JP4846141B2 - 即効性および持続性を有するフラボノイド配糖体を含有する経口栄養補給剤 - Google Patents

即効性および持続性を有するフラボノイド配糖体を含有する経口栄養補給剤 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の技術分野】
本発明は、水溶性クエルセチン配糖体または水溶性ヘスペレチン配糖体を含有する経口栄養補給剤であって、経口摂取するとルチン類またはヘスペリジン類のその様々な生理作用が即効性と持続性とをもって発揮される経口栄養補給剤に関する。さらに本発明はその製造方法および食品・医薬品などへの用途に関する。
【0002】
【発明の技術的背景】
ソバなどに含まれるルチン、柑橘類果実などに多く含まれるヘスペリジンおよびナリンジンは、フラボノイドに属する物質である。ルチン、ヘスペリジン、ナリンジンは、毛細血管の強化、出血予防等のいわゆるビタミンP作用、消炎・鎮痛作用あるいは動脈硬化、高血圧などを改善する作用を有している。さらに、これらのフラボノイドは、抗酸化作用、紫外線吸収作用、退色防止・風味改善作用などの機能も見出されており、食品、医薬品などの添加物として酸化防止、品質保持の目的に利用されている。本発明者らは、これまでにも多彩な生理作用を発揮する上記ルチン、ヘスペリジン、ナリンジンについて、水への可溶性を高めた配糖体およびその製造方法を開発してきた。ルチン、ヘスペリジン、ナリンジンは、そうした水可溶性の誘導体を利用することにより飲食物、健康食品のほか、疾患の予防剤として医薬品にも供されており、その安全性は高く、有用な機能性素材である。
【0003】
医薬品と同様に健康食品、栄養機能食品、特定保健用食品などにおいてもその目的に適う適切な摂取・利用法を確立することは、これら健康食品などに含まれる有効成分または生理活性物質による生理的効能を担保するためにも望ましい。そのためには有効成分または生理活性物質の吸収、体内における動態、作用機作などに関する情報が必要とされる。
【0004】
一方、摂取した健康食品などからの生理活性物質が、体内に吸収された後、すぐにその効能を発揮する即効性を示すことは、医薬品でもなくても好ましいことである。さらに、吸収された生理活性物質が、生体内で異化代謝を受けることによりその物質の体内濃度が急減してしまう結果、その生理作用が一時的にとどまる場合には、頻繁な服用、多量の摂取が必要であるため煩雑であり負担にもなる。例えば、ビタミンCについてみると、摂取後3時間で血中から消滅するため、その持続的効果を期待する場合には少なくともその間隔でビタミンCを摂取し続ける必要がある。このため、1回の経口摂取により、即効性と持続性を併せ持つ生理活性物質を含む栄養補給剤、医薬品あるいは健康食品などが実現されれば、実用上極めて有用であり、コストパーフォーマンスにも優れるため理想的といえる。
【0005】
本発明者らは、これらの事情に鑑みて鋭意研究を進めた結果、ルチン誘導体またはヘスペリジン誘導体の種類および組成を適宜に組合わせることにより、ルチン類またはヘスペリジン類の多彩な生理作用が即効性および持続性をもって発揮される、水溶性クエルセチン配糖体を含有する経口栄養補給剤あるいは水溶性ヘスペレチン配糖体を含有する経口栄養補給剤を開発して本発明を完成するに至った。
【0006】
本発明の水溶性クエルセチン配糖体または水溶性ヘスペレチン配糖体を含有する経口栄養補給剤は、実際の吸収、生体内での動態を考慮した配合割合を有するため、医薬品として利用できることはもちろん、さらに一般飲食物、健康食品、機能性食品に添加して用いても、上記効果を期待できる。
【0007】
【発明の目的】
本発明は、同一の生理活性を示すが配糖体に起因して溶解度ならびに腸管での吸収速度・吸収量が異なることを利用して、経口摂取後、効能の即効性のみならず持続性をも発揮する割合で水溶性クエルセチン配糖体または水溶性ヘスペレチン配糖体を含有する経口栄養補給剤を提供することを目的とする。さらに本発明は、それらの製造方法ならびに飲食物、医薬品への応用方法を提供することを目的とする。
【0008】
【発明の概要】
本発明に係る水溶性クエルセチン配糖体を含有する経口栄養補給剤は、
モノグルコシルルチンとイソクエルシトリンとを
モノグルコシルルチン: 1
イソクエルシトリン: 0.1〜0.4
さらに所望に応じて、ルチン: 0.001〜0.4
のモル比で含有し、ルチン類の生理作用の即効性および持続性を発揮させることが可能である。
【0009】
上記の水溶性クエルセチン配糖体を含有する経口栄養補給剤は、
モノグルコシルルチンとイソクエルシトリンとを
モノグルコシルルチン: 1
イソクエルシトリン: 0.1〜0.4
さらに所望に応じて、ルチン: 0.001〜0.4
のモル比で含有してなり、経口摂取すると、クエルセチン抱合体について0.5時間後の血中濃度C0.5と8時間後の血中濃度C8との比であるC8/C0.5が0.2〜0.9の範囲内となるように維持可能なことを特徴としている。
【0010】
本発明の、クエルセチン抱合体の血中濃度を長時間維持し、ルチン類の生理作用の即効性および持続性を発揮させることが可能な水溶性クエルセチン配糖体を含有する経口栄養補給剤の製造方法は、
モノグルコシルルチンとイソクエルシトリンとを
モノグルコシルルチン: 1
イソクエルシトリン: 0.1〜0.4
さらに所望に応じて、ルチン: 0.001〜0.4
のモル比でクエルセチン誘導体を含有させることを特徴としている。
【0011】
本発明の水溶性ヘスペレチン配糖体を含有する経口栄養補給剤は、
α-モノグルコシルヘスペリジンとβ‐モノグルコシルヘスペレチンとを
α-モノグルコシルヘスペリジン: 1
β‐モノグルコシルヘスペレチン: 0.1〜0.4
さらに所望に応じて、ヘスペリジン: 0.001〜0.4
のモル比で含有し、ヘスペリジン類の生理作用の即効性および持続性を発揮させることが可能である。
【0012】
上記の水溶性ヘスペレチン配糖体を含有する経口栄養補給剤は、
α-モノグルコシルヘスペリジンとβ‐モノグルコシルヘスペレチンとを
α-モノグルコシルヘスペリジン: 1
β‐モノグルコシルヘスペレチン: 0.1〜0.4
さらに所望に応じてヘスペリジン: 0.001〜0.4
のモル比で含まれてなり、経口摂取するとヘスペレチン抱合体について0.5時間後の血中濃度C0.5と8時間後の血中濃度C8との比であるC8/C0.5が、0.2〜0.9の範囲内となるように維持可能なことを特徴としている。
【0013】
本発明の、ヘスペレチン抱合体の血中濃度を長時間維持し、ヘスペリジン類の生理作用の即効性および持続性を発揮させることが可能な水溶性ヘスペレチン配糖体を含有する経口栄養補給剤の製造方法は、
α-モノグルコシルヘスペリジンとβ‐モノグルコシルヘスペレチンとを
α-モノグルコシルヘスペリジン: 1
β‐モノグルコシルヘスペレチン: 0.1〜0.4
さらに所望に応じて、ヘスペリジン: 0.001〜0.4
のモル比でヘスペレチン誘導体を含有させることを特徴としている。
【0014】
さらに本発明は、上記の経口栄養補給剤を含む医薬品である。
また本発明は、上記の経口栄養補給剤を含む飲食物であってもよい。
【0015】
【発明の具体的説明】
本発明に係る水溶性クエルセチン配糖体を含有する経口栄養補給剤または水溶性ヘスペレチン配糖体を含有する経口栄養補給剤は、モノグルコシルルチンとイソクエルシトリンとを含有するクエルセチン配糖体含有剤、あるいはα‐モノグルコシルヘスペリジンとβ‐モノグルコシルヘスペレチンとを含有するヘスペレチン配糖体含有剤であって、
モノグルコシルルチン: 1
イソクエルシトリン: 0.1〜0.4
さらに所望に応じて、ルチン: 0.001〜0.4、 あるいは
α‐モノグルコシルヘスペリジン: 1
β‐モノグルコシルヘスペレチン: 0.1〜0.4
さらに所望に応じて、ヘスペリジン: 0.001〜0.4、
のモル比で含まれてなり、経口摂取すると、クエルセチン抱合体またはヘスペレチン抱合体について0.5時間後の血中濃度C0.5と8時間後の血中濃度C8との比C8/C0.5が0.2〜0.9の範囲内となるように維持可能であることを特徴とする。
【0016】
吸収されたルチン類またはヘスペリジン類は、生体内ではルチン類間で共通の活性型物質に変換され、あるいはヘスペリジン類の間でも共通の活性型物質に変換されて、それぞれの生理作用を発揮するものと考えられる。したがって、ルチン類の間において個々の誘導体による作用の強弱は別として、発揮される生理効果の内容の違いはないと思われる。同様のことは、ヘスペリジン類の間においてもあてはまる。このことと、ルチン類間、あるいはヘスペリジン類間におけるそれら誘導体の血中動態の違いに着目し、さらに水への溶解性をも考慮して、上記割合に含有させてなる本発明の水溶性クエルセチン配糖体を含有する経口栄養補給剤または水溶性ヘスペレチン配糖体を含有する経口栄養補給剤は、クエルセチン誘導体作用またはヘスペレチン誘導体作用の即効性と持続性の両立を実現するものである。したがって、クエルセチン誘導体またはヘスペレチン誘導体の血中濃度が上記範囲に維持されることは、ほとんど投与直後からルチン類またはヘスペリジン類の生理作用が発揮され、これが8時間以上にわたり持続することが期待できる。また水溶性であるがゆえにドリンク剤をはじめ、あらゆる形態の飲食物に容易にしかも均一に含有させることが可能であり、広範囲な利用が期待できる。
【0017】
以下、本発明に係る水溶性クエルセチン配糖体を含有する経口栄養補給剤または水溶性ヘスペレチン配糖体を含有する経口栄養補給剤、クエルセチン誘導体成分またはヘスペレチン誘導体成分、それらの生体内での動態、製造方法およびそれらの用途について具体的に説明する。
本明細書において、「クエルセチン誘導体」とは、クエルセチン、イソクエルシトリン、ルチン、モノグルコシルルチン、α-グルコシルルチン混合物をまとめた総称であり、場合によっては、「ルチン類」ともいう。同様に「ヘスペレチン誘導体」とは、ヘスペレチン、β‐モノグルコシルヘスペレチン、ヘスペリジン、α‐モノグルコシルヘスペリジン、α-グルコシルヘスペリジン混合物をまとめた総称であり、場合によっては、「ヘスペリジン類」ともいう。
【0018】
また、「クエルセチン抱合体」、「ヘスペレチン抱合体」とは、生体内でのルチン類、ヘスペリジン類の存在形態であり、それらのレベルをもってこれらのフラボノイドの生体内における存在量とみなす。
本発明に係る水溶性クエルセチン配糖体を含有する経口栄養補給剤には、イソクエルシトリンおよびモノグルコシルルチンが含まれており、所望する場合にはさらにルチンが含まれていてもよい。また、水溶性ヘスペレチン配糖体を含有する経口栄養補給剤についても、同様にヘスペリジンを含むヘスペレチン誘導体を包含する。
【0019】
ルチンおよびその誘導体について
・ルチン
ルチン(rutin)は、下記式[I]:
【0020】
【化1】
Figure 0004846141
【0021】
で示されるように、クエルセチン(quercetin、ケルセチンともいう)をアグリコンとし、その3位の水酸基に、L-ラムノシル-(α1→6)-グルコースがβ-結合したフラボノール配糖体をいう。このルチンはソバの全草、イチジク、アオギリ、タバコの葉などに含まれる。ルチンは、ビタミンCとともに脆弱化した血管を正常に戻し、出血を防止するビタミンPとしての作用を有し、さらに消炎・鎮痛作用、骨密度の向上作用を有するほか、紫外線吸収、酸化防止、着色・退色防止などの作用も有する。
【0022】
ルチンは、フェノール性物質であり、空気中では不安定である。また、ルチンは、アルカリ性水溶液には可溶であるが、水、酸性水溶液に難溶であり、室温では、1リットルの水に僅かに0.1g程度しか溶けないため、その利用分野が限定されている。そこで、ルチンの水溶性を高めるための種々の方法およびその誘導体が提案されており、ルチンに糖を転移(付加)させたα-グルコシル化ルチン混合物が開発され(特開平3-27293号公報)、商品名「αG-ルチンP」として市販されている。
【0023】
この「αGルチンP」(以下、「αGルチン」という)は、上記ルチンに酵素グリコシダーゼ、トランスグリコシダーゼなどの転移作用によりデンプン、デキストリンなどからグルコースをルチンのグルコース4位に転移した水溶性ルチンであり、下記式(II)に示すようにグルコース数の異なるα‐グルコシル化ルチンの混合物である。
【0024】
【化2】
Figure 0004846141
【0025】
(但し、式(II)中、Rはグルコース残基、nは1〜数十の整数を表わす)
「αG-ルチン」は、α-位のグルコース残基数(n)が1〜数十の範囲、平均ではnが4〜5程度のα-グルコシル化ルチンの混合物である。このαG-ルチンには、α-位のグルコース残基数(n)が1のモノグルコシルルチン(MGR)などが含まれる。
【0026】
αG-ルチンは水、アルコール等に対する溶解度が高く、水100g当り50g以上溶解し、また濃度50%のアルコール100g当り20g以上溶解する。
このようにαG-ルチンでは、ルチンに比べてその溶解性(水溶性、脂溶性)は向上し、さらに耐熱性、長期保存性などの安定性も改善されている。α-グルコシル化ルチン混合物自体は、ルチンと同様の薬理・生理作用を示し、しかもルチンに比べて約5000倍と著しく水溶性に優れている。
【0027】
・イソクエルシトリン(isoquercitrin、イソケルシトリンともいう)
ルチンにα−1,6−ラムノシダーゼを作用させると、その炭素3位置に結合しているルチノース残基から、ラムノース単位のみが1つ外れてグルコース単位1つのみ残っているルチン誘導体、すなわちイソクエルシトリンが生成する。これもルチンと同様に水に難溶性の化合物であり、上記グルコース残基が外れクエルセチンを生成するため、生理活性はルチンと同様である。
【0028】
・モノグルコシルルチン(MGR)
ルチンのルチノース単位のグルコース残基にグルコース1個を転移させて得られる配糖体である。あるいは、ルチンをα‐グルコシル化した「αG-ルチンP((登録商標)東洋精糖(株)製、商品名)」からグルコースを1残基残す形でα-グルコシダーゼを作用させてもよい。モノグルコシルルチンもまた、α-グルコシル化ルチン混合物と同様に水溶性に優れ、その生理作用は、他のルチン類またはヘスペリジン類と同様である。
【0029】
以上述べてきたルチン(rutin)、クエルセチン(quercetin)、イソクエルシトリン(isoquercitrin)、MGR(monoglucosyl rutin)、αG-ルチン(αG-rutin)の相互関係を下記式(III)に示す。
【0030】
【化3】
Figure 0004846141
【0031】
ヘスペリジンおよびその誘導体
ヘスペリジン(Hesperidin)は、下記式[IV]:
【0032】
【化4】
Figure 0004846141
【0033】
で示されるようにヘスペレチン(5,7,3’-トリヒドロキシ-4’-メトキシフラバノン)の7位の水酸基に、ルチノース(L-ラムノシル-(α1→6)-グルコース)がβ-結合したものをいう。このヘスペリジンは柑橘類の未熟な果皮に含まれ、ヘスペリジンおよびその誘導体は、骨密度を向上させる効果を有することのほか、毛細血管の強化、出血予防、血圧調整等の生理作用を発揮するビタミンPとしての機能も有している。このビタミンP機能を利用する医薬品、化粧品等がこれまで供されてきた。このヘスペリジンは、アルカリ性水溶液には可溶であるが、水、酸に難溶であり、室温では、50Lの水に僅かに1g(約0.002W/V%)程度しか溶けない。本発明では、このヘスペリジンのほか、その溶解性を改善した以下の「酵素処理ヘスペリジン」あるいは「モノグルコシルヘスペリジン高含有物」などのヘスペリジン誘導体を使用する。
【0034】
・β‐モノグルコシルヘスペレチン
ヘスペリジンにα−1,6−ラムノシダーゼを作用させると、その炭素7位置に結合している糖部分、ルチノース残基からラムノース単位のみがはずれ、グルコース残基のみが残っているヘスペリジン誘導体が得られる。このβ‐モノグルコシルヘスペレチンは、下記式[V]で表される。
【0035】
【化5】
Figure 0004846141
【0036】
これもヘスペリジンと同様に水に難溶性の化合物であり、上記グルコース残基が外れてヘスペレチンを生成するため、生理活性はヘスペリジンと同様である。
・α‐モノグルコシルヘスペリジン
ヘスペリジンのルチノース単位のグルコース残基にグルコース1個を転移させて得られる配糖体である。あるいは、ヘスペリジンをα‐グルコシル化した「αG-ヘスペリジンP(東洋精糖(株)製、商品名)」からグルコースを1残基残す形でα-グルコシダーゼを作用させてもよい。ルチンに対するα‐モノグルコシルルチンに相当するヘスペレチン誘導体である。α‐モノグルコシルヘスペリジンもまた、α-グルコシル化ルチン混合物と同様に水溶性に優れ、その生理作用は、他のルチン類またはヘスペリジン類と同様である。
【0037】
生体内における動態
本発明に係る水溶性クエルセチン配糖体を含有する経口栄養補給剤あるいは水溶性ヘスペレチン配糖体を含有する経口栄養補給剤がヒトやそれ以外の動物の体内に経口摂取されると、水溶性クエルセチン配糖体または水溶性ヘスペレチン配糖体を含有する経口栄養補給剤に含まれていたルチン類またはヘスペリジン類などは、腸に到達すると腸内細菌のもつβ‐グルコシダーゼなどの作用を受けて、アグリコンのクエルセチンと糖、あるいはヘスペレチンと糖とに加水分解されてから吸収されると考えられている。後述するように、糖の種類及び糖残基数などにより加水分解は必ずしも同じように進まず、その結果、吸収速度および吸収量の違いになって表われる。
【0038】
ルチン類の場合、モノグルコシルルチンも含め、α-グルコシル化ルチンは、ルチンと同様に経口摂取すると、その糖残基を腸内細菌の作用により順次外してルチンを生成するため、イソクエルシトリンよりも遅れて徐々に吸収される。このことは、α-グルコシル化ヘスペリジンについても同様であり、β-モノグルコシルヘスペレチンよりもその吸収は遅れる。
【0039】
摂取されたイソクエルシトリンは、ルチンと同様に小腸に到達すると腸内細菌の持つβ-グルコシダーゼ作用を受けアグリコンであるクエルセチンと糖に加水分解されて後に体内に吸収されると考えられている。
しかしながら、小腸におけるイソクエルシトリンの吸収速度は、アグリコンのクエルセチンについで速やかであり、ルチン、モノグルコシルルチン、その他のα-グルコシル化ルチンよりも速い。これは、糖の種類およびその付加する位置などにより加水分解の難易が関係しており、ラムノース残基の加水分解は、腸内細菌のα-1,6-ラムノシダーゼの作用によるために容易に進まず、ルチノース単位を構成するグルコースの加水分解は、腸内細菌に多いβグルコシダーゼによるため迅速であると思われる。
【0040】
クエルセチンは、吸収される際に腸の上皮細胞でグルクロン酸抱合化を受けて抱合体として門脈を経て肝臓に送られる。肝臓でさらに抱合化、メチル化反応を受け、その後血流に入り末梢組織に移動するが、最終的には腎臓を経て尿中に***される。
以上のことは、ヘスペリジン類およびそのアグリコンのヘスペレチンについても同様にあてはまる。
【0041】
ルチン類またはヘスペリジン類が生体内における生理活性型に変換されると、ビタミンPとしての機能のほか、血中のコレステロールおよび中性脂質の低下作用、骨密度向上作用などの諸作用を発揮することとなる。
水溶性クエルセチン配糖体または水溶性ヘスペレチン配糖体を含有する経口栄養補給剤
上記のように本発明に係る水溶性クエルセチン配糖体または水溶性ヘスペレチン配糖体を含有する経口栄養補給剤においては、経口摂取後、腸管における吸収速度および吸収量の違いが、その後の血中動態にもそのまま反映される。すなわち、水溶性クエルセチン配糖体の場合には、速やかに吸収されるイソクエルシトリンが、クエルセチンのメチル化体・抱合体として出現するのは、摂取後0.5時間であり、その血中レベルは0.5時間がピークでもあり、その後は低下する。イソクエルシトリンより遅れて吸収されるモノグルコシルルチン(MGR)に由来するアグリコンのメチル化体・抱合体の血中レベルがピークに達するのは、摂取後8時間も経過してからである。同様にルチンは、両者の中間の速度で吸収され、血中レベルがピークに到達するのは摂取して4時間後である。これらのことは、ヘスペリジン類についても同様にいえる。
【0042】
本発明のクエルセチン配糖体を含有する経口栄養補給剤またはヘスペレチン配糖体を含有する経口栄養補給剤は、生体内では同一の生理作用を発揮するこれら水溶性クエルセチン配糖体または水溶性ヘスペレチン配糖体を、糖の種類と結合数に起因する腸管での吸収速度と吸収量の違いを考慮して含有させている。具体的には、本発明に係る、水溶性クエルセチン配糖体または水溶性ヘスペレチン配糖体を含有する経口栄養補給剤において、イソクエルシトリンとモノグルコシルルチンとの含有モル比、あるいはα‐モノグルコシルヘスペリジンとβ‐モノグルコシルヘスペレチンとの含有モル比は、経口摂取後に、クエルセチン抱合体またはヘスペレチン抱合体について0.5時間後の血中濃度C0.5と8時間後の血中濃度C8との比C8/C0.5が0.2〜0.9の範囲内に維持可能となるように決定される。そのような割合で水溶性クエルセチン配糖体を含有する経口栄養補給剤または水溶性ヘスペレチン配糖体を含有する経口栄養補給剤は、血中に出現しピークに到達する時間差に基づき、即効性とともに持続性をも実現することができる。
【0043】
具体的な含有モル比として、ルチン類の場合、モノグルコシルルチン:1に対して、イソクエルシトリンが0.1〜0.4、より好ましくは、0.2〜0.4である。あるいは所望するならば、さらにルチンが共存してもよく、モノグルコシルルチン:1に対して、イソクエルシトリンが0.1〜0.4、ルチンが0.001〜0.4(いずれもモル比)、より好ましくは、イソクエルシトリンが0.2〜0.4、ルチンが0.1〜0.2(いずれもモル比)の組成で含まれてなる経口栄養補給剤が望ましい。
【0044】
このことは、ヘスペリジンについても同様にいえる。すなわち、α‐モノグルコシルヘスペリジン:1に対して、β‐モノグルコシルヘスペレチンが0.1〜0.4、より好ましくは、0.2〜0.4である。あるいは所望するならば、さらにヘスペリジンも共存する場合、α‐モノグルコシルヘスペリジン:1に対して、β‐モノグルコシルヘスペレチンが0.1〜0.4、ヘスペリジンが0.001〜0.4(いずれもモル比)、より好ましくは、β‐モノグルコシルヘスペレチンが0.2〜0.4、ヘスペリジンが0.1〜0.2(いずれもモル比)の組成で含まれてなる経口栄養補給剤が望ましい。
【0045】
これは、含有成分の水への溶解度、さらにそれぞれの腸管における吸収速度および吸収量を総合的に勘案して、血中レベルのクエルセチン誘導体レベルが経時的になるべく大きく変動せず、一定の幅に収まるように適切な範囲を選択したものである。このことは、ヘスペリジンについても同様にいえる。
これらの含有比からなる組成物を経口摂取すると、クエルセチン抱合体について0.5時間後の血中濃度C0.5と8時間後の血中濃度C8との比C8/C0.5が0.2〜0.9の範囲内となるように維持されることとなり、クエルセチン誘導体の生理効果の時間的な平準化が図られ、安定的持続性が達成できる。さらにルチンが第3番目の成分として存在すると、0.5時間〜8時間の間でのクエルセチン誘導体レベルの上昇に寄与する。これは、腸管での吸収量も多いイソクエルシトリンの場合、0.5時間でピークに達し、その後は徐々に低下していくこと、その反面、イソクエルシトリンがルチンと同様に水に難溶性であるため、水溶性クエルセチン配糖体を含有する経口栄養補給剤においてイソクエルシトリンの含有割合をそれほど多くできないことにも関係する。また、水溶性ヘスペレチン配糖体を含有する経口栄養補給剤の場合も同様である。
【0046】
この水溶性クエルセチン配糖体を含有する経口栄養補給剤または水溶性ヘスペレチン配糖体を含有する経口栄養補給剤において、各種クエルセチン誘導体の含有割合は上記のモル比の割合で選択されているが、クエルセチン誘導体またはヘスペレチン誘導体の総体量を、任意の量で含めることができる。例えば0.001〜100重量%の範囲で含めてもよい。本発明に係る水溶性クエルセチン配糖体を含有する経口栄養補給剤または水溶性ヘスペレチン配糖体を含有する経口栄養補給剤では使いやすさなどの観点から、水溶性クエルセチン配糖体または水溶性ヘスペレチン配糖体の総量は、好ましくは0.1〜90重量%、より好ましくは1〜80重量%の割合で含有させる。
【0047】
本発明に係る水溶性クエルセチン配糖体を含有する経口栄養補給剤には水溶性クエルセチン配糖体の混合物を、あるいは水溶性ヘスペレチン配糖体を含有する経口栄養補給剤には、水溶性ヘスペレチン配糖体の混合物を単独で用いてもよいが、本発明の目的を損なわない範囲で他の物質を配合してもよい。例えば、各種アミノ酸、ビタミン類を加えて栄養滋養の強化を図ってもよく、特にビタミンCを配合することにより毛細血管の抵抗性増強などのビタミンP作用において相乗効果を発揮させることができる。
【0048】
さらに水溶性クエルセチン配糖体を含有する経口栄養補給剤または水溶性ヘスペレチン配糖体を含有する経口栄養補給剤の嗜好性および品質向上のために甘味料、増量剤、香味料などの各種成分を1種または2種以上を必要に応じて配合できる。
たとえば水飴、ぶどう糖、マルトース、砂糖、異性化糖、パラチノース、キシリトール、エリスリトール、トレハロース、スクラロース、アセスルファムK、ステオビオシド、L-アスパラチルフェニルアラニンメチルエステル、グリチルリチンなどの甘味料;クエン酸、コハク酸、乳酸、リンゴ酸、グルコン酸などの各種有機酸塩類;各種フレーバーなどの香味料;デキストリン、デンプン、乳糖などの増量剤;などを配合してもよい。さらに一般に食品、医薬品に使用されている各種添加物、たとえば増粘剤、分散剤など任意の成分を含めることができる。
【0049】
本発明に係る水溶性クエルセチン配糖体を含有する経口栄養補給剤または水溶性ヘスペレチン配糖体を含有する経口栄養補給剤の剤型は特に限定されず、粉末状のフラボノイド類をそのまま用いてもよく、あるいは必要に応じて増量剤、賦形剤と混合して顆粒状、球状、キューブ、タブレット状などに成型して使用することができる。さらに水溶性の特徴を生かし、ペーストまたは液状品として用いてもよく、特に液状品では使用上便利なようにその濃度を適宜調節できる。またこの水溶性クエルセチン配糖体を含有する経口栄養補給剤または水溶性ヘスペレチン配糖体を含有する経口栄養補給剤を充填する容器の性能・形態も特に問わない。
【0050】
水溶性クエルセチン配糖体を含有する経口栄養補給剤または水溶性ヘスペレチン配糖体を含有する経口栄養補給剤の製造方法
本発明による水溶性クエルセチン配糖体を含有する経口栄養補給剤の製造方法は、モノグルコシルルチンとイソクエルシトリンとの含有モル比を、経口摂取後にクエルセチン抱合体について0.5時間後の血中濃度C0.5と8時間後の血中濃度C8との比であるC8/C0.5が、0.2〜0.9の範囲内に維持されるように決定して、ルチン類の生理作用の即効性および持続性を発揮させることを可能とする経口栄養補給剤の製造方法である。また水溶性ヘスペレチン配糖体を含有する経口栄養補給剤についても全く同様の製造方法である。たとえば、
モノグルコシルルチン(またはモノグルコシルヘスペリジン): 1
イソクエルシトリン(またはα‐モノグルコシルヘスペリジン):0.1〜0.4
さらに所望に応じて、ルチン(またはヘスペリジン): 0.001〜0.4
のモル比で、クエルセチン誘導体またはヘスペレチン誘導体を含有させてもよい。
【0051】
本発明に係る水溶性クエルセチン配糖体を含有する経口栄養補給剤に使用されるルチンまたはその誘導体、あるいは水溶性ヘスペレチン配糖体を含有する経口栄養補給剤に使用されるヘスペリジンまたはその誘導体は、市販のものを使用できる。これらを所定量秤量し、さらに他に加える物質があればそれらも所定量混合して水溶性クエルセチン配糖体を含有する経口栄養補給剤または水溶性ヘスペレチン配糖体を含有する経口栄養補給剤を調製する。ペースト状または顆粒状にするか、成型する場合には必要量の水などを添加して混捏し、必要により濃縮、乾燥などをすればよい。液状品の場合には水などの溶媒に溶解等すればよい。
【0052】
本発明に係る水溶性クエルセチン配糖体を含有する経口栄養補給剤または水溶性ヘスペレチン配糖体を含有する経口栄養補給剤に使用されるルチンまたはヘスペリジンおよびそれらの誘導体は以下の方法によっても調製できる。
・クエルセチン誘導体
α-グルコシル化ルチンとルチンとの混合物あるいはモノグルコシルルチンとルチンとの混合物から水溶性クエルセチン配糖体含有物を得ることができる。本発明に係る水溶性クエルセチン配糖体含有物の第1の製造方法は、モノグルコシルルチンとルチンとの混合物(B)にα-1,6-ラムノシダーゼ(E.C.3.2.1.40)を作用させて、ルチンをイソクエルシトリンに変化させることを特徴としている。本発明に係る水溶性クエルセチン配糖体含有物の第2の製造方法は、α-グルコシル化ルチンとルチンとの混合物(A)に、グルコアミラーゼ(E.C.3.2.1.3)とα-1,6-ラムノシダーゼを同時または別々に作用させ、α-グルコシル化ルチン混合物をモノグルコシルルチンに変化させるとともに、ルチンをイソクエルシトリンに変化させることを特徴としている。
【0053】
モノグルコシルルチンの製造には、原料としてα-グルコシル化ルチンとルチンとの混合物(A)が用いられ、この混合物(A)は、通常、「αGルチンP」(R)(東洋精糖(株)製)の商品名で市販されている。
αG-ルチンは、例えば下記のようにして製造される。すなわち、前記の式(I)で表わされる、水に極めて難溶(溶解度:水100g当り0.01g程度)であるルチンに、糖供与体としての澱粉あるいはその部分加水分解物(例:デキストリン、マルトース)を加えてなる組成物に、アミラーゼ、グリコシダーゼ、トランスグリコシダーゼなどのグルコース残基転移酵素を作用させて澱粉あるいはその部分分解物からルチンに糖(グルコース)を転移(付加)させることにより、α-グルコシル化ルチン混合物は得られる。
【0054】
上記α-グルコシル化ルチン混合物の製造方法の詳細は、例えば特公昭54ー32073号公報あるいは特公昭58ー54799号公報、特許第2926411号に記載されている。
なお、このようにして得られた反応物には、通常、α-グルコシル化ルチン混合物とともに、未反応のルチンあるいはルチンの分解物であるクエルセチン等も少量含まれている。なお、この明細書中においては、その趣旨に反しない限り、α-グルコシル化ルチン混合物というときは、モノグルコシルルチンを含む。
【0055】
本発明では、少なくともこのようなα-グルコシル化ルチン混合物とルチンとが含まれた混合物から上記水溶性クエルセチン配糖体含有物を酵素処理して得ている。以下、まずはじめに本発明の主な反応工程について詳細に説明するが、第1工程と第2工程のように隣合う工程において、用いられる各酵素が共通の作用を有するものである場合には、先の工程で用いられる酵素にて、それに続く後の工程の反応をも、通常、進行させることができる。
【0056】
[第1工程]
本発明では、α-グルコシル化ルチン混合物とルチンとの混合物(A)に、グルコアミラーゼを作用させて、α-グルコシル化ルチン混合物をモノグルコシルルチンに変える。こうした酵素としては、長瀬産業(株)のグルコチーム、天野製薬(株)のグルクザイムNL、(株)ヤクルトのユニアーゼ30等のグルコアミラーゼの他、田辺製薬のナリンギナーゼ、天野製薬(株)のセルラーゼA「アマノ」3などのような酵素などを例示することができる。すなわち、α-1,4-グルコシル結合を、グルコース単位で切断するグルコアミラーゼ活性を有する酵素であれば自由に用いることができる。さらにα-アミラーゼ、β-アミラーゼ等のように、α-1,4-グルコシル結合をグルコース単位以外でも切断する酵素を用いることもできる。しかしこれらの酵素のうちでは、α-グルコシル化ルチン混合物をモノグルコシルルチンに変える性質に優れたグルコアミラーゼが特に好ましく用いられる。
【0057】
例えば、グルコアミラーゼの一種であるグルコチームは、α-グルコシル化ルチン混合物とルチンとの混合物(A)100g当り、通常、0.01〜10gの量で、好ましくは0.2〜1gの量で、換言すれば、混合物(A)中のα-グルコシル化ルチン混合物含有量100g当り、通常、0.01〜11gの量で、好ましくは0.2〜1gの量で用いられる。このような量でグルコチームを用いると、効率的(変換率99%程度)にα-グルコシル化ルチン混合物をモノグルコシルルチンに変換することができる。
【0058】
このようにα-グルコシル化ルチン混合物とルチンと混合物(A)にグルコアミラーゼなどの酵素を作用させる際には、用いられる酵素の種類、活性などの違いにより一概に決定されないが、例えば、グルコチームでは、混合物(A)含有溶液のpHを無機酸、有機酸等を用いて3〜6程度に調節することが好ましい。また、このモノグルコシル化反応の際には、35〜65℃程度の温度で、1〜60時間程度保持することが好ましい。
【0059】
このように、混合物(A)中のα-グルコシル化ルチン混合物に酵素を作用させて得られたモノグルコシルルチンとルチンとの混合物(B)に、第2工程では、α-1,6-ラムノシダーゼを作用させて、混合物(B)中のルチンをイソクエルシトリンに変える。
[第2工程]
本発明では、モノグルコシルルチンとルチンとの混合物(B)に、α-1,6-ラムノシダーゼを作用させて、混合物(B)中のルチンからラムノース単位が取れたイソクエルシトリンに変える。この混合物(B)は、上記第1工程で原料(A)を用いて得られるものに限らず、公知の方法で得られた原料(B)を用いることもできる。
【0060】
第2工程で用いられる酵素は、α-1,6-ラムノシダーゼ活性を有する酵素であれば、いずれもルチンをイソクエルシトリンに変えることができる。このような酵素として田辺製薬(株)のヘスペリジナーゼ2号、ナリンギナーゼ、天野製薬(株)のセルラーゼA「アマノ」3などを挙げることができる。
例えば、田辺製薬(株)のヘスペリジナーゼ2号は、モノグルコシルルチンとルチンとの混合物(B)100g当り、通常、0.01〜10gの量で、好ましくは0.3〜2gの量で、換言すれば、混合物(B)中のルチン含有量100g当り、通常、0.05〜50gの量で、好ましくは1.5〜10gの量で用いられる。このような量でヘスペリジナーゼを用いると、効率的(変換効率99%程度)にルチンをイソクエルシトリンに変換することができる。
【0061】
なお、後述するように、原料(A)に、第1工程と第2工程の酵素を加えこれらの反応を実質的に同時に進行させる場合において、両工程に共通の酵素(例:ナリンギナーゼあるいはセルラーゼA「アマノ」)を用いる場合には、その量を適宜加減し設定することができる。
モノグルコシルルチンとルチンと混合物(B)にα-1,6-ラムノシダーゼなどの酵素を作用させる際には、用いられる酵素の種類、活性などの違いにより一概に決定されないが、通常、例えば、ヘスペリジナーゼでは、混合物(B)含有溶液のpH、温度、反応時間を第1工程のモノグルコシル化反応の場合と同様に保持することが好ましい。
【0062】
本発明では、このような第2工程により、モノグルコシルルチンとイソクエルシトリンとの混合物である水溶性クエルセチン配糖体含有物が得られる。
なお、上記反応は還元剤の存在下に行うことが好ましい。ここで使用される還元剤としてはα-グルコシル化ルチン混合物あるいは反応生成物を過度に還元しないような還元力を有すると共に溶存酸素や空気による酸化を有効に防止し得る程度の還元力を有するものが好ましく、さらにモノグルコシルルチンの用途を考慮すると生体に対する影響力の少ないものが好ましい。このような還元剤の例としてはアスコルビン酸及びアスコルビン酸塩を挙げることができ、一般にはアスコルビン酸が使用される。その使用量はα-グルコシル化ルチン混合物100gに対して0.1〜5g程度の量である。このような量のアスコルビン酸は製造工程で容易に除去される。
【0063】
上記の酵素処理液より、モノグルコシルルチン、イソクエルシトリンを一般的な精製方法すなわち、ろ過、遠心分離、ゲルろ過法、吸着またはイオン交換のクロマトグラフィーなどを適宜適用することによりほぼ純粋に近い状態にそれぞれ単離することができる。
なお、上記酵素処理溶液を得る際に、酵素処理の条件を調整することにより、モノグルコシルルチンおよびイソクエルシトリンの含有量、さらには所望する場合にはルチンの含有量が、本発明に係る水溶性クエルセチン配糖体を含有する経口栄養補給剤のそれぞれの組成に近い状態になるようにして、その後の精製工程を簡単なもの、あるいは不必要とすることも可能である。
【0064】
・ヘスペレチン誘導体
本発明に係る剤に使用されるヘスペリジンまたはその誘導体は市販のものを使用できる。例えば、ヘスペリジンのグルコシル化誘導体としては、東洋精糖(株)製の、「αGヘスペリジン」(登録商標)を使用できる。
また、本発明に係る剤に使用されるヘスペレチン誘導体は以下の方法によっても調製できる。
【0065】
α‐モノグルコシルヘスペリジンおよびβ‐モノグルコシルヘスペレチンは、α-グルコシルヘスペリジンとヘスペリジンとを含有する溶液、たとえば上記「酵素処理ヘスペリジン」溶液に、グルコアミラーゼおよびα-L-ラムノシダーゼを別々にまたは同時に作用させて、得られた酵素処理液から適当な分離手段によりそれぞれ分取すればよい。グルコアミラーゼは、α-グルコシルヘスペリジンのラムノースはそのままで、ヘスペレチン骨格7位のグルコース4位にα-1,4結合で多数結合しているグルコース(G)nのうちの1個のみを残して加水分解して、α-モノグルコシルヘスペリジンに変える。他方、α-L-ラムノシダーゼは、ルチノース部分のラムノース単位のみを加水分解し、グルコース単位は残す。
【0066】
「酵素処理ヘスペリジン」は、付加グルコース数の異なるα-グルコシルヘスペリジンおよび未反応のヘスペリジンが含まれる混合物である。この「酵素処理ヘスペリジン」については、特開平3-7593号公報に、ヘスペリジンに澱粉部分分解物(α-グルコシル糖化合物)共存下で糖転移酵素(α-グルコシル転移活性を有する酵素)を作用させる製造方法が開示されている。その主成分のα-グルコシルヘスペリジンは、式[I]で示されるヘスペリジンのグルコースの4位位置にグルコース(G)がα-1,4結合で順次n個(1〜20個)結合した化合物である。
【0067】
上記方法による「酵素処理ヘスペリジン」の調製において、原料液に含まれるヘスペリジンの40〜80%が酵素処理によりα-グルコシルヘスペリジンに変換されるが、20〜60%は未反応ヘスペリジンとして残存している。未反応ヘスペリジンは、α-グルコシルヘスペリジンが共存すると、水溶液中での溶解性が高まっている。しかし、α-グルコシルヘスペリジンに対して未反応ヘスペリジンの比率が高いと、短時間に未反応ヘスペリジンが不溶化して析出してくる。この現象は上記酵素処理ヘスペリジンを液状物の形態で利用する場合には不都合なこととなる。
【0068】
このような問題点を解決したのが、未反応ヘスペリジンをβ-モノグルコシルヘスペレチンに変換し、α-グルコシルヘスペリジンまたはモノグルコシルヘスペリジンと共存させる方法である。これは特開平10-70994号公報に示されている方法により調製される。未反応ヘスペリジンは、β-モノグルコシルヘスペレチンに変換されており、該混合物は著しく水溶性に優れ、長期間経過しても白濁などが生じない。
【0069】
効率の観点からは、以下に述べる「モノグルコシルヘスペリジン高含有物」を上記の「酵素処理ヘスペリジン」から調製し、ヘスペレチン誘導体それぞれを精製して得る方法が好ましい。そのためには、クエルセチン誘導体の精製で述べたようなろ過、ゲルろ過法、イオン交換クロマトグラフィーなどの精製法を利用することによりほぼ純粋に近い状態にそれぞれ単離することができる。
【0070】
「モノグルコシルヘスペリジン高含有物」の製法は、特開平10-323196号公報に記載されている。α-グルコシルヘスペリジンと未反応ヘスペリジンとを含有する「酵素処理ヘスペリジン」の溶液に、グルコアミラーゼと、α-L-ラムノシダーゼ活性を有する酵素、たとえばヘスペリジナーゼ(田辺製薬(株)製)とを作用させる「第I法」(特開平10-323196号公報)を採用することが好ましい。「モノグルコシルヘスペリジン高含有物」を得るための酵素使用量、pH、温度、作用時間などが具体的に開示されている。
【0071】
「モノグルコシルヘスペリジン高含有物」からα-モノグルコシルヘスペリジンなどの分取方法については、特開平10-323196号公報に詳述されており、つぎのように多孔性吸着樹脂を利用する方法が簡便である。
多孔性吸着樹脂としては、具体的には、たとえばHP−20、HP−50、XAD−2などの非極性樹脂、XAD−7などの中間極性樹脂が好ましく用いられる。カラムに上記の多孔性吸着樹脂を充填し、高濃度のエタノール水溶液などで活性化しておく。そのカラムに、上記酵素処理αモノグルコシルヘスペリジン含有液を10〜60℃の温度で通液するなどの方法で、該樹脂に接触させ、これによりα-モノグルコシルヘスペリジン、β-モノグルコシルヘスペレチン、ヘスペリジンなどを吸着させる。
【0072】
ついで、充填樹脂容量の1〜4倍量の水で洗浄して遊離糖を主体とする夾雑物を除去したのち、アルコール、アルコール-水(アルコール/水=50〜100/25〜1)などの溶離液を10〜60℃の温度で通液するなどの方法で、該樹脂に吸着残留しているα-モノグルコシルヘスペリジン、β-モノグルコシルヘスペレチン、ヘスペリジンなどを段階的に溶出させる。
【0073】
本操作により、α-モノグルコシルヘスペリジン1重量部に対して、β-モノグルコシルヘスペレチンが0.5重量部以下、ヘスペリジンおよびヘスペレチンがそれぞれ0.1重量部以下、そして糖類などのその他の成分が0.1重量部以下の量である溶出液が得られる。
さらにα-モノグルコシルヘスペリジンを純粋に近い状態まで精製するには、低級アルコールを使った分画操作を行うことができる。その操作の詳細は、上記公報に記載されている。低級アルコールへの溶解度の差を利用したこの方法を適用することにより、併せてβ-モノグルコシルヘスペレチンもまた単離することもできる。
【0074】
なお、上記「モノグルコシルヘスペリジン高含有物」を得る際に、酵素処理の条件を調整することにより、α‐モノグルコシルヘスペリジンおよびβ‐モノグルコシルヘスペレチンの含有量、さらには所望する場合にはヘスペリジンの含有量が、本発明に係るヘスペレチン配糖体を含有する経口栄養補給剤のそれぞれの組成に近い状態になるようにして、その後の精製工程を簡単なもの、あるいは不必要とすることも可能である。
【0075】
水溶性クエルセチン配糖体を含有する経口栄養補給剤または水溶性ヘスペレチン配糖体を含有する経口栄養補給剤の用途
本発明に係る水溶性クエルセチン配糖体を含有する経口栄養補給剤または水溶性ヘスペレチン配糖体を含有する経口栄養補給剤について、以下に有用な利用態様を例として挙げるが、該水溶性クエルセチン配糖体を含有する経口栄養補給剤または水溶性ヘスペレチン配糖体を含有する経口栄養補給剤の用途がこれらに限定されるわけではない。
【0076】
上記水溶性クエルセチン配糖体を含有する経口栄養補給剤または水溶性ヘスペレチン配糖体を含有する経口栄養補給剤は、一般食品、健康食品、機能性食品、栄養強化食品として、あるいはビタミンPなどの他の薬効にも注目して医薬品、薬剤原料としての用途が挙げられる。
医薬品として利用される場合、ルチン類またはヘスペリジン類の様々な薬効を活かす利用形態が考えられる。例えば、ビタミンPの生理作用を発揮させることができるとともに、さらに消炎・鎮痛作用、抗酸化、中性脂質またはコレステロール低下の機能も期待される。特に血糖値が高い場合に糖とタンパク質のアミノ酸残基との結合に示される生体内グリケーションの抑制作用、抗老化、骨密度向上作用などの効能も示されている。したがってこれらの諸作用を保持した形で、従来の血管強化用など循環器疾患の治療用医薬品の成分原料としても使用しうる。このような医薬品としてはビタミンP強化剤;循環器系疾患、感受性疾患等の予防剤または治療剤(抗感受性疾患剤);などが挙げられる。
【0077】
本発明に係る水溶性クエルセチン配糖体を含有する経口栄養補給剤または水溶性ヘスペレチン配糖体を含有する経口栄養補給剤の多くは、抗酸化作用をも有するため、食品、医薬品などに添加されれば、水溶性クエルセチン配糖体本来の生理作用に加えて食品、医薬品などの酸化防止効果も期待できる。したがって、水溶性クエルセチン配糖体を含有する経口栄養補給剤または水溶性ヘスペレチン配糖体を含有する経口栄養補給剤を食品(健康食品、機能性食品、栄養強化食品等を含む)、医薬品などに添加することにより異味異臭の発生、変色または毒性物質の生成などを有効に防止し、その品質あるいは栄養価を維持することができる。上記各種疾患の治療用として経口投与される医薬品などにおいては、呈味の改善効果と抗酸化作用も強化される。そのような医薬品としては、たとえば、経腸栄養剤、補助栄養剤、水薬、シロップ剤などが挙げられる。
【0078】
以上述べたような一般飲食物(健康食品、機能性食品、栄養強化食品等を含む)、嗜好品、医薬品などに本発明の水溶性クエルセチン配糖体を含有する経口栄養補給剤または水溶性ヘスペレチン配糖体を含有する経口栄養補給剤を使用するには、その製品が完成するまでの工程のうち適切な段階で、この水溶性クエルセチン配糖体を含有する経口栄養補給剤または水溶性ヘスペレチン配糖体を含有する経口栄養補給剤を添加することができる。例えば、水溶性クエルセチン配糖体を含有する経口栄養補給剤または水溶性ヘスペレチン配糖体を含有する経口栄養補給剤を添加する際に他の配合成分と混合、混和、混捏してもよく、飲食物などに水溶性クエルセチン配糖体を含有する経口栄養補給剤または水溶性ヘスペレチン配糖体を含有する経口栄養補給剤を浸透、溶解、散布、塗布、噴霧、注入などしてもよく、また液状の水溶性クエルセチン配糖体を含有する経口栄養補給剤または水溶性ヘスペレチン配糖体を含有する経口栄養補給剤に飲食物を浸漬してもよく、そのために従来より公知の方法が適宜採用される。
【0079】
本発明の水溶性クエルセチン配糖体を含有する経口栄養補給剤または水溶性ヘスペレチン配糖体を含有する経口栄養補給剤を摂取する形態は、単独であるいは医薬品としてあるいは食品として摂取する場合にその用量・用法は必ずしも同一ではない。しかしながら、水溶性クエルセチン配糖体を含有する経口栄養補給剤または水溶性ヘスペレチン配糖体を含有する経口栄養補給剤の有効成分の起源は、もともと天然物由来の化合物であり、昔から食に供されてきた植物から抽出されたものであり、極めて安全性に優れている。したがって、副作用、摂取量の制限は少なく、継続的摂取の弊害も通常の場合にはないと考えられる。
【0080】
【実施例】
以下、本発明について実施例に基づいてさらに具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例により何ら限定されるものではない。
なお、以下の例において、「%」は、特にその趣旨に反しない限り「重量%」の意味である。
【0081】
【実施例1】
クエルセチン、イソクエルシトリン、ルチンは水に溶けないためプロピレングリコールに溶解し、MGRおよびαG-ルチンは水溶液として、F344ラット(雄、5週令)に、経口的に単回投与して、血中動態を調べた。ラット体重Kg当たり50μmoles(ルチンとして30mg/Kg)となるように投与し、投与後、0.5、1、2、4、8時間の各時点で採血した。血漿を37℃で20分間、β-グルクロニダーゼ処理した後、0.01Mシュウ酸を加えて混合し、これをSep-Pak C18カートリッジに通し、0.01Mシュウ酸、水、25%メタノール、100%メタノールの順に溶出液を通した。得られた100%メタノール画分についてHPLC分析を行った。HPLCは、Capcell Pak C18-UG120(Shiseido)カラムを使用し、溶出条件は、メタノール-TFAを移動層とし、流速は0.5ml/分、372nmで溶出物を検出した。定量は、各ルチンおよびルチン誘導体の投与群とも、総グルクロン酸抱合体量として求めた。
【0082】
<結果>
各投与群について、血漿中のクエルセチン誘導体(グルクロン酸抱合体として測定)の経時変化は、図1に示すように変化した。
プロピレングリコールで溶解したクエルセチン、イソクエルシトリン投与群では、投与後0.5時間でピークに達し、その後は徐々に減少していった。
【0083】
これに対し、同様に処理したルチン投与群では4時間後に、MGR投与群では、8時間後にピークに到達した。一方、αG-ルチン投与群では、0.5時間および8時間時点の2回、ピークが観測された。αG-ルチンは、MGRとイソクエルシトリンの混合物でもあることから、0.5時間後のピークは、イソクエルシトリン由来、8時間後のピークはMGR由来のピークであると考えられる。
【0084】
各クエルセチン誘導体は、いずれも50μmoles/Kg体重と等量投与したが、各投与群間で、血中への出現速度とともにピーク高低の違いも観測された。
<考察>
図1に示す各クエルセチン誘導体の吸収と動態に関する結果は、ラットの実験結果であるが、これと同様の結果がヒトの場合でも得られており、ラットおよびヒト間に共通点が多いと考えられる。
【0085】
図1から明らかなように、プロピレングリコールで溶解したクエルセチンおよびイソクエルシトリンは、ルチンおよびその誘導体間で最も早くしかも効率よく腸管に吸収されることがわかる。とくにイソクエルシトリンは、投与後0.5時間時点でのピークが、クエルセチンのピークより2倍高く、吸収量が多いことを示している。両者はいずれも水にほとんど溶けないが、イソクエルシトリンがαグルコシルルチンと共存する場合、より溶解性が高まることから、本発明の水溶性クエルセチン配糖体を含有する経口栄養補給剤ではイソクエルシトリンを利用し、同様にヘスペレチン配糖体を含有する経口栄養補給剤では、β-モノグルコシルヘスペレチンを利用する。
【0086】
2回ピークが観測されたαG-ルチンは、単独に単回投与しても2つのピーク間では、生理効果の平準化を図ることはできない。これに対し、イソクエルシトリンとMGRとの混合物を摂取したとすると、αG-ルチンの摂取と同様に2つの時点でピークが出現するものと考えられる。しかも、0.5時間以降8時間までの間のクエルセチン誘導体濃度(実際はクエルセチン抱合体レベル)は、両者の量比を調整することにより高くすることができる。すなわち、本実施例では、異なる群においてしかも投与量の比は、イソクエルシトリン:MGRが1:1であったが、両誘導体の量比を適切に選べば、αG-ルチンの場合と違い、両誘導体の含有物を投与した場合には、0.5時間および8時間時点の2回ピークは、高いレベルにすることができ、しかもその間も低レベルに落ち込むことはない。したがって、イソクエルシトリンとMGRとの含有物を摂取すると、ルチンあるいはその誘導体を単独に摂取する場合と違い、ルチン類またはヘスペリジン類の作用の即効性および持続性が実現できる。このことを図1の結果を基にして以下、具体的にさらに検証する。
【0087】
本発明に係るクエルセチン誘導体を含有する経口栄養補給剤において、水易溶性のモノグルコシルルチン1モルに対し、水難溶性のイソクエルシトリンを0.2モルの割合で含有させた場合を想定する。図1においては、0.5時間および8時間時点でのクエルセチン抱合体の血漿レベルが、イソクエルシトリン投与群ではそれぞれ0.45μg/ml、0.07μg/mlであり、モノグルコシルルチン投与群では、それぞれ、0μg/ml、0.04μg/mlであった。この結果を利用すると、上記した想定の割合で含有する経口栄養補給剤を摂取した場合、0.5時間および8時間時点でのクエルセチン抱合体の血漿レベルは、それぞれ、0.45×0.2+0 μg/ml, 0.07×0.2+0.04×1 μg/ml、すなわち、 0.09μg/ml、 0.054μg/mlとなる。結局、クエルセチン抱合体について0.5時間後の血中濃度C0.5と8時間後の血中濃度C8との比C8/C0.5は、0.6となり、0.2〜0.9の範囲内にはいっている。
【0088】
以上述べてきたことは、ヘスペリジンについても同様にいえる。
【0089】
【実施例2】
F344ラット(雄、6週令)にクエルセチン、MGRおよびαG-ルチンを別個に、それぞれ1,000ppmの濃度に含まれるように通常の固形飼料に添加した食餌を1週間与えた。ルチンおよびその誘導体の投与後、1週間時点でそれらの消化管動態をみるため、各群のラットを、採血後、腸管内容物を回収した。小腸、盲腸、大腸を、それぞれ両端を手術糸で結紮して摘出した。それらの内容物を0.9%塩化ナトリウム溶液で押し出して充分に混合した後、遠心分離(3,000rpm、10分間)して、上清を分析サンプルとして得た。
【0090】
血漿と同様に、β-グルクロニダーゼ処理(37℃、20分間)した後、0.01Mシュウ酸を加えて混合し、これをSep-Pak C18カートリッジに通し、0.01Mシュウ酸、水、25%メタノール、100%メタノールの順に溶出液を通した。得られた25%および100%メタノール画分についてHPLC分析をした。Capcell Pak C18-UG120(Shiseido)カラムを使用し、溶出条件は、メタノール-TFAを移動層とし、流速は0.5ml/分、275nmまたは372nmで溶出物を検出した。定量は、各ルチンおよびルチン誘導体の投与群とも、総グルクロン酸抱合体量として求めた。
【0091】
<結果>
MGR投与群およびαG-ルチン投与群では、小腸でおもにルチン、盲腸でクエルセチンが検出された。クエルセチン投与群では、小腸でクエルセチン、タマリキセチン、イソラムネチンが、盲腸ではクエルセチンが検出された。血漿中には実施例1の場合と比べると、微量であるがクエルセチンが検出された。
【0092】
以上のことから、MGRは、小腸で糖残基が1つ外れたルチンに分解され、盲腸ではクエルセチンにまで分解されるように、消化管内で徐々に分解されていくことが判明した。このように糖が付加すると腸管への吸収速度が遅く、吸収量も少なくなる傾向がある。おそらく吸収までに腸内細菌の酵素による加水分解作用を受けることによると考えられる。
【0093】
これらのことは、ヘスペリジンについても同様にいえると考えられる。
【0094】
【実施例3】
・経管経口栄養剤の製造
結晶性α‐マルトース20重量部、グリシン1.1重量部、グルタミン酸ナトリウム0.18重量部、食塩1.2重量部、クエン酸1重量部、乳酸カルシウム0.4重量部、炭酸マグネシウム0.1重量部、水溶性クエルセチン配糖体組成物(モノグルコシルルチン1、イソクエルシトリン0.21、ルチン0.02、各モル比)0.1重量部、チアミン0.01重量部およびリボフラビン0.01重量部からなる配合物を調製した。この配合物24gずつをラミネートアルミ製小袋に充填し、ヒートシールして経管経口栄養剤を調製した。
【0095】
本経管経口栄養剤は、一袋約300〜500mlの滅菌水に溶解し、経管方法により鼻腔、胃、腸などへの経口的または非経口的栄養補給液として有利に利用できる。
【0096】
【実施例4】
・グレープフルーツゼリーの製造
マルチトール6重量部、安定剤1.2重量部、グレープフルーツ砂のう1重量部、pH調整剤0.9重量部、グレープフルーツ果汁(1/6濃縮)、水溶性ヘスペリジン配糖体組成物(α‐モノグルコシルヘスペリジン1.0、β‐モノグルコシルヘスペリジン0.18、ヘスペリジン0.01、各モル比)0.1重量部、酵素処理ステビア0.04重量部、ベニバナ黄色0.01重量部に精製水を加えて全体を100重量部としたグレープフルーツゼリーを調製した。
【0097】
本ゼリーを摂取すると、ヘスペリジンの有する生理機能が即効的、持続的に期待できる。
【0098】
【実施例5】
・酢酸飲料の製造
リンゴ酢10重量部、米酢6重量部、クエン酸2重量部、リンゴ酸2重量部、異性化糖38重量部、酵素処理ステビア0.7重量部、ソルビット1重量部、リンゴエッセンス0.5重量部、リンゴ果汁(1/5濃縮)2重量部、水溶性クエルセチン配糖体組成物(モノグルコシルルチン1、イソクエルシトリン0.21、ルチン0.02、各モル比)0.1重量部を調製した。
【0099】
本飲料を摂取することにより、ルチンの有する生理機能が即効的、持続的に発揮されることが期待できる。
【0100】
【発明の効果】
本発明に係る水溶性クエルセチン配糖体を含有する経口栄養補給剤あるいは水溶性ヘスペレチン配糖体を含有する経口栄養補給剤は、ルチン類、ヘスペリジン類の生理作用が即効性および持続性をもって発揮されるような割合で水溶性クエルセチン配糖体を含有する経口栄養補給剤または水溶性ヘスペレチン配糖体を含有する経口栄養補給剤である。すなわち、含有されるイソクエルシトリンとモノグルコシルルチンとのモル比、あるいはα‐モノグルコシルヘスペリジンとモノグルコシルヘスペリジンとのモル比が、クエルセチン抱合体またはヘスペレチン抱合体について経口摂取0.5時間後の血中濃度C0.5と8時間後の血中濃度C8との比C8/C0.5が0.2〜0.9の範囲内に維持されるように決定して各成分を含める。本発明の上記組成物により、ルチン類を含む水溶性クエルセチン配糖体を含有する経口栄養補給剤または水溶性ヘスペレチン配糖体を含有する経口栄養補給剤の作用が、投与後0.5時間で示される即効性ならびに8時間時点までその血中レベルが維持される持続性の両立が達成されるものである。
【0101】
本発明に係る水溶性クエルセチン配糖体を含有する経口栄養補給剤または水溶性ヘスペレチン配糖体を含有する経口栄養補給剤を直接摂取するか、あるいはこの水溶性クエルセチン配糖体を含有する経口栄養補給剤または水溶性ヘスペレチン配糖体を含有する経口栄養補給剤を含む飲食物または医薬品を摂取すると、その組成に基づいて意図された吸収速度および血中への出現量が実現され、含まれているクエルセチン誘導体あるいはヘスペレチン誘導体が具えるビタミンPの諸作用のほか、消炎・鎮痛作用、血中の中性脂質、コレステロールの低下および骨密度の向上などの作用が効率よくしかも持続的に発揮されることを期待できる。したがって、投与回数、投与量が少なくなりコストパーフォーマンスに優れることとなる。また水溶性であるため、あらゆる形態の飲食物、医薬品に容易にしかも均一に含有させることが可能であり、広範囲な利用が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、血漿中のクエルセチン誘導体(グルクロン酸抱合体として)レベルの経時変化を示す。

Claims (8)

  1. モノグルコシルルチンとイソクエルシトリンとを
    モノグルコシルルチン: 1
    イソクエルシトリン: 0.1〜0.4
    さらに所望に応じて、ルチン: 0.001〜0.4
    のモル比で含有し、ルチン類の生理作用の即効性および持続性を発揮させることが可能な水溶性クエルセチン配糖体を含有する経口栄養補給剤。
  2. モノグルコシルルチンとイソクエルシトリンとを
    モノグルコシルルチン: 1
    イソクエルシトリン: 0.1〜0.4
    さらに所望に応じて、ルチン: 0.001〜0.4
    のモル比で含有してなり、経口摂取すると、クエルセチン抱合体について0.5時間後の血中濃度C0.5と8時間後の血中濃度C8との比であるC8/C0.5が0.2〜0.9の範囲内となるように維持可能なことを特徴とする請求項第1項記載の水溶性クエルセチン配糖体を含有する経口栄養補給剤。
  3. モノグルコシルルチンとイソクエルシトリンとを
    モノグルコシルルチン: 1
    イソクエルシトリン: 0.1〜0.4
    さらに所望に応じて、ルチン: 0.001〜0.4
    のモル比でクエルセチン誘導体を含有させることを特徴とする、クエルセチン抱合体の血中濃度を長時間維持し、ルチン類の生理作用の即効性および持続性を発揮させることが可能な水溶性クエルセチン配糖体を含有する経口栄養補給剤の製造方法。
  4. α-モノグルコシルヘスペリジンとβ‐モノグルコシルヘスペレチンとを
    α-モノグルコシルヘスペリジン: 1
    β‐モノグルコシルヘスペレチン: 0.1〜0.4
    さらに所望に応じて、ヘスペリジン: 0.001〜0.4
    のモル比で含有し、ヘスペリジン類の生理作用の即効性および持続性を発揮させることが可能な水溶性ヘスペレチン配糖体を含有する経口栄養補給剤。
  5. α-モノグルコシルヘスペリジンとβ‐モノグルコシルヘスペレチンとを
    α-モノグルコシルヘスペリジン: 1
    β‐モノグルコシルヘスペレチン: 0.1〜0.4
    さらに所望に応じてヘスペリジン: 0.001〜0.4
    のモル比で含まれてなり、経口摂取するとヘスペレチン抱合体について0.5時間後の血中濃度C0.5と8時間後の血中濃度C8との比であるC8/C0.5が、0.2〜0.9の範囲内となるように維持可能なことを特徴とする請求項第4項記載の水溶性ヘスペレチン配糖体を含有する経口栄養補給剤。
  6. α-モノグルコシルヘスペリジンとβ‐モノグルコシルヘスペレチンとを
    α-モノグルコシルヘスペリジン: 1
    β‐モノグルコシルヘスペレチン: 0.1〜0.4
    さらに所望に応じて、ヘスペリジン: 0.001〜0.4
    のモル比でヘスペレチン誘導体を含有させることを特徴とする、ヘスペレチン抱合体の血中濃度を長時間維持し、ヘスペリジン類の生理作用の即効性および持続性を発揮させることが可能な水溶性ヘスペレチン配糖体を含有する経口栄養補給剤の製造方法。
  7. 請求項1、2、4、5のいずれかに記載の経口栄養補給剤を含む医薬品。
  8. 請求項1、2、4、5のいずれかに記載の経口栄養補給剤を含む飲食物。
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