JP4654737B2 - 樹脂組成物、成形物及び成形物の製造方法 - Google Patents
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Description
生分解性を具備する樹脂は、従来公知の汎用合成樹脂と異なり、例えば非化石燃料より作製されるため資源枯渇の問題が生じないこと、自然界で分解されるため廃棄物処理に関する問題の解決に寄与し得ること、トウモロコシ等の天然資源から製造可能であること、総合的に見て地球温暖化の原因とされるCO2ガス発生量を抑制できること等の利点を有しており、今後において、一層注目されることが予想される材料である。
生分解性樹脂の中でも、例えば、脂肪族ポリエステル、特にポリ乳酸は、融点が高く(170〜180℃)、またこれにより作製された成形品は、透明性を有するものとすることができるといった材料としての特性に優れており、広い実用性が期待されている。
例えば、テレビの筐体やパソコンのハウジング等といった電気製品、電子製品等への応用が検討されている。
電気製品の筐体や構造材等の用途を考慮すれば、概して温度80℃程度の耐熱性が必要とされる。
結晶構造をとり得るポリマーとしては、例えば、ポリプロピレン等のポリオレフィン系ポリマー、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系ポリマー、ポリアミド系ポリマー等が挙げられる。
なお、ここで、実用上の耐熱性とは、80℃付近での剛性(弾性率)が100MPa程度得られることを意味する。
すなわち、樹脂に高耐熱性を有する無機フィラーを添加することにより、機械特性を改善させ、固くする効果が得られる。
しかしながら、樹脂に無機フィラーを添加するのみでは、実用面における充分な耐熱性を確保することは困難である。
ポリ乳酸は、結晶構造をとり得る材料であるが、結晶化しにくい高分子であるため、ポリ乳酸を通常の汎用樹脂と同様の方法で成形すると、成形品は非晶質となってしまい、機械的強度に劣り、かつ熱変形を生じ易いものとなる。
これに対し、成形中又は成形後に熱処理を施すことによって、ポリ乳酸を結晶化でき、成形品の耐熱性の向上を図ることができる。
例えば、汎用性樹脂を用いた射出成形工程は、通常1分程度の成形サイクルにより行われるが、ポリ乳酸の成形品を金型内で熱処理工程を経て結晶化を終了させるためには、かなりの時間がかかることが確認された。
また、ポリ乳酸の結晶核となる物質を添加せずに、ポリ乳酸のみで結晶化させると、結晶核の自由発生頻度が小さいため、結晶のサイズがミクロンオーダー程度となってしまい、ポリ乳酸の結晶自体が光散乱の要因となって白濁し、透明性が失われ、実用面における有効性が低減してしまう。
核剤とは、結晶性高分子の一次結晶核となり、結晶性ポリマーの結晶成長を促進するものである。また広義には、結晶性高分子の結晶化を促進、すなわち、高分子の結晶化速度そのものを速くするものも核剤と言うこともある。
核剤が樹脂に添加されると、高分子の結晶を微細化でき、剛性が改善されたり、あるいは透明性が改善されたりするという効果が得られる。
また、成形中に結晶化をさせる場合においては、結晶化の全体の速度(時間)を速めることから、成形サイクルを短縮できるという利点もある。
例えばポリプロピレン(以下、PPともいう。)は、核剤を添加することで、剛性や透明性が改善されており、物性改善されたPPは、多くの成形品で実用化されている。
この場合の核剤としては、例えばソルビトール系物質が挙げられ、これが作る三次元的なネットワークが効果的に作用していると考えられている。
また、PP用に金属塩タイプの核剤も実用化されている。
金属塩タイプの核剤としては、例えばヒドロキシ−ジ(t−ブチル安息香酸)アルミニウム、リン酸ビス(4−t−ブチルフェニル)ナトリウム、メチレンビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスフェートナトリウム塩等が挙げられる。
また、このような添加量とすると、得られる樹脂組成物は白色となり、透明性が失われてしまうという実用面における問題を生じる。
その他、ポリエステルに核剤を添加して結晶化を促進させる方法としては、例えば、脂肪族ポリエステルに、透明核剤として脂肪族カルボン酸アミド、脂肪族カルボン酸塩、脂肪族アルコール、及び脂肪族カルボン酸エステルからなる、40〜300℃の融点を有する化合物群から選択された少なくとも一種を添加する技術等が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
また、例えば脂肪族ポリエステルに、透明核剤として80〜300℃の融点又は軟化点を有し、かつ、10〜100cal/K/molの溶融エントロピーを有する有機化合物からなる群から選択された少なくとも一種の有機化合物を添加する技術(例えば、下記特許文献3参照)や、ポリ乳酸系樹脂に透明化剤として特定の構造の脂肪酸エステル類を添加する技術等が提案されている(例えば、下記特許文献4参照。)。
また、ポリエステルと組み合わせた際、ポリエステルの結晶化を大幅に促進することができるような核剤は未だに得られていない。
特に、ポリマーとしてポリ乳酸を適用すると、透明性を有する、実用面に優れた樹脂組成物が得られた。
また、本発明によれば、樹脂組成物で樹脂成形品を成形したときに、樹脂組成物における結晶構造をとり得るポリマーの結晶化度が高められることから、優れた剛性、成形性及び耐熱性を示す樹脂成形品を提供することができた。
本発明の樹脂組成物は、少なくとも結晶構造をとり得るポリマーと、このポリマーの結晶化を促進させるアミノ酸とよりなるものである。
ポリマーとしては、結晶構造をとり得る性質を有しているものであれば、従来公知のものにいずれも適用可能である。
結晶構造をとり得るものとは、結晶構造を一部でもとり得るものであればよく、全ての分子鎖が規則正しく配列できるものでなくてもよい。さらに、全ての分子鎖に規則性がなくても、一部の分子鎖セグメントが配向可能であればよい。
ポリエステル系ポリマー(以下単にポリエステル)にはエステル結合を少なくとも一個有する高分子化合物であって、結晶構造を取り得るものであればどのようなものでもよく、公知のものをいずれも適用可能である。
また結晶構造をとり得るポリエステルは、直鎖状であることが好ましいが、分岐状等であってもよい。
生分解性ポリエステルとしては、例えば微生物によって代謝されるポリエステル系の樹脂等が挙げられ、特に、成形性、耐熱性、耐衝撃性に優れている脂肪族系ポリエステルが好適である。
特に、これらの中でも、ポリ乳酸系脂肪族系ポリエステルが好ましい。ポリ乳酸系脂肪族系ポリエステルとしては、例えば乳酸、リンゴ酸、グルコール酸等のオキシ酸の重合体又はこれらの共重合体等が挙げられ、中でもヒドロキシカルボン酸系脂肪族ポリエステルを用いることが好ましく、さらにヒドロキシカルボン酸系脂肪族ポリエステルの中でも、ポリ乳酸が最も好ましい。
具体的には、ラクチド法、多価アルコールと多塩基酸との重縮合、又は分子内に水酸基とカルボキシル基とを有するヒドロキシカルボン酸の分子間重縮合等の方法等が挙げられる。
また、ポリ乳酸系脂肪族系ポリエステルを作製するための触媒としては、例えば錫、アンチモン、亜鉛、チタン、鉄、アルミニウム等といった金属の化合物等が挙げられる。錫系触媒、アルミニウム系触媒が好適であり、オクチル酸錫、アルミニウムアセチルアセトナートを用いるのが特に好適である。
しかしながら、本発明においては、ポリ乳酸系脂肪族系ポリエステルとしてL体に限定されるものではなく、使用するラクチドについてもL体に限定されない。
具体的な結晶構造をとり得るポリエステルの例としては、三井化学株式会社製の生分解性ポリエステル(製品名:レイシア)等が適用できる。
例えば、生分解性樹脂としては、セルロース、デンプン、デキストラン、又はキチン等の多糖誘導体、コラーゲン、カゼイン、フィブリン又はゼラチン等のペプチド、ポリアミノ酸、ポリビニルアルコール、ナイロン4又はナイロン2/ナイロン6共重合体等のポリアミド、必ずしも結晶構造を取らないとして知られているポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリコハク酸エステル、ポリシュウ酸エステル、ポリヒドロキシ酪酸、ポリジグリコール酸ブチレン、ポリカプロラクトン又はポリジオキサノン等のポリエステル等が挙げられる。
これらを単独で含有させてもよく、複数種を混合させてもよい。
2種類以上の生分解性樹脂を含有させる場合には、それらの樹脂は共重合体を形成していてもよいし、混合状態をとっていてもよい。
また、樹脂組成物には、上述した生分解性樹脂以外の樹脂が含有されていてもよい。
例えば、分解速度を緩和したポリ乳酸やポリブチレンサクシネート等があげられる。
アミノ酸は、分子内にアミノ基(−NH2)と、カルボキシル基(−COOH)を分子内に有することを特徴とする化合物である。
また、イミノ酸も同様に適用できる。
なお、式(1)〜(10)中の*は不斉炭素原子である。
本発明は、これらに限定されることなく、β−アミノ酸、γ−アミノ酸、δ−アミノ酸の各種のアミノ酸も適用できる。
また、分子中に含まれるカルボキシル基とアミノ基の数の割合によって、モノアミノモノカルボン酸(中性アミノ酸)、モノアミノジカルボン酸(酸性アミノ酸)、ジアミノモノカルボン酸(塩基性アミノ酸)のように分類されるが、これらについても、同様に適用できる。
上記各種アミノ酸のうち、α−アミノ酸は、生分解性に優れた材料であり、更には最終的に得られる樹脂組成物において、優れた透明性が確保できるので、材料としての実用的優れた組成物が得られるという利点を有している。
生体に含まれるタンパク質を構成するもののほとんどがL体のα−アミノ酸である。
通常、アミノ酸とは、生体のタンパク質を構成するL体のα−アミノ酸を意味することが多いが、本発明においては、このようなアミノ酸に限定されず、分子内にアミノ基とカルボキシル基とを有するものを適用できる。
また、アミノ酸の光学異性体についても、種々の形態のものを適用できる。
脂肪族あるいは芳香族などの構造を、アミノ酸の基本構造への置換基と考えることができる。置換基には更に官能基や置換基が導入されていてもよい。
具体的には、例えばハロゲン原子(例えばフッ素、塩素、臭素又はヨウ素等)、ニトロ基、シアノ基、ヒドロキシ基、チオール基、スルホ基、スルフィノ基、メルカプト基、ホスホノ基、例えば直鎖状又は分岐状のアルキル基(例えばメチル基、エチル基、イソプロピル基、n−プロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、第2ブチル基、第3ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基又はエイコシル基等)、ヒドロキシアルキル基(例えばヒドロギシメチル基、ヒドロキシエチル基、1−ヒドロキシイソプロピル基、1ヒドロキシ−n−プロピル基、2−ヒドロキシ−n−ブチル基又は1−ヒドロキシ−イソブチル基等)、ハロゲノアルキル基(例えばクロロメチル、ジクロロメチル、トリクロロメチル、フルオロメチル、ジフルオロメチル、トリフルオロメチル、2−ブロモエチル、2,2,2−トリフルオロエチル、ペンタフルオロエチル、3,3,3−トリフルオロプロピル、4,4,4−トリフルオロブチル、5,5,5−トリフルオロペンチル又は6,6,6−トリフルオロヘキシル等)、シクロアルキル基(例えばシクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル又はシクロヘプチル等)、アルケニル基(例えばビニル、クロチル、2−ペンテニル又は3−ヘキセニル等)、シクロアルケニル基(例えば2−シクロペンテニル、2−シクロヘキセニル、2−シクロペンテニルメチル又は2−シクロヘキセニルメチル等)、アルキニル基(例えばエチニル、1−プロピニル、2−プロピニル、1−ブチニル、2−ペンチニル又は3−ヘキシニル等)、オキソ基、チオキソ基、アミジノ基、イミノ基、アルキレンジオキシ基(例えばメチレンジオキシ又はエチレンジオキシ等)、フェニル若しくはビフェニル等の芳香族単環式或いは芳香族縮合環式炭化水素基、1−アダマンチル基若しくは2−ノルボルナニル等の架橋環式炭化水素基等の芳香族炭化水素基、アルコキシ基(例えばメトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、イソブトキシ、sec−ブトキシ、tert−ブトキシ、ペンチルオキシ、ネオペンチルオキシ又はヘキシルオキシ等)、アルキルチオ基(例えばメチルチオ、エチルチオ、プロピルチオ、イソプロピルチオ、ブチルチオ、イソブチルチオ、ペンチルチオ又はヘキシルチオ等)、カルボキシル基、アルカノイル基(例えばホルミル;アセチル、プロピオニル、ブチリル又はイソブチリル等)、アルカノイルオキシ基(例えばホルミルオキシ;アセチルオキシ、プロピオニルオキシ、ブチリルオキシ又はイソブチリルオキシ等のアルキル−カルボニルオキシ基等)、アルコキシカルボニル基(例えばメトキシカルボニル、エトキシカルボニル、プロポキシカルボニル又はブトキシカルボニル等)、アラルキルオキシカルボニル基(例えばベンジルオキシカルボニル等)、チオカルバモイル基、アルキルスルフィニル基(例えばメチルスルフィニル又はエチルスルフィニル等)、アルキルスルホニル基(例えばメチルスルホニル、エチルスルホニル又はブチルスルホニル等)、スルファモイル基、モノアルキルスルファモイル基(例えばメチルスルファモイル又はエチルスルファモイル等)、ジアルキルスルファモイル基(例えばジメチルスルファモイル又はジエチルスルファモイル等)、アリールスルファモイル基(例えばフェニルスルファモイル又はナフチルスルファモイル等)、アリール基(例えばフェニル又はナフチル等)、アリールオキシ基(例えばフェニルオキシ又はナフチルオキシ等)、アリールチオ基(例えばフェニルチオ又はナフチルチオ等)、アリールスルフィニル基(例えばフェニルスルフィニル又はナフチルスルフィニル等)、アリールスルホニル基(例えばフェニルスルホニル又はナフチルスルホニル等)、アリールカルボニル基(例えばベンゾイル又はナフトイル等)、アリールカルボニルオキシ基(例えばベンゾイルオキシ又はナフトイルオキシ等)、ハロゲン化されていてもよいアルキルカルボニルアミノ基(例えばアセチルアミノ又はトリフルオロアセチルアミノ等)、置換基を有していてもよいカルバモイル基(例えば化学式−CONR1R2で示される基。但し、式中、R1及びR2はそれぞれ水素原子、置換基を有していてもよい炭化水素基、若しくは置換基を有していてもよい複素環基である。また、R1とR2は隣接する窒素原子と共に環を形成してもよい。)、置換基を有していてもよいアミノ基(例えばアミノ、アルキルアミノ、テトラヒドロピロール、ピペラジン、ピペリジン、モルホリン、チオモルホリン、ピロール又はイミダゾール等)、置換基を有していてもよいウレイド基(例えば、化学式−NHCONR1R2で示される基、但し、式中、R1及びR2はそれぞれ水素原子、置換基を有していてもよい炭化水素基、若しくは置換基を有していてもよい複素環基である。また、R1とR2は隣接する窒素原子と共に環を形成してもよい。)、置換基を有していてもよいカルボキサミド基(例えば化学式−NR1COR2で示される基。但し、式中、R1及びR2はそれぞれ水素原子、置換基を有していてもよい炭化水素基、若しくは置換基を有していてもよい複素環基である。また、R1とR2は隣接する窒素原子と共に環を形成してもよい。)、置換基を有していてもよいスルホナミド基(例えば化学式−NR1SO2R2で示される基。但し、式中、R1及びR2はそれぞれ水素原子、置換基を有していてもよい炭化水素基、若しくは置換基を有していてもよい複素環基である。また、R1とR2は隣接する窒素原子と共に環を形成してもよい。)、置換基を有していてもよい水酸基もしくはメルカプト基、置換基を有していてもよい複素環基(例えば環系を構成する原子(環原子)として、炭素原子以外に酸素原子、硫黄原子及び窒素原子等から選ばれたヘテロ原子1〜3種を少なくとも1個含む芳香族複素環基。具体的にはピリジル、フリル、チアゾリル、飽和あるいは不飽和の脂肪族複素環基等)、又はこれら置換基を化学的に許容される限り置換させた置換基等が挙げられる。
芳香族置換基は複素環であってもよい。
具体的には、トリプトファン(下記式(6))、フェニルアラニン(下記式(7))等が挙げられる。グリシンにフェニル基が導入されたフェニルグリシン等も適用できる。
芳香族置換基にさらに置換基が導入されているアミノ酸も本発明で有効である。
具体的には、フェニルアラニンのフェニル基のパラ位に水酸基が導入されているチロシンが挙げられる。メタ位に水酸基が導入されているm−チロシン(下記式(8))も適用でき、オルト位に水酸基が導入されているo−チロシンも適用できる。
また、フェニルアラニンのフェニル基に塩素が導入されているp−クロロ-フェニルアラニン(下記式(9))も適用できる。塩素の導入位置は、パラ位だけに限定されず、メタ位、オルト位のいずれでもよい。
この他、p−ヒドロキシフェニルグリシン(下記式(10))も適用できる。これはL体、D体のいずれでも適用でき、あるいはこれらの混合物も適用でき、ラセミ体であってもよい。
市販のアミノ酸としては、例えば、株式会社味の素タカラコーポレーションや、協和発酵株式会社から販売されているものを適用できる。
また、生物化学的な製造方法であるアミノ酸発酵によってアミノ酸を合成してもよい。
アミノ酸発酵とは、アミノ酸を生産物とする好気的発酵である。
他にリシン発酵、オルニチン発酵等が公知である。
アミノ酸発酵は化学的合成と異なって鏡像異性体の一方しか合成されないという選択的な効果があるという利点がある。
公知のアミノ酸発酵によってアミノ酸を得て、そのアミノ酸を化学的に修飾して前述の置換基を導入してもよい。
更には、粉体粒子はアミノ酸の結晶となっているものが好適である。
アミノ酸の結晶粒子の粒径は、10μm以下が好ましく、更には1μm以下の粒子状であることが望ましい。
また、樹脂組成物において、組成物中のアミノ酸の配合割合は、結晶構造をとり得るポリマー100重量部に対して0.001重量部〜10重量部の範囲とすることが好ましく、更には、0.01重量部〜1重量部の範囲とすることが望ましい。
アミノ酸の結晶粒子の粒径と含有量とは互いに影響しあい、ポリマーの結晶化を促進する核剤としての効力となるように、粒径と含有量とを決定することが必要である。
ここに二つの樹脂組成物があって、核剤の含有量が略同じである場合、核剤の粒径は小さい方が高い結晶化効果が得られる。これは、核剤の粒径が小さいほど、樹脂組成物中の核剤粒子数が多くなり、核の数が増して結晶を微細にさせるからである。
この場合、核剤の粒径が2分の1になると、1個の核剤粒子の体積は8分の1となるので、粒子の数は8倍になる。すなわち、粒径を2分の1にすれば添加量を8分の1にしても、同程度の作用効果が期待できるのである。
なお、同粒径の核剤が含有されている場合は、添加量を多くした方が核剤としての作用効果は高くなることは明らかである。
なお、ここでは簡単なモデルを考え、次のことを仮定する。
(1)計算の簡略化のため、結晶構造を取り得るポリマー及び核剤の密度は略同一とする。
(2)核剤の粒子は、全く凝集がなく、且つ樹脂組成物中に完全に均一に分散しているものとする、すなわち核剤が組成物中に立方格子状に存在する。
(3)結晶構造を取り得るポリマーの結晶は立方体とする。
(4)同様に核剤の粒子も立方体とする。
(5)1つの核剤から1つの樹脂結晶が生ずるものとする。
(6)結晶構造を取り得るポリマーをここでは具体的にポリ乳酸とする。
上記のような仮定に基づいた場合、核剤の含有量(%)と核剤の粒径とから体積計算によって、ポリ乳酸の結晶サイズを求めることができる。
その結果を下記表1に示す。
実際に核剤を樹脂成形品に含有させる場合には、以上のような体積計算を参考にして目的に応じて必要な結晶サイズとなるように核剤の粒径や含有量を選択すればよい。
120℃におけるポリ乳酸の球晶の半径(r)の成長速度(dr/dt)は、約2μm/分であることが確かめられた。
ここで、具体的に、この球晶の半径の成長速度を、以上で仮定した立方体の形状の結晶の成長速度と略同じとすると、結晶化に要する時間を計算できる。その結果を下記表2に示す。
樹脂組成物においては、結晶構造をとり得るポリマー100質量部に対し、核剤が0.001重量部〜10重量部含有されていることが好ましいことが確かめられた。
ポリマー100質量部に対する核剤の含有量が0.001質量部未満であると、核剤の含有量が少なすぎて核剤を含有させることでポリマーの結晶化を促進させるといった作用効果を得ることが困難になる。
一方、ポリマー100質量部に対する核剤の含有量が50質量部よりも多い場合には、核剤の含有量が多すぎ、最終的に得られる樹脂組成物の剛性等の機械的特性が劣化してしまうという問題がある。
従って、ポリマー100質量部に対し、核剤を0.001質量部〜10質量部の範囲で添加することにより、ポリマーの結晶化が促進され、かつ樹脂組成物の機械的特性の劣化を防止できることが確かめられた。
すなわち、ポリ乳酸を、射出成形機で金型温度を120℃程度に設定した金型内で結晶化させる場合、結晶化に要する時間は5分程度であると見積もられる。
一方、樹脂は成形機のシリンダー内で高温の溶融状態で滞留するが、ポリ乳酸が熱分解してしまうおそれがあることから、金型内での滞留時間を5分以内にする。従って、ポリ乳酸に対して粒径が10μmの核剤を10質量部含有させることは、上述した核剤の含有量の最適範囲を満たす境界の条件である。
かかる点に鑑みて、核剤の粒径は、0.5μm程度以下とすることが好ましく、これにより、凝集が抑制され、樹脂への良好な分散性を確保できる。
ポリ乳酸を、粒径が0.5μmの核剤を用いて結晶化させる場合、上記表2より結晶化に要する時間を5分程度に留めるためには、核剤の含有量の下限としてはポリ乳酸100質量部に対して0.001質量部であることがわかる。
なお、核剤の種類によっては、その粒径が0.5μmより小さくても凝集が少なくなることもあり、この場合には、その含有量をさらに低減化することもできる。あるいは、より小さいサイズの核剤を使う場合は、何らかの凝集防止剤を使うことで樹脂への核剤の分散を改善し、含有量を少なくすることもできる。
このことから、ポリマー中における核剤粒子の大きさは、可視光の波長よりも小さくなっていなければならない。
ここでは可視光の波長を1μmとして、前記表1に記載の核剤の粒径と核剤の添加量との範囲においては、少なくても核剤の粒径が0.5μm以下で、かつ核剤の添加量は、10%以上でなければならない。
樹脂組成物の透明性を充分に確保するためには、核剤の粒径が0.15μm以下で、かつ核剤の添加量が1%以上とすることが望ましい。より望ましくは、核剤の粒径が0.05μm以下で、かつ核剤の添加量が1%以上とすることが好ましい。
さらにより望ましくは、核剤の粒径が0.01μm以下とし、かつ核剤の添加量を0.1%以上とするのが好ましい。
濁り具合を表すものとしてヘイズが知られている。測定方法は、日本工業規格のJIS K 7105等により規定されている。
具体的には、樹脂から作られた1mmの厚さの板のヘイズ値で透明性を表すことが行われている。ヘイズ値が小さい方が透明性が高いものとされている。
例えば、ポリプロピレンにソルビトール系物質を添加した公知の樹脂組成物は透明性が高く、ポリプロピレン樹脂組成物で製造した容器はその中に入れた食品などの中身を認識できるほどの透明性を有する。この場合の、ヘイズ値は30%程度である。
なお、本発明の樹脂組成物においても、結晶構造をとり得るポリマーに対して添加するアミノ酸の粒径を適正化することにより、ヘイズ値を小さくし、透明性を向上させることができる。
しかし、光の波長より大きな粒子がポリマー中に含まれ、それらの屈折率が異なると、その粒子ポリマーに対して光学的な異物となり、透明性が低下してしまう。
このとき、結晶構造をとり得るポリマーの屈折率とアミノ酸の屈折率とがなるべく近い値であることがより望ましい。具体的には、互いに±約0.05以内であることが望ましい。これによりアミノ酸の粒子がポリマーに対して光学的な異物となることが回避される。
このため、ポリマーに対する核剤の含有量を多くする必要があると考えられるが、核剤の含有量としては樹脂組成物の機械的特性の低下等を考慮すると1%程度にすることが好ましい。
従って、樹脂組成物においては、ポリマー100質量部に対して核剤の添加量を0.01質量部〜1質量部の範囲とすることで核剤による作用効果をさらに高めることができる。
例えば、機械的な粉砕方法、化学的方法のいずれでもよい。
機械的な粉砕方法には、ボールミルによる方法、凍結粉砕等が挙げられる。あるいは、ジェットミル、エアーハンマーと呼ばれる粉砕方法も適用できる。
これらの方法は、粒子を気流とともに二方向から衝突させて粉砕する方法である。
化学的な方法としては、再結晶や噴霧乾燥等が挙げられる。
アミノ酸を所定の溶媒に溶解させ、再結晶によって微粒子を得ることもできる。
すなわち、温度による溶解度の相違を利用して高温のアミノ酸飽和溶液を冷却したり、溶媒を蒸発させて濃縮したり、溶液に他の適当な溶媒を加えて溶解度を減少させたりする等の方法により微粒子が得られる。
あるいは、アミノ酸を溶解させた溶液を噴霧させて溶媒を気化させて微粒子を得る噴霧乾燥も適用できる。
その他、従来公知の微粒子作製方法をいずれも適用できる。
結晶構造をとり得るポリマーへ添加する前の段階では、アミノ酸の粉体、すなわち粒子が凝集しているか、凝集が少ないか、あるいは凝集していないかは本発明では問わないが、ポリマーへアミノ酸を添加し、樹脂組成物を作製したときに、前述のようにポリマー中でアミノ酸の粒子が凝集しているのは好ましくなく、均一分散していることが望ましい。この状態を達成するためには、やはりポリマーへ添加する前の段階で、アミノ酸粒子の凝集を抑制しておくのが望ましい。
凝集を抑制する方法としては従来知られている方法を用いることができる。
例えば、アミノ酸へ凝集防止剤を、微粒化加工前に添加したり、あるいはその加工中に添加、またあるいはその加工後に添加する方法が挙げられる。
凝集防止剤としては、従来公知の材料を適用でき、例えば、低分子ポリエチレン、非イオン性界面活性剤等が挙げられる。
混合方法については後述する。
無機フィラーとしては、公知の材料を適用でき、例えばタルク、アルミナ、シリカ、マグネシア、マイカ、カオリン等が挙げられ、これらのうち何れか一種を用いてもよく、複数種を組み合わせてもよい。
結晶構造をとり得るポリマーとしてポリ乳酸やポリプロピレンを適用する場合、無機フィラーであるタルクは、アミノ酸と併用しても、互いにその作用効果を打ち消すことなく、ポリマーの結晶化を促進させる効果があることから、好ましい材料である。
ここで、無機フィラーは、結晶構造をとり得るポリマー100質量部に対して1質量部〜50質量部添加されていることが好ましい。
ポリマー100質量部に対する無機フィラーの添加量が1質量部未満であると、無機フィラーの添加量が少なすぎ、樹脂組成物の耐熱性や剛性を高める作用効果が充分に得られなくなる。
一方、ポリマー100質量部に対する無機フィラーの添加量が50質量部より多い場合、無機フィラーの添加量が多すぎて最終的に得られる樹脂組成物が脆弱化するおそれがある。
従って、ポリマー100質量部に対し、無機フィラーを1質量部〜50質量部の範囲で添加することは、樹脂組成物の耐熱性や剛性を高め、かつ樹脂組成物が脆弱化することを防止できる。
例えば、近年、レジ袋等の使用期間の短い用途に分解性のポリマー、すなわち生分解性ポリエステルを用いることが提案されている。
さらに、かかる目的のため、ポリマーの分解を促進する研究開発がされており、ポリエステルの場合は、加水分解を促進させる物質を添加することもある。
結晶構造をとり得るポリマーがポリエステルの場合、アミノ酸がポリマーの加水分解を促進することもあり、この場合、本発明の樹脂組成物は、前記のような使用期間の短い用途に好適であると言える。
もちろん、その他のポリマーの分解を促進する物質を添加してもよい。
かかる目的を達成するために、必要に応じてポリマーの分解を抑制する物質を添加する。
結晶構造をとり得るポリマーがポリエステルの場合、上述したポリエステル及びアミノ酸の他に、例えば加水分解抑制剤が添加することが好ましい。
これにより、本発明の樹脂組成物において、ポリエステルの加水分解が抑制され、成形品の使用における長期信頼性を高めることができる。
このような化合物を加水分解抑止剤として加えることにより、樹脂組成物では生分解性樹脂中の活性水素量が低減し、活性水素が触媒的に生分解性樹脂を構成する高分子鎖を加水分解することを防止できる。
ここでの活性水素とは、酸素、窒素等と水素との結合(N−H結合やO−H結合)における水素のことであり、この活性水素は、炭素と水素との結合(C−H結合)における水素に比べて反応性が高い。
具体的には、例えば生分解性樹脂中のカルボキシル基(−COOH)、水酸基(−OH)、アミノ基(−NH2)、またはアミド結合(−NHCO−)等における水素が活性水素である。
特に、カルボジイミド化合物は、生分解性樹脂と容易に溶融混練でき、少量の添加により加水分解抑制効果が得られることから、好適な材料である。
このカルボジイミド化合物に含まれるモノカルボジイミド化合物としては、例えばジシクロヘキシルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、ジメチルカルボジイミド、ジイソブチルカルボジイミド、ジオクチルカルボジイミド、ジフェニルカルボジイミド、ナフチルカルボジイミド等が挙げられ、これらの中でも特に工業的に入手が容易であるジシクロヘキシルカルボジイミドやジイソプロピルカルボジイミド等が好適である。
加水分解抑制剤においては、その種類や添加量によって樹脂組成物の生分解速度を調整することができることから、目的とする製品に応じて添加させる種類や添加量を決定すればよい。
具体的に、加水分解抑制剤の添加量は、樹脂組成物の全質量に対して5質量%以下程度、好ましくは1質量%以下程度である。
製造方法としては、例えば原料であるポリマーに、核剤、無機フィラー、加水分解抑制剤等を混合し、押出機を用いて溶融混練するという方法が挙げられる。
その他の方法としては、例えば溶液法等によっても作製できる。
溶液法とは、各成分を分散溶解できる任意の溶媒を用いて、原料となる各成分及び溶媒を良く撹拌してスラリーを作り、溶媒を乾燥等の公知の手法でもって除去する方法である。なお、樹脂組成物を製造する方法としては、これらの方法に制限されるものではなく、これら以外の従来知られている方法を用いることもできる。
具体的に、ポリマー中に核剤となる化合物を略均一に分散させるには、先ず、ポリ乳酸等の結晶構造をとり得るポリマーからなるペレットを、例えば60℃で5時間、減圧乾燥する。
次に、このポリマーのペレット及び核剤となる化合物を所定量秤量し、ミキサー等で混合する。
次に、この混合物を例えば二軸混練機等を用いて加熱混練を行い、加熱混練後、混練物を切断してペレット化し、温風乾燥する。
上述したようにしてポリマー中に核剤となる化合物を略均一に分散された樹脂組成物を得ることができる。
なお、ポリ乳酸等の結晶構造をとり得るポリマーからなるペレットに対して、上述の説明のような減圧乾燥に限らず、例えば温度80℃で12時間の温風乾燥を行ってもよいが、減圧乾燥を行うことが好ましい。
樹脂組成物から樹脂成形品を製造する際に行われる加熱工程は、樹脂組成物を加熱溶融できさえすればどのような工程であってもよい。
加熱工程に用いられる加熱手段としては、例えばヒーター等を用いる公知の手段等が挙げられる。
加熱温度は、通常、樹脂組成物の融点の約+10℃〜+50℃の温度であり、好ましくは樹脂組成物の融点より約+15℃〜+30℃程度の高い温度である。
融点は、示差走査熱量計(DSC)等により測定される値である。
具体的に、融点を求める場合、例えば結晶構造を取り得るポリマーがポリ乳酸の場合、その樹脂組成物3〜4mgを切り取り、アルミパンに入れ、それを試料とし、その試料を一旦200℃まで加熱し、50℃/分の速度で温度を低下させて0℃まで冷却させた後、20℃/分の昇温速度で昇温しながらDSC測定を行うことにより、例えば160℃付近の吸熱ピークの温度として求められる。
金型は、樹脂組成物の結晶化温度の約−50〜+30℃の温度範囲内の温度で保温された金型であればどのような金型であってもよく、金型の種類等、特に限定されない。
金型の保温手段は、公知の手段であってよく、かかる保温手段としては、例えばヒーター及びサーモスタットを用いる手段等が挙げられる。
結晶化温度は、上述したように、DSC測定により測定することが可能である。
具体的に、結晶化温度を求める場合、例えば結晶構造を取り得るポリマーがポリ乳酸の場合、その樹脂組成物3〜4mgを切り取り、アルミパンに入れ、それを試料とし、その試料を一旦200℃まで加熱し、20℃/分で0℃まで冷却させながらDSC測定を行うことにより、例えば120℃付近の発熱ピークの温度として求められる。
この場合、樹脂組成物としての融点はそれらポリマーのうちで主要なもの(含有率の一番高いポリマー)に由来の吸熱ピーク温度とし、同様に結晶化温度は主要なポリマーに由来の発熱ピーク温度とする。
充填保持工程では、金型内に樹脂組成物の溶融物が充填され、樹脂組成物の溶融物は金型の保温温度よりも高いが、時間の経過とともに保温温度に近づく。
充填手段は、金型に樹脂組成物の溶融物を充填できさえすればどのような手段であってもよく、公知の手段であってよい。
例えば、圧力により溶融物を金型内に射出する手段等が挙げられる。
冷却手段は、樹脂組成物の溶融物を冷却できさえすればどのような手段であってもよく、公知の手段を適用できる。
冷却方法は、樹脂組成物の溶融物の冷却ができれば、公知の方法を適用でき、冷却時間等特に限定されない。急冷であってもよいし、徐冷であってもよい。
冷却工程には、例えば放冷手段、又は水、氷、氷水、ドライアイス、液体窒素等を用いる急冷手段等が挙げられる。
そして、樹脂組成物の結晶化が飽和完遂され次第、成形品を金型から取り出す。
また、結晶化が中途でも、成形品を金型から取り出してもよい。
ある程度結晶化が進行すれば弾性率が向上するので、樹脂組成物の成形品を変形なく金型から取り出せることもあるからである。このとき、離型後の成形品はその余熱で結晶化がさらに進行し、室温へ冷却されるまでに、結晶化がほぼ飽和完遂する。
このような成形法で樹脂成形品を形成する場合、射出成形機等の公知の成形機を用いて行うのが好適である。
先ず、公知の射出成形機を用いて樹脂組成物を樹脂組成物の融点より約+15〜+30℃高い温度で加熱溶融する。
次に、樹脂組成物の溶融物を、樹脂組成物の結晶化温度の−50〜+30℃の温度範囲の温度で保温された金型に射出する。
次に、射出後、金型内の溶融物に所望により圧力の印加を継続し、いわゆる「ひけ」を補う。
その後圧力を解除し放置する。この放置する時間を通常冷却時間と呼ぶ。この保持時間中にも樹脂から金型へ熱が次第に奪われ、金型中の樹脂の温度は次第に低下している。
従って実質的には、保持時間も冷却時間に含めて考えることもある。
なお、ここでは、保持圧力を解除してからの放置時間を冷却と呼ぶことにする。
射出圧速度、射出圧力、射出時間、保持圧力又は保持時間等は、樹脂組成物の樹脂の種類及び金型の形状等によって適宜設定される。
冷却時間は、金型の形状に成形された樹脂の結晶化がほぼ飽和完遂するだけの冷却時間にすればよく、通常約1分以下であり、好ましくは約20秒〜1分である。
また、樹脂組成物の結晶化温度の−50〜+30℃の温度範囲の温度で保温された金型内に樹脂組成物の溶融物を充填保持することにより、結晶構造を取り得るポリマーを金型内で速やかに結晶化させることができる。この結果、成形サイクルを短縮し、生産性の向上が図られ、歩留まりを向上できる。
通常は、金型の保温温度を樹脂のTg以下の温度にするが、このような温度の金型内に樹脂を射出すると、射出された樹脂の熱が金型へ急速に奪われ、樹脂が金型中で流れにくくなる。このため、成形品にフローマークが生じたり、ウエルドが非常に目立ち易くなったりする。
また、樹脂が流れにくいために、複雑な形状の金型で成形するときは、ゲート数を多くして、樹脂が確実に金型内へ充填されるようにしなければならない。
このため、ゲート数だけランナーが生じてしまい、樹脂がその分だけ無駄になる。
一方、上述の方法での金型温度は、従来技術の金型温度よりも高温である。
従って、金型内に射出された樹脂の熱の奪われ方が従来技術よりも小さく、金型中で樹脂の流れ性が従来技術よりも良好になる。
このため、フローマークやウエルドの問題が起きにくくなる。
また、ゲート数を従来技術よりも少なくすることが可能であり、ランナーで無駄になる樹脂をより少なくできる。
なお、樹脂組成物から樹脂成形品を製造する方法は、上述した方法に限定されず、通常の方法にしたがって、金型温度を温度より低い温度にして成形してもよい。
例えば、結晶構造をとり得るポリマーがポリ乳酸である場合、そのTgの60℃以下である金型温度を例えば50℃にする等、通常の方法で成形してもよい。
この場合、耐熱性を確保するには、成形後に熱処理してポリマーを結晶化させる必要があるが、樹脂組成物では核剤により結晶化を促進できるために、従来の樹脂組成物が結晶化するのに要する熱処理時間よりも短くて済み、歩留まりを向上できる。
なお、結晶構造をとり得るポリマーの結晶化に重点を置く必要が無い場合は、熱処理をしなくてもよい。
また、本発明に係る樹脂成形品は、樹脂組成物の結晶性が高いため、剛性に優れており、さらに透明性も高くできるので、剛性及び透明性等の要求の高い製品に使用して好適である。
具体的に、樹脂成形品の用途としては、例えば発電機、電動機、変圧器、変流器、電圧調整器、整流器、インバーター、継電器、電力用接点、開閉器、機遮断機、ナイフスイッチ、他極ロッド、電機部品キャビネット、ライトソケット、各種端子板、プラグ又はパワーモジュール等の電気機器部品、センサー、LEDランプ、コネクター、抵抗器、リレーケース、小型スイッチ、コイルボビン、コンデンサー、バリコンケース、光ピックアップ、発振子、変成器、プリント基板、チューナー、スピーカー、マイクロフォン、ヘッドフォン、フロッピー(登録商標)ディスク又はMOディスク等の記憶装置、小型モーター、磁気ヘッドベース、半導体、液晶、FDDキャリッジ、FDDシャーシ、インクジェットプリンタ又は熱転写プリンタ等のプリンタ、プリンタ用インクのケース、モーターブラッシュホルダー、パラボラアンテナ又はコンピューター関連部品等に代表される電子部品、VTR部品、テレビ部品、テレビ又はパソコン等の電気又は電子機器の筐体、アイロン、ヘアードライヤー、炊飯器部品、電子レンジ部品、音響製品又はオーディオ・レーザーディスク・コンパクトディスク等の音声機器部品、照明部品、冷凍庫部品、エアコン部品、タイプライター部品又はワードプロセッサー部品等に代表される家庭、事務電機製品部品;オフィスコンピューター関連部品、電話器関連部品、ファクシミリ関連部品、複写機関連部品、洗浄用治具、モーター部品、ライター又はタイプライター等に代表される機械関連部品、顕微鏡、双眼鏡、カメラ又は時計等に代表される光学機器、精密機械関連部品、オルタネーターターミナル、オルタネーターコネクター、ICレギュレーター、ライトデイヤー用ポテンシオメーターベース又は排気ガスバルブ等の各種バルブ、燃料関係・排気系・吸気系各種パイプ、エアーインテークノズルスノーケル、インテークマニホールド、燃料ポンプ、エンジン冷却水ジョイント、キャブレターメインボデイー、キャブレタースペサー、排気ガスセンサー、冷却水センサー、油温センサー、ブレーキパットウエアーセンサー、スロットルポジションセンサー、クランクシャフトポジションセンサー、エアーフローメーター、ブレーキパッド磨耗センサー、エアコン用サーモスタットベース、暖房用風フローコントロールバルブ、ラジエーターモーター用ブラッシュホルダー、ウオーターポンプインペラー、タービンベイン、ワイパーモーター関係部品、デユストリビューター、スタータースイッチ、スターターリレー、トランスミッション用ワイヤーハーネス、ウィンドウォッシャーノズル、エアコンパネルスイッチ基盤、燃料関係電磁気弁用コイル、ヒューズ用コネクター、ホーンターミナル、電装部品絶縁板、ステップモーターローター、ランプソケット、ランプリフレクター、ランプハウジング、ブレーキピストン、ソレノイドボビン、エンジンオイルフィルター又は点火装置ケース等の自動車・車両関連部品、又は包装材料等が挙げられる。
また、歯車、歯車の回転軸、軸受け、ラック、ピニオン、カム、クランンク、クランクアーム等の機械機構部品、そしてホイール、車輪等にも適用できる。
また、この樹脂成形品は、脂肪族ポリエステル、特にポリ乳酸を主体とすれば、使用後には生分解処理に付して廃棄すればよく、廃棄に余分なエネルギーが消費されないという利点も有している。
〔実施例1〕
結晶構造をとり得るポリマーとして、三井化学株式会社製のポリ乳酸(商品名:H100J)90質量部に、核剤であるアミノ酸として東京化成株式会社製のDL-m-Tyrosineを10質量部含有して混合した。これを加熱温度160℃〜180℃の範囲で加熱しながら混練した後にペレット化した。これを実施例1の樹脂組成物サンプルとする。
核剤であるアミノ酸として、和光純薬工業株式会社製の、L(+)-2-フェニルグリシンを用いた。
その他の条件は、実施例1と同様として、実施例2の樹脂組成物サンプルを作製した。
核剤であるアミノ酸として、関東化学株式会社製の、L-メチオニンを用いた。
その他の条件は、実施例1と同様として、実施例3の樹脂組成物サンプルを作製した。
核剤であるアミノ酸として、関東化学株式会社製の、DL-メチオニンを用いた。
その他の条件は、実施例1と同様として、実施例4の樹脂組成物サンプルを作製した。
核剤であるアミノ酸を含有させず、ポリ乳酸のみを用いて、上述した実施例1と同様にして加熱混練した後にペレット化した。これを比較例1の樹脂組成物サンプルとする。
アミノ酸に代えて、関東化学社製のステアリン酸カルシウムを用いた。
その他の条件は、実施例1と同様として、比較例2の樹脂組成物サンプルを作製した。
アミノ酸の代えて、富士タルク社製のタルク(商品名:LMS−200)を用いた。
その他の条件は、実施例1と同様として、比較例3の樹脂組成物サンプルを作製した。
上述した〔実施例1〜4〕、〔比較例1〜3〕の樹脂組成物サンプルについて、結晶化温度を示差走査熱量(DSC)測定法によって測定した。
具体的には、先ず各樹脂組成物サンプルを3mg〜4mgの量、切り取り試験片とした。
試験片をアルミパンに入れて試験試料を作製した。
この試験試料をいったん200℃まで加熱し、その後、1分当たり20℃温度下がるようにして冷却し、その際、120℃付近の結晶化による発熱ピーク温度を結晶化温度として測定した。
実施例1〜4、及び比較例1〜3の樹脂組成物の結晶化温度の測定結果を下記表3に示す。
これにより、樹脂組成物の結晶化度が高められ、実用上充分な耐熱性と機械的な強度が得られた。
一方、比較例1においては、核剤を含有させず、ポリ乳酸のみからなる樹脂組成物を作製したため、ポリ乳酸が結晶化せず、非晶質のまま固化した。このことは、DSC測定法で発熱ピークが観察されなかったことから確認された。
また、比較例2においては、ポリ乳酸に、核剤としてステアリン酸カルシウムを含有させたことにより、比較例1に比べれば結晶化温度を高めることはできたが、核剤としてアミノ酸を含有させた実施例1〜4と比べると、充分には高い結晶化温度は得られず、樹脂組成物において非晶質部分が多くなり、実用上充分な耐熱性と機械的強度が得られなかった。
また、比較例3においては、ポリ乳酸に、核剤としてタルクを含有させたことにより、比較例1に比べれば結晶化温度を高めることはできたが、核剤としてアミノ酸を含有させた実施例1〜4に比べると、充分には高い結晶化温度は得られず、樹脂組成物において非晶質部分が多くなり、実用上充分な耐熱性と機械的強度が得られなかった。
また、タルクを使用する場合において、充分に結晶化度を高めるためには、含有量をかなり増加させなければならず、樹脂組成物を成形する際に流動性の低下を招来し、最終的に得られる樹脂組成物の成形品が脆弱化してしまうおそれがある。すなわち、核剤としてタルクを使用する場合には、添加量に厳しい制限が課されることとなるため、樹脂組成物の結晶性を改善する効果が充分には得られなくなってしまうという問題がある。
また、核剤アミノ酸は、最終的に作製する樹脂組成物が生分解性を有するものとする場合において、極めて好適な材料であることが確かめられた。
Claims (8)
- ポリ乳酸と、メチオニン、プロリン、m−チロシン、o−チロシン及びバリンのいずれか一種以上とからなる樹脂組成物。
- ポリ乳酸と、L−メチオニン、DL−メチオニン及びDL−m−チロシンのいずれか一種とからなる樹脂組成物。
- 前記ポリ乳酸がポリL−乳酸である請求項1または2記載の樹脂組成物。
- ポリ乳酸と、メチオニン、プロリン、m−チロシン、o−チロシン及びバリンのいずれか一種以上とからなる樹脂組成物より作製された成形物。
- ポリ乳酸と、L−メチオニン、DL−メチオニン及びDL−m−チロシンのいずれか一種とからなる樹脂組成物より作製された成形物。
- 前記ポリ乳酸がポリL−乳酸である請求項4または5記載の成形物。
- ポリ乳酸と、メチオニン、プロリン、m−チロシン、o−チロシン及びバリンのいずれか一種以上とからなる樹脂組成物を、前記樹脂組成物の融点より+15〜+30℃高い温度で加熱溶融し、
前記加熱溶融後の前記樹脂組成物の溶融物を、前記樹脂組成物の結晶化温度の−50〜+30℃の温度範囲の温度で保温された金型に射出し、
前記金型内の前記溶融物に圧力の印加を継続し、その後圧力を解除し放置する成形物の製造方法。 - ポリ乳酸と、L−メチオニン、DL−メチオニン及びDL−m−チロシンのいずれか一種とからなる樹脂組成物を、前記樹脂組成物の融点より+15〜+30℃高い温度で加熱溶融し、
前記加熱溶融後の前記樹脂組成物の溶融物を、前記樹脂組成物の結晶化温度の−50〜+30℃の温度範囲の温度で保温された金型に射出し、
前記金型内の前記溶融物に圧力の印加を継続し、その後圧力を解除し放置する成形物の製造方法。
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