以下、図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態の音響伝送路の断面図である。本実施形態の音響伝送路10は、管体部1と、音響振動部とを有する。
音響振動部は、管体部1の内部で振動可能に設けられた振動板3a、3b、3c、3d(以下、総称して「振動板3」と称する場合がある)と、管体部1内部において互いに区画された空気室4a、4b、4c(以下、総称して「空気室4」と称する場合がある)とを備える。ここで、振動板3は、質量要素として機能し、空気室4内の空気が弾性要素として機能する。これら振動板3および空気室4は、管体部1の軸線方向に沿って交互にかつ周期的に配列される。したがって、管体部1の軸線方向に沿って質量要素と弾性要素とが交互にかつ周期的に配列されてなる音響振動部3、4が構成されている。
この音響振動部は、大気中を伝搬する通常の音波とは異なる所定の音響振動の波動(以下、「素子振動」と称する)を伝搬するように構成されている。また、音響振動部は、伝搬する音響振動、すなわち素子振動の伝搬速度を、20Hz以上200Hz以下の周波数範囲において大気中の音速の1/3以下にするものである。なお、音響振動部の詳細については、後述する。
以上のように、本実施形態の音響伝送路10は、大別して、管体部1、振動板3、および空気室4などの要素を有する。以下、それぞれの要素について説明する。
管体部1は、たとえば、円筒管である。管体部1は、内径よりも大きな軸線方向の長さ(以下、全長と称する)を有するように構成されている。
本実施形態の管体部1は、両端が開口しており、言い換えれば、両端が開放端9となっている。具体的には、管体部1の両端には、開口を有する端部壁5a、5bが設けられている。また、管体部1の内面には、隔壁6a、6bが設けられている。本実施形態では、管体部1の全長が3Lであり、隔壁6a、6bは、それぞれ管体部1の端部から距離L、2Lの位置に等間隔で配置されている。
なお、管体部1は、音響伝送路10の組立を容易にする見地から、軸線に沿って複数分割されたモジュールを組み合わせて管形状をなしていてもよく、軸線に垂直に沿って分割されたモジュールを組み合わせて管形状をなしていてもよいことはもちろんである。
次に、振動板3について説明する。振動板3は、管体部1の各端部壁5a、5bや各隔壁6a、6bにエッジ部材7を介して配設されている。したがって、本実施形態では、管体部1の両端が開放端9となっているので、管体部1の両端に質量要素である振動板3a、3dが配置されることとなる。なお、振動板3を支持するエッジ部材7は、振動板3を振動可能に支持するものであり、ゴム、発泡ウレタン樹脂等の可撓性材料により構成されていて容易に変形可能である。この結果、各振動板3は、エッジ部材7の変形の範囲内で管体部1の軸線方向に振動することができる。各振動板3が管体部の軸線方向に振幅する配置となっているので、素子振動は、平面波として管体部1内を伝搬する。例えば少なくとも一つの振動板が、管体部1の軸線方向に対して傾斜して取り付けられている場合には、単純平面波以外の伝搬モードにエネルギーが分配されるため、管体部1の全長方向の往復波による共鳴は弱まることとなる。
振動板3の材質としては、たとえば一般的なドライバユニット(電気音響交換器)の振動板と同様に、金属薄板、樹脂繊維織物、高密度紙等の高剛性かつ軽量の素材を用いることができる。各振動板3の形状は、強度確保のためには円錐、半球等の非平面的形状でもよいが、その振動板の振幅により発生する単純平面波以外の伝搬モードにエネルギーが分配されるため、管体部1の全長方向の往復波による共鳴は弱まることとなる。なお、振動板3が円錐形状などの前後方向に長さを持つ形状には、通常のスピーカーユニットと同様に、振動板3の前端付近をエッジ部材7により支持する一方、振動板3の後端付近にもダンパーなどの弾性的支持手段を付加することにより、振動軸のぶれ、回転などの不要な運動を抑止することが望ましい。
また、各振動板3の有効振動面積が管体部1の内部の断面積に比べて極端に小さいと、各振動板3の振動により発生する波動が球面波に近くなるので、各振動板3の有効振動面積は、好ましくは、管体部1の内部の断面積の25%以上であり、さらに好ましくは、管体部1の内部の断面積の50%以上である。一方、後述するように、音響振動部の音響振動の伝搬速度を大気中の音速に比べて低下させる効果を高める見地からは、各振動板3の有効振動面積が管体部1の内部の断面積の75%以下であることが望ましい。
なお、複数の質量要素、すなわち振動板3の質量は、すべて同じでもよいが、振動板3間の質量比、すなわち振動板3のうち最小の質量に対する最大の質量の比率が、1〜3の範囲内で変化させることもできる。たとえば、少なくとも一つの質量要素が他の質量要素に比べて軽くなるように構成することができる。たとえば、振動板3および空気室4が有限個であることに伴う影響を補正するために、管体部1の一端または両端に配置されている質量要素である振動板3a,3dが、管体部1の内側に配置された質量要素である振動板3b,3cの質量の0.5〜1倍の質量を有するように構成することもできる。
次に、空気室4について説明する。空気室4は、管体部1の内部の空気室であり、本実施形態では、管体部1の内部空間が隔壁6a、6bによって3個の空気室4a、4b,4cに区画されている。したがって、各空気室4a、4b、4cは、管体部1の軸線に沿って直列に配列されている。各空気室4の両側には、上述のように各振動板3が配置されている。この結果、質量要素である振動板3と弾性要素である空気を含む空気室4とが交互にかつ周期的に配列された本実施形態の音響伝送路が構成される。
以上のように構成される本実施形態の音響伝送路の作用効果について説明する。
図2の上部に示される模式図は、本実施形態の音響伝送路に対応する最も単純な力学的モデルを示すものであり、図2の下部は、この力学的モデルを伝搬する波動である素子振動の様子を示すものである。具体的には、本実施形態の音響伝送路における振動板3が質点に対応し、空気室4内の空気がバネに対応する。
本実施形態の音響伝送路1は、以下に述べる原理に基づいて、前記質量要素と前記弾性要素との配列の周期性により、伝搬速度が低減された波動を伝搬させるものである。
図2に示されるように、本実施形態の音響伝送路に対応する単純化された力学的モデルは、質量mの質点を質量要素としバネ定数Sのバネを弾性要素とする振動素子が、一定の周期Lで配列された直列振動素子系である。第n番目の質点の平衡位置からの変位量をunとすると、運動方程式は、
と書くことができる。前記数式(2)は、
なる進行波型の解を持つ。ここで、kは波数、xは質点とバネの配列方向に沿う位置座標、ωは角振動数を表している。
前記数式(3)で代表されるところの図2のモデルを伝搬する波動、すなわち、素子振動が、通常のキャビネット内の空気中を伝搬する通常の音波とは全く異なる挙動を示すことは、以下の数式、
と前記数式(3)を前記数式(2)に代入して得られる分散関係、
を通じて理解される。
前記数式(6)においてωは、波数kに対して単調に増加し、
で最大値をとる。前記数式(7)は、各振動素子の単体としての基本共振周波数に対応していて、これよりも高い周波数の素子振動は伝搬することができない。このことは、図2の音響伝送路において長さLの各振動素子(質点と、その両側L/2の領域内のバネで構成される)が最小の振動単位であるために、隣り合う振動素子が逆方向に運動する波長2L(波数π/L)の素子振動が最短波長(すなわち最大波数)の伝搬モードであり、これよりも短い波長の素子振動が伝搬できないことに対応している。図2下部に示したグラフは、波数がπ/L、π/2L、π/3Lおよびπ/4Lである各素子振動の変位を,1A,1B,1C,1Dおよび1Eの各質点との位置対応においてプロットしたものであり、このグラフからも、素子振動の波長が2Lよりも短い値を取りえないことが理解できる。
また、空気中の音速がほぼ一定であるのに対し、素子振動の位相速度Vpは、
のように、質量mとバネ定数Sの値に依存して変化する。その結果、質量mとバネ定数Sの値を適切に設定することにより、位相速度Vpを、たとえば大気中の音速よりも低く設定することも可能となっている。
さらに、前記数式(8)は、位相速度Vpが周波数に依存して変動することを表しており、位相速度Vpの最大値が、
であることを示している。
以上のような本実施形態の音響伝送路に対応する力学的モデルによれば、2L(隣接する質点間の距離の2倍)よりも短い波長の波動が実質的に伝搬しないという点、位相速度Vpが質量mとバネ定数Sの値に依存して変化するという点、および位相速度Vpが周波数依存性を持っているという点において、大気中を伝搬する通常の音波とは全く異なる挙動を示す素子振動を伝搬させるものといえる。
上記の力学的モデルを踏まえて、本実施形態の音響伝送路10の作用効果について説明する。
図1に示される音響伝送路10において、各振動板3は、管体部1の軸線方向に振幅することができる質量要素であり、図2における質点に対応する。また、各振動板3によって分割されて形成された各空気室4の内部の空気は弾性要素であり、図2におけるバネに対応している。
たとえば、最も外側の振動板3aまたは3dが外来音波により励振されると、振動板3aまたは3dの振動は、上述した素子振動として管体部1内を伝搬することとなる。このとき、管体部1の両側の開放端9を腹とする波長の素子振動は管体部1内において定在波となり、等しい周波数の外来音波と共鳴する。すなわち、振動板3aまたは3dは気柱共鳴管における開口に相当し、図1の実施形態の音響伝送路10は、両端開放の共鳴管として構成される。
図1に示されるように、本実施形態の音響伝送路10の管体部1は、管体部1の全長を管体部1の内径(直径)に比べて十分大きく設定している。したがって、管体部1内における素子振動の伝搬モードは、管体部1の全長方向に伝搬する平面波が支配的となる。管体部1内で素子振動が平面波的であることは、他の伝搬モードにエネルギーを散逸させることなく、強い共鳴を得るためには重要である。たとえば、本実施形態と異なり、管体部1の全長が管体部1の内径に比べて小さく設定されると、管体部1内を径方向に伝搬する円筒波モードにエネルギーが分配されるため、管体部1の全長方向の往復波による共鳴は弱まることとなる。
また、本実施形態では、図1に示されるとおり、各振動板3が管体部1の軸線に垂直であり、各振動板3が管体部1の軸線方向に振幅する配置となっているので、素子振動は、平面波として管体部1内を伝搬する。たとえば、本実施形態と異なり、少なくとも一つの振動板が、管体部1の軸線に対して傾斜して取り付けられている場合には、単純平面波以外の伝搬モードにエネルギーが分配されるため、管体部1の全長方向の往復波による共鳴は弱まることとなる。
また、本実施形態の振動板3の形状を平板状に形成する場合には、素子振動が振動板形状によって波面の平面性を乱されることなく平面波として管体部1内を伝搬することができる。この点、少なくとも一つの振動板3が、円錐、半球等の非平面的形状であると、その振動板3の振幅により発生する単純平面波以外の伝搬モードにエネルギーが分配されるため、管体部1の全長方向の往復波による共鳴は弱まることとなる。
また、各振動板3の有効振動面積が管体部1の断面積に比べて極端に小さいと、各振動板の振幅により発生する波動が球面波に近くなるので、管体部1内で素子振動が平面波的であるためには、各振動板の有効振動面積は管体部1の内部の断面積の25%以上であることが望ましく、より有利には50%以上であることが望ましい。
図1に示される本実施形態の音響伝送路は、図2の単純化されたモデルにおける質点mを振動板3の質量m0で置換し、バネSを空気室4内の空気の弾性S1で置換したものとなっているが、さらに寄生的要素としてエッジ部材7のバネ定数S0と、空気室4内の空気の質量m1を考慮すると、本実施形態の音響伝送路の分散関係は、
となり、また位相速度Vpは、
となる。ここで、 A:管体部1の内部の断面積 κ:空気の体積弾性率 ρ:空気の密度 である。
たとえば管体部1が内径0.12mの円筒管であり、その内部に典型的な公称口径0.08m(有効直径0.064m)のドライバユニットの振動系よりなるドロンコーンを振動板として0.15mの間隔で配置した場合、各パラメータ値は以下のように設定することができる。
A:0.0113m2 L:0.15m m0:2g S0:790N/m κ:141700N/m2 ρ:1.29kg/m3
また、振動板3の有効振動面積をaとすると、振動板3に作用する空気室4の弾性は、(a/A)2に比例して低下する。即ち、振動板3の有効振動面積aを管体部1の内部の断面積Aよりも小さく設定することは、振動板3に作用する空気室4の弾性を実質的に低下させ、管体部1内を伝搬する素子振動の伝搬速度を低下させる効果を持つ。したがって、たとえば、質量要素である振動板3の有効振動面積aが、管体部1の内部の断面積Aの75%以下となるようにすることによって、管体部1内を伝搬する素子振動の伝搬速度を低下させる効果を十分に発揮することができる。
ここで、典型的な口径0.08mのドライバユニットの有効振動面積が0.0032m2であり、したがって管体部1の内断面積Aの28.4%を占めることを考慮して前記数式(10)および(11)に補正を加えると、伝搬可能な最短波長2L(波数π/L)における素子振動の周波数は241Hzと算出され、位相速度Vpは、72.3m/sと算出される。同様に、波長6L(波数π/3L)における素子振動の周波数は120Hzとなり、位相速度Vpは、108.4m/sと大気中の音速に対して約1/3の低速になるものと算出される。このように、本発明による音響伝送路では、容易に大気中の音速の1/3以下の低い伝搬速度を得ることができる。
なお、前記数式(10)および(11)は無限に続く単純化された音響振動素子列のモデルを前提として近似的予測を行うものであり、有限個の音響振動素子により実際に音響伝送路を構成する場合には、前記数式(10)および(11)またはそれに基づく算出結果に適宜補正を施すことが必要である。
たとえば、図1におけて、伝送路の中間に位置する振動板3b,3cには、振動板を挟み両側に弾性要素である空気室が存在するのに対し、伝送路の開放端、すなわち開口を有する端部壁5a,5bに位置する振動板3a,3dについては片側の空気室が不在なので、バネ定数がほぼ半減していることになる。したがって、開放端に位置する振動素子においては、素子振動の周波数が前記数式(6)および(7)と比べて最小の場合で約2−1/2に低下する。その結果、たとえば伝送路の中間に位置する他の振動素子においては伝搬可能な前記数式(7)の周波数の素子振動が、共振周波数が低下している開放端9に位置する振動素子においては伝搬条件を満足しない、すなわち、波長が2Lよりも短くなるという不整合が生じてしまう。
このような不整合を軽減するためには、開放端9に位置する振動板3a、3dの質量を減少させてバネ定数の低下を相殺すればよい。すなわち、開放端9に位置する振動板3a、3dの質量を減少させて伝送路の中間に位置する振動板3b、3cの質量の1倍から1/2倍の範囲内に適宜設定することによって、端部を含み伝送路に属する全ての振動素子が実質的に同一の周波数に同調するように調整することができる。
以上のように、本実施形態の音響伝送路によれば、以下のような効果を奏する。
質量要素である振動板3と弾性要素である空気室4とが交互に配列されることによって音響振動部が構成され、質量要素と弾性要素との配列の周期性により、音響振動部を伝搬する素子振動の伝播速度(位相速度Vp)を数式(8)にしたがって、大気中の音速よりも低く設定することが容易となる。特に、数式(8)にしたがって容易に大気中の音速の1/3以下の低い伝搬速度を得ることができる。このため、物理的な全長が短い管体部であっても、長い全長の管体部と同等の低音増強効果を得られる。
さらに、管体部1の内部空間が管体部1の軸線方向に沿って配置された振動板3b、3cにより分割されていることにより、2Lよりも短い波長の素子振動が実質的に伝搬しないので、不要な中高周波の音響振動を抑制して低周波の音響振動のみを選択的に伝送することができる。
管体部10が、内径よりも大きな軸線方向の長さを有するので、管体部1の軸線方向に伝搬する平面波を円筒波に比べて優勢な状態にすることができる。したがって、円筒波などの他の伝搬モードにエネルギーを散逸させることを防止できる。
質量要素である各振動板3が管体部1の軸線方向に振動する配置とすることによって、素子振動を平面波として管体部1内を伝搬させることができ、管体部1の軸線方向の往復波による共鳴が弱まることを防止することができる。
なお、質量要素である各振動板3を平板状に形成する場合には、素子振動が振動板形状によって波面の平面性を乱されることなく平面波として管体部1内を伝搬するので、振動板3の振幅により発生する単純平面波以外の伝搬モードにエネルギーが分配されることを防止し、管体部1の全長方向の往復波による共鳴が弱まることを防止することができる。
質量要素である各振動板3の有効振動面積が、管体部1の内部の断面積の25%以上、好ましくは、50%以上とすることによって、各振動板3の振動により発生する波動が球面波に近くなることを防止することができる。
質量要素である各振動板3の有効振動面積が、管体部1の内部の断面積の75%以下とすることによって、管体部1内を伝搬する素子振動の伝搬速度を低下させる効果が高まる。
管体部1の開放端に配置された質量要素である振動板3a,3dが、管体部1の内側に配置された質量要素である振動板3b、3cの0.5〜1倍の質量を有するように構成する場合には、振動板3および空気室4が有限個であることに伴う影響を補正して、端部を含み伝送路に属する全ての振動素子である振動板3および空気室4内の空気が実質的に同一の周波数に同調するように調整することができる。
(第2の実施形態)
図3は、本発明の第2の実施形態の音響伝送路の断面図である。なお、本実施形態の音響伝送路では、管体部の一端が閉止端壁面によって閉じられている点、管体部の軸線方向の長さ(全長)が2Lである点、振動板の数が2個である点、空気室の数が2個である点を除いて、図1に示された第1の実施形態の音響伝送路の構成と同様である。したがって、同様の構成については、同じ符号を用いることとし、繰り返しの説明を省略する。
本実施形態の管体部1は、一端が閉鎖しており、言い換えれば、一端が閉止端8となっている。具体的には、管体部1の一端には、閉止端壁が設けられている。一方、管体部1の他端は、開口しており、言い換えれば開放端となっている。
振動板3aは、管体部1の他端、すなわち管体部1の開放端に設けられている。本実施形態では、管体部1の全長が2Lであり、管体部1の開放端から距離Lの位置に振動板3bが設けられている。なお、振動板3aおよび振動板3bは、第1の実施形態と同様に端部壁5および隔壁などにエッジ部材7を介して配設することができる。この結果、振動板3aおよび振動板3bは、それぞれ管体部1の軸線方向に振動することができる。
なお、音響振動部を伝搬する音響振動が平面波として管体部1内を伝搬するためには、閉止端壁の内側面は平面であり、および各振動板3a,3bの形状は、平板状であることが望ましい。また、同様の見地から、閉止端壁の内側面および各振動板3a,3bは、管体部1の軸線方向に対して直交するように構成されていることが望ましい。この点は、第1実施形態の場合と同様である。
次に、空気室4a、4bについて説明する。本実施形態では、管体部1の内部空間が振動板3bによって2個の空気室4a、4bに区画されている。したがって、各空気室4a、4bは、管体部1の軸線に沿って直列に配列されている。空気室4aにおいては、両側に各振動板3a,3bが配置されている。一方、空気室4bにおいては、空気室4a側の一側には振動板3bが配置されており、他側には、閉止端壁が配置されている。
以上のように構成される本実施形態の音響伝送路の作用効果について説明する。
本実施形態の音響伝送路は、上述した図2に示される力学的モデルにおいて、隣接する質点1A,1Bの位置に各振動板3a,3bを配置し、1Cの位置に閉止端壁を配置した場合に相当する。図2のグラフによれば1Aから1Cまでの距離は波数π/2Lの素子振動の1/2波長に相当する。そして、この波数π/2Lの素子振動が開放端の位置1Aで節となり、かつ閉止端壁の位置1Cにおいても節となることで、本実施形態の音響伝送路は、波数π/2Lの素子振動に共振することができる。
一方、図2のグラフに示されているように波数π/Lの素子振動は、振動板3a,3bの配列間隔Lの中間点(すなわちL/2の位置)でのみ節となることができる。したがって、閉止端8が振動板の配列周期に合致する1Cの位置に配置されている本実施形態の音響伝送路においては、波数π/Lの素子振動は、定在波となることができない。
一般に、音響伝送路の一端が開放端であり他端が閉止端である場合には、音響伝送路の全長がLの整数倍に設定されていると、波数π/L(波長2L)の素子振動は定在波となることができない。この点は、音響伝送路の両端が開放端である第1の実施形態の場合とは異なる。
本実施形態においても、第1の実施形態の場合と同様の効果が得られる。
以上のように、第1および第2の実施形態の音響伝送路の重要な特徴の一つは、音響伝送路を音響共鳴管の形態に構成することによって、特定の波長の素子振動に対して選択的に応答することが可能となっていることである。
ここで、前記数式(7)で与えられる角振動数よりも高い角振動数の素子振動が伝搬することができず、所定の周波数よりも高い周波数の素子振動が原理的に存在しないことを特徴とする本発明による音響伝送路は、たとえば、スピーカーシステムの低音増強用共鳴管のように、高い周波数の音波には応答せず、低い周波数の音波に対してのみ共鳴的に応答することが望ましい用途に好適である。更に、本発明による音響伝送路を用いれば、大気中の音速よりも低い伝搬速度に基づき、全長が短縮された小型の共鳴管方式スピーカーを構成することが可能となる。以下では、本発明の実施形態としてスピーカーシステムについて説明する。
(第3の実施形態)
図4は、本発明の第3の実施形態のスピーカーシステムの断面図である。本実施形態のスピーカーシステムは、図1に示される第1の実施形態と同様の音響伝送路にドライバユニットを音響的に結合した構成を有している。ここで、音響伝送路自体の基本構成は、ドライバユニットを音響的に結合するための通孔が管体部の側壁に設けられていることを除いて、図1の音響伝送路と同様である。したがって、以下の説明では、同様の構成については、同じ符号を用いることとし、繰り返しの説明を省略する。
図4に示されるとおり、本実施形態のスピーカーシステム30は、管体部1の内部を管体部の軸線方向に分断しないように音響伝送路10に音響的に結合されるドライバユニット20を有している。特に、ドライバユニット20は、質量要素である振動板3と弾性要素である空気室4との配列を分断しないように質量要素と弾性要素との配列の途中で音響伝送路10に音響的に結合されている。
音響伝送路10の管体部1の側壁には、ドライバユニット20を音響伝送路に音響的に結合するための通孔11が設けられている。本実施形態では、奇数の空気室、具体的には3個の空気室4a、4b、4cが直列して配列されており、通孔11は、これら奇数個の空気室4a、4b、4cのうち中央部に配列された空気室4bと外界とを連通するように配置されている。特に、通孔11は、管体部1の軸線方向に沿った中央部に配置されることが望ましい。なお、後述するように、管体部1の軸線方向に沿った中央部は、管体部1内の定在波の速度振幅の節位置に対応し、管体部1の端部は定在波の速度振幅の腹位置に対応する。
また、音響伝送路10において、各振動板3の可動範囲は、定在波の速度振幅の腹として余裕を持って振幅可能となるために、±1.0mm以上であることが望ましい。ただし、定在波の速度振幅の腹位置とならない内側の振動板3b、3cには、振動板3aと3dとの比較において小さな可動範囲を設定しても良い。また、各振動板3を支持するエッジ部材7や他の弾性的支持手段(不図示)と振動板3のバネ定数をVas(等価容量)に換算した場合に、隣接する空気室4の1個の容積に比べて大きいことが望ましい。すなわち、弾性要素としては小型化された空気室4の比較的高い弾性を支配的なものとし、エッジ部材7などの機密封止手段によって共振周波数が上昇する効果を小さく抑えるためである。また、共鳴管方式のスピーカーシステム30としての適正な動作のためには、振動板3および気密封止手段よりなる振動系のQms(機械的Q値)が3.0以上であることが望ましい。
このような音響伝送路10に音響的に結合されるドライバユニット20は、振動面を有しており、入力電気信号を対応する音響出力信号に変換する電気音響交換器である。すなわち、ドライバユニット20は、スピーカーのドライバとして機能する。ドライバユニット20には、ドライバユニット20を駆動する駆動アンプ(不図示)の出力インピーダンスが電気的に接続されている。具体的には、駆動アンプの出力インピーダンスがドライバコイル両端に接続されることとなる。なお、ドライバユニット20のQts(トータルのQ値)は、0.5以下であることが望ましい。
本実施形態では、ドライバユニット20は、図4に示されるとおり、その背面が通孔11に面するように管体部1の側壁に配設されている。上述したとおり、通孔11は、中央に配置された空気室4bと外界とを連通するように配置されているので、通孔11に面するドライバユニット20は、奇数個の空気室4a、4b、4cのうち中央部に配置された空気室4bに結合されることとなる。また、通孔11が、管体部1の軸線方向に沿った中央部に配置されることによって、ドライバユニット20を、管体部1内の定在波の節位置に結合することができる。
なお、本実施形態では、ドライバユニット20を管体部1の側壁の外側に配置するために、たとえば、管体部1に支持部が設けられている。支持部は、ドライバユニット20を管体部1の側壁の外側に固定しつつ、ドライバユニット20の裏面側を覆うように空間を外界と区画することによって、ドライバ容器12を形成する。
また、本実施形態のスピーカーシステムは、図5に示すように管体部1の内部に吸音材14を有するように構成することができる。吸音材14は、たとえば天然繊維、化学繊維、ガラス繊維などの繊維集合体であり、円筒状に形成された網体の内部に保持されつつ図示されない支持手段により管体部の中心軸(以下、「管軸」と称する)付近に配設されている。
以上のように構成される本実施形態のスピーカーシステム30の作用効果について説明する。
まず、駆動アンプより入力電気信号が入力すると、ドライバユニット20が駆動されて音響出力信号、すなわち音波が放射される。ドライバユニット20の背面より放射された音波は、通孔11を経て音響伝送路10に導かれ、上述した素子振動として共振することにより増強される。
図6は、図4に示される本実施形態における管体部1内の定在波の圧力振幅を模式的に示した図である。圧力振幅は、図6に実線で示されているように、中央の空気室4bの中央付近で腹となり、管体部1の両端において節となって定在波を形成している。ここで、この定在波の速度振幅は、図6に点線で示されているように、中央の空気室4bの中央付近で節となり、管体部1の両端において腹となっている。したがって、本実施形態における素子振動は、図2に示されるk=π/3Lの素子振動に対応しており、これはまた、両端開口の気柱が全長を1/2波長とする音波に共鳴している状態と等価である。なお、図4の実施形態では、図2に示されるk=π/Lの素子振動に対応する定在波も成立可能であり、これは、両端開口の気柱が全長を3/2波長とする音波に共鳴している状態と等価である。
しかしながら、一般の気柱共鳴管では更に5/2波長、7/2波長などの高調波における共鳴が存在し、このことが聴覚上の不快感の原因となっているのに対し、本発明による音響伝送路においては、前記数式(7)に対応するk=π/Lの素子振動よりも高い周波数においては定在波が成立しない。したがって、図4に示される本実施形態のスピーカーシステム30は、気柱共鳴管における3/2波長相当の共鳴よりも高次の耳障りな共鳴を発生しないという利点を有している。
なお、本実施形態による共鳴管方式のスピーカーシステム30においては、k=π/Lの素子振動よりも高い周波数の音波は、素子振動による伝搬モードが存在しないので、各空気室4と各振動板3を減衰しつつ透過する通常の速度の音波となっている。したがって、ドライバユニット20の背面より放射された中高音に対する管の音響的全長は、管の機械的全長寸法に一致している。したがって、本実施形態による共鳴管方式のスピーカーシステム30においては、ドライバユニット20の背面より放射された中高音は、極めて短い音響経路を経て外部に放出されるので、従来の共鳴管方式のスピーカーシステムにおけるような長い管内で壁面反射を繰り返すことによるいわゆる「こもり音」を生ずることがなく、快い間接音として認識される。
また、本実施形態のスピーカーシステム30においては、図5に示されるように、吸音材14が管軸付近に配置することによっても、中高音の放射が軽減されている。ドライバユニット20の背面から放射される中高音は、管体部1の端部から放射されると快い間接音として認識され有益である一方、管体部1の側壁内面での反射により管体部1の直径方向に沿う定在波を形成すると耳障りな音として認識され有害である。この点、本実施形態のスピーカーシステム30においては、管体部1の直径方向に沿う定在波の腹が位置する軸位置に吸音材14を集中的に配置することにより直径方向に沿う定在波を形成する有害な中高音を効率的に吸音しつつ、管体部1の側壁付近には、大きな断面開口を確保することにより有益な中高音の軸方向に沿う伝達に対しては透過性を確保することができる。
ところで、図4に示される本実施形態のスピーカーシステムでは、管体部1の内部空間を管体部1の軸線方向に分断しないようにドライバユニット20が音響伝送路10に音響的に結合されている。この点について、本実施形態のスピーカーシステムを図7に示される第1比較例のスピーカーシステムと比較しつつ、説明する。
図7に示される第1比較例のスピーカーシステムも、図1に示される音響伝送路10にドライバユニット20´を音響的に結合したものであるが、本実施形態のスピーカーシステムと異なり、ドライバユニット20´によって、音響伝送路10の内部が管体部1の軸線方向に分断されている。
具体的には、図7に示される第1比較例のスピーカーシステムは、図1の音響伝送路において振動板3bをドライバユニット20´で置換したものとなっている。この第1比較例のスピーカーシステムの問題点は、ドライバユニット20´の振動板(以下、「ドライバユニット振動板」と称する)の前後に、振幅または位相が不連続な音響振動が放射されることである。
一般に、ドライバユニット20´から放射される音響振動の圧力は、ドライバユニット振動板の前面と裏面とでは逆相となる。すなわち、一方が正圧のときに他方は負圧となる。このため、ドライバユニット20´から放射される音響振動の管体部1内における圧力分布は、図7に実線で示されているようにドライバユニット振動板の前後で極性が逆転した反対称な分布となる。また、その速度分布は、図7に点線で示されているようにドライバユニット振動板の前後で滑らかに接続しない対称な分布となる。これに対し、管体部1の両端で反射されて管体部1内に存在する反射波は、図6に示されている場合と同様に管体部1の全長にわたり連続かつ滑らかな分布となる。したがって、第1比較例のスピーカーシステムでは、ドライバユニット20´からの放射波と管体部1内の反射波とは相互に強め合う位相関係を取ることができない。すなわち、図7に示されるような伝送路の途中にドライバユニット20´が配置されている第1比較例のスピーカーシステムでは、本実施形態のスピーカーシステムと異なり、図6に示されているような管全長を共振対象とする定在波は、成立することが出来ない。
なお、図7に示される第1比較例と同様のドライバユニットの配置は、上述した特許文献5、6、および7に開示されているバンドパス方式のスピーカーシステムに共通の配置となっている。したがって、特許文献5、6および7に開示されているバンドパス方式のスピーカーシステムも、ドライバユニット20´前後の各音響質量が独立にヘルムホルツ共振を形成するのみであり、図6に示されるような管体部1の全長を共振対象とする定在波が成立できないという点において、図4に示される本実施形態のスピーカーシステムとは別異の技術である。
また、図4に示される本実施形態のスピーカーシステムでは、ドライバユニットが管体部1の側壁の外側に配置されている。この点について、本実施形態のスピーカーシステム30を図8に示される第2比較例のスピーカーシステムと比較しつつ、説明する。
図8に示される第2比較例のスピーカーシステムも、図1に示される音響伝送路10にドライバユニット20´を音響的に結合したものであるが、本実施形態のスピーカーシステムと異なり、ドライバユニットが管体部1の側壁の外側に配置されていない。
具体的には、第2比較例のスピーカーシステムでは、管体部1の両端が開口しており、管体部1の一端にドライバユニット20´が設けられており、管体部1の他端には、質量要素として振動板3dが設けられている。
言い換えれば、図8に示される第2比較例のスピーカーシステムは、図1の音響伝送路において振動板3aをドライバユニット20´で置換したものとなっている。この第2比較例のスピーカーシステムは、ドライバユニット20´を音響伝送路端に配置しているので、ドライバユニット20´によって管体部1の内部が分断されておらず、管体部全長を共振対象とする定在波が成立できないという上記第1比較例の問題を回避することができる。しかしながら図8の形態は、本実施形態と比べて、ドライバユニットの特性に依存して管体部1の終端条件が変化してしまうという別の問題を有している。
たとえば、図8には、図6に示される本実施形態と同様の、中央の空気室4b内で腹となり管体部1の両端において節となる定在波の圧力振幅が示されている。このとき、定在波の速度振幅は、本実施形態の場合と同様に、中央の空気室4bで節となり、管体部1の両端において腹となるので、管体部1の端部に配置されたドライバユニット20´振動板は速度振幅の腹として大きく振幅しなければならない。
ところがドライバユニット20´には、電気的には、ドライバユニット20´を駆動するアンプの出力インピーダンスが接続されているので、駆動アンプの出力インピーダンスが低い場合にはドライバユニット20´のボイスコイル両端が等価的に短絡されて強い電磁制動が働き、ドライバユニット20´の振動板は自由に振動することができない。すなわち、駆動アンプの出力インピーダンスが低い場合には、管体部1の端部に配置されたドライバユニット20´が速度振幅の腹となることができず、したがって、図6に示される本実施形態の場合のような管体部1の全長を半波長とする定在波は、成立することができない。このとき、管体部の端に配置されたドライバユニット20´が速度振幅の節となることは可能なので、片端閉止の気柱共鳴管と同様に、管全長を1/4波長とする定在波は、成立することができる。
逆に、駆動アンプの出力インピーダンスが高い場合には、ドライバユニット20´のボイスコイル両端が等価的に開放されていて電磁制動は働かず、ドライバユニット20´の振動板は自由に振動することができる。すなわち、駆動アンプの出力インピーダンスが高い場合には、管体部1の端に配置されたドライバユニット20´が速度振幅の腹となることができる。したがって、図6に示される本実施形態の場合のような管体部1の全長を半波長とする定在波が、成立可能となる。また、駆動アンプの出力インピーダンスが中間的な場合には、ドライバユニット20´は速度振幅の腹にも節にもなることができず、明瞭な共振点は不在となる。このように、図8の形態のスピーカーシステムは、組み合わせる駆動アンプの種類によって動作および音質が大きく変化する。
したがって、図8に示された第2比較例のスピーカーシステムの場合は、管体部全長を共振対象とする定在波が成立できないという問題は解決できるものの、組み合わせる駆動アンプの種類が制限される。したがって、図4に示される本実施形態のスピーカーシステムの方が、ドライバユニット20の特性が管の終端条件を左右しないという作用効果を有し、組み合わせる駆動アンプの種類によらず音響製品としての品質を維持保証することが可能である点で、より好ましい。
また、図4に示される本実施形態のスピーカーシステム30では、ドライバユニット20が、音響伝送路10内の一振動板を兼ねていない。この点について本実施形態のスピーカーシステム30を図7に示される第1比較例および図8に示される第2比較例のスピーカーシステムと比較しつつ、説明する。
第1比較例および第2比較例のように、ドライバユニット20´が、音響伝送路10内の一振動板を兼ねている場合、音響伝送路を低音に対して共振させるためには、ドライバユニット20´の振動板質量を大きく設定する必要があり、したがってドライバユニットの高音側の応答特性が劣化しやすい。これに対して、本実施形態では、ドライバユニット20が、音響伝送路10内の一振動板を兼ねていないので、ドライバユニット20の高音側の応答特性は劣化しない。
たとえば、図1に示す音響伝送路10において、管体部1が内径0.10mの円筒管であり、その内部に有効直径0.064mの振動板を0.10mの間隔で配置し、且つ、各パラメータ値を以下のように設定する。 A:0.00785m2 L:0.10m S0:790N/m κ:141700N/m2 ρ:1.29kg/m3。なお、ここでは、上記(10)式および(11)式とは異なる補正算出値を使用している。
このとき、管全長の0.30mを実質的に1/2波長とする波長6L(波数π/3L)の素子振動の共振周波数を、たとえば80Hzとするためには振動板の質量m0として5gが要求され、60Hzとするためには振動板の質量m0として10gが要求される。これは、10kHz以上の高い周波数にも応答可能な典型的な公称口径0.08m(有効直径0.064m)のドライバユニットの振動板の質量m0が2g程度であるのに比べて極めて大きな質量であり、このような大きな質量の振動板が10kHz以上の高い周波数に良好に応答することは、極めて困難である。
したがって、本実施形態のスピーカーシステムにおいて、ドライバユニット20が音響伝送路10の振動板3を兼ねておらず、音響伝送路10の設計とは独立にドライバユニット20の振動系質量を設定可能なことは、広い周波数帯域にわたりドライバユニットの良好な応答特性を確保するために、極めて有利である。
以上のように、本実施形態のスピーカーシステム30では、上述のように質量m0が比較的大きな質量の振動板3が複数同時に振動することがあるので、その反作用も大きなものである可能性がある。振動板3の運動の反作用により、管体部1自体が振動板3と反対方向に振動すると、音響放射に寄与しない運動にエネルギーが消費されることになるので、音響的な放射効率が低下する。
この点、図4に示される本実施形態のスピーカーシステム30では、ドライバユニット20が、奇数個の空気室4a、4b、4cのうち中央部に配置された空気室4bに結合されることにより、音響的な放射効率の低下を防止している。
すなわち、奇数個の空気室のうち中央部に配置された空気室4bにドライバユニット20を結合することによって、図4に示されるようにドライバユニット20を中心として音響伝送路10が左右対称に構成される。図6に示される管体部1の全長を1/2波長の整数倍とする素子振動の共鳴を利用すれば、左右対称位置にある振動板3a,3cの対が常に相互に反対方向に運動するので、管体部1自体に反作用が誘起されることがなく、音響的な放射効率の低下を防ぐことができる。
なお、本実施形態と異なり、奇数個の空気室のうち中央部に配置された空気室4bにドライバユニット20が結合しない場合であっても、管体部1の質量を大きなものとすることにより、管体部1が振動板3の運動に応答しないようにすることができる。しかしながら、軽量なスピーカーシステムを構成する観点からは、本実施形態のスピーカーシステム30のように、中央部に配置された空気室4bにドライバユニット20を結合する構成を採用することが望ましい。
また、図4に示される本実施形態のスピーカーシステム30では、3個以上の空気室4a〜4cが直列して配列されている。したがって、速度振幅の節を含む空気室4bが他の空気室4a、4bと分離されているので、隔壁6a,6bおよび振動板3b,3cからなる分離壁を越えて節位置が不明瞭となることがない。また、ドライバユニット20の背面放射波は振動板3bおよび3cによって波面が平面的に整えられるので、定在波の平面性は良好に維持される。したがって、図4に示される本実施形態のスピーカーシステム30は、ドライバユニット20の背面放射波による伝送路の共鳴性の低下が少ないという点において、より有利な形態である。
また、図4に示されるとおり、ドライバユニット20を速度振幅の節位置に結合することによって、小振幅で歪みの小さい状態でドライバユニット20を用いつつ、速度振幅の腹である管端から強い音響放射を得る共鳴増幅効果を得ることができる。
なお、上述のように本実施形態に用いられる音響伝送路10では、容易に大気中の音速の1/3以下の低い伝搬速度を得ることができるので、共振周波数が100Hz以下であり、管全長が0.5m以下である1/2波長共鳴管を容易に構成可能である。たとえば、本実施形態においては、わずか0.3mの全長で共振周波数が60Hzまたは80Hzの1/2波長共鳴管を構成することができる。周波数60Hzの音波に共振する1/2波長相当の気柱共鳴管の全長は2.8mであるので、本実施形態のスピーカーシステム30の全長は通常の気柱共鳴管を用いたスピーカーシステムに比べて大幅に短縮されている。
ここで、本実施形態のスピーカーシステム30の作用効果を確認するために行った実施例を示す。管体部1は、内径0.09mの円筒管であり、空気室4a、4b、4cの長さは全て0.11mとした。各振動板の有効直径は0.064mとした。管体部1の端部に配置された振動板3aと3dの質量は16gとし、管体部1の内部に配置された振動板3bと3cの質量は20gとした。エッジ部材7のバネ定数は、全ての振動板3a、3b、3cに対して共通にS0=790N/mとした。このバネ定数をVas(等価容量)に換算すると約1.9リットルであり、隣接する空気室4の容積が約0.7リットルであるのに比べて大きくなっている。したがって、弾性要素としては小型化された空気室4の比較的高い弾性が支配的であり、この結果、エッジ部材7などによる共振周波数が上昇する効果は、小さく抑えられている。
本実施例においては、全ての振動板3a、3b、3cの可動範囲を±2.5mmとし、有効直径が0.064mの振動板としては大きな値を確保した。このことは、端部に配置された振動板3aと3dが、定在波の腹として余裕を持って振幅可能となるといった効果を持つ。なお、内側の振動板3b、3cには、振動板3aと3dとの比較において小さな可動範囲を設定しても良い。
振動板3およびエッジ部材7よりなる振動系のQmsは、5.2とした。Qmsが小さすぎると、管内における素子振動の伝送ロスが増大し共鳴性が低下する。共鳴管方式のスピーカーシステムとしての適正な動作のためには、Qmsが3.0以上であることが望ましい。なお、共鳴性を積極的に利用しない後述のトランスミッションライン方式のスピーカーシステムを構成するにあたっては、この限りでない。
ドライバユニット20には、有効直径が0.064mで、fs=110Hz、Qts=0.33のものを用いた。本実施例のように空気室4の容積が1リットル以下と小さい場合には、Qtsの小さなドライバユニット20を選択することが重要である。望ましくはQtsが0.5以下のドライバユニットを用いることによって、ドライバユニット20の振動系と背後の空気室4により形成される共振点の近辺の周波数において、共振の鋭度を抑え平坦な周波数応答特性を得ることができる。また、Qtsの小さなドライバユニット20は、上記共振点よりも低い周波数領域まで応答性を維持するので、上記共振点よりも低い周波数に設定された音響伝送路10の共振と比較的強い結合を形成可能であるという利点を有している。
無限系を仮定した前記数式(10)および(11)に、各振動板3の有効振動面積が管内断面積の51%であることを考慮して補正を加えると、伝搬可能な最短波長2L(波数π/L)における素子振動の周波数は120Hzと算出され、位相速度Vpは、26m/sと空気中の音速の約8%まで減速されるものと算出される。同様に、波長6L(波数π/3L)においては、素子振動の周波数が60Hz、位相速度Vpが40m/sと算出される。これに対し、有限個の質量要素からなる実際の系においては、インピーダンス測定から107Hzと46Hzにおいて共振が観測された。また同時に120Hzにおいて***振が観測された。
本実施例においては、わずか0.33mの全長で周波数46Hzにおける1/2波長相当の音響伝送路を構成することが可能となっている。周波数46Hzの音波に共振する1/2波長相当の気柱共鳴管の全長は約3.6mであるので、大幅な短縮が可能となっている。また、通常の気柱共鳴管が基本共振周波数とその高調波に相当する複数の周波数において共振するのに対し、本実施例においては、107Hzの高調波共振のみが存在することも特徴となっている。
(第4の実施形態)
図9は、本発明の第4の実施形態のスピーカーシステムの断面図である。本実施形態は、振動板3が中高音をより効果的に透過させる形態となっている点を除いて図4に示される第3の実施形態のスピーカーシステムの構造と同様である。したがって、第3の実施形態のスピーカーシステムと同様の構成については、同じ符号を用いることとし、繰り返しの説明を省略する。
本実施形態の振動板3aは、振動膜15と、振動膜15の周縁部を補強する環状の補強枠16とを有する。振動膜15は、薄く形成された紙の薄膜であり、環状の補強枠16により周縁部、すなわち外周を補強される。また、補強枠16は、気密封止手段であるエッジ部材7により管体部1の内面に弾性的に支持されている。なお、振動膜15は、紙の膜以外でも、布、樹脂、金属箔、もしくはそれらの複合体を少なくとも部分的に薄く形成したものであってもよい。補強枠16には、アルミニウムなどの軽金属、あるいは繊維強化樹脂などの高強度樹脂素材を用いることができる。補強枠16は、その内部に格子状あるいは放射状の補強桟(不図示)が付加されていてもよい。また、補強枠16の後方端に、板バネ状の弾性支持手段を追加して径方向の運動を拘束しつつ軸方向の運動を弾性的に支持してもよい。なお、以上のように振動板3aについて説明したが、他の振動板3b、3c、3dも、同様の構成を有する。
以上のように構成されるスピーカーシステム30は、第3の実施形態のスピーカーシステムと同様の作用効果に加えて、以下のような作用効果を奏する。
音響伝送路10の動作に必要な質量を補強枠16に集中しているとともに、補強枠16により振動膜15の外周が補強されるので、大振幅動作に必要な強度を保持しつつ振動膜10の厚さを薄く設定することが可能となっている。このため、小振幅の中高音は小質量の振動膜15の変形振動(湾曲変形、分割振動)により効率的に伝達され、大振幅の低音は補強枠16を含む質点要素全体である振動板の往復運動により伝達することができる。
(第5の実施形態)
本実施形態のスピーカーシステムは、図4に示される第3実施形態のスピーカーシステムにおいて、空気室の長さを与える振動板の間隔および振動板の質量などを含むパラメータを変更したものである。上記の第3実施形態のスピーカーシステムにおいて、強い共振と***振により、周波数特性に大きなピークとディップが発生する場合がある。そこで、本実施形態では、強すぎる共振、***振を弱める目的で、パラメータを変更している。なお、本実施形態のスピーカーシステムの基本構成自体は、図4に示される第3実施形態のスピーカーシステムと同様である。したがって、第3実施形態のスピーカーシステムと同様の構成については、同じ符号を用いることとし、繰り返しの説明を省略する。
本実施形態のスピーカーシステムでは、直列に並んだ空気室4a、4b、4cのうち、中央部に配置された空気室4bの長さを、端部に配置された空気室4a、4cの長さに比べて長くしている。ここで、再生帯域を低域方向に拡大するとともに、強い共振と***振を弱めてピークとディップを抑圧するためには、管体部1の軸線に沿った中央、すなわち空気室4bを基準として対称位置にある空気室4aと空気室4cの長さを等しくし、空気室長の変化を左右対称とすることが望ましい。言い換えれば、管体部1の中央に配列された空気室4bを基準として対称位置にある空気室4aと空気室4cの容量を等しくしつつ、管体部1の端部側に配置されるにしたがって空気室の容積が小さくなるように気室の容量を対称的に変化させることとなる。
ただし、この場合も、図2に示される模式図で示したような素子振動の伝搬モードを維持する見地からは、たとえば、任意の空気室の長さ(隣接する振動板間の間隔)における長さ比が、1.5を超えないことが望ましい。
また、複数の質量要素である振動板3のうち少なくとも1つの質量要素3cを他の振動板3a、3c、3dに比べて軽くしている。また、本実施形態では、ドライバユニット20を中心として対称位置にある振動板同士の質量を異ならしめている。具体的には、対称位置にある振動板3aと3dとで質量を異ならしめており、対象位置になる振動板3bと3cとで質量を異ならしめている。特に、本実施形態では、周波数特性を平坦化しつつ、管体部1の全長を共振対象とする定在波の強度をある程度保つために全振動板3a、3b、3c、3dの平均質量よりも小さい質量を有する振動板3a、3cと、全振動板3a、3b、3c、3dの平均質量よりも大きい質量を有する振動板3b、3dとが交互に配列されている。ただし、この場合も、図2に示される模式図で示したような素子振動の伝搬、すなわち共鳴性を維持する見地からは、素子振動ドライバユニット20を除く任意の質量要素である振動板3a、3b、3c、3d間の質量比が、3を超えないことが望ましく、より有利には、2を超えないことが望ましい。
なお、このように音響伝送路10内のパラメータであるS/m(Sはバネ定数、mは質量)や隣接する質点間の距離Lが不均一な場合にも、上記した数式(8)において、各S/mの平均値、および各Lの平均値を用いることによって、誤差はあるものの実用上調整可能な範囲内で本発明のスピーカーシステムを設計することができる。
また、寄生要素などを考慮した数式(11)を用いる場合も、平方根の中身とLをそれぞれの平均値で置き換えることによって、実用上調整可能な範囲内で本発明のスピーカーシステムを設計することができる。
以上のように構成される本実施形態のスピーカーシステムによれば、物理的な全長が短い管体部1であっても、長い全長の管体部と同等の低音増強効果を維持しつつ、強い共振と***振を弱めることによって顕著なピークとディップが抑圧することができ、周波数特性上の平坦性を向上することができる。
ここで、本実施形態のスピーカーシステム30の作用効果を確認するために行った実施例を示す。管体部1の全長は、上記第3実施形態における実施例の場合と同じに保持したまま空気室4a、4cの長さを0.1mに短縮し、空気室4bの長さは0.13mに延長した。このように空気室4の長さを変化させて個々の空気室4における波数π/L相当の共振点をずらすことにより、管体部1全体としての波数π/L相当の共振を弱めることができる。管体部1の全長を1/2波長とする波数π/3L相当の定在波は、短い距離スケールでの変化には鈍感であり、更に本実施例では空気室長の変化を左右対称としているので、波数π/3L相当の定在波への影響は小さいものとなっている。管体部1の全長を維持しつ空気室4bの長さが延長されていることにより、本実施例ではドライバユニットと空気室4bにより形成される共振点が、若干低周波数側に移動している。このことは、ドライバユニットの再生帯域よりも低い周波数域に存在する管共振とドライバユニットとの結合を強め、再生帯域を低周波数側に拡大する方向に作用する。
また本実施例では、振動板3aと3bの質量は、第3実施形態における実施例の場合と同様に16g、20gにそれぞれ維持しつつ、振動板3cの質量を10g、振動板3dの質量を20gに、それぞれ変更した。この結果、振動板3a、3b、3c、3dの質量は、それぞれ16g、20g、10g、20gとなり、全振動板の平均質量16.5gより小さい質量を有する振動板と平均質量16.5gより大きい質量を有する振動板とが交互に並ぶことになる。この結果、振動板3aおよび3cを含む振動要素の共振周波数が高周波側にシフトするので、実施例1で観測された***振と相殺し、***振点近傍における周波数特性のディップを軽減することができる。また、系全体の質量分布の非対称性が増し、波数π/3L相当の定在波による周波数特性のピークが軽減されるので、前記ディップの軽減と合わせ全体として周波数特性が平坦化される。軽質量の振動板3aおよび3cと重質量の振動板3bおよび3dが交互に配列されていることは、管体部1の全長を共振対象とする定在波が極端に抑圧されることを防止するので、低周波数側の再生帯域が縮小することなく周波数特性が平坦化される。これに対し、管体部1の一方側(たとえば、空気室4a側)に軽質量の振動板を集中させ、管体部1の他方側(たとえば、空気室4c側)に重質量の振動板を集中させると、質量の偏在により実質的に管体部1が2分され管体部1の全長を共振対象とする定在波の強度が著しく弱まるので、低周波数側の再生帯域は縮小する。
なお、振動板3及びエッジ部材7よりなる振動系のQmsは、3.7とした。
以上のパラメータ変更を行うことにより本実施例では、再生帯域が低域方向に拡大されるとともに、ピークとディップが抑圧され、周波数特性上の平坦性が向上した。
以上のように第5の実施形態では、パラメータを変更することによって共振を抑制する場合を説明したが、他の形態によっても、音質調整の目的で共振を抑制することが可能である。以下の第6および第7の実施形態は、音質調整の目的で共振を抑制する他の例を示す。
(第6の実施形態)
図10は、本発明の第6の実施形態のスピーカーシステムの断面図である。本実施形態のスピーカーシステムは、管体部1の管軸がその途中でずらして構成されている。換言すれば、管体部1は、軸心が互いにずれた複数の部分を有する。図10では、空気室4aをなす管体部1の部分と空気室4cをなす管体部1の部分とで管軸がずれている。このような管軸のずれにしたがって、振動板3a、3bからなる振動板の第1群と、振動板3c、3dからなる振動板の第2群とは互いに径方向(振動方向に沿って垂直方向)の偏差を有する。
第5の実施形態で説明したようなパラメータ変更の代わりに、あるいはパラメータ変更とともに、管体部1の管軸をずらすことによっても、音質調整の目的で共振を抑制することができる。
(第7の実施形態)
図11は、本発明の第7の実施形態のスピーカーシステムの断面図である。本実施形態のスピーカーシステムは、管体部1の管軸がその途中で屈曲して構成されている。すなわち、管体部1が少なくとも一箇所で屈曲している。図11では、空気室4aをなす管体部1の部分と空気室4cをなす管体部1の部分との間で管軸が屈曲している。このような管軸の屈曲にしたがって、振動板3a、3bからなる振動板の第1群と、振動板3c、3dからなる振動板の第2群とは互いに平行とならず、所定の角度を有する。
第5の実施形態で説明したようにパラメータ変更の代わりに、あるいはパラメータ変更とともに、管体部1の管軸を屈曲させることによっても、音質調整の目的で共振を抑制することができる。
(第8の実施形態)
上記の第1〜第7の実施形態では、質量要素として振動板を用いる場合を説明した。スピーカーシステムの小型化の見地、および放射効率の低下および不要雑音の発生を防止する見地からはからは、質量要素として振動板を用いることが望ましいが、本実施形態のように、質量要素として、空気室間を連通するポート管を用いることもできる。
図12は、本発明の第8の実施形態のスピーカーシステムの断面図である。
本実施形態のスピーカーシステムは、隣接する空気室間を区画する質量要素として振動板を用いる代わりにポート管を用いた点を除いて、図4に示される第3の実施形態のスピーカーシステムの場合と同様である。したがって、第3の実施形態のスピーカーシステムと同様の構成については、同じ符号を用いることとし、繰り返しの説明を省略する。
本実施形態のスピーカーシステム30も、音響伝送路10とドライバユニット20とを含む。図12に示されるとおり、本実施形態のスピーカーシステム30の音響伝送路10では、隣接する空気室4aと空気室4bとの間を区画する質量要素として振動板3bの代わりに、ポート管13aが用いられており、隣接する空気室4bと空気室4cとの間を区画する質量要素として振動板3cの代わりに、ポート管13bが用いられている。一方、管体部1の両端には、質量要素として、第3の実施形態の場合と同様に、振動板3a,3bが設けられている。
管体部1の内面には、隔壁6a,6bが設けられている。隔壁6a,6bによって、管体部1の内部空間が空気室4a、4b、4cに区画されている。隔壁6a、6bは、空気室4a、4b、4cを区画するとともに、それぞれポート管13a,13bを支持する。ポート管13aは、隣接する空気室4a,4b間を連通し、ポート管13bは、隣接する空気室4b,4c間を連通する。
振動板3a、3bが質量要素として機能するのみならず、ポート管13a,13b内の空気も、質量要素として機能する。管体部1の内部で管体部の軸線方向に沿って、振動板3a、空気室4a、ポート管13a、空気室4b、ポート管13b、空気室4b、および振動板3bの並び順で配置されていることから、本実施形態の音響伝送路10も、管体部1の軸線方向に沿って質量要素と弾性要素とが交互にかつ周期的に配列されている。ポート管13a,13bの軸線は、管体部1の軸線と平行している。換言すれば、質量要素であるポート管13a,13b内の空気は、管体部1の軸船に沿って振動する。
以上のように構成される音響伝送路10に対して、ドライバユニット20が音響的に結合される。ドライバユニット20は、第3の実施形態の場合と同様に、音響伝送路10の内部を管体部1の軸線方向に分断しないように音響伝送路10に音響的に結合されている。具体的には、管体部1の側壁には、奇数個の空気室4a、4b、4cのうち中央部に配列された空気室4bと外界とを連通するように通孔11が配置されており、管体部1の側壁の外側には、通孔11の位置に合わせて、ドライバユニット20が配置される。なお、第3の実施形態の場合と同様に、通孔11は、管体部1の軸線方向に沿った中央部に配置されることにより、ドライバユニット20を、管体部1内の定在波の節位置に結合することが望ましい。
以上のように構成されるスピーカーシステム30は、第3実施形態のスピーカーシステムと略同様の作用効果を有する。
なお、本実施形態のスピーカーシステム30は、質量要素としてポート管13a、13bを用いているが、ポート管13a、13bは振動板に比べて大きな体積を占有するため、スピーカーシステム30の小型化の見地からは、第3実施形態のスピーカーシステムの方が有利といえる。また、質量要素の共振周波数を維持しつつポート管13a、13bの体積を小さくするためにポート管13a、13bの直径を小さく設定すると、音響的な放射効率が低下するとともに、ポート管13a、13bを通過する空気流により発生する風切り音が顕著となる場合がある。またポート管13a、13bは、特に聴覚上不快な中高音域において独立の気柱共鳴管として共振する。これらの点においても振動板に比べて不利である。放射効率の低下と不要雑音の発生は、ポート管が管体部1の端部に露出して配置された場合に特に大きな聴感上の問題となる。したがって、ポート管13a、13bを用いる場合であっても、本実施形態のように、管体部1の端部に配置される質量要素は振動板3a、3bであることが望ましい。
以上のように、スピーカーシステムの小型化の見地、および放射効率の低下および不要雑音の発生を防止する見地からは、質量要素として振動板を用いることが望ましいが、使用条件などによっては、本実施形態のように、構造が簡単なポート管13a、13bを質量要素として採用することによっても、大気中の音速の1/3以下の低い伝搬速度を得ることができ、共振周波数が100Hz以下であり、管全長が0.5m以下である1/2波長共鳴管を容易に構成可能であるので、本実施形態のスピーカーシステムの全長は通常の気柱共鳴管を用いたスピーカーシステムに比べて大幅に短縮される。
(第9の実施形態)
上記の第1〜第8の実施形態では、複数の空気室が直列して配列されている場合を説明した。確かに、質量要素として機能する振動板一つ当たりに質量が集中する点を防止する見地などからは、複数の空気室が直列して配列されることが望ましいが、本実施形態のように、空気室が一つの場合にも、管体部の全長を1/2波長とする素子振動の共鳴を利用したスピーカーシステムを構成することができる。
図13は、本発明の第9の実施形態のスピーカーシステムの断面図である。本実施形態のスピーカーシステムでは、第3の実施形態のスピーカーシステムにおける4個の振動板のうち、中央部に位置する2個の振動板を除去して、振動板の数を2個に減らしたものに対応する。したがって、管体部1の内部空間の全体が一つの空気室となっている。これらの点を除いて、本実施形態のスピーカーシステムは、図4に示される第3の実施形態のスピーカーシステムの場合と同様である。したがって、第3の実施形態のスピーカーシステムと同様の構成については、同じ符号を用いることとし、繰り返しの説明を省略する。
本実施形態のスピーカーシステム30は、音響伝送路10とドライバユニット20とを含む。図13に示されるとおり、本実施形態の音響伝送路10も、第3の実施形態の場合と同様に、両端が開放端となっている管体部1を有する。
管体部1の両端には、質量要素として、それぞれ振動板3a、3bを有している。また、管体部1の内部空間は、これら振動板3a、3bによって外界から区画されて、1つの空気室4を形成している。振動板3a、3bは、それぞれ質量要素として機能し、空気室4は、弾性要素として機能するので、本実施形態の音響振動部10も、管体部1の内部で管体部1の軸線方向に沿って質量要素と弾性要素とが交互にかつ周期的に配列されているといえる。
管体部1の側壁の中央部には、音響伝送路10にドライバユニット20を音響的に結合するための通孔11が設けられている。ドライバユニット20は、その背面が通孔11に面するように管体部1の側壁の外側に配置されており、通孔11を介して空気室4の中央部で音響伝送路10に音響的に結合されている。
ここで、通孔11の直径は、管体部1の全長の1/3以下であることが望ましい。特に、本実施形態のように、定在波の速度振幅の節となる管体部1の中央部と、定在波の速度振幅の腹となる管体部1の端部とが振動板などにより分離されていない構造では、ドライバユニット20の背面放射と定在波との重畳により、定在波の節位置が不明瞭となり、同時に定在波の平面性が低下する。したがって、通孔11の直径を管体部1の全長の1/3以下とすることによって、定在波の節位置を明瞭にするとともに、定在波の平面性を向上することが望ましい。なお、第3の実施形態の場合と同様に、通孔11は、管体部1の軸線方向に沿った中央部に配置されることにより、ドライバユニット20を、管体部1内の定在波の節位置に結合することが望ましい。
また、図13に示されるとおり、ドライバユニット20の設置位置であり、かつ速度振幅の節位置でもある管体部1の軸線方向に沿った中央部近傍に、第3の実施形態の場合の吸音材14と同様の材質からなる吸音材が集中的に配置されている。吸音材14は、たとえば天然繊維、化学繊維、ガラス繊維などの繊維集合体であり、円筒状に形成された網体の内部に保持されつつ図示されない支持手段により管軸付近に配設されている。
以上のように構成されるスピーカーシステム30は、第3実施形態のスピーカーシステムと略同様の作用効果を有する。
また、通孔11の直径が管体部1の全長の1/3以下とすることによって、定在波の節位置を明瞭にするとともに、定在波の平面性を向上できる。
さらに、節位置の近傍に集中的に配置された吸音材14は、節位置近傍において速度振幅の小さい低音の音波に対しては実質的に吸音効果を持たない一方、ドライバユニット20の背面から放射された中高音の音波は効率的に吸音する。図13においては、この選択的吸音効果によって低音における伝送路の共鳴を阻害することなく、ドライバユニット20の背面から中高音の放射を軽減することができる。
上述したように、ドライバユニット20の背面から放射される中高音は、管体部1の端部から放射されると快い間接音として認識され有益である一方、管体部1の管壁での反射により管体部1の直径方向に沿う定在波を形成すると耳障りな音として認識され有害である。この点、本実施形態のスピーカーシステムにおいても、管体部1の直径方向に沿う定在波の腹が位置する軸位置に吸音材14を集中的に配置することにより直径方向に沿う定在波を形成する有害な中高音を効率的に吸音しつつ、管体部1の側壁付近には、大きな断面開口を確保することにより有益な中高音の軸方向に沿う伝達に対しては透過性を確保することができる。
なお、本実施形態のスピーカーシステム30は、速度振幅の節を含む空気室が他の空気室と分離されていないが、このような本実施形態のスピーカーシステム30よりも、速度振幅の節を含む空気室が他の空気室と分離されている第3実施形態のスピーカーシステムの方が、ドライバユニット20の背面放射波による伝送路の共鳴性の低下が少ない点においては有利である。すなわち、第3実施形態のスピーカーシステムのように速度振幅の節を含む空気室が他の空気室と分離されている場合には、節位置が不明瞭となることがない。また、ドライバユニット20の背面放射波の波面が、管体部1の内部の振動板によって平面的に整えられるので、定在波の平面性が良好に維持される。
さらに、単一の空気室4よりなる本実施形態においては、定在波の腹に対応する領域と節に対応する領域が同一の空気室内に近接して併存するので、腹に対応する領域と節に対応する領域とが分離して明確な振幅差を保つことが困難であり、したがって共鳴の強度も比較的弱いものとなる。これに対し、第3実施形態のスピーカーシステムのように速度振幅の節を含む空気室が他の空気室と分離されている場合には、腹と節の振幅差が確保され、強い共鳴が成立可能であるという点において、より有利である。
なお、管体部1の全長を1/2波長とする素子振動の共鳴は、振動板の個数を2個に低減した本実施形態のスピーカーシステム30においても利用することができる。たとえば、図13において、管体部1が内径0.10mの円筒管であり、その内部に有効直径0.064mの振動板を0.10mの間隔で配置し、且つ、各パラメータ値を以下のように設定する。 A:0.00785m2 L:0.30m S0:790N/m κ:141700N/m2 ρ:1.29kg/m3。なお、ここでは、上記(10)式および(11)式とは異なる補正算出値を使用しており、Lは、振動板間の距離、すなわち管体部1の全長である。
このとき、管全長の0.30mを1/2波長とする波長2L(波数π/3L)の素子振動の共振周波数を、たとえば80Hzとするためには振動板の質量m0として10gが要求され、60Hzとするためには振動板の質量m0として18gが要求される。
一方、同じ0.30mの管体部1の全長に4個の振動板を配し波長6L(波数π/3L)の素子振動を用いた第3の実施形態のスピーカーシステムの場合であれば、第1の実施形態で説明したように、共振周波数を80Hzとするためには振動板の質量m0として5gが要求され、60Hzとするためには振動板の質量m0として10gが要求される。なお、Lは、振動板間の距離、すなわち、管体部1の全長の1/3である。
この結果を比較すると、本実施形態のスピーカーシステムによっても、共振周波数が100Hz以下であり、管体部1の全長が0.5m以下である1/2波長共鳴管を容易に構成可能であるので、本実施形態のスピーカーシステムの全長は通常の気柱共鳴管を用いたスピーカーシステムに比べて大幅に短縮することができるものの、振動板3の数を減らすことにより個々の振動板3に大きな質量が集中してしまうことが解る。このように振動板3の質量が過大であると過渡応答特性が低下する。特に、加速度が最大となる管体部1の端部に設けられた振動板3a、3bに質量が集中する図13の形態は、第3の実施形態の場合と比べて不利である。また、振動板3の質量が過大であると、エッジ部材7やダンパー等の振動支持系の寿命が低下する。
したがって、過渡応答特性の低下や振動支持系の寿命の劣化の観点からは、第3実施形態のスピーカーシステムの方が本実施形態のスピーカーシステムよりも望ましいことは明らかではあるが、過渡応答特性や製品に要求される耐久性などの条件によっては、本実施形態のように、質量要素および空気室の数を減らした構造を採用することもできる場合もある。
(第10の実施形態)
図14は、本発明の第10の実施形態のスピーカーシステムの断面図である。上記の第3〜第9の実施形態のスピーカーシステムでは、ドライバユニットが管体部の側壁の外側に配置されており、通孔を介して、直接的にドライバユニットと音響伝送路10とが音響的に結合している場合を説明した。
これに対し、本実施形態のスピーカーシステムは、ドライバユニットと管体部の内部とを連結するポート管を有し、ドライバユニットと音響伝送路との音響的な結合方法が異なる。この点を除いて、本実施形態のスピーカーシステムは、図4に示された第3実施形態のスピーカーシステムと同様の構成を有する。したがって、第3実施形態のスピーカーシステムと同様の構成については、同じ符号を用いることとし、繰り返しの説明を省略する。
図14に示されるとおり、本実施形態のスピーカーシステム30では、ドライバユニット20が、ポート管18を介して音響伝送路10に音響的に結合している。具体的には、ポート管18は、ドライバユニット20と管体部1の内部とを結合する結合管として機能する。ポート管18は、湾曲自在な可撓性素材で形成されていてもよい。
図14に示される例では、ドライバユニット20の背面側を覆うようにドライバ容器12が設けられており、ドライバ容器12は、音響伝送路10とは独立したキャビネットとなっている。ポート管18の一端は、ドライバ容器12内に通じている。ポート管18の他端は、直列して配列されている3個の空気室4a,4b,4cのうち、中央部に位置する空気室4b内に通じている。この結果、本実施形態スピーカーシステム30においても、ドライバユニット20は、定在波の速度振幅の節が位置する空気室4bに結合されている。
以上のように構成される本実施形態のスピーカーシステム30は、第3の実施形態のスピーカーシステムと同様の作用効果を有するのみならず、以下のような作用効果を有する。ポート管18は、所定の周波数でヘルムホルツ共振し、この周波数において増強された音響信号を音響電伝送路10に注入する。本実施形態のスピーカーシステム30では、ドライバユニット20を管体部1とは独立して配置することができるので、ドライバユニット20が、管体部1の形状および寸法に制約されることがない。したがって、比較的大容量のドライバ容器12を用いることができ、比較的高いQtsのドライバユニットを選択可能であるという利点を備えている。
ここで、本実施形態のスピーカーシステム30の作用効果を確認するために行った実施例を示す。
第3の実施形態における上記実施例と同様の構成の伝送路に、内径2cm、全長70cmの湾曲自在なポート管18を介して、内容積4.0リットルのドライバ容器12を結合した。ポート管18は、46Hzにおいてヘルムホルツ共振し、この周波数において増強された音響信号を伝送路に注入する。本実施例は、管状態1の形状、サイズに制約されることなく大容量のドライバ容器12を用いることが可能であり、従って比較的高いQtsのドライバユニットを選択可能である。本実施例では、有効直径が0.064mで、fs=100Hz、Qts=0.6のドライバユニットを用いながら、ドライバユニット20とドライバ容器12による共振点近傍での周波数特性のピークは抑圧されている。
(第11の実施形態)
図15は、第11の実施形態のスピーカーシステムの断面図である。上記の第3の実施形態のスピーカーシステムでは、奇数個の空気室が直列に配置されている場合を説明した。
これに対し、本実施形態のスピーカーシステムは、偶数個の空気室が直列に配置されており、偶数個の空気室のうち中央部に配列された2個の空気室の少なくともどちらか一方にドライバユニットが音響的に結合されている。この点を除いて、本実施形態のスピーカーシステムは、図4に示される第3実施形態のスピーカーシステムと同様の構成を有する。したがって、第3実施形態のスピーカーシステムと同様の構成については、同じ符号を用いることとし、繰り返しの説明を省略する。
図15に示されるとおり、本実施形態のスピーカーシステム30では、偶数個の空気室、具体的には、4個の空気室4a、4b、4c、4dが直列して配列されている。通孔11は、これら複数個の空気室4a、4b、4c、4dのうち中央部に配列された2個の空気室4b、4cの少なくともどちらか一方(図15では、空気室4b)に設けられている。したがって、複数個の空気室4a、4b、4c、4dのうち中央部に配列された2個の空気室4b、4cにドライバユニット20が音響的に結合されている。言い換えれば、質量要素である複数の振動板3a、3b、3c、3d、3eのうち中央に配置されている振動板3cに隣接する空気室4b、4cの少なくともどちらか一方にドライバユニット20が音響的に結合されているともいえる。
以上のように構成される本実施形態のスピーカーシステム30は、第3の実施形態のスピーカーシステムと略同様の作用効果を有する。
なお、上述した第3の実施形態において説明したように、ドライバユニット20を速度振幅の節位置に結合することによって、小振幅で歪みの小さい状態でドライバユニット20を用いつつ、速度振幅の腹である管端から強い音響放射を得る共鳴増幅効果を得ることができる。ここで、本実施形態のように偶数個の空気室4a、4b、4c、4dに分割された管体部1において、管全長を1/2波長とする素子振動の共鳴を利用する場合には、定在波の速度振幅の節位置は、中央の振動板3cに対応しており、空気室4内には対応していない。しかしながら、本実施形態のスピーカーシステム30のように、その振動板3cに隣接する空気室3bにドライバユニット20を結合することによって、第3の実施形態のスピーカーシステムの場合に準ずる共鳴増幅効果を得ることができる。
(第12の実施形態)
図16は、本発明の第12の実施形態のスピーカーシステムの断面図である。上記の第3〜第11の実施形態のスピーカーシステムでは、管体部の両端が開口している場合を説明した。
これに対し、本実施形態のスピーカーシステムは、管体部の一端が閉止端壁面によって閉じられている。そして、ドライバユニット20は、中央の空気室に音響的に結合されているのではなく、閉止端壁面に隣接する空気室に音響的に結合されている。これらの点を除いて、本実施形態のスピーカーシステムは、図4に示される第3実施形態のスピーカーシステムと同様の構成を有する。したがって、第3実施形態のスピーカーシステムと同様の構成については、同じ符号を用いることとし、繰り返しの説明を省略する。
図16に示されるとおり、本実施形態のスピーカーシステム30では、管体部1は、その一端が閉鎖している。言い換えれば、一端が閉止端となっている。したがって、管体部1の一端には、閉止端壁8が設けられている。一方、管体部1の他端は、開口しており、言い換えれば開放端となっている。この管体部1の他端には、振動板3aが配置されている。
なお、音響振動部を伝搬する音響振動が平面波として管体部1内を伝搬するためには、閉止端壁8の内側面は平面であることが望ましい。また、同様の見地から、閉止端壁8の内側面は、管体部1の軸線方向に対して直交するように構成されていることが望ましい。
管体部1の内部空間は、振動板3b、3cによって、3個の空気室4a、4b、4cに区画されている。したがって、3個の空気室4は、管体部1の軸線に沿って直列に配置されている。これら3個の空気室4のうち、端部に配置された空気室4cにおいては、一側には振動板3cが配置されており、他側には、閉止端壁8が配置されている。
音響伝送路10の管体部1の側壁には、ドライバユニット20が音響伝送路に音響的に結合するための通孔11が設けられている。通孔11は、閉止端壁8に隣接する空気室4cと外界とを連通するように配置されている。したがってドライバユニット20は、閉止端壁8に隣接する空気室Cに結合されることとなる。
以上のように構成される本実施形態のスピーカーシステム30は、以下のような作用効果を有する。
本実施形態のスピーカーシステム30における音響伝送路10は、上述した図2に示される力学モデルにおいて、隣接する質点1A,1B,1Cの位置に各振動板3a,3b,3cを配置し、1Dの位置に閉止端壁8を配置した場合に相当する。図2のグラフによれば1Aから1Cまでの距離は波数がπ/2Lのときに管全長を3/4波長とする定在波が成立可能である。また、図2のグラフには図示されていないが、波数がπ/6Lのときに管全体を1/4波長とする定在波が成立可能である。
本実施形態における音響伝送路10においても、容易に大気中の音速の1/3以下の低い伝搬速度を得ることができるので、共振周波数が100Hz以下であり、管状体1の全長が0.25mm以下である1/4波長共鳴管を容易に構成可能である。
ここで、本実施形態のスピーカーシステム30の作用効果を確認するために行った実施例を示す。管体部1は、内径0.09mの円筒管であり、空気室4a、4b、4cの長さLは、全て0.11mとした。各振動板3a、3b、3cの有効直径は、0.064mとした。端部に配置された振動板3aの質量は16gとし、管体部1の内部に配置された振動板3b、3cの質量は、20gとした。エッジ部材7のバネ定数は、全ての振動板3a、3b、3cに対してSo=790N/mとした。このバネ定数をVas(等価容量)に換算すると約1.9リットルであり、隣接する空気室4a、4b、4cの容量が約0.7リットルであるのに比べて大きくなっている。したがって、弾性要素としては小型化された空気室4の比較的高い弾性が支配的であり、これに加わるエッジ部材7による共振周波数上昇の効果は、比較的小さいものとなっている。
本実施例においては、全ての振動板3a、3b、3cの可動範囲を±2.5mmとし、有効直径が0.064mの振動板3a、3b、3cとしては、大きな値を確保した。このことは、端部に配置された振動板3aが、定在波の腹として余裕を持って振幅可能となるといった効果を持つ。なお、内側の振動板3b、3cには、振動板3aとの比較において小さな可動範囲を設定してもよい。
振動板3a、3b、3cおよびエッジ部材7よりなる振動系のQmsは、5.2とした。ドライバユニット20には、有効直径が0.064mで、fs=110Hz、Qts=0.33のものを用いた。
無限系を仮定した前記数式(10)および(11)に、各振動板3a、3b、3cの有効振動面積が管内断面積の51%であることを考慮して補正を加えると、波長4L(波数π/2L)において素子振動の周波数が85Hz、位相速度Vpが37m/sと算出される。また波長12L(波数π/6L)においては、素子振動の周波数が31Hz、位相速度Vpが41m/sと算出される。これに対し、有限個の質量要素からなる実際の系においては、インピーダンス測定から65Hzと24Hzにおいて共振が観測された。
本実施例においては、わずか0.33mの全長で周波数24Hzにおける1/4波長相当の音響伝送路を構成することが可能となっている。周波数24Hzの音波に共振する1/4波長相当の気柱共鳴管の全長は約3.5mであるので、大幅な短縮が可能となっている。また、通常の気柱共鳴管が基本共振周波数とその高調波に相当する複数の周波数において共振するのに対し、本実施例においては、65Hzの高調波共振のみが存在することも特徴となっている。なお、24Hzにおいてはドライバユニット20が実質的に音響出力を持たないので、65Hzにおいてのみ共鳴増幅による音圧上昇を得ることができた。
(第13の実施形態)
第13の実施形態は、図16に示される第12の実施形態のスピーカーシステムの構成において、管内の伝送ロスを積極的に増大させて背面放射を吸収除去することによって、いわゆるトランスミッションライン方式のスピーカーシステムを構成したものである。伝送ロスを積極的に増大させるために、振動板3a、3b、3cおよびエッジ部材7よりなる振動系のQmsを低下させる点を除いて、図16に示される第12の実施形態のスピーカーシステムの場合と同様である。したがって、同様の構成については、同じ符号を用いることとし、繰り返しの説明を省略する。
本実施形態のスピーカーシステムでは、振動板3a、3b、3cおよびエッジ部材7よりなる振動系のQmsを低下させるために、シリコーンゴム等の制振材(不図示)が振動板3a、3b、3cおよびエッジ部材よりなる振動系の表面に塗布されている。
本実施形態のようなトランスミッションライン方式の目的は音質調整であり、共鳴による低音増強よりも制動による低音の抑制を得ることを主眼としている。通常のトランスミッションライン方式においては、共鳴管方式の構成を基本としつつ、管内に吸音材を充填することにより管内の伝送ロスを増大させるため、比較的長い全長の管体部を必要とする。
これに対し、本実施形態の共鳴管方式のスピーカーシステムを基本とすれば、管体部1の全長を大幅に短縮できるのみならず、振動板およびエッジより成る振動系のQmsを低下させることによって管内の伝送ロスを容易に増大させることができる。
(第14の実施形態)
図17は、本発明の第14の実施形態のスピーカーシステムの断面図である。本実施形態のスピーカーシステムは、伝送路の一端をドライバユニット20とし、他端を閉止端とした閉止共鳴管の例である。すなわち、本実施形態のスピーカーシステムは、管体部1の一端にドライバユニット20が配置されており、管体部1の他端に閉止端壁面が設けられている。
以上のように構成される本実施形態のスピーカーシステム30は、以下のような作用効果を有する。
本実施形態のスピーカーシステム30における音響伝送路10は、上述した図2に示される力学モデルにおいて、隣接する質点1Aの位置にドライバユニット20を配置し、1Bおよび1Cの位置に各振動板3b,3cを配置し、1Dの位置に閉止端壁8を配置した場合に相当する。図2のグラフによれば1Aから1Cまでの距離は波数がπ/2Lのときに管全長を3/4波長とする定在波が成立可能である。また、図2のグラフには図示されていないが、波数がπ/6Lのときに管全体を実質的に1/4波長とする定在波が成立可能である。
ここで、本実施形態のスピーカーシステム30の作用効果を確認するために行った実施例を示す。管体部1は、内径0.09mの円筒管であり、空気室4a、4b、4cの長さLは全て0.11mとした。各振動板の有効直径は0.064mとした。管体部1の端部に配置されたドライバユニット20の振動板3aの質量は8gとし、管体部1の内部に配置された振動板3bと3cの質量は、10gとした。エッジ部材7のバネ定数は、全ての振動板3a、3b、3cに対して共通にS0=790N/mとした。ここで、本実施例においては、全ての振動板3a、3b、3cの可動範囲を±5.0mmとし、有効直径が0.064mの振動板としては大きな値を確保した。このことは、端部に配置された振動板3aが、定在波の腹として余裕を持って振幅可能となる効果を持つ。尚、内側の振動板3b、3cには、振動板3aとの比較において小さな可動範囲を設定しても良い。
振動板3a、3b、3c及びエッジ部材7よりなる振動系のQmsは、5.2とした。ドライバユニット20には、fs=50Hz、Qts=0.28のものを用いた。
無限系を仮定した前記数式(10)および(11)に、各振動板3a、3b、3cの有効振動面積が管内断面積の51%であることを考慮して補正を加えると、波長4L(波数π/2L)において素子振動の周波数が119Hz、位相速度Vpが52m/sと算出される。また波長12L(波数π/6L)においては、素子振動の周波数が43Hz、位相速度Vpが57m/sと算出される。これに対し、有限個の質量要素からなる実際の系においては、インピーダンス測定から90Hzと33Hzにおいて共振が観測された。また、64Hzにおいて強い***振が観測された。
本実施例においては、わずか0.33mの全長で周波数33Hzにおける1/4波長相当の音響伝送路を構成することが可能となっている。周波数33Hzの音波に共振する1/4波長相当の気柱共鳴管の全長は約2.5mであるので、大幅な短縮が可能となっている。また、通常の気柱共鳴管が基本共振周波数とその高調波に相当する複数の周波数において共振するのに対し、本実施例においては、90Hzの高調波共振のみが存在することも特徴となっている。
以上の第1〜第14の実施形態では、一つの音響伝送路および一つのドライバユニットが設けられている場合を説明したが、本発明の音響伝送路およびスピーカーシステムは、複数の音響伝送路および複数のドライバユニットを有していてもよい。以下の第15〜第17の実施形態では、複数の音響伝送路を有する場合について説明する。
(第15の実施形態)
図18は、本発明の第15の実施形態のスピーカーシステムの断面図である。本実施形態は、第第3の実施形態のスピーカーシステムにおいて、第1のドライバユニット20の前面に第2のドライバ容器12bを介在して第2のドライバユニット20bを付加したものである。ここで本実施形態のスピーカーシステム自体は、第2のドライバ容器12bを介在して第2のドライバユニット20bが付加されている点を除いて、第3の実施形態のスピーカーシステムと同様である。したがって、以下の説明では、同様の構成については、同じ符号を用いることとし、繰り返しの説明を省略する。
第2のドライバ容器12bは、第1のドライバユニット20の前面側に形成される。第2ドライバ容器12bの基端側(音響伝送路10に近い側)には、第1のドライバユニット20が設けられ、第2ドライバ容器12bの先端側には第2のドライバユニット20bが設けられている。
図18に示される場合では、第2のドライバ容器12bをなす壁部は、第1のドライバユニット20の設置位置、すなわち、管体部1の軸線方向に沿った中央部から、管体部1の端部に配置されている振動板3aの近傍まで屈曲しつつ伸延している。したがって、図18に示される例では、第2のドライバユニット20bは、音響伝送路10の一端部にある振動板3aに近接して配置されることとなる。なお、第2のドライバユニット20bは、振動板3aに近接して配置される場合に限られず、振動板3dに近接して配置されてもよく、あるいは振動板3a、3dの双方から再生音波の波長に比べて十分に小さい距離内に配置されていてもよい。また、このように配置される第2のドライバユニット20bは、第1のドライバユニット20と同相の電気信号で駆動される。
以上のように構成される本実施形態のスピーカーシステム30の作用効果について説明する。
本実施形態のスピーカーシステム30によれば、第2のドライバユニット20bによって第2のドライバ容器12b内に発生する背圧が、同相で振幅する第1のドライバユニット20の運動により除去される。このとき、第2のドライバユニット20bの背圧は、第2のドライバ容器12b内の空気の運動を介して第1のドライバユニット20に伝達され、第1のドライバユニット20の背圧に転嫁される。第1のドライバユニット20の背圧は、通孔11を経て音響伝送路10に伝達された後、管体部1の端部に設けられた振動板3aおよび3dより外部に放出される。
したがって、本実施形態のスピーカーシステム30では、第2のドライバユニット20bの背後に無限大容積のキャビネットが接続されている場合に等価なので、口径および振動系質量が小さな第2のドライバユニット20bを用いても、効率的な低音再生が可能となるという効果を奏する。
また、本実施形態のスピーカーシステム30では、音響伝送路10の少なくとも一部を移相器として利用している。すなわち、第2のドライバユニット20bの背圧を除去する結果として生じる第1のドライバユニット20の背圧は、大気中の音速に比べて遅い伝播速度を有する音響伝送路10内を伝播する過程でその位相に遅れが生じる。したがって、管体部1の端部に設けられた振動板3aおよび3dより外部に放出される音波と、第2のドライバユニット20bの前面から放出される音波とが互いに強め合う位相関係に設定することが可能である。
たとえば、第2のドライバユニット20bにおいて前面放射音波に対して180度位相の異なる背面放射音波が、音響伝送路10内で90度の位相遅れを生じた後、管体部1の端部に設けられた振動板3aおよび3dより外部に放出されると、第2のドライバユニット20bの前面から放出される音波とは、合計270度の位相差を持つことになる。したがって、第2のドライバユニット20bと端部の振動板3a(あるいは3d)のいずれか一方が単独で音波を放射する場合に比べて音圧増強することができる。
たとえば、周波数46Hzにおける1/2波長相当の全長を持つ音響伝送路10を構成した場合、図18に示される例では、第2のドライバユニット20bから振動板3aにいたる経路の音響的長さが周波数46Hzにおける1/4波長に相当するので、90度の移相器として作用し、上述の音圧増強効果を得ることができる。また、移相量が60度以上となる各周波数においても音圧増強効果を得ることができる。
以上のように、本実施形態のスピーカーシステムについて説明したが、種々の変形が可能であり、第1のドライバユニット20の前面に第2のドライバ容器12bを介在して第2のドライバユニット20bを付加するものである限り、種々のスピーカーシステムを構成することができる。
(第16の実施形態)
図19は、第16の実施形態のスピーカーシステムの断面図である。本実施形態のスピーカーシステムは、第3の実施形態のスピーカーシステムにおいて、第1の音響伝送路10に加えて第2の音響伝送路10bを追加したものである。具体的には、第1の音響伝送路10の管体部1の側壁、および第2の音響伝送路10bの管体部1bの側壁には、それぞれ開口19、19bが設けられており、各開口には、質量要素として振動板3Jおよび振動板3Kがそれぞれ設けられている。そして、振動板3Jおよび振動板3Kが設けられている各開口が、それぞれ連結管1cによって連通している。以上の点を除いて、第13の実施形態のスピーカーシステム30の各構成は、第3の実施形態のスピーカーシステム30や第1の実施形態の音響伝送路1と同様である。したがって、以下の説明では、同様の構成については、同じ符号を用いることとし、繰り返しの説明を省略する。
図19に示されるように、本実施形態のスピーカーシステム30は、第1の音響伝送部10と第2の音響伝送部10bとを含む。第1の音響伝送路10は、振動板3a、3b、3c、3dを有し、振動板3a、3b、3c、3dによって区画される3個の空気室4a、4b、4cを有する。これら空気室4a、4b、4cのうち中央部に配置された空気室4bには、通孔11が設けられて、ドライバユニット20は、その背面が通孔11に面するように管体部1の側壁の外側に配置されている。
また、管体部1の側壁において、この通孔11、すなわちドライバユニット20と対向する位置に上記の開口19が設けられており、この開口19には振動板3jが設けられている。すなわち、中央部に配置された空気室4bの開口19に振動板3jが設けられる。
一方、第2の音響伝送部10bの管体部1bは、振動板3e、3f、3g、3hを有し、振動板3e、3f、3g、3hによって区画される3個の空気室4e、4f、4gを有する。これら空気室4e、4f、4gのうち中央部に配置された空気室4fには、第1の音響伝送部10の開口19と対向する位置に、開口19bが設けられており、この開口19bには振動板3kが設けられている。すなわち、中央部に配置された空気室4fの開口19bに振動板3kが設けられる。
管体部1と管体部1bとの間には、開口19および開口19bを連通するように連通管1cが設けられている。連通管1cと振動板3j、3kによって区画された空間は、新たな空気室4jをなしており、振動板3Jと3Kを含む第3の音響伝送路をなしている。したがって、第1の音響伝送路10と第2の音響伝送路10bとは第3の音響伝送路を介して結合されることとなる。ここで、振動板3j、3kは、管体部1内の振動板3b、3cと同等の面積および質量を具備しており、空気室4jも、第1の音響伝送路10の空気室4と同等の断面積および空気室長を具備している。すなわち、本実施形態のスピーカーシステム30は、音響伝送路として、第1、第2、第3の音響伝送路を含み、第1および第2の音響伝送路10、10bの各管体部1、1bが、第3の音響伝送路の管体部1cを介して連結されるものといえる。
本実施形態では、第1の音響伝送路10と第2の音響伝送路10bとは、ともに同一の共鳴周波数、たとえば、46Hzの1/2波長共鳴管として構成されている。
以上のように構成される本実施形態のスピーカーシステム30の作用効果について説明する。
第3の音響伝送路、すなわちドライバユニット20の背面から振動板3jを経て振動板3kに至る経路は、共鳴周波数、たとえば46Hzにおいて90度の移相器として作用する。
ドライバユニット20において前面放射音波に対して180度位相の異なる背面放射音波が第3の音響伝送路内で90度の位相遅れを生じ、更に第2の音響伝送路内で90度の位相遅れを生じた後に、第2の音響伝送路における管体部1bの端部に設けられた振動板3e,3hより外部に放出される。したがって、ドライバユニット5の全面から放出される音波と、振動板3e,3hより外部に放出される音波とは、合計360度の位相差となり、すなわち同相であるので、強い音圧増強効果を得ることができる。
このように、本実施形態のスピーカーシステムでは、第1〜第3の音響伝送路が設けられており、これら複数の音響伝送路のうちの一つの音響伝送路である第2の音響伝送路の端部の振動板3e、3Hから放射される音波と、ドライバユニット20の前面から放射される音波とが同相になるように第1〜第3の音響伝送路が相互に結合されているといえる。
なお、本実施形態では、共振効率を最大化し、かつ音響的反作用を最小化する目的から、直線状の音響伝送路10、10bを採用しているが、共振効率を低下させることが許容される場合には、より小型化する目的で音響伝送路10、10bを少なくとも一部において屈曲させてもよい。たとえば、第1の音響伝送路10を中央の空気室4bにおいて90〜120度屈曲させ、かつ第2の音響伝送路を中央の空気室4fにおいて90〜120度屈曲させることにより、設置面積を低減することが可能である。
(第17の実施形態)
図20は、第17の実施形態のスピーカーシステムの断面図である。本実施形態のスピーカーシステムは、第3の実施形態のスピーカーシステムにおいて、第1のドライバユニット20と同一の空気室4bに結合された第2のドライバユニット20bと、第2のドライバユニット20bの背面に結合された第2の音響伝送路とが付加されたものである。以上の点を除いて、第13の実施形態のスピーカーシステム30の各構成は、第3の実施形態のスピーカーシステム30や第1の実施形態の音響伝送路1と同様である。したがって、以下の説明では、同様の構成については、同じ符号を用いることとし、繰り返しの説明を省略する。
図20に示されるように、本実施形態のスピーカーシステム30は、第1の音響伝送部10と第2の音響伝送部10bとを含む。第1の音響伝送路10は、振動板3a、3b、3c、3dを有し、振動板3a、3b、3c、3dによって区画される3個の空気室4a、4b、4cを有する。これら空気室4a、4b、4cのうち中央部に配置された空気室4bには、通孔11が設けられて、第1ドライバユニット20は、その背面が通孔11に面するように管体部1の側壁の外側に配置されている。第2の音響伝送路10bも、第1の音響伝送路10と同様に、振動板3e、3f、3g、3hを有し、振動板3e、3f、3g、3hによって区画される3個の空気室4e、4f、4gを有する。これら空気室4e、4f、4gのうち中央部に配置された空気室4fには、通孔11が設けられて、第2ドライバユニット20bは、その背面が通孔11bに面するように管体部1bの側壁の外側に配置されている。
また、第1ドライバユニット20と同一の空気室4bは、第2ドライバユニット20b用の通孔18が設けられている。たとえば、管体部1の側壁において、第1ドライバユニット20用の通孔11と対向する位置に、第2ドライバユニット20b用の通孔18を設けることができる。そして、第2ドライバユニット20bの前面が、空気室4bに設けられた新たな通孔18に面するように配置されることによって、第2ドライバユニット20bが、第1の音響伝送路10とも音響的に結合している。すなわち、本実施形態のスピーカーシステム30は、前記音響伝送路として第1および第2音響伝送路10、10bを含むとともに、前記電気音響変換器として第1および第2ドライバユニット20、20bを含み、前記第1ドライバユニット20が結合されている前記第1音響伝送路10の管体部1と、前記第2音響伝送路10bの管体部1bとが、前記第2ドライバユニット20bを介して連結されているものといえる。
なお、第2ドライバユニット20bの前面には、第2のドライバ容器12bが形成されており、この第2のドライバ容器12bをなす壁面は、第2ドライバユニット20bを取り囲みつつ、第1および第2の音響伝送部10、10bの各管体部1、1b間を連結している。
ここで、第1の音響伝送部10と第2の音響伝送部10bは、異なる共鳴周波数となるように設定されている。また、第1ドライバユニット20と第2ドライバユニット20bとは逆相の電気信号で駆動される。
以上のように構成される本実施形態のスピーカーシステム30の作用効果について説明する。
本実施形態のスピーカーシステム30によれば、互いに異なる共鳴周波数を持つように設定された複数の音響伝送路である第1の音響伝送路10と第2の音響伝送路10bとを有することにより、単一の音響伝送路に比べて広い周波数範囲で共鳴による音圧増強効果を得ることができる。
(第18の実施形態)
図21は、第18の実施形態のスピーカーシステムの断面図である。本実施形態は、第3の実施形態のスピーカーシステムに第2の音響伝送路を追加したもう一つの例である。本実施形態では、振動板3a、3b、3cおよび3dを含む第1の音響伝送路10と、振動板3e、3f、3gおよび3hを含む第2の音響伝送路10bは、空気室4bを共有して交叉しており、共通のドライバユニット20により駆動される。
第1の音響伝送路10の3個の空気室4a、4b、4cのうち中央部に配置された空気室4bには、通孔11が設けられて、ドライバユニット20は、その背面が通孔11に面するように管体部1の側壁の外側に配置されている。また、空気室4bには、その管体部1の側壁において、互いに対向する一対の開口19、19bが設けられている。そして、開口19には振動板3fが設けられており、開口19bには振動板3gが設けられている。
振動板3fに隣接して新たな空気室4eが設けられ、この空気室4eを外界から区画するように管体部1bが、第1の音響伝送路10の管体部側壁から延びている。管体部1bの先端側には、振動板3fと対向するように振動板3eが設けられている。同様に、振動板3fに隣接して新たな空気室4gが設けられ、この空気室4gを外界から区画するように管体部1cが、第1の音響伝送路10の管体部側壁から延びている。管体部1cの先端側には、振動板3gと対向するように振動板3hが設けられている。
このような構成によれば、質量要素としての振動板3e、3f、3gおよび3hと、これら振動板3e、3f、3gおよび3hによって区画された空気室4e、4b、4gは、第2の音響伝送路10bをなす。この第2の音響伝送路10bは、3個の空気室4e、4b、4gのうち中央に配置された空気室4bを第1の音響伝送路10と共有することとなり、この共有する空気室4bにドライバユニット20が結合されることとなる。
すなわち、本実施形態のスピーカーシステムは、前記音響伝送路として第1および第2の音響伝送路を含み、前記第1および第2の音響伝送路の各管体部は、互いに一つの気室を共有して交叉するように配置されており、前記電気音響交換器は、前記第1および第2の音響伝送路の各管体部によって共有される気室に結合されていることを特徴とする
ここで、第1の音響伝送路10と第2の音響伝送路10bとは異なる共鳴周波数となるように設定されている。すなわち、本実施形態のスピーカーシステム30は、互いに異なる共鳴周波数を持つように設定された第1の音響伝送路10と第2の音響伝送路10bが、互いに一つの空気室4bを共有して交叉するように配置されており、ドライバユニットは、第1の音響伝送路10と第2の音響伝送路10bによって共有される一つの気室4bに結合されている。
以上のように構成される本実施形態のスピーカーシステム30によれば、第1の音響伝送路10と第2の音響伝送路が異なる周波数で共鳴することにより、単一の音響伝送路に比べて広い周波数範囲で共鳴による音圧増強効果を得ることができる。
(第19の実施形態)
本実施の形態は、図1に示すように音響伝送路10の組立キット用の管体モジュールに関する。管体モジュールは、管状部品と、管体部品の内部で管体部品の軸方向に振動可能に設けられた少なくとも一枚の振動板3aと、前記管体部品の一端および他端に設けられた第1および第2のジョイント部と、を有する。ここで、第1ジョイントはオス型ジョイントであり、第2ジョイントは、前記雄型ジョイントと対をなすメス型ジョイントである。
たとえば、少なくとも一枚ずつ振動板3が設けられた複数の管体モジュールを用意し、複数の管体モジュールの第1および第2のジョイント部を着脱可能に連結することによって、前記振動板3と当該振動板3によって区画された気室4a、4b、4cとが交互に配列された音響振動部10が構成される。この場合も、第1実施形態で述べたように、前記振動板3と前記気室4a、4b、4cとの配列の周期性により、前記音響振動部10を伝搬する音響振動の伝搬速度が20Hz以上200Hz以下の周波数範囲において大気中の音速の1/3以下となる。ユーザは、連結させる管体モジュールの数を変更することによって、好みの音質を楽しむことができる。
以上のように本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はこれらの場合に限られず、種々の変形、省略、追加が可能である。