JP4835367B2 - 浸炭部品または浸炭窒化部品 - Google Patents
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ここで、不完全焼入層とは、部品を加工方向に直角に切断し、その面を被検面として鏡面研磨した後ナイタールで0.5〜2秒腐食し、光学顕微鏡によって部品の最表面を含むように倍率1000倍で観察した場合に濃く腐食されている部分を指す。
C:0.10〜0.30%
Cは、浸炭部品または浸炭窒化部品の強度確保のために必須の元素であり、0.10%以上の含有量が必要である。しかしながら、Cの含有量が多くなると、硬さが大きくなって切削性の低下を招き、特に、その含有量が0.30%を超えると、硬さ上昇に伴う切削性の低下が著しくなる。したがって、Cの含有量を0.10〜0.30%とした。
Siは、焼入性を向上させる作用および脱酸作用を有する。Siには、焼戻し軟化抵抗を高めて、ピッチング強度を向上させる作用もある。これらの効果を得るには、0.05%以上の含有量が必要である。しかしながら、Siの含有量が多くなると、硬さが大きくなって切削性の低下を招き、特に、その含有量が1.0%を超えると、硬さ上昇に伴う切削性の低下が著しくなる。しかも、Siの含有量が多くなると、浸炭ガス中に含まれる微量のH2OまたはCO2によってSiが選択酸化され、Si酸化物が形成される。このSi酸化物の形成は、焼入性向上元素であるSiの表面部での欠乏を招くことになるので、不完全焼入層の深さが大きくなり、特に、Siの含有量が1.0%を超えると、不完全焼入層の深さ増大が顕著になる。したがって、Siの含有量を0.05〜1.0%とした。なお、より好ましいSiの含有量は0.05〜0.80%である。
Mnは、焼入性を向上させる作用および脱酸作用を有する。これらの効果を得るには、0.35%以上の含有量が必要である。しかしながら、Mnの含有量が多くなると、硬さが大きくなって切削性の低下を招き、特に、その含有量が1.5%を超えると、硬さ上昇に伴う切削性の低下が著しくなる。しかも、Mnの含有量が多くなると、Siの場合と同様に、不完全焼入層の深さが大きくなり、特に、Mnの含有量が1.5%を超えると、不完全焼入層の深さ増大が顕著になる。したがって、Mnの含有量を0.35〜1.5%とした。なお、Mnの含有量は0.4〜1.2%とすることがより好ましい。
Pは、鋼に含有される不純物で、フェライトを強化する作用を有するものの、結晶粒界に偏析して鋼を脆化させ、特に、その含有量が0.030%を超えると鋼の脆化が著しくなる。したがって、Pの含有量を0.030%以下とした。なお、鋼の脆化抑止のためには、Pの含有量を0.020%以下とすることが好ましい。
Sは、Mnと結合してMnSを形成し、切削性を向上させる作用がある。しかしながら、その含有量が0.005%未満では、前記の効果が得難い。一方、Sの含有量が0.050%を超えると、粗大なMnSを形成して、熱間鍛造性、冷間鍛造性、曲げ疲労強度およびピッチング強度が低下する。したがって、Sの含有量を0.005〜0.050%とした。
Crは、焼入性を向上させる効果がある。この効果を得るには、0.70%以上の含有量が必要である。しかしながら、Crの含有量が多くなると、硬さが大きくなって切削性の低下を招き、特に、その含有量が3.0%を超えると、硬さ上昇に伴う切削性の低下が著しくなる。しかも、Crの含有量が多くなると、浸炭処理時または浸炭窒化処理時に表面にCr酸化物やCr窒化物を生成して、不完全焼入層の深さが大きくなり、特に、Crの含有量が3.0%を超えると、不完全焼入層の深さ増大が顕著になる。したがって、Crの含有量を0.70〜3.0%とした。
Alは、脱酸作用を有する。Alには、Nと結合してAlNを形成して結晶粒を微細化し、鋼を強化する作用もある。しかしながら、Alの含有量が0.010%未満では、前記の効果が得難い。一方、Alの含有量が過剰になると、硬質で粗大なAl2O3形成による切削性の低下をきたし、さらに、曲げ疲労強度とピッチング強度も低下する。特に、Alの含有量が0.050%を超えると、切削性、曲げ疲労強度およびピッチング強度の低下が著しくなる。したがって、Alの含有量を0.010〜0.050%とした。なお、好ましいAlの含有量は0.020〜0.040%である。
Nは、窒化物を形成することにより結晶粒を微細化させ、曲げ疲労強度を向上させる作用を有する。この効果を得るには、Nの含有量を0.0050%以上とする必要がある。しかしながら、Nの含有量が過剰になると、粗大な窒化物を形成して靱性の低下をきたし、特に、その含有量が0.0250%を超えると靱性の低下が著しくなる。したがって、Nの含有量を0.0050〜0.0250%とした。なお、好ましいNの含有量は0.0100〜0.0250%である。
Moは、焼入性向上元素であり、浸炭焼入または浸炭窒化焼入後の表面硬さ、硬化層深さおよび芯部硬さ(生地の硬さ)を向上させ、曲げ疲労強度およびピッチング強度を高める作用を有する。しかしながら、Moの含有量が多くなると、硬さが大きくなって切削性の低下を招き、特に、その含有量が1.0%を超えると、硬さ上昇に伴う切削性の低下が著しくなる。したがって、Moを含有させる場合の含有量を1.0%以下とした。
Vは、CおよびNと結合し、微細な炭化物、窒化物および炭窒化物として析出し、結晶粒を微細化させて曲げ疲労強度およびピッチング強度を向上させる作用を有する。さらに、前記したVの微細な炭化物、窒化物および炭窒化物には、硬化層深さを向上させる効果もある。しかしながら、Vの含有量が多くなると、析出する炭化物、窒化物および炭窒化物が粗大になって、却って曲げ疲労強度およびピッチング強度が低下し、特に、その含有量が0.250%を超えると、曲げ疲労強度およびピッチング強度の低下が著しくなる。したがって、Vを含有させる場合の含有量を0.250%以下とした。
Nbは、CおよびNと結合し、微細な炭化物、窒化物および炭窒化物として析出し、結晶粒を微細化させて曲げ疲労強度およびピッチング強度を向上させる作用を有する。しかしながら、Nbの含有量が多くなると、熱間圧延や熱間鍛造時に表面疵が発生しやすくなり、特に、その含有量が0.070%を超えると、熱間圧延や熱間鍛造での表面疵の発生が顕著になる。したがって、Nbを含有させる場合の含有量を0.070%以下とした。なお、前記したNbの効果を確実に得るためには、その含有量を0.010%以上とすることが好ましい。したがって、曲げ疲労強度およびピッチング強度向上のためにより望ましいNbの含有量は0.010〜0.070%である。
表面硬さの最小値(HV(min)):ビッカース硬さで750以上
浸炭部品または浸炭窒化部品の表面硬さが高いほど降伏強度が高くなるため、曲げ疲労初期の微小き裂の発生およびピッチング初期の微小き裂の発生を抑制することができる。そして、部品の表面硬さの最小値をビッカース硬さで750以上とすることによって、高い曲げ疲労強度と大きなピッチング強度を具備させることができる。
浸炭部品または浸炭窒化部品の表面粗さを小さくすることで局所的に大きな面圧が発生することを防止でき、ピッチングが発生し難くなる。そして、部品の粗さ曲線の最大高さ粗さRzの最大値を6μm以下とすることによって、安定して高いピッチング強度を具備させることができる。Rz(max)が4μm以下であれば、一層安定して高いピッチング強度を具備させることができる。
不完全焼入層は、浸炭処理時または浸炭窒化処理時に、浸炭ガス中に含まれる微量のH2OまたはCO2によって、Si、MnおよびCrなどの酸化されやすい元素が選択酸化され、これらの焼入性向上元素が部品表面で欠乏することにより生成する。そして、この不完全焼入層の深さが大きくなり、特に、15μmを超えると、曲げ疲労とピッチングが発生しやすくなる。換言すれば、部品の不完全焼入層の最大値を15μm以下とすることによって、安定して、高い曲げ疲労強度と大きなピッチング強度を具備させることができる。
・表面硬さの最小値をビッカース硬さで750以上、
・粗さ曲線の最大高さ粗さRzの最大値を6μm以下、
・不完全焼入層の最大値を15μm以下、
とするためには、例えば、下記〈a〉〜〈c〉のような配慮を行って、浸炭焼入や浸炭窒化焼入し、次いで、ショットピーニング処理すればよい。
〈1−1〉表面硬さ調査:
ショットピーニングして仕上げたローラーピッチング小ローラーのφ26mmの中央部を横断した後、その面が被検面となるように樹脂埋めして鏡面研磨した後、JIS Z 2244(2003)における「ビッカース硬さ試験−試験方法」に準拠して、試験片の表面から0.03mmの位置における任意の100点でのビッカース硬さを、試験力を0.9807Nとして測定し、その最小値からビッカース硬さでの「表面硬さの最小値(HV(min))」を求めた。
ショットピーニング後の表面に付着したショットピーニング粒やゴミなどを除去するために、中性洗剤を溶かした水の中で超音波洗浄した後、水洗して温風乾燥したローラーピッチング小ローラーを用いて表面粗さ調査を行った。
ショットピーニングして仕上げたローラーピッチング小ローラーのφ26mmの中央部を横断した後、その面が被検面となるように樹脂埋めして鏡面研磨した後、ナイタールで0.5〜2秒腐食し、光学顕微鏡によって、試験片の最表面を含むように、倍率1000倍で任意に100視野観察して、各場合における「不完全焼入層」の試験片の最表面からの最大距離を測定し、その最大値から「不完全焼入層の最大値(T(max))」を求めた。
小野式回転曲げ疲労試験は、ショットピーニング後に仕上げ加工した図8に示す切欠き付き小野式回転曲げ疲労試験片10本を用いて、室温、大気中、回転数3000rpmの条件で実施した。
ローラーピッチング試験は、ショットピーニング後に仕上げ加工した図9および図10に示すローラーピッチング小ローラー試験片およびローラーピッチング大ローラー試験片を用いて、下記の試験条件で行い、繰返し数が107回において、長辺が1mm以上の大きさのピッチングが発生しない最大の強度をピッチング強度とした。なお、このピッチング強度の目標は3000MPa以上とし、ピッチング強度が目標とする3000MPa以上の場合に、耐ピッチング特性に優れるものとした。
・回転数:1000rpm
・潤滑:油温90℃のマニュアルトランスミッション用潤滑油を2.0リットル/分の割合で、ローラーピッチング小ローラー試験片とローラーピッチング大ローラー試験片の接触部に噴出させて実施。
但し、上記の「すべり率」は、「V1」をローラーピッチング小ローラー試験片表面の接線速度、「V2」をローラーピッチング大ローラー試験片表面の接線速度として、{(V2−V1)/V1}×100で計算される値を指す。
Claims (2)
- 生地が、質量%で、C:0.10〜0.30%、Si:0.05〜1.0%、Mn:0.35〜1.2%、P:0.030%以下、S:0.005〜0.050%、Cr:1.21〜3.0%、Al:0.010〜0.050%、N:0.0050〜0.0250%を含有し、残部がFeおよび不純物からなる化学成分の鋼で、表面硬さの最小値がビッカース硬さで750以上、粗さ曲線の最大高さ粗さRzの最大値が6μm以下、かつ不完全焼入層の最大値が15μm以下であることを特徴とする浸炭部品または浸炭窒化部品。
ここで、不完全焼入層とは、部品を加工方向に直角に切断し、その面を被検面として鏡面研磨した後ナイタールで0.5〜2秒腐食し、光学顕微鏡によって部品の最表面を含むように倍率1000倍で観察した場合に濃く腐食されている部分を指す。 - 生地の鋼が、Feの一部に代えて、Mo:1.0%以下、V:0.250%以下およびNb:0.070%以下の1種または2種以上を含有する請求項1に記載の浸炭部品または浸炭窒化部品。
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