しかしながら、ショットピーニング処理によると、ホースやノズルを頻繁に交換する必要がある。このため、コスト高である。また、ショット投射後のショット粒を回収する必要がある。このため、作業工数が多く、繁雑である。また、パイプ材の内周径により、ノズルサイズやホース径が制約を受ける。このため、汎用性に欠ける。
本発明の表面強化装置および表面強化方法は、上記課題に鑑みて完成されたものである。したがって、本発明は、コストが低く、作業工数が少なく、汎用性に富む表面強化装置および表面強化方法を提供することを目的とする。
(1)上記課題を解決するため、本発明の表面強化装置は、少なくとも一部が径方向に撓みながら回転する軸部と、該軸部に接続され、該軸部と共に回転し、パイプ材の内周面に衝突することにより、該内周面に圧縮方向の残留応力を付与する衝突子と、を備えてなることを特徴とする。ここで、本明細書において、「パイプ材」とは、側壁に孔が形成されているものや、側壁をパイプ材の延在方向に貫通するスリットが入っているものを含む概念である。
表面強化の際、衝突子は、パイプ材の内周側に挿入される。この状態で、軸部は回転する。また、軸部の少なくとも一部は、回転する際、径方向に撓む。このため、軸部に連なっている衝突子は、軸部の撓みにより、外径側に突出しながら、所定の回転軸を中心に、回転する。衝突子がパイプ材の内周面に衝突することにより、内周面に圧縮方向の残留応力が付与される。
本発明の表面強化装置によると、部品構成が単純である。このため、故障に対する信頼性が高い。また、表面強化装置自体の製造コスト延いては表面強化処理に要するコストが低い。また、前記ショットピーニング処理のように、ショット粒を回収する必要がない。このため、表面強化処理の作業工数が少ない。また、例えば、衝突子の質量や、軸部の回転速度や、軸部に対する衝突子の配置などから選ばれる一つあるいは二つ以上のパラメータを適宜変えることにより、あらゆる内周径のパイプ材に対応することができる。このため、本発明の表面強化装置は、汎用性に富む。
好ましくは、前記パイプ材は、少なくとも一つの湾曲部位を有する構成とする方がよい。パイプ材が湾曲している場合、前記ショットピーニング装置によりパイプ材の湾曲部位に表面強化処理を施そうとすると、ショットピーニング装置の構成が複雑化するおそれがある(特許文献1の[0017]参照)。このため、ショットピーニング装置自体の製造コスト延いては表面強化処理に要するコストが高くなる。これに対し、本発明の表面強化装置によると、単純な構成にもかかわらず、比較的簡単に、パイプ材の湾曲部位に、充分な表面強化処理を施すことができる。このため、表面強化装置自体の製造コスト延いては表面強化処理に要するコストが低い。このように、本発明の表面強化装置は、湾曲部位を有するパイプ材に好適に用いることができる。
好ましくは、前記パイプ材の湾曲部位は、応力集中部位である構成とする方がよい。パイプ材を構造材として用いる場合、パイプ材に、軽量化(つまり薄肉化)と高強度化という相反するスペックが要求されることがある。パイプ材を薄肉化すると、内周面と外周面との応力差が小さくなる。また、パイプ材の湾曲部位の内周面に、応力集中部位が発現する。この点、本発明の表面強化装置によると、当該応力集中部位に対して、比較的簡単に、充分な表面強化処理を施すことができる。このように、本発明の表面強化装置は、湾曲部位が応力集中部位であるパイプ材に好適に用いることができる。
好ましくは、前記衝突子は、前記軸部の軸方向端部に接続されている構成とする方がよい。つまり、本構成は、軸部により、衝突子を、片持ち梁状に支持するものである。本構成によると、衝突子の質量により、軸部がより撓みやすくなる。このため、内周面に対する衝突力が大きくなる。したがって、より効率的に、表面強化処理を行うことができる。また、内周面から、より外周側に深い部分にまで、表面強化処理を行うことができる。
(2)好ましくは、前記軸部は、前記パイプ材の延在方向に沿って移動可能である構成とする方がよい。本構成によると、回転する衝突子をパイプ材の延在方向に移動させることで、パイプ材の内周面の比較的広い範囲に亘り、表面強化処理を施すことができる。
(3)好ましくは、上記(2)の構成において、前記衝突子の軸方向断面は、樽状を呈している構成とする方がよい。本明細書において、衝突子の「軸方向」とは、衝突子と軸部との接続方向をいう。本構成によると、パイプ材の湾曲部位を衝突子が通過する際、湾曲部位に衝突子がひっかかりにくい。このため、表面強化処理を円滑に行うことができる。また、湾曲部位を含む広い範囲に亘り、表面強化処理を施すことができる。
(4)好ましくは、前記軸部は、フレキシブルシャフトである構成とする方がよい。つまり、本構成は、市販のフレキシブルシャフトを軸部として利用するものである。本構成によると、軸部延いては表面強化装置の製造コストを低くすることができる。
(5)好ましくは、前記衝突子の軸直方向断面は、多角形状を呈している構成とする方がよい。本明細書において、衝突子の「軸直方向」とは、衝突子の軸方向に対して、略垂直方向をいう。また、「多角形状」とは、三箇所以上の角部を有する形状(例えば三角形、四角形、五角形、六角形など)をいう。
衝突子の角部の表面積は、比較的小さい。このため、角部は、比較的大きな圧力で、パイプ材の内周面に衝突する。したがって、本構成によると、より効率的に、内周面に圧縮方向の残留応力を付与することができる。また、内周面から、より外周側に深い部分にまで、表面強化処理を行うことができる。
(6)好ましくは、前記衝突子は、複数配置されている構成とする方がよい。本構成によると、パイプ材の内周面の比較的広い範囲に亘り、表面強化処理を施すことができる。
(7)好ましくは、前記衝突子の回転中心は、該衝突子の軸直方向断面の図心に対して、偏心している構成とする方がよい。本構成によると、図心に対する回転中心の偏心分だけ、衝突子の遠心力が大きくなる。このため、パイプ材の内周面に対する衝突力が大きくなる。したがって、例えば、パイプ材の内周径が小さく、衝突子も小さくせざるを得ないような場合であっても、所望の衝突力を確保しやすくなる。
(8)好ましくは、前記衝突子の外面には、複数の突起が配置されている構成とする方がよい。本構成によると、パイプ材の形状に因らず(直線状であるか曲線状であるかに因らず)、パイプ材の内周面に圧縮方向の残留応力を付与することができる。
また、突起は、内周面に点接触する。このため、突起は、比較的大きな圧力で、内周面に衝突する。したがって、本構成によると、より効率的に、内周面に圧縮方向の残留応力を付与することができる。また、内周面から、より外周側に深い部分にまで、表面強化処理を行うことができる。
(9)また、上記課題を解決するため、本発明の表面強化方法は、パイプ材の内周側において衝突子を回転させ、該パイプ材の内周面に該衝突子を衝突させることにより、該内周面に圧縮方向の残留応力を付与することを特徴とする。本発明の表面強化方法は、例えば、パイプ材の製造方法の一工程として実行することができる。また、パイプ材の製造方法から独立して実行することもできる。
表面強化の際、衝突子は、パイプ材の内周側に挿入される。この状態で、パイプ材に対して、衝突子を相対的に回転させることにより、衝突子をパイプ材の内周面に衝突させる。当該衝突により、内周面に圧縮方向の残留応力が付与される。
本発明の表面強化方法によると、高価なショットピーニング装置を使う必要がない。このため、表面強化処理コスト延いてはパイプ材の製造コストが低い。また、前記ショットピーニング処理のように、ショット粒を回収する必要がない。このため、本発明の表面強化方法によると、表面強化処理の作業工数が少ない。また、例えば、衝突子の質量、回転速度などから選ばれる一つあるいは二つ以上のパラメータを適宜変えることにより、あらゆる内周径のパイプ材に対応することができる。このため、本発明の表面強化方法は、汎用性に富む。
好ましくは、上記(9)の構成において、前記パイプ材は、少なくとも一つの湾曲部位を有する構成とする方がよい。パイプ材が湾曲している場合、前記ショットピーニング装置によりパイプ材の湾曲部位に表面強化処理を施そうとすると、ショットピーニング装置の構成が複雑化するおそれがある(特許文献1の[0017]参照)。このため、ショットピーニング装置自体の製造コスト延いては表面強化処理に要するコストが高くなる。これに対し、本発明の表面強化方法によると、比較的簡単に、パイプ材の湾曲部位に、充分な表面強化処理を施すことができる。このため、表面強化処理に要するコストが低い。このように、本発明の表面強化方法は、湾曲部位を有するパイプ材に好適に用いることができる。
好ましくは、上記(9)の構成において、前記パイプ材の湾曲部位は、応力集中部位である構成とする方がよい。パイプ材を構造材として用いる場合、パイプ材には、軽量化(つまり薄肉化)と高強度化という相反するスペックが要求されることがある。パイプ材を薄肉化すると、内周面と外周面との応力差が小さくなる。また、パイプ材の湾曲部位の内周面に、応力集中部位が発現する。この点、本発明の表面強化方法によると、当該応力集中部位に対して、比較的簡単に、充分な表面強化処理を施すことができる。このように、本発明の表面強化方法は、湾曲部位が応力集中部位であるパイプ材に好適に用いることができる。
好ましくは、上記(9)の構成において、前記衝突子は、少なくとも一部が径方向に撓みながら回転する軸部に接続されている構成とする方がよい。本構成によると、軸部を介して、衝突子を回転させることができる。
さらに好ましくは、前記衝突子は、前記軸部の軸方向端部に接続されている構成とする方がよい。つまり、本構成は、軸部により、衝突子を、片持ち梁状に支持するものである。本構成によると、衝突子の質量により、軸部がより撓みやすくなる。このため、内周面に対する衝突力が大きくなる。したがって、より効率的に、表面強化処理を行うことができる。また、内周面から、より外周側に深い部分にまで、表面強化処理を行うことができる。
本発明によると、コストが低く、作業工数が少なく、汎用性に富む表面強化装置および表面強化方法を提供することができる。
以下、本発明の表面強化装置および表面強化方法の実施の形態について説明する。
<第一実施形態>
まず、本実施形態の表面強化装置の構成について説明する。図1に、本実施形態の表面強化装置の斜視図を示す。図1に示すように、表面強化装置1は、フレキシブルシャフト2と衝突子3とを備えている。
フレキシブルシャフト2は、接続端部20とシャフト本体21とアウタチューブ22とを備えている。シャフト本体21は、鋼製撚り線であって可撓性を有している。シャフト本体21は、図示しない芯と四層のワイヤ層とからなる。ワイヤ層は、各々、ワイヤが螺旋状に密着して巻回され形成されている。四層のワイヤ層は、径方向に隣接するワイヤ層同士の巻回方向が互いに反対方向になるように、積層されている。シャフト本体21の軸方向両端には、スウェージング加工が施されている。
接続端部20は、鋼製であって円筒状を呈している。接続端部20は、シャフト本体21の軸方向一端に、環装され、固定されている。なお、シャフト本体21の軸方向他端には、駆動装置(図略)が配置されている。駆動装置は、シャフト本体21を回転させることができる。また、駆動装置は、シャフト本体21を、後述するパイプ材(図略)の延在方向に沿って、移動させることができる。アウタチューブ22は、樹脂製であって可撓性を有している。アウタチューブ22は、シャフト本体21の外周面を覆っている。アウタチューブ22の内周径は、シャフト本体21の外周径よりも、大径である。
衝突子3は、鋼製であって、直方体状を呈している。衝突子3の軸直方向断面は、正方形状を呈している。また、衝突子3の軸直方向最大長さ(正方形の対角線長さ)は、パイプ材の内周径よりも、小さく設定されている。衝突子3における隣り合う平面同士の角部には、R(ラウンド)部30が配置されている。衝突子3の軸方向一端面には、接続端部20が接続されている。このため、シャフト本体21が回転すると、接続端部20を介して、衝突子3に回転力が伝達される。
次に、本実施形態の表面強化方法について説明する。図2に、本実施形態の表面強化方法を実施している表面強化装置の斜視図を示す。図3に、同装置の正面図を示す。図4に、同装置の側面図を示す。
これらの図に示すように、衝突子3は、鋼製のパイプ材9の内周側に挿入されている。なお、パイプ材9は、中空スタビライザーの中間体である。すなわち、本実施形態の表面強化方法は、中空スタビライザーの製造方法おいて、成形工程の後に実施される。成形によって全体形状が形成されると、表面強化装置1を使って、パイプ材9内所要の部位に残留応力が付与される。以降、他の部位の最終加工、仕上げ等が行われた後、塗装を行い完成品となる。
前述したように、衝突子3には、駆動装置から、シャフト本体21と接続端部20とを介して、回転力が伝達される。このため、衝突子3は、図中白抜き矢印A1で示すように、回転する。ここで、衝突子3は、フレキシブルシャフト2の撓みにより、また衝突子3自身の遠心力により、ちょうど跳ね回るように、内周面90に衝突しながら回転する。回転の際、例えば、衝突子3のR部30が、内周面90に衝突する。この衝突により、内周面90に圧縮方向の残留応力が付与される。
並びに、衝突子3には、駆動装置から、シャフト本体21と接続端部20とを介して、パイプ材9延在方向の移動力が伝達される。このため、衝突子3は、図中白抜き矢印A2で示すように、パイプ材9の延在に沿って移動する。つまり、衝突子3は、白抜き矢印A1方向に回転しながら、白抜き矢印A2方向に牽引される。このため、衝突子3は、パイプ材9の内周側を、あたかものたうち回るように、移動する。この衝突子3の動きにより、パイプ材9の延在方向所定区間(応力集中部位を含む区間)に、表面強化処理が施される。
次に、本実施形態の表面強化装置および表面強化方法の作用効果について説明する。本実施形態の表面強化装置1は、フレキシブルシャフト2と衝突子3とから構成されている。このため、部品構成が単純である。したがって、故障に対する信頼性が高い。また、製造コストが低い。また、前記ショットピーニング処理のように、ショット粒を回収する必要がない。このため、本実施形態の表面強化装置1によると、表面強化処理の作業工数が少ない。
また、例えば、衝突子3の質量や、フレキシブルシャフト2の回転速度や、フレキシブルシャフト2に対する衝突子3の配置などから選ばれる一つあるいは二つ以上のパラメータを適宜変えることにより、あらゆる内周径のパイプ材9に対応することができる。このため、本実施形態の表面強化装置1は、汎用性に富む。
また、本実施形態の表面強化装置1によると、衝突子3が、フレキシブルシャフト2の軸方向端部に接続されている。つまり、フレキシブルシャフト2により、衝突子3は、片持ち梁状に支持されている。このため、衝突子3の質量により、フレキシブルシャフト2がより撓みやすくなる。したがって、回転時の衝突子3の遠心力、つまり内周面に対する衝突子3の衝突力が大きくなる。すなわち、より効率的に、表面強化処理を行うことができる。また、内周面90から、より外周側に深い部分にまで、表面強化処理を行うことができる。
また、本実施形態の表面強化装置1によると、パイプ材9の延在方向に沿って、フレキシブルシャフト2が移動可能である。このため、回転する衝突子3をパイプ材9の延在方向に移動させることで、言い換えると螺旋状に衝突子3を移動させることで、パイプ材9の内周面90の比較的広い範囲に亘り、表面強化処理を施すことができる。したがって、応力集中部位が広範囲に亘る場合、あるいは応力集中部位がパイプ材9の延在方向に沿って、複数箇所存在する場合であっても、まんべんなく表面強化処理を施すことができる。
また、本実施形態の表面強化装置1によると、本発明の軸部として市販のフレキシブルシャフト2が用いられている。このため、軸部延いては表面強化装置1の製造コストを低くすることができる。
また、本実施形態の表面強化装置1によると、衝突子3の角部にR部30が配置されている。内周面90に対するR部30の接触面積は、比較的小さい。このため、R部30は、比較的大きな圧力で、パイプ材9の内周面90に衝突する。したがって、より効率的に、内周面90に圧縮方向の残留応力を付与することができる。また、内周面90から、より外周側に深い部分にまで、表面強化処理を行うことができる。
また、本実施形態の表面強化装置1により表面強化処理が施される中空スタビライザーは、比較的多数の湾曲部位を有している。ここで、湾曲部位の内周面が応力集中部位となる場合がある。前記ショットピーニング装置によりパイプ材9の湾曲部位に表面強化処理を施すと、ショットピーニング装置の構成が複雑化するおそれがあった。これに対し、本実施形態の表面強化装置1によると、単純な構成にもかかわらず、比較的簡単に、湾曲部位つまり応力集中部位に、充分な表面強化処理を施すことができる。また、本実施形態の表面強化装置1によると、シャフト本体21が、鋼製撚り線により形成されている。このため、シャフト本体21の耐回転トルク剛性が高い。
<第二実施形態>
本実施形態と第一実施形態との相違点は、衝突子の軸方向断面が樽状を呈している点である。したがって、ここでは相違点についてのみ説明する。図5に、本実施形態の表面強化装置の斜視図を示す。なお、図1と対応する部位については、同じ符号で示す。
図5に示すように、衝突子3の軸方向中央部は、軸方向両端部よりも、大径に形成されている。すなわち、衝突子3の軸方向断面は、樽状を呈している。図6に、本実施形態の表面強化方法を実施している表面強化装置の側面図を示す。なお、図4と対応する部位については、同じ符号で示す。図6に示すように、樽状の衝突子3は、フレキシブルシャフト2に牽引されながら、パイプ材9の湾曲部位91を通過する。フレキシブルシャフト2は、湾曲部位91の湾曲内周側を通過する。このため、衝突子3の回転中心も、湾曲部位91の湾曲内周側に偏る。
本実施形態の表面強化装置1および表面強化方法は、第一実施形態の表面強化装置および表面強化方法と、同様の作用効果を有する。また、本実施形態の表面強化装置1によると、衝突子3の軸方向断面が、樽状を呈している。このため、湾曲部位91を衝突子3が通過する際、湾曲部位91の内周面90の湾曲内周側に、衝突子3がひっかかりにくい。したがって、表面強化処理を円滑に行うことができる。また、湾曲部位91を含む広い範囲に亘り、表面強化処理を施すことができる。
<第三実施形態>
本実施形態と第一実施形態との相違点は、軸部(第一実施形態のフレキシブルシャフトに相当)の一部のみが可撓性を有する点である。したがって、ここでは相違点についてのみ説明する。図7に、本実施形態の表面強化装置の斜視図を示す。図8に、同表面強化装置の分解斜視図を示す。なお、これらの図において、図1と対応する部位については、同じ符号で示す。
図7、図8に示すように、軸部4は、軸部本体40とコイルばね42とを備えている。軸部本体40は、鋼製であって丸棒状を呈している。軸部本体40は、表面強化処理の際、回転しても、径方向に撓まない。軸部本体40の一端には、段差を介して、小径部41が形成されている。一方、衝突子3の軸方向一面からは、ボス部31が突設されている。小径部41とボス部31との間には、ばね鋼製のコイルばね42が介装されている。コイルばね42の一端は、小径部41外周面に固定されている。一方、コイルばね42の他端は、ボス部31外周面に固定されている。表面強化処理の際、軸部本体40が回転すると、コイルばね42は、軸部本体40の径方向に撓む。この撓みにより、衝突子3は、パイプ材の内周面(図略)に衝突する。
本実施形態の表面強化装置1および表面強化方法は、第一実施形態の表面強化装置および表面強化方法と、同様の作用効果を有する。また、本実施形態の表面強化装置1によると、表面強化処理の際、軸部本体40が撓まない。このため、軸部本体40とパイプ材とを同軸上に配置することができる。つまり、軸部本体40からパイプ材の内周面までの距離を、内周面全周に亘り、均等にすることができる。このため、内周面全周に亘り、均質に表面強化処理を施すことができる。
また、パイプ材の内周面に衝突子3が引っかかる場合であっても、引っかかりに起因する引っ張り力が、コイルばね42の弾性変形により吸収される。このため、当該引っ張り力が、軸部本体40延いては駆動装置(図略)に伝達しにくい。したがって、駆動装置に負荷が加わるのを抑制することができる。
<第四実施形態>
本実施形態と第一実施形態との相違点は、衝突子が複数連設されている点である。したがって、ここでは相違点についてのみ説明する。図9に、本実施形態の表面強化方法を実施している表面強化装置の側面図を示す。なお、図4と対応する部位については、同じ符号で示す。
図9に示すように、フレキシブルシャフト2の一端には、合計三つの衝突子3a〜3cが、直列に連設されている。衝突子3aと衝突子3bとは、接続端部20aとシャフト本体21aと接続端部20bとにより、接続されている。衝突子3bと衝突子3cとは、接続端部20cとシャフト本体21bと接続端部20dとにより、接続されている。シャフト本体21a、21bは、共に可撓性を有している。
本実施形態の表面強化装置1および表面強化方法は、第一実施形態の表面強化装置および表面強化方法と、同様の作用効果を有する。また、本実施形態の表面強化装置1によると、パイプ材9の内周面90の比較的広い範囲に亘り、一度に表面強化処理を施すことができる。このため、衝突子3a〜3cが、図中白抜き矢印A2で示すように、パイプ材9の延在に沿って移動することと相俟って、より効率的に、表面強化処理を実施することができる。
<第五実施形態>
本実施形態と第一実施形態との相違点は、衝突子がフレキシブルシャフトの軸方向中央に配置されている点である。したがって、ここでは相違点についてのみ説明する。図10に、本実施形態の表面強化方法を実施している表面強化装置の側面図を示す。なお、図4と対応する部位については、同じ符号で示す。
図10に示すように、衝突子3dの軸方向一端面には、接続端部20eが固定されている。接続端部20eには、可撓性のシャフト本体21cの一端が固定されている。シャフト本体21cの他端は、第一駆動装置(図略)に接続されている。また、シャフト本体21cの外周側には、可撓性のアウタチューブ22aが配置されている。
一方、衝突子3dの軸方向他端面には、接続端部20fが固定されている。接続端部20fには、可撓性のシャフト本体21dの一端が固定されている。シャフト本体21dの他端は、第二駆動装置(図略)に接続されている。また、シャフト本体21dの外周側には、可撓性のアウタチューブ22bが配置されている。図中白抜き矢印A3に示すように、第一駆動装置および第二駆動装置に牽引されることより、衝突子3dは、パイプ材9の延在方向に沿って、双方向に移動可能である。
本実施形態の表面強化装置1および表面強化方法は、第一実施形態の表面強化装置および表面強化方法と、同様の作用効果を有する。また、本実施形態の表面強化装置1によると、衝突子3dが、パイプ材9の延在方向に沿って、往復動することができる。このため、より効率的に、表面強化処理を施すことができる。また、接続端部20eと接続端部20fとの軸方向間隔を変えることにより、表面強化処理時における、衝突子3dの径方向への移動量を調整することができる。このため、表面強化処理の程度を調整することができる。
<第六実施形態>
本実施形態と第一実施形態との相違点は、衝突子の軸直方向断面が、正三角形状を呈している点である。したがって、ここでは相違点についてのみ説明する。図11に、本実施形態の表面強化装置の衝突子の軸直方向断面図を示す。なお、図1と対応する部位については、同じ符号で示す。
図11に示すように、衝突子3の軸直方向断面は、正三角形状を呈している。隣り合う平面同士の角部には、曲面状のR部30が介在している。本実施形態の表面強化装置1および表面強化方法は、第一実施形態の表面強化装置および表面強化方法と、同様の作用効果を有する。
<第七実施形態>
本実施形態と第一実施形態との相違点は、衝突子の軸直方向断面が、正六角形状を呈している点である。したがって、ここでは相違点についてのみ説明する。図12に、本実施形態の表面強化装置の衝突子の軸直方向断面図を示す。なお、図1と対応する部位については、同じ符号で示す。
図12に示すように、衝突子3の軸直方向断面は、正六角形状を呈している。隣り合う平面同士の角部には、R部が配置されていない。このため、角部は角張っている。本実施形態の表面強化装置1および表面強化方法は、第一実施形態の表面強化装置および表面強化方法と、同様の作用効果を有する。
<第八実施形態>
本実施形態と第一実施形態との相違点は、衝突子が分割可能な点である。したがって、ここでは相違点についてのみ説明する。図13に、本実施形態の表面強化装置の分解斜視図を示す。なお、図1と対応する部位については、同じ符号で示す。
図13に示すように、接続端部20の軸方向一端には、円板状のフランジ部200と丸棒状のロッド部201とが形成されている。このため、接続端部20は、全体として竹刀状を呈している。ロッド部201の外周面には、螺旋状のねじ部202が形成されている。
衝突子3は、合計五つのウェイト32a〜32eと、ナット33と、を備えている。ウェイト32a〜32eは、各々、正方形の板状を呈している。ウェイト32a〜32e各々における隣り合う平面同士の角部には、R部(図略)が配置されている。ウェイト32aの中央にはロッド部貫通孔320aが、ウェイト32bの中央にはロッド部貫通孔320bが、ウェイト32cの中央にはロッド部貫通孔320cが、ウェイト32dの中央にはロッド部貫通孔320dが、ウェイト32eの中央にはロッド部貫通孔320eが、それぞれ穿設されている。ロッド部201は、これら五つのロッド部貫通孔320a〜320eを、貫通している。ロッド部201の先端には、ナット33が止着されている。ナット33内周面のナット側ねじ部(図略)は、ロッド部201外周面のねじ部202と、螺合している。
ナット側ねじ部の螺旋方向は、衝突子3の回転方向に対して、反対方向(つまり衝突子3が回転する際、ねじ部202とナット側ねじ部との螺合が締まる方向)に設定されている。
本実施形態の表面強化装置1および表面強化方法は、第一実施形態の表面強化装置および表面強化方法と、同様の作用効果を有する。また、本実施形態の表面強化装置1によると、ウェイト32a〜32eの数を、0個から5個の範囲で、調整することができる。このため、パイプ材の内周面(図略)に対する衝突子3の衝突力を、調整することができる。
また、上述したように、ナット側ねじ部の螺旋方向は、衝突子3の回転方向に対して、反対方向に設定されている。このため、ナット33とロッド部201との結合が、衝突子3の回転により緩むのを抑制することができる。
<第九実施形態>
本実施形態と第一実施形態との相違点は、衝突子の角部に複数の突起が形成されている点である。したがって、ここでは相違点についてのみ説明する。図14に、本実施形態の表面強化装置の斜視図を示す。なお、図1と対応する部位については、同じ符号で示す。
図14に示すように、衝突子3の軸方向に延在する角部には、複数の突起34が配置されている。突起34は、各々、四角錐状を呈している。突起34の列は、軸方向に沿って、合計四列配列されている。
本実施形態の表面強化装置1および表面強化方法は、第一実施形態の表面強化装置および表面強化方法と、同様の作用効果を有する。また、本実施形態態の表面強化装置1によると、パイプ材(図略)の形状に因らず(直線状であるか曲線状であるかに因らず)、パイプ材の内周面(図略)に、圧縮方向の残留応力を付与することができる。また、突起34は、内周面に点接触する。このため、突起34は、比較的大きな圧力で、内周面に衝突する。したがって、より効率的に、内周面に圧縮方向の残留応力を付与することができる。また、内周面から、より外周側に深い部分にまで、表面強化処理を行うことができる。
<第十実施形態>
本実施形態と第一実施形態との相違点は、接続端部が、衝突子の軸直方向断面の図心に対して、偏って接続されている点である。したがって、ここでは相違点についてのみ説明する。図15に、本実施形態の表面強化装置の衝突子の軸直方向断面図を示す。なお、図1と対応する部位については、同じ符号で示す。
図15に示すように、接続端部20(図中、点線で示す)は、衝突子3の任意の軸直方向断面の図心Gに対して、偏って接続されている。つまり、衝突子3の回転中心Oは、図心Gに対して、偏心している。
本実施形態の表面強化装置1および表面強化方法は、第一実施形態の表面強化装置および表面強化方法と、同様の作用効果を有する。また、本実施形態態の表面強化装置によると、図心Gに対する回転中心Oの偏心分だけ、衝突子3の遠心力が大きくなる。このため、パイプ材の内周面(図略)に対する衝突力が大きくなる。したがって、例えば、パイプ材の内周径が小さく、衝突子3も小さくせざるを得ないような場合であっても、所望の衝突力を確保することができる。
<その他>
以上、本発明の表面強化装置および表面強化方法の実施の形態について説明した。しかしながら、実施の形態は上記形態に特に限定されるものではない。当業者が行いうる種々の変形的形態、改良的形態で実施することも可能である。
例えば、衝突子3の形状は、特に限定しない。例えば、軸直方向断面形状が、正方形、正三角形、正六角形以外の多角形状であってもよい。また、円形、楕円形、長円形(運動場のトラックのように、一対の向かい合う半円同士が直線で接続された形状)などであってもよい。同様に、軸方向断面形状が、多角形、円形、楕円形、長円形などであってもよい。また、衝突子3の大きさは特に限定しない。パイプ材9に挿入できればよい。また、衝突子3の質量も特に限定しない。所望の衝突力に応じて、適宜調整すればよい。また、衝突子3の個数も特に限定しない。表面強化処理の対象となる部位の広さや、表面強化処理に割ける時間などを考慮して、適宜調整すればよい。また、衝突子3の材質も特に限定しない。鋼製に限られず、他の金属製(例えば非鉄金属製)としてもよい。また、衝突子3の硬度も特に限定しない。パイプ材9の硬度に応じて、適宜設定すればよい。
また、フレキシブルシャフト2やコイルばね42の撓みの程度も特に限定しない。また、上記第三実施形態のように、軸部4が剛体(軸部本体40)と弾性体(コイルばね42)とから構成される場合、弾性体の数、配置場所は特に限定しない。例えば、剛体の軸方向中央に弾性体を介装してもよい。また、弾性体として、コイルばね42以外のばね、ゴム部材などを用いてもよい。
また、上記実施形態においては、本発明の表面強化装置および表面強化方法を、中空スタビライザーの製造に用いたが、例えば中空ステアリングシャフトや中空トーションバーや中空ストラットタワーバーや自転車のフレームなど、他のパイプ材の製造に用いてもよい。また、パイプ材9の軸直方向断面形状は、円形の他、楕円形、長円形、三角形、四角形などであってもよい。
また、上記実施形態においては、駆動装置を用いて自動で衝突子3を駆動したが、手動のみ、あるいは手動と自動とを併用して、衝突子3を駆動してもよい。例えば、駆動装置により衝突子3を回転させ、当該駆動装置を作業者が引っ張ることにより、衝突子3をパイプ材9の延在方向に動かしてもよい。こうすると、駆動装置にかかるコスト延いては表面強化処理に要するコストが低くなる。
また、上記第四実施形態においては、同じ衝突子3a〜3cを連設した。しかしながら、大きさ、形状、質量、材質、硬度などが異なる衝突子を連設してもよい。また、連設する衝突子の数も特に限定しない。
また、上記実施形態においては、軸部としてフレキシブルシャフト2を配置したが、軸部の形状、材質などは特に限定しない。また、上記実施形態のシャフト本体21、21a〜21dの代わりに、ワイヤロープなどを配置してもよい。さらに、同等の機能を確保できれば、他の部材(例えば密着したコイルばねなど)を配置してもよい。
また、上記実施形態のアウタチューブ22、22a、22bの構成は、特に限定しない。アウタケーブル用の構成を用いてもよい。例えば、密着巻鋼線に樹脂被覆を施した筒状体に、樹脂ライナーを挿入した構成を用いてもよい。また、樹脂ライナー外周面に金属線を巻き付け、樹脂被覆した構成を用いてもよい。
また、第五実施形態以外の実施形態においては、衝突子3、3a〜3cを、パイプ材9の延在方向に沿って、一方向に移動させた。しかしながら、衝突子3、3a〜3cを、パイプ材9の延在方向に沿って、双方向に移動させてもよい。
また、第四実施形態におけるシャフト本体21、21a、21bは、単一部材であってもよい。この場合、単一部材であるシャフト本体が、衝突子3a、3bを貫通することになる。同様に、第五実施形態におけるシャフト本体21c、21dは、単一部材であってもよい。この場合、単一部材であるシャフト本体が、衝突子3dを貫通することになる。
また、第八実施形態のウェイト32a〜32eのロッド部貫通孔320a〜320eの内周面に、ねじ部202と螺合するウェイト側ねじ部を、配置してもよい。こうすると、ナット33が不要となる。好ましくは、ウェイト側ねじ部の螺旋方向を、衝突子3の回転方向に対して、反対方向(つまり衝突子3が回転する際、ねじ部202とウェイト側ねじ部との螺合が締まる方向)に設定した方がよい。こうすると、ウェイト32a〜32eとロッド部201との結合が、衝突子3の回転により緩むのを抑制することができる。
また、第九実施形態以外の実施形態の衝突子3、3a〜3dに、複数の突起34を配置してもよい。例えば、第二実施形態の衝突子3(軸方向断面が樽状を呈している)の角部に、軸方向に延びる突起34の列を配列してもよい。また、例えば、衝突子の形状を円柱状として、所定角度ごとに離間して、軸方向に延びる突起34の列を配列してもよい。
複数の突起34を配置すると、突起34の頂部が、パイプ材の形状に因らず(直線状であるか曲線状であるかに因らず)、パイプ材の内周面に、点接触する。このため、突起34は、比較的大きな圧力で、内周面に衝突する。なお、突起34の列を配列する場合、列の本数は特に限定しない。また、突起34の配置数も特に限定しない。
また、突起34の形状も特に限定しない。四角錐以外の形状であってもよい。例えば、円錐状、三角錐状、五角錐状、針状などであってもよい。また、突起34の形状は、衝突子3の周方向に対称でなくてもよい。例えば、突起34の頂部が、衝突子3の回転方向に尖る形状(例えば丸鋸の刃状)であってもよい。
また、第十実施形態においては、図心Gに対して、接続端部20の接続位置をずらすことにより、回転中心Oを偏心させた。しかしながら、回転中心Oの偏心方法は特に限定しない。例えば、図心Gと接続端部20の接続位置とをずらさない代わりに、衝突子3内部にウェイトを埋設し、敢えて衝突子3の回転バランスを崩すことにより、図心Gに対して回転中心Oを偏心させてもよい。
1:表面強化装置、2:フレキシブルシャフト、20:接続端部、20a〜20f:接続端部、200:フランジ部、201:ロッド部、202:ねじ部、21:シャフト本体、21a〜21d:シャフト本体、22:アウタチューブ、22a:アウタチューブ、22b:アウタチューブ、3:衝突子、3a〜3d:衝突子、30:R部、31:ボス部、32a〜32e:ウェイト、320a〜320e:ロッド部貫通孔、33:ナット、34:突起、4:軸部、40:軸部本体、41:小径部、42:コイルばね、9:パイプ材、90:内周面、91:湾曲部位、A1〜A3:白抜き矢印、G:図心、O:回転中心。