JP4835367B2 - 浸炭部品または浸炭窒化部品 - Google Patents

浸炭部品または浸炭窒化部品 Download PDF

Info

Publication number
JP4835367B2
JP4835367B2 JP2006273614A JP2006273614A JP4835367B2 JP 4835367 B2 JP4835367 B2 JP 4835367B2 JP 2006273614 A JP2006273614 A JP 2006273614A JP 2006273614 A JP2006273614 A JP 2006273614A JP 4835367 B2 JP4835367 B2 JP 4835367B2
Authority
JP
Japan
Prior art keywords
pitching
strength
bending fatigue
content
hardness
Prior art date
Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
Active
Application number
JP2006273614A
Other languages
English (en)
Other versions
JP2008088536A (ja
Inventor
秀樹 今高
善弘 大藤
Current Assignee (The listed assignees may be inaccurate. Google has not performed a legal analysis and makes no representation or warranty as to the accuracy of the list.)
Sumitomo Metal Industries Ltd
Original Assignee
Sumitomo Metal Industries Ltd
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Application filed by Sumitomo Metal Industries Ltd filed Critical Sumitomo Metal Industries Ltd
Priority to JP2006273614A priority Critical patent/JP4835367B2/ja
Publication of JP2008088536A publication Critical patent/JP2008088536A/ja
Application granted granted Critical
Publication of JP4835367B2 publication Critical patent/JP4835367B2/ja
Active legal-status Critical Current
Anticipated expiration legal-status Critical

Links

Images

Landscapes

  • Solid-Phase Diffusion Into Metallic Material Surfaces (AREA)
  • Heat Treatment Of Steel (AREA)
  • Heat Treatment Of Articles (AREA)

Description

本発明は、浸炭部品または浸炭窒化部品に関する。詳しくは、自動車用ギヤを始めとする耐曲げ疲労特性と耐ピッチング特性に優れた浸炭部品または浸炭窒化部品に関する。
自動車のトランスミッションなどに使用されるギヤは、歯元の曲げ疲労強度向上および歯面のピッチング強度向上の観点から、一般に、浸炭焼入や浸炭窒化焼入などの表面硬化処理を行った後、焼戻しとショットピーニングを施して製造されている。
なお、上記の「浸炭焼入」は、Ac3点以上の高温のオーステナイト域でCを侵入・拡散させた後、焼入する処理である。
また、「浸炭窒化焼入」は、CとNを同時に侵入・拡散させた後に焼入する処理であり、浸炭焼入の場合と比べて、高い表面硬さと高い焼戻し軟化抵抗が得られる特長がある。
近年では、自動車に、軽量化・高トルク化が要求されている。このため、上記のギヤを始めとして、自動車に使用される部品には、従来にも増して高い曲げ疲労強度とピッチング強度が必要となっている。
こうした要求に対して、浸炭焼入または浸炭窒化焼入後の表面硬さが低い場合、曲げ疲労強度とピッチング強度が低くなる場合があった。
なお、曲げ疲労強度は、浸炭焼入または浸炭窒化焼入後にショットピーニングを施して部品の表面に圧縮残留応力を付与することで向上させることが可能である。しかしながら、ショットピーニングを施すことにより表面粗さが大きくなった場合、ギヤの噛み合い時に局所的に面圧が上昇する箇所が発生することによって、ピッチング強度が低下する場合がある。
さらに、浸炭焼入または浸炭窒化焼入後に、いわゆる「不完全焼入層」が存在する場合、強度の低いパーライト組織が表面部に多く存在するため、曲げ疲労強度とピッチング強度が低くなることがあった。
このため、耐曲げ疲労特性と耐ピッチング特性に優れた浸炭部品または浸炭窒化部品を開発したいという要望が極めて大きくなっている。
そこで、前記した要望に応えるべく、例えば、特許文献1および特許文献2に、それぞれ、「浸炭あるいは浸炭窒化処理用鋼」および「鋼部材」が提案されている。
すなわち、特許文献1に、浸炭あるいは浸炭窒化処理後にショットピーニングする鋼であって、重量パーセントで、C=0.10〜0.30%、Si=0.40〜1.50%、Mn=0.30〜2.40%、Al=0.01〜0.050%、N=0.0050〜0.0250%、さらに必要に応じて、S=0.005〜0.035%、Pb=0.01〜0.09%、Bi=0.04〜0.20%、Te=0.002〜0.030%、Zr=0.01〜0.20%、Ca=0.0001〜0.0100%の1種又は2種以上を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物元素からなる「浸炭あるいは浸炭窒化処理用鋼」が開示されている。
また、特許文献2に、心部が、質量%で、C:0.10〜0.30%、Si:0.15〜1.0%、Mn:0.20〜1.0%、Cr:1.0〜2.0%、Mo:0.05〜0.6%を含み、且つ、A1:0.005〜0.05%、Nb:0.005〜0.05%、Ti:0.005〜0.1%よりなる群から選択される1種または2種以上の元素と、N:0.008〜0.05%を含み、さらに、浸炭焼入・焼戻し後におけるオーステナイト結晶粒度番号が8.5以上であり、表面から50μm以内の表層部における直径0.5μm以下の炭化物の面密度が6.0個/10μm2以上で、全炭化物数に占める直径0.5μm以下の炭化物数の割合が80%以上である、例えば高面圧で使用される歯車、摺動部品、軸類等の如く優れた耐ピッチング性と疲労強度を兼ね備えた機械構造用鋼部品や、耐摩耗性に優れた工具等として用いられる「鋼部材」が開示されている。
特開2000−273574号公報 特開2002−212672号公報
前述の特許文献1で開示された技術は、鋼の化学成分を調整することによってショットピーニング処理による表面粗さを低減しながらも、圧縮残留応力と表面硬さを向上させようとする技術である。しかしながら、単に化学成分を調整しただけでは、近年における自動車の軽量化・高トルク化に対処可能な特性を部品に具備させること、なかでも、高いピッチング強度を具備させることが必ずしもできるものではなかった。
特許文献2で開示された技術は、その実施例に示されているように、仕上げ研磨後のショットピーニングによる肌荒れを除去した状態で評価したピッチング寿命は良好である。しかしながら、実部品はショットピーニングままの肌荒れを生じた状態で使用されるものもあり、したがって、上記技術を以てしても、実部品におけるピッチング寿命が必ずしも向上するというものではなかった。
そこで、本発明の目的は、自動車用ギヤを始めとする耐曲げ疲労特性と耐ピッチング特性に優れた浸炭部品または浸炭窒化部品を提供することである。
本発明者らは、前記した課題を解決するために、浸炭部品または浸炭窒化部品として必要な強度を具備させたうえで、耐曲げ疲労特性と耐ピッチング特性を高めるために、部品の表面性状について種々の検討を行い、その結果、下記(a)〜(c)の知見を得た。
(a)部品の表面硬さが高いほど降伏強度が高くなるため、曲げ疲労初期の微小き裂の発生およびピッチング初期の微小き裂の発生を抑制することができる。そして、浸炭部品または浸炭窒化部品に良好な耐曲げ疲労特性と耐ピッチング特性を具備させるためには、部品の表面硬さの最小値(以下、「HV(min)」ともいう。)をビッカース硬さで特定の値以上とすればよい。
なお、浸炭部品または浸炭窒化部品の上記ビッカース硬さでの「表面硬さの最小値」とは、部品を加工方向に直角に切断し、その面を被検面として鏡面研磨し、JIS Z 2244(2003)における「ビッカース硬さ試験−試験方法」に準拠して、表面から0.03mmの位置で任意に100点測定した場合の最小値を指す。ただし、「加工方向に直角」とは、例えば、加工が圧延の場合には圧延方向に直角であることを、また、加工が鍛造の場合には鍛錬軸に直角であることを指す。
(b)部品の表面粗さが大きいほど局所的に大きな面圧が発生し、ピッチングが発生しやすくなる。そして、浸炭部品または浸炭窒化部品に良好な耐ピッチング特性を具備させるためには、部品の粗さ曲線の最大高さ粗さRzの最大値(以下、「Rz(max)」ともいう。)を特定の値以下とすればよい。
なお、浸炭部品または浸炭窒化部品の上記「粗さ曲線の最大高さ粗さRzの最大値」とは、JIS B 0601(2001)における「製品の幾何特性仕様(GPS)−表面性状:輪郭曲線方式−用語、定義及び表面性状パラメータ」に準拠して、触針式の表面粗さ計により、部品表面部の任意の100点を基準にして加工方向に平行に各3mmずつ測定して求めた最大高さ粗さRzの最大値を指す。ただし、「加工方向に平行」とは、例えば、加工が圧延の場合には圧延方向に平行であることを、また、加工が鍛造の場合には鍛錬軸に平行であることを指す。
(c)部品の不完全焼入層の深さが大きいほど曲げ疲労とピッチングが発生しやすくなる。そして、浸炭部品または浸炭窒化部品に良好な耐曲げ疲労特性と耐ピッチング特性を具備させるためには、部品の不完全焼入層の最大値(以下、「T(max)」ともいう。)を特定の値以下とすればよい。
なお、浸炭部品または浸炭窒化部品の「不完全焼入層」とは、部品を加工方向に直角に切断し、その面を被検面として鏡面研磨した後ナイタールで0.5〜2秒腐食し、光学顕微鏡によって、部品の最表面を含むように、倍率1000倍で観察した場合に、濃く腐食される部分を指す。また、上記浸炭部品または浸炭窒化部品の「不完全焼入層の最大値」とは、光学顕微鏡によって倍率1000倍で任意に100視野観察した各「不完全焼入層」における部品最表面からの最大距離のうちで最も大きい値を指す。
先に述べたように、「加工方向に直角」とは、例えば、加工が圧延の場合には圧延方向に直角であることを、また、加工が鍛造の場合には鍛錬軸に直角であることを指す。
本発明は、上記の知見に基づいて完成されたものであり、その要旨は、下記(1)および(2)に示す浸炭部品または浸炭窒化部品にある。
(1)生地が、質量%で、C:0.10〜0.30%、Si:0.05〜1.0%、Mn:0.35〜1.2%、P:0.030%以下、S:0.005〜0.050%、Cr:1.21〜3.0%、Al:0.010〜0.050%、N:0.0050〜0.0250%を含有し、残部がFeおよび不純物からなる化学成分の鋼で、表面硬さの最小値がビッカース硬さで750以上、粗さ曲線の最大高さ粗さRzの最大値が6μm以下、かつ不完全焼入層の最大値が15μm以下であることを特徴とする浸炭部品または浸炭窒化部品。
ここで、不完全焼入層とは、部品を加工方向に直角に切断し、その面を被検面として鏡面研磨した後ナイタールで0.5〜2秒腐食し、光学顕微鏡によって部品の最表面を含むように倍率1000倍で観察した場合に濃く腐食されている部分を指す。
(2)生地の鋼が、Feの一部に代えて、Mo:1.0%以下、V:0.250%以下およびNb:0.070%以下の1種または2種以上を含有する上記(1)に記載の浸炭部品または浸炭窒化部品。
既に述べたように、ビッカース硬さでの「表面硬さの最小値」とは、部品を加工方向に直角に切断し、その面を被検面として鏡面研磨し、JIS Z 2244(2003)における「ビッカース硬さ試験−試験方法」に準拠して、表面から0.03mmの位置で任意に100点測定した場合の最小値を指す。
また、「粗さ曲線の最大高さ粗さRzの最大値」とは、JIS B 0601(2001)における「製品の幾何特性仕様(GPS)−表面性状:輪郭曲線方式−用語、定義及び表面性状パラメータ」に準拠して、触針式の表面粗さ計により、部品表面部の任意の100点を基準にして加工方向に平行に各3mmずつ測定して求めた最大高さ粗さRzの最大値を指す。
さらに、「不完全焼入層」とは、部品を加工方向に直角に切断し、その面を被検面として鏡面研磨した後ナイタールで0.5〜2秒腐食し、光学顕微鏡によって、部品の最表面を含むように、倍率1000倍で観察した場合に、濃く腐食される部分を指し、「不完全焼入層の最大値」とは、光学顕微鏡によって倍率1000倍で任意に100視野観察した各「不完全焼入層」における部品最表面からの最大距離のうちで最も大きい値を指す。
以下、上記 (1)および(2)の浸炭部品または浸炭窒化部品に係る発明を、それぞれ、「本発明(1)」および「本発明(2)」という。また、総称して「本発明」ということがある。
本発明の浸炭部品または浸炭窒化部品は、良好な曲げ疲労強度とピッチング強度を有するので、自動車のトランスミッションに使用されるギヤなどの部品として用いることができる。
以下、本発明の各要件について詳しく説明する。なお、化学成分の含有量の「%」は「質量%」を意味する。
(A)生地の鋼の化学組成:
C:0.10〜0.30%
Cは、浸炭部品または浸炭窒化部品の強度確保のために必須の元素であり、0.10%以上の含有量が必要である。しかしながら、Cの含有量が多くなると、硬さが大きくなって切削性の低下を招き、特に、その含有量が0.30%を超えると、硬さ上昇に伴う切削性の低下が著しくなる。したがって、Cの含有量を0.10〜0.30%とした。
なお、より一層良好な切削性が要求される場合には、Cの含有量を0.10〜0.25%とすることが好ましい。
Si:0.05〜1.0%
Siは、焼入性を向上させる作用および脱酸作用を有する。Siには、焼戻し軟化抵抗を高めて、ピッチング強度を向上させる作用もある。これらの効果を得るには、0.05%以上の含有量が必要である。しかしながら、Siの含有量が多くなると、硬さが大きくなって切削性の低下を招き、特に、その含有量が1.0%を超えると、硬さ上昇に伴う切削性の低下が著しくなる。しかも、Siの含有量が多くなると、浸炭ガス中に含まれる微量のH2OまたはCO2によってSiが選択酸化され、Si酸化物が形成される。このSi酸化物の形成は、焼入性向上元素であるSiの表面部での欠乏を招くことになるので、不完全焼入層の深さが大きくなり、特に、Siの含有量が1.0%を超えると、不完全焼入層の深さ増大が顕著になる。したがって、Siの含有量を0.05〜1.0%とした。なお、より好ましいSiの含有量は0.05〜0.80%である。
Mn:0.35〜1.5%
Mnは、焼入性を向上させる作用および脱酸作用を有する。これらの効果を得るには、0.35%以上の含有量が必要である。しかしながら、Mnの含有量が多くなると、硬さが大きくなって切削性の低下を招き、特に、その含有量が1.5%を超えると、硬さ上昇に伴う切削性の低下が著しくなる。しかも、Mnの含有量が多くなると、Siの場合と同様に、不完全焼入層の深さが大きくなり、特に、Mnの含有量が1.5%を超えると、不完全焼入層の深さ増大が顕著になる。したがって、Mnの含有量を0.35〜1.5%とした。なお、Mnの含有量は0.4〜1.2%とすることがより好ましい。
P:0.030%以下
Pは、鋼に含有される不純物で、フェライトを強化する作用を有するものの、結晶粒界に偏析して鋼を脆化させ、特に、その含有量が0.030%を超えると鋼の脆化が著しくなる。したがって、Pの含有量を0.030%以下とした。なお、鋼の脆化抑止のためには、Pの含有量を0.020%以下とすることが好ましい。
S:0.005〜0.050%
Sは、Mnと結合してMnSを形成し、切削性を向上させる作用がある。しかしながら、その含有量が0.005%未満では、前記の効果が得難い。一方、Sの含有量が0.050%を超えると、粗大なMnSを形成して、熱間鍛造性、冷間鍛造性、曲げ疲労強度およびピッチング強度が低下する。したがって、Sの含有量を0.005〜0.050%とした。
なお、より一層良好な熱間鍛造性、冷間鍛造性、曲げ疲労強度およびピッチング強度が要求される場合には、Sの含有量を0.005〜0.030%とすることが好ましい。
Cr:0.70〜3.0%
Crは、焼入性を向上させる効果がある。この効果を得るには、0.70%以上の含有量が必要である。しかしながら、Crの含有量が多くなると、硬さが大きくなって切削性の低下を招き、特に、その含有量が3.0%を超えると、硬さ上昇に伴う切削性の低下が著しくなる。しかも、Crの含有量が多くなると、浸炭処理時または浸炭窒化処理時に表面にCr酸化物やCr窒化物を生成して、不完全焼入層の深さが大きくなり、特に、Crの含有量が3.0%を超えると、不完全焼入層の深さ増大が顕著になる。したがって、Crの含有量を0.70〜3.0%とした。
なお、なお、より一層良好な切削性が要求され、かつ、より一層不完全焼入層の深さを小さくする必要がある場合には、Crの含有量は0.70〜1.70%とすることが好ましい。
Al:0.010〜0.050%
Alは、脱酸作用を有する。Alには、Nと結合してAlNを形成して結晶粒を微細化し、鋼を強化する作用もある。しかしながら、Alの含有量が0.010%未満では、前記の効果が得難い。一方、Alの含有量が過剰になると、硬質で粗大なAl23形成による切削性の低下をきたし、さらに、曲げ疲労強度とピッチング強度も低下する。特に、Alの含有量が0.050%を超えると、切削性、曲げ疲労強度およびピッチング強度の低下が著しくなる。したがって、Alの含有量を0.010〜0.050%とした。なお、好ましいAlの含有量は0.020〜0.040%である。
N:0.0050〜0.0250%
Nは、窒化物を形成することにより結晶粒を微細化させ、曲げ疲労強度を向上させる作用を有する。この効果を得るには、Nの含有量を0.0050%以上とする必要がある。しかしながら、Nの含有量が過剰になると、粗大な窒化物を形成して靱性の低下をきたし、特に、その含有量が0.0250%を超えると靱性の低下が著しくなる。したがって、Nの含有量を0.0050〜0.0250%とした。なお、好ましいNの含有量は0.0100〜0.0250%である。
上記の理由から、本発明(1)に係る浸炭部品または浸炭窒化部品の生地の鋼の化学組成を、上述した範囲のCからNまでの元素を含有し、残部はFeおよび不純物からなることと規定した。
なお、本発明に係る浸炭部品または浸炭窒化部品の生地の鋼の化学組成は、さらに一層優れた曲げ疲労強度とピッチング強度を確保するために、上記本発明(1)におけるFeの一部に代えて、Mo:1.0%以下、V:0.250%以下およびNb:0.070%以下の1種または2種以上を含有させたものとすることができる。
すなわち、前記のMo、VおよびNbの少なくとも1種以上を、本発明(1)の生地の鋼におけるFeの一部に代えて、含有させてもよい。
以下、上記の元素に関して説明する。
Mo:1.0%以下
Moは、焼入性向上元素であり、浸炭焼入または浸炭窒化焼入後の表面硬さ、硬化層深さおよび芯部硬さ(生地の硬さ)を向上させ、曲げ疲労強度およびピッチング強度を高める作用を有する。しかしながら、Moの含有量が多くなると、硬さが大きくなって切削性の低下を招き、特に、その含有量が1.0%を超えると、硬さ上昇に伴う切削性の低下が著しくなる。したがって、Moを含有させる場合の含有量を1.0%以下とした。
なお、前記したMoの効果を確実に得るためには、その含有量を0.05%以上とすることが望ましい。したがって、曲げ疲労強度およびピッチング強度向上のためにより望ましいMoの含有量は0.05〜1.0%である。なお、より一層良好な切削性が要求される場合には、Moの含有量の上限を0.50%とすることが好ましい。
V:0.250%以下
Vは、CおよびNと結合し、微細な炭化物、窒化物および炭窒化物として析出し、結晶粒を微細化させて曲げ疲労強度およびピッチング強度を向上させる作用を有する。さらに、前記したVの微細な炭化物、窒化物および炭窒化物には、硬化層深さを向上させる効果もある。しかしながら、Vの含有量が多くなると、析出する炭化物、窒化物および炭窒化物が粗大になって、却って曲げ疲労強度およびピッチング強度が低下し、特に、その含有量が0.250%を超えると、曲げ疲労強度およびピッチング強度の低下が著しくなる。したがって、Vを含有させる場合の含有量を0.250%以下とした。
なお、前記したVの効果を確実に得るためには、その含有量を0.030%以上とすることが好ましい。したがって、曲げ疲労強度およびピッチング強度向上のためにより望ましいVの含有量は0.030〜0.250%である。なお、安定してVの微細な炭化物、炭窒化物を析出させるにはVの含有量は0.050%以上とすることがより一層好ましい。また、粗大な炭化物、炭窒化物の析出を抑制するには、Vの上限を0.150%とすることが一層好ましい。よって、より一層の曲げ疲労強度とピッチング強度が必要な場合は、Vの含有量は、0.050〜0.150%とすることがより一層望ましい。
Nb:0.070%以下
Nbは、CおよびNと結合し、微細な炭化物、窒化物および炭窒化物として析出し、結晶粒を微細化させて曲げ疲労強度およびピッチング強度を向上させる作用を有する。しかしながら、Nbの含有量が多くなると、熱間圧延や熱間鍛造時に表面疵が発生しやすくなり、特に、その含有量が0.070%を超えると、熱間圧延や熱間鍛造での表面疵の発生が顕著になる。したがって、Nbを含有させる場合の含有量を0.070%以下とした。なお、前記したNbの効果を確実に得るためには、その含有量を0.010%以上とすることが好ましい。したがって、曲げ疲労強度およびピッチング強度向上のためにより望ましいNbの含有量は0.010〜0.070%である。
なお、上記のMo、VおよびNbは、そのうちのいずれか1種のみ、または2種以上の複合で含有することができる。
上記の理由から、本発明(2)に係る浸炭部品または浸炭窒化部品の生地の鋼の化学組成を、本発明(1)の生地の鋼におけるFeの一部に代えて、Mo:1.0%以下、V:0.250%以下およびNb:0.070%以下の1種または2種以上を含有することと規定した。
(B)部品の表面性状:
表面硬さの最小値(HV(min)):ビッカース硬さで750以上
浸炭部品または浸炭窒化部品の表面硬さが高いほど降伏強度が高くなるため、曲げ疲労初期の微小き裂の発生およびピッチング初期の微小き裂の発生を抑制することができる。そして、部品の表面硬さの最小値をビッカース硬さで750以上とすることによって、高い曲げ疲労強度と大きなピッチング強度を具備させることができる。
部品が「ギヤ」の場合を例に挙げれば、そのHV(min)がビッカース硬さで750以上であれば、応力が集中する歯元表面部の表面硬さが大きいので歯元曲げ疲労を抑止することができ、また、歯面表面部の表面硬さが高いので、ピッチング疲労を抑止することができる。
なお、HV(min)のビッカース硬さでの上限は、表面硬さが高すぎる場合、シャフトなどの軸状部品を浸炭焼入後に矯正が必要な場合に矯正しにくい、または、浸炭後に表面の仕上研磨が必要な場合に研磨しにくいなどの問題があるため、HV1000程度であることが好ましい。
既に述べたとおり、ビッカース硬さでの「表面硬さの最小値」とは、部品を加工方向に直角に切断し、その面を被検面として鏡面研磨し、JIS Z 2244(2003)における「ビッカース硬さ試験−試験方法」に準拠して、表面から0.03mmの位置で任意に100点測定した場合の最小値を指す。また、「加工方向に直角」とは、例えば、加工が圧延の場合には圧延方向に直角であることを、また、加工が鍛造の場合には鍛錬軸に直角であることを指す。
粗さ曲線の最大高さ粗さRzの最大値(Rz(max)):6μm以下
浸炭部品または浸炭窒化部品の表面粗さを小さくすることで局所的に大きな面圧が発生することを防止でき、ピッチングが発生し難くなる。そして、部品の粗さ曲線の最大高さ粗さRzの最大値を6μm以下とすることによって、安定して高いピッチング強度を具備させることができる。Rz(max)が4μm以下であれば、一層安定して高いピッチング強度を具備させることができる。
なお、Rz(max)が小さすぎる場合、運転条件によっては金属間接触の面積が大きくなり、焼付きが発生する場合があるため、Rz(max)の下限は、0.5μm程度とすることが好ましい。
既に述べたとおり、「粗さ曲線の最大高さ粗さRzの最大値」とは、JIS B 0601(2001)における「製品の幾何特性仕様(GPS)−表面性状:輪郭曲線方式−用語、定義及び表面性状パラメータ」に準拠して、触針式の表面粗さ計により、部品表面部の任意の100点を基準にして加工方向に平行に各3mmずつ測定して求めた最大高さ粗さRzの最大値を指す。また、「加工方向に平行」とは、例えば、加工が圧延の場合には圧延方向に平行であることを、また、加工が鍛造の場合には鍛錬軸に平行であることを指す。
不完全焼入層の最大値(T(max)):15μm以下
不完全焼入層は、浸炭処理時または浸炭窒化処理時に、浸炭ガス中に含まれる微量のH2OまたはCO2によって、Si、MnおよびCrなどの酸化されやすい元素が選択酸化され、これらの焼入性向上元素が部品表面で欠乏することにより生成する。そして、この不完全焼入層の深さが大きくなり、特に、15μmを超えると、曲げ疲労とピッチングが発生しやすくなる。換言すれば、部品の不完全焼入層の最大値を15μm以下とすることによって、安定して、高い曲げ疲労強度と大きなピッチング強度を具備させることができる。
なお、不完全焼入層については、存在しない方が良いため、T(max)の下限は0であることが好ましい。
既に述べたとおり、「不完全焼入層」とは、部品を加工方向に直角に切断し、その面を被検面として鏡面研磨した後ナイタールで0.5〜2秒腐食し、光学顕微鏡によって、部品の最表面を含むように、倍率1000倍で観察した場合に、濃く腐食される部分を指す。また、上記浸炭部品または浸炭窒化部品の「不完全焼入層の最大値」とは、光学顕微鏡によって倍率1000倍で任意に100視野観察した各「不完全焼入層」における部品最表面からの最大距離のうちで最も大きい値を指す。
上記の理由から、本発明に係る浸炭部品または浸炭窒化部品は、その表面性状が、表面硬さの最小値がビッカース硬さで750以上、粗さ曲線の最大高さ粗さRzの最大値が6μm以下、かつ不完全焼入層の最大値が15μm以下であることと規定した。
なお、生地の鋼が前記(A)項に記載の化学組成を有する浸炭部品または浸炭窒化部品に対して、その表面性状を、
・表面硬さの最小値をビッカース硬さで750以上、
・粗さ曲線の最大高さ粗さRzの最大値を6μm以下、
・不完全焼入層の最大値を15μm以下、
とするためには、例えば、下記〈a〉〜〈c〉のような配慮を行って、浸炭焼入や浸炭窒化焼入し、次いで、ショットピーニング処理すればよい。
〈a〉化学成分が(A)項で規定した範囲にあり、中心偏析のできるだけ少ない均質化された素材を用いる。
先ず、酸化物生成元素、なかでも、Si、MnおよびCrは、既に述べたとおり不完全焼入層を大きくする。このため、これらの元素の含有量は、焼入性を確保するとともに不完全焼入層が小さくなるように、先に(A)項で規定した範囲に厳密に制御する必要がある。
次に、鍛造により内歯歯車を成形する場合には、素材の中心偏析部が内歯の歯面表面に相当することがあり、中心偏析部のMn濃化が著しいと、浸炭焼入後の不完全焼入層が増大するといった問題が生じることがある。
したがって、素材には、中心偏析のできるだけ少ない均質化されたものを用いるのがよい。
なお、中心偏析の低減は、連続鋳造する場合には、電磁攪拌によって等軸晶帯を生成させ、Cなどの偏析しやすい成分を分散させる方法が一般的である。しかしながら、電磁攪拌による方法では中心偏析が十分に減少しない場合があり、また、インゴット鋳込では電磁攪拌が使用できない場合もある。
したがって、中心偏析を減少させるためには、鋳片内またはインゴット内の成分を均質化するように、鋳造後に高温・長時間で溶体化処理をすることが好ましい。なお、生産性や歩留まり等の観点から、溶体化処理の温度は1250〜1350℃、時間は6〜30時間とすることが好ましい。
〈b〉浸炭焼入や浸炭窒化焼入における冷却が均一になるように、焼入液の攪拌を行う。
焼入の際、焼入液(冷却媒体)を攪拌すると、攪拌しない場合に比べて焼入槽内の焼入液がより均一な温度分布になるため、部品が均一に冷却される。そのため、焼入不良による表面硬さの低下を抑制でき、安定して高い表面硬さが得られる。
〈c〉表面粗さが小さくなるように、ショットピーニングの処理条件を調整する。
浸炭焼入後にショットピーニングを施すことによって、部品の表面には圧縮残留応力が付与されるとともに加工硬化により表面硬さが向上し、高い耐曲げ疲労特性を有することができる。しかしながら、強力すぎるショットピーニングを施すと、表面粗さが大きくなり、局所的に大きな面圧が発生してピッチング強度が低下する場合がある。
したがって、圧縮残留応力を付与させつつ、表面粗さを小さく抑えることができる条件でショットピーニング処理するのがよい。その条件は、ショットの粒径と硬さが、それぞれ、0.1〜0.8mmとロックウェルC硬さ55〜65で、投射速度が80〜100m/秒、投射時間が30〜120秒であることが好ましい。
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明する。
表1に示す化学組成を有する鋼1〜3、5及び7を180kg真空溶解炉によって溶解し、インゴットを作製した。
表1中の鋼1〜3及び5は、化学組成が本発明で規定する範囲内にある鋼である。一方、鋼7はSiとMnの含有量が本発明で規定する条件から外れた比較例の鋼である。
Figure 0004835367
各インゴットには、溶体化処理を施して均質化した後、熱間鍛造を行った。
すなわち、鋼1のインゴットは、これを体積で1/3と2/3に分割し、体積で2/3としたものに対しては、1250℃で24時間保持後に炉冷する溶体化処理(以下、「溶体化処理A」という。)を施して均質化した後、熱間鍛造を行い、また、体積で1/3としたものに対しては、1200℃で5時間保持後に炉冷する溶体化処理(以下、「溶体化処理B」という。)を施して均質化した後、熱間鍛造を行った。
鋼2、3、5及び7のインゴットは、鋳造ままのサイズで溶体化処理を行って均質化した後、熱間鍛造を行った。具体的には、鋼2、3及び5のインゴットに対しては、溶体化処理Aを施して均質化した後、熱間鍛造を行い、また、鋼7のインゴットに対しては、溶体化処理Bを施して均質化した後、熱間鍛造を行った。
なお、上記2種類の溶体化処理のうちで溶体化処理Aは溶体化処理Bに比べて高温で長時間処理するものであるため、インゴットの偏析が一層軽減される。このため、溶体化処理Aを施されたインゴットは溶体化処理Bを施されたインゴットに比べて、熱間加工素材としてより均質化されたものである。
熱間鍛造では、直径が20mmで長さが1000mm、直径が30mm長さが1000mmおよび直径が140mmで長さが1000mmの3種類の丸棒を作製した。なお、熱間鍛造後は大気中で放冷した。
次いで、上記の直径が20mmの各丸棒に、900℃で1時間保持して放冷する焼準を行なった後、その中心部から、鍛錬軸に平行に図1に示す切欠き付き小野式回転曲げ疲労試験片を切り出した。
また、直径が30mmの各丸棒に、900℃で1時間保持して放冷する焼準を行なった後、その中心部から、鍛錬軸に平行に図2に示すローラーピッチング小ローラー試験片を切り出した。
さらに、直径が140mmの各丸棒に、900℃で3時間保持して放冷する焼準を行なった後、その中心部から、鍛錬軸に平行に図3に示すローラーピッチング大ローラー試験片を切り出した。
なお、図1〜3中に示した上記の切り出し試験片における寸法の単位は全て「mm」である。
上記各図における仕上げ記号「▽」、「▽▽」および「▽▽▽」は、JIS B 0601(1982)の解説表1の表面粗さを示す「三角記号」である。
また、「▽▽▽」に付した「G」はJIS B 0122(1978)に規定の「研削」を示す加工方法の略号であることを意味する。同様に「E(ペーパー仕上)」は「紙ヤスリ」での「研磨」を示す加工方法の略号であることを意味する。
上記の各試験片には、図4〜7に示す条件の「浸炭焼入−焼戻し」あるいは「浸炭窒化焼入−焼戻し」の処理を施した。
図4に示す「浸炭焼入−焼戻し」(以下、「浸炭A」という。)の場合および図5に示す「浸炭窒化焼入−焼戻し」(以下、「浸炭窒化A」という。)の場合には、できるだけ均一に「浸炭」や「浸炭窒化」が施されるように、試験片同士の間隔を50mm以上あけた状態で、それぞれの処理を実施した。なお、切欠き付き小野式回転曲げ疲労試験片とローラーピッチング小ローラー試験片は吊り下げ用の穴を加工してそれに針金を通し、吊下げた状態で処理した。また、ローラーピッチング大ローラー試験片は金網上の治具に平置きの状態で載置して処理した。さらに、「浸炭」あるいは「浸炭窒化」後の焼入は、均一に攪拌されている温度が100℃の焼入油の中に試験片を投入することによって、焼入が均一に行われるようにした。
一方、図6に示す「浸炭焼入−焼戻し」(以下、「浸炭B」という。)の場合および図7に示す「浸炭窒化焼入−焼戻し」(以下、「浸炭窒化B」という。)の場合には、試験片同士の間隔は50mm未満の狭い状態で、それぞれの処理を実施した。なお、前記した図4および図5の処理の場合と同様に、切欠き付き小野式回転曲げ疲労試験片とローラーピッチング小ローラー試験片は吊り下げ用の穴を加工してそれに針金を通し、吊下げた状態で処理した。また、ローラーピッチング大ローラー試験片は金網上の治具に平置きの状態で載置して処理した。ただし、「浸炭」あるいは「浸炭窒化」後の焼入は、攪拌していない状態の温度が100℃の焼入油の中に試験片を投入することにより行った。
上記の「浸炭焼入−焼戻し」あるいは「浸炭窒化焼入−焼戻し」の処理を施したローラーピッチング小ローラー試験片の外周部に均一に、表2に示す条件AまたはBのいずれかの条件でショットピーニングを行った後、表面性状としての表面硬さ、表面粗さおよび不完全焼入層を調査した。
同様に、上記の「浸炭焼入−焼戻し」あるいは「浸炭窒化焼入−焼戻し」の処理を施した切欠き付き小野式回転曲げ疲労試験片、ローラーピッチング小ローラー試験片およびローラーピッチング大ローラー試験片の外周部に均一に、表2に示す条件AまたはBのいずれかの条件でショットピーニングを行った後、仕上げ加工して、小野式回転曲げ疲労試験およびローラーピッチング試験を行った。ただし、図8〜10中に示した前述の各試験片の「〜」(「波形記号」)を表記した部位には仕上げ加工を施さず、ショットピーニングして仕上げた表面のままとした。
Figure 0004835367
〈1〉表面性状の調査:
〈1−1〉表面硬さ調査:
ショットピーニングして仕上げたローラーピッチング小ローラーのφ26mmの中央部を横断した後、その面が被検面となるように樹脂埋めして鏡面研磨した後、JIS Z 2244(2003)における「ビッカース硬さ試験−試験方法」に準拠して、試験片の表面から0.03mmの位置における任意の100点でのビッカース硬さを、試験力を0.9807Nとして測定し、その最小値からビッカース硬さでの「表面硬さの最小値(HV(min))」を求めた。
また、上記100点におけるビッカース硬さを平均した「表面硬さの平均値」(以下、「HV(ave)」という。)も求めた。
〈1−2〉表面粗さ調査:
ショットピーニング後の表面に付着したショットピーニング粒やゴミなどを除去するために、中性洗剤を溶かした水の中で超音波洗浄した後、水洗して温風乾燥したローラーピッチング小ローラーを用いて表面粗さ調査を行った。
すなわち、JIS B 0601(2001)における「製品の幾何特性仕様(GPS)−表面性状:輪郭曲線方式−用語、定義及び表面性状パラメータ」に準拠して、触針式の表面粗さ計により、ショットピーニング後に上記の超音波洗浄、水洗および温風乾燥を行ったローラーピッチング小ローラーのφ26mmの中央部表面の円周方向における任意の100点を基準にして、それぞれ軸方向に3mmずつ測定して各場合の最大高さ粗さRzを求め、その最大値から「粗さ曲線の最大高さ粗さRzの最大値(Rz(max))」を求めた。
また、上記100点を基準にして求めた最大高さ粗さRzを平均した「粗さ曲線の最大高さ粗さRzの平均値」(以下、「(Rz(ave)」という。)も求めた。
〈1−3〉不完全焼入層の調査:
ショットピーニングして仕上げたローラーピッチング小ローラーのφ26mmの中央部を横断した後、その面が被検面となるように樹脂埋めして鏡面研磨した後、ナイタールで0.5〜2秒腐食し、光学顕微鏡によって、試験片の最表面を含むように、倍率1000倍で任意に100視野観察して、各場合における「不完全焼入層」の試験片の最表面からの最大距離を測定し、その最大値から「不完全焼入層の最大値(T(max))」を求めた。
また、上記100視野における「不完全焼入層」の試験片の最表面からの最大距離を平均した「不完全焼入層の最大距離の平均値」(以下、「(T(ave)」という。)も求めた。
〈2〉小野式回転曲げ疲労試験:
小野式回転曲げ疲労試験は、ショットピーニング後に仕上げ加工した図8に示す切欠き付き小野式回転曲げ疲労試験片10本を用いて、室温、大気中、回転数3000rpmの条件で実施した。
評価は、繰返し数が107回で破断しない最大の強度を回転曲げ疲労強度とした。なお、この回転曲げ疲労強度の目標は850MPa以上とし、回転曲げ疲労強度が目標とする850MPa以上の場合に、回転曲げ疲労強度が優れるものとした。
〈3〉ローラーピッチング試験:
ローラーピッチング試験は、ショットピーニング後に仕上げ加工した図9および図10に示すローラーピッチング小ローラー試験片およびローラーピッチング大ローラー試験片を用いて、下記の試験条件で行い、繰返し数が107回において、長辺が1mm以上の大きさのピッチングが発生しない最大の強度をピッチング強度とした。なお、このピッチング強度の目標は3000MPa以上とし、ピッチング強度が目標とする3000MPa以上の場合に、耐ピッチング特性に優れるものとした。
・すべり率:40%、
・回転数:1000rpm
・潤滑:油温90℃のマニュアルトランスミッション用潤滑油を2.0リットル/分の割合で、ローラーピッチング小ローラー試験片とローラーピッチング大ローラー試験片の接触部に噴出させて実施。
但し、上記の「すべり率」は、「V1」をローラーピッチング小ローラー試験片表面の接線速度、「V2」をローラーピッチング大ローラー試験片表面の接線速度として、{(V2−V1)/V1}×100で計算される値を指す。
なお、図8〜10中に示した前述の試験片における寸法の単位は全て「mm」である。
上記各図における仕上げ記号「▽」、「▽▽」および「▽▽▽」は先の図1〜3におけると同様、それぞれ、JIS B 0601(1982)の解説表1の表面粗さを示す「三角記号」である。
また、「▽▽▽」に付した「G」はJIS B 0122(1978)に規定の「研削」を示す加工方法の略号であることを意味する。
さらに、「〜」は「波形記号」であり、生地であること、つまり、ショットピーニングして仕上げた表面のままであることを意味する。
表3に、上記の各試験結果をまとめて示す。
また、図11〜22に回転曲げ疲労強度とピッチング強度に及ぼすHV(min)、HV(ave)、Rz(max)、Rz(ave)、T(max)及びT(ave)の影響を示す。
すなわち、図11と図12にそれぞれ、回転曲げ疲労強度に及ぼすHV(min)とHV(ave)の影響を示す。
図13と図14にそれぞれ、ピッチング強度に及ぼすHV(min)とHV(ave)の影響を示す。
図15と図16にそれぞれ、回転曲げ疲労強度に及ぼすRz(max)とRz(ave)の影響を示す。
図17と図18にそれぞれ、ピッチング強度に及ぼすRz(max)とRz(ave)の影響を示す。
図19と図20にそれぞれ、回転曲げ疲労強度に及ぼすT(max)とT(ave)の影響を示す。
図21と図22にそれぞれ、ピッチング強度に及ぼすT(max)とT(ave)の影響を示す。
なお、上記の図11〜22においては、表3中に本発明例として示した試験番号1〜3及び並びに比較例として示した試験番号6〜12及び14をそれぞれ、「発明例(1〜3、5)」及び「比較例(6〜12、14)」と表記した。また、回転曲げ疲労強度850MPa及びピッチング強度3000MPaのラインに矢印を付けて「目標」と記載した。
Figure 0004835367
図11及び図12から、回転曲げ疲労強度はHV(ave)よりもHV(min)とよい相関関係を有することが明らかである。
また、図13及び図14から、ピッチング強度もHV(ave)よりもHV(min)とよい相関関係を有することが明らかである。
図15及び図16から、回転曲げ疲労強度はRz(ave)よりもRz(max)とよい相関関係を有することが明らかである。
また、図17及び図18から、ピッチング強度もRz(ave)よりもRz(max)とよい相関関係を有することが明らかである。
図19及び図20から、回転曲げ疲労強度はT(ave)よりもT(max)とよい相関関係を有することが明らかである。
また、図21及び図22から、ピッチング強度もT(ave)よりもT(max)とよい相関関係を有することが明らかである。
さらに、表3から、本発明で規定する条件を満たす試験番号1〜3及び5の場合、いずれも、その回転曲げ疲労強度およびピッチング強度は、それぞれ、850MPa以上および3000MPa以上であり、良好な回転曲げ疲労強度とピッチング強度を備えていることが明らかである。
これに対して、本発明で規定する条件から外れた比較例の試験番号6〜8試験番号10〜12及び14の場合、ピッチング強度と回転曲げ疲労強度の双方が、また、比較例の試験番号9の場合、ピッチング強度が、本発明の目標に達していない。
すなわち、試験番号6は、HV(min)がビッカース硬さで710と低く、Rz(max)が7.48μmと大きく、さらに、T(max)も18μmと大きいため、回転曲げ疲労強度およびピッチング強度はそれぞれ、810MPaおよび2600MPaと低く、本発明の目標に達していない。
試験番号7は、HV(min)がビッカース硬さで725と本発明で規定する値よりも低いため、回転曲げ疲労強度およびピッチング強度はそれぞれ、835MPaおよび2800MPaと低く、本発明の目標に達していない。
試験番号8は、HV(min)がビッカース硬さで645と本発明で規定する値よりも低く、さらに、Rz(max)およびT(max)がそれぞれ、6.86μmおよび16μmと本発明で規定する値よりも大きい。このため、回転曲げ疲労強度およびピッチング強度はそれぞれ、790MPaおよび2500MPaと低く、本発明の目標に達していない。
試験番号9は、Rz(max)が8.90μmと本発明で規定する値よりも大きいため、ピッチング強度が2650MPaと低く、本発明の目標に達していない。
試験番号10は、HV(min)がビッカース硬さで707と本発明で規定する値よりも低く、さらに、Rz(max)およびT(max)がそれぞれ、8.35μmおよび22μmと本発明で規定する値よりも大きい。このため、回転曲げ疲労強度およびピッチング強度はそれぞれ、820MPaおよび2400MPaと低く、本発明の目標に達していない。
試験番号11は、Rz(max)およびT(max)がそれぞれ、7.48μmおよび23μmと本発明で規定する値よりも大きいため、回転曲げ疲労強度およびピッチング強度はそれぞれ、800MPaおよび2450MPaと低く、本発明の目標に達していない。
試験番号12は、HV(min)がビッカース硬さで745と本発明で規定する値よりも低く、さらに、Rz(max)が8.21μmと本発明で規定する値よりも大きいため、回転曲げ疲労強度およびピッチング強度はそれぞれ、840MPaおよび2600MPaと低く、本発明の目標に達していない。
試験番号14は、鋼7におけるSiとMnの含有量がそれぞれ、2.52%および3.20%と本発明で規定する値よりも高い。しかも、HV(min)がビッカース硬さで720と本発明で規定する値よりも低く、加えて、Rz(max)およびT(max)がそれぞれ、7.66μmおよび35μmと本発明で規定する値よりも大きい。このため、回転曲げ疲労強度およびピッチング強度はそれぞれ、750MPaおよび2300MPaと低く、本発明の目標に達していない。
本発明の浸炭部品または浸炭窒化部品は、良好な曲げ疲労強度とピッチング強度を有するので、自動車のトランスミッションに使用されるギヤなどの部品として用いることができる。
実施例で用いた切欠き付き小野式回転曲げ疲労試験片の丸棒から切り出したままの形状を示す図である。 実施例で用いたローラーピッチング小ローラー試験片の丸棒から切り出したままの形状を示す図である。 実施例で用いたローラーピッチング大ローラー試験片の丸棒から切り出したままの形状を示す図である。 実施例における「浸炭焼入−焼戻し」の1つの条件を示す図である。 実施例における「浸炭窒化焼入−焼戻し」の1つの条件を示す図である。 実施例における「浸炭焼入−焼戻し」の別の1つの条件を示す図である。 実施例における「浸炭窒化焼入−焼戻し」の別の1つの条件を示す図である。 実施例の小野式回転曲げ疲労試験で用いた切欠き付き小野式回転曲げ疲労試験片の形状を示す図である。 実施例のローラーピッチング試験で用いたローラーピッチング小ローラー試験片の形状を示す図である。 実施例のローラーピッチング試験で用いたローラーピッチング大ローラー試験片の形状を示す図である。 実施例における回転曲げ疲労強度を表面硬さの最小値であるHV(min)で整理して示す図である。 実施例における回転曲げ疲労強度を表面硬さの平均値であるHV(ave)で整理して示す図である。 実施例におけるピッチング強度を表面硬さの最小値であるHV(min)で整理して示す図である。 実施例におけるピッチング強度を表面硬さの平均値であるHV(ave)で整理して示す図である。 実施例における回転曲げ疲労強度を粗さ曲線の最大高さ粗さRzの最大値であるRz(max)で整理して示す図である。 実施例における回転曲げ疲労強度を粗さ曲線の最大高さ粗さRzの平均値であるRz(ave)で整理して示す図である。 実施例におけるピッチング強度を粗さ曲線の最大高さ粗さRzの最大値であるRz(max)で整理して示す図である。 実施例におけるピッチング強度を粗さ曲線の最大高さ粗さRzの平均値であるRz(ave)で整理して示す図である。 実施例における回転曲げ疲労強度を不完全焼入層の最大値であるT(max)で整理して示す図である。 実施例における回転曲げ疲労強度を不完全焼入層の最大距離の平均値であるT(ave)で整理して示す図である。 実施例におけるピッチング強度を不完全焼入層の最大値であるT(max)で整理して示す図である。 実施例におけるピッチング強度を不完全焼入層の最大距離の平均値であるT(ave)で整理して示す図である。

Claims (2)

  1. 生地が、質量%で、C:0.10〜0.30%、Si:0.05〜1.0%、Mn:0.35〜1.2%、P:0.030%以下、S:0.005〜0.050%、Cr:1.21〜3.0%、Al:0.010〜0.050%、N:0.0050〜0.0250%を含有し、残部がFeおよび不純物からなる化学成分の鋼で、表面硬さの最小値がビッカース硬さで750以上、粗さ曲線の最大高さ粗さRzの最大値が6μm以下、かつ不完全焼入層の最大値が15μm以下であることを特徴とする浸炭部品または浸炭窒化部品。
    ここで、不完全焼入層とは、部品を加工方向に直角に切断し、その面を被検面として鏡面研磨した後ナイタールで0.5〜2秒腐食し、光学顕微鏡によって部品の最表面を含むように倍率1000倍で観察した場合に濃く腐食されている部分を指す。
  2. 生地の鋼が、Feの一部に代えて、Mo:1.0%以下、V:0.250%以下およびNb:0.070%以下の1種または2種以上を含有する請求項1に記載の浸炭部品または浸炭窒化部品。
JP2006273614A 2006-10-05 2006-10-05 浸炭部品または浸炭窒化部品 Active JP4835367B2 (ja)

Priority Applications (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2006273614A JP4835367B2 (ja) 2006-10-05 2006-10-05 浸炭部品または浸炭窒化部品

Applications Claiming Priority (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2006273614A JP4835367B2 (ja) 2006-10-05 2006-10-05 浸炭部品または浸炭窒化部品

Publications (2)

Publication Number Publication Date
JP2008088536A JP2008088536A (ja) 2008-04-17
JP4835367B2 true JP4835367B2 (ja) 2011-12-14

Family

ID=39372985

Family Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
JP2006273614A Active JP4835367B2 (ja) 2006-10-05 2006-10-05 浸炭部品または浸炭窒化部品

Country Status (1)

Country Link
JP (1) JP4835367B2 (ja)

Families Citing this family (4)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP5169724B2 (ja) * 2008-10-22 2013-03-27 新日鐵住金株式会社 摺動部品
JP5402711B2 (ja) * 2010-02-17 2014-01-29 新日鐵住金株式会社 浸炭窒化層を有する鋼製品およびその製造方法
JP6078008B2 (ja) * 2014-01-17 2017-02-08 Jfe条鋼株式会社 肌焼鋼および機械構造用部品の製造方法
JP7323791B2 (ja) * 2019-08-09 2023-08-09 日本製鉄株式会社 浸炭歯車用鋼、浸炭歯車及び浸炭歯車の製造方法

Family Cites Families (2)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP3524229B2 (ja) * 1995-08-11 2004-05-10 株式会社神戸製鋼所 高靭性肌焼き鋼製機械部品およびその製法
JP2839481B2 (ja) * 1996-12-09 1998-12-16 マツダ株式会社 熱処理鋼部品及びその製造方法

Also Published As

Publication number Publication date
JP2008088536A (ja) 2008-04-17

Similar Documents

Publication Publication Date Title
JP5163241B2 (ja) 肌焼鋼
WO2009054530A1 (ja) 高温での面圧疲労強度に優れた浸炭窒化高周波焼入れ鋼部品及びその製造方法
JP5333682B2 (ja) 熱間鍛造用圧延棒鋼または線材
JP6241136B2 (ja) 肌焼鋼鋼材
WO2012105405A1 (ja) 窒化用鋼および窒化部品
JP5163242B2 (ja) 肌焼鋼
JP5299118B2 (ja) 真空浸炭用鋼および真空浸炭部品
JP2007146232A (ja) 鋼製軟窒化機械部品の製造方法
JP5886119B2 (ja) 肌焼鋼鋼材
JP5561436B2 (ja) 熱間鍛造用圧延棒鋼又は線材
WO2019244503A1 (ja) 機械部品
JP4737601B2 (ja) 高温窒化処理用鋼
JP4835367B2 (ja) 浸炭部品または浸炭窒化部品
JPH10306343A (ja) 冷間鍛造性及び耐ピッチング性に優れた軟窒化用鋼
JP5200552B2 (ja) 調質型軟窒化クランク軸用粗形品および調質型軟窒化クランク軸
JP5206459B2 (ja) 肌焼鋼
JP2002212672A (ja) 鋼部材
JP6431456B2 (ja) 軟窒化用鋼および部品ならびにこれらの製造方法
JP5336972B2 (ja) 窒化用鋼および窒化部品
WO2019244504A1 (ja) 機械部品の製造方法
WO2022065425A1 (ja) クランクシャフト
JP6488945B2 (ja) 高強度冷間鍛造用肌焼鋼
JPH10147814A (ja) 熱処理歪みの少ない肌焼鋼製品の製法
JP4821582B2 (ja) 真空浸炭歯車用鋼
WO2018012636A1 (ja) Cvtシーブ用鋼材、cvtシーブおよびcvtシーブの製造方法

Legal Events

Date Code Title Description
A621 Written request for application examination

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A621

Effective date: 20081125

A977 Report on retrieval

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A971007

Effective date: 20101222

A131 Notification of reasons for refusal

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131

Effective date: 20110315

A521 Written amendment

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523

Effective date: 20110512

TRDD Decision of grant or rejection written
A01 Written decision to grant a patent or to grant a registration (utility model)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A01

Effective date: 20110830

A01 Written decision to grant a patent or to grant a registration (utility model)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A01

A61 First payment of annual fees (during grant procedure)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A61

Effective date: 20110912

FPAY Renewal fee payment (event date is renewal date of database)

Free format text: PAYMENT UNTIL: 20141007

Year of fee payment: 3

R150 Certificate of patent or registration of utility model

Ref document number: 4835367

Country of ref document: JP

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R150

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R150

FPAY Renewal fee payment (event date is renewal date of database)

Free format text: PAYMENT UNTIL: 20141007

Year of fee payment: 3

S111 Request for change of ownership or part of ownership

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R313111

FPAY Renewal fee payment (event date is renewal date of database)

Free format text: PAYMENT UNTIL: 20141007

Year of fee payment: 3

R350 Written notification of registration of transfer

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R350

S533 Written request for registration of change of name

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R313533

R350 Written notification of registration of transfer

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R350