JP4559525B2 - 舌側保持溝を備えた歯列矯正器具 - Google Patents
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Description
本発明は、歯列矯正治療中に患者の歯に固定される器具に関する。本器具は、器具に接続されたワイヤセグメントまたは別の部材を適所に保持するための保持溝を有する。
歯列矯正治療は、変位した歯を歯列弓に沿って所望の位置に移動させることを含む。歯列矯正治療により、咬合を改善することができ、それによって、歯が咀嚼中に合せてよりよく機能するようになる。また、歯列矯正治療により、歪んだ歯を再配置し隣接する歯の間の間隙または間隔を除去することによって、患者の口腔の審美的外観を大幅に改善させることも可能である。
歯列矯正治療の1つの一般的な形態は、患者の前歯、犬歯および双頭歯に固定されるブラケットとして知られる小さいスロット付き器具によって実施する。器具のスロットにはアーチワイヤが収容され、アーチワイヤは、歯の所望の位置への移動を案内する軌道を形成する。アーチワイヤの端部は、しばしば、患者の大臼歯に固定される頬面管として知られる小さい器具の通路内に収容される。
多くの歯列矯正器具は、器具の中心本体から外側に向って延在するタイウィングとして知られる小さい彎曲した突出部を有する。たとえば、ブラケットによっては、歯肉方向(すなわち、患者の歯肉または歯茎に向う方向)に延在する2つの間隔が空けられたタイウィングを有する。それらのブラケットはまた、しばしば、咬合方向(すなわち、患者の歯の外側先端に向う方向)に延在する2つの間隔が空けられたタイウィングを有する。歯肉側タイウィングは、アーチワイヤスロットの歯肉側面に沿ってブラケットの中心本体に接続され、咬合側タイウィングは、アーチワイヤスロットの咬合側面に沿ってブラケット本体に接続される。
タイウィングは、一般に、歯列矯正医が治療中にアーチワイヤをアーチワイヤスロット内に保持するために使用する。このために、咬合側タイウィングおよび歯肉側タイウィングの後方または舌側に沿ってリガチャーを配置し、またそれをアーチワイヤの前側または唇側の上にも配置する。(本明細書で使用する「舌側」という語は患者の舌に向う方向を言い、「唇側」という語は患者の唇または頬に向う方向を言う。)多くの場合、リガチャーは、アーチワイヤスロットの底部または舌側面に接触してアーチワイヤを保持する。しかしながら、歯が著しく不正咬合であり最初にアーチワイヤから幾分かの距離に位置する場合、リガチャーは、アーチワイヤをアーチワイヤスロットの底部に向う方向に付勢する役割を果たす。
概して、2つのタイプのリガチャーが広く使用されている。1つのタイプのリガチャーは、小さいエラストマ製Oリングの形態である。Oリングは、アーチワイヤの正面側に亙るとともにタイウィングの周囲および後部に伸張することができるように十分に可撓性である。Oリングが適所に配置されると、エラストマ材料の固有の復元力は、Oリングをその標準的にコンパクトな伸張していない形態に戻る傾向がある。この収縮力は、アーチワイヤをアーチワイヤスロットの底部に向って付勢し、またリガチャーを適所に保持する助けともなる。
リガチャーの他のタイプは、ワイヤタイとして知られている。このリガチャーは、小断面直径を有するステンレス鋼ワイヤ等の複数の短いワイヤから作製される。使用時、歯列矯正医は、ワイヤリガチャーをタイウィングの後部の周囲とともにアーチワイヤの正面側に亙って延在させ、その後リガチャーの自由端をねじり合せる。端部をねじり合せ、リガチャーにおけるいかなる弛みも除去すると、アーチワイヤはアーチワイヤスロット内に保持されるかまたはアーチワイヤスロットに向って付勢される。
上述した歯列矯正器具のタイウィングは、典型的には、タイウィングの舌側面に沿って延在する彎曲した溝またはノッチの形態の凹部を有する。たとえば、多くのタイウィングは、半円筒形状の中心軸がアーチワイヤスロットの長手方向軸に対して略平行であるように向けられる半円筒状舌側凹部を有する。場合によっては、タイウィングの反対側(または唇側)は、略平坦であり、器具本体の唇側面と同一平面上にある。他の場合では、タイウィングの唇側面は、舌側面の彎曲した凹部に対して補足的な彎曲形状を有し、それによって、タイウィングは全体的に幾分かフック型または「C」型形状を有する。
上述したようなタイウィングの舌側凹部は、治療中にリガチャーを適所に保持する助けとなるため、概して重要であると考えられる。使用時に器具からリガチャーが分離すると、患者が不注意に飲み込む可能性があるため、非常に厄介である。さらに、リガチャーが無くなったためにもはやアーチワイヤに接続されていない器具は、関連する歯を移動させるためには役に立たず、その結果、治療時間が長くなる可能性がある。
したがって、歯列矯正器具の製造業者は、しばしば、治療中にリガチャーが器具から外れる可能性を低減するようにタイウィングを設計し構成してきた。このために、タイウィングの舌側凹部が、断面基準面で考慮した場合にリガチャーの周縁部の実質的な部分(半分等)の周囲に延在するために、典型的には十分大きい。使用中に凹部に深く着座するリガチャーは、タイウィングから滑り落ちて器具から離脱する可能性が低くなる。
しかしながら、リガチャーは、多種多様の断面サイズおよび形状で入手可能である。ワイヤリガチャーは、典型的には、約0.008インチ(0.20mm)から約0.014インチ(0.36mm)までの範囲に亙る直径を有する円形断面形状を有する。エラストマ材料から作製されるリガチャーは、しばしば、弛緩時に約0.030インチ(0.76mm)および使用時に約0.020インチ(0.5mm)等、はるかに大きい。さらに、円形以外の断面形状を有するエラストマ製リガチャーもまた知られている(たとえば、特許文献1を参照)。
結果として、歯列矯正器具のタイウィングには、しばしば、歯列矯正医が選択する可能性のある多種多様なリガチャーサイズのうちの任意の1つに適合するために、比較的大きい舌側凹部が設けられる。この大きい舌側凹部は、タイウィングの全体サイズを増大させる傾向にある。さらに、タイウィングはまた、使用中に破砕し器具の本体から折り取れる可能性が低くなるように、比較的厚い断面を有するようにも設計される。タイウィングには、患者がものを食べている間に口腔内で比較的固い食物にぶつかる場合等、時に大きい力が加わるため、強度なタイウィングは重要であると考えられる。
したがって、歯列矯正器具のタイウィングは、しばしば、器具の残りの構造面に関してしばしばかさばる。しかしながら、タイウィングの比較的大きいサイズは、対向する歯列とまたは対向する歯列に取り付けられた器具と接触する可能性が増大するため、不都合であると考えられる。また、タイウィングは、口腔内で軟組織に隣接して接触し刺激をもたらす可能性もある。
歯列矯正器具の製造業者は、時に、頬面管を設計する場合にタイウィングを省略した。1つの面に沿って開口している歯列矯正ブラケットのアーチワイヤ通路またはスロットとは対照的に、頬面管のアーチワイヤ通路は、しばしば4つの面にそって閉鎖している。アーチワイヤの端部を閉鎖した通路内に挿入する場合、アーチワイヤを頬面管器具に接続するリガチャーは不要である。かかる器具からタイウィングを除去することは、器具が口腔内の他の構造を過度に圧迫しないことを保証する助けとなる。
しかしながら、歯列矯正医がタイウィングを有する頬面管器具を使用することを好む場合がある。たとえば、第1大臼歯のための頬面管によっては、頬面管をブラケットに転用するために1つの面に沿って開口することができる通路を有する。通路の開口は、しばしば、青年期の患者において、その患者の隣接する第2大臼歯がその表面で頬面管を受容するために十分に生えた後に実施する。第1大臼歯上の頬面管の通路が開口すると、タイウィングは、リガチャーを適所に保持する役割を果たす。
さらに、歯列弓に沿った1つまたは複数の場所において隣接する歯間に間隙がある場合がある。それらの場合、歯科医は、歯を歯列弓の長さに沿って移動させ間隙を閉塞する「タイバックループ」として知られるワイヤセグメントを取り付けるように選択する場合がある。典型的には、タイバックループの一方の側を、頬面管に接続し、ループの他方の側を、間隙の反対側に位置する器具に接続される器具に接続する。
歯科医によっては、タイバックループを頬面管器具のフックに接続することを好む。しかしながら、タイバックループを頬面管器具の本体に接続することを好む歯科医もいる。それらの場合、ループは、基部に隣接する位置において頬面管本体の咬合側、遠心側および歯肉側に沿って延在する。弛みを除去するためにタイバックループの端部をねじり合せると、タイウィングは、ループが本体から滑り落ちないことを保証する助けとなる。不都合なことには、タイウィングは、しばしば、上述した理由により厄介であると考えられる。
従来、頬面管器具によっては、その後部が遠心方向に(すなわち、患者の歯列の中心から離れる方向に)基部に対して間隔を空け張り出した関係で延在する。この張出部は、タイバックループを受容するために使用することができる器具の基部に隣接するノッチを提供する。しかしながら、ノッチのみでは、時に、治療中にタイバックループが移動しないことを保証するためには不十分であると考えられる。
目下、本技術分野において、必要に応じてタイバックループおよび他の部材を適所に確実に保持する改良された特徴を有する歯列矯正器具が必要とされている。好ましくは、かかる器具は、他方の歯列弓の対向する歯に接触し、対向する歯に取り付けられる歯列矯正器具を圧迫し、または隣接する軟組織を刺激する可能性を低減する、全体的に比較的小型な構成を有する。
本発明は、器具の基部に隣接する保持溝を有する歯列矯正器具に関する。溝は、治療中にワイヤセグメントまたは他の部材を適所に保持するように機能する。溝は、好ましくは、器具の少なくとも2つの面に沿って延在し、より好ましくは、基部に隣接する器具の少なくとも3つの面に沿って延在する。
本発明の保持溝は、好ましくは、細長いワイヤセグメントまたは他の部材を、器具の上に適当な向きでおよび器具と確実に連結され固定した関係で維持するために特に有用である。溝により、捕捉されたワイヤまたは他の部材が、器具に対して埋め込み式のコンパクトな向きでぴったりと保持されることが可能になる。適当なワイヤおよび他の部材の例には、タイバックループと複数の歯および/または歯列矯正器具を互いに固定する構造とがある。ワイヤまたは他の部材を、その断面形状が十分に小さい限り、金属またはポリマー材料(エラストマ材料を含む)から作製してもよい。本発明の器具を、たとえば、タイウィングを有する器具とともにタイウィングのない器具を含む、頬面管器具、ブラケット器具または自己結紮器具とすることができる。
より詳細には、本発明は、基部と基部から外側に向って延在する本体とを備える歯列矯正器具に関する。本体は、咬合側面と歯肉側面とを有する。アーチワイヤを受容する細長いアーチワイヤ通路が、咬合側面と歯肉側面との間を本体を横切って延在する。本器具はまた、基部に隣接する位置において咬合側面と歯肉側面とのうちの少なくとも一方に沿って延在する溝も有する。溝は、咬合側面と歯肉側面とのうちの少なくとも一方に対して舌側方向に位置する。本体は、溝の上を、器具の中心を通って延在する唇側−舌側基準軸に対して略垂直な方向に延在する。
本発明の別の態様は、基部と、基部から外側に向って延在する本体と、を備える歯列矯正器具に関する。本体は、咬合側面と歯肉側面とを有する。細長いアーチワイヤ通路が、アーチワイヤを受容するために、咬合側面と歯肉側面との間を本体を横切って延在する。本器具はさらに、ワイヤセグメントまたは他の部材を適所に保持する溝を有する。溝は、基部に隣接して位置し、唇側面を有する。溝は、咬合側面と歯肉側面とのうちの少なくとも一方に沿って延在し、咬合側面と歯肉側面とのうちの少なくとも一方は、溝の唇側面の上に延在する肩部を呈する。
本発明はまた、基部と、基部から外側に向って延在する本体と、を備える歯列矯正器具に関する。本体は、咬合側面と歯肉側面とを有する。本器具はまた、アーチワイヤを受容するために咬合側面と歯肉側面との間を本体を横切って延在する細長いアーチワイヤ通路も有する。本体は、基部にすぐ隣接して位置し咬合側面および歯肉側面に対して舌側方向に位置する首部を有する。首部は、咬合側−歯肉側方向に一定の全幅を有する。本体は、首部の全幅より広い咬合側面から該歯肉側面までの全幅を有する。
本発明のさらなる態様は、基部と、基部から外側に向って延在する本体と、を備える歯列矯正器具に関する。本体は、咬合側面と歯肉側面とを有する。略平坦な舌側面を有する細長いアーチワイヤ通路が、アーチワイヤを受容するために本体を横切って延在する。本器具はさらに、本体の咬合側面と歯肉側面とに沿って延在する溝を有する。溝は、基部にすぐ隣接して位置し、唇側面を有する。溝の唇側面は、アーチワイヤ通路の舌側面に対して略平行な方向に延在する。
本発明のさらなる詳細を、特許請求の範囲の特徴において定義する。
本発明の一実施形態による歯列矯正器具を、図1〜図5に示し、それを広く数字10によって示す。器具10は、患者の歯に取り付けるための基部12を有する。
基部12は、患者の歯に直接接合するように適合された、外側の、舌側に向いた面を有する。その面には、好ましくは、治療中に器具10が歯に確実に接合されたままであることを保証するのを助ける、1つまたは複数のタイプの機械的および/または化学的保持強化手段を設ける。適当な機械的および化学的保持手段は、本技術分野において周知であり、たとえば、溝、粒子、凹部、切下げ部、球面および接着促進剤がある。好ましくは、基部12は、患者の歯面の複合凸型形状に一致するように適合される複合凹型形状を有する。
代替的に、基部12を、歯面に取り付けられるバンド(図示せず)または他の構造に固定してもよい。たとえば、基部12は、歯の上に取囲む関係で配置されるステンレス鋼バンドに溶接または蝋付けしてもよい。バンドの使用により、治療中に器具10が関連する歯から分離しないことを保証する助けとなる。
器具10はまた、基部12から唇側方向に外側に向って延在する本体14も有する。本体14は、咬合側面16と、唇側面18と、歯肉側面20と、を有する。本体はまた、近心側面または近心端22と遠心側面または遠心端24も有する。
近心端22から遠心端24に本体14を横切って細長いアーチワイヤ通路26が延在する。アーチワイヤ通路26は、咬合側面16と歯肉側面20との間にある。アーチワイヤ通路26はまた、唇側面18に対して舌方向にも位置する。
本体14は、基部12に直接隣接する首部28を有する。首部28は、アーチワイヤ通路26に対して舌側方向に位置する。好ましくは、首部28は、器具10の中間を通って延在する唇側−舌側基準軸に対して垂直な基準面で見た場合に、曲線状の角を呈する。
図1、図3および図4を参照することによって理解することができるように、首部28は、本体14の最大の全近心−遠心長より短い近心−遠心方向の全長を有する。図示する実施形態では、首部28は、咬合側面16、唇側面18、歯肉側面20およびアーチワイヤ通路26の近心−遠心長より短い近心−遠心長を有する。
首部28はまた、本体14の最大の全咬合側−歯肉側幅より狭い咬合側−歯肉側方向の全幅を有する。特に、首部28の咬合側−歯肉側幅は、咬合側面16の外面と歯肉側面20の外面との間の咬合側−歯肉側方向の間隔より狭い。この関係を図1および図5に示す。
器具10はまた、ワイヤセグメントまたは他の部材を適所に保持する舌側保持溝30を有する。溝30は、基部12にすぐ隣接して位置し、側面16、20のうちの少なくとも一方に沿って延在する。図面に示す実施形態では、溝30は、側面16、20の両方に沿ってかつそれらの下に延在するとともに端部22、24の両方に沿って延在する。
より詳細には、溝30は、咬合側面16に対して舌側方向に位置し首部28に対して咬合側方向に位置する咬合側部分32を有する。溝30はまた、歯肉側面20に対して舌側方向に位置し首部28に対して歯肉側方向に位置する歯肉側部分34も有する。溝30はさらに、近心端22に対して舌側方向に位置し首部28に対して近心方向に位置する近心部分36を有する。さらに、溝30は、遠心端24に対して舌側方向に位置し首部28に対して遠心方向に位置する遠心部分38を有する。
咬合側面16は、溝30の咬合側部分32の上に張り出す細長い肩部を呈する。同様に、歯肉側面20は、溝30の歯肉側部分32の上に張り出す細長い肩部を呈する。近心端22と遠心端24とは、それぞれ近心部分36と遠心部分38との上に張り出す肩部を呈する。側面16、20および端部22、24によって提供される肩部の各々は、器具10の中心を通る唇側−舌側方向に延在する基準軸に対し好ましくは略垂直でありより好ましくは垂直である夫々の基準面で延在する。
好ましくは、溝30は、細長いワイヤセグメントまたは他の部材を適所に保持するために十分な唇側−舌側方向の高さを有する。好ましくは、溝30の唇側−舌側全高は、少なくとも0.005インチ(0.13mm)でありより好ましくは少なくとも0.008インチ(0.2mm)である。図示する実施形態では、図1、図3および図4に示すように基部12の隣接する部分が凸形状であるため、溝30の最小全高は咬合側部分32と歯肉側部分34との中心領域に位置する。
好ましくは、溝30は、首部28から離れる方向に、少なくとも0.005インチ(0.13mm)でありより好ましくは少なくとも0.008インチ(0.2mm)である全幅を有する。咬合側部分32と歯肉側部分34とに対して、この幅を、首部28から離れ上に重なる肩部の外側角に向う方向に咬合側−歯肉側基準軸に沿って測定することにより確定する。近心部分36および遠心部分38に対しては、この幅を、首部28から離れ上に重なる肩部の外側角に向う方向に遠心−近心基準軸に沿って測定することにより確定する。
器具10はまた、別の歯列矯正装置に任意に接続するためのフック40も有する。適当な装置の例には、患者の口腔内で他の器具に接続されるコイルばねとエラストマ製強制モジュールとがある。任意に、かかる装置は、フック40を受容する穴または開口を備えた端部を有するが、他のタイプの接続もまた可能である。
この実施形態におけるフック40は、歯肉側方向に本体14の歯肉側面20から離れる方に延在する全直線形状を有する。フック40の外側端部は、拡大頭部を有する。好ましくは、フック40の面のすべてが、口腔内の軟組織を刺激するのを回避するために滑らかに丸みを帯びている。
任意に、器具10は、器具10を患者の歯に、または器具10がバンドに組み立てられる場合はバンドに整列させるのを助ける、1つまたは複数の位置決めノッチを有する。図面に示す実施形態では、器具10は、位置決めツールの端部を受容するように適合される唇側溝またはノッチ42を有する。器具10が患者の歯の上に配置されると、歯科医は、器具10に対しそれを歯構造の上の所望の位置に正確にシフトさせるために必要な力を加えるために、位置決めツールの端部をノッチ42内に配置することができる。
図6は、歯列矯正治療を受けている患者に対する器具10の使用の例を示す。この例では、器具10は、患者の第1右大臼歯44に直接接合されている。
図6における残りの歯は、各々歯列矯正ブラケットを受容する。特に、双頭歯46はブラケット48を受容し、犬歯50はブラケット52を受容し、側歯54はブラケット56を受容し、中央歯58はブラケット60を受容する。例示の目的で、図示するブラケット48、52、56、60は、患者の歯のエナメルに直接接合される金属製ブラケットであるが、他のブラケットおよび/または接続の方法を利用してもよい。
アーチワイヤ61を、ブラケット48、52、56、60のスロットに接続し、器具10の通路26に挿入する。この例では、患者は、双頭歯46と犬歯50との間に間隙を有する。歯列矯正治療中、審美的な目的でかかる間隔を閉塞することが望まれる。さらに、間隔が閉塞されない場合、歯は、ある期間に亙って徐々に移動し歪むかまたは他の不満足な状態である新たな向きをとる可能性がある。
したがって、図6に示すシナリオに直面する歯列矯正医は、歯を合せて移動させて間隙を閉塞するためにタイバックループを使用するように選択してもよい。図6におけるタイバックループは、器具10と双頭歯ブラケット48と犬歯ブラケット52とを相互接続するワイヤセグメント62を備える。適当なワイヤセグメント62の例は、約0.010インチ(0.25mm)から約0.014インチ(0.35mm)の範囲の直径を有するステンレス鋼ワイヤである。
ワイヤセグメント62を、ブラケット48、52の歯肉側および咬合側面および歯肉側面と器具10の歯肉側面20、遠心端24および咬合側面16とに沿って延在する経路に沿って取り付ける。より詳細には、器具10に対し、ワイヤセグメントを、溝30の咬合側部分32、歯肉側部分34および遠心部分38に配置する。また、ワイヤセグメントを、フック40の後方(すなわち、フック40の舌側面)とともに、遠心方向に通路26から外側に向って突出するアーチワイヤ61の端部の後方に配置する。図6において、アーチワイヤ61のその遠心端部分を、患者の歯肉に向う方向にある角度で屈曲しているように示す。
この例では、アーチワイヤ61の犬歯ブラケット52と側歯ブラケット56との間の位置に、補助フック64を取り付けている。補助フック64を、スポット溶接作業によってアーチワイヤ61に固定するが、他のタイプの接続(シンチ(cinch)タイプ接続等)も可能である。そして、取り付けられたワイヤセグメント62における過度な弛みを除去し組立品を合せて堅固に固定するために、ワイヤセグメント62の端部を、フック64に隣接する位置でねじり合せる。
本発明は、ワイヤセグメント62によって加えられる(または抵抗される)力が、アーチワイヤ61の彎曲した長手方向軸と本質的に同一直線上にあるという点で、有利である。したがって、歯44、46、50の望ましくない回転または他の移動を回避することができる。さらに、図6に示すように配置されたワイヤセグメント62は、器具10および関連するブラケット48、52とともに比較的小型の組立品を形成する。
比較のために、ワイヤセグメント62の遠心端が、器具10の咬合側面16、遠心端24および歯肉側面20に沿った経路ではなく器具10のフック40の周囲に延在することが可能である。しかしながら、その場合、ワイヤセグメント62によって加えられるかまたは抵抗される結果としての力は、図6に示す配置のようにアーチワイヤ61の長手方向軸と整列しない。したがって、歯44、46、50のうちの1つまたは複数は、望ましくない新たな向きへの1つまたは複数の方向に傾くかまたは枢動する可能性がある。
好ましくは、本体14(首部28およびフック40を含む)を、1つの単一部品として一体的に作製する。本体14と基部12とは、1つの部品として一体的に作製するかまたは別々に製作した後合せて組み立てる。本体14を作製する好ましい製造プロセスには、ステンレス鋼(No.316または17−4ステンレス鋼)から作製された合金等の耐食性合金を使用する、鋳造技術と、金属射出成形技術と、機械加工技術と、が含まれる。基部12を、別々に製造しバンドに取り付けるように意図しない場合、任意にホイル裏打を含む微細ワイヤメッシュ片から作製してもよい。
図1〜図6に示す本発明の実施形態は、タイウィングを有しておらず、したがって比較的小型の全体構成を呈する。しかしながら、望ましい場合は、タイウィングを本体14に付加することができる。さらに、器具10は、ヘッドギアまたは他の器具に取り付けるための補助管または通路等、他の特徴を同様に有してもよい。器具10のアーチワイヤ通路26は、任意に、本技術分野においてトルクまたはオフセットとして既知のものを提供するために基部12に対して一定の角度で延在してもよい。
本発明の別の実施形態による歯列矯正器具10aを、図7〜図9に示す。器具10aは、基部12aと基部12aから外側に向って延在する本体14aとを有する。本体は、咬合側面16aと歯肉側面(図示せず)とを有する。本体14aはまた、近心端22aと遠心端24a(後述する)を有する。細長いアーチワイヤ通路28aが、本体14aを横切って近心端22aから遠心端24aに略近心−遠心方向に延在する。
器具10aは、「自己結紮」ブラケットとして知られるタイプのものである。この目的で、器具10aは、近心側ばねクリップ72aと遠心側ばねクリップ74aとを備えるラッチを有する。歯列矯正アーチワイヤ(図示せず)を、アーチワイヤ通路28aの底部に向う方向に付勢すると、クリップ72a、74aは、偏向して広がることによりアーチワイヤが完全に通路28a内に移動することができるようにする。アーチワイヤが通路28a内に着座すると、クリップ72a、74aは、それらの固有の弾力性により、アーチワイヤを通路28a内に保持するために図7〜図9に示すようなそれらの弛緩した閉位置にシフトする。
好ましくは、クリップ72a、74aの両側は、アーチワイヤが器具10aに対して加える力が一定の最小値を超過する時はいつでも、スロット開口の向きに外側に向って偏向しアーチワイヤをアーチワイヤ通路28aから解放する。この最小値は、通常の治療中にアーチワイヤがアーチワイヤ通路28aから無意図的に外れるのを防止するために十分高い。したがって、アーチワイヤは、意図された治療プログラムを実施し関連する歯を所望に応じて移動させるために十分な力を器具10aに対して加えることができる。好ましくは、アーチワイヤが器具10aに対して同じ方向に、約0.2ポンド(0.1kg)から約11ポンド(5kg)までの範囲、より好ましくは約0.4ポンド(0.2kg)から約5.5ポンド(2.5kg)までの範囲、もっとも好ましくは約0.4ポンド(0.2kg)から約2.7ポンド(1.25kg)までの範囲である力を加える時はいつでも、クリップ72a、74aは、アーチワイヤを、アーチワイヤ通路28aの舌側に対して垂直でありかつそこから離れる方向に解放する。
アーチワイヤをクリップ72a、74aから解放する力を確定するために、長手方向断面において、アーチワイヤ通路28aの断面積に対して補完的な(すなわち、実質的に満たす)面積を有するアーチワイヤの細長い部分を選択する。次に、スリングを作製し、アーチワイヤ部分の、器具10aの近心端および遠心端に隣接するが接触しない2つの間隔が空けられた場所に接続する。任意に、スリングを、アーチワイヤ部分に溶接または蝋付けする。次に、器具10aを固定位置に保持したまま、アーチワイヤ部分の長手方向軸がアーチワイヤ通路28aの長手方向軸に対して傾斜しないことを確実にするように注意して、スリングを器具10aから引き離す。アーチワイヤをクリップ72a、74aから解放する力は、0.5インチ/分(1.3cm/分)のクロスヘッド速度を使用して、スリングに接続されたインストロン(Instron)試験装置を使用することにより確定する。
好ましくは、クリップ72a、74aの自己解放(すなわち自己開口)のための最小値は、合せて、器具10aを歯面に直接接合する場合に同じ方向において器具10aを関連する歯から撤去するために必要な力より実質的に下回る。クリップ72a、74aの自己解放のための最小値は、好ましくは、同じ方向において器具10aを関連する歯から撤去するために必要な力の約半分を下回る。たとえば、器具10aと関連する歯との間の接着接合の予想接着力が頬唇方向に16ポンド(7.3kg)である場合、アーチワイヤが同じ頬唇方向に約8ポンド(3.6kg)を幾分か超える力を器具10aに加える時はいつでもアーチワイヤを自己解放するように、クリップ72a、74aを構成する。
自己解放クリップ72a、74aは、器具10aが自然に外れる可能性が実質的に低減するという点において、歯科医に対して利益をもたらす。たとえば、歯科医が比較的大きいアーチワイヤをアーチワイヤ通路28a内に配置しようと試み、歯科医がアーチワイヤを放すとすぐにクリップ72a、74aが開口し自己解放する場合に、歯科医は、それより剛性の低いアーチワイヤを代りに使用することができる。別の例として、アーチワイヤが、当初クリップ72a、74aにより通路28a内に保持されており、器具10aに対してより大きい力を加える場合(たとえば、患者が比較的硬い食べ物を咀嚼している場合等、アーチワイヤが硬い物体にぶつかる場合に発生する可能性がある)、クリップ72a、74aは、それらのスロット開口向きまで偏向してアーチワイヤを解放するため、器具10aは歯から外れない。そして、器具10aの基部12aを関連する歯に再接合する必要なしに、単にアーチワイヤをアーチワイヤ通路28a内に再配置することにより治療を再開することができる。
各クリップ72a、74aを、好ましくは、酸洗面を有する平坦な焼きなましされた超弾性材料から作製する。好ましくは、超弾性材料は、55.97%重量%のニッケル含量と10°±5℃のAf点とを有するニチノールである。ニチノールは、37.5%まで冷間加工されており、約0.012インチ(0.3mm)から約0.016インチ(0.4mm)までの範囲の厚さを有する。クリップ72a、74aを、まず、荒削りEDMプロセスにおいて切断し、その後、縁部を平滑にするためにEDMプロセスを使用してさらに1回以上その縁部に沿って切断する。別のオプションとして、クリップ72a、74aを、形状記憶合金から作製される管の一部から切断する。適当な形状記憶合金には、ニチノールとベータチタンとの合金がある。その管を、スロットを有するように切断することにより、図7および図9にもっともよく示す対向するアーム部を形成する。
ラッチおよびクリップ72a、74aの他の詳細および特徴は、「自己解放式ラッチを備えた歯列矯正器具(ORTHODONTIC APPLIANCE WITH SELF−RELEASING LATCH」と題された本出願人の同時係属米国特許出願第09/848,030号明細書において述べられている。
クリップ72a、74aは、各々、キャップ75aによって適所に保持される。この実施形態では、キャップ75aは、本体14aの一部としてみなされ、上述したように近心端22aと遠心端24aとを提供する。キャップ75aを、本体14aの中心部分から近心−遠心方向に延在する突出部に固定し、その突出部を、クリップ72a、74aを適所に保持するように配置する。たとえば、突出部を、アーチワイヤ通路26aの両側に沿うとともにクリップ72a、74aの舌側の一部またはすべてに沿って、設けてもよい。突出部を、中心部分かまたはキャップ75aのいずれかと一体的としてもよく、その後、溶接または蝋付け作業により中心部分またはキャップ75aの他方に固定してもよい。
器具10aはまた、咬合側面16aと歯肉側面との真下に(すなわち、咬合側面16aと歯肉側面との舌側に)位置する経路に沿って延在する保持溝30aも有する。好ましくは、保持溝30aはまた、近心端22aと遠心端24aとの真下にも延在する。保持溝30aを、本体14aの首部36aに隣接して配置する。本体14aはまた、溝30aの上を器具10aの中心を通って延在する舌側−唇側基準軸に略垂直な基準面に沿った方向に延在する肩部を呈する。代替的に、基準面は、アーチワイヤ通路26aの底部または舌側面に略平行である。
器具10aはまた、本体14aの歯肉側面20aに接続される2つのタイウィング76aも有する。近心側タイウィング76aを、フック78aに一体的に接続する。タイウィング76aは、本技術分野において既知の従来からのブラケットのタイウィングに類似する。タイウィング76aは、たとえば、歯が激しく不正咬合である場合に発生する可能性のあるように器具10aがアーチワイヤからかなりの距離に位置する場合、治療の初期段階において有用である。それらの場合、タイウィング76aを保持溝30aとともに、器具10aとアーチワイヤとの間の接続を確立するためのリガチャーとともに使用することができる。しかしながら、タイウィング76aは必ずしも必要ではなく、望ましい場合は器具10aから省略してもよい。
本発明の別の実施形態による歯列矯正器具10bを、図10および図11に示す。器具10bは、後述する態様を除き上述した器具10と本質的に同じである。
器具10bは、舌側面27bを備えたアーチワイヤ通路26bを有する。器具はまた、上述した溝30、30aに類似する溝30bも有する。しかしながら、舌側面27bは、溝30bの唇側面に対して下方(すなわち、舌側方向)に位置する。
基部10bは、薄型器具が望まれる場合に特に有利である。例として、限定されないが、第1双頭歯での使用がある。さらに、図示するような器具10bは、フックを有していないため、歯肉組織との干渉の可能性が低減する。しかしながら、望ましい場合は、器具10bはフックを有することができる。
上述したような溝30、30a、30bはまた、隣接する歯の間の間隔を閉塞するためのタイバックループ以外の部材を保持するためにも有利に使用することができる。たとえば、溝30、30a、30bを使用して、1つまたは複数の他の歯列矯正器具のための固定場所としての役割を果たすことが望まれる場合、複数の歯を合せて固定するワイヤセグメントを、捕捉する関係で保持してもよい。また、溝30、30a、30bは、他のいくつかの細長い部材を、本体の他の歯に接続される面に沿って適所に保持するように機能してもよく、あるいは歯列矯正治療中に使用される他の装置のための接続点としての役割を果たしてもよい。
上述した実施例は、本発明のさまざまな態様および利益を例示することが意図されている。しかしながら、当業者は、本発明の精神から逸脱することなく、上述した器具に対し多数の変形および追加を行ってもよい、ということを認めるであろう。したがって、本発明は、上に詳細に述べた特定の実施形態に限定されるものとみなされるべきではなく、特許請求の範囲とそれらの等価物との公正な範囲によってのみ限定されるものとみなされるべきである。
Claims (2)
- 基部と、
該基部から外側に向って延在し、咬合側面、唇側面、歯肉側面、近心端及び遠心端を有する本体と、
該咬合側面と該歯肉側面との間を該本体を横切って延在してアーチワイヤを受容するとともに、閉鎖された唇側面を備える細長いアーチワイヤ通路と、
該本体の該咬合側面と該歯肉側面との両方に沿って近心−遠心方向に延びる溝と、
を具備する大臼歯のための歯列矯正用頬面管器具であって、
該溝は、該基部に隣接しかつ該咬合側面および該歯肉側面よりも舌側方向に配置され、
該本体は、該溝の上を該頬面管器具の中心を通って延在する唇側−舌側基準軸に対して垂直な近心−遠心方向に延在し、
該溝は、該近心端と該遠心端とのうちの少なくとも一方に沿って延在するとともに、該近心端と該遠心端とのうちの少なくとも一方よりも舌側方向に配置され、
前記溝が、唇側−舌側基準軸に沿った少なくとも0.13ミリメートルの高さを有し、
前記溝が、咬合側−歯肉側基準軸に沿った少なくとも0.13ミリメートルの幅を有する、
頬面管器具。 - 前記アーチワイヤ通路内においてアーチワイヤを解放可能に保持するラッチを具備する、請求項1に記載の頬面管器具。
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