JP4802692B2 - 走行体 - Google Patents
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Description
しかしながら、走行体に乗車する乗員には、車体の傾斜角変化に対して迅速に反応してその重心の位置を変化させ車体が倒立状態を維持するようにバランスをとることができる者もいれば、車体の傾斜角変化に対する反応が遅くバランスを上手くとれない者もいる。また、走行体が転倒するのではないかという不安感を感じる程度は個人差があり、ある者にとっては不安感を覚える場合であっても、他の者にとっては不安感を感じない場合もある。したがって、従来の走行体は、身体能力の優れた者や不安感を感じ難い者にとっては、より大きな加速度や速度で走行体を移動させることができるにもかかわらず、走行体の加速度や速度等が低めに設定されてしまうという問題があった。
本発明は上述した実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、走行体が安定して倒立状態を維持でき、あるいは、乗員に不安感を与えることなく、走行体をより軽快に走行することができる走行体を提供することである。
「予め設定された波形のトルク指令値」とは、パルス波形、矩形波形、特定の周波数を有する正弦波形などでよい。
「制御プログラムを修正する」とは、制御プログラムの一部あるいは全部を修正するものであってもよいし、制御プログラム中に内在するゲインなどの制御変数を修正するものであってもよい。
なお、「車体の状態」とは、例えば車体の傾斜角、駆動輪の位置や速度や加速度などを意味する。さらに、車体に乗車している乗員が車体に設けられている座席の背もたれあるいは座面に加える圧力や乗員の発汗量など、センサによって計測することのできる乗員の状態をも含む概念で「車体の状態」という表現を用いる。
さらに、前記センサを、乗員の状態である乗員の脈拍又は発汗量を検出するセンサとすることもできる。乗員の脈拍又は発汗量は、乗員が不安感を感じているか否かによって変化する。したがって、センサが検出する乗員の脈拍又は発汗量の応答波形に基づいて制御プログラムを修正することで、乗員が不安感を感じることがない範囲で、走行体を軽快に走行させることができる。
この走行体では、車体の傾斜角又は傾斜角速度に応じて駆動装置にトルク指令値を出力するため、車体を安定して倒立状態に維持することができ、また、車体の水平面内における位置、速度又は加速度に応じて車体が目標位置、目標速度又は目標加速度に応じて駆動装置にトルク指令値を出力するため、車体を所望の位置、速度、又は加速度で移動させることができる。
発明者らの検討によれば、初期トルク指令値を入力してから応答波形が安定化するまでの収束時間は乗員のバランス能力と相関があり、初期トルク指令値を入力してから応答波形が予め設定されている予想応答波形からずれるまでの反応時間は乗員の俊敏性と相関があり、初期トルク指令値を入力した後の応答波形の振幅は車体の揺れに対する乗員の順応性と相関がある。したがって、これらの値に応じて制御プログラムを修正することで、制御プログラムを乗員の身体的能力(バランス能力、俊敏性、順応性)に応じたものとすることができる。
初期トルク指令値を入力した後の応答波形の振幅は、車体の揺れに対する乗員の順応性と相関がある。順応性の高い乗員は、車体の揺れに対してその揺れが小さくなるように自身の揺れを調整することができる。その結果、応答波形の最大振幅は小さくなる。逆に、順応性の低い乗員は、車体の揺れに対して自身の体をどう動かせばよいか分からず、不安を感じて車体の揺れとは無関係に自身の体を動かす。その結果、応答波形の最大振幅は大きくなる傾向となる。一方、車体の揺れの大きさは走行体の加減速度が影響する。そのため、車体の揺れに対する順応性の高い乗員に対しては加減速度の上限を大きくして走行体の軽快な走行性を重視した設定をすることが好ましい。順応性の低い乗員は加減速度の上限を小さくして乗員に不安感を与えないようにすることが好ましい。
初期トルク指令値を入力してから応答波形が安定化するまでの収束時間は乗員のバランス能力と相関がある。バランス能力の高い乗員は、車体の揺れを小さくする方向に身体を動かすことができる。その結果、応答波形の収束時間が小さくなる。そのような乗員に対しては、前記ゲインを大きく設定して車体が大きく揺れても車体の走行特性を向上させる方が乗員にとって快適性を与えることができる。逆にバランス能力の低い乗員は、車体の揺れを小さくする方向に身体を動かすことが得意ではない。その結果、応答波形の収束時間が長くなる。車体が揺れている時間が長くなると乗員は不安を感じやすくなる。そのような乗員に対しては、前記ゲインを小さく設定することによって、車体の揺れを小さくし、乗員に不安を与えることを低減できる。
前記修正部は、第1初期トルク指令値に対する応答波形の最大振幅が大きいほど、走行体の目標加速度の絶対値の上限値を小さな値に修正し、
第2初期トルク指令値に対する応答波形の収束時間が長いほど、前記ゲインを小さな値に修正することが好ましい。
走行体を軽快に走行させる場合には、車体の傾斜角を大きく、あるいは素早く変化させる必要がある。以下では、制御プログラムによって規定される走行体の性能を走行性能と称することにする。
一方、そのような走行体は、車体を倒立状態に維持しながら走行するため、高速で走行したり、加速度の絶対値が大きいときには、乗員は車体が転倒してしまうのではないかという不安感を感じる場合がある。速度が速いと、駆動輪の接地面の僅かな凹凸によっても車体の傾斜角が大きく変化するからである。また加速度が大きいときも車体の傾斜角が大きくなるからである。どの程度の走行性能で不安感を感じるかには個人差がある。大多数の人間が不安感を感じないように当初から走行性能が低くなるように制御プログラムを設定しておくと、走行体の軽快な走行性能が損なわれる。そこで、走行体を乗員に不安を与えない範囲で軽快に走行させるように、乗員に応じて制御プログラムを修正する技術が望まれる。制御プログラムの修正とは、例えば、駆動制御部が出力するトルク指令値を算出するためのゲイン、走行体の目標速度の絶対値の上限値、目標加速度の絶対値の上限値などの制御プログラム中に内在する変数を修正することが考えられる。
さらに、運動能力の優れている乗員ほど、同じ走行性能でも不安感を感じる度合いが低い傾向がある。運動能力の優れている乗員は、車体を倒立状態に維持する制御を補助するように乗員自身の身体を動かすことができるという認識があるからと考えられる。逆に運動能力の優れていない乗員は、車体の傾斜角が変化した際に、車体の傾斜角を元に戻すようにうまくは身体を動かすことができず、その結果、車体の傾斜角の応答波形も乱れ、不安を感じてしまうと考えられる。
本発明は、この特徴と傾向を利用して、走行体そのものを乗員の運動能力測定器のように活用し、乗員の運動能力を定量化してその乗員の運動能力に見合った走行特性となるように駆動制御部内の制御プログラムを修正する。走行体そのものを乗員の運動能力測定器のように活用することによって、駆動制御部内の制御プログラムを乗員の運動能力の個人差に合わせて修正することが可能となる。
乗員が乗った車体を倒立状態に維持しながら走行する走行体について、走行体そのものを乗員の運動能力測定器として活用し、乗員の運動能力に見合うように駆動制御部内の制御プログラムを修正することによって、その乗員に不安感を与えない範囲で良好な走行性能、即ち乗員にとっての快適性を与える走行体を実現することに成功した。
なお、同一の乗員でも、走行体の動作に慣れてくると、不安感を感じる走行性能の上限も高くなる。本発明では、乗員が乗車する毎に、その乗員の「慣れ」を含む走行体に対する運動能力を計測することで、同じ乗員に対しても「慣れ」の程度によって、そのときの乗員の運動能力に見合うように駆動制御部内の制御プログラムを修正することができる。
また、上記の説明では、車体の傾斜角の応答波形を例とした。車体の傾斜角の応答波形の他に、初期トルク指令値に対する駆動輪の応答波形でも同様に乗員の運動能力を計測することができる。
本明細書では、車体の傾斜角、駆動輪の位置や速度や加速度、あるいは車体に搭乗している乗員の状態を車体の状態と称する。その意味では、車体の状態とは、車体の傾斜角や位置に加えて車体の傾斜角速度、車体の速度又は加速度を含む広義の車体の位置状態と、乗員の状態を含む概念である。車体に搭乗している乗員の状態とは、例えば乗員が車体に設けられている座席の背もたれあるいは座面に加える圧力や、乗員の発汗量も車体の状態に含む意味で用いる。乗員が車体に設けられている座席の背もたれあるいは座面に加える圧力や、乗員の発汗量は適切なセンサによって計測することができる。その意味では、乗員の状態とは、センサによって計測することのできる乗員の状態と表現することができる。乗員が車体に設けられている座席の背もたれあるいは座面に加える圧力や、乗員の発汗量をセンサによって検出し、そのセンサ検出値の応答波形によっても同様に制御プログラムを乗員の運動能力に合わせて修正することができる。
(第1形態) 車体には乗員が着座する座席が設けられており、その座席の背もたれに乗員の背面の圧力を検出する圧力検出器を備えており、圧力検出器によって検出された圧力が、乗員が座席に正常に着座したときの圧力よりも大きい場合には、走行体を前方へ加速する目標加速度の上限値よりも走行体を後方へ加速する目標加速度の上限値を小さく設定することが好ましい。なお、「走行体を後方へ加速する目標加速度の上限値」とは、走行体の前方を加速度の正の向きとした場合に加速度の下限値に相当する。
2つの駆動輪14R、14Lは、略同一の車軸Cの回りで車体12に対して回転可能となっている。補助輪20は、補助輪移動部材18を介して車体12に取り付けられている。補助輪20は、補助輪移動部材18によって、車体12が倒立状態に制御されていない状態のときに駆動輪14R、14Lとともに接地面に接地するように車体12の下前方に移動される。図1は、補助輪20が車体12の下前方に移動したときの状態を示している。補助輪20が駆動輪14R、14Lとともに接地面に接地することによって、走行体10は、車体12が倒立状態に制御されていないときであっても車体12を転倒させることなく接地面に対して安定した姿勢を維持することができる。なお、走行体10の車体12が2つの駆動輪14R、14Lにより倒立状態に維持されるように制御されると、補助輪移動部材18は補助輪20を上方へ移動させる。
車体12には、駆動輪14Rにトルクを与えるためのモータ16R(駆動装置)が取り付けられている。同様に駆動輪14Lにトルクを与えるためのモータ16L(駆動装置)が取り付けられている。車体12の駆動輪14Rの付近には、駆動輪14Rの回転角を検出するためのエンコーダ24Rが取り付けられている。同様に駆動輪14Lの付近には、駆動輪14Lの回転角を検出するためのエンコーダ24Lが取り付けられている。
制御装置28には、座席22に着座した乗員が走行体10の起動・停止の指令や、走行指令を入力するための入力装置32が接続されている。
乗員が座席22に着座して入力装置32の起動スイッチを入れると制御装置28が作動を開始する。制御装置28は、補助輪20を上方へ移動させる。同時に、傾斜センサ26から車体12の傾斜角を取得して傾斜角を略一定に維持するように、モータ16に対してトルク指令値を出力する。モータ16はトルク指令値に従って駆動輪14を駆動する。駆動輪14が駆動、即ち回転することによって車体12の傾斜角が略一定に維持される。即ち、車体12が倒立状態に維持される。
車体12が倒立状態に維持されると、制御装置28は、走行性能を規定する制御プログラムの修正処理を行う。制御プログラムの修正処理とは、モータ16を駆動することによって、車体12に微小な揺動を与え、そのときの乗員を含めた車体12の傾斜角の応答波形に基づいて、その乗員の運動能力に合わせて制御装置内の制御プログラムを修正する処理である。
制御プログラムの修正処理が終了すると、制御装置は乗員からの走行指令を受け付けるようになる。例えば乗員が走行体10を前や後ろ、あるいは旋回するように走行指令を入力装置32に入力すると、制御装置28は車体12を倒立状態に維持したまま、走行指令に従って走行体10が走行するように夫々のモータ16へトルク指令値を出力する。制御プログラムの修正処理により、走行体10の走行性能は乗員に不安感を与えないように修正されているので乗員は走行体10を快適に走行させることができる。
なお、本実施例における制御プログラムの修正は、制御プログラムに内在する制御変数を修正する処理である。その意味で、以下では、「制御プログラムの修正」という表現の代わりに「制御変数の修正」という表現を用いる。本実施例で修正の対象となる制御変数については後述する。
制御装置28はその内部に、駆動制御部40と、初期指令値出力部42と、修正部44と、修正用データ記憶部46を有する。
駆動制御部40は、車体12を倒立状態に維持しながら入力装置32からの走行指令に従って走行体10を走行させるためのトルク指令値を計算し、計算されたトルク指令値をモータ16に出力する。
初期指令値出力部42は、駆動制御部40内の制御変数の修正処理を行う際に、モータ16へ初期トルク指令値を出力する。
修正部44は、車体12に取り付けられた傾斜角センサ26によって検出される、初期トルク指令値に対する車体12の傾斜角の応答波形から駆動制御部40内の制御変数の修正値を求め、求めた修正値によって駆動制御部40内の制御変数を修正する。なお、図6に示した、修正部44から駆動制御部40へ向って斜めに描かれている線Sは、修正部44によって駆動制御部40内の制御変数が修正されることを示している。
修正用データ記憶部46には、初期指令値出力部42が出力すべき種々の初期トルク指令値の波形データと、車体12の傾斜角の応答波形と制御変数の修正値の対応関係を定めたデータが記憶されている。
本実施例では、乗員の運動能力に合わせて駆動制御部の制御プログラムを修正する処理は制御プログラムに内在する制御変数の修正を行うものである。従って制御プログラムそのものについては説明を割愛する。但し、トルク指令値を生成する際には、まず、走行体の目標速度が設定され、その目標速度へ達するための目標加速度が設定される。そして設定された目標加速度を走行体10で実現するようにトルク指令値が設定される。駆動制御部40内に実装されるアルゴリズムには種々の構造のものが利用可能であるが、いずれのアルゴリズムであっても、そのアルゴリズムは、走行体10の目標速度の絶対値の上限値を制限する速度リミッタ50を備える。また、走行体10の目標加速度の絶対値の上限値を制限する加速度リミッタ52を備える。また、目標加速度の値をトルク指令値に変換する際のゲイン乗算器54を備える。図3では、駆動制御部40内の詳細なアルゴリズムは図示を省略しているが、駆動制御部40内に速度リミッタ50、加速度リミッタ52、ゲイン乗算器54がそのアルゴリズムに内在していることを模式的に示すために、駆動制御部40内に速度リミッタ50、加速度リミッタ52、ゲイン乗算器54を描いてある。駆動制御部40内で算出される目標速度の絶対値の上限値、即ち速度リミッタ50の初期設定値はVLに設定されている。また、目標加速度の絶対値の上限値、即ち加速度リミッタ52の初期設定値はGLに設定されている。また、ゲイン乗算器54のゲインの初期値はKに設定されている。本実施例の走行体10では、修正する対象となる制御変数は、速度リミッタ50の初期設定値VL、加速度リミッタ52の初期設定値GL、ゲインの初期値Kの3種である。
また、図6は、車体12が前方へ傾斜したときの乗員60の挙動を模式的に示している。図6に示すように、車体12が前方に傾斜すると、乗員は車体12を後方に傾斜させようとして上半身を後傾させる。場合によっては、足を縮めるようにしてまで車体12を後方へ傾斜させようとすることもあり得る。なお、図5や図6では、説明を理解しやすくするために乗員60の姿勢を誇張して描いている。
例えば、運動能力に優れており、車体12の前後の揺動に対して不安感を感じない乗員は、身体を動かさないか、傾斜角の揺動を抑えるように身体を動かすことができるため、初期トルク指令値による駆動輪14の揺動が停止した後に車体傾斜角の応答波形が収束するまでの時間(収束時間)は短くなる。逆に、運動能力が優れておらず、車体12の揺動に対して不安感を感じる乗員は、傾斜角を元に戻そうと身体を大きく動かす。しかし運動能力が優れていない場合、傾斜角の揺動を低減する方向にうまく身体を動かすことができないため、収束時間が長くなる。概略して言えば、運動能力が優れている乗員ほど、また不安感を感じない乗員ほど、初期トルク指令値に対する車体12の傾斜角の応答波形は、きれいな波形で収束する。従って初期トルク指令値に対する車体12の傾斜角の応答波形の特徴を表す値(例えば収束時間や振幅など)によって、その乗員の運動能力と不安感の度合いをある程度定量化することができる。即ち、走行体10そのものを、乗員の運動能力を定量化する測定器として利用することができる。そこで、初期トルク指令値に対する車体12の傾斜角の応答波形に基づいて駆動制御部40内の制御変数を修正することによって、その乗員の運動能力に適した走行性能を備えた走行体10を実現できる。
乗員Aが座席22(図1参照)に乗車して起動スイッチを入力した後、制御装置28が作動を開始して車体12が倒立状態に維持されると、図3に示す初期指令値出力部42が修正用データ記憶部46を参照して出力すべきトルク指令値の波形データを取得する。そして取得したトルク指令値をモータ16に出力する。このとき初期指令値出力部42が出力する初期トルク指令値の波形は、図7(A)に示すように時刻t0で立ち上がる矩形波である。矩形波は高周波成分を含む。高周波成分を含む波形の初期トルク指令値に対する車体傾斜角の応答波形からゲインの修正値を求める。
この初期トルク指令値に対する車体12の傾斜角の応答波形は、図7(B)に示すように時間t1で収束する波形となる。車体12の傾斜角は、図3に示す傾斜角センサ26により検出されて修正部44に送られる。図7(B)の応答波形は、図3に示す修正部44で取得される。次に修正部44は、応答波形の収束時間とゲインの修正値との対応関係を示すグラフ(図7(C))を参照して、収束時間t1の場合のゲインKの修正値KAを得る。そして得られたゲインKの修正値KAによって、図3に示すゲイン乗算器54内のゲインを初期値Kから修正値KAに修正する。
また、収束時間が例えばより短いt2であった場合には、図7(C)のグラフから、収束時間t2に対応するゲインの修正値はKBとなる。この場合には、ゲイン乗算器54内のゲインを初期値Kよりも大きい修正値KBに修正する。収束時間が長いほどゲインの値を小さい値に修正する、とは逆にいえば、収束時間が短いほど、ゲインの値を大きい値に修正することを意味する。
なお、図7(C)には、ゲインの初期値Kの値も示されている。収束時間が図7(C)に示すtaの間であった場合には、ゲインの値は初期値Kのままとなる。
また、図7(A)に示す矩形波の初期トルク指令値は、後述する図9(A)で示す他の初期トルク指令値の波形の周波数(請求項の「第1周波数」に相当する)より高い周波数(第2周波数)の成分を含むものである。第1周波数より高い第2周波数を成分に含む図7(A)に示す矩形波の初期トルク指令値が請求項の第2初期トルク指令値の一態様に相当する
図8(A)は、図7(A)に示す初期トルク指令値と同じものである。従って図8(B)に実線で示す車体12の傾斜角の応答波形も図7(B)と同じである。即ち、修正部44は、図7で説明した処理を行った後に、そのときの傾斜角の応答波形(図7(B)に示した応答波形)から、別の処理によって、目標速度の絶対値の上限値の初期値VLの修正値を求める。
図8(C)の図は、図8(B)に示した車体12の応答波形から、目標速度の絶対値の上限値の初期値VLの修正値を求める図である。図8(C)のグラフの縦軸は、目標速度の絶対値の上限値である。横軸は反応時間である。図8(C)のグラフは、反応時間が長くなるほど目標速度の絶対値の上限値の修正値が小さくなるように設定されるグラフとなっている。なお、図8(C)に示すグラフのデータ、即ち、反応時間と目標速度の絶対値の上限値の修正値との対応関係を定めるデータもデータ記憶部46(図3参照)に格納されている。
図3に示す修正部44は、修正用データ記憶部46に格納された予想応答波形と乗員Aの応答波形を比較する(図8(B))。予想応答波形とは、図8(A)に示す波形の初期トルク指令値が出力された場合の車体12の傾斜角の標準的な応答波形である。この予想応答波形は、事前に複数人の被験者の応答波形を収集し、収集した応答波形を平準化したものである。予想応答波形は図8(B)に点線Eで示してある。初期トルク指令値が出力された時刻t0から、乗員Aが乗車時の車体の傾斜角の応答波形が予想応答波形とずれるまでの時間t3が反応時間を表す。
修正部44は、応答波形の反応時間と目標速度の絶対値の上限値の修正値との対応関係を定めるデータ(図7(C)のグラフ)を参照して、反応時間t3の場合の修正値VAを得る。そして得られた目標速度の絶対値の上限値の修正値VAによって、図3に示す速度リミッタ50内の目標速度の絶対値の上限値の初期値VLを置き換える(初期値VLを修正値VAで修正する)。
また、反応時間が例えばより短いt4であった場合には、図8(C)のグラフから収束時間t4に対応する修正値はVBとなる。この場合には、速度リミッタ50内の目標速度の絶対値の上限値を初期値VLよりも大きい修正値VBで修正する。応答時間が長いほど目標速度の絶対値の上限値を小さい値に修正する、とは逆にいえば、応答時間が短いほど、前記上限値の値を大きい値に修正することを意味する。
なお、図8(C)には、目標速度の絶対値の上限値の初期値VLの値も示されている。反応時間が図8(C)に示すtbであった場合には、目標速度の絶対値の上限値は初期値VLのままとなる。
図8で説明した処理が終了すると、初期指令値出力部42は、修正用データ記憶部46を参照して次に出力すべきトルク指令値の波形データ(第1初期トルク指令値に相当する)を取得する。そして取得したトルク指令値をモータ16に出力する。図7(A)に示す波形のトルク指令値の次に出力するトルク指令値の波形を図9(A)に示す。このトルク指令値の波形は、図7(A)に示す波形より低い一定周波数の正弦波である。図7(A)に示す低周波のトルク指令値が請求項の「第1周波数」に相当する。
この低周波のトルク指令値に対する車体傾斜角の応答波形から目標加速度の絶対値の上限値の初期値GLの修正値を求める。
このトルク指令値に対する車体傾斜角の応答波形を図9(B)に示す。図3に示す修正部44は、図9(B)の応答波形からその波形の最大振幅値wAを得る。修正部44は、図9(A)に示す波形の初期トルク指令値に対する応答波形の最大振幅と目標加速度の絶対値の上限値の修正値との対応関係を定めるデータ(図9(C)のグラフ)を参照して、最大振幅wAの場合の加速度の絶対値の上限値の修正値GAを得る。図9(C)の図は、図9(B)に示した車体12の応答波形から、目標加速度の絶対値の上限値の初期値GLの修正値を求める図である。図9(C)のグラフの縦軸は、目標加速度の絶対値の上限値である。横軸は応答波形の最大振幅である。図9(C)のグラフは、最大振幅が大きくなるほど目標加速度の絶対値の上限値の修正値が小さくなるように設定されるグラフとなっている。なお、図9(C)に示すグラフのデータも修正用データ記憶部46(図3参照)に格納されている。
修正部44は、得られた加速度の絶対値の上限値の修正値GAによって、図3に示す加速度リミッタ52に設定されている目標加速度の絶対値の上限値の初期値GLを修正する(初期値上限値GLを修正値上限値GAで置き換える)。
また、最大振幅が例えばより小さいwBであった場合には、図9(C)のグラフから最大振幅wBに対応する修正値はGBとなる。この場合には、加速度リミッタ52内の目標加速度の絶対値の上限値を初期値GLよりも大きい修正値GBで修正する。最大振幅が長いほど目標加速度の絶対値の上限値を小さい値に修正する、とは逆にいえば、最大振幅が小さいほど、前記上限値の値を大きい値に修正することを意味する。
なお、図9(C)には、目標加速度の絶対値の上限値の初期値GLの値も示されている。最大振幅が図9(C)に示すwCであった場合には、目標加速度の絶対値の上限値は初期値GLのままとなる。
走行体10を乗員の運動能力計測器のように利用することができるのは、車体を倒立状態に維持する走行体では、車体上の乗員の挙動に対して車体の傾斜角の応答波形が敏感に変化するという特徴に基づく。乗員の運動能力の個人差が車体の傾斜角の応答波形に顕著に表れる。従って車体の傾斜角の応答波形から乗員の運動能力の個人差をある程度定量化できるのである。そして乗員の運動能力の個人差を定量化できるからこそ、駆動制御部40内の制御変数をより乗員の個人差に適したものに修正することが可能となる。
この変形例は、乗員が座席22の背もたれによりかかる度合いが大きいほど、走行体10を前方へ加速する加速度の上限値よりも走行体10を後方へ加速する加速度の上限値を小さく設定する。なお、「走行体を後方へ加速する加速度の上限値」とは、走行体の前方を加速度の正の向きとした場合に加速度の下限値に相当する。
乗員が座席22の背もたれによりかかる度合いが大きいということは、乗員が座席22の背もたれに体重を預けるように着座している場合である。この場合、車体12の前方への傾斜よりも、後方への傾斜に対して乗員は不安感を感じ易い傾向がある。そのような場合に、車体12を前方に傾斜させる「走行体10を前方へ加速する目標加速度の上限値」よりも、車体12を後方へ傾斜させる「走行体10を後方へ加速する目標加速度の上限値」を小さい値に修正する。これによって、車体12の後方への傾斜角を、前方への傾斜角より小さくすることができる。車体12の後方への傾斜角が小さくなるように制御変数を修正することによって、座席22の背もたれに体重を預けるように着座している乗員に対して車体12が後方に傾斜する際にも不安感を与える可能性を小さくすることができる。
乗員が座席22の背もたれによりかかる度合いが大きいか否かは、座席22の背もたれに取り付けられた感圧センサ34が出力する圧力の値を利用する。即ち、感圧センサ34は、乗員の状態のひとつである乗員が背もたれによりかかる度合いを検出するセンサの役目を果たす。
感圧センサ34が出力する圧力の値と、目標加速度の上限値の修正値の関係を図10に示す。図10の横軸は、感圧センサ34が出力する圧力の値を示す。図10の縦軸は、「走行体10を前方へ加速する目標加速度の上限値」に対する、「走行体10を後方へ加速する目標加速度の上限値」の割合をパーセント表示したものである。「走行体10を前方へ加速する目標加速度の上限値」は、図9で説明した方法によって修正された値である。
図10によれば、感圧センサ34の出力値がP1までは、「走行体10を前方へ加速する目標加速度の上限値」と「走行体10を後方へ加速する目標加速度の上限値」は同じ値となる。一方、例えば感圧センサ34の出力値がP2の場合は、「走行体10を後方へ加速する目標加速度の上限値」は、「走行体10を前方へ加速する目標加速度の上限値」の65%の値に修正される。走行体10の前方を加速度の正の方向と設定した場合には、上記の変形例は、圧力検出器34によって検出された圧力が、大きいほど目標加速度の下限値をより大きい値に修正する、と表現することもできる。
また例えば、図7(A)や図9(A)に示した波形の初期トルク指令値に対する車体傾斜角の応答波形の周波数を計算し、応答波形の周波数が低いほど、制御変数を走行性能を低下させる方向に修正させるように構成してもよい。応答波形の周波数が低いほど、その乗員の運動能力は優れていないと推定できるからである。
また、実施例では、制御変数(制御プログラム)の修正値を求めるために、車体の状態のひとつである車体の傾斜角の応答波形を利用した。制御プログラムの修正を行うために利用する車体の状態は、駆動輪の位置あるいは角速度の応答波形であってもよい。さらに、制御プログラムの修正を行うために利用する乗員の状態は、乗員が背もたれに加える圧力の応答波形のほかに、乗員の発汗量の応答波形であってもよい。
12:車体
12a:車体本体
12b:連結部
14R、14L:駆動輪
16R、16L:モータ(駆動装置)
18:補助輪移動部材
20:補助輪
22:座席
24R、24L:エンコーダ
26:傾斜角センサ
28:制御装置
30:バッテリ
32:入力装置
34:感圧センサ
40:駆動制御部
42:初期指令値出力部
44:修正部
46:修正用データ記憶部
50:速度リミッタ
52:加速度リミッタ
54:ゲイン乗算器
60:乗員
Claims (9)
- 乗員が乗車する車体と、車体に対して回転自在とされた駆動輪とを有し、駆動輪を駆動することで車体が倒立状態を維持しながら走行する走行体であり、
駆動輪にトルクを与える駆動装置と、
車体を倒立状態に維持するとともに走行体を走行させるためのトルク指令値を駆動装置に出力する駆動制御部と、
車体の状態を検出するセンサと、
乗員が車体に乗車し、かつ、駆動制御部によって車体が倒立状態に維持された状態で、予め設定された波形の初期トルク指令値を駆動装置に出力する初期指令値出力部と、
初期トルク指令値に対するセンサ検出値の応答波形に基づき、初期トルク指令値を入力してから応答波形が安定化するまでの収束時間、初期トルク指令値を入力してから応答波形が予め設定されている予想応答波形からずれるまでの反応時間、初期トルク指令値を入力した後の応答波形の振幅の少なくとも一つに応じて、前記駆動制御部の制御プログラムを修正する修正部と、
を備えることを特徴とする走行体。 - 前記センサは、鉛直方向に対する車体の傾斜角又は傾斜角速度を検出することを特徴とする請求項1に記載の走行体。
- 前記センサは、水平面内における車体の位置、速度又は加速度を検出することを特徴とする請求項1に記載の走行体。
- 前記駆動制御部は、車体の傾斜角又は傾斜角速度に応じて車体が倒立状態を保ち、かつ、車体の水平面内における位置、速度又は加速度に応じて車体が目標位置、目標速度又は目標加速度となるように、トルク指令値を駆動装置に出力することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の走行体。
- 前記修正部は、前記制御プログラムのうち、走行体の目標加速度の絶対値の上限値、走行体の目標速度の絶対値の上限値、及び傾斜角に対して倒立状態を維持するトルク指令値を算出するためのゲインの少なくとも一つを修正することを特徴とする請求項4に記載の走行体。
- 前記修正部は、応答波形の最大振幅が大きいほど、走行体の目標加速度の絶対値の上限値を小さな値に修正することを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の走行体。
- 前記修正部は、応答波形の収束時間が長いほど、前記ゲインを小さな値に修正することを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の走行体。
- 前記初期トルク指令値は第1周波数を成分に含む第1初期トルク指令値と、第1周波数より高い第2周波数を成分に含む第2初期トルク指令値を駆動装置に出力し、
前記修正部は、第1初期トルク指令値に対する応答波形の最大振幅が大きいほど、走行体の目標加速度の絶対値の上限値を小さな値に修正し、
第2初期トルク指令値に対する応答波形の収束時間が長いほど、前記ゲインを小さな値に修正することを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の走行体。 - 前記修正部は、前記反応時間が長いほど、走行体の目標速度の絶対値の上限値を小さな値に修正することを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の走行体。
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