I.改変されたFcRn結合親和力及び/又は血清半減期を有する修飾された抗体
本発明をより完全に理解できるように、いくつかの定義を記す。
本明細書で用いられている「免疫グロブリン」及び「抗体」という語は、免疫グロブリン遺伝子により実質的にコードされる1又は複数のポリペプチドから成るタンパク質を意味する。認識された免疫グロブリン 遺伝子には、カッパ、ラムダ、アルファ、ガンマ(γ1、γ2、γ3、γ4)、デルタ、イプシロン及びミュー定常領域遺伝子ならびに無数の免疫グロブリン可変領域遺伝子が含まれる。全長免疫グロブリン「軽鎖」(約25kd又は214個のアミノ酸)は、NH2-末端にあるカッパ又はラムダ可変領域(約110のアミノ酸)及びCOOH末端にあるカッパ又はラムダ定常領域遺伝子によってコードされる。全長免疫グロブリン「重鎖」(約50Kd又は446のアミノ酸)は、重鎖可変領域遺伝子(約116のアミノ酸)及び例えば(約330のアミノ酸をコードする)ガンマといったその他の上述の定常領域遺伝子の1つによってコードされる。
免疫グロブリンの1つの形態が、抗体の基本的構造単位を構成する。この形態は四量体であり、各々1つの軽鎖と1つの重鎖をもつ2つの同一の免疫グロブリン鎖対から成る。各々の対の中で、軽鎖及び重鎖可変領域は共に、1つの抗原に対する結合を担当し、定常領域は抗体エフェクタ機能を担持する。四量体抗体に加えて、免疫グロブリンは、例えばFv、Fab及び(Fab′)2ならびに2官能性ハイブリッド抗体(例えばLanzavecchia及びScheidegger, Eur. J. Immunol. 17:105-111(1987))を含めたさまざまなその他の形態及び1本鎖(例えば本明細書に参考として内含されているHuston et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 85;5879-5883(1988)、及びBird et al., Science, 242:423-426(1998))で存在し得る。(一般的には、Hood et al.,「免疫学」、第2版、Benjamin, York(1984)、及びHunkapiller及びHood, Nature, 323:15-16(1986)を参照のこと)。
「遺伝的に改変された抗体」という語は、アミノ酸残基の配列が、未変性又は野生型抗体のものから変更された抗体を意味する。組換え型DNA技術の関与度のため、本発明は、天然の抗体内に発見されるアミノ酸配列の修飾に制限されるわけではない。以下で記述されているように、以前に工学処理された抗体を本発明に従って設計し直し、改変されたFcRn結合親和力及び/又は血清半減期の望ましい特徴を得ることができる。本発明で有用な修飾された抗体の考えられる変異体は、数多くあり、わずか1つ又は数個のアミノ酸を変更するものから、例えば可変領域又は定常領域の完全な再設計まである。定常領域における変更は、一般に、補体固定、さまざまなFc-ガンマレセプタ及びその他のレセプタ官能基との相互作用といったような特性を改善又は改変するために行なわれることになる。可変領域における変更は、抗原結合特性を改善するために行なわれることになる。
天然に発生するクラスIgG抗体定常領域と実質的に同一の定常領域を有する抗体というのは、存在するあらゆる定常領域が天然に発生するIgGクラス抗体の定常領域のアミノ酸配列と実質的に同一であるすなわち少なくとも約85〜90%そして好ましくは少なくとも95%同一である抗体を意味する。
in vitro検出検定及びそのためのヒトにおける修飾された抗体のin vivo使用を含めた、本発明の数多くの好ましい使用において、本発明に従って修飾された(すなわち突然変異を受けた)キメラ、霊長類化、ヒト型化又はヒト抗体を使用することが好ましい可能性がある。
「キメラ抗体」という語は、定常領域が1つの種(標準的にはヒト)の抗体に由来し、可変領域がもう1つの種(標準的にはゲッ歯類)の抗体に由来している抗体を意味する。キメラ抗体を産生するための方法は、当該技術分野において周知である。例えば、本明細書にその全体が参考として内含されている、Morrison, Science 229:1202-1207(1985);Oi et al., Bio Techniques 4:214-221(1986);Gillies et al., J. Immunol. Methods 125:191-202(1989);米国特許第5,807,715;4,816,567;及び4,816,397号を参照のこと。
「霊長類型化抗体」という語は、サルの可変領域及びヒトの定常領域を含む抗体を意味する。霊長類型化抗体を産生する方法は、当該技術分野において既知である。例えば、本明細書にその全体が参考として内含されている米国特許第5,658,570;5,681,722;及び5,693,780号を参照のこと。
「ヒト型化抗体」又は「ヒト型化免疫グロブリン」という語は、ヒトのフレームワーク、非ヒト抗体由来の少なくとも1つの及び好ましくは全ての相補性決定領域を含み、かつ存在するあらゆる定常領域がヒト免疫グロブリン定常領域と実質的に同一である、すなわち少なくとも約85〜90%そして好ましくは少なくとも95%同一である免疫グロブリンを意味する。従って、場合によってはCDRを除いて、ヒト型化免疫グロブリンの全ての部分は、1又は複数の未変性ヒト免疫グロブリン配列の対応する部分と実質的に同一である。往々にして、ヒトフレームワーク領域内のフレームワーク残基は、抗原結合を改変、好ましくは改善するべくCDR供与体抗体由来の対応する残基と置換されることになる。これらのフレームワーク置換は、当該技術分野において周知の方法、例えば、抗原結合にとって重要なフレームワーク残基を同定するためのCDRとフレームワーク残基の相互作用のモデリング及び特定の位置における異常なフレームワーク残基を同定するための配列比較によって、同定される。
例えばQueen et al.,米国特許第5,530,101;5,585,089;5,693,761;5,693,762;6,180,370号(これらは各々その全体が参考として内含されている)を参照のこと。抗体は、全て本明細書にその全体が参考として内含されている例えば、CDR-グラフティング(欧州特許第239,400号;PCT公報WO91/09967号;米国特許第5,225,539;5,530,101及び5,585,089号)ベニヤーリング又はリサーフェシング(欧州特許第592,106;欧州特許第519,596;Padlan, Mol. Immunol.,28:489-498(1991);Studnicka et al., Prot. Eng. 7:805-814(1994);Roguska et al., Proc. Natl. Acad. Sci. 91:969-973(1994)、及び連鎖リシャッフリング(米国特許第5,565,332号)を含めた当該技術分野において既知のさまざまな技術を用いて、抗体をヒト型化することができる。
ヒトの患者の治療的処置のためには、完全にヒトの抗体が望ましいかもしれない。ヒト抗体は、ヒト免疫グロブリン配列から誘導された抗体ライブラリを用いて上述のフィージ表示方法を含めて当該技術分野において既知のさまざまな方法によって作ることができる。各々本明細書にその全体が参考として内含されている米国特許第4,444,887号;4,716,111号及びPCT公報WO98/46645;WO98/50433;WO98/24893;WO98/16654;WO96/34096;WO96/33735;及びWO91/10741号を参照のこと。
ヒト抗体は、同様に、官能性内因性免疫グロブリンを発現する能力はないもののヒト免疫グロブリン遺伝子を発現できる遺伝子導入マウスを用いても産生可能である。ヒト抗体を産生するためのこの技術を概覧するためには、Lonberg 及び Huszar, Int. Rev. Immunol. 13:65-93(1995)を参照のこと。ヒト抗体及びヒトモノクローナル抗体を産生するためのこの技術及びかかる抗体を産生するためのプロトコルに関する詳細な論述については、本明細書にその全体が参考として内含されているPCT公報WO98/24893;WO92/01047;WO96/34096;WO96/33735号;欧州特許第0598877号;米国特許第5,413,923;5,625,126;5,633,425;5,569,825;5,661,016;5,545,806;5,814,318;5,885,793;5,916,771;及び5,939,598号を参照のこと。さらに、上述のものに類似した技術を用いて、選択された抗原に向けられたヒト抗体を提供するには、Abgenix, Inc. (Fremont, CA)及びMedarex(Princeton, NJ)といった会社をそれに従事させることができる。
選択されたエピトープを認識する完全にヒトの抗体を、「誘導型選択」と呼ばれる技術を用いて生成することが可能である。このアプローチでは、例えばマウス抗体といったような選択された非ヒトモノクローナル抗体が、同じエピトープを認識する完全にヒトの抗体の選択を誘導するべく使用される(Jespers et al., Biotechnology 12:899-903(1988)。
本明細書で使用される「改変する」という語は、「増大」又は「減少」させることを意味する。
本発明は、アミノ酸残基250、314及び428から成るグループの中から選択された重鎖定常領域由来の少なくとも1つのアミノ酸が未修飾抗体の中に存在するものと異なるアミノ酸残基と置換される、IgGクラスの修飾された抗体を提供する。
クラスIgGの抗体には、IgG1、IgG2、IgG3及びIgG4の抗体が含まれる。IgG分子の重鎖の定常領域は図1に示されている。重鎖内の残基の番号付けは、EU指標(Kabat et al., 前掲書中)のものである。置換は、位置250、314又は428単独で行なうことができるが、位置250と428又は位置250と314、又は位置314及び428、又は位置250、314及び428といった、そのいずれかの組合せで行なうこともでき、位置250及び428が好ましい組合せである。
各位置について、置換するアミノ酸は、未修飾抗体のその位置に存在するものとは異なるあらゆるアミノ酸残基であり得る。
位置250については、置換するアミノ酸は、アラニン、システイン、アスパラギン酸、グルタミン酸、フェニルアラニン、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、リジン、ロイシン、メチオニン、アスパラギン、プロリン、グルタミン、アルギニン、セリン、バリン、トリプトファン又はチロシンを含む(ただしこれらに制限されるわけではない)、トレオニン以外のあらゆるアミノ酸残基であり得る。
位置314については、置換するアミノ酸は、アラニン、システイン、アスパラギン酸、グルタミン酸、フェニルアラニン、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、リジン、メチオニン、アスパラギン、プロリン、グルタミン、アルギニン、セリン、トレオニン、バリン、トリプトファン又はチロシンを含む(ただしこれらに制限されるわけではない)、ロイシン以外のあらゆるアミノ酸残基であり得る。
位置428については、置換するアミノ酸は、アラニン、システイン、アスパラギン酸、グルタミン酸、フェニルアラニン、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、リジン、ロイシン、アスパラギン、プロリン、グルタミン、アルギニン、セリン、トレオニン、バリン、トリプトファン又はチロシンを含む(ただしこれらに制限されるわけではない)、メチオニン以外のあらゆるアミノ酸残基であり得る。
本発明は、上述のアミノ酸置換のうちの少なくとも1つを含むIgGクラスの抗体を提供する。例えば、本発明は、位置250、314及び/又は428における上述の置換のうちの2つを含む突然変異を受けたIgG2M3定常領域を提供する。本発明によって提供される定常領域の一部の特異的置換(すなわち突然変異)のアミノ酸配列は、表1(配列番号10〜66)と図3Bに開示されている。
好ましい実施形態においては、本発明は、未修飾抗体との関係において改変した血清半減期又はFcRn結合親和力を有する修飾された抗体を提供している。本発明は、さらに、アミノ酸残基250、314及び428から成るグループの中から選択された重鎖定常領域由来の少なくとも1つのアミノ酸が未修飾抗体の中に存在するものと異なるアミノ酸残基と置換され、かくして、前記未修飾抗体の結合親和力及び/又は血清半減期に比べて修飾された抗体のFcRn結合親和力及び/又は血清半減期を改変する、IgGクラスの修飾された抗体を提供している。
本発明の未修飾抗体は、全ての種の天然の抗体を内含する。「天然の抗体」という語は、宿主動物により産生された全ての抗体を意味する。本発明の制限的な意味のない例としての天然の抗体は、ヒト抗体を産生するべく遺伝的に工学処理された遺伝子導入ゲッ歯類を含め、ヒト、ニワトリ、ヤギ及びゲッ歯類(例えばラット、マウス、ハムスター及びウサギ)に由来する抗体が含まれる(例えば本明細書にその全体が参考として内含されている Lonberg et al., 国際公開第93/12227号;米国特許第5,545,806合;及びKucherlapati, et al.,国際公開第91/10741号;米国特許第6,150,584号を参照のこと)。
本発明の未修飾抗体には、同様に、天然抗体と同じアミノ酸配列をもつ組換え型抗体、又は天然抗体と比べて変更されたアミノ酸配列を有する遺伝的に改変された抗体も含まれる。これらは、原核生物及び真核生物発現系の両方を含むあらゆる発現系内で、又はファージ提示方法を用いて作ることができる(例えば本明細書にその全体が参考として内含されている Dower et al., 国際公開第91/17271号及びMcCafferty et al., 国際公開第92/01047号:米国特許第5,969,108号を参照のこと)。
本発明の未修飾抗体は、キメラ、霊長類化、ヒト型化及びヒト抗体(以上の論述参照)をも内含する。その結果、本発明の修飾された抗体は、以前は天然抗体から誘導されていたヒト型化、霊長類化又はキメラ抗体内の位置250、314又は428にあるアミノ酸残基を置換することによって産生可能である。
好ましくは、キメラ抗体は、それがより長い半減期を有し、ヒト被験者に投与された時点で免疫原性が比較的低くなるような形で、げっ歯類に由来する可変領域及びヒトに由来する定常領域を含む。霊長類型化抗体は、霊長類に由来する可変領域とヒトに由来する定常領域を含む。ヒト型化抗体は、標準的に、供与体抗体(例えばマウス又はニワトリ抗体)及び重鎖及び/又は軽鎖ヒトフレームワークからの少なくとも1つのCDRを含む。時として、ヒトフレームワーク内のいくつかのアミノ酸残基は、その抗原に対するヒト型化抗体の適切な結合を確保するため、供与体抗体の同等の位置にある残基により置換されることになる。抗体ヒト型化の詳細な指針は、各々本明細書に参考として内含されている米国特許第5,530,101;5,585,089;5,693,761,5,693,762及び6,180,370号に開示されている。
本発明の未修飾抗体は、対応する天然抗体と機能的に同等である遺伝的に改変された抗体を内含することができる。改善された安定性及び/又は治療的効果を提供するために遺伝的に改変された未修飾抗体が好まれる。改変された抗体の例としては、アミノ酸残基の保存的置換、及び抗原結合有用性を著しく改変しないアミノ酸の1又は複数の欠失又は付加を伴うものが含まれる。置換は、1又は複数のアミノ酸残基の変更又は修飾から、結合又は機能的有用性が維持されるかぎりの1領域の完全な再設計にまで至る可能性がある。本発明の抗体は、翻訳後に改変させることもできるし(例えばアセチル化及びリン酸化)、或いは又合成的に改変させることもできる(例えば、標識基の付着)。
本発明の未修飾抗体は、可変領域の遺伝的改変を通してその抗原についての増強された結合親和力を有する抗体を内含させることができる(本明細書にその全体が参考として内含されている米国特許第6,350,861号を参照のこと)。1つの変形実施形態においては、野生型(又は未修飾)のIgGに比べて長い半減期を有する本発明の修飾されたIgGsは同様に、抗原結合部位、Fcレセプタ結合部位又は補体結合部位といったようなその生物活性部位が、野生型に比べかかる活性を増加又は減少させるべく遺伝子工学処理することで修飾されているIgGも内含し得る。
本発明の未修飾抗体及び修飾された抗体は、認識されたイソタイプのうちのいずれのものであってもよいが、4つのIgGイソタイプが好ましく、IgG1及びIgG2が特に好ましい。減少したエフェクタ機能をもつように突然変異を受けた定常領域を伴う抗体、例えば、(その全体が参考として内含されている)米国特許第5,834,597号に記述されているIgG2M3及びその他のIgG2突然変異体が内含される。好ましい態様においては、本発明における未修飾抗体R及び修飾された抗体は、ヒトIgGの重鎖定常領域を含む。
本発明は、IgGクラスの重鎖定常領域を含むあらゆる抗体、好ましくはIgG1、IgG2、IgG2M3、IgG3及びIgG4に適用され得る。かかる抗体の重鎖可変領域は、選択されたあらゆる抗体から誘導可能である。本明細書に開示されている抗体の例には、ヒト抗B型肝炎ウイルス抗体OST577の重鎖及び軽鎖可変領域(Ehrlich et al., Hum.抗体ハイブリドーマ3:2-7(1992))、ヒトラムダ-2の軽鎖定常領域及びそれぞれヒトIgG1及びIgG2M3の重鎖定常領域を含むOST577-IgG1及びOST577-IgG2M3が内含される。同様に本明細書で開示されているのは、ヒト型化抗-HLA-DRβ鎖対立遺伝子抗体HulD10の重鎖及び軽鎖可変領域(Kostelny et al., Int J. Cancer93:556-565(2001))、ヒトカッパの軽鎖定常領域及びそれぞれヒトIgG1及びIgG2M3の上述の重鎖定常領域を含むHulD10-IgG1及びHulD10-IgG2M3である。
本明細書に開示されている本発明のさらなる例示には、IgGクラスの抗体の血清半減期の改変を例示するヒトIgG1、IgG2M3(IgG2の遺伝的に改変された変異体)、IgG3及びIgG4抗体の突然変異体が含まれる。IgG2M3の重鎖の定常領域は、IgG2重鎖定常領域の残基234及び237をアラニンと置換することによりIgG2のものから誘導される。IgG2M3の重鎖定常領域の生成は、本明細書に参考として内含されている米国特許第5,834,597号の中で開示されている。
一般に、本発明の修飾された抗体は、抗原を結合させ(好ましくは免疫特異的に、すなわち特異的抗原-抗体結合を検定するための当該技術分野において周知の免疫検定法により決定されるように、競合して非特異的結合を退け)、かつFcRn結合フラグメントを含有するあらゆる免疫グロブリン分子を内含する。かかる抗体には、ポリクローナル、モノクローナル、2重特異性、多重特異性、ヒト、ヒト型化、キメラ抗体、1本鎖抗体、Fabフラグメント、F(ab′)2フラグメント、ジスルフィド結合したFvs、及び、VL又はVHドメインのいずれか又さらには場合によってはFcFn結合ドメインを含有するように工学処理された又はこのドメインに融合された抗原を特異的に結合させる相補的決定領域(CDR)さえも含むフラグメント、が含まれる。
本発明の修飾されたIgG分子は、与えられたあらゆる動物のIgGサブクラスを内含し得る。例えば、ヒトにおいては、IgGクラスは、IgG1、IgG2、IgG3及びIgG4を内含し、マウスIgGクラスはIgG1、IgG2a、IgG2b及びIgG3を内含し;ラットIgGクラスは、IgG1、IgG2a、IgG2b、IgG2c、及びIgG3を内含する。例えばラットIgG2b及びIgG2cといった或る種のIgGサブクラスが、例えばIgG1に比べて高いクリアランス速度を有することがわかっている(Medesan et al., Eur. J. Immunol, 28:2092-2100(1998))。かくして、IgG1以外のIgGサブクラスを用いる場合、IgG1配列と異なる特にCH2及びCH3ドメイン内の残基のうちの1又は複数のものを、IgG1のもので置換し、かくしてその他のタイプのIgGのin vivo半減期を増大させることが有利であり得る。
本発明の免疫グロブリンは、鳥類及び哺乳動物を含めたあらゆる動物に由来するものであってよい。好ましくは、抗体は、ヒト、ゲッ歯類、ロバ、ヒツジ、ウサギ、ヤギ、モルモット、ラクダ、ウマ又はニワトリである。本明細書で用いられている通り、「ヒト」抗体は、ヒト免疫グロブリンのアミノ酸配列をもつ抗体を内含し、ヒト免疫グロブリンライブラリから又は以下で記述される通りの及びKucherlapati et alにより米国特許第5,939,598号に記述されている通りの1又は複数のヒト免疫グロブリンについて遺伝子導入型である動物から、単離された抗体を含む。
さらに、本発明の修飾された抗体は、単一特異性、2重特異性、3重特異性又はそれ以上の多重特異性のものであり得る。多重特異性抗体は、ポリペプチドの異なるエピトープに特異的であり得、そうでなければ、異種ポリペプチド又は固体支持材料といった異種エピトープに特異的でもあり得る。例えばPCT公報WO93/17715;WO92/08802;WO91/00360;WO92/05793号;Tutt et al., J.Immunol. 147:60-69(1991);米国特許第4,474,893;4,714,681;4,925,648;5,573,920;5,601,819号;Kostelny et al., J. Immunol. 148:1547-1553(1992)を参照のこと。
本発明の修飾された抗体は、その他の形ですなわち共有付着によって抗体が抗原を結合させかつ/又は抗イディオタイプ応答を生成することが妨げられないように抗体に対するあらゆるタイプの分子の共有付着によって修飾される誘導体を内含する。例えば、制限的意味はないものの、抗体誘導体は、例えばグリコシル化、アセチル化、ペグ化、リン酸化、アミド化、既知の保護/遮断基による誘導体化、タンパク質分解分割、細胞リガンド又はその他のタンパク質に対するリンケージなどによって修飾された抗体を内含する。数多くの化学的修飾のいずれかを、特異的化学的分割、アセチル化、ホルミル化、代謝性ツニカマイシン合成などを含めた(ただしこれらに制限されるわけではない)既知の技術により実施することができる。さらに、誘導体は、1又は複数の従来のアミノ酸を含有し得る。
本発明で有用なモノクローナル抗体は、ハイブリドーマ、組換え体及びファージ提示技術又はそれらの組合せの使用を含めた当該技術分野において既知の多様な技術を用いて調製可能である。例えば、モノクローナル抗体は、当該技術分野において既知であり例えばHarlow及びLane「抗体:実験室マニュアル」Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York(1988)内;Hammerling et al.,「モノクローナル抗体及びT-細胞ハイブリドーマ」Elsevier New York(1981)、p563〜681内(これらは両方共本明細書にその全体が参考として内含されている)で教示されているものを含めたハイブリドーマ技術を用いて産生可能である。
本明細書で用いられる「モノクローナル抗体」という語は、ハイブリドーマ技術を通して産生された抗体に制限されない。「モノクローナル抗体」という語はあらゆる真核生物、原核生物又はファージクローンを含めた、単一のクローンから誘導される抗体を意味し、その産生方法を意味しない。
ハイブリドーマ技術を用いた特異的抗体のための産生及びスクリーニング方法は、日常的であり、当該技術分野において周知である。制限的意味のない例においては、マウスは、問題の抗原又はかかる抗原を発現する細胞で免疫化され得る。ひとたび免疫応答が検出された、例えばマウス血清内でその抗原に特異的な抗体が検出されたならば、マウスの脾臓は収獲され脾細胞は単離される。次に脾細胞は周知の技術により、任意の適切な骨髄腫細胞に融合される。ハイブリドーマが選択され、制限希釈によりクローニングされる。ハイブリドーマクローンはその後、抗原を結合する能力をもつ抗体を分泌する細胞のための当該技術分野において既知の方法によって検定される。陽性ハイブリドーマクローンをマウスに腹腔内接種することによって、一般に高レベルの抗体を含有する腹水を、生成することができる。
特異的エピトープを認識する抗体フラグメントも同様に本発明で有用であり得、周知の技術によって生成可能である。例えば、(Fabフラグメントを産生するための)パパイン又は(F(ab′)2フラグメントを産生するための)ペプシンといった酵素を用いて、免疫グロブリン分子のタンパク質分解分割により、Fab及びF(ab′)2フラグメントを産生することができる。F(ab′)2フラグメントは、完全軽鎖及び重鎖の可変領域、CH1領域及びヒンジ領域を含有する。
例えば、ファージ提示を含めた当該技術分野において既知のさまざまな表示方法を用いて、抗体を生成することもできる。ファージ提示方法においては、官能性抗体ドメインは、それをコードするポリヌクレオチド配列を担持するファージ粒子の表面上で表示される。特定の実施形態においては、かかるファージは、リパートリ又は組合せ抗体ライブラリ(例えばヒト又はマウス)から発現されたFab及びFv又はジスルフィド結合で安定化されたFvといった抗原結合ドメインを表示するために利用できる。問題の抗原を結合させる抗原結合ドメインを発現するファージは、例えば、標識された抗原又は固体表面又はビーズに結合又は捕捉された抗原を用いて、抗原で選択又は同定可能である。これらの方法で使用されるファージはfd及びMBを含め、標準的に線状ファージである。抗原結合ドメインは、ファージ遺伝子III又は遺伝子VIIIタンパク質のいずれかに対する組換えにより融合されたタンパク質として発現される。
あるいは、本発明の免疫グロブリンの修飾されたFcRn結合部分は同様に、ファージ提示系内でも発現され得る。本発明の免疫グロブリン又はフラグメントを作るために使用可能なファージ提示方法の例としては、各々本明細書にその全体が参考として内含されている Brinkman et al., J.Immunol. Methods 182;41-50(1995);Ames et al., J.Immunol, Methods 184:177-186(1995);Kettleborough et al., Eur. J. Immunol. 24:952-958(1994);Persic et al., Gene 187:9-18(1997);Burton et al., 免疫学における進歩57:191-280(1994);PCT出願第PCT/GB91/01134;PCT公報WO90/02809、WO91/10737;WO92/01047;WO92/18619;WO93/11236;WO95/15982;WO95/20401号及び米国特許第5,698,426;5,223,409;5,403,484;5,580,717;5,427,908;5,750,753;5,821,047;5,571,698;5,427,908;5,516,637;5,780,225;5,658,727;5,733,743及び5,969,108号の中で開示されたものが含まれる。
上述の参考文献に記述されているように、ファージ選択の後、ファージからの抗体コーディング領域は単離され、ヒト抗体を含む全抗体又は任意のその他の所望のフラグメントを生成するために使用され、例えば以下で詳述されている通り哺乳動物細胞、昆虫細胞、植物細胞、酵母及び細菌を含むあらゆる所望の宿主の中で発現される。例えば、Fab、Fab′、及びF(ab′)2フラグメントを組換えにより産生するための技術を、各々その全体が参考として内含されているPCT公報WO92/22324号;Mullinax et al., Bio Techniques 12:864-869(1992);Sawai et al., Amer. J.Reprod. Immunol. 34:26-34(1995);及びBetter et al., Science240:1041-1043(1988)の中で開示されているもののような当該技術分野において既知の方法を用いて利用することもできる。1本鎖Fvs及び抗体を産生するために使用可能な技術の例としては、米国特許第4,964,778及び5,258,498号;Huston et al., 酵素学における方法、203:46-88(1991);Shu et al., Proc. Natl. Acad. Sci. 90:7995-7999(1993);及びSkerra et al., Science240:1038-1040(1988)の中で記述されているものが含まれる。
特定の実施形態においては、修飾された抗体は、in vivoでの治療用及び/又は予防用の用途を有する。このように修飾可能な治療用及び予防用の抗体の例としては、ヒト型化抗呼吸器合胞体ウイルス(RSV)モノクローナル抗体であるSYNAGIS(商標)(Medimmune, MD);転移性乳ガン患者の治療用のヒト型化抗-HER2モノクローナル抗体であるHERCEPTIN(商標)(Trastuzumab)(Genentech, CA);クローン病患者の治療のためのキメラ抗-TNF-α-モノクローナル抗体であるREMICADE(商標)(インフリキシマブ)(Centocor, PA);血塊形成防止用の血小板上の抗-糖タンパク質IIb/IIIaレセプタであるREOPRO(商標)(アブシキシマブ)(Centcor);急性賢同種移植拒絶反応の予防用の免疫抑制性ヒト型化抗-CD25モノクローナル抗体であるZENA-PAX(商標)(ダクリツマブ)(Roche Pharmaceuticals, スイス)が含まれるが、これらに制限されるわけではない。
その他の例としては、ヒト型化抗CD18F(ab′)2(Genetech);ヒト型化抗-CD18F(ab′)2であるCDP860(Celltech, UK);CD4と融合された抗-HIVgp120抗体であるPRO542(Progenics/Genzyme Transgenis);ヒト抗B型肝炎ウイルス抗体であるOSTAVIRTM(Protein Design Labs/Novartis); ヒト型化抗-CMVIgG1抗体であるPROTOVIRTM(Protein Design Labs/Novaritis);抗-CD14抗体であるIC14(ICOS);ヒト型化抗-VEGF IgG1抗体であるAVASTINTM(Genetech);キメラ抗-EGFRIgG抗体であるERBITUXTM(Im Clone Systems);ヒト型化抗αVβ3インテグリン抗体であるVITAXINTM(Applied Molecular Evolutions / Medimmune);ヒト型化抗CD52IgG1抗体であるCampath-1H/LDP-O3(Leukosite);ヒト型化抗CD33IgG抗体であるZAMYLTM(Protein Design Labs / Kanebo);キメラ抗CD20IgG1抗体であるRITUXANTM(IDEC Pharmaceuticals / Genentech, Roche / Zenyaku);ヒト型化抗CD22IgG抗体であるLYMPHOCIDETM(Immuno medics);
ヒト型化抗-HLA-DR抗体であるREMITOGENTM(Protein Design Labs);ヒト抗-IL8抗体であるABX-IL8(Abgenix);ヒト型化IgG1抗体であるRAPTIVATM(Genetech / Xoma);ヒト型化抗ICAM3抗体であるICM3(ICOS);霊長類化抗CD80抗体であるIDEC-114(IDEC Pharmaceuticals / Mitsubishi);ヒト型化抗CD40L抗体であるIDEC-131(IDEC/Eisai);霊長類化抗-CD4抗体であるIDEC151(IDEC);霊長類化抗-CD23抗体であるIDEC-152(IDEC/Seikagaku);ヒト型化抗-CD3IgGであるNUV10NTM(Protein Design Labs);ヒト型化抗補体因子5(C5)抗体である5G1.1(Alexion Pharmaceuticals):ヒト抗-TNF-α抗体であるHUMIRATM(CAT/BASF);ヒト型化抗-TNF-αFabフラグメントであるCDP870(Celltech);霊長類化抗CD4 IgGl抗体であるIDEC-151(IDEC Pharmaceuticals / Smith-Kline Beecham);ヒト抗-CD4IgG抗体であるMDX-CD4(Medarex / Eisai / Genmab);ヒト型化抗-TNF-αIgG4抗体であるCDP571(Celltech);
ヒト型化抗-α4β7抗体であるLDP-02(Leuko Site / Genetech);ヒト抗-CD4IgG抗体であるOrtho Clone OKT4A(Ortho Biotech);ヒト型化抗-CD40L IgG抗体であるANTOVATM(Biogen);ヒト型化抗-VLA-4IgG抗体であるANTEGRENTM(Elan);ヒト-抗-CD64(FcγR)抗体であるMDX-33(Medarex / Centeon);ヒト型化抗-IL-5IgG4抗体であるSCH55700(Celltech / Schering);それぞれヒト型化抗IL-5及びIL-4抗体である細胞-240563及び細胞-240683(Smith Kline Beecham);ヒト型化抗-IgEIgG1抗体であるrhuMab-E25(Genentech / Novartis / Tanox Biosystems);霊長類化抗-CD23抗体であるIDEC152(IDEC Pharmaceuticals);キメラ抗CD25 IgG1抗体であるSIMULECTTM(Novartis Phamaceuticals);ヒト型化抗-β2-インテグリンIgG抗体であるLDP-01(Leukosite);ヒト抗-TGF-β2-抗体であるCAT-152(Cambridge Antibody Technology);及びキメラ抗-第VII因子抗体であるCorsevinM(Centocor)がある。
本発明は、in vivo半減期を増大させるためのこれらの及びその他の治療用抗体の修飾を可能にし、治療用抗体のより少ない有効投薬量の投与及び/又はより頻度の少ない投薬を可能にする。in vivo半減期を増大させるためのこのような修飾は、診断用免疫グロブリンを改善させるためにも同じく有用であり得る。例えば、診断用抗体の増大した血清半減期は、充分な診断感度を達成するためのより少ない用量の投与を可能にし得る。あるいは、診断用抗体の急速なクリアランスが望まれる利用分野においては、減少した血清半減期が有利であり得る。
本明細書で開示されているのは、位置250、314及び428が強調されている状態の、その重鎖可変領域(配列番号1)(OST577-VH)及び定常領域(配列番号2)(IgG2M3-CH)のアミノ酸配列及びその軽鎖可変領域(配列番号4)(OST577-VL)及び定常領域(配列番号5)(LAMDA2-CL)のアミノ酸配列を含む、OST577-IgG2M3のアミノ酸配列である(図3A)。
本明細書に開示されているのは、位置250、314及び428が強調された状態の、OST577-IgG1(配列番号3)の重鎖定常領域のアミノ酸配列である(図3C)。
本発明は、未修飾抗体中に存在するものと異なるもう1つのアミノ酸残基で重鎖定常領域由来のアミノ酸残基250又は428が置換されている、未修飾抗体と比較して増大したFcRn結合親和力及び/又は増大した血清半減期を有する修飾された抗体を提供している。好ましくは、重鎖定常領域由来のアミノ酸残基250は、グルタミン酸又はグルタミンで置換される。あるいは、重鎖定常領域由来のアミノ酸残基428は、フェニルアラニン又はロイシンで置換される。
1つの例においては、前記未修飾抗体は、OST577-IgG2M3又はOST577-IgG1を含む(ただしこれに制限されるわけではない)IgG1又はIgG2又はIgG2M3分子の重鎖定常領域を含んで成る。IgG1、IgG2及びIgG2M3は、位置250にトレオニン残基を位置428にメチオニン残基を有する。好ましくは、位置250にあるトレオニン残基は、グルタミン酸(T250E)又はグルタミン(T250Q)で置換され、位置428にあるメチオニン残基はフェニルアラニン(M428F)又はロイシン(M428L)で置換される。図3Bは、T250E(配列番号13)、T250Q(配列番号23)、M428F(配列番号52)又はM428L(配列番号57)のアミノ酸置換を有する修飾されたIgG2M3の重鎖定常領域のアミノ酸配列を開示している。図3Cは、T250D(配列番号67)、T250E(配列番号68)、T250Q(配列番号69)、M428F(配列番号70)、又はM428L(配列番号71)のアミノ酸置換を有する修飾されたIgG1の重鎖の定常領域のアミノ酸配列を開示している。
本発明は、未修飾抗体と比べて増大したFcRn結合親和力及び/又は増大した血清半減期を有する修飾された抗体を提供する。アミノ酸修飾は、以下の置換のうちのいずれか1つであり得る;
1) 重鎖定常領域由来のアミノ酸残基250が、グルタミン酸で置換され、重鎖定常領域由来のアミノ酸残基428がフェニルアラニンで置換される。
2) 重鎖定常領域由来のアミノ酸残基250がグルタミンで置換され、重鎖定常領域由来のアミノ酸残基428がフェニルアラニンで置換される。
3) 重鎖定常領域由来のアミノ酸残基250がグルタミンで置換され、重鎖定常領域由来のアミノ酸残基428がロイシンで置換される。
T250E/M428F(配列番号72)、T250Q/M428F(配列番号73)又はT250Q/M428L(配列番号74)の二重アミノ酸置換を有する修飾されたIgG2M3の重鎖定常領域のアミノ酸配列は、図3Bに開示されている。
T250E/M428F(配列番号75)又はT250Q/M428L(配列番号76)の二重アミノ酸置換を有する修飾されたIgG1の重鎖定常領域のアミノ酸配列は図3Cに開示されている。
位置250及び428に記述された二重アミノ酸置換を伴う修飾された抗体は、未修飾抗体のものに比べてFcRnに対する非常に高い結合親和力を表示する。
本発明の好ましい実施形態においては、修飾された抗体のFcRn結合親和力及び/又は血清半減期は、少なくとも約30%、50%、80%、2倍、3倍、4倍、5倍、10倍、15倍、20倍、25倍、30倍、40倍、50倍、60倍、70倍、80倍、90倍又は100倍増大する。
本発明は、未修飾抗体中に存在するものと異なるもう1つのアミノ酸で重鎖定常領域由来のアミノ酸残基314が置換されている、未修飾抗体と比較して減少したFcRn結合親和力及び/又は減少した血清半減期を有する修飾された抗体を提供している。位置314にアミノ酸置換を有する修飾された抗体は減少した結合親和力を表示することが示されてきており1つの抗体の減少した血清半減期が望まれるならば位置314を修飾すべきであることを示唆している。好ましくは、重鎖定常領域由来のアミノ酸残基は、アラニン、アルギニン、アスパラギン酸、アスパラギン、システイン、グルタミン酸、グルタミン、グリシン、ヒスチジン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、又はバリンで置換されている。より好ましくは、アミノ酸置換は、位置314でのロイシンからアラニン又はアルギニンへのものである。例中で示されているように、ロイシンからアルギニンへの置換を含む修飾されたOST577-IgG2M3のFcRn結合親和力は、未修飾OST577-IgG2M3のものの11%まで減少させられる。
図3Bに示されているように、L314Aは、位置314でロイシンからアラニンへのアミノ酸置換を有する、修飾されたIgG2M3の重鎖定常領域のアミノ酸配列を表わしている(配列番号29)。L314Rは、位置314でロイシンからアルギニンへのアミノ酸置換を有する、修飾されたIgG2M3の重鎖定常領域のアミノ酸配列を表わしている(配列番号42)。
本発明は、(1)重鎖定常領域由来のアミノ酸残基250が、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、リジン、フェニルアラニン、プロリン、トリプトファン又はチロシンで置換されている、又は(2)重鎖定常領域由来のアミノ酸残基428が、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン酸、グルタミン、グリシン、ヒスチジン、リジン、プロリン、セリン、トレオニン、チロシン、又はバリンで置換されている、未修飾抗体と比べて減少したFcRn結合親和力及び/又は減少した血清半減期を有する修飾された抗体を提供している。好ましくは、重鎖定常領域由来のアミノ酸残基250は、アスパラギン酸で置換され、重鎖定常領域由来のアミノ酸残基428は、グリシンで置換されている。このようなアミノ酸置換は、抗体の血清半減期を劇的に減少させることができる。例に示されていうように、かかるアミノ酸置換を有する修飾されたOST577-IgG2M3のFcRnに対する結合親和力は、未修飾OST577-IgG2M3のものの約5〜7%にまで減少させられる。
図3Bに示されているように、T250Dは、位置250でトレオニンからアスパラギン酸へのアミノ酸置換を有する修飾されたIgG2M3の重鎖定常領域のアミノ酸配列を表わしている(配列番号12)。M428Gは、位置428でメチオニンからグリシンへのアミノ酸置換を有する修飾されたIgG2M3の重鎖定常領域のアミノ酸配列を表わしている(配列番号53)。
本発明の好ましい実施形態においては、前記修飾された抗体のFcRn結合親和力及び/又は血清半減期は、少なくとも約30%、40%、50%、60%、70%、80%、85%、90%、95%、97%、98%又は99%だけ減少させられる。
本発明は、本明細書で記述されている修飾されたのIgG抗体好ましくは本明細書で記述されているアミノ酸置換をもつ修飾されたのIgG1、IgG2又はIgG2M3抗体の重鎖定常領域、Fc領域又はCH2-CH3領域を内含する。
本発明は同様に、配列番号10〜76のうちのいずれか1つのアミノ酸配列を含むポリペプチドをも内含している。好ましい実施形態においては、これらのポリペプチドは、突然変異を受けたIgG1、IgG2又はIgG2M3定常領域である。
本発明の修飾された抗体の重鎖定常領域は、所望のハイブリッド重鎖を生成するため任意の選択された抗体の重鎖可変領域に対しリンクされ得る。選択された抗体の例としては、IL-2、IL-4、IL-10、IL-12、HSV、CD3、CD33、CMV及びIFN-γに対する抗体が含まれるが、これらに制限されるわけではない。さらに、可変領域は、ヒト、霊長類又はげっ歯類といったあらゆる種の天然の抗体のものであり得る。あるいは、これらは、ヒト型化抗体、遺伝的修飾を通してその抗原に対する増大した結合親和力をもつ抗体又は完全にヒトの抗体を含む(ただしこれらに制限されるわけではない)遺伝的に改変された抗体のものであり得る。このようなハイブリッド重鎖は、所望の抗体を産生するべくさまざまな軽鎖にリンクさせることができる。軽鎖は、ラムダ又はカッパのいずれの軽鎖でもあり得る。抗体の血清半減期は、主としてその重鎖定常領域により決定されることから、産生された抗体の所望の血清半減期は、本明細書に記述されている重鎖定常領域内のアミノ酸置換を通して達成可能である。
II.改変されたFcRn結合親和力及び/又は血清半減期を有する修飾された抗体の産生
本発明は、改変されたFcRn結合親和力及び/又は血清半減期をもつタンパク質特に抗体を産生する方法を提供している。好ましくは、本発明は、本明細書に開示されている位置のうちの1又は複数のものにおいて一定の与えられたIgGクラスの抗体を修飾するための方法を提供している。これは化学的に達成することもできるし、或いは又、任意の既知の産生方法を用いた組換え型産生及び無作為又は部位特異的変異誘発により達成することもできる。
本発明は、未修飾抗体中に存在するものとは異なるアミノ酸でアミノ酸残基250、314及び428から成るグループの中から選択された重鎖定常領域由来の少なくとも1つのアミノ酸を置換し、かくして前記未修飾抗体のFcRn結合親和力及び/又は血清半減期の改変をひき起こす段階を含んで成る、IgGクラスの抗体の修飾方法を提供する。
置換は、位置250、314又は428で単独で行なうこともでき、又、位置250と428といったようにそれらの任意の組合せで行なうこともできる。
抗体のFcRn結合親和力を増大させかつ/又はその血清半減期を増大させるためには、重鎖定常領域由来のアミノ酸残基250がグルタミン酸又はグルタミンで置換されるか、又は重鎖定常領域由来のアミノ酸残基428がフェニルアラニン又はロイシンで置換される。あるいは、重鎖定常領域由来のアミノ酸残基250はグルタミン酸で置換され、重鎖定常領域由来のアミノ酸残基428はフェニルアラニンで置換される;又は、重鎖定常領域由来のアミノ酸残基250がグルタミンで置換され、重鎖定常領域由来のアミノ酸残基428がフェニルアラニンで置換される;又は重鎖定常領域由来のアミノ酸残基250がグルタミンで置換され、重鎖定常領域由来のアミノ酸残基428はロイシンで置換される。250と428の両方における修飾は、かかる二重突然変異を有する抗体が例外的に高いFcRn結合親和力を表示することから好まれる。
未修飾抗体に比べて、減少したFcRn結合親和力及び/又は減少した血清半減期を有する修飾された抗体を産生するためには、重鎖定常領域由来のアミノ酸残基314が、未修飾抗体中に存在するものとは異なるもう1つのアミノ酸で置換される。好ましくは、重鎖定常領域由来のアミノ酸残基314は、アラニン、アルギニン、アスパラギン酸、アスパラギン、システイン、グルタミン酸、グルタミン、グリシン、ヒスチジン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、又はバリンで置換される。より好ましくは、重鎖定常領域由来のアミノ酸残基314はアラニン又はアルギニンで置換される。
未修飾抗体に比べて、減少したFcRn結合親和力及び減少した血清半減期を有する修飾された抗体を産生するためには、重鎖定常領域由来のアミノ酸残基250が、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、リジン、フェニルアラニン、プロリン、トリプトファン又はチロシンで置換され、そうでなければ、重鎖定常領域由来のアミノ酸残基428が、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン酸、グルタミン、グリシン、ヒスチジン、リジン、プロリン、セリン、トレオニン、チロシン又はバリンで置換される。より好ましくは、アミノ酸残基250がアスパラギン酸で置換されるか又は、アミノ酸428がグリシンで置換される。
本明細書で記述されているアミノ酸置換は、標準的組換え型DNA技術によって達成される。1つの実施形態においては、未修飾抗体をコードするDNA内にアミノ酸置換を導入するために、部位特異的変異誘発を使用することができる。修飾された抗体の結果として得られたDNAは、このとき宿主細胞内に送達され、かくして修飾された抗体が産生される。修飾された抗体のFcRn結合親和力の所望の改変は、ファージ提示技術又は当該技術分野において既知のその他のあらゆる適切な方法を用いて選択され得、結合親和力を測定することによって確認できる。
好ましくは、未修飾抗体と比べた場合に改変されたFcRnに対する結合親和力及び/又は改変された血清半減期を有するIgGクラスの修飾された抗体を生産する方法は、
(a) 免疫グロブリン重鎖の定常領域を少なくともコードするDNAに操作可能な形でリンクされた適切なプロモータを含んで成り、かつアミノ酸残基250、314及び428から成るグループの中から選択された重鎖定常領域由来の少なくとも1つのアミノ酸が、未修飾抗体の中に存在するものとは異なるアミノ酸で置換されかくして血清半減期の改変をひき起こす複製可能な発現ベクターを調製する段階;
(b) 宿主細胞を前記ベクターで形質転換する段階;及び
(c) 前記修飾された抗体を産生するべく前記形質転換済み宿主細胞を培養する段階、
を含んで成る。
かかる方法は任意には、ステップ(a)の後に、相補的免疫グロブリン軽鎖をコードするDNAに対し操作可能な形でリンクされたプロモータを含む第2の複製可能な発現ベクターを調製する段階をさらに含んで成り、かつここで前記細胞系統は前記ベクターでさらに形質転換される。
ステップ(a)でDNAを生成するために、アミノ酸置換は、部位特異的変異誘発(Kunkel, Proc. Natl. Acad. Sci. USA82:488-492(1985))、PCR変異誘発(Higuchi,「PCRプロトコル;方法及び応用ガイド」、Academic Press, San Diego(1990)pp. 177-183)、及びカセット変異誘発(Wells et al., Gene34:315-323(1985))を含む(ただしこれに制限されるわけではない)変異誘発により導入され得る。好ましくは、部位特異的変異誘発は、例の中で開示されているオーバーラップ・エクステンションPCR方法によって実施される(Higuchi,「PCR技術:その原理とDNA増幅への応用、Stockton Press, New York(1989)、p61〜70)。
オーバーラップ・エクステンションPCR(Higuchi, 同書)の技術は、標的配列(出発DNA)内に任意の所望の突然変異(単複)を導入するために使用可能である。例えば、図4に示されているように、オーバーラップ・エクステンション方法におけるPCRの第1ラウンドには、外部プライマ(プライマ1)及び内部変異誘発プライマ(プライマ3)で、そして別途第2の外部プライマ(プライマ4)及び内部プライマ(プライマ2)で標的配列を増幅し、2つのPCRセグメント(セグメントA及びB)を生み出す段階が関与している。内部変異誘発プライマ(プライマ3)は、所望の突然変異(単複)を規定する標的配列に対するミス対合を含むように設計されている。PCRの第2ラウンドでは、PCRの第1ラウンドの産物(セグメントA及びB)が、2つの外部プライマ(プライマ1及び4)を用いてPCRにより増幅される。結果としての全長PCRセグメント(セグメントC)は、制限酵素で消化され、結果としての制限フラグメントは適切なベクターへとクローニングされる。
変異誘発の第1段階として、出発DNAは、変異誘発ベクター内に操作可能な形でクローニングされる。プライマは、所望のアミノ酸置換を反映するように設計される(例中のさらなる詳細を参照のこと)。1つの例においては、in vitro 変異誘発のために使用されるベクターを、タンパク質の発現を導くために用いることができる。かくして、オーバーラップ・エクステンションPCRの結果として得られたDNAを、所望の突然変異をもつDNAを含む発現ベクターが作り上げられるような形で変異誘発ベクター内にクローニングし戻すことが可能である。出発DNAを含む変異誘発ベクターの例としては、pVAg2M3-OST577が含まれるが、これらに制限されるわけではない。
例えば、位置250での突然変異は、上述のオーバーラップ・エクステンション方法を用いた2段階プロセスにおいてpVAg2M3-OST577のPinAI-BamHIフラグメント(図5Aの制限地図を参照のこと)をとり囲む領域を増幅し、次に結果として得たPCRセグメントをPinAI及びBamHIで消化させ、結果として得た制限フラグメントをpVAg2M3-OST577へとクローニングすることによって行なわれた。類似の要領で、位置314又は428における突然変異は、オーバーラップ・エクステンションPCRによりPm1I-BamHIフラグメントをとり囲む領域を増幅し、次に結果として得たPCRセグメントをPm1I及びBamHIで消化させ、結果として得た制限フラグメントをpVAg2M3-OST577へとクローニングすることによって行なわれた。
出発DNAは、修飾されようとしているACRが内含されているかぎりにおいて、未修飾抗体全体、未修飾抗体の免疫グロブリン重鎖全体、重鎖の定常領域又は未修飾抗体の重鎖定常領域の一部分をコードするDNAであり得る。
未修飾抗体全体をコードするDNAが変異誘発のための出発DNAとして用いられる場合、修飾された抗体全体は、本明細書に記述されている方法のステップ(a)、(b)及び(c)を実施することによって産生可能である。相補的軽鎖を生成するための前記方法のステップ(a)とステップ(b)の間のステップは必要でなくなる。
変異誘発のための出発DNAが、未修飾抗体の重鎖全体をコードするDNAである場合、変異誘発は、修飾された重鎖全体をコードするDNAを含むベクターを発生させることになる。修飾された抗体全体を産生するために、本明細書に開示された方法のステップ(a)と(b)のステップが実施される。すなわち、相補的免疫グロブリン軽鎖をコードするDNAに操作可能な形でリンクされた適切なプロモータを含むもう1つの複製可能な発現ベクターが同じ宿主細胞内に同時トランスフェクションされる。その結果、相補的軽鎖及び修飾された重鎖の両方が同じ宿主細胞内で発現され、修飾された抗体全体を発生させるため適切に組立てられる。免疫グロブリン軽鎖をコードするDNAを含む前記発現ベクターの一例としてはpVAλ2-OST577が含まれるが、これに制限されるわけではない。
変異誘発用の出発DNAが、CH2-CH3セグメント又はFcドメインといったような重鎖定常領域の一部分をコードするDNAである場合、かかる修飾されたの部分的重鎖をコードする結果として得られたDNAは、まず最初に残りの未修飾重鎖と同一枠内で連結され、かくしてステップ(a)で本明細書に記述されている修飾をもつ重鎖全体をコードするDNAが生成されることになる。このとき、相補的軽鎖をコードするDNAを含むベクター及びかかる修飾された重鎖をコードするDNAを含むベクターで宿主細胞を同時トランスフェクションさせることによって、修飾された抗体全体が産生される。装飾済み部分的重鎖をコードするDNAと残りの未装飾重鎖の連結は、制限消化及びライゲーションといった分子生物学の技術分野において既知の標準的な分子クローニング技術を用いることによって達成可能である(Sambrook 及び Russell,「分子クローニング;実験室マニュアル」第3版 Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York(2001))。
軽鎖及び重鎖は、同じ又は異なる発現ベクターの中でクローニングされ得る。免疫グロブリン鎖をコードするDNAセグメントは、免疫グロブリンポリペプチドの発現を確保する発現ベクター(単複)の中の制御配列に操作可能な形でリンクされている。このような制御配列は、シグナル配列、プロモータエンハンサ、及び転写終結配列を内含する(全ての目的のために本明細書にその全体が参考として内含されている Queen et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86:10029-10033(1989);WO90/07861;Co et al., J. Immunol. 148:1149-1154(1992);「抗体工学:実践ガイド」、Borrebaeck, Ed., Freeman, New York(1997)を参照のこと)。
宿主細胞は、リポソーム、リン酸カルシウム、電気穿孔法などといった当該技術分野において既知の技術を用いることで形質転換される(Sambrook 及びRussell, 前掲書中)。好ましくは、宿主細胞は、リポソーム方法を用いて一過性にトランスフェクションを受ける。
本発明の修飾された抗体を産生するために用いられる宿主細胞は、当該技術分野において既知のさまざまな培地内で培養可能である。
本明細書で記述されている修飾された抗体は、細胞内で、周縁質空間内で産生され得、そうでなければ培地内に直接分泌され得る。好ましくは、本発明における修飾された抗体は、培地内に分泌される。修飾された抗体を産生する宿主細胞培養の培地は、収集され、遠心分離により細胞残屑が回転させられる。上清は収集されて、タンパク質発現検定に付される(例中のさらなる詳細を参照のこと)。
修飾された抗体の発現は、SDS-PAGE還元性又は非還元性タンパク質ゲル分析を用いたゲル電気泳動法又はその他の当該技術分野において既知のあらゆる技術により確認される。修飾された抗体の発現及びその抗体の数量の両方を検出するためにELISAを使用することもできる。
修飾された抗体は、未修飾抗体に比べ適切な抗原結合を保持しているべきである。従って、ELISAといったような免疫学の技術分野において既知の手順により、適正な抗体-抗原結合がテストされる。修飾された抗体が未修飾抗体のものに類似した構造的特性を有することを確認するために、付加的な実験を実施することができる。これらの実験には、SDS-PAGE、SEC、ELISA及びプロテインA結合検定が含まれるが、それらに制限されるわけではない。結合に異なる残基が関与するもののプロテインAは、FcRnといったようなCH2-CH3接合部の同じ領域に結合することから、プロテインA結合検定が好まれる。
宿主細胞から調製された修飾された抗体は、ゲルろ過及びカラムクロマトグラフィ(例えばプロテインAによるアフィニティクロマトグラフィ、陽イオン交換クロマトグラフィ、陰イオン交換クロマトグラフィ及びゲルろ過)を含め(ただしこれらに制限されるわけではない)、当該技術分野において既知の技術を用いて精製可能である。薬学処方での使用のための抗体の最小受容可能純度は90%となり、95%が好ましく、98%がより好ましく、99%以上が最も好ましい。
FcRnに対する産生された抗体の結合親和力は、FcRnに対する結合のための最適条件であるpH6.0での競合結合検定を実施することによって検出可能である。結合親和力は、Sepharose(商標)ビーズといったような固体基質上にFcRnを固定化することによってテストできる。あるいは、結合親和力は、ELISAを用いて評価できる。好ましくは、本発明は、細胞ベースのシステム内で競合結合検定を実施することによって、結合親和力をテストする。産生された修飾された抗体及び未修飾抗体の希釈系列が、1つの細胞系統好ましくはNS0細胞系統上で発現されたFcRnに対する結合について比較される。競合結合検定を実施するための実験手順は、例中に詳述されている。
本発明における実験は、抗体を産生する細胞の培養上清又は精製された抗体で類似の結合親和力結果を達成できるということを示している。従って、結合親和力の所望の改変が達成されたことを確認する目的で、産生された抗体のFcRn結合親和力をテストするために直接上清を使用することができる。このような確認の後、産生された抗体は、より複雑な精製手順に付される。
修飾された抗体がpH依存的にFcRnに結合するということを確認するために、直接結合検定も実施されるべきである。特に、FcRnに対する修飾された抗体の結合親和力は、pH6.0とpH8.0の両方でテストされる(例中のさらなる詳細を参照のこと)。一般に、pH6.0での結合親和力は、pH8.0でのものを上回るはずである。
例えば、放射性標識されたタンパク質を用い時間の関数として血清放射能レベルを測定することによって;又は時間の関数としてELISAを用いて血清中に存在する(既知の特異性の)無傷の抗体のレベルを検定することなどのさまざまなin vitro又はin vivo手段により、生物学的安定性(又は血清半減期)を測定することができるが、増大した生物学的安定性の特に好ましい尺度は、増大した血清半減期及び減少したクリアランス速度によって立証される。
本発明は、本明細書で記述されている突然変異を伴う、修飾された抗体をコードするポリヌクレオチド分子、又は定常領域、Fc領域又はCH2-CH3領域といったような修飾された抗体の装飾済みの部分的又は完全な重鎖をコードするポリヌクレオチド分子を提供している。
本発明は、本明細書で記述されている突然変異(置換)を伴う、修飾された抗体をコードするポリヌクレオチド分子、又は定常領域、Fc領域又はCH2-CH3領域といったような修飾された抗体の装飾済みの部分的又は完全な重鎖をコードするポリヌクレオチド分子を含むベクターを提供している。
本発明は、本明細書に記述されている通りの前記核酸分子を含む前記ベクターを含有する宿主細胞を内含している。本明細書に記述されている修飾された抗体の発現のための適切な宿主細胞は、Escherichia coliといったような原核生物又は酵母、植物、昆虫及び哺乳動物を含む真核多細胞生物から誘導される。
E. coliは、本発明のDNA配列をクローニングしかつ/又は発現するのに特に有用である1つの原核生物宿主である。使用に適したその他の微生物宿主には、Bacillus subtilisといったような桿菌及び、Salmonella, Serratia及びさまざまなPseudomonas種といったようなその他の腸内細菌種が含まれる。これらの原核生物宿主の中で、宿主細胞と相溶性ある発現制御配列(例えば複製起点)を標準的に含有する発現ベクターを作ることもできる。さらに、ラクトースプロモータ系、トリプトファン(trp)プロモータ系、ベータ-ラクタマーゼプロモータ系、又はファージラムダからのプロモータ系といったような、任意の数のさまざまな周知のプロモータも存在し得る。プロモータは標準的に、任意にはオペレータ配列と共に発現を制御し、転写及び翻訳を開始させ完了させるためリボソーム結合部位配列などを有している。
酵母といったようなその他の細菌も同じく発現に使用することができる。Saccharomycesが好ましい宿主であり、適切なベクターは、3-ホスホグリセレートキナーゼ又はその他の糖分解酵素を含めたプロモータといった発現制御配列及び複製起点、終結配列などを望まれる通りに有している。
植物及び植物細胞培養を、本発明のDNA配列の発現のために使用することができる。(Larrick and Fry, Hum. Autibodies Hybridomas 2;172-189(1991);Benvenuto et al., Plant Mol. Biol.17:865-874(1991);During et al., Plant Mol. Biol.15:281-293(1990);Hiatt et al., Nature 342:76-78(1989))。好ましい植物宿主には、例えばArabidopsis、Nicotiana tabaceum、Nicotiana rustica及びSolanum tuberosumが含まれる。本発明の修飾された抗体をコードするポリヌクレオチド配列を発現するための好ましい発現カセットは、修飾された抗体をコードする挿入されたポリヌクレオチド配列が重複エンハンサを伴ってCaMV35Sプロモータに操作可能な形でリンクされているプラスミドpMOG18であり、pMOG18は、Sijmons et al., Bio/Technology 8:217-221(1990)の方法に従って使用される。あるいは、植物中の修飾された抗体の発現のための好ましい実施形態は、上述のHiatt et al., により用いられている免疫グロブリン配列に代って本発明の修飾された抗体をコードするポリヌクレオチド配列を用いて、上述のHiatt et al.の方法に従う。本発明のDNA配列を発現するためには、Agrobacterium tumifaciens T-DNAベースのベクターを使用することができる;好ましくは、このようなベクターには、スペクチノマイシン耐性をコードするマーカー遺伝子又はもう1つの選択可能マーカーが含まれている。
バキュロウイルスベースの発現系を標準的に使用して、本発明の修飾された抗体を産生するために、昆虫細胞培養を使用することもできる。修飾された抗体は、Putlitz et al., Bio/Technology 8:651-654(1990)の方法に従って修飾された抗体をコードするポリヌクレオチド配列を発現することによって産生可能である。
微生物及び植物に加えて、本発明のポリペプチドを発現し産生するために、哺乳動物細胞培養も同様に使用可能である(Winnacker「遺伝子からクローンへ」、VCH Publishers, New York(1987)を参照)。当該技術分野においては無傷の免疫グロブリンを分泌する能力をもつ一定数の適切な重鎖系統が開発されてきていることから、現在哺乳動物細胞が好まれており、これには、CHO細胞系統、さまざまなCOS細胞系統、HeLa細胞好ましくは骨髄腫細胞系統など又は形質転換されたB-細胞又はハイブリドーマが含まれる。これらの細胞のための発現ベクターは、発現制御配列、例えば複製起点、プロモータ、エンハンサ(Queen et al., Immunol. Rev. 89;49-68(1986))そして必要なプロセッシング情報部位、例えばリボソーム結合部位、RNAスプライス部位、ポリアデニル化部位及び転写ターミネータ配列を内含し得る。好ましい発現制御配列は、免疫グロブリン 遺伝子、SV40、アデノウイルス、ウシ乳頭腫ウイルス、サイトメガロウイルスなどから誘導されたプロモータである。一般に、ネオ発現カセットといったような選択可能マーカーが、発現ベクター内に含まれている。
本発明は、FcRnとの相互作用を通して増大した又は減少した血清半減期をもつものとして同定された部分に対して、その作用物質を接合させるか又は他の形で結合させることにより、改変されたFcRn結合親和力及び/又は血清半減期をもつ作用物質を作る方法を提供している。かかる部分には、本明細書で記述されているアミノ酸置換を含む、装飾済みIgG又は装飾済みの部分的又は完全な重鎖が含まれるが、これらに制限されるわけではない。かかる作用物質としては、抗体、抗体フラグメント、ホルモン、レセプタリガンド、免疫毒素複合体、あらゆる種類の治療薬剤、T-細胞レセプタ結合抗原及び本発明の増大した血清半減期の部分に結合され得るその他のあらゆる作用物質が含まれることになるが、これに制限されるわけではない。
改変されたin vivo安定性をもつ融合タンパク質を作り上げるためには、定常領域と操作可能な形でリンクされたかかるタンパク質を含む融合タンパク質を発現する能力をベクターに付与するべく1つの位置で上流側又は下流側のいずれであれ修飾された抗体の定常領域と同一枠内で組換え型ベクター内に、かかるタンパク質をコードするDNAセグメントを操作可能な形で取込むことができる。例えば制限エンドヌクレアーゼを用いた遺伝子工学処理などによる;この要領でDNAセグメントを操作するための技術は、本開示及び上述のSambrook 及び Russellといった参考文献の両方に照らして、当業者にはわかるものである。上述の方法は、改善されたに生物学的安定性をもつ一連の治療用化合物の生成において使用するべく提案されている。
かかる化合物には、例えばインタロイキン-2、インシュリン、インタロイキン-4、及びインタフェロンガンマ又さらにはT細胞レセプタさえも含まれる。本発明の組換え型Fcドメインは同様に、その反復的投与の必要性を緩和する可能性が高い、広範囲の薬物の安定化において使用すべきものとしても考慮されている。しかしながら、当該方法は、ヒトへの投与用のタンパク質の産生に制限されるものではなく、例えば免疫化プロトコル、獣医による動物の治療又はげっ歯類in vivo療法モデルにおいて使用できるもののように、増大した安定性をもつあらゆるタンパク質を大量に産生するためにも利用可能である。
III.改変されたFcRn結合親和力及び/又は血清半減期を有する修飾された抗体の使用
本発明は、本明細書で記述されている修飾された抗体及び薬学的に受容可能な担体を含む組成物を提供している。非経口投与用の組成物は、一般に、受容可能な担体好ましくは水性担体中に溶解された抗体又はそのカクテルの溶液を含む。例えば水、緩衝水、0.4%の塩水、0.3%のグリシンなどのさまざまな水性担体を使用することができる。これらの溶液は、無菌で一般に粒状物質を含まない。組成物は、例えば酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、乳酸ナトリウムといったpH調整及び緩衝剤、毒性調整剤などのような生理学的条件を近似するのに必要とされるような薬学的に受容可能な補助物質を含有することができる。これらの処方中の抗体の濃度は、非常に広範に、すなわち約0.01%未満、通常は少なくとも約0.1重量%未満から5重量%に至るまで変動することができ、主として選択された特定の投与様式に従った粘度及び流体体積に基づいて選択される。
静脈内輸液用の標準的な組成物は、250mlの無菌リンガー溶液及び10mg〜100mgの抗体を含有するように構成され得る(「レミントンの薬学」第15版、Mack Publishing Company, Easton, PA(1980)を参照のこと)。
本発明における修飾された抗体は、さまざまな非治療目的で使用可能である。これらは、親和力精製剤として使用できる。これらは又、特定の細胞、組織又は血清中の問題の抗原の発現を検出することといったような、診断検定においても有用であり得る。診断向け利用分野においては、該抗体は標準的に、放射性同位元素、螢光標識及びさまざまな酵素基質標識を含めた検出可能な部分で標識されることになる。抗体は同様に、競合結合検定、直接及び間接サンドイッチ検定及び免疫沈降検定といったような既知のあらゆる検定方法においても利用可能である。抗体は同様に、in vivo診断検定のためにも使用可能である。一般に、抗体は、免疫シンチグラフィを用いて抗原又はそれを発現する細胞の場所を特定できるような形で、放射性核種で標識される。
細胞活性に対する防御又は検出又は選択された細胞表面レセプタの存在又は疾病の診断に関して、修飾された抗体と共に使用するためのキットを供給することもできる。かくして、本発明の対象である組成物は、単独で又は所望の細胞型に特異的な付加的抗体と併用して、通常は容器の中に凍結乾燥形態で提供することができる。標識又は毒素に接合されていても又は接合されていなくてもよい修飾された抗体は、トリス、リン酸塩、炭酸塩などといったような緩衝液、安定化剤、殺生剤、不活性タンパク質例えば血清アルブミンなどの緩衝液及び使用説明書1式と共にキット内に含まれている。一般に、これらの材料は、活性抗体の量に基づいて約5重量%未満で存在し、通常は再び抗体濃度に基づいて少なくとも約0.001重量%の合計量で存在する。往々にして、活性成分を希釈するために不活性増量剤又は賦形剤を内含することが望ましくなり、その場合、賦形剤は、合計組成物の約1〜99重量%で存在し得る。修飾された抗体に結合する能力をもつ第2の抗体が検定中で利用される場合、これは通常、別のバイアル内に存在することになる。第2の抗体は標準的に、上述の抗体処方と類似の要領で、標識に接合され処方される。
修飾された抗体はさまざまな治療向け利用分野をもつ。修飾された抗体は、かかる抗体の投与の恩恵を受け得る、或る疾患又は障害を患う又はそれにかかりやすい患者を治療するために使用可能である。該抗体で治療可能な身体条件としては、癌;喘息といった炎症性条件;自己免疫疾患;及びウイルス感染などがある。
本明細書中に記述されている抗体により治療可能な癌には、乳癌、扁平上皮癌、小細胞肺癌、非小細胞肺癌、消化管癌、膵臓癌、グリア芽種、子宮頸癌、卵巣癌、膀胱癌、肝臓癌、結腸癌、結腸直腸癌、子宮内膜癌、唾液腺癌、腎臓癌、肝臓癌、前立腺癌、陰門癌、甲状腺癌、肝癌及びさまざまなタイプの頭部及び頸部癌が含まれるがこれに制限されるわけではない。
自己免疫疾患には、アジソン病、耳の自己免疫疾患、ブドウ膜炎といった眼の自己免疫疾患、自己免疫性肝炎、クローン病、糖尿病(I型)、精巣上体炎、糸球体腎炎、グレーブス病、ギラン・バレー症候群、橋本病、溶血性貧血、全身性紅斑性狼瘡、多発性硬化性、重症筋無力症、尋常性天疱瘡、乾癬、関節リウマチ、サルコイドーシス、強皮症、シューグレン症候群、脊椎関節症、甲状腺炎、潰瘍性大腸炎、及び脈管炎が含まれるかこれに制限されるわけではない。
本発明における減少した血清半減期をもつ修飾された抗体は、組織又は外来性微生物の破壊又は除去が望ましい疾病又は障害の治療において使用可能である。例えば、抗体は、癌、炎症性障害;感染症及び組織の除去が望まれるその他の身体条件を治療するために使用可能である。抗体は一般に、より迅速な生物学的クリアランス時間が結果として、投与されたあらゆる抗体の免疫原性の減少をもたらすことになるという点において有用である。その他の利用分野としては、抗体ベースの画像形成法、抗体ベースの薬物除去又はより寿命の短かい免疫毒素の創造、が含まれることになる。
増大した血清半減期をもつ修飾された抗体は、抗組織因子(TF)抗体、抗IgE抗体及び抗インテグリン抗体であり得る。所望の作用メカニズムは、リガンド-レセプタ結合対を遮断することにあり得る。増大した血清半減期をもつ修飾された抗体は、同様にアゴニスト抗体でもあり得る。抗体は、同様に、ワクチンといったような治療薬としても使用できる。かかるワクチンの投薬量及び免疫化頻度は、抗体の血清半減期が伸びたため減らされることになる。
当該抗体を含む組成物は、非経口皮下投与、腹腔内投与、肺内投与、及び鼻腔内投与そして局所的免疫抑制治療用として所望の場合には、病変内投与を含むあらゆる適切な手段で投与される。非経口輸液には、筋内、静脈内、動脈内、腹腔内又は皮下投与が含まれる。さらに、抗体は、特に下降する抗体用量でのパルス輸液によって適切に投与される。
当該抗体又はそのカクテルを含有する組成物は、予防用及び/又は治療用処置のために投与できる。治療向け利用分野においては、すでに特定の疾病にかかっている患者に対して、その身体条件及びその合併症を治ゆさせるか又は少なくとも部分的に阻むのに充分な量で組成物が投与される。これを達成するための適量は、「治療上の有効量」として定義づけされる。この使用にとって有効な量は、身体条件の重症度及び患者自身の免疫系の全体的状態によって左右されることになるが、一般的には、一用量あたり約0.01〜約100mgの修飾された抗体の範囲内にあり、患者一人あたり1〜10mgの投薬量がより一般的に使用されている。
予防向け利用分野においては、修飾された抗体又はそのカクテルを含有する組成物は、すでに疾病状態にない患者に対して、その患者の抵抗力を増強させるために投与される。このような量は、「予防上の有効量」として定義づけされる。この用途においては、精確な量はここでも患者の健康状態及び全体的免疫性レベルに左右されるが一般には一用量あたり0.1〜100mgの範囲内にあり、特に患者一人あたり1〜10mgの投薬量である。
組成物の単一又は多数回投与を実施できるが、用量レベル及びパターンは、治療を行なう医師によって選択される。いずれの場合でも、薬学的処方は、患者を有効に治療するのに充分な量の本発明の突然変異体抗体を提供しなければならない。
以下の例は、制限としてではなく例示を目的として提供されるものである。全ての引用の開示は、本明細書に明示的に参考として包含されている。
例1.
この例は、本発明において使用される抗体発現ベクターについて記述している。
pVg2.D.TtのM3変異体の1誘導体(Core et al., J. Immunol. 159:3613〜3621(1997))である重鎖発現プラスミドpVAg2M3-OST577の成分は、以下の通りである。図5Aに示されているように、EcoRI部位から時計回り方向に進んで、重鎖単位は、EcoRI-XbaIフラグメントとしてのヒトサイトメガロウイルス(hCMV)主要前初期(IE)プロモータ及びエンハンサ(Boshart et al., Cell41;521-530(1985))で始まる。hCMV領域の後には、シグナル配列、Jセグメント及びスプライス供与体配列を含むXbaIフラグメントとしてのOST577VH領域が続いている。
VH領域の後には、BamHI-EcoRIEGとしてのヒト補体遺伝子 C2(Ashfield et al.,EMBO J. 10:4197-4207(1991))の転写ターミネータが後続する、CH3に後続するmRNAプロセッシングのためのポリアデニル化(poly A)シグナル、及びCH1に先行するイントロンの一部、介在イントロンを伴うCH1、ヒンジ(H)、CH2及びCH3エクソンを内含する、XbaI-BamHIフラグメントとしてのヒトガンマ-2M3重鎖定常領域(Cole et al., 前掲書中)を含有する装飾済みゲノミックDNAフラグメントが、続いている。重鎖単位の後には、転写に必要なシミアンウイルス40(SV40)からの調節要素(エンハンサ、プロモータ、スプライスシグナル及びpoly Aシグナル)と共に、突然変異体形態のジヒドロ葉酸還元酵素(dhfr)をコードする遺伝子が続いている。プラスミドpVgIからのBamHI-EcoRIフラグメントとしてとられた(Co et al., 前掲書中)この領域は、BamHI部位をEcoRI部位に変換することによって装飾された。
この単位の内部でもとのEcoRI部位から反時計まわりに移動すると、まず第1に、細菌宿主内のベクターのコピー数を増大させるべく、細菌複製起点がpUC18からの対応するセグメントで置換された(Yanisch-Perron et al., Gene 33:103-119(1985))ということを除いて、E. coli内の選択のための細菌複製起点及びアンピシリン耐性遺伝子を含むプラスミドpBR322(Suteliffe, Cold Spring Harbor Symp. Quant. Biol.43:77-90(1979))の一部分が存在する。次に、強力な転写開始を確保するためにSV40エンハンサ及び早期プロモータを含有するSV40セグメント(Reddy et al., Science 200:494-502(1978))が存在する。このセグメントの後には、E. coli dhfr遺伝子のコーディング配列(Simonsen and Levinson, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 80:2495-2499(1983))が続いている。dhfr 遺伝子の後には、mRNAレベルを増大すると考えられている小さなt抗原イントロンを含有するSV40セグメントが続き、このとき、プラスミドは、mRNA写しを終結するためのpolyAシグナルを含むもう1つのSV40セグメントを含む。
pVglの誘導体(Co et al., 前掲書中)である重鎖発現プラスミドpVAgl.N-OST577の成分は、以下の通りである。図5Bに示されているように、EcoRI部位から時計まわり方向に進んで、重鎖単位は、XbaIフラグメントとしてのOST577VH領域が後続するpVAg2M3-OST577ベクター内で使用されたhCMV IEプロモータ及びエンハンサを含有する同じEcoRI-XbaIフラグメントで始まる。CH3に後続するmRNAプロセッシングのためのpolyAシグナル、及びCH1に先行するイントロンの一部、介在イントロンを伴うCH1、ヒンジ(H)、CH2及びCH3エクソンを内含する。VH領域の後には、XbaI-BamHIフラグメントとしてのヒトガンマ-1 重鎖定常領域(Ellison et al., Nucleic Acids Res.10:4071-4079(1982))を含有するゲノミックDNAフラグメントが、続いている。コーディング領域のその後の操作を容易にするためには、ヒンジとCH2エクソンの間でイントロン内にNheI部位を作り出すべくオーバーラップ・エクステンションPCR 変異誘発(Higuchi, 前掲書中)が使用された。重鎖単位の後には、pVAg2M3-OST577ベクター内で使用された、プラスミドpBR322の一部分及び調節要素を伴ったdhfrをコードする同じBamHI-EcoRI制限フラグメントが続いている。
pVKの誘導体(Co et al., 前掲書中)である軽鎖発現プラスミドpVAλ2-OST577の成分は、以下の通りである。図6に示されているように、EcoRI部位から時計回り方向に進んで、シグナル配列、Jセグメント及びスプライス供与体配列を内含する、Xbal フラグメントとしてのOST577VL領域が後続する、重鎖ベクター内で使用されたhCMV IEプロモータ及びエンハンサを含有する同じEcoRI-XbaIフラグメントで始まる。VL領域には、ヒトラムダ-1 軽鎖からのmRNAプロセッシングのためのpolyAシグナルそして、ヒトラムダ2-軽鎖からの3′未翻訳領域の一部分及びヒトラムダ-2軽鎖定常領域エクソン(Cλ2)、ヒトラムダ-1軽鎖イントロンを内含する、ヒトラムダ-2軽鎖定常領域をコードするべくPCRにより装飾された(Hieter et al., Nature 294:536-540(1981))XbaI-Sau3Aフラグメントとしてのヒトラムダ-1軽鎖定常領域(Hieter et al., 同書中)を含有するゲノミックDNAフラグメントが続いている。
軽鎖遺伝子には、転写に必要なSV40からの調節要素と合せて、キサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子(gpt)が続いている。プラスミドpSV2-gpt(Mulligan and Berg.前掲書中)からBamHI-EcoRIフラグメントとしてとられたこの領域の機能は、哺乳動物細胞内へのプラスミドのトランスフェクションの後に、選択可能な薬物耐性マーカーを提供することにある。EcoRI部位からこの単位内を反時計回り方向に移動すると、まず第1に、細菌宿主内のベクターのコピー数を増大させるべく、細菌複製起点がpUC18からの対応するセグメントで置換された(Yanisch-Perron et al.,前掲書)ということを除いて、E. coli内の選択のための細菌複製起点及びアンピシリン耐性遺伝子を含むプラスミドpBR322(Sutcliffe, 前掲書)の一部分が存在する。
次に、強力な転写開始を確保するためにSV40エンハンサ及び早期プロモータを含有するSV40セグメント(Reddy et al., 前掲書中)が存在する。このセグメントの後には、E. coli gpt 遺伝子のコーディング配列(Richardson et al., Nucleic Acids Res. 11:8809-8816(1983))が続いている。gpt 遺伝子の後には、mRNAレベルを増大すると考えられている小さなt抗原イントロンを含有するSV40セグメントが続き、このとき、プラスミドは、mRNA写しを終結するためのpolyAシグナルを含むもう1つのSV40セグメントを含む。
重鎖発現プラスミドpVAg2M3-HuID10(図7A参照)の成分は、OST577VH領域がプラスミドpHuID10.IgG1.rgpt.dE(Kostelny et al.,(2001)前掲書中)からのHuID10VH領域と置き換わっているという点を除いて、それが由来したpVAg2M3-OST577のものと同一である。重鎖発現プラスミドpVAg1.N-HulD10(図7B参照)の成分は、OST577VH領域がプラスミドpHuID10.IgG1.rgpt.dE(Kostelny et al.,(2001)同書中)からのHulD10VH領域と置き換わっているという点を除いて、それが由来したpVAg1.N-OST577のものと同一である。
重鎖発現プラスミドpHuHCg3.Tt.D-Hu1D10の成分(図7Cを参照のこと)は、pVg2.D.Tt(Cole et al., 前掲書中)の成分と同一であり、但しヒトγ−2M3重鎖定常領域で含むXbaI−BamHIフラグメントが、XbaIフラグメントとして、プラスミドpHu1D10.IgG1.rgpt.dE(Kostelngなど. (2001), 前掲書中)からのHu1D10VH領域により置換され、続いてCH1、4種のヒンジ(H)、CH2及びCH3、介在性イントロンを含むエキソン、CH1の前のイントロンの一部、及びCH3に続くmRNAプロセッシングのためのポリアデニル化(ポリA)シグナルを含む、Xba−BamHIフラグメントとしてのヒトγ−3重鎖定常領域(Huck et al., Nucleic Acids Res. 14: 1779-1789 (1986))を含むゲノムDNAフラグメントが存在する。
重鎖発現プラスミドpHuHCg4.Tt.D-Hu1D10の成分は、pHuHCg3.Tt.D-Hu1D10の成分と同一であり(図7Dを参照のこと)、但し、ヒトγ−3重鎖定常領域が、CH1、ヒンジ(H)、CH2及びCH3、介在性イントロンを含むエキソン、CH1の前のイントロンの一部、及びCH3に続くmRNAプロセッシングのためのポリアデニル化(ポリA)シグナルを含む、Xba−BamHIフラグメントとしてのヒトγ−4重鎖定常領域(Ellison et al., 前掲書中)を含むゲノムDNAフラグメントにより置換された。
pVkの誘導体である(Co et al., 前掲書中)軽鎖発現プラスミドpVk-HulD10の成分は、以下の通りである。図8に示されているように、EcoRI部位から時計回り方向に進んで、シグナル配列、Jセグメント及びスプライス供与体配列を内含する、Xbal フラグメントとしてのHulD10VL領域(Kostelny et al.(2001))が後続する、重鎖ベクター内で使用されたhCMV IEプロモータ及びエンハンサを含有する同じEcoRI-XbaIフラグメントで始まる。VL領域の後には、ヒトカッパ軽鎖定常領域エクソン(Cκ)、Cκに先行するイントロンの一部及びCκに後続するmRNAプロセッシング用のpolyAシグナルを内含する、XbaI-BamHIフラグメントとしてのヒトカッパ軽鎖定常領域(Hieter et al., Cell 22:197-207(1980))を含有するゲノミックDNAフラグメントが続いている。軽鎖単位の後には、pVKベクターの中で使用された、転写に必要な調節要素及びプラスミドpBR322の一部分を伴った、gptをコードする同じBamH-EcoRIフラグメントが続いている。
例2.
この例は、本発明において使用されるプラスミドについて記述している。
OST577 重鎖及び軽鎖cDNAは、ヒトモノクローナル抗HBV抗体を発現するトリオーマ細胞系統からPCRによりその全体がクローニングされた(Ehrich et al.前掲書)。重鎖及び軽鎖可変領域は、Co et al. 前出に概略説明されているように、シグナル配列、V、(D)、及びJセグメント、スプライスドナー配列及び対応するイントロンの一部分を含む、両方の端部でXbaIによりフランキングされたミニエクソンへとPCRにより変換された。pVg2.D.TtのM3変異体の誘導体である(Cole et al., 前掲書)発現ベクターpVAg2M3-OST577(図5A参照)は、OST577-VHミニエクソンで、OKT3-VHミニエクソンを含有するXbaIフラグメントを置換することによって構築された。
次に、細菌複製起点を含有するPciI-FspIフラグメントをpUC18からの対応するPciI-FspIフラグメント(Yanisch-Perron et al., 前掲書)で置換して、細菌宿主内のベクターのコピー数を増大させた。pVglの誘導体(Co et al.前掲書)である発現ベクターpVAgl.N-OST577(図5B参照)は、pVglのユニークXabI部位の中にOST577-VHミニエクソンを含有するXbaIフラグメントを挿入し、オーバーラップ・エクステンションPCRによりヒンジ-CH2イントロンを装飾しT(Higuchi, 前掲書)ユニークNheI部位を作り上げ、細菌複製起点を含有するHindIII-XhoIフラグメントをpVAg2M3-OST577からの対応するHindIII-XhoIフラグメントで置換して細菌宿主内のベクターのコピー数を増大させることによって構築された。
pVKの誘導体(Co et al.前掲書)である発現ベクターpVλ-OST577は、まず最初にゲノミックヒトカッパ定常領域を含むpVkのXbaI-Bam HIフラグメントを、ゲノミックヒトラムダ-1定常領域を含むXbaI-Bgl II PCR産物で置換することによって構築された。コーディング領域及び3′の未翻訳領域の一部分をPCRによりOST577軽鎖cDNAからの対応するフラグメントと置換させて、基本的にゲノミックヒトラムダ-2定常領域エクソンを生成させた。最終的に、ベクターのXabI部位内にOST577-VLミニエクソンを挿入した。pVλ-OST577の誘導体である発現ベクターpVAλ2-OST577(図6参照)は、細菌複製起点を含むSapI-FspIフラグメントをpVAg2M3-OST577からの対応するSapI-FspIフラグメントで置換して細菌宿主内のベクターのコピー数を増大させることによって構築された。
発現ベクターpVAg2M3-HulD10(図7A参照)は、hCMVプロモータ及びエンハンサ-(Boshart et al.前掲書)及びOST577VH領域を含むプラスミドpVAg2M3-OST577からのXhoI-XbaIフラグメントを、hCMVプロモータ及びエンハンサ及びHulD10VH領域を含むプラスミドpHulD10.IgG1.rgpt.dEからの対応するXhoI-XbaIフラグメント(Kostelny et al.(2001)前掲書)で置換することによって構築された。発現ベクターpVAg1.N-Hul D10(図7B参照)は、hCMVプロモータ及びエンハンサ(Boshart et al.,前掲書)及びOST577VH領域を含むプラスミドpVAgl.N-OST577からのXhoI-XbaIフラグメントをhCMVプロモータ及びエンハンサ及びHulD10VH領域を含むプラスミドpHulD10.IgG1.rgpt.dE(Kostelny et al.(2001)前掲書)からの対応するXhoI-XbaIフラグメントで置換することによって構築された。
発現ベクターpHuHCg3.Tt.D-Hu1D10(図7Cを参照のこと)は、hCMVプロモーター及びエンハンサー、及びヒトγ−2M3重鎖定常鎖領域を含む、pVg2.D.Tt (Cole et al. 前掲)のM3変異体からのXhoI−BamHIフラグメントを、hCMVプロモーター及びエンハンサー、及びHu1D10 VH領域を含む、プラスミドpHu1D10.IgG1.rgpt.dE (Kostelny et al. (2001), 前掲)からのXhoI-XbaIフラグメント、及びヒトγ−3重鎖定常領域(Huck et al., 前掲)を含むXbaI−BamHIフラグメントによりそれぞれ置換することにより構成された。
発現ベクターpHuHCg4.Tt.D-Hu1D10(図7Dを参照のこと)は、hCMVプロモーター及びエンハンサー、及びヒトγ−2M3重鎖定常鎖領域を含む、pVg2.D.Tt (Cole et al. 前掲)のM3変異体からのXhoI−BamHIフラグメントを、hCMVプロモーター及びエンハンサー、及びHu1D10 VH領域を含む、プラスミドpHu1D10.IgG1.rgpt.dE (Kostelny et al. (2001), 前掲)からのXhoI-XbaIフラグメント、及びヒトγ−4重鎖定常領域(Huck et al., 前掲)を含むXbaI−BamHIフラグメントによりそれぞれ置換することにより構成された。
発現ベクターpVK HulD10(図8参照)は、hCMVプロモータ及びエンハンサ(Boshart et al.前掲書)を含むプラスミドpVkからのXhoI-XbaIフラグメント(Co et al.,前掲書)をhCMVプロモータ及びエンハンサ及びHulD10VL領域を含むプラスミドpHulD10.IgG2.rgpt.dEからのXhoI-XbaIフラグメント(Kostelny et al.(2001)前掲書)で置換することによって構築された。
pVk.rgの誘導体(Cole et al., 前掲書)である基本EX VpDL172は、ゲノミックヒトカッパ定常領域を含むXbaI-SphIフラグメントを、M195重鎖シグナル配列のN末端部分を含むXbaI-NheIフラグメント(Co et al., 前掲書)、0.7kbのNheI-AgeIフラグメント、ヒト崩壊加速因子からのGPIリンケージシグナル(Caras et al., Nature 325;545-549(1987))が後続するマウスモノクローナル抗体のE10によって認識される(Evan et al., Mol. Cell. Biol. 5;3610-3616(1985))リンカーペプチドによりフランキングされたヒトc-mycデカペプチドをコードする合成AgeI-EagIフラグメント、及びヒト免疫グロブリンガンマ-1 遺伝子のpolyAシグナルを含有するEagI-SphIフラグメント(Ellison et al., 前掲書)から成るXbaI-SphIフラグメントで置換することによって構築された。
ヒトベータ-2-ミクログロブリン(β2m)及びヒト新生児Fcレセプタ(FcRn)アルファ鎖の細胞外ドメインを、ヒト末梢血単核細胞から調製したcDNAライブラリからPCRによりクローニングさせた。ヒトFcRnアルファ鎖遺伝子をPCRによって装飾させ、5′末端ではフランキングNheI部位及びM195重鎖シグナル配列(Co et al., 前掲書)をそして3′末端ではフランキングAgeI部位を加え、これを用いてpDL172のNheI-AgeIフラグメントを置換して、結果として発現ベクターpDL172+HuFcRnを得た。
ヒトβ2m遺伝子をPCRで修飾させて、5′及び3′末端でそれぞれフランキングXbaI及びSalI部位を付加し、内部EcoRI部位を除去した。結果として得たXbaI-SalIフラグメントを、ヒト補体遺伝子C2(Ashfield et al., 前掲書)の転写ターミネータを含有するBam HI-EcoRIフラグメントが後続する、マウス免疫グロブリンガンマ-2a遺伝子のポリアデニル化シグナルを含有するSalI-Bam HIフラグメント(Kostelny et al.(1992)前掲書)によりその3′末端上でそしてhCMVIEプロモータ及びエンハンサを含有するEcoRI-XbaIフラグメント(Boshart et al. 前掲書)によりその5′末端でフランキングされた中間ベクターへと、サブクローニングさせた。結果として得た、官能性ヒトβ2m転写単位を含むEcoRI-EcoRIフラグメントを、pDL172+HuFcRnのユニークEcoRI部位へとクローニングさせて、結果として以下pDL208(図9A参照)と呼ぶ発現ベクターpDL172+HuFcRn+Huβ2mを得た。
アカゲザルβ2m及びアカゲザルFnRnアルファ鎖の細胞外ドメインを、アカゲザル末梢血単核細胞から調製されたcDNAライブラリからPCRによってクローニングさせた。アカゲザルβ2m遺伝子をPCRで装飾させて、5′及び3′末端でそれぞれフランキングXbaI及びSalI部位を付加し、内部EcoRI部位を除去した。結果として得たXbaI-SalIフラグメントを、ヒト補体遺伝子C2(Ashfield et al., 前掲書)の転写ターミネータを含有するBam HI-EcoRIフラグメントが後続する、マウス免疫グロブリンガンマ-2a遺伝子のポリアデニル化シグナルを含有するSalI-Bam HIフラグメント(Kostelny et al.(1992)前掲書)によりその3′末端上でそしてhCMVIEプロモータ及びエンハンサを含有するEcoRI-XbaIフラグメント(Boshart et al. 前掲書)によりその5′末端でフランキングされた中間ベクターへと、サブクローニングさせた。
結果として得た、官能性アカゲザルβ2m転写単位を含むEcoRI-EcoRIフラグメントを用いて、pDL172+HuFcRn+Huβ2mの(ヒトβ2m転写単位を含有する)EcoRI-EcoRIフラグメントを置換して、結果としてpDL172+HuFcRn+Rhβ2mを得た。アカゲザルFcRnアルファ鎖遺伝子をPCRにより修飾して、5′末端ではフランキングNheI部位とM195重鎖シグナル配列のC末端部分(Co et al., 前掲書)を、そして3′末端ではフランキングAgeI部位を付加し、これを用いてpDL172+HuFcRn+Rhβ2mの(ヒトFcRnアルファ鎖遺伝子を含む)NheI-AgeIフラグメントを置換し、結果として以下pDL410(図9B参照)と呼ぶ発現ベクターpDL172+RhFcRn+Rhβ2mを得た。
例3.
この例は、ヒトγ2M3重鎖遺伝子のFc領域の変異誘発について記述している。
分子モデリング:
ラットFc/FcRn複合体の低解像度結晶構造に基づいて、ヒトFc/FcRn複合体の初期モデルが生成された(Burmeister et al., Nature 372:379-383(1994);RCSBタンパク質データバンクコードIFRT)。まず第1に複合体のラットβ2mは、その配位と同じ配位をヒト組織適合抗原HLA-A2の高解像度結晶構造から取られたヒトβ2mに重ね合わせることによって置換された(Saper et al. J. Mol. Biol. 219:277-319(1991));RCSPコード3HLA)。その後、ラットFcRnのアルファ鎖は、複合体内のラットアルファ鎖と同じ配位でヒトFcRnの高解像度結晶構造から取られたヒトアルファ鎖を重ね合わせることで置換された(West and Bjorkman, Biochemistry 29:9698-9708(2000);RCSBコード(1EXU)。
次に、複合体Fc内のラット残基はヒトIgG1Fc(Kabat et al.前掲書)からの対応する残基で置換され、ヒトIgG1Fc/FcRn複合体のモデルを生成するべく、SEGMOD及びENCADプログラム(Levitt, J.Mol. Biol. 226:507-533(1992);Levitt, J. Mol. Biol. 168:595-620(1983))を用いてエネルギー最小化計算が行なわれた。最後に、モデルのヒトIgG1 Fc残基はヒトIgG2M3Fcからの対応する残基(Cole et al., 前掲書)で置換され、エネルギー最小化計算が反復されて、以下モデル1と呼ぶヒトIgG2M3 Fc/FcRnの複合体のモデルが生成された。
以下モデル2と呼ぶ第2のヒトIgG2M3 Fc/FcRn複合体モデルが、ラットFc/FcRn複合体のモデル(Weng et al., J. Mol. Biol. 282:217-225(1998);RCSBコード2FRTに基づいて、上述のとおりに生成された。
以下モデル3と呼ぶ第3のモデルが、ヘテロ2量体ラットFc/FcRn複合体の高解像度結晶構造(Martin et al., Mol. Cell 7:867-877(2001);RCSBコード1/1A)に基づいて、上述の通りに生成された。
変異誘発;
(Kabat et al.,前掲書のEU指標に従って番号づけされた)OST577-IgG2M3 重鎖の位置250、314及び428で無作為アミノ酸置換を生成するために、オーバーラップ・エクステンションポリメラーゼ連鎖反応(PCR)方法(Higuchi, 前掲書)を使用した。位置250で無作為突然変異体を生成するためには、M=A又はC、及びN=A、C、G又はTであるものとして変異誘発プライマJY24(5′-GAC CTC AGG GGT CCG GGA GAT CAT GAG MNN GTC CTT GG-3′)(配列番号77)及びJY25(5′-CTC ATG ATC TCC CGG ACC CCT GAG GTC-3′)(配列番号78)が使用された。オーバーラップ・エクステンションPCRの第1ラウンドでは、左側フラグメントのために外部プライマmsc g2-1(5′-CCA GCT CTG TCC CAC ACC G-3′)(配列番号79)及びJY24が用いられ、右側フラグメントのためには外部プライマkco8′(5′-GCC AGG ATC CGA CCC ACT-3′)(配列番号80)及びJY25が用いられた。
PCR反応は、GeneAmp(商標)PCR System9600(Applied Biosystems(商標)、Foster City, CA)中でまず5分間94℃で、次に5秒間94℃、5秒間55℃及び60秒間72℃のサイクル25回でインキュベートしその後7分間72℃でインキュベートすることによって、メーカーの推奨事項に従ってExpandTM高忠実度PCRシステム(Roche Diagnostics Corporation, Indianapolis, IN)を用いて行なわれた。PCR産物を、低融点アガロースゲル上で走らせ、ゲルから切除し、70℃で融解させた。
左側及び右側のフラグメントを組合せるためのPCRの第2ラウンドは、35サイクル、外部プライマmscg2-1及びkco8を用いて上述の通り行なわれた。最終的PCR産物を低融点アガロースゲル上で走らせ、予想されたサイズのDNAフラグメントを切除し、QIAEXTMIIゲル抽出キット(QIAGEN(商標)、Valencia,CA)を用いて精製した。精製したフラグメントをPinAI及びBamHIで消化させ、上述の通りにゲル精製し、pVAg2M3-OST577内の対応する部位の間でクローニングした。
T250I及びT250Lの突然変異体を生成するためには、K=G又はTとして、変異誘発プライマKH4(5′-GAC CTC AGG GGT CCG GGA GAT CAT GAG AAK GTC CTT GG-3′)(配列番号81)及びKH3(5′-CTC ATG ATC TCC CGG ACC CCT GAG GTC-3′)(配列番号82)が使用された。T250C及びT250Gの突然変異体を生成するためには、M=A又はCであるものとして、変異誘発プライマKH5(5′-GAC CTC AGG GGT CCG GGA GAT CAT GAG GCM GTC CTT GG-3′)(配列番号83)及びKH3が使用された。T250N及びT250Qの突然変異体を生成するためには、K=G又はT、そしてN=A、C、G又はTであるものとして変異誘発プライマKH6(5′-GAC CTC AGG GGT CCG GGA GAT CAT GAG NTK GTC CTT GG-3′)(配列番号84)及びKH3が使用された。
PCRの第1ラウンドでは、左側フラグメントのために外部プライマmsc g2-1及びKH4、KH5又はKH6が用いられ、右側フラグメントのためには外部プライマMGD-1(5′-GCC AGG ATC CGA CCC ACT-3′)(配列番号85)及びKH3が用いられた。PCR反応は、まず5分間94℃で、次に5秒間94℃、5秒間60℃及び60秒間72℃のサイクル25回でインキュベートしその後7分間72℃でインキュベートすることによって、ExpandTM高忠実度PCRシステム(Roche Diagnostics Corporation)を用いて行なわれた。PCR産物を、低融点アガロース上で走らせ、ゲルから切除し、70℃で融解させた。
左側及び右側のフラグメントを組合せるためのPCRの第2ラウンドは、外部プライマmscg2-1及びMGD-1を用いて、まず5分間94℃で、次に5秒間94℃、5秒間60℃及び105秒間72℃のサイクル35回でインキュベートし、その後7分間72℃でインキュベートすることによって、上述の通りに行なわれた。最終的PCR産物を低融点アガロースゲル上で走らせ、予想されたサイズのDNAフラグメントを切除し、QIAquickTMゲル抽出キット(QIAGEN(商標))を用いて精製した。精製したフラグメントをPinAI及びBamHIで消化させ、上述の通りにゲル精製し、pVAg2M3-OST577内の対応する部位の間でクローニングした。
無作為突然変異体を位置314で生成するためにはK=G又はT、及びN=A、C、G又はTであるものとして、変異誘発プライマkco78(5′-ACC GTT GTG CAC CAG GAC TGG NNK AAC GGC AAG GAG-3′)(配列番号86)及びkco79(5′-CCA GTC CTG GTG CAC AAC GG-3′)(配列番号87)が使用された。PCRの第1ラウンドでは、左側フラグメントのために外部プライマks g2-5(5′-CTC CCG GAC CCC TGA GGT C-3′)(配列番号88)及びkco79が、そして左側フラグメントのために外部プライマkco8及びkco78が用いられた。全ての後続ステップは、PCRの第2ラウンドが外部プライマksg2-5及びkco8を使用し、最終PCR フラグメントがPm1I及びBam HIで消化されpVAg2M3-OST577内の対応する部位へとクローニングされたという点を除いて、位置250の無作為変異誘発について上述した通りに行なわれた。
L314I突然変異体を生成するためには、変異誘発プライマMGD-10(5′-ACC GTT GTG CAC CAG GAC TGG ATC AAC GGC AAG GA-3′)(配列番号89)及びkco79が使用された。L314Y突然変異体を生成するためには、変異誘発プライマMGD-11(5′-ACC GTT GTG CAC CAG GAC TGG TAT AAC GGC AAG GA-3′)(配列番号90)及びkco79が使用された。L314H 突然変異体を生成するためには、変異誘発プライマMGD-12(5′-ACC GTT GTG CAC CAG GAC TGG CAC AAC GGC AAG GA-3′)(配列番号91)及びkco79が使用された。L314M突然変異体を生成するためには、変異誘発プライマMGD-13(5′-ACC GTT GTG CAC CAG GAC TGG ATG AAC GGC AAG GA-3′)(配列番号92)及びkco79が使用された。L314N 突然変異体を生成するためには、変異誘発プライマMGD-14(5′-ACC GTT GTG CAC CAG GAC TGG AAT AAC GGC AAG GA-3′)(配列番号93)及びkco79が使用された。
PCRの第1ラウンドでは、左側フラグメントのために外部プライマjt240(5′-GGA CAC CTT CTC TCC TCC C-3′)(配列番号94)及びkco79が用いられ、右側フラグメントのためには、外部プライマkco41(5′-ATT CTA GTT GTG GTT TGT CC-3′)(配列番号95)及び、MGD-10、MGD-11、MGD-12、MGD-13又はMGD-14が使用された。PCR反応は、まず、5分間94℃で、次に5秒間94℃、5秒間60℃及び60秒間72℃のサイクル25回でインキュベートし、その後7分間72℃でインキュベートすることによって、ExpandTM高忠実度PCRシステム(Roche Diagnostics Corporation)を用いて行なわれた。
PCR産物を、低融点アガロースゲル上で走らせ、ゲルから切除し、70℃で融解させた。左側及び右側のフラグメントを組合せるためのPCRの第2ラウンドは、外部プライマjt240及びkco41を用いて、まず5分間94℃で、次に5秒間94℃、5秒間60℃及び90秒間72℃のサイクル35回でインキュベートし、その後7分間72℃でインキュベートすることによって、上述の通りに行なわれた。最終的PCR産物を低融点アガロースゲル上で走らせ、予想されたサイズのDNAフラグメントを切除し、QIAquickTMゲル抽出キット(QIAGEN(商標))を用いて精製した。精製したフラグメントをpCR(商標)4Blunt-TOPO(商標)(InvitrogenTM, Carlsbad, CA)中でサブクローニングさせ、次にPmII及びBam HIで消化させ、上述の通りにゲル精製し、pVAg2M3-OST577内の対応する部位の間でクローニングした。
位置428で無作為突然変異体を生成するためには、最初、K=G又はTそしてN=A、C、G又はTであるものとして、変異誘発プライマJY22(5′-GAA CGT CTT CTC ATG CTC CGT GNN KCA TGA GGC TCT G-3′)(配列番号96)及びJY23(5′-CAC GGA GCA TGA GAA GAC GTT C-3′)(配列番号97)が用いられた。PCRの第1ラウンドでは、左側フラグメントのために外部プライマks g2-5及びJY23が、そして右側フラグメントのために外部プライマkco8及びJY22が用いられた。全ての後続ステップは、位置314無作為変異誘発について上述した通り行なわれた。
さらなる無作為突然変異体を位置428で生成するために、ひき続き、M=A又はC そしてN=A、C、G又はTであるものとして、変異誘発プライマMGD-2(5′-GTG TAG TGG TTG TGC AGA GCC TCA TGM NNC ACG GAG CAT GAG AAG-3′)(配列番号98)及びKH1(5′-CAT GAG GCT CTG CAC AAC CAC TAC AC-3′)(配列番号99)が使用された。PCRの第1ラウンドでは、左側フラグメントのために外部プライマmsc g2-1及びMGD-2が、又右側フラグメントのためには外部プライマMGD-1及びKH1が使用された。PCR反応は、まず、5分間94℃で、次に5秒間94℃、5秒間60℃及び90秒間72℃のサイクル25回でインキュベートしその後7分間72℃でインキュベートすることによって、ExpandTM高忠実度PCRシステム(Roche Diagnostics Corporation)を用いて行なわれた。
PCR産物を、低融点アガロースゲル上で走らせ、ゲルから切除し、70℃で融解させた。左側及び右側のフラグメントを組合せるためのPCRの第2ラウンドは、外部プライマg2-1及びMGD-1を用いて、まず5分間94℃で、次に5秒間94℃、5秒間60℃及び75秒間72℃のサイクル35回でインキュベートし、その後7分間72℃でインキュベートすることによって、上述の通りに行なわれた。最終的PCR産物を低融点アガロースゲル上で走らせ、予想されたサイズのDNAフラグメントを切除し、QIA quickTMゲル抽出キット(QIAGEN(商標))を用いて精製した。精製したフラグメントをPinAI及びBam HIで消化させ、上述の通りにゲル精製し、pVAg2M3-OST577内の対応する部位の間でクローニングした。
M428E突然変異体を生成するためには、MGD-8(5′-GTG TAG TGG TTG TGC AGA GCC TCA TGT TCC ACG GAG CAT GAG AAG-3′)(配列番号100)及びKH1が使用された。PCRの第1ラウンドでは、左側フラグメントのために外部プライマmsc g2-1及びMGD-8が、又右側プライマのために外部プライマMGD-1及びKH1が用いられた。全ての後続ステップは、位置428無作為変異誘発について上述した通り行なわれた。
T250E/M428F二重突然変異体は、T250E突然変異を含むpVAg2M3-OST577プラスミド内のPmlI-Bam HIフラグメントを、M428F突然変異を含むpVAg2M3-OST577プラスミドからの対応するPmlI-Bam HIフラグメントで置換することによって生成された。T250Q/M428F及びT250Q/M428L 二重突然変異体は、T250Q 突然変異を含むpVAg2M3-OST577プラスミド内のPmlI-Bam HIフラグメントを、それぞれM428F及びM428Lの突然変異を含むpVAg2M3-OST577プラスミドからの対応するPmlI-Bam HIフラグメントで置換することによって生成された。
同様にHulD10-IgG2M3重鎖の位置250及び428で複数のアミノ酸置換が作り上げられた。M428L突然変異体を生成するためには、hCMVプロモータ及びエンハンサ(Boshart et al. 前掲書)及びOST577VH領域を含むプラスミドpVAg2M3-OST577(M428L)からのXhoI-XbaIフラグメントが、hCMVプロモータ及びエンハンサ及びHul D10VH領域を含むプラスミドpHulD10IgG1.rgpt.dE(Kostelny et al.(2001)前掲書)からの対応するXhoI-XbaIフラグメントで置換された。T250Q/M428L 突然変異体を生成するためには、hCMVプロモータ及びエンハンサ(Boshart et al. 前掲書)及びOST577VH領域を含むプラスミドpVAg2M3-OST577(T250Q/428L)からのXhoI-XbaIフラグメントがhCMVプロモータ及びエンハンサ及びHulD10VH領域を含むプラスミドpHulD18.IgG1.rgpt.dE(Kostelny et al, (2001)、前掲書)からの対応するXhoI-XbaIフラグメントで置換された。
QIAprepTM Spin Miniprepキット(QIAGEN(商標))を用いてプラスミドDNAが調製され、配列決定によって、ヌクレオチド置換が同定された。Endo Free(商標) Plasmid Maxiキット(QIAGEN(商標))を用いて、大規模プラスミドDNA調製物が作られた。OST577-IgG2M3発現プラスミドのコーディング領域を、ヌクレオチド配列により確認した。
結果:
改変された血清半減期をもつものと予想されることになる新生児Fcレセプタ(FcRn)に対するより高い又はより低い親和力をもつヒトIgG 突然変異体を単離するために、(Kabat et al.前掲書のEU指標に従って番号付けされる)ヒトγ2M3重鎖の位置250、314及び428において、無作為アミノ酸置換が生成された。これら3つの位置は、ラットFc/FcRn複合体のX線結晶構造(Burmeister et al. 前掲書から演繹された、ヒトIgG2M3Fc及びヒトFcRnの複合体のコンピュータモデリング(例の冒頭で記述したモデル1、2及び3を参照)に基づいて選択された。位置250、314及び428にある野生型アミノ酸はFc/FcRn界面近くにあるが、これらの残基は、FcとFcRnの間のpH依存性相互作用に直接寄与すると思われない。
従って、これらの位置におけるアミノ酸置換は、pH依存性結合を維持する一方で、FcRnに対するFcの親和力を増大(又は減少)させ得る。PCRベースの変異誘発により生成された単一の突然変異体としては、位置250の野生型TをA、C、D、E、F、G、H、I、K、L、M、N、P、Q、R、S、V、W、又はYに変換した19の突然変異体;位置314の野生型LをA、C、D、E、F、G、H、I、K、M、N、P、Q、R、S、T、V、W、又はYに変換した19の突然変異体;そして位置428の野生型MをA、C、D、E、F、G、H、I、K、L、N、P、Q、R、S、T、V、W、又はYに変換した19の突然変異体があった(表1参照)。FCRnに対する増大した結合をもつ単一突然変異体の一部は、T250E/M428F、T250Q/M428F及びT250Q/M428Lを含めて複数の二重突然変異体を生成するように組合せられた。
例4.
この例は、ヒトγ1重鎖遺伝子のFc領域の変異誘発について記述する。
変異誘発:
(Kabat et al, 前掲書のEU指標に従って番号づけされた)OST577-IgG1重鎖の位置250及び428でアミノ酸置換を生成するために、オーバーラップ・エクステンションPCR方法(Higuchi, 前掲書中)を使用した。T250E突然変異体を生成するためには、変異誘発プライマJX076(5′-AAC CCA AGG ACG AAC TCA TGA TCT CCC G-3′)(配列番号101)及びJX077(5′-GGA GAT CAT GAG TTC GTC CTT GGG TTT TG-3′)(配列番号102)が使用された。オーバーラップ・エクステンションPCRの第1ラウンドでは、左側フラグメントのために外部プライマJX080(5′-CCT CAG CTC GGA CAC CTT CTC-3′)(配列番号103)及びJX077が使用され、右側フラグメントのためには外部プライマNT244(5′-GCC TCC CTC ATG CCA CTC A-3′(配列番号104)及びJX076が使用された。
PCR反応はGeneAmp(商標)PCR System9600(Applied Biosystems(商標))中で、まず5分間94℃で、次に20秒間94℃、20秒間55℃及び90秒間72℃のサイクル35回でインキュベートし、その後7分間72℃でインキュべートすることによって、メーカーの推奨事項に従ってExpandTM高忠実度PCRシステム(Roche Diagnostics Corporation)を用いて行なわれた。PCR産物を、低融点アガロースゲル上で走らせ、ゲルから切除し、70℃で融解させた。左側及び右側のフラグメントを組合せるためのPCRの第2ラウンドは、35サイクル、外部プライマJXO80及びNT244を用いて上述の通りに行なわれた。最終的PCR産物を低融点アガロースゲル上で走らせ、予想されたサイズのDNAフラグメントを切除し、QIAquickTMIIゲル抽出キット(QIAGEN(商標))を用いて精製した。精製したフラグメントをNheI及びEagIで消化させ、上述の通りにゲル精製し、pVAg.N-OST577内の対応する部位の間でクローニングした。
T250D 突然変異体を生成するためには、変異誘発プライマJX087(5′-AAC CCA AGG ACG ACC TCA TGA TCT CCC G-3′)(配列番号105)及びJX088(5′-GGA GAT CAT GAG GTC GTC CTT GGG TTT TG-3′)(配列番号106)を使用された。PCRの第1ラウンドでは、左側フラグメントのために外部プライマJX080及びJX088が使用され、右側フラグメントのために外部プライマNT244及びJX087が使用された。全ての後続ステップは、上述の通りに行なわれた。
M428F突然変異体を生成するためには、変異誘発プライマJX078(5′-CTC ATG CTC CGT GTT CCA TGA GGC TCT GC-3′)(配列番号107)及びJX079(5′-AGA GCC TCA TGG AAC ACG GAG CAT GAG-3′)(配列番号108)が使用された。PCRの第1ラウンドでは、左側フラグメントのために外部プライマJX080及びJX079が使用され、右側フラグメントのために外部プライマNT244及びJX078が使用された。全ての後続ステップは、上述の通りに行なわれた。
M428L突然変異体を生成するためには、変異誘発プライマJXM428L1(5′-CTC ATG CTC CGT GTT GCA TGA GGC TCT GC-3′)(配列番号109)及びJXM428L2(5′-AGA GCC TCA TGC AAC ACG GAG CAT GAG-3′)(配列番号110)が使用された。PCRの第1ラウンドでは、左側フラグメントのために外部プライマJX080及びJXM428L2が使用され、右側フラグメントのために外部プライマNT244及びJXM428L1が使用された。全ての後続ステップは、上述の通りに行なわれた。
T250Q 突然変異体を生成するためには、変異誘発プライマJXT250Q1(5′-AAC CCA AGG ACC AAC TCA TGA TCT CCC G-3′)(配列番号111)及びJXT250Q2(5′-GGA GAT CAT GAG TTG GTC CTT GGG TTT TG-3′)(配列番号112)が使用された。PCRの第1ラウンドでは、左側フラグメントのために外部プライマJX080及びJXT250Q2が使用され、右側フラグメントのために外部プライマNT244及びJXT250Q1が使用された。全ての後続ステップは、上述の通りに行なわれた。
T250E/M428F二重突然変異体を生成するためには、M428突然変異を含む鋳型内でT250E 突然変異を作り出すために、変異誘発プライマJX076及びJX077が使用された。PCRの第1ラウンドでは、左側フラグメントのために外部プライマJX080及びJX077が使用され、右側フラグメントのために外部プライマNT244及びJX076が使用された。全ての後続ステップは、上述の通りに行なわれた。
T250Q/M428L二重突然変異体を生成するためには、T250Q 突然変異を作り出すべく変異誘発プライマJXT250Q1及びJXT250Q2が使用され、M428L 突然変異を作り出すべく変異誘発プライマJXM428L1及びJXM428L2が使用された。PCRの第1ラウンドでは、左側フラグメントを作り出すために外部プライマJX080及びJXT250Q2が、中央フラグメントを作り出すためにJXT250Q1及びJXM428L2が、又右側フラグメントを作り出すために外部プライマNT244及びJXM428L1が使用された。全ての後続ステップは、上述の通りに行なわれた。
同様にHulD10-IgG1 重鎖の位置250及び428で複数のアミノ酸置換が作り出された。428L突然変異体を生成するためには、hCMVプロモータ及びエンハンサ(Boshart et al. 前掲書)及びOST577VH領域を含むプラスミドpVAg1.N-OST577(M428L)からのXhoI-XbaIフラグメントが、hCMVプロモータ及びエンハンサ及びHul D10VH領域を含むプラスミドpHulD10IgG1.rgpt.dE(Kostelny et al.(2001)前掲書)からの対応するXhoI-XbaIフラグメントで置換された。T250Q/M428L突然変異体を生成するためには、hCMVプロモータ及びエンハンサ(Boshart et al. 前掲書)及びOST577VH領域を含むプラスミドpVAg1.N-OST577(T250Q/428L)からのXhoI-XbaIフラグメントがhCMVプロモータ及びエンハンサ及びHulD10VH領域を含むプラスミドpHulD18.IgG1.rgpt.dE(Kostelny et al, (2001)、前掲書)からの対応するXhoI-XbaIフラグメントで置換された。
QIAprepTM Spin Miniprepキット(QIAGEN(商標))を用いてプラスミドDNAが調製され、配列決定によって、ヌクレオチド置換が確認された。Endo Free(商標) Plasmid Maxiキット(QIAGEN(商標))を用いて、大規模プラスミドDNA調製物が作られた。OST577-IgG1発現プラスミドのコーディング領域を、ヌクレオチド配列により確認した。
結果:
改変された血清半減期をもつものと予想されることになる新生児Fcレセプタ(FcRn)に対する改変された親和力をもつヒトIgG 突然変異体を同定するために、(Kabat et al.前掲書のEU指標に従って番号付けされる)ヒトγ1重鎖の位置250及び428において、複数のアミノ酸置換が生成された。これら2つの位置は、FcRnに対する増大した又は減少した結合を結果としてもらしたヒトγ2M3重鎖内のこれらの位置における突然変異の同定に基づいて選択された。位置250及び428にある野生型アミノ酸はFc/FcRn界面近くにあるが、これらの残基は、FcとFcRnの間のpH依存性相互作用に直接寄与すると思われない。従って、これらの位置におけるアミノ酸置換は、pH依存性結合を維持する一方で、FcRnに対するFcの親和力を増大(又は減少)させ得る。ヒトγ2M3 重鎖との関連において増大した結合を示した単一及び二重の両方の突然変異体が、単一突然変異体T250E、T250Q、M428F及びM428Lそして二重突然変異体T250E/M428F及びT250Q/M428Lを含めたヒトγ1重鎖の中で評価された。ヒトγ2M3重鎖(T250D)との関連において減少した結合を示した単一突然変異体が同様にヒトγ1重鎖の中で評価された。
例5.
この例は、突然変異体IgG2M3及びIgG1抗体の特徴づけについて記述している。
細胞培養:
ヒト腎細胞系統293-H(Life Technologies(商標), Rockville, MD)を、7.5%CO2のインキュベータ内で37℃で、以下293培地と呼ぶ10%のウシ胎児血清(FBS)(HyClone(商標), Logan, UT)、0.1mMのMEM可欠アミノ酸(InvitrogenTM)及び2mMのL-グルタミン(InvitrogenTM)を含有するDMEM(Bio WhittakerTM,Walkersville, MD)内に維持した。一過性トランスフェクションの後のモノクローナル抗体の発現及び精製について、293-H細胞を、以下低-IgG293培地と呼ぶ10%の低-IgG FBS(HyClone(商標))、0.1mMのMEM可欠アミノ酸及び2mMのL-グルタミンの中でインキュベートさせた。マウス骨髄腫細胞系統Sp2/0(米国標準培養収集機関、Manassus, VA)を、10%のFBS及び2mMのL-グルタミンを含有するDMEM中に維持した。安定したトランスフェクション後のモノクローナル抗体の精製のために、Sp2/0 細胞をハイブリドーマ-SFM(HSFM)(Life Technologies(商標))での成長に適合させた。
一過性トランスフェクション:
293-H細胞を、適切な軽鎖プラスミド及び適切な野生型の重鎖プラスミド、又は位置250、314又は428に単一又は二重アミノ酸置換を含むさまざまな突然変異を受けた重鎖プラスミドのうちの1つで一過性に同時トランスフェクションさせた。小規模一過性トランスフェクションのためには、1回のトランスフェクションにつき約1×106個の細胞を6ウェル平板内で3mlの293培地の中で平板固定し、一晩集密状態になるまで成長させた。翌日、2μgの軽鎖プラスミドと2μgの野生型又は突然変異を受けた重鎖プラスミドを0.25mlのHSFMと組合わせた。
別々の試験管内に、10μlのLipofectamineTM2000試薬(InvitrogeTM)及び0.25mlのHSFMを組合せ、室温で5分間インキュベートした。0.25mlのLipofectamineTM2000-HSEM混合物を穏やかに0.25mlのDNA HSFM混合物と混合し、20分間室温でインキュベートした。293-Hの細胞を覆う培地を吸引し、低-IgG293培地と交換し、次にリポフェクタミン-DNA複合体を滴下にて細胞に加え、渦巻きにより穏やかに混合し、細胞を7.5%のCO2のインキュベータ内で37℃で5〜7日間インキュベートしてから上清を収獲した。
大規模一過性トランスフェクションのためには、1回のトランスフェクションにつき、約7×106個の細胞をT-75フラスコ内で25mlの293培地の中で平板固定し、一晩集密状態になるまで成長させた。翌日、12μgの軽鎖プラスミドと12μgの野生型又は突然変異を受けた重鎖プラスミドを1.5mlのHSFMと組合わせた。別々の試験管内に、60μlのLipofectamineTM2000試薬及び1.5mlのHSFMを組合せ、室温で5分間インキュベートした。1.5mlのLipofectamineTM2000-HSEM混合物を穏やかに1.5mlのDNAHSFM混合物と混合し、20分間室温でインキュベートした。293-Hの細胞を覆う培地を吸引し、低-IgG273培地と交換し、次にリポフェクタミン-DNA複合体を滴下にて細胞に加え、渦巻きにより穏やかに混合し、細胞を7.5%のCO2のインキュベータ内で37℃で5〜7日間インキュベートしてから上清を収獲した。
抗体濃度
小規模一過性トランスフェクションからの上清を最高1200rpmで5分間遠心分離することで収獲し、0.22μmのMillex(商標)-GVマイクロフィルタ(Millipore(商標) Corporation, Bedford, MA)を用いて無菌ろ過した。標本を、3000rpmでの遠心分離により、6mlのVivaspin(商標)濃縮器(50,000MWCO)(Vivascience(商標)AG,Hannover, Germany)を用いて約6倍、0.5mlまで濃縮した。濃縮したタンパク質を5mlのPBS、pH6.0中に再懸濁させ、上述のとおり0.5mlの体積まで濃縮した。以下に記述したELISA方法を用いて、各標本中の抗体濃度を測定した。
安定したトランスフェクション:
Sp2/0 細胞を適切な軽鎖プラスミド及び適切な野生型の、重鎖プラスミド又は位置250又は428に単一又は二重アミノ酸置換を含むさまざまな突然変異を受けた重鎖プラスミドのうちの1つで、安定した形でトランスフェクションさせた。約1×107個の細胞を10mlのPBSで洗浄し、1mlのPBS中で再懸濁させた。約25〜30μgの軽鎖プラスミド及び50〜60μgの重鎖プラスミドをFspIで線形化し、細胞に付加した。細胞とDNAを穏やかに混合し、氷上でGene Pulser Cuvelte(Bio-Rad(商標) Laboratories, Hercules, CA)に移した。0.360kV、25μFに設定したGene Pulser II(Bio Rad(商標) Laboratories)を用いて、細胞を電気穿孔させ、10〜20分間氷に戻した。細胞を40mlのDMEM、10%のFBS、2mMのL-グルタミンの中で希釈させ、100μl/ウェルで4枚の96ウェル平板内に同定した。
48時間後に、100μl/ウェルの2×マイコフェノール酸(MPA)選択培地(DMEM、10%のFBS、1×HT Media Supplement Hybri-Max(商標)(Sigma(商標), St. Louis, MO)、300μg/mlのキサンチン(Sigma(商標))、2μg/mlマイコフェノール酸(Life Technologies(商標))及び2mM L-グルタミン)を添加した。見かけ上単一のコロニーを含んでいるウェルからの上清を、10〜14日後にELISAによりスクリーニングした。HSFM(Life Technologies(商標))に対する膨張及び適合のため、最高の抗体産生クローンを選択した。適合したクローンを、450mlのHSFM中でローラーボトルに対し膨張させ、空気中の5%のCO2でガス供給し、2月後に50mlのProtein Free Feed Medium-2(PFFM-2)(Sauer et al., Biotechnol. Bioeng.67:585-597(2000))をこれに補足し、消耗するまで成長させた。
最高の抗体産生クローンの一部分を同様にProtein Free Basal Medium-1(PFBM-1)(Protein Design LabsTM, Inc.)に対し適合させ、10L入りスピナーフラスコに対して膨張させ、1/10体積のPFFM-2を2日後に補足し、消耗するまで成長させた。
ELISA:
培養上清中に存在するOST577又はHulD10抗体の量を定量するために、ELISAを実施した。ImmulonTM4平板(DYNEX(商標) Technologies, Inc., Chantilly, VA)を4℃で一晩、pH9.4の100μl/ウェルの0.2Mの炭酸塩/重炭酸塩緩衝液中の1.0μg/mlのヤギF(ab′)2 抗ヒトIgGガンマ鎖抗体(BioSource International, Camarillo, CA)又はAffiniPureTMヤギ抗ヒトIgG Fcy フラグメント特異的抗体(Jackson Immuno Research Laboratories, Inc. West Grove, PA)でコーティングした。翌日、平板をELISA Wash Buffer(EWB)(PBS、0.1% Tween20)で洗浄し、室温で20〜30分間、300μl/ウェルのTBS中のSuper Block(商標) Blocking Bufferで遮断させた。平板をEWBで洗浄し、適切に希釈させた試験標本を各ウェルに添加した。精製したOST577又はHulD10抗体を適宜、0.2μg/mlから始めて100μl/ウェルのELISA Buffer(EB)(PBS、1%のウシ血清アルブミン、0.1%のTween20)中で2倍に段階希釈した。
最初に培養上清を100μl/ウェルのEB中で1:10に希釈し、その後、100μl/ウェルのEB中で2倍に希釈した。平板を1〜2時間室温でインキュベートし、その後EWBで洗浄し、100μl/ウェルのヤギ抗ヒトラムダ軽鎖HRP接合型抗体(BioSource International, 又はSouthern Biotechnology Associates, Inc., Birmingham, AL)又はヤギ抗ヒトカッパ軽鎖HRP接合型抗体(Southern Biotechnology Associates, Inc.)を適宜、EB中の1.0μg/mlで添加した。室温で1時間インキュベートした後、平板をEWSで洗浄し、その後100μl/ウェルのABTS Peroxidase Substrate/Peroxidase Solution B(Kirkegaard & Perry Laboratories, Gaithersburg, MD)を添加した。反応を100μl/ウェルの2%のシュウ酸で停止し、415nmでの吸収度をVER SAmaxTMマイクロタイター平板読取り装置(Molecular Devices Corporation(商標), Sunnyvale, CA)を用いて測定した。
抗体精製:
一過性トランスフェクションからの培養上清を遠心分離によって収獲し、無菌ろ過した。ろ過した上清のpHを、pH7.0の1Mのクエン酸ナトリウム1/50体積を添加することで調整した。上清を、pH7.0で、150mMのNaCl、20mMのクエン酸ナトリウムで予め平衡化された1mlのHiTrap(商標) Protein A HPカラム(Amersham BiosciencesTM Corporation, Piscataway, NJ)上に走らせた。カラムを同じ緩衝液で洗浄し、結合した抗体を、pH3.5の20mMのクエン酸ナトリウムで溶出させた。1/50体積のpH6.5の1.5Mのクエン酸ナトリウムを添加して中和させた後、プールした抗体画分を、pH6.0の120mM NaCl、20mMクエン酸ナトリウムで予め平衡化された5mlのHiTrap(商標) Desaltingカラム(Amersham BiosciencesTM Corporation)上に走らせた。流入物を収集し、OD280>0.1の画分をプールし、2mlのVivaspin(商標) 濃縮器(50,000ダルトンMWCO)(Vivascience(商標) AG)を用いて最高0.5〜1.0mg/mlまで濃縮した。その後、0.2μmのMillex(商標)-GVマイクロフィルター(Millipore(商標) Corporation)を用いて、標本をろ過滅菌した。精製された抗体の濃度は、280nmでの吸収度(1mg/ml=1.4A280)を測定することによって、UV分光法によって決定された。
安定したトランスフェクションからの抗体の小規模精製のためには、培養上清を遠心分離により収獲し、無菌ろ過した。pH7.4のPBSで予め平衡化された5mlのPOROS(商標)50A ProteinAカラム(Applied Biosystems(商標))上に上清を走らせた。カラムを同じ緩衝液で洗浄し、結合した抗体を、pH3.0の0.1MのNaCl、0.1Mのグリシンで溶出させた。1/20体積の1MのTris基剤を添加して中和させた後、プールした画分を、PD-10脱塩カラム(Amersham BiosciencesTM Corporatio)を用いてか又は透析により、PBSpH7.4内へ緩衝液交換させた。次に標本を、0.2μmのMillex(商標)-GVマイクロフィルター(Millipore(商標) Corporation)を用いてろ過滅菌した。精製した抗体の濃度を、280nmでの吸収度(1mg/ml=1.4A280)を測定することによってUV分光法により決定した。
安定したトランスフェクタントからの抗体の大規模精製のためには、細胞培養収獲物をSartorius(商標)ろ過カプセル(Sartorius(商標) AG、Goettingen, Germany)を用いたデッドエンドろ過により清澄させた。清澄させた収獲物をPellicon(商標) 2カセット(30,000ダルトンMWCO)(Millipore(商標) Corporation)を用いて約10Lから750mlまで濃縮させ、次に上述のクエン酸緩衝液システムを用いてrProteinA Sepharose FFカラム(Amersham BiosciencesTM Corporation)上のプロテインAアフィニティクロマトグラフィにより精製した。プロテインA溶出液を、YM30膜(Millipore(商標) Corporation)を用いてAmicon(商標)撹拌式セル器具内で濃縮させ、その後、SuperdexTM200カラム(Amersham BiosciencesTM Corporation)を用いて、pH6.0の120mMのNaCl、20mMのクエン酸ナトリウム内に標本を緩衝液交換した。pH及び浸透圧を測定し、精製された抗体の濃度を、280nmでの吸収度(1mg/ml=1.4A280)を測定することによりUV分光法で決定した。
SDS-PAGE
NuPAGE(商標)Novex4-12% Bis-Tris gels (InvitrogenTM)上に還元又は非還元条件で5μgの精製済み抗体標本を走らせ、メーカーの推奨事項に従ってSimply BlueTMSafeStain Kit(InvitrogenTM)を用いて染色した。
結果:
IgG2M3Fc及びIgG1Fc突然変異体は、それぞれ、OST577の軽鎖及び重鎖可変領域(Ehrlich et al.,前掲書中)、ヒトラムダ-2の軽鎖定常領域(Hieter et al.(1981)、前掲書中)及びヒトガンマ-2 突然変異体3(IgG2M3)(Cole et al., 前掲書中)及びIgG(Ellison et al.,前掲書中)の重鎖定常領域を含む抗-HBV抗体として発現された。IgG2M3変異体は、CH2領域(V234A及びG237A)内に2つのアミノ酸置換を含み、ヒトFcyレセプタに対する極めて低い残留結合を示す(Cole et al.,前掲書中)。IgG2M3Fc及びIgG1Fc突然変異体は、同様に、それぞれ、HulD10の軽鎖及び重鎖可変領域(Kostelny et al.(2001)前掲書中)、ヒトカッパの軽鎖定常領域(Hieter et al.(1980)前掲書中)及びヒトIgG2M3(Cole et al., 前掲書中)及びIgG1(Ellison et al., 前掲書中)の重鎖定常領域を含む抗-HLA-DRβ鎖対立遺伝子抗体としても発現された。
上述のように、適切な野生型又は突然変異体重鎖発現ベクターを、OST577又はHulD10モノクローナル抗体の発現のため293-H細胞内に適切な軽鎖発現ベクターと共に一過性に同時トランスフェクションさせた。一過性トランスフェクションの後に収獲された培養上清のELISA分析は、抗体発現レベルが25mlの上清中で標準的に5〜50μg/mlであることを示した。OST577又はHulD10抗体をプロテインAアフィニティクロマトグラフィで精製し、約100〜1000μgの最終収量を得た。Sp2/0 細胞内のOST577又はHulD10抗体の安定した発現は、標準的に結果として、ELISAにより決定される通り5〜50μg/mlの発現レベルをもたらした。培養上清中に存在する抗体の約50〜80%の収量が、小規模プロテインAアフィニティクロマトグラフィによって得られた。
精製済み抗体を、非還元条件及び還元条件下で、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動法(SDS-PAGE)により特徴づけした。非還元条件下でのSDS-PAGE分析は、精製済み抗体が約150〜160kDの分子量を有することを示し(データ示さず)還元条件下での分析は、精製済み抗体が約50kDの分子量をもつ重鎖そして約25kDの分子量をもつ軽鎖(図10A及び10Bを参照)で構成されていることを示した。安定したSp2/0 トランスフェクタントから精製された抗体のSDS-PAGE分析は、一過性293-Hトランスフェクションからの精製された抗体で観察されたものに類似の結果を提供した。
例6.
この例は、突然変異体IgG2M3及びIgG1抗体の競合結合分析について記述している。
細胞培養:
マウス骨髄腫細胞系統NS0(European Collection of Animal Cell Cultures, Salisbury, Wiltshire, UK)を10%のFBSを含むDMEM中に維持した。表面上で組換え型でGPIリンクしたヒト又はアカゲザルFcRnを発現するNS0トランスフェクタントを、マイコフェノール酸(MPA)選択培地(DMEM、10% FBS、1xHT Media Supplement Hybri-Max(商標) (Sigma(商標))、250μg/mlのキサンチン(Sigma(商標))、1μg/mlのマイコフェノール酸(Life Technologies(商標))及び2mML-グルタミン)又は2×MPA選択培地の中で維持した。
ヒトFcRn細胞系統
NS0細胞をpDL208で安定した形でトランスフェクションした。約1×107個の細胞を1回洗浄し、1mlの単純DMEM中に再懸濁させ、Gene PulserTM Cuvette(Bio-Rad(商標) Laboratories)に移し、氷上で10分間インキュベートした。40μgのプラスミドpDL208をFspIで線形化し、氷上で細胞と穏やかに混合し、次に1.5kV、3μFに設定したGene PulserTMII(Bio-Rad(商標) Laboratories)を用いて2回パルス処理することにより細胞を電気穿孔し、10分間氷上に戻した。細胞を20mlのDMEM、10%のFBS中で希釈させ、100μl/ウェルで2枚の96ウェル平板内に固定した。培地を48時間後にMPA選択培地と交換した。見かけ上単一のコロニーを含んでいるウェルからのマイコフェノール酸耐性NS0トランスフェクタントを、MPA選択培地内で膨張させ、約3週間後にFACSTMによりスクリーニングした。
試験1回につき約1.5×105個の細胞を、氷上で1時間、10μg/mlのビオチニル化されたマウス抗ヒトB2-ミクログロブリン抗体(Chromaprobe, Inc., Aptos, CA)を含む100μlのFACS Staining Buffer(FSB)(PBS、1%FBS、0.1%NaN3)中でインキュベートした。細胞を4mlのFSBで1回洗浄し、次に20μg/mlのストレプトアビジン-FITC接合体を含有する25μlのFSB(Southern Biotechnology Assosciates, Inc.)中でインキュベートした。細胞を4mlのFSBで一回洗浄し、1%のホルムアルデヒド中に再懸濁させた。標本を1、FACS canフローサイトメトリ(BD(商標) Biosciences, San Josc, CA)を用いてヒトβ2mに対する抗体の結合について分析した。最高の見かけの染色を有する複数のクローンを、FACStar細胞ソーター(BD(商標)Biosciences)を用いてサブクローニングし、DMEM、10%のFBS、2mMのL-グルタミンの中で膨張させ、上述の通りにFACSTMによって再試験した。NS0 HuFcRn(memb)、クローン7〜3と呼称される1つのサブクローンを、後続する結合検定中で使用した。
アカゲザルFcRn細胞系統:
NS0細胞を、pDL410で安定した形でトランスフェクションさせた。約6×105個の細胞を上述の通り電気穿孔によりトランスフェクションさせた。アカゲザルFcFnアルファ鎖を交差反応する、試験1回につき100ngのマウス抗ヒトFcRnアルファ鎖抗体(Protein Design LabsTM, Inc.)で染色し、ヤギ抗マウスカッパFITC接合型抗体(Southern Biotechnology Associates, Inc.)で検出することによって、上述の通りにFACSTMによりトランスフェクタントを同定した。後続する結合検定では、NS0RhFcRn、クローン-3と呼称される細胞系統が使用された。
単一点競合結合検定:
細胞系統NS0 HuFcRn(memb)、クローン7-3上のヒトFcRnに対する結合についての単一点競合結合検定において、濃縮したOST577-IgG2M3上清を試験した。試験一回につき約2×105個の細胞を、pH8.0のFACS Binding Buffer(FBB)(0.5%のBSA、0.1%のNaN3を含有するPBS)中で1回、pH6.0のFBB中で1回洗浄し、pH6.0のFBB中の予め混合されたビオチニル化したOST577-IgG2M3抗体(8.3μg/ml)及び(8.3μg/mlの競合抗体を含む)濃縮上清120μlの中に再懸濁させた。
細胞を、氷上で1時間インキュベートし、pH6.0のFBB中で2回洗浄し、pH6.0のFBB中で2.5μg/mlまで希釈させた25μlのストレプトアビジン-RPE接合体(Bio Source International)内に再懸濁させた。暗所で氷上にて30分間インキュベートした後、細胞をpH6.0のFBB中で2回洗浄し、1%のホルムアルデヒド中で再懸濁させた。標本を、FACS Caliburフローサイトメータ(BD(商標) Biosciences)を用いてFACSTMによりFcRnに対する抗体結合について分析した。各突然変異体の平均チャネル螢光(MCF)を、野生型抗体のものと比較し、Excel(Microsoft(商標) Corporation, Redmond, WA)を用いてプロットした。
競合結合検定:
各々の精製済みOST577-IgG2M3抗体の希釈系列を、細胞系統NS0 HuFuRn(memb)、クローン7-3上のヒトFcRnに対する結合について、ビオチニル化されたHuEP5C7-IgG2M3抗体(He et al., J.Immunol. 160;1029-1035(1998))に対して競合させた。初期スクリーニング実験については、試験1回あたり約2×105個の細胞を、pH6.0のFSB中で1回洗浄し、pH6.0のFSB中の予め混合されたビオチニル化HuEP5C7-IgG2M3抗体(10μg/ml)及びOST577-IgG2M3競合抗体(208μg/mlから0.102μg/mlまでの2倍の系列希釈)100μl中に再懸濁させた。
細胞を氷上で1時間抗体混合物と共にインキュベートし、pH6.0のFSB中で2回洗浄し、pH6.0のFSB中で2.5μg/mlまで希釈させた25μlのストレプトアビジン-RPE接合体(Bio Source International)中に再懸濁させた。暗所で氷上にて30分間インキュベートした後、細胞をpH6.0のFSB中で2回洗浄し、1%のホルムアルデヒド中で再懸濁させた。標本を、FACScanフローサイトメータ(BD(商標) Biosciences)を用いてFACSTMによりFcRnに対する抗体結合について分析した。平均チャンネル螢光(MCF)を、競合物質濃度に対してプロットし、IC50値をGraph Pad Prism(商標)(Graph PadTM Software, Inc., San Diego, CA)を用いて計算した。一貫性に関しては、表中に示されたIC50値は、最終的競合濃度に基づいている。
後続する競合結合実験は、細胞をpH8.0のFBB中で一回、pH6.0のFBB中で一回洗浄し、次にpH6.0のFBB中の予め混合されたビオチニル化HuEP5C7-IgG2M3抗体(10μg/ml)及びOST577-IgG2M3競合抗体(208μg/mlから0.102μg/mlまでの2倍の系列希釈)100μlの中で再懸濁させたという点を除いて、上述の通りに行なった。後続する全てのインキュベーション及び洗浄は、上述の通り、pH6.0でFBBを用いて行なった。上述の通り、pH6.0のFBB中の予め混合されたビオチニル化OST577-IgG2M3抗体(8.3μg/ml)及びOST577-IgG2M3競合抗体(208μg/mlから0.102μg/mlまでの2倍系列希釈)120μlの中で、1群の実験を行なった。もう1群の実験を、上述の通り、pH6.0のFBB中の予め混合されたビオチニル化OST577-IgG1抗体(5.0μg/ml)及びOST577-IgG1競合抗体(125μg/mlからの2倍系列希釈、又は250μg/mlからの3倍系列希釈)200μlの中で行なった。
さらにもう1群の実験を、上述の通り、pH6.0のFBB中の予め混合されたビオチニル化HuEP577-IgG1抗体(5.0μg/ml)及びOST577-IgG1競合抗体(750μg/mlから出発した3倍系列希釈)200μl中で行なった。各々の精製済みOST577-IgG2M3抗体の希釈系列を、細胞系統NS0 RhFc、クローンR-3上のアカゲザルFcRnに対する結合について、ビオチニル化されたOST577-IgG2M3抗体に対して競合させた。一群の実験においては、試験1回あたり約2×105個の細胞を、pH8.0のFSB中で1回そしてpH6.0のFBB中で1回洗浄し、次にpH6.0のFSB中の予め混合されたビオチニル化OST577-IgG2M3抗体(8.3μg/ml)及びOST577-IgG2M3競合抗体(208μg/mlから0.102μg/mlまでの2倍の系列希釈)120μl中に再懸濁させた。
細胞を氷上で1時間抗体混合物と共にインキュベートし、pH6.0のFBB中で2回洗浄し、pH6.0のFBB中で2.5μg/mlまで希釈させた25μlのストレプトアビジン-RPE接合体(Bio Source International)中に再懸濁させた。暗所で氷上にて30分間インキュベートした後、細胞をpH6.0のFBB中で2回洗浄し、1%のホルムアルデヒド中で再懸濁させた。標本を、FACSCaliburフローサイトメータ(BD(商標) Biosciences)を用いてFACSTMによりFcRnに対する抗体結合について分析した。もう1群の実験を、上述の通り、pH6.0のFBB中の予め混合されたビオチニル化OST577-IgG1抗体(5.0μg/ml)及びOST577-IgG1競合抗体(500μg/mlから出発した3倍の系列希釈)200μlの中で行なった。
結果:
その表面上でヒトFcRnを安定した形で発現するトランスフェクションを受けたNS0細胞系統を用いて、野生型OST577-IgG2M3又はOST577-IgG1抗体及びそのさまざまな突然変異体のFcRnに対する相対的結合を決定した。上述の通り、濃縮した上清を、単一点競合検定に従ってヒトFcRnに対する結合についてテストし、精製された抗体を、競合結合検定におけるFcRn結合についてテストした。増大する濃度の標識されていない競合抗体を、pH6.0のFSB又はFBBの中で飽和濃度の標識されたIgG2M3又はIgG1抗体の存在下で、細胞と共にインキュベートさせた。
濃縮したOST577-IgG2M3上清での標準的実験の結果は、図11A、11B及び11Cに示されている。図11Aに示されているように、位置250にある突然変異体の一部分(例えばT250E、T250Q)は、野生型よりも強い競合物質であり、これらの突然変異体が野生型抗体に比べて増大したヒトFcRnに対する結合を有するということを示唆していた。この位置にあるその他の突然変異体(例えばT250D、T250F、T250K、T250N、T250P、T250R、T250W、T250Y)は、野生型よりも弱い競合物質であり、これらの突然変異体が野生型抗体に比べてヒトFcRnに対する低減した結合を有することを示唆していた。図11Bに示されているように、位置314における突然変異体のいずれも、野生型よりも強い競合物質ではなく、これらの突然変異体のいずれも野生型抗体に比べて増大したヒトFcRnに対する結合を有していないということを示唆していた。
この位置における突然変異体の大部分(例えば、L314A、L314C、L314D、L314E、L314F、L314G、L314H、L314K、L314M、L314N、L314P、L314Q、L314R、L314S、L314T、L314V、L314W、L314Y)は、野生型よりも弱い競合物質であり、これらの突然変異体が野生型抗体に比べて減少したヒトFcRnに対する結合を有することを示唆していた。図11Cに示されているように、位置428にある突然変異体の一部分(例えばM428F、428L)は、野生型よりも強い競合物質であり、これらの突然変異体が野生型抗体と比べて増大したヒトFcRnに対する結合を有するということを示唆していた。この位置にあるその他の突然変異体(例えばM428A、M428C、M428D、M428E、M428G、M428H、M428K、M428N、M428P、M428Q、M428R、M428S、M428T、M428V、M428Y)は、野生型に比べて弱い競合物質であり、これらの突然変異体が野生型抗体に比べて減少したヒトFcRnを有することを示唆していた。
表2は、ヒトFcRnに対する競合について、精製した野生型OST577-IgG2M3抗体及びその突然変異体のIC50値(FcRnに対する標識された抗体の結合を50%阻害するのに必要な競合抗体の量)をまとめている。相対的結合値は、野生型OST577-IgG2M3抗体のIC50値と各々の突然変異体のIC50値の比率として計算された。アミノ酸位置314では、精製済み抗体のいずれも、野生型抗体との関係においてヒトFcRnに対する結合の増大を示さなかった。実際、位置314における精製済み突然変異体のうちの4つの全てが野生型抗体との関係において減少した結合を示した。しかしながら、アミノ酸位置250においては、突然変異体の1つ(T250E)が、野生型抗体に比べて約6倍優れたヒトFcRnに対する結合を示した。位置250における複数の突然変異体が、野生型抗体との関係においてわずかに減少した結合を示し、1つの突然変異体(T250D)は、野生型抗体との関係において実質的に減少したヒトFcRnに対する結合を示した。アミノ酸位置428では、突然変異体の1つ(M428)は同じく、野生型抗体よりも約3倍優れたヒトFcRnに対する結合を示し、一方もう1つの突然変異体(M428G)は、野生型抗体との関係において実質的に低減されたヒトFcRnに対する結合を示した。
2つの異なる位置における2つのアミノ酸置換、すなわち、各々ヒトFcRnに対する結合の増大を示すT250E、T250Q、M428F及びM428Lが同定されたことから、二重突然変異体 T250E/M428F、T250Q/M428F及びT250Q/M428Lが構築され、293-H細胞内に一過性にトランスフェクションされ、精製され、ヒトFcRnへの結合についてテストされた。上述の通り、標識されていない増大する濃度の抗体が、pH6.0中の未飽和濃度の標識されたHuEP5C7-IgG2M3又はOST577-IgG2M3抗体の存在下で、ヒトFcRnを発現する細胞と共にインキュベートされた。
図12Aに示されている通り、二重突然変異体(T250E/M428F)は、単一突然変異体(T250E/M428F)のいずれよりもヒトFcRnに対するより優れた結合を示し、野生型抗体に比べ約15倍優れたヒトFcRnに対する結合を示した。図12Bに示されているように、二重突然変異体(T250Q/M428L)は、単一突然変異体(T250Q又はM428L)又は二重突然変異体(T250Q/M428F)のいずれよりも優れたヒトFcRnに対する結合を示し、野生型抗体よりも約28倍優れたヒトFcRnに対する結合を示した。
表3にまとめられているように、1つの実験グループにおいては、野生型OST577-IgG2M3抗体についてのIC50は、最高9μg/mlであり、一方、単一突然変異体(T250E及びM428F)の各々についてのIC50は最高3μg/mlであり、二重突然変異体(T250E/M428F)についてのIC50は1μg/ml未満である。表4にまとめられているように、もう1つの実験グループにおいては、野生型OST577-IgG2M3抗体についてのIC50は最高12μg/mlであり、一方単一突然変異体(T250Q及びM428L)の各々及び二重突然変異体(T250Q/M428F)の各々についてのIC50は、最高2〜4μg/mlであり、二重突然変異体(T250Q/M428L)についてのIC50は、1μg/1ml未満である。
野生型OST577-IgG1、単一突然変異体 T250E、T250Q、M428F、M428L及び二重突然変異体T250E/M428F及びT250Q/M428Lも同様に作り出された。表5にまとめられているように、1つの実験グループにおいては、野生型OST577-IgG1抗体についてのIC50は最高14μg/mlであり、一方単一突然変異体(T250E及びM428F)の各々についてのIC50は最高3〜5μg/mlであり、二重突然変異体(T250E/428F)についてのIC50は1μg/ml未満である。表6にまとめられているように、もう1つの実験グループにおいては、野生型OST577-IgG1抗体についてのIC50は最高10μg/mlであり、一方単一突然変異体(T250Q)についてのIC50は最高3μg/mlであり、単一突然変異体(M428L)及び二重突然変異体(T250Q/428L)についてのIC50は1μg/ml未満である。
アカゲザルFcRnに対するOST577-IgG2M3及びその突然変異体の一部分の結合は、競合結合実験においてテストされた。表7にまとめられているように、野生型OST577/IgG2M3抗体についてのIC50は最高15μg/mlであり、一方、単一突然変異体(T250Q及びM428L)及び二重突然変異体(T250Q/428F)の各々についてのIC50は最高2〜4μg/mlであり、二重突然変異体(T250Q/428L)についてのIC50は、1μg/ml未満である。アカゲザルFcRnに対するOST577-IgG1及びその突然変異体の一部分の結合も同様に競合結合実験においてテストされた。表8にまとめられているように、野生型OST577-IgG1抗体のためのIC50は最高9μg/mlであり、一方、単一突然変異体(T250Q)についてのIC50は、最高3μg/mlであり、単一突然変異体についてのIC50(M428L)及び二重突然変異体(T250Q/M428L)についてIC50は1μg/1ml未満である。
例7.
この例は、FcRn結合におけるIgG2M3及びIgG1突然変異体の特性の確認について記述している。
直接的結合検定:
pH6.0のFBB中でトランスフェクションを受けていないNS0細胞に対する、又は細胞系統NS0HuFcRn(memb)、クローン7-3上のヒトFcRnに対する結合について、精製済みOST577-IgG2M3抗体をテストした。pH8.0のFBB中で、試験1回につき約2×105個の細胞を一回洗浄し、pH6.0のFBB中で一回洗浄し、次にpH6.0のFBB中で11μg/mlの濃度で100μlの抗体中に再懸濁させた。
細胞を氷上で1時間、抗体と共にインキュベートし、pH6.0のFBB中で2回洗浄し、pH6.0のFBB中で5μg/mlまで希釈された25μlのヤギ抗ヒトIgG RPE接合抗体(Southern, Biotechnology Associates, Inc)中に再懸濁させた。暗所で氷上で30分間インキュベートした後、細胞をpH6.0のFBB中で2回洗浄し、1%のホルムアルデヒド中で再懸濁させた。FAC Scanフローサイトメータ(BD(商標) Biosciences)を用いてFACSTMによりFcRnに対する抗体結合について標本を分析した。各々の突然変異体の平均チャネル螢光(MCF)を、Excel(Microsofto(商標) Coaporation)を用いてプロットした。
競合的結合検定:
37℃で細胞系統NS0 HuFcRn(memb)、クローン7-3上でヒトFcRnに対する結合について、ビオチニル化されたOST577-IgG2M3抗体に対し、各々の精製済みOST577-IgG2M3抗体の希釈系列を競合させた。試験1回あたり約2×105個の細胞を、pH8.0のFBB中で一回、pH6.0のFBBの中で1回洗浄し、次に、pH6.0のFBB中の予め混合されたビオチニル化OST577-IgG2M3抗体(10μg/ml)及びOST577-IgG2M3競合抗体(208μg/mlから0.102μg/mlまでの2倍系列希釈)100μl中に再懸濁させた。
細胞を、37℃で1時間抗体混合物と共にインキュベートし、pH6.0のFSB中で2回洗浄し、pH6.0のFBB中で2.5μg/mlまで希釈させた25μlのストレプトアビジン-RPE接合体(Bio Source International)内に再懸濁させた。暗所で30分間インキュベートした後、細胞をpH6.0のFBB中で2回洗浄し、1%のホルムアルデヒド中で再懸濁液させた。標本を、FACScanフローサイトメータ(BD(商標) Biosciences)を用いてFACSTMによりFcRnに対する抗体結合について分析した。平均チャンネル螢光(MCF)を、競合濃度に対してプロットし、IC50値をGraphPad Prism(商標)(GraphPadTM Software)を用いて計算した。
pH依存性結合及び放出検定
精製済みOST577-IgG2M3及びOST577-IgG1突然変異体抗体をヒトFcRnに対する結合についてそれぞれの野生型抗体に対し比較し、次にNS0 HuFcRn(memb)、クローン7-3を用いた1点結合及び放出検定においてさまざまなpH値で放出させた。試験1回あたり約2×105個の細胞を、pH8.0のFBB中で1回、pH6.0のFBB中で1回洗浄し、次にpH6.0のFBB中の精製済み抗体(10μg/ml)100μlの中に再懸濁させた。細胞を1時間氷上でインキュベートさせ、pH6.0、6.5、7.0、7.5又は8.0のFBB中で2回洗浄し、適切なpHのFBB中で1.25μg/mlまで希釈させたヤギF(ab')2抗ヒトIgG FITC接合型抗体(Southern Biotechnology Associates, Inc)25μlの中に再懸濁させた。暗所で氷上にて30分間インキュベートした後、細胞を適切なpHのFBB中で2回洗浄し、1%のホルムアルデヒド中に再懸濁させた。FACS Caliburフローサイトメーター(BD(商標) Bioscience)を用いてFACSTMによりFcRnに対する抗体結合について標本を分析した。各突然変異体の平均チャンネル螢光(MCF)を、Excel (Microsoft(商標) Corporation)を用いてプロットした。
精製済みOST577-IgG2M3及びOST577-IgG1突然変異体抗体をアカゲザルFcRnに対する結合についてそれぞれの野生型抗体に対し比較し、次に上述の通りNS0 RhFcRnクローンR-3を用いた1点結合及び放出検定においてさまざまなpH値で放出させた。
結果:
ヒトFcRnに対する野生型OST577-IgG2M3又はOST577-IgG1抗体の結合特性は、その表面上でヒトFcRnを安定した形で発現するトランスフェクションを受けたNS0細胞系統を用いて確認された。突然変異体抗体の結合が、一部のその他のレセプタを介して又は未知のメカニズムにより発生するのではなくトランスフェクションを受けたNS0細胞系統上のヒトFcRnに特異的なものであったことを確認するため、ヒトFcRnを安定した形で発現するトランスフェクションを受けたNS0細胞系統に対比して、トランスフェクションを受けていないNS0細胞に対する結合について、抗体をテストした。上述の通り、細胞をpH6.0のFBB中の未飽和濃度の抗体と共にインキュベートさせ、FACSTMにより結合を分析した。図13に示されているように、結果は、親NS0細胞系統に対する見かけ上の結合が全く存在せず、抗体がヒトFcRnを介して、トランスフェクションを受けていない細胞に対し特異的に結合することを示唆していた、ということを表わしていた。
本発明において生成された突然変異体の各々が生理学的に適切な形で挙動したことを確認するため、ヒトFcRnに対する結合に対する温度及びpHの効果がさらに厳密に検討された。初期競合結合検定は4℃で実施されたため、生理学的により適切な37℃で実験を反復し、この温度において突然変異体がなお活性であることを示した。上述のとおり、増大する濃度の標識されていない競合抗体を、pH6.0のFBB中で37℃で、亜飽和濃度の標識されたOST577-IgG2M3抗体の存在下でヒトFcRnを発現する細胞と共にインキュベートさせた。図14に示されているように、結果は、抗体が37℃でヒトFcRnに対する結合のその相対的パターンを維持していることを示していた。
FcRnに対するIgGの結合は、pH依存性のものであることがわかっている。すなわちIgGは、pH6.0でFcRnに対し強く結合するかpH8.0では弱くしか結合しない。より長い血清半減期をもつ突然変異体抗体を工学処理するためには、pH8.0でのFcRnからのpH依存性放出を保持する一方でpH6.0でのFcRnに対する結合を増大させることが望ましい。結合がpH依存性であったことを確認するため、ヒトFcRnを安定した形で発現するトランスフェクションを受けたNS0細胞系統に対する結合について抗体をテストし、次に、pH6.0〜pH8.0までの範囲のpH値でこれを放出した。上述の通り、pH6.0のFBB中の未飽和濃度の抗体と共に細胞をインキュベートさせ、pH6.0、6.5、7.0、7.5又は8.0のFBB中で洗浄し、FACSTMにより結合を分析した。図15Aに示されているように、結果は、T250E、T250Q、M428F、M428L、T250E/M428F、T250Q/M428F又はT250Q/M428L突然変異を有する修飾されたのOST577-IgG2M3抗体が、全て、pH値がpH8.0まで増大するにつれて結合を減少させながら、pH6.0でヒトFcRnに対する強い結合を示す、ということを表わしていた。
図15Bに示されているように、結果は、T250E、M428F又はT250E/M428F 突然変異を有する修飾されたのOST577-IgG1抗体が、全て、pH値がpH8.0まで増大するにつれて結合を減少させながら、pH6.0でヒトFcRnに対する強い結合を示す、ということを表わしていた。T250D突然変異を有するOST577-IgG1抗体は、pH8.0までpH値が増大するにつれて結合を減少させながら、pH6.0でヒトFcRnに対するより弱い結合(野生型に比べて)を示した。図15Cに示されているように、結果は、T250Q、M428L又はT250Q/428L 突然変異を有する修飾されたのOST577-IgG1抗体が全て、pH値がpH8.0まで増大するにつれて結合を減少させながら、pH6.0でヒトFcRnに対する強い結合を示す、ということを表わしていた。これらの結果は、ヒトFcRnに対する抗体の結合が実際pH依存性のものであることを表わしていた。
類似の要領で、アカゲザルFcRnを安定した形で発現するトランスフェクションを受けたNS0細胞系統に対する結合について抗体をテストし、次にこれをpH6.0〜pH8.0の範囲内のpH値で放出させた。図15Dに示されているように、結果はT250E、T250Q、M428F、M428L、T250E/M428F、T250Q/M428F又はT250Q/M428L突然変異を有する修飾されたのOST577-IgG2M3抗体が、全て、pH値がpH8.0まで増大するにつれて結合を減少させながら、pH6.0でアカゲザルFcRnに対する強い結合を示す、ということを表わしていた。図15Eに示されているように、結果は、T250Q、M428L又はT250Q/M428L、突然変異を有する修飾されたのOST577-IgG1抗体が、全て、pH値がpH8.0まで増大するにつれて結合を減少させながら、pH6.0でアカゲザルFcRnに対する強い結合を示す、ということを表わしていた。これらの結果は、アカゲザルFcRnに対する抗体の結合が同様にpH依存性であることを表わしていた。
例8.
この例は、IgG2M3及びIgG1突然変異体の付加的な特性の確認について記述している。
細胞培養:
ヒトバーキットリンパ腫細胞系統Raji(米国標準培養収集機関)を、10%のFBS(HyClone(商標))及び1%ペニシリン-ストレプトマイシン(Life Technologies(商標))を含有するL-グルタミンを伴うRPMI1640(Bio WhittakerTM)の中に維持した。
抗原結合検定:
OST577野生型及び突然変異体抗体の抗原結合活性を、競合結合ELISAにおいて確認した。ImmulonTM2平板(DYNEX(商標) Technologies)を、組換え型B型肝炎表面抗原(HBsAg)1.0μg/ml(Advanced Immuno Chemical, Inc., Long Beach, CA)で4℃で一晩コーティングした。翌日、平板をEWBで洗浄し、室温で30分間、TBS中のSuperBlock(商標) Blocking Buffer(Pierce Chemical Company)300μl/ウェルで遮断した。平板をEWBで洗浄し、各ウェルに対し100μlのEB中の予め混合されたビオチニル化577-IgG2M3抗体(0.25μg/ml)及び競合物質OST577-IgG2M3抗体(33μg/mlから0.033μg/mlまでの2倍系列希釈)、又は予め混合されたビオチニル化OST577-IgG1抗体(0.25μg/ml)及び競合物質OST577-IgG1抗体(67μg/mlから0.067μg/mlまでの系列希釈)を各ウェルに添加した。
平板を室温で1時間インキュベートし、次にEWBで洗浄し、100μl/ウェルのストレプトアビジン-HRP接合体(Pierce Chemical Company)をEB中に1μg/mlで添加した。室温で30分間インキュベートした後、平板をEWBで洗浄し、その後100μl/ウェルのABTSペルオキシダーゼ基質/ペルオキシダーゼ溶液B(Kirkegaard & Perry Laboratories)を添加した。反応を100μl/ウェルのシュウ酸で停止し、415nmでの吸収度を、VER SAmaxTMマイクロタイタープレート読取り装置(Molecular Devices Corporation(商標))を用いて測定した。
HulD10-IgG2M3野生型及び突然変異体抗体の抗原結合活性を、HulD10により認識されるHLA-DRβ鎖の対立遺伝子を発現する、Raji細胞を用いてFACSTM結合検定の中で確認した(Kostelny et al.,(2001)前掲書中)。試験1回あたり2.5×105個の細胞をpH7.4のFBB中で1回洗浄し、pH7.4のFBB中のHulD10-IgG2M3抗体(60μg/mlから0.027μg/mlまでの3倍系列希釈)140μl中で再懸濁させた。細胞を氷上で1時間抗体と共にインキュベートし、pH7.4のFBB中で2回洗浄し、pH7.4のFBB中で10μg/mlまで希釈された25μlのヤギF(ab′)2 抗ヒトカッパRPE接合型抗体(Southern Biotechnology Associates, Inc.)中で再懸濁させた。暗所で氷上にて30分間インキュベートした後、細胞をpH7.4のFBB中で2回洗浄し、1%のホルムアルデヒド中で再懸濁させた。FACS Caliburフローサイトメータ(BD(商標) Biosciences)を用いてFACSTMによりHLA-DR β鎖対立遺伝子に対する抗体結合について標本を分析した。
類似の要領で、HulD10-IgG1野生型及び突然変異体抗体の抗原結合活性を、Raji 細胞を用いて、FACSTM結合検定中で確認した。試験1回あたり約2.0×105個の細胞をpH7.4のFBB中で1回洗浄し、pH7.4のFBB中のHulD10-IgG1-抗体(25μg/mlから12.5μg/mlまでの2倍系列希釈、12.5μg/mlから0.0020μg/mlまでの3倍系列希釈)100μl中で再懸濁させた。HuFd79-IgG1抗体の希釈系列(Co et al., Proc. Natl. Acad. Sci.88:2869-2873(1991))を上述の通りに調製し、陰性の対照として使用した。細胞を氷上で1時間抗体と共にインキュベートし、pH7.4のFBB中で2回洗浄し、pH7.4のFBB中で20μg/mlまで希釈された25μlのヤギF(ab')2 抗ヒトIgG FITC接合型抗体(Southern, Biotechnology Associates, Inc)中で再懸濁させた。暗所で氷上にて30分間インキュベートした後、細胞をpH7.4のFBB中で2回洗浄し、1%のホルムアルデヒド中で再懸濁させた。FAC S.Caliburフローサイトメータ(BD(商標) Biosciences)を用いてFACSTMによりHLA-DRβ鎖対立遺伝子に対する抗体結合について標本を分析した。
ADCC検定
公表された方法(Shields et al. 前掲書中)に従ってエフェクタとしてヒト末梢血単核細胞(PBMC)そして標的としてRaji細胞を用いて乳酸脱水素酵素(LDH)放出を測定することにより、HulD10野生型及び突然変異体抗体の抗体依存性細胞媒介性細胞障害(ADCC)活性を確認した。Ficoll-Paque(商標) Plus勾配(Amersham BiosciencesTM Corporation)を用いて新鮮全血からPBMCを調製し、検定培地中8×106個/mlの細胞密度で再懸濁させた(RPMI1640、1%BSA)。Raji 細胞を検定培地中で3回洗浄し、検定培地中0.4×106個/mlの細胞密度で再懸濁させた。HulD10野生型及び突然変異体抗体を、検定培地中で4μg/ml、0.25μg/ml、及び0.016μg/mlまで希釈した。
Raji 細胞(50μl/ウェル)及びHulD10抗体(50μl/ウェルすなわち試験1回あたり200ng、12.5ng又は0.8ng)をFalcon96ウェルU底検定平板(BD(商標) Biosciences)のウェル内で組合わせ、室温で30分間インキュベートさせた。オプソニンを作用させた細胞に対しPBMC(100μl/ウェルすなわち40:1のエフェクタ/標的比)を添加し、CO2インキュベータ内で37℃で4時間インキュベートさせた。抗体の不在下でエフェクタ及び標的細胞をインキュベートすることにより、抗体依存性細胞媒介性細胞障害(AICC)を測定した。抗体の不在下で標的細胞(SRtarget)又はエフェクタ細胞(SR effector)をインキュベートすることによって自発的放出を測定した。標的細胞に対して2%のトリトンX-100を添加することによって、最大放出(MR)を測定した。
平板を穏やかに遠心分離に付し、上清(100μl/ウェル)をFalcon96-ウェル-平底平板に移した。室温で30分間細胞障害検出キット(Roche Diagnostics Corporation)からの100μl/ウェルのLDH反応混合物と共に上清をインキュベートすることにより、LDH活性を測定した。50μl/ウェルの1NのHClで反応を停止させ、490nmでの吸収度をVERSAmaxTMマイクロタイタープレート読取り装置(Molecular Devices Corporation(商標))を用いて測定した。細胞障害パーセントは(LDH放出sample-SReffector-SRtarget)/MRtarget-SRtarget)×100として計算した。
結果:
野生型及び突然変異体OST577及びHulD10抗体のそれぞれの抗原に対する抗原結合特性は、適切な結合検定を用いて確認された。上述の通り、HBsAgに対するOST577抗体の結合は、競合ELISAにおいて決定された。図16Aに示されているように、HBsAgに対する野生型及び突然変異体 OST577-IgG2M3抗体の結合は、基本的に同一であった。同様に図16Bに示されているように、HBsAgに対する野生型及び突然変異体 OST577-IgG1抗体の結合は、基本的に同一であった。
上述の通り、HLA-DRβ鎖の対立遺伝子に対するHulD10抗体の結合は、FACS結合検定において決定された。図17Aに示されているように、HLA-DRβ鎖対立遺伝子に対する野生型及び突然変異体 HulD10-IgG2M3抗体の結合は、基本的に同一であった。同様に、図17Bに示されているように、HLA-DRβに対する野生型及び突然変異体 HulD10-IgG1抗体の結合は、基本的に同一であった。これらの結果は、予測通り位置250及び428での記述された突然変異が抗体結合に影響を及ぼすことはない、ということを表わしている。
HulD10野生型及び突然変異体抗体のADCC活性は、エフェクタとしてヒトPBMCを、又標的としてRaji 細胞を用いたLDH放出検定において確認された。図18Aに示されている通り、同型接合158V/V FCγRIII対立遺伝子を担持する供与体を用いると、二重突然変異体(T250Q/M428L)HulD10-IgG1抗体のADCC活性は、野生型抗体のものときわめて類似していたが、一方、単一突然変異体(M428L)HulD10-IgG1抗体のADCC活性は野生型抗体と比べてわずかに減少していた。予想した通り、野生型及び突然変異体 HulD10-IgG2M3抗体には、ADCC活性が欠如していた。
類似の要領で、図18Bに示されているように、同型接合158F/F FcγRIII対立遺伝子を担持する供与体を使用すると、二重突然変異体(T250Q/M428L)HulD10-IgG1抗体のADCC活性は野生型抗体にきわめて類似していたが、一方、単一突然変異体(M428L)HulD10-IgG1抗体のADCC活性は野生型抗体に比べて幾分か減少していた。野生型及び突然変異体 HulD10-IgG2M3抗体には、ADCC活性が欠如していた。これらの結果は、本発明で記述されているT250Q/M428L 突然変異は、抗体のIgG1形態のADCC活性に影響を及ぼさないが、一方M428L MUTは、IgG1形態のADCC活性をわずかに低減させるということを表わしている。位置250及び428における記述された突然変異体は、抗体のIgG2M3形態のADCC活性に影響を及ぼさない。
例9.
この例は、in vitro及びin vivoの血清半減期検定について記述している。
In vivoでのFcRnに対するより高い(又はより低い)親和力をもつヒトIgG抗体が、それぞれin vivoでより長い(又はより短かい)血清半減期を有するものと予想されている。FcRnに対するヒトIgG 突然変異体の親和力は、適切なバイオセンサーチップに接合された可溶性FcRnを用いた表面プラズモン共鳴(SPR)といったようなさまざまな方法によってか、又はトランスフェクションを受けた細胞の表面上で発現されたFcRnを用いた競合結合実験を実施することによって、in vivoで測定可能である。in vitro親和力実験において使用されるFcRnは、マウス、アカゲザル又はヒト由来であり得る。所望の特性をもつヒトIgG 突然変異体の血清半減期は、体重1kgあたり0.1〜10mgの抗体といった範囲の抗体用量を適切な実験動物(例えばマウス又はサル)又はヒトに注射し、次に抗体の予想血清半減期にまたがるさまざまな時間的間隔で血清標本を抜き取り、ELISAといったような適切な技術によって無傷のIgGの存在について標本を検定することで、in vivoで測定可能である。
アカゲザル薬物動態研究:
カリフォルニア大学デービス校のカリフォルニア国立霊長類研究センター(CNPRC)において、「OST577の3つの変異体の薬学動態比較」という題の非GLP薬物動態研究が実施された。12匹の雄のマカクアカゲザルを体重で任意抽出し、3つの研究グループのうちの1つに割当てた。各研究グループを構成する4匹の動物は各々、15分間にわたり1mg/kgの割合でOST577の野生型又は2つの変異体のうちの1つの単一回静脈内用量投与を受けた。OST抗体は、野生型OST577-IgG2M3、単一突然変異 M428Lを含むOST577-IgG2M3の1変異体及び、二重突然変異 T250Q/M428Lを含むOST577-IgG2M3の1変異体であった。3つの抗体全てを、Sp2/0 細胞のトランスフェクションにより発現させ、例5に記述されている通りに精製した。
血液標本を0日目の投薬の前、投薬後1時間及び4時間目及び1日目、7日目、14日目、21日目、28日目、42日目及び56日目に採取した。各時点で、伏在静脈から4mlの血液を採取し、血清を調製し、2つのアリコートを凍結させ、使用まで-20℃で維持した。血清化学及び血液学決定のため、血液標本を研究より16日前、0日目の投薬前及び56日目の研究終了時点で採取した。
ELISA:
アカゲザル血清標本中のOST577-IgG2M3の濃度を、条件付き検定を用いてELISAにより決定した。プールされた正常なアカゲザル血清(PNRS)をCNPRCから得た。較正物質、陽性血清対照を調製するため及びアカゲザル血清標本の予備希釈のために同じPNRSロットを使用した。3000、1500、750、375、187.5、93.75、46.88、23.44及び0ng/mlでPNRS中でOST577-IgG2M3の標準希釈により較正物質を調製し、2時間室温で平衡化し、-20℃でアリコートの形で凍結させた。低い陽性血清対照については0.2μg/mlで、中位の陽性血清対照については0.4μg/ml、高い陽性血清対照については0.8μg/mlでOST577-IgG2M3でPNRSをスパイクすることによって、陽性血清対照を調製し、室温で2時間平衡化し、-20℃でアリコートの形で凍結させた。各々の動物からの投薬前血清標本を、陰性血清対照として使用した。
ImmulonTM2平板(DYNEX(商標) Technologies, Inc.)を一晩2〜8℃で、PBS中1.0μg/mlの100μl/ウェルのマウス抗-OST577-IgG1イディオタイプモノクローナル抗体(OST577-γ1 抗-id, Protein Design LabsTM, Inc)でコーティングした。翌日、平板を300μl/ウェルのPBS/Tween(リン酸緩衝生理食塩水、0.1% Tween20)で3回洗浄し、ペーパータオル上で叩いて乾燥させ、室温で60±5分間、PBS中の300μl/ウェルのSuper Block(商標) Blocking Bufferで遮断した。較正物質、陽性及び陰性血清対照及び血清標本を解凍し、使用前に室温にした。較正物質、及び正及び陰性血清対照を、PBS中のSuper Block(商標) Blocking Buffer中で1:10の割合で希釈した。
血清標本をPNRS中で適切に予備希釈させ(1:10〜1:80)、次にPBS中のSuper Block Buffer内で1:10で希釈した。平板を300μl/ウェルのPBS/Tweenで3回洗浄し、ペーパータオル上で叩いて乾燥させた。希釈した較正物質、正及び陰性血清対照及び血清標本を次に、デュプリケートウェル内に100μl/ウェルで添加し、室温で60±5分間インキュベートした。平板を3回300μl/ウェルのPBS/Tweenで洗浄し、ペーパータオル上で叩いて乾燥させた。PBS/BSA/Tween(リン酸緩衝生理食塩水、0.5%のウシ血清アルブミン、0.1%のTween20)中の1:1000希釈によりヤギ抗ヒトラムダ軽鎖HRP接合抗体(Southern Biotechnology Associates, Inc.)を調製し、100μl/ウェルで添加し、室温で60±5分間インキュベートさせた。
平板を、PBS/Tween300μl/ウェルで3回洗浄し、ペーパータオル上で叩いて乾燥させた。100μl/ウェルの割合でABTSペルオキシダーゼ基板/ペルオキシダーゼ溶液B(Kirkegaard & Perry Laboratories)を添加し、7±1分間インキュベートした。100μl/ウェルの割合でSubstrate Stop Solution(2%のシュウ酸)を添加することにより進行を止めた。415nmでの吸収度の値を、VERSA maxTMマイクロタイタープレート読取り装置(Molecular Devices Corporation(商標))を用いて、Substrate Stop Solutionを添加してから30分以内に測定した。
較正曲線は、較正物質から得た平均吸収度値を用い、SOFTmax(商標)PRO、バージョン4.0(Molecular Devices Corporation(商標))で41パラメータロジスティック回帰曲線にデータを当てはめることによって作成された。陰性血清対照についての平均吸収度値(すなわち各々の動物についての投薬前標本平均)を、較正物質について得られた各々の吸収度値から差し引いた。陽性血清対照について得た各々の吸収度値から陰性血清対照について得た平均吸収度値を差し引いた後、陽性血清対照濃度を決定した。結果として得た平均吸収度値に対応する濃度を、較正曲線からの内挿により導出した。血清標本の濃度は、各標本の吸収度値から陰性血清対照の平均吸収度値を差し引き、結果として得られた吸収度値を平均し、較正曲線からの内挿により平均吸収度に対応する濃度を導出し、該当する場合予備希釈係数を結果として得られた濃度に乗じて各標本についての最終的濃度に到達することによって決定された。
検定の推定された定量範囲は、0.10〜0.90μg/mlであった。検定は、(1)定量的範囲内の3つの較正物質全ての平均逆算濃度は、その公称値の20%の範囲であったこと及び(2)6つの陽性血清対照のうちの4つの平均計算結果がその公称値の30%以内にあり、各濃度レベルからの少なくとも1つの平均結果がその公称値の30%以内にあったことという2つの条件が満たされた時点で適切とみなされた。以上の基準を満たさなかった平板からのデータは拒絶された。個々の血清標本からのデータは、(1)デュプリケートウェル内の吸収度値が互いに40%を上回る差異を呈していたこと、(2)平均計算濃度が検定の定量化下限(LLQQ)(0.10μg/ml)より低いものであったこと;(3)平均計算濃度が検定の定量化上限(ULOQ)(0.90μg/ml)より高いものであったこと、という3つの条件のうちのいずれかが満たされた場合に拒絶された。
結果:
血清抗体濃度データはWinNonlin(商標) Enterprise Edition, バージョン3.2(Pharsight(商標) Corporation, Mountain View, CA)を用いて、2区画モデルと適合させられた。このモデルは、第1次分配及び第1次除去速度を仮定し、データをうまく適合させる。モデリングされたデータ(一次薬物動態パラメータの各グループの幾何平均に基づいてシミュレートされたもの)ならびに観察された平均血清抗体濃度(μg/ml)及び4匹の動物の各グループについての標準偏差を、GraphPad Prism(商標), バージョン3.02(GraphPadTM Software, Inc.)を用いて時間(輸液後の日数)の関数としてプロットした。図19に示されているように、データは、OST577-IgG2M3のM428L及びT250Q/M428L変異体の平均血清抗体濃度が全ての時点で野生型OST577-IgG2M3より高いレベルで維持されたことを表わしている。
WinNonlin(商標) Enterprise Edition, バージョン3.2(Pharsight(商標) Corporation)を用いたデータから、さまざまな薬物動態パラメータが計算された。(GraphPad Prism(商標) バージョン3.02(GraphPadTM Software, Inc.)を用いて、薬物動態パラメータの統計的分析を計算した。表9に示されているように、平均最大血清抗体濃度(Cmax)は、3つのテストグループの間で非常に類似しており、投与された抗体が類似の要領で循環に分配されたことを表わしていた。かくして、分配段階の後の突然変異体 IgG2M3抗体のより高い抗体濃度は、血清中のその存続度の増大に原因がある。平均クリアランス(CL)の分析は、これがあてはまっていることを示した。
単位時間あたりにクリアランスされた血清抗体の量である平均CLは、野生型OST577-IgG2M3(0.144±0.047ml/時/kg)に比べて、M428L変異体については約1.8倍低く(0.0811±0.0384ml/hr/kg;p=0.057)、T250Q/M428L変異体については約2.8倍低い(0.0514±0.0075ml/時/kg;p=0.029)ものであり、野生型に比べ、アカゲザルの循環からのOST577-IgG2M3 M428L及びT250Q/M428L変異体のクリアランスが著しく低下していることを表わしていた(表9)。
OST577-IgG2M3変異体のPKプロフィールは、その他のパラメータで計算することによりさらに分析された(表9)。AUC(曲線下面積)はCLに反比例することから、時間ゼロから無限まで外挿された濃度-時間曲線の下の面積である平均AUCは、野生型OST577-IgG2M3(7,710±3,110時*μg/ml)に比べて、M428L変異体については約2倍高く(15,200±8,700時*μg/ml:p=0.057)、T250Q/M428L変異体については約2.6倍高い(19,800±2,900時*μg/ml:p=0.029)ものであり、野生型に比較してOST577-IgG2M3 M428L及びT250Q/M428L変異体の完全露呈が著しく増大していることを表わすことになる(表9)。
最後に、平均除去(β-相)半減期は、野生型OST577-IgG2M3(351±121時間)に比べて、M428L変異体については約1.8倍長く(642±205時間)、T250Q/M428L変異体については約1.9倍長い(652±28時間;p=0.029)ものであった(表9)。この研究における野生型OST577-IgG2M3についての除去半減期は、アカゲザルにおける以前のPK研究においてOST577-IgG1(324±85時間)のものに類似している(Ehrlich et al., 前掲書中)。
例10.
この例は、IgG1抗体の変異体に対する例9に記載されるインビトロ血清半減期アッセイの適用を記載する。
アカゲザル薬物動力学研究:
“OST577の2種の変異体の薬物動力学比較”と称する非GLP薬物動力学研究を、University of California, DavisでのCalifornia National Primate Research Center (CNPRC)で行った。8匹の雄のアカゲザルを、体重別にランダム化し、そして2種の研究の1つに割り当てた。個々の研究グループを包含する4匹の動物は、15分間にわたって投与される1mg/kgでの野生型又は変異体OST577の単一静脈内用量を、それぞれ受けた。OST577抗体は、野生型0ST577−IgG1、及び二重突然変異T250Q/M428Lを含むOST577−IgG1の変異体であった。両抗体を、Sp2/0のトランスフェクションにより発現し、そして例5に記載のようにして精製した。
血液サンプルを、0日目、投与の前、投与の後、1及び4時間で、及び1、7、14、21、28、 42及び56日で採取した。個々の時点で、4mlの血液を、伏在静脈から採取し、血清を調製し、そして2つのアリコートを凍結し、そして使用まで、−20℃で維持した。血清化学及び血液学的決定のために、血液サンプルを、0日目、投与の前、及び56日目の研究の終結で採取した。
ELISA:
アカゲザル血清サンプルにおけるOST577−IgG1抗体の濃度を、確証されたアッセイを用いて、ELISAにより決定した。プールされた正常なアカゲザル血清(PNRS)を、CNPRCから入手した。PNRSのサンプルロットを、キャリブレーター、正及び負の対照を調製するために、及びアカゲザル血清サンプルの予備−希釈のために使用した。キャリブレーターを、3200、1600、800、400、200、100、50、25及び0ng/mlでのPNRSへのOST577−IgG1の標準希釈により調製し、室温で2時間、平衡化し、そして−80℃でアリコートにおいて凍結した。正の血清対照を、低い正の血清対照について0.2μg/mlで、中位の正の血清対照について0.4μg/mlで、及び高い正の血清対照について0.8μg/mlでのOST577−IgG1によりPNRSをスパイキングすることにより調製し、室温で2時間、平衡化し、そして−80℃でアリコートにおいて凍結した。PNRSを、負の血清対照として使用した。
ImmulonTM 2プレート(DYNEX(商標)Technologies, Inc.)を、PBS中、1.0μg/mlで、100μl/ウェルのマウス抗−OST577−IgG1インディオタイプモノクローナル抗体(OST577−γ1抗−id, Protein Design LabsTM, Inc.)により2−8℃で一晩、被覆した。次の日、プレートを、300μl/ウェルのPBS/Tween(リン酸緩衝溶液、0.1%Tween20)により3度、洗浄し、ペーパータオル上で軽くたたいて乾燥し、そして室温で60±5分間、PBS中、300μl/ウェルのSuperBlock(商標)Blocking Buffer (Pierce Chemical Company)により阻止した。キャリブレーター、正及び負の血清対照、及び血清サンプルを、融解し、そして使用の前、室温に戻した。
キャリブレーター、及び正及び負の血清対照を、PBS中、SupeBlock(商標)Blocking Bufferにより1:10に希釈した。血清サンプルを、PNRSによりおおまかに予備希釈し(1:5〜1:80)、次にPBS中、SuperBlock(商標)Blocking Bufferにより1:10に希釈した。プレートを、300μl/ウェルのPBS/Tweenにより3度、洗浄し、そしてペーパータオル上で軽くたたいて乾燥した。次に、希釈されたキャリブレーター、正及び負の血清対照、及び血清サンプルを、2つのウェルに100μl/ウェルで添加し、そして室温で60±5分間インキュベートした。プレートを、300μl/ウェルのPBS/Tweenにより3度、洗浄し、そしてペーパータオル上で軽くたたいて乾燥した。ヤギ抗−ヒトλ軽鎖HRP−接合抗体(Southern Biotechnology Associates, Inc.)を、PBS/BSA/Tween(リン酸緩衝溶液、0.5%ウシ血清アルブミン、0.1%Tween20)により1:1000に希釈することにより調製し、100μl/ウェルで添加し、そして室温で60±5分間インキュベートした。
プレートを、300μl/ウェルのPBS/Tweenにより3度、洗浄し、そしてペーパータオル上で軽くたたいて乾燥した。ABTSペルオキシダーゼ基質/ペルオキシダーゼ溶液B(Kirkegaard & Perry Laboratories)を、100μl/ウェルで添加し、そして7±1分間インキュベートした。進行を、100μl/ウェルでの基質停止溶液(2%シュウ酸)の添加により停止した。415nmでの吸光度値を、基質停止溶液の添加の後30分以内に、VERSAmaxTM マイクロタイタープレートリーダー(Molecular Devices Corporation(商標))を用いて測定した。
検量線を、キャリブレーターから得られる平均吸光度値を用い、そしてSOFTmax(商標)PRO, バージョン4.0(Molecular Devices Corporation(商標))を用いての4種のパラメーターのロジスティック回帰曲線にデータを適合することにより調製した。0.0ng/mlのカリブレーターについての平均吸光度値を、残存するカリブレーターについて得られた個々の吸光度値から控除した。正の血清対照濃度を、正の血清対照について得られ個々の吸光度値から、負の血清対照について得られた平均吸光度値を控除した後に決定した。得られる平均吸光度値に対応する濃度は、検量線からの内挿により得られる。血清サンプルの濃度を、個々の研究サンプルの吸光度値から適切な予備用量サンプルの平均吸光度値を控除し、その得られる吸光度値を平均し、検量線からの内挿により平均吸光度値に対応する濃度を誘導し、そして個々のサンプルについて最終濃度に達するよう、予備希釈因子によりその得られる濃度を掛け算することにより決定した。
アッセイの推定される定量範囲は、0.10−0.90μg/mlであった。アッセイは、次の2種の条件が適合する場合、適切であると思われた:(1)定量範囲におけるすべての4種のキャリブレーターの平均逆算出された濃度がそれらの呼称値の20%以内であり;そして(2)6種の正の血清対照のうち4種の計算された平均結果がそれらの呼称値の30%以内であり、そして個々の濃度レベルからの少なくとも1つの平均結果が呼称値の30%以内である。
上記の基準を満たさなかったプレートからのデータは、拒絶された。個々の血清サンプルからのデータは、次の条件のいずれかが適合する場合、拒絶された:(1)計算された平均濃度が、アッセイの定量下限(LLOQ)(0.10μg/ml)以下であるか;又は(2)計算された平均濃度がアッセイの定量上限(ULOQ)(0.90μg/ml)以上である。二重サンプルの計算された結果がお互い40%以上異なった場合、サンプルは、第2の独立したアッセイにおいて再試験された。その第2アッセイの計算された平均結果が問題のサンプルについての第1のアッセイの計算された平均結果の15%以内である場合、第1のアッセイの計算された平均結果が使用された。他方では、サンプルは、第3の独立したアッセイにより再試験され、そして1つの値がアウトライアー試験により除かれない場合、すべての3種のアッセイの結果が平均された。この場合、2種の残る値の平均が報告された。
結果:
血清抗体濃度データを、WinNonlin Enterprise Edition, バージョン3.2(Pharsight(商標)Corporation, Mountain View, CA)を用いて、2区画モデルに適合せしめた。前記モデアルは、一次分配及び一次除去速度を仮定し、そして前記データをうまく適合させる。モデリングされたデータ(個々のグループの一次薬物動力学パラメーターのメジアン値に基づいてシミュレートされた)、並びに観察された平均血清抗体濃度(μg/ml)及び4匹の動物の個々のグループについての標準偏差を、GraphPad Prism(商標)バージョン3.02 (GraphPad Software, Inc. )を用いて、時間(輸液後の日数)の関数としてプロットした。図20に示されるように、データは、OST577−IgG1のT250Q/M428L変異体の平均血清抗体濃度がすべての時点で野生型OST577−IgG1より高いレベルで維持されたことを示している。
種々の薬物動力学パラメーターを、WinNonlin(商標)Enterprise Edition, バージョン 3.2(Pharsighte(商標)Corporation)を用いたデータから計算した。薬物動力学パラメーターの統計的分析を、GraphPad Prism(商標), バージョン 3.02 (GraphPadTM Software, Inc. )を用いて計算した。表10に示されるように、Cmaxは両試験グループ間で非常に類似し、このことは、投与された抗体が類似する態様で循環に分配されたことを示す。従って、分配段階に続く変異体IgG1抗体のより高い抗体濃度は、血清中のその高められた存続度に原因がある。平均CLの分析は、これがあてはまっていることを示した。平均CLは、野生型OST577−IgG1(0.190±0.022ml/時/kg)に比較して、T250Q/M428L変異体(0.0811±0.0191ml/時/kg;p=0.029)について約2.3倍低く(表10)、このことは、野生型に比較して、アカゲザルの循環からのOST577−IgG1 T250Q/M428L変異体のクリアランスの著しい低下を示す。
OST577−IgG1変異体のPKプロフィールを、他のパラメーターを計算することにより、さらに分析した(表10)。平均AUCは、野生型OST577−IgG1(5,320±590時*μ/ml)に比較して、T250Q/M428L変異体(12,900±3,000時*μg/ml; p=0.029)について約2.4倍高く(表10)、このことは、野生型に比較して、OST577−TgG1 T250Q/M428L変異体の完全露呈の著しい増大を示す。
最終的に、平均除去(β−相)半減期は、野生型OST577−IgG1(336±34時間)に比較して、T250Q/M428L変異体(838±187時間;p=0.029)について約2.5倍長かった(表10)。この研究における野生型OST577−IgG1についての除去半減期は、アカゲザルにおける以前のPK研究におけるOST577−IgG1(324±85時間)についての半減期に類似する(Ehrlich et al., 前掲書中)。
例11.
この例は、IgG3及びIgG4抗体の変異体に対する例6及び7に記載される種々の結合分析の適用について記載する。
突然変異誘発:
オーバーラップ−延長PCR方法(Higuchi, 前掲)を用いて、Hu1D10−IgG3重鎖の位置428、又はHu1D10−IgG4重鎖の位置250及び428での特定の部位のアミノ酸置換を生成した(Kabat et al., 前掲のEU指標に従って番号付けされた)。M428L変異体を、Hu1D10−IgG3重鎖において生成した。M428L及びT250QM428L変体の両者を、Hu1D10−IgG4重鎖において生成した。
トランスフェクション:
例1及び2に詳細に記載される、野生型又は変異体Hu1D10−IgG3又はHu1D10−IgG4重鎖発現ベクターを、pVk−Hu1D10軽鎖発現ベクターと共に、ヒト腎臓細胞系293−H(Life Technologies(商標))中に一時的に同時トランスフェクトした。Hu1D10−IgG3又はHu1D10−IgG4発現ベクターもまた、例5に記載のようにして、pVk−Hu1D10発現ベクターと共にSp2/0細胞中に安定して同時トランスフェクトした。Sp2/0における安定したトランスフェクションに関しては、IgG3発現ベクターを、FspIにより線状化し;しかしながら、IgG4発現ベクターは、pHuHC.g4.It.D-Hu1D10に2個のFspI部位が存在するので、Bstz171により線状化した。
抗体精製:
ヒトIgG4抗体を含む培養上清液を、例5に記載のようにして、ELISAにより定量化し、遠心分離により収穫し、無菌濾過し、そしてプロテインA親和性クロマトグラフィーにより精製した。
ヒトIgG3抗体を含む培養上清液を、例5に記載のようにして、ELISAにより定量化し、遠心分離により収穫し、そして無菌濾過した。濾過された上清液のpHを、1/75体積の1Mのトリス−HCl(pH8.0)の添加により調節した。上清液を、20mMのリン酸ナトリウム(pH7.0)により予備−平衡化された、1mlのHiTrapW(商標)Protein G HP カラム (Amersham Biosciences Corporation)上で試験した。カラムを、同じ緩衝液により洗浄し、そして結合された抗体を、100mMのグリシン−HCl(pH2.7)により溶出した。約1/50体積の1Mのトリス−HCl(pH8.0)の添加による中和の後、プールされたタンパク質画分を、20mMのクエン酸ナトリウム、120mMのNaCl(pH6.0)において一晩、透析するか、又は20mMのクエン酸ナトリウム120mMのNaCl(pH6.0)により予備−平衡化された、5mlのHiTrap(商標)Desalting カラム (Amersham Biosciences Corporation)上で試験した。
脱塩カラムを通しての流れを集め、そしてOD280>1の画分をプールし、そして2mlのVivaspin(商標)濃縮機(50,000ドルトンMWCO)(Vivascience(商標)AG)を用いて、約0.5−1.0mg/mlに濃縮した。透析された材料を、同じ態様で濃縮した。次に、サンプルを、0.2μmのMillex(商標)-GV microfilters(Milliporee Corporation)を用いて濾過殺菌した。精製された抗体の濃度を、280nmでの吸光度(1mgl/ml=1.4A280)を測定することにより、UV分光法により決定した。
SDS−PAGE:
精製された抗体のサンプル5μgを、例5に記載のようにして、還元又は非−還元条件下で試験した。
競争結合アッセイ:
例6に記載のようにして、表面上で組換えGPI−結合のヒト又はアカゲザルFcRnを発現するNSO形質転換体を、ミコフェノール酸(MPA)選択培地(DMEM, 10% FBS, lx HT 培地 補充 Hybri-Maxo(商標)(Sigma(商標)), 250 μg/ml キサンチン (Sigma(商標))、 1μg/mlの ミコフェノール酸(Life Technologies(商標)), 及び 2 mM のL-グルタミン)、又は2×MPA選択培地において維持した。
個々の精製されたHU1D10−1gG3抗体の一連の希釈溶液を、ビオチンにより(Pierce Biotechnology, Inc., Rockford, IL)によりラベルされたヒトIgG(Sigma-Aldrich、St. Louis, MO)に対して競争せしめた。抗体を、細胞系NS0 HuFcRn(memb)、すなわちクローン7−3上のヒトFcRn、及び細胞系NS0 RhFcRn、すなわちクローンR-3上のアカゲザルFcRnに対する結合について試験した。試験当たり約2×105個の細胞を、FBB(pH8.0)により1度、及びFBB(pH6.0)により1度、洗浄し、次にFBB(pH6.0)中、120μlの予備−混合された、ビオチニル化されたヒトIgG抗体(8.3μg/ml)及びHu1D10−IgG3競争抗体(625μg/mlから0.305μg/mlまでの2倍の一連の希釈)に再懸濁した。
細胞を、氷上で1時間、抗体混合物と共にインキュベートし、FBB(pH6.0)により2度、洗浄し、そしてFBB(pH6.0)において2.5μg/mlに希釈されたストレプタビジン−RPE接合体(BioSource International)25μlに再懸濁した。暗室において氷上で30分間インキュベートした後、細胞を、FBB(pH6.0)により2度、洗浄し、そして1%ホルムアルデヒドに再懸濁した。サンプルを、FACSCalibur流動細胞計測法(BD(商標)Biosciences)を用いてのFACSTMにより、FcRnに結合する抗体について分析した。
個々の精製されたHu1D10−IgG4抗体の一連の希釈溶液を、ビオチン(Pierce Biotechnology, Inc.)によりラベルされたヒトIgG(Sigma−Aldrich)に対して競争せしめた。IgG4抗体を、細胞系NS0 HuFcRn (memb)、すなわちクローン7−3上のFcRn、及び細胞系NS0 RhFcRn, すなわちクローンR-3上のアカゲザルFcRnへの結合について、IgG3抗体について上記のようにして試験した。
Ph−依存性結合及び放出アッセイ:
精製されたHu1D10−IgG3及びHu1D10−IgG4変異体抗体を、ヒト又はアカゲザルFcRnへの結合について、それぞれの野生型抗体に比較し、そして次に、例7に記載のようにして、細胞系NS0 HuFcRn (memb)、すなわちクローン7−3、及びNS0 RhFcRn、すなわちクローンR−3を用いての単一点結合及び放出アッセイにおいて種々のpH値で放出した。両サブタイプのIgG3及びIgG4が同等にラベルされたことを確めるために、適切なpHのFBBにおいて1.25μg/mlに希釈された、25μlのヤギF(ab’)2抗−ヒトκFTTC−接合抗体(Southern Biotechnology Associates, Inc.)を、検出試薬として使用した。
結果:
アミノ酸置換を、ヒトγ3重鎖の位置428で、及びヒトγ4重鎖の位置250及び428で生ぜしめた(Kabat, et al., 前掲のEU指標に従って番号付けられた)。それらの2つの位置は、FcRnへの高められた結合をもたらしたヒトγ2M3重鎖におけるそれらの位置での突然変異の同定に基づいて選択された。M428L変異体は、ヒトγ3重鎖において評価された。M428L変異体及びT250Q/M428L変異体の両者を、ヒトγ4重鎖において評価した。
IgG3及びIgG4Fc変異体は、それぞれ、Hu1D10(Kostelny et al. (2001)、前掲)の軽鎖及び重鎖可変領域、ヒトκ(Hieter et al. (1980)、前掲)の軽鎖定常領域、及びヒトIgG3(Huck et al., 前掲)及びIgG4(Ellison et al., 前掲)の重鎖定常領域を含んで成る抗−HLA−DRβ鎖対立遺伝子抗体として発現された。上記のように、適切な野生型又は変異体重鎖発現ベクターを、Hu1D10モノクローナル抗体の発現のために、適切な軽鎖発現ベクターと共に293−H細胞中に一時的に同時−トランスフェクトした。
一時的にトランスフェクションの後5〜7日で収穫された培養上清液のELISA分析は、抗体発現レベルが典型的には、25mlの上清液中、5−25μg/mlであったことを示した。Hu1D10−IgG3及びHu1D10−IgG4抗体を、約100−500μgの最終収量のために、それぞれプロテインG及びAを用いて親和性クロマトグラフィーにより精製した。Sp2/0細胞におけるHu1D10抗体の安定した発現は典型的には、ELISAにより決定される場合、30−100μg/mlの発現レベルをもたらした。培養上清液に存在する約50−80%の抗体の収率が、小規模プロテインG又はA親和性クロマトグラフィーにより得られた。
精製された抗体を、非還元及び還元条件下でSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)により特徴づけた。非還元条件下でのSDS−PAGE分析は、精製された抗体が約150−170kDa分子量を有したことを示し(データは示されていない);還元条件下での分析は、精製された抗体が約50−60kDの分子量を有する重鎖及び約25kDの分子量を有する軽鎖から構成されることを示した(データは示されていない)。安定したSp2/0トランスフェクタントから精製された抗体のSDS−PAGE分析は、一時的な293−Hトランスフェクションから精製された抗体により観察される結果に類似する結果を与えた。
FcRnに対する野生型Hu1D10−IgG3及びHu1D10−IgG4抗体、及びそれらの種類の変異体の相対的結合を、その表面上でヒトFcRnを安定して発現する、トランスフェクトされたNSO細胞系を用いて決定した。上記のようにして、精製された抗体を、競争結合アッセイにおいて、FcRnの結合について試験した。上昇する濃度のラベルされていない競争抗体を、FBB(pH6.0)中、亜飽和濃度のビオチニル化されたヒトIgG抗体(Sigma−Aldrich)の存在下で細胞と共にインキュベートした。
ヒトFcRnへのHu1D10−IgG3野生型及びM428L変異体の結合を、競争結合実験において試験した。表11に要約されるように、野生型Hu1D10−IgG3抗体についてのIC50は約15μg/mlであり、そしてM428L単一変異体についてIC50 は約2μg/mlである。ヒトFcRnへのHu1D10−IgG4及びその変異体の結合をまた、競争結合実験において試験した。表12に要約されるように、野生型Hu1D10−IgG抗体についてのIC50は約76μg/mlであり、そしてM428M単一変異体についてのIC50は約5μg/mlであり、そしてT250Q/M428L二重変異体についてのIC50は約1μg/mlである。
アカゲザルFcRnへのHu1D10−IgG3野生型及びM428L変異体の結合を、競争結合実験において試験した。表13に要約されるように、野生型Hu1D10−IgG3抗体についてのIC50は約14μg/mlであり、そしてM428L単一変異体についてIC50 は約3μg/mlである。アカゲザルFcRnへのHu1D10−IgG4及びその変異体の結合をまた、競争結合実験において試験した。表14に要約されるように、野生型Hu1D10−IgG抗体についてのIC50は約98μg/mlであり、そしてM428M単一変異体についてのIC50は約7μg/mlであり、そしてT250Q/M428L二重変異体についてのIC50は約1μg/mlである。
FcRnへのIgGの結合はpH−依存性であることが知られており;IgGはpH6.0でFcRnに強く結合するが、しかしpH8.0では弱く結合する。より長い血清半減期を有する変異体抗体を構築するためには、pH8.0でFcRnからのpH−依存性放出を保持しながら、pH6.0でFcRnへの結合を高めることが所望される。結合がpH−依存性であることを確めるために、抗体を、ヒトFcRnを安定して発現する、トランスフェクトされたNSO細胞系への結合について試験し、そして6.0〜8.0の範囲のpH値で放出した。上記のように、細胞を、FBB(pH6.0)中、亜飽和濃度の抗体と共にインキュベートし、pH6.0, 6.5, 7.0, 7.5又は8.0でのFBBにより洗浄し、そして結合をFACSTMにより分析した。
図21Aに示されるように、その結果は、M428L突然変異を有する、修飾されたHu1D10−IgG3抗体が、pH6.0でヒトFcRnへの強い結合を示し、そしてpH値がpH8.0に高められるにつれて、結合が低下することを示した。図21Bに示されるように、その結果は、M428L又はT250Q/M428L突然変異を有する、修飾されたHu1D10−IgG4抗体がpH6.0でヒトFcRnへの強い結合を示し、そしてpH値がpH8.0に上昇するにつれて、結合が低下することを示した。それらの結果は、ヒトFcRnへのIgG3及びIgG4抗体の結合がpH−依存性であったことを示した。
同様に、抗体を、アカゲザルFcRnを安定して発現する、トランスフェクトされたNSO細胞系への結合について試験し、そして次に、6.0〜8.0の範囲のpH値で放出した。図21Cに示されるように、その結果は、M428Lを有する、修飾されたHu1D10−IgG3抗体がpH6.0でアカゲザルFcRnへの強い結合を示し、そしてpH値がpH8.0に高まるにつれて、結合が低下することを示した。図21Dに示されるように、その結果は、H428L又はT250Q/M428L突然変異を有する、修飾されたHu1D10−IgG4抗体がpH6.0でアカゲザルFcRnに対して強い結合を示し、そしてpH値がpH8.0に上昇するにつれて、結合が低下したことを示した。それらの結果は、アカゲザルにFcRnへの抗体の結合がまた、pH−依存性であったことを示した。
例12.
この例は、IgG3及びIgG4抗体の変異体への例9及び10に記載されるインビトロ及びインビボ血清半減期の適用を記載する。
例9及び10に記載されるような“アカゲザル薬物動力学的研究”のプロトコールを、IgG3及びIgG4の変異体に対して行い、インビボ血清半減期及び種々の薬物動力学的パラメーターに対する突然変異の効果を確認した。
例13.
この例は、改良された患者処理規則を可能にするために、良く知られている治療抗体のFcRn結合変異体を企画し、そして生成し、それにより、個々の血清半減期を延長すること(又は縮小すること)を記載する。
ダクリズマブ:
ダクリズマブは、多くの自己免疫及び炎症疾患症状、例えば喘息、糖尿病、ブドウ膜炎、多発性硬化症、リウマチ様関節炎及び潰瘍性大腸炎のために臨床学的に開発されている、ヒト適合された抗−CD25モノクローナル抗体である。ダクリズマブは、移植適応症のみのために、商標Zenapax(商標)として現在市販されている。
ダクリズマブについての軽鎖及び重鎖可変領域のアミノ酸配列は、引用により本明細書に組込まれるアメリカ特許第5,530,101号に開示されている。
その現在の臨床学的態様におけるダクリズマブは、IgG1イソタイプ抗体であるが、しかしながら、類似する治療特徴を示す、ダクリズマブのIgG2M3イソタイプバージョンが、生成され得る。
ダクリズマブの血清半減期を高めるために、その定常領域アミノ酸配列を、上記FcRn結合突然変異のいずれかにより修飾した。例えば、T250Q/M428L突然変異を、上記例1−4に記載されるベクター企画及び突然変異誘発についての方法を用いて、ダクリズマブにおいて生成することができる。T250Q/M428Lダクリズマブの配列は、図22(配列番号122)に示される。
T250Q/M428Lダクリズマブの高められた血清半減期を、例5−7に記載されるインビトロ結合アッセイ方法を用いて、又は例9−10に記載されるインビボアッセイ方法を用いて決定することができる。
T250Q/M428Lダクリズマブは、投与の高められた頻度及び量の利点を、変更されていないダクリズマブの治療効果に提供することであろうことが予測される。
図22(配列番号119−123)に示されるように、ダクリズマブ(IgG1イソタイプ)定常領域配列における他のFcRn結合突然変異をまた、上記例1−3の方法に従って生成することができる。それらの変異体はまた、上記OST577及びHu1D10抗体例の効果に基づいて、所望されるようなダクリズマブの血清半減期に影響を及ぼすであろうことが予測される。
同様に、図22(配列番号124−128)に示されるような、ダクリズマブ定常領域配列のIgG2M3バージョンにおけるFcRn結合突然変異をまた、上記例1−4の方法に従って生成することができる。
フォントリズマブ:
フォントリズマブはHuZAFTMとしても知られている、IgG1イソタイプのヒト適合された抗−インターフェロン−γ(IFN−γ)モノクローナル抗体である。フォントリズマブは、現在、クローン病のための治療処理剤として臨床学的に開発されている。フォントリズマブの可変領域は、引用により本明細書に組込まれるアメリカ特許第6,329,511号に開示される。ダクリズマブについて上記に記載されるように、フォントリズマブの血清半減期はまた、上記例1−4に記載される方法を用いて、図23(配列番号130−134)に示されるようなその定常領域配列を突然変異誘発することにより変更され得る。
ビシリズマブ:
ビシリズマブは、Nuvion(商標)としても知られている、IgG2イソタイプのヒト適合された抗−CD3モノクローナル抗体である。ビシリズマブは、すべての成熟T細胞上で抗原−受容体複合体を形成するCD3分子を標的化する。ビシリズマブは現在、ステロイド抗療性潰瘍性大腸炎の処理剤として臨床学的に開発されている。ダクリズマブ及びフォントリズマブについて上記に記載されるように、ビシリズマブの血清半減期はまた、上記例1−4に記載される方法を用いて、図24(配列番号136−140)に示されるようなその定常領域配列を突然変異誘発することにより変更され得る。
M200:
M200は、種々の増殖性障害に向けられる脈管形成インヒビター治療剤として現在、開発されているα5β1インテグリンに対して向けられたキメラIgG4抗体である。ダクリズマブ、フォントリズマブ及びビシリズマブについて上記に記載されるように、M200の血清半減期はまた、上記例1−3に記載される方法を用いて、図25(配列番号142−146)に示されるようなその定常領域配列を突然変異誘発することにより変更され得る。
本発明は、現在好まれる実施形態を基準にして記載されてきたが、本発明の範囲内で種々の修飾を行うことができることを理解すべきである。
全ての刊行物、特許、特許出願及びウェブサイトは、あたかも各々の個々の刊行物、特許、特許出願及びウェブサイトが特異的及び個別にその全体が参考として内含されているのと同じレベルで、その全体が参考として本明細書に内含されるものである。