以下、本発明の実施形態を図面に従って説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態に係るクラッチユニットの全体構成を示している。この実施形態のクラッチユニットは、入力側部材としての外輪1と、出力側部材としての出力軸2と、制御部材としての内輪3と、静止側部材としての外輪4と、外輪1と内輪3との間に設けられた第1クラッチ部5と、外輪4と出力軸2との間に設けられた第2クラッチ部6とを主要な要素として構成される。
図2は、入力側部材としての外輪1を示している。外輪1の外周には、外径側に突出した複数(例えば3つ)のリブ1aと、複数(例えば3つ)のリブ1bとが円周方向に所定間隔で形成される。リブ1aの軸方向一端側部分は凹部1a1によって二股状に分割され、リブ1aの軸方向他端側部分は外輪1の他端から軸方向に突出して、突出部1a2を形成する。リブ1bには、軸方向のねじ孔1b1が形成される。これらリブ1aおよび1bは、外輪1の外周に装着される操作レバー(13:図1、図8参照)と回転方向に係合して、操作レバー(13)の外輪1に対する相対回転を防止する。操作レバー(13)の外輪1に対する軸方向相対移動は、リブ1bのねじ穴1b1に操作レバー(13)をねじ結合することによって防止される。突出部1a2の内周には、後述する第1クラッチ部(5)のセンタリングバネ(12:図10参照)が収容される。また、突出部1a2が後述する外輪(4:図5参照)のストッパ部(4a1)と回転方向に係合することによって、外輪1の回動範囲が規制される。
外輪1の一端部内周には、内径側に延びた鍔部1cが形成される。この鍔部1cは、後述する第1クラッチ部(5)の保持器(11:図1、図9参照)を軸方向の一方に抜け止め規制すると共に、外輪1の内輪3に対する同軸性を保持する役割を持つ。また、外輪1の内周には、複数(例えば10個)のカム面1dが円周方向に等間隔で形成される。各カム面1dは、円周方向中央部が深く、そこから円周方向両側に向かって傾斜状に浅くなっている。
外輪1は、例えば、肌焼鋼、機械構造用炭素鋼、軸受鋼等の鋼材から鍛造加工によって成形され、浸炭焼入れ焼戻し、浸炭窒化焼入れ焼戻し、高周波焼入れ焼戻し、ずぶ焼入れ焼戻し等の適宜の熱処理が施される。この実施形態では、外輪1を形成する鋼材として肌焼鋼(例えばクロムモリブデン鋼SCM415)を使用し、これに熱処理として浸炭焼入れ焼戻しを行って、少なくともカム面1dにおける表層部の表面硬さをHRC57〜62に調整している。ここで、HRCはロックウェル硬さのCスケールを表し、HVはビッカース硬さを表している。尚、外輪1は、鋼材の削出し品、鋼鈑(例えば冷間圧延鋼鈑)のプレス成形品とすることもできる。
図3は、出力側部材としての出力軸2を示している。出力軸2は、一端側にジャーナル部2a、中央側に大径部2b、他端側に連結部2cを備えている。ジャーナル部2aは、後述する内輪(3:図4参照)のラジアル軸受面(3a1)に挿入される。大径部2bの外周には、複数(例えば8つ)のカム面2b1が円周方向に等間隔で形成される。各カム面2b1は、出力軸2の軸心を中心とする円に対して弦をなす平坦面状に形成され、その円周方向中央部には後述する第2クラッチ部(6:図14参照)の板バネ(21)を装着するための軸方向溝2b2が形成される。また、大径部2bの一端側部分には軸方向の複数(例えば6つ)のピン孔2b3が円周所定間隔に形成される。これらピン孔2b3には後述する内輪(3:図4参照)のピン(3b1)が挿入される。また、大径部2bの他端側部分には環状凹部2b4が形成される。この環状凹部2b4には後述する摩擦部材(9:図7参照)が装着され、また、環状凹部2b4の内周壁2b5は、後述する固定側板(7:図6参照)のラジアル軸受面(7e2)に挿入されるジャーナル面になる。連結部2cには、他の回動部材を連結するための歯型2c1が形成される。
出力軸2は、例えば、肌焼鋼、機械構造用炭素鋼、軸受鋼等の鋼材から鍛造加工によって成形され、浸炭焼入れ焼戻し、浸炭窒化焼入れ焼戻し、高周波焼入れ焼戻し、ずぶ焼入れ焼戻し等の適宜の熱処理が施される。この実施形態では、出力軸2を形成する鋼材として肌焼鋼(例えばクロムモリブデン鋼SCM415)を使用し、これに熱処理として浸炭焼入れ焼戻しを行って、表層部の表面硬さをHRC57〜62に調整している。尚、出力軸2は、鋼材の削出し品とすることもできる。
図4は、制御部材としての内輪3を示している。内輪3は、筒状部3aと、筒状部3aの一端から外径側に延びたフランジ部3bと、フランジ部3bの外径端から軸方向の一方に延びた複数(例えば8本)の柱部3cとを主体として構成される。筒状部3aは、出力軸2のジャーナル部2aに外挿され、かつ、外輪1の内部に内挿される。筒状部3aの他端側部分の内周には、出力軸2のジャーナル部2aをラジアル方向に支持するラジアル軸受面3a1が形成され、筒状部3aの他端側部分の外周には、外輪1のカム面1dとの間に正逆両回転方向に楔隙間を形成する円周面3a2が形成される。フランジ部3bには、軸方向の一方に突出した複数(例えば8つ)のピン3b1が円周方向に所定間隔で形成される。これらピン3b1は、出力軸2のピン孔2b3にそれぞれ挿入される。また、円周方向に隣接した柱部3c間には、軸方向の一方に向かって開口したポケット3c1が形成され、これらポケット3c1に後述する第2クラッチ部(6:図14参照)のローラ(20)が収容される。
内輪3は、例えば、肌焼鋼、機械構造用炭素鋼、軸受鋼等の鋼材から鍛造加工によって成形され、浸炭焼入れ焼戻し、浸炭窒化焼入れ焼戻し、高周波焼入れ焼戻し、ずぶ焼入れ焼戻し等の適宜の熱処理が施される。この実施形態では、内輪3を形成する鋼材として肌焼鋼(例えばクロムモリブデン鋼SCM415)を使用し、これに熱処理として浸炭焼入れ焼戻しを行って、表層部の表面硬さをHRC57〜62に調整している。尚、内輪3は、鋼材の削出し品、鋼鈑(例えば冷間圧延鋼鈑)のプレス成形品とすることもできる。
図5は、静止側部材としての外輪4を示している。外輪4は、半径方向に延びたフランジ部4aと、フランジ部4aの内径端から軸方向の一方に突出した係止部4bと、フランジ部4aの外径端から軸方向の他方に延びた筒状部4cと、筒状部4cの一端から外径側に突出した鍔部4dとを主体として構成される。フランジ部4aには、軸方向の一方に突出した複数(例えば3つ)のストッパ部4a1が円周方向に所定間隔で配列形成される。これらストッパ部4a1は、外輪1の突出部1a2と回転方向に係合して、外輪1の回動範囲を規制する。係止部4bは、例えば円弧状に一対で形成される。係止部4bは、内輪3の筒状部3aの外周に外挿され、かつ、後述する第1クラッチ部(5)の保持器(11:図9参照)の係止部(11b)の内周に内挿される。また、一方の係止部4bの両端には、後述する第1クラッチ部(5)のセンタリングバネ(12:図10参照)の係合部(12a)が係止される。
筒状部4cの内周には、出力軸2のカム面2b1との間に正逆両回転方向に楔隙間を形成する円周面4c1が形成される。鍔部4dには、複数(例えば3つ)の円弧状の切欠き部4d1と、複数(例えば6つ)の矩形状の切欠き部4d2とが円周方向に所定間隔で形成される。切欠き部4d1は、後述する固定側板(7)の加締部材(8:図1参照)と適合する。切欠き部4d2は、固定側板(7:図6参照)の凸部(7c)と回転方向に係合して、外輪4の固定側板(7)に対する相対回転を防止する。鍔部4dには、固定側板(7)の爪部(7d)が加締固定される。
外輪4は、例えば、肌焼鋼、機械構造用炭素鋼、軸受鋼等の鋼材から鍛造加工によって成形され、浸炭焼入れ焼戻し、浸炭窒化焼入れ焼戻し、高周波焼入れ焼戻し、ずぶ焼入れ焼戻し等の適宜の熱処理が施される。この実施形態では、外輪4を形成する鋼材として肌焼鋼(例えばクロムモリブデン鋼SCM415)を使用し、これに熱処理として浸炭焼入れ焼戻しを行って、表層部の表面硬さをHRC57〜62に調整している。尚、外輪4は、鋼材の削出し品、鋼鈑(例えば冷間圧延鋼鈑)のプレス成形品とすることもできる。
図6は、外輪4に固定される固定側板7を示している。固定側板7は、半径方向に延びたフランジ部7aと、フランジ部7aの外径端から外径側に突出した複数(例えば3つ)のブラケット部7bと、フランジ部7aの外径端から軸方向の一方に突出した複数(例えば6つ)の凸部7cおよび複数(例えば3つ)の爪部7dと、フランジ部7aの内径端から軸方向の一方に突出したボス部7eとを主体として構成される。3つのブラケット部7bは円周方向に所定間隔で形成され、それぞれに貫通孔7b1が形成される。貫通孔7b1には、図1に示す中空ピン状の加締部材8が挿入される。尚、加締部材8をブラケット部7bに一体形成しても良い。6つの凸部7cは円周方向に所定間隔で形成され、それぞれ、外輪4の切欠き部4d2と回転方向に係合して、外輪4の固定側板7に対する相対回転を防止する。3つの爪部7dは円周方向に所定間隔で形成され、それぞれ、外輪4の鍔部4dに加締加工されて、外輪4の固定側板7に対する軸方向相対移動を防止する。
ボス部7eの外周には、複数(例えば6つ)の凸部7e1が円周方向に所定間隔で形成され、内周にはラジアル軸受面7e2が形成される。ボス部7eは出力軸2の環状凹部2b4に挿入され、ボス部7eの外周と環状凹部2b4の外周壁との間に後述する摩擦部材(9:図7参照)が締代をもって圧入される。ボス部7eの凸部7e1は摩擦部材(9)の凹部(9a)と回転方向に係合して、摩擦部材(9)の固定側板7に対する相対回転を防止する。ボス部7eのラジアル軸受面7e2は、環状凹部2b4のジャーナル面2b5に外挿され、ジャーナル面2b5をラジアル方向に支持する。
固定側板7は、例えば、冷間圧延鋼鈑等の鋼鈑材からプレス加工によって成形される。この実施形態では、固定側板7を形成する鋼板材として冷間圧延鋼鈑(例えばSPCE)を使用している。また、爪部7dを加締加工する際の加工性等に配慮して、熱処理は施していない。尚、爪部7d等の加締加工を行う部位に防炭処理(又は防炭防窒処理)を施して、浸炭焼入れ焼戻し(又は浸炭窒化焼入れ焼戻し)を行っても良い。
図7は、制動手段としての摩擦部材9を示している。この実施形態において、摩擦部材9はリング状のもので、その内周には複数(例えば6つ)の凹部9aが円周方向に所定間隔で形成される。凹部9aは、固定側板7のボス部7eの凸部7e1と回転方向に係合して、摩擦部材9の固定側板7に対する相対回転を防止する。
摩擦部材9は、ゴムや合成樹脂等の弾性材料で形成され、固定側板7のボス部7eの外周と、出力軸2の環状凹部2b4の外周壁との間に締代をもって圧入される。摩擦部材9の外周と環状凹部2b4の外周壁との間に生じる摩擦力によって、出力軸2に回転方向の制動力(摩擦制動力)が与えられる。この制動力(制動トルク)の大きさは、出力軸2に入力される逆入力トルクの大きさを勘案して適宜設定すれば良いが、逆入力トルクの還流現象を効果的に防止する観点から、想定される逆入力トルクと同程度の大きさに設定するのが好ましい。シート高さ調整装置の場合では、着座シートに着座者が着座した状態で出力軸2に作用する逆入力トルクと同程度の大きさに設定するのが良い。この実施形態のように、制動手段として摩擦部材9を用いると、制動力を摩擦部材9の締代調整によって設定し、また変更できるという利点がある。
摩擦部材9の材質は特に問わないが、この実施形態では、摩擦部材9を合成樹脂材料、例えばポリアセタール(POM)にグラスファイバを30重量%配合した合成樹脂材料の射出成形品としている。
図8(図1のB−B断面)は、第1クラッチ部5を示している。第1クラッチ部5は、外輪1に設けられた複数(例えば10個)のカム面1dと、内輪3に設けられた円周面3a2と、カム面1dと円周面3a2との間に介在する係合子としての複数(例えば10個)のローラ10と、ローラ10を保持する保持器11と、保持器11を外輪(4)に回転方向に連結する弾性部材、例えばセンタリングバネ(12:図10参照)とを主要な要素として構成される。カム面1d、円周面3a2、及びローラ10によってロック手段が構成され、保持器11およびセンタリングバネ(12)によって復帰手段が構成される。この実施形態において、カム面1dは円周面3a2との間に正逆両回転方向に楔隙間を形成する。また、外輪1には操作レバー13が結合され、操作レバー13から外輪1に正方向又は逆方向の入力トルクが入力される。また、外輪1の内周と内輪3(筒状部3a)の外周との間の空間部、特にカム面1dと円周面3a2との間にグリースが封入されている。グリースの種類は特に問わないが、この実施形態のクラッチユニットを自動車の座席シート調整装置に用いる場合は、真夏時の炎天下での駐車時等に乗員室内が80°C程度の高温になることを考慮し、リチウム系、ウレア系、ベントン系、ナトリウム系等の潤滑油、又は、極圧添加剤を含まない潤滑油を基油とし、かつ、基油の粘度が10〜1000cSt(at37.8°C)である潤滑グリースを用いるのが好ましい。
図9は、保持器11を示している。保持器11は、ローラ10を収容する複数(例えば10個)の窓形のポケット11aと、一方の端面から軸方向の一方に突出した係止部11bを備えている。係止部11bは、例えば円弧状に一対で形成される。係止部11bは外輪4の係止部4bの外周に外挿され、その両端にはセンタリングバネ(12:図10参照)の係合部(12a)が係止される。
保持器11の材質は特に問わないが、この実施形態では、保持器11を合成樹脂材料、例えばポリアミド66(PA66)にグラスファイバを30重量%配合した合成樹脂材料の射出成形品としている。
図10は、センタリングバネ12を示している。センタリングバネ12は、内径側に屈曲した一対の係合部12aを備えている。一対の係合部12aは、円周方向に所定間隔で対向する。センタリングバネ12は例えば線材で形成され、この実施形態では、線材としてピアノ線材(SWPB)を使用している。
センタリングバネ12は、一対の係合部12a間の間隔を自然状態から円周方向に押し広げて(この時、センタリングバネ12は若干縮径する。)、保持器11の係止部11bおよび外輪4の係止部4bに係止する。これにより、保持器11がセンタリングバネ12を介して外輪4に回転方向に連結される。例えば、保持器11が同図(c)で外輪4に対して時計方向に相対回転すると、センタリングバネ12の時計方向(回転方向前方)の係合部12aが保持器11の係止部11bに押されて時計方向に弾性変位する{反時計方向(回転方向後方)の係合部12aは外輪4の係止部4bに係止される。}。これにより、センタリングバネ12は一対の係合部12a間の間隔が押し広げられる方向(縮径する方向)に撓み、その撓み量に応じた弾性力が蓄積される。尚、保持器11が同図(c)で反時計方向に相対回転した場合も、上記とは逆の動作によってセンタリングバネ12に弾性力が蓄積される。
次に、図11〜図13を参照しながら、第1クラッチ部5の作用について説明する。尚、図11〜図13において、センタリングバネ12および外輪4は模式化され、概念的に示されている。また、操作レバー13も記載が省略されている。
図11は、第1クラッチ部5の中立位置を示している(図8に示す状態)。中立位置において、ローラ10はカム面1dの中央部に位置し、カム面1dと円周面3a2との間に形成される正逆両回転方向の楔隙間からそれぞれ離脱する。ローラ10の直径は、カム面1dの中央部と円周面3a2との間の半径方向距離よりも若干小さく設定されており、ローラ10とカム面1dの中央部および円周面3a2との間には半径方向隙間がある。尚、後述するように、出力軸2から入力される逆入力トルクは第2クラッチ部6で正逆両回転方向にロックされる。従って、内輪3は、操作レバー13(外輪1)から入力される入力トルクに対してのみ回動動作を行い、出力軸2から逆入力トルクが入力されても回動せず、その位置を保持する。
図12は、操作レバー13を揺動操作して、外輪1に入力トルクを入力した時の状態を示している。例えば、同図において、外輪1に反時計方向の入力トルクが入力されると、外輪1の回動に伴い、カム面1dがローラ10に対して反時計方向に相対移動して、ローラ10がその方向の楔隙間に楔係合する。これにより、外輪1からの入力トルクがローラ10を介して内輪3に伝達され、外輪1、ローラ10、保持器11、および内輪3が一体となって反時計方向に回動する。そして、保持器11の回動に伴ってセンタリングバネ12が撓み、その撓み量に応じた弾性力fが蓄積される。尚、外輪1の回動量の最大範囲は、外輪1の突出部1a2と外輪4のストッパ部4a1との係合によって規制される。
図13は、図12に示す状態から操作レバー13(外輪1)を開放した時の状態を示している。センタリングバネ12に蓄積された弾性力fによって、保持器11に時計方向の回動力が働き、ローラ10が保持器11に押されてカム面1dを押圧する。そうすると、外輪1が開放されているので、ローラ10、保持器11、および外輪1が内輪3に対して時計方向に空転して、図11に示す中立位置に復帰する。その際、内輪3は、図12の回動操作によって与えられた回動位置をそのまま維持する。従って、図12の回動操作を繰り返し行った場合では、内輪3に各回動操作ごとの回動量が重畳的に蓄積される。尚、図11において、外輪1に時計方向の入力トルクが入力された場合は、上記とは逆の動作を行う。
図14(図1のA−A断面)は、第2クラッチ部6を示している。第2クラッチ部6は、外輪4に設けられた円周面4c1と、出力軸2に設けられた複数(例えば8つ)のカム面2b1と、各カム面2b1と円周面4c1との間に介在する係合子としての一対(例えば総数8対)のローラ20と、一対のローラ20間に介在する弾性部材、例えば断面U字形の板バネ21と、内輪3の柱部3cと、内輪3のピン3b1および出力軸2のピン孔2b3とを主要な要素として構成される。カム面2b1、円周面4c1、一対のローラ20、および板ばね21によってロック手段が構成され、一対のローラ20の円周方向両側に位置する内輪3の柱部3cによってロック解除手段が構成され、内輪3のピン3b1および出力軸2のピン孔2b3によってトルク伝達手段が構成される。尚、この実施形態において、板バネ21はステンレス鋼(例えばSUS301CPS−H)で形成し、熱処理としてテンパー処理を施している。また、外輪4の内周と出力軸2(大径部2b)の外周との間の空間部、特にカム面2b1と円周面4c1との間にグリースが封入されている。グリースの種類は特に問わないが、この実施形態のクラッチユニットを自動車の座席シート調整装置に用いる場合は、真夏時の炎天下での駐車時等に乗員室内が80°C程度の高温になることを考慮し、リチウム系、ウレア系、ベントン系、ナトリウム系等の潤滑油、又は、極圧添加剤を含まない潤滑油を基油とし、かつ、基油の粘度が10〜1000cSt(at37.8°C)である潤滑グリースを用いるのが好ましい。
図15に拡大して示すように、中立位置において、一対のローラ20は板ばね21によって、それぞれ、カム面2b1と円周面4c1との間に形成される正逆両回転方向の楔隙間の方向に押圧される。この時、内輪3の各柱部3cと各ローラ20との間にはそれぞれ回転方向隙間δ1が存在する。また、内輪3のピン3b1と出力軸2のピン孔2b3との間には正逆両回転方向にそれぞれ回転方向隙間δ2が存在する。回転方向隙間δ1と回転方向隙間δ2とは、δ1<δ2の関係を有する。回転方向隙間δ1の大きさは、例えば0〜0.4mm(第2クラッチ部6の軸心を中心として0〜1.5°)程度、回転方向隙間δ2の大きさは、例えば0.4〜0.8mm(第2クラッチ部6の軸心を中心として1.8〜3.7°)程度である。
同図に示す状態で、例えば、出力軸2に時計方向の逆入力トルクが入力されると、反時計方向(回転方向後方)のローラ20がその方向の楔隙間と楔係合して、出力軸2が外輪4に対して時計方向にロックされる。出力軸2に反時計方向の逆入力トルクが入力されると、時計方向(回転方向後方)のローラ20がその方向の楔隙間と楔係合して、出力軸2が外輪4に対して反時計方向にロックされる。従って、出力軸2からの逆入力トルクは、第2クラッチ部6によって正逆両回転方向にロックされる。
図16は、外輪1からの入力トルク(同図で時計方向)が第1クラッチ部5を介して内輪3に入力され、内輪3が同図で時計方向に回動を始めた初期状態を示している。回転方向隙間がδ1<δ2に設定されているため、先ず、内輪3の反時計方向(回転方向後方)の柱部3cがその方向(回転方向後方)のローラ20と係合して、これを板ばね21の弾性力に抗して時計方向(回転方向前方)に押圧する。これにより、反時計方向(回転方向後方)のローラ20がその方向の楔隙間から離脱して、出力軸2のロック状態が解除される{尚、時計方向(回転方向前方)のローラ20は、その方向の楔隙間とは楔係合しない。}。従って、出力軸2は時計方向に回動可能となる。
内輪3がさらに時計方向に回動すると、図17に示すように、内輪3のピン3b1が出力軸2のピン孔2b3と時計方向に係合する。これにより、内輪3からの時計方向の入力トルクがピン3b1およびピン孔2b3を介して出力軸2に伝達され、出力軸2が時計方向に回動する。外輪1に反時計方向の入力トルクが入力された場合は、上記とは逆の動作で出力軸2が反時計方向に回動する。従って、外輪1からの正逆両回転方向の入力トルクは、第1クラッチ部5、内輪3、およびトルク伝達手段としてのピン3b1およびピン孔2b3を介して出力軸2に伝達され、出力軸2が正逆両回転方向に回動する。尚、内輪3からの入力トルクがなくなると、板ばね21の弾性復元力によって図15に示す中立位置に復帰する。
上述した外輪1、出力軸2、内輪3、外輪4、第1クラッチ部5、第2クラッチ部6、固定側板7および摩擦部材9を図1に示す態様でアッセンブリすると、この実施形態のクラッチユニットが完成する。外輪1には例えば樹脂製の操作レバー13が結合され、出力軸2は図示されていない出力側機構の回動部材に連結される。また、固定側板7は図示されていないケーシング等の固定部材に加締部材8で加締固定される。尚、外輪1は、鍔部1cの外側に装着されたワッシャ18と外輪4のフランジ部4aとの間で軸方向の両側に抜け止め規制される。
第1クラッチ部5において、センタリングバネ12は外輪1の突出部1a2の内周に収容され、外輪1の一方の端面と外輪4のフランジ部4aとの間で軸方向の両側に抜け止め規制される。また、保持器11およびローラ10は、外輪1の鍔部1cと外輪4のフランジ部4aとの間で軸方向の両側に抜け止め規制される。第1クラッチ部5の保持器11、ローラ10、およびセンタリングバネ12が外輪1の内部に収容されており、入力側部分に突出した部分がない。また、保持器11の係止部11bが外輪4の係止部4bの外周に外挿され、保持器11の回動が外輪4の係止部4bによって案内されるので、回動時の保持器11の傾きがなく、円滑なクラッチ動作が可能である。
第2クラッチ部6は、外輪4と固定側板7とで囲まれた空間部に径方向および軸方向にコンパクトに収められている。また、ロック解除手段としての柱部3cと、トルク伝達手段としてのピン3b1が内輪3に一体に設けられているので、部品点数が少なく、構造も簡単である。
また、出力軸2を内輪3のラジアル軸受面3a1と固定側板7のラジアル軸受面7e2によって両持ち的に支持する構造であるため、出力軸2の回動動作が安定し、しかも第1クラッチ部5および第2クラッチ部6に偏荷重が作用しにくく、円滑なクラッチ動作が可能である。
図18は、自動車の乗員室に装備される座席シート30を示している。座席シート30は着座シート30aと背もたれシート30bとで構成され、着座シート30aの高さHを調整するシート高さ調整装置31、背もたれシート30bの傾斜θを調整するシート傾斜調整装置32、および着座シート30aの前後位置Lを調整するシートスライド調整装置(図示省略)を備えている。着座シート30aの高さHの調整はシート高さ調整装置31の操作レバー31aによって行い、背もたれシート30bの傾斜θの調整はシート傾斜調整装置32の操作レバー32aによって行い、着座シート30aの前後位置Lの調整はシートスライド調整装置の操作レバー(図示省略)によって行う。上述した実施形態のクラッチユニットは、例えばシート高さ調整装置31に組込まれる。
図19(a)は、シート高さ調整装置31の一構造例を概念的に示している。シートスライドアジャスタ31bのスライド可動部材31b1にリンク部材31c、31dの一端がそれぞれ回動自在に枢着される。リンク部材31cの他端は着座シート30aに回動自在に枢着されると共に、リンク部材31eを介してセクターギヤ31fに回動自在に枢着される。セクターギヤ31fは着座シート30aに回動自在に枢着され、支点31f1回りに揺動可能である。リンク部材31dの他端は着座シート30aに回動自在に枢着される。上述した実施形態のクラッチユニットXは、固定側板7を介して着座シート30aの適宜の部位に固定され、その外輪1に例えば樹脂製の操作レバー31a(図1、図8における操作レバー13に相当)が結合され、出力軸2にセクターギヤ31fと噛合するピニオンギヤ31gが連結される。
例えば、図19(b)において、操作レバー31aを反時計方向(上側)に揺動操作すると、その方向の入力トルクがクラッチユニットXを介してピニオンギヤ31gに伝達され、ピニオンギヤ31gが反時計方向に回動する。そして、ピニオンギヤ31gと噛合するセクターギヤ31fが時計方向に揺動して、リンク部材31cの他端をリンク部材31eを介して引っ張る。その結果、リンク部材31cとリンク部材31dが共に起立して、着座シート30aの座面が高くなる。このようにして、着座シート30aの高さHを調整した後、操作レバー31aを開放すると、操作レバー31aが第1クラッチ部5のセンタリングバネ12の弾性力(弾性復元力)によって時計方向に回動して元の位置(中立位置)に戻る。尚、操作レバー31aを時計方向(下側)に揺動操作した場合は、上記とは逆の動作によって、着座シート31aの座面が低くなる。また、高さ調整後に操作レバー31aを開放すると、操作レバー31aが反時計方向に回動して元の位置(中立位置)に戻る。
上記構成のシート高さ調整装置31によれば、操作レバー31aの揺動操作のみで着座シート30aの高さHを調整することができ、しかも、高さ調整後の着座シート30aの高さ位置を自動的に保持することができる。また、高さ調整後に操作レバー31aを開放すると、操作レバー31aを中立位置に自動復帰させることができ、その場合でも復帰時の動作が円滑でラチェット機構のような騒音発生の問題も生じない。さらに、摩擦部材9によって出力軸2に回転方向の制動力を与えているので、操作レバー31aの操作時における逆入力トルクの還流現象がなく(又は少なく)、安定した調整操作が可能である。
図20は、本発明の第2の実施形態に係るクラッチユニットを示している。この実施形態に係るクラッチユニットが、上述した第1の実施形態に係るクラッチユニットと異なる点は、ゴムや合成樹脂等の弾性材料からなる摩擦部材9に代えて、バネ弾性を有する摩擦部材15を制動手段として用いている点にある。摩擦部材15はバネ鋼等の金属材料で形成され、出力軸2の環状凹部2b4の外周壁に装入される装着部15aと、装着部15aの一端に連続した鍔部15bと、鍔部15bから外径側に突出した複数(例えば8つ)の突出部15cとを備えている。装着部15aは、出力軸2の環状凹部2b4の外周壁に締り嵌めで装着され、摩擦部材15の出力軸2に対する相対回転を防止する。突出部15cは、半径方向に延びた半径方向部15c1と、半径方向部15c1の先端から傾斜状に延びた舌片部15c2とを備え、舌片部15c2が外輪4の内周に締代をもって圧接する。摩擦部材15の舌片部15c2が外輪4の内周に締代をもって圧接することにより、出力軸2に回転方向の制動力(摩擦制動力)が与えられる。尚、摩擦部材15の装着部15aは、出力軸2の環状凹部2b4の外周壁に相対回転を防止しうる態様で装着すれば良く、上記の締り嵌めによる装着(圧入)の他、回転方向に凹凸係合する態様で装着しても良い。その他の事項は上述した第1の実施形態と同様であるので、説明を省略する。
図21は、本発明の第3の実施形態に係るクラッチユニットを示している。この実施形態に係るクラッチユニットが、上述した第1の実施形態に係るクラッチユニットと異なる点は、ゴムや合成樹脂等の弾性材料からなる摩擦部材9に代えて、バネ弾性を有する摩擦部材16を制動手段として用いている点にある。摩擦部材16はバネ鋼等の金属材料で形成され、固定側板7のボス部7eに装着される装着部16aと、装着部16aの一端に連続した鍔部16bと、鍔部16bから外径側に突出した複数(例えば12個)の突出部16cとを備えている。装着部16aには複数(例えば12個)の切欠き部16a1が形成され、これら切欠き部16a1は固定側板7のボス部7eに形成された凸部と回転方向に係合して、摩擦部材16の固定側板7に対する相対回転を防止する。突出部16cは、円弧状に湾曲した湾曲部16c1と、湾曲部16c1の先端から傾斜状に延びた舌片部16c2とを備え、舌片部16c2が出力軸2の環状凹部2b4の外周壁に締代をもって圧接する。摩擦部材16の舌片部16c2が出力軸2の環状凹部2b4の外周壁に締代をもって圧接することにより、出力軸2に回転方向の制動力(摩擦制動力)が与えられる。尚、摩擦部材16の装着部16aは、固定側板7のボス部7eに相対回転を防止しうる態様で装着すれば良く、上記の回転方向に凹凸係合する態様の他、締り嵌めによる装着(圧入)としても良い。その他の事項は上述した第1の実施形態と同様であるので、説明を省略する。