JP4809660B2 - 3−キヌクリジノン還元酵素およびこれを用いる(r)−3−キヌクリジノールの製造方法 - Google Patents
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Description
(1)還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADPH)を補酵素として、3−キヌクリジノンまたはその塩を不斉還元し、(R)−3−キヌクリジノールを生成する;および
(2)ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP+)を補酵素とする3−キヌクリジノールの酸化反応を触媒しない。以下、この酵素を、「3−キヌクリジノン不斉還元酵素」という場合がある。
本発明は、3−キヌクリジノン不斉還元酵素を提供する。この酵素は、還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADPH)を補酵素として、3−キヌクリジノンまたはその塩を不斉還元し、(R)−3−キヌクリジノールを生成する能力を有する。この酵素は、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP+)を補酵素とする3−キヌクリジノールの酸化反応を触媒しない。これらの活性を、以下の説明において、「3−キヌクリジノン不斉還元酵素活性」という。なお、この酵素は、還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)を補酵素として利用できない。
上記3−キヌクリジノン不斉還元酵素をコードするポリヌクレオチドもまた、本発明に含まれる。本発明のポリヌクレオチドは、DNA、RNAなどの天然のポリヌクレオチドに加え、人工的なヌクレオチド誘導体を含む人工的な分子であり得る。また本発明のポリヌクレオチドは、DNA−RNAのキメラ分子であり得る。本発明の3−キヌクリジノン不斉還元酵素をコードするポリヌクレオチドは、例えば、配列番号40に記載の塩基配列を含む。配列番号40に記載の塩基配列は、配列番号41に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードしており、このアミノ酸配列を含むタンパク質は、本発明による3−キヌクリジノン不斉還元酵素の好ましい形態を構成する。
本発明のベクターは、上記ポリヌクレオチドを含む。本発明の形質転換体は、本発明のベクターを発現可能に保持する。
上記3−キヌクリジノン不斉還元酵素または上記形質転換体、その培養液もしくは処理物を3−キヌクリジノンまたはその塩に作用させることにより、(R)−3−キヌクリジノールまたはその塩が効率よく生成される。「3−キヌクリジノンまたはその塩」とは、その窒素原子において有機酸、鉱酸などの塩を形成させたものもまた、上記3−キヌクリジノン不斉還元酵素による3−キヌクリジノンの不斉還元において使用できることを意図する。具体的には、鉱酸塩としては、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩などが挙げられる。有機酸塩としては、酢酸塩、プロピオン酸塩、酪酸塩、フマル酸、マロン酸、シュウ酸などの脂肪族有機酸塩、安息香酸などの芳香族有機酸塩などが挙げられる。以下の説明においては、「3−キヌクリジノン」とのみ表記しているが、上記のような3−キヌクリジノンの塩もまた使用可能である。
以下の方法に従って、ロドトルラ・ルブラ(Rhodotolura rubra)JCM3782株より、3−キヌクリジノン不斉還元酵素を、電気泳動的に単一に精製した。
YM培地(グルコース1%、ペプトン0.5%、酵母エキス0.3%、麦芽エキス0.3%、pH5.5)8,400mlを調製し、3L容三角フラスコに600mlずつ分注して、121℃で20分間蒸気殺菌を行った。予め同培地中で前培養しておいたロドトルラ・ルブラ(Rhodotolura rubra)JCM3782株の培養液を3mlずつ接種し、28℃で3日間振盪培養した。この培養液から遠心分離(8,600×g、10分間、4℃)により菌体を集め、脱塩水にて1回洗浄した。このようにして得られた湿菌体460gは、使用直前まで−20℃で凍結保存した。
湿菌体213gを室温で融解し、220mlの1mM DTTおよびプロテアーゼ阻害剤混合錠剤(Roche製)を溶解させた20mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)に懸濁した。次いで、この菌体をミニモーターミル(アイガージャパン製)で破砕した。この菌体破砕物から遠心分離(11,000×g、10分間、4℃)にて菌体残渣を取り除き、無細胞抽出液250mlを得た。
無細胞抽出液に35%飽和となるように硫酸アンモニウムを添加し、溶解させた。次いで生じた沈殿を遠心分離(12,400×g、30分間、4℃)により除去し、270mlの35%飽和溶液を得た。この溶液に60%飽和となるようにさらに硫酸アンモニウムを添加して、4℃で一夜放置した。次いで、遠心分離(12,400×g、30分間、4℃)により塩析物を集めた。得られた塩析物を300mlの100mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)に溶解し、超遠心分離(100,000×g、60分間、4℃)により沈殿物を除去し、清澄な粗酵素液を得た。
得られた粗酵素液に100mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)を添加して、硫酸アンモニウム濃度が30%飽和になるように調整し、550mlの粗酵素液を得た。これを、30%飽和硫酸アンモニウムを含む100mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)で予め平衡化したButyl-Toyopearl(東ソー製)カラム100mlに添加し、同緩衝液で洗浄し、次いで硫酸アンモニウム(35%飽和から0%飽和まで)のリニアグラジエントにより、活性画分を溶出させた。
得られた活性画分(48ml)を集め、限外濾過による脱塩濃縮および20mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)への置換を行い、同緩衝液で平衡化したRed-Toyopearl(東ソー製)カラム20mlに添加した。同緩衝液でカラムを洗浄した後、塩化カリウム(0Mから0.5Mまで)のリニアグラジエントにより、活性画分を溶出させた。
得られた活性画分(81ml)を集め、限外濾過による脱塩濃縮を行い、予め20mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)で平衡化したBlue-Toyopearl(東ソー製)カラム25mlに添加した。同緩衝液でカラムを洗浄した後、塩化カリウム(0Mから0.5Mまで)のリニアグラジエントにより、活性画分を溶出させた。各活性画分をSDS−PAGEにより解析した結果、1画分を除いた残り6画分において単一バンドであることが確認できた。これら6画分を集め、精製酵素標品を得た。
実施例1において得られた精製酵素標品の酵素学的性質について検討した。
実施例1で得られた精製3−キヌクリジノン不斉還元酵素を8M尿素存在下で変性させた後、アクロモバクター由来のリジルエンドペプチダーゼ(和光純薬製)で消化し、得られた消化物をSmartシステム(アマシャムバイオサイエンス製)によって分離した。分取したペプチドピーク4種をペプチドK14、ペプチドK20、ペプチドK24、ペプチドK30とし、それぞれプロテインシーケンサー(Applied Biosystems製、model 476A)によりアミノ酸配列の解析を行った。ペプチドK14、ペプチドK20、ペプチドK24、およびペプチドK30のアミノ酸配列はそれぞれ、配列表中の配列番号1、配列番号2、配列番号3、および配列番号4に示したとおりであった。
ロドトルラ・ルブラ(Rhodotolura rubra)JCM3782株をYM培地で培養し、菌体を調製した。菌体からの染色体DNAの精製は、Appl. Microbiool. Biotechnol., 2000年, 53巻, pp.415-419に記載の方法により行った。3−キヌクリジノン不斉還元酵素の内部ペプチド断片K14およびK30のアミノ酸配列に基づいて、PCR用の縮重オリゴヌクレオチドプライマーQR1(配列番号5)、QR2(配列番号6)、QR3(配列番号7)およびQR4(配列番号8)を設計した。QR1およびQR2は上流のプライマーとして、QR3およびQR4は下流のプライマーとして作製した。QR2およびQR3はそれぞれ、QR1およびQR4の内側のアミノ酸配列に基づいて設計し、QR1およびQR4で増幅したDNA断片の内側を増幅するように設計した。ここで、配列表中のRはAまたはG、Nは任意、HはG以外、YはCまたはTをそれぞれ表す。PCRの反応液組成は、次の通りである:鋳型DNA、10×Ex Taq Buffer10μl、プライマー(QR1またはQR2、各100μM)1μl、プライマー(QR4またはQR3、各100μM)1μl、dNTP混合物(各2.5mM)8μl、およびEX Taq0.5μlであり、蒸留水を100μlになるように添加した。PCR反応条件は、次の通りであった:ステップ1:94℃、10分;ステップ2:94℃、30秒;ステップ3:65℃、30秒;ステップ4:72℃、1分;ステップ5:94℃、30秒;ステップ6:65℃、30秒;ステップ7:72℃、1分;ステップ8:4℃、∞。1サイクル毎にアニーリング温度(ステップ3)を1℃ずつ下げて、ステップ2からステップ4を20サイクル繰り返す。ステップ5からステップ7を20サイクル繰り返した。
ロドトルラ・ルブラ(Rhodotolura rubra)JCM3782株の3−キヌクリジノン不斉還元酵素をコードするゲノム領域には、イントロンが複数存在することが示唆された。3−キヌクリジノン不斉還元酵素のコード領域を明らかにするために、以下に示す方法により、3−キヌクリジノン不斉還元酵素のcDNAをクローニングした。
ロドトルラ・ルブラ(Rhodotolura rubra)JCM3782株をYM培地で培養し、得られた菌体を使用直前まで−80℃で凍結保存し、以下の手順で総RNAを調製した。凍結菌体約0.1gに0.5gのガラスビーズ(粒径0.5mm)、1mlのSepasol RNA I試薬(ナカライテスク製)を加え、ミニビードビーター(Biospec製)で破砕した。この溶液に200μlのクロロホルムを加えて撹拌後、遠心分離(16,500×g、15分間、4℃)した。上層の水層を分取して500μlのイソプロパノールを加え、室温で10分静置した。遠心分離(16,500×g、10分間、4℃)した後、上清を除き、1mlの75%エタノールを加えて、再度遠心分離(16,500×g、5分間、4℃)した。沈殿物を風乾してエタノールを完全に除去した後、100μlのRNase非含有水を加え、60℃で10分間インキュベートして総RNAを溶解した。総RNAからFast Track 2.0 kit(Invitrogen製)を用いてmRNAの精製を行った。
3−キヌクリジノン不斉還元酵素のC末端側アミノ酸配列をコードする塩基配列を3’-RACE法によって解析した。総RNAを鋳型として、3’-Full RACE Core Set(タカラバイオ製)を用いて、3’-RACE用の一本鎖cDNAを合成した。実施例4で得られた3−キヌクリジノン不斉還元酵素をコードするDNA断片の塩基配列から、イントロン配列を含まない領域のDNA配列に基づいて、プライマーrace-for1(配列番号9)およびプライマーrace-for2(配列番号10)を設計した。これらのプライマーと3’-Full RACE Core Setに含まれる3sites Adaptor Primerとを用いて、PCRを行った。Nested-PCRによって約500bpの特異的な増幅産物が得られたので、これをpCR4-TOPOベクターにサブクローニングし、塩基配列を決定した。
3−キヌクリジノン不斉還元酵素のN末端側アミノ酸配列をコードする塩基配列を5’-RACE法によって解析した。mRNAを鋳型として、Gene Racer Kit(Invitrogen製)を用いて、5’-RACE用の一本鎖cDNAを合成した。実施例4で得られたDNA断片の塩基配列から、イントロン配列を含まない領域のDNA配列に基づいて、プライマー5race−primer1(配列番号11)およびプライマー5race−primer2(配列番号12)を設計した。これらのプライマーとGene Racer Kitに含まれるGeneRacer 5’PrimerおよびGeneRacer 5’Nested Primerとを用いて、PCRを行った。Nested-PCRによって約350bpの特異的な増幅産物が得られたので、pCR4-TOPOベクターにサブクローニングし、塩基配列を決定した。
5’-RACEおよび3’-RACEで得られた塩基配列に基づいて、開始コドンあるいは終止コドンを含むプライマーQR-forward-Eco(配列番号13)およびプライマーQR-reverse-Pst(配列番号14)を設計した。総RNAを鋳型として、First-strand cDNA Synthesis Kit(タカラバイオ製)を用いて一本鎖cDNAを合成し、この一本鎖cDNAを鋳型としてPCRを行った。このPCRにより約820bpの特異的な増幅産物が得られた。この増幅された断片をEcoRIおよびPstIで二重消化し、プラスミドpKK223-3(アマシャムバイオサイエンス製)中のtacプロモーターの下流に位置するEcoRI−PstI部位に挿入して、組換えプラスミドpKQを得た。プラスミドpKK223-3上の配列をプライマーにして挿入断片の塩基配列を決定した。得られた3−キヌクリジノン不斉還元酵素をコードするcDNAの配列を図2(配列番号40)に、そして該遺伝子がコードする推定アミノ酸配列を図3(配列番号41)に示す。この推定アミノ酸配列を、実施例3で得られたアミノ酸配列解析の結果と比較した。その結果、実施例1で精製した天然の3−キヌクリジノン不斉還元酵素の内部アミノ酸配列(実施例3に示される)が4つとも、cDNAの塩基配列から推定されるアミノ酸配列中に存在し、完全に一致した。
補酵素NADP+の再生用としてバチルス・メガテリウム(Bacillus megaterium)IAM1030株由来のグルコース脱水素酵素(以下、「GDHI」ともいう)を用いた。データベースに登録されているGDHI酵素(UniProtKB/Swiss-Prot Accession No. P39482)に対応するDNA配列(DDBJ Accession No. D90043)に基づいて、PCR用にプライマーfwd-gdh-eco(配列番号15)およびプライマーrvs-gdh-pst(配列番号16)を設計した。QIAGEN Genomic-tipおよびGenomic DNA Buffer Set(共にQiagen製)を用いて調製したバチルス・メガテリウム(Bacillus megaterium)IAM1030株の染色体DNAを鋳型として、上記の設計した2つのプライマーを用いて、GDHI酵素遺伝子を増幅した。得られたDNA断片をEcoRIおよびPstIで消化し、プラスミドpKK223-3中のtacプロモーターの下流に位置するEcoRI−PstI部位に挿入して、組換えプラスミドpKGを構築した。プラスミドpKK223-3上の配列をプライマーにして挿入断片の塩基配列を解析した結果、データベースに登録されているバチルス・メガテリウム(Bacillus megaterium)IAM1030株のグルコース脱水素酵素遺伝子(GDHI)遺伝子と完全に一致した。
市販の2遺伝子同時発現用プラスミドpETDuet-1(Novagen製)を用いて、3−キヌクリジノン不斉還元酵素およびグルコース脱水素酵素の同時発現用プラスミドのpEQGおよびpEGQを構築し、これらのプラスミドで大腸菌BL21(DE3)株を形質転換した。プラスミドpEQGおよびpEGQは、以下の方法により作製した。当業者が通常用いる方法に従って大腸菌コンピテントセルを作製し、42℃にて30秒から1分間のヒートショック法を用いて、これらのプラスミドで形質転換した(以下の実施例も同様である)。
実施例5(d)で構築したプラスミドpKQを鋳型として、プライマーQR-forward-Bsa(配列番号17)および上記のプライマーQR-reverse-Pstを用いて、3−キヌクリジノン不斉還元酵素構造遺伝子を増幅した。得られた増幅断片をBsaIおよびPstIで二重消化し、プラスミドpETduet-1中の上流側のT7プロモーター1の下流に位置するNcoI−PstI部位に挿入し、プラスミドpEQを構築した。続いて、実施例6で構築したプラスミドpKGを鋳型として、プライマーGDH-forward-Nde(配列番号18)およびプライマーGDH-reverse-Xho(配列番号19)を用いて、GDHI構造遺伝子を増幅した。得られた増幅断片をNdeIおよびXhoIで二重消化し、プラスミドpEQのT7プロモーター2の下流に位置するNdeI−XhoI部位に挿入し、プラスミドpEQGを構築した。
実施例6で構築したプラスミドpKGを鋳型として、プライマーGDH-forward-Bsa(配列番号20)およびプライマーGDH-reverse-Pst(配列番号21)を用いて、GDHI構造遺伝子を増幅した。得られた増幅断片をBsaIおよびPstIで二重消化し、プラスミドpETduet-1中の上流側のT7プロモーター1の下流に位置するNcoI−PstI部位に挿入し、プラスミドpEGを構築した。続いて、実施例5(d)で構築したプラスミドpKQを鋳型として、プライマーQR-forward-Nde(配列番号22)およびプライマーQR-reverse-Xho(配列番号23)を用いて、3−キヌクリジノン不斉還元酵素構造遺伝子を増幅した。得られた増幅断片をNdeIおよびXhoIで二重消化し、プラスミドpEG中の下流側のT7プロモーター2の下流に位置するNdeI−XhoI部位に挿入し、プラスミドpEGQを構築した。
光学活性な1,3−ブタンジオールの工業生産では、市販の高発現用プラスミドpSE420(trcプロモーターにg10エンハンサーおよびミニシストロン配列を付加して転写量を増強させているものである。また、trcプロモーターの上流にlacIq遺伝子を含む;Invitrogen製)を利用して、種々の還元酵素遺伝子とGDH遺伝子とを同時発現する組換え大腸菌を作製している(Asymmetric Catalysis on Industrial Scale、2004年, pp.217−231)。また、同様のシステムを用いて、別の還元酵素遺伝子をGDH遺伝子と同時発現させて、(S)−4−クロロ−3−ヒドロキシ酪酸エステルの生産(Biosci. Biotechnol. Biochem., 2004年, 68巻, pp.638-649)あるいは(R)−3−キヌクリジノールの生産(特許文献15)が可能となっている。これらの事例を参考にして、3−キヌクリジノン不斉還元酵素遺伝子とグルコース脱水素酵素遺伝子とを同時発現させるためのプラスミドpTrcQG、pTrcQsdG、およびpTrcGsdQを作製し、これらのプラスミドで大腸菌HB101株、W3110株、およびBL21株を形質転換した。共発現プラスミドの構築には、プラスミドpTrcHis(Invitrogen製)を使用した。このpTrcHisは、NcoI−HindIII部位(遺伝子を挿入するためのマルチクローニング部位を含む領域)を除いた部分ではpSE420と完全に一致し、trcプロモーター、g10エンハンサー、およびミニシストロンを含む。プラスミドpTrcQG、pTrcQsdG、およびpTrcGsdQの構築は、以下のようにして実施した。
実施例5(d)で構築したプラスミドpKQを鋳型として、上記QR-forward-Bsaプライマーおよび上記QR-reverse-Pstプライマーを用いて、3−キヌクリジノン不斉還元酵素構造遺伝子を増幅した。得られた増幅断片をBsaIおよびPstIで二重消化し、プラスミドpTrcHis中のtrcプロモーター、g10エンハンサー、およびミニシストロンの下流に位置するNcoI−PstI部位に挿入し、pTrcQを構築した。続いて、実施例6で構築したプラスミドpKGを鋳型として、上記プライマーfwd-gdh-ecoおよびプライマーGDH-reverse-Hind(配列番号24)を用いて、GDHI構造遺伝子を増幅した。得られた増幅断片をEcoRIおよびHindIIIで二重消化し、プラスミドpTrcQ中の3−キヌクリジノン不斉還元酵素遺伝子の下流に位置するEcoRI−HindIII部位に挿入し、プラスミドpTrcQGを構築した。
実施例6で構築したプラスミドpKGを鋳型として、プライマーGDH-forward-EcoW(配列番号25)および上記プライマーGDH-reverse-Hindを用いて、GDHI構造遺伝子を増幅した。得られた増幅断片をEcoRIおよびHindIIIで二重消化し、プラスミドpTrcQ中の3−キヌクリジノン不斉還元酵素遺伝子の下流に位置するEcoRI−HindIII部位に挿入し、プラスミドpTrcQsdGを構築した。
実施例6で構築したプラスミドpKGを鋳型として、上記プライマーGDH-forward-Bsaおよび上記プライマーGDH-reverse-Pstを用いて、GDHI構造遺伝子を増幅した。得られた増幅断片をBsaIおよびPstIで二重消化し、プラスミドpTrcHis中のtrcプロモーター、g10エンハンサー、およびミニシストロンの下流に位置するNcoI−PstI部位に挿入し、pTrcGを構築した。続いて、実施例5(d)で構築したプラスミドpKQを鋳型として、プライマーQR-forward-EcoW(配列番号26)およびプライマーQR-reverse-Hind(配列番号27)を用いて、3−キヌクリジノン不斉還元酵素構造遺伝子を増幅した。得られた増幅断片をEcoRIおよびHindIIIで二重消化し、プラスミドpTrcG中のGDHI遺伝子の下流に位置するEcoRI−HindIII部位に挿入し、プラスミドpTrcGsdQを構築した。
ミクロコッカス・ルテウス(Micrococcus lteus)由来の還元酵素BRDを利用した(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノールの生産(国際特許出願公開第02/010399号公報)あるいはスポロボロマイセス・サルモニカラー(Sporobolomyces salmonicolor)由来のアルデヒド還元酵素ARを利用した(R)−4−クロロ−3−ヒドロキシ酪酸エステルの生産(Appl. Microbiol. Biotechnol., 1999年, 51巻, pp.486-490)では、1つのプロモーターで2遺伝子を制御するプラスミドを用いる場合よりも、複製開始点の異なる2種類のプラスミドを用いる方が高い活性を示している。これらの事例を参考にして、3−キヌクリジノン不斉還元酵素遺伝子を発現させるためのプラスミドpWKQおよびグルコース脱水素酵素遺伝子を発現させるためのプラスミドpAGを構築し、これらの2つのプラスミドを共に用いて大腸菌JM109を形質転換し、3−キヌクリジノン不斉還元酵素遺伝子とグルコース脱水素酵素遺伝子とを同時発現する組換え大腸菌JM109(pWKQ, pAG)を得た。以下に、プラスミドpWKQおよびpAGの構築法を記載する。
実施例5(d)で構築したプラスミドpKQを鋳型として、上記QR-forward-EcoWプライマーおよび上記QR-reverse-Pstプライマーを用いて、3−キヌクリジノン不斉還元酵素構造遺伝子を増幅した。得られた増幅断片をEcoRIおよびPstIで二重消化し、pBR322の複製開始点を保有するプラスミドpKK223-3中のtacプロモーターの下流に位置するEcoRI−PstI部位に挿入し、プラスミドpWKQを構築した。
実施例6で構築したプラスミドpKGをBamHIおよびPstIで二重消化し、tacプロモーターとその下流に連結したGDHI遺伝子とを含む約1kbpの断片を、アガロースゲル電気泳動法を用いて分離・精製した。この断片をpA15の複製開始点を保有するプラスミドpACYC177(ニッポンジーン製)のBamHI−PstI部位に挿入し、プラスミドpAGを構築した。
実施例7および8のそれぞれで得られた組換え大腸菌を、50μg/mlのアンピシリンとラクトース系プロモーターの発現誘導試薬であるOvernight Expression Kit(Novagen製)とを添加した5mlの2×YT培地(ペプトン1%、酵母エキス2%、塩化ナトリウム1%、pH7.2)あるいはTB培地(ペプトン1.2%、酵母エキス2.4%、グリセロール0.04%、KH2PO40.231%、K2HPO41.254%)中で培養した。
実施例7で得られた組換え大腸菌BL21(DE3)(pEGQ)を500ml容バッフル付三角フラスコ中で滅菌した50mlのTB培地(50μg/mlのアンピシリンとOvernight Expression Kitを含む)に接種し、37℃で24時間振盪培養した。この培養液から遠心分離(8,400×g、20分間、10℃)により菌体を集めて−20℃で凍結保存した。30ml容ビーカーに、3−キヌクリジノン・塩酸塩1g、グルコース1.6g、NADP+ 3mg、および培養液3ml相当の凍結保存菌体を入れ、水道水で容量を10mlにし、25℃でスターラー攪拌しながら反応させた。なお、反応中に生成するグルコン酸を、48%水酸化カリウム溶液を用いて中和することにより、反応液のpHを7.0に保ちながら反応させた。実施例10と同様にして反応抽出液の分析を行った。図4は、組換え大腸菌BL21(DE3)(pEGQ)による3−キヌクリジノンの還元の経時変化を示すグラフである。縦軸に反応率(%)を、そして横軸に反応時間(h:時間)を示す。図4から、21時間後には、変換率14.3%で光学純度99.9%ee以上の(R)−3−キヌクリジノールが生成していたことがわかる。
大腸菌において3−キヌクリジノン不斉還元酵素遺伝子とグルコース脱水素酵素遺伝子とを同時に大量発現させるために、2遺伝子同時発現用プラスミドpKLDuet-1およびpKLDuet-2を構築した。これらのプラスミドpKLDuet-1およびpKLDuet-2は、それぞれの遺伝子を別々に制御できるように配置された2つのtacプロモーターと、lacオペロンによる発現制御をより厳密にするリプレッサーを発現するlacIq遺伝子とを含む。図5は、これらのプラスミドpKLDuet-1およびpKLDuet-2の構造を示す模式図である。以下に、プラスミドpKLDuet-1およびpKLDuet-2の構築法を説明する。
2つのtacプロモーターとマルチクローニングサイトとを含む領域を設計した。この領域の配列は、図6(配列番号42)に示す通りである。1つ目の断片である図6のNcoI−HindIII領域を合成するために、それぞれ130merのオリゴヌクレオチドtac-MCS-tacForward(配列番号28)およびtac-MCS-tacReverse(配列番号29)とプライマーtac-MCSF-Nco(配列番号30)およびtac-MCSR-Hind(配列番号31)とを用いて、PCRを行った。PCRにより得られた約230bpの増幅産物をNcoIおよびPstIで二重消化した。2つ目の断片である図6のBamHI−NcoI領域を合成するために、プラスミドpKK223-3を鋳型にして、プライマーtac-upF-Bam(配列番号32)およびプライマーtac-upR-Nco(配列番号33)を用いて、PCRを行った。PCRにより得られた約260bpの増幅断片をBamHIおよびNcoIで二重消化した。3つ目の断片として、プラスミドpKK223-3をBamHIおよびPstIで二重消化し、約4,300bpのDNA断片を生成した。上記3つのDNA断片を結合させてプラスミドpTacDuet-1を合成した。次に、プラスミドpTrcHisを鋳型にしてプライマーBsa-lacI-forward(配列番号34)およびBam-lacI-reverse(配列番号35)を用いてPCRを行った。このPCRによって、その制御プロモーターを含むlacIq遺伝子を含む領域を増幅した。得られた約1400bpの増幅断片をBsaAIおよびBamHIで二重消化した。消化により得られた断片を、プラスミドpTacDuet-1中の上流側のtacプロモーターの上流に位置するBsaAI−BamHI部位に挿入して、プラスミドpKLDuet-1を得た(図5)。
pKLDuet-1の上流側のマルチクローニングサイトと下流側のtacプロモーターとの間にターミネーターを以下のようにして挿入し、プラスミドpKLDuet-2を合成した。プラスミドpKLDuet-2は、図5に示されるように、高発現に必要なプロモーターからターミネーターまでのユニットを2つ含む。
実施例12で構築したプラスミドpKLDuet-1およびpKLDuet-2を用いて、3−キヌクリジノン不斉還元酵素遺伝子とグルコース脱水素酵素遺伝子とを同時に発現させるためのプラスミドpKL1GQおよびpKL2GQを構築した。次いで、これらのプラスミドpKL1GQおよびpKL2GQを用いて大腸菌SCS1、W3110、およびBL21を形質転換した。以下に、プラスミドpKL1GQおよびpKL2GQの構築法を記載する。
実施例7のプラスミドpEGQの構築時と同様にして増幅したGDHI遺伝子断片をBsaIおよびXhoIで二重消化した。二重消化により得られた断片を、上記プラスミドpKLDuet-1中の上流側のtacプロモーターの下流に位置するNcoI−XhoI部位に挿入し、プラスミドpKL1Gを構築した。続いて、実施例9のプラスミドpWKQの構築時と同様にして増幅した3−キヌクリジノン不斉還元酵素遺伝子断片をEcoRIおよびPstIで二重消化した。二重消化により得られた断片を、プラスミドpKL1G中の下流側のtacプロモーターの下流のEcoRI−PstI部位に挿入し、プラスミドpKL1GQを得た。
実施例9で構築した組換え大腸菌のプラスミドpWKQ上にlacIqリプレッサーを挿入することにより、発現抑制を厳密にして発現量を増大させることを計画した。以下のようにしてプラスミドpWKLQを構築し、このプラスミドpWKLQとプラスミドpAGとを同時に用いて大腸菌SCS1、W3110、およびBL21を形質転換した。以下に、プラスミドpWKLQの構築法を記載する。
実施例12で増幅したlacIq遺伝子を含む断片をBsaAIおよびBamHIで二重消化した。二重消化により得られた断片を、プラスミドpWKQ中のtacプロモーターの上流に位置するBsaAI−BamHI部位に挿入して、プラスミドpWKLQを得た。
実施例13で作製したそれぞれの組換え大腸菌を、50μg/mlのアンピシリンとOvernight Expression Kit(Novagen製)とを添加した5mlのTB培地で培養した。実施例14で作製したそれぞれの組換え大腸菌は、さらに50μg/mlのカナマイシンを添加した上記培地にて培養した。得られた培養液を、実施例10と同様にして反応させ、そして3−キヌクリジノン還元活性を測定した。結果を以下の表2に示す。
実施例14で得た組換え大腸菌W3110(pWKLQ, pAG)を、実施例11で使用した培地に50μg/mlのカナマイシンを添加して、24時間振盪培養した。培養液を遠心分離(8,400×g、20分間、10℃)により集菌して−20℃で凍結保存した。30ml容ビ−カ−に、3−キヌクリジノン・塩酸塩1g、グルコース1.4g、NADP+ 1.5mg、リン酸水素二カリウム0.35gおよび培養液3ml相当分の凍結菌体を入れ、水道水で容量を10mlにし、25℃でスターラー攪拌しながら反応させた。なお、反応中に生成するグルコン酸を、48%水酸化カリウム溶液を用いて中和することにより、反応液のpHを7.5に保ちながら反応させた。実施例10と同様にして反応抽出液の分析を行った。図7は、組換え大腸菌W3110(pWKLQ, pAG)による3−キヌクリジノンの還元の経時変化を示すグラフである。縦軸に反応率(%)を、そして横軸に反応時間(h:時間)を示す。図7から、21時間後には、変換率98.6%で光学純度99.9%ee以上の(R)−3−キヌクリジノールが生成したことがわかる。
Claims (18)
- 以下の(a)〜(c)のいずれかのアミノ酸配列を有し、以下の(1)および(2)の生化学的性質を有する酵素:
(a)配列番号41に記載のアミノ酸配列;
(b)配列番号41に記載のアミノ酸配列において1〜30個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、および/または付加を有するアミノ酸配列;または
(c)配列番号41に記載のアミノ酸配列に対して90%以上の相同性を有するアミノ酸配列;
(1)還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADPH)を補酵素として、3−キヌクリジノンまたはその塩を不斉還元し、(R)−3−キヌクリジノールを生成する;および
(2)ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP+)を補酵素とする3−キヌクリジノールの酸化反応を触媒しない。 - SDS−PAGEで測定した場合のサブユニットの分子量が30,000であり、ゲル濾過クロマトグラフィーで測定した場合の分子量が93,000である、請求項1に記載の酵素。
- 前記1〜30個のアミノ酸が、1〜20個のアミノ酸である、請求項1に記載の酵素。
- 前記酵素が、ロドトルラ・ルブラ(Rhodotolura rubra)に由来する、請求項1から3のいずれかの項に記載の酵素。
- 請求項1から4のいずれかの項に記載の酵素をコードするポリヌクレオチド。
- 配列番号40に記載の塩基配列を有する、請求項5に記載のポリヌクレオチド。
- 請求項5または6に記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
- tacプロモーターおよびlacIqリプレッサー遺伝子をさらに含み、該tacプロモーターが請求項5または6に記載のポリヌクレオチドを制御する、請求項7に記載のベクター。
- さらに、NADP+をNADPHに再生する酵素をコードするポリヌクレオチドを含む、請求項7または8に記載のベクター。
- lacIqリプレッサー遺伝子および2つのtacプロモーターを含む請求項9に記載のベクターであって、該2つのtacプロモーターの一方が、請求項5または6に記載のポリヌクレオチドを制御し、かつ他方が、前記NADP+をNADPHに再生する酵素をコードするポリヌクレオチドを制御する、ベクター。
- 前記NADP+をNADPHに再生する酵素がグルコース脱水素酵素である、請求項9または10に記載のベクター。
- 前記グルコース脱水素酵素がバチルス・メガテリウム(Bacillus megaterium)由来である、請求項11に記載のベクター。
- 請求項7から12のいずれかの項に記載のベクターを発現可能に保持する形質転換体。
- 請求項7または8に記載のベクターおよびNADP+をNADPHに再生する酵素をコードするポリヌクレオチドを含むベクターをそれぞれ発現可能に保持する形質転換体。
- 宿主が大腸菌である、請求項13または14に記載の形質転換体。
- 前記大腸菌が、ラクトースオペロンに欠損のない大腸菌である、請求項15に記載の形質転換体。
- (R)−3−キヌクリジノールまたはその塩の製造方法であって、請求項1から4のいずれかの項に記載の酵素または請求項13から16のいずれかの項に記載の形質転換体、その培養液もしくは処理物を3−キヌクリジノンまたはその塩に作用させる工程を含む、方法。
- 上記作用工程において、NADP+がさらに添加される、請求項17に記載の方法。
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