JP4724820B2 - 多軸トウ積層不織布およびその製法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、坪量が大であらゆる方向に強い不織布であって、3次元成型物やジオテキスタイル等に使用される不織布に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ジオテキスタイルの一つの使われ方として、盛土や軟弱地盤の補強のような強度を要求される分野では、従来、織物が使用されている。しかし、厚物織物は、生産速度が遅く、またヤーンを使用するので、コストアップとなっていた。また、物性的にも、タテヨコの強度は強いが、45度方向の強度が弱く、あらゆる方向に強度が要求されるジオテキスタイルでは、必ずしも適合するものではなく、したがって、必要以上に厚い織物を使用しなければならず、その面からもコストアップとなっていた。かかる点を改善する目的で、四軸織物も開発され(特開平1−292140号)、ジオテキスタイルとしても検討されている(丸善:産業用繊維資材ハンドブック 1994年 p376)。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
これらの四軸織物は通常の織機よりさらに生産性が悪いため、コストアップとなり、コストが重要な因子であるジオテキスタイル等には適切ではない。また、織物は強度はあるが、伸度は小さいので、強度×伸度の破断エネルギーは必ずしも大きくなく、破断伸度の大きな不織布が求められていた。
また、ジオテキスタイルのもう一つの重要な使われ方として、水分の吸い出しや濾過、排水等の目的に使用される場合は、透水性が重要な特性として要求される。従来この分野では、スパンボンド不織布や短繊維不織布が使用されている。しかし、スパンボンド不織布は、繊維径が25〜30ミクロンで太く、繊維の毛細管現象を利用する透水性は必ずしも大きくない。一方、繊維径を細くしたスパンボンド不織布は、生産性が悪くコストアップとなる。また、スパンボンドはフィラメント強度が20mN/tex程度で弱い。また、フィラメントの配列もランダムであるため、毛細管現象を利用するには、効率が悪い。また、短繊維不織布は、繊維強度は100〜200mN/texと強いが、短繊維であるため、不織布の強度は繊維の絡合強度に依存し、極端に小さい。また、不織布内の繊維の配列もランダムであるため、透水性には効率が良くない。本発明は、これらの問題を解消した不織布を提供することにある。
以上は、ジオテキスタイルに例をとって説明したが、後述するように、ルーフィング基布、カーペット、フレキシブルコンテナー等の高強力や高破断エネルギーが求められる分野における従来の問題点を解決する場合にも用いられる。
【0004】
本発明人等は、従来の織物や直交不織布が45度方向の強度が弱いことを改善すべく、斜交3軸、4軸等の多軸積層不織布についての開発(特公昭62−54904、特公平1−24903、特公平3−80911号、特開平8−209518号)を行ってきた。しかし、これらはヤーンによる積層体であったため、粗い組織しか実現できず、また、坪量の大きな製品は生産性がわるかった。さらにこれらの先発明は、ヤーン相互の接着を接着剤に依存していたため、コストが高く、また一般に接着剤による接合は、接着力が弱いことや、接着剤は耐熱性がないため、用途上制限がある場合が多かった。本発明は、これらの問題を解消した不織布を提供することにある。
【0005】
プラスチックの業界では、プラスチックシートを熱成型等により深絞りを行ない、立体成型物が製造されている。
織物は、熱成型性はなく、伸度も小さいので深絞り加工はできない。
不織布には、熱成型性を持たせたものもある(特開昭60−199957号、特開昭60−199961号、特開平8−2915457号)。しかし、これらは、分子配向の小さいフィラメントから構成されており、できた製品の強度や寸法安定性が小さいものであった。また、これらは、スパンボンド不織布技術を基調にしたものであるので、坪量の大きい製品を得るには、生産性が悪かった。
したがって、自動車の座席や天井材、オフィスの応接椅子等に使用される、坪量が大きく、布のような触感をもった立体成型加工による3次元成型物を安価に製造できる素材が求められおり、本発明はこれらの課題を解決する不織布を提供することにある。
【0006】
また、現在社会においては、PETボトル等の廃プラスティック処理問題は、単にプラスチック業界ばかりでなく、行政府、流通業界側も含めた大きな社会問題になっている。本発明は、この廃プラスティックを原料樹脂として使用し、ジオテキスタイル等の大量使用用途が開け、廃プラスチックの有効利用を図ることで重要な社会的意義がある不織布を提供することにある。
【0007】
通常、トウの製造は、紡糸された未延伸トウを箱(ケンス、カン)に納める。そして、多数の箱から未延伸トウを多条繰り出し、それを延伸し捲縮加工を施して、製品としてのトウにするか、捲縮後に直接短繊維に加工されている。このような工程では、紡糸された未延伸トウを収納する箱と、延伸工程に繰り出すための箱が多数必要で、トウ製造工場は、それらの箱で埋め尽くされた感があり、工場スペース的に能率の悪いものになっている。本発明は、これらの問題を解消した不織布を提供することにある。
また、従来、トウを拡幅して薄いウェブにし、それを積層接着して、トウ拡幅直交不織布の発明もされている(特公昭53−38783号)。しかし、トウの拡幅は必ずしも効率が良くなく、坪量の小さい不織布では有効でも、本発明の目的である坪量の大きな不織布や、多方向に強い不織布には、効率のよいものではない。また、トウ拡幅による直交不織布は、多方向の強度は期待できない。本発明は、これらの問題を解消した不織布を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明は上記課題を解決するため鋭意研究を進めた結果、以下のような解決手段に到達した。
本発明は、構成するフィラメントが3tex以下で、捲縮を有し、かつ、そのトウタルtexが1,000以上、30,000以下であるトウが複数本並列した層を有する多軸トウ積層不織布に関する。
さらに本発明は、前記の多軸トウ積層不織布が下記の手段の内の少なくとも1種で層間が接合されたトウ多軸積層不織布に関する。
▲1▼ ニードルパンチ、 ▲2▼ ステッチボンド、▲3▼ 超音波接合
▲4▼ ウオータジェット、▲5▼ スルーエアー。
さらに本発明は、前記の多軸トウ積層不織布が、タテ方向、ヨコ方向、45度方向のすべての方向における50%伸度における強度が10mN/tex以上である多軸トウ積層不織布に関する。
さらに本発明は、前記の多軸トウ積層不織布が、軟化点に差のある異種のポリマーからなるコンジュゲートファイバーまたは混合ファイバーを含み、熱エンボス加工または熱圧着加工により接合された多軸トウ積層不織布に関する。
さらに本発明は、前記の多軸トウ積層不織布により立体成型加工された3次元成型物に関する。
さらに本発明は、トウの多軸積層工程の後に、多軸積層の互いに斜交する斜め材の両耳端がピンに保持されている状態で、フィラメント間の接合またはウェブの熱処理が行われるトウ多軸不織布の製法に関する。
さらに本発明は、前記の多軸トウ積層不織布が、軟化点に差のある異種のポリマーからなるコンジュゲートファイバーまたは混合ファイバーを含み、その多軸積層された不織布を立体成型加工により3次元成型物とする工程と、その3次元成型物を構成する異種ポリマーの低い方の軟化点以上で熱処理することによるトウ積層不織布からなる3次元成型物の製法に関する。
【0009】
本発明において、多軸積層不織布即ち3軸、4軸、5軸等の斜交積層不織布の製造技術で製造される積層不織布が使用される。これらの不織布は、織物や直交不織布と異なり、斜交する素材が含まれることを特徴とする。
3軸不織布、または3軸積層不織布とは、構成するタテ(経)材に対し、互いに逆方向に交差する2方向の斜交材が積層・接合された不織布をいう。また、ヨコ(緯)材に対し互いに逆方向に交差する2方向の斜交材が積層・接合された不織布であってもよい。
4軸不織布、または4軸積層不織布とは、構成するタテ(経)材とヨコ(緯)材に対し、互いに逆方向に交差する2方向の斜交材が積層・接合された不織布をいう。
5軸不織布とは、タテ材に対し互いに逆方向に交差する斜交材が、角度を変えることにより、2組の斜交の組み合わせとなる場合である。
これらの多軸不織布では、タテ材は1軸と数えられているが、表裏にタテ材を配することもできる。
多軸積層不織布は、本発明人等の先発明である特公昭62−54904、特公平1−24903、特公平3−80911号、特開平8−209518号等が使用されるが、これらに限定するものではなく、タテ材、ヨコ材、斜交材が積層・接合された不織布であればよい。
【0010】
本発明は、タテ材、ヨコ材、斜交材の少なくとも一部にトウを使用する。
トウ(tow)とは、JISの繊維用語「紡績原料の1種で、きわめて多数のフィラメントをそろえた束」と定義されており、本発明におけるトウも、このような「きわめて多数のフィラメントの束」の意味で使用する。
なお、フィラメントとは、本質的に連続または半連続した細い繊維で、約80ミリメータ以下である短繊維とは区別される。
トウを使用するのは、従来の糸を使用する多軸積層体では、粗い組織しか実現できず、また、坪量の大きな製品は生産性がわるかった。本発明は、原料にトウをそのまま使用することにより、繊維密度の高く、坪量の大きな不織布を実現でき、ジオテキスタイル等に最適な不織布とすることができた。従来は、トウを直接シート化する技術がなく、あらゆる方向に強く、均一な坪量分布をもつ厚物不織布とすることができなかった。したがって、従来は短繊維不織布を使用していたが、短繊維不織布は、トウをカットしたり、カードにかける等の余分な工程が必要であり、またカットすることにより、繊維のもつ強度を充分に活用できず、接合の強度に依存することとなるという欠点を有する。それに対し本発明は、350〜450mN/texという強い強度持つフィラメントからなるトウを直接使用することで、このような問題点を克服し、コスト安く、多方向方向に強く、均一な坪量分布を持つ厚物不織布が実現できた。
【0011】
トウは、通常の紡績用原料として使用する場合は、トウタルのtexが5万から数十万texのものが使用されている。しかし、本発明の斜交材として使用されるトウとしては、1,000texから30,000texであり、2,000texから25,000texが特に望ましい。あまりにも大きなトウタルtexは、斜交材としては取り扱いが困難であり、数百tex以下では、工業用の糸が汎用されているので、わざわざトウを使用する意味がなく、トウタルtexの小さいトウは、製造において、かえってコストが高くなる。
なお、タテ材としてトウを使用する場合は、トウタルtexが、3万から5万texの大きなトウも使用でき、場合によっては、拡幅したトウを使用することにより、10万tex以上のトウも使用することもできる。
本発明に使用されるトウを構成するフィラメントのtexは、3tex以下で1tex以下であることが望ましい。3texを越える単糸texでは、ニードルパンチ等の接着剤を使用しない接合方法では、ウェブが十分に絡合せず、十分な接合強度を持たすことができない場合がある。
【0012】
本発明に使用されるトウは、いわゆる短繊維製造を目的とした製造法に限定されるものではなく、不織布製造のスパンボンドダイス、メルトブローダイス、フラッシュ紡糸ダイス、遠心紡糸ダイス等から紡出されるフィラメントを延伸することにより製造することもできる。要は「きわめて多数のフィラメントをそろえた束」であればよい。
【0013】
本発明における多軸不織布は、軟化点や融点を異にするポリマーからなるコンジュゲートファイバーまたは混合ファイバーを使用することができる。これらの低軟化点ファイバーは、トウに含まれていてもよいが、他の形態として、これらのファイバーを含む他のウェブを多軸不織布と合わせて積層し、ニードルパンチ等で接合することができる。
なお、本発明でファイバーとは、広義のファイバーを意味し、短繊維ばかりでなく、連続または半連続しているフィラメントも含まれる。
また、軟化点とは、そのファイバーが軟化する温度で、その温度以上ではファイバー相互の膠着が始まる。
コンジュゲートファイバーは、カサ高性や風合いを出すことに有効であり、また低融点成分が接着成分として働き、熱エンボスや熱圧着により、フィラメント間や層間の接合に利用することができる。
また、軟化点や融点を異にするため、収縮率に差があるフィラメントを混合した混合ファイバーも、カサ高性や風合いを出すこと等に有効であり、また低軟化点成分ファイバーが接着成分として働き、熱エンボスや熱圧着によりフィラメント間や層間の接合に利用することができる。
【0014】
また、通常トウは、静電気等でフィラメントがバラバラにならないよう抱合性をもたせるために、捲縮加工が施されている。しかし本発明においては、その捲縮は、単に抱合性のためばかりでなく、フィラメント間や積層材相互間の接合を行うに際して、ニードルパンチ法やウォータジェット法等が効率良く作用するために有効である。捲縮加工は、通常スタフィングボックスによる押し込み捲縮が採用されるが、コンジュゲート捲縮、エッジクリンプ、ギアクリンプ、立体捲縮等も有効である。
【0015】
本発明に使用されるトウは、トウタルtexの比較的小さいものが使用されるが、それは通常の紡績用トウでは生産性が悪くなる。しかし、紡糸工程、延伸工程、捲縮工程が一貫して行われるトウ製造法を採用することにより、トウタルtexの比較的小さなトウの方が、生産性が良い。即ち、一貫生産方式を採用することにより、紡糸された未延伸トウを収納する多数の箱の設置場所や、未延伸トウを延伸工程に供するための多数の箱の設置場所が不要であるため、工場スペース的に効率の良いトウ積層不織布用原料トウの製法となった。この工程を実現するためには、数千m/分という紡糸速度で走行するフィラメント群を、その速度で延伸し、さらにその速度で捲縮を発生させる必要があり、高速の延伸機、捲縮機が必要となる。この捲縮機として、スタフィングボックス法を採用する場合は、数千m/分という速度に耐えるスタフィングボックスであることが必要である。その目的に耐える装置として、本出願人の先発明(特公平2−10245号など)が使用できる。
なお、延伸工程で行われる強度アップは、紡糸工程で行い、延伸工程を省略してもよい。
【0016】
本発明において、本発明を構成するフィラメントまたは繊維のすべてがトウでである必要はなく、そのフィラメントの少なくとも一部にトウが使用されておれば、用途によっては十分に目的を達成することができる。例えば、タテ材は他の不織布を使用し、斜交材のみトウを使用したり、または、タテ材のみトウを使用し、斜交する素材は通常の糸を使用することもできる。
また、本発明のトウ多軸積層体と他のスパンボンド不織布等のウェブとを積層して、ニードルパンチング等の手段で接合して一体化させることもできる。その際、他のウェブは、タテ素材と斜交素材の中間に入れることも有力である。この他のウェブとしては、コスト低下や厚みを増す増量材の目的でスパンボンド不織布等を入れる場合や、超ファインなフィラメントから構成されていることによりフィルター効果等を利用するためのメルトブロー不織布を入れる場合や、親水性を目的とするポリビニルアルコールや綿の不織布を入れる場合や、抗菌作用や防ダニ作用等の機能を有するウェブと組み合わす場合や、寸法安定性のため織物を入れる場合等がある。
【0017】
本発明のフィラメント間や層間の接合手段として、最も適するのはニードルパンチである。ニードルパンチは、本発明のような厚物の場合であっても、効率よく接合できる。また、接着剤法に比較して、コストも安く、硬くならず、また、ジオテキスタイルに求められる通水性の妨げにならない長所を有する。
また、ニードルパンチは、本発明の特徴の一つである、大きな伸度を有する不織布とするためにも、有効な接合方法である。
さらに、ニードルパンチによる成型品は、柔らかい触感や優しい視覚を有する特徴があり、本発明の成型品が自動車の座席や天井材、オフィスの椅子等に使用される場合の重要な特性となる。この、特性をさらに活かすために、ニードルパンチの工程に、単にニードルロックだけが目的ではない、装飾用のニードル針を使用することも有用である。
【0018】
本発明の接合手段としては、ニードルパンチ以外に、ステッチボンド、超音波接合、ウオータジェット、スルーエアー等を使用することができる。これらの手段も、接着剤を使用せずに接合できる点や、厚物ウェブに適するからである。
また、融点の異なるポリマーからなるコンジュゲートファイバーや混合ファイバーを使用する場合は、エンボスや熱プレス、スルーエア等の接合手段で接合することもできる。また、前述の他のウェブに接着性のウェブを使用することで、上記エンボスや熱プレス等の手段を使用することもできる。
【0019】
これらの接合手段は、トウの多軸積層工程の後に、多軸積層の互いに斜交する斜め材の両耳端がピンに保持されている状態で行うことが望ましい。このピンに保持されている状態で接合されることにより、多軸の配列が乱れることなく接合され、目的とする強度バランスを乱すことなく接合できるからである。また、製品幅が一定し、坪量の乱れも少なく、そのため、強度の弱い部分もなくなる。
また、この多軸積層工程、接合工程の後に、多軸積層の互いに斜交する斜め材の両耳端がピンに把持されている状態で熱処理されることが望ましい。ニードルパンチ等によって生じた歪(ヒズミ)を、熱処理でとり除くことにより、製品の安定性に寄与することができる。歪のあるまま製品化すると、製品が反ったり、曲がったりする場合がある。斜交する素材がピンにかけられた状態で熱処理することにより、定幅性、平面性、寸法安定性等が増した不織布となる。
【0020】
従来、短繊維の不織布で、ニードルパンチ等を行う際、上記寸法安定性、定幅性を出し、補強効果も出すために、カーペットバッキングと呼ばれる織物を裏打ち材として使用するケースが多い。しかし、本発明はそのような裏打ち材を使用しなくても、十分な強度を持ち、また寸法安定性、定幅性等を出すことができることにも特徴がある。
【0021】
本発明に使用されるトウは、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリアミド、アクリルニトリル、ポリビニルアルコール等の有機合成繊維からなるトウが使用される。または超高強度ポリエチレン、アラミド、ポリアリレート等の高性能、高機能繊維のトウも使用できる。
【0022】
本発明における原料トウが、廃プラスチックを主原料樹脂として紡糸されたものが利用できる点に特徴がある。本発明のジオテキスタイル等の用途は、構成するフィラメントの太さムラや染色性等は問題にならず、フィラメント径もファインであることが要求されず、また、風合い等が要求されないため、紡糸過程の糸切れの少ない条件で、種々雑多の原料が含まれる廃プラスチックを原料にすることができる。また、廃プラスチックであるのでコストも安く、コストが重要な要因となるジオテキスタイル等に最適であり、廃プラスチックの有効利用としての効能も有する。
【0023】
【実施形態】
本発明の実施の形態について図面により説明する。
図1、図2、図3は、本発明のトウの多軸積層不織布の積層形態の例をモデル化して示す。
図1は3軸積層の例である。点線で示すタテ方向の多数本のトウ1aは、本発明の多軸不織布の1例である3軸不織布の裏面に位置するタテ配置トウである。1点破線で示すタテ方向の多数本のトウ1bは、不織布の表面に位置するタテ配置トウである。2aは、互いに斜交する一群の斜め材である1方のトウ群で、2bは、その2a群と斜交するもう1群の斜交材のトウ群である。これらの1a、1b、2a、2bは、すべてがトウである必要はなく、少なくともその1部がトウであればよい。
図では、わかりやすくするために、ある1本のトウの流れを線で示すが、トウは糸ではなく幅を有する。したがって、図では線が交差した網状物に描かれているが、トウ積層不織布は、一面にフィラメントで充填された不織布となる。
【0024】
図2は4軸積層の例である。図2Aは、4軸に積層された形態を示す。図2Bは、その1群3aのトウの走行パターンを示したものである。この図2Bで、1本の線を太く示して、走行パターンをわかりやすくした。
4軸積層体は、この3aと斜交して対称的に走行するトウ群3bと図1に示したタテ配置のトウ1a、1bからなる。
【0025】
図3は、5軸積層の例である。図3Aは、5軸の内、タテ方向の軸の素材を省略して示してある。図3Bは、その1群4aのトウの走行パターンを示したもので、ピン部でターンする際の角度αとβが異なる場合である。5軸積層体は、この4aと斜交する対称的に走行するトウ群4bと図1に示したタテ配置のトウ1a、1bからなる。これらの素材のすべてがトウである必要はない。なお、後述する給糸ガイドを多段に設けることにより、6軸以上も製造することもできる。
図4は、本発明の多軸不織布の強度の実験値の例で、50%伸度における強度を、平面内で強度分布として短繊維と比較して示す。その詳細は、実施例で説明する。
【0026】
図5、図6は、本発明のトウを積層する装置の例で、図5は平面図、図6は側面図である。
図5および図6において、進行方向の左右端部に、一定のピッチでトウを掛けるピンの配列11a、11bを有するコンベア12が循環している。当該コンベア12の上方に、コンベアを直角に横切る平行に配置された一組の円筒カム13a、13bを設け、カムの回転にしたがって、両カムをつなぐ軌条14に軸受(図では省略)により連結された給糸ガイド15が、コンベア12上のピン11aと11bを横切る方向に往復する。この軌条(ガイドレール)14とコンベア上の異なる高さでタテ方向と一定の角度で、別の軌条16が軸受(図では省略)により給糸ガイド15に把持されている。この軌条16の角度により、製品におけるトウの斜交する角度を変更することができ、コンベア12のタテ方向に対して63.5度の場合は、図2の4軸積層が実現できる。この角度が90度の場合、即ち円筒カムと平行な場合は、図1の3軸積層が実現できる。図2の4軸積層の場合は、もう一組の同様な給糸ガイド20が必要で、この場合、軌道21は軌道16に対し対象角である−63.5度で設置される。この給糸ガイド15、20には一定ピッチに設けられた多数のガイド細管17、22を有している。モータ23により駆動されるコンベア12と連結して、円筒カム13、18、およびニップロール24の回転が制御される。
【0027】
多数の箱(カン)に貯えられている多数本のトウが繰り出され、張力調整されて多軸積層装置にトウ25、26として供給される。トウはそれぞれ給糸細管17、22に分配される。コンベア上を横切って往復する給糸ガイド15、20の給糸細管17、22により供給されるそれぞれのトウは、コンベアの左右のピン11a、11bに保持されて、トウがコンベア上で斜交積層される。
ケンス27a、27bから多数のトウ28、29が経材として供給され、一方のトウ群28はコンベア上に並べられ、別のトウ群29は斜交積層されたトウ群の上に供給され、ニップロール24により、トウ群28、29で上下から斜交トウ群を挟んで積層する。積層されたトウ群は、斜交トウ群がピン列11a、11bで保持された状態で、ニードルパンチ装置30でニードリングされ、熱風熱処理装置31で熱処理されて、トウ多軸積層不織布32とされる。
なお、このトウ群の間や表面に、短繊維不織布やスパンボンド不織布等の他の不織布を積層して、トウ多軸積層体とニードルパンチ等で一体化することができた。この場合、これらの他の不織布は、複合繊維や混合繊維により軟化点の低いファイバーを含むと、3次元成型体とした後、成型体がこの低軟化点成分で接着し、3次元形状を維持するのに好適である。
【0028】
図7は、3次元成型物を製造する場合の例を示す。
コンベア41上に一定の大きさに切り出された本発明の多軸不織布42a、42bがあり、赤外線ヒータ43a、43bで加熱されながら走行する。このように加熱された不織布42cは、プレス44の型45aの上に乗せられ、型45aと45bの間でプレス成型され、3次元成型製品42dが製造される。この場合の多軸不織布42は、軟化点の低いファイバーが含まれていることが望ましい。
プレス44の金型45a、45bにヒータが設置され、その金型が加熱できる場合は、ヒータ43による加熱は省略することができる。また、加熱を省略してプレス加工だけで成形できる場合もある。
【0029】
【実施例】
以下に、本発明の具体的実施例について比較例と併せて説明する。
(実施例1)
図5、6の装置で、ピン列11a、11bのピン間隔40mm、軌道16のタテ方向との角度を90とし、第2の給糸ガイド20は使用しない。PETボトル再生ペレットを原料とし、紡糸、延伸、捲縮加工された単糸のtexは0.66(6デニール)、トウタルのtexは5,500(5万デニール)のトウを原料とし、トウを斜交積層層し、経トウを上下それぞれ40mmピッチで供給し、上下から斜交積層トウを挟み、その後ニードルパンチし、185℃で熱処理することにより、3軸積層トウ不織布(0.95kg/m2、厚み3.2mm)を得た。
この製品の物性は、
これらの測定は、以下のように行う。それぞれの角度に、長さ30cm、巾10cmのサンプルを切り出す。そして、サンプル巾10cm、試験長10cm、引張速度100%/分で引張試験を行い、サンプルの強力を求める。この強力をサンプルの質量から換算したtexで割って、サンプルの強度とする。試験のサンプル数は、一方向に対して5点である。
上記の試験結果のうち、50%伸度における強度について、図4の白丸印で示す。
【0030】
(実施例2)
図5、6の装置で、ピン間隔40mm、軌道16のタテ方向との角度を63.5、第2の軌道21のなす角度を−63.5度として、第2の給糸ガイド20も使用した。PETボトル再生ペレットを原料とし、紡糸、延伸、捲縮加工された単糸のtexは0.66(6デニール)、トウタルのtexは5500(5万デニール)のトウを原料とし、トウを斜交積層層し、経トウを上下それぞれ40mmピッチで供給し、上下から斜交積層し、実施例1と同程度のニードルパンチし、150℃で熱処理して、4軸積層トウ不織布(1.05kg/m2、厚み約3.5mm)を得た。
この製品の物性は、
これらの測定法は実施例1と同様である。
上記の試験結果のうち、50%伸度における強度について、図4の黒丸印で示す。
【0031】
(比較例)
実施例1で使用したトウをカットして、長さ65mmの短繊維を作成し、カード機にかけて短繊維ウェブとした。この短繊維ウェブをクロスレイング法で積層ウェブとし、さらにこの積層ウェブを8層積層したものを実施例1、2と同じ程度のニードルパンチを行こない、短繊維不織布を得た。
この製品の物性は、
これらの測定法は、実施例1と同様である。
上記の試験結果を図4のx印で示す。
実施例1、2および比較例でわかるように、多軸トウ不織布は、あらゆる方向で、最低でも29mN/texの強度をもち、伸度も70%以上であり、50%伸度における強度は18mN/tex、切断エネルギーは3000%・mN/texである。それに対し、比較例では、強度は17mN/tex、伸度も91%、50%伸度における強度は4mN/tex、切断エネルギーは1700%・mN/tex程度である。したがって、強度、切断エネルギーとも大幅に改善することができ、特に50%伸度における強度は、大幅に改善することができた。現実のジオテキスタイルや3次元成型における深絞りでも、100%以上の伸度が求められることは少なく、50%伸度があれば充分な場合が大半で、その50%伸度における強度が強いことが、本発明の特徴の一つである。
なお、図4では、3軸の場合は45度方向、4軸では30度方向の強度が低くでているが、現実の製品での使用では、サンプル巾が10cmと狭いことはないので、データの値よりも大きくなる。
【0032】
(実施例3)
実施例1における図5にタテ材28と29の斜交層側(積層体の内側)にそれぞれ短繊維不織布100g/m2を挿入する。そして、タテ材、斜交材、挿入短繊維不織布の全てをニードルパンチしてフィラメント間や層間を多軸不織布Aとする。
この場合、短繊維不織布は、ユニチカ(株)製ポリエステル複合繊維(メルティ1680、カット長55mm、複合繊維の低軟化成分の軟化点は110℃)をカード機にかけて短繊維不織布としたものである。
この多軸不織布Aを、図7の型45aの大きさにカットして、型45aと45bの間に入れてプレスする。この場合、型45a、45bは150℃に加熱してある。このプレス作用と加熱された型の熱で熱処理され、型より取りだして冷却することにより3次元成型体とすることができた。
【0033】
【発明の効果】
本発明により、多方向に強い不織布多軸不織布で坪量も均一であり、しかも切断伸度も大きいため、あらゆる方向に破断伸度も大きいため、あらゆる方向に破断エネルギーの大きな不織布となり、坪量の大きな不織布を効率よく安く製造できた。
このことは、本発明の多軸積層不織布は、従来の厚い不織布に使用されていた短繊維不織布やスパンボンド不織布より、格段と50%伸度における強度や切断エネルギーを大きくできた。
また本発明の不織布は、多方向に強い4軸織物より格段と安く、また厚くできるので、絶対強力も大きく、伸度も大きい。これらの特性を利用して、ジオテキスタイル、ルーィング基布、カーペット、車両内装材、フレキシブルコンテナ基布、土木シート基布、防水シート基布として使用されるトウ積層不織布として使用することができた。
また、本発明のトウの多軸不織布を構成する個々のフィラメントが捲縮を有するため、伸度が大きく、柔らかくソフトタッチで変形容易な不織布とすることができる。この伸度が大きい特性を活かして、深絞り等の立体成型を実現でき、自動車の座席や天井材、オフィスの椅子等のカバーを一体成型で実現できた。
さらに、本発明のトウ多軸不織布に樹脂をコートまたは含浸、またはシートをラミネーションすることにより防水シート、土木シートとしても使用することができた。
【0034】
本発明の不織布は、特にジオテキスタイルに適する。
ジオテキスタイルは強度や破断エネルギーの絶対値の大きなものが要求され、しかもあらゆる方向に強いことが要求される。また、土の中に埋められるため、コストは出来るだけ安いことが求められる。したがって、最小の繊維使用量をできるだけ効率的に使用する必要がある。ジオテキスタイルの対象である地面は、地形の変形、石や岩等の障害物、軟弱地盤と固い地盤の混在等、非常に変化に富むため、単に強度があるだけでは不充分で、伸度も充分にあることが要求される。また、強度の必要な方向も予測できず、一般にはあらゆる方向に強度や破断エネルギーが要求される。本発明は長繊維からなるトウを直接使用しているので、強度があり、捲縮があるので、切断までの伸度が大きいため、切断エネルギーも大きい。また、本発明は多軸不織布であるため、あらゆる方向に強いので、ジオテキスタルに最も適する。
また、本発明の多軸不織布は、坪量のムラや強度の弱い部分等のイレギュラーの部分が非常に少ないため、計算された最小繊維使用量で目的を達成でき、その面からもコストが安くなる。
本発明の多軸不織布は、ジオテキスタイルとして、補強用、排水用、濾過用等に使用できる。例えば、軟弱地盤の改質、袋詰め脱水工法、サンドイッチ工法、軟弱路床支持力改善、のり面補強、鉄道盛土、鉄道玉石安定化、道路の舗道補強、道路の路床路盤分離、等に使用することができる。
また、トウは細いフィラメントが連続して配列しているため、毛細管現象が有効に働き、軟弱地盤の改質等で、水分の吸い出し、分離、濾過等において、水分の除去に効果がある。
【0035】
本発明の多軸不織布は、上記の性能面、製造面の利点を有するため、ジオテキスタイルばかりでなく、ルーフィング基布、カーペット、車両内装材、フレキシブルコンテナ基布、土木シート基布、防水シート基布、機械や家具等の保護カバーとしても使用される。
ルーフィング基布では、強度×伸度の絶対値が大きいことより、ストレッチルーフィング(JISA6022、JISA6013)には、特に有効である。
フレキスブルコンテナも近年の流通の合理化の要請より、より大型化、より安全化が求められており、本発明の高破断エネルギーは、この目的にも大きく寄与する。
カーペットは、差別化、高機能化が求められており、本発明の柔軟で高強度の不織布は、高品質・差別化商品となる。
また、本発明の多軸不織布と他の素材と組み合わされることにより、種々の応用加工品のベースとなりうる。
【0036】
本発明のトウの多軸不織布のもう一つの特徴は、切断伸度が大きくできることである。これはトウに捲縮を有することによる。トウの捲縮を多軸不織布の中にどれくらい残すかは、積層時のトウにかけるテンションや、その後のニードルパンチや熱処理の程度等によって異なる。切断伸度が大きいことは、破断エネルギー(切断強度×切断伸度)が大きいことを意味し、このことはジオテキスタイルやルーフィング基布に特に適することは上述したが、他の用途、例えば深絞り加工による立体成型物が製造できる点でも重要である。
また、捲縮があることにより、力学的な面ばかりでなく、柔らかな風合いや感触を与え、感性面から大きな特徴になることもある。
【0037】
本発明の立体成型加工とは、本発明の不織布を深絞り加工で代表される力学的変形作用で、3次元の構造体とすることである。
本発明の3次元構造体は、成型物が力学的に強靱であることと、不織布としての柔らかな感触とを同時に保有していることによるある。また、厚い成型物を一挙に成型できる点にも特徴がある。プラスチックのシート成型では、厚いシートの場合、厚いシートを均一に加熱しなければならず、熱エネルギーのロスと均一加熱の技術的困難性を伴う。しかし、本発明の多軸不織布では、成型に必ずしも加熱を必要とせず、また加熱によって変形性が大きく変わることもないので、厚物であるにもかかわらず、熱エネルギーのロスもなく、均一加熱の技術的困難性もない場合が多い。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のトウ3軸積層不織布のモデル図を示す。
【図2】本発明のトウ4軸積層不織布のモデル図を示す。
【図3】本発明のトウ5軸積層不織布を説明するためのモデル図を示す。
【図4】本発明のトウ多軸積層不織布の50%伸度での平面内強度分布の例を示す
【図5】本発明のトウ多軸積層不織布製造装置の例(平面図)を示す。
【図6】本発明のトウ多軸積層不織布製造装置の例(側面図)を示す。
【図7】本発明の実施形態の一つである3次元成型物の製法の例を示す。
【符号の説明】
1a、1b:多軸トウ積層不織布を構成する経材としてのトウ。
2a、2b:3軸トウ積層不織布を構成する斜交材としてのトウ。
3a、3b:4軸トウ積層不織布を構成する斜交材としてのトウ。
4a、4b:5軸トウ積層不織布を構成する斜交材としてのトウ。
11a、11b:糸掛けピン。
12:コンベア。
13a、13b、18a、18b:円筒カム。
14、16、19、21:軌条(ガイドレール)。
15、20:給糸ガイド。
17、22:給糸細管。
23:コンベア駆動モータ。
24:ニップロール。
25、26:斜交材として使用されるトウ群。
27a、27b:トウが貯められている箱。
28、29:経材として使用されるトウ群。
30:ニードルパンチ装置。
31:熱処理装置。
32:製品である多軸トウ積層不織布。
41:コンベア。
42a、42b、42c:多軸トウ不織布のカットサンプル。
42d:カットサンプルより成型された3次元成型物。
43a、43b:赤外線ランプ。
44:プレス機。
45a、45b:プレス型。
Claims (7)
- 構成するフィラメントが3tex以下で、捲縮を有し、かつ、そのトウタルtexが1,000以上であって、30,000以下である束状のトウが多数本並列して斜交する層を有する多軸トウ積層不織布。
- 前記多軸積不織布が下記の方法の内の少なくとも1種で接合された請求項1記載のトウ多軸積層不織布。
a ニードルパンチ、 b ステッチボンド、 c 超音波接合
d ウオータジェット、 e スルーエアー。 - 前記不織布が、タテ方向、ヨコ方向、45度方向のすべての方向における50%伸度における強度が10mN/tex以上である請求項1記載の多軸トウ積層不織布。
- 前記不織布が、軟化点に差のある異種のポリマーからなるコンジュゲートフィラメントまたは混合フィラメントからなるトウを含み、熱エンボス加工または熱圧着加工により接合された請求項1記載の多軸トウ積層不織布。
- 請求項1の不織布により立体成型加工された3次元成型物。
- 請求項1におけるトウの多軸積層工程の後に、多軸積層の互いに斜交する斜め材の両耳端がピンに保持されている状態で、フィラメント間の接合またはウェブの熱処理されるトウ多軸積層不織布の製法。
- 請求項1の多軸トウ積層不織布が、軟化点に差のある異種のポリマーからなるコンジュゲートフィラメントまたは混合フィラメントからなるトウを含み、その多軸積層された不織布を立体成型加工により3次元成型物とする工程と、該3次元成型物をトウを構成する異種ポリマーの低い方の軟化点以上で熱処理することによるトウ多軸積層不織布からなる3次元成型物の製法。
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