ワイヤレス通信において、周波数資源を有効利用するための技術のひとつが、アダプティブアレイアンテナ技術である。アダプティブアレイアンテナ技術は、複数のアンテナのそれぞれに対応した信号の振幅と位相を制御することによって、アンテナの指向性パターンを制御する(以下、このような指向性パターンを「適応的なパターン」という)。このようなアダプティブアレイアンテナ技術によってデータレートを高速化するための技術が、MIMO(Multiple Input Multiple Output)システムである。MIMOシステムでは、送信装置と受信装置がそれぞれ複数のアンテナを備え、それぞれのアンテナに対応したチャネルを設定する。そのため、MIMOシステムは、送信装置と受信装置との間の通信に対して、最大アンテナ数までのチャネルを設定することによって、データレートを向上させる。さらに、このようなMIMOシステムに、OFDM変調方式を組合せれば、データレートはさらに高速化される。
MIMOシステムでの送信装置と受信装置におけるアンテナの指向性パターンの組合せは、例えば、以下のように示される。ひとつは、送信装置のアンテナがオムニパターンを有し、受信装置のアンテナが適応的なパターンを有する場合である。別のものは、送信装置のアンテナと受信装置のアンテナの両者が、適応的なパターンを有する場合である。前者の方がシステムを簡略化できるが、後者の方が、アンテナの指向性パターンをより詳細に制御するので、特性を向上できる。後者の場合、送信装置が送信のアダプティブアレイ信号処理を実行するために、受信装置から、伝送路推定用の既知信号が予め提供される。さらに、アダプティブアレイアンテナ制御の精度を向上させるために、送信装置は、送信装置に含まれた複数のアンテナと、受信装置に含まれた複数のアンテナ間において、すべての組合せに対応した伝送路特性を取得すべきである。そのため、受信装置は、すべてのアンテナから伝送路推定用の既知信号を送信する。以下、データの通信に使用すべきアンテナの本数に関係なく、複数のアンテナから送信される伝送路推定用の既知信号を「トレーニング信号」という。
トレーニング信号の後段にデータが配置されている場合、トレーニング信号が送信されるアンテナの数と、データが送信されるアンテナの数が異なれば、受信側において、トレーニング信号に対する信号強度とデータに対する信号強度に差異が生じる。この差異が大きくなれば、トレーニング信号とデータのうちの少なくともひとつに対する信号強度が、AGCによって適切に制御できなくなる。その結果、トレーニング信号による伝送路推定やデータの受信特性が悪化する。このような悪化を抑制するために、トレーニング信号の送信側は、送信すべきデータおよびトレーニング信号(以下、並列に処理されるトレーニング信号やデータのそれぞれあるいはまとまりを「系列」という)に対して、ステアリング行列を乗算することによって、ステアリング行列を乗算したトレーニング信号と、トレーニング信号の数まで数を増加させたデータが生成される。
本発明者はこうした状況下、以下の課題を認識するに至った。送信装置を含む無線装置が、送信の際にアダプティブアレイ信号処理を実行する場合、送信のためのアナログ回路と受信のためのアナログ回路とのミスマッチ(以下、単に「ミスマッチ」という)が、アンテナ単位に異なっていれば、送信の際の指向性パターンが所望のものと異なってくる。すなわち、無線装置は、受信した信号をもとに、送信の際の指向性パターンを形成するためのウエイトを計算するが、アンテナ単位に異なったミスマッチによって、ウエイトによって実現されるべき指向性パターンでない指向性パターンが実現される。そのため、複数のアンテナに対するキャリブレーションが必要になる。このようなキャリブレーションは、前述のようなステアリング行列が適用される条件でも実行可能であるべきである。
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、ステアリング行列が適用される場合においても、複数のアンテナに対するキャリブレーションを実行するキャリブレーション技術を提供することにある。
上記課題を解決するために、本発明のある態様の無線装置は、送信すべき少なくともひとつの系列を複数の送信アンテナに分散させるための第1ステアリング行列が規定されており、送信すべき少なくともひとつの系列に当該第1ステアリング行列を乗算した後に、予め保持したキャリブレーション係数を乗算してから通信対象の無線装置への送信を実行し、かつ通信対象の無線装置において第2ステアリング行列が乗算された少なくともひとつの系列を受信する通信部と、通信部を介して、通信対象の無線装置での送信機能の影響、第2ステアリング行列、通信対象の無線装置からの無線伝送路特性、通信部での受信機能の影響が反映された第1行列を導出し、かつ通信対象の無線装置での受信機能の影響、第1ステアリング行列、通信対象の無線装置への無線伝送特性、通信部での送信機能の影響、予め保持したキャリブレーション係数の影響が反映された第2行列を通信対象の無線装置から受けつける第1導出部と、通信部を介して、通信対象の無線装置での第2ステアリング行列に対応した識別情報であって、かつ複数種類規定された第2ステアリング行列のうちのいずれかに対応した識別情報を通信対象の無線装置から受けつける受付部と、受付部において受けつけた識別情報をもとに特定した第2ステアリング行列と、第1導出部において導出した第1行列と、第1導出部において受けつけた第2行列と、通信部における第1ステアリング行列から、通信対象の無線装置に対するキャリブレーション係数を導出する第2導出部と、を備える。
この態様によると、第2ステアリング行列に対応した識別番号を受けつけるので、第2ステアリング行列を通知するための伝送効率の低下を抑制でき、受けつけた識別番号に対応した第2ステアリング行列を使用するので、通信対象の無線装置に対するキャリブレーションの精度を向上できる。
受付部において受けつけた識別情報は、第2ステアリング行列が単位行列であることを示しており、第2導出部は、第2ステアリング行列が単位行列である場合に、第1ステアリング行列の逆行列と第2行列とを乗算する手段と、乗算した結果の転置行列と、第1行列の各成分同士を除算することによって、通信対象の無線装置に対するキャリブレーション係数を導出する手段とを含んでもよい。この場合、第2ステアリング行列が単位行列であることを認識すると、それに応じた処理によってキャリブレーション係数を導出するので、キャリブレーション係数の精度を向上できる。
受付部において受けつけた識別情報は、第2ステアリング行列が、直交行列と、直交行列の行のそれぞれに対して独立したタイムシフトを施すための行列とを含んでいることを示しており、第2導出部は、第2ステアリング行列が、直交行列と、直交行列の行のそれぞれに対して独立したタイムシフトを施すための行列とを含んでいる場合に、第1ステアリング行列の逆行列と第2行列から第1の乗算結果を生成する手段と、直交行列の逆行列と第1行列から第2の乗算結果を生成する手段と、第1の乗算結果の転置行列と第2の乗算結果の各成分同士を除算することによって、通信対象の無線装置に対するキャリブレーション係数を導出する手段とを含んでもよい。この場合、第2ステアリング行列が、直交行列と、直交行列の行のそれぞれに対して独立したタイムシフトを施すための行列とを含んでいることを認識すると、それに応じた処理によってキャリブレーション係数を導出するので、キャリブレーション係数の精度を向上できる。
本発明の別の態様もまた、無線装置である。この装置は、送信すべき少なくともひとつの系列を複数の送信アンテナに分散させるための第1ステアリング行列が規定されており、送信すべき少なくともひとつの系列に当該第1ステアリング行列を乗算した後に、予め保持したキャリブレーション係数を乗算してから通信対象の無線装置への送信を実行し、かつ通信対象の無線装置において第2ステアリング行列が乗算された少なくともひとつの系列を受信する通信部と、通信部を介して、通信対象の無線装置での送信機能の影響、第2ステアリング行列、通信対象の無線装置からの無線伝送路特性、通信部での受信機能の影響が反映された第1行列を導出し、かつ通信対象の無線装置での受信機能の影響、第1ステアリング行列、通信対象の無線装置への無線伝送特性、通信部での送信機能の影響、予め保持したキャリブレーション係数の影響が反映された第2行列を通信対象の無線装置から受けつける第1導出部と、通信部での第2ステアリング行列は、直交行列と、直交行列の行のそれぞれに対して独立したタイムシフトを施すための行列とを含んでおり、第2ステアリング行列のうちの直交行列を記憶する記憶部と、記憶部において記憶する直交行列と、第1導出部において導出した第1行列と、第1導出部において受けつけた第2行列と、通信部における第1ステアリング行列をもとに、通信対象の無線装置に対するキャリブレーション係数を導出する第2導出部と、を備える。
この態様によると、第2ステアリング行列が、直交行列と、直交行列の行のそれぞれに対して独立したタイムシフトを施すための行列とを含んでいる場合に、直交行列の行のそれぞれに対して独立したタイムシフトを施すための行列に関する情報を使用せずにキャリブレーション係数を導出するので、通信対象の無線装置において、直交行列の行のそれぞれに対して独立したタイムシフトを施すための行列を任意に設定できる。
第2導出部は、第1ステアリング行列の逆行列と第2行列から第1の乗算結果を生成する手段と、直交行列の逆行列と第1行列から第2の乗算結果を生成する手段と、第1の乗算結果の転置行列と第2の乗算結果の各成分同士を除算することによって、通信対象の無線装置に対するキャリブレーション係数を導出する手段とを含んでもよい。この場合、第2ステアリング行列が、直交行列と、直交行列の行のそれぞれに対して独立したタイムシフトを施すための行列とを含んでいることに応じた処理によってキャリブレーション係数を導出するので、キャリブレーション係数の精度を向上できる。
本発明のさらに別の態様もまた、無線装置である。この装置は、送信すべき少なくともひとつの系列を複数の送信アンテナに分散させるための第1ステアリング行列が規定されており、送信すべき少なくともひとつの系列に当該第1ステアリング行列を乗算した後に、予め保持したキャリブレーション係数を乗算してから通信対象の無線装置への送信を実行し、かつ通信対象の無線装置において第2ステアリング行列が乗算された少なくともひとつの系列を受信する通信部と、通信部を介して、通信対象の無線装置での送信機能の影響、第2ステアリング行列、通信対象の無線装置からの無線伝送路特性、通信部での受信機能の影響が反映された第1行列を導出し、かつ通信対象の無線装置での受信機能の影響、第1ステアリング行列、通信対象の無線装置への無線伝送特性、通信部での送信機能の影響、予め保持したキャリブレーション係数の影響が反映された第2行列を通信対象の無線装置から受けつける第1導出部と、第1導出部において導出した第1行列と、第1導出部において受けつけた第2行列をもとに、第2ステアリング行列の形式を特定する特定部と、特定部によって特定された第2ステアリング行列と、第1導出部において導出した第1行列と、第1導出部において受けつけた第2行列と、通信部における第1ステアリング行列から、通信対象の無線装置に対するキャリブレーション係数を導出する第2導出部と、を備える。
この態様によると、第1行列と第2行列をもとに第2ステアリング行列の形式を特定するので、伝送効率を低下を抑えつつ第2ステアリング行列の形式を認識でき、それに応じた処理によってキャリブレーション係数を導出するので、キャリブレーション係数の精度を向上できる。
特定部では、第1ステアリング行列の逆行列と第2行列との乗算結果に対する転置行列を第3行列とする場合に、第1行列のうち、行あるいは列が同一であるふたつの要素を選択し、当該ふたつの要素の比を導出する手段と、当該ふたつの要素に対応するように、第3行列のふたつの要素を選択し、選択したふたつの要素の比を導出する手段と、第1行列におけるふたつの要素の比と、第3行列におけるふたつの要素の比とが同一である場合に、第2ステアリング行列が単位行列であると特定する手段とを含んでもよい。この場合、第1行列と第2行列をもとに、第2ステアリング行列が単位行列であることを特定するので、付加的な情報を必要とせず、伝送効率の低下を抑制できる。
特定部では、第1ステアリング行列の逆行列と第2行列との乗算結果に対する転置行列を第3行列とし、直交行列の逆行列と第1行列との乗算結果を第4行列とする場合に、第4行列のうち、行あるいは列が同一であるふたつの要素を選択し、当該要素の比を導出する手段と、当該ふたつの要素に対応するように、第3行列のふたつの要素の比を選択し、選択したふたつの要素の比を導出する手段と、第4行列におけるふたつの要素の比と、第3行列におけるふたつの要素の比が同一である場合に、第2ステアリング行列が、非単位行列であると特定する手段とを含んでもよい。この場合、第1行列と第2行列をもとに、第2ステアリング行列が非単位行列であることを特定するので、付加的な情報を必要とせず、伝送効率の低下を抑制できる。
第2導出部は、特定部によって第2ステアリング行列が単位行列であると特定された場合、第1ステアリング行列の逆行列と第2行列とを乗算する手段と、乗算した結果の転置行列と、第1行列の各成分同士を除算することによって、通信対象の無線装置に対するキャリブレーション係数を導出する手段とを含んでもよい。この場合、第2ステアリング行列が単位行列であると認識した場合に、それに応じた処理によってキャリブレーション係数を導出するので、キャリブレーション係数の精度を向上できる。
特定部によって第2ステアリング行列が非単位行列であると特定された場合、第2ステアリング行列は、直交行列と、直交行列の行のそれぞれに対して独立したタイムシフトを施すための行列とを含んでおり、第2導出部は、第1ステアリング行列の逆行列と第2行列から第1の乗算結果を生成する手段と、直交行列の逆行列と第1行列から第2の乗算結果を生成する手段と、第1の乗算結果の転置行列と第2の乗算結果の各成分同士を除算することによって、通信対象の無線装置に対するキャリブレーション係数を導出する手段とを含んでもよい。この場合、第2ステアリング行列が非単位行列であると認識した場合に、それに応じた処理によってキャリブレーション係数を導出するので、キャリブレーション係数の精度を向上できる。
本発明のさらに別の態様は、通信システムである。この通信システムは、送信すべき少なくともひとつの系列を複数の送信アンテナに分散させるための第1ステアリング行列が規定されており、送信すべき少なくともひとつの系列に当該第1ステアリング行列を乗算した後に、予め保持したキャリブレーション係数を乗算することによって生成した信号を送信する第1無線装置と、送信すべき少なくともひとつの系列に第2ステアリング行列を乗算することによって生成した信号を送信する第2無線装置とを備える。第2無線装置は、第1無線装置から受信した信号をもとに、第1無線装置の送信機能の影響、第1ステアリング行列、第1無線装置からの無線伝送特性、第2無線装置の受信機能の影響、予め保持したキャリブレーション係数の影響が反映された第1行列を導出してから、導出した第1行列を第1無線装置に送信する手段と、第2ステアリング行列に対応した識別情報であって、かつ複数種類規定された第2ステアリング行列のうちのいずれかに対応した識別情報を第1無線装置に送信する手段とを含む。第1無線装置は、第2無線装置から受信した信号をもとに、第2無線装置での送信機能の影響、第2ステアリング行列、第2無線装置からの無線伝送路特性、第1無線装置での受信機能の影響が反映された第2行列を導出する手段と、識別情報をもとに特定した第2ステアリング行列と、第1行列と、第2行列と、第1ステアリング行列から、第2無線装置に対するキャリブレーション係数を導出する手段を含む。
第1無線装置では、受けつけた識別情報によって、第2ステアリング行列が単位行列であることを示している場合に、第1ステアリング行列の逆行列と第1行列とを乗算する手段と、乗算した結果の転置行列と第2行列の各成分同士を除算することによって、第2無線装置に対するキャリブレーション係数を導出する手段とを含んでもよい。第1無線装置では、受けつけた識別情報によって、第2ステアリング行列が、直交行列と、直交行列の行のそれぞれに対して独立したタイムシフトを施すための行列とを含んでいることを示している場合に、第1ステアリング行列の逆行列と第1行列から第1の乗算結果を生成する手段と、直交行列の逆行列と第2行列から第2の乗算結果を生成する手段と、第1の乗算結果の転置行列と第2の乗算結果の各成分同士を除算することによって、第2無線装置に対するキャリブレーション係数を導出する手段とを含んでもよい。
本発明のさらに別の態様もまた、通信システムである。この通信システムは、送信すべき少なくともひとつの系列を複数の送信アンテナに分散させるための第1ステアリング行列が規定されており、送信すべき少なくともひとつの系列に当該第1ステアリング行列を乗算した後に、予め保持したキャリブレーション係数を乗算することによって生成した信号を送信する第1無線装置と、送信すべき少なくともひとつの系列に第2ステアリング行列を乗算することによって生成した信号を送信する第2無線装置とを備える。第2無線装置は、第1無線装置から受信した信号をもとに、第1無線装置の送信機能の影響、第1ステアリング行列、第1無線装置からの無線伝送特性、第2無線装置の受信機能の影響、予め保持したキャリブレーション係数の影響が反映された第1行列を導出してから、導出した第1行列を第1無線装置に送信し、第1無線装置は、第2無線装置から受信した信号をもとに、第2無線装置での送信機能の影響、第2ステアリング行列、第2無線装置からの無線伝送路特性、第1無線装置での受信機能の影響が反映された第2行列を導出する手段と、受信した第1行列と、導出した第2行列をもとに、第2ステアリング行列の形式を特定する手段と、特定された第2ステアリング行列と、第1行列と、第2行列と、第1ステアリング行列から、第2無線装置に対するキャリブレーション係数を導出する手段とを含む。
第1無線装置では、第1ステアリング行列の逆行列と第1行列との乗算結果に対する転置行列を第3行列とする場合に、第2行列のうち、行あるいは列が同一であるふたつの要素を選択し、当該ふたつの要素の比を導出する手段と、当該ふたつの要素に対応するように、第3行列のふたつの要素を選択し、選択したふたつの要素の比を導出する手段と、第2行列におけるふたつの要素の比と、第3行列におけるふたつの要素の比とが同一である場合に、第2ステアリング行列が単位行列であると特定する手段とを含んでもよい。第1無線装置では、第1ステアリング行列の逆行列と第1行列との乗算結果に対する転置行列を第3行列とし、直交行列の逆行列と第2行列との乗算結果を第4行列とする場合に、第4行列のうち、行あるいは列が同一であるふたつの要素を選択し、当該要素の比を導出する手段と、当該ふたつの要素に対応するように、第3行列のふたつの要素の比を選択し、選択したふたつの要素の比を導出する手段と、第4行列におけるふたつの要素の比と、第3行列におけるふたつの要素の比が同一である場合に、第2ステアリング行列が、非単位行列であると特定する手段とを含んでもよい。
第1無線装置は、第2ステアリング行列が単位行列であると特定された場合、第1ステアリング行列の逆行列と第1行列とを乗算する手段と、乗算した結果の転置行列と第2行列の各成分同士を除算することによって、第2無線装置に対するキャリブレーション係数を導出する手段とを含んでもよい。第1無線装置では、第2ステアリング行列が非単位行列であると特定された場合、第2ステアリング行列は、直交行列と、直交行列の行のそれぞれに対して独立したタイムシフトを施すための行列とを含んでおり、第1ステアリング行列の逆行列と第1行列から第1の乗算結果を生成する手段と、直交行列の逆行列と第2行列から第2の乗算結果を生成する手段と、第1の乗算結果の転置行列と第2の乗算結果の各成分同士を除算することによって、第2無線装置に対するキャリブレーション係数を導出する手段とを含んでもよい。
本発明のさらに別の態様は、キャリブレーション方法である。この方法は、送信すべき少なくともひとつの系列を複数の送信アンテナに分散させるための第1ステアリング行列が規定されており、送信すべき少なくともひとつの系列に当該第1ステアリング行列を乗算した後に、予め保持したキャリブレーション係数を乗算してから通信対象の無線装置への送信を実行し、かつ通信対象の無線装置において第2ステアリング行列が乗算された少なくともひとつの系列を受信する無線装置において、通信対象の無線装置に対するキャリブレーション係数を導出するためのキャリブレーション方法であって、通信対象の無線装置での送信機能の影響、第2ステアリング行列、通信対象の無線装置からの無線伝送路特性、本通信装置での受信機能の影響が反映された第1行列を導出し、かつ通信対象の無線装置での受信機能の影響、第1ステアリング行列、通信対象の無線装置への無線伝送特性、本通信装置での送信機能の影響、予め保持したキャリブレーション係数の影響が反映された第2行列を通信対象の無線装置から受けつけるステップと、第2ステアリング行列に対応した識別情報であって、かつ複数種類規定された第2ステアリング行列のうちのいずれかに対応した識別情報を通信対象の無線装置から受けつけるステップと、識別情報をもとに特定した第2ステアリング行列と、第1行列と、第2行列と、第1ステアリング行列から、通信対象の無線装置に対するキャリブレーション係数を導出するステップと、を備える。
受けつけるステップにおいて受けつけた識別情報は、第2ステアリング行列が単位行列であることを示しており、キャリブレーション係数を導出するステップは、第2ステアリング行列が単位行列である場合に、第1ステアリング行列の逆行列と第2行列とを乗算するステップと、乗算した結果の転置行列と第1行列の各成分同士を除算することによって、通信対象の無線装置に対するキャリブレーション係数を導出するステップとを含んでもよい。
受けつけるステップにおいて受けつけた識別情報は、第2ステアリング行列が、直交行列と、直交行列の行のそれぞれに対して独立したタイムシフトを施すための行列とを含んでいることを示しており、キャリブレーション係数を導出するステップは、第2ステアリング行列が、直交行列と、直交行列の行のそれぞれに対して独立したタイムシフトを施すための行列とを含んでいる場合に、第1ステアリング行列の逆行列と第2行列から第1の乗算結果を生成するステップと、直交行列の逆行列と第1行列から第2の乗算結果を生成するステップと、第1の乗算結果の転置行列と第2の乗算結果の各成分同士を除算することによって、通信対象の無線装置に対するキャリブレーション係数を導出するステップとを含んでもよい。
本発明のさらに別の態様もまた、キャリブレーション方法である。この方法は、送信すべき少なくともひとつの系列を複数の送信アンテナに分散させるための第1ステアリング行列が規定されており、送信すべき少なくともひとつの系列に当該第1ステアリング行列を乗算した後に、予め保持したキャリブレーション係数を乗算してから通信対象の無線装置への送信を実行し、かつ通信対象の無線装置において第2ステアリング行列が乗算された少なくともひとつの系列を受信する無線装置において、通信対象の無線装置に対するキャリブレーション係数を導出するためのキャリブレーション方法であって、通信対象の無線装置での送信機能の影響、第2ステアリング行列、通信対象の無線装置からの無線伝送路特性、本通信装置での受信機能の影響が反映された第1行列を導出し、かつ通信対象の無線装置での受信機能の影響、第1ステアリング行列、通信対象の無線装置への無線伝送特性、本通信装置での送信機能の影響、予め保持したキャリブレーション係数の影響が反映された第2行列を通信対象の無線装置から受けつけるステップと、第1行列と第2行列をもとに、第2ステアリング行列の形式を特定するステップと、特定された第2ステアリング行列と、第1行列と、第2行列と、第1ステアリング行列から、通信対象の無線装置に対するキャリブレーション係数を導出するステップと、を備える。
特定するステップは、第1ステアリング行列の逆行列と第2行列との乗算結果に対する転置行列を第3行列とする場合に、第1行列のうち、行あるいは列が同一であるふたつの要素を選択し、当該ふたつの要素の比を導出するステップと、当該ふたつの要素に対応するように、第3行列のふたつの要素を選択し、選択したふたつの要素の比を導出するステップと、第1行列におけるふたつの要素の比と、第3行列におけるふたつの要素の比とが同一である場合に、第2ステアリング行列が単位行列であると特定するステップとを含んでもよい。特定するステップは、第1ステアリング行列の逆行列と第2行列との乗算結果に対する転置行列を第3行列とし、直交行列の逆行列と第1行列との乗算結果を第4行列とする場合に、第4行列のうち、行あるいは列が同一であるふたつの要素を選択し、当該要素の比を導出するステップと、当該ふたつの要素に対応するように、第3行列のふたつの要素の比を選択し、選択したふたつの要素の比を導出するステップと、第4行列におけるふたつの要素の比と、第3行列におけるふたつの要素の比が同一である場合に、第2ステアリング行列が、非単位行列であると特定するステップとを含んでもよい。
キャリブレーション係数を導出するステップは、第2ステアリング行列が単位行列であると特定された場合、第1ステアリング行列の逆行列と第2行列とを乗算するステップと、乗算した結果の転置行列と第1行列の各成分同士を除算することによって、通信対象の無線装置に対するキャリブレーション係数を導出するステップとを含んでもよい。特定するステップによって第2ステアリング行列が非単位行列であると特定された場合、第2ステアリング行列は、直交行列と、直交行列の行のそれぞれに対して独立したタイムシフトを施すための行列とを含んでおり、キャリブレーション係数を導出するステップは、第1ステアリング行列の逆行列と第2行列から第1の乗算結果を生成するステップと、直交行列の逆行列と第1行列から第2の乗算結果を生成するステップと、第1の乗算結果の転置行列と第2の乗算結果の各成分同士を除算することによって、通信対象の無線装置に対するキャリブレーション係数を導出するステップとを含んでもよい。
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法、装置、システム、記録媒体、コンピュータプログラムなどの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
本発明によれば、ステアリング行列が適用される場合においても、複数のアンテナに対するキャリブレーションを実行できる。
本発明を具体的に説明する前に、概要を述べる。本発明の実施例は、基地局装置と端末装置によって構成されるMIMOシステムに関する。ここで、基地局装置は、ビームフォーミング送信を実行するが、端末装置は、ビームフォーミング送信を実行せずに、ステアリング行列の乗算を実行する。なお、基地局装置は、ビームフォーミングを実行する前に、各端末装置に対してキャリブレーションを実行する。そのキャリブレーションを実行する際に、基地局装置は、端末装置と同様に、ビームフォーミング送信を実行せずに、ステアリング行列の乗算を実行する。前述のごとく、送信すべき少なくともひとつの系列に含まれたトレーニング信号およびデータに対して、ステアリング行列を乗算することによって、トレーニング信号とデータの受信側における電力差が小さくなる。基地局装置は、このようなステアリング行列が乗算されたトレーニング信号から伝送路特性を推定し、当該伝送路特性を使用しながら、ビームフォーミング送信を実行する。基地局装置や端末装置は、アンテナ単位に異なったミスマッチを低減することを目的として、キャリブレーションを実行する。そのため、キャリブレーション時に交換されるトレーニング信号に、ステアリング行列が適用される場合においても対応できるようなキャリブレーションが要求される。また、端末装置の装置構成を容易にするために、端末装置に対するキャリブレーションは、基地局装置においてなされる方が望ましい。そのため、本実施例では、以下のように、キャリブレーションを実行する。
なお前提として、基地局装置に対するキャリブレーションは、既に終了しているものとする。端末装置に伝送路特性を推定させるために、基地局装置は、トレーニング信号を送信する。端末装置は、基地局装置の複数のアンテナと、端末装置の複数のアンテナとの組合せにそれぞれ対応した伝送路特性を推定する(以下、組合せのそれぞれ対応した伝送路特性を行列の形式等にまとめたものを「H行列」という)。また、端末装置おいて推定されたH行列は、下り回線の伝送路特性に相当する。さらに、基地局装置に伝送路特性を推定させるために、端末装置は、トレーニング信号を送信する。その際、端末装置は、下り回線のH行列をデータとして送信する。なお、端末装置は、H行列の転置をデータとして送信してもよい。その場合、基地局装置は、H行列の転置を認識していれば、以下に説明する動作と同様の動作を実行できる。基地局装置は、基地局装置の複数のアンテナと、端末装置の複数のアンテナとの組合せにそれぞれ対応した伝送路特性をH行列として推定する。当該H行列は、上り回線の伝送路特性に相当する。
ここで、H行列に含まれる伝送路特性には、無線伝送路としての伝送路特性の他に、ステアリング行列、送受信系のアナログ回路のミスマッチの影響も含まれている。以下、このような総合的な伝送路特性も、単に伝送路特性というものとする。基地局装置は、上り回線のH行列、下り回線のH行列、基地局装置でのステアリング行列を使用しながら、端末装置に対するキャリブレーションを実行して、キャリブレーション係数を導出する。なお、キャリブレーション係数は、その後に実行されるビームフォーミング送信の際に、使用される。以上のような処理によってキャリブレーション係数を導出する際に、基地局装置が端末装置のステアリング行列を把握してなければ、伝送路特性によっては、キャリブレーション係数が導出できない場合がある。一方、端末装置がステアリング行列を基地局装置に伝送すれば、データの伝送効率が低下する。
このような課題を解決するために、本実施例に係るMIMOシステムでは、予め複数の種類のステアリング行列を規定しており、かつ複数の種類のステアリング行列のそれぞれに対して、識別番号を付与する。端末装置は、使用するステアリング行列に対応した識別番号を基地局装置に送信し、基地局装置は、受信した識別番号から、端末装置のステアリング行列を把握する。さらに、基地局装置は、把握したステアリング行列を使用しながら、キャリブレーション係数を導出する。
図1は、本発明の実施例に係るマルチキャリア信号のスペクトルを示す。特に、図1は、OFDM変調方式での信号のスペクトルを示す。OFDM変調方式における複数のキャリアのひとつをサブキャリアと一般的に呼ぶが、ここではひとつのサブキャリアを「サブキャリア番号」によって指定するものとする。ここでは、IEEE802.11a規格と同様に、サブキャリア番号「−26」から「26」までの53サブキャリアが規定されている。なお、サブキャリア番号「0」は、ベースバンド信号における直流成分の影響を低減するため、ヌルに設定されている。それぞれのサブキャリアは、可変に設定された変調方式によって変調されている。
変調方式には、BPSK(Binary Phase Shift Keying)、QSPK(Quadrature Phase Shift Keying)、16QAM(Quadrature Amplitude Modulation)、64QAMのいずれかが使用される。また、これらの信号には、誤り訂正方式として、畳み込み符号化が適用されている。畳み込み符号化の符号化率は、1/2、3/4等に設定される。さらに、MIMOシステムにおいて使用されるアンテナの本数は、可変に設定される。その結果、変調方式、符号化率、アンテナ本数の値が可変に設定されることによって、データレートも可変に設定される。
図2は、本発明の実施例に係る通信システム100の構成を示す。通信システム100は、基地局装置10、端末装置90を含む。また、基地局装置10は、アンテナ12と総称される第1アンテナ12a、第2アンテナ12b、第3アンテナ12c、第4アンテナ12dを含み、端末装置90は、アンテナ14と総称される第1アンテナ14a、第2アンテナ14b、第3アンテナ14c、第4アンテナ14dを含む。下り回線では、基地局装置10が送信装置に相当し、端末装置90の受信装置に相当する。上り回線では、下り回線と反対の対応になる。
通信システム100の構成を説明する前に、MIMOシステムの概略を説明する。下り回線を説明の対象とし、データは、基地局装置10から端末装置90に送信されているものとする。基地局装置10は、第1アンテナ12aから第4アンテナ12dのそれぞれから、異なったデータを送信する。その結果、データレートが高速になる。端末装置90は、第1アンテナ14aから第4アンテナ14dによって、データを受信する。さらに、端末装置90は、アダプティブアレイ信号処理によって、第1アンテナ12aから第4アンテナ12dのそれぞれから送信されたデータを独立に復調する。
ここで、アンテナ12の本数は「4」であり、アンテナ14の本数も「4」であるので、アンテナ12とアンテナ14の間の伝送路の組合せは「16」になる。第iアンテナ12iから第jアンテナ14jとの間の伝送路特性をhijと示す。図中において、第1アンテナ12aと第1アンテナ14aとの間の伝送路特性がh11、第1アンテナ12aから第2アンテナ14bとの間の伝送路特性がh12、第2アンテナ12bと第1アンテナ14aとの間の伝送路特性がh21、第2アンテナ12bから第2アンテナ14bとの間の伝送路特性がh22、第4アンテナ12dから第4アンテナ14dとの間の伝送路特性がh44と示されている。なお、これら以外の伝送路は、図の明瞭化のために省略する。
端末装置90は、アダプティブアレイ信号処理によって、第1アンテナ12aから第2アンテナ12bによってそれぞれ送信されたデータを独立して復調できるように動作する。さらに、基地局装置10は、送信の際に第1アンテナ12aから第4アンテナ12dに対してアダプティブアレイ信号処理を実行する。このように送信側の基地局装置10もアダプティブアレイ信号処理を実行することによって、MIMOシステムにおける空間の分割が確実になる。その結果、複数のアンテナ12において送信される信号間の干渉が小さくなるので、本実施例は、通信品質を向上できる。なお、基地局装置10と端末装置90の動作が、反対になってもよい。なお、前述のごとく、キャリブレーションが実行される際に、基地局装置10は、アダプティブアレイ信号処理を実行せずに、ステアリング行列を使用しながら、トレーニング信号を送信する。
詳細は後述するが、以上のような通信システム100の構成において、キャリブレーションは以下のように実行される。基地局装置10は、ステアリング行列Q(1)を規定している。基地局装置10は、ステアリング行列Q(1)を送信すべき少なくともひとつの系列に乗算することによって、ステアリング行列が乗算されたトレーニング信号、トレーニング信号の数まで数を増加させたデータを生成する。さらに、基地局装置10は、予め保持したキャリブレーション係数CAUTO(1)を乗算することによって生成した信号を送信する。ここで、キャリブレーション係数CAUTO(1)は、基地局装置10によって導出されたキャリブレーション係数であって、かつアンテナ12の間の誤差に対するキャリブレーション係数に相当する。端末装置90は、トレーニング信号およびデータにステアリング行列Q(2)を乗算することによって生成した信号を送信する。
また、端末装置90は、基地局装置10から受信したトレーニング信号をもとに、H行列を導出する。このH行列には、基地局装置10の送信機能の影響、ステアリング行列Q(1)、基地局装置10からの無線伝送特性、端末装置90の受信機能の影響、キャリブレーション係数CAUTO(1)の影響が反映されている。さらに、端末装置90は、導出したH行列を基地局装置10に送信する。なお、ステアリング行列Q(2)は、複数種類規定されており、さらに複数種類のステアリング行列Q(2)には、識別情報が付与されている。端末装置90は、使用するステアリング行列Q(2)に対応した識別番号を基地局装置10に送信する。基地局装置10は、端末装置90から受信したトレーニング信号をもとに、H行列を導出する。このH行列には、端末装置90での送信機能の影響、ステアリング行列Q(2)、端末装置90からの無線伝送路特性、基地局装置10での受信機能の影響が反映されている。また、基地局装置10は、識別情報をもとに特定したステアリング行列Q(2)と、ふたつのH行列と、ステアリング行列Q(1)から、端末装置90に対するキャリブレーション係数を導出する。
図3は、基地局装置10の構成を示す。基地局装置10は、無線部20と総称される第1無線部20a、第2無線部20b、第4無線部20d、処理部22、変復調部24、IF部26、制御部30、記憶部32を含む。また信号として、時間領域信号200と総称される第1時間領域信号200a、第2時間領域信号200b、第4時間領域信号200d、周波数領域信号202と総称される第1周波数領域信号202a、第2周波数領域信号202bを含む。ここでは、説明を明瞭にするために、送信されるべき系列と受信した系列に含まれるデータの数「2」と、トレーニング信号の数「4」を固定している。しかしながら、これらの数は、適応的に調節されてもよい。なお、以下の説明において、送信動作は、下り回線の通信に相当し、受信動作は、上り回線の通信に相当する。
無線部20は、受信動作として、アンテナ12によって受信した無線周波数の信号を周波数変換し、ベースバンドの信号を導出する。無線部20は、ベースバンドの信号を時間領域信号200として処理部22に出力する。一般的に、ベースバンドの信号は、同相成分と直交成分によって形成されるので、ふたつの信号線によって伝送されるべきであるが、ここでは、図を明瞭にするためにひとつの信号線だけを示すものとする。また、AGC(Automatic Gain Control)やA/D変換部も含まれる。無線部20は、送信動作として、処理部22からのベースバンドの信号を周波数変換し、無線周波数の信号を導出する。ここで、処理部22からのベースバンドの信号も時間領域信号200として示す。無線部20は、無線周波数の信号をアンテナ12に出力する。また、PA(Power Amplifier)、D/A変換部も含まれる。時間領域信号200は、時間領域に変換されたマルチキャリア信号であり、デジタル信号であるものとする。さらに、無線部20において処理される信号は、バースト信号を形成しており、そのバーストフォーマットには、前段にトレーニング信号が配置され、後段にデータが配置されている。
処理部22は、受信動作として、複数の時間領域信号200をそれぞれ周波数領域に変換し、周波数領域の信号に対してアダプティブアレイ信号処理を実行する。処理部22は、アダプティブアレイ信号処理の結果を周波数領域信号202として出力する。ひとつの周波数領域信号202が、図示しない端末装置90から送信されるひとつの系列に含まれたデータに相当する。処理部22は、送信動作として、変復調部24から、周波数領域の信号としての周波数領域信号202を入力し、アダプティブアレイ信号処理を実行する。すなわち、ビームフォーミングが実行される。また、処理部22は、ビームフォーミングの際に、基地局装置10に対するキャリブレーション係数、端末装置90に対するキャリブレーション係数を使用する。なお、ビームフォーミング送信の前に、基地局装置10は、端末装置90に対するキャリブレーションを実行する。その際、処理部22は、ビームフォーミングを実行せずに、ステアリング行列の乗算を実行する。
処理部22は、周波数領域の信号を時間領域に変換し、時間領域信号200として出力する。送信処理において使用すべきアンテナ12の数は、制御部30によって指定されるものとする。ここで、周波数領域の信号である周波数領域信号202は、図1のごとく、複数のサブキャリアの成分を含むものとする。図を明瞭にするために、周波数領域の信号は、サブキャリア番号の順に並べられて、シリアル信号を形成しているものとする。また、端末装置90に対するキャリブレーション係数と基地局装置10に対するキャリブレーション係数は、アンテナ12単位で異なった値を有する。また、これらの係数は、制御部30において導出される。
図4は、周波数領域の信号の構成を示す。ここで、図1に示したサブキャリア番号「−26」から「26」のひとつの組合せを「OFDMシンボル」というものとする。「i」番目のOFDMシンボルは、サブキャリア番号「1」から「26」、サブキャリア番号「−26」から「−1」の順にサブキャリア成分を並べているものとする。また、「i」番目のOFDMシンボルの前に、「i−1」番目のOFDMシンボルが配置され、「i」番目のOFDMシンボルの後ろに、「i+1」番目のOFDMシンボルが配置されているものとする。
図3に戻る。変復調部24は、受信処理として、処理部22からの周波数領域信号202に対して、復調および復号を実行する。なお、復調および復号は、サブキャリア単位でなされる。変復調部24は、復号した信号をIF部26に出力する。また、変復調部24は、送信処理として、符号化および変調を実行する。変復調部24は、変調した信号を周波数領域信号202として処理部22に出力する。送信処理の際に、変調方式および符号化率は、制御部30によって指定されるものとする。
IF部26は、受信処理として、複数の変復調部24からの信号を合成し、ひとつのデータストリームを形成する。IF部26は、データストリームを出力する。また、IF部26は、送信処理として、ひとつのデータストリームを入力し、これを分離する。さらに、分離したデータを複数の変復調部24に出力する。
制御部30は、基地局装置10のタイミング等を制御する。また、制御部30は、端末装置90に対するキャリブレーション係数と基地局装置10に対するキャリブレーション係数を導出する。基地局装置10に対するキャリブレーション係数CAUTO(1)は既に導出されているものとして、端末装置90に対するキャリブレーション係数の導出手順を簡単に説明する。なお、基地局装置10に対するキャリブレーション係数CAUTO(1)の導出については、後述する。以下に説明するキャリブレーションの手順は、送信側においてビームフォーミング送信が実行する前になされる。
前述のごとく、処理部22等は、トレーニング信号とデータにステアリング行列Q(1)を乗算した後に、基地局装置10に対するキャリブレーション係数CAUTO(1)を乗算してから送信を実行する。また、処理部22等は、図示しない端末装置90においてステアリング行列Q(2)が乗算された少なくともひとつの系列を受信する。当該系列は、前述のトレーニング信号に相当する。さらに、処理部22は、アダプティブアレイ信号処理の際に、トレーニング信号にもとづいて伝送路特性を推定する。制御部30は、伝送路特性から、上り回線のH行列を導出する。制御部30は、図示しない端末装置90において導出された下り回線のH行列を受けつける。
制御部30は、処理部22等を介して、図示しない端末装置90でのステアリング行列Q(2)に対応した識別情報であって、かつ複数種類規定されたステアリング行列Q(2)のうちのいずれかに対応した識別情報を端末装置90から受けつける。ここで、ステアリング行列として、2種類の行列が規定されているものとする。ひとつのステアリング行列は、単位行列である。また、別のステアリング行列は、直交行列と、直交行列の行のそれぞれに対して独立したタイムシフトを施すための行列(以下、「CDD(Cyclic Delay Diversity)行列」との積によって形成されている。さらに、識別番号「0」が単位行列に対応し、識別番号「1」が直交行列とCDD行列の積に対応している。すなわち、識別番号「0」を受けつければ、制御部30は、ステアリング行列Q(2)が単位行列であると特定する。一方、識別番号「1」を受けつければ、制御部30は、ステアリング行列が直交行列とCDD行列の積であると特定する。これらの対応関係は、記憶部32に記憶される。
図5は、記憶部32に記憶されるデータの構造を示す図である。図示のごとく、識別番号「0」に、単位行列「E」が対応づけられ、識別番号「1」に、行列「WF(2)」が対応づけられている。ここで、「W」は、CDD行列であり、「F(2)」は、フーリエ行列である。なお、フーリエ行列は、直交行列のひとつである。図3に戻る。
制御部30は、受けつけた識別情報をもとに特定したステアリング行列Q(2)と、導出した上り回線のH行列と、受けつけた下り回線のH行列と、ステアリング行列Q(1)から、図示しない端末装置90に対するキャリブレーション係数を導出する。なお、制御部30では、ステアリング行列Q(2)が、単位行列であるか、直交行列とCDD行列の積であるかによって、キャリブレーション係数の導出方法を変える。
ここで、基地局装置10に対するキャリブレーション係数の変動量は、小さいものとする。そのため、基地局装置10に対するキャリブレーション係数は、一度導出されると、例えば数日間使用される。そのため、準静的な値であるといえる。一方、端末装置90に対するキャリブレーション係数は、端末装置90を単位にして異なっている。そのため、基地局装置10は、通信している端末装置90に応じて、端末装置90に対するキャリブレーション係数を切替ながら使用する。制御部30は、複数の端末装置90に対するキャリブレーション係数を記憶しておき、通信している端末装置90に対応したキャリブレーション係数を使用すればよい。
この構成は、ハードウエア的には、任意のコンピュータのCPU、メモリ、その他のLSIで実現でき、ソフトウエア的にはメモリにロードされた通信機能のあるプログラムなどによって実現されるが、ここではそれらの連携によって実現される機能ブロックを描いている。したがって、これらの機能ブロックがハードウエアのみ、ソフトウエアのみ、またはそれらの組合せによっていろいろな形で実現できることは、当業者には理解されるところである。
図6は、処理部22の構成を示す。処理部22は、FFT(Fast Fourier Transform)部50、合成部54と総称される第1合成部54a、第2合成部54b、第4合成部54d、空間分散部56、送信側補正部62、IFFT部64を含む。
FFT部50は、複数の時間領域信号200を入力し、それぞれに対してフーリエ変換を実行して、周波数領域の信号を導出する。前述のごとく、ひとつの周波数領域の信号として、サブキャリア番号の順に、サブキャリアに対応した信号がシリアルに並べられている。
合成部54は、FFT部50からの周波数領域の信号に対して、アダプティブアレイ信号処理を実行する。すなわち、アレイ合成が実行される。ここで、端末装置90から送信されている信号にもステアリング行列が適用されており、端末装置90においてステアリング行列が適用される前のデータの数は、「2」であるとする。これに対応するように、合成部54のうち、第1合成部54aと第2合成部54bが、データを出力する。また、残りの合成部54は、前述のHベクトルを生成するために伝送路特性を計算する。
合成部54には、図示しない複数の乗算部が備えられており、複数の乗算部は、受信ウエイトベクトルによって、周波数領域の信号をそれぞれ重み付けする。また、図示しない加算部も備えられており、加算部は複数の乗算部の出力を加算する。ここで、周波数領域の信号は、サブキャリア番号の順に配置されているので、乗算部における受信ウエイトベクトルの乗算もそれに対応している。また、加算部は、サブキャリア単位で、乗算結果を加算する。その結果、加算された信号も、図4のごとく、サブキャリア番号の順にシリアルに並べられている。なお、加算された信号が、前述の周波数領域信号202である。
なお、以下の説明においても、処理対象の信号が周波数領域に対応している場合、処理は、基本的にサブキャリアを単位にして実行される。ここでは、説明を簡潔にするために、ひとつのサブキャリアにおける処理を説明する。そのため、複数のサブキャリアに対する処理には、ひとつのサブキャリアにおける処理をパラレルあるいはシリアルに実行することによって、対応される。
合成部54は、FFT部50からの周波数領域の信号、周波数領域信号202、参照信号にもとづいて、受信ウエイトベクトルを導出する。ここで、参照信号として、合成部54は、トレーニング信号を記憶する。また、データの期間においては、予め規定しているしきい値によって、周波数領域信号202を判定し、その結果が参照信号とされる。なお、判定は硬判定でなく、軟判定でもよい。受信ウエイトベクトルの導出方法は、任意のものでよく、そのひとつはLMS(Least Mean Squeare)アルゴリズムによる導出である。また、合成部54は、相関処理によって伝送路特性である受信応答ベクトルを導出する。これは、公知の技術であるので、説明を省略する。なお、導出された受信応答ベクトルは、キャリブレーションにおいて使用するために、図示しない制御部30が、他の合成部54において導出された受信応答ベクトルとともに、行列の形式にまとめる。これが、前述のH行列に相当する。なお、このようなH行列を導出する機能は、端末装置90にも備えられているものとする。
空間分散部56は、通信の際にビームフォーミングを実行する。一方、キャリブレーションの際に、空間分散部56は、トレーニング信号とデータに対して、ステアリング行列Q(1)をそれぞれ乗算する。その結果、ステアリング行列Q(1)が乗算されたトレーニング信号と、トレーニング信号の数まで数を増加させたデータとが生成される。ここで、空間分散部56は、乗算を実行する前に、入力したデータの次数をトレーニング信号の数まで拡張する。入力したデータの数は、「2」であり、ここでは、「Nin」によって代表させる。そのため、入力したデータは、「Nin×1」のベクトルによって示される。また、トレーニング信号の数は、「4」であり、ここでは、「Nout」によって代表させる。空間分散部56は、入力したデータの次数をNinからNoutに拡張させる。すなわち、「Nin×1」のベクトルを「Nout×1」のベクトルに拡張させる。その際、Nin+1行目からNout行目までの成分に「0」を挿入する。
また、ステアリング行列Q(1)は、次のように示される。
ステアリング行列は、「Nout×Nout」の行列である。また、F(1)は、直交行列のひとつのフーリエ行列であり、「Nout×Nout」の行列である。直交行列は、フーリエ行列でなく、ウォルシュ行列であってもよい。なお、ステアリング行列Q(1)による乗算は、サブキャリアを単位にして実行される。さらに、W(1)は、前述のCDD行列に相当し、以下のように示される。
ここで、δは、シフト量を示す。以上の説明より、ステアリング行列Q(1)は、直交行列の行をひとつの単位にして、循環的なタイムシフトを施したものといえる。また、空間分散部56において規定されているステアリング行列が、前述のQ(1)であり、図示しない端末装置90において規定されているステアリング行列が、前述のQ(2)である。前述のごとく、Q(2)は、単位行列であってもよい。
通信の際に、空間分散部56は、ビームフォーミングを実行する。空間分散部56は、受信ウエイトベクトルから、ビームフォーミングに必要な送信ウエイトベクトルを推定する。送信ウエイトベクトルの推定方法は、任意とするが、最も簡易な方法として、受信ウエイトベクトルをそのまま使用すればよい。あるいは、受信処理と送信処理との時間差によって生じる伝搬環境のドップラー周波数変動を考慮し、従来の技術によって、受信ウエイトベクトルを補正してもよい。または、特異値分解を応用した送信ビームフォーミングを行ってもよい。これは、固有モード伝送ともいえる。ここでは、合成部54において導出された受信応答ベクトルに、端末装置90に対するキャリブレーション係数を乗算することによって、補正した伝送路特性を取得し、補正した伝送路特性から送信ウエイトベクトルを導出する。なお、端末装置90に対するキャリブレーション係数は、図示しない制御部30から取得する。また、端末装置90に対するキャリブレーション係数は、アンテナを単位にして異なった値を有し、さらにサブキャリアを単位にして異なった値を有しているものとする。
空間分散部56は、送信ウエイトベクトルによって、信号を重み付けする。送信側補正部62は、空間分散部56からの信号に、基地局装置10でのキャリブレーション係数を乗算する。その際、送信側補正部62は、図示しない制御部30から、基地局装置10に対するキャリブレーション係数を取得する。IFFT部64は、送信側補正部62からの信号に対して逆フーリエ変換を実行して、時間領域の信号に変換する。図6において、第1時間領域信号200a等は、2カ所に示されている。これらは、ひとつの方向の信号であり、これらが、図3における双方向の信号である第1時間領域信号200a等に対応する。
図7(a)−(b)は、通信システム100における信号のフォーマットを示す。図7(a)は、空間分散部56に入力される系列におけるフォーマットを示す。図の一番上の段が、ひとつ目の系列を示し、下の段に移るにしたがって、ふたつ目の系列、3つ目の系列、4つ目の系列を示す。ここで、複数の系列である「4」つの系列のそれぞれに「4」つの「LTS(Long Training Sequence)」が付加されている。一方、複数の系列のうちの少なくともひとつである「2」つの系列のデータが、「第1データ」、「第2データ」として付加されている。ここで、「LTS」は、伝送路特性の推定のために使用される信号である。「LTS」は、トレーニング信号に相当する。また、実際には、これら以外にも他の信号、例えば、タイミング同期等に使用されるべき「STS(Short Training Sequence)」も配置されるが、ここでは省略する。
図7(b)は、キャリブレーションを実行するときにおいて、空間分散部56から出力される複数の系列を示す。図7(a)のLTSは、ステアリング行列の乗算の結果、「LTS’」となる。図7(b)では、これを「第1LTS’」から「第4LTS’」として示す。図7(a)の「第1データ」と「第2データ」は、ステアリング行列の乗算の結果、4つの系列のデータとなる。図7(b)では、これを「第1データ’」から「第4データ’」として示す。
以上の構成によるキャリブレーションの動作を説明する。ここで、基地局装置10の送信側の応答はA(1)と示され、基地局装置10の受信側の応答はB(1)と示され、端末装置90の送信側の応答はA(2)と示され、端末装置90の受信側の応答はB(2)と示されるものとする。なお、AとBは、対角行列である。また、端末装置90において導出されるH行列は、H(1→2)’と示され、基地局装置10において導出されるH行列は、H(2→1)’と示される。一方、無線伝送特性だけを反映したH行列は、上記に対応して、H(1→2)、H(2→1)と示される。
まず、基地局装置10が、基地局装置10に対するキャリブレーション係数C
AUTO(1)を導出するための動作を説明する。その際、基地局装置10は、端末装置90に対してトレーニング信号を送信するが、端末装置90は、基地局装置10に対してひとつのアンテナ14から信号を送信する。端末装置90によって導出されるH行列は、次のように示される。
基地局装置10は、以上のH行列を次のように変形させる。
なお、α、β、hは、A、B、Hに含まれる成分である。また、基地局装置10によって導出されるH行列は、次のように示される。
これらより、キャリブレーション係数C
AUTO(1)は、次のように示される。
このようなキャリブレーション係数C
AUTO(1)によれば、γ(1)をスカラー量として、次のような関係が成立する。
次に、基地局装置10が、端末装置90に対するキャリブレーション係数C
Cross(2)を導出するための動作を説明する。本実施例に係るキャリブレーション係数C
Cross(2)の導出方法を説明する前に、ステアリング行列Q(2)を使用せずにキャリブレーション係数C
Cross(2)を導出する方法を説明し、さらに、そのような導出方法によってキャリブレーション係数C
Cross(2)が導出できない場合を説明する。基地局装置10と端末装置90は、トレーニング信号を互いに送信する。また、キャリブレーション係数C
AUTO(1)は、既に導出されているものとする。端末装置90によって導出されるH行列は、次のように示される。
また、基地局装置10によって導出されるH行列は、次のように示される。
ここで、TDD(Time Division Duplex)を想定し、上り回線と下り回線が対象であるとすれば、以下のように示される。
AやBは、対角化行列であるので、基地局装置10は、H行列を以下のように変形する。
これらより、キャリブレーション係数C
Cross(2)は、次のように示される。
これを利用すると以下の関係が成立するので、C
Cross(2)はキャリブレーション係数の機能を有する。
すなわち、ステアリング行列Q(1)の逆行列とH(1→2)’とを乗算し、乗算した結果の転置行列とH(2→1)’の逆行列とを乗算することによって、C
Cross(2)が導出される。
以上の導出方法によってキャリブレーション係数C
Cross(2)が導出できない場合を説明する。これまでの説明と説明と重複するが、端末装置90に対するキャリブレーション係数C
Cross(2)は、次のように示される。
そのため、次の関係が成立する。
また、B(1)は対角行列なので、次の関係が成立する。
端末装置90に対するキャリブレーション係数C
Cross(2)とA(2)、B(2)、Q(2)の間には、必ず次の関係が成り立つ。
すなわち、H行列の行の数がH行列の列の数より少なく、あるいはH行列のランク数がH行列の列の数と等しくない場合、以上の導出方法は、端末装置90に対するキャリブレーション係数C
Cross(2)を導出できない。これは、基地局装置10でのアンテナ12の本数が、端末装置90でのアンテナ14の本数より少ない場合、あるいはH行列のランク数が端末装置90でのアンテナ14の本数より少ない場合に対応する。
ステアリング行列Q(2)が、単位行列であるか、直交行列とCDD行列の積であるかを認識した場合の処理を説明する。まず、ステアリング行列Q(2)が単位行列であると、制御部30が認識した場合の処理を説明する。ステアリング行列Q(2)が単位行列であるので、以下のような関係が成立する。
したがって、以下のように示されるキャリブレーション係数C
Cross(2)を導出すればよいことになる。
行列の演算によって、以下のように示される。
キャリブレーション係数C
Cross(2)は、以下のように示される。
ステアリング行列Q(2)が単位行列である場合に、制御部30は、ステアリング行列Q(1)の逆行列と下り回線のH行列とを乗算する。さらに、制御部30は、乗算した結果の転置行列と上り回線のH行列の各成分同士を除算することによって、端末装置90に対するキャリブレーション係数を導出する。「各成分同士」とは、転置行列と上り回線のH行列のうち、対応する要素を示す。例えば、転置行列の1行1列目の要素と、上り回線のH行列の1行1列目の要素である。
次に、ステアリング行列Q(2)が直交行列とCDD行列の積であると、制御部30が認識した場合の処理を説明する。ここで、前述のごとく、直交行列は、フーリエ行列であるとする。この場合、以下のように示されるキャリブレーション係数C
Cross(2)を導出すればよいことになる。
これは、以下のように展開される。
ここで、F(2)は、既知であるので、以下のようにC
Cross(2)’’を定義する。
式24は、以下のように示される。
なお、A(2)’は、以下のように示される。
これらより、以下の関係が成立する。
これは、式20に対応するので、式22と同様に、C
Cross(2)’’を導出できる。
最終的に、キャリブレーション係数C
Cross(2)は、以下のように示される。
ステアリング行列Q(2)が、直交行列とCDD行列の積である場合に、制御部30は、ステアリング行列Q(1)の逆行列と下り回線のH行列から第1の乗算結果を生成する。また、制御部30は、直交行列の逆行列と上り回線のH行列から第2の乗算結果を生成する。さらに、制御部30は、第1の乗算結果の転置行列と第2の乗算結果の各成分同士を除算することによって、図示しない端末装置90に対するキャリブレーション係数を導出する。以上の処理において、制御部30は、ステアリング行列Q(2)のうち、直交行列を予め記憶する。すなわち、CDD行列は、キャリブレーション係数の導出において使用されない。そのため、CDD行列の各要素の値が、端末装置90において任意に決定される場合であっても、本実施例は対応できる。また、CDD行列の各要素の値は、端末装置90でのアンテナ14間の距離等に応じて、任意に決定されるべきである。
以上の構成による通信システム100の動作を説明する。図8は、通信システム100におけるキャリブレーションの手順を示すシーケンス図である。基地局装置10は、トレーニング信号を送信する(S10)。端末装置90は、トレーニング信号にもとづいて、H行列を導出する(S12)。端末装置90は、トレーニング信号を送信すると共に、導出したH行列をデータとして送信し、識別番号も送信する(S14)。基地局装置10は、トレーニング信号にもとづいて、H行列を導出する(S16)。基地局装置10は、識別番号によって特定されるステアリング行列Q(2)と、H行列を使用しながら、キャリブレーションを実行する(S18)。基地局装置10は、キャリブレーションの結果を記憶する(S20)。また、基地局装置10は、キャリブレーションの結果を通信に使用する。
図9は、基地局装置10におけるキャリブレーションの手順を示すフローチャートである。処理部22、無線部20等は、トレーニング信号を送信する(S40)。無線部20、処理部22等は、トレーニング信号を受信する(S42)。無線部20、処理部22等を介して、制御部30は、識別番号を受信する(S44)。処理部22は、受信したトレーニング信号にもとづいて、伝送路特性を導出し、制御部30は、H行列を導出する(S46)。識別番号が単位行列に対応していれば(S48のY)、制御部30は、単位行列に対応した方法によってキャリブレーション係数を導出する(S50)。一方、識別番号が単位行列に対応していなければ(S48のN)、制御部30は、フーリエ行列に対応した方法によってキャリブレーション係数を導出する(S52)。
以上説明した実施例の変形例を説明する。これまでの実施例において、基地局装置10は、端末装置90に対するキャリブレーション係数を導出する際に、ステアリング行列Q(2)の情報を使用していた。また、ステアリング行列Q(2)を特定するために、基地局装置10は、端末装置90から、ステアリング行列Q(2)に対応した識別番号を受けつけていた。変形例でも、実施例と同様に、端末装置90に対するキャリブレーション係数を導出する際に、ステアリング行列Q(2)の情報を使用する。しかしながら、制御部30は、H行列をもとに、ステアリング行列Q(2)を特定する。そのため、基地局装置10は、識別番号を受けつけない。
変形例に係る通信システム100は、図2と同じタイプの通信システム100によって示される。そのため、実施例と同一の部分に関しては、説明を省略する。端末装置90は、下り回線のH行列を導出し、導出したH行列を基地局装置10に送信する。基地局装置10は、端末装置90から受信した信号をもとに、上り回線のH行列を導出する。また、通信システム100は、端末装置90から、下り回線のH行列を受けつける。基地局装置10は、上り回線のH行列と、下り回線のH行列をもとに、ステアリング行列Q(2)が単位行列であるかを特定する。ステアリング行列Q(2)が単位行列である場合、基地局装置10は、実施例での単位行列に対応した方法によって、端末装置90に対するキャリブレーション係数を導出する。一方、ステアリング行列Q(2)が単位行列でない場合、基地局装置10は、実施例でのフーリエ行列に対応した方法によって、端末装置90に対するキャリブレーション係数を導出する。
変形例に係る基地局装置10は、図3と同じタイプの基地局装置10によって示される。そのため、実施例と同一の部分に関しては、説明を省略する。制御部30は、導出した上り回線のH行列と、受けつけた下り回線のH行列をもとに、ステアリング行列Q(2)が単位行列であるかを特定する。なお、制御部30によってステアリング行列Q(2)が非単位行列であると特定された場合、ステアリング行列Q(2)は、直交行列とCDD行列の積であるとする。
制御部30において、ステアリング行列Q(2)が単位行列であるかの特定は、以下のようになされる。ここでは、ステアリング行列Q(1)の逆行列と下り回線のH行列との乗算結果に対する転置行列を下り回線の変形H行列と定義する。下り回線の変形H行列は、式21によって示されており、[HDL’]Tと示されている。なお、以下の説明において、ステアリング行列Q(2)は、単位行列であるとする。制御部30は、上り回線のH行列のうち、行あるいは列が同一であるふたつの要素を選択し、当該ふたつの要素の比を導出する。上り回線のH行列は、式20のHUL’に相当する。そのため、上り回線のH行列のうち、行あるいは列が同一であるふたつの要素とは、式20の最下段の1項目の行列のうち、1行1列目の要素と、2行1列目の要素に相当する。1行1列目の要素は、h11α1(2)β1(1)に相当し、2行1列目の要素は、h12α1(2)β2(1)に相当する。なお、(1→2)は、省略する。これらの比を導出するために、1行1列目の要素を2行1列目によって除算する。その結果、上り回線のH行列におけるふたつの要素の比として、h11β1(1)/h12β2(1)が導出される。
制御部30は、上り回線のH行列のふたつの要素に対応するように、下り回線の変形H行列のふたつの要素を選択する。下り回線の変形H行列のうち、上り回線のH行列のふたつの要素に対応した要素とは、式21の最下段の行列のうち、1行1列目の要素と、2行1列目の要素に相当する。1行1列目の要素は、γ(1)h11β1(2)β1(1)に相当し、2行1列目の要素は、γ(1)h12β1(2)β2(1)に相当する。なお、(1→2)は、省略する。これらの比を導出するために、1行1列目の要素を2行1列目によって除算する。その結果、下り回線の変形H行列におけるふたつの要素の比として、h11β1(1)/h12β2(1)が導出される。
さらに、制御部30は、上り回線のH行列におけるふたつの要素の比と、下り回線の変形H行列におけるふたつの要素の比を比較する。前述の例において、上り回線のH行列におけるふたつの要素の比と、下り回線の変形H行列におけるふたつの要素の比は、ともにh11β1(1)/h12β2(1)と、等しくなっている。一方、ステアリング行列Q(2)が、直交行列とCDD行列の積である場合、上り回線のH行列におけるふたつの要素の比と、下り回線の変形H行列におけるふたつの要素の比は、一般的に等しくならない。そのため、制御部30では、上り回線のH行列におけるふたつの要素の比と、下り回線の変形H行列におけるふたつの要素の比とが同一である場合に、ステアリング行列Q(2)が単位行列であると特定する。
ステアリング行列Q(2)が単位行列である場合、制御部30は、単位行列に対応した方法によって、端末装置90に対するキャリブレーション係数を導出する。一方、ステアリング行列Q(2)が単位行列でない場合、制御部30は、フーリエ行列に対応した方法によって、端末装置90に対するキャリブレーション係数を導出する。これらの説明は、前述の通りであるので、説明を省略する。
図10は、本発明の変形例に係る通信システム100におけるキャリブレーションの手順を示すシーケンス図である。基地局装置10は、トレーニング信号を送信する(S60)。端末装置90は、トレーニング信号にもとづいて、H行列を導出する(S62)。端末装置90は、トレーニング信号を送信すると共に、導出したH行列をデータとして送信する(S64)。基地局装置10は、トレーニング信号にもとづいて、H行列を導出する(S66)。基地局装置10は、H行列をもとに、ステアリング行列Q(2)を特定する(S68)。基地局装置10は、特定したステアリング行列Q(2)と、H行列を使用しながら、キャリブレーションを実行する(S70)。基地局装置10は、キャリブレーションの結果を記憶する(S72)。また、基地局装置10は、キャリブレーションの結果を通信に使用する。
図11は、基地局装置10におけるキャリブレーションの手順を示すフローチャートである。処理部22、無線部20等は、トレーニング信号を送信する(S80)。無線部20、処理部22等は、トレーニング信号を受信する(S82)。処理部22は、受信したトレーニング信号にもとづいて、伝送路特性を導出し、制御部30は、H行列を導出する(S84)。制御部30は、H行列をもとに、要素の比を導出する(S86)。要素の比が同一であれば(S88のY)、制御部30は、単位行列に対応した方法によってキャリブレーション係数を導出する(S90)。一方、要素の比が同一でなければ(S88のN)、制御部30は、フーリエ行列に対応した方法によってキャリブレーション係数を導出する(S92)。
本発明の実施例によれば、ステアリング行列Q(2)に対応した識別番号を受けつけるので、ステアリング行列Q(2)を通知するための伝送効率の低下を抑制できる。また、受けつけた識別番号に対応したステアリング行列Q(2)を使用するので、端末装置に対するキャリブレーションの精度を向上できる。また、ステアリング行列Q(2)を認識してからキャリブレーションを実行するので、キャリブレーション係数の導出を確実にできる。また、ステアリング行列Q(2)が単位行列であることを認識すると、それに応じた処理によってキャリブレーション係数を導出するので、キャリブレーション係数の精度を向上できる。また、第2ステアリング行列が、直交行列と、CDD行列の積であることを認識すると、それに応じた処理によってキャリブレーション係数を導出するので、キャリブレーション係数の精度を向上できる。
また、ふたつのH行列をもとにステアリング行列Q(2)が単位行列であるかを特定するので、伝送効率を低下を抑えつつ単位行列であることを認識でき、ステアリング行列Q(2)が単位行列であることに応じた処理によってキャリブレーション係数を導出するので、キャリブレーション係数の精度を向上できる。また、ふたつのH行列をもとに、ステアリング行列Q(2)が単位行列であることを特定するので、付加的な情報を必要とせず、伝送効率の低下を抑制できる。また、ステアリング行列Q(2)が単位行列でないと認識した場合に、それに応じた処理によってキャリブレーション係数を導出するので、キャリブレーション係数の精度を向上できる。
以上、本発明を実施例をもとに説明した。この実施例は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
本発明の実施例において、端末装置90におけるステアリング行列Q(2)は、単位行列、あるいは直交行列とCDD行列の積であるとしている。しかしながらこれに限らず例えば、ステアリング行列Q(2)は、直交行列とCDD行列の積であるとしてもよい。すなわち、直交行列の部分は固定であってもよい。その場合、制御部30は、実施例と同様に、直交行列を記憶する。さらに、実施例と同様に、端末装置90に対するキャリブレーション係数が導出されればよい。本変形例によれば、直交行列の部分が固定である場合にも、本発明を適用できる。また、CDD行列を認識していなくても、キャリブレーション係数を導出できるので、端末装置90においてCDD行列を任意に設定できる。また、第2ステアリング行列が、直交行列と、CDD行列の積であることに応じた処理によってキャリブレーション係数を導出するので、キャリブレーション係数の精度を向上できる。つまり、ステアリング行列Q(2)の少なくとも一部を認識していればよい。
本発明の実施例において、制御部30は、上り回線のH行列と、下り回線のH行列をもとに、ステアリング行列Q(2)が単位行列であるかを特定している。しかしながらこれに限らず例えば、制御部30は、上り回線のH行列と、下り回線のH行列をもとに、ステアリング行列Q(2)が、直交行列とCDD行列の積であるかを特定してもよい。この場合、直交行列の逆行列と上り回線のH行列との乗算結果を上り回線の変形H行列と定義する。制御部30は、上り回線の変形H行列のうち、行あるいは列が同一であるふたつの要素を選択し、当該要素の比を導出する。また、制御部30は、上り回線の変形H行列でのふたつの要素に対応するように、下り回線の変形H行列のふたつの要素を選択し、選択したふたつの要素の比を導出する。
さらに、制御部30は、上り回線の変形H行列でのふたつの要素の比と、下り回線の変形H行列のふたつの要素の比が同一である場合に、ステアリング行列Q(2)が、直交行列とCDD行列との積であると特定する。なお、ステアリング行列Q(2)が、直交行列とCDD行列との積でない場合、ステアリング行列Q(2)は、単位行列であってもよい。なお、特定されたステアリング行列Q(2)に対して、実施例での説明のように、キャリブレーション係数が導出されればよい。本変形例によれば、ステアリング行列(2)に関する情報を受けつけなくても、ステアリング行列Q(2)を特定できる。つまり、キャリブレーション係数を導出する際に、ステアリング行列Q(2)の少なくとも一部が認識できていればよい。なお、ステアリング行列Q(2)が単位行列であるかを特定する場合と、ステアリング行列Q(2)が、直交行列とCDD行列の積であるかを特定する場合とを組み合わせてもよい。ステアリング行列Q(2)の特定精度を向上できる。
本発明の実施例において、通信システム100は、OFDM変調方式を使用しているものとして説明した。しかしながらこれに限らず、通信システム100は、シングルキャリア方式を使用していてもよい。本変形例によれば、本発明を様々な通信システムに適用できる。つまり、複数のアンテナによって、ビームフォーミングを実行する通信システムであればよい。
本発明の実施例において、基地局装置10は、端末装置90に対するキャリブレーション係数を導出している。しかしながらこれに限らず例えば、端末装置90が、基地局装置10に対するキャリブレーション係数を導出してもよい。その場合、実施例において説明した基地局装置10の動作は、端末装置90によってなされる。本変形例によれば、基地局装置10の構成を簡易にできる。
10 基地局装置、 12 アンテナ、 14 アンテナ、 20 無線部、 22 処理部、 24 変復調部、 26 IF部、 30 制御部、 32 記憶部、 50 FFT部、 52 受信側補正部、 54 合成部、 56 空間分散部、 62 送信側補正部、 64 IFFT部、 90 端末装置、 100 通信システム。