図1は、この発明にかかるトルクカム装置を備えるベルト式無段変速機のスケルトン図である。図2は、トルクカム装置の構成例を示す図である。図3−1は、第1カム装置の動作説明図である。図3−2は、第2カム装置の動作説明図である。図4−1は、第1カム装置の動作説明図である。図4−2は、第2カム装置の動作説明図である。なお、この実施例における駆動力F1は、図1および図2において、動力伝達軸側からトルクカム装置を見た際に、時計回りに発生するものとする。また、図2においては、中心線O−Oから上側が変速比最小時におけるトルクカム装置を示し、中心線O−Oから下側が変速比最大時におけるトルクカム装置を示す。また、図3−1は図2のC−C断面図、図3−2は図2のD―D断面図、図4−1は図2のE−E断面図、図4−2は図2のF−F断面図である。
図1に示すように、内燃機関10の出力側には、トランスアクスル20が配置されている。このトランスアクスル20は、トランスアクスルハウジング21と、このトランスアクスルハウジング21に取り付けられたトランスアクスルケース22と、このトランスアクスルケース22に取り付けられたトランスアクスルリヤカバー23とにより構成されている。
このトランスアクスルハウジング21の内部には、トルクコンバータ30が収納されている。一方、トランスアクスルケース22とトランスアクスルリヤカバー23とにより構成されるケース内部には、この発明にかかるベルト式無段変速機1を構成する2つのプーリであるプライマリプーリ50およびセカンダリプーリ60と、プライマリプーリ50におけるベルト挟圧力を発生するプライマリ油室54、セカンダリプーリ60におけるベルト挟圧力を発生するセカンダリ油室64およびこの発明にかかるトルクカム装置70と、ベルト100とが収納されている。なお、40は前後進切換機構、80は車輪110に内燃機関10の駆動力を伝達する最終減速機、90は動力伝達経路である。
発進機構であるトルクコンバータ30は、図1に示すように、駆動源からの駆動力、すなわち内燃機関10からの出力トルクを増加、あるいはそのままベルト式無段変速機1に伝達するものである。このトルクコンバータ30は、少なくともポンプ(ポンプインペラ)31と、タービン(タービンインペラ)32と、ステータ33と、ロックアップクラッチ34と、ダンパ装置35とにより構成されている。
ポンプ31は、内燃機関10のクランクシャフト11と同一の軸線を中心に回転可能な中空軸36に取り付けられている。つまり、ポンプ31は、中空軸36とともに、クランクシャフト11と同一の軸線を中心に回転可能である。また、ポンプ31は、フロントカバー37に接続されている。このフロントカバー37は、内燃機関10のドライブプレート12を介して、クランクシャフト11に連結されている。
タービン32は、上記ポンプ31と対向するように配置されている。このタービン32は、上記中空軸36内部に配置され、クランクシャフト11と同一の軸線を中心に回転可能なインプットシャフト38に取り付けられている。つまり、タービン32は、インプットシャフト38とともに、クランクシャフト11と同一の軸線を中心に回転可能である。
ポンプ31とタービン32との間には、ワンウェイクラッチ39を介してステータ33が配置されている。このワンウェイクラッチ39は、上記トランスアクスルハウジング21に固定されている。また、タービン32とフロントカバー37との間には、ロックアップクラッチ34が配置されており、このロックアップクラッチ34は、ダンパ装置35を介してインプットシャフト38に連結されている。なお、上記ポンプ31やフロントカバー37により形成されるケーシングには、図示しない作動油供給制御装置から作動流体として作動油が供給されている。
ここで、このトルクコンバータ30の動作について説明する。内燃機関10からの出力トルクは、クランクシャフト11からドライブプレート12を介して、フロントカバー37に伝達される。ロックアップクラッチ34がダンパ装置35により解放されている場合は、フロントカバー37に伝達された内燃機関10からの出力トルクがポンプ31に伝達され、このポンプ31とタービン32との間を循環する作動油を介して、タービン32に伝達される。そして、タービン32に伝達された内燃機関10からの出力トルクは、インプットシャフト38に伝達される。つまり、トルクコンバータ30は、インプットシャフト38を介して、内燃機関10からの出力トルクを増加して後述するベルト式無段変速機1に伝達する。上記においては、ステータ33により、ポンプ31とタービン32との間を循環する作動油の流れを変化させ所定のトルク特性を得ることができる。
一方、上記ロックアップクラッチ34がダンパ装置35によりロック(フロントカバー37と係合)されている場合は、フロントカバー37に伝達された内燃機関10からの出力トルクは、作動油を介さずに直接インプットシャフト38に伝達される。つまり、トルクコンバータ30は、インプットシャフト38を介して、内燃機関10からの出力トルクをベルト式無段変速機1に伝達する。
トルクコンバータ30と後述する前後進切換機構40との間には、オイルポンプ26が設けられている。このオイルポンプ26は、ロータ27と、ハブ28と、ボディ29とにより構成されている。このオイルポンプ26は、ロータ27により円筒形状のハブ28を介して、上記ポンプ31に接続されている。また、ボディ29が上記トランスアクスルケース22に固定されている。また、ハブ28は、上記中空軸36にスプライン嵌合されている。従って、オイルポンプ26は、内燃機関10からの出力トルクがポンプ31を介してロータ27に伝達されるので、駆動することができる。
前後進切換機構40は、図1に示すように、トルクコンバータ30を介して伝達された内燃機関10からの出力トルクをベルト式無段変速機1のプライマリプーリ50に伝達するものである。この前後進切換機構40は、少なくとも遊星歯車装置41とフォワードクラッチ42と、リバースブレーキ43とにより構成されている。
遊星歯車装置41は、サンギヤ44と、ピニオン45と、リングギヤ46とにより構成されている。
サンギヤ44は、図示しない連結部材にスプライン嵌合されている。この連結部材は、後述するプライマリプーリ50のプライマリプーリ軸51にスプライン嵌合されている。従って、サンギヤ44に伝達された内燃機関10からの出力トルクは、プライマリプーリ軸51に伝達される。
ピニオン45は、サンギヤ44と噛み合い、その周囲に複数個(例えば、3個)配置されている。各ピニオン45は、サンギヤ44の周囲で一体に公転可能に支持する切換用キャリヤ47に保持されている。この切換用キャリヤ47は、その外周端部においてリバースブレーキ43に接続されている。
リングギヤ46は、切換用キャリヤ47に保持された各ピニオン45と噛み合い、フォワードクラッチ42を介して、トルクコンバータ30のインプットシャフト38に接続されている。
フォワードクラッチ42は、図示しない作動油供給制御装置からインプットシャフト38の図示しない中空部に供給された作動油により、ON/OFF制御されるものである。フォワードクラッチ42のOFF時には、インプットシャフト38に伝達された内燃機関10からの出力トルクがリングギヤ46に伝達される。一方、フォワードクラッチ42のON時には、リングギヤ46とサンギヤ44と各ピニオン45とが互いに相対回転することなく、インプットシャフト38に伝達された内燃機関10からの出力トルクが直接サンギヤ44に伝達される。
リバースブレーキ43は、図示しない作動油供給制御装置から作動油が供給された図示しないブレーキピストンにより、ON/OFF制御されるものである。リバースブレーキ43がON時には、切換用キャリヤ47がトランスアクスルケース22に固定され、各ピニオン45がサンギヤ44の周囲を公転できない状態となる。リバースブレーキ43がOFF時には、切換用キャリヤ47が解放され、各ピニオン45がサンギヤ44の周囲を公転できる状態となる。
ベルト式無段変速機1のプライマリプーリ50は、前後進切換機構40を介して伝達された内燃機関10からの出力トルクを後述するベルト100により、セカンダリプーリ60に伝達するものである。このプライマリプーリ50は、図1に示すように、プライマリプーリ軸51と、プライマリ固定シーブ52と、プライマリ可動シーブ53と、このプライマリプーリ50にベルト挟圧力を発生させることでベルト式無段変速機1の変速比を変更するプライマリ油室54とにより構成されている。
プライマリプーリ軸51は、軸受101,102により回転可能に支持されている。また、プライマリプーリ軸51は、内部に図示しない作動油通路を有しており、この作動油通路には、図示しない作動油供給制御装置からプライマリ油室54に供給される作動油が流入する。
プライマリ固定シーブ52は、プライマリ可動シーブ53と対向するように、プライマリプーリ軸51の外周に一体的に設けられている。プライマリ可動シーブ53は、プライマリプーリ軸51にこのプライマリプーリ軸51上を軸線方向に摺動可能にスプライン嵌合されている。このプライマリ固定シーブ52とプライマリ可動シーブ53との間、すなわちプライマリ固定シーブ52のプライマリ可動シーブ53に対向する面と、プライマリ可動シーブ53のプライマリ固定シーブ52と対向する面との間で、V字形状のプライマリ溝100aが形成されている。
プライマリ油室54は、プライマリ可動シーブ53のプライマリ固定シーブ52と対向する面と反対側の背面53aと、プライマリプーリ軸51に固定された円板形状のプライマリ隔壁55とに構成されている。プライマリ可動シーブ53の背面53aには、軸方向の一方向に突出、すなわちトランスアクスルリヤカバー23側に突出する環状の突出部53bが形成されている。一方、プライマリ隔壁55には、軸方向の他方向、すなわちプライマリ可動シーブ53側に突出する環状の突出部55aが形成されている。この突出部53bと突出部55aとの間には、例えばシールリングなどの図示しないシール部材が設けられている。つまり、プライマリ油室54を構成するプライマリ可動シーブ53の背面53aとプライマリ隔壁55とは、シール部材によりシールされている。
このプライマリ油室54には、図示しない作動油供給孔を介して、セカンダリプーリ軸61の図示しない作動油通路に流入した作動油が供給される。つまり、作動油供給制御装置は、プライマリ油室54に作動油を供給し、この供給された作動油の圧力により、プライマリ可動シーブ53を軸方向に摺動させ、このプライマリ可動シーブ53をプライマリ固定シーブ52に対して接近あるいは離隔させるものである。プライマリ油室54は、このプライマリ油室54に供給される作動油により、プライマリ可動シーブ53に軸方向の押圧力を作用させることで、プライマリ溝100aに巻き掛けられるベルト100に対するベルト挟圧力を発生させ、プライマリ可動シーブ53のプライマリ固定シーブ52に対する軸方向位置を変更するものである。これにより、プライマリ油室54は、ベルト式無段変速機1の変速比を変更させる変速比変更手段としての機能を有するものである。
ベルト式無段変速機1のセカンダリプーリ60は、ベルト100によりプライマリプーリ50に伝達された内燃機関10からの出力トルクをベルト式無段変速機1の最終減速機80に伝達するものである。このセカンダリプーリ60は、図1に示すように、セカンダリプーリ軸61と、セカンダリ固定シーブ62と、セカンダリ可動シーブ63と、このセカンダリプーリ60にベルト挟圧力を発生させるセカンダリ油室64とにより構成されている。
セカンダリプーリ軸61は、図1に示すように、軸受103,104により回転可能に支持されている。このセカンダリプーリ軸61と、セカンダリプーリ軸61の径方向外側に配置される動力伝達軸91との間に図示しない作動油通路が形成されており、この作動油通路には図示しない作動油供給制御装置からセカンダリ油室64に供給される作動流体である作動油が流入する。
セカンダリ固定シーブ62は、セカンダリ可動シーブ63と対向するように、セカンダリプーリ軸61の外周に一体的に設けられている。上記セカンダリ可動シーブ63は、セカンダリプーリ軸61にこのセカンダリプーリ軸61上を軸方向に摺動可能にスプライン嵌合されている。このセカンダリ固定シーブ62とセカンダリ可動シーブ63との間、すなわちセカンダリ固定シーブ62のセカンダリ可動シーブ63に対向する面と、セカンダリ可動シーブ63のセカンダリ固定シーブ62と対向する面との間で、V字形状のセカンダリ溝100bが形成されている。
セカンダリ油室64は、セカンダリ可動シーブ63のセカンダリ固定シーブ62と対向する面と反対側の背面63aと、セカンダリ隔壁65との間に形成されている。
セカンダリ隔壁65は、軸方向断面がL字状のリング状部材であり、セカンダリプーリ軸61に軸受103および105により回転可能に支持されている。また、このセカンダリ隔壁65は、動力伝達経路90の動力伝達軸91に連結されている。ここで、このセカンダリ隔壁65は、セカンダリプーリ軸61に対する軸方向への相対移動が規制されている。従って、セカンダリ隔壁65は、セカンダリ可動シーブ63に対して回転可能であるが、セカンダリ可動シーブ63に対して軸方向への移動は規制されている。このセカンダリ隔壁65は、径方向外側の端部からセカンダリプーリ側に突出する突出部65aが形成されている。この突出部65aの径方向外側には、スプライン65bが形成されている。このスプライン65bは、捻れスプラインであり、軸方向と平行ではなく、この軸方向に対して傾斜して形成されている。具体的には、このスプライン65bは、この実施例では動力伝達軸側からトルクカム装置70を見て、セカンダリプーリ側に向かって反時計回りに捻れている。つまり、スプライン65bは、駆動力F1によりセカンダリプーリ60が回転する方向に捻れている。
また、セカンダリ隔壁65には、セカンダリプーリ軸61の径方向外側に配置される動力伝達軸91との間に形成された図示しない作動油通路から油室64に作動油を供給する作動油供給孔65cが形成されている。また、セカンダリ隔壁65には、この油室64に供給された作動油をカム油室77に供給する作動油供給孔65dが形成されている。
ここで、66は、セカンダリ可動シーブ63の背面63aから軸方向の他方向に突出、すなわち動力伝達軸側に突出するリング状の補助隔壁である。この補助隔壁66と、後述するセカンダリ隔壁65のスプライン65bとスプライン嵌合するトルクカム装置70の入力側被駆動カム部材76に設けられた補助隔壁79bとの間には、例えばシールリングなどのシール部材Sが設けられている。
セカンダリ油室64には、作動油供給孔65cを介して、図2の矢印Aに示すように、セカンダリプーリ軸61と動力伝達軸91との間の図示しない作動油通路に流入した作動油が供給される。つまり、作動油供給制御装置は、セカンダリ油室64に作動油を供給し、この供給された作動油の油圧により、セカンダリ可動シーブ63を軸方向に摺動させ、セカンダリ可動シーブ63をセカンダリ固定シーブ62に対して接近あるいは離隔させるものである。セカンダリ油室64は、このセカンダリ油室64に供給される作動油により、セカンダリ可動シーブ63に軸方向のうち一方向の押圧力を作用させることで、セカンダリ溝100bに巻き掛けられるベルト100に対するベルト挟圧力を発生させ、ベルト100のプライマリプーリ50およびセカンダリプーリ60に対する接触半径を一定に維持する機能の一部を担うものである。
トルクカム装置70は、図2に示すように、第1カム装置71と、第2カム装置72と、アクチュエータとして機能するカム油室77とにより構成されている。
第1カム装置71は、入力側駆動カム部材73と、出力側駆動カム部材74とにより構成されている。この第1カム装置71は、後述する駆動力F1を伝達するとともに、軸方向のうち一方向に推力を発生するものである。
入力側駆動カム部材73は、セカンダリ可動シーブ63の背面63aから軸方向の他方向、すなわち動力伝達軸側に突出して形成されている。つまり、入力側駆動カム部材73は、セカンダリ可動シーブ63に一体に形成されている。この入力側駆動カム部材73は、セカンダリ可動シーブ63に対して周方向に複数個(例えば、3〜4個)形成されている。ここで、この実施例では、入力側駆動カム部材73は、セカンダリ可動シーブ63と一体に形成されているが、別個に構成しても良い。
この入力側駆動カム部材73の先端部、すなわち動力伝達軸側の端部には、後述する駆動カム面74aと接触する円柱形状の駆動コロ73aが形成されている。この駆動コロ73aは、入力側駆動カム部材73に固定されていても良いが、入力側駆動カム部材73および出力側駆動カム部材74が周方向に相対回転する際の抵抗を低減するために、この入力側駆動カム部材73に回転自在に支持されていることが好ましい。
出力側駆動カム部材74は、軸方向断面がL字状のリング状部材であり、セカンダリ隔壁65に固定されている。具体的には、この出力側駆動カム部材74の径方向内側の端部が、セカンダリ隔壁65の径方向外側の端部に固定されている。この出力側駆動カム部材74は、このセカンダリ隔壁65を介してセカンダリプーリ軸61に軸受103,105により回転可能に支持されている。従って、この出力側駆動カム部材74は、セカンダリ隔壁65を介して動力伝達軸91に連結されており、入力側駆動カム部材73に対して軸方向への移動は規制されている。
この出力側駆動カム部材74は、径方向外側の端部からセカンダリプーリ側に突出しており、その先端部に上記入力側駆動カム部材73の駆動コロ73aが接触する駆動カム面74aが形成されている。この駆動カム面74aは、図3−1および図4−1に示すように、後述する駆動力F1によりセカンダリ可動シーブ63が回転する方向に向かって立ち上がるように傾斜する傾斜面である。この駆動カム面74aの形状やカム角度は、第1カム装置71が伝達する駆動力F1の大きさや、発生させたい推力の大きさなどに基づいて決定されるものである。なお、この駆動カム面74aの径方向内側には、円筒状の補助隔壁79aが固定されている。
上記のように、入力側駆動カム部材73がセカンダリ可動シーブ63に形成されており、出力側駆動カム部材74がセカンダリ可動シーブ63と異なる回転部材であるセカンダリ隔壁65に固定されていることで動力伝達軸91に連結されている。従って、入力側駆動カム部材73および出力側駆動カム部材74は、周方向に相対回転可能に支持されている。
入力側駆動カム部材73と出力側駆動カム部材74とが相対回転することで、入力側駆動カム部材73の駆動コロ73aと出力側駆動カム部材74の駆動カム面74aとが接触し、第1カム装置71により後述する駆動力F1が伝達される。また、図3−1および図4−1に示すように、この第1カム装置71が駆動力F1を伝達する際には、出力側駆動カム部材74の入力側駆動カム部材73に対する軸方向への移動が規制されているため、この軸方向のうち一方向、すなわちセカンダリ可動シーブ63をセカンダリ固定シーブ62に向かって移動させようとする推力が発生する。
ここで、被駆動力F2,F3よりも大きな駆動力F1を伝達する第1カム装置71は、第2カム装置よりも径方向外側に配置されている。従って、第1カム装置が第2カム装置の径方向内側に配置される場合と比較して、同じ力の駆動力F1を伝達する際の駆動カム面74aにおける接線力を小さくすることができる。これにより、駆動カム面74aの耐久性が向上し、トルクカム装置70およびベルト式無段変速機1の耐久性の向上を図ることができる。また、駆動カム面74aのカム角度を周方向に対して緩やかにすることができるので、出力側駆動カム部材74の軸方向における長さを短くすることができ、トルクカム装置70およびベルト式無段変速機1の小型化を図ることができる。
また、この第1カム装置71の出力側駆動カム部材74の外周には、パーキングギヤ78が形成されている。従って、ベルト式無段変速機1において、パーキングギヤを別個に設けなくても良い。また、パーキングギヤ78は、トルクカム装置70の最も外側に位置する出力側駆動カム部材74に形成されているため、ギヤの面圧を低減することができる。これらにより、トルクカム装置70およびベルト式無段変速機1の小型化、低コスト化を図ることができる。さらに、このパーキングギヤ78を出力側駆動カム部材74に形成するためにこの出力側駆動カム部材74が肉抜きされるので、軽量化を図ることができ、イナーシャが低減され加速性能を向上することができる。
第2カム装置72は、出力側被駆動カム部材75と、入力側被駆動カム部材76とにより構成されている。この第2カム装置72は、後述する被駆動力F2,F3を伝達するとともに、軸方向のうち一方向に推力を発生するものである。
出力側被駆動カム部材75は、セカンダリ可動シーブ63の背面63aから軸方向の他方向、すなわち動力伝達軸側に突出して形成されている。つまり、出力側被駆動カム部材75は、セカンダリ可動シーブ63に一体に形成されている。この出力側被駆動カム部材75は、セカンダリ可動シーブ63に対して周方向に複数個(例えば、3〜4個)形成されている。また、この出力側被駆動カム部材75は、入力側駆動カム部材73よりも、径方向内側に配置されている。ここで、この実施例では、出力側駆動カム部材75は、セカンダリ可動シーブ63と一体に形成されているが、別個に構成しても良い。
この出力側被駆動カム部材75の先端部、すなわち動力伝達軸側の端部には、後述する被駆動カム面76bと接触する円柱形状の被駆動コロ75aが形成されている。ここで、この実施例おいては、この被駆動コロ75aの軸線と上記駆動コロ73aの軸線とは、中心線O−Oを中心とする円の1つの法線上に位置する。なお、この被駆動コロ75aは、出力側被駆動カム部材75に固定されていても良いが、出力側被駆動カム部材75および入力側被駆動カム部材76が周方向に相対回転する際の抵抗を低減するために、この出力側被駆動カム部材75に回転自在に支持されていることが好ましい。
入力側被駆動カム部材76は、軸方向断面がL字状のリング状部材であり、出力側駆動カム部材74よりも径方向内側に配置されている。この入力側被駆動カム部材76は、径方向内側の端部にスプライン76aが形成されており、このスプライン76aとセカンダリ隔壁65のスプライン65bとが嵌合されていることで、セカンダリ隔壁65とスプライン嵌合されている。ここで、このスプライン76aは、セカンダリ隔壁65のスプライン65bと同一形状の捻れスプラインであり、駆動力F1によりセカンダリプーリ60が回転する方向に捻れている。従って、この入力側被駆動カム部材76は、出力側被駆動カム部材75に対して軸方向のうち一方向、すなわちセカンダリプーリ側に移動する際には、この出力側被駆動カム部材75に対して駆動時における駆動力F1により出力側駆動カム部材74が入力側駆動カム部材73に対して回転する方向と同一方向に回転することとなる。
この入力側被駆動カム部材76は、径方向外側の端部からセカンダリプーリ側に突出しており、その先端部に上記出力側被駆動カム部材75の被駆動コロ75aが接触する被駆動カム面76bが形成されている。この被駆動カム面76bは、図3−2および図4−2に示すように、第1カム装置71の駆動カム面74aと軸方向において対向するように形成されており、後述する駆動力F1によりセカンダリ可動シーブ63が回転する方向と反対方向に向かって立ち上がるように傾斜する傾斜面である。この被駆動カム面76bの形状やカム角度は、第2カム装置72が伝達する被駆動力F2,F3の大きさや、発生させたい推力の大きさなどに基づいて決定されるものである。なお、この被駆動カム面76bの径方向内側には、円筒状の補助隔壁79bが固定されている。
上記のように、出力側被駆動カム部材75がセカンダリ可動シーブ63に形成されており、入力側被駆動カム部材76がセカンダリ可動シーブ63と異なる回転部材であるセカンダリ隔壁65とスプライン嵌合されることで動力伝達軸91に連結されている。従って、出力側被駆動カム部材75および入力側被駆動カム部材76は、周方向に相対回転可能に支持されるとともに、入力側被駆動カム部材76が出力側被駆動カム部材75に対して軸方向に移動可能に支持されている。
出力側被駆動カム部材75と入力側被駆動カム部材76とが相対回転することで、出力側被駆動カム部材75の被駆動コロ75aと入力側被駆動カム部材76の被駆動カム面76bとが接触し、第2カム装置72により後述する被駆動力F2,F3が伝達される。また、図3−2および図4−2に示すように、この第2カム装置72が被駆動力F2,F3を伝達する際には、入力側被駆動カム部材76の出力側被駆動カム部材75に対する軸方向への移動が後述するアクチュエータであるカム油室77の油圧P1により規制されているため、この軸方向のうち一方向、すなわちセカンダリ可動シーブ63をセカンダリ固定シーブ62に向かって移動させようとする推力が発生する。
カム油室77は、入力側被駆動カム部材76を出力側被駆動カム部材75に接触させるアクチュエータである。ここで、第2カム装置72は、上述のように第1カム装置71の径方向内側に配置される。従って、このカム油室77は、第1カム装置71よりも径方向内側に配置することができ、出力側駆動カム部材74と入力側被駆動カム部材76との間に構成することができる。具体的には、カム油室77は、入力側被駆動カム部材76と、出力側駆動カム部材74と、セカンダリ隔壁65と、補助隔壁79aとにより構成されている。つまり、油圧P1を発生するカム油室77の一部、すなわちアクチュエータの一部を出力側駆動カム部材74で構成することができる。これにより、トルクカム装置70およびベルト式無段変速機1の小型化、軽量化を図ることができる。なお、入力側被駆動カム部材76と補助隔壁79aとの間には、例えばシールリングなどのシール部材Sが設けられている。つまり、カム油室77を構成する入力側被駆動カム部材76と出力側駆動カム部材74とは、シール部材Sによりシールされている。
このカム油室77には、作動油供給孔65dを介して、図2の矢印Bに示すように、セカンダリ油室64に流入した作動油が供給される。つまり、作動油供給制御装置は、セカンダリ油室64を介してカム油室77に作動油を供給し、この供給された作動油の油圧P1により、入力側被駆動カム部材76を出力側被駆動カム部材75に対して周方向に相対回転させるとともに、この出力側被駆動カム部材75に対して軸方向に相対移動させることで、この入力側被駆動カム部材76を出力側被駆動カム部材75に対して接近あるいは離隔させるものである。従って、カム油室77がこのカム油室77に供給される作動油により、入力側被駆動カム部材76を軸方向のうち一方向、すなわちセカンダリプーリ側に押圧するカム押圧力を作用させることで、第2カム装置72が軸方向のうち一方向の推力を発生することができる。従って、カム油室77は、第2カム装置72を介して、セカンダリ溝100bに巻き掛けられるベルト100に対するベルト挟圧力を発生させ、ベルト100のプライマリプーリ50およびセカンダリプーリ60に対する接触半径を一定に維持する機能の一部を担うものである。
セカンダリプーリ60と最終減速機80との間には、動力伝達経路90が配置されている。この動力伝達経路90は、セカンダリプーリ軸61と平行な動力伝達軸91およびインターミディエイトシャフト92と、カウンタドライブピニオン93、カウンタドリブンギヤ94と、ファイナルドライブピニオン95とにより構成されている。動力伝達軸91は、セカンダリ隔壁65および出力側駆動カム部材74を介して、軸受106,107により回転可能に支持されている。インターミディエイトシャフト92は、軸受108,109により回転可能に支持されている。カウンタドライブピニオン93は、動力伝達軸91に固定されている。カウンタドリブンギヤ94は、インターミディエイトシャフト92に固定されており、カウンタドライブピニオン93と噛み合わされている。また、ファイナルドライブピニオン95は、インターミディエイトシャフト92に固定されている。
ベルト式無段変速機1の最終減速機80は、動力伝達経路90を介して伝達された内燃機関10からの出力トルクを車輪110,110から路面に伝達するものである。この最終減速機80は、中空部が形成されたデフケース81と、ピニオンシャフト82と、デフ用ピニオン83,84と、サイドギヤ85,86とにより構成されている。
デフケース81は、軸受87,88により回転可能に支持されている。また、このデフケース81の外周には、リングギヤ89が設けられており、このリングギヤ89がファイナルドライブピニオン95と噛み合わされている。ピニオンシャフト82は、デフケース81の中空部に取り付けられている。デフ用ピニオン83,84は、このピニオンシャフト82に回転可能に取り付けられている。サイドギヤ85,86は、このデフ用ピニオン83,84の両方に噛み合わされている。このサイドギヤ85,86は、それぞれドライブシャフト111,112に固定されている。
ドライブシャフト111,112は、その一方の端部にそれぞれサイドギヤ85,86が固定され、他方の端部に車輪110,110が取り付けられている。
ベルト式無段変速機1のベルト100は、プライマリプーリ50を介して伝達された内燃機関10からの出力トルクをセカンダリプーリ60に伝達するものである。このベルト100は、図1に示すように、プライマリプーリ50のプライマリ溝100aとセカンダリプーリ60のセカンダリ溝100bとの間に巻き掛けられている。また、ベルト100は、多数の金属製の駒と複数本のスチールリングで構成された無端ベルトである。
次に、この発明にかかるトルクカム装置70を備えるベルト式無段変速機1の動作について説明する。まず、一般的な車両の前進、後進について説明する。車両に設けられた図示しないシフトポジション装置により、運転者が前進ポジションを選択した場合は、図示しないECU(Engine Control Unit)が、図示しない作動油供給制御装置から供給された作動油によりフォワードクラッチ42をON、リバースブレーキ43をOFFとし、前後進切換機構40を制御する。これにより、インプットシャフト38とプライマリプーリ軸51が直結状態となる。つまり、遊星歯車装置41のサンギヤ44とリングギヤ46を直接連結し、内燃機関10のクランクシャフト11の回転方向と同一方向にプライマリプーリ軸51を回転させ、この内燃機関10からの出力トルクをプライマリプーリ50に伝達する。プライマリプーリ50に伝達された内燃機関10からの出力トルクは、ベルト100を介してセカンダリプーリ60に伝達され、このセカンダリプーリ60のセカンダリプーリ軸61を回転させる。
セカンダリプーリ60に伝達された内燃機関10の出力トルクは、トルクカム装置70に伝達される。トルクカム装置70に伝達された出力トルクは、動力伝達経路90の動力伝達軸91に伝達される。動力伝達軸91に伝達された出力トルクは、カウンタドライブピニオン93およびカウンタドリブンギヤ94を介して、インターミディエイトシャフト92に伝達され、インターミディエイトシャフト92を回転させる。インターミディエイトシャフト92に伝達された出力トルクは、ファイナルドライブピニオン95およびリングギヤ89を介して最終減速機80のデフケース81に伝達され、このデフケース81を回転させる。デフケース81に伝達された内燃機関10からの出力トルクは、デフ用ピニオン83,84およびサイドギヤ85,86を介してドライブシャフト111,112に伝達され、その端部に取り付けられた車輪110,110に伝達され、車輪110,110を回転させ、車両は前進する。
一方、車両に設けられた図示しないシフトポジション装置により、運転者が後進ポジションを選択した場合は、図示しないECUが、図示しない作動油供給制御装置から供給された作動油によりフォワードクラッチ42をOFF、リバースブレーキ43をONとし、前後進切換機構40を制御する。これにより、遊星歯車装置41の切換用キャリヤ47がトランスアクスルケース22に固定され、各ピニオン45が自転のみを行うように切換用キャリヤ47に保持される。従って、リングギヤ46がインプットシャフト38と同一方向に回転し、このリングギヤ46と噛み合っている各ピニオン45もインプットシャフト38と同一方向に回転し、この各ピニオン45と噛み合っているサンギヤ44がインプットシャフト38と逆方向に回転する。つまり、サンギヤ44に連結されているプライマリプーリ軸51は、インプットシャフト38と逆方向に回転する。これにより、セカンダリプーリ60のセカンダリプーリ軸61は、運転者が前進ポジションを選択した場合とは逆方向に回転する。
セカンダリプーリ60に伝達された内燃機関10の出力トルクは、トルクカム装置70に伝達される。トルクカム装置70に伝達された出力トルクは、動力伝達経路90の動力伝達軸91に伝達され、この動力伝達軸91が運転者が前進ポジションを選択した場合とは逆方向に回転する。そして、インターミディエイトシャフト92、デフケース81、ドライブシャフト111,112などが運転者が前進ポジションを選択した場合とは逆方向に回転し、車両が後進する。
また、図示しないECUは、車両の速度や運転者のアクセル開度などの諸条件とECUの記憶部に記憶されているマップ(例えば、機関回転数とスロットル開度に基づく最適燃費曲線など)とに基づいて、内燃機関10の運転状態が最適となるようにベルト式無段変速機1の変速比を制御する。このベルト式無段変速機1の変速比の制御には、変速比の変更と、変速比の固定(変速比γ定常)とがある。この変速比の変更、変速比の固定は、プライマリプーリ50におけるベルト挟圧力を発生するプライマリ油室54に図示しない作動油供給制御装置から供給される作動油の油圧を制御することで行われる。変速比の変更は、主にプライマリ可動シーブ53がプライマリプーリ軸51の軸方向に摺動し、プライマリ固定シーブ52とこのプライマリ可動シーブ53との間の間隔、すなわちプライマリ溝100aの幅を調整することで行われる。これにより、プライマリプーリ50におけるベルト100の接触半径が変化し、プライマリプーリ50の回転数とセカンダリプーリ60の回転数との比である変速比が無段階(連続的)に制御される。
例えば、車両の高速走行時などで大きなトルクを必要としない場合は、プライマリ固定シーブ52に対してプライマリ可動シーブ53が最も近づく、すなわちプライマリ溝100aの幅が最小となるように調整する。これにより、プライマリプーリ50におけるベルト100の接触半径が最大となり、セカンダリプーリ60におけるベルト100の接触半径が最小となり、変速比は最小となる。ここで、セカンダリ固定シーブ62とセカンダリ可動シーブ63との間の幅は最大となるため、図3−1に示すように、入力側駆動カム部材73と出力側駆動カム部材74との幅は、最小幅w1となる。
また、車両の発進時などで大きなトルクを必要とする場合は、プライマリ固定シーブ52に対してプライマリ可動シーブ53が最も離れる、すなわちプライマリ溝100aの幅が最大となるように調整する。これにより、プライマリプーリ50におけるベルト100の接触半径が最小となり、セカンダリプーリ60におけるベルト100の接触半径が最大となり、変速比は最大となる。ここで、セカンダリ固定シーブ62とセカンダリ可動シーブ63との間の幅は最小となるため、図4−1に示すように、入力側駆動カム部材73と出力側駆動カム部材74との幅は、最大幅w3となる。
一方、セカンダリプーリ60においては、ベルト挟圧力発生手段であるセカンダリ油室64およびカム油室77に図示しない作動油供給制御装置から供給される作動油の油圧P1を制御することで、トルクカム装置70によりセカンダリ可動シーブ63に発生する軸方向のうち一方向の推力によってセカンダリ固定シーブ62とこのセカンダリ可動シーブ63と間で発生するベルト100を挟み付けるベルト挟圧力の調整が行われる。これにより、プライマリプーリ50とセカンダリプーリ60との間に巻き掛けられたベルト100の張力が制御される。
次に、トルクカム装置70の動作について説明する。ここで、駆動時における駆動力F1とは、入力側駆動カム部材73と一体となっている部材から伝達される一方向の力をいう。トルクカム装置70がベルト式無段変速機1に用いられる場合は、このトルクカム装置70の入力側駆動カム部材73に伝達される車両を前進させる方向の内燃機関10の出力トルクをいう。一方、被駆動時における被駆動力F2,F3とは、入力側被駆動カム部材76と一体になっている部材から伝達される上記駆動時における駆動力F1と同一方向の力や、入力側駆動カム部材73と一体となっている部材から伝達される他方向の力をいう。トルクカム装置70がベルト式無段変速機1に用いられる場合は、このトルクカム装置70の入力側駆動カム部材73に伝達される車両を後進させる方向の内燃機関10の出力トルクや、エンジンブレーキを用いた際などに入力側被駆動カム部材76に伝達される抵抗トルクなどをいう。
ここで、上記実施例における作動油供給制御装置は、セカンダリ油室64およびこのセカンダリ油室64に連通するカム油室77の油圧がトルクカム装置70に作用する力(駆動力F1、被駆動力F2,F3)の大きさに応じたベルト挟圧力が発生できるように制御する。
まず、駆動時におけるトルクカム装置70について説明する。図3−1および図4−1に示すように、駆動時におけるトルクカム装置70には、セカンダリ可動シーブ63に伝達された車両を前進させる方向の内燃機関10の出力トルクが駆動力F1として入力側駆動カム部材73に伝達される。この駆動力F1により出力側駆動カム部材74に対して入力側駆動カム部材73が駆動力F1の作用する方向に回転しようとすることで、駆動コロ73aと駆動カム面74aとが接触する。そして、駆動コロ73aおよび駆動カム面74aを介して、入力側駆動カム部材73から出力側駆動カム部材74に駆動力F1が伝達される。つまり、第1カム装置71が駆動時における駆動力F1を伝達する。
また、入力側駆動カム部材73から出力側駆動カム部材74に伝達される駆動力F1により、駆動コロ73aと駆動カム面74aとの間で、入力側駆動カム部材73と出力側駆動カム部材74とが離れる方向の力が発生するが、出力側駆動カム部材74の軸方向への移動が規制されているため、入力側駆動カム部材73に軸方向のうち一方向の推力が発生する。つまり、第1カム装置71は、駆動時において駆動力を伝達でき、軸方向のうち一方向の推力を発生することができる。この発生した軸方向のうち一方向の推力は、セカンダリ可動シーブ63をセカンダリ固定シーブ62に向かわせる方向の力としてセカンダリ可動シーブ63に作用し、セカンダリ可動シーブ63とセカンダリ固定シーブ62との間のベルト100を挟圧するベルト挟圧力が発生する。
ここで、駆動時において駆動力F1がトルクカム装置70に作用している場合、図示しない作動油供給制御装置は、第1カム装置71が発生する軸方向のうち一方向の推力とセカンダリ油室64の油圧により発生するセカンダリ可動シーブ63を軸方向のうち一方向の押圧する押圧力との和とがトルクカム装置70が駆動力F1を伝達してもベルト100が滑らないベルト挟圧力となるようにセカンダリ油室64の油圧を制御する。
従って、作動油供給制御装置は、カム油室77に作動油を常に供給し、カム油室77の油圧P1により入力側被駆動カム部材76を軸方向のうち一方向に押圧するカム押圧力が発生するように制御している。このとき、駆動時におけるカム油室77の油圧は、入力側被駆動カム部材76を常に出力側被駆動カム部材75に接触させることができるカム押圧力を発生できる油圧以上となる。これより、入力側被駆動カム部材76は、図3−2および図4−2に示すように、出力側被駆動カム部材75に対して軸方向のうち一方向に移動しようとするため、駆動時において入力側被駆動カム部材76と出力側被駆動カム部材75とが常に接触している。つまり、径方向から見た際に、駆動コロ73aおよび被駆動コロ75aは、駆動カム面74aおよび被駆動カム面76bにより挟み込まれた状態となる。
ここで、駆動時においてベルト式無段変速機1の変速比が変更されると、上述のように、セカンダリ固定シーブ62に対するセカンダリ可動シーブ63の軸方向への移動にともなって、このセカンダリ可動シーブ63と一体に形成されている入力側駆動カム部材73も軸方向へ移動し、この入力側駆動カム部材73と出力側駆動カム部材74との幅は、図3−1および図4−1に示すように、変速比最小時における最小幅w1と変速比最大時における最大幅w3との間で変化する。
このとき、出力側被駆動カム部材75もセカンダリ可動シーブ63と一体に形成されているため、この出力側被駆動カム部材75もセカンダリ固定シーブ62に対するセカンダリ可動シーブ63の軸方向への移動にともなって軸方向へ移動する。上述のように、駆動時におけるトルクカム装置70では、カム油室77の油圧P1により入力側被駆動カム部材76を軸方向のうち一方向に押圧するカム押圧力が発生しているため、入力側被駆動カム部材76が出力側被駆動カム部材75に対して、軸方向に移動しようとする。ここで、入力側被駆動カム部材76はセカンダリ隔壁65にスプライン嵌合されているため、セカンダリ隔壁65のスプライン65bが入力側被駆動カム部材76のスプライン76aに沿って摺動する。
従って、例えばベルト式無段変速機1の変速比を最小から最大に変更する場合は、図3−2および図4−2に示すように、カム油室77の油圧P1により発生するカム押圧力により、入力側被駆動カム部材76と出力側被駆動カム部材75との接触を維持したまま、この入力側被駆動カム部材76が出力側被駆動カム部材77に対して軸方向のうち一方向、すなわちセカンダリプーリ側に移動するとともに、この出力側被駆動カム部材75に対して駆動時における駆動力F1により出力側駆動カム部材74が入力側駆動カム部材73に対して回転する方向と同一方向に距離Dだけ回転する。これにより、入力側被駆動カム部材76と出力側被駆動カム部材75との幅は、幅w2からこの幅w2よりも狭いw4となる。
つまり、入力側被駆動カム部材76は、駆動時における入力側駆動カム部材73と出力側駆動カム部材74との周方向および軸方向における相対位置の変化に追従して、出力側被駆動カム部材75に対する相対位置を変化させることができる。従って、入力側被駆動カム部材76を常に出力側被駆動カム部材75に接触させるために、アクチュエータであるカム油室77が入力側被駆動カム部材76を出力側被駆動カム部材75に対して軸方向のみに移動させる場合と比較して、入力側被駆動カム部材76を軸方向に移動させる量を少なくすることができる。これにより、入力側被駆動カム部材76の軸方向における長さを短くすることができ、トルクカム装置70の小型化を図ることができる。
次に、駆動状態が駆動時から被駆動時に切り替わる際のトルクカム装置70について説明する。具体的には、入力側駆動カム部材73に駆動力F1が伝達されている駆動時から、動力伝達軸91に伝達された抵抗トルクがこの駆動力F1と同一方向の被駆動力F2として入力側被駆動カム部材76に伝達される被駆動時に移行する際のトルクカム装置70について説明する。この入力側被駆動カム部材76に伝達された被駆動力F2は、駆動時において上述のように変速比に拘わらず入力側被駆動カム部材76と出力側被駆動カム部材75とは接触を維持しているため、被駆動カム面76bおよび被駆動コロ75aを介して出力側被駆動カム部材75に瞬時に伝達される。
以上のように、トルクカム装置70が駆動時から被駆動時に移行しても、入力側被駆動カム部材76と出力側被駆動カム部材75と間で相対回転が発生せず、入力側被駆動カム部材76と出力側被駆動カム部材75との間で、被駆動力F2が瞬時に伝達される。また、この被駆動力F2により、入力側被駆動カム部材76と出力側被駆動カム部材75とが離れる方向の力が発生し、入力側被駆動カム部材76にカム油室77の油圧により軸方向のうち一方向の押圧力が作用しているため、出力側被駆動カム部材75に軸方向のうち一方向の推力が発生する。つまり、第2カム装置72は、駆動時から被駆動時に移行する際に、被駆動力F2を瞬時に伝達でき、軸方向のうち一方向の推力の発生を維持することができ、セカンダリ可動シーブ63とセカンダリ固定シーブ62との間のベルト100を挟圧するベルト挟圧力を維持することができる。従って、トルクカム装置70の駆動状態が駆動時から被駆動時に切り替わる場合において、入力側被駆動カム部材76と出力側被駆動カム部材75とが離れないようにすることができるので、十分な推力を発生することができある。また、常に入力側被駆動カム部材76と出力側被駆動カム部材75とが接触しているので、衝撃トルクが発生することを抑制できる。これにより、トルクカム装置70の駆動状態の切り替わり時に、衝撃トルクが発生することを抑制することができ、駆動状態の切り替わりによる耐久性の低下を抑制することができる。
特に、第2カム装置72が発生する推力は、カム油室77の油圧P1が入力側被駆動カム部材76を軸方向のうち一方向に押圧するカム押圧力に応じて発生する。従って、作動油供給制御装置が、アクチュエータであるカム油室の油圧P1を介してカム押圧力を制御することにより、被駆動時において要求される推力が得られる。これにより、被駆動時となっても十分な推力を発生することができる。
次に、被駆動時におけるトルクカム装置70について説明する。図3−2および図4−2に示すように、被駆動時におけるトルクカム装置70には、セカンダリ可動シーブ63に伝達された車両を後進させる方向の内燃機関10の出力トルクが被駆動力F3として入力側駆動カム部材73に伝達される。あるいは、動力伝達軸91に伝達された抵抗トルクが被駆動力F2として入力側被駆動カム部材76に伝達される。この被駆動力F3により出力側駆動カム部材74に対して入力側駆動カム部材73が被駆動力F3の作用する方向に回転しようとすることで、被駆動コロ75aと被駆動カム面76bとが接触する。あるいは、この被駆動力F2により入力側被駆動カム部材76に対して出力側被駆動カム部材75が被駆動力F2の作用する方向に回転しようとすることで、被駆動コロ75aと被駆動カム面76bとが接触する。そして、被駆動コロ75aおよび被駆動カム面76bを介して、出力側被駆動カム部材75から入力側被駆動カム部材76に被駆動力F3が伝達される。あるいは、被駆動コロ75aおよび被駆動カム面76bを介して、入力側被駆動カム部材76から出力側被駆動カム部材75に被駆動力F2が伝達される。つまり、第2カム装置72が被駆動時における被駆動力F2,F3を伝達する。
ここで、被駆動時において被駆動力F2,F3がトルクカム装置70に作用している場合、図示しない作動油供給制御装置は、セカンダリ油室64の油圧により発生するセカンダリ可動シーブ63を軸方向のうち一方向の押圧する押圧力と第2カム装置72が発生する軸方向のうち一方向の推力との和が、トルクカム装置70が被駆動力F2,F3を伝達してもベルト100が滑らないベルト挟圧力となるようにセカンダリ油室64およびカム油室77の油圧を制御している。
従って、作動油供給制御装置は、カム油室77に作動油を常に供給し、カム油室77の油圧P1により入力側被駆動カム部材76を軸方向のうち一方向に押圧するカム押圧力が発生するように制御している。このとき、駆動時におけるカム油室77の油圧は、第2カム装置72により被駆動力F2,F3に応じたカム押圧力を発生できる油圧となる。これより、入力側被駆動カム部材76あるいは出力側被駆動カム部材75のいずれかに伝達される被駆動力F2,F3により、被駆動コロ75aと被駆動カム面76bとの間で、入力側被駆動カム部材76と出力側被駆動カム部材75とが離れる方向の力が発生するが、出力側駆動カム部材74の軸方向への移動が規制されているため、入力側駆動カム部材73に軸方向のうち一方向の推力が発生する。つまり、第2カム装置72は、被駆動時において被駆動力F2,F3を伝達でき、軸方向のうち一方向の推力を発生することができる。この発生した軸方向のうち一方向の推力は、セカンダリ可動シーブ63をセカンダリ固定シーブ62に向かわせる方向の力としてセカンダリ可動シーブ63に作用し、セカンダリ可動シーブ63とセカンダリ固定シーブ62との間のベルト100を挟圧するベルト挟圧力が発生する。
次に、駆動状態が被駆動時から駆動時に切り替わる際のトルクカム装置70について説明する。具体的には、動力伝達軸91に伝達された抵抗トルクがこの駆動力F1と同一方向の被駆動力F2として出力側被駆動カム部材76に伝達される被駆動時から入力側駆動カム部材73に駆動力F1が伝達されている駆動時に移行する際のトルクカム装置70について説明する。上述のように、図示しない作動油供給制御装置は、被駆動時において、被駆動力F2に応じたカム押圧力を軸方向のうち一方向に発生させることができるため、被駆動力F2が大きくても、入力側被駆動カム部材76が出力側被駆動カム部材75に対して軸方向へ移動することを抑制することができる。つまり、被駆動時においても、入力側駆動カム部材73と出力側駆動カム部材74との接触を維持することができる。従って、駆動状態が被駆動時から駆動時に切り替わる際にも径方向から見た際に、駆動コロ73aおよび被駆動コロ75aが駆動カム面74aおよび被駆動カム面76bにより挟み込まれた状態を維持する。つまり、被駆動時においても入力側駆動カム部材73と出力側駆動カム部材74との接触は、駆動コロ73aと駆動カム面74aとが接触しているため維持されている。従って、この入力側駆動カム部材73に伝達された駆動力F1は、被駆動時において上述のように変速比に拘わらず入力側被駆動カム部材76と出力側被駆動カム部材75とが接触を維持しているため、駆動コロ73aおよび駆動カム面74aを介して出力側駆動カム部材74に瞬時に伝達される。
以上のように、トルクカム装置70が被駆動時から駆動時に移行しても、入力側駆動カム部材73と出力側駆動カム部材74との間で相対回転が発生せず、入力側駆動カム部材73と出力側駆動カム部材74との間で、駆動力F1が瞬時に伝達される。また、この駆動力F1により、入力側駆動カム部材73と出力側駆動カム部材74とが離れる方向の力が発生しているため、出力側駆動カム部材74に軸方向のうち一方向の推力が発生する。つまり、第1カム装置71は、被駆動時から駆動時に移行する際に、駆動力F1を瞬時に伝達でき、軸方向のうち一方向の推力の発生を維持することができ、セカンダリ可動シーブ63とセカンダリ固定シーブ62との間のベルト100を挟圧するベルト挟圧力を維持することができる。従って、トルクカム装置70の駆動状態が被駆動時から駆動時へと切り替わる場合において、入力側駆動カム部材73と出力側駆動カム部材74とが離れないようにすることができるので、十分な推力を発生することができる。また、常に入力側駆動カム部材73と出力側駆動カム部材74とが接触しているので、衝撃トルクが発生することを抑制できる。これにより、トルクカム装置70の駆動状態の切り替わり時に、衝撃トルクが発生することを抑制することができ、駆動状態の切り替わりによる耐久性の低下を抑制することができる。
また、駆動力F1および被駆動力F3は、内燃機関10の出力トルクであるため、被駆動力F2をトルクカム装置70が伝達する際と比較して、セカンダリ油室64およびこのセカンダリ油室64に連通するカム油室77の油圧を高くする必要がある。つまり、被駆動力F2をトルクカム装置70が伝達する際には、セカンダリ油室64およびこのセカンダリ油室64に連通するカム油室77の油圧を高くする必要はない。従って、トルクカム装置70が内燃機関10の出力トルク(駆動力F1および被駆動力F3)を伝達する場合よりも、抵抗トルクなど(被駆動力F2)を伝達する場合に、作動油供給制御装置がセカンダリ油室64およびカム油室77の油圧を低く制御することで、作動油供給制御装置が内燃機関10の出力トルクにより作動油をセカンダリ油室64およびカム油室77に供給する場合において内燃機関10の燃費を向上させることができる。
なお、上記実施例において、作動油供給制御装置は、トルクカム装置70が内燃機関10の出力トルク(駆動力F1および被駆動力F3)を伝達する場合においてセカンダリ油室64およびカム油室77が発生する油圧を制御するマップと、抵抗トルクなど(被駆動力F2)トルクカム装置70が内燃機関10の出力トルクを伝達する場合においてセカンダリ油室64およびカム油室77が発生する油圧を制御するマップとを別個に図示しない記憶部に格納していても良い。この場合は、作動油供給制御装置は、この作動油供給制御装置に直接入力される駆動力F1および被駆動力F2,F3の大きさ、あるいはECUを介して入力されるベルト式無段変速機1が搭載された車両の走行状態に応じた値に基づいて予測された駆動力F1および被駆動力F2,F3の大きさにより、上記2つのマップのいずれかを選択し、トルクカム装置70に作用する力(駆動力F1、被駆動力F2,F3)の大きさと選択したマップに基づきセカンダリ油室64およびカム油室77が発生する油圧を制御する。
また、上記実施例においては、入力側被駆動カム部材76を出力側被駆動カム部材75に接触させるアクチュエータとしてカム油室77が発生する油圧を用いているが、これに限定されるものではなく、モータなどの回転力や電磁力などを用いて、入力側被駆動カム部材76を軸方向のうち一方向に押圧するカム押圧力を発生しても良い。
また、上記実施例においては、セカンダリ側のベルト挟圧力発生手段としてセカンダリ油室64およびトルクカム装置70を用いたがこれに限定されるものではなく、セカンダリ側のベルト挟圧力発生手段としてトルクカム装置70のみを用いても良い。また、セカンダリ側のベルト挟圧力発生手段として、例えばモータなど電動機をトルクカム装置70と併用して用いても良い。