JP4543441B2 - ハードコートフィルムもしくはシート - Google Patents
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Description
【発明が属する技術分野】
本発明は、各種ディスプレイ、レンズ、ミラー、ゴーグル、窓ガラス等の光学部材に保護の目的で貼着されるプラスチックフィルム及びシートに関し、特に耐引っ掻き、擦り傷性が付与されたプラスチックフィルムに関する。具体的には液晶表示装置、CRT 表示装置、プラズマ表示装置、エレクトロクロミック表示装置、発光ダイオード表示装置、EL表示装置等、各種表示装置の画面保護に適したハードコートフィルムもしくはシートに関する。
さらに、該フィルムもしくはシートの表面に無機材質を中心に構成される機能性薄膜を設けることにより、赤外吸収効果、赤外反射効果、電磁波シールド効果、帯電防止効果、紫外線吸収効果、反射防止効果、反射強調効果等の各種機能を有するハードコートフィルムもしくはシートに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、液晶表示装置、CRT 表示装置、その他商業用のディスプレイ、レンズ、ミラー、窓ガラス、ゴーグル等の光学部材には、耐引っ掻き性、擦り傷性を有する透明性プラスチックフィルムが貼着される場合が多い。一般的にプラスチック表面を硬質化する技術としては、オルガノシロキサン系、メラミン系等の熱硬化性樹脂をコーティングしたり真空蒸着法やスパッタリング法等で金属薄膜を形成する方法、あるいは多官能アクリレート系の活性エネルギー線硬化性樹脂をコーティングする。
近年このような方法の中で、大面積の加工が容易で生産性に優れる活性エネルギー線硬化性樹脂を採用する場合が多い。しかしながら、これらのいずれの方法もハードコート層と基材間の密着、フィルム折曲げ時のクラック、フィルムのカール等が実用的に問題ない範囲内で実現できるものの、プラスチックフィルム、シート基材上での鉛筆硬度値としては2Hから3Hが限界で、耐引っ掻き性、耐擦り傷性の点で問題になる場合があった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記の課題を鑑みてなされたものであり、ハードコート層を支持するプラスチックフィルムもしくはシート基材の表面に形成したハードコート層と基材間の密着、フィルム折曲げ時のクラック、フィルムのカール等を実用的に許容できる範囲内に収めることができ、且つ従来の限界を上回る4H以上の鉛筆硬度値を有する耐引っ掻き性、耐擦り傷性の優れたハードコートフィルムもしくはシートを提供することを目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明は、この課題を解決するための手段として、透明プラスチックフィルムもしくはシート基材の少なくとも一方の面に硬化樹脂被膜層を設けたハードコートフィルムであって、前記基材上に第1ハードコート層としてラジカル重合型樹脂とカチオン重合型樹脂のブレンドから成る硬化樹脂層を設けた後、さらに、その上に第2ハードコート層としてラジカル重合型樹脂のみで構成される硬化樹脂の薄膜からなる2層構成のハードコート層を設けることによって達せられることを見出し、本発明に至ったものである。
【0005】
すなわち請求項1の発明は、
透明プラスチックフィルムもしくはシート基材の少なくとも一方の面に活性エネルギー線硬化型樹脂を活性エネルギー線により硬化してなる硬化樹脂被膜層を設けたハードコートフィルムもしくはシートであって、前記硬化樹脂被膜層は前記基材側から順に第1ハードコート層、第2ハードコート層を備えるものであり、且つ、前記第1のハードコート層は、ラジカル重合型樹脂とカチオン重合型樹脂のブレンドからなる硬化樹脂被膜層であり、且つ、前記第1ハードコート層は、ラジカル重合型樹脂とカチオン重合型樹脂の重量組成比が、10:90〜80:20の範囲を満たし、且つ、前記第2のハードコート層は、ラジカル重合型樹脂のみから成る硬化樹脂被膜層であり、且つ、前記第1のハードコート層に用いられる前記カチオン重合型樹脂がビニルエーテル化合物とエポキシ化合物を含むことを特徴とするハードコートフィルムもしくはシートである。
【0009】
請求項2記載の発明は、
請求項1に記載のハードコートフィルムもしくはシートにおいて、前記第1のハードコート層と第2のハードコート層の少なくとも何れかのハードコート層に平均粒子径0.01〜10μmの範囲を満たす無機或いは有機の微粒子を含有することを特徴とする。
【0010】
請求項3記載の発明は、
請求項1又は2記載の何れかのハードコートフィルムもしくはシートにおいて、前記活性エネルギー線硬化型樹脂を硬化するための活性エネルギー線が紫外線であることを特徴とする
【0011】
請求項4記載の発明は、
請求項1〜3記載のいずれかのハードコートフィルムもしくはシートにおいて、前記第1のハードコート層の膜厚が、3.0〜30μmの範囲を満たすことを特徴とする。
【0012】
請求項5記載の発明は、
請求項1〜4記載の何れかのハードコートフィルムもしくはシートにおいて、
前記第2のハードコート層の膜厚が、1.0〜20μmの範囲を満たすことを特徴とする。
【0013】
請求項6記載の発明は、
請求項1〜5記載の何れかのハードコートフィルムもしくはシートにおいて、前記第1のハードコート層の破壊歪み以下での弾性率が、1.5GPa〜4.5GPaの範囲を満たすことを特徴とする。
【0014】
請求項7記載の発明は、
請求項1〜6記載の何れかのハードコートフィルムもしくはシートにおいて、前記第2のハードコート層の破壊歪み以下での弾性率が、2.0GPa〜4.5GPaの範囲を満たすことを特徴とする。
【0015】
請求項8記載の発明は、
請求項1〜7記載の何れかのハードコートフィルムもしくはシートにおいて、請求項1〜7記載の何れかのハードコートフィルムもしくはシートの表面に、機能性無機薄膜層を設けたことを特徴とする。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。まず、ハードコートフィルムもしくはシートの構成材料について説明し、その後、製造方法について述べる。
本発明に使用する透明プラスチック基材は、特に限定されるものではなく、公知の透明プラスチックフィルムもしくはシートの中から適宜選択して用いることができる。具体例としては、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、セロファン、トリアセチルセルロース、ジアセチルセルロース、アセチルセルロースブチレート、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、エチレンビニルアルコール、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリメチルペンテン、ポリスルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、アクリル、ナイロン、フッソ樹脂、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルフォン等のフィルムもしくはシートを挙げることができるが、本発明においては、特にトリアセチルセルロースフィルム、及び一軸延伸ポリエステルが透明性に優れることに加えて、光学的に異方性が無い点で好ましい。
【0017】
本発明のハードコート層を構成する硬化樹脂被膜層は、加工速度の早さ、支持体への熱のダメージの少なさから、特に活性エネルギー線(紫外線や電子線)硬化型樹脂を用いることが好ましい。ラジカル重合型の紫外線硬化樹脂としては、例えば、多価アルコールのアクリル酸又はメタクリル酸エステルのような多官能性のアクリレート樹脂、ジイソシアネート、多価アルコール及びアクリル酸又はメタクリル酸のヒドロキシアルキルエステル等から合成されるような多官能性のウレタンアクリレート樹脂などを挙げることができる。さらにアクリレート系の官能基を有するポリエーテル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、アルキッド樹脂、スピロアセタール樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリチオールポリエン樹脂等も必要に応じて好適に使用することができる。
【0018】
また、これらの樹脂の反応性希釈剤としては、比較的低粘度である1、6- ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオール(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート等の2官能以上のモノマー及びオリゴマー並びに単官能モノマー、例えばN-ビニルピロリドン、エチルアクリレート、プロピルアクリレート等のアクリル酸エステル類、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、イソオクチルメタクリレート、2- ヒドロキシエチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ノニルフェニルメタクリレート等のメタクリル酸エステル類、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、及びそのカプロラクトン変成物などの誘導体、スチレン、α- メチルスチレン、アクリル酸等及びそれらの混合物、などを使用することができる。
【0019】
一方、カチオン重合型の紫外線硬化樹脂は付加重合型と開環重合型に大きく分類でき、付加重合型の化合物として、電子密度の高いビニル基を有するビニルエーテル化合物、スチレン誘導体等を、開環重合型の化合物として、多様なヘテロ環状化合物、例えばエポキシ化合物、ラクトン化合物、4員環の環状エーテルであるオキセタン化合物等を使用することができる。
【0020】
本発明の第1のハードコート層は、上記のラジカル重合型樹脂とカチオン重合型樹脂の中から各々任意に選択された樹脂のブレンドから成る硬化樹脂被膜層であり、また第2のハードコート層は、上記ラジカル重合型樹脂のみから任意に選択された樹脂から成る硬化樹脂被膜層であることを特徴とする。
【0021】
さらに、本発明の第1のハードコート層のラジカル重合型樹脂とカチオン重合型樹脂の中から各々任意に選択された樹脂のブレンドから成る各々の重量組成比が10:90から80:20の範囲であることを特徴とする。
【0022】
本発明において、活性エネルギー線が紫外線である場合には、光増感剤(光重合開始剤)を添加する必要があり、ラジカル発生型の光重合開始剤としてベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンジルメチルケタールなどのベンゾインとそのアルキルエーテル類;アセトフェノン、2、2、- ジメトキシ- 2- フェニルアセトフェノン、1- ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、などのアセトフェノン類;メチルアントラキノン、2- エチルアントラキノン、2- アミルアントラキノンなどのアントラキノン類;チオキサントン、2、4- ジエチルチオキサントン、2、4- ジイソプロピルチオキサントンなどのチオキサントン類;アセトフェノンジメチルケタール、ベンジルジメチルケタールなどのケタール類;ベンゾフェノン、4、4- ビスメチルアミノベンゾフェノンなどのベンゾフェノン類及びアゾ化合物などがある。これらは単独または2種以上の混合物として使用でき、さらにはトリエタノールアミン、メチルジエタノールアミンなどの第3級アミン;2- ジメチルアミノエチル安息香酸、4- ジメチルアミノ安息香酸エチルなどの安息香酸誘導体等の光開始助剤などと組み合わせて使用することができる。カチオン重合開始剤として使用できる光酸発生剤は、イオン性の化合物と非イオン性の化合物に大別できる。イオン性の化合物としてはアリールジアゾニウム塩、ジアリールヨードニウム塩、トリアリールスルホニウム塩及びトリアリールホスホニウム塩等があり、対イオンとしてBF4-、PF6-、AsF6- 、SbF6- などが用いられる。このようなオニウム塩系の光酸発生剤には必要に応じてアンスラセンや、チオキサントンのような光増感剤を併用することができる。非イオン性の光酸発生剤としては、光照射によってカルボン酸、スルホン酸、リン酸、ハロゲン化水素等を生成するものが使用でき、具体的にはスルホン酸の2-ニトロベンジルエステル、イミノスルホナート、1-オキソ-2- ジアゾナフトキノン-4- スルホナート誘導体、N-ヒドロキシイミドスルホナート、トリ(メタンスルホニルオキシ)ベンゼン誘導体等が利用でき、さらにカルボン酸o-ニトロベンジルエステル、1-オキソ-2- ジアゾナフトキノン-5- アリールスルホナート、トリアリールリン酸エステル誘導体等が使用できる。
【0023】
上記光重合開始剤の使用量は、ラジカル重合型樹脂分に対してはラジカル光重合開始剤を、カチオン重合型樹脂分にはカチオン光重合開始剤をそれぞれの重合性樹脂成分100重量部に対して0. 5〜20重量部、好ましくは1〜15重量部である。
【0024】
本発明の第1のハードコート層と第2のハードコート層の少なくとも何れかのハードコート層に平均粒子径0.01〜10μm の範囲を満たす無機或いは有機の微粒子を含有することを特徴とする。
本発明のハードコート層に配合可能な無機もしくは有機の微粒子としては活性エネルギー線硬化樹脂中で良好な透明性を保持する微粒子であれば任意に使用することができる。
【0025】
無機微粒子として一般的には、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニアなどからなる微粒子が挙げられるが、透明性の点でシリカ粒子、特に合成シリカ粒子が好ましい。尚、酸化錫、酸化インジウム、酸化カドミウム、酸化アンチモン、等の導電性の透明微粒子も帯電防止性の付与に係わらず必要に応じて用いることができる。
【0026】
また、有機微粒子としては粒子内部に適度な架橋構造を有しており、活性エネルギー線硬化樹脂やモノマー、溶剤等による膨潤が少ない硬質な微粒子を用いることができる。例えば、粒子内部架橋タイプのスチレン系樹脂、スチレン- アクリル系共重合樹脂、アクリル系樹脂、ジビニルベンゼン樹脂、シリコーン系樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、スチレン- イソプレン系樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、上記の樹脂等を主成分とするミクロゲル等を使用することができる。
【0027】
また、必要に応じて公知の一般的な塗料添加剤を配合することができる。例えばレベリング、表面スリップ性等を付与するシリコーン系、フッソ系の添加剤は硬化膜表面の傷つき防止性に効果があることに加えて、活性エネルギー線として紫外線を利用する場合は前記添加剤の空気界面へのブリードによって、酸素による樹脂の硬化阻害を低下させることができ、低照射強度条件下に於いても有効な硬化度合を得ることができる。これらの添加量は、活性エネルギー線硬化型樹脂100重量部に対し0.01〜0.5重量部が適当である。
【0028】
以上、本発明に使用できる主な構成材料を記述したが、続いて本発明のハードコートフィルムもしくはシートの製造方法を説明する。第1及び第2ハードコート層の塗工方法は任意であるが、生産段階ではロールコーター、リバースロールコーター、グラビアコーター、ナイフコーター、バーコーター等によるのが一般的である。活性エネルギー線源として紫外線を使用することが好ましく、高圧水銀灯、低圧水銀灯、超高圧水銀灯、メタルハライドランプ、カーボンアーク、キセノンアーク等の光源が利用でき、フィラーを含まないクリア塗膜の硬化には高圧水銀灯、フィラーを含む場合や厚膜の硬化にはメタルハライドランプが一般的に使用される。また第2ハードコート層の硬化には電子線を利用することも可能で、具体的にはコックロフトワルト型、バンデクラフ型、共振変圧型、絶縁コア変圧器型、直線型、ダイナミトロン型、高周波型等の各種電子線加速器から放出される50〜1000KeV 、好ましくは100〜300KeV のエネルギーを有する電子線が利用できる。
【0029】
本発明のハードコートフィルムもしくはシートは、前記透明プラスチック基材にラジカル重合型樹脂とカチオン重合型樹脂のブレンドから成る第1ハードコート層として硬化後の膜厚が3.0 μm 〜30μm の範囲を満たすように塗工した後、活性エネルギー線照射によって完全硬化もしくは半硬化(ハーフキュア)させる。但し、半硬化とは塗膜の物性(硬さ、耐スリキズ性等)が完全に飽和に達していない段階の架橋塗膜を指すが、少なくとも塗膜表面のタックがない程度に硬化した塗膜の状態を意味する。次いで、前記第1ハードコート層上にラジカル重合型樹脂のみから成る第2ハードコート層を硬化後の膜厚が1.0 μm 〜20μm の範囲を満たすように塗工した後、活性エネルギー線照射を加えることによって硬化する。この場合、第1ハードコート層がすでに完全硬化しているものであれば、第2ハードコート層のみの硬化となり、第1ハードコート層が半硬化状態である場合には、第1と第2ハードコート層の同時硬化となる。好ましくは第1ハードコート層を半硬化とした方が第1、第2ハードコート層間の密着性が向上する場合が多い。
【0030】
本発明のハードコートフィルムもしくはシートにおいて、上に述べたように第1のハードコート層の膜厚が、3.0〜30μm の範囲を、また第2のハードコート層の膜厚が、1.0〜20μm の範囲を各々満たすことを特徴とする。
【0031】
さらに、本発明のハードコートフィルムもしくはシートにおいて、ハードコート層を形成する硬化樹脂被膜層は、活性エネルギー線硬化性樹脂が紫外線によって硬化反応が完結して形成された架橋構造を有することを特徴とする。
ハードコート層を形成する加工段階で、上記したように活性エネルギー線照射によって完全硬化もしくは半硬化(ハーフキュア)させることができるが、何れの場合も、活性エネルギー線硬化性樹脂に紫外線照射を加えることによって硬化反応が完結して完全硬化せしめ、塗膜の物性(硬さ、耐擦り傷性等)が完全に飽和に達する段階の架橋塗膜を形成する。
【0032】
本発明のハードコートフィルムもしくはシートにおいて、上記にて得られた第1ハードコート層の破壊歪み以下での弾性率が1.5 GPa から4.5GPaの範囲を満たし、かつ第2ハードコート層が2.0GPaから6.0GPaの範囲を満たすことを特徴とする。
後述するように、本発明は上記ハードコートフィルムもしくはシートの表面に、機能性無機薄膜層を設けることができる。ハードコートフィルムもしくはシートの表面に、機能性無機薄膜層を設ける場合、ハードコート層の弾性率が高すぎても、また低すぎても鉛筆硬度が低下する傾向がある。ハードコート層の弾性率が高すぎる場合、機能性無機薄膜層に応力が集中し、無機薄膜層のみが表面から削り取られる場合が多い。また、ハードコート層の弾性率が低すぎる場合には、、無機薄膜層とともにハードコート層が支持体である基材の表面から削り取られてしまう。
第1ハードコート層の破壊歪み以下での弾性率が1.5 GPa から4.5GPaの範囲を満たし、かつ第2ハードコート層が2.0GPaから6.0GPaの範囲を満たす弾性率を適宜設定することにより、鉛筆の先端からの応力をハードコート層の変形によって、分散、吸収することができ、無機薄膜層のみへの応力集中を緩和させ、膜の破壊を最小限に抑えることができる。
上記弾性率は、樹脂組成、光開始剤等の配合量及び紫外線照射露光量等による樹脂の硬化度合いのコントロールによって制御することができる。
【0033】
また、上記にて得られたハードコートフィルムもしくはシートの表面に、赤外吸収効果、赤外反射効果、電磁波シールド効果、帯電防止効果、紫外線吸収効果、反射防止効果、反射強調効果等の各種機能を有する無機材質を中心に構成される機能性無機薄膜(AR等)を設けることもできる。
ハードコート層の表面に、機能性無機薄膜を設ける一例として反射防止層を形成する場合について説明する。
高屈折率層と低屈折率層を交互に、所定の光学膜厚nd(屈折率nと膜厚dの積)となるように積層する。高屈折率層は屈折率(nH )が1.8以上、好ましくは1.95以上であれば、また低屈折率層は屈折率(nL )1.6以下、好ましくは1.5以下であれば実用的に満足する反射防止効果を発現する。
高屈折率層としては、屈折率(nH )が1.80以上のものであれば特に限定されるものではないが、実用的には金属酸化物として酸化チタン、酸化ジルコニユウム、酸化タンタル、酸化亜鉛、酸化インジュウム、酸化セリユウム、酸化錫、酸化ニオブ、酸化イットリュウム、酸化イッテリビュウム、インジュウム・錫酸化物の何れか、或いはこれらを主材料とする混合物質を用いる。
一方、低屈折率層としては、屈折率(nL )1.6以下のものであれば特に限定されるものではないが、酸化珪素系、 弗化マグネシウム、弗化カルシウム、弗化バリウム等が使用できる。
機能性無機薄膜の形成方法としては、真空蒸着法、反応性蒸着法、イオンビームアシスト蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、プラズマCVD法等の真空成膜プロセスによって形成することができが、特に限定されるものではない。
赤外吸収効果、赤外反射効果、電磁波シールド効果、帯電防止効果、紫外線吸収効果、反射強調効果等のその他の各種機能を有する公知公用の材料及び形成方法によって機能性無機薄膜を設けることもできる。
【0034】
【実施例】
以下に本発明の実施例および比較例を挙げて本発明について具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、部および%は特に断わりのない限り重量基準である。
【0035】
<実施例1>
第1ハードコート層
以下に示すラジカル重合型樹脂からなる紫外線硬化型樹脂組成物に対し、同じく紫外線硬化型樹脂であるカチオン重合型樹脂を重量組成割合で0%、10%、20%、30%、60%、100%にそれぞれブレンドし、この組成物を酢酸エチルにて樹脂固形分が70wt% となるように調製した塗料組成物を第1ハードコート樹脂液として使用した。
(ラジカル重合型樹脂)
・ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート 30部
・ペンタエリスリトールトリアクリレート 20部
・ラジカル光重合開始剤(Darocur 1173 、チバガイギー社製) 2 部
(カチオン重合型樹脂)
・3,4-エポキシ-6- メチルシクロヘキシルメチルカルボキシレート 45部
・シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル 5部
・カチオン光重合開始剤(San-Aid SI-100L 、三新化学工業社製)1.5 部
【0036】
次に厚さ150 μm の両面易接着処理ポリエステルフィルムの片面に、前記、紫外線硬化型の塗料組成物をワイヤーバーにて塗布し、溶剤分を蒸発させて厚さ7 μm 前後の塗布層を形成した後、塗膜側より高圧水銀UVランプ(120W/cm) の紫外線を積算光量約250mJ/m2の条件で照射し、硬化処理することにより、第1ハードコート層を作製した。
【0037】
第 2 ハードコート層
ラジカル重合型樹脂のみで構成される紫外線硬化型の塗料組成物を、第2ハードコート樹脂液として調製した。
・ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート 30部
・ペンタエリスリトールトリアクリレート 20部
・Darocur 1173(チバガイギー社製) 2.5部
・酢酸エチル 30部
【0038】
次に前記、紫外線硬化した第1ハードコート層上に、上記組成の第2ハードコート層を熱乾燥後の膜厚が6 μm 前後の塗布層を形成した後、塗膜側より高圧水銀UVランプ(120W/cm) の紫外線を積算光量約300mJ/m2の条件で照射し、硬化処理することによって、基材と第1及び第2ハードコートの3層から成るハードコートフィルムを得た。
【0039】
機能性無機薄膜層
機能性無機薄膜層の具体例として、導電性反射防止層を以下の構成、方法にて上記ハードコート層上に形成した。まず高屈折率層としてインジウム錫酸化物(ITO )をスパッタリング法により形成し、低屈折率層に酸化ケイ素からなる反射防止層をプラズマアシスト蒸着法により形成した。各層の屈折率n、形状膜厚d 、及び光学膜厚ndは、
PET フィルム (n=1.62)
ハードコート層 (n=1.52 d=約13μm )
1層目:ITO (nH=2.05 d=約58nm)
2層目:SiO2 (nL=1.46 d=約38nm)
3層目:ITO (nH=2.05 d=約125nm )
4層目:SiO2 (nL=1.46 d=約140nm )
とした。光学膜厚は、光学式の膜厚モニターにより監視し、目的光量値に達した時に成膜を止め所定の光学膜厚を得た。波長430 〜680nm の範囲で反射率は1%以下であった。ハードコート層と導電性反射防止層との密着は良好であった。
【0040】
評価方法
上記の方法で得られたハードコートフィルム、及び導電性反射防止機能付きハードコートフィルムについて、下記の測定方法により機械的物性を測定し、評価した結果をそれぞれ表2及び表3に示す。
【0041】
鉛筆硬度
異なる硬度の鉛筆を用い、1K g 荷重下でJIS K5400 で示される試験法での傷の有無を判定した。
【0042】
耐擦傷性
#0000のスチールウールにより、ハードコート膜の表面を400gの荷重をかけながら10回摩擦し、傷の発生の有無及び傷の程度を目視により観察し、以下の判定基準に従って評価した。A :傷の発生が全く認められない。B :数本の細い傷が認められる。C :無数の傷が認められる。
【0043】
密着性
硬化被膜層表面にカッターによって1mm ×1mm のクロスハッチ(升目)を100 個入れ、その上にセロテープ(ニチバン社製)を貼り付けした後、該セロテープを剥がしたときに硬化被膜がフィルム基材から剥がれた升目の数を計測することで評価した。
【0044】
カール
ハードコートフィルム、及び導電性反射防止機能付きハードコートフィルムの標片を10cm角に切断し、反りおよび寸法を測定して曲率半径を算出した。
【0045】
クラック
ハードコートフィルム、及び導電性反射防止機能付きハードコートフィルムを直径3cm の金属ロールに巻付けたときのクラック発生の有無を目視により判定した。
【0046】
ハードコート層の弾性率
以下に示す内部応力の式を用い、ハードコート層の弾性率(Ef )を算出した。
ポリエステルフィルムの弾性率(Es )、及びポリエステルフィルム/ハードコート層から成る複合膜の弾性率(Ec)は引っ張り強度試験機を用いて、その応力- 歪み曲線の初期傾斜から求めた。但し、ハードコート層にはクラックが生じ易い為、クラックが発生する破壊歪み以下での応力- 歪み曲線を用いた。
σc(b+d)= σfd+ σsb
Ec(b+d)=Efd+Esb
∴Ef=(Ec(b+d)-Esb)/d
σc :複合膜全体の内部応力
σf :ハードコート層の内部応力
σs :ポリエステルフィルムの内部応力
Ec:複合膜全体の弾性率
Ef:ハードコート層の弾性率
Es:ポリエステルフィルムの弾性率
b :ポリエステルフィルムの厚さ
d :ハードコート層の厚さ
【0047】
評価結果
上記、実施例のハードコート層膜厚、弾性率を表1にまとめて示す。
【0048】
【表1】
【0049】
表2にハードコート層のみの鉛筆硬度、密着性、耐擦傷性、カール、クラックの評価結果を示し、表3にハードコート層上に導電性反射防止層を設けた形態での鉛筆硬度、密着性、耐擦傷性、カール、クラックの評価結果を示す。
【0050】
【表2】
【0051】
【表3】
【0052】
第1ハードコート層のカチオン硬化型樹脂配合量が10wt% 以下の場合、4Hの鉛筆硬度を達成できたがカールが大きく、高い弾性率と大きい硬化収縮を反映して密着が低下し、クラックも発生した。さらに本ハードコート層上に機能性無機薄膜の具体例として、導電性反射防止層を設けても上記の傾向に変化はなかった。
【0053】
また、カチオン重合型樹脂のみで第1ハードコート層を形成した場合には、機能性無機薄膜付きの層構成でも絶対的な硬度不足を反映して鉛筆硬度が3Hに低下し、耐擦傷性にも影響が見られ、B に低下した。
【0054】
一方、カチオン重合型樹脂の配合量が20wt% 以上、80wt% 以下の場合には鉛筆硬度が4Hを実現し、且つ密着、耐擦傷性、カール、クラック等も実用的に問題なく満足し、鉛筆硬度と他物性とのバランスが良好であった。カチオン重合型樹脂は開環重合機構で反応する為、配合量の増加と共にカールが小さくなり、硬化収縮時の残留内部応力に起因するクラックの発生も抑制される。さらに本ハードコート層上に機能性無機薄膜として導電性反射防止層を設けても性能にほとんど変化が無く、良好な機械的物性を達成した。
【0055】
【発明の効果】
既に詳細に説明したように、本発明のハードコートフィルムもしくはシートにおいて、 ラジカル重合型樹脂とカチオン重合型樹脂のブレンドから成る硬化樹脂被膜層である第1のハードコート層は、カチオン重合型樹脂の配合による硬化収縮緩和機能を有することから、第1のハードコート層をフィルムもしくはシート基材とラジカル重合型樹脂のみから成る第2のハードコートの層間に設け、ハードコート層を2層構成とすることによって、ハードコート/基材間の密着、フィルム折曲げ時のクラック、フィルムのカール等を実用的に許容できる範囲内に収めることができ、且つ4H以上の鉛筆硬度値を実現し、耐引っ掻き性、耐擦り傷性の優れたハードコートフィルムもしくはシートが得られる。
さらに、上記ハードコートフィルムもしくはシートの表面に、一例として反射防止機能等の種々の光学機能を付与する無機薄膜を形成することにより、光学分野の広い範囲の用途展開が可能となった。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のハードコートフィルムもしくはシートの層構成を示す断面図
【符号の説明】
1…プラスチックフィルムもしくはシート基材
2…第1ハードコート層
3…第2ハードコート層
Claims (8)
- 透明プラスチックフィルムもしくはシート基材の少なくとも一方の面に活性エネルギー線硬化型樹脂を活性エネルギー線により硬化してなる硬化樹脂被膜層を設けたハードコートフィルムもしくはシートであって、前記硬化樹脂被膜層は前記基材側から順に第1ハードコート層、第2ハードコート層を備えるものであり、且つ、前記第1のハードコート層は、ラジカル重合型樹脂とカチオン重合型樹脂のブレンドからなる硬化樹脂被膜層であり、且つ、前記第1ハードコート層は、ラジカル重合型樹脂とカチオン重合型樹脂の重量組成比が、10:90〜80:20の範囲を満たし、且つ、前記第2のハードコート層は、ラジカル重合型樹脂のみから成る硬化樹脂被膜層であり、且つ、前記第1のハードコート層に用いられる前記カチオン重合型樹脂がビニルエーテル化合物とエポキシ化合物を含むことを特徴とするハードコートフィルムもしくはシート。
- 前記第1のハードコート層と第2のハードコート層の少なくとも何れかのハードコート層に平均粒子径0.01〜10μmの範囲を満たす無機或いは有機の微粒子を含有することを特徴とする請求項1記載のハードコートフィルムもしくはシート。
- 前記活性エネルギー線硬化型樹脂を硬化するための活性エネルギー線が紫外線であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の何れかのハードコートフィルムもしくはシート。
- 前記第1のハードコート層の膜厚が、3.0〜30μmの範囲を満たすことを特徴とする請求項1〜3記載の何れかのハードコートフィルムもしくはシート。
- 前記第2のハードコート層の膜厚が、1.0〜20μmの範囲を満たすことを特徴とする請求項1〜4記載の何れかのハードコートフィルムもしくはシート。
- 前記第1のハードコート層の破壊歪み以下での弾性率が、1.5GPa〜4.5GPaの範囲を満たすことを特徴とする請求項1〜5記載の何れかのハードコートフィルムもしくはシート。
- 前記第2のハードコート層の破壊歪み以下での弾性率が、2.0GPa〜4.5GPaの範囲を満たすことを特徴とする請求項1〜6記載の何れかのハードコートフィルムもしくはシート。
- 請求項1〜7記載の何れかのハードコートフィルムもしくはシートの表面に、機能性無機薄膜層を設けたことを特徴とするハードコートフィルムもしくはシート。
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