基板上に均一に蒸着物質を成膜しようとする場合、蒸着源の物理的な条件及び基板の物理的な条件によって、蒸着源及び基板間の最適距離或いはこれら両者間に必要とされる距離は左右される。生産性を向上させる観点からは、蒸着源及び基板はある程度大きいことが望ましいから、それに伴って蒸着物質の分布の偏りをキャンセルし得る両者間の距離は大きいものとなる。従って、従来の技術の如くコリメータなどによって基板に対し斜めに向かうように蒸着物質を規制することによって装置を小型化し得たとしても、蒸着装置の巨視的な大きさを変化させることは難しく、蒸着装置の生産性を左右するメンテナンス性は十分に改善され難い。即ち、従来の技術には、蒸着装置の生産性を十分に向上させ難いという技術的な問題点がある。
特に、液晶装置等の電気光学装置を構成する素子基板や対向基板などの基板に対して、所定のプレティルト角が付与された無機配向膜を斜方蒸着により形成する場合、従来の技術を用いての成膜によれば、真空槽全体の小型化を図りつつ基板面の全域に均一な無機配向膜を形成することは実践上極めて困難である。
本発明は上述した問題点に鑑みてなされたものであり、生産性を向上させ得る真空蒸着装置及びそれを用いた電気光学装置の製造方法を提供することを課題とする。
上述した課題を解決するため、本発明に係る真空蒸着装置は、蒸着源を設置するための第1空間を規定すると共に該第1空間を真空に維持することが可能な第1真空槽と、前記第1空間に設置され、前記蒸着源に電子ビームを照射することによって前記蒸着源の一部を蒸発物質として蒸発させる電子ビーム照射手段と、前記第1空間と連通可能であって且つ前記蒸発物質を蒸着するための基板を設置するための空間である第2空間を規定すると共に、少なくとも該第2空間と前記第1空間とが相互に連通した状態において前記第2空間を真空に維持することが可能な第2真空槽と、前記第1真空槽と前記第2真空槽との間に前記第1及び第2真空槽と夫々着脱可能に設置され、前記第1及び第2真空槽と接続された状態において(i)前記第1及び第2空間と相互に連通可能であり且つ(ii)前記蒸発物質が前記第2空間に向かって飛行するための空間となる第3空間を規定すると共に、少なくとも前記第1及び第2空間と相互に連通した状態において前記第3空間を真空に維持することが可能な第3真空槽とを具備し、前記第3真空槽は、相互に着脱可能な複数の部分真空槽を含むことを特徴とする。
本発明における「第1真空槽」とは、蒸着源(言い換えれば、ターゲット)を設置するための第1空間を規定すると共に、この第1空間を真空に維持することが可能に構成された、チャンバなどの箱体を表す概念であり、係る概念が担保される限りにおいて、その形状及び材質などは何ら限定されない。但し、構成材料としては、機械的、物理的及び化学的な安定性に鑑みて金属材料、鉄鋼材料、ガラス材料、陶器又は陶磁器材料などが使用されて好適である。
ここで、「真空」とは、大気圧より低い圧力の気体で満たされている空間の状態を包括する概念であり、好適には、蒸発物質が基板上に蒸着される際の膜質に大気雰囲気中に含まれる酸素や窒素などの不純物が影響しない程度に大気圧から減圧された空間の状態を指す。また、係る真空を作り出すための排気機構、排気装置又は排気システムの構成も、係る真空を作り出すことが可能である限りにおいて何ら限定されない。例えば、ロータリーポンプ、メカニカルブースターポンプ、油拡散ポンプ又はターボ分子ポンプなどによって係る真空状態が作り出されてもよい。或いは、これらがその排気特性などに鑑みて予備排気系及び主排気系として複合的に使用されることによって真空が作り出されてもよい。尚、「真空に維持する」とは、このような排気系によって排気される気体の量と、第1真空槽における気体の漏れ量(即ち、リーク量)とが相殺する結果として、一定或いは一定とみなし得る程度に安定した真空度に到達している状態を含む概念である。
本発明における「蒸着源」とは、電子ビームで加熱することによって蒸発させることが可能な物質を包括する概念であり、係る概念が担保される限りにおいて、その材質、形状及びその他の物理特性は何ら限定されない。例えば、蒸着源は、SiOやSiO2などの無機材料であってもよい。また、液晶装置などの電気光学装置における無機配向膜材料として使用可能な無機材料であってもよい。
第1空間には、蒸着源の他に電子ビーム照射手段が設置される。ここで、本発明に係る電子ビーム照射手段とは、蒸着源に電子ビームを照射することによって蒸着源の一部を蒸発物質として蒸発させる機構、装置又はシステムのうち、第1空間に設置される少なくとも一部を包括する概念であり、例えば電子銃装置の一部などを指す。例えば、電子銃装置は、一般的にフィラメント、制御系、電源系及び冷却水系などを含むが、本発明に係る電子ビーム照射手段としての電子銃装置は、そのうち第1真空槽内に設置されるものを指す。従って、必ずしも、制御系、電源系及び冷却水系の全てが第1空間内に設置されておらずともよい。例えば、制御装置、電源又は冷却水源などは、第1空間の外部に設置されていてもよい。電子ビーム照射手段によって蒸発した蒸着源の一部は、蒸発物質として第2真空槽内に規定される第2空間に到達する。
ここで、本発明に係る「第2真空槽」とは、第1空間と連通可能な第2空間を規定すると共に、少なくとも第1空間と連通した状態において係る第2空間を真空に維持することが可能な、チャンバなどの箱体を包括する概念であり、第1真空槽と同様、その材質や形状などは何ら限定されない。尚、第2空間における真空は、第1真空槽における各種排気系によって実現されるものであってもよい。また、第1空間及び第2空間における物理的数値としての真空度は必ずしも一致しておらずともよい。或いは、第2真空槽に、第1真空槽と同等の或いはそれとは異なる形態の各種排気系が接続され、第2空間が積極的に真空に維持されてもよい。いずれにしても、第1空間と第2空間とが連通した状態において、第2真空槽は、第2空間を真空に維持することが可能である。
第2空間には、蒸着源からの蒸発物質を蒸着するための基板が設置される。ここで、第2空間に設置される基板の枚数は、本発明に係る蒸着動作が阻害されない範囲で自由である。従って、本発明に係る真空蒸着装置は、第2空間に基板が一枚設置される所謂バッチ方式の真空蒸着装置であってもよいし、複数の基板が設置される枚葉式の真空蒸着装置であってもよい。
尚、第2空間が、蒸着室(或いは、成膜室)としての位置付けであることに鑑みれば、第2真空槽には、第2空間に基板を供給するためのロードロック室(或いは、ロードロックチャンバ)或いは、第2空間から蒸着(或いは、成膜)済みの基板を排出するための搬送室(或いは、搬送チャンバ)などが適宜接続されていてもよい。これら前工程或いは後工程と相関するロードロックチャンバや搬送チャンバなどが接続される場合には、更にこれら各チャンバにおいてプリベイク或いはポストベイクなどの前処理或いは後処理が実行されてもよい。
ここで特に、蒸着源から基板までの距離は、蒸着源の大きさや形状、基板の大きさや蒸着エリアの大きさ、又は蒸着膜に要求される膜質など多様な要素によって決定されるが、総じて大きい傾向であり、故に真空蒸着装置の構成は必然的に肥大化し、メンテナンス性は劣化の傾向にある。メンテナンス性の低下は、最終的に生産性の低下へ繋がるという問題点がある。
そこで、本発明に係る真空蒸着装置は、第3真空槽を備えることによって係る問題点を解決している。本発明に係る第3真空槽は、第1真空槽と第2真空槽との間に、これら第1及び第2真空槽と夫々着脱可能に設置される。
第3真空槽は、第3空間を規定している。この第3空間は、第3真空槽が第1及び第2真空槽と接続された状態(即ち、着脱可能の「着」に相当する状態)において、第1及び第2空間と相互に連通可能であり且つ蒸着源に対応する蒸発物質が第2空間に向かって飛行するための空間となる。
第3真空槽は、第1及び第2空間と連通した状態において第3空間を真空に維持することが可能である。本発明に係る第3真空槽とは、このような第3空間を規定する筒状物体を包括する概念であり、係る概念が担保される限りにおいてその材質や形状は何ら限定されない。尚、第3空間は、第1真空槽或いはそれに加えて第2真空槽に備わる各種排気系の作用によって真空に維持されてもよいし、第3真空槽に、これらとは別個に排気系が設置されることによって真空に維持されてもよい。
尚、第3真空槽と第1及び第2真空槽とは、直接的に接続されてもよいし、間接的に接続されてもよい。ここで、「間接的に接続される」とは、例えば、フランジ、ガスケット若しくはカプラなどのシーリング部材、単に空洞としてのダミーチャンバ又は予備排気チャンバなどを介して接続されることなどを表す。或いは、ゲートバルブなどのバルブ機構などを介して接続されることなどを表す。但し、フランジなどの介在物体を介して間接的に接続される場合であっても、蒸発物質が第1空間から第2空間へと飛行することが可能であることに鑑みれば、これら介在物体が、一種の第3真空槽とみなされてもよい。即ち、第3真空槽とは、必ずしも一体に構成された筒状物体でなくてもよい。
一方、第3真空槽は、第1及び第2真空槽から取り外すことが可能である(即ち、着脱の「脱」に相当する状態)。尚、第3真空槽を、第1空間及び第2空間を真空に維持した状態で第1真空槽及び第2真空槽から取り外すことを考えれば、第3空間と第1及び第2空間との間には、何らかの真空維持部材が介在していることが好ましい。但し、第3真空槽が第1及び第2真空槽と着脱可能である限りにおいて、必ずしもこのような真空維持部材が介在しておらずともよい。
このように第3真空槽は、第1及び第2真空槽から取り外すことが可能であり、故に個別にメンテナンスを行うことが可能に構成される。従って、真空蒸着装置のメンテナンス性が向上し、真空蒸着装置の生産性が向上するのである。別言すれば、本発明に係る真空蒸着装置は、装置を小型化することによってメンテナンス性の向上を図るという概念とは一線を画しており、装置が小型化されるか否かに関係なくメンテナンス性を向上させ得る点において、従来の技術に対し明らかに有利に構成される。
尚、第3真空槽が、好適には筒状の真空槽であることに鑑みれば、第3真空槽のメンテナンス性を向上させる手法の一つとして、第3真空槽の側面部分に、メンテナンス用の扉が設置されていてもよい。この場合、扉の少なくとも一部は、真空度の低下を招かない限りにおいて、内部(即ち、第3空間)が視認可能となるようにガラスなど光透過性を有する材料で構成されていてもよい。
尚、第3真空槽が第1及び第2真空槽に対し着脱可能に構成されることに鑑みれば、長さの異なる或いは長さが等しい複数の第3真空槽を使用することによって、真空蒸着装置本体は共通化された状態で、蒸着源と基板との距離を最適化することも容易にして可能であり、膜質最適化の観点からも、生産性の向上に寄与し得るものである。
本発明では特に、前記第3真空槽は、相互に着脱可能な複数の部分真空槽を含む。
ここで、複数の部分真空槽各々は、全体として第3真空槽を構成する限りにおいて、相互に異なる材質又は形状などを有していてもよい。尚、第3真空槽が、蒸発物質の飛行空間たる第3空間を規定することに鑑みれば、これら複数の部分真空槽各々は、真空を保持し得る程度に気密を保って接続される必要がある。その意味では、複数の部分真空槽各々は、材質及び巨視的な形状が一致している方がよい。但し、この場合にも、各部分真空槽における、蒸発物質の飛行方向への長さ(即ち、筒の長さに相当)は、相互に異なっていてもよい。
部分真空槽が相互に着脱可能であって、且つ各部分真空槽の飛行方向への長さが比較的自由であるということは、第3空間全体として、係る飛行方向への長さが可変であることを意味する。即ち、長さの異なる或いは比較的短い長さで統一された複数の部分真空槽が予め用意されている場合には、実験的に、経験的に、或いはシミュレーションなどに基づいてこれらの組み合わせを自由に変更し、蒸着源と基板との最適な距離を特定することが容易にして可能となる。即ち、この態様によれば、本発明に係る良好なメンテナンス性を一層好適に実現し得るだけでなく、基板上に蒸着された薄膜の膜質を効果的に制御し得、真空蒸着装置の生産性を向上させることが可能となるのである。
本発明に係る真空蒸着装置の一の態様では、前記第1真空槽と前記第3真空槽との間に介在し、前記第1空間と前記第3空間とを少なくとも連通及び隔絶させることが可能な第1連通制御手段と、前記第2真空槽と前記第3真空槽との間に介在し、前記第2空間と前記第3空間とを少なくとも連通及び隔絶させることが可能な第2連通制御手段とを更に具備し、前記第1及び第2真空槽は、前記第3空間と隔絶された状態において夫々前記第1及び第2空間を真空に維持することが可能であり、前記第3真空槽は、前記第3空間が前記第1及び第2空間と夫々隔絶された状態において前記第1及び第2真空槽と着脱可能である。
第1連通制御手段は、第1空間と第3空間とを少なくとも連通及び隔絶させることが可能な手段である。ここで、「少なくとも」とは、第1空間と第3空間とが連通及び隔絶される限りにおいて、更に多段階に連通状態が制御されてもよいことを表す趣旨である。また、第2連通手段は、第2空間と第3空間とを少なくとも連通及び隔絶させることが可能な手段である。ここで、「少なくとも」とは、第2空間と第3空間とが連通及び隔絶される限りにおいて、更に多段階に連通状態が制御されてもよいことを表す趣旨である。
第1及び第2真空槽は、これら第1及び第2連通制御手段によって夫々第3空間と隔絶された状態で、第1及び第2空間を夫々真空に維持することが可能である。また、第3真空槽は、第3空間が第1及び第2空間と夫々隔絶された状態で第1及び第2真空槽と夫々着脱可能である。従って、例えば装置メンテナンスを行うために第3真空槽を第1及び第2真空槽から取り外した場合であっても、第1空間及び第2空間の真空が破られることがない。真空蒸着装置では、内容積が大きい程必然的に排気に要する時間が増大するから、このように、局所的な真空を維持することが可能である場合、装置メンテナンスに要する時間は確実に短縮化される。従って、生産性が確実に向上する。
尚、このように連通及び隔絶の間で連通状態を切り替えることが可能な第1及び第2連通制御手段の態様は、上記した如き作用を実現し得る限りにおいて何ら限定されないが、好適には、ゲートバルブと称される板状の開閉弁を含む。また、この場合、ゲートバルブを開閉させるための機構が更に含まれてもよい。このような機構は、第1真空槽と第3真空槽との間、或いは第2真空槽と第3真空槽との間に夫々介在するように設置されたフランジなどに収容されていてもよい。
尚、第3真空槽が部分真空槽を含む態様では、前記第3真空槽は、相互に直列に配列した3個の前記部分真空槽を含み、(i)該3個の部分真空槽のうち中央に位置する前記部分真空槽に、前記第3空間を真空に維持するための排気系との接続部を有し、(ii)前記中央に位置する部分真空槽を挟む2個の前記部分真空槽は、相互に同一形状を有してもよい。
この態様によれば、本発明に係るメンテナンス性の向上及び成膜後の膜質の向上を比較的高い次元で両立することが可能となる。
本発明に係る真空蒸着装置の他の態様では、前記第2空間内で前記基板の少なくとも一部が前記蒸着源の少なくとも一部と対面するように前記基板を保持する保持手段を更に具備する。
この態様によれば、蒸着源の少なくとも一部と、基板の少なくとも一部とが相互に対面して配置されるから、効率的に蒸着を行うことが可能であり、真空蒸着装置の生産性が向上する。
尚、「基板の少なくとも一部」とは、保持手段の一部によって、或いは保持手段とは関わり無く第1空間と第2空間との間に何らかの遮蔽物が介在することによって、基板の一部が蒸着源に対し遮蔽されていてもよいことを表す趣旨である。また、「対面して」とは、正対していることのみを表すものではなく、蒸着源、又は蒸発物質の飛行方向(蒸着方向)に対し、一定の傾きをもって基板が設置されてもよい趣旨である。
尚、本発明における「保持手段」とは、このように基板と蒸着源の夫々少なくとも一部が相互に対面するように基板を保持することが可能である限りにおいてその態様は何ら限定されない。
尚、保持手段を備える態様では、前記保持手段は、前記基板の少なくとも一部が、前記第3空間を介して飛行する前記蒸発物質に対して斜めに対面するように前記基板を保持してもよい。
このように構成すれば、例えば、液晶装置等の電気光学装置を構成する素子基板や対向基板などの基板に対して、所定のプレティルト角が付与された無機配向膜を斜方蒸着により形成することが可能となる。即ち、斜方蒸着を好適に行うことが可能となる。この際特に、真空槽全体の小型化を図りつつ基板面の全域或いは比較的広範囲に均一な無機配向膜を形成することが可能となる。
また、保持手段を備える態様では、前記保持される基板が、前記第2真空槽内で、(i)前記第3空間を介して飛行する前記蒸発物質の飛行方向に交わる方向に沿って且つ(ii)前記保持される基板の中心を貫通する軸とは異なる軸を中心として回動するように前記保持手段を回動させる回動手段を更に具備してもよい。
このように構成すれば、真空槽全体の小型化を図りつつ基板面の全域或いは比較的広範囲に、より一層均一な無機配向膜等の膜を形成することが可能となる。
尚、回動手段の態様は、保持手段をこのように回動させることが可能である限りにおいて何ら限定されない。例えば、回動手段は、モータなどの電動機を動力源として保持手段を回転させる装置、機構或いはシステムであってもよい。また、回動手段の一部は、第2真空槽外に設置されていてもよい。例えば、動力系又は制御系などの一部が第2真空槽外に設置されていてもよい。この場合、保持手段を直接回動させている部品又は部材などに対する動力又は制御信号などの供給は、スリップリングなどを介して行われてもよい。
また、基板は、回動手段の作用によって最終的に蒸発物質の飛行方向と交わる方向に回動する、即ち、公転するのであるが、このように公転し得る限りにおいて、基板は更に、回動手段或いはそれとは異なる何らかの手段によって自転してもよい。即ち、蒸着膜の膜質を均一化可能である限りにおいて、基板は第2空間内を比較的自由に搬送されてよい。
更に、回動手段は、基板の中心を貫通する軸とは異なる軸を中心として基板が回動するように保持手段を回動させる。この場合、好適には、基板には、第2空間を回動する過程における第3空間の上空を通過する期間において支配的に蒸着物質が到達することになる。このように構成された場合には、第2空間に基板を複数設置すると共に回動手段によって回動させることにより、効率的に複数の基板に蒸着を行うことが可能となる。
尚、回動手段が保持手段を回動させる際の回動特性を規定する制御量、例えば、回転速度などは、例えば予め実験的に、経験的に、或いはシミュレーションなどに基づいて決定されていてもよい。
本発明に係る真空蒸着装置の他の態様では、前記第2真空槽は更に、前記蒸着源と前記基板との間に前記蒸発物質の前記基板への到達を制限する制限手段を具備する。
この態様によれば、制限手段の作用により、基板に対する蒸発物質の蒸着特性を所望のものに制御することが簡便にして可能となる。
このような制限手段は、何らこのような手段が講じられない場合と比較して、蒸発物質の基板への到達が幾らかなりとも制限される限りにおいてどのような態様を有していてもよいが、好適には、蒸着源と基板との間に介在するように設置された遮蔽板、シールド又は防着板など物理的に基板への到達を制限するものを指す。但し、制限手段は、これらに限定される訳ではなく、例えば、機械的に、電気的に或いは化学的に蒸発物質の基板への到達を制限する態様を有していてもよい。また、制限手段の材質及び形状などは、予め実験的に、経験的に、或いはシミュレーションなどに基づいて、基板上に所望の特性で蒸着を行うことが可能となるように決定されていてもよい。
本発明に係る真空蒸着装置の他の態様では、前記第2空間と連通可能であって且つ前記第2空間に供給されるべき前記基板を格納するための空間である供給空間を規定すると共に、少なくとも該供給空間と前記第2空間とが相互に連通した状態において前記供給空間を真空に維持することが可能な基板供給用真空槽を更に具備する。
この態様によれば、基板をストックするための供給空間を規定すると共に、係る供給空間を真空に維持することが可能な基板供給用真空槽によって、第2真空槽(第2空間)に対し効率的に基板が供給される。即ち、供給空間とは、所謂ロードロック室に相当する概念である。この場合、供給空間は、好適には基板供給時以外は第2空間と隔絶される。この場合、第2空間と隔絶された状態で供給空間を真空に維持し得る排気系が基板供給用真空槽に接続されているのが好適である。尚、供給室にストックされる基板の枚数は何ら限定されない。このような基板供給用真空槽が備わる場合には、真空蒸着装置の生産性を一層向上させることが可能である。
本発明に係る真空蒸着装置の他の態様では、前記第2真空槽は、前記基板に蒸着された前記蒸発物質の膜厚を特定する膜厚特定手段を更に具備する。
この態様によれば、蒸着膜の膜厚が特定されるため、第2空間で行われる蒸着プロセスの品質を高レベルに維持することが可能となる。即ち、蒸着膜の膜質向上の観点から生産性が向上する。
尚、膜厚特定手段の態様は、係る膜厚の特定が可能となる限りにおいて何ら限定されず、例えば、公知である、赤外線方式、放射線方式、レーザ方式、静電容量方式又はマイクロ波方式など非接触方式の膜厚計であってもよいし、接触方式の膜厚計であってもよい。或いは、プロセス条件、例えば、電子ビーム照射手段の制御量、基板の回動(回転)速度、及び基板と蒸着源との距離などの少なくとも一部に基づいて膜厚を推定する手段であってもよい。即ち、本発明に係る「特定」とは、直接的に検出する(即ち、測定する)ことの他に、間接的に検出する(例えば、推定、予測又は推測する)ことによって膜厚を決定することを広く含む概念である。
尚、このような膜厚の特定を蒸着プロセスと同時にリアルタイムに行う場合、膜厚の特定結果に応じて適宜プロセス条件を変化させることも容易にして可能であり、真空蒸着装置の生産性向上への寄与は高いものとなる。
上述した課題を解決するため、本発明に係る電気光学装置の製造方法は、無機材料を前記蒸着源とする請求項1から11のいずれか一項に記載の真空蒸着装置によって前記基板上に電気光学装置用の無機配向膜を形成する無機配向膜形成工程を具備することを特徴とする。
本発明に係る電気光学装置の製造方法によれば、高品質な画像表示を行うことが可能な、投射型表示装置、テレビ、携帯電話、電子手帳、ワードプロセッサ、ビューファインダ型又はモニタ直視型のビデオテープレコーダ、ワークステーション、テレビ電話、POS端末、タッチパネルなどの各種電子機器に使用可能な液晶表示装置などの電気光学装置の製造工程において、無機配向膜を生産性良く蒸着することが可能となる。
本発明のこのような作用及び他の利得は次に説明する実施形態から明らかにされる。
<実施形態>
以下、適宜図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。
<実施形態の構成>
始めに、図1を参照して、本発明の一実施形態に係る真空蒸着装置10の構成を説明する。ここに、図1は、真空蒸着装置10の模式的斜視図である。
図1において、真空蒸着装置10は、ターゲットチャンバ100、プロセスチャンバ200及び飛行チャンバ300を備える。
ターゲットチャンバ100は、少なくとも一部が、例えばアルミニウムやステンレス鋼などの金属材料或いは鉄鋼材料で構成された真空槽であり、本発明に係る「第1真空槽」の一例である。
ターゲットチャンバ100の内壁部分は、ターゲットチャンバ100の内部に本発明に係る「第1空間」の一例たる空間101を規定しており、空間101には、ターゲット110及び電子ビーム照射系120が設置されている。尚、ターゲットチャンバ100の底面部分の一部は、後述する第1排気系11と接続されており、空間101内の気体をターゲットチャンバ100外に排出することによって、空間101を真空に維持することが可能に構成されている。尚、第1排気系11は、副排気装置(例えば、粗引き用)であるロータリーポンプ及び主排気装置(例えば、本引き用)であるターボ分子ポンプを含む真空排気系である。
ターゲット110は、例えば、液晶装置などの電気光学装置において無機配向膜の形成材料となる無機材料のバルクであり、不図示のルツボに載置されている。
電子ビーム照射系120は、不図示のフィラメント並びに電源系、冷却水系、制御系及び各種配線部材の一部などを含んでなり、フィラメントから電子ビームを発生させることが可能に構成された、本発明に係る「電子ビーム照射手段」の一例である。
また、ターゲットチャンバ100は、未使用のターゲット110を複数格納したターゲット供給用チャンバ14と連接している。ターゲット供給用チャンバ14は、不図示の排気系によって内部の空間15を真空に維持することが可能に構成されており、ターゲットチャンバ100においてターゲット110の残量が減少した場合には、不図示のバルブが開き、真空を保った状態で自動的にターゲット110が交換又は補充される構成となっている。
飛行チャンバ300は、ターゲットチャンバ100と同様に少なくとも一部が金属材料或いは鉄鋼材料で形成された筒状の真空槽であり、本発明に係る「第3真空槽」の一例である。飛行チャンバ300は、第1飛行チャンバ310、第2飛行チャンバ320及び第3飛行チャンバ330(即ち、夫々が本発明に係る「部分真空槽」の一例)が、夫々気密を保って相互に接続された構成を有しており、ターゲットチャンバ100に設置されたターゲット110の直上に設置されている。また、飛行チャンバ300の内壁部分(即ち、第1〜第3飛行チャンバの内壁部分)は、飛行チャンバ300の内部に、本発明に係る「第3空間」の一例たる空間301を規定している。
尚、第1飛行チャンバ310の側面部分の一部は、後述する第3排気系13と接続されており、空間301内の気体を飛行チャンバ300外に排出することによって、空間301を真空に維持することが可能に構成されている。尚、第3排気系13は、副排気装置(例えば、粗引き用)であるロータリーポンプ及び主排気装置(例えば、本引き用)であるターボ分子ポンプを含む真空排気系である。
ここで、図2を参照して、飛行チャンバ300の詳細な構成について説明する。ここに、図2は、飛行チャンバ300の模式的斜視図である。尚、同図において、図1と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を省略する。
図2において、飛行チャンバ300を構成する第1飛行チャンバ310、第2飛行チャンバ320及び第3飛行チャンバ330には、夫々同一の構成を有する窓部311、321及び331が形成されている。
窓部311は、空間301との気密を保持し得るフレーム311aと、フレーム311aに嵌め込まれたガラス部311bとを有し、光透過性のガラス部311bから、空間301内を視認できるように構成されている。また、フレーム311aの一部には、ヒンジ311cが固定されている。窓部311は、フレーム311aにおける、ヒンジ311cが設けられている場所と反対側において、回動可能に固定されている。
同様に、窓部321及び331にも、夫々フレーム321a及び331a、ガラス部321b、331b並びにヒンジ321c及び331cが設けられている。
図1に戻り、飛行チャンバ300における空間301と、ターゲットチャンバ100における空間101との連通状態は、飛行チャンバ300とターゲットチャンバ100との間に介在するゲートバルブ400によって制御されている。尚、ゲートバルブ400については後述する。
プロセスチャンバ200は、ターゲットチャンバ100及び飛行チャンバ300と同様に少なくとも一部が金属材料或いは鉄鋼材料で構成された真空槽であり、本発明に係る「第2真空槽」の一例である。プロセスチャンバ200の内壁部分は、プロセスチャンバ200の内部に本発明に係る「第2空間」の一例たる空間201を規定しており、空間201には、複数の基板210が設置されている。基板210は、液晶装置などの電気光学装置に使用されて好適な低温ポリシリコン基板である。
空間201において、各基板210は、治具900によりプロセスチャンバ200の内側面に対し一定の傾きを有するように保持されている。治具900は、空間201において、一部がプロセスチャンバ200外に空間201との気密を保って露出するシャフト910(即ち、本発明に係る「回動手段」の一例)に固定されており、シャフト910が図示A方向に回転するのに伴い、図示A方向に同様に回転することが可能に構成されている。
尚、プロセスチャンバ200の側面部分の一部は、後述する第2排気系12と接続されており、空間201内の気体をプロセスチャンバ200外に排出することによって、空間201を真空に維持することが可能に構成されている。第2排気系12は、副排気装置(例えば、粗引き用)であるロータリーポンプ及び主排気装置(例えば、本引き用)であるターボ分子ポンプを含む真空排気系である。
空間201と、飛行チャンバ300における空間301との連通状態は、プロセスチャンバ200と飛行チャンバ300との間に介在するゲートバルブ500によって制御されている。尚、ゲートバルブ500については後述する。
プロセスチャンバ200には、ロードロックチャンバ600が連接している。ロードロックチャンバ600は、その内壁面によって規定される空間601(即ち、本発明に係る「供給空間」の一例)に基板210を複数枚収容してなる真空槽であり、本発明に係る「基板供給用真空槽」の一例である。
ロードロックチャンバ600とプロセスチャンバ200との間の連通状態は、不図示のバルブによって制御されている。基板210が空間201に供給される際には、係るバルブが開き、図示せぬ搬送系により基板210が空間201内に自動的に設置される構成となっている。一方、ロードロックチャンバ600は、不図示の排気系と接続されており、プロセスチャンバ200において蒸着プロセスが実行されている期間中(即ち、バルブが閉まっている期間中)に、空間601に存在する気体を積極的に排気し得る構成となっている。ロードロックチャンバ600は、係る排気系の作用によって、真空を維持した状態でプロセスチャンバ200との間の基板の受け渡しを実行できるように構成されている。
尚、プロセスチャンバ200における蒸着(或いは、成膜)が終了すると、成膜済みの基板210は、プロセスチャンバ200に気密を保って連接された不図示の搬送チャンバへ排出される構成となっている。
次に、図3を参照して、真空蒸着装置10の詳細な構成について説明する。ここに、図3は、真空蒸着装置10の模式的な側面断面図である。尚、同図において、図1と重複する箇所には、同一の符号を付してその説明を省略する。尚、図3において、ターゲットチャンバ100、プロセスチャンバ200及び飛行チャンバ300の相対的な位置関係は、説明の煩雑化を防ぐため、必ずしも実際のものと一致しない。
図3において、真空蒸着装置10は、制御装置800を備える。制御装置800は、真空蒸着装置10の動作全体を制御する制御ユニットであり、不図示のCPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)などを備える。制御部800は、真空蒸着装置10に備わる不図示のタッチパネル装置、キーボード又は各種操作パネルからの入力操作に応じて、或いは予めROMなどに格納される又は外部供給されるプログラムに従って、真空蒸着装置10の動作を制御することが可能に構成されている。
ターゲットチャンバ100と第3飛行チャンバ330との間には、ゲートバルブ400が設置される。ゲートバルブ400は、バルブ部410、フランジ部420及びバルブ駆動部430を備えた、本発明に係る「第1連通制御手段」の一例である。
バルブ部410は、金属製の円板状部材である。フランジ部420は、ゲートバルブ400の形状を規定すると共に、ターゲットチャンバ100と第3飛行チャンバ330とを接続するフランジとして機能するように構成されている。フランジ部420の内部には、バルブ部410を退避させるための退避空間421が形成されている。バルブ部410は、バルブ駆動部430によって駆動される。バルブ駆動部430は、バルブ部410を電気的及び機械的に駆動するシステムであり、一部が気密を保った状態でフランジ部420の外空間へ露出している。バルブ駆動部430による電気的及び機械的な制御によって、バルブ部410は、退避空間421からターゲットチャンバ100に形成された連通口102の直上に相当する空間まで移動することが可能であり、更に、係る直上に相当する空間において、図示位置Bから図示位置Cまで上下移動を行うことが可能に構成されている。また、図示位置Cに位置制御された状態において、バルブ部410は、ターゲットチャンバ100の空間101と、飛行チャンバ300の空間301とを相互に気密を保って隔絶することが可能に構成されている。尚、バルブ駆動部430は、制御装置800と電気的に接続されることによって、制御装置800に上位制御されており、制御装置800から供給される制御信号に応じて、バルブ部410を駆動する構成となっている。
一方、プロセスチャンバ200と第2飛行チャンバ320との間には、ゲートバルブ500が設置される。ゲートバルブ500は、バルブ部510、フランジ部520及びバルブ駆動部530を備えた、本発明に係る「第2連通制御手段」の一例である。
バルブ部510は、金属製の円板状部材である。フランジ部520は、ゲートバルブ500の形状を規定すると共にターゲットチャンバ100と第2飛行チャンバ320とを接続するフランジとして機能するように構成されている。フランジ部520の内部には、バルブ部510を退避させるための退避空間521が形成されている。バルブ部510は、バルブ駆動部530によって駆動される。バルブ駆動部530は、バルブ部510を電気的及び機械的に駆動するシステムであり、一部が気密を保った状態でフランジ部520の外空間へ露出している。バルブ駆動部530による電気的及び機械的な制御によって、バルブ部510は、退避空間521からプロセスチャンバ200に形成された連通口202の直下に相当する空間まで移動することが可能であり、更に、係る直下に相当する空間において、図示位置Dから図示位置Eまで上下移動を行うことが可能に構成されている。また、図示位置Eに位置制御された状態において、バルブ部510は、プロセスチャンバ200の空間201と、飛行チャンバ300の空間301とを相互に気密を保って隔絶することが可能に構成されている。尚、バルブ駆動部530は、制御装置800と電気的に接続されることによって、制御装置800に上位制御されており、制御装置800から供給される制御信号に応じて、バルブ部510を駆動する構成となっている。
第1排気系11、第2排気系12及び第3排気系13の動作は、制御装置800によって制御されている。この際、各排気系に備わる各真空ポンプの電源のオンオフや電磁弁の開閉を指示する制御信号が各排気系へ供給されることによって、各排気系が制御される。また、制御装置800は、各排気系に備わる電離真空計などの真空計から各チャンバの真空度を表すセンサ信号を取得することも可能に構成されている。
電子ビーム照射系120は、電子ビーム駆動系16によってその動作が制御されている。電子ビーム駆動系16は、電子ビーム照射系120に含まれない不図示の電源系及び冷却系の一部から構成される。電子ビーム駆動系16は、制御装置800によって動作が制御されており、制御装置800から供給される、フィラメントへの通電及び冷却水バルブの開閉などを指示する旨の制御信号に応じて電子ビーム照射系120を駆動する。
プロセスチャンバ200における空間201において基板210を保持する治具900は、前述した通りシャフト910によって回転駆動されるが、シャフト910は、更に治具駆動部920と電気的及び機械的に接続されており、その回転動作が制御されている。治具駆動部920は、電源及びアクチュエータなどによって構成され、シャフト910と共に、本発明に係る「回動手段」の一例を構成しており、電源から供給される電力によって作動するアクチュエータの動力をシャフト910の回転動力に変換することによって最終的に治具900を回転駆動している。治具駆動部920は、制御装置800によってその動作が上位制御されており、制御装置800からの制御信号に応じてシャフト910を駆動している。
プロセスチャンバ200の空間201における、ターゲット110と対面しない部分の一部には、膜厚計700が設置されている。膜厚計700は、赤外線を利用した非接触方式の膜厚計であり、本発明に係る「膜厚特定手段」の一例である。膜厚計700は制御装置800と電気的に接続されており、その出力信号が制御装置800に出力される仕組みとなっている。
プロセスチャンバ200には、連通口202を覆うように遮蔽板220が設置されている。ここで、図4を参照して、遮蔽板220の詳細について説明する。ここに、図4は、遮蔽板220の模式図である。尚、同図において、図3と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を省略する。
図4において、遮蔽板220は、連通口202よりも径の大きい金属製の円板状部材である。遮蔽板220には、直線状に開口したスリット部221が形成されており、このスリット部221を介して、プロセスチャンバ200の空間201と飛行チャンバ300の空間301とが相互に連通する構成となっている。
<実施形態の動作>
次に、図1及び図3を適宜参照して、真空蒸着装置10の動作について説明する。
始めに、制御装置800によって空間101、201及び301が夫々所定の真空度となるように、排気系11、12及び13が夫々制御される。一方、制御装置800は、各排気系に備わる電離真空計からの出力信号を一定のタイミングで監視しており、各排気系の排気動作によって各空間が所定の真空度となったか否かについての判断を行うことが可能となっている。また、同様にして、ロードロックチャンバ600における空間601及びターゲット供給用チャンバ14における空間15も夫々に接続された排気系によって所定の真空度となるように排気される。尚、この際、ゲートバルブ400のバルブ部410が、図示位置Cに位置制御されるように、またゲートバルブ500のバルブ部510が、図示位置Eに位置制御されるように、各バルブ駆動部が制御される。即ち、各チャンバ内の空間は、夫々個別に真空排気される。
各空間が所定の真空度に到達した場合、制御装置800は、各ゲートバルブのバルブ部を各フランジ部における退避空間に格納し、空間101、201及び301を夫々相互に連通させる。尚、ここでは、各チャンバ内空間の設定真空度が相互に等しく、ゲートバルブが開制御された際の真空度の変動は無視し得る程に小さいものとする。
一方、各ゲートバルブが開制御されるのに伴って、制御装置800は、ロードロックチャンバ600における空間601とプロセスチャンバ200における空間201との連通部分に備わるバルブを開け、ロードロックチャンバ600に格納された基板210を所定枚数プロセスチャンバ200に供給する。この際、制御装置800は、治具駆動部920を制御して、ロードロックチャンバ600から供給される基板210を治具900に保持させる。
所定枚数の基板210が治具900によって保持されると、制御装置800は、ロードロックチャンバ600との間のバルブを閉め、治具900を、治具駆動部920を介してシャフト910によって回転させると共に、蒸着プロセスを開始する。
蒸着プロセスでは、制御装置800は、電子ビーム駆動系16を制御して電子ビーム照射系120から電子ビームを発射させ、ターゲット110に照射させる。電子ビームを照射されたターゲット110は加熱され、その一部が蒸発する。蒸発したターゲットからなる蒸発物質110aは、空間101から連通口102を介して空間301内に突入し、更に空間301内を飛行して、連通口202及び前述した遮蔽板220を介して空間201に到達する。尚、遮蔽板220には、既に述べたようにスリット部221が形成されており、蒸発物質110aは、主としてこのスリット部221を介して空間201内に到達する。ここで、連通口202の直上には、ターゲット110に斜めに対面配置された基板210があり、スリット部221を通過した蒸発物質110aは、基板210上に蒸着される。尚、前述した通り、基板210は治具900によって回動可能に保持されると共に、基板の中心を貫通する軸とは異なる軸を中心として回動するため、回動の過程における、主として連通口202上を通過する期間において、蒸発物質110aが蒸着される構成となっている。尚、蒸発物質110aは、このように遮蔽板220によって基板210への到達を制限される。即ち、遮蔽板220は、本発明に係る「制限手段」の一例として機能するように構成されている。
尚、電子ビーム照射系120における電子ビーム強度(或いは、フィラメント電流値)、治具900の回転速度及びプロセス時間(例えば、空間201に設置された全ての基板に対して蒸着が完了する時間)などは、予め実験的に、経験的に、或いはシミュレーションなどによって得られた最適な値に設定されており、制御装置800は、基本的にはこのように予め与えられたプロセス条件に従って、真空蒸着装置10の各部を協調的に制御している。また、制御装置800は、蒸着プロセスの実行中に絶えず膜厚計700の出力を監視しており、膜厚計700を介して得られる蒸着膜の膜厚に基づいて、蒸着プロセスの自動停止、或いは所定の告知(例えば、アラームなど)などを適宜行うことが可能に構成されており、品質レベルの維持による生産性の向上にも寄与している。更に、制御部800は、前述したターゲット供給用チャンバ14からのターゲット110の供給(或いは、交換)動作も制御している。この際、所定のターゲット供給(或いは、交換)タイミングが訪れる毎に、ターゲット供給用チャンバ14の空間15とターゲットチャンバ100の空間101との気密を相互に保った状態で自動的にターゲット110が供給(或いは、交換)される。従って、ターゲット110は常に効率的に使用され、生産性の向上に寄与している。
ここで、本実施形態において、ターゲット110は無機材料であり、基板210上には、無機配向膜が成膜される。この際、基板210は、プロセスチャンバ200の内壁面に対し傾斜して配置されるため、基板表面に、蒸着方向に傾斜して配列された多数の柱状構造物からなる無機配向膜が、蒸発物質110aから良好に形成される。即ち、真空蒸着装置10は、ターゲット110たる無機材料の斜方蒸着が可能に構成されている。このような無機配向膜は、液晶表示装置における配向膜として好適に利用可能であり、この場合、柱状構造物の傾斜方向や傾斜角等を制御することによって、所望の配向膜(或いは、所望の配向方向やプレティルト角)を得ることができ、これによって液晶分子の配向状態を規制することができる。しかも、この無機配向膜によれば、有機配向膜において必要となるラビング処理が必要ないから、その分の工程数等を削減可能である。また、液晶分子を所定の配向状態に維持する力が、有機配向膜に比べて強いという利点も得られる。
<装置メンテナンス時の動作>
ここで、上述した蒸着プロセスを続ける過程において、真空蒸着装置10における各チャンバには、主として蒸発物質110aが付着し、堆積することとなる。この付着堆積した蒸発物質は、真空度の低下或いは蒸着膜の膜質低下を助長する恐れがあるため、定期的に洗浄などのメンテナンスを行う必要がある。一方、このような付着又は堆積が顕著に発生するのは、一般的に、ターゲット110と基板210との間の空間(即ち、蒸発物質の飛行空間)を規定する壁部分であり、従って、メンテナンスの必要性が高い部分もこの部分である。
本実施形態に係る真空蒸着装置10において、この飛行空間に対応する部分は、飛行チャンバ300内の空間301であるが、本実施形態に係る真空蒸着装置10では、飛行チャンバ300がターゲットチャンバ100及びプロセスチャンバ200と取り外し可能な独立したチャンバ構成を有しているため、高いメンテナンス性が担保されている。
また、制御装置800によって、或いは手動操作によって、ゲートバルブ400及びゲートバルブ500の各バルブ部の位置を制御することにより(即ち、図3における図示位置C及びE)、ターゲットチャンバ100における空間101及びプロセスチャンバ200における空間201と飛行チャンバ300における空間301とは相互に隔絶される。この状態で、第3排気系13に備わる不図示のリークバルブなどを開放することによって空間301を大気開放すれば、真空蒸着装置10全体を大気開放することなく、即ち、ターゲットチャンバ100における空間101及びプロセスチャンバ200における空間201の真空度を維持した状態で、飛行チャンバ300のメンテナンスを実行することが可能となる。
ここで、図5を参照して、飛行チャンバ300のメンテナンス例について説明する。ここに、図5は、メンテナンス時における飛行チャンバ300の例示図である。尚、同図において、図2と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を省略することとする。
図5において、第1飛行チャンバ310における窓部311は、ヒンジ311cの操作を介して、フレーム311aの一辺を支持部として図示の如く開かれる。従って、窓部311を開放したことによって得られる開口部分から容易に第1飛行チャンバ310内部(即ち、空間301の一部)をメンテナンスすることが可能となる。
この場合、メンテナンスの態様は、例えば、物理的、機械的、電気的又は化学的な洗浄処理であってもよいし、係る開口部を介して空間301内の所定位置に防着板やシールドなどの遮蔽部品を取り付ける又はそれらを交換する処理であってもよい。尚、真空蒸着装置10の各チャンバが、相互に独立して真空を維持し得る点及び開閉可能な窓部を有する点に鑑みれば、飛行チャンバ300を真空蒸着装置10から取り外すこと無しに、飛行チャンバ300のメンテナンスを行うことも可能である。また、飛行チャンバ300に備わる各窓部は、光透過性のガラス部を有するため、蒸着プロセス中に、或いは任意のタイミングで、空間301における蒸発物質110aの付着状態又は堆積状態を目視確認することも可能であり、効率的にメンテナンスを実行することが可能である。
尚、ターゲットチャンバ100、プロセスチャンバ200及び飛行チャンバ300が夫々相互に独立して真空を維持することが可能であることに鑑みれば、飛行チャンバ300と同様にしてターゲットチャンバ100或いはプロセスチャンバ200のメンテナンスを個別に実行することも容易にして可能である。
<プロセス条件の最適化>
ここで、飛行チャンバ300の更なる効果について、図6を参照して説明する。ここに、図6は、飛行チャンバ300の組換えに関する模式図である。尚、同図において、図2と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を省略する。
図6において、標準状態の飛行チャンバ300が示される(図6(a))。ここで述べる標準状態とは、第1飛行チャンバ310、第2飛行チャンバ320及び第3飛行チャンバ330が相互に直列に配列した構成を指す。ここで、蒸発物質の飛行方向への各チャンバの長さは、第1、第2及び第3飛行チャンバ各々について、夫々2L、L及びLであり、従って、飛行チャンバ300全体の長さは、4Lとなっている。
ここで、既に述べた蒸着プロセスが行われる過程で、ターゲット110と基板210との最適な距離が判明する或いは変化することがある。ここで、飛行チャンバ300を構成する各チャンバは相互に取り外しが可能であるから、第3排気系13が接続される第1飛行チャンバ310を除いては、その脱着の選択は自由に決定され得る。即ち、この場合、飛行チャンバ300として選択し得る飛行方向への長さは、2L、3L及び4Lの中から自由に選択可能である。例えば、第1飛行チャンバ310のみにて長さ2Lの飛行チャンバ300aを構成することもできる(図6(b))。また、第2飛行チャンバ320及び第3飛行チャンバ330は単なる筒状のチャンバであり、スペーサとしての意味合いが強いから、別途追加することも容易にして可能である。即ち、飛行チャンバの長さは、比較的大きな自由度が担保されている。このように、真空蒸着装置10は、所望されるプロセス条件に応じて飛行チャンバ300の構成を自由に決定することが可能であり、蒸着膜の膜質向上に伴う生産性向上の効果を併せ持っている。
以上説明したように、本実施形態に係る真空蒸着装置10によれば、ターゲットチャンバ100とプロセスチャンバ200との間に飛行チャンバ300を有し、且つこの飛行チャンバ300が、ターゲットチャンバ100内の空間101及びプロセスチャンバ200内の空間201を夫々真空に維持した状態でこれらから取り外すことが可能に構成されている。従って、装置メンテナンスに要する時間を短縮化し、生産性を向上させることが可能となっているのである。
<電気光学装置の製造方法>
図7を参照して、上述した本実施形態に係る真空蒸着装置を用いて、電気光学装置を製造する方法について説明する。ここでは、電気光学装置の一例として、一対の基板である素子基板と対向基板間に、電気光学物質の一例たる液晶が挟持されてなる液晶装置を製造する場合について説明する。図7は、その製造の流れを示す工程図である。
図7において先ず、一方で、素子基板上に、各種配線、各種電子素子、各種電極、各種内蔵回路等を、既存の薄膜形成技術やパターンニング技術等により、その製造すべき機種に応じて適宜作成する(ステップS1)。その後、上述した実施形態に係る真空蒸着装置10を用いて、素子基板における、対向基板に面することとなる側の表面に、斜方蒸着により所定のプレティルト角を持つ無機配向膜を形成する(ステップS2)。
他方で、対向基板上に、各種電極、各種遮光膜、各種カラーフィルタ、各種マイクロレンズ等を、既存の薄膜形成技術やパターンニング技術等により、その製造すべき機種に応じて適宜作成する(ステップS3)。その後、上述した実施形態に係る真空蒸着装置10を用いて、対向基板における、素子基板に面することとなる側の表面に、斜方蒸着により所定のプレティルト角を持つ無機配向膜を形成する(ステップS4)。
その後、無機配向膜が形成された一対の素子基板及び対向基板を、例えば紫外線硬化樹脂、熱硬化樹脂等からなるシール材を用いて、両無機配向膜が対面するように貼り合わせる(ステップS5)。その後、これらの貼り合わせられた基板間に、例えば真空吸引等を用いて液晶を注入し、例えば接着剤等の封止材による封止や、更に洗浄、検査などが行われる(ステップS6)。
以上により、上述した実施形態に係る真空蒸着装置10による斜方蒸着を用いて形成された無機配向膜を備えた液晶装置の製造が完了する。このように、上述した実施形態に係る真空蒸着装置10を用いて無機配向膜を形成するので、本製造方法によればメンテナンスに要する時間を含めた上での生産効率が顕著に高くなる。
本発明は、上述した実施例に限られるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う真空蒸着装置及び電気光学装置の製造方法もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。
10…真空蒸着装置、100…ターゲットチャンバ、101…空間、110…ターゲット、110a…蒸発物質、120…電子ビーム照射系、200…プロセスチャンバ、201…空間、210…基板、300…飛行チャンバ、301…空間、310…第1飛行チャンバ、320…第2飛行チャンバ、330…第3飛行チャンバ、400…ゲートバルブ、500…ゲートバルブ、600…ロードロックチャンバ、700…膜厚計、800…制御装置、900…治具。