この種の変速機には様々なタイプのものが提案されており、以下にその幾つかの例を説明する。
第1の例としては、特許文献1に開示されたカップ形ギアレス変速装置がある。この変速装置は、図15、図16に示されるように、同一軸線上にいずれも回転自在に支持された2つの軸110、120と、軸110の端部に固着された内筒(第1の回転体)115と、軸120の端部に固着され内筒115の外周に臨ませた外筒(第2の回転体)125とを含む。内筒115と外筒125の対向面のうち、内筒115の対向面にはエンドレスの傾斜溝(第1の溝)115aが設けられ、外筒125の対向面には複数個のサイン波溝(第2の溝)125aが設けられる。変速装置はまた、等角度軸線方向にサイン波溝125aの数と相違する複数個の狭長窓135aが穿たれ内筒115と外筒125との隙間へ回転自在に挿入されたガイド筒135を有する。ガイド筒135には、その狭長窓135aへ1個ずつ球130が転動自在に挿入され、球130はその両側露出面で傾斜溝115a及びサイン波溝125aに係合している。
第2の例として特許文献2に開示された変速機がある。図17、図18を参照して、この変速機は、断面円形を持つ第1の軸体の外周面に周方向に第1の繰返し数の第1の溝12Aを有する第1のローラ10と、断面円形を持つ第2の軸体の外周面に周方向に第1の繰返し数と異なる第2の繰返し数を持つ第2の溝22Aを有する第2のローラ20とを含む。変速機はまた、内径面に周方向に間隔をおいて軸方向に延びる複数の溝30Aを有する円筒状の第3のローラ30を含む。この変速機は、第1のローラ10と第2のローラ20とが、第1の溝21Aに位置せしめられた複数の第1のボール32と第2の溝22Aに位置せしめられた複数の第2のボール32とを介してそれぞれ第3のローラ30と対向して成る。また、第3のローラ30の複数の溝30Aにはそれぞれ第1、第2のボール32を保持し、軸方向にスライド可能なリテーナ31が配設されている。
図18の分解図に示すように、第1の外ローラ10は、入力側寄りの第1の円筒体11とこれより径の小さい出力側寄りの第2の円筒体12とから成る。第2の円筒体12の外径部分には第1の繰返し数Ksの第1の溝12Aが周方向に延在するように形成されている。第2の外ローラ20は、出力側寄りの第1の円筒体21とこれより径の小さい入力側寄りの第2の円筒体22とから成る。第2の円筒体22の外径部分には第1の溝12Aと実質上同幅で第2の繰返し数Ks・Kiの第2の溝22Aが周方向に延在するように形成されている。なお、繰返し数というのは、本例における第1、第2の溝12A、22Aは周期的に振幅の変化する、正弦波等の周期関数波形の溝であり、1周、つまり360度において振幅の最大値が何回繰り返されるかということを意味する。
内ローラ30も円筒体であって、第2の円筒体12、22の嵌入可能な内径を有し、内径部分には周方向に等間隔をおいて軸方向に延びる複数の溝30Aが形成されている。溝30Aの数は最大でKs(Ki−1)あるいはKs(Ki+1)だけ設けられる。各溝30Aには、これに沿って摺動可能なようにリテーナ31が設けられている。リテーナ31は溝30Aに沿ってのみ摺動可能であって相互に拘束されないようになっている。各リテーナ31は、軸方向に間隔をおいて2個ずつ、転動体、ここではボール32を保持する。そして、リテーナ31が保持する2個のボール32のうち、一方は第2の円筒体12の第1の溝12Aの上を、他方は第2の円筒体22の第2の溝22Aの上を転動することが可能なように構成される。リテーナ31は、ボール32を保持する機能だけでなく、2つのボール32を介して作用する引っ張り/圧縮力を受ける機能をも有する。
このような構造体はケーシングに収容され、第1、第2の外ローラ10、20、内ローラ30は軸受などを用いて軸方向の動きが拘束される。勿論、第1、第2の外ローラ10、20、内ローラ30は、同心状に組み合わされる。
また、内ローラ30の溝30Aの数、つまりリテーナ31の数はr×360゜/{Ks(Ki±1)}(rは正の整数)の間隔を保持できれば理論上はいくつでもかまわない。以降では、上記式中の±の符号が−の場合を配置A、+の場合を配置Bとする。
第1の例として第1の溝12Aの繰返し数が1、第2の溝22Aの繰返し数が16の場合(つまりKs=1、Ki=16で減速比1/16)の周方向の展開図を図19(a)に示す。つまり、内ローラ30の溝30Aをr×360゜/{Ks(Ki−1)}の間隔とする場合(配置A)の例が図19(a)であり、r×360゜/{Ks(Ki+1)}の間隔とする場合(配置B)の例が図19(b)である。
また、第3の例として、特許文献3に開示された変速機がある。この変速機は、図20〜図22を参照して、共通軸を中心として回動自在のデバイスの共役対である駆動部材(第1の回転体)310及び被駆動部材(第2の回転体)320とを有する。駆動部材310は入力軸315に、被駆動部材320は出力軸325にそれぞれ連結されている。変速機はまた、入力軸315の角速度を出力軸325の角速度に変換する変換手段を含んでいる。変換手段はリテーナ330を含み、リテーナ330は、駆動部材310と被駆動部材320を連結して成るボール335をその内部で揺動させるための少なくとも1つの半径方向スロット330aを具備する。
駆動部材310と被駆動部材320はリテーナ330を間にして対向しており、図22に示されるように、駆動部材310の対向面には環状の溝310aが形成され、被駆動部材320の対向面には溝310a及びスロット330aの一部と対向し得るように、略三角波形状の溝320aが周方向に形成されている。リテーナ330は共通軸の周囲で駆動部材310と被駆動部材320との間に位置付けられ、これによりボール335が駆動部材310と被駆動部材320を連結する。このような構成により、入力軸315の角速度が出力軸325の角速度に変換される。
しかしながら、上記第1〜第3の例のいずれにおいても、入力軸の1回転に対して1あるいは2回揺動する要素が存在するために、入力回転数に起因する固有振動が低い周波数で現れるという問題がある。
このような入力回転数に起因する低周波数の固有振動の問題を解消する例として第4の例が提案されている(特許文献4参照)。
この第4の例においては、ロボットの第1部材と、第1部材に回動自在に支持されたロボットの第2部材と、第1部材に一体的に取り付けられた電動モータの回転を減速して第2部材に伝達する減速装置とを備えた産業ロボットの関節装置が提案されている。具体的には、減速装置が、前記電動モータの回転を減速する前段回転伝導手段および前段回転伝導手段の出力回転を減速する後段回転伝導手段を有する。また、電動モータは、該電動モータ、前記減速装置および前記第2部材を含んで構成される駆動系の固有振動数に対応する回転数を通常制御域内に有し、前記後段回転伝導手段が、前記前段回転伝導手段の出力が入力されるカム軸、カム軸の回転により駆動される外歯歯車、および外歯歯車に噛み合う内歯歯車を有し、前記カム軸の一回転当りに一定回数の実質トルク変動を生じ前記駆動系を実質的に加振する特性を有する遊星歯車装置によって構成される。更に、前記前段回転伝導手段が、前記遊星歯車装置とは型式の異なる所定減速比の歯車装置によって構成され、該歯車装置の減速比が、該減速比に前記電動モータの通常制御域における毎秒当たりの最高回転数と前記カム軸の一回転当りにおける前記遊星歯車装置の実質トルク変動回数とを乗じた値が前記駆動系の固有振動数以下となるように設定されている。
しかしながら、この第4の例では、低周波数の固有振動を高い周波数に移動させるために、異なる形式の遊星歯車装置を別に組み込む2段型にする必要があり、価格が高くなるだけでなく、構造が複雑になり、装置全体のサイズも大きくなってしまうという問題点がある。
特開昭60−179563号公報
国際公開WO2004/38256号公報
特表平6−508674号公報
特公平8−22516号公報
以下に本発明の実施の形態について説明するが、本発明は、前記の特許文献1、2、3に開示されたいずれの変速機にも適用可能である。そこで、はじめに特許文献2に開示された変速機に適用した第1の実施の形態について説明する。この場合、図17、図18に示された変速機に対して以下のような改良が施される。なお、以下では第1の外ローラ10が入力側(高速側)、第2の外ローラ20が出力側(低速側)であるとして説明する。これは、入力側と出力側との関係が逆になる場合もあるからである。
第1の実施の形態による変速機においては、高速側の第1の溝(無終端溝)12Aの繰返し数Ksをn回転でm往復とする。つまり、Ks=m/nで表される。ここで、nは2以上の正の整数であり、mはnより小さい正の整数であるが1が好ましい。mが1の場合、Ks=1/nであり、2回転で1往復、あるいは3回転、もしくはそれ以上の回転で1往復となる。
一方、低速側の第2の溝(無終端溝)22Aの繰返し数はKs・Kiであるが、Ksが1未満なので整数とならない場合があるため、Ks・Kiが整数となるようにKiを調整する必要がある。例えば、mが1の場合でKs=1/2ならKiは2の倍数、Ks=1/3ならKiは3の倍数となる。
図1は、第1の実施の形態の第1の例を示し、減速比1/16、Ks=1/2、Ki=16の場合における第1の溝12A、第2の溝22A、及びリテーナ31の関係を周方向の展開図で示す。特に、図1(a)は配置Aの場合、図1(b)は配置Bの場合について示している。配置Aの場合、前述したように、2個のボール32を保持するリテーナ31は360゜/{Ks(Ki−1)}間隔、最大数で(Ki−1)個配置され、配置Bの場合には360゜/{Ks(Ki+1)}間隔、最大数で(Ki+1)個配置される。
図1(a)、図1(b)に示されるように、第2の溝22Aは正弦波等の周期関数波形の溝が1条だけ形成される。一方、第1の溝12Aは、見掛け上周期関数波形の2条の溝12A−1、12A−2から成り、特にこれら2条の溝12A−1、12A−2が途中、つまり振幅0の角度位置で交差するように形成されることで実現される。溝12A−1、12A−2は、周方向の線分に関して対称であり、溝12A−1の右側の端部は溝12A−2の左側の端部につながり、溝12A−2の右側の端部は溝12A−1の左側の端部につながることで無終端となる。2個のボール32はそれぞれ第1の溝12A、第2の溝22Aに1個ずつ転動するように配置される。しかし、第1の溝12Aは2条であるので、あるリテーナ31に保持されたボール32が一方の溝12A−1にある時、その両隣のリテーナ31に保持されたボール32は他方の溝12A−2にあるように配置される。つまり、本例では隣り合うリテーナ31に保持されたボール32は、一方が溝12A−1、他方が溝12A−2にあるように配置される。
リテーナ31の数を1、リテーナ31の周方向の位置を拘束(つまり、内ローラ30を固定)した場合で動作を説明すると、高速側ローラ、つまり第1の外ローラ10が1回転することによって第1の溝12Aにより高速側ボール、つまり第1の溝12A内のボール32が軸方向にKs回往復する。その運動はリテーナ31を経由して低速側ボール、つまり第2の溝22A内のボール32に伝えられ、低速側ボールは第2の溝22Aを軸方向にKs回往復するため第2の外ローラ20は1/Ki回転で減速される。
実用上、リテーナ31は複数個設置され、リテーナ31の配置間隔によって動作方向が異なる。リテーナ31の周方向の位置を拘束(内ローラ30を固定)した場合、低速側ローラ、つまり第2の外ローラ20が第1の外ローラ10の1回転に対して、360゜/{Ks(Ki−1)}のリテーナ間隔では1/Ki回転、360゜/{Ks(Ki+1)}のリテーナ間隔では−1/Ki回転する(マイナスは逆方向回転を意味する)。
第2の外ローラ20を固定した場合は、リテーナ31が第1のローラ10の1回転に対して、360゜/{Ks(Ki−1)}のリテーナ間隔では−1/(Ki−1)回転、360゜/{Ks(Ki+1)}のリテーナ間隔では1/(Ki+1)回転する。
図2は、第1の実施の形態の第2の例を示し、減速比1/18、Ks=1/3、Ki=18の場合における第1の溝12A、第2の溝22A、及びリテーナ31の関係を周方向の展開図で示す。図2(a)は配置Aの場合、図2(b)は配置Bの場合について示している。配置Aの場合、前述したように、2個のボール32を保持するリテーナ31は360゜/{Ks(Ki−1)}間隔、最大数で(Ki−1)個配置され、配置Bの場合には360゜/{Ks(Ki+1)}間隔、最大数で(Ki+1)個配置される。
図2(a)、図2(b)に示されるように、第2の溝22Aは正弦波等の周期関数波形の溝が1条だけ形成される。一方、第1の溝12Aは見掛け上、周期関数波形の3条の溝12A−1、12A−2、12A−3から成る。特に、これら3条の溝12A−1、12A−2、12A−3のうち、溝12A−1と溝12A−2とがある角度位置、つまりそれぞれの最大振幅の角度位置から180°隔てた第1の角度位置で交差し、溝12A−2と溝12A−3はこの第1の角度位置から180°隔てた角度位置であってそれぞれの最大振幅の角度位置から180°隔てた第2の角度位置で交差するように形成される。溝12A−1の右側の端部は溝12A−2の左側の端部につながり、溝12A−2の右側の端部は溝12A−3の左側の端部につながる。そして、溝12A−3の右側の端部は溝12A−1の左側の端部につながることで無終端溝となる。2個のボール32はそれぞれ第1の溝12A、第2の溝22Aに1個ずつ転動するように配置される。しかし、第1の溝12Aは3条であるので、あるリテーナ31に保持されたボール32が溝12A−1にある時、その右隣のリテーナ31に保持されたボール32は溝12A−2にあり、更にその右隣のリテーナ31に保持されたボール32は溝12A−3にあるように配置される。つまり、本例ではリテーナ31に保持されたボール32は、順に溝12A−1、溝12A−2、溝12A−3にあるように配置される。
本例の動作原理は、第1の例で述べた繰返し数KsとKiとが異なることにより減速比が異なるだけであるので説明は省略する。
次に、本発明を特許文献1に開示された変速機に適用した第2の実施の形態について説明する。この場合、図15、図16に示された変速機に対して以下のような改良が施される。
図3は、第2の実施の形態の第1の例を示す。ここでは、減速比1/10、入力側の第1の溝の繰返し数Ks=1/2、Ki=10(出力側の第2の溝の繰返し数Ks・Ki=5)の場合における傾斜溝(第1の無終端溝)115a、サイン波溝(第2の無終端溝)125a、及びガイド筒(ボール保持部)135(いずれも図16参照)の関係を周方向の展開図で示す。なお、本形態ではガイド筒135の各狭長窓135aには球130が1個ずつ保持される。
前述したように、球130を保持する狭長窓135aは360゜/{Ks(Ki±1)}間隔、最大数で(Ki±1)個配置される。
図3(a)〜図3(c)に示されるように、外筒125の内径面には周期関数波形のサイン波溝125aが1条だけ形成される。一方、内筒115の外径面に形成される傾斜溝115aは見掛け上、周期関数波形の2条の溝115a−1、115a−2から成り、これら2条の溝115a−1、115a−2が振幅0の角度位置で交差するように形成される。溝115a−1、115a−2は周方向の線分に関して対称であり、溝115a−1の右側の端部は溝115a−2の左側の端部につながり、溝115a−2の右側の端部が溝115a−1の左側の端部につながることで無終端溝となる。球130は、ガイド筒135から露出している一方の側が傾斜溝115に入り、ガイド筒135から露出している他方の側がサイン波溝125aに入るように配置される。しかし、傾斜溝115aは2条であるので、ある狭長窓135aに保持された球130が一方の溝115a−1にある時、その両隣の狭長窓135aに保持された球130は他方の溝115a−2にあるように配置される。つまり、本例でも隣り合う狭長窓135aに保持された球130は、一方が溝115a−1、他方が溝115a−2にあるように配置される。
図3(a)〜図3(c)では、溝115a−1、115a−2、狭長窓135a、サイン波溝125aのそれぞれについて、同じ角度位置で球130がどの位置にあるかを対応させて示している。
図4は、第2の実施の形態の第2の例を示し、減速比1/9、入力側の第1の溝の繰返し数Ks=1/3、Ki=9(出力側の第2の溝の繰返し数Ks・Ki=3)の場合における傾斜溝115a、サイン波溝125a、及びガイド筒135の関係を周方向の展開図で示す。
図4(a)〜図4(c)に示されるように、サイン波溝125aは周期関数波形の溝が1条だけ形成される。一方、傾斜溝115aは見掛け上、周期関数波形の3条の溝115a−1、115a−2、115a−3から成る。特に、これら3条の溝115a−1、115a−2、115a−3のうち、溝115a−1と溝115a−2とがある角度位置、つまりそれぞれの最大振幅の角度位置から180°隔てた第1の角度位置で交差し、溝115a−2と溝115a−3はこの第1の角度位置から180°隔てた角度位置であってそれぞれの最大振幅の角度位置から180°隔てた第2の角度位置で交差するように形成される。溝115a−1の右側の端部は溝115a−2の左側の端部につながり、溝115a−2の右側の端部は溝115a−3の左側の端部につながる。そして、溝115a−3の右側の端部は溝115a−1の左側の端部につながることで無終端溝となる。傾斜溝115aが3条であるので、ある狭長窓135aに保持された球130が溝115a−1にある時、その右隣の狭長窓135aに保持された球130は溝115a−2、115a−3の一方にあり、更にその右隣の狭長窓135aに保持された球130は溝115a−2、115a−3の他方にあるように配置される。
本第2の実施の形態の動作原理は、第1の実施の形態で述べた繰返し数KsとKiとが異なることにより減速比が異なるだけであるので説明は省略する。
次に、本発明を特許文献3に開示された変速機に適用した第3の実施の形態について説明する。この場合、図20〜図22に示された変速機に対して以下のような改良が施される。
図5は、第3の実施の形態の第1の例を示す。ここでは、減速比1/12、入力側の第1の溝の繰返し数Ks=1/2、Ki=12(出力側の第2の溝の繰返し数Ks・Ki=6)の場合における環状の溝(第1の無終端溝)310a、略三角波形状の溝(第2の無終端溝)320a、及びリテーナ330(いずれも図20〜図22参照)の関係を、被駆動部材320の円形の先端面、つまり駆動部材310の円形の先端面に対向する対向面に描いている。本形態でもリテーナ330のスロット330aにはボール335が1個ずつ保持される。
前述したように、ボール335を保持するスロット330aは360゜/{Ks(Ki±1)}間隔、最大数で(Ki±1)個配置される。
図5に示されるように、被駆動部材320の対向面には周期関数波形の溝320aが1条だけ周方向に形成される。溝320aは正弦波形状でも良い。一方、駆動部材310の対向面に形成される溝310aは見掛け上、周期関数波形の2条の溝310a−1、310a−2から成り、これら2条の溝310a−1、310a−2がそれぞれの振幅0の角度位置で交差するように形成される。溝310a−1は、被駆動部材320の中心Oを中心とし、図5に示された角度0°の線分上に規定されるOR1を初期半径としてこれを+180°方向及び−180°方向に向けて徐々に増加させてゆくことにより描かれる略環状の形状を持つ。一方、溝310a−2は、角度180°の線分上に規定される初期半径OR2がOR1より大きく、これを+180°方向及び−180°方向に向けて徐々に増加させてゆくことにより描かれる略環状の形状を持つ。そして、溝310a−1と溝310a−2は180°の角度位置で交差するようにされることで無終端溝となる。溝310a−1、310a−2はそれぞれ、被駆動部材320の先端面の直径に関して線対称である。更に、第1、第2の実施の形態と同様、溝310a−1と溝310a−2はすべてのスロット330aに対して必ずそのどこかで重なるようにされる。溝310aは2条であるので、あるスロット330aに保持されたボール335が一方の溝310a−1にある時、その両隣のスロット330aに保持されたボール335は他方の溝310a−2にあるように配置される。
図6は、第3の実施の形態の第2の例を示し、減速比1/9、入力側の第1の溝の繰返し数Ks=1/3、Ki=9(出力側の第2の溝の繰返し数Ks・Ki=3)の場合における環状の溝310a、略三角波形状の溝320a、及びリテーナ330の関係を、被駆動部材320の対向面に描いている。本形態でもリテーナ330のスロット330aにはボール335が1個ずつ保持される。
図6に示されるように、被駆動部材320の対向面には周期関数波形の略三角波形状の溝320aが1条だけ形成される。一方、溝310aは見掛け上、周期関数波形の3条の溝310a−1、310a−2、310a−3から成る。溝310a−1は、被駆動部材320の中心Oを中心とし、図5に示された角度180°の線分上に規定されるOR1を初期半径としてこれを+180°方向及び−180°方向に向けて徐々に増加させてゆくことにより描かれる略環状の形状を持つ。一方、溝310a−2は、角度0°の線分上に規定される初期半径OR2がOR1より大きく、これを+180°方向及び−180°方向に向けて徐々に増加させてゆくことにより描かれる略環状の形状を持つ。更に、溝310a−3は、角度180°の線分上に規定される初期半径OR3がOR2より大きく、これを+180°方向及び−180°方向に向けて徐々に増加させてゆくことにより描かれる略環状の形状を持つ。溝310a−1、310a−2、310a−3は、線分R3−R1−O−R2に関して線対称である。特に、これら3条の溝310a−1、310a−2、310a−3のうち、溝310a−1と溝310a−2とが最大振幅の角度位置から180°隔てた第1の角度位置で交差し、溝310a−2と溝310a−3はこの第1の角度位置から180°隔てた角度位置であってそれぞれの最大振幅の角度位置から180°隔てた角度位置で交差するように形成されることで無終端溝となる。
溝310aが3条であるので、あるスロット330aに保持されたボール335が溝310a−1にある時、その右隣のスロット330aに保持されたボール335は溝310a−2、310a−3の一方にあり、更にその右隣のスロット330aに保持されたボール335は溝310a−2、310a−3の他方にあるように配置される。
本第3の実施の形態の動作原理も、第1の実施の形態で述べた繰返し数KsとKiとが異なることにより減速比が異なるだけであるので説明は省略する。
以上のような構成を持つ変速機は以下のような効果を有する。
(1)遊星歯車機構を備えることで変速機に発生する固有振動を高い周波数に移動可能であることが知られているが、本発明による減速機では高速側溝(第1の無終端溝)の繰返し数を2回転以上で1往復にすることで構造や大きさを変えることなく固有振動を高い周波数に遷移させることができる。
(2)高速側溝で減速比2以上の減速比が得られるため、高速側溝の繰返し数Ks=1と同じ減速比を得ることを考えると、低速側溝(第2の無終端溝)の繰返し数が半分以下で済み、コンパクト化が可能となる。
(3)更に、従来例では揺動による力の不釣合いによって軸のラジアルモーメントが発生していたがそれが軽減される。
以上、本発明を好ましい実施の形態について説明したが、本発明は上記の実施の形態に限らず、以下のような変更が可能である。なお、以降の説明は、第1の実施の形態に適用した場合であるが、溝の形状等は第2、第3の実施の形態にも適用可能である。
第1、第2の外ローラ10、20は、それぞれ中空の円筒形状にされているが、中空では無い断面円形を持つ軸体で構成されても良い。
第1、第2の溝12A、22Aは、図7に示すような正弦波形状、図8に示すような三角波形状等の対称形状を持つものの他、図9に示すような非対称形状を持つものでも良い。図9に示すような三角波形状の場合、圧力角を一定とすることができ、ボールに対する負荷変動を一定とすることができる。一方、第1、第2の溝12A、22Aの断面形状は、図10(a)に示すような単純円弧形状、図10(b)に示すような軸受円弧形状、図10(c)に示すような三角形状のいずれでも良いが、特に、軸受円弧形状、三角形状の場合にはボールと所望の圧力角をとり易く耐荷重性が向上するという利点がある。
また、リテーナ31は、それ自体をスライドのし易い材料で構成したり、あるいはスライドを容易にする材料でコーティングされていることが好ましい。
以下に、図11を参照して、ボール32の保持機能と、引っ張り/圧縮力を受ける機能を持つリテーナの他の例について説明する。図11(a)は、内ローラ30とリテーナ31−1との間に摺動部材として転がりユニット51を介在させた第1の例を示す。ここでは、内ローラ30における断面四角形状の溝30Aの内壁に対向するリテーナ31の3つの側面にそれぞれ転がりユニット51を介在させているが、少なくとも溝30Aの底壁に対向する側面に配置されていれば良い。
図11(b)は、内ローラ30とリテーナ31−2との間に摺動部材として転がりユニット52を介在させた第2の例を示すが、ここでは転がりユニット52を、摺動方向に平行なリテーナ31−2の2つのコーナ部に対応する位置に配置している。このため、内ローラ30の内壁及びリテーナ31−2の2つのコーナ部にはそれぞれ、転がりユニット52を収容するための曲面状の凹部30a、31−2aが軸方向に延びるように形成されている。
なお、上記第1、第2の例のいずれにおいても、転がりユニットは、例えばピンローラによるものや、複数のボールをリテーナで保持するようにしたものが使用できる。
また、第1、第2のいずれの例においても、ボール32を収容するためのリテーナ31−1、31−2に形成される受け部31−11、31−21は、図12に示されるように、断面形状で言えば半径が同一の円弧状ではなく、図10(b)で説明したような中心の異なる円弧を対向させた形状を持つ。勿論、この受け部31−11、31−21の形状は、受け部の中心線を通る平面による断面であれば、どの断面であっても同じ形状である。このような受け部によれば、ボール32の大きさに応じて接触半径を自由に選択することができる。
加えて、受け部31−11、31−21は切削ツールを使用して形成されるが、切削ツールの先端部の逃げを考慮して、受け部31−11、31−21の最奥部に更に凹部31−12、31−22を形成することが好ましい。この凹部31−12、31−22は、受け部31−11、31−21に潤滑剤が注入される場合にその溜まり部として利用することができる。
ボール32の受け部に関する上記説明は、図18で説明したリテーナ31の場合もまったく同じである。
図11(c)、図11(d)は、上記の摺動部材をボール32に兼用させるように構成した第3、第4の例を示す。
図11(c)において、リテーナ31−3は、ボール32の直径よりも小さな幅を有し、ボール32を保持するための受け部31−31が形成されている。受け部31−31の断面形状は、半径の同じ円弧状あるいは球面状のいずれでも良い。一方、内ローラ30に形成される溝30Aは、リテーナ31−3を収容するための断面四角形状部分30A−1とボール32の一部を受けるための曲面状部分30A−2とを持つ。勿論、このような断面四角形状部分30A−1と曲面状部分30A−2とから成る溝30Aは、軸方向に延びるように形成されている。この例でも、溝30Aの底部とリテーナ31−3との間には摺動部材として転がりユニット53が配置されている。
なお、上記第1〜第3の例における転がりユニット51〜53は、他の周知の摺動部材で実現されても良いことは言うまでも無い。例えば、摺動部材は、リテーナと内ローラ30との対向部分の少なくとも一方を、例えばメッキにより摩擦低減材料でコーティングすることにより実現されても良い。
図11(d)において、リテーナ31−4は、ボール32の直径よりも小さな幅を有し、ボール32を保持するための受け部31−41がリテーナ31−4本体を貫通するように形成されている。つまり、ボール32の上部の一部と下部の一部が露出するように形成されている。受け部31−41の断面形状は、図13に示すように、単なる貫通穴ではなく、上部、つまり内ローラ30側寄りにおいて上端面に近付くにつれて径が漸減するように形成されている。受け部31−41をこのような断面形状にすることにより、リテーナ31−4で保持されているボール32に逆にリテーナ31−4を保持する機能を持たせることができる。つまり、受け部31−4を単なる貫通穴にした場合には、内ローラ30の溝30A内に保持されるべきリテーナ31−4が外ローラ側に落下してしまう。しかし、受け部31−4を上記の形状にすることでリテーナ31−4の落下を防止することができる。
一方、内ローラ30に形成される溝30Aは、リテーナ31−4を収容するための断面四角形状部分30A−3とボール32の一部を受けるための曲面状部分30A−4とを持つ。勿論、このような断面四角形状部分30A−3と曲面状部分30A−4とから成る溝30Aは、軸方向に延びるように形成されている。必要に応じて、曲面状部分30A−4に、第1、第2の例で説明した凹部31−12、31−22と同様の凹部が軸方向に潤滑剤受け部として設けられても良い。なお、溝30Aは、断面四角形状部分30A−3を持たない曲面状部分30A−4のみで実現されても良い。つまり、ボール32のみを曲面状部分のみの溝30Aで受けるようにしても良い。
第3、第4の例においては、ボール32が溝30Aを転動するので、ボール32が摺動部材を兼ねていると言えるが、第4の例においてもリテーナ31−4と内ローラ30との間に、転がりユニットが配置されても良い。
また、第3、第4の例においては、ボール32が接線方向の力(図示されている内ローラ30の内径に接する接線方向の力)を受けることになるので、その分だけリテーナ31−3、31−4に作用する負荷を軽減することができる。
以上の4つの例のうち、第3、第4の例は、上述のようにリテーナ31−3、31−4に作用する負荷を軽減することができる利点を有する点において優れており、中でも第4の例は、第1〜第3の例に比べて構造がシンプルであり、しかも引っ張り/圧縮力に対する断面積を2倍程度とれるので最も有効であると言える。
図14は、図18に示された構造と同様の構造を持つ減速機をケーシングに収容した実機構造を示す。ここでは、第1の外ローラ10は、製作を容易にするために、入力側寄りの第1の円筒体11とこれより径の大きい出力側寄りの第2の円筒体12´とをボルト61で固着して成る。第2の円筒体12´の外径部分には第1の溝12Aが周方向に延在するように形成されている。第1の円筒体11には入力軸100が図示しないボルトで締結されている。第2の外ローラ20も、製作を容易にするために、出力軸200を一体的に有する円形板21´とこれより径の大きい入力側寄りの第2の円筒体22´とをボルト62で固着して成る。第2の円筒体22´の外径部分には第2の溝22Aが周方向に延在するように形成されている。内ローラ30の入力側には軸受支持リング111とカバー板112とから成る入力側ケーシング110が締結され、出力側には軸受支持リング211と取付け用板212とから成る出力側ケーシング210が組み付けられている。軸受支持リング111はボルト63で内ローラ30に締結され、カバー板112はボルト64で軸受支持リング111に締結されている。一方、軸受支持リング211はボルト65で内ローラ30に締結され、取付け用板212はボルト66で軸受支持リング211に締結されている。
入力軸100と入力側ケーシング110との間にはオイルシール120が設けられている。一方、出力軸200と軸受支持リング211との間には、スラスト方向やラジアル方向の荷重を受けられるようにクロスローラベアリング220が設けられている。また、出力軸200と取付け用板212との間にはO−リング225が配置されている。
以上のような構成を持つ変速機は以下のような効果を有する。
(1)第1、第3の実施の形態の場合、加工が比較的簡単である。これは、第2の実施の形態は別として、第1、第2の外ローラの内径部分に繰返し数を持つ溝を形成する必要が無いからである。
(2)組立が比較的簡単でボールの長寿命化を図れる。これは、ボール転動面にボールのエントリープラグを設ける必要が無く、段差が生じないからである。
(3)第1の実施の形態において第1、第2の外ローラが中空にされている場合、特にロボットのアームのようなものを構成するのに適している。
本発明は減速機全般に適用可能であり、特に例えばロボットのアームや自動工具交換装置等の精密制御が要求される用途の駆動装置に使用されるのに適している。