この発明における動力伝達装置の概念を説明すると、車両の動力源から車輪に至る経路に配置される。ここで、動力源としては、熱エネルギを運動エネルギに変換する動力装置である内燃機関を用いることが可能である。さらに、内燃機関としては、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、LPGエンジン、メタノールエンジンなどを用いることができる。また動力源としては電動機を用いることも可能である。電動機は電気エネルギを運動エネルギに変換する動力装置である。また、電動機は直流電動機または交流電動機のいずれでもよい。また、電動機としては、発電機能を兼備した発電・電動機を用いることも可能である。さらには、内燃機関および電動機の両方を動力源として用いるハイブリッド車の変速機にも適用できる。さらにまた、動力源として、油圧モータ、フライホイールシステムを有する車両にも、この発明を適用可能である。すなわち、動力の発生原理が異なる複数種類の動力源を有するハイブリッド車にも、この発明を適用可能である。
さらに、この発明において、第1の回転部材および第2の回転部材は、動力源のトルクを車輪に伝達する場合に回転する要素であり、各回転部材は、中空軸、中実軸、ギヤ、回転メンバ、コネクティングドラム、遊星歯車機構のキャリヤなどで構成することが可能である。また、第1の回転部材および第2の回転部材の軸線が、車両の前後方向または車両の幅方向のいずれの向きで配置されていてもよい。この発明は、動力源のトルクが、前輪または後輪のいずれに伝達される構成の二輪駆動車にも適用可能である。また、この発明は、動力源のトルクが、動力分配装置(トランスファ)により、前輪および後輪に分配される構成の四輪駆動車にも適用可能である。さらにまた、この発明において、第1の回転部材および第2の回転部材は、動力の伝達方向で直列に配置されている。
また、この発明において動作部材としては、第1の回転部材および第2の回転部材の軸線を中心として半径方向に動作する構成、または、第1の回転部材および第2の回転部材の軸線方向に動作する構成のいずれであってもよい。動作部材が軸線を中心として半径方向に動作する構成である場合においては、カム面は軸線を中心として全周に亘って形成され、かつ、半径方向に変位される。例えば、半径方向の凹部と凸部とを交互に配置して波形のカム面を形成することが可能である。また、カム面として、軸線に対して偏心された略円形のカム面を構成することもできる。さらに、長軸と短軸との交点を軸線が通過する構成のカム面を採用することも可能である。これに対して、動作部材が軸線方向に動作する構成である場合においては、カム面は軸線を中心として全周に亘って形成され、かつ、軸方向に変位される。例えば、軸方向の凹部と凸部とを交互に配置してカム面を形成することが可能である。また、動作部材が軸線方向に動作する構成である場合は、軸線に対して非直角に構成された平坦なカム面を構成することも可能である。
さらに、動作部材が軸線方向または半径方向のいずれの方向に動作する場合においても、動作部材を、ピストンおよび転動体により構成することができる。なお、複数のストローク領域では、第1の回転部材と第2の回転部材との相対回転により生じる動作部材の動作量が一定である構成、または変更可能な構成のいずれでもよい。さらに、動作部材の動作位置の変化量と、荷重の変化特性との関係には、変化割合、変化率、変化勾配などが含まれる。また、ストローク領域を変更する場合、または、同じストローク領域で動作部材の動作量を変更する場合、カム面の変位方向とは異なる方向(例えば直交する方向)に、カム面と動作部材とを相対移動させる動作量変更機構を用いることが可能である。この場合、カム面または動作部材の少なくとも一方を、動作量変更機構により動作させる。この動作量変更機構の一部を構成するアクチュエータとして、油圧制御式または電磁制御式のアクチュエータを用いることができる。
また、動力源から車輪に至る経路に変速機が設けられている場合において、動力源から変速機に至る経路に、この発明の動力伝達装置を設ける構成、変速機から車輪に至る経路に、この発明の動力伝達装置を設ける構成のいずれを採用してもよい。さらに、動力源の動力が第1の回転部材を経由して第2の回転部材に伝達される構成である場合、カム面を第2の回転部材に設け、かつ、動作部材を第1の回転部材に設けることが可能である。また、これとは逆に、カム面を第1の回転部材に設け、かつ、動作部材を第2の回転部材に設けることも可能である。
前記変速機は、入力回転数と出力回転数との比を変更可能な装置であり、変速機は、無段変速機または有段変速機のいずれであってもよい。無段変速機は、変速比を無段階に(連続的に)変更できる変速機であり、ベルト式無段変速機、トロイダル式無段変速機などを用いることが可能である。変速機として無段変速機が用いられている場合は、回転部材の回転方向を正逆に切り替える前後進切換装置を用いる。一方、有段変速機は、変速比を段階的に(不連続に)変更できる有段変速機であり、有段変速機としては、具体的には、遊星歯車式変速機、選択歯車式変速機などを用いることができる。遊星歯車式変速機は、遊星歯車機構およびクラッチやブレーキなどを有する公知の構造のものである。選択歯車式変速機には、摺動噛み合い式、常時噛み合い式、等速噛み合い式などの変速機が含まれる。さらに、これらの変速機の変速比を制御するためにアクチュエータが設けられる。このアクチュエータとしては、油圧制御式のアクチュエータまたは電磁式のアクチュエータを用いることが可能である。
さらにこの発明において、付勢機構とは、動作部材をカム面に押し付ける力を発生する機構であり、この付勢機構としては、金属材料により構成された弾性部材、すなわち、ばねを用いることができる。ばねとしては、圧縮コイルばね、皿ばねなどを用いることが可能である。さらに、アクチュエータとして油圧制御式のアクチュエータが用いられている場合は、油室から吐出されたオイルを油圧制御式のアクチュエータに供給することが可能である。また、油室から吐出されたオイルを、動力伝達装置の一部を構成する回転部材の冷却・潤滑に用いることも可能である。
つぎに、上記の概念で表される動力伝達装置の具体的な構成例を、図2に基づいて説明する。図2には、この発明の動力伝達装置を有する車両1のパワートレーンおよび制御系統の一例が、模式的に示されている。この図2に示すパワートレーンは、いわゆるフロントエンジン・フロントドライブ形式のパワートレーン(二輪駆動車)である。まず、原動機としてのエンジン2が設けられており、エンジントルクがダンパ機構3を経由してインプットシャフト4に伝達されるように構成されている。前記ダンパ機構3およびインプットシャフト4は、ケーシング(トランスアクスルケース)5内に配置されている。インプットシャフト4の軸線は、車両1の左右方向に配置されている。そして、インプットシャフト4のトルクが、オイルポンプ6および前後進切換装置7を経由して無段変速機8に伝達されるとともに、そのトルクが、伝動装置9および最終減速機10を経由して車輪11に伝達されるように構成されている。以下、オイルポンプ6の具体的な構成例を順次説明する。
前述したオイルポンプ6の具体的な構成例を、図1および図3に基づいて説明する。実施例1のオイルポンプは、請求項1ないし請求項4に対応する。この図1はオイルポンプ6の軸線方向における断面図であり、図3は軸線に直交する半径方向の断面図である。オイルポンプ6は、インプットシャフト4と、無段変速機8との間における伝達トルクを制御する機能を有している。また、前記ケーシング5であって、インプットシャフト4の軸線方向で前記エンジン2から最も離れた位置にはリヤカバー12が設けられており、リヤカバー12には、スリーブ13が固定されている。このスリーブ13は、インプットシャフト4と同軸上に配置されている。また、スリーブ13の内部にはホルダ14が設けられており、このホルダ14はリヤカバー12に固定されている。このホルダ14は円筒形状に構成されており、ホルダ14とインプットシャフト4とが同軸上に配置されている。さらに、インプットシャフト4の外側には、コネクティングドラム15が同軸上に配置されている。また、ケーシング5の内部には隔壁16が設けられており、リヤカバー12と隔壁16とにより取り囲まれた空間に、オイルポンプ6が配置されている。そして、隔壁16とコネクティングドラム15との間には軸受17が介在されており、軸受17によってコネクティングドラム15が回転自在に保持されている。
このコネクティングドラム15におけるリヤカバー12側の端部には、オイルポンプ6の一部を構成するアウターレース(カム部材)18が接続されている。アウターレース18はコネクティングドラム15と一体回転するように連結されている。また、アウターレース18は、円錐部19と円筒部20とを有しており、円筒部20がスリーブ13の外側に配置され、円筒部20とスリーブ13との間には軸受21が介在されている。また、円錐部19の内周には全周に亘ってカム面22が形成されている。このカム面22は、インプットシャフト4の軸線A1を中心として半径方向に変位された凹部23と凸部24とを交互に配置した波形形状を有している。凹部23は半径方向で外側に向けて窪んでおり、凸部24は半径方向で内向きに突出している。すなわち、凹部23が複数形成され、かつ、凸部24が複数形成されて、凹部23と凸部24とが円周方向で滑らかに連続するように接続されている。
また、カム面22であって凹部23の最も外側に相当する部分と軸線A1との距離が、軸方向で異なる値に設定されている。つまり、凹部23の最も外側に相当する部分の谷底23Aが、スリーブ13に近づくほど前記距離が短くなるようなテーパを有している。このテーパは、軸線A1との成す鋭角側の角度で表すことができる。言い換えれば、凹部23の谷底23Aに接する外接円(図示せず)と、凸部24の頂点24Aに接する内接円(図示せず)との半径差が、軸線方向で連続的に異なる値となっている。また、凸部24の頂点24Aと軸線A1との距離は、軸線方向で一定となるように構成されている。なお、図3の例では、凹部23が6箇所設けられ、かつ、凸部24が6箇所設けられているが、凹部23および凸部24の数は任意に設定可能である。
上記のように構成されたアウターレース18の内部空間にインナーレース(シリンダ部材)25が設けられており、このインナーレース25は2つの円筒部26,27を有しており、一方の円筒部27がインプットシャフト4の外側に配置され、インプットシャフトと円筒部27とが一体回転するように連結、具体的にはスプライン結合されている。また、インナーレース25はインプットシャフトに対して、軸方向に相対移動可能に構成されており、円筒部27とコネクティングドラム15との間には軸受28が介在されている。さらに、インナーレース25には軸部29が設けられており、軸部29は円筒部27の内部に、かつ、円筒部27と同軸上に形成されている。一方、インプットシャフト4の端部に望む凹部30が形成されており、軸部29が凹部30内に配置されている。そして、凹部30の内周面および端面と、軸部29の端面とにより取り囲まれた油圧室31が形成されており、インプットシャフト4には油圧室31に接続された油路32が設けられている。さらに、インナーレース25であって、軸線方向で軸部27と軸部27との間には円板形状のボス部33が形成されており、そのボス部33の外周には、円周方向に沿って複数のシリンダ34が形成されている。
各シリンダ34は、ボス部33の外周面に開口された略円筒形状の凹部であり、複数のシリンダ34が放射状に配置されている。また、各シリンダ34内にはピストン35が各々配置されており、ピストン35がシリンダ34内で、インナーレース25の半径方向に往復移動自在となる構成を有している。すなわち、オイルポンプ6は、いわゆるラジアルピストンポンプである。また、各ピストン35により転動体36が転動可能に保持されており、転動体36がカム面22に接触する。この転動体36はボール(球体)またはローラを用いることが可能である。転動体としてローラを用いる場合、その転動体の軸線A1方向の回転軸線を中心として回転可能に保持する。なお、ローラの形状は、円柱ではなく、軸線方向に沿って半径が連続的に変化するボビン形状のローラを用いる。なお、図1では転動体36としてボールを用いた場合が示されている。さらに図3においては、シリンダ34およびピストン35が円周方向に8個設けられているが、その数は任意に設定可能である。
一方、シリンダ34内の底面37と、ピストン35の底面38との間には油室39が形成されている。また、油室39内には複数個の圧縮コイルばね、この実施例では2個の圧縮コイルばね40,41が設けられており、2個の圧縮コイルばね40,41は、インナーレース25の半径方向に伸縮可能となる状態で、油室39内に配置されている。2個の圧縮コイルばね40,41は伸縮方向の高さが異なり、一方の圧縮コイルばね40は、転動体36がカム面23に接触している場合に、常時、底面37および底面38に接触し、かつ、転動体36をカム面22に向けて押圧する力を発生することの可能な高さを有している。言い換えれば、圧縮コイルばね41は、底面38と底面39との間の距離に関わりなく、底面37および底面38に接触する高さに構成されている。これに対して、他方の圧縮コイルばね41は、圧縮コイルばね40よりも高さが低く構成されている。具体的には、圧縮コイルばね41は、底面38と底面39との間の距離が短くなった場合に、底面37および底面38に接触し、転動体36をカム面22に向けて押圧する力を発生することの可能な高さを有している。図1の実施例では、圧縮コイルばね41の内径の方が圧縮コイルばね40の外径よりも大きく設定されており、圧縮コイルばね41の内側に圧縮コイルばね40が配置されている。ここで、圧縮コイルばね41のばね定数を、圧縮コイルばね40のばね定数よりも大きくすることも可能である。
前記インナーレース25には、油室39に接続された吸入油路42が設けられており、吸入油路42には逆止弁43が設けられている。一方、前記リヤカバー12には油路44が設けられており、この油路44は、後述する吸入制御弁に接続されている。さらに、ホルダ14にも油路45が設けられており、油路44と油路45とが接続されている。さらに、インナーレース25には、円筒部26からボス部33に亘って円柱形状の凹部25Aが形成されており、凹部25A内にホルダ14が挿入され、かつ、円筒部26がスリーブ13内に挿入されて、インナーレース25が、スリーブ13およびホルダ14に対して、軸線方向に移動可能に構成されている。そして、凹部25Aとホルダ14とにより油路25Bが形成されており、油路25Bが、吸入油路42および油路45に接続されている。そして、逆止弁43は、油路25Bのオイルが油室39に吸入されることを許容し、油室39のオイルが油路25Bに戻ることを防止する構成を有している。さらに、インナーレース25の円筒部26には吐出油路46が設けられており、吐出油路46には逆止弁47が設けられている。さらに、リヤカバー12には油路48が設けられており、その油路48が後述する吐出制御弁に接続されている。さらに、この油路48は吐出油路46に接続されている。そして、逆止弁47は、油室39のオイルが油路48に吐出されることを許容し、油路48のオイルが油室39に戻ることを防止する構成を有している。
つぎに、ケーシング5の内部に設けられた前後進切換装置7の構成について説明する。前後進切換装置7は、インプットシャフト4の軸線方向において、エンジン2とオイルポンプ6との間に配置されている。前後進切換装置7は、コネクティングドラム15の回転方向に対して、無段変速機8のプライマリシャフト49の回転方向を正逆に切り換えるための装置であり、この実施例では、前後進切換装置7が遊星歯車機構、具体的には、シングルピニオン型の遊星歯車機構を有している。この遊星歯車機構は、サンギヤ50と、サンギヤ50と同軸上に配置されたリングギヤ51と、サンギヤ50およびリングギヤ51に噛合されたピニオンギヤ52を自転、かつ公転可能に保持するキャリヤ53とを有している。そして、サンギヤ50が、プライマリシャフト49に動力伝達可能に連結されており、リングギヤ51が前記コネクティングドラム15と動力伝達可能に連結されている。さらに、前後進切換装置7を構成する回転要素同士の連結・解放を制御する前進用クラッチC1が設けられているとともに、回転要素の回転・停止を制御する後進用ブレーキBRが設けられている。前進用クラッチC1により、サンギヤ50とリングギヤ51との連結・解放が制御され、後進用ブレーキBRにより、キャリヤ53の回転・停止が制御されるように構成されている。
ここで、前進用クラッチC1としては、摩擦クラッチまたは電磁クラッチまたは噛み合いクラッチのいずれを用いてもよいし、後進用ブレーキBRとしては、摩擦ブレーキまたは電磁ブレーキまたは噛み合いブレーキのいずれを用いてもよい。この実施例では、摩擦クラッチまたは噛み合いクラッチを用い、摩擦ブレーキまたは噛み合いブレーキを用いる場合は、油圧制御式のアクチュエータを用いることが可能である。これに対して、電磁クラッチおよび電磁ブレーキを用いる場合は、電磁制御式のアクチュエータを用いることとなる。この実施例では、摩擦クラッチおよび摩擦ブレーキが用いられ、かつ、油圧制御式アクチュエータが用いられている場合について説明する。すなわち、油圧アクチュエータは油圧室(図示せず)およびピストン(図示せず)などを有しており、油圧室の油圧に基づいて、前進用クラッチC1のトルク容量、後進用ブレーキBRのトルク容量が制御されるように構成されている。
つぎに、前述の無段変速機8について説明すると、インプットシャフト4の軸線方向において、前後進切換装置7とダンパ機構3との間に無段変速機8が設けられている。この実施例では、無段変速機8としてベルト式無段変速機が用いられており、無段変速機8は、前述したプライマリシャフト49およびセカンダリシャフト54を有している。このプライマリシャフト49は、インプットシャフト4と同軸上に配置され、かつ、インプットシャフト4の外側を取り囲むように配置されている。そして、インプットシャフト4とプライマリシャフト49とが相対回転可能に構成されている。また、ケーシング5内には、インプットシャフト4の軸線方向で無段変速機8の両側に隔壁55,56が設けられており、プライマリシャフト49と隔壁55,56との間に軸受57が介在されている。このようにして、プライマリシャフト49およびセカンダリシャフト54は相互に平行に配置されており、プライマリシャフト49と一体回転するプライマリプーリ58が設けられ、セカンダリシャフト54と一体回転するセカンダリプーリ59が設けられている。
また、プライマリプーリ58およびセカンダリプーリ59には無端状のベルト60が巻き掛けられている。さらに、プライマリプーリ58からベルト60に加えられる挟圧力を制御する油圧サーボ機構61と、セカンダリプーリ59からベルト60に加えられる挟圧力を制御する油圧サーボ機構62とが設けられている。この油圧サーボ機構61,62の油圧室(図示せず)に供給される圧油の流量および油圧が、後述する油圧制御装置により制御される構成となっている。さらに、ケーシング5の内部には、セカンダリシャフト54のトルクが伝達される伝動装置9および最終減速機10が設けられており、最終減速機10の出力側にはドライブシャフト63を介在させて車輪(前輪)11が連結されている。なお、伝動装置9としては、歯車伝動装置、巻き掛け伝動装置などを用いることが可能である。
つぎに、車両1の制御系統を説明すれば、車両1の全体を制御するコントローラとしての電子制御装置64が設けられている。この電子制御装置64には、加速要求(例えば、アクセルペダルの操作状態)を検知するセンサ、制動要求(例えば、ブレーキペダルの操作状態)を検知するセンサ、エンジン回転数を検知するセンサ、スロットル開度を検知するセンサ、インプットシャフト49の回転数を検知するセンサ、プライマリシャフト49の回転数を検知するセンサ、セカンダリシャフト54の回転数を検知するセンサ、シフトポジションを検知するセンサ、インナーレース25の回転数を検知するセンサ、アウターレース18の回転数を検知するセンサなどの信号が入力される。これに対して、電子制御装置64からは、エンジン2を制御する信号、油圧制御装置65を制御する信号などが出力される。
この油圧制御装置65は、オイルポンプ6におけるオイルの吸入量および吐出量、オイルポンプ6における伝達トルク、前進用クラッチC1および後進用ブレーキBRの油圧室の油圧、油圧サーボ機構61,62の油圧室の油圧、油圧室31の油圧などを制御するとともに、潤滑系統66に供給される潤滑油量を制御するものであり、各油圧室の油圧を制御するソレノイドバルブ(図示せず)などを有する公知のものである。ここで、潤滑系統66には、前後進切換装置7を構成する各ギヤ同士の噛み合い部分、無段変速機8のプーリとベルト60との接触部分、各種の軸受17,21,57などの摺動部分、あるいはこれらの箇所にオイルを供給する油路などが含まれている。
また、油圧制御装置65には前記油路44が接続されており、オイルパン67のオイルが油路44を経由して油室39に供給することが可能に構成されている。また、油圧制御装置65は、油路44を経由して油室39に吸入されるオイル量を制御する吸入制御弁68を有している。なお、吸入制御弁68は設けられていなくてもよい。さらに、油圧制御装置65は、油室39から油路48を経由して吐出されるオイル量を制御する吐出制御弁69を有している。さらに、油圧制御装置65は、油圧室31の油圧を制御する圧力制御弁70を有している。これらの吸入制御弁68および吐出制御弁69および圧力制御弁70は、ソレノイドバルブにより構成されている。
上記のように構成された車両1において、エンジントルクがダンパ機構3を経由してインプットシャフト4に伝達され、このインプットシャフト4のトルクが、オイルポンプ6のインナーレース25に伝達される。ここで、インナーレース25とアウターレース18との間におけるトルクの伝達原理を説明する。インナーレース25とアウターレース18とが相対回転した場合、転動体36がカム面22に沿って転動し、かつ、ピストン35がシリンダ34内を往復移動する。また、図1のオイルポンプ6においては、油圧室31の油圧に基づいて、インナーレース25がインプットシャフト4の軸線方向に動作可能であり、軸線方向におけるインナーレース25の位置が変化すると、インナーレース25の半径方向におけるピストン35の動作量、すなわち、ストローク量が変化する。具体的には、油圧室31の油圧がインナーレース25の軸部29の端面に作用するため、油圧室31の油圧に基づいて、インナーレース25を軸線方向でリヤカバー12に近づける向きの力が発生する。
一方、インナーレース25の半径方向におけるピストン35の位置に関わりなく、圧縮コイルばね40の付勢力が転動体36に加えられており、転動体36がカム面22に押し付けられている。その押し付け力はカム面22に対して略直角に作用する。一方、カム面22の凹部23は、スリーブ13に近づくことにともない、谷底23Aと軸線A1との距離が短くなる方向のテーパを有しているため、転動体36が凹部23に接触している場合は、転動体36に与えられる押し付け力に応じた反力が発生し、その反力に応じた軸線方向の成分(分力)が、ピストン35を経由してインナーレース25に伝達される。そして、油圧室31の油圧に基づいてインナーレース25に加えられる軸線方向の力と、前記反力に基づいてインナーレース25に伝達される軸線方向の力との対応関係により、軸線方向におけるインナーレース25の位置が決定される。
例えば、油圧室31の油圧が上昇した場合は、インナーレース25をリヤカバー12側に向けて押圧する力が増加して、インナーレース25が図1で左方向に動作する。これに対して、油圧室31の油圧が低下した場合は、インナーレース25をリヤカバー12から離れる方向に押圧する力が増加して、インナーレース25が図1で右方向に動作する。なお、インナーレース25に加えられ、かつ、軸線方向で逆向きの力同士が釣り合った場合は、インナーレース25が軸線方向の所定位置で停止する。
まず、インナーレース25が図1で右方向に動作した場合について説明する。この場合は、凹部23の谷底23Aに接触する外接円と、凸部24の頂点24Aに接触する内接円との半径差が比較的大きくなる。つまり、カム面22に沿って転動する転動体36が、凹部23および凸部24を交互に通過する場合において、ピストン35の動作範囲、すなわちストローク領域は、図4に示すように広い領域S1となる。なお、ストロークとは、ピストン35の底面38と、シリンダ34の底面37との距離である。ここで、インナーレース25の半径方向におけるピストン35の位置と、圧縮コイルばね40,41からピストン35に与えられる力、つまり、バネ荷重との関係を、図4の特性線図に基づいて説明する。
前述の領域S1は領域S2と領域S3とに区分される。まず、凹部23の谷底23Aに接触する外接円と、凸部24の頂点24Aに接触する内接円とに半径差があり、この半径差と、圧縮コイルばね40,41のたわみ状態とにより、ストローク領域が区分される。前記圧縮コイルばね40は常にたわむが、半径差が大きい場合、具体的には、ピストン35が動作しても圧縮コイルばね41でたわみが発生しないようなピストン35の動作領域が領域S2である。この領域S2においては、ピストン35の位置が内側に移動するほど、圧縮コイルばね40の圧縮量が増加し、ばね荷重が増加する傾向となる。
これに対して、ピストン35の動作により、圧縮コイルばね41がたわむようなピストン35の動作領域が、領域S3である。インナーレース25の半径方向で、領域S3は領域S2よりも内側に設定されている。この領域S3においては、圧縮コイルばね40,41のばね荷重が共にピストン35に加えられる。したがって、領域S3におけるばね荷重の特性を示す線分(直線)は、領域S2におけるばね荷重を示す線分(直線)よりも勾配が急となる。言い換えれば、ピストン35の位置の変化量(変化割合、変化率)に対するばね荷重の変化量は、領域S2よりも領域S3の方が多く(大きく)なる。このように、この実施例1では、インナーレース25を軸線方向に動作させると、ピストン35の動作範囲の最大外径、言い換えれば上死点が半径方向に変位するが、ピストン35の動作範囲の最小半径、つまり、下死点は不変である。なお、この実施例1では、領域S2および領域S2に跨る使用域(破線で示す)でピストン35の動作範囲が制御される。
上記のようにして、エンジントルクがインナーレース25に伝達されて、インナーレース25とアウターレース18とが相対回転し、ピストン35がシリンダ34内でインナーレース25の半径方向に往復移動する。すると、ピストン35の動作により油室39の容積が拡大・縮小される。まず、油室39の容積が拡大される場合は、油室39が負圧となる。すると、逆止弁43が開放されるとともに、オイルパン67のオイルが、油路44および吸入油路42を経由して、油室39内に吸入される。このように、オイルが油室39に吸入される間、逆止弁47は閉じられている。これに対して、インナーレース25とアウターレース18とが相対回転して、ピストン35の動作により油室39の容積が縮小されると、油室39の油圧が上昇する。すると、逆止弁43が閉じられるとともに、逆止弁47が開放され、油室39のオイルが、吐出油路46を経由して油路48に吐出される。以後、ピストン35がシリンダ34内で往復運動を繰り返すことにより、オイルポンプ6の油室39へのオイルの吸入と、油室39からのオイルの吐出とが、交互に繰り返される。このようにして、オイルパン67のオイルがオイルポンプ6により吸入・吐出され、吐出されたオイルが、油圧制御装置65を経由して、油圧サーボ機構61,62および潤滑系統66および前後進切換装置7用の油圧室などに供給される。
また、吸入制御弁68が設けられていることを前提として、シフトポジションとしてドライブポジションまたはリバースポジションが選択された場合における吸入制御弁68の制御について説明する。この吸入制御弁68が制御されて、オイルポンプ6の油室39に吸入されるオイルの流量が調整される。また、吐出制御弁69の制御により、オイルポンプ6の油室39から吐出されるオイルの流量が調整される。そして、油室39におけるオイルの流量を制御することにより、ピストン35の動作により容積が拡大・縮小されて油室39の油圧が制御され、インナーレース25とアウターレース18との間で伝達されるトルクが調整される。すなわち、油室39のオイル量が増加すると、油室39から吐出されるオイルの流動抵抗が高まる。なお、吸入制御弁68が設けられていない場合でも、吐出制御弁69の制御により、油室39から吐出されるオイル量を制限すると、油室39から吐出されるオイルの流動抵抗を高めることができる。このようにして、油室39から吐出されるオイルの流動抵抗が高められると、転動体35が凸部24を乗り越える場合に、ピストン35を半径方向で内側に向けて押圧するために必要な力が増加する。したがって、転動体36とカム面22との係合力が増加し、インナーレース25とアウターレース18との間で伝達されるトルクが増加する。
これとは逆に、油室39から吐出されるオイル量が減少すると、そのオイルの流動抵抗が低下する。このため、転動体35が凸部24を乗り越える場合に、ピストン35を半径方向で内側に向けて押圧するために必要な力が低下する。したがって、転動体36とカム面22との係合力が減少し、インナーレース25とアウターレース18との間で伝達されるトルクが低下する。このようにして、エンジン2からインナーレース25に伝達されたトルクが、転動体36とカム面22との係合力により、アウターレース18およびコネクティングドラム15に伝達される。なお、上記のようなインナーレース25とアウターレース17との間における伝達トルクの制御により、インナーレース25とアウターレース17との回転数差も制御可能である。すなわち、インナーレース25とアウターレース17との間における伝達トルクが高められた場合は回転数差が小さくなり、インナーレース25とアウターレース17との間における伝達トルクが低下された場合は回転数差が大きくなり、インナーレース25とアウターレース17との間における伝達トルクが一定に制御された場合は、回転数差も一定となる。
つぎに、前後進切換装置7の制御について説明する。まず、シフトポジションとしてドライブポジション(前進ポジション)が選択された場合は、前進用クラッチC1が係合され、かつ、後進用ブレーキBRが解放される。すると、前後進切換装置7を構成する遊星歯車機構の3つの回転要素が一体回転する。これに対して、シフトポジションとしてリバースポジション(後進ポジション)が選択された場合は、後進用ブレーキBRが係合され、かつ、前進用クラッチC1が解放される。すると、リングギヤ51が入力要素となり、かつ、停止しているキャリヤ53が反力要素となって、サンギヤ50がリングギヤ51とは逆方向に回転する。このようにして、コネクティングドラム15のトルクが、無段変速機8のプライマリシャフト49に伝達される。なお、ニュートラルポジションまたはパーキングポジションが選択された場合は、後進用ブレーキBRが解放され、かつ、前進用クラッチC1が解放される。
以上のようにして、無段変速機8のプライマリシャフト49にトルクが伝達されると、このプライマリシャフト49のトルクがベルト60を経由してセカンダリシャフト54に伝達される。この無段変速機8においては、油圧サーボ機構61,62における圧油の供給状態が油圧制御装置65により制御される。例えば、油圧サーボ機構61に供給される圧油の流量が制御されて、プライマリプーリ58におけるベルト80の巻き掛け半径、およびセカンダリプーリ59におけるベルト60の巻き掛け半径が制御され、無段変速機8の変速比、つまり、プライマリシャフト49の回転速度と、セカンダリシャフト54の回転速度との比を無段階(連続的)に制御することができる。また、この変速制御に加えて、セカンダリプーリ59からベルト60に加える挟圧力が調整されて、無段変速機8のトルク容量が制御される。
このような変速制御と並行して、車速および加速要求(例えばアクセル開度)などに基づいて、車両1における必要駆動力が判断され、その判断結果に基づいて目標エンジン出力が求められる。その目標エンジン出力を最適燃費で達成する目標エンジン回転数が求められ、その目標エンジン回転数に応じて目標エンジントルクが求められる。そして、実エンジン回転数を目標エンジン回転数に近づけるように、無段変速機8の変速比が制御される。また、無段変速機8の変速比の制御と並行して、電子スロットルバルブの制御などにより、実エンジントルクが目標エンジントルクに近づけられる。なお、実エンジン回転数を目標エンジン回転数に近づける場合、無段変速機8の変速比の制御に加えて、インナーレース25とアウターレース18との相対回転数差の制御も実行される。以上のようにして、エンジントルクがインプットシャフト4および前後進切換装置7を経由して、無段変速機8のセカンダリシャフト54に伝達される。このセカンダリシャフト54のトルクは、伝動装置9および最終減速機10を経由して車輪11に伝達される。
この実施例1において、インナーレース25とアウターレース18との回転数差が大きい場合に、インナーレース25を図1で左側に動作させて、ピストン35を領域S3内で動作させると、カム面22に対する転動体36の押し付け力が高まり、カム面22に対する転動体36の追従性が向上する。言い換えれば、「転動体36が凸部24を乗り越える場合に、転動体36がカム面22から離れ、その後に、転動体36がカム面22に衝突する現象」を回避できる。したがって、転動体36とカム面22との衝突による振動・騒音を抑制でき、かつ、オイルポンプ6から吐出される圧油の油圧変動を抑制できる。また、インナーレース25を軸方向に動作させて、ピストン35の動作領域および位置を変更することにより、ピストン35に与えられるばね荷重を調整できる。このため、カム面22に対する転動体36の追従性を高める必要がない場合、例えば、インナーレース25とアウターレース18との回転数差が小さい場合には、ピストン35に与えられるばね荷重が増加することを抑制できる。このように、「ピストン35の全動作範囲で転動体36とカム面22との接触部分における摩擦損失が増加すること」を抑制でき、インナーレース25とアウターレース18との間における動力伝達効率の低下を抑制できる。
そして、この実施例1においては、ピストン35を図4に示す領域S3で動作させると、油室39の最大容積は狭くなり、かつ、油室39の容積の変化量も少なくなり、油室39から吐出されるオイル量が少なくなる。これに対して、ピストン35を図4の領域S1で動作させると、油室39の最大容積は広くなり、かつ、油室39の容積の変化量も多くなり、油室39から吐出されるオイル量が多くなる。このような、オイルポンプ6のオイル吐出特性を利用して、図5に示すような制御を実行可能である。まず、オイルポンプ6の吐出流量が所定範囲内にあるか否かが判断される(ステップS1)。ここで、所定範囲は吐出流量の上限値および下限値により決定される範囲である。前述のように、インナーレース25とアウターレース18との回転数差が大きくなると、転動体36がカム面22から離れる可能性があり、回転数差が大きくなることに比例して吐出流量が増加することから、上限値を越える吐出流量である場合は、転動体36がカム面22から離れる可能性があることになる。また、吐出流量の下限値は、油圧サーボ機構61,62に供給するべき必要オイル量に対応する値であり、吐出流量が下限値未満であるということは、オイルポンプ6から油圧サーボ機構61,62に供給されるオイル量が、必要オイル量に満たなくなる可能性があることになる。
そして、オイルポンプ6の吐出流量が上限値を越えている場合は、ステップS2に進み、ピストン35のストローク量が少なく(小さく)なるように、インナーレース25を軸線方向に動作させる制御を実行して、リターンされる。つまり、ステップS2では、インナーレース25が図1で左方向に移動される。これに対して、ステップS1の判断時点で、オイルポンプ6の吐出流量が下限値未満である場合は、ステップS3に進み、ピストン35のストローク量が多く(大きく)なるように、インナーレース25を軸線方向に動作させる制御を実行して、リターンされる。つまり、ステップS3では、インナーレース25が図1で右方向に移動される。なお、ステップS3またはステップS3の制御では、ピストン35のストローク量の変更をおこなう場合に、領域S2と領域S3との間で変更がおこなわれてもよいし、おこなわれなくてもよい。さらに、ステップS1の判断時点で、オイルポンプ6の吐出流量が所定範囲内にある場合は、そのままリターンされる。
図1ないし図4で示された構成と、この発明の構成との対応関係を説明すると、アウターレース18およびインナーレース25が、この発明の第1の回転部材および第2の回転部材に相当し、カム面22が、この発明のカム面に相当し、ピストン35および転動体36が、この発明の動作部材に相当し、圧縮コイルばね40,41が、この発明の付勢機構に相当し、油室39が、この発明の油室に相当し、電子制御装置65および吸入制御弁68および吐出制御弁69が、この発明のオイル量調整機構に相当し、オイルポンプ6が、この発明の動力伝達装置に相当し、図4に基づいて説明された領域S2,S3が、この発明の「複数のストローク領域」に相当し、カム面22および油圧室31および圧力制御弁70およびインナーレース25が、この発明の動作量変更機構に相当し、エンジン2が、この発明の動力源に相当し、車輪11が、この発明の車輪に相当し、無段変速機8が、この発明のベルト式無段変速機に相当する。ここで、図5のフローチャートに示された機能的手段と、この発明の構成との対応関係を説明すると、ステップS1,S2,S3が、この発明の動作量制御手段に相当する。
つぎに、図2に示されたオイルポンプ6の更に他の構成例を、図7に基づいて説明する。この実施例3は、請求項1および請求項4の発明に対応する。図7において、図1および図3と同じ構成部分については、図1および図3と同じ符号を付してある。この実施例3においては、カム面22が大径カム面75と小径カム面76と傾斜カム面77とを有している。大径カム面75は、円周方向に沿って凹部78と凸部79とを交互に配置して構成されている。つまり、大径カム面75は、インナーレース25の半径方向に波形に変位している。凹部78の谷底の半径が軸方向の全域に亘って一定であり、凸部79の頂点の半径が軸方向の全域に亘って一定である。また、小径カム面76は、円周方向に沿って凹部80と凸部81とを交互に配置して構成されている。つまり、小径カム面76は、インナーレース25の半径方向に波形に変位している。そして、凹部80の谷底の半径が軸方向の全域に亘って一定であり、凸部81の頂点の半径が軸方向の全域に亘って一定である。
さらに、大径カム面75と小径カム面76とは、軸方向の異なる位置に形成されており、軸方向で大径カム面75と小径カム面76との間に傾斜カム面77が配置されている。この実施例3では、軸方向で隔壁16に近い位置に大径カム面75が配置されており、軸方向でスリーブ13に近い位置に小径カム面76が配置されている。そして、傾斜カム面77は、凹部82および凸部83を有しており、さらに、傾斜カム面77はテーパが施されており、凹部82が凹部78,80に連続され、凸部83が凸部79,81に連続されている。このようにして、傾斜カム面77、大径カム面75および小径カム面76に連続されており、転動体36がカム面22に接触したまま軸方向に移動できるように滑らかに接続されている。
この実施例3においても、実施例1と同様の原理により、転動体36およびピストン35がインナーレース25の半径方向にストロークし、インナーレース25とアウターレース18との間でトルクが伝達されるとともに、油室39にオイルが吸入され、かつ、油室39から吐出されたオイルが、油圧制御装置65に供給される。また、この実施例3においては、油圧室31の油圧を制御することにより、実施例1と同様の原理により、インナーレース25が軸方向に動作し、かつ、位置決めされる。このように、インナーレース25を軸方向に動作させることにより、転動体36が大径カム面75と小径カム面77との間で、傾斜カム面77を経由して行き来可能である。そして、大径カム面75の凹部78および凸部79に沿って転動体36が転動している場合におけるピストン35のストローク領域(位置)では、ストローク量が一定となる。また、転動体36が小径カム面76の凸部81および凹部80に沿って転動している場合におけるピストン35のストローク領域(位置)では、ストローク量が一定となる。さらに、カム面22は、大径カム面75および小径カム面76および傾斜カム面77の全領域に亘って、凹部の谷底の外接円と、凸部の頂点の内接円との半径差が同一に設定されている。
この実施例3において、ピストン35のストロークと、圧縮コイルばね40,41からピストン35に加えられるばね荷重との関係を、図8に基づいて説明する。ピストン35の全ストローク領域S1のうち、領域S2が、大径カム面75に沿って転動体35がストロークする場合に相当し、領域S3が、小径カム面76に沿って転動体35がストロークする場合に相当する。なお、図8において、転動体36が傾斜カム面77を通過する場合のばね荷重は、便宜上、省略してある。そして、領域S2または領域S3で、ピストン35がストロークされる。領域S2に相当するストローク量と、領域S3に相当するストローク量とは同一である。言い換えれば、実施例3では、全ての領域S1において、ピストン35のストローク量は一定(不変)である。
この実施例3においては、図9に示す制御を実行可能である。まず、カム面22に接触して転動する転動体36が、カム面22に接触したまま転動できるか否かが判断される(ステップS11)。インナーレース25とアウターレース18との回転数差が大きくなると、転動体36がカム面22の凸部を乗り越える場合に、カム面22から離れる可能性がある。この実施例では、オイルポンプ8の回転数差を、オイルポンプ8の吐出流量に基づいて、間接的に判断している。すなわち、オイルポンプ8の吐出流量が所定値以下である場合は、インナーレース25とアウターレース18との回転数差が小さく、カム面22に対する転動体36の追従性を高める必要性が低いため、ステップS11で肯定的に判断される。そして、ピストン35のストローク位置が高いか否かが判断される(ステップS12)。ここで、ピストン35のストローク位置が高いとは、転動体36が大径カム面75に接触して往復動することであり、このステップS12で肯定的に判断された場合は、カム面22に対する転動体36の押し付け荷重が低いため、そのままリターンされる。これに対して、ステップS12で否定的に判断された場合は、ピストン35のストローク位置が高くなるように、インナーレース25を軸方向に動作させる制御を実行し(ステップS13)、リターンする。このステップS13の制御により、転動体36に加えられるばね荷重が低下して、転動体36とカム面22との接触部分の摩擦損失が低下する。
一方、ステップS11で否定的に判断されるということは、インナーレース25とアウターレース18との回転数差が大きく、カム面22に対する転動体36の追従性を高める必要性があることになる。そこで、ステップS11で否定的に判断された場合は、ピストン35のストローク位置が高いか否かが判断され(ステップS14)、ステップS14で肯定的に判断された場合は、転動体36に加えられるばね荷重を高めるために、ピストン35のストローク位置が低くなるように、インナーレース25を軸方向に動作させる制御を実行し(ステップS15)、リターンする。ここで、ピストン35のストローク位置が低いとは、転動体36が小径カム面76に接触することを意味している。なお、ステップS14で否定的に判断された場合は、既に、転動体36に加えられるばね荷重が高くなっているため、そのままリターンする。なお、この実施例3において、大径カム面75および小径カム面76および傾斜カム面77の全領域の一部で、凹部の谷底の外接円と、凸部の頂点の内接円との半径差が異なっていてもよい。さらに、領域S1の一部において、ピストン35のストローク量が変化してもよい。
以上のように、実施例3においても、インナーレース25とアウターレース18との回転数差が大きい場合は、ピストン35のストローク位置を低くすることにより、転動体36をカム面22に対して押し付ける荷重が増加し、カム面22に対する転動体36の追従性を向上できる。また、ピストン35の全ストローク領域S1で、転動体36とカム面22との接触部分の摩擦損失が増加することを抑制でき、実施例1と同じ効果を得られる。ここで、実施例3で説明した構成と、この発明の構成との対応関係を説明すると、カム面22がこの発明のカム面に相当する。実施例3のその他の構成と、この発明の構成との対応関係は、実施例1の構成と、この発明の構成との対応関係と同じである。
1…車両、 2…エンジン、 6…オイルポンプ、 8…無段変速機、 11…車輪、 18…アウターレース、 22…カム面、 25…インナーレース、 31…油圧室、 35…ピストン、 36…転動体、 39…油室、 40,41,73,74…圧縮コイルばね、 65…電子制御装置、 68…吸入制御弁、 69…吐出制御弁、 70…圧力制御弁、 84…皿ばね。