以下、図面を参照して、この発明の第1の実施の形態にかかる投影露光装置の説明を行う。図1は、第1の実施の形態にかかるステップ・アンド・リピート方式の投影露光装置の概略構成を示す図である。また、以下の説明においては、図1中に示すXYZ直交座標系を設定し、このXYZ直交座標系を参照しつつ各部材の位置関係について説明する。XYZ直交座標系は、X軸及びY軸がウエハWに対して平行となるよう設定され、Z軸がウエハWに対して直交する方向に設定されている。図中のXYZ座標系は、実際にはXY平面が水平面に平行な面に設定され、Z軸が鉛直上方向に設定される。
この実施の形態にかかる投影露光装置は、図1に示すように、露光光源であるArFエキシマレーザ光源を含み、オプティカル・インテグレータ(ホモジナイザー)、視野絞り、コンデンサレンズ等から構成される照明光学系1を備えている。光源から射出された波長193nmの紫外パルス光よりなる露光光(露光ビーム)ILは、照明光学系1を通過し、レチクル(マスク)Rに設けられたパターンを照明する。レチクルRを通過した光は、両側(又はウエハW側に片側)テレセントリックな投影光学系PLを介して、フォトレジストが塗布されたウエハ(基板)W上の露光領域に所定の投影倍率β(例えば、βは1/4,1/5等)で縮小投影露光する。
なお、露光光ILとしては、KrFエキシマレーザ光(波長248nm)、F2レーザ光(波長157nm)や水銀ランプのi線(波長365nm)等を使用してもよい。
また、レチクルRはレチクルステージRST上に保持され、レチクルステージRSTにはX方向、Y方向及び回転方向にレチクルRを微動させる機構が組み込まれている。レチクルステージRSTのX方向、Y方向及び回転方向の位置は、レチクルレーザ干渉計(図示せず)によってリアルタイムに計測、且つ制御されている。
また、ウエハWはウエハホルダ(図示せず)を介してZステージ9上に固定されている。Zステージ9は、投影光学系PLの像面と実質的に平行なXY平面に沿って移動するXYステージ10上に固定されており、ウエハWのフォーカス位置(Z方向の位置)及び傾斜角を制御する。Zステージ9のX方向、Y方向及び回転方向の位置は、Zステージ9上に位置する移動鏡12を用いたウエハレーザ干渉計13によってリアルタイムに計測、且つ制御されている。また、XYステージ10は、ベース11上に載置されており、ウエハWのX方向、Y方向及び回転方向を制御する。
この投影露光装置に備えられている主制御系14は、レチクルレーザ干渉計により計測された計測値に基づいてレチクルRのX方向、Y方向及び回転方向の位置の調整を行なう。即ち、主制御系14は、レチクルステージRSTに組み込まれている機構に制御信号を送信し、レチクルステージRSTを微動させることによりレチクルRの位置調整を行なう。
また、主制御系14は、オートフォーカス方式及びオートレベリング方式によりウエハW上の表面を投影光学系PLの像面に合わせ込むため、ウエハWのフォーカス位置(Z方向の位置)及び傾斜角の調整を行なう。即ち、主制御系14は、ウエハステージ駆動系15に制御信号を送信し、ウエハステージ駆動系15によりZステージ9を駆動させることによりウエハWのフォーカス位置及び傾斜角の調整を行なう。更に、主制御系14は、ウエハレーザ干渉計13により計測された計測値に基づいてウエハWのX方向、Y方向及び回転方向の位置の調整を行なう。即ち、主制御系14は、ウエハステージ駆動系15に制御信号を送信し、ウエハステージ駆動系15によりXYステージ10を駆動させることによりウエハWのX方向、Y方向及び回転方向の位置調整を行なう。
露光時には、主制御系14は、ウエハステージ駆動系15に制御信号を送信し、ウエハステージ駆動系15によりXYステージ10を駆動させることによりウエハW上の各ショット領域を順次露光位置にステップ移動させる。即ち、ステップ・アンド・リピート方式によりレチクルRのパターン像をウエハW上に露光する動作を繰り返す。
この投影露光装置においては、露光波長を実質的に短くし、且つ解像度を向上させるために液浸法が適用されている。ここで、液侵法を適用した液浸型の投影露光装置においては、少なくともレチクルRのパターン像をウエハW上に転写している間は、ウエハWの表面と投影光学系PLのウエハW側の透過光学素子4との間に所定の液体7が満たされている。投影光学系PLは、投影光学系PLを構成する石英または蛍石により形成された複数の光学素子を収納する鏡筒3を備えている。この投影光学系PLにおいては、最もウエハW側の透過光学素子4が蛍石により形成されており、透過光学素子4の表面(ウエハW側の先端部4A及びテーパー面4B(図2参照))のみが液体7と接触するように構成されている。これによって、金属からなる鏡筒3の腐食等が防止されている。
ここで、透過光学素子4の基材は蛍石であり、その蛍石の成膜面の結晶方位は(111)面である。また、透過光学素子4のウエハW側の先端部4A、即ち露光光が透過する部分には、単層膜により構成されるフッ化マグネシウム(MgF2)膜F1が真空蒸着法により成膜されている。
また、透過光学素子4のテーパー面4B、即ち露光光が透過しない部分は、密着力強化膜F2としてタンタル(Ta)の膜がスパッタリング法により成膜されている。密着力強化膜F2は、透過光学素子4のテーパー面4Bと後述する金属製溶解防止膜(溶解防止膜)F3の密着力を向上させる。また、密着力強化膜F2の表面には、液体7への溶解を防止するための金属製溶解防止膜(溶解防止膜)F3として金(Au)により構成される金属膜がスパッタリング法により、150nmの厚さで成膜されている。また、金属製溶解防止膜(溶解防止膜)F3の表面には、金属製溶解防止膜(溶解防止膜)を保護するための金属製溶解防止膜保護膜(溶解防止膜保護膜)F4として二酸化珪素(SiO2)膜がスパッタリング法により成膜されている。ここで、透過光学素子4のテーパー面4Bに成膜される金属製溶解防止膜(溶解防止膜)F3の純水への溶解度は2ppt以下であり、充填密度は95%以上である。
また、液体7としては、半導体製造工場等で容易に大量に入手できる純水が使用されている。なお、純水は不純物の含有量が極めて低いため、ウエハWの表面を洗浄する作用が期待できる。
図3は、投影光学系PLの透過光学素子4のウエハW側の先端部4A及びテーパー面4B並びにウエハWと、そのウエハW側の先端部4A及びテーパー面4BをX方向に挟む2対の排出ノズル及び流入ノズルとの位置関係を示す図である。また、図4は、投影光学系PLの透過光学素子4のウエハW側の先端部4A及びテーパー面4Bと、そのウエハW側の先端部4A及びテーパー面4BをY方向に挟む2対の排出ノズル及び流入ノズルとの位置関係を示す図である。この実施の形態にかかる投影露光装置は、液体7の供給を制御する液体供給装置5及び液体7の排出を制御する液体回収装置6を備えている。
液体供給装置5は、液体7のタンク(図示せず)、加圧ポンプ(図示せず)、温度制御装置(図示せず)等により構成されている。また、液体供給装置5には、図3に示すように、供給管21を介してウエハW側の先端部4A及びテーパー面4Bの+X方向側に細い先端部を有する排出ノズル21aが、供給管22を介してウエハW側の先端部4A及びテーパー面4Bの−X方向側に細い先端部を有する排出ノズル22aが接続されている。また、液体供給装置5には、図4に示すように、供給管27を介してウエハW側の先端部4A及びテーパー面4Bの+Y方向側に細い先端部を有する排出ノズル27aが、供給管28を介してウエハW側の先端部4A及びテーパー面4Bの−Y方向側に細い先端部を有する排出ノズル28aが接続されている。液体供給装置5は、温度制御装置により液体7の温度を調整し、排出ノズル21a、22a、27a、28aの中の少なくとも1つの排出ノズルより、供給管21、22、27、28の中の少なくとも1つの供給管を介して温度調整された液体7をウエハW上に供給する。なお、液体7の温度は、温度制御装置により、例えばこの実施の形態にかかる投影露光装置が収納されているチャンバ内の温度と同程度に設定される。
液体回収装置6は、液体7のタンク(図示せず)、吸引ポンプ(図示せず)等により構成されている。また、液体回収装置6には、図3に示すように、回収管23を介してテーパー面4Bの−X方向側に広い先端部を有する流入ノズル23a、23bが、回収管24を介してテーパー面4Bの+X方向側に広い先端部を有する流入ノズル24a、24bが接続されている。なお、流入ノズル23a、23b、24a、24bは、ウエハW側の先端部4Aの中心を通りX軸に平行な軸に対して扇状に開いた形で配置されている。また、液体回収装置6には、図4に示すように、回収管29を介してテーパー面4Bの−Y方向側に広い先端部を有する流入ノズル29a、29bが、回収管30を介してテーパー面4Bの+Y方向側に広い先端部を有する流入ノズル30a、30bが接続されている。なお、流入ノズル29a、29b、30a、30bは、ウエハW側の先端部4Aの中心を通りY軸に平行な軸に対して扇状に開いた形で配置されている。
液体回収装置6は、流入ノズル23a及び23b、24a及び24b、29a及び29b、30a及び30bの中の少なくとも1つの流入ノズルより、回収管23、24、29、30の中の少なくとも1つの回収管を介して液体7をウエハW上から回収する。
次に、液体7の供給及び回収方法について説明する。図3において、実線で示す矢印25Aの方向(−X方向)にウエハWをステップ移動させる際には、液体供給装置5は、供給管21及び排出ノズル21aを介して透過光学素子4のウエハW側の先端部4A及びテーパー面4BとウエハWとの間に液体7を供給する。液体回収装置6は、回収管23及び流入ノズル23a,23bを介してウエハW上から液体供給装置5によりウエハW側の先端部4A及びテーパー面4BとウエハWとの間に供給された液体7を回収する。この場合においては、液体7はウエハW上を矢印25Bの方向(−X方向)に流れており、ウエハWと透過光学素子4との間は液体7により安定に満たされている。
一方、図3において、鎖線で示す矢印26Aの方向(+X方向)にウエハWをステップ移動させる際には、液体供給装置5は、供給管22及び排出ノズル22aを介して透過光学素子4のウエハW側の先端部4A及びテーパー面4BとウエハWとの間に液体7を供給する。液体回収装置6は、回収管24及び流入ノズル24a,24bを介して、液体供給装置5によりウエハW側の先端部4A及びテーパー面4BとウエハWとの間に供給された液体7を回収する。この場合においては、液体7はウエハW上を矢印26Bの方向(+X方向)に流れており、ウエハWと透過光学素子4との間は液体7により安定に満たされている。
また、ウエハWをY方向にステップ移動させる際には、Y方向から液体7の供給及び回収を行なう。即ち、図4において、実線で示す矢印31Aの方向(−Y方向)にウエハWをステップ移動させる際には、液体供給装置5は、供給管27及び排出ノズル27aを介して、液体7を供給する。液体回収装置6は、回収管29及び流入ノズル29a,29bを介して、液体供給装置5によりウエハW側の先端部4A及びテーパー面4BとウエハWとの間に供給された液体7を回収する。この場合においては、露光領域上を矢印31Bの方向(−Y方向)に流れており、ウエハWと透過光学素子4との間は液体7により安定に満たされている。
また、ウエハWを+Y方向にステップ移動させる際には、液体供給装置5は、供給管28及び排出ノズル28aを介して、液体7を供給する。液体回収装置6は、回収管30及び流入ノズル30a,30bを介して、液体供給装置5によりウエハW側の先端部4AとウエハWとの間に供給された液体7を回収する。この場合においては、液体7は、露光領域上を+Y方向に流れており、ウエハWと透過光学素子4との間は液体7により安定に満たされている。
なお、X方向またはY方向から液体7の供給及び回収を行うノズルだけでなく、例えば斜めの方向から液体7の供給及び回収を行うためのノズルを設けてもよい。
次に、液体7の供給量及び回収量の制御方法について説明する。図5は、投影光学系PLを構成する透過光学素子4とウエハWの間に液体7を供給及び回収している状態を示す図である。図5に示すように、ウエハWが矢印25Aの方向(−X方向)に移動している場合において、排出ノズル21aより供給された液体7は、矢印25Bの方向(−X方向)に流れ、流入ノズル23a,23bにより回収される。ウエハWが移動中であっても透過光学素子4とウエハWとの間に充填される液体7の量を一定に保つため、液体7の供給量と回収量とを等しくする。また、XYステージ10(ウエハW)の移動速度に基づいて液体7の供給量及び回収量を調整することにより、液体7は透過光学素子4とウエハWとの間に常時満たされる。
この第1の実施の形態にかかる投影露光装置によれば、投影光学系PLのウエハW側の透過光学素子4のテーパー面4Bに成膜されている密着力強化膜の表面に金属膜が成膜されているため、金属膜を透過光学素子4に密着させることができる。また、金属膜の表面に二酸化珪素(SiO2)膜が成膜されているため、柔らく耐擦傷性が低い金属膜の損傷を防止することができ、金属膜を保護することができる。従って、ウエハWの表面と投影光学系PLとの間に介在させた液体7の透過光学素子4への浸透及び侵食を防止することができ、投影光学系PLの光学性能を維持することができる。また、液体7により透過光学素子4が溶解することがないため、投影露光装置の性能を維持することができる。更に、透過光学素子4を頻繁に交換する必要がなくなるため、投影露光装置のスループットを高く維持することができる。
また、透過光学素子4のテーパー面4B、即ち露光光ILが通過しない部分に金属膜が成膜されるため、透過光学素子4の表面に成膜される金属膜が露光光ILを遮光することなく、最適な状態で露光を続けることができる。
また、この第1の実施の形態にかかる投影露光装置によれば、透過光学素子4のウエハ側の先端部4Aに単層膜であるフッ化マグネシウム(MgF2)膜が成膜されているため、透過光学素子の溶解を防止することができる。また、多層膜と比較した場合において界面を少なくすることができるため、フッ化マグネシウム(MgF2)膜の保護層の界面から液体が侵入した場合に起こり得る化学反応による悪影響を極力抑えることができる。また、多層膜により構成される膜を成膜する場合と比較して、簡易に成膜することができる。
また、波長が200nm程度の露光光に対する純水の屈折率nは約1.44であり、波長193nmであるArFエキシマレーザ光は、ウエハW上において1/n、即ち134nmに短波長化されるため、高い解像度を得ることができる。
また、この第1の実施の形態にかかる投影露光装置によれば、X方向及びY方向に互いに反転した2対の排出ノズルと流入ノズルとを備えているため、ウエハを+X方向、−X方向、+Y方向または−Y方向に移動する場合においても、ウエハと光学素子との間を液体により安定に満たし続けることができる。
また、液体がウエハ上を流れるため、ウエハ上に異物が付着している場合であっても、その異物を液体により流し去ることができる。また、液体が液体供給装置により所定の温度に調整されているため、ウエハ表面の温度も一定となり、露光の際に生じるウエハの熱膨張による重ね合わせ精度の低下を防止することができる。従って、EGA(エンハンスト・グローバル・アライメント)方式のアライメントのように、アライメントと露光とに時間差のある場合であっても、ウエハの熱膨張による重ね合わせ精度の低下を防ぐことができる。
また、この第1の実施の形態にかかる投影露光装置によれば、ウエハを移動させる方向と同一の方向に液体が流れているため、異物や熱を吸収した液体を透過光学素子の表面の直下の露光領域上に滞留させることなく液体回収装置により回収することができる。
なお、この第1の実施の形態にかかる投影露光装置においては、金属製溶解防止膜(溶解防止膜)として金(Au)により形成される膜により構成される金属膜を用いたが、金(Au)、白金(Pt)、銀(Ag)、ニッケル(Ni)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、パラジウム(Pd)、モリブデン(Mo)、チタン(Ti)及びクロム(Cr)の中の少なくとも1つにより形成される膜により構成される金属膜を用いてもよい。
また、この第1の実施の形態にかかる投影露光装置においては、タンタル(Ta)により形成される膜により構成される密着力強化膜を用いたが、タンタル(Ta)及びクロム(Cr)の少なくとも1つにより形成される膜により構成される密着力強化膜を用いてもよい。
また、この第1の実施の形態にかかる投影露光装置においては、二酸化珪素(SiO2)により形成される膜により構成される金属製溶解防止膜保護膜(溶解防止膜保護膜)を用いたが、二酸化珪素(SiO2)、酸化イットリウム(Y2O3)、フッ化ネオジム(Nd2F3)、酸化クロム(Cr2O3)、五酸化タンタル(Ta2O5)、五酸化ニオブ(Nb2O5)、二酸化チタン(TiO2)、二酸化ジルコニウム(ZrO2)、二酸化ハフニウム(HfO2)及び酸化ランタン(La2O3)の中の少なくとも1つにより形成される膜により構成される金属製溶解防止膜保護膜(溶解防止膜保護膜)を用いてもよい。即ち、金属製溶解防止膜保護膜(溶解防止膜保護膜)を選択することができるため、透過光学素子の基材、透過光学素子が設置されている環境、基材の表面と投影光学系との間に介在させる液体の種類等に基づいて、最適な金属製溶解防止膜保護膜(溶解防止膜保護膜)を選択することができる。また、この第1の実施の形態にかかる投影露光装置においては、金属製溶解防止膜保護膜(溶解防止膜保護膜)である二酸化珪素(SiO2)膜をスパッタリング法の乾式成膜法により成膜しているが、湿式成膜法により成膜してもよい。
また、この第1の実施の形態にかかる透過光学素子のテーパー面においては、密着力強化膜、金属製溶解防止膜(溶解防止膜)、金属製溶解防止膜保護膜(溶解防止膜保護膜)が成膜されているが、金属製溶解防止膜(溶解防止膜)のみを成膜してもよい。また、密着力強化膜と金属製溶解防止膜(溶解防止膜)とを成膜してもよく、金属製溶解防止膜(溶解防止膜)と金属製溶解防止膜保護膜(溶解防止膜保護膜)とを成膜してもよい。
また、この第1の実施の形態にかかる投影露光装置においては、最もウエハW側の透過光学素子4が蛍石により形成されており、そのテーパー面に密着力強化膜、金属製溶解防止膜(溶解防止膜)、金属製溶解防止膜保護膜(溶解防止膜保護膜)が成膜されているが、最もウエハW側の透過光学素子4を石英ガラスにより形成し、そのテーパー面に密着力強化膜、金属製溶解防止膜(溶解防止膜)、金属製溶解防止膜保護膜(溶解防止膜保護膜)を成膜してもよい。
次に、図面を参照して、本発明の第2の実施の形態にかかる投影露光装置について説明する。図6は、第2の実施の形態にかかるステップ・アンド・スキャン方式の投影露光装置の投影光学系PLAの下部、液体供給装置5及び液体回収装置6等を示す正面図である。また、以下の説明においては、図6中に示すXYZ直交座標系を設定し、このXYZ直交座標系を参照しつつ各部材の位置関係について説明する。XYZ直交座標系は、X軸及びY軸がウエハWに対して平行となるよう設定され、Z軸がウエハWに対して直交する方向に設定されている。図中のXYZ座標系は、実際にはXY平面が水平面に平行な面に設定され、Z軸が鉛直上方向に設定される。なお、図6においては、第1の実施の形態にかかる投影露光装置と同一の構成には、第1の実施の形態で用いたのと同一の符号を付して説明を行なう。
この投影露光装置においては、投影光学系PLAの鏡筒3Aの最下端の透過光学素子32は、ウエハW側の先端部32Aが走査露光に必要な部分だけを残してY方向(非走査方向)に細長い矩形に削られている。走査露光時には、ウエハW側の先端部32Aの直下の矩形の露光領域にレチクル(図示せず)の一部のパターン像が投影され、投影光学系PLAに対して、レチクル(図示せず)が−X方向(又は+X方向)に速度Vで移動するのに同期して、XYステージ10を介してウエハWが+X方向(又は−X方向)に速度β・V(βは投影倍率)で移動する。そして、1つのショット領域への露光終了後に、ウエハWのステッピングによって次のショット領域が走査開始位置に移動し、以下ステップ・アンド・スキャン方式で各ショット領域への露光が順次行われる。
また、透過光学素子32の基材は蛍石であり、その蛍石の成膜面の結晶方位は(111)面である。また、透過光学素子32のウエハW側の先端部32A、即ち露光光が透過する部分には、単層膜により構成されるフッ化マグネシウム(MgF2)膜が真空蒸着法により成膜されている。
また、透過光学素子32のテーパー面32B、即ち露光光が透過しない部分は、密着力強化膜としてタンタル(Ta)の膜がスパッタリング法により成膜されている。密着力強化膜は、透過光学素子32のテーパー面32Bと後述する金属製溶解防止膜(溶解防止膜)の密着力を向上させる。また、密着力強化膜の表面には、液体7への溶解を防止するための金属製溶解防止膜(溶解防止膜)として金(Au)の膜がスパッタリング法により成膜されている。また、金属製溶解防止膜(溶解防止膜)の表面には、金属製溶解防止膜(溶解防止膜)を保護するための金属製溶解防止膜保護膜(溶解防止膜保護膜)として二酸化珪素(SiO2)がスパッタリング法により成膜されている。ここで、透過光学素子32のテーパー面32Bに成膜される金属製溶解防止膜(溶解防止膜)の純水への溶解度は2ppt以下であり、充填密度は95%以上である。
この第2の実施の形態においても第1の実施の形態と同様に、液浸法が適用されるため、走査露光中に透過光学素子32とウエハWの表面との間に液体7が満たされる。液体7としては、純水が使用されている。液体7の供給及び回収は、それぞれ液体供給装置5及び液体回収装置6によって行われる。
図7は、投影光学系PLAの透過光学素子32の表面(ウエハW側の先端部32A及びテーパー面32B)と液体7をX方向に供給及び回収するための排出ノズル及び流入ノズルとの位置関係を示す図である。液体供給装置5には、図7に示すように、供給管21を介してY方向に細長い矩形状である先端部32A及びテーパー面32Bの+X方向側に3個の排出ノズル21a〜21cが、先端部32A及びテーパー面32Bの−X方向側に3個の排出ノズル22a〜22cが接続されている。また、液体回収装置6には、図7に示すように、回収管23を介して先端部32A及びテーパー面32Bの−X方向側に2個の流入ノズル23a、23bが、回収管24を介して先端部32A及びテーパー面32Bの+X方向側に2個の流入ノズル24a、24bが接続されている。
実線の矢印で示す走査方向(−X方向)にウエハWを移動させて走査露光を行う場合には、液体供給装置5は、供給管21及び排出ノズル21a〜21cを介して透過光学素子32の先端部32A及びテーパー面32BとウエハWとの間に液体7を供給する。液体回収装置6は、回収管23及び流入ノズル23a,23bを介して、液体供給装置5により先端部32A及びテーパー面32BとウエハWとの間に供給された液体7を回収する。この場合においては、液体7はウエハW上を−X方向に流れており、透過光学素子32とウエハWとの間は液体7により満たされる。
また、鎖線の矢印で示す方向(+X方向)にウエハWを移動させて走査露光を行う場合には、液体供給装置5は、供給管22及び排出ノズル22a〜22cを介して透過光学素子32の先端部32A及びテーパー面32BとウエハWとの間に液体7を供給する。液体回収装置6は、回収管24及び流入ノズル24a,24bを介して、液体供給装置5により先端部32A及びテーパー面32BとウエハWとの間に供給された液体7を回収する。
この場合においては、液体7はウエハW上を+X方向に流れており、透過光学素子32とウエハWとの間は液体7により満たされる。また、液体7の供給量及び回収量を調整することにより、走査露光中においても透過光学素子32とウエハWとの間に液体7は安定に満たされる。また、ウエハWをY方向にステップ移動させる際には、第1の実施の形態と同一の方法によりY方向から液体7の供給及び回収を行なう。
図8は、投影光学系PLAの透過光学素子32の先端部32A及びテーパー面32BとY方向用の排出ノズル及び流入ノズルとの位置関係を示す図である。図8に示すように、ウエハWを走査方向に直交する非走査方向(−Y方向)にステップ移動させる場合には、Y方向に配列された排出ノズル27a及び流入ノズル29a,29bを使用して液体7の供給及び回収を行なう。また、ウエハを+Y方向にステップ移動させる場合には、Y方向に配列された排出ノズル28a及び流入ノズル30a,30bを使用して液体7の供給及び回収を行なう。第1の実施の形態と同様に、Y方向にステップ移動させる際にもウエハWの移動速度に応じて液体7の供給量を調整することにより、透過光学素子32とウエハWとの間を液体7により満たし続けることができる。
この第2の実施の形態にかかる走査型投影露光装置によれば、投影光学系PLAのウエハW側の透過光学素子32のテーパー面32Bに成膜されている密着力強化膜の表面に金属膜が成膜されているため、金属膜を透過光学素子32に密着させることができる。また、金属膜の表面に二酸化珪素(SiO2)膜が成膜されているため、柔らく耐擦傷性が低い金属膜の損傷を防止することができ、金属膜を保護することができる。従って、ウエハWの表面と投影光学系PLAとの間に介在させた液体7の透過光学素子32への浸透及び侵食を防止することができ、投影光学系PLAの光学性能を維持することができる。また、液体7により透過光学素子32が溶解することがないため、走査型投影露光装置の性能を維持することができる。また、透過光学素子32を頻繁に交換する必要がなくなるため、走査型投影露光装置のスループットを高く維持することができる。
また、透過光学素子32のテーパー面32B、即ち露光光が通過しない部分に金属膜が成膜されるため、透過光学素子32の表面に成膜される金属膜が露光光を遮光することなく、最適な状態で露光を続けることができる。
また、この第2の実施の形態にかかる走査型投影露光装置によれば、透過光学素子のウエハ側の先端部に単層膜であるフッ化マグネシウム(MgF2)膜が成膜されているため、透過光学素子の溶解を防止することができる。また、多層膜と比較した場合において界面を少なくすることができるため、フッ化マグネシウム(MgF2)膜の保護層の界面から液体が侵入した場合に起こり得る化学反応による悪影響を極力抑えることができる。また、多層膜により構成される膜を成膜する場合と比較して、簡易に成膜することができる。
また、波長が200nm程度の露光光に対する純水の屈折率nは約1.44であり、波長193nmであるArFエキシマレーザ光は、ウエハW上において1/n、即ち134nmに短波長化されるため、高い解像度を得ることができる。
また、この第2の実施の形態にかかる投影露光装置によれば、X方向及びY方向に互いに反転した2対の排出ノズルと流入ノズルとを備えているため、ウエハWを+X方向、−X方向、+Y方向または−Y方向に移動する場合においても、ウエハWと光学素子32との間を液体7により安定に満たし続けることができる。即ち、ウエハWの移動方向に応じた方向に液体を流すことにより、ウエハWと投影光学系PLの先端部との間を液体7により満たし続けることができる。
また、液体7がウエハW上を流れるため、ウエハW上に異物が付着している場合であっても、その異物を液体7により流し去ることができる。また、液体7が液体供給装置5により所定の温度に調整されているため、ウエハW表面の温度も一定となり、露光の際に生じるウエハWの熱膨張による重ね合わせ精度の低下を防止することができる。従って、EGA(エンハンスト・グローバル・アライメント)方式のアライメントのように、アライメントと露光とに時間差のある場合であっても、ウエハの熱膨張による重ね合わせ精度の低下を防ぐことができる。
また、この第2の実施の形態にかかる走査型投影露光装置によれば、ウエハWを移動させる方向と同一の方向に液体7が流れているため、異物や熱を吸収した液体を光学素子32の先端部32Aの直下の露光領域上に滞留させることなく液体回収装置6により回収することができる。
なお、この第2の実施の形態にかかる投影露光装置においては、金属製溶解防止膜(溶解防止膜)として金(Au)により形成される膜により構成される金属膜を用いたが、金(Au)、白金(Pt)、銀(Ag)、ニッケル(Ni)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、パラジウム(Pd)、モリブデン(Mo)、チタン(Ti)及びクロム(Cr)の中の少なくとも1つにより形成される膜により構成される金属膜を用いてもよい。
また、この第2の実施の形態にかかる投影露光装置においては、タンタル(Ta)により形成される膜により構成される密着力強化膜を用いたが、タンタル(Ta)及びクロム(Cr)の少なくとも1つにより形成される膜により構成される密着力強化膜を用いてもよい。
また、この第2の実施の形態にかかる投影露光装置においては、二酸化珪素(SiO2)により形成される膜により構成される金属製溶解防止膜保護膜(溶解防止膜保護膜)を用いたが、二酸化珪素(SiO2)、酸化イットリウム(Y2O3)、フッ化ネオジム(Nd2F3)、酸化クロム(Cr2O3)、五酸化タンタル(Ta2O5)、五酸化ニオブ(Nb2O5)、二酸化チタン(TiO2)、二酸化ジルコニウム(ZrO2)、二酸化ハフニウム(HfO2)及び酸化ランタン(La2O3)の中の少なくとも1つにより形成される膜により構成される金属製溶解防止膜保護膜(溶解防止膜保護膜)を用いてもよい。また、この第2の実施の形態にかかる投影露光装置においては、金属製溶解防止膜保護膜(溶解防止膜保護膜)である二酸化珪素(SiO2)膜をスパッタリング法の乾式成膜法により成膜しているが、湿式成膜法により成膜してもよい。
また、この第2の実施の形態にかかる透過光学素子のテーパー面においては、密着力強化膜、金属製溶解防止膜(溶解防止膜)、金属製溶解防止膜保護膜(溶解防止膜保護膜)が成膜されているが、金属製溶解防止膜(溶解防止膜)のみを成膜してもよい。また、密着力強化膜と金属製溶解防止膜(溶解防止膜)とを成膜してもよく、金属製溶解防止膜(溶解防止膜)と金属製溶解防止膜保護膜(溶解防止膜保護膜)とを成膜してもよい。
また、この第2の実施の形態にかかる投影露光装置においては、最もウエハW側の透過光学素子32が蛍石により形成されており、そのテーパー面に密着力強化膜、金属製溶解防止膜(溶解防止膜)、金属製溶解防止膜保護膜(溶解防止膜保護膜)が成膜されているが、最もウエハW側の透過光学素子4を石英ガラスにより形成し、そのテーパー面に密着力強化膜、金属製溶解防止膜(溶解防止膜)、金属製溶解防止膜保護膜(溶解防止膜保護膜)を成膜してもよい。
また、第2の実施の形態においては、ノズルの数や形状は特に限定されるものでなく、例えば先端部32Aの長辺について2対のノズルで液体7の供給又は回収を行うようにしてもよい。なお、この場合には、+X方向、又は−X方向のどちらの方向からも液体7の供給及び回収を行うことができるようにするため、排出ノズルと流入ノズルとを上下に並べて配置してもよい。
また、露光光としてF2レーザ光を用いる場合は、液体としてはF2レーザ光が透過可能な例えばフッ素系オイルや過フッ化ポリエーテル(PFPE)等のフッ素系の液体を用いればよい。
なお、上述の各実施の形態においては、投影光学系のウエハ側の透過光学素子のテーパー面に金属製溶解防止膜(溶解防止膜)を成膜したが、投影光学系のウエハ側の透過光学 素子のテーパー面以外の表面に金属製溶解防止膜(溶解防止膜)を成膜してもよい。
また、上述の各実施の形態においては、投影光学系のウエハ側の透過光学素子のテーパー面に金(Au)、即ち金属により形成される膜により構成される金属製溶解防止膜を成膜したが、水への溶解度が2ppt以下である物質または充填密度が95%以上である物質により形成される膜により構成される溶解防止膜を成膜してもよい。
また、上述の各実施の形態においては、スパッタリング法により密着力強化膜、金属製溶解防止膜(溶解防止膜)、金属製溶解防止膜保護膜(溶解防止膜保護膜)を成膜したが、これに代えて真空蒸着法またはCVD法により成膜してもよい。
また、上述の各実施の形態においては、透過光学素子のウエハ側の先端部にフッ化マグネシウム(MgF2)膜を成膜したが、これに代えてフッ化ランタン(LaF3)、フッ化ストロンチウム(SrF2)、フッ化イットリウム(YF3)、フッ化ルテニウム(LuF3)、フッ化ハフニウム(HfF4)、フッ化ネオジム(NdF3)、フッ化ガドリニウム(GdF3)、フッ化イッテリビウム(YbF3)、フッ化ディスプロシウム(DyF3)、フッ化アルミニウム(AlF3)、クリオライト(Na3AlF6)、チオライト(5NaF・3AlF3)、酸化アルミニウム(Al2O3)、二酸化珪素(SiO2)、二酸化チタン(TiO2)、酸化マグネシウム(MgO)、二酸化ハフニウム(HfO2)、酸化クロム(Cr2O3)、二酸化ジルコニウム(ZrO2)、五酸化タンタル(Ta2O5)及び五酸化ニオブ(Nb2O5)の中の少なくとも1つにより構成されるフッ化物膜または酸化物膜を成膜してもよい。
また、上述の各実施の形態においては、真空蒸着法によりフッ化マグネシウム(MgF2)膜を透過光学素子のウエハ側の先端部に成膜したが、これに代えてイオンビームアシスト蒸着法、ガスクラスターイオンビームアシスト蒸着法、イオンプレーティング法、イオンビームスパッタリング法、マグネトロンスパッタリング法、バイアススパッタリング法、ECRスパッタリング法、RFスパッタリング法、熱CVD法、プラズマCVD法及び光CVD法の中の少なくとも1つの成膜方法により成膜してもよい。
なお、透過光学素子のウエハ側の先端部にフッ化物膜を成膜する場合には、最適な成膜方法として真空蒸着法、イオンビームアシスト蒸着法、ガスクラスターイオンビームアシスト蒸着法、イオンプレーティング法が挙げられる。しかしながら、フッ化マグネシウム(MgF2)及びフッ化イットリウム(YF3)については、スパッタリング法により成膜してもよい。また、透過光学素子のウエハ側の先端部に酸化物膜を成膜する場合には、上述の全ての成膜方法を用いることができる。
また、透過光学素子のウエハ側の先端部に成膜されるフッ化物膜または酸化物膜、特にフッ化ランタン(LaF3)は、結晶方位が(111)面である蛍石を光学素子の基材とした場合、その成膜面に成膜されることによりヘテロエピタキシャル成長する。この場合において、成膜された溶解防止膜は、非常に緻密となり、かつ非常に欠陥の少ない結晶構造となる。
次に、図面を参照して、本発明の第3の実施の形態にかかる露光装置について説明する。本実施の形態にかかる露光装置は、露光波長を実質的に短くして解像度を向上するとともに焦点深度を実質的に広くするために液浸法を適用した液浸露光装置である。図9は、本実施の形態にかかる露光装置の投影光学系PLを構成する複数の蛍石により形成された光学素子のうち、投影光学系PLの像面に最も近い第1光学素子LS1、第1光学素子LS1に次いで投影光学系PLの像面に近い第2光学素子LS2などを示す図である。
この露光装置は、投影光学系PLを構成する複数の光学素子のうち、投影光学系PLの像面に最も近い第1光学素子LS1の下面T1と基板Pとの間を第1液体LQ1で満たすための第1の液浸機構を備えている。基板Pは投影光学系PLの像面側に設けられており、第1光学素子LS1の下面T1は基板Pの表面と対向するように配置されている。第1の液浸機構は、第1光学素子LS1の下面T1と基板Pとの間に第1液体LQ1を供給する第1液体供給機構90と、第1液体供給機構90で供給された第1液体LQ1を回収する第1液体回収機構91とを備えている。
また、この露光装置は、第1光学素子LS1と、第1光学素子LS1に次いで投影光学系PLの像面に近い第2光学素子LS2との間を第2液体LQ2で満たすための第2の液浸機構を備えている。第2光学素子LS2は第1光学素子LS1の上方に配置されており、第1光学素子LS1の上面T2は、第2光学素子LS2の下面T3と対向するように配置されている。第2の液浸機構は、第1光学素子LS1と第2光学素子LS2との間に第2液体LQ2を供給する第2液体供給機構92と、第2液体供給機構92で供給された第2液体LQ2を回収する第2液体回収機構93とを備えている。
鏡筒PKには第1光学素子LS1の上面T2の周縁領域と対向する対向面89が設けられている。そして、上面T2の周縁領域と対向面89との間には第1シール部材94が設けられている。第1シール部材94は例えばOリング(例えば、デュポンダウ社製「カルレッツ」)あるいはCリングにより構成されている。第1シール部材94により、上面T2上に配置された第2液体LQ2の上面T2の外側への漏出、ひいては鏡筒PKの外側への漏出が防止されている。また、第2光学素子LS2の側面C2と鏡筒PKの内側面PKCとの間には第2シール部材95が設けられている。第2シール部材95は例えばVリングにより構成されている。第2シール部材95により、鏡筒PKの内側において、第2流体LQ2、第2流体LQ2により発生した湿った気体などが第2光学素子LS2の上方へ流通するのを規制する。
また、第1光学素子LS1の側面C1と鏡筒PKの内側面PKCとの間には第3シール部材96が設けられている。第3シール部材96は例えばVリングにより構成されている。第3シール部材96により、鏡筒PKの内側において、第1流体LQ1、第1流体LQ1により発生した湿った気体などが第1光学素子LS1の上方へ流通するのを規制する。
第1光学素子LS1の側面(テーパー面)C1及び第2光学素子LS2の側面(テーパー面)C2には、150nmの膜厚で金(Au)を成膜した遮光膜が形成されている。従って、遮光膜により投影光学系の基板側の透過光学素子のテーパー面の周辺部に設けられた第1シール部材94、第2シール部材95及び第3シール部材96に露光光及びウエハからの露光光反射光が照射されるのを防止することができ、シール部材の劣化を防止することができる。
なお、上述の第3の実施の形態においては、第1光学素子LS1の側面(テーパー面)C1及び第2光学素子LS2の側面(テーパー面)C2に、金(Au)を用いた金属膜による遮光膜が形成されているが、金属膜による遮光膜は、金(Au)、白金(Pt)、銀(Ag)、ニッケル(Ni)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、パラジウム(Pd)、モリブデン(Mo)、チタン(Ti)及びクロム(Cr)の中の少なくとも1つにより形成される膜により構成しても良い。また、遮光膜を金属酸化物膜により構成しても良い。この場合には、金属酸化物膜が二酸化ジルコニウム(ZrO2)、二酸化ハフニウム(HfO2)、二酸化チタン(TiO2)、五酸化タンタル(Ta2O5)、酸化珪素(SiO)及び酸化クロム(Cr2O3)の中の少なくとも1つにより形成される膜により構成される。
また、上述の各実施の形態においては、ウエハの表面と投影光学系のウエハ側の蛍石により形成された透過光学素子との間を液体により満たしているが、ウエハの表面と投影光学系のウエハ側の蛍石により形成された透過光学素子との間の一部に液体を介在させるようにしてもよい。
また、上述の各実施の形態においては、液体7として純水を使用したが、液体としては、純水に限らず、露光光に対する透過性があってできるだけ屈折率が高く、投影光学系やウエハ表面に塗布されているフォトレジストに対して安定なもの(例えばセダー油等)を使用することもできる。
また、上述の各実施の形態においては、投影光学系PLとウエハ(基板)Wとの間を局所的に液体で満たす露光装置を採用しているが、特開平6−124873号公報に開示されているような露光対象の基板を保持したステージを液槽の中で移動させる液浸露光装置や、特開平10−303114号公報に開示されているようなステージ上に所定深さの液体槽を形成し、その中に基板を保持する液浸露光装置にも本発明を適用可能である。
また、本発明は、特開平10−163099号公報、特開平10−214783号公報、特表2000−505958号公報等に開示されているように、ウエハ等の被処理基板を別々に載置してXY方向に独立に移動可能な2つのステージを備えたツインステージ型の露光装置にも適用できる。
図10は、実施例1にかかる透過光学素子50の構成を示す図である。図10に示すように、蛍石52の基板上に、スパッタリング法を用いて、タンタル(Ta)を10nm成膜し、密着力強化膜53を形成する。密着力強化膜53は、蛍石52と密着力強化膜53の表面に成膜される金属膜54の密着力を向上させるために機能する。また、密着力を強化するために必要な膜厚は10nm以上であるが、3〜5nmの膜厚においても密着力としての効果を得ることができる。
次に、密着力強化膜53の表面に、スパッタリング法を用いて、水に対する溶解を防止するための溶解保護膜として金(Au)により構成される金属膜54を200nm成膜する。
ここで、金属膜54の密度はX線回折の臨界角より求めることができ、スパッタリング法により成膜した場合、金属膜54の充填密度は97%以上である。また、金属膜54の水への溶解度は、スパッタリング法により成膜した場合、1ppt以下である。
次に、200℃に加熱した蛍石52の基板上の金属膜54の表面に、スパッタリング法を用いて、金属膜54の機械的強度を向上させるための溶解防止膜保護膜として二酸化珪素(SiO2)膜55を50nm成膜する。ここで、蛍石52の基板を200℃程度に加熱する加熱成膜は、非加熱成膜と比較して機械的強度がより強い膜を形成することができる。なお、二酸化珪素(SiO2)膜55を成膜する場合の加熱は、熱膨張率が大きい蛍石基板の熱衝撃による破損や面形状変化を防止するために、蛍石基板全体が均一に加熱する。また、蛍石基板を加熱または冷却させる場合、50℃/時間以下の速度で加熱または冷却を行う必要がある。また、二酸化珪素(SiO2)膜55には、水クラスターが透過可能な微小欠陥が存在するが、金属膜54が水に不溶であるため蛍石52の基板に水が侵入することはない。
透過光学素子50を用いて実験を行った。図11は、この実施例にかかる試験器80の構成を示す図である。図11に示すように試験器80は、サンプルホルダ81、循環ポンプ82、重水供給装置83、バッファータンク84により構成されている。サンプルホルダ81は、その一面が解放されており、その解放面にOリング85を備えている。サンプルホルダ81の解放面に透過光学素子50の密着力強化膜53,金属膜54,二酸化珪素(SiO2)膜55が成膜されている面がOリング85によってシールされている。循環ポンプ82により重水供給装置83から供給される重水をバッファータンク84を介してサンプルホルダ81内部に流す。ここで、バッファータンク84は、循環ポンプ82の振動がサンプルホルダ81に伝わらないようにするために設置されている。また、純水(H2O)ではなく重水(D2O)を流すことにより、耐水性試験後に透過光学素子50の表面からの深さ方向に対して重水が浸透する量を計測することができる。
試験器80にて透過光学素子50上での重水の移動速度が50cm/秒となるように設定し、30日間の耐水試験を行った。その結果、透過光学素子50の表面に成膜されている膜は剥離することなく、透過光学素子50の外観に変化は見られなかった。また、二次イオン質量分析法(SIMS)にて透過光学素子50の表面からの深さ方向に対しての重水の浸透を評価した結果、二酸化珪素(SiO2)膜55に重水は浸透していたが、金属膜54に重水は浸透していなかった。
図12は、実施例2にかかる透過光学素子58の構成を示す図である。図12に示すように、蛍石59の基板上に、スパッタリング法を用いて、水に対する溶解を防止するための溶解保護膜として金(Au)により構成される金属膜60を200nm成膜する。ここで、金属膜60の密度はX線回折の臨界角より求めることができ、スパッタリング法により成膜した場合、金属膜60の充填密度は97%以上である。また、金属膜60の水への溶解度は、スパッタリング法により成膜した場合、1ppt以下である。
次に、200℃に加熱した蛍石59の基板上の金属膜60の表面に、スパッタリング法を用いて、金属膜60の機械的強度を向上させるための溶解防止膜保護膜として二酸化珪素(SiO2)膜61を50nm成膜する。ここで、蛍石59の基板を200℃程度に加熱する加熱成膜は、非加熱成膜と比較して機械的強度がより強い膜を形成することができる。なお、二酸化珪素(SiO2)膜61を成膜する場合の加熱は、熱膨張率が大きい蛍石基板の熱衝撃による破損や面形状変化を防止するために、蛍石基板全体が均一に加熱する。また、蛍石基板を加熱または冷却させる場合、50℃/時間以下の速度で加熱または冷却を行う必要がある。また、二酸化珪素(SiO2)膜61には、水クラスターが透過可能な微小欠陥が存在するが、金属膜60が水に不溶であるため蛍石59の基板に水が侵入することはない。
透過光学素子58を用いて実験を行った。実施例1と同様に、図11に示す試験器80にて透過光学素子58上での重水の移動速度が50cm/秒となるように設定し、30日間の耐水試験を行った。その結果、透過光学素子58の表面に成膜されている膜は剥離することなく、透過光学素子58の外観に変化は見られなかった。また、二次イオン質量分析法(SIMS)にて透過光学素子58の表面からの深さ方向に対しての重水の浸透を評価した結果、二酸化珪素(SiO2)膜61に重水は浸透していたが、金属膜60に重水は浸透していなかった。
図13は、実施例3にかかる透過光学素子65の構成を示す図である。図13に示すように、蛍石66の基板上に、スパッタリング法を用いて、タンタル(Ta)を10nm成膜し、密着力強化膜67を形成する。密着力強化膜67は、蛍石66と密着力強化膜67の表面に成膜される金属膜68の密着力を向上させるために機能する。また、密着力を強化するために必要な膜厚は10nm以上であるが、3〜5nmの膜厚においても密着力としての効果を得ることができる。
次に、密着力強化膜67の表面に、スパッタリング法を用いて、水に対する溶解を防止するための溶解保護膜として金(Au)により構成される金属膜68を200nm成膜する。
ここで、金属膜67の密度はX線回折の臨界角より求めることができ、スパッタリング法により成膜した場合、金属膜67の充填密度は97%以上である。また、金属膜67の水への溶解度は、スパッタリング法により成膜した場合、1ppt以下である。
透過光学素子65を用いて実験を行った。実施例1と同様に、図11に示す試験器80にて透過光学素子65上での重水の移動速度が50cm/秒となるように設定し、30日間の耐水試験を行った。その結果、透過光学素子65の表面に成膜されている膜は剥離することなく、透過光学素子65の外観に変化は見られなかった。また、二次イオン質量分析法(SIMS)にて透過光学素子65の表面からの深さ方向に対しての重水の浸透を評価した結果、重水は浸透していなかった。
なお、上述の各実施例においては、成膜方法としてスパッタリング法を用いたが、真空蒸着法またはCVD法を用いて密着力強化膜、金属膜、溶解防止膜保護膜を成膜してもよい。
比較例
図14は、比較例にかかる透過光学素子70の構成を示す図である。図14に示すように、蛍石71の基板上に、200℃に加熱した蛍石71の基板上に、スパッタリング法を用いて、二酸化珪素(SiO2)膜72を200nm成膜する。なお、二酸化珪素(SiO2)膜72を成膜する場合の加熱は、熱膨張率が大きい蛍石基板の熱衝撃による破損や面形状変化を防止するために、蛍石基板全体が均一に加熱する。また、蛍石基板を加熱または冷却させる場合、50℃/時間以下の速度で加熱または冷却を行う必要がある。
透過光学素子70を用いて実験を行った。実施例1と同様に、図11に示す試験器80にて透過光学素子70上での重水の移動速度が50cm/秒となるように設定し、30日間の耐水試験を行った。その結果、二酸化珪素(SiO2)膜72には水クラスターが透過可能な微小欠陥が存在するため、透過光学素子70の表面に成膜されている膜の内部を重水が通過し、通過した重水が蛍石71の表面をエッチングしたため大量のエッチピットが発生した。
実施例1〜実施例3にかかる透過光学素子によれば、比較例にかかる透過光学素子と比較した場合において、その光学特性を変化させることなく重水の浸透及び侵食を防止することができる。
次に、上述の第3の実施の形態における遮光膜の性能評価試験及び試験結果について説明する。まず、石英ガラス基板上に金を膜厚150nm成膜した光学素子A、石英ガラスそのものの光学素子Bを準備した。次に、光学素子A及び光学素子BのArF波長での透過率を測定した。
光学素子Aの測定結果は0.0%(5回測定した平均値)
光学素子Bの測定結果は90.8%(5回測定した平均値)
金の膜を成膜したことによって完全に遮光を行うことができた。従って、光学素子のテーパー面に遮光膜を成膜することによりシール部材の劣化を防止することができる