JP4625552B2 - 地下水の浄化方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、地下水の浄化方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
我が国において、有機・無機肥料や植物残渣などの農業系の影響、畜産廃棄物の農地還元や畜舎排水などの畜産系の影響、さらには生活排水や工場廃水などの生活系・工業系の影響によって、硝酸やリン酸が地下に浸透し、その結果、地下水汚染が顕在化している。特に、水中に含まれる硝酸は、人体内で亜硝酸に還元され、窒息症状であるメトヘモグロビン血症を引き起こす原因物質となるほか、発癌性の疑いがあるN-ニトロソ化合物を生成する物質となる。従って、都市部用水の約3割が地下水を利用している現状を考慮すると、これらの汚染物質を浄化することは社会的に極めて重要な課題である。
硝酸の代表的な物理化学的除去法としては、以下のものが挙げられる。
【0003】
(1)イオン交換法
イオン交換法は、R-Cl型の強塩基性陰イオン交換樹脂を用いる方法である。しかし、この方法はイオン価数が高いほど、かつ原子番号が大きいほど選択性が増大するため、硝酸よりも選択性の高い硫酸イオンも樹脂に捕捉されることとなる。従って、イオン交換樹脂を再生するには、高塩素濃度の再生水による処理が必要となる。
(2) 逆浸透膜処理法
逆浸透膜処理法は、半透膜を用いて機械的な圧力をかけ再生水を得る方法である。しかし、この方法は、コストが高く硝酸以外のイオンも同時に除去されてしまい、硝酸のみを選択的に除去することが困難である。
【0004】
(3) 電気透析法
電気透析法は、透析膜を用いて荷電条件下で硝酸を分離する方法である。しかし、この方法では、対象水の塩分濃度が高いと電力消費量が大きく、逆に塩分濃度が低いと電気抵抗が大きくなるため、最適な塩分範囲を設定することが困難である。さらに、逆浸透膜処理法と同様に硝酸のみを選択的に除去する目的には適さない。
以上の各方法は、消費エネルギーや処理コストが高く、さらに地下水を汲み上げる必要があり、運転管理が煩雑であることが共通の問題点であると言える。
【0005】
(4) 生物学的脱窒法
従来より、生物学的脱窒法により硝酸を除去する方法が提案されている。この方法は、例えばシュードモナス・デニトリフィカンス(Pseudomonas denitrificans)などの従属栄養性脱窒菌を利用した方法であり、脱窒には水素供与体となる有機炭素源が必要となる。この方法によれば、有機炭素源としてメタノール(CH3OH)が使用されており、以下のような反応で脱窒が進行する。
2CH3OH + 2NO3 - → 2CO2 + 4H2O + N2↑
したがって、反応に十分な有機炭素源が存在すれば硝酸は容易に除去される。
しかしながら、メタノールは水溶性であるため、脱窒反応に利用されなかった余剰メタノールが流出し、二次汚染を引き起こす可能性がある。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、地下水の浄化方法を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、生分解性高分子を含む浄化壁を構築し、これを地下水層中に埋設することにより地下水を浄化し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、生分解性高分子を含む浄化壁を地下水層中に埋設することを特徴とする硝酸及び/又はリン酸により汚染された地下水の浄化方法である。浄化壁としては、リン酸イオンと反応して水不溶性のリン酸塩を形成し得る物質及び/又は還元剤をさらに含むものが挙げられ、これらの浄化壁に、還元剤(例えば鉄粉)を含む層をさらに重層したものも挙げられる。
また、上記生分解性高分子としては、脂肪族又は芳香族ポリエステル樹脂、生分解性高分子合成能を有する微生物により生産される高分子、デンプン系高分子及びタンパク質系高分子からなる群から選択される少なくとも一種が挙げられる。
以下、本発明を詳細に説明する。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明の浄化方法は、生分解性高分子を含むように構築した浄化壁を地下水層に埋設することを特徴としており(図1)、該高分子を微生物により分解させ、得られた分解産物(炭素源としての有機物質)を脱窒菌に供給し、地下水中に含まれる汚染物質(例えば硝酸など)を分解させることを可能とするものである(図2)。
【0009】
1.生分解性高分子
本発明において、生分解性高分子とは、加水分解により、又はアルカリゲネス・ファエカリス(Alcaligenes faecalis)若しくはシュードモナス・レモイグネイ(Pseudomonas lemoignei)などの微生物により分解される高分子を意味し、生分解性を有するものであれば特に限定されるものではない。例えば、生分解性を有する脂肪族ポリエステル系樹脂、微生物により生産される高分子、又はデンプン系の高分子若しくはタンパク質系の高分子を例示することができる。
ここで、脂肪族ポリエステルとしては、例えば発酵ポリアミノ酸、合成ポリアミノ酸、酢酸セルロース、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸、ポリグリコリド、ポリ(3-ヒドロキシ酪酸)、ポリビニルアルコール、ポリラクチド、ポリプロピオラクトン、ポリグリコール酸などが挙げられる。
【0010】
また、生分解性高分子を合成することができる微生物(例えばラルストニア・ユートロファ(Ralstonia eutropha)、アルカリゲネス・ユートロファス(Alcaligenes eutrophus)等)により製造される高分子としては、例えばポリ-3-ヒドロキシ酪酸、ポリ-3-ヒドロキシ吉草酸若しくはこれらの共重合物、ポリ-4-ヒドロキシ酪酸、又はポリ-4-ヒドロキシ酪酸とポリ-3-ヒドロキシ酪酸との共重合物などが挙げられる。
さらに、デンプン、多糖類系の高分子としては、例えばカードラン、プルラン(水溶性多糖類)、セルロース、デンプン、アミロース、キチン、キトサン等が挙げられ、タンパク質系の高分子としては、例えばグルテン、ゼラチン、コラーゲン等が挙げられる。
【0011】
本発明に用いる生分解性高分子は、上記の生分解性を有するものであれば特に限定されるものではない。また、上記生分解性高分子から任意に1種又は2種以上のものを適宜組み合わせて選択することができる。これらの生分解性高分子は、対象となる地下水の硝酸濃度、流速、生育微生物種によって最適なものが選択される。但し、成形加工性に優れている点、生分解しやすい性質を有する点、分解生成物が生物代謝に利用されやすい点などを考慮すると、微生物産生のポリエステル、例えばポリ(3-ヒドロキシ酪酸-3-ヒドロキシヘキサノエート)ランダム共重合体(P(3HB-co-3HH))、ポリ(3-ヒドロキシ酪酸-3-ヒドロキシ吉草酸)ランダム共重合体(P(3HB-co-3HV))又はこれらの混合物が好ましい。
なお、上記脂肪族系ポリエステル樹脂は、市販品(例えばモンサント社の「バイオポール」)を用いることもできる。
【0012】
2.浄化壁の構築
本発明において、浄化壁とは、上記生分解性高分子を含有する透水性固形物を意味する。そして、浄化壁に含まれる生分解性高分子が分解することにより、従属栄養脱窒菌が硝酸を窒素ガスに分解するための炭素源としての役割を有するものである。浄化壁を構成する基材(担体)には、砂、礫、砂利などの土壌、活性炭などの植物材料、多孔質コンクリートなどの人工構造物等が使用されるが、粉末状の高分子を均等に混合し得る点、及び透水性に優れている点で砂を担体とすることが好ましい(図5A又はB)。
【0013】
さらに、浄化壁は、生分解性高分子を含むフィラメント又はシートとして得ることもできる。フィラメントは、溶融紡糸法、乾式紡糸法、湿式紡糸法などにより得ることができる。そして、フィラメントにおいては編み物の編み方(平編み、ゴム編み等)又は織物の織り方(平織り、綾織り等)に準じて網目状にしてもよく(図5C)、不織布の製法に準じて不織布状としたものでもよい(図5D)。さらに、シートは、蜂の巣状の構造等に成形することにより透水性を付与することもできる(図5E)。
【0014】
生分解性高分子の種類及び配合量は、地下水の有機物濃度、硝酸などの汚染物質の濃度、生分解性高分子の分解速度、地下水の流速等に基づいて任意に設定することができる。この場合において、種類及び配合量は、分解微生物により又は加水分解により得られる分解生成物の生成速度と、該分解生成物及び硝酸を用いて従属栄養性脱窒菌により脱窒される脱窒速度とが同じになるように設定することが好ましい。従って、浄化壁の担体を天然の土壌又は砂を用いた場合は、元来その土壌中に脱窒菌が含まれているため、脱窒菌の添加は不要であるか又は少量で済む。一方、浄化壁を人工的に作製する場合は、脱窒菌が全く含まれない場合もあるため、生分解性高分子の分解菌及び脱窒菌を添加することにより生分解性高分子の分解速度と脱窒速度とのバランスを図る。
ここで、浄化の対象となる化学物質としては、限定されるものではないが、硝酸、リン酸、硫化物等を挙げることができる。
【0015】
一般に、地下水中には、硝酸のみならずリン酸も含まれている場合がある。本発明においては、地下水中にリン酸が含まれていても、硝酸などの化学物質とともにリン酸を除去することが可能である。リン酸を除去するための浄化壁は、上記浄化壁に、リン酸イオンと反応して水不溶性のリン酸塩を形成し得る物質を混合したものが使用される。「リン酸イオンと反応して水不溶性のリン酸塩を形成し得る物質」(以下「リン酸塩形成物質」ともいう)としては、カルシウム、マグネシウムなどのアルカリ土類金属を含むもの、例えば消石灰(Ca(OH)2)、水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)などが挙げられる。
【0016】
また、一般に脱窒菌は嫌気環境下において脱窒活動を行うため、地下水は好気的環境よりも嫌気的環境であることが好ましい。そこで、本発明においては、上記浄化壁に還元剤を混合するか、あるいは浄化壁の下流側に還元剤を含む層を隣接させる(重層する)ことにより、脱窒菌が嫌気状態で硝酸呼吸を行うことを容易にすることができる。地下水には流れがあること、脱窒菌により硝酸呼吸が行われる時期は生分解性高分子が分解された後であることを考慮すると、還元剤を含む層(還元層)は、固形有機物層の下流側に隣接させて二層構造を採用することが好ましい(図3及び4)。
本発明に用いる還元剤としては、鉄粉(Fe2+)、銅、亜鉛、イオウ化合物などが挙げられるが、安価及び安全である点で鉄粉が好ましい。
以上のことより、本発明における浄化壁は、以下の組成のものが挙げられる。
【0017】
▲1▼担体+生分解性高分子
▲2▼担体+生分解性高分子+リン酸塩形成物質
▲3▼担体+生分解性高分子+リン酸塩形成物質+還元剤
▲4▼担体+生分解性高分子+還元剤
▲5▼上記▲1▼〜▲4▼のいずれかの浄化壁に、さらに還元剤を含む壁を重層したもの(二層構造)
【0018】
担体に混合する生分解性高分子、リン酸塩形成物質及び還元剤の混合割合は、地下水中に含まれるリン酸及び硝酸の濃度又は組成比、地下水の流速等により適宜設定することができる。例えば、上記▲1▼の組成の浄化壁の場合は、担体として砂100gに対して高分子(例えば脂肪族ポリエステル)を0.1〜50g配合することができる。
【0019】
配合後は、浄化壁を埋設するための形態に成形する。浄化壁は、完成品として板状の構造に成形してもよく(図5A〜E)、完成品の一部として柱状杭(円柱状、角柱状)又は板状となるように成形してもよい。浄化すべき地下水層が巨大である場合は初めから完成品を作製することは困難であるので、完成品の一単位として、図5に示す各形態の部品であって適当な大きさのもの(ピース)に成形することが好ましい。なお、部品は板状のものでも柱状のものでもよく、その大きさは地下水層の大きさに応じて任意に設定することができる。
例えば、円柱状の杭を重ね合わせて板状のものにすると、浄化壁は図5Bの形態のものとなり、これが完成品又は部品として利用される。
【0020】
本発明において用いられる浄化壁は、透水性を有する限り、浄化対象の地下水の汚染度、地下水の流速、微生物の分解速度、脱窒菌の分解速度等に応じて適宜選択することができる。例えば、汚染度が比較的低く、外界への影響が少ない場合は、図5の各形態において浄化壁の一枚の厚さを薄くし、又は図5Bの形態において柱状杭を重ねたときの厚さを薄くする。一方、汚染度が比較的高く、外界への影響が大きいと思われる場合は、各浄化壁の厚さを厚くし、あるいは一本の柱状杭の円周を小さくする。その結果、地下水と接触する浄化壁の表面積が大きくなり、脱窒菌に必要な炭素を迅速かつ十分に供給することができる。
【0021】
3.浄化壁の埋設
化学物質で汚染されている地下水層に、上記の通り構築した浄化壁を埋設する(図1又は3)。浄化壁が予め完成品として板状又は層状に成形された場合は、地面を掘削後、浄化壁を掘削孔に直接埋め込むことにより埋設を行う。
浄化壁の一部が部品として成形された場合は、以下の通り埋設を行う。すなわち、部品として柱状杭を用いたときは、柱状杭を掘削孔に打設しながら埋設し、全体として層状又は板状構造となるように形成させる。また、部品として図5に示す各形態の板状のものを用いたときは、部品を掘削孔に打設しながら(例えばコンクリートブロック塀を建設する要領で)埋設し、全体として層状又は板状構造となるように形成させる。
【0022】
また、浄化壁は、カセット状に予め成形しておき、カセットケース(地下水又は地下水成分と反応しない材料のもの(例えば塩化ビニール製、ステンレススチール製等))とともに地下水層に埋め込むこともできる。この場合は、先に埋め込んだ浄化壁が分解した後は新たなカセットを挿入するだけで済み、埋設操作を簡略化させることができる。
なお、浄化壁の埋設は、泥水を用いない掘削手段(例えばオールケーシング掘削)により行うことができる。
【0023】
本発明において、通常、浄化壁は地下水流域の下流側に埋設するが、浄化の対象となる地下水が生活用水等の上水として使用される場合は、地下水域の上流側に埋設することが好ましい。
さらに、汚染地下水領域の横幅が大きいためその領域全体にわたり対応した浄化壁を埋設することが困難であるときは、地下水が浄化壁に集まるよう誘導壁を設けてもよい(図6)。この場合の誘導壁は透水性をもたない性質のもの(例えばコンクリート壁、鉄板等)が選択される。誘導壁の設置方法は、上記浄化壁の埋設方法と同様である。
【0024】
4.浄化過程
以上のように地下水層に浄化壁を埋設すると、浄化壁内では、微生物が分泌する分解酵素(リパーゼ、ポリヒドロキシアルカン酸デポリメラーゼなど)によって、充填した生分解性高分子が徐々に分解され、結果として水溶性のモノマーやオリゴマーが分解生成物として放出される。
浄化壁内に生息する従属栄養性の脱窒菌は、溶出した分解生成物を有機炭素源として利用し、水中の硝酸を窒素ガスまで還元し除去する(図2)。例えば、微生物が合成する生分解性高分子、ポリ-[R]-3-ヒドロキシ酪酸を担体として用いた場合、生分解によって生成するモノマー([R]-3-ヒドロキシ酪酸:C4H8O3)は以下のように、生物学的脱窒に利用される。
C4H8O3 + 3NO3 → 4CO2 + 4H2O
【0025】
なお、高分子を分解することができる微生物としては、例えばアルカリゲネス・ファエカリス(Alcaligenes faecalis)、シュードモナス・スツッツェリ(Pseudomonas stutzeri)などが挙げられる。また、従属栄養性の脱窒菌としては、例えばアルカリゲネス・デニトリフィカンス(Alcaligenes denitrificans)、シュードモナス・デニトリフィカンス(Pseudomonas denitrificans)などが挙げられる。
【0026】
さらに、地下水中のリン酸を除去することを目的として消石灰を生分解性高分子に混合したときの脱窒過程を図7に示す。すなわち、地下水中のリン酸イオン(PO4 -)は、生分解性高分子内の消石灰と反応し、リン酸カルシウム(CaPO4)の化合物となり地下水中から除去される。また、この反応によって発生したOH-は、生分解性高分子を加水分解し、水溶性のモノマーやオリゴマーが地下水中に生成する。さらに、生分解性高分子は酵素によっても分解される。そして、アルカリ及び酵素による分解で生じた水溶性の生成物は、硝酸還元の水素供与体として利用される。なお、地下水のpHは、脱窒によって生成した炭酸によって中和される。以上のような機構によって、地下水中の硝酸とリン酸が同時に除去される。
【0027】
さらに、生分解性高分子を含む浄化壁に、さらに還元剤を含む壁(還元層)を重層した場合(図3)は、生分解性高分子は分解微生物により分解され、この分解物が硝酸呼吸の炭素源(水素供与体)として使用される。従って、脱窒菌は嫌気状態で硝酸呼吸を行い、硝酸は窒素並びに水及び炭酸ガスに分解される(図4)。
【0028】
【実施例】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれら実施例にその技術的範囲が限定されるものではない。
〔実施例1〕硝酸汚染地下水の脱窒モデル試験(1)
硝酸性窒素で汚染された地下水(岐阜県各務原市の各務原台地地下水;NO3-N:22ppm, TOC(全有機炭素)2ppm)を試験試料とした。
千葉県習志野市茜浜、大成建設株式会社芝補場の地下10cmから採取した土壌1gを蒸留水で2回洗浄し、遠心(10,000rpm、10分)した後、蒸留水100mlに懸濁した。この懸濁液を有機物分解菌試料とした(生菌数2〜4×107個/g)。
上記採取した地下水60mlを含む100ml容バッフル付フラスコに土壌懸濁液1mlを添加した。得られた溶液中に、以下の▲1▼〜▲4▼の組成物を各フラスコに添加した。
【0029】
▲1▼鉄粉 40mg
▲2▼鉄粉 40mg + P(3HB-co-3HV) 4mg
▲3▼鉄粉 40mg + 3HB-Na(3-ヒドロキシ酪酸のナトリウム塩)4mg
▲4▼鉄粉 40mg + メタノール 6mg
上記の通り得られたそれぞれのフラスコを振盪培養し(30℃で16日)、硝酸体窒素、TOC、pH及びORP(酸化還元電位)の測定を経時的に行った。
【0030】
結果を図8に示す。図8A(鉄粉を含む場合)において、上記▲1▼〜▲4▼のいずれの組成物を添加したときでも硝酸体窒素は培養直後から減少したが、水素供与体の入っていない場合は、減少が5日以降は停止した。これに対し、水素供与体が含まれているものは硝酸体窒素の減少が持続し、最終的に0になった。硝酸体窒素の減少速度は3HB-Naを添加したものが最も速く、P(3HB-co-3HV)を添加したもの及びメタノールを添加したものは同程度の速度であった。
なお、鉄粉を含まない場合についても上記と同様に試験した結果(図8C)、時間的な変化は認められず、試験に用いた土壌の還元状態が不足していたことが判明した。
【0031】
一方、地下水中の有機物濃度については、3HB-Na及びメタノールのいずれも硝酸体窒素とともに減少しており、脱窒の際の水素供与体として使われていたことが予想される。これに対し、P(3HB-co-3HV)を添加した試料については、有機物濃度は培養後半になって増加傾向を示した(図8B、「-○-」)。このことは、放出された水溶性の分解生成物が直ちに脱窒の水素供与体として使われていることを示しており、培養後半の増加は水中の硝酸体窒素がすべて脱窒されたため、分解生成物が蓄積したものが一つの原因であると考えられる。
以上の結果より、P(3HB-co-3HV)は、微生物脱窒の水素供与体とすることが可能であり、余剰の炭素源による二次汚染も引き起こされないことが分かった。
【0032】
〔実施例2〕硝酸汚染地下水の脱窒モデル試験(2)
500ml容量の円筒カラム内に、岐阜県各務原台地の畑地より採取した土壌300g、生分解性高分子P(3HB-co-3HV)を30g、及び還元剤として鉄粉30gを充填し、浄化壁のモデルを作製した。カラム底部より実施例1で使用したものと同一の硝酸態窒素汚染地下水(NO3-N:22ppm, TOC:2ppm)を流入し、カラム上部よりオーバーフローした水を浄化後の地下水モデルとした(図9)。
流量150ml/日(充填物容量に対して約0.5volume/日)で汚染水を流し、カラム上面の流出水を採取し、硝酸態窒素の測定を行った。その結果、流入開始1日後でカラム上面から採取した水に含まれる硝酸態窒素は2.2ppmに減少し、12日後では硝酸態窒素は消失した(0ppm)。従って、本発明の浄化方法において、浄化壁モデルとしたカラム内で脱窒反応が起こり、汚染水の浄化が可能であることが確認された。
上述のように、生分解性高分子を担体に用いることによって、分解生成物の徐放による有機炭素源の安定供給と、信頼性の高い硝酸除去が達成できる。また、本方法によれば、従来技術のように地下水を汲み上げる必要もなく、さらに処理エネルギーも必要としないため、経済的である。
【0033】
【発明の効果】
本発明により、地下水の浄化方法が提供される。本発明の浄化方法によれば、安価かつ簡易に有機炭素源を安定して供給できるほか、硝酸やリン酸などの効率的な除去を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の浄化方法の概要を示す模式図である。
【図2】生分解性高分子の分解過程及び脱窒菌による硝酸の分解過程を示す図である。
【図3】本発明の浄化方法の概要を示す模式図である。
【図4】本発明の浄化方法における浄化機構を示す図である。
【図5】本発明の方法に使用される、生分解性高分子含有浄化壁の形態を示す図である。
【図6】本発明の浄化方法の概要を示す模式図である。
【図7】本発明の浄化方法における浄化機構を示す図である。
【図8】硝酸で汚染された地下水を浄化するためのモデル試験の結果を示す図である。
【図9】硝酸で汚染された地下水を浄化するための浄化壁モデルを示す図である。
Claims (4)
- 還元剤を含む還元層と生分解性高分子を含む固形有機物層とから構成される浄化壁を、上記固形有機物層を地下水層における地下水の流れに対して上流側に、上記還元層を地下水層における地下水の流れに対して下流側に位置するように、硝酸により汚染された地下水層に埋設することを特徴とする地下水の浄化方法。
- 浄化壁が、リン酸イオンと反応して水不溶性のリン酸塩を形成し得る物質をさらに含み、上記地下水層が、上記硝酸に加えて更にリン酸により汚染されたものである請求項1記載の浄化方法。
- 生分解性高分子が、脂肪族ポリエステル樹脂、生分解性高分子合成能を有する微生物より生産される高分子、デンプン系高分子及びタンパク質系高分子からなる群から選択される少なくとも一種である請求項1記載の浄化方法。
- 還元剤が鉄粉である請求項1記載の浄化方法。
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