JP4771291B2 - P−セレクチン標的リガンドおよびその組成物 - Google Patents
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Description
本発明は、P-セレクチン標的リガンド、およびそのようなリガンドを含有する組成物に関し、キットも包含する。
(背景技術)
炎症および炎症過程は、多くの疾患および症状の病態生理において主要な役割を果たしている。炎症メディエイターレベルの上昇が見出された脳の症状としては、重篤な外傷性脳傷害、再発-寛解性多発性硬化症、脳動脈閉塞、虚血および卒中がある。セレクチン類のようなメディエイターが役割を果たすことが示唆されている心臓の症状としては、急性心筋梗塞、血管形成術によって生ずるような動脈傷害、および虚血がある。同様に、セレクチン類は、虚血および再灌流に由来する腎傷害並びに腎不全のような腎臓の症状にも関与する。さらにまた、セレクチン類は、臓器移植拒絶反応、感冒性虚血、出血性ショック、敗血性ショック、腫瘍転移、慢性炎症、関節リウマチ、炎症性腸疾患、アテローム性動脈硬化症、再狭窄、血管形成、播種性血管内凝固症候群、成人呼吸ストレス症候群および循環性ショックにおいても役割を果たしているようである。
細胞表面接着分子は、細胞増殖、分化、免疫細胞の移行および応答、並びに癌転移のような多くの細胞過程における主要メディエイターとして認識されるようになって来ている。4種の主要なカテゴリーの接着分子、即ち、イムノグロブリン上科細胞接着分子(CAM)類、カドヘリン類、インテグリン類およびセレクチン類が同定されている。セレクチン類は、現在のところ、3種の膜貫通性炭水化物結合性糖タンパク質:“内皮”E-セレクチン、“白血球”L-セレクチン、および“血小板”P-セレクチンの群を代表している。3種のセレクチンは、全て、二価カチオン(例えば、カルシウム)依存性であり、炭水化物認識モチーフを有する細胞外ドメイン、上皮成長因子様モチーフ、および補体調節タンパク質に関連する若干の小さめのドメインを有する。
ヒトP-セレクチン(GMP-140、LECAM-3、PADGEM、CD62、CD62Pとも称する)は、血小板および内皮細胞によって発現される。これらの細胞表面上で発現するとき、その最も注目すべき作用は、白血球が毛管を出て毛管後小静脈に入るときの白血球の遅延であり、毛管後小静脈は白血球-内皮接着の主要部位である。この遅延過程は、白血球回転として観察され、比較的低い親和性による初期接着を意味する。回転性白血球の堅固な接着は、主としてインテグリンに介在される。
また、P-セレクチンは、P-セレクチンと3-硫酸化ガラクトシルセラミド(スルファチドとも称する)とのCa非依存性相互作用の研究によって最近証明されたように、血小板凝集により直接的に関与しているようである。この相互作用は、おそらく、結合がAK4によってではなく抗体WASP12.2によって抑制され得るので、P-セレクチンの異なる結合部位で生じており、一方、白血球接着に関与する天然P-セレクチンリガンドPSGL-1の結合は、WASP12.2およびAK4の双方によって阻止される。しかしながら、それらの結合部位は重複しているようである。スルファチド相互作用は血小板凝集物を安定化させるものと推定されている。
一方、内皮細胞および白血球の活性化、とりわけ、P-セレクチン結集および発現に関連する上記および他の症状を、P-セレクチンカスケードを特異的に遮断することによって改善することは、実行可能であろう。このことは、例えば、ヒトP-セレクチンに選択的に結合するがその生体活性を有しないリガンドを投与することによってなし得る。この方法によれば、結集P-セレクチンは不活化され、白血球誘発性組織損傷は阻止され得るであろう。可能性として、同じ効果が、P-セレクチンリガンドまたは拮抗薬がペプチドまたは変性ペプチドであることを条件として、遺伝子治療によって達成され得る。この方法によれば、治療を必要とするヒトの体細胞が、P-セレクチン拮抗薬をコード化するDNA配列を担持する発現ベクターによって形質移入されるであろう。
高活性化合物によるどの全身治療も有する1つの大きな欠点は、実質的な副作用を潜在的にもたらし得る該化合物の生物体内での分布および未疾患細胞および組織への暴露である。未疾患細胞を実質的に暴露することなく活性剤の疾患細胞への特異的な標的化伝達を可能にするような利用可能な方法および薬物伝達系を有することが、最も望ましいことであろう。
現在、市場において入手可能な細胞特異性標的化薬物伝達系を含む製薬製品は存在していないけれども、多くの試験伝達系が、科学および特許文献において記載されている。薬物標的化は、活性原体のターゲット認識性リガンドによる抱合体に基づき得、そのような抱合体は分子状薬物伝達系を代表する。そのような抱合体の一般的な欠点は、リガンド当りの薬物物質の低配分量(多くの場合、1:1のみ)であり、高レベルのリガンドに対する暴露をもたらしている。
例えば、Everts等(J. Immunol. 168: 883 (2002))は、E-セレクチン特異性免疫抱合体を使用してのデキサメタゾンの活性化内皮細胞中への選択的細胞内伝達を報告している。デキサメタゾンを抗-E-セレクチン-Abに共有結合させて、いわゆるデキサメタゾン-抗-E-セレクチン抱合体が得られていた。E-セレクチンに対する抱合体の結合性は、表面プラズモン共鳴および免疫組織化学を使用して試験されていた。さらにまた、抱合体の内在化は、共焦点レーザー走査顕微鏡法および免疫透過電子顕微鏡法を使用して試験されていた。デキサメタゾン-抗-E-セレクチン抱合体は、未変性抗-E-セレクチンAb同様、TNF-α刺激内皮細胞に選択的に結合し、残りの内皮細胞には結合していないことを実証していた。結合後、抱合体を内在化させ、リソソーム関連細胞コンパートメントである多小胞体に送っていた。細胞内分解後、薬理活性デキサメタゾンは、グルココルチコイド応答性レポーター遺伝子により形質移入された内皮細胞において証明されていたように、放出されていた。さらにまた、細胞内に伝達されたデキサメタゾンは、前炎症遺伝子IL-8をダウン調節し得ていた。
例えば、E-セレクチン標的化薬物伝達方法は、Spragg等によって研究されている(Proc. Nat. Acad. Sci USA 94: 8795 (1997))。この文献によれば、E-セレクチンが、種々の疾病状態の治療用の治療薬または遺伝子の内皮選択性伝達のための分子ターゲットとして選定されていた。E-セレクチンの細胞外ドメインを認識するネズミモノクローナル抗体であるmAb H18/7と各々接合させた種々のタイプのリポソーム(古典的、立体的に安定化した、カチオン性、pH感受性)は、活性化されていないHUVECに対してよりも、IL-1β活性化HUVECに対して275倍までも高いレベルで選択的に且つ特異的に結合していた。E-セレクチン標的化免疫リポソームは、細胞表面への結合の2〜4時間後、酸性の核周辺小胞内に出現していて、エンドソーム/リソソーム経路による内在化と一致していた。E-セレクチン標的化免疫リポソームと一緒にインキュベートし、細胞毒性剤ドキソルビシンを加えた活性化HUVECは、有意の細胞生存率の低下を示していたのに対し、活性化されてないHUVECは、そのような処置によっては影響を受けなかった。
一方、P-セレクチンも、上述したような炎症過程に関与する活性化内皮細胞に対する少なくとも適切な分子ターゲットであり得るという幾つかの証拠が存在している。従って、セレクチン群のこのメンバーに対して、ひいては、(増大した)P-セレクチン発現または存在を示す細胞および組織に対して特異的に標的化された薬物伝達系が求められている。
現在知られているP-セレクチン結合性化合物の大多数は、シアリルルイスX (sLeX)系の炭水化物、四糖体およびセレクチン群に対する天然リガンドである。しかしながら、これらの擬態物は、P-セレクチンに対して有するのとおよそ同じ親和性でもってセレクチン群の他のメンバーにも結合する性向を有するので、低親和性(マイクロモル〜ミリモル範囲)および低特異性を示すという欠点を有する。
従って、ターゲット分子に対し高い親和性および特異性を有するようなP-セレクチン特異性標的化薬物伝達系も求められている。
(発明が解決しようとする課題)
本発明の目的は、P-セレクチン標的リガンド分子を提供することである。
本発明のさらなる目的は、そのようなP-セレクチン標的リガンド分子を含む組成物を提供することであり、そのような組成物は、安全且つ有効に投与し得る医薬用製剤として、さらに診断用製剤としての使用において有用である。
もう1つの局面においては、本発明の目的は、そのような組成物を製造するためのキットを提供することである。
第1の局面においては、本発明は、下記を含む標的リガンド分子を提供する:
‐ターゲット認識成分;
‐水溶性オリゴマーまたはポリマーから形成されたスペーサー;および、
‐両親媒性脂質から形成され、少なくとも1種の疎水性無極性成分と親水性極性ヘッド基からなるアンカーリング成分。
上記ターゲット認識成分は、下記に由来する:
(1) アミノ酸配列 X(Ax)mA3A1A2A1Yまたは該配列の機能的等価物を有するペプチド、ペプトイドまたはこれらの誘導体;
(式中、A1は、D-もしくはL-システイン(C)、D-もしくはL-バリン(V)、またはこれらのアナログもしくは擬態物であり;
A2は、D-もしくはL-アスパラギン酸(D)、またはこれらのアナログであり;
A3は、D-もしくはL-フェニルアラニン(F)、D-もしくはL-トリプトファン(W)、またはこれらのアナログもしくは擬態物であり;
Axは、グルタミン酸(E)、アスパラギン酸(D)、グリシン(G)およびシステイン(C)からなる群から選ばれたD-もしくはL-アミノ酸、並びにそのアナログまたは擬態物であり;
Xは、前記配列のN-末端側鎖を示し、水素、または1〜6個のD-もしくはL-アミノ酸またはこれらのアナログを含む残基であり;
Yは、前記配列のC-末端側鎖を示し、-OH、または1〜11個のD-もしくはL-アミノ酸またはこれらのアナログを含む残基であり;
XおよびYは、一緒になって、環状系を形成し得;
XおよびYの少なくとも1つまたはX + Yは、基R1-(Z)n-によって置換されていることを特徴とし;
Zは、-CO-、-O-、-NR2-、および -CO-NR2-から選ばれ;
R1およびR2は、個々に、
(a) H;
(b) C1〜C8アルキル基;
(c) 少なくとも1個のC原子が窒素、酸素またはイオウ原子で置換されているC2〜C8アルキル基;
(d) ハロゲン、C1〜C6アルキル、-CF3、-OH、-O-C1〜C6-アルキル、-COOH、-COO-C1〜C6アルキル、-NO2、-NH2、-NH-C1〜C6アルキル、-N-(C1〜C6アルキル)2 および -SO3Hから選ばれた少なくとも1個の基によって置換し得るC6〜C14アリール基;
(e) 5員もしくは6員環系およびベンゾ縮合環系から選ばれ、窒素、酸素およびイオウからなる群から選ばれた少なくとも1個のヘテロ原子を有するヘテロアリール基であって、ハロゲン、C1〜C6アルキル、-CF3、-OH、-O-C1〜C6-アルキル、-COOH、-COO-C1〜C6アルキル、-NO2、-NH2、-NH-C1〜C6アルキル、-N-(C1〜C6アルキル)2 および -SO3Hからなる群から選ばれた少なくとも1個の基によって置換し得るヘテロアリール基;
(f) (b)または(c)で定義したアルキル基および(d)または(e)で定義したアリール基またはヘテロアリール基を含むアラルキル基;
から選ばれ;
mおよびnは、個々に、0および1から選ばれた整数であるが、nは、R1がHであるときには、0でないことを条件とする)。
(式中、Xは、任意構成成分としての基であって、-O-、-OCH2-、-S-、-SCH2-、-NH- または -NHCH2-を示し;
R1は、QR4を示し;Qは、-O-、-NH-、-NH-(C=O)-、-O-(C=O)、-NH-(C=O)-O- または -NH-(C=O)-NH-を示し;R4は、H、または少なくとも1個の炭素原子を含む任意の化合物を示し;
R2は、少なくとも1個の負電荷を有している成分であり;
R3は、Q = -O-であり、R4が -H-であり、Xが存在することを条件として任意の基であり得る)。
(3) 没食子酸もしくはその誘導体、ポリフェノール、または下記の構造式(II):
標的リガンド分子として好ましいのは、P-セレクチンに対して選択的親和性を有する化合物である。
これらの分子においては、ターゲット認識成分は、ペプチド、ペプトイドまたはこれらの誘導体に由来し得る。
ペプチドは、1つのアミノ酸のアミノ基ともう1つのアミノ酸のカルボキシル基との結合により2種以上のアミノ酸から誘導されたアミドとして定義される(Merriam Webster Medical Dictionary 2001)。本明細書において使用するとき、ペプチドは、分子内のペプチド構造体も称し得る。典型的には、ペプチドは、天然産L-α-アミノ酸からなり、これらのアミノ酸は、アラニン(AlaまたはA)、アルギニン(ArgまたはR)、アスパラギン(AsnまたはN)、アスパラギン酸 (AspまたはD)、システイン(CysまたはC)、グルタミン(GlnまたはQ)、グルタミン酸(GluまたはE)、グリシン(GlyまたはG)、ヒスチジン(HisまたはH)、イソロイシン(IleまたはI)、ロイシン(LeuまたはL)、リシン(LysまたはK)、メチオニン(MetまたはM)、フェニルアラニン(PheまたはF)、プロリン(ProまたはP)、セリン(SerまたはS)、スレオニン(ThrまたはT)、トリプトファン(TrpまたはW)、チロシン(TyrまたはY)、およびバリン(ValまたはV)である。
本発明のペプチドの機能的等価物は、性質的には同じヒトP-セレクチン結合活性を含むが量的には必ずしも同じではないタンパク質様分子であり、例えば、修飾ペプチド、ペプトイド、ペプチドアナログまたはペプチド擬態物があり得る。
修飾ペプチドは、天然産アミノ酸中には存在しない置換基または官能基を導入することによってペプチドから誘導した分子である。また、上記用語は、ペプチドと他の化学カテゴリーからの分子との反応によって得られる化合物を、これらの分子が天然産であるかまたはないかの如何にかかわらず包含する。例えば、ビオチン化ペプチド、糖タンパク質、リポタンパク質は、天然において頻繁に見出されるが、ペグ化インターフェロンのようなポリエチレングリコールで修飾したペプチドは、ペプチド類の性質の全てではないが幾つかを改変するように設計されている化学修飾ペプチドの例である。
ペプチド擬態物は、その最も広い範囲においては、その機能的構造においてペプチドと多かれ少なかれ類似するが主鎖またはD-アミノ酸中に非ペプチド結合も含有し得る化合物である。一般に、ペプチド擬態物は、レセプターおよび酵素類との相互作用において本来のペプチド類の代替物として作用する(Pharmaceutical Biotechnology, Ed. D. J. A. Crommelin and R. D. Sindelar, Harwood Academic Publishers, 1997, p. 138)。ペプチド擬態物の1分類である偽ペプチド類は、アミド結合の代りにアミド結合イソエステルを含有する化合物である(同文献、137〜140頁)。
また、本発明のペプチド系リガンドは、製薬上許容し得る酸-または塩基付加塩のようなペプチド類または機能的等価物の塩も包含する。
好ましいペプチド標的リガンドは、アミノ酸配列 XAxA3A1A2A1Yまたは該配列の機能的等価物を有するターゲット認識成分を含み、上記式中、A1は、D-もしくはL-システイン(C)、D-もしくはL-バリン(V)、またはこれらのアナログであり;A2は、D-もしくはL-アスパラギン酸(D)、またはこれらのアナログもしくは擬態物であり;A3は、D-もしくはL-フェニルアラニン(F)、D-もしくはL-トリプトファン(W)、またはこれらのアナログもしくは擬態物であり;Axは、グルタミン酸(E)、アスパラギン酸(D)、グリシン(G)およびシステイン(C)からなる群から選ばれたD-もしくはL-アミノ酸、およびこれらのアナログまたは擬態物であり;Xは、上記配列のN-末端側鎖を示し、水素、または1〜6個のD-もしくはL-アミノ酸またはこれらのアナログを含む残基であり;Yは、上記配列のC-末端側鎖を示し、-OH、または1〜11個のD-もしくはL-アミノ酸またはこれらのアナログを含む残基であり;XおよびYは、一緒になって、環状系を形成し得る。1つのとりわけ好ましい実施態様においては、上記リガンドは、アミノ酸配列XEWVDVYまたは該配列の機能的等価物を含む。このアミノ酸配列を含むペプチド化合物は、WO 03/020753号およびWO 04/018502号においてより詳細に記載されており、それらの開示は、参考として本明細書に合体させる;読者は、製造に関する詳細についてこれらの開示を詳細に参照し得る。
WO 04/033473号に開示されているような化合物は、この出願における式IaおよびIbによって示されている。これらのグルコース系化合物は、これら化合物が単糖構造のC-2において置換基R1を有することに特徴を有する。この置換基R1は、置換基R3よりもはるかに重要である。何も理論によって拘束するつもりはないが、R1は、P-セレクチンの認識またはP-セレクチンに対する選択性において活力的な役割を果たしているものと信じている。R1は、QR4を示し、式中、Qは、-O-、-NH-、-NH-(C=O)-、-O-(C=O)、-NH-(C=O)-O-または-NH-(C=O)-NH、好ましくは-NH-(C=O)-を示し;R4は、少なくとも1個の炭素原子を含む任意の置換基である。好ましい基R4は、線状もしくは枝分れのアルキル基またはアリール基、線状もしくは枝分れのアラルキル基またはアルカリール基であり、これらの基は、窒素、酸素、リン、イオウ原子のような1個以上のヘテロ原子を含有し得、また、これらの基は、好ましくは20個までの炭素原子、より好ましくは1〜12個の炭素原子を有する;これらの基は、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、酸素原子、アルコキシおよびアリーロキシ基、アミノまたは置換アミノ基、並びに他の置換基によって置換し得る。とりわけ好ましい実施態様においては、電子求引基が芳香族成分中に存在する。最も好ましいR4は、H、アルキル成分、芳香族成分または電子求引成分である。
芳香族成分は、例えば、フェニル、ナフチル、クレシル、トリル、アンスラシル、フェナントリル、ピリジル、ピラジル、ピリダジルまたはキノリル基であり得、これらの基は、必要に応じて置換し得る。好ましくは、R4は、フェニルまたはナフチル基である。
もう1つの実施態様においては、R4は、電子求引成分を含む基である。好ましくは、電子求引成分は、ニトロ、-(C=O)-アルキル、シアノニトリル、-SO3H、CCl3またはCF3からなる群から選ばれた成分である;より好ましくは、電子求引基は、ニトロ基である。
没食子酸、即ち、3,4,5-トリヒドロキシ安息香酸は、没食子、クルミ、マンゴー種子、レッドグレープ(red grape)類、緑茶およびオリーブ油におけるような、果物、植物およびハーブ類において見出される天然ポリヒドロキシフェノールである。多くの植物生成物において、没食子酸は、複合体および不均一化学構造を有する化合物の1群を説明するタンニンまたはガロタンニンとも称するタンニン酸のようなプレカーサーの形で含まれている。タンニン類は、2つの群、即ち、(a) フラバノール類の誘導体、いわゆる縮合タンニン類、および(b) 糖、通常はグルコースと1種以上のトリヒドロキシベンゼンカルボン酸とのエステルである加水分解性タンニン類(より重要な群)に分類し得る。没食子酸は、タンニンの主要な加水分解生成物である。さらに、上記ターゲット認識成分は、没食子酸誘導体および没食子酸と化学的に関連するまたは1種以上の没食子酸成分を含む化合物からも誘導し得る。また、投与後、化学または酵素分解を受けてその場で没食子酸を生成する(プレカーサー)化合物も含まれ、上記没食子酸誘導体または没食子酸と化学的に関連する化合物は、1種以上の没食子酸含有成分を含む。本発明に従う没食子酸誘導体としては、抱合体、二量体、多量体、塩、エステル、エーテル、アミド等のような、没食子酸から誘導した化学構造体がある。さらにまた、上記誘導体としては、フェノール系ヒドロキシル基の数と位置によるまたは1個以上のさらなる置換基の存在によるような、化学的にはある程度没食子酸と異なるがP-セレクチンに対する親和性は有する化合物がある。他のポリヒドロキシフェノールの例は、没食子酸n-ドデシル、カフェイン酸および3,4,5-トリヒドロキシ桂皮酸である。
同様に、ポリフェノール類も、没食子酸およびその誘導体である上記ポリヒドロキシフェノール類と多かれ少なかれ同じ程度に有用であることが証明されている。ポリフェノ類は、結合した1個以上のヒドロキシル基を有する2個以上の6員炭素原子担持芳香族環を含む化合物として定義される。そのようなポリフェノール類の例は、(-)-エピガロカテキンガレート、(エピ)カテキン、m-ガロイル没食子酸およびエラグ酸である。
直鎖または枝分れ(C1〜C4)脂肪族アルキル基の例は、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル等である。芳香族基は、6〜14個の炭素原子を有する基であり、炭素環アリールおよび複素環アリール基を含む。炭素環アリール基は、単環式〜三環式であり、好ましくは、フェニル、ナフチル、アントリルまたはフェナントリル等である。
複素環アリール基は、窒素原子、酸素原子またはイオウ原子からなる群から選ばれた1〜4個のヘテロ原子を有する単環式〜三環式の基である。複素環基は、ピロリル、ピラゾリル、イミダゾリル、チアゾリル、オキサゾリル、イソチアゾリル、イソオキサゾリル、1,3,5-トリアゾリル、1,2,4-トリアゾリル、1,3,5-チアジアゾリル、1,3,5-オキサジアゾリル、ピリジル、ピリダジニル、ピリミジル、ピラジル、ベンゾフラニル、イソベンゾフラニル、ベンゾチエニル、インドリル、クロメニル、キノリル、イソキノリル、フタラジニルまたはキオノキサリニル等である。
(C3〜C8)シクロアルキル基は、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチルまたはシクロオクチルを示す。さらにまた、(C3〜C8)シクロアルキル基は、直鎖もしくは枝分れ(C1〜C4)脂肪族アルキル基、または1個以上のカルボン酸基で必要に応じて置換する。
好ましい実施態様においては、下記に特徴を有するポリヒドロキシフェノールを使用する:
R1 = エチル、フェニルメチル、インドリルメチルまたは4-ヒドロキシフェニルメチル;
R2 = 直鎖(C1〜C4)脂肪族アルキル基;
R3 = 必要に応じて直鎖もしくは枝分れ(C1〜C4)脂肪族アルキル基で置換された1個または2個のカルボン酸基で置換された直鎖(C1〜C4)脂肪族アルキル基。
より好ましい実施態様においては、下記であるポリヒドロキシフェノールを使用する:
R1 = エチル、フェニルメチル、インドリルメチルまたは4-ヒドロキシフェニルメチル;
R2 = 水素、エチル、プロピルまたはイソプロピル;
R3 = エチルカルボン酸またはプロピルジカルボン酸。
コロイド状担体がリポソームである場合、最も有用であるリガンドのタイプの1つは、ペプチド系ターゲット認識成分および脂質系アンカーリング成分、並びに任意成分としてのこれら成分間のスペーサーを含む抱合体である。
アンカーリング成分は、好ましくは、少なくとも1種の疎水性無極性成分と親水性極性ヘッド基とからなる両親媒性脂質から調製する。両親媒性は、リン脂質、糖脂質、セラミド、コレステロールおよび誘導体、飽和または不飽和の枝分れまたは直鎖C8〜C100モノ-またはジ-アルキルアミン、アリールアルキルアミン、シクロアルキルアルキルアミン、アルカノール、アルデヒド、カルボハライド、またはアルカン酸およびその無水物からなる群から選ばれ、C原子の総数が25個以上であることを特徴とする。好ましくは、両親媒性脂質は、少なくとも2つの疎水性無極性成分を含み、極めて好ましく使用し得るその例は、1-ヘプタデシル-オクタデシルアミン、N-スクシニル-ジ-オクタデシルアミンおよびジステアリルホスファチジルエタノールアミンからなる群から選ばれる。
上記水溶性ポリマーは、ポリエチレングリコール。ポリ(アミノ酸)、ポリ(アミノ酸誘導体)、ポリ(アミノ酸アナログ)、ポリビニルピロリドンまたはガングリオシドGM1である。ポリ(アミノ酸)系ポリマーに関するさらなる詳細については、WO 02/98952号を参照されたい;該特許は、参考として本明細書に合体させる。
例えば、好ましい実施態様は、ターゲット認識成分がアミノ酸配列XEWVDVYを含み、脂質アンカーリング成分がリン脂質残基によって示され、スペーサーがポリマーまたはオリゴマーであるような標的リガンド分子である。最も好ましい実施態様は、分子 XEWVDVY-PEG-DSPEである。
薬物伝達系は、典型的には、より簡単且つ侵害性の低い伝達方法を有利に意図することによってコンプライアンスを最大にしながら、薬物の伝達を最適にすることを一般に目的とする進歩した医薬製剤または製剤成分である。薬物伝達系は、事実上全ての可能性ある投与経路において開発されている。標的薬物伝達系は、体内のターゲットに対する薬物物質のより選択的な伝達を達成する任意の製剤または製剤成分を称する。本発明の関連において、上記ターゲットは、P-セレクチンを発現する細胞または組織に代表される。従って、標的化薬物伝達とは、伝達系が、例えば静脈内注入する薬物物質の単純な溶液と比較して、薬物物質に対してターゲット細胞の暴露増大をもたらしていることを意味する。
本明細書において使用するとき、活性化合物とは、物質の天然または人工的な混合物および組合せを含む任意の治療用または診断用物質である。活性化合物は、有機または無機の如何にかかわらず、天然、半合成または合成小または大分子から選択し得る。活性化合物としては、例えば、ペプチド;タンパク質;DNA、RNA、小ヘアピンRNAのような核酸;オリゴヌクレオチドおよびアンチセンスオリゴヌクレオチド類がある。
本発明の薬物伝達系は、とりわけ、(a) コロイド状担体、(b) 該担体に結合させた活性化合物、および(c) 該担体の表面と結合させた、P-セレクチンに対する親和性を有する上述したような少なくとも1個の標的リガンドを含む。
“コロイド状担体”なる用語は、静脈内投与において一般的に最も有用な粒度範囲である低ミクロまたはサブミクロン範囲の固体、半固体もしくは液体の粒子もしくは超分子構造体、または単一巨大分子の全てを包含するのに使用する。コロイド状担体の例は、ミクロ-およびナノ粒子、ミクロ-およびナノスフィア、ミクロ-およびナノカプセル、ミセル、架橋ミセル、コロイド状ヒドロゲル、複合体、リポソームおよびニオソームのような小胞、ビロソーム、デントリマー、エマルジョン液滴、および星型ポリマーである。極めて適切な担体は、粒子または超分子構造体である。
好ましいリポソームには、その層形状にかかわらず、1,000 nmよりも大きくないような比較的小直径を有するリポソームがある。本明細書において使用するとき、直径は、光子相関分光法および動的光散乱法を使用する測定法のような当該技術において既知の通常の方法によって評価したときの平均直径である。もう1つの好ましい実施態様においては、リポソームは、400 nm未満の直径を有し、この直径は、それぞれの懸濁液の高い物理的安定性を伴い或いはリポソームが沈降または浮遊する傾向の小さい粒度である。特定の製品用途または使用にもよるが、リポソームの直径(他の担体を使用する場合は、それぞれの粒子または構造体の直径)を均一な小さめのサイズに、例えば、200 nmよりも大きくないサイズに限定することは、有用であり得る。例えば、この粒度範囲の担体によってより長い循環半減期を達成することは容易であり得る。
リポソームは、天然、半合成または合成のリン脂質、スフィンゴ脂質、セラミド、ステロール、または脂質二分子層中に混入し得る他の脂質様物質のような種々のタイプの脂質から調製し得る。好ましい脂質は、ホスファチジルコリン(天然リン脂質から主としてなる混合物)のような中性(または、むしろ両性イオン性の)リン脂質、水和ホスファチジルコリン、レシチン、水和レシチン、ジミリストイルホスファチジルコリン、ジステアロイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、1個または2個のオレイン酸鎖を有し、必要に応じてコレステロールのようなステロール類と混合した不飽和ホスファチジルコリンのような、生理学上安全且つ許容し得る脂質である。
薬物伝達系を全身静脈内投与用に意図する場合、ターゲット細胞または組織との特異的な相互作用の機会は、クリアランスと集合的に称する過程の殆どがターゲット相互作用と拮抗するときに、担体のクリアランスを低下させた場合に増大させ得る。コロイド状粒子は、肝臓および脾臓に主として存在する細網内皮系のマクロファージによって効率よく取込まれたときに、循環血液流からむしろ急速に消失する性向を有する。コロイド状粒子のサイズおよび表面特性にもよるが、コロイド状粒子は、数分の半減期で循環系から消失し得る。しかしながら、比較的小粒度を選定することにより、さらには、とりわけ粒子表面を改変することにより、排出半減期は、少なくとも数時間まで延長し得る。リポソーム、ナノ粒子および他のコロイド状薬物担体の循環時間を延長する数種の高分子コーティーングが知られている。現在知られている最も有効なポリマーコーティーングの1つは、ポリエチレングリコール、またはポリエチレングリコールを含むコポリマーからなる。従って、現在のところ、本発明の担体のコーティーングがポリエチレングリコールまたはポリエチレングリコール関連成分を含むのが、好ましい実施態様である。しかしながら、ポリ(アミノ酸)、ポリ(アミノ酸誘導体)、ポリ(アミノ酸アナログ)、ポリビニルピロリドンまたはガングリオシドGM1をベースとする他のコーティーングも、ポリエチレングリコール同様に有効であるようである。
とりわけ、P-セレクチン活性化細胞内の炎症過程に対抗する化合物は、そのような薬物物質の有用な候補である。本明細書において定義する抗炎症化合物としては、ステロイド類、とりわけグルココルチコイド類、非ステロイド系抗炎症薬、および免疫抑制剤がある。1つの好ましい実施態様においては、活性化合物は、デキサメタゾン、ベタメタゾン、プレドニソロン、メチルプレドニソロン、コルチゾン、ヒドロコルチゾン、トリアンシノロン、デフラザコート、リメキソロン、クロプレドノールおよびフルオコルトロンのようなグルココルチコイド類の群から選ばれる。
コロイド状担体とターゲット分子P-セレクチン間の結合の十分な可能性を確保するためには、好ましくは、少なくとも2個の標的リガンドを担体粒子表面と結合させるべきである。より好ましくは、担体当りのリガンド数は、少なくとも5個または少なくとも10個のように2個よりもかなり多くあるべきである。また、担体表面領域上でのリガンドのランダムな空間分布を想定すれば、ターゲットとの相互作用の十分な可能性を確保するのに適切と思える担体当りのリガンド数は、担体粒子の直径にも依存するであろう。例えば、約50〜100 nm範囲の小担体は、該担体が数ダース乃至数百個のリガンド数を負荷したときに実質的に固定されたとみなされ得る。一方、低ミクロン範囲のより大きな担体は、担体がその表面上に少なくともおよそ二、三百個のリガンドを示したときに有意なターゲティング効果を示すことが期待される。好ましい実施態様においては、担体粒度は400 nm未満であり、担体粒子当りの標的リガンド数は、20〜10,000個である。
本明細書において使用するとき、賦形剤は、投与するのに安定且つ容易である投与量剤形に化合物または薬物伝達系を配合するためのビヒクルまたは補助物質として使用し得る、実質的な薬理活性を有さない任意の製薬上許容し得る物質または物質の混合物である。製薬上許容し得る賦形剤の例は、主要な薬局方全てのモノグラフ中で見出される。
1つの実施態様においては、上記組成物は、非経口注入用に、好ましくは、静脈内または動脈内のような血管内注入用ではあるが、筋肉内、皮下、病変内、腹腔内または他の非経口経路用にも、調製され加工される。また、これらの投与経路用の他の薬物の配合を決定する同じ原理が、当業者に、そのような組成物を如何にして調製するかを教示するであろう。例えば、非経口投与量剤形の要件の1つは、滅菌性である。他の要件は、USP 24、モノグラフ“General Requirements for Tests and Assays. 1. Injections”, p. 1775-1777おけるように主要な薬局方の全てにおいて記載されている。
製剤の安定性を増大させるためには、投与する前に再構成しなければならない乾燥投与量剤形を調製することも必要であり得る。そのような投与量剤形の例は、フリーズドライ即ち凍結乾燥製剤である。便宜性および安全性をさらに増大させるためには、乾燥投与量剤形は、該乾燥投与量剤形を再構成して液体を調製し得る適切な液体組成物と組合せ得る。換言すれば、本発明のこの実施態様は、固形成分と液体成分を含む製薬組成物を調製するためのキットであり、固形成分が、上記で定義したようなP-セレクチンを発現する細胞に対して活性化合物を伝達するための標的化薬物伝達系を含み、一方、液体成分は水性組成物である。非経口製剤は、勿論、本発明の範囲に属する。
また、上記製薬組成物は、経口投与用に設計して、相応に加工し得る。適切な経口投与量剤形としては、錠剤、硬質カプセル剤、軟質カプセル剤、粉末剤、顆粒剤、口内崩壊性投与量剤形、シロップ剤、ドロップ剤、懸濁液、発泡錠剤、咀嚼可能錠剤、経口フィルム剤、凍結乾燥投与量剤形、持続放出投与量剤形、制御放出投与量剤形がある。1つの好ましい実施態様においては、経口投与量剤形は、胃の酸性およびタンパク質分解性環境からの化合物の保護のために腸溶性コーティーング固形投与量剤形である。
また、本発明の標的化薬物伝達系を経粘膜投与量剤形または組成物として投与することも有利であり得る。この投与経路は、非侵襲性であり患者に優しいものである;同時に、この投与経路は、経口投与に比較して、改良された生体利用性をもたらす。経粘膜投与は、例えば、鼻腔内、口内、舌下、歯肉または腟内投与量剤形により可能である。これらの投与量剤形は、公知の方法で調製し得る;これらの投与量剤形は、点鼻薬またはスプレー剤、挿入剤、フィルム剤、パッチ剤、ゲル剤、軟膏または錠剤であるように調合し得る。好ましくは、経粘膜投与量剤形において使用する賦形剤は、粘膜接着性を付与し、それによって投与量剤形の吸収部位との接触時間を延長し、それによって吸収度合を潜在的に増大させる1種以上の物質を含む。
さらなる実施態様においては、本発明の薬物伝達系は、投与量計量吸入器、ネブライザー、エアゾールスプレーまたは乾燥粉末吸入器を使用して、肺経路により投与する。適切な製剤は、公知の方法および技術によって調製し得る。経皮、直腸内または眼内投与も、ある場合には実施可能である。しかしながら、現在のところ最も好ましいのは、P-セレクチン標的化薬物伝達系を含有する注入可能な組成物である。
実施例
実施例1
P-セレクチンに対する親和性を有するペプチド系標的リガンドの合成
ヒトP-セレクチン結合性ペプチド H2N-DVEWVDVSY-COOH (Pstar)を、標準のFmoc化学を使用するApplied Biosystems 9050ペプチドシンセサイザー(Warrington社、英国)を使用して、固相化学により合成した。ペプチドを、C8 RP-カラム(Alltech社、オランダ国ブレダ)上で、0.1%のTFAを含むアセトニトリル/水勾配を使用して精製した。配列および純度は、MALDI/LC-MSおよびSMART装置(Pep30カラム)を使用するサイズ排除クロマトグラフィーによりチェックした。
第2工程において、上記ペプチドを、ICI法を使用して放射線標識した。遊離の125Iを、溶離液としてのPBSによるSephadex G10濾過により除去した。純度は、SDS-PAGEゲル電気泳動(20%)によりチェックし、リン画像化剤を使用して分析した。ペプチドをPBS中に4℃で保存した。
第3工程において、放射線標識ペプチドをHEPES緩衝液(Biosolve社、オランダ国フォルケンスワード) (10 mM HEPES、pH 6.6)中に溶解し、この溶液に、N-ヒドロキシ-スクシシミジルポリ(エチレングリコールジステアロイル-ホスファチジルエタノールアミン(MW 3400) (DSPE-PEG3400-NHS:7当量) (Shearwater Polymers社、米国ハンツビル)を数分割で添加した。室温で18時間穏やかに撹拌した後、残存NHS基をグリシンの添加により失活させた。抱合体 DSPE-PEG-(125I)-Pstarの形成を、SDS-PAGEゲル電気泳動(20%)および溶離液としてのPBS(0.02% NaN3および1 mM EDTA (Roche Molecular Biochemicals社))によるPep30またはSuperose 6カラムを使用してのSMART分析により判定した。
デキサメタゾンを含むリポソーム薬物伝達系の調製
リポソームを押出により調製した。卵黄ホスファチジルコリン(Lipoid社、ドイツ国ルートウィヒスハーヘン) (EYPC;MeOH/CHCl3(容量/容量1:1)中100 mg/ml)とコレステロール(MeOH/CHCl3(容量/容量1:1)中10 mg/ml)を、5.0:0.44 (mg/mg)の質量比で混合し、混合物を窒素流下に乾燥させた。2 mlの緩衝液(0.1 M KCl、10 mM Tris-HCl、pH 8.0)中での脂質の水和後、懸濁液を、LiposoFast空圧機(Cavestin社、カナダ国オタワ)を使用して、Whatman Nucleporeポリカーボネート膜(100 nm、カリフォルニア州プレザントン)を通して31回押出した。粒度は、光子相関分光法(Malvern 4700 C System;Malvern Instruments社、英国マルヴァーン)により、27℃およびレーザーと検出器間の角度90°で測定した(65〜73 nm、多分散性 0.1〜0.27)。リポソームのホスファチジルコリン含有量は、Roche Molecular Biochemicals社のリン脂質用酵素キットを使用し、内部標準としてのPrecipath L (Roche Molecular Biochemicals社)により酵素によって測定した。蛍光標識リポソームを、1,1'-ジオクタデシル-3,3,3',3'-テトラメチルインドカルボシアニド(Molecular Probes社、オランダ国ライデン) (DiI;MeOH/CHCl3(容量/容量1:1)中1%)を粗脂質混合物に添加することによって調製した。リン酸デキサメタゾン(10mg)を音波処理緩衝液に添加してリン酸デキサメタゾン含有リポソームを得た。
引き続く工程において、標的リガンド DSPE-PEG-(125I)-Pstar(実施例1に従い調製したような)を上記リポソームと結合させた。所望量のDSPE-PEG3400-(125I)-P-starとポリ(エチレングリコール)ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(MW 2000) (Shearwater Polymers社、米国ハンツビル) (DSPE-PEG2000;合計で5モル%)を上記リポソームと一緒の37℃で2時間のインキュベーションにより取込ませた。70 nmリポソーム当りの結合抱合体の数を、リポソーム1.12×1011個/リン脂質mgを想定して算出した。100個(LP100)および500個(LP500)を含有するリポソームを調製した。対照リポソーム(P0)の調製においては、同じ量のグリシンで失活させたDSPE-PEG-NHSを添加した。その後、これらのリポソームサンプルを、Superose 6 カラムをPBSにより50μl/分で使用し、溶離液としての10 mM EDTAおよび0.02% NaNによるSMART分析に供した。
親和性の評価
実施例2において調製したリポソーム薬物伝達系の親和性を、拮抗アッセイを使用して評価した。TM11-PO、即ち、Molenaar等 (Blood 100: 3570-3577 (2002))によって開示された三量体TM11/strepPO複合体を、ストレプタビジン-ペルオキシダーゼ(Amersham Life Science社、英国リトルチャルフォント) (strep-PO;8.4μl、2.0μM)およびビオチン- CDVEWVDVSSLEWDLPC (オランダ国ユトレヒトのユトレヒト大学 Department of ImmunologyのVan der Zee博士により合成された) (TM11-ビオチン;1.5μl、190 mM)をアッセイ緩衝液(20 mM HEPES、150 mM NaCl、1 mM CaCl2、pH 7.4)中で室温にて2時間インキュベートすることによって新たに調製した。拮抗試験においては、96ウェルマイクロタイタープレート(高結合性、平底;Costar社、米国コーニング)を、コーティーング緩衝液(50 mM NaHCO3、pH 9.6)中の10μg/mlのヤギ抗-ヒトIgG (Sigma-Aldrich社、オランダ国ツヴィンドレヒト)により4℃で1夜コーティーングした。続いて、各ウェルをアッセイ緩衝液で洗浄し、遮断用緩衝液(アッセイ緩衝液中3%BSA)により37℃で1時間インキュベートした。アッセイ緩衝液で洗浄後、各ウェルを、ヒトP-セレクチン/IgG-Fc (R & D Systems Europe社、英国アビンドン) (0.3μg/ml)により37℃で2時間インキュベートした。その後、各ウェルをアッセイ緩衝液で洗浄し、TM11-PO複合体により4℃で1時間インキュベートした。各ウェルを洗浄用緩衝液(アッセイ緩衝液中0.1% Tween 20)で6回洗浄した。3,3',5,5'-テトラメチルベンズアミジン(TMB)/過酸化水素(H2O2) (Pierce社、米国ロックフォード)を添加し、各ウェルを室温で15分間インキュベートした。反応を2 M H2SO4の添加により停止させ、吸光度を450 nmで測定した。結果として、P100およびP500リポソームは、標的リガンドを含まない対照リポソーム(親和性を示さなかった)および遊離Pstar(低マイクロモルの親和性(IC50 = 7 μM)を示した)の双方よりもP-セレクチンに対してはるかに高い親和性(それぞれ、IC50 = 0.78および0.34 μM)を示していた。
ターゲティング特性の評価
実施例2において調製したリポソーム薬物伝達系のターゲティング特性を、細胞培養モデルを使用して評価した。デキサメタゾン付加P100およびP500リポソームのターゲティング効率の尺度として、これらリポソームのコルチコステロイド応答性遺伝子発現を誘発させる能力を測定し、リガンドを含まないリポソーム(P0)と比較した。
ヒトP-セレクチンを安定的に移入したヒトCHO細胞(CHO-P細胞;オランダ国アムステルダムのアムステルダム大学のModderman博士から親切に贈与された)を、10%のウシ胎仔血清(Bio Whittaker社、ベルギー国ベルビエ)、5 mMのL-グルタミン、20,000単位のペニシリン/ストレプトマイシン(Bio Whittaker社、ベルギー国ベルビエ)および5 mMの非不可欠アミノ酸を含有するDMEM中で培養した。培養フラスコを、5% CO2中で3日または4日間37℃で細胞が増殖して集合するまでインキュベートした。細胞を24ウェル培養プレート中に種付けし(ウェル当り約100,000細胞)、無ステロイドDMEM (10% FCS)中で90%集合まで増殖させた。細胞を、グルココルチコイド応答性要素-誘導ホタルルシフェラーゼをコード化するレポーター遺伝子構築物(Clontech社) (TAT3-Luc遺伝子;10 ng/ウェル)を含有する新たに調製したリポフェクチン(Lipofectin)混合物と一緒に5時間インキュベートすることによって形質移入し、レニラ(Renilla)ルシフェラーゼをコード化するpCMV-Luc (Promega社) (0.1 ng/ウェル)および空のベクターをオプチメン(Optimem)中で1μgDNA/ウェルまで添加した。CMC-誘導レニラルシフェラーゼを添加して移入効率について補正した。形質移入混合物を除去し、無ステロイドDMEMを細胞に添加した。18時間後、P500リポソーム(1 nM、リン酸デキサメタゾンを含むまたは含まない)、対照P0 (1 nM)またはリン酸デキサメタゾン(1 nM)を細胞に添加し、5時間放置してインキュベートした。培地を除去し、細胞をPBSで洗浄した。溶解緩衝液と一緒のインキュベーション後、レニラおよびホタルルシフェラーゼ活性を、Dual Luciferase Assay キット (Promega社)を使用して同時に測定した。
ルシフェラーゼ発現は、形質移入後5時間に観察された:相対的形質移入は、P0およびデキサメタゾンを含まないP500と比較して、デキサメタゾン付加P500により5倍増大していた。1 nMリポソーム濃度においては、これらのリポソームは、1μM濃度の遊離デキサメタゾンと匹敵し得るルシフェラーゼ活性に対する効果を有する。
Claims (10)
- ターゲット認識成分;水溶性オリゴマーまたはポリマーから形成されたスペーサー;および両親媒性脂質から形成され、少なくとも1種の疎水性無極性成分と親水性極性ヘッド基からなるアンカーリング成分を含み、前記ターゲット認識成分が、下記に由来し;
アミノ酸配列 X(Ax)mA3A1A2A1Yを有するペプチド
(式中、A1は、D-もしくはL-システイン(C)、またはD-もしくはL-バリン(V)であり;
A2は、D-もしくはL-アスパラギン酸(D)であり;
A3は、D-もしくはL-フェニルアラニン(F)、またはD-もしくはL-トリプトファン(W)であり;
Axは、グルタミン酸(E)、アスパラギン酸(D)、グリシン(G)およびシステイン(C)からなる群から選ばれたD-もしくはL-アミノ酸であり;
Xは、前記配列のN-末端側鎖を示し、水素、または1〜6個のD-もしくはL-アミノ酸を含む残基であり;
Yは、前記配列のC-末端側鎖を示し、-OH、または1〜11個のD-もしくはL-アミノ酸を含む残基であり;
XおよびYは、一緒になって、環状系を形成し得;
mは、0および1から選ばれた整数である)
前記スペーサーが、ポリエチレングリコールである水溶性ポリマーであり、
前記アンカーリング成分が、ジステアリルホスファチジルエタノールアミンである少なくとも2種の疎水性無極性成分を含有するリン脂質であることを特徴とする標的リガンド分子。 - 前記リガンド分子が、アミノ酸配列XEWVDVYを含む、請求項1記載のリガンド分子。
- 前記リガンド分子が、XEWVDVY-PEG-DSPEである、請求項1または2記載のリガンド分子。
- 前記リガンド分子が、NH 2 -DVEWVDVSY-CO-suc-PEG-DSPEである、請求項1〜3のいずれか1項記載のリガンド分子。
- (a) 担体、および、
(b) 該担体表面と結合した請求項1〜4のいずれか1項記載の少なくとも1種の標的リガンド分子、
を含む製薬組成物。 - 前記担体が、リポソームおよびニオソームのような小胞、ナノカプセル、マイクロカプセル、ナノ粒子、微小粒子、ミセルから選ばれた粒子からなるコロイド状担体であるか、或いは脂質複合体、コロイド状ヒドロゲルまたは微小エマルジョンである、請求項5記載の製薬組成物。
- 前記コロイド状担体粒子が、1μm未満の平均直径を有する、請求項6記載の製薬組成物。
- 前記コロイド状担体粒子が、400 nm未満の平均直径を有する、請求項7記載の製薬組成物。
- 前記担体がリポソームからなる、請求項6〜8のいずれか1項記載の製薬組成物。
- 前記製薬組成物が、薬理活性剤または診断剤を含有する、請求項5〜9のいずれか1項記載の製薬組成物。
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