シアン酸リチウム、チオシアン酸ナトリウム、チオシアン酸カリウム、チオシアン酸リチウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸リチウム、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム、水素化ホウ素リチウム、フェニル化ホウ酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、安息香酸リチウム、リン酸水素ジナトリウム、リン酸水素ジカリウム、リン酸水素ジリチウム、ビスフェノールAのジナトリウム塩、ジカリウム塩、ジリチウム塩、フェノールのナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩などが挙げられる。
【0021】
触媒として用いられるアルカリ土類金属化合物としては、例えばアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸水素化物、炭酸塩、酢酸塩、硝酸塩、亜硝酸塩、亜硫酸塩、シアン酸塩、チオシアン酸塩、ステアリン酸塩、安息香酸塩、ビスフェノール、フェノールの塩等が挙げられる。
【0022】
具体例としては、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化ストロンチウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素バリウム、炭酸水素ストロンチウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸ストロンチウム、酢酸カルシウム、酢酸バリウム、酢酸ストロンチウム、硝酸カルシウム、硝酸バリウム、硝酸ストロンチウム、亜硝酸カルシウム、亜硝酸バリウム、亜硝酸ストロンチウム、亜硫酸カルシウム、亜硫酸バリウム、亜硫酸ストロンチウム、シアン酸カルシウム、シアン酸バリウム、シアン酸ストロンチウム、チオシアン酸カルシウム、チオシアン酸バリウム、チオシアン酸ストロンチウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸ストロンチウム、水素化ホウ素カルシウム、水素化ホウ素バリウム、水素化ホウ素ストロンチウム、安息香酸カルシウム、安息香酸バリウム、安息香酸ストロンチウム、ビスフェノールAのカルシウム塩、バリウム塩、ストロンチウム塩、フェノールのカルシウム塩、バリウム塩、ストロンチウム塩などが挙げられる。
【0023】
本願発明においては所望により、触媒のアルカリ金属化合物として、(a)周期律表第14族の元素のアート錯体のアルカリ金属塩または(b)周期律表第14族の元素のオキソ酸のアルカリ金属塩を用いることができる。ここで周期律表第14族の元素とは、ケイ素、ゲルマニウム、スズのことをいう。
【0024】
(a)周期率表第14族元素のアート錯体のアルカリ金属塩としては、特開平7−268091号公報に記載のものをいうが、具体的には、ゲルマニウム(Ge)の化合物;NaGe(OMe)5、NaGe(OEt)3、NaGe(OPr)5、NaGe(OBu)5、NaGe(OPh)5、LiGe(OMe)5、LiGe(OBu)5、LiGe(OPh)5を挙げることができる。
【0025】
スズ(Sn)の化合物としては、NaSn(OMe)3、NaSn(OMe)2(OEt)、NaSn(OPr)3、NaSn(O−n−C6H13)3、NaSn(OMe)5、NaSn(OEt)5、NaSn(OBu)5、NaSn(O−n−C12H25)5、NaSn(OEt)、NaSn(OPh)5、NaSnBu2(OMe)3を挙げることができる。
【0026】
また(b)周期律表第14族元素のオキソ酸のアルカリ金属塩としては、例えばケイ酸(silicic acid)のアルカリ金属塩、スズ酸(stanic acid)のアルカリ金属塩、ゲルマニウム(II)酸(germanous acid)のアルカリ金属塩、ゲルマニウム(IV)酸(germanicacid)のアルカリ金属塩を好ましいものとして挙げることができる。
【0027】
ケイ酸のアルカリ金属塩は、例えばモノケイ酸(monosilicic acid)またはその縮合体の酸性あるいは中性アルカリ金属塩であり、その例としては、オルトケイ酸モノナトリウム、オルトケイ酸ジナトリウム、オルトケイ酸トリナトリウム、オルトケイ酸テトラナトリウムを挙げることができる。
【0028】
スズ酸のアルカリ金属塩は、例えばモノスズ酸(monostanic acid)またはその縮合体の酸性あるいは中性アルカリ金属塩であり、その例としてはモノスズ酸ジナトリウム塩(Na2SnO3・XH2O、X=0〜5)、モノスズ酸テトラナトリウム塩(Na4SnO4)を挙げることができる。
【0029】
ゲルマニウム(II)酸(germanous acid)のアルカリ金属塩は、例えばモノゲルマニウム酸またはその縮合体の酸性あるいは中性アルカリ金属塩であり、その例としてはゲルマニウム酸モノナトリウム塩(NaHGeO2)を挙げることができる。
【0030】
ゲルマニウム(IV)酸(germanic acid)のアルカリ金属塩は、例えばモノゲルマニウム(IV)酸またはその縮合体の酸性あるいは中性アルカリ金属塩であり、その例としてはオルトゲルマニウム酸モノリチウム酸(LiH3GeO4)オルトゲルマニウム酸ジナトリウム塩、オルトゲルマニウム酸テトラナトリウム塩、ジゲルマニウム酸ジナトリウム塩(Na2Ge2O5)、テトラゲルマニウム酸ジナトリウム塩(Na2Ge4O9)、ペンタゲルマニウム酸ジナトリウム塩(Na2Ge5O11)を挙げることができる。
【0031】
触媒としてのアルカリ金属化合物またはアルカリ土類金属化合物は、当該触媒中のアルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素が芳香族ジオール化合物1モル当り1×10-8〜5×10-5当量となる場合で好ましく使用される。より好ましい割合は同じ基準に対し5×10-7〜1×10-5当量となる割合である。
【0032】
当該触媒中のアルカリ金属元素量またはアルカリ土類金属元素量が芳香族ジオール化合物1モル当り1×10-8〜5×10-5当量の範囲を逸脱すると、得られる芳香族ポリカーボネートの諸物性に悪影響を及ぼしたり、また、エステル交換反応が充分に進行せず高分子量の芳香族ポリカーボネートが得られない等の問題があり好ましくない。
【0033】
また、触媒としての含窒素塩基性化合物としては、例えばテトラメチルアンモニウムヒドロキシド(Me4NOH)、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド(Et4NOH)、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド(Bu4NOH)、ベンジルトリメチルアンモニウムヒドロキシド(φ−CH2(Me)3NOH)、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムヒドロキシドなどのアルキル、アリール、アルキルアリール基などを有するアンモニウムヒドロオキシド類、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ジメチルベンジルアミン、ヘキサデシルジメチルアミンなどの3級アミン類、あるいはテトラメチルアンモニウムボロハイドライド(Me4NBH4)、テトラブチルアンモニウムボロハイドライド(Bu4NBH4)、テトラブチルアンモニウムテトラフェニルボレート(Me4NBPh4)、テトラブチルアンモニウムテトラフェニルボレート(Bu4NBPh4)などの塩基性塩を挙げることができる。
【0034】
上記含窒素塩基性化合物は、含窒素塩基性化合物中のアンモニウム窒素原子が芳香族ジオール化合物1モル当り1×10-5〜5×10-3当量となる割合で用いるのが好ましい。より好ましい割合は同じ基準に対し2×10-5〜5×10-4当量となる割合である。特に好ましい割合は同じ基準に対し5×10-5〜5×10-4当量となる割合である。
【0035】
なお、本願明細書において、仕込み芳香族ジオール化合物(芳香族ジヒドロキシ化合物ともいう)に対するアルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、含窒素塩基性化合物の割合いを、「芳香族ジヒドロキシ化合物1モルに対し金属または塩基性窒素としてW(数値)当量のZ(化合物名)量」として表現したが、これは、例えば、Zがナトリウムフェノキシドや2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンモノナトリウム塩のようにナトリウム原子が一つであり、またはトリエチルアミンのように塩基性窒素が一つであれば、Zの量がWモルに相当する量であることを意味し、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンジナトリウム塩のように二つであれば、W/2モルに相当する量であることを意味する。
【0036】
本願発明の重縮合反応には、上記触媒と一緒に、必要により、周期律表第14族元素のオキソ酸および同元素の酸化物よりなる群から選ばれる少なくとも1種の助触媒を共存させることができる。
【0037】
これら助触媒を特定の割合で用いることにより、末端の封鎖反応、重縮合反応速度を損なうことなく、重縮合反応中に生成し易い分岐反応や、成形加工時における装置内での異物の生成、やけといった好ましくない副反応をより効果的に抑制することができる。
【0038】
溶融重合は、ホスゲンやハロゲン化溶剤を使用しない、環境問題の少ないポリカーボネートの製造方法であり、かつ、コスト面の利点も期待されるため、注目を集めているが、得られるポリマーの品質、特に色相やゲルの面で界面重合法で得られるポリカーボネートに劣ると言う問題を有しており、これを解決するために様々な提案がなされてきた。しかしながら未だに満足できる方法は見出されていないのが現状であり、特に溶融重合法では、設備のスケールアップにより、得られるポリカーボネートの品質が変化し、小スケールで得られた良好な品質が再現できないという問題があった。
【0039】
この現状に鑑み、本願発明者らは使用する設備面の検討を、反応混合物の装置内における滞留に着目して詳細に実施した結果、溶融した反応混合物を反応装置から移送するために設置した自己潤滑型ギアポンプの内部における滞留が、得られるポリカーボネートの品質に大きな影響を及ぼすこと、そのようなギアポンプ内部の主要な滞留部は、軸シールに使用する反応混合物の循環経路、および軸封部にあることを見出した。
【0040】
この結果に基づき、本願発明者らは、自己潤滑型ギヤポンプの内部の滞留を防止する方策を検討した結果、当該ギアポンプの軸封に使用する反応混合物を、特定の条件で供給することにより、ギアポンプ内部における滞留部分が少なくなり、良好な品質が維持できることを見出し、本願発明に到達した。
【0041】
本願発明者らの検討によると、芳香族ポリカーボネート製造においては、一方では反応混合物が通常高い溶融粘度を有するため、ギアポンプ内部等に滞留しやすい構造部分があれば、その部分がデッドスペースを構成すると考えられること、他方ではポリカーボネートが、ポリエチレンテレフタレートなどの他の縮合重合のポリマーとは異なり、酸素などの他の要因を完全に排除しても、長時間加熱することにより、それ自身が分岐し、架橋構造を形成してゲル化して行く特徴を有していることの二点により、芳香族ポリカーボネート製造設備内でのポリマーの滞留に基づく劣化が、ポリマー品質に大きな影響を及ぼしていると考えられる。本願発明は、上記劣化の原因となるデッドスペースを極力排除することで構成される。
【0042】
本願発明にかかる芳香族ポリカーボネートの製造方法では、溶融した反応混合物を反応装置から移送するために設置したギアポンプにおいて、当該ギアポンプの軸封部に反応混合物の一部を連続的に供給し、供給した反応混合物は、外部に排出するか、もしくは当該ギアポンプの反応混合物吸引側に戻すことで、反応混合物のギアポンプ内での品質の劣化が少なく、色相に優れ、異物の少ない芳香族ポリカーボネートを製造することができる。
【0043】
本願発明にかかる芳香族ポリカーボネートの製造方法では、反応混合物とは、好ましくは粘度平均分子量が1000以上のものである。粘度平均分子量がこの値より小さい場合は、デッドスペースの発生が少なくなるため、効果はより小さくなる。
【0044】
本願発明において使用するギアポンプとしては、耐熱性や耐真空性に優れる自己潤滑型ギアポンプが好ましい。
【0045】
本願発明において、自己潤滑型ギアポンプの滞留部分を無くすためには、ギアポンプ内部に設けられた、軸封部のシールに使用する反応混合物の流路の境膜を更新することが効果的である。このため、本願発明においては、ギアポンプ内部に設けられた反応混合物流路の剪断力を高くすることが必要である。
【0046】
本願発明にかかる芳香族ポリカーボネートの製造方法では、溶融した反応混合物を反応装置から移送するために設置したギアポンプにおいて、当該ギアポンプの軸封部に、連続的に供給する反応混合物の流量をQ(cm3/秒)、軸封部に反応混合物を供給するために設置した流路の断面積をS(cm2)とした場合、Q/S≧0.1(cm/秒)を満足する量の反応混合物を、軸封部に供給することによって、設備スケールアップを伴った場合においても、反応混合物のギアポンプ内での品質の劣化が少なく、色相に優れ、異物の少ない芳香族ポリカーボネートを製造することができる。
【0047】
ここで、本願発明に係るQおよびSを具体的に例示すると図1のようになる。
ただし、図1はあくまで例示であり、公知のいかなる方法によるQおよびSの設定も本願発明の範疇に属する。
【0048】
図1(a)は、本願発明に係るギヤポンプの正面図である。
【0049】
図1(b)は、図1(a)のA−A’横断面図である。
【0050】
図1(c)は、図1(a)のB−B’横断面図である。
【0051】
図1(d)は、図1(b)のC−C’横断面図である。
【0052】
図1(a)において、反応混合物は、ギヤポンプ1のギヤ2の作用により、ギヤポンプ1の上部から供給され、ギヤポンプ1の下部へと移送される。ギヤ2はモーター3により駆動されている。番号4はギヤ2の駆動軸である。ギヤの軸は、軸受け5によって支持されている。
【0053】
反モーター側の軸封部の反応混合物は流路6を通り、ギヤポンプのサクション側に戻される。軸受け5は図1(a)と図1(b)とにも示されている。また本願発明に係るSは、この流路6の断面積である。その断面は図1(d)に示されている。
【0054】
流路6の流量は本願発明に係るQであり、流量調整ボルト7を流路6の断面と平行になる方向に出入させることにより調整される。
【0055】
なお、流路6が二つあるのは、ギヤ2が二つあるからである。この二つの流路6の断面寸法は同一である。
【0056】
このように流路が複数ある場合には、その個々についてQ/S≧0.1(cm/秒)の関係が成立することが必要である。
【0057】
モーター側の軸封部の反応混合物は、ギヤの軸がモーターに直接接続していないギヤ側では流路8を通り、ギヤポンプのサクション側に戻される。一方、ギヤの軸がモーターに直接接続しているギヤ側では、流路9を通った後、駆動軸に沿って流れ系外に排出される。流路8および9の断面は図1(d)と同様である。本願発明に係るSは、この流路8および9の断面積でもある。この流路8および9の断面寸法は同一である。なお、この場合に系外に排出するのは、ギヤの軸がモーターに直接接続している側はグランド軸封部が複雑な構造を有しており、ギヤポンプのサクション側に戻すと、この複雑な構造部分の滞留部から分解物等が反応混合物内に流入する可能性があり、この可能性を排除するためである。
【0058】
流路8および9の流量も本願発明に係るQであり、流量調整ボルト7を流路8および9の断面と平行になる方向に出入させることにより調整される。
【0059】
なお、本願発明で得られたポリカーボネートに触媒失活剤を添加することもできる。
【0060】
本願発明に使用する触媒失活剤としては、公知の触媒失活剤が有効に使用されるが、この中でもスルホン酸のアンモニウム塩、ホスホニウム塩が好ましく、更にドデシルベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩等のドデシルベンゼンスルホン酸の上記塩類やパラトルエンスルホン酸テトラブチルアンモニウム塩等のパラトルエンスルホン酸の上記塩類が好ましい。またスルホン酸のエステルとしてベンゼンスルホン酸メチル、ベンゼンスルホン酸エチル、ベンゼンスルホン酸ブチル、ベンゼンスルホン酸オクチル、ベンゼンスルホン酸フェニル、パラトルエンスルホン酸メチル、パラトルエンスルホン酸エチル、パラトルエンスルホン酸ブチル、パラトルエンスルホン酸オクチル、パラトルエンスルホン酸フェニル等が好ましく用いられ、就中、ドデシルベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩が最も好ましく使用される。
【0061】
これらの触媒失活剤の使用量はアルカリ金属化合物および/またはアルカリ土類金属化合物より選ばれた前記重合触媒1モル当たり0.5〜50モルの割合で、好ましくは0.5〜10モルの割合で、更に好ましくは0.8〜5モルの割合で使用することができる。
【0062】
これらの触媒失活剤は直接、または適当な溶剤に溶解または分散させて溶融状態のポリカーボネートに添加、混練する。このような操作を実施するのに用いられる設備に特に制限は無いが、例えば2軸ルーダー等が好ましく、触媒失活剤を溶剤に溶解または分散させた場合はベント付きの2軸ルーダーが特に好ましく使用される。
【0063】
また本願発明においては、本願発明の目的を損なわない範囲でポリカーボネートに添加剤を添加することができる。この添加剤は触媒失活剤と同様に溶融状態のポリカーボネートに添加することが好ましく、このような添加剤としては、例えば、耐熱安定剤、エポキシ化合物、紫外線吸収剤、離型剤、着色剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、滑剤、有機充填剤、無機充填剤等をあげることができる。
【0064】
これらの内でも耐熱安定剤、紫外線吸収剤、離型剤、着色剤等が特に一般的に使用され、これらは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0065】
本願発明に用いられる耐熱安定剤としては、例えば、燐化合物、フェノール系安定剤、有機チオエーテル系安定剤、ヒンダードアミン系安定剤等を挙げることができる。
【0066】
また、紫外線吸収剤としては、一般的な紫外線吸収剤が用いられ、例えば、サリチル酸系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤等を挙げることができる。
【0067】
また離型剤としては一般的に知られた離型剤を用いることができ、例えば、パラフィン類などの炭化水素系離型剤、ステアリン酸等の脂肪酸系離型剤、ステアリン酸アミド等の脂肪酸アミド系離型剤、ステアリルアルコール、ペンタエリスリトール等のアルコール系離型剤、グリセリンモノステアレート、ペンタエリスリトールのステアレート等の脂肪酸エステル系離型剤、シリコーンオイル等のシリコーン系離型剤等を挙げることができる。
【0068】
着色剤としては有機系や無機系の顔料や染料を使用することができる。
【0069】
これらの添加剤の添加方法に特に制限はないが、例えば、直接ポリカーボネートに添加してもよく、マスターペレットを作成して添加してもよい。
【0070】
【発明の効果】
本願発明によれば、溶融した反応混合物を反応装置から移送するために設置したギアポンプ内において、反応混合物の滞留部分がなくなるため、製造プラントをスケールアップした場合でも、ギアポンプ内で品質劣化がなく、色相に優れ、異物の少ない芳香族ポリカーボネートを製造することができる。
【0071】
【実施例】
以下実施例によって説明する。なお、本願発明はこれに限定されるものではない。また実施例中の%および部は特に断らない限り重量%または重量部である。なお、以下の実施例において得られた反応混合物およびポリカーボネートの物性は、以下のようにして測定した。
【0072】
[固有粘度および粘度平均分子量]
0.7g/dlの塩化メチレン溶液をウベローデ粘度計を用い固有粘度を測定し、次式により粘度平均分子量を求めた。
[η]=1.23×10-4M0.83
[色調(b値)]
ポリカーボネートペレット(短径×長径×長さ(mm)=2.5×3.3×3.0)のLab値を日本電色工業製ND−1001DPを用い、反射法で測定し黄色度の尺度としてb値を用いた。
【0073】
[異物量]
ポリカーボネートペレット1Kgを5Lの塩化メチレンに溶解した後、目開き30μmのフィルターを用いてろ過し、フィルター上に捕集された異物の個数をカウントzした。
【0074】
なお、実施例と比較例とに使用したギヤポンプは図1の構造を有していた。
【0075】
[実施例1]
初期重合槽と後期重合槽とより成る連続重合設備を使用して、芳香族ポリカーボネートの溶融重縮合を実施した。初期重合槽は、精留塔を有する竪型撹拌槽であり、後期重合槽は横型の撹拌槽であった。後期重合槽で得られた重合生成物は、本願発明のギヤポンプを用いて連続的に抜き出し、ダイスより押出し、冷却バスでストランドとした後、カッターによってペレットにした。
【0076】
なお、上記本願発明のギヤポンプは、以下のような仕様と成っていた。当該ギアポンプは、モーター側の軸封部に導入される反応混合物が、グランド部を通過してポンプの外に排出される構造を持ち、反モーター側の軸封部に導入される反応混合物が、ポンプの吸引部に戻される構造を有していた。モーター側の軸封部に導入される反応混合物の流路の断面積Sは、0.035cm2であった。ポンプの外に排出される反応混合物量(すなわち軸封部に連続的に供給される反応混合物の流量)Qは、1.7cm3/分であった。これより、Q/S=0.8cm/秒であった。一方、反モーター側の軸封部に導入される反応混合物の流路の断面積Sは0.035cm2であった。軸封部にむけて流れた反応混合物の流量Qは、1.7cm3/分であった。これより、Q/S=0.8cm/秒であった。なお、上記におけるQ,Sは個々の流路に対するものである。
【0077】
溶融重縮合の運転条件は次のとおりであった。
【0078】
芳香族ジヒドロキシ化合物としてビスフェノールA、炭酸ジエステルとしてジフェニルカーボネートを1対1.01(モル比)割合で混合し、重合原料として用いた。
【0079】
重合触媒としては、ビスフェノールAのジナトリウム塩を、フェノール溶液として用いた。
【0080】
原料供給量を12.5Kg/hrとし、触媒溶液供給量を、ビスフェノールAのジナトリウム塩が、原料として供給されるビスフェノールAに対し1×10-6当量となるよう触媒溶液供給ポンプの流量を調整し、初期重合槽出で粘度平均分子量を6000、後期重合槽出で粘度平均分子量を15000として連続溶融重縮合を実施した。
【0081】
以上の装置、運転条件下で600時間連続運転を行い、200時間、400時間、600時間経過時に、後期重合槽の出口で反応混合物をサンプリングした。
【0082】
採取したサンプルの評価結果を表1に示した。
【0083】
[実施例2]
実施例1と同じ装置を用いたうえで、原料供給量と触媒溶液供給量とを、実施例1の5倍となるよう原料供給ポンプ、および触媒溶液供給ポンプの流量を調整し、連続溶融重縮合を実施した。なお、QとSとは実施例と同様であった。
【0084】
各重合槽の運転条件は実施例1と同じとし、600時間の連続運転を行い、200時間、400時間、600時間経過時に、後期重合槽の出口で反応混合物をサンプリングした。
【0085】
採取したサンプルの評価結果を表1に示した。
【0086】
実施例1に対して約5倍のスケールアップを実施しても、得られるポリカーボネートの品質は、実施例1と同様に良好であった。
【0087】
[比較例1]
実施例2の装置において、後期重合槽出側に設置したギアポンプの軸封部へ反応混合物を導入する流路に、図1に示したボルトをねじ込むことによって、流路の断面積を小さくし軸封部へ導入される反応混合物量を次のように変更した以外は、実施例2と同じ運転条件で、600時間の連続運転を実施した。
【0088】
ギアポンプのモーター側の軸封部に導入される反応混合物の流路において、流路の最少断面積Sが0.0053cm2となるように図1で示したボルトをねじ込み、これによってポンプの外に排出される反応混合物量Qを、0.025cm3/分に変更した。これより、Q/S=0.08cm/秒であった。また、反モーター側の軸封部に導入される反応混合物の流路においても、当該流路の最少断面積Sが0.0053cm2となるよう図1に示したボルトをねじ込み、これによって軸封部にむけて流れた反応混合物の流量Qを、0.025cm3/分に変更した。これより、Q/S=0.08cm/秒であった。
【0089】
連続運転が200時間、400時間、600時間経過時に、後期重合槽の出口で反応混合物をサンプリングした。
【0090】
採取したサンプルの評価結果を表1に示した。
【0091】
【表1】
【図面の簡単な説明】
【図1】本願発明に係るQおよびSを具体的に例示するための図である。
【符号の説明】
1 ギヤポンプ
2 ギヤ
3 モーター
4 ギヤ2の駆動軸
5 軸受け
6 流路
7 流量調整ボルト
8 流路
9 流路
Claims (2)
- 芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとを主として含む混合物を、触媒の存在下に連続的に溶融重縮合して芳香族ポリカーボネートを製造するに際し、溶融した反応混合物を反応装置から移送するために設置した自己潤滑型ギアポンプにおいて、当該ギアポンプの軸封部に連続的に供給する反応混合物の流量をQ(cm3/秒)、軸封部に反応混合物を供給するために設置した流路の断面積をS(cm2)とした場合、Q/S≧0.1(cm/秒)を満足する量の反応混合物を、軸封部に供給し、当該ギアポンプの軸封部に連続的に供給した反応混合物を当該ギアポンプの反応混合物吸引側に戻すことを特徴とする、芳香族ポリカーボネートの製造方法。
- 溶融した反応混合物の粘度平均分子量が、1000以上であることを特徴とする、請求項1記載の芳香族ポリカーボネートの製造方法。
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