関連出願
本願は、以下の出願に対して優先権を主張する:(1)2003年3月31日に出願された、発明者Hopwood他、発明の名称「AN IMPROVED METHOD OF SCREENING FOR LYSOSOMAL STORAGE DISORDERS」のオーストラリア特許仮出願第2003/901451号、(2)2003年8月8日に出願された、発明者Hopwood他、発明の名称「MULTIPLEX SCREENING FOR LSD’S」のオーストラリア特許仮出願第2003/904174号、(3)2003年9月2日に出願された、発明者Hopwood他、発明の名称「MULTIPLEX SCREENING FOR LSD’S」のオーストラリア特許仮出願第2003/904720号。上記に特定した出願のそれぞれの完全な内容を、参照により本明細書に組み込む。
本発明は一般に、対象のリソソーム蓄積症(「LDS」)および関連疾患を判定する診断法に関する。より具体的には、本発明は、LSDを正確に診断するのに使用される、複数の標的抗原のレベルおよび比を同定および定量するための化合物、試薬、および方法に関する。標的抗原は、LSD患者および非LSD患者の双方の生体液中または組織中に天然に存在している。
LSDは、通常幼い子供に発症する、40を超える異なる遺伝病のグループを示す。LSDの罹患者は、多様な臨床症状を示し、それらは、その特異的疾患または関与している特定の遺伝子型によって異なっている。LSDに関連する臨床症状は、子供と罹患者の家族の双方に壊滅的な影響を及ぼし得る。例えば、中枢神経系の機能障害、行動上の問題、および重度の精神遅滞は、多くのLSDの特徴である。他の臨床症状には、骨格異常、臓器巨大化、角膜混濁、異形症の特徴が含まれることがある(NeufeldおよびMuenzer、1995年)。患者は、通常、生まれたときには可視的なLSDの特徴は無いが、初期段階の症状は急速に発達して進行性の臨床状態になり得る。重度の場合は、罹患した子供は持続的に医療処置を受ける必要があるが、それでも、しばしば青年期を迎える前に死亡する。
LSDのグループの罹患率(出生数ベースで1:5,000)を、フェニルケトン尿症(1:14,000)や嚢胞性線維症(1:2,500)など公知であり徹底的に試験されている他の遺伝病のグループの罹患率と比較すると、健康管理面でLSDが重要な意味を持つことは明らかである。これらの数値は、白人集団での罹患率を示している。
ある個体がLSDの症状を示し始めた後でも、この疾患の実際の臨床診断は、なお複雑なプロセスである。LSDの臨床診断には、様々な専門医を何度も訪ねることがしばしば必要になり、数ヶ月、さらには数年かかることがある。この長いプロセスは、患者と家族に極度のストレスを与える。幸いに、ここ20年の間にわたってLSDの診断はかなり進歩してきた。例えば、ムコ多糖症(「MPS」)およびオリゴ糖症と呼ばれるLSDの特異的グループについてのクロマトグラフィーに基づく尿スクリーニングの開発および導入により、これらの疾患について臨床的に選別した患者をスクリーニングすることが容易になった。これらの疾患が疑われる臨床指標が示されると、次段階の診断として尿スクリーニングを行い、この尿スクリーニングで「陽性」の場合は、続いて特異的酵素的分析を行う。クロマトグラフィーに基づくスクリーニング法は、実施するのは簡単であるが、比較的大きな労力を要し、結果を正確に解釈するためにはしばしば経験が必要となる。一実施例は、MPSまたはその関連疾患の患者の生体液中または組織中に存在している生化学的マーカー(「バイオマーカー」)を同定および定量する方法を含む。この方法は、2003年6月13日に出願された、発明者Hopwood他、発明の名称「identification of Oligosaccharides and their Use in the Diagnosis and Evaluation of Mucopolysaccharidoses and Other Related Disorders」のPCT出願AU03/00731(PCT出願AU03/00731の全内容を参照により本明細書に援用する)に記載されているように、標的動物から得た標的生体サンプルから標的のMPSバイオマーカーのオリゴ糖の標的量を決定し、次いでその標的量を基準MPSバイオマーカーのオリゴ糖の基準量と比較して、MPSおよび関連疾患の診断、特徴づけ、モニタリング、および、臨床管理をすることを含む。したがって、クロマトグラフィーに基づくLSDのスクリーニング試験は、一部の施設では使用されていない。さらに、これらのクロマトグラフィーに基づくスクリーニングは容易には自動化できず、そのため、新生児のスクリーニング戦略における利用はさらに制限されている。
特異的基質の製造および抗体捕捉法により、LSDの酵素的分析はより正確になった。理論に拘泥するものではないが、LSDの大多数は、特定のLSDに関与する特定の酵素のレベルが低いことに起因しており、正常な個体の定常状態において特定の酵素を同定することは、罹患者においてLSDの特定の形態を同定するのに役立つと考えられる。LSDに関与していることが知られている40種超の酵素のレベルの迅速かつ正確な決定を可能にすることは、より質が高く、かつより経済的なスクリーニング分析の発達に役立つと考えられる。遺憾ながら、前述のクロマトグラフィーに基づくスクリーニングおよび酵素分析のうちの多くは、時間がかかり、侵襲性かつ複雑であり、また、培養細胞または組織生検を必要とするため、これらの分析は不便で費用のかかるものになる傾向がある。その結果、LSDの試験は、多くの場合、初期段階の症状を示す罹患した子供のための最善の戦略ではない。新生児のLSDスクリーニングをするとLSDの早期検出が見込めるが、疾患を早期に検出するためにはすべての新生児をスクリーニングしなければならない。LSDの家族歴がある患者は、LSDの早期スクリーニングを実施する正当な理由を有している可能性がある。しかし、LSDの家族歴の無い個体におけるLSDの早期スクリーニングの費用は、経済的に正当と認められない可能性がある。したがって、多数の新生児を経済的にスクリーニングすることが可能なLSDスクリーニング法があれば、有益と思われる。
LSDの1つの共通の特徴は、リソソーム内部での物質の蓄積および貯蔵である。LSD罹患者における物質の蓄積および貯蔵は、細胞内のリソソームの数およびサイズの増大をもたらし、細胞体積全体の約1%から50%までにもなることが、一般に認識されている。罹患していない個体では、これらの物質は、通常、リソソーム内部で分解されて分解産物になり、次いでリソソーム膜を通って輸送される。ある種のリソソーム・タンパク質は、罹患者のリソソーム内で高いレベルで存在している(Meikle他、1997年;Hua他、1998年)。これらの同定済みタンパク質は、すべてのLSDの早期診断に有用なバイオマーカーである。例えば、高感度の免疫定量法が、リソソーム膜タンパク質(「LAMP」)、サポシン、およびα−グルコシダーゼなど有用なバイオマーカーのレベルをモニターするために開発された。「危険性の高い」グループにおいてLAMP−1のレベルまたはLAMP−2のレベルのいずれかのみを決定することにより、LSD罹患者の最大65%を同定することができるが、LAMPをサポシンのうちの1つと組み合わせることにより、LSD罹患者の同定率は約85%に上昇する。したがって、2つ以上のバイオマーカーを同時に同定する方法であれば、任意の単一項目分析と比べて、特定のLSDの診断の正確性が高まるであろう。既知のLSD欠損酵素の各種について同時スクリーニングを実施することができる自動化多重分析が実現すれば、正確なLSD診断に要する時間と費用が低減すると思われる。
多重化ビーズ技術は3つの核となる技術をもとに作られている。第1の技術は、特異的な生体分子をその表面に結合させた、蛍光染色した微粒子のファミリーである。第2の技術は、微粒子の表面で発生する生化学反応を測定するための、レーザー2種および関連の光学機器を用いたフロー・サイトメトリーであり、第3の技術は、効率的に蛍光の出力を処理する高速デジタル変換器である。このタイプのシステムは、例えば、米国特許第6,449,562号、米国特許第6,524,793号、および米国特許出願第09/956,857号に記載されている。発明者Chandler他、発明の名称「Multiplexed Analysis of Clinical Specimens Apparatus and Method」の米国特許第6,449,562号(以下、特許第562号)は、2002年9月10日に発行された。この特許第562号は、適切に標識したビーズセットを構築するステップと、そのビーズセットを臨床サンプルに暴露させるステップと、結合したサンプル/ビーズセットをフロー・サイトメトリーによって分析するステップとを含む、酵素、DNA断片、抗体、および他の生体分子の多重化した診断的および遺伝的分析をするための方法を開示している。フロー・サイトメトリー測定を使用して、暴露されたビーズセット内のビーズがリアルタイムで分類され、リアルタイム分析中に得られた蓄積データに基づき、文字情報の説明結果が使用者に提供される。この特許第562号の発明技術により、リアルタイムで複数の生体分子またはDNA配列を同時かつ自動的に検出および解析し、その一方で診断および遺伝的分析を実施する費用も削減することが可能になった。しかし、特許第562号は、LSDを診断するためにその技術をどのように利用するかを記載していない。
発明者Chandler他、発明の名称「Multiplexed Analysis of Clinical Specimens Apparatus and Method」の米国特許第6,524,793号(以下「特許第793号」)は、2003年2月25日に発行された。特許第793号は、適切に標識したビーズセットを構築するステップと、そのビーズセットを臨床サンプルに暴露させるステップと、結合したサンプル/ビーズセットをフロー・サイトメトリーによって分析するステップとを含む、酵素、DNA断片、抗体、および他の生体分子の多重化した診断的および遺伝的分析をするための方法を開示している。フロー・サイトメトリー測定を使用して、暴露されたビーズセット内のビーズがリアルタイムで分類され、リアルタイム分析中に得られた蓄積データに基づき、文字情報の説明結果が使用者に提供される。この特許第793号の発明技術により、リアルタイムで複数の生体分子またはDNA配列を同時かつ自動的に検出および解析し、その一方で診断および遺伝的分析を実施する費用も削減することが可能になった。しかし、特許第793号は、LSDを診断するためにその技術をどのように利用するかを記載していない。
発明の名称「Multiple Reporter Read−out for Bioassays」の米国特許出願第09/956,857号(以下、特許出願第857号)は、2003年3月20日に公開された。この特許出願第857号は、位置指定が可能な微粒子上の反応物と反応部位とを反応させて、蛍光強度により判別可能な反応物−反応部位のペアを形成させるステップを含む、分析物上の複数の反応部位を検出するための方法を記載している。特許出願第857号は、位置指定可能な微粒子を1種または複数のレポーター試薬と組み合わせて使用して、サンプル中の複数の分析物を検出するための方法も提供している。また、微粒子を用いて2種以上の対立遺伝子を有する遺伝子座の対立遺伝子の接合性を決定するための方法、および核酸分子の複数のSNPを検出するための方法も提供されている。特許出願第857号はまた、蛍光強度により判別可能な反応物−分析物のペアを形成させることができる蛍光性の反応物を少なくとも2種有する位置指定可能な微粒子を含む組成物、およびこの発明組成物と複数のレポーター試薬とを含むキットも提供している。しかし、特許出願第857号は、LSDを診断するためにその技術をどのように利用するかを記載していない。上記に列挙した各特許出願および各特許の全体を、参照により具体的に本明細書に組み込む。
したがって、自動化が可能であり、迅速、正確、かつ経済的なLSDの早期診断用スクリーニングを開発する必要がある。自動多重分析で特定のLSD酵素の同定が可能になり、ならびにLSDの早期診断および早期治療に関連する他のいくつかの問題に対処可能となれば新生児のスクリーニング・プログラムの開発に重大な影響を及ぼすことになろう。本発明は、LSD診断用多重分析のための化合物、試薬、および方法を提供する。
リソソーム蓄積症(「LSD」)は、通常幼い子供に発症する、40を超える異なる遺伝病のグループを示す。LSDの罹患者は、多様な臨床症状を示し、それらは、その特異的疾患または関与している特定の遺伝子型によって異なっている。本発明は一般に、LSDおよび関連疾患を診断するための複数項目同時スクリーニングに関する。より具体的には、本発明は、LSDを正確に診断するために使用する、複数の標的酵素およびタンパク質を同定および定量するための化合物、試薬、および方法に関する。これらの標的酵素およびタンパク質は、患者の生体液中または組織中に天然に存在している。本発明はまた、特定のLSD酵素を同時にスクリーニングするための多重化ビーズ技術に関する。
本発明の第1の態様は、LSDの診断に使用する組成物である。この組成物は、標的抗原への結合能のある捕捉抗体、およびその捕捉抗体が結合されている微粒子を含む。標的抗原は、LSD関連生体分子であり、α−イズロニダーゼ、α−グルコシダーゼ、サポシンC、LAMP−1、LAMP−2、β−グルコシダーゼ、α−ガラクトシダーゼA、イズロネート−2−スルファターゼ、N−アセチルガラクトサミン 4−スルファターゼ、ガラクトース 6−スルファターゼ、酸性スフィンゴミエリナーゼ、ガラクトセレブロシダーゼ、アリールスルファターゼA、サポシンB、ヘパラン−N−スルファターゼ、α−N−アセチルグルコサミニダーゼ、アセチルCoA:グルコサミン N−アセチルトランスフェラーゼ、N−アセチルグルコサミン 6−スルファターゼ、β−ガラクトシダーゼ、β−グルクロニダーゼ、アスパルチルグルコサミニダーゼ、酸性リパーゼ、β−ヘキソサミンダーゼA、β−ヘキソサミンダーゼB、GM2−活性化因子、酸性セラミダーゼ、α−L−フコシダーゼ、α−D−マンノシダーゼ、β−D−マンノシダーゼ、ノイラミニダーゼ、ホスホトランスフェラーゼ、ホスホトランスフェラーゼ gサブユニット、パルミトイルタンパク質チオエステラーゼ、トリペプチジル・ペプチダーゼI、カテスプシンK、α−ガラクトシダーゼB、またはシアル酸輸送体を含む。捕捉抗体が結合された微粒子は、約5μmの直径であり、少なくとも第1の蛍光体と第2の蛍光体を有する。第1の蛍光体は、第2の蛍光体とは異なるスペクトルを有する。この組成物はさらに、標的抗原に結合することができるが、捕捉抗体とは異なる検出抗体を含んでもよく、この検出抗体は、当技術分野で既知の検出可能な標識のいずれか(例えば蛍光性標識)に結合される。
本発明の第2の態様は、LSDの前臨床状態または臨床状態を診断するためのタンパク質のプロファイル作成法を含む。この方法は、LSDの臨床状態が未知の標的生体試料から少なくとも第1および第2の標的抗原の量を決定するものである。また、LSDの臨床状態が既知の基準生体試料から、少なくとも第1および第2の基準抗原の量を決定する。標的抗原は、LSD関連生体分子であり、α−イズロニダーゼ、α−グルコシダーゼ、サポシンC、LAMP−1、LAMP−2、またはLSDに関連した他のバイオマーカーを含む。第1標的抗原の量と第2標的抗原の量との標的比率を計算することにより、補正した標的量を割り当てることができる。同様に、第1基準抗原の量と第2基準抗原の量との基準比率を計算することにより、補正した基準量を割り当てることができる。次に、補正した基準量に対する補正した標的量の偏差を比較することによって、LSDの前臨床状態または臨床状態を決定することができる。特定の一実施形態では、この方法の標的生体試料および基準生体試料は、細胞抽出物、血液、血漿、または尿から選択する。代替方法では、第2標的抗原および第2基準抗原は、細胞数、細胞小器官数、細胞サイズ、細胞小器官サイズ、細胞体積、または細胞小器官体積のバイオマーカー標識を含む。
本発明の第3の態様は、捕捉抗体微粒子の組成物を使用して、標的生体試料においてLSDを示す少なくとも第1標的抗原および少なくとも第2標的抗原の量を決定するための方法を含む。この方法は、少なくとも第1の捕捉抗体微粒子、および少なくとも第2の捕捉抗体微粒子を標的生体試料とともにインキュベートして、捕捉用懸濁液を形成させることを含む。次いで、第1捕捉抗体微粒子および第2捕捉抗体微粒子を捕捉用懸濁液から回収する。次に、これらの回収した第1および第2捕捉抗体微粒子を、それぞれ第1および第2検出抗体とハイブリダイズさせる。検出抗体が結合した、回収した第1捕捉抗体微粒子および回収した第2捕捉抗体微粒子は、検査ゾーンをそれらが通過する際に検出することができる。次に、1種または複数の微粒子分類パラメータに関係するデータ、すなわち第1および第2検出抗体の有無のデータを集め、第1および第2検出抗体の量を定量する。ある特定の実施形態では、標的生体試料は、細胞抽出物、血液、血漿、または尿から選択する。別の特定の実施形態では、第1標的抗原および第2標的抗原は、それぞれ、α−イズロニダーゼ、α−グルコシダーゼ、サポシンC、またはLSDに関連した他のバイオマーカーである。第2標的抗原は、細胞数、細胞小器官数、細胞サイズ、細胞小器官サイズ、細胞体積、または細胞小器官体積の標識を含んでもよい。
本発明の第4の態様は、サンプル中の複数のLSD標的抗原を検出する方法を含む。LSD抗原の特定のサブセットは、α−イズロニダーゼ、α−グルコシダーゼ、サポシンC、またはLSDに関連した他のバイオマーカーを含む。この方法は、標的捕捉微粒子のプール集団をサンプルに暴露させることを含む。標的捕捉微粒子はそれぞれ異なるサブセットを有しており、異なるサブセットはそれぞれ、(i)蛍光発光強度を含む所定の粒子判別用の関数表に従って、1サブセットの1標的捕捉微粒子を別の標的捕捉微粒子サブセットの微粒子から区別する、1つまたは複数の特徴的な分類パラメータ、および(ii)LSD抗原の特定のサブセットに結合できる異なる捕捉抗体を有している。標的捕捉微粒子のプール集団をサンプルに暴露させた後、標的捕捉微粒子の暴露済プール集団を検査ゾーンに通す。当該のLSD標的抗原の各特定のサブセットが何であるか、およびその量は、サンプル中に存在するならば、(i)蛍光発光強度を含む所定の粒子判別用の関数表に従って、1サブセットの1標的捕捉抗体微粒子を別の標的捕捉抗体微粒子サブセットの微粒子から区別する、標的捕捉微粒子の分類パラメータの1つまたは複数のサブセットに関係するデータを集めること、(ii)特定のLSD抗原の対応するサブセットの有無に関するデータを集めること、および(iii)捕捉抗体微粒子の各サブセット上の特定のLSD抗原の対応する各サブセットを定量することによって決定する。特定の実施形態では、この方法はさらに、標的捕捉微粒子を検出ゾーンに通す前に、検出抗体のプール集団を標的捕捉微粒子の暴露済プール集団に添加することも含む。
用語
本明細書では、「a」または「an」という用語は、1つまたは複数を意味してよい。本明細書の特許請求の範囲では、「comprising(含む)」という単語と共に使用されるとき、「a」または「an」という単語は、1つまたは複数を意味してよい。本明細書では、「another(別の)」という用語は、少なくとも2番目のものまたは3番目以降のものを意味してよい。
本明細書では、「動物」、「対象」、または「患者」という用語は、交換可能に使用してよく、動物界の任意の種を意味する。好ましい実施形態では、これは、より具体的にはヒトを意味する。
本明細書では、「生体分子」という用語は、LSD治療薬を投与、モニタリング、または改変する際に使用する、LSDを判定する組成物および方法のための、タンパク質、抗体、代謝産物、DNA配列、RNA配列、標的生体分子を多重化しプロファイル作成する目的で使用または測定される活性を有する生物工学製品、あるいはそれらを組み合わせたものなどの標的分子を示すものと理解されたい。
本明細書では、「臨床状態」という用語は、医師からLSDの試験または治療を受けている患者を意味する。
本明細書では、「comprise(含む)」、または「comprises」や「comprising」などの変形は、記述した要素、整数、または、要素もしくは整数のグループを包含するが、他のいかなる要素、整数、および、要素もしくは整数のグループも除外しないことを意味するのに使用してよい。
本明細書では、「蛍光体」という用語は、LSD抗原を定量するのに使用できる任意の蛍光化合物または蛍光タンパク質を意味する。
本明細書では、「規準化する」という用語は、標的サンプル、基準サンプル、または他のサンプルを、標準、パターン、モデルなどに適合するようにすることを意味する。例えば、一実施形態では、LSD患者および非LSD患者から得た尿サンプルを、各サンプルから1μmol当量のクレアチニンを使用することによって規準化した。
本明細書では、「表現型」という用語は、解剖学的形質および心理学的形質を含めて、生物に集団的に現れる特徴を意味する。これらの形質は、遺伝および環境の双方に起因する。
本明細書では、「前臨床状態」という用語は、何らかの臨床症状が現れる前の疾患の期間を意味する。
本明細書では、「リソソーム蓄積症(「LSD」)に関連した生体分子」という用語は、いずれかのLSDに関連づけられている任意の生体分子を意味する。好ましい実施形態では、LSD関連生体分子には、それだけには限らないが、α−イズロニダーゼ、α−グルコシダーゼ、サポシンC、LAMP−1、LAMP−2、β−グルコシダーゼ、α−ガラクトシダーゼA、イズロネート−2−スルファターゼ、α−イズロニダーゼ、N−アセチルガラクトサミン 4−スルファターゼ、ガラクトース 6−スルファターゼ、酸性スフィンゴミエリナーゼ、ガラクトセレブロシダーゼ、アリールスルファターゼA、サポシンB、ヘパラン−N−スルファターゼ、α−N−アセチルグルコサミニダーゼ、アセチルCoA:グルコサミン N−アセチルトランスフェラーゼ、N−アセチルグルコサミン 6−スルファターゼ、β−ガラクトシダーゼ、β−グルクロニダーゼ、アスパルチルグルコサミニダーゼ、酸性リパーゼ、β−ヘキソサミンダーゼA、β−ヘキソサミンダーゼB、GM2−活性化因子、酸性セラミダーゼ、α−L−フコシダーゼ、α−D−マンノシダーゼ、β−D−マンノシダーゼ、ノイラミニダーゼ、ホスホトランスフェラーゼ、ホスホトランスフェラーゼ gサブユニット、パルミトイルタンパク質チオエステラーゼ、トリペプチジル・ペプチダーゼI、カテスプシンK、α−ガラクトシダーゼB、またはシアル酸輸送体が含まれる。以下に示すように、表1は、LSDに関する一部の酵素欠損を示す。
本明細書では、「基準量」という用語は、生物体液中のLSDバイオマーカーの既知で規準化された量を意味する。基準量は、画定された臨床状態、前臨床状態、またはLSD疾患の表現型を有する動物または動物グループから決定する。基準量は、生物体液中のLSDバイオマーカーの相対量と相関関係があり、臨床状態、前臨床状態、または表現型が既知の様々な動物または動物グループから集めたデータの一覧表を意味してよい。
リソソーム蓄積症
LSDは、通常幼い子供に発症する、40を超える異なる遺伝病のグループを示す。患者は、通常、生まれたときには可視的なLSDの特徴は無いが、初期段階の症状は急速に発達して進行性の臨床状態になり得る。いくつかの有効なLSD治療が開発されているが、LSDと診断されてすぐに治療を始めることが最も重要である。遺憾ながら、LSDの臨床診断は、時間がかかり、侵襲性で、複雑で、不便で、かつ高価な分析を必要とし、様々な専門医を何度も訪ねることがしばしば必要になる。LSDの家族歴の無い患者のLSDを正確に診断するための現在のプロセスは、数ヶ月から数年かかることがあり、これは、より早期に有効なLSD治療が必要とされる場合には受け容れ難い。
LSD罹患者のリソソーム内での貯蔵物質の蓄積量は、細胞体積全体の約1%から50%までにも増加することが、一般に認識されている。ある種のリソソーム・タンパク質は、図1〜6で示すように、LSD罹患者において様々なレベルで存在する(Meikle他、1997年;Hua他、1998年)。血漿サンプルの個々の免疫測定値を以下のように決定し、図1〜6に示した。別段の記載が無い限り、すべての試薬は分析用のものであり、シグマケミカル社(米国、ミズーリ州)から入手した。Lamp−1およびサポシンCについて、組換えタンパク質、抗体、ならびに較正用標準物質を調製した。Isaac他の「Isaac EL、Karageorgous LE、Brooks DA、Hopwood JJ、およびMeikle PJ、Experimental Cell Research 2000、254:204〜209頁」に詳細に記載されているように、組換えLamp−1(テイル部分無し)をCHO−K1細胞から単離した。組換えサポシンCは、Dr GA Grabowskiの寄託物であり、QiおよびGrabowskiの「Qi TLおよびGrabowski GA J Biol Chem 1994、269:16746〜16753頁」の方法によって調製した。
抗Lamp−1モノクローナル抗体(BB6)を、完全なLamp−1タンパク質を用いて、CarlssonおよびFukadaの「Carlsson SRおよびFukada M JBC(1989年)264(34):20526〜20531頁」の方法によって生成させ、7B2(抗サポシンC)モノクローナル抗体を、組換えタンパク質を用いて、「Hurrell JGR編、Monoclonal hybridoma antibodies:techniques and applications、Boca Raton、FL:CRC Press、1982年、1〜57頁のZola HおよびBrooks D.Techniques for the production and characterization of monoclonal hybridoma antibodies」に記載されている方法によって作製した。Leonova他、1996年の「JBC271:17312〜20頁」の方法に基づき、1回接種あたり各組換えタンパク質200μgを用いて(全部で4回接種)、別々のウサギを免疫化することにより、Lamp−1およびサポシンCの双方に対するポリクローナル抗体を生成させた。すべての抗体を、5mlの「Hitrap(登録商標)」Gタンパク質アフィニティー・カラム(ファルマシア社、ウプサラ、スウェーデン)を使用して精製した。これらのポリクローナル抗体を、製造業者の取扱い説明書に従い「Affi−Gel(商標)」10Gel(バイオ・ラッド社 #153−6046、カリフォルニア州、米国)に結合させたそれぞれの組換えタンパク質を使用するカラム・クロマトグラフィーによって、さらにアフィニティー精製した。
Lamp−1およびサポシンCを最終濃度2000、1000、500、250、62.5、および0μg/Lで含む血液スポットの較正物質を、Umapathysivam他の「Umapathysivam K、Whittle AM、Ranieri E、Bindloss C、Ravenscroft EM、van Diggelen OP、Hopwood JJ、およびMeikle PJ、Clin Chem 46(9):1318〜1325頁、2000年」に詳細に記載されている方法にしたがって調製した。2種類の血液スポットの対照、すなわちタンパク質濃度が低いもの(Lamp−1 400μg/L、サポシン 200μg/L)と高いもの(Lamp−1 800μg/L、サポシンC 500μg/L)を同様に調製した。
EDTAを含む乾燥血液スポットにおけるLamp−1およびサポシンCの定量。Lamp−1およびサポシンCを、1ステップ3段階の時間分解蛍光免疫測定法を使用して、乾燥血液スポット中で測定した。マイクロタイター・プレート(Labsytems社、ヘルシンキ、フィンランド、#95029180)を、pH8.3の0.1mol/l NaHCO3溶液に溶解した濃度5μg/LのBB6または7B2のいずれかで被覆し、4℃で約16時間、蓋をした状態でインキュベートした。プレートを、洗浄バッファー(0.005%Tween 20(BDH社、プール、英国)および0.002%チオメロサール(Thiomerosal)含有0.25mo1/1 NaCl、0.02mol/l Tris、pH7.8)で2回洗浄した。プレート上の非特異的な結合部位を、ウェルあたり100μlの0.5%脱脂粉乳(Diploma、ボンラック・フード社(Bonlac Foods)、ビクトリア、オーストラリア)含有0.25M NaCl、0.02M Tris、pH 7.8を加えてブロックした。室温で2時間インキュベーションした後、このマイクロタイター・プレートを0.25M NaCl、0.02M Tris、pH7.8で2回洗浄し、液体を除いた後凍結乾燥し、使用するまで4℃、乾燥状態で保存した。
較正用標準物質、対照、および患者の乾燥血液スポットを、分析用バッファー(0.01%Tween40、0.5%ウシ血清アルブミン(A−9647)、0.05%ウシγ−グロブリン(G−7516)、0.05%アジ化ナトリウムを含有した0.15mol/l NaCl、0.05mol/L Tris、20μmol/L ジエチレントリアミン−ペンタ−酢酸、pH7.8)中で希釈したどちらかのポリクローナル抗体200μlで被覆したマイクロタイターのウェルに蒔いて2プレートを作製した。抗体は、抗Lamp−1ポリクローナル抗体については200μg/L、抗サポシンCポリクローナル抗体については400μg/Lの最終濃度でそれぞれ使用した。プレートに蓋をし、振とうしながら室温で1時間インキュベーションし、次に4℃で一晩置き、次いで、振とうしながら室温で1時間インキュベーションした。血液スポットを吸引によって取り除き、プレートを洗浄バッファーで6回洗浄した。分析用バッファー中で最終濃度0.1μg/mlに希釈した後、ユーロピウムで標識した抗ウサギ抗体(ワラック社、フィンランド #AD0105)100μlをすべてのウェルに加え、振とうしながら室温で1時間インキュベーションした。洗浄バッファーで最後に6回プレートを洗浄した後、ウェル当たり200μlの「DELFIA(商標)」増強溶液(ワラック社、フィンランド)を加え、プレートを振とうしながら室温で10分間インキュベーションした。蛍光を、「DELFIA(商標)」1234試験用蛍光光度計(Research Fluorometer)(ワラック社、フィンランド)で測定した。血液スポット中のLamp−1およびサポシンCの濃度を、マルチ計算データ分析ソフト(バージョン2.4 ワラック社、フィンランド)により作成したスプライン・フィット曲線を使用して計算した。
図1は、LSD罹患者の血漿におけるLAMP−1のレベルを箱の長さによって示したグラフであり、箱の長さは25〜75パーセンタイルの範囲を占める四分位数間範囲である。図2は、LSD罹患者の血漿におけるサポシンCのレベルを示すグラフであり、グラフ中、箱の長さは25〜75パーセンタイルの範囲を占める四分位数間範囲である。図3は、LSD罹患者の血漿におけるα−グルコシダーゼのレベルを示すグラフであり、グラフ中、箱の長さは25〜75パーセンタイルの範囲を占める四分位数間範囲である。
図4、図5、図6で示すように、乾燥血液スポットにおいて、個別に免疫測定法を行うことにより標的酵素を検出することもできる。例えば、図4は、LAMP−1について患者の血液スポットを分析した結果を示すグラフであり、グラフ中、箱の長さは25〜75パーセンタイルの範囲を占める四分位数間範囲である。図5は、サポシンCについて患者の血液スポットを分析した結果を示すグラフであり、グラフ中、箱の長さは25〜75パーセンタイルの範囲を占める四分位数間範囲である。図6は、乾燥血液スポットにおけるα−グルコシダーゼのタンパク質量/活性の測定結果を示したグラフであり、グラフ中、箱の長さは25〜75パーセンタイルの範囲を占める四分位数間範囲である。図7は、新生児におけるα−グルコシダーゼ・タンパク質の分布を示すグラフである。図8は、LAMP−1およびサポシンCの新生児集団における分布を示すグラフであり、図9は、分析した当該の各LSDを罹患している標的集団を示すグラフである。
ある種の標的リソソーム・タンパク質は、罹患者において変化したレベルで存在するが、現在の個別スクリーニング法は、個々のサンプル間の変異が原因で不正確になることがある。例えば、所与のサンプルは、平均的な数のリソソームまたは白血球(「WBC」)を含むと推測されているが、個々のサンプル間におけるこれらの値の変異は通常考慮されていない。したがって、試験サンプルにおいて特定のLSD生体分子(例えば、標的リソソーム・タンパク質)を欠損しているが、同時にWBCの数が異常に多くリソソームが多い個体の場合、この変異が原因でLSDを罹患していない個体と一致する分析結果が得られることがある。したがって、WBCまたは多数のリソソームをサンプル調製物中で制御すると、極めて不正確な結果になることを回避できると思われ、LSDスクリーニングの1回の実施で適切な診断ができるであろう。
複数の標的酵素の量を決定すると、任意の単一項目分析と比べて、特定のLSD診断の正確性が高められる。例えば、「危険性の高い」グループにおいてLAMP−1やLAMP−2などのリソソーム膜タンパク質(「LAMP」)のレベルを特定するために免疫定量法を使用すると、LSD罹患者の最大65%を同定することができる。しかし、LAMPをサポシンのうちの1つと組み合わせることにより、LSD罹患者の同定率は約85%に上昇する。したがって、2つ以上のバイオマーカーを同時に同定する方法により、LSD診断の正確性が高まり、各分析に要する時間と費用が低減すると思われる。多重化ビーズ技術を使用して、以下にまたは表1に記述した少なくとも2種の特定のLSD標的抗原を同時に検出する。
多重化ビーズ技術および標的LSDタンパク質。多重化ビーズ技術は3つの核となる技術をもとに作られている。第1の技術は、生体分子を結合させた、蛍光染色した微粒子のファミリーである。第2の技術は、微粒子の表面で発生する生化学反応を測定するための、レーザー2種および関連の光学機器を用いたフロー・サイトメトリーであり、第3の技術は、効率的に蛍光の出力を処理する高速デジタル変換器である。バイオ・ラッド社(ハーキュリーズ、カリフォルニア州)は、「Bio−Plex(登録商標)」という名称で市販されているタンパク質アレイ・システムを発売している。「Bio−Plex(登録商標)」タンパク質アレイ・システムは、蛍光染色した微粒子、レーザー2種および関連の光学機器を用いたフロー・サイトメトリー、および高速デジタル変換器を含む。しかし、「Bio−Plex(登録商標)」タンパク質アレイ・システムも、市販されている他のいずれのシステムも、特定のLSD酵素を同時にスクリーニングするのに必要となる特異的な生体分子、方法、化合物、および試薬を含んでいない。
「Bio−Plex(登録商標)」タンパク質アレイ・システムは、多重化技術を使用し、最大100種の様々な分析物を同時に定量することを可能にしている。この技術は、スペクトルが異なる2種の蛍光体を異なる比で用いて内部を染色したポリスチレン微粒子を使用する。各蛍光体は、10段階が可能なレベルの蛍光強度のうちのいずれかを有し、したがって、スペクトルが異なる100種類のビーズ・セットのファミリーを作ることができる。好ましい実施形態では、染色した微粒子に、標的LSDタンパク質またはそのペプチドに対して特異的なモノクローナル抗体を結合させる。理論に拘泥するものではないが、スペクトルが異なる100種類のビーズ・セットは、それぞれ、特有のLSD標的タンパク質に特異的な捕捉抗体を含むことができる。多重化した「Bio−Plex(登録商標)」分析では、LSD抗体結合ビーズを、マイクロタイター・プレートのウェル中でサンプル、および第2のLSD抗体または検出LSD抗体と反応させて、サンドイッチ型捕捉免疫測定法を形成させる。図10は、スペクトルが異なる2種の蛍光体を有するポリスチレン微粒子(110)、微粒子に結合された標的LSD捕捉抗体(120)、標的LSD捕捉抗体に結合された特有のLSD標的タンパク質または標的抗原(130)、検出LSD抗体(140)、および検出分子(150)を有する、微粒子ベースのサンドイッチ型捕捉免疫測定法の一式を示す図である。この微粒子ベースのサンドイッチ型捕捉免疫測定法の一式が溶液中で形成したら、次に、この免疫測定用溶液を、サンプルを照明し読み取る「Bio−Plex(登録商標)」アレイ・リーダーに入れる。理論に拘泥するものではないが、特定のLSDに特異的な酵素欠損が数多くあり、これらの酵素の一部を表1に示している。図11で示すように、標的化合物に対して特異的な捕捉抗体および検出抗体が、特定のLSDに対して利用可能である。捕捉抗体および検出抗体にはさらに、β−グルコシダーゼ、α−ガラクトシダーゼA、イズロネート−2−スルファターゼ、α−イズロニダーゼ、N−アセチルガラクトサミン 4−スルファターゼ、ガラクトース 6−スルファターゼ、酸性スフィンゴミエリナーゼ、ガラクトセレブロシダーゼ、アリールスルファターゼA、サポシンB、ヘパラン−N−スルファターゼ、α−N−アセチルグルコサミニダーゼ、アセチルCoA:グルコサミン N−アセチルトランスフェラーゼ、N−アセチルグルコサミン 6−スルファターゼ、β−ガラクトシダーゼ、β−グルクロニダーゼ、アスパルチルグルコサミニダーゼ、酸性リパーゼ、β−ヘキソサミニダーゼA、β−ヘキソサミニダーゼB、GM2−活性化因子、酸性セラミダーゼ、α−L−フコシダーゼ、α−D−マンノシダーゼ、β−D−マンノシダーゼ、ノイラミニダーゼ、ホスホトランスフェラーゼ、ホスホトランスフェラーゼ gサブユニット、パルミトイルタンパク質チオエステラーゼ、トリペプチジル・ペプチダーゼI、カテスプシンK、α−ガラクトシダーゼB、シアル酸輸送体が含まれる。
「Bio−Plex(登録商標)」アレイ・リーダーにおいて、赤色ダイオードの「分類」レーザー(635nm)が染色したビーズを照明すると、ビーズの蛍光サインから、100種類が可能なビーズ・セットのうちの1つのメンバーとしてそのビーズは同定される。「Bio−Plex(登録商標)」マネージャー・ソフトウェアにより、各ビーズ・セットとそれに結合させていた分析試薬(例えば、ビーズ・セット#22に結合させた第1のLSD捕捉抗体、およびビーズ・セット#42に結合させた第2のLSD捕捉抗体)とを相関づける。このようにして、「Bio−Plex(登録商標)」タンパク質アレイ・システムにより、単一のマイクロタイター・ウェル内部で結合した様々な分析物を判別することができる。アレイ・リーダー中の緑色の「レポーター」レーザー(532nm)は、分析物中の検出LSD抗体に結合した第3の蛍光染色色素(フィコエリトリン、「PE」)を同時に励起する。理論に拘泥するものではないが、緑色蛍光の量は、免疫測定法で捕捉された標的分析物の量に比例する。標的分析物の捕捉量を検量線に外挿すると、サンプル中の各LSD分析物の定量ができる。デジタル信号処理アルゴリズムにより、分類データのリアルタイムでの獲得および1秒当たり数千個のビーズからのレポーター信号の出力を同時に行うことができ、各96ウェル・プレートから最大100×96=9,600個の分析物を測定する機能を有することができる。
LSD標的微粒子の設計および作製。Bio−Plexタンパク質アレイ・システムを一実施形態として使用して、LSD多重診断分析に必要な試薬のタイプおよび性質を実証した。4種の標的タンパク質(例えば、LAMP−1、α−イズロニダーゼ、α−グルコシダーゼ、およびサポシンC)を使用して、標的捕捉微粒子および標的レポーター抗体を設計した。
LAMP−1に対するモノクローナル捕捉抗体は、Sven Carlsson(Carlsson他、1989年)により開発および提供されたBB6とした。α−グルコシダーゼに対するモノクローナル・レポーター抗体(43D1)は、Pharming社から入手した。この抗体は(Fransen他、1988年)に記載されている。LAMP−1に対するポリクローナル・レポーター抗体、サポシンCに対するウサギ・ポリクローナル・レポーター抗体、α−グルコシダーゼに対するヒツジ・ポリクローナル捕捉抗体、およびサポシンCに対するモノクローナル捕捉抗体(「7B2」)は、当技術分野で公知であり、以下に簡単に記述する標準技術を用いて、オーストラリア、アデレードのWCHのリソソーム蓄積症試験所(Lysosomal Diseases Research Unit)内で作製した。特異的なモノクローナル抗体およびポリクローナル抗体の有用性および作製方法は、当業者には公知である。本実施例での特異的抗体の作製について、以下に記述する。
ポリクローナル抗体。ヒツジ・ポリクローナル抗体を、組換えタンパク質に対して作製した。ヒツジに、リン酸緩衝食塩水(pH7.4)およびフロイント完全アジュバントの乳濁液1mL中のタンパク質2mgを皮下注射し、次いで、フロイント不完全アジュバントを用いてブースター注射(各2mg)を4回、各回3週間の間隔をあけて行った。最終回の注射の1週間後、ヒツジの血を採り、血清を集めた。1回の免疫化当たり0.2〜1.0mgのタンパク質を使用した点以外は同様にして、ウサギ・ポリクローナル抗体を調製した。ヒツジ・ポリクローナル抗体を、5mLの「Hitrap(登録商標)」Gタンパク質アフィニティー・カラム(ファルマシア・バイオテック社、ウプサラ、スウェーデン)で精製し、次いで免疫化に使用した組換えタンパク質から調製したアフィニティー・カラムで精製した。組換えタンパク質アフィニティー・カラムは、製造業者の取扱い説明書どおり、Affi−gel 10(バイオ・ラッド社、ハーキュリーズ、カリフォルニア州、米国)2.5mLに組換えタンパク質5mgを結合させることによって調製した。
簡単に言うと、ヒツジ血清5mLを、リン酸緩衝食塩水(pH7.4)で希釈し、遠心(2200g、10分、40℃)した。遠心した血清を0.2μmのフィルターに通し、次に、流速0.5mL/分のGタンパク質カラムに添加した。カラムをリン酸緩衝食塩水、pH7.4で洗浄し、0.1mol/L H3PO4/NaH2PO4、pH2.5を用いて抗体を溶離させ、すぐに1.0mol/L Na2HPO4(1/10体積量)を加えることにより中和した。280nmでの吸光度によってタンパク質含有量を推定した(吸光度=タンパク質1.0g/L当たり1.4)。溶離液を4倍に希釈し、次に同じ流速の適切な組換えタンパク質アフィニティー・カラムに添加した。Gタンパク質カラムについて記述したようにして、カラムを洗浄し溶離させた。
モノクローナル抗体。モノクローナル抗体を、標準の免疫化プロトコール(Harlow他、1988年)を使用して、Balb/Cマウスにおいて作製した。確立されているプロトコールを使用し、マウスを組換え酵素で免疫化した。これらの免疫化したマウスから得た血漿細胞を、P3.653骨髄腫細胞に融合させ(Zola他、1982年)、得られたハイブリドーマ細胞系を、直接ELISAにより、組換えタンパク質に対する抗体についてスクリーニングした(Harlow他、1988年)。モノクローナル抗体を、硫安塩析、次いで「Hitrap(登録商標)」Gタンパク質アフィニティー・カラム(ファルマシア・バイオテック社、ウプサラ、スウェーデン)でアフィニティー精製を行うことにより、細胞培養上清から精製した。
微粒子への抗体結合。標的捕捉抗体を、以下のようにして、バイオ・ラッド社のカルボキシル化(「COOH」)ビーズに結合させた。すなわち、ビーズ#(17)に抗LAMP−1、ビーズ#(19)に抗サポシンC、また、ビーズ#(21)に抗α−グルコシダーゼを結合させた。標的捕捉抗体のポリスチレン微粒子への結合は、バイオ・ラッド社のビーズ結合キット(カタログ番号171−406001、バイオ・ラッド社、ハーキュリーズ、カリフォルニア州)を使用して実施した。「Bio−Plex(登録商標)」アミン結合キットは、4mlのビーズ洗浄バッファー、85mlのビーズ活性化バッファー、135mlのPBS、pH7.4、10mlのブロッキングバッファー、25mlの保存バッファー、105mlの染色バッファー、40本の結合反応用チューブを含む。「Bio−Plex(登録商標)」アミン結合キットは、染色しカルボキシル化した5.5μmのポリスチレン・ビーズに、5時間未満で6〜150kDのタンパク質を共有結合させるのに必要なバッファーを提供している。標的捕捉抗体のカルボキシル化ポリスチレン・ビーズへの共有結合は、タンパク質の第一級アミノ基とポリスチレン・ビーズの表面に結合させたカルボキシル官能基とを使用するカルボジイミド反応を介して実現される。共有結合は耐久性が良く、数ヶ月保存した後でさえ、クリーンアップ後に未結合のタンパク質が残らない。次に、このタンパク質結合ビーズを、多重タンパク質−タンパク質結合試験または「Bio−Plex(登録商標)」タンパク質アレイ・システムを用いて分析できる多重分析の開発に使用することができる。結合反応当たりのビーズ収率は、約80%であり、ウェル当たり5,000個のビーズを用いる96ウェル・マイクロタイター・プレート2枚に十分なタンパク質結合ビーズが得られる。
結合反応が完了した後、一部改変した製造元のプロトコールに従って、標的捕捉抗体結合ビーズを計数し、タンパク質結合反応の効率を確認した。この手順では、タンパク質結合ビーズを、結合タンパク質に結合するフィコエリトリン(「PE」)で標識した抗体と反応させ、次いで、この抗体を「Bio−Plex(登録商標)」タンパク質アレイ・システムを使用して分析した。この手順は、ビーズをPE標識抗体と反応させることによって実施した。あるいは、ビオチン化した抗体に続いてストレプトアビジン−PEを使用する反応を使用してもよい。理論に拘泥するものではないが、この反応の蛍光信号の強度は、ビーズ表面のタンパク質の量に正比例している。結合が成功すると、通常、平均蛍光強度(「MFI」)シグナルは、2,000より大きくなる。タンパク質結合確認手順は、ビーズに結合したタンパク質量の迅速な比較評価を可能にしたが、タンパク質の機能性を検証することはできなかった。
LAMP−1、サポシンC、およびα−グルコシダーゼ分析におけるフィコエリトリン・レポーター分子の検出抗体への結合は、一部改変した製造業者の取扱い説明書どおりに、モレキュラープローブス社(ユージーン、オレゴン州、米国)のタンパク質−タンパク質結合キットを使用して行った。抗体および他のタンパク質とフィコビリンタンパク質の結合体を調製する方法には、当技術分野で公知の発表済みの方法がいくつかある。一般に、フィコビリンタンパク質を別のタンパク質に架橋させるのに使用する結合化学法は、(a)pH7.5で、スクシンイミジルエステルマレイミド誘導体で抗体または他のタンパク質を処理し、抗体の一部のリジン残基をチオール反応性マレイミドに変換すること、(b)適切なSPDPで修飾したフィコビリンタンパク質をジチオスレイトール(「DTT」)またはトリス−(2−カルボキシエチル)ホスフィン(「TCEP」)を用いて還元することによりチオール化フィコビリンタンパク質を調製すること、(c)上記2種のタンパク質結合体の透析物を混合し、安定なチオエーテル架橋を生じさせること、および(d)クロマトグラフィーを用いて、フィコビリンタンパク質結合体を未反応のタンパク質から分離させることを含む。
較正用タンパク質捕捉抗体とビーズ・セットの#17、#19、および#21(バイオ・ラッド社、ハーキュリーズ、カリフォルニア州、米国)をそれぞれ使用し、微粒子ベースの分析において液状の較正用タンパク質を使用して、検量線を作成した。図12は、α−グルコシダーゼの単一項目分析の検量線を示すグラフである。各ウェルの反応物中に存在する較正用タンパク質の量の検出能は、分析物0〜4ng/ウェルの範囲で直線的であった。MFIは、画定されたビーズ領域のビーズに対して検出された全蛍光量の平均とした。図13に示すように、液状の較正物質を使用して、LAMP−1(白四角)、サポシンC(白丸)、およびα−グルコシダーゼ(白三角)についても、検量線を作成した。図12と比較して、α−グルコシダーゼ・タンパク質のMFIが増加しているのは、微粒子の捕捉抗体による標識化およびフィコエリトリン・レポーターによる抗体の標識化が改善した結果である。
図13は、3種の較正物質の多重分析の検出能が、分析物0〜2ng/ウェルの範囲で直線的であったことも示している。微粒子分析システムの感度も、ストレプトアビジン−フィコエリトリン結合体(モレキュラープローブス社 #S−866)とともにビオチン化レポーター抗体を使用し、α−グルコシダーゼに対する標的捕捉用ヒツジ・ポリクローナル抗体、およびビーズ・セット(#19)を用いて実証した。図14に示すように、この分析を使用して、α−グルコシダーゼを10pg/ウェルの低レベルまで検出することができた。図14Aは、0〜2.5ng/ウェルの範囲の検量線を示し、図14Bは、同じ検量線の0〜0.156ng/ウェルの範囲を拡大したものである。
LAMP−1、α−イズロニダーゼ、α−グルコシダーゼ、およびサポシンCを測定するための4項目同時分析。標的抗原LAMP−1、α−イズロニダーゼ、α−グルコシダーゼ、およびサポシンCを対象とする高感度の4項目同時分析法をLuminex「LABMAP(登録商標)」技術に基づく微粒子技術を使用して開発した。一般例として、図15は、4項目同時分析用のサンドイッチ型捕捉免疫測定法の微粒子集団の図を示したものである。この微粒子集団は、スペクトルが異なる4種のポリスチレン微粒子(510〜513)、微粒子に結合させた4種の標的LSD捕捉抗体(520〜523)、4種の特有のLSD標的タンパク質または標的抗原であり、対応する標的LSD捕捉抗体に結合されるサポシン、LAMP−1、α−イズロニダーゼ、およびα−グルコシダーゼ(530〜533)に相当するもの、4種の特有の検出LSD抗体(540〜543)、ならびに検出分子(550)を有する。
特異的標的捕捉微粒子および標的レポーター抗体。特異的標的捕捉微粒子および標的レポーター抗体を、前述した4種の特異的標的タンパク質(例えば、LAMP−1、α−イズロニダーゼ、α−グルコシダーゼ、およびサポシンC)に対する抗体を使用して作製した。ヒツジ抗α−イズロニダーゼ・ポリクローナル抗体および抗α−グルコシダーゼ・ポリクローナル抗体を、最初に硫安塩析によって精製した。硫安塩析により精製した抗体を、Gタンパク質アフィニティー精製(アマシャム・ファルマシア社、5ml、#17−0404−01)を使用して、さらに精製した。Gタンパク質アフィニティー精製を行った抗体を、最後に、α−イズロニダーゼ・タンパク質またはα−グルコシダーゼ・タンパク質のいずれかと結合させたハイ・トラップNHS−活性化HPカラム(アマシャム・ファルマシア社、5ml、#17−0717−01)を用いて精製した。抗LAMP−1抗体、抗α−イズロニダーゼ抗体、抗α−グルコシダーゼ抗体、および抗サポシンC抗体を、製造元の仕様書に従い、Gタンパク質アフィニティー精製(アマシャム・ファルマシア社、5ml、#17−0404−01)を使用してハイブリドーマ上清から精製した。
特異的標的捕捉微粒子および標的レポーター抗体を、4種の特異的標的タンパク質(例えば、LAMP−1、α−イズロニダーゼ、α−グルコシダーゼ、およびサポシンC)に対する抗体を使用して作製した。特異的標的捕捉微粒子および標的レポーター抗体を、4種の特異的標的タンパク質(例えば、LAMP−1、α−イズロニダーゼ、α−グルコシダーゼ、およびサポシンC)に対する抗体を使用して作製した。捕捉抗体を、製造元の取扱い説明書に従い(バイオ・ラッド社、アミン結合キット171−406001)、2ステップのカルボジイミド反応によって微粒子ビーズに結合させた。例えば、ヒツジ抗α−イズロニダーゼ・ポリクローナル抗体および抗α−グルコシダーゼ・ポリクローナル抗体、ならびに抗サポシンC・モノクローナル抗体(7B2)を、製造元の取扱い説明書に従い抗体タンパク質のアミノ基をカルボジイミド化学反応させることにより、ビーズ1.4×106個当たり9μgのIgGの濃度で、染色したポリスチレン・ビーズに結合させた。
当業者なら、効率的に抗体および他のタンパク質をビオチン化するための、発表済みのいくつかの既知の方法を知っているであろう。例えば、精製した抗LAMP−1・モノクローナル抗体、抗α−イズロニダーゼ・モノクローナル抗体(Id1A)、抗α−グルコシダーゼ・モノクローナル抗体(43D1)、および抗サポシンC・モノクローナル抗体(S13C1)モノクローナル抗体を、モレキュラープローブス社(ユージーン、オレゴン州)から購入した「FluoReporter(商標)」ビオチン−XXタンパク質標識キットF−2610を製造元の取扱い説明書に従い使用してビオチン化した。一般に、「FluoReporter(商標)」ビオチン−XXタンパク質標識キットは、タンパク質または他の生体分子の第一級アミンと反応して安定なビオチン結合体を形成するビオチン−XX スクシンイミジルエステルを含む。ビオチンとビオチン−XX スクシンイミジルエステルの反応基の間のスペーサーが長いと、結合されたビオチンがアビジンおよびストレプトアビジンの比較的深いビオチン結合部位と相互作用する能力が高められる。ビオチン化タンパク質を、ゲルろ過カラムを用いて精製して過剰なビオチンを除いた。ビオチン化の程度を、アビジンHABA複合体および対照のビオチン化したヤギIgGを使用して決定した。
4項目同時分析の開発。LSD標的抗原捕捉微粒子を1%BSA含有PBS(分析バッファー)中で希釈した。次に、希釈したLSD標的抗原捕捉微粒子を96ウェルろ過プレート(ミリポア社 #MABVS1210)中にストックしておいたビーズに加え、希釈したLSD標的抗原捕捉微粒子とストックしておいたビーズの合計体積がウェル当たり1μlになるようにした。次に、ビーズを含む各マイクロウェルを、マニホールド(ミリポア社 #MAVM096OR)を使用し、減圧下で0.05%Tween20含有PBS(洗浄バッファー)で3回洗浄した。LAMP−1、α−イズロニダーゼ、α−グルコシダーゼ、およびサポシンCタンパク質を含む標準溶液(50μl)を、示したように、分析バッファー中に加えて2段階連続希釈した。標準物質を、各特異的標的タンパク質の組換え型を使用して調製した。ビオチン化抗体(50μl)を各ウェルに加え、各抗体の分析バッファー中での最終濃度が16ng/ウェルになるようにした。プレートに蓋をし、振とうしながら室温で2時間インキュベーションした。ウェルを洗浄し、ストレプトアビジン・R−フィコエリトリン結合体(モレキュラープローブス社 #S−866)(50ng/ウェル)とともに分析バッファー中で、振とうしながら室温で10分間インキュベートした。最終洗浄後、ウェル当たり125μlの分析バッファーを加え、プレートを室温で5分間振とうした。蛍光を、「Bio−Plex(登録商標)」タンパク質アレイ・システムと「Bio−Plex(登録商標)」ソフトウェア・バージョン2.0(バイオ・ラッド社、ハーキュリーズ、カリフォルニア州)を一緒に使用して測定した。図16は、LAMP−1(黒四角)、α−イズロニダーゼ(白丸)、α−グルコシダーゼ(白四角)、およびサポシンC(白三角)について得られた、4項目同時分析用の検量線を示す。
サンプル。血漿および血液サンプルは、幼児、子供、および成人から集めた。血漿サンプルおよび乾燥血液スポットを実施例のサンプルとして使用したが、他の適切なタイプのサンプルも本発明に包含される(例えば、羊水、細胞抽出物、尿など)。4項目を同時に示すのに使用する血漿および血液スポットのサンプルは、婦人小児科病院(Women’s and Children’s Hospital)の国立委託試験所(National Referral Laboratory)および新生児スクリーニング試験所(Neonatal Screening Laboratory)(アデレード、オーストラリア)ならびにリソソーム蓄積症試験所(Lysosomal Diseases Research Unit)(アデレード、オーストラリア)の試験所から入手した。血液回収および血液スポット作製技術は十分に確立されており、当業者には既知である。
ビーズ分析を96ウェルろ過プレート(ミリポア社 MAVBVS12)中で実施し、遮光した。96ウェルろ過プレートを利用したが、本発明の範囲および趣旨から逸脱することなく他のタイプのサンプル容器を使用できることが当業者には理解されよう。血漿サンプルを、最終濃度が3μl/ウェルになるように1%BSA(シグマ社、A−9647)含有PBS、pH7.2(分析バッファー)中で希釈した。3mmの乾燥血液スポットから得たサンプルを、96ウェルのタンパク質結合性の低いプレート(グライナー社、655101)において分析バッファー100μl中で、4℃で一晩、事前に溶離させ、溶離した各サンプル50μlを次にろ過プレートに移した。サンプルの分析および標準物質の分析を、新生児サンプルの血液スポットを除いては同様に2通り実施し、各新生児については単一のサンプルのみを使用した。
サンプルの調製後、捕捉抗体ビーズを多重分析用に調製した。個々の多重分析はそれぞれ、前述のLAMP−1、α−イズロニダーゼ、α−グルコシダーゼ、およびサポシンCの捕捉抗体ビーズのそれぞれについての捕捉抗体ビーズ混合物を含むものとした。約5,000個の捕捉抗体ビーズを、予め濡らしたろ過プレートの各サンプル・ウェルに蒔いた。捕捉抗体ビーズの混合物を、洗浄バッファー(0.05%Tween20含有PBS、pH7.2)を用い、ろ過プレート内にて減圧下で3回洗浄し、洗浄済み/捕捉ビーズ混合物を形成させた。前述のようにして調製した、希釈済みの混合標準物質またはサンプルを、洗浄済み/捕捉ビーズ混合物を含むマイクロタイター・ウェルに加え、抗原/ビーズ・セット混合物を形成させた。4種のビオチン化レポーター抗体(すなわち、LAMP−1、α−イズロニダーゼ、α−グルコシダーゼ、およびサポシンC)の混合物を抗原/ビーズ・セット混合物に加え、分析用構成品を完成させた。
プレートに蓋をし、振とうしながら室温で約1時間インキュベーションし、次に4℃、静止状態で一晩置いた。次に、プレートを振とうしながら室温で約1時間インキュベーションした。本発明の範囲および趣旨から逸脱することなくインキュベーション条件を変更できることは、抗体ハイブリダイゼーション分野の当業者には明らかであろう。インキュベーション後、プレートを、減圧下、洗浄バッファー(0.05%Tween20含有PBS、pH7.2)で3回洗浄した。フィコエリトリンに結合させたストレプトアビジン(モレキュラープローブス社 S−866)をウェルに加え、プレートを室温で10分間インキュベートした。プレートを、Bio−Plex懸濁液アレイ・システム(バイオ・ラッド社)内に置き、「Bio−P1ex(登録商標)」マネージャー・ソフトウェア・バージョン3.0のソフトを使用し、100ビーズ/領域をカウントして、データを集めた。データ分析は、SPSS統計パッケージ・バージョン10.0(SPSS社、シカゴ、イリノイ州、米国)を使用し、マン−ホイットニーU検定(MWU)および箱ひげ図を用いて行った。カット・オフ値のパーセンタイルを、標準のコンピュータ表計算ソフトを用いて算出した。
血漿サンプル。4項目同時分析によって決定した血漿サンプル中のLAMP−1、α−イズロニダーゼ、α−グルコシダーゼ、およびサポシンCの濃度を図17および図18に示す。簡単に言うと、図17は、対照の血漿とMPS I血漿の多重分析の結果を示すグラフである。グラフ中、箱の長さは25〜75パーセンタイルの範囲を占める四分位数間範囲であり、この箱の上辺または底辺から箱の長さの1.5〜3倍の範囲内の値を示したそれぞれの場合を外れ値として、(丸)で示し、極値(星印)は、箱の上辺または底辺から箱の長さの3倍超離れている値の場合である。図18は、対照群および異なる6種のLSDにおける、LAMP−1(A)、サポシンC(B)、α−グルコシダーゼ(C)、およびα−イズロニダーゼ(D)の血漿濃度の箱ひげ図である。箱内の中央の線は中央値を示す。箱の上辺は75パーセンタイルであり、箱の底辺は25パーセンタイルである。誤差線は、最大値と最小値を示すが、外れ値ではない。白丸で示した外れ値は、25〜75パーセンタイルの範囲から箱の長さの1.5倍を超える値とみなされる。星で示した極値は、25〜75パーセンタイルの範囲から箱の長さの3倍超外れた値である。
血漿LAMP−1濃度(図18A)は、測定したLSDサンプルにおいて、対照より有意に高かった(MWU検定 p<0.05)。しかし、サポシンC(図18B)は、ゴーシェ病罹患者の血漿でのみ高かった(MWU検定 p<0.05)。血漿α−イズロニダーゼ・レベル(図18D)は、MPS IIIAを除いて、試験したリソソーム症において、対照と比べて有意に低かった(MWU検定 p<0.05)。MPS I血漿のα−イズロニダーゼは、通常、ゼロとまではならないが無視できるレベルと予想されるが、MPS I血漿のうちの1つは例外的に高レベルのα−イズロニダーゼを有している。これは、理論に拘泥されるものではないが、恐らくはタンパク質が血液循環中に誤って入ったために生じたものである。スクリーニングの観点からは、この患者の血漿は、以降の調査から外すことになる。ポンペ病罹患者の血漿は、対照サンプルと比べてα−グルコシダーゼ・レベルが有意に低い(MWU検定 p<0.05)唯一の疾患群であった(図18C)。
理論に拘泥されるものではないが、血漿サンプル中で観察された、対照と比べて3種の疾患でLAMP−1が高くなっているパターンは、サンプルの血液スポット中の標的タンパク質の直接比較においてはそれほど明らかではなかった(図19A)(例えば、いずれの疾患でも高レベルのLAMP−1を示さなかった)。同様に、いずれの疾患でもサポシンCのレベルは高くなかった(図19B)。理論に拘泥されるものではないが、より年齢の高い対照個体群(すなわち、生後6ヶ月から47歳)から得た血液スポットにおいて同じ4種のマーカーが示す狭い範囲と比べて、これら4種のマーカーは新生児において極めて広い範囲を示している。幼児のマーカー・タンパク質の絶対レベルの範囲が広いことは、新生児においてLamp−1およびサポシンCの「高」レベルの基準を定義する妨げとなる。さらに、血液スポットの対照群と比べて、MPS Iおよびポンペ病では、それぞれ、α−イズロニダーゼ・タンパク質は検出不可能であり、α−グルコシダーゼ・タンパク質は無視できるレベルであった(図19Cおよび図19D)(MWU検定 p<0.001)。新生児対照群のα−イズロニダーゼ・レベルの一部はMPS Iサンプルで認められるようなゼロのレベルに重なっているように見えるが、新生児におけるα−イズロニダーゼの最低レベルは0.243ug/lであった。絶対的なマーカー測定とは対照的に、多重分析では、各タンパク質を比を用いて比較することが可能になる。例えば、血液スポットのα−グルコシダーゼ・レベルが対照群の低い範囲に相当する1人の生後4ヶ月のポンペ病患者がいたが(図19C)、この患者に決定されたカット・オフ値として絶対的なタンパク質レベルのみを使用したならば、通常のスクリーニング・プログラムにおいては見落とされていたであろう。しかし、多重データによる比を使用すると、α−グルコシダーゼをサポシンC(例えば、比0.271)またはLAMP−1(例えば比0.019)に対して比較することができ、これにより、この患者を2パーセンタイルに位置する罹患者として区別することができる。より年齢の高い対照での同様の比の値は、α−グルコシダーゼ/サポシンCおよびα−グルコシダーゼ/LAMP−1について、それぞれ約0.339および約0.021であった。
ポンペ病患者について得た多重分析によるデータを用いて、α−グルコシダーゼとLAMP−1の比を算出した。この比により、ポンペ病患者の血漿サンプルを3サンプル中3サンプル、ポンペ病患者の血液スポット・サンプルを9サンプル中9サンプル、非LSD患者の対応する血漿サンプルおよび血液スポット・サンプルから判別することができた。同様に、MPS I罹患者のα−イズロニダーゼとLAMP−1の多重分析による比のデータは、血漿17サンプル中16サンプルおよび血液スポット4サンプル中4サンプルについてカット・オフ値の2パーセンタイル未満であった。前述したように、パターンに合わず値の大きく外れたMPS I罹患者の1つの血漿サンプルは、それでもなお、非常にα−イズロニダーゼ・レベルが高いために、疑わしいものとして区別された。
理論に拘泥されるものではないが、4項目同時分析の具体的な実施例は、2種以上のリソソーム・タンパク質のタンパク質のプロファイル作成と組み合わせた多重分析により、血漿および血液スポットの双方においてMPS I罹患者およびポンペ病罹患者の検出が改善される本発明を支持するものである。2種、3種、または4種以上のタンパク質濃度および対応する比を示すタンパク質・プロファイルの決定により、LSD多重分析の判別能力はさらに高められる。本発明の一態様では、LAMP−1とサポシンCの比を患者サンプルのリソソーム含有率について母集団を規準化するためのマーカーとして使用することが可能となる。このような疾患に対して、これらのタンパク質プロファイルは、罹患していない状態と比較した場合の濃度上昇を示すことにより、さらに判別能力を高める。多重技術は、大半のLSDの検出速度を改善し、これらの疾患についての新生児スクリーニング・プログラムに適用できる。
タンパク質プロファイル/フィンガープリント概念と組み合わせた多重概念を上記の実施例に示したように、プロファイルを分析できる多くの方法がある。タンパク質レベル、タンパク質の比、および判別分析を記述してきたが、他の例では、神経回路網の使用を含むことができる。したがって、本明細書に開示した本発明において、本発明の範囲および趣旨から逸脱することなく、様々な代替および改変を行ってよいことが、当業者には容易に明らかになるであろう。
7項目同時分析リソソーム・タンパク質プロファイル解析。いくつかのLSD疾患のためのタンパク質マーカーを図20に示す。標的抗原LAMP−1、サポシンC、α−イズロニダーゼ、α−グルコシダーゼ、α−ガラクトシダーゼ、β−グルコシダーゼ、およびN−アセチルガラクトサミン−4−スルファターゼについての7項目同時分析を、Luminex「LABMAP(登録商標)」技術に基づいた微粒子技術を使用して開発した。
特異的標的捕捉微粒子および標的レポーター抗体。特異的標的捕捉微粒子および標的レポーター抗体を、7種の特異的標的タンパク質(例えば、LAMP−1、サポシンC、α−イズロニダーゼ、α−グルコシダーゼ、α−ガラクトシダーゼ、β−グルコシダーゼ、およびN−アセチルガラクトサミン−4−スルファターゼ)に対して作製した抗体、および実施例3で概要を前述した結合法を使用して作製した。簡単に言うと、LAMP−1、サポシンC、α−イズロニダーゼ、α−グルコシダーゼ、α−ガラクトシダーゼ、β−グルコシダーゼ、およびN−アセチルガラクトサミン−4−スルファターゼを対象とする捕捉抗体を、製造元の取扱い説明書に従い、2段階のカルボジイミド反応によって微粒子ビーズに結合させた(バイオ・ラッド社、アミン結合キット171−406001)。レポーター抗体を、製造元の取扱い説明書に従い(モレキュラープローブス社、蛍光レポーター(FluroReporter)ビオチン−XXタンパク質標識キットF−2610)、ビオチン化した。各タンパク質の組換え型を生成し、標準物質として使用した。新生児、子供、および成人から回収し、この試験で使用した乾燥血液スポットは、婦人小児科病院(Women’s and Children’s Hospital)の国立委託試験所(National Referral Laboratory)および新生児スクリーニング試験所(Neonatal Screening Laboratory)に寄託されていたサンプルであった。追加のサンプルは、リソソーム蓄積症試験所(Lysosomal Diseases Research Unit)内から集めた。図21は、7項目同時分析に使用するための抗体およびビーズ領域を示す。
多重分析(7項目同時分析)用のサンプル調製および調製方法。3mmの乾燥血液スポットを、0.5%BSA(シグマ社、A−9647)、0.05%γ−グロブリン(シグマ社、G−7516)、および0.05%Tween20を含有したろ過(0.2μm)済みPBS、pH7.2(分析バッファー)130μl中で、室温で1時間振とうし、次いで、96ウェルのタンパク質結合性の低いプレート(グライナー社、655101)内にて4℃で16時間置いて、前もって溶離させた。この血液スポットを振とうしながら室温でさらに1時間インキュベーションし、溶離した各サンプルの100μlを多重分析に使用した。96ウェルろ過プレート(ミリポア社 MAB VNS1250)中でビーズ分析を実施し、蓋をし遮光した。サンプルの分析および標準物質の分析を、新生児サンプルの血液スポットを除いては同様に2通り実施し、新生児については単一のサンプルのみを使用した。
各個別分析用に抗体で被覆したビーズ(5,000個/ウェル)を混合し、予め濡らしたろ過プレートに蒔き、上清を減圧除去した。希釈し予め混合した標準物質またはサンプルをビーズに加え、次いで、予め混合した7種のビオチン化レポーター抗体を加えた。プレートを振とうしながら室温で1時間インキュベーションし、次に4℃で一晩置いた。振とうしながら室温でさらに1時間インキュベーションした後、プレートを、減圧下で、0.05%Tween20を含有したろ過(0.2μm)済みPBS、pH7.2(洗浄バッファー)で3回洗浄した。フィコエリトリンに結合させたストレプトアビジン(モレキュラープローブス社 S−866)を分析バッファー(1.5ug/mL)中で希釈し、ウェルに加え(100μl/ウェル)、次いで、プレートを振とうしながら室温で10分間インキュベーションした。次に、プレートを、バージョン3.0のソフトを使用し、100ビーズ/領域をカウントして、Bio−Plex懸濁液アレイ・システム(バイオ・ラッド社)上で読み取った。
多重分析(7項目同時分析)の結果。12名の成人および28名の新生児の対照個体から得た対照の血液スポットを、7種のリソソーム・タンパク質、すなわちLAMP−1、サポシンC、α−イズロニダーゼ、α−グルコシダーゼ、α−ガラクトシダーゼ、β−グルコシダーゼ、およびN−アセチルガラクトサミン−4−スルファターゼについて分析した。図22は、タンパク質分析のそれぞれについての検量線を示す。図23は、7項目同時分析で各サンプルについて得られた、対照の成人の個々のタンパク質値および平均タンパク質値、ならびに各群の標準偏差、最小値、および最大値を示している。図24は、7項目同時分析分析で各サンプルについて得た、新生児の個々のタンパク質値および平均タンパク質値、ならびに各群の標準偏差、最小値、および最大値を示している。標準偏差、最小値、および最大値は、平均値の倍数(MOM)としても示している。成人群と新生児群の標準偏差、最小値、および最大値のMOM値を比較すると、新生児群の方が成人群より値の範囲が広いことが分かる。
図25は、標的タンパク質分析物の各ペア間のピアソン相関係数を示している。α−イズロニダーゼを除いて、標的抗原は他の標的抗原に対して有意な相関を示した。
異なる5種の疾患のLSD罹患者16名から得た乾燥血液スポットのサンプルも、7項目同時分析タンパク質プロファイルを用いて分析した。これらの分析の結果を図26(成人対照群と比較)および図27(新生児対照群と比較)に示している。LSD患者は対照群から明確に判別された。
新生児集団を主要なLSD疾患についてスクリーニングするための多重方法。一般的な新生児のLSD多重スクリーニング戦略を図28に例示する。新生児のLSDスクリーニング戦略は、地域およびLSD罹患率に応じて改変することができる。例えば、以下の14項目同時分析は、北アメリカおよびヨーロッパで使用するのに適切な分析の例である。北アメリカおよびヨーロッパで比較的その罹患率が高く、また、早期診断が有利と思われる有効な治療薬が利用できることもあって、12種の特定のLSD疾患を選択した。以下の14種の標的タンパク質用の多重分析は、括弧内に示す関連LSD、すなわちLAMP−1(総称的LSD)、サポシンC(総称的LSD)、α−グルコシダーゼ(ポンペ病)、α−ガラクトシダーゼA(ファブリ病)、グルコセレブロシダーゼまたはβ−グルコシダーゼ(ゴーシェ病)、α−イズロニダーゼ(MPS I)、イズロネート−2−スルファターゼ(MPS II)、ヘパラン−N−スルファターゼ(MPS IIIA)、α−N−アセチルグルコサミニダーゼ(MPS IIIB)、ガラクトース−6−スルファターゼ(MPS IVA)、β−ガラクトシダーゼまたはガラクトセレブロシダーゼ(クラッベ病)、ガラクトース−3−スルファターゼ(MLD)、スフィンゴミエリナーゼ(ニーマン・ピック病A/B型)、およびN−アセチルガラクトサミン−4−スルファターゼ(MPS VI)について試験することができる。
LSD治療法が改善され、新しいLSDが確認され、またはスクリーニング需要が様々な地域で変わるのにつれて、タンパク質のプロファイル作成多重技術により、LSD標的抗原の組合せを変更することが可能になる。14種の各LSD標的抗原に対する抗体が、この14項目同時分析には必要である。
本発明は、単回の多重分析での正確性および各LSD疾患の検出を改善するものである。標的抗原LAMP−1およびサポシンCを、患者サンプルのリソソーム含有量について母集団を規準化するためのマーカーとして使用する。いくつかの疾患では、これらのタンパク質が無病の状態と比べて濃度の上昇を示すことにより、さらに判別力が高められることがある。これらのタンパク質と各LSDで欠損している個々のタンパク質との比を計算することによって、より高い判別力を実現することができる。この概念は、個々のタンパク質の比の計算だけでなく、所与のサンプルの多くの様々な標的抗原タンパク質の濃度を含むタンパク質プロファイルの決定に拡大適用することができる。判別分析または他の統計学的手法を使用することにより、対照と罹患者集団との判別力を高めることができる。
タンパク質のプロファイル作成により、LSDを判定する際の感度および特異性が改善されると考えられ、大半のLSD疾患について偽陰性を0〜20%の感度に最適化することができ、偽陽性は0.1%〜0.01%の範囲内と予測することができる。さらに、確認分析を、患者を呼び戻すより前にすべての陽性分析物について実施することができる。多重タンパク質のプロファイル作成によるLSDタイプの確認試験は、特異的酵素分析、蓄積基質分析、または遺伝子型判定などの方法によって実施することができる。酵素分析は、第2の血液スポット上で実施する特異的リソソーム酵素を対象とした免疫捕捉分析を含む。蓄積基質分析は、第2および第3の血液スポット上で実施するオリゴ糖および糖脂質分析を含む。乾燥血液スポットからの遺伝子型判定は、別の血液スポット上で適宜実施する共通変異についてのスクリーニングを含む。
他のLSDタイプに特徴的なタンパク質を置き替え、またはそれらを先に挙げた14種の標的抗原リソソーム・タンパク質に加えること、ならびに、特定の地域での個々のLSD疾患の頻度に応じてこのような改変をできることが理解されている。例えば、個々のLSD疾患の相対的罹患率は、北アメリカ、日本、および中国で異なっている。抗体、DNA配列、RNA配列など他の生体分子が特定のLSD標的抗原または標的分子の代わりとなれること、あるいは、本発明の標的生体分子を多重化しプロファイル作成するために、タンパク質活性を使用または測定してよいことも理解されている。
LSD用多重プロファイルの開発。本発明の一実施形態では、一連のリソソーム・タンパク質(例えば、α−グルコシダーゼ、β−グルコシダーゼ、α−ガラクトシダーゼ、α−イズロニダーゼ、イズロネート−2−スルファターゼ、およびN−アセチルガラクトサミン−4−スルファターゼなど)の少なくとも2種を多重化する。対照集団(n≧100)から得たサンプルを多重分析で分析して、各分析物について標準範囲を決定する。各分析物を一般的なリソソーム・マーカー(例えばLAMP−1およびサポシンC)ならびに他の特異的マーカーに対して規準化して、一連の比またはフィンガープリントの表を作る。次に、これらの比を使用して対照集団のプロファイルを得る。標的集団(ポンペ病、ゴーシェ病、および他のLSD罹患者)(n≧20)から得たサンプルを分析し、先の実施例で記述したようにして結果を規準化した。次に、最も良く対照集団と標的集団を判別する個々の比を利用して、LSD疾患状態の特異的プロファイル/フィンガープリントを開発する。
特定のLSDについての多重プロファイル。本発明の一実施形態では、一連のリソソーム・タンパク質(例えば、α−グルコシダーゼ、β−グルコシダーゼ、α−ガラクトシダーゼ、α−イズロニダーゼ、イズロネート−2−スルファターゼ、およびN−アセチルガラクトサミン−4−スルファターゼなど)の少なくとも2種を多重化し、特異的疾患(例えば、ポンペ病、ゴーシェ病、ファブリ病、MPS、ニーマン−ピック病、クラッベ病など)の診断法として利用する。患者の対照集団から得たサンプルを、特定のLSD多重分析を用いて分析し、対照集団の各分析物について標準範囲を決定する。各分析物を一般的なリソソーム・マーカー(例えばLAMP−1およびサポシンC)ならびに他の特異的マーカーに対して規準化して、一連の比を得る。次に、これらの比を使用して対照集団のプロファイルを得る。患者の標的集団(例えばポンペ病、ゴーシェ病、ファブリ病、MPS、ニーマン−ピック病、クラッベ病など)から得たサンプルも分析して、標的疾患集団における各分析物の疾患状態での基準範囲を決定する。標的集団の各分析物のレベルを、対照集団に対して上昇しているか、低下しているか、または不変であるか確定する。これにより、標的疾患状態のタンパク質プロファイルまたはフィンガープリントが得られる。当該の各LSDに相当する標的集団をこの方法によって分析することができ、特異的プロファイル/フィンガープリントを得ることができる。次いで、LSDの臨床状況が未知の患者から得たサンプルを分析し、得られたパターンを利用可能な標的タンパク質プロファイルと比較して、特定のLSD疾患を同定する。
LSD疾患の進行についての多重プロファイルおよび治療のモニタリング。リソソーム・タンパク質(例えば、LAMP−1、サポシンC、α−グルコシダーゼ、β−グルコシダーゼ、α−ガラクトシダーゼ、α−イズロニダーゼ、イズロネート−2−スルファターゼ、およびN−アセチルガラクトサミン−4−スルファターゼなど)の少なくとも2種を多重化する。対照集団から得たサンプルを、多重分析を用いて分析して、各分析物について標準範囲を決定する。特定のLSD(例えば、ポンペ病、ゴーシェ病、ファブリ病、MPS、ニーマン−ピック病、クラッベ病など)の罹患者集団から得たサンプルを分析して、LSD罹患集団における各分析物の基準範囲も決定する。2セットのデータを訓練データ・セットとして使用して、判別分析を実施する。この判別分析により、LSD疾患の罹患者を対照集団から同定し、各LSD患者を疾患の重症度(表現型)に相関づけて分類することが可能になり、または、無症候性患者において表現型(疾患の進行)を予測することが可能になる。治療過程の様々な時点でLSD罹患者から得たサンプルを分析する。判別関数を使用して、その個体のタンパク質プロファイルの規準化の程度(すなわち、そのプロファイルが対照のプロファイルにどれくらい類似しているか)を決定し、それによって治療の有効性をモニタリングする。
ポンペ病の多重プロファイル。本発明の一実施形態では、一連のリソソーム・タンパク質(例えば、α−グルコシダーゼ、β−グルコシダーゼ、α−ガラクトシダーゼ、α−イズロニダーゼ、イズロネート−2−スルファターゼ、およびN−アセチルガラクトサミン−4−スルファターゼなど)の少なくとも2種を多重化し、ポンペ病についての特異的疾患の診断法として利用する。患者の対照集団(n≧100)から得たサンプルを、特定のLSD多重分析を用いて分析して、対照集団の各分析物について標準範囲を決定する。各分析物を一般的なリソソーム・マーカー(例えばLAMP−1およびサポシンC)ならびに他の特異的マーカーに対して規準化して、一連の比を得る。次に、これらの比を使用して対照集団のプロファイルを得る。ポンペ病患者の標的集団(n≧20)から得たサンプルも分析して、ポンペ病集団における各分析物のLSD状態での基準範囲を決定する。ポンペ病集団の各分析物のレベルを、対照集団に対して上昇しているか、低下しているか、または不変であるか確定する。これにより、ポンペ病の疾患状態のタンパク質プロファイルまたはフィンガープリントが得られる。当該のポンペ病の各レベルの重症度に相当する標的集団をこの方法によって分析することができ、特異的プロファイル/フィンガープリントを得ることができる。次いで、LSDの臨床状況が未知の患者から得たサンプルを分析し、得られたパターンを利用可能な標的タンパク質プロファイルと比較して、特定のLSD疾患ポンペ病を同定する。さらに、判別関数を使用して、その個体のタンパク質プロファイルの規準化の程度(すなわち、それらの値が対照プロファイルにどれくらい近似しているか)を決定し、それによって治療の有効性をモニタリングすることができる。
新生児多重スクリーニング。本発明の一実施形態では、一連のリソソーム・タンパク質(LAMP−1、サポシンC、α−グルコシダーゼ、β−グルコシダーゼ、α−ガラクトシダーゼ、α−イズロニダーゼ、イズロネート−2−スルファターゼ、およびN−アセチルガラクトサミン−4−スルファターゼ)を多重化する。所与の集団の新生児から得たサンプル(例えば乾燥血液スポット)を、上記の実施例5〜9に記述したようにタンパク質プロファイル/フィンガープリントの判別関数に基づき、特定のLSD(例えば、無病、ポンペ病、ゴーシェ病、ファブリ病、MPS、ニーマン−ピック病、クラッベ病など)について分析する。次に、新生児にLSDに罹患する確率を割り当てる。このとき、新生児を検証するためにさらなる試験が必要となることがある。
多重法および癌。リソソーム・タンパク質(例えば、LAMP−1、サポシンC、α−グルコシダーゼ、β−グルコシダーゼ、α−ガラクトシダーゼ、α−イズロニダーゼ、イズロネート−2−スルファターゼ、およびN−アセチルガラクトサミン−4−スルファターゼなど)の少なくとも2種または癌抗原を多重化する。対照集団から得たサンプルを、多重分析を用いて分析して、各分析物について標準範囲を決定する。標的集団(例えば癌罹患者)から得たサンプルも分析して、この集団の各分析物の基準範囲を決定する。2セットのデータを、訓練データ・セットとして使用して、判別分析を実施し、癌罹患者を対照集団から分類することを可能にする判別関数を特定する。次に、この判別関数を使用して、調査中の特定の癌に一致する未知のタンパク質プロファイルを有する患者を同定する。したがって、この実施形態では、癌の早期確定法を提供する。
LSDタンパク質の多重プロファイル作成は、新生児スクリーニング分析に関する多くの問題に対する解決策を提供する。例えば、LSDタンパク質の多重プロファイル作成は、スクリーニング対象であるLSD疾患を特異的に選別して診断するのに必要な感度および特異性を有し、必要なら追加のリソソーム・タンパク質を加えることができる。LSDタンパク質の多重プロファイル作成はまた、他のLSD集団(例えば、ファブリ病に関する腎臓/心臓病院の患者、すなわち末期腎不全を伴うファブリ病患者の集団および突発性心筋症を伴うファブリ病患者の集団、ならびに、成人ポンペ病での筋肉疲労/痛み、および一部のタイプの癌でのリソソーム機能およびタンパク質レベルの変化)についてスクリーニングを行うための基盤となる技術を提供する。LSDタンパク質の多重プロファイル作成はまた、順応性があり、非リソソーム性のタンパク質マーカーを組み込むことができる(例えば、甲状腺刺激ホルモン、免疫反応性トリプシン、その他のものなど)。
本発明は、LSDを対象とするリソソーム・タンパク質のプロファイル作成法を含み、LSDに伴って増加する既存のLSD標的マーカーを用いたタンパク質マーカーの比の使用、およびLSDに伴って減少する追加のLSD標識マーカーの使用を包含する。タンパク質のプロファイル作成では、LSD標的マーカーの比も利用して、判別力を高める。一部のLSDマーカーは、リソソーム/白血球レベルに合わせて補正するために使用することができる。さらに、特異的マーカー(例えばLAMP−1)の比を利用して様々なリソソーム含有量に合わせて補正することができ、他のマーカーの比を利用して白血球含有量に合わせて補正することができる(例えばCD45)。タンパク質プロファイルは、判別力を高めるために測定する様々なタンパク質マーカーを含む。多重化ビーズ技術を具体的な実施例として使用してきたが、複数のLSD標的タンパク質を測定する他の方法を利用してタンパク質のプロファイル作成を実施することができる。このような方法は、本発明の特許請求の趣旨および範囲を逸脱するのものではない。
引用文献
以下の参考文献は、本明細書で記載した内容についての補足となる例示的手順または他の詳細内容を提供するものであり、参照により本明細書に具体的に組み込む。
参考文献
LSD罹患者の血漿におけるLAMP−1のレベルを示すグラフである。グラフ中、箱の長さは25〜75パーセンタイルの範囲を占める四分位数間範囲である。この箱の上辺または底辺から箱の長さの1.5〜3倍の範囲内の値を示したそれぞれの場合を外れ値として、(丸)で示している。極値(星印)は、箱の上辺または底辺から箱の長さの3倍超離れている値の場合である。
LSD罹患者の血漿におけるサポシンCのレベルを示すグラフである。グラフ中、箱の長さは25〜75パーセンタイルの範囲を占める四分位数間範囲である。この箱の上辺または底辺から箱の長さの1.5〜3倍の範囲内の値を示したそれぞれの場合を外れ値として、(丸)で示している。極値(星印)は、箱の上辺または底辺から箱の長さの3倍超離れている値の場合である。
LSD罹患者の血漿におけるα−グルコシダーゼのレベルを示すグラフである。グラフ中、箱の長さは25〜75パーセンタイルの範囲を占める四分位数間範囲である。この箱の上辺または底辺から箱の長さの1.5〜3倍の範囲内の値を示したそれぞれの場合を外れ値として、(丸)で示している。極値(星印)は、箱の上辺または底辺から箱の長さの3倍超離れている値の場合である。
LAMP−1について患者の血液スポットを分析した結果を示すグラフである。グラフ中、箱の長さは25〜75パーセンタイルの範囲を占める四分位数間範囲である。この箱の上辺または底辺から箱の長さの1.5〜3倍の範囲内の値を示したそれぞれの場合を外れ値として、(丸)で示している。極値(星印)は、箱の上辺または底辺から箱の長さの3倍超離れている値の場合である。
サポシンCについて患者の血液スポットを分析した結果を示すグラフである。グラフ中、箱の長さは25〜75パーセンタイルの範囲を占める四分位数間範囲である。この箱の上辺または底辺から箱の長さの1.5〜3倍の範囲内の値を示したそれぞれの場合を外れ値として、(丸)で示している。極値(星印)は、箱の上辺または底辺から箱の長さの3倍超離れている値の場合である。
乾燥血液スポットにおけるα−グルコシダーゼのタンパク質量/活性の測定結果を示したグラフである。グラフ中、箱の長さは25〜75パーセンタイルの範囲を占める四分位数間範囲である。この箱の上辺または底辺から箱の長さの1.5〜3倍の範囲内の値を示したそれぞれの場合を外れ値として、(丸)で示している。極値(星印)は、箱の上辺または底辺から箱の長さの3倍超離れている値の場合である。
新生児におけるα−グルコシダーゼ・タンパク質の分布を示すグラフである。
LAMP−1およびサポシンCの新生児集団における分布を示すグラフである。
当該の各LSDに相当する標的集団の分析結果を示すグラフである。
スペクトルが異なる2種の蛍光体を有する微粒子、標的LSD捕捉抗体および標的LSD捕捉抗体に結合した特有のLSD標的タンパク質または標的抗原、ならびにレポーター分子を有する、サンドイッチ型の微粒子捕捉免疫測定法を示す図である。
多重技術によるLSDスクリーニングに利用するための、リソソーム・タンパク質に対して利用可能な抗体試薬のリストを示す表である。
微粒子ベースの分析におけるα−グルコシダーゼの検量線を示すグラフである。
微粒子ベースの分析における多重検量線を示すグラフである。
図14Aおよび図14Bは、ビーズ技術を使用し、「Bio−Plex(登録商標)」タンパク質アレイ・システム(バイオ・ラッド社)を用いて測定したα−グルコシダーゼの検量線を示すグラフである。
LSDについて少なくとも4項目を同時に分析する多重技術を示す図である。
リソソーム・タンパク質の4項目同時分析免疫定量用の検量線を示すグラフである。
対照の血漿とMPS I血漿の多重分析の結果を示すグラフである。グラフ中、箱の長さは25〜75パーセンタイルの範囲を占める四分位数間範囲である。この箱の上辺または底辺から箱の長さの1.5〜3倍の範囲内の値を示したそれぞれの場合を外れ値として、(丸)で示している。極値(星印)は、箱の上辺または底辺から箱の長さの3倍超離れている値の場合である。
対照群および6種の異なるLSD罹患者群から得た、Lamp−1(A)、サポシンC(B)、α−グルコシダーゼ(C)、およびα−イズロニダーゼ(D)の血漿濃度の箱ひげ図である。グラフ中、箱内の中央の線は中央値を示す。箱の上辺は75パーセンタイルであり、箱の底辺は25パーセンタイルである。誤差線は、最大値と最小値を示すが、外れ値ではない。白丸で示した外れ値は、25〜75パーセンタイルの範囲から箱の長さの1.5倍超外れた値であり、星で示した極値は、25〜75パーセンタイルの範囲から箱の長さの3倍超外れた値である。
乾燥血液スポットから得た、Lamp−1(A)、サポシンC(B)、α−グルコシダーゼ(C)、およびα−イズロニダーゼ(D)の濃度の箱ひげ図である。サンプルは、対照群、新生児群、および3種のLSD患者群において測定した。
LSDスクリーニングのための標的タンパク質マーカーを示す表である。
7項目同時分析に使用する抗体およびビーズ領域を示す表である。
各タンパク質分析用の検量線を示すグラフである。
7項目同時分析で各サンプルについて得た、対照の成人の個々のタンパク質値および平均タンパク質値、ならびに各群の標準偏差、最小値、および最大値を示す表である。
7項目同時分析で各サンプルについて得た、新生児の個々のタンパク質値および平均タンパク質値、ならびに各群の標準偏差、最小値、および最大値を示す表である。
タンパク質分析物の各対のピアソン相関係数を示す表である。
LSD罹患者のタンパク質濃度を成人の対照群と比較して示す表である。
LSD罹患者のタンパク質濃度を新生児の対照群と比較して示す表である。
LSDについての新生児多重スクリーニング戦略を示す概略図である。
MS/MS分析のためのオリゴ糖の誘導体化を示す図である。
α−マンノシドーシス罹患者の尿のMS/MS分析(m/z(質量電荷比)175の前駆イオンスキャン)の結果を示すグラフである。
新生児の血液スポットにおけるHNAcSを血液スポットの年齢に対してレトロスペクティブ分析した結果を示すグラフである。
新生児の血液スポットにおけるHNAc−UA−HNAc−UAをレトロスペクティブ分析した結果を示すグラフである。
新生児血液スポットのレトロスペクティブ分析結果の要約を示す表である。
LSD用多重分析を用いてLSDについてスクリーニングするためのタンパク質マーカーを示す表である。