JP4531482B2 - βアミロイド誘導Mib遺伝子 - Google Patents
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Description
[1]下記のいずれかのポリヌクレオチドまたはその相補鎖:
(1)配列表の配列番号1または3に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチド;または
(2)配列表の配列番号2または4に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
[2]下記の群より選ばれるポリヌクレオチドまたはその相補鎖:
(1)[1]の(1)または(2)に記載のポリヌクレオチドと少なくとも70%の塩基配列上の相同性を有し、かつアストログリア細胞の移動、アストログリア細胞の突起の伸長、および/またはアストログリア細胞の炎症性因子の産生と関連する機能を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(2)[1]の(1)または(2)に記載のポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイゼーションし、かつアストログリア細胞の移動、アストログリア細胞の突起の伸長、および/またはアストログリア細胞の炎症性因子の産生と関連する機能を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;および
(3)[1]の(1)または(2)に記載のポリヌクレオチドの塩基配列において、1または数個のヌクレオチドが欠失、置換、または付加され、かつアストログリア細胞の移動、アストログリア細胞の突起の伸長、および/またはアストログリア細胞の炎症性因子の産生と関連する機能を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
[3]配列表の配列番号2または4に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド;
[4]下記のいずれかのポリペプチド:
(1)[3]に記載のポリペプチドと少なくとも70%のアミノ酸配列上の相同性を有し、かつアストログリア細胞の移動、アストログリア細胞の突起の伸長、および/またはアストログリア細胞の炎症性因子の産生と関連する機能を有するポリペプチド;または
(2)[3]に記載のポリペプチドのアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が欠失、置換、または付加され、かつアストログリア細胞の移動、アストログリア細胞の突起の伸長、および/またはアストログリア細胞の炎症性因子の産生と関連する機能を有するポリペプチド;
[5][1]または[2]に記載のポリヌクレオチドを含む組換えベクター;
[6]プラスミド pBS SK(−)−rMib(FERM BP−08654号);
[7][5]に記載の組換えベクターまたは[6]に記載のプラスミドを用いて形質転換させた形質転換体;
[8][7]に記載の形質転換体を培養する工程を含む、ポリペプチドの製造方法;
[9][3]または[4]に記載のポリペプチドを免疫学的に認識する抗体;
[10]以下の工程を含有する、アストログリア細胞の移動、アストログリア細胞の突起の伸長、および/またはアストログリア細胞の炎症性因子の産生を阻害する化合物および/または抑制する化合物の同定方法:
(1)細胞にβアミロイドおよび候補化合物を添加する工程;および
(2)該細胞においてMibの発現が阻害および/または抑制された場合に、該候補化合物をアストログリア細胞の移動、アストログリア細胞の突起の伸長、および/またはアストログリア細胞の炎症性因子の産生を阻害する化合物および/または抑制する化合物として同定する工程;
[11][1]もしくは[2]に記載のポリヌクレオチド、[3]もしくは[4]に記載のポリペプチド、[5]に記載の組換えベクター、[6]に記載のプラスミド、[7]に記載の形質転換体、または[9]に記載の抗体のうち少なくとも1つを用いることを特徴とする、[10]に記載の方法;
[12][10]または[11]に記載の同定方法により同定された化合物;
[13]脳組織由来の被検組織が、アストログリア細胞の移動、アストログリア細胞の突起の伸長、および/またはアストログリア細胞の炎症性因子の産生と関連する疾患に罹患した患者由来の組織であるか否かを判定する方法であって、該被検組織における[1]または[2]に記載のポリヌクレオチドの発現量を測定することを特徴とする、判定方法;
[14]脳組織由来の被検組織が、アルツハイマー病患者由来の組織であるか否かを判定する方法であって、該被検組織における[1]または[2]に記載のポリヌクレオチドの発現量を測定することを特徴とする、判定方法;
[15][1]もしくは[2]に記載のポリヌクレオチド、[3]もしくは[4]に記載のポリペプチド、[5]に記載の組換えベクター、[6]に記載のプラスミド、[7]に記載の形質転換体、[9]に記載の抗体、または[12]に記載の化合物のうち少なくとも1つを用いることを特徴とする、アストログリア細胞の移動、アストログリア細胞の突起の伸長、および/またはアストログリア細胞の炎症性因子の産生と関連する疾患の診断用キット;
[16][1]もしくは[2]に記載のポリヌクレオチド、[3]もしくは[4]に記載のポリペプチド、[5]に記載の組換えベクター、[6]に記載のプラスミド、[7]に記載の形質転換体、[9]に記載の抗体、または[12]に記載の化合物のうち少なくとも1つを用いることを特徴とする、アルツハイマー病の診断用キット;
[17][1]もしくは[2]に記載のポリヌクレオチド、[3]もしくは[4]に記載のポリペプチド、[5]に記載の組換えベクター、[6]に記載のプラスミド、[7]に記載の形質転換体、[9]に記載の抗体、または[12]に記載の化合物のうち少なくとも1つを含む、医薬組成物;
[18][1]もしくは[2]に記載のポリヌクレオチド、[3]もしくは[4]に記載のポリペプチド、[5]に記載の組換えベクター、[6]に記載のプラスミド、[7]に記載の形質転換体、[9]に記載の抗体、または[12]に記載の化合物のうち少なくとも1つを含む、アストログリア細胞の移動、アストログリア細胞の突起の伸長、および/またはアストログリア細胞の炎症性因子の産生と関連する疾患の改善および/または治療剤;
[19][1]もしくは[2]に記載のポリヌクレオチド、[3]もしくは[4]に記載のポリペプチド、[5]に記載の組換えベクター、[6]に記載のプラスミド、[7]に記載の形質転換体、[9]に記載の抗体、または[12]に記載の化合物のうち少なくとも1つを含む、アルツハイマー病の改善および/または治療剤;
に関する。
アストログリア細胞は各種動物の脳から調製できる。用いる動物としては、例えば、脳組織を採取し易いラット、マウス、モルモット、ウサギ等のげっ歯類が挙げられ、好ましくは、ラットが挙げられる。用いる脳組織としては、好ましくは、胎仔由来の脳が用いられる。胎仔由来の脳からのアストログリア細胞の調製は自体公知の方法が用いられる。その方法は実験医学別冊神経生化学マニュアル(伊藤仁一ら 羊土社(1989))などに開示されている。
βアミロイド処理および未処理のアストログリア細胞の発現遺伝子は通常用いられるRNA抽出法により採取できる。発現遺伝子は、mRNAのままで用いてもcDNA化して用いてもよい。mRNAからcDNAへの変換は逆転写酵素等を用いた方法が適用できる。全RNAを得るには、例えば、AGPC法(酸性グアニジニウム−フェノール−クロロホルム法;Chomczynski et al.,Anal.Biochem.162,pp156−159(1986))が適用でき、全RNAからのmRNAの抽出にはオリゴdTカラム等を用いたpoly A(+)RNAの精製法によればよい。RNAサンプルは複数回の実験で得たものを混合して用いることもできる。各ロットの品質を解析するためには、アストログリア細胞での発現が知られているいくつかの遺伝子の発現をモニターするとよい。例えば、神経成長因子(NGF)、腫瘍壊死因子−α(TNF−α)、インターロイキン−6(IL−6)、p75などをモニター遺伝子として選び、これらの発現が同等であるサンプルを使用するとよい。
βアミロイド処理により発現が誘導される遺伝子を獲得する方法としては、例えば、サブトラクション処理またはディファレンシャルディスプレイ法が挙げられる。サブトラクション処理では差し引かれる側の遺伝子群(テスター)と差し引く側の遺伝子群(ドライバー)の二組の遺伝子群を用いる。例えば、βアミロイドにより発現が誘導される遺伝子を獲得するためには、テスターとしてβアミロイド処理細胞から得られた遺伝子(βアミロイド処理遺伝子)、ドライバーとして未処理細胞から得られた遺伝子(未処理遺伝子)を用いたサブトラクションを行うとよい。サブトラクション処理の方法としては、既知の各種手段を利用可能である(特開平3−117488号)。好ましくはcDNAサブトラクション法が挙げられ、cDNAサブトラクション法としては、RDA法(Representational Difference Analysis)、PCR−選択(PCR−select)cDNA法などが特に好ましい。
本発明において提供される遺伝子は、ラット胎仔由来アストログリア細胞を用いたcDNAサブトラクション処理により、新規な蛋白質をコードする遺伝子としてそのcDNAの一部が取得されたものである。βアミロイド添加により発現誘導される遺伝子としてラット胎仔のアストログリア細胞よりcDNAサブトラクション法を用いてクローニングしたこのcDNAフラグメントは、データベース上のいかなる遺伝子とも相同性を示さず、新規遺伝子であることを確認した。作製したβアミロイド処理ラット胎仔アストログリア細胞由来cDNAライブラリーを用いて、該cDNAフラグメントをプローブとしてスクリーニングしたところ約7キロ塩基対(bp)のcDNAを得た。蛍光色素(Cy5;ファルマシア社製)標識M13ユニバーサルプライマー、リバースプライマー、および内部配列プライマーを用いてシークエンス反応を行い、ALF Express蛍光シークエンサー(ファルマシア社製)を用いてcDNAの配列を決定した。この配列解析により、本ラット遺伝子は、塩基配列(配列番号1)が6,996bpであり、アミノ酸配列(配列番号2)が2,106アミノ酸の蛋白質をコードすることを明らかにした。また、本ラット遺伝子のORF領域(ヌクレオチド371〜ヌクレオチド6681)を、DDBJにアクセッションナンバーAB161229で登録(未公開)した。
ラットMibのヒトオーソログ(以下、ヒトMibまたはhMibとも称する)を見出すため、NCBIヒトゲノムデータベースを検索した。ヒトの対応配列の一部がNCBIゲノムデータベース上に見つかった。この対応配列の一部からプライマー等を設計し、RT−PCR法によりヒト小腸由来ポリA(+)RNA(CLONTECH社製)からクローニングした。蛍光色素(Bigdye;ABI社製)標識ターミネーター、ならびに、M13ユニバーサルプライマー、リバースプライマー、および内部配列プライマーを用いてシークエンス反応を行い、蛍光キャピラリーシークエンサーABI PRISM 3100(ABI社製)を用いて配列を決定した。このヒト遺伝子は、塩基配列(配列番号3)が6,795bpであり、アミノ酸配列(配列番号4)が2090アミノ酸の蛋白質をコードした。このヒトMib遺伝子のORF領域(ヌクレオチド265〜ヌクレオチド6534)を、DDBJにアクセッションナンバーAB161230で登録(未公開)した。予測プログラムPSORTにて本ヒト蛋白質を解析すると、シグナル配列(アミノ酸1〜27)に続き、24回の膜貫通領域(アミノ酸33〜49、アミノ酸83〜99、アミノ酸148〜164、アミノ酸166〜182、アミノ酸197〜213、アミノ酸249〜265、アミノ酸378〜394、アミノ酸399〜415、アミノ酸421〜437、アミノ酸498〜514、アミノ酸560〜576、アミノ酸580〜596、アミノ酸611〜627、アミノ酸729〜745、アミノ酸751〜767、アミノ酸781〜797、アミノ酸1258〜1274、アミノ酸1275〜1291、アミノ酸1300〜1316、アミノ酸1532〜1548、アミノ酸1569〜1585、アミノ酸1604〜1620、アミノ酸1747〜1763、アミノ酸2004〜2020)を有していた。ヒトMibはラットMibとアミノ酸レベルで83%、ヌクレオチドレベルで69%の相同性を示した(図2〜4)。ヒトMibの組織分布を調べたところ、心臓、胎盤、肺、肝臓、腎臓、膵臓で約11.6kbpおよび約9.0kbpの転写産物の強い発現を認めた。
一般に、細胞は、成体の定常状態の脳内では移動しないが、脳疾患などにより神経細胞が損傷を受けると、この損傷を修復および/または保護するためにグリア細胞が損傷部位へ移動することが知られている。アルツハイマー病のβアミロイドが凝集した老人斑周辺では、神経原繊維変化を伴う神経細胞の損傷と神経細胞の脱落が知られている。このときアストログリア細胞は、生体内で異物となった不溶性蛋白質凝集体(すなわち、老人斑)の影響をそれ以上に広げないために、老人斑を取り囲むように損傷部位に移動し、プラークのコアへ向け突起を伸長させることが知られている。アストログリア細胞の病変損傷部位への集積および突起の伸長は、本来、老人斑により損傷を受けた神経細胞の修復と異物の排除を目的とした生体防御機構であるはずだが、実際には、このアストログリア細胞が炎症性因子を分泌し、脆弱化している神経細胞の損傷をさらに悪化させることが知られている。また、βアミロイドの非存在下では神経突起の伸長を促進するアストログリア細胞は、βアミロイドの存在下ではβアミロイドによる神経細胞の損傷を助長することも知られている。
本発明のポリヌクレオチドまたはその相補鎖としては、配列表の配列番号1または3に記載の塩基配列またはその部分塩基配列からなるポリヌクレオチドまたはその相補鎖、配列表の配列番号1または3に記載の塩基配列またはその部分塩基配列を含むポリヌクレオチドまたはその相補鎖、配列表の配列番号2または4に記載のアミノ酸配列またはその部分アミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドまたはその相補鎖、あるいは配列表の配列番号2または4に記載のアミノ酸配列またはその部分アミノ酸配列を含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチドまたはその相補鎖が挙げられる。本発明のポリヌクレオチドとしては、アストログリア細胞の移動、アストログリア細胞の突起の伸長、および/またはアストログリア細胞の炎症性因子の産生と関連する機能を有するポリヌクレオチドが好ましい。また、本発明のポリヌクレオチドとしては、翻訳される蛋白質が細胞膜局在性を有するポリヌクレオチドが好ましい。
本発明のポリペプチドとしては、配列表の配列番号2または4に記載のアミノ酸配列またはその部分アミノ酸配列からなるポリペプチドが挙げられる。また、本発明のポリペプチドとしては、配列表の配列番号2または4に記載のアミノ酸配列またはその部分アミノ酸配列を含むポリペプチドが挙げられる。本発明のポリペプチドとしては、アストログリア細胞の移動、アストログリア細胞の突起の伸長、および/またはアストログリア細胞の炎症性因子の産生と関連する機能を有するポリペプチドが好ましい。また、本発明のポリペプチドとしては、翻訳される蛋白質が細胞膜局在性を有するポリペプチドが好ましい。
本発明のポリヌクレオチドを適当なベクターへ組み込むことにより、組換えベクターを得ることができる。ベクターとしては、天然に存在するものを抽出したもののほか、増殖に必要な部分以外のポリヌクレオチドの部分が一部欠落しているものでもよい。例えば、Col E1から派生するベクター、ラムダファージから派生するベクターがある。前記ベクターに本発明のポリヌクレオチドを組み込む方法は、自体公知の方法を適用し得る。例えば、適当な制限酵素を選択し、ポリヌクレオチドを特定部位で切断し、次いで同様に処理したベクターと混合し、リガーゼによって再結合する方法が用いられる。後述の実施例中に示すpBS SK(−)−rMib(図5)では、ベクターとしてpBluescript SK(−)(Stratagene社製)を用いたが、むろんこれに限定されない。プラスミド pBS SK(−)−rMibは、独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センターにFERM BP−08654号として平成16年3月5日付けで寄託し、平成16年4月19日付けで生存に関する証明書の通知を受けた。
上記のような無細胞蛋白質発現系以外にも、大腸菌、酵母、枯草菌、昆虫細胞、動物細胞等の自体公知の宿主を用いた遺伝子組換え技術によって、本発明のポリペプチドおよびその由来物を提供可能である。
形質転換体は、自体公知である各々の宿主の培養条件に最適な条件を選択して培養することにより、本発明のポリペプチドの製造に用いることができる。培養は、発現産生されるポリペプチドの生理活性を指標に行ってもよいが、培地中の形質転換体量を指標にして継代培養またはバッチによって行ってもよい。
抗体は、本発明のポリペプチドおよびその由来物からなるポリペプチドの抗原決定基を選別し、作製する。抗原決定基は、少なくとも5〜15個、好ましくは少なくとも7〜12個、より好ましくは少なくとも8〜10個のアミノ酸で構成される。このアミノ酸配列は、必ずしも配列表の配列番号2もしくは配列番号4のアミノ酸配列または配列番号1もしくは配列番号3の塩基配列がコードするポリペプチドと相同である必要はなく、蛋白質の立体構造上の外部への露出部位であればよい。露出部位が不連続部位であれば、該露出部位について連続的なアミノ酸配列であることも有効である。抗体は、本発明の蛋白質および/またはポリペプチドおよびその由来物からなるポリペプチドを免疫学的に認識する限り特に限定されない。この認識の有無は、公知の抗原抗体結合反応によって決定することができる。
本発明の特徴のうちの1つは、脳におけるMibの発現を検出することによるアストログリア細胞の移動、アストログリア細胞の突起の伸長、および/またはアストログリア細胞の炎症性因子の産生と関連する疾患、例えば、アルツハイマー病の診断に関する。すなわち、脳サンプル中のMibの発現を検出し、Mibの発現が高い場合に、該サンプルをアルツハイマー病に罹患した被験体由来の脳サンプルと判断することができる。Mibの発現の検出は、Mib遺伝子を検出するものであっても、Mib蛋白質を検出するものであってもよい。Mibの発現の検出には、上記のポリヌクレオチド、ポリペプチド、組換えベクター、形質転換体、抗体を使用することができる。具体的には、Mib遺伝子の発現の検出方法としては、上記のポリヌクレオチドからプローブを設計し、そのプローブを用いたノーザンブロット法またはRT−PCR法などが挙げられる。Mib蛋白質の発現の検出方法としては、上記の抗体を用いたウエスタンブロット法などが挙げられる。
かくして調製されたポリヌクレオチド、ポリペプチド、組換えベクター、形質転換体および抗体は、単独または複数手段を組み合わせることによって、アストログリア細胞の移動、アストログリア細胞の突起の伸長、および/またはアストログリア細胞の炎症性因子の産生を阻害する化合物および/または抑制する化合物の同定に有効な手段を提供する。
上記の同定方法で得られた化合物は、アストログリア細胞の移動、アストログリア細胞の突起の伸長、および/またはアストログリア細胞の炎症性因子の産生と関連する疾患(例えば、アルツハイマー病)を治療するための候補化合物として用いることができる。候補化合物としては、蛋白質、ポリペプチド、抗原性を有さないポリペプチド、低分子化合物が挙げられるがこれらに限定されず、好ましくは低分子化合物である。
アストログリア細胞はラット大脳皮質から得た。Wister系ラット胎仔(チャールスリバー、17日齢)の大脳を採取し、トリプシン処理により細胞を分散させた。得られた細胞を20%の牛胎仔血清(FCS)、抗生物質液を含むダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)中で1週間培養後、10% FCSを含むDMEM中でさらに二次培養した。90%以上の細胞がグリア線維酸性蛋白陽性であることを、蛍光抗体法により確認した。
βアミロイド(Anaspec社製、βアミロイド1−40)を滅菌水に溶解し−70℃で保存し用時融解して用いた。βアミロイドの凝集は、1mMのβアミロイドをイーグル緩衝液に溶解し、CO2インキュベーターで1週間保持後、10000×gで10分間遠心処理することにより行った。ペレットをB27サプリメント(Gibco BRL社製)を含むDMEM中に再懸濁し、適宜の濃度に調製して用いた。二次培養後のアストログリア細胞をリン酸緩衝液(PBS)で洗浄後、B27サプリメントを含む無血清培地に変換し、2日間培養後、25μMの凝集βアミロイドを添加してさらに15時間培養した。
βアミロイド処理および未処理のアストログリア細胞(6cmプラスチックディッシュ、各20枚)よりAGPC法にて9回にわたり全RNAを抽出した。poly A(+)RNAはオリゴdT−ラテックス(ロシュ社製)を用いて調製した。
選択したクローン群のそれぞれのベクター挿入部分を32Pで標識後プローブとし、βアミロイド処理および未処理アストログリア細胞由来poly A(+)RNAを用いたノーザンブロット・ハイブリダイゼーションを実施した。上記方法により、βアミロイド処理および未処理のアストログリア細胞から、それぞれのpoly A(+)RNAサンプルを調製した。常発現性遺伝子であるグリセルアルデヒド3リン酸デヒドロゲナーゼ(G3PDH)cDNA、βアクチンcDNA(CLONTECH社製)を内部標準プローブとして用いた。検出はBAS2000(富士フィルム社製)を用いて行った。G3PDH遺伝子、βアクチン遺伝子は、βアミロイド処理時および未処理時において発現量に差が認められないのに対し、本発明の遺伝子は、βアミロイド未処理時では低レベルで維持されていた発現量が、βアミロイド処理により約7.0倍増加した(図1)。
本発明の遺伝子は、高次構造をとりやすく通常のシークエンス反応条件では配列の同定が困難であった。本発明者は、シークエンス反応の変性温度、変性時間およびアニーリング温度を詳細に検討し、本遺伝子の配列解析を可能にした。具体的なシークエンス反応の条件は、増幅反応中の変性温度を96℃に高め、さらに変性時間も20〜30秒に延長した。また、アニーリング温度に関しては、低温でのテンプレートDNAの2次構造の再形成を回避するために、それぞれのプライマーについて可能な限り高い温度に設定した。βアミロイドにより発現が誘導されるこのクローンは、蛍光色素(Cy5;ファルマシア)標識M13ユニバーサルプライマー、リバースプライマー、および内部配列プライマーを用いてシークエンス反応を行い、ALF Express蛍光シークエンサー(ファルマシア社製)を用いてベクター挿入部分の塩基配列を解析した。得られた配列について、NCBIデータベースで相同性検索を実施した。得られた全長cDNAのうちの1クローンは相同性を示す遺伝子はなく、新規と考えられた。βアミロイド添加ラットアストログリア細胞由来ファージライブラリーのスクリーニングで得られたcDNA全長は、6,996bp(配列番号1)で2,106アミノ酸(配列番号2)をコードする新規遺伝子であった。予測プログラムPSORTにて本蛋白質を解析すると、シグナル配列(アミノ酸1〜27)に続き、23回の膜貫通領域(アミノ酸33〜49、アミノ酸82〜98、アミノ酸143〜159、アミノ酸165〜181、アミノ酸196〜212、アミノ酸248〜264、アミノ酸361〜377、アミノ酸387〜403、アミノ酸409〜425、アミノ酸486〜502、アミノ酸548〜564、アミノ酸568〜584、アミノ酸599〜615、アミノ酸717〜733、アミノ酸739〜755、アミノ酸769〜785、アミノ酸1247〜1263、アミノ酸1264〜1280、アミノ酸1538〜1554、アミノ酸1576〜1592、アミノ酸1610〜1626、アミノ酸1753〜1769、アミノ酸2020〜2036)を有していた。膜貫通領域を多数有していることから、この遺伝子をMib(A membrane protein induced by beta−amyloid)と名付けた。ラットMibは新規配列であり、mRNAとして転写されていることを今回初めて示した。
ヒトオーソログを見出すため、NCBIヒトゲノムデータベースを検索したところ、ヒトの対応遺伝子の断片がNCBIゲノムデータベース上に見つかった。本情報をもとに、ヒト小腸由来ポリA (+)RNA(1μg、CLONTECH社製)よりSuperScript II (GIBCO社製)を用いて、プライマーをオリゴdT(12−18)とするRT−PCR法にて全長配列のクローニングと同定を実施した。ラットMibと同様に、ヒトMibも高次構造をとりやすく、通常のシークエンス反応条件では配列の同定が困難であり、シークエンス反応の条件を詳細に検討した。具体的なシークエンス反応の条件は、増幅反応中の変性温度を96℃に高め、さらに変性時間も20〜30秒に延長した。また、アニーリング温度に関しては、低温でのテンプレートDNAの2次構造の再形成を回避するために、それぞれのプライマーについて可能な限り高い温度に設定した。ベクター挿入部分の塩基配列は、BigDye標識ターミネーター(ABI社製)、M13ユニバーサルプライマー、リバースプライマー、および内部配列プライマーを用いてシークエンス反応を行い、蛍光キャピラリーシークエンサー ABI PRISM 3100(ABI社製)を用いて解析した。cDNA全長が長い本遺伝子のPCRエラーによる配列決定ミスを避けるため、独立した5つのクローンの配列を決定し、それらを総合判断して本遺伝子の配列を決定した。さらにcDNAの5’端、3’端を完全に同定するため、5’−race法、3’−race法(GeneRacer kit:Invitrogen社製)をそれぞれ実施した。PCRにはKOD plus (TOYOBO社製)をDNAポリメレースとして用い、PCR産物はpCR−Blunt II−TOPO(Invitrogen社製)に組み込み、シークエンスを行った。
ラットおよびヒトの各組織から抽出した、poly A(+)RNAを用いたノーザンブロット解析方法は、特開2001−258575、特開2001−352991、または特開2003−164290に記載の方法と同様に実施した。具体的には、ラットMibについてはプローブとして配列番号1のヌクレオチド6645〜6939の295bpの遺伝子フラグメントを用い、ヒトMibについてはプローブとして配列番号3のヌクレオチド3616〜3975の360bpの遺伝子フラグメントを用いた。ラットまたはヒトの各組織から抽出したpoly A(+)RNAのノーザンブロット(共に、CLONTECH社製)に、ラットMibまたはヒトMibのcDNAを32P標識後、ハイブリダイゼーションさせた。本発明者は、ラットMibが肺と腎臓において約9kbpの転写産物として発現すること、ならびに、ヒトMibが心臓、胎盤、肺、肝臓、腎臓、および膵臓において約11.6kbpまたは約9.0kbpの転写産物として発現することを確認した。
pBS SK(−)−rMibは、ラットMib cDNA全長(約7.0kbp)をpBluescript SK(−)(Stratagene社製)のPstIサイト−XhoIサイト間に組み込まれた形で得た。具体的には、βアミロイド添加ラットアストログリア細胞由来ファージライブラリーのスクリーニングで得られた当該ファージを、ヘルパーファージを用いたインビボエクサイジョン法により得た。
Claims (9)
- 下記のいずれかのポリヌクレオチドまたはその相補鎖:
(1)配列表の配列番号1または3に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチド;または
(2)配列表の配列番号2または4に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。 - 配列表の配列番号2または4に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド。
- 請求項1に記載のポリヌクレオチドを含む組換えベクター。
- プラスミド pBS SK(−)−rMib(FERM BP−08654号)。
- 請求項3に記載の組換えベクターまたは請求項4に記載のプラスミドを用いて形質転換させた形質転換体。
- 請求項5に記載の形質転換体を培養する工程を含む、請求項2に記載のポリペプチドの製造方法。
- 脳組織由来の被検組織試料が、アルツハイマー病患者由来の組織試料であるか否かを判定する方法であって、該被検組織試料における請求項1に記載のポリヌクレオチドの発現量を測定し、該ポリヌクレオチドの発現が該被検組織試料中の神経細胞において低下しているか又はアストリグリア細胞において亢進していれば該被検組織試料はアルツハイマー病患者由来であると判定することを特徴とする、方法。
- 請求項1に記載のポリヌクレオチド、請求項2に記載のポリペプチド、請求項3に記載の組換えベクター、請求項4に記載のプラスミド、請求項5に記載の形質転換体または請求項2に記載のポリペプチドを免疫学的に認識する抗体のうち少なくとも1つを含むことを特徴とする、アルツハイマー病の診断手段である試薬。
- 請求項1に記載のポリヌクレオチド、請求項2に記載のポリペプチド、請求項3に記載の組換えベクター、請求項4に記載のプラスミド、請求項5に記載の形質転換体または請求項2に記載のポリペプチドを免疫学的に認識する抗体のうち少なくとも1つを用いることを特徴とする、アルツハイマー病の診断用キット。
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